説明

医薬品注射器用プランジャーキット

【課題】プランジャーロッドがピストンから抜けにくく、プランジャーロッドをピストンに螺合させてもピストンの摺動が増加しない、特に、小容量の注射器に適用した場合に好適なプランジャーキットの提供。
【解決手段】医薬品用途に使用される注射器の構成部品であるプランジャーキットであって、弾性体からなるピストンとピストンより硬い材質からなるプランジャーロッドとが螺合することによって構成され、雌ねじの基準溝形と、該雌ねじと螺合する雄ねじの基準山形との形状が互いに異なることを特徴とし、それらを螺合したときに対峙する雌ねじの基準溝形の一平面と雄ねじの基準山形の一平面とが、それぞれ摺動方向となす角を有し、それらのなす角が互いに異なる組み合わせを少なくとも一つ有するか、それらを螺合したときに対峙する雌ねじの基準溝形の一面と雄ねじの基準山形の一面とが、平坦面と曲面との組み合わせ有する注射器用プランジャーキット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品用途に使用される注射器の構成部品である医薬品注射器用プランジャーキット(以下単に「注射器用プランジャーキット」または「プランジャーキット」と呼ぶ場合もある)に関し、詳しくは、相互に螺合しうるピストンとプランジャーロッドとからなり、プランジャーロッドをピストンに螺合させた場合にプランジャーロッドがピストンから抜けにくく、しかも注射筒内におけるピストンの摺動抵抗が実質的に増加しない、特に小容量の注射器に好適なプランジャーキットに関する。さらに、本発明は注射筒と、螺合させた状態で摺動自在に前記注射筒内に嵌入された前記プランジャーキットとを含む医薬品注射器にも関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品注射器は、薬液を人体等に注射するために用いられ、注射器の使用時に薬液をその保管容器から注射器内に吸入する動作と、吸入した薬液を投与するための射出動作が要求される。また、近年使用増加しているプレフィルドシリンジ(既充填注射器)は、製薬メーカーから販売される時点で注射器内に薬液が充填されている。したがって、前記薬液の吸入作業は不要となるが、使用時にはナースアスピレーションと呼ばれる吸入動作を伴う。結局、従来の注射器に要求されている吸入と射出機能に加えて、使用時まで薬液を注射器内に密封状態で保持するという新たな機能がプレフィルドシリンジには要求されている。このような密封性は、通常、注射器の針取り付け部であるノズルを密封するノズルキャップと注射器の基端側を密封するピストンによって担保される。
【0003】
このような注射器に使用されるプランジャーキットには様々なタイプがあるが、大別すると、ピストンとそのピストンを操作するためのプランジャーロッドとが分離不可能に一体化されている一体型と、ピストンとプランジャーロッドとにそれぞれ雌ねじと雄ねじとが設けられていて、注射器の使用時にそれらを螺合させて使用する分離型がある。分離型は保管時や輸送時に嵩張らないという利点がある。しかし、ピストンとプランジャーロッドとの係合を螺合に頼ることとなり、またピストンは通常やわらかいゴム製であることから、吸入作業時に、ピストンとプランジャーロッドとの螺合が不意に分離することが生じる場合があるという問題がある。
このような問題を解決するため、既に本出願人は、注射器用プランジャーを提案している(特許文献1)。このプランジャーキットにおいて、ピストンは基準溝形の幅が狭くかつ各ねじ溝山部の幅が広い雌ねじを備え、プランジャーロッドは基準山形の幅が広くかつ各ねじ山谷部の幅が狭い雄ねじを備えている。このプランジャーキットは、プランジャーロッドを引くとき、プランジャーロッドがピストンから離脱するおそれがなく、成果を上げている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−140103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、患者の負担軽減の観点から、近年は医薬品の小容量化が進んでおり、それに伴って使用される注射器も小容量化が進んでいる。これに対し、前述の特許文献1に記載の発明は、プランジャーロッドのねじ部分の形状を自由に設計できる大きさのものであれば非常に有効な技術であるが、ねじ部分の形状が小さい場合は、その成形性との兼ね合いで適用が難しくなる。特に、近年のように、注射器の容量が極めて小さくなり、これに応じてプランジャーキットが小さくなるにつれ、ねじの成形を精密に行うことが難しくなっており、十分な螺合強度を達成したプランジャーキットの提供が困難にならざるを得ない場合が増えてきた。また、例えば、螺合強度を上げるために、ピストンの雌ねじに対してプランジャーロッドの雄ねじを少し大きめに設計することが考えられる。しかし、この場合は、雄ねじが雌ねじごとピストンを押し広げて、ピストンの外径が大きくなる。その結果、注射筒内でのピストンの摺動抵抗が増加し、ピストンの摺動性が悪化するという問題が生じる。
【0006】
したがって本発明の目的は、これらの問題点を解決し、医薬品用に使用される注射器を構成するピストンとプランジャーロッドとからなり、使用時にこれらを互いに螺合させることで一体化が可能であるプランジャーキットであって、特に注射器の容量が小さく、その形状が小さな場合であっても、プランジャーロッドをピストンに螺合させた状態で、プランジャーロッドがピストンから抜けにくく、かつ、その状態でピストンの摺動抵抗が実質的に増加しない新規なプランジャーキットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、その一態様において、注射筒を備えて医薬品を注射するために使用される医薬品注射器の構成部品としてのプランジャーキットであって、弾性体からなり、雌ねじを有するピストンと、ピストンより硬い材質からなり、該雌ねじに螺合される雄ねじを有するプランジャーロッドとからなるプランジャーキットにおいて、前記雌ねじと前記雄ねじは互いに非相補的な基準溝形山形と基準山形をそれぞれ有し;かつ、前記ピストンと前記プランジャーロッドを螺合させてから前記注射筒内に摺動自在に嵌入させた状態で前記プランジャーロッドを介して前記ピストンを引く方向に摺動させたときに、前記雄ねじの各ねじ山の追い側フランクは、前記雌ねじの対応するねじ溝の、前記追い側フランクに対峙する溝フランクに対して、第1の部分において第2の部分におけるよりも強く接触し、第2の部分において第1の部分におけるよりも弱く接触し、前記雄ねじが前記ピストンを実質的に押し広げることなく前記雄ねじと前記雌ねじとの間の螺合強度を増加させ得るように、前記追い側フランクと該追い側フランクに対峙する前記溝フランクとが形成されていることを特徴とする医薬品注射器用プランジャーキットを提供する。注射器の容量が小さく、その形状が小さな場合であっても、プランジャーロッドをピストンに螺合させた状態で注射筒内においてプランジャーロッドを介してピストンを引く方向に摺動させた場合でも、プランジャーロッドがピストンから抜けにくく、かつ、ピストンの摺動抵抗が実質的に増加しない。
【0008】
一例として、前記追い側フランクが前記ピストンを引く方向となす角と前記追い側フランクに対峙する前記溝フランクが前記ピストンを押す方向となす角とが共に180度ではなく、それらの角が互いに異なる。前記追い側フランクが前記ピストンを引く方向となす角と前記溝フランクが前記ピストンを押す方向となす角とがそれぞれ90〜150度であることが好ましい。一例として、前記雌ねじの前記基準溝形と前記雄ねじの前記基準山形のうちの一方が台形ねじ形状を有し、他方が丸ねじ形状、角ねじ形状または前記台形ねじ形状と台形の傾斜部分の傾斜角が異なる別の台形ねじ形状のいずれかを有する。別の例として、前記追い側フランクと該追い側フランクに対峙する前記溝フランクの一方が平坦面を有し、他方が曲面を有することが好ましい。前記曲面が前記追い側フランクの少なくとも一部に形成されていることが好ましい。一例として、前記雌ねじの前記基準溝形と前記雄ねじの前記基準山形のうちの一方が丸ねじ形状を有し、他方が台形ねじ形状または角ねじ形状を有することが好ましい。
【0009】
上記プランジャーキットにおいて、前記注射筒内において前記プランジャーロッドを介して前記ピストンを押す方向に摺動させたときに、前記雄ねじの各ねじ山の進み側フランクは、前記雌ねじの前記対応するねじ溝の、前記進み側フランクに対峙する反対側の溝フランクに対して第3の部分において第4の部分におけるよりも強く接触し、第4の部分において第3の部分におけるよりも弱く接触し、前記雄ねじが前記ピストンを実質的に押し広げることなく前記螺合強度を増加させ得るように、前記進み側フランクと該進み側フランクに対峙する前記反対側の溝フランクを形成されていることが可能である。このプランジャーキットは、前記プランジャーロッドを介して前記ピストンを押す方向に摺動させた際にも前記雄ねじと前記雌ねじの間に十分な螺合強度を保持したい場合も有用である。
【0010】
好ましくは、前記雄ねじの隣接する各2つのねじ山の付け根部分が、前記2つのねじ山の間に位置する、前記雌ねじのねじ溝山部の先端部を挟み込む形で接触して該雌ねじと該雄ねじとの間に挟み込み荷重が生じるように、前記雄ねじと雌ねじの形状および寸法が定められているか、前記雄ねじの各ねじ山の頂(クレスト)と進み側フランクおよび追い側フランクとの間にそれぞれ位置する先端角部が該ねじ山に対応する前記雌ねじのねじ溝と対峙する溝フランクにそれぞれ接触して該雌ねじと該雄ねじとの間に挟み込み荷重が生じるように、前記雄ねじのねじ山と雌ねじのねじ溝の形状および寸法が定められているか、または、前記雄ねじの各ねじ山の進み側フランクと追い側フランクの中間部に肩部がそれぞれ形成され、該肩部が前記ねじ山に対応するねじ溝の対峙する溝フランクにそれぞれ接触して該雌ねじと該雄ねじとの間に挟み込み荷重が生じるように、前記雄ねじのねじ山と雌ねじのねじ溝の形状および寸法が定められていることが好ましい。
【0011】
さらに、前記ピストンは前記プランジャーロッドと螺合しうる前記雌ねじを有し、該雌ねじは、円柱状のねじ軸空間と該ねじ軸空間から螺旋状に前記ピストンの外周方向に広がるねじ溝とを有し、かつ、前記プランジャーロッドは前記ピストンと螺合しうる前記雄ねじを有し、該雄ねじは、円柱状のねじ軸と該ねじ軸から螺旋状かつ径方向外側に広がるねじ山とを有することが好ましい。
本発明は、さらに別の一態様において、注射筒と、螺合させた状態で摺動自在に該注射筒内に嵌入された前記医薬品注射器用プランジャーキットとからなることを特徴とする医薬品注射器も提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、医薬品用途に使用される注射器を構成するプランジャーキットであって、ピストンと該ピストンに螺合可能なプランジャーロッドとからなり、プランジャーロッドをピストンに螺合させた場合、特に注射器の容量が小さく、その形状が小さな場合であっても、プランジャーロッドがピストンから抜けにくく、ピストンの摺動抵抗が実質的に増加しないプランジャーキットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1A】関連技術のプランジャーキットの先端部分の断面の拡大模式図
【図1B】図1Aのねじ部分の螺合状態を説明するため部分拡大模式図
【図2A】ピストンを外した状態の本発明の第1実施態様に係わるプランジャーキットを示す全体概略図
【図2B】ピストンを螺合させた状態の図2Aのプランジャーキットの先端部分の断面の拡大模式図
【図2C】螺合しているねじ部分の状態を説明するための図2Bの部分拡大模式図
【図2D】ピストン摺動時に生じる図2Cにおけるねじ部分の変化を説明するための模式図
【図3】本発明の第2実施態様に係わるプランジャーキットを説明するためのねじ部分の拡大模式図
【図4A】本発明の第3実施態様に係わるプランジャーキットを説明するためのねじ部分の拡大模式図
【図4B】本発明の第4実施態様に係わるプランジャーキットを説明するためのねじ部分の拡大模式図
【図5A】本発明の第5実施態様に係わるプランジャーキットを説明するためのねじ部分の拡大模式図
【図5B】本発明の第6実施態様に係わるプランジャーキットを説明するためのねじ部分の拡大模式図
【図5C】ピストン摺動時に生じる図5Bにおけるねじ部分の変化を説明するための模式図
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明を実施するための最良の形態を示す図面を参照して本発明をさらに詳しく説明する。図1Aは、関連技術による一般的なプランジャーキット1において、ピストン2の雌ねじとプランジャーロッド3の雄ねじを螺合させたときの先端部分の断面の部分拡大模式図である。また、図1Bに、関連技術のねじ部分の形状と、互いに螺合しうる構造の雌ねじ4と雄ねじ5との基本構成を説明するため、図1Aの破線で囲んだ部分を拡大し、かつ、囲んだ雌ねじ部分と雄ねじ部分とに分離して示されている部分拡大模式図を示す。以下、これらの図を参照して、雌ねじ4と雄ねじ5の基本構造、さらに雌ねじ4と雄ねじ5との螺合について説明するが、まず、本発明で用いる用語について定義する。
【0015】
本発明でいう「基準溝形」とは、ねじ山と螺合されるねじ溝の形状を定めるための基準となるねじ溝の形状のことであり、図1Bに符号6で示されているように、ねじ溝1つ分の断面形状をいうものとする。一方、「基準山形」とは、ねじ山の形状を定めるための基準となるねじ山の形状のことであり、図1Bに符号7で示されているように、ねじ山1つ分の断面形状をいうものとする。また、雌ねじの隣接する各2つのねじ溝の間に形成される山部分を、「ねじ溝山部」8といい、同じく、雄ねじの隣接する各2つのねじ山の間に形成される谷部分を、「ねじ山谷部」9というものとする。なお、本発明でいう断面とは、ピストン若しくはプランジャーロッドの中心軸を通りピストンの摺動方向と平行する断面をいうものとする。
また、本発明でいう雄ねじの各ねじ山の「進み側フランク」とは、注射筒内においてピストンをそれに螺合させたプランジャーロッドを介して押すとき、押す方向に向いている該ねじ山の側面をいうものとする。一方、各ねじ山の「追い側フランク」とは、前記進み側フランクの反対側の側面をいうものとする。言い換えると、各ねじ山の「追い側フランク」とは、注射筒内においてピストンをそれに螺合させたプランジャーロッドを介して引くとき、引く方向に向いている該ねじ山の側面をいうものとする。したがって、ピストンを押す方向とピストンを引く方向は、注射筒内におけるピストンの摺動方向と同様の意味を有するが、方向が特定されている点において摺動方向と異なる。本明細書においてはピストンを押す方向と引く方向のうちのどちらの方向に摺動させているのかを特定することなく、単に「摺動方向」という表現を使用する場合もある。
【0016】
また、本発明でいう、「追い側フランク(あるいは、進み側フランク)がピストンを引く(押す)方向となす角およびそれに対峙溝フランクがピストンを押す(あるいは、引く)方向となす角が180度ではない」とは、図1Bに示されている各ねじ山5Aの追い側フランク5H(あるいは、進み側フランク5G)および対応するねじ溝4Aの該追い側フランク5H(あるいは、進み側フランク5G)に対峙する溝フランク4H(4G)が、ピストンの注射筒内での摺動方向、すなわち、図1Aに示されているピストン2の図面上における上下方向と一致する方向に延びている「摺動方向に平行な面と平行する面ではない」ことを意味する。言い換えれば、本発明で規定する面に関して、図1Bに示されているα、β、γおよびδの角度が180度ではない(α、β、γ、δ≠180)という意味である。本発明において、摺動方向と平行な面(図1Bにおいて、各ねじ山5Aの頂(クレスト)および各ねじ溝4Aの谷底)を発明特定事項から外す理由は、これらの平行面は、ピストンの摺動時の雄ねじ5と雌ねじ4との間における螺合強度にほとんど関与しないからである。なお、前記螺合強度の観点から、前述の角はいずれも好ましくは90〜150度、より好ましくは90〜135度、最も好ましくは90〜130度にすることがよい。
【0017】
前記関連技術では、図1Aおよび1Bに示すとおり、ピストン2の内壁面に設けられた雌ねじ4の基準溝形6と、プランジャーロッド3の先端の外壁面に設けられた雄ねじ5の基準山形7とは、実質的に相補的である(α=β、γ=δ)。このような形状は螺合時の雌ねじ4と雄ねじ5との接触面積が一番多くなり、ねじ同士の組み合わせ形状として好ましいと考えられてきた。
しかし、注射器用プランジャーキットのように、組み合わされるねじの一方の材質が柔らかく、他方の材質が硬い場合には、必ずしもそうではないことを本発明者は見いだし、かかる知見に基づき検討を重ねた結果、本発明を完成させた。すなわち、ピストンの雌ねじとプランジャーロッドの雄ねじの基準溝形と基準山形を互いに非相補的にし、前記ピストンと前記プランジャーロッドを螺合させてから注射筒内に摺動自在に嵌入させた状態で前記プランジャーロッドを介して前記ピストンを引く方向に摺動させたときに、前記雄ねじの各ねじ山の追い側フランクが、前記雌ねじの対応するねじ溝の、前記追い側フランクに対峙する溝フランクに対して第1の部分において第2の部分におけるよりも強く接触し、第2の部分において第1の部分におけるよりも弱く接触するように前記追い側フランクと該追い側フランクに対峙する溝フランクを形成することによって、前記ピストンを引く方向に摺動させたときに、雄ねじが雌ねじとピストンを実質的に押し広げることなく、前記雄ねじと前記雌ねじとの間における螺合強度を増加させることを可能にした。また、前記注射筒内において前記プランジャーロッドを介して前記ピストンを押す方向に摺動させたときに、前記雄ねじの各ねじ山の進み側フランクが、前記雌ねじの前記対応するねじ溝の、前記進み側フランクに対峙する反対側の溝フランクに対して第3の部分において強く接触し、第4の部分において第3の部分におけるよりも弱く接触するように前記進み側フランクと該進み側フランクに対峙する溝フランクを形成することによって、前記ピストンを押す方向に摺動させたときに、雄ねじが雌ねじとピストンを実質的に押し広げることなく、前記螺合強度を増加させることを可能にした。なお、前記ピストンを押す方向に摺動させるときは、前記ピストンを引く方向に摺動させるときに必要とされるような強い螺合強度は通常必要とされないことが多い。そのような場合には、前記雄ねじの各ねじ山の進み側フランクと、前記雌ねじの対応するねじ溝の前記進み側フランクに対峙する溝フランクは前記関連技術と同様に形成してもよい。なぜなら、それらの進み側フランクと溝フランクは、前記ピストンを押す方向に摺動させたときに前記螺合強度に関わるからである。
さらに、螺合させた段階で、すなわち、プランジャーロッドに荷重をかけない状態で、雌ねじと雄ねじとの間に荷重がかかるような形状にすることにより、前記螺合強度をさらに増加させることができる。
【0018】
図2A〜図2Dを参照して本発明の第1実施態様に係わるプランジャーキットを説明する。図2Aは、第1実施態様に係るプランジャーキット11の全体概略図であり、ピストン12がプランジャーロッド13に螺合していない状態を示している。また、図2Bは、ピストン12をプランジャーロッド13に螺合させたときのプランジャーキット11の先端部分の断面の、図2Aの矢視IIB−IIB方向に見た拡大模式図である。
図2Aに示されているように、プランジャーキット11は、ピストン12とプランジャーロッド13とから構成される。ピストン12は、柔らかいゴムまたは熱可塑性エラストマーなどの弾性体からなり、図示しない注射筒内をその軸方向に摺動して薬液の吸入および射出をするための密封材としての機能を有する。このピストン12は、通常、略円柱形状をしており、摺動性と密封性を両立させるために、その外周面にリング状の溝や突起が1本または複数本形成されたものや、その外周の径が場所によって増減されているもの等、各種の外周形状を有するものが知られている。図2Aおよび2Bに示されているピストン12は、外周の径が場所によって増減されている円柱状ピストンの例である。雌ねじ14は、その様なピストン12としての円柱の底面、すなわちピストン12がプランジャーロッド13と接する側の円柱の面に穿たれて、円柱の中心軸と同軸に設けられる。また、図2Aにおいて、雌ねじ14は、その中央に円柱状を呈すねじ軸空間14Bと、該ねじ軸空間14Bから螺旋状にピストン12の外周方向に広がるねじ溝14Aとから形成される。なお、外見上、ねじ軸空間とねじ溝との境界が明瞭でない雌ねじも存在するが、ねじ溝の形状によってそのように見えるだけなので、その様な雌ねじも本発明に含まれるものとする。
【0019】
図2Aに示されているように、プランジャーロッド13は、略円柱状のプランジャーロッド本体13Aと、該本体13Aの底面に形成された注射器の操作時に指をかける部分として用いられるフランジ13Bと、および該本体13Aの天面に形成された、ピストンの雌ねじ14と螺合可能な雄ねじ15とを有する。雄ねじ15はピストン12と同じくプランジャーロッド本体13Aの中心軸と同軸に形成されている。また、ピストン12と同じく、雄ねじ15は、その中央に円柱状を呈するねじ軸15Bと、該ねじ軸15Bから螺旋状かつ径方向外側に広がるねじ山15Aとから形成される。上記したピストン12とプランジャーロッド13を螺合させると、図2Bのような状態となる。
【0020】
図2Cおよび図2Dは、図2Bに示したプランジャーキット11の螺合しているねじ部分の拡大模式図であるが、このプランジャーキット11はピストン12(図2B参照)の雌ねじ14として、谷底部分が半円になっている四角形状の基準溝形を有する丸ねじを用い、これに螺合させるプランジャーロッド13(図2B参照)の雄ねじ15として、台形形状の基準山形を有する台形ねじを用いた例である。なお、本発明でいう台形ねじには、一般的に三角ねじと呼ばれている、基準山形のねじ山先端における両側のフランク間の角度が60度程度であるねじを含むものとする。同じく、本発明でいう丸ねじは基準山形の全体が半円形状のねじも含むものとする。また本発明でいう、台形、四角形、および円形のいずれにも、それらの変形例を含むことはいうまでもない。
【0021】
この第1実施態様では、図2Cに示したように、雄ねじ15の隣接する各2つのねじ山15A間の谷底15Eはピストンの摺動方向に延びている。雄ねじ15の各ねじ山15Aの進み側フランク15Gはピストンを押す方向に対して角γ(=100度)をなしている。一方、前記雌ねじ14の対応するねじ溝14Aの、前記進み側フランク15Gに対峙している溝フランク14Gはピストンを引く方向に対して角δ(=90度)をなしている。雄ねじ15の各ねじ山15Aの追い側フランク15Hもピストンを引く方向に対して角α(=100度)をなしている。一方、前記雌ねじ14の対応するねじ溝14Aの、前記追い側フランク15Hに対峙している溝フランク14Hもピストンを押す方向に対して角β(=90度)をなしている。雄ねじ15と雌ねじ14を螺合させたときに、雄ねじ15の各ねじ山15Aの付け根側部分の進み側フランク15Gと追い側フランク15Hが雌ねじ14の対応するねじ溝14Aの対峙している溝フランク14G,14Hと細いらせん状でそれぞれ接触するが、雄ねじ15と雌ねじ14のその他の部分は互いに接触していない。一方、ピストン摺動時には、プランジャーロッドの雄ねじ15にピストンの摺動方向への荷重が加わるため、前記弾性体から形成されているピストン側の雌ねじ14は弾性変形する。これにより、図2Dに矢印で示されているように押す方向へピストンを摺動させたときには、前記雄ねじ15の各ねじ山15Aの進み側フランク15Gは溝フランク14Gに対して付け根側部分だけでなく、付け根側から前記ねじ山15Aの頂(クレスト)15F側にかけて、荷重に応じて幅の変化する太いらせん状で接触することとなる。その接触面積と接触荷重はプランジャーロッドに付加される荷重に対応して増加する。
【0022】
このように、雌ねじ14と雄ねじ15を螺合させたとき、各進み側フランク15Gとそれに対峙する溝フランク14Gとがそれぞれ前記摺動方向となす角(γ、δ;図2C参照)を有し、それらの角が互いに異なる組み合わせ(γ=100度、δ=90度)となる。それにより、ピストンを注射筒内で押す方向に摺動させて各進み側フランク15Gをそれに対峙する溝フランク14Gに接触させたとき、該進み側フランク15Gはそれに対峙する溝フランク14Gに対して第3の部分15Cにおいて第4の部分15Dにおけるよりも強く接触し、第4の部分15Dにおいて第3の部分15Cにおけるよりも弱く接触する。すなわち、強く接触する部分(第3の部分15C)と弱く接触する部分(第4の部分15D)とが前記進み側フランク15Gに生じる。これによって、前記雄ねじ15と前記雌ねじ14との間において螺合抵抗を実質的に増加させずに螺合強度を増加させることができる。一方、図2Dに示されている矢印と反対方向、すなわち引く方向にピストンを注射筒内で摺動させたときにも、各ねじ山15Aの追い側フランク15Hにも、対峙する溝フランク14Hに対して第1の部分15Iにおいて第2の部分15Jにおけるよりも強く接触し、第2の部分15Jにおいて第1の部分15Iにおけるよりも弱く接触する。すなわち、強く接触する部分(第1の部分15I)と弱く接触する部分(第2の部分15J)とが前記追い側フランク15Hにも生じる。その結果、図2Dにおいてピストンを矢印の方向に摺動させたときと同様に、前記螺合抵抗を実質的に増加させずに前記螺合強度を増加させることができる。また、螺合させたとき、すなわちプランジャーロッドに外部荷重をかけない状態で、雌ねじ14と雄ねじ15との間に荷重がかかる形状および寸法に雌ねじ14と雄ねじ15を定めると、例えば、雄ねじ15の各ねじ山15Aの幅を雌ねじ14の対応するねじ溝14Aの幅より大きくすると、下記に述べるように、ねじ摩擦面への荷重を増加させることができ、前記螺合強度をさらに増加させることができる。
【0023】
図3に例示した第2実施態様において、角α、β、γおよび角δは図2Cにおける角α、β、γおよび角δと同様である(α=γ=100度、β=δ=90度)。図2Dを参照して先におこなった説明と同様に、プランジャーロッドを介してピストンを注射筒内で押す方向に摺動させたとき、雄ねじ25の各ねじ山25Aの進み側フランク25Gには、雌ねじ24の対応するねじ溝24Aの前記進み側フランク25Gに対峙する溝フランク24Gに対して別の部分(第4の部分)においてよりも強く接触する部分(第3の部分)と前記部分(第3の部分)におけるよりも弱く接触する別の部分(第4の部分)とが生じる。一方、プランジャーロッドを介してピストンを注射筒内で引く方向に摺動させたとき、雄ねじ25の各ねじ山25Aの追い側フランク25Hには、対峙する溝フランク24Hに対して別の部分(第2の部分)においてよりも強く接触する部分(第1の部分)と前記部分(第1の部分)におけるよりも弱く接触する別の部分部分(第2の部分)とが生じる。これによって、前記雄ねじ25と前記雌ねじ24との間において螺合抵抗を実質的に増加させずに螺合強度を増加させることができる。また、弾性体からなるピストンとピストンより硬い材質からなるプランジャーロッドとを螺合させたときに、プランジャーロッドの雄ねじ25の隣接する各2つのねじ山25Aの付け根側部分25Bが、ピストンの雌ねじ24の対応するねじ溝山部28の先端を挟み込む形で接触して雌ねじ24と雄ねじ25との間に挟み込み荷重がさらに生じるように雌ねじ24及び雄ねじ25の形状及び寸法が定められている。上記第2実施態様では、この挟み込み荷重によって、雌ねじ24と雄ねじ25との間の摩擦力がなお一層増加し、前記螺合強度がなお一層増加すると考えられる。
【0024】
さらに、図3に示した第2実施態様では、各ねじ山25Aの高さを調整することにより、該ねじ山25Aの付け根側部分25Bだけでなく、先端の両角部25Fを対応するねじ溝24Aの対峙する溝フランク24G,24Hとそれぞれ強く接触させているが、かかる変形を行うことによっても、前記螺合強度をさらに一層向上させることが可能である。
しかし、このように雌ねじ24と雄ねじ25との間の摩擦力を増加させると、ピストンとプランジャーロッドを互いに螺合させるときの螺合抵抗が大きくなるという別の問題が生ずるので、雌ねじ24と雄ねじ25との間の摩擦力は、相反する螺合抵抗と螺合強度とのバランスをとって設定することが好ましい。なお、雄ねじ25と雌ねじ24との間の螺合強度が、ピストンと注射筒内面との摺動抵抗よりも大きければ、摺動時にプランジャーロッドがピストンから不意に抜けることはない。
【0025】
図4A〜図5Cに本発明の第3〜第6実施態様に係わるプランジャーキットにおける、雌ねじと雄ねじとの組み合わせパターンを模式的に示している。
図4Aは第3実施態様に係わるプランジャーキットのピストンとプランジャーロッドを螺合させたときのねじ部分を示す拡大図である。ピストンの雌ねじ34は隣接する各2つのねじ溝山部38間の基準溝形が台形である台形ねじであり、かつ、プランジャーロッドの雄ねじ35はその対応するねじ山35Aの基準山形が長方形状の角ねじである。なお、本発明で用いる「角ねじ」は長方形ねじを含むものとする。図4Bは第4実施態様に係わるプランジャーキットのピストンとプランジャーロッドを螺合させたときのねじ部分を示す拡大図である。ピストンの雌ねじ44はその隣接する各2つのねじ溝山部48間の基準溝形が台形である台形ねじであり、プランジャーロッドの雄ねじ45はその対応するねじ山45Aの基準山形の先端部分が半円になっている四角形状を有する丸ねじである。
【0026】
図4Aおよび図4Bの雌―雄ねじ組み合わせのそれぞれでも、雌ねじ34(44)と雄ねじ35(45)を螺合させたときに、雄ねじ35(45)の各ねじ山35A(45A)の進み側フランク35G(45G)がピストンを押す方向となす角γと、雌ねじの34(44)の対応するねじ溝34A(44A)の前記進み側フランク35G(45G)に対峙する溝フランク34G(44G)が前記ピストンを引く方向となす角δとが、互いに異なる角度の組み合わせ(γ=90度、δ=105度)となっている。図2Dを参照して先におこなった説明と同様に、ピストンを押す方向に摺動させたとき、進み側フランク35G(45G)には、それに対峙する溝フランク34G(44G)に対して別の部分(第4の部分)におけるよりも強く接触する部分(第3の部分)と前記部分(第3の部分)におけるよりも弱く接触する別の部分(第4の部分)が生じ、これによって前記雄ねじ35(45)と前記雌ねじ34(44)との間の螺合抵抗を実質的に増加させずに螺合強度を増加させることができる。一方、プランジャーロッドを介してピストンを注射筒内で引く方向に摺動させたとき、雄ねじ35(45)の各ねじ山35A(45A)の追い側フランク35H(45H)には、対峙する溝フランク34H(44H)に対して別の部分(第2の部分)におけるよりも強く接触する部分(第1の部分)と前記部分(第1の部分)におけるより弱く接触する別の部分(第2の部分)とが生じる。これによって、前記雄ねじ35(45)と前記雌ねじ34(44)との間において螺合抵抗を実質的に増加させずに螺合強度を増加させることができる。
【0027】
また、雌ねじ34(44)の各ねじ溝山部38(48)を雄ねじ35(45)の隣接する2つのねじ山35A(45A)の先端の角部35F(中間の肩部分45K)によって挟み込むように前記雄ねじ35(45)の各ねじ山35(45)と雌ねじ34(44)の対応するねじ溝34A(44A)の形状および寸法を定めることができるので、挟み込み荷重を発生させることができる。雌ねじ34(44)と雄ねじ35(45)とは各ねじ山35A(45A)の先端の両角部35F(中間の両肩部分45K)において最も強く接触する。前記両角部35F(中間の両肩部分45K)の間の幅と、前記先端の両角部35F(中間の両肩部分45K)におけるねじ溝34A(44A)の幅との寸法差は、上記した螺合抵抗と螺合強度とのバランスに基づいて定めることができる。本発明者の検討によれば、例えば、直径13mm、高さ10mm程度の大きさのピストンであれば、雌ねじ34(44)の各ねじ溝34A(44A)の両溝フランク34G,34H(44G,44H)に雄ねじ35(45)の対応するねじ山35A(45A)の先端の角部35F(中間の肩部分45K)がそれぞれ好ましくは0.05〜0.50mm程度押し込まれるように、より好ましくは、0.10〜0.30mm程度押し込まれるように上記寸法差を設計すると、雄ねじ35(45)と雌ねじ34(44)との間における螺合抵抗と螺合強度とのバランスがよい。なお、上記数値は、ピストンの材料として塩素化ブチルゴム、プランジャーロッドの材料としてポリプロピレンを採用した場合のものである。これらの数値は、雌ねじと雄ねじとの形状の組み合わせが逆になっても、同様に適用可能である。
【0028】
図4Bの雌―雄ねじ組み合わせでは、上記のとおり、雌ねじ44と雄ねじ45を螺合させたときに、雄ねじ45の各ねじ山45Aの進み側フランク45Gがピストンを押す方向となす角γと、該ねじ山45Aに対応する雌ねじ44のねじ溝44Aの前記進み側フランク45Gに対峙する溝フランク44Gが前記ピストンを引く方向となす角δとが、互いに異なる角度の組み合わせ(γ=90度、δ=105度)となっている。さらに、雌ねじ44と雄ねじ45を螺合させたときに、雄ねじ45の各ねじ山45Aの進み側フランク45Gの先端部分が曲面であり、該ねじ山45Aに対応する雌ねじ44のねじ溝44Aの前記進み側フランク45Gに対峙する溝フランク44Gが平坦であって、進み側フランク45Gと溝フランク44Gは平坦面と曲面との組み合わせにもなっている。なお、本発明における平坦面とは、各ねじ山の進み側フランクおよび追い側フランク(以下「山フランク」という場合もある)ならびに該ねじ山に対応するねじ溝の前記山フランクにそれぞれ対峙する溝フランクのうち、直線で表される各面をいう。また、曲面とは、同じく前記山フランクおよび溝フランクのそれぞれのうち、曲線で表される各面をいう。さらに、この曲面として、図2A〜2D,図3および図4Bのそれぞれにおいては、前述の山フランクまたは溝フランクはその一部のみにおいて曲面を有するが、後述する図5Bおよび図5Cにおけるように、それぞれの山フランクまたは溝フランクはその全面において曲面を有してもよい。
【0029】
図2A〜2D,図3および図4Bのそれぞれに示されている雌―雄ねじ組み合わせにおけるように、雌ねじと雄ねじを螺合させたときに、各山フランクとそれに対峙する溝フランクとが平坦面と曲面との組み合わせである場合、注射筒内においてピストンを摺動させることによって雄ねじに荷重が加わったときには、強く接触する部分と弱く接触する部分とが該山フランクに生ずることとなる。したがって、前述の山フランクとそれに対峙する溝フランクとがピストンの摺動方向となす角が互いに異なる組み合わせと同じく、雄ねじと雌ねじの間において螺合抵抗を実質的に増加させずに螺合強度を増加させることができる。
平坦面と曲面との組み合わせにおいては、どちらが雄ねじ側にあっても、雌ねじ側にあっても構わない。しかし、好ましくは、図4Bや後記する図5Bおよび図5Cに示されているように、硬い材質で構成されるプランジャーロッドの雄ねじ側に曲面があることが好ましい。これは、荷重がかかった場合にも曲面が変形しにくく、平坦面と曲面の組み合わせの効果を高く維持するからと思われるからである。
【0030】
図5Aおよび図5Bのそれぞれにおいて、図4Aおよび図4Bにおける上記した雄ねじ35(45)と同様に、雌ねじ54(64)はその基準溝形が正方形または長方形である角ねじである。一方、図5Aにおける雄ねじ55はその基準山形が台形である台形ねじであり、図5Bにおける雄ねじ65はその基準山形の全体が半円形である丸ねじである。
図5Aにおいて、雌ねじ54と雄ねじ55を螺合させたとき、雄ねじ55の各ねじ山55Aの進み側フランク55Gがピストンを押す方向となす角γと、雌ねじ54の対応するねじ溝54Aの前記進み側フランク55Gに対峙する溝フランク54Gがピストンを引く方向となす角δとが、互いに異なる角度の組み合わせ(γ=100度、δ=90度)となっている。よって、図2Dを参照して先におこなった説明と同様に、ピストンを押す方向に摺動させたとき、前記進み側フランク55Gには、それに対峙する溝フランク54Gに対して別の部分(第4の部分)におけるよりも強く接触する部分(第3の部分)と上記部分(第3の部分)におけるよりも弱く接触する別の部分(第4の部分)が生じ、これによって前記雄ねじ55と前記雌ねじ54との間において螺合抵抗を実質的に増加させずに螺合強度を増加させることができる。一方、プランジャーロッドを介してピストンを注射筒内で引く方向に摺動させたときには、雄ねじ55の各ねじ山55Aの追い側フランク55Hには、対峙する溝フランク54Hに対して別の部分(第2の部分)におけるよりも強く接触する部分(第1の部分)と前記部分(第1の部分)におけるよりも弱く接触する別の部分(第2の部分)とが生じる。これによって、前記雄ねじ55と前記雌ねじ54との間において螺合抵抗を実質的に増加させずに螺合強度を増加させることができる。
図5Bにおいては、上記のとおり、角ねじの雌ねじ64と丸ねじの雄ねじ65との組み合わせになっている。雌ねじ64と雄ねじ65を螺合させたとき、雄ねじ65の各ねじ山65Aの進み側フランク65Gは曲面を有し、対応する雌ねじ64のねじ溝64Aの前記進み側フランク65Gに対峙する溝フランク64Gは平坦面を有する。図5Cに示すように注射筒内において矢印の方向、すなわち、押す方向にピストンを摺動させたときには、図2Dに示されている場合と同様に、各ねじ山65Aの進み側フランク65Gの曲面には、対応するねじ溝64Aの前記進み側フランク65Gに対峙する溝フランク64Gの平坦面に対して別の部分(第4の部分)65Dにおけるよりも強く接触する部分(第3の部分)65Cと前記部分(第3の部分)65Cにおけるよりも弱く接触する別の部分(第4の部分)65Dとが生ずることとなる。したがって、図5Aにおける前述の角(γ、δ)が互いに異なる組み合わせと同じく、前記雄ねじ65と前記雌ねじ64との間において螺合抵抗を実質的に増加させずに螺合強度を増加させることができる。一方、プランジャーロッドを介してピストンを注射筒内で引く方向に摺動させたとき、図2Dを参照して先におこなった説明と同様に、雄ねじ65の各ねじ山65Aの追い側フランク65Hには、対峙する溝フランク64Hに対して別の部分(第2の部分)65Jにおけるよりも強く接触する部分(第1の部分)65Iと前記部分(第1の部分)65Iにおけるよりも弱く接触する別の部分(第2の部分)65Jとが生じる。なお、図示しないが、雄ねじの丸ねじが、図4Bに示されているように、雄ねじがその基準山形の先端部分が半円形になっている四角形状を有する丸ねじである場合においても、同様の作用効果を奏することはいうまでもない。また、図示しないが、丸ねじの雌ねじと角ねじの雄ねじの組み合わせについても、同様の作用効果を奏する。
【0031】
本発明の雌ねじと雄ねじとの組み合わせは、必ずしも上記の組み合わせに限られない。例えば、通常の台形ねじや、角ねじ等とは全く形状の異なる変形ねじを組み合わせることも可能である。また、雄ねじ、雌ねじとも台形ねじであっても、台形の傾斜部分の傾斜角が異なれば、前記第1〜第5実施態様と同様に、螺合させたときに対峙する雌ねじの各ねじ溝の両溝フランクとと雄ねじの対応するねじ山の両山フランクとが、それぞれピストンの摺動方向となす角が互いに異なる角の組み合わせとなり、各山フランクには、対峙する溝フランクに対して、強く接触する部分と弱く接触する部分を生じることができる。
上記各実施態様においては基準溝形および基準山形はいずれも左右対称である。すなわち、基準溝形の両側の溝フランクおよび基準山形の両側の山フランク、具体的には、進み側フランクと追い側フランクは左右対称であるが、本発明においてはこれらの基準溝形および基準山形は左右非対称であってもよい。したがって、台形ねじ形状の場合、その台形は等脚であっても、不等脚であってもよい。
【0032】
挟み込み荷重を発生する部分は、雄ねじの各ねじ山の付け根側部分、言い換えると、雌ねじの各ねじ溝山部の先端側部分であることが好ましい。挟み込みによりピストンの先端側部分に変形が生じた場合にも、ピストンの外周までの距離が遠く、その影響がピストンの外面に生じにくいからである。挟み込みによる変形の影響がピストンの外面に生じた場合には、摺動抵抗の増加や、酷い場合にはピストンの密封性が損なわれ、液漏れを生ずるおそれもある。
【0033】
本発明において使用可能なピストン材質は、弾性体であって、従来医薬品に使用される注射器のピストンの材質として用いられるものを含むことができる。例えば、合成ゴムとしては、ブチルゴム(IIR)、塩素化ブチルゴム(CIIR)、臭素化ブチルゴム(BIIR)、部分架橋IIR、ポリブタジエンゴム(BR)、ポリイソプレンゴム(IR)、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合ゴム(EPDM)、スチレン−ブタジエン共重合ゴム(SBR)、アクリルゴム(ACM)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等、熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリイソブチレン系熱可塑性エラストマー(SIBS)、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)系共重合体、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン(SEBS)系共重合体、スチレン−イソプレン−スチレン(SIS)系共重合体等のスチレン系エラストマーや、エチレン−プロピレン−非共役ジエンモノマー(EPDM)系共重合体、エチレン−プロピレン(EPM)系共重合体などのオレフィン系エラストマーが挙げられる。これらのうち、ガスバリヤ性や溶出特性等から、ブチルゴムや塩素化ブチルゴム、ポリイソブチレン系エラストマーが好ましい。なお、ピストンの注射筒との摺動面、および薬液と接する天面にPTFEフィルム等のフッ素樹脂フィルムをラミネートすることが好ましい。
【0034】
本発明に用いるプランジャーロッドの形状は、図2Aおよび図2Bに示した円筒状のものの他にも、従来からプランジャーロッドにおいて使用されている断面十字羽状や断面エの字羽状等のものを含むことができる。プランジャーロッドの摺動方向に対する横方向のブレを少なくするという面で、注射筒の内径より若干小さい外径を持つ円筒状のプランジャーロッドが好ましい。使用可能なプランジャーロッドの材質は、協働するピストンより硬く、従来医薬品に使用される注射器のプランジャーロッドの材質として用いられるものを含むことができる。例えば、合成樹脂であれば、ポリエチレン、ポリプロピレン等の汎用プラスチックが挙げられる。
【0035】
本発明に使用される各ピストンの大きさは、直径約13mm以下、高さ約10mm以下、言い換えれば、ピストンの雌ねじの大きさが、直径約10mm以下、長さ約7mm以下であることが好ましい。この大きさよりも大きいピストンを用いたプランジャーキットにおいても、本発明の効果は認められるが、多くの場合、本発明を実施するまでもなく十分な螺合強度を有することが多い。なお、現在、量産的に製造しうる最小のピストンの大きさは直径約3mm、高さ約4mm程度、その雌ねじの大きさにして直径約2mm、長さ2mm程度である。本発明は、このような、小容量化が進んだ注射器に適用される小型のプランジャーキットに適用した場合に、より顕著な効果が得られる。
【0036】
本発明を実施するに当たり、上述した異なる形状の雌ねじと雄ねじを組み合わせることに加え、ねじ山空間とねじ山との寸法のうちの1つまたはそれ以上を変えることも効果的である。例えば、ねじ山の幅および高さをねじ山空間のそれらよりも小さくし、損なわれるそれらの間の螺合強度を本発明の作用効果で補う様にすると、螺合強度をそのままに、ピストンが押し広げられることによる摺動性の悪化の虞が減少し、かつ螺合抵抗も減少する。
なお、ねじ山の高さをねじ山空間の深さよりも大きくするような形状変更は、プランジャーロッドの雄ねじでピストンの雌ねじを押し広げることとなり、ピストンの摺動抵抗の増加が懸念されるので好ましくないことはいうまでもない。
【0037】
なお、本発明のねじ構造は、ねじ溝およびねじ山が始端から終端までが同一形状である場合に、特に効果的であるが、それらのねじ溝およびねじ山の一部分のみを本発明のような形状とすることもできる。しかし、本発明の効果を明確に得るためには、少なくとも雌ねじと雄ねじ全体の60%以上、より好ましくは80%以上が、本発明のねじ溝とねじ山との組み合わせであることが好ましい。
また、ねじ山はねじ軸を少なくとも1周、好ましくは2〜4周するよう設けられることが好ましい。ねじ溝についても同様である。
【実施例】
【0038】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。
[実施例1]
塩素化ブチルゴム(エクソンモービル社製「HT1066」、商品名)を用いて、直径約13mm、高さ約10mm、底部分が半円になっている四角形状の基準溝形を有する丸ねじ状の雌ねじを設けた、図2A〜2Dに示した形状のピストンを作成した。ピストンの注射筒との摺動面および薬液と接する天面には、PTFEフィルム(デュポン製「テフロン(登録商標)7A」、商品名)をラミネートした。前記雌ねじの寸法として、雌ねじのねじ軸空間の直径を5.0mm、長さを7.0mm、ねじ溝は、基準溝形においてねじ軸空間からの深さが最も深い部分で深さ2.0mm、ねじ軸空間からの深さが最も浅い部分で幅1.0mmとした。
また、そのピストンに組み合わせるための、直径約10mm、長さ約50mm、基準山形が台形の雌ねじを設けた、図2A〜2Dに示した形状のプランジャーロッドを、ポリプロピレン(三井化学社製「ハイゼックス」、商標名)を用いて作成した。前記雄ねじの寸法として、ねじ軸の直径を4.9mm、長さを7.0mm、ねじ山は、基準山形においてねじ軸表面からの高さが最も高い部分(頂(クレスト))で2.0mm、頂(クレスト)の幅が0.8mm、付け根の幅を1.2mmとした。ねじ山はねじ軸の長さ全体に亘って均一のピッチで3周するように設けた。ねじ山空間も同様とした。
【0039】
[実施例2]
図4Aに示されているように、雌ねじの基準溝形を台形、雄ねじの基準山形を長方形にし、雌ねじと雄ねじの寸法を以下の通りとした以外は、実施例1と同様の方法でピストンとプランジャーロッドを作成した。雌ねじの寸法として、ねじ軸空間の直径を7.0mm、ねじ溝は、ねじ軸空間からの深さが最も深い部分で深さ2.0mm、ねじ軸空間から最も深い部分で幅0.8mm、最も浅い部分で幅1.2mmとした。一方、雄ねじの寸法として、ねじ軸の長さを6.7mm、ねじ山の高さを2.0mm、ねじ山の幅を1.0mmとした。
【0040】
[実施例3]
図4Bに示されているように、実施例2と同様のピストンを用い、これと組み合わせるプランジャーロッドの基準山形を先端部分が半円になっている長方形状とし、各寸法を以下の通りとした以外は、実施例1と同様の方法でプランジャーロッドを作成した。プランジャーキットの雄ねじの寸法として、ねじ軸の長さを6.7mm、ねじ山の高さを2.0mm、ねじ山の先端部分以外の幅を1.0mmとした。なお、ねじ山の先端部分は直径1.0mmの半円となるよう角を丸めた。
【0041】
[実施例4]
実施例3と同様のプランジャーロッドを用い、これと組み合わせるピストンの基準溝形を長方形とし、各寸法を以下の通りとした以外は、実施例1と同様の方法でプランジャーキットを作成した。ピストンの雌ねじの寸法として、ねじ軸空間の直径を7.0mm、長さを7.0mm、ねじ溝の深さを2.0mm、幅を1.0mmとした。
【0042】
[実施例5〜7]
実施例1〜3のプランジャーロッドの雄ねじのねじ山の幅を全体的にそれぞれ0.2mm太くした以外は実施例1〜3と全く同じ方法でプランジャーロッドをそれぞれ作成し、これらのプランジャーロッドを実施例1〜3に使用したピストンと同様のものとそれぞれに組み合わせたて実施例5〜7のプランジャーキットを用意した。
【0043】
[比較例1]
基準溝形および基準山形をともに台形としたピストンとプランジャーロッドを実施例1と同様の方法で作成し、比較例1のプランジャーキットとして用意した。雌ねじと雄ねじの寸法は、ねじ軸空間の直径が7.0mm、ねじ軸の直径が6.7mmである点を除き同一であり、ねじ山の高さおよびねじ溝の深さは2.0mm、ねじ溝の最も深い部分およびねじ山の最も高い部分の幅を0.8mm、ねじ溝の最も浅い部分およびねじ山の付け根側部分の幅を1.2mmとした。
【0044】
[比較例2]
比較例1と同様に、基準溝形および基準山形をともに正方形としたピストンとプランジャーロッドを作成し、比較例2のプランジャーキットを用意した。雌ねじと雄ねじの寸法は、ねじ軸空間の直径が7.0mm、ねじ軸の直径が6.7mmである点を除き同一であり、ねじ山の高さおよびねじ溝の深さは2.0mm、ねじ溝およびねじ山の幅をいずれも1.0mmとした。
【0045】
[比較例3、4]
比較例1、2のプランジャーロッドの雄ねじのねじ山の幅を全体的にそれぞれ0.2mm太くした以外は比較例1、2と全く同じ寸法でプランジャーロッドをそれぞれ作成し、比較例1、2に使用したピストンと同様のものと組み合わせたものを比較例3、4のプランジャーキットとした。
【0046】
<評価>
[螺合抵抗試験]
上記により作成した各ピストンを内径約12mmの注射筒に挿入した。注射筒を固定して、手で注射筒内のピストンに対応するプランジャーロッドを螺合させたときの抵抗を測定し、表1および表2に示す。なお各プランジャーキットの評価は、抵抗が小さい場合はA、使用上の問題はないがやや抵抗が大きい場合はB、使用上問題となるほど抵抗が大きい場合はCとした。供験サンプル数は10とし、その平均で評価した。評価結果も表1および表2に示す。
【0047】
[摺動抵抗試験]
容量5mL用の注射筒(内径約12mm、株式会社大協精工製「CZ樹脂」、商品名)に、上記により作成した各ピストンを挿入し、規定量である5mLの水を注射筒に充填した。注射筒をその中に挿入したピストンと充填した水と共に、12時間静置した。その後、注射筒内のピストンを対応する上記プランジャーロッドと螺合させ、また注射筒のノズルに21Gの注射針を取り付けた。プランジャーロッドを100mm/minの速度で押し込み、その時の摺動抵抗の最大値(N)を測定した。そのようにして得られた摺動抵抗の最大値(N)も表1および表2に示す。また、その後、同速度でプランジャーロッドを試験開始前の位置まで引き出した場合と、200mm/minの速度で引き出した場合について、それぞれピストンとプランジャーロッドとの螺合が維持されるかどうかについて確認を行った。評価は螺合が維持されたサンプルの本数を計数して実施した。測定には島津製作所製精密万能試験機(「オートグラフ AG−5kNIS MS」、商品名;ロードセル:100N)を引張試験機として使用した。供試サンプル数は各引き出し速度につき10とし、その平均で評価した。評価結果も表1および表2に示す。
【0048】

【0049】

【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、医薬品用途に使用される注射器を構成するプランジャーキットであって、ピストンと該ピストンに螺合可能なプランジャーロッドとからなり、プランジャーロッドをピストンに螺合させた場合、プランジャーロッドがピストンから抜けにくく、ピストンの摺動抵抗が実質的に増加しないプランジャーキットが提供され、特に、小容量の注射器に用いることで、より大きな効果が期待される。
【符号の説明】
【0051】
11:プランジャーキット
12:ピストン
13:プランジャーロッド
14:雌ねじ
14A:ねじ溝
15:雄ねじ
15A:ねじ山
15B:ねじ軸
6:基準溝形
7:基準山形
8:ねじ溝山部
9:ねじ山谷部
13A:プランジャーロッド本体
13B:フランジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
注射筒を備えて医薬品を注射するために使用される医薬品注射器の構成部品としてのプランジャーキットであって、弾性体からなり、雌ねじ(14;24;34;44;54;64)を有するピストン(12)と、ピストンより硬い材質からなり、該雌ねじに螺合される雄ねじ(15;25;35;45;55;65)を有するプランジャーロッド(13)とからなるプランジャーキットにおいて、前記雌ねじと前記雄ねじは互いに非相補的な基準溝形と基準山形をそれぞれ有し;かつ、前記ピストンと前記プランジャーロッドを螺合させてから前記注射筒内に摺動自在に嵌入させた状態で前記プランジャーロッドを介して前記ピストンを引く方向に摺動させたときに、前記雄ねじの各ねじ山(15A;25A;35A;45A;55A;65A)の追い側フランク(15H;25H;35H;45H;55H;65H)は、前記雌ねじの対応するねじ溝(14A;24A;34A;44A;54A;64A)の、前記追い側フランクに対峙する溝フランク(14H;24H;34H;44H;54H;64H)に対して第1の部分(15I;65I)において第2の部分におけるよりも強く接触し、第2の部分(15J;65J)において第1の部分におけるよりも弱く接触し、前記雄ねじが前記ピストンを実質的に押し広げることなく前記雄ねじと前記雌ねじとの間の螺合強度を増加させ得るように、前記追い側フランクと該追い側フランクに対峙する前記溝フランクとが形成されていることを特徴とする医薬品注射器用プランジャーキット。
【請求項2】
前記追い側フランク(15H;25H;35H;45H;55H)が前記ピストンを引く方向となす角(α)と前記追い側フランクに対峙する前記溝フランク(14H;24H;34H;44H;54H)が前記ピストンを押す方向となす角(β)とが共に180度ではなく、それらの角が互いに異なる請求項1に記載の医薬品注射器用プランジャーキット。
【請求項3】
前記追い側フランクが前記ピストンを引く方向となす角(α)と前記溝フランクが前記ピストンを押す方向となす角(β)とがそれぞれ90〜150度である請求項2に記載の医薬品注射器用プランジャーキット。
【請求項4】
前記雌ねじの前記基準溝形と前記雄ねじの前記基準山形のうちの一方(15A;25A;34A;44A;55A)が台形ねじ形状を有し、他方(14A;24A;45A;35A;54A)が丸ねじ形状、角ねじ形状または前記の台形ねじ形状と台形の傾斜部分の傾斜角が異なる別の台形ねじ形状のいずれかを有する請求項2または3に記載の医薬品注射器用プランジャーキット。
【請求項5】
前記追い側フランクと該追い側フランクに対峙する前記溝フランクの一方(15H;25H;44H;64H)が平坦面を有し、他方(14H;24H;45H;65H)が曲面を有する請求項1に記載の医薬品注射器用プランジャーキット。
【請求項6】
前記曲面が前記追い側フランク(45H;65H)の少なくとも一部に形成されている請求項5に記載の医薬品注射器用プランジャーキット。
【請求項7】
前記雌ねじの前記基準溝形と前記雄ねじの前記基準山形のうちの一方(14A;24A;45A;65A)が丸ねじ形状を有し、他方(15A;25A;44A;64A)が台形ねじ形状または角ねじ形状を有する請求項5または6に記載の医薬品注射器用プランジャーキット。
【請求項8】
前記注射筒内において前記プランジャーロッド(13)を介して前記ピストン(12)を押す方向に摺動させたときに、前記雄ねじ(15;25;35;45;55;65)の各ねじ山(15A;25A;35A;45A;55A;65A)の進み側フランク(15G;25G;35G;45G;55G;65G)は、前記雌ねじ(14;24;34;44;54;64)の前記対応するねじ溝(14A;24A;34A;44A;54A;64A)の、前記進み側フランクに対峙する反対側の溝フランク(14G;24G;34G;44G;54G;64G)に対して第3の部分(15C;65C)において第4の部分におけるよりも強く接触し、第4の部分(15D;65D)において第3の部分におけるよりも弱く接触し、前記雄ねじが前記ピストンを実質的に押し広げることなく前記雄ねじと前記雌ねじとの間の螺合強度を増加させ得るように、前記進み側フランクと該進み側フランクに対峙する前記反対側の溝フランクとが形成されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の医薬品注射器用プランジャーキット。
【請求項9】
前記雄ねじ(25)の隣接する各2つのねじ山(25A,25A)の付け根部分(25B,25B)が、前記2つのねじ山の間に位置する、前記雌ねじ(24)のねじ溝山部(28)の先端部を挟み込む形で接触して該雌ねじと該雄ねじとの間に挟み込み荷重が生じるように、前記雄ねじと雌ねじの形状および寸法が定められている請求項1〜8のいずれか1項に記載の医薬品注射器用プランジャーキット。
【請求項10】
前記雄ねじ(25;35)の各ねじ山(25A;35A)の頂(クレスト)と進み側フランク(25G;35G)および追い側フランク(25H;35H)との間にそれぞれ位置する先端角部(25F,25F;35F,35F)が該ねじ山に対応する前記雌ねじ(24;34)のねじ溝(24A;34A)の対峙する溝フランク(24G,24H;34G,34H)にそれぞれ接触して該雌ねじと該雄ねじとの間に挟み込み荷重が生じるように、前記雄ねじ(24;34)のねじ山と雌ねじのねじ溝の形状および寸法が定められている請求項1〜8のいずれか1項に記載の医薬品注射器用プランジャーキット。
【請求項11】
前記雄ねじ(45)の各ねじ山(45A)の進み側フランク(45G)と追い側フランク(45H)の中間部に肩部(45K,45K)がそれぞれ形成され、該肩部が前記ねじ山に対応するねじ溝(44A)の対峙する溝フランク(44G,44H)にそれぞれ接触して該雌ねじと該雄ねじとの間に挟み込み荷重が生じるように、前記雄ねじのねじ山と雌ねじのねじ溝の形状および寸法が定められている請求項1〜8のいずれか1項に記載の医薬品注射器用プランジャーキット。
【請求項12】
前記ピストン(12)は前記プランジャーロッド(13)と螺合しうる前記雌ねじ(14)を有し、該雌ねじは、円柱状のねじ軸空間(14B)と該ねじ軸空間から螺旋状に前記ピストンの外周方向に広がるねじ溝(14A)とを有し、かつ、前記プランジャーロッドは前記ピストンと螺合しうる前記雄ねじ(15)を有し、該雄ねじは、円柱状のねじ軸(15B)と該ねじ軸から螺旋状かつ径方向外側に広がる前記ねじ山(15A)とを有する請求項1〜11のいずれか1項に記載の医薬品注射器用プランジャーキット。
【請求項13】
注射筒と、螺合させた状態で摺動自在に該注射筒内に嵌入された請求項1〜12のいずれか1項に記載の医薬品注射器用プランジャーキットとからなることを特徴とする医薬品注射器。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【公開番号】特開2013−46752(P2013−46752A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−163786(P2012−163786)
【出願日】平成24年7月24日(2012.7.24)
【出願人】(000149000)株式会社大協精工 (31)
【Fターム(参考)】