医薬組成物
【課題】本発明は、新規な医薬組成物を提供することを課題とする。詳しくは、ダイナミン機能阻害作用を有する化合物の仮足形成阻害剤に関し、さらには当該化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含む抗腫瘍剤または免疫抑制剤などの新規医薬組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】以下の一般式Iで示されるダイナミン機能阻害作用を有する化合物又はその薬学的に許容される塩からなる細胞の仮足形成阻害剤による。(式中、R1〜R3は、各々同一又は異なって水素、水酸基、直線若しくは分岐状の、非置換若しくは置換の、飽和若しくは不飽和の、アシル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基及びアリール基からなる群から選択される。)
【解決手段】以下の一般式Iで示されるダイナミン機能阻害作用を有する化合物又はその薬学的に許容される塩からなる細胞の仮足形成阻害剤による。(式中、R1〜R3は、各々同一又は異なって水素、水酸基、直線若しくは分岐状の、非置換若しくは置換の、飽和若しくは不飽和の、アシル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基及びアリール基からなる群から選択される。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規医薬組成物に関する。詳しくは、ダイナミン機能阻害作用を有する化合物の仮足形成阻害剤に関し、さらには当該化合物を有効成分として含む抗腫瘍剤又は免疫抑制剤などの新規医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アクチンは分子量約42,000の球状タンパク質であり、生理的条件下では重合してアクチン線維となり細胞骨格としての役割をはたす。試験管内においては、生成したアクチン線維は、非常に安定した状態であるが、細胞内でのアクチン線維は、重合、脱重合がダイナミックに制御され、常にその状態は変化している。例えば、運動している細胞の先端部の葉状仮足では、細胞膜の直下でアクチンの重合が起こる一方、細胞の中心に近い仮足の基部では、アクチンの脱重合が起こる。その結果、アクチン線維内のモノマーは常に入れ替わっている。
【0003】
細胞が方向性を持って動くとき、まず先端部で糸状仮足という細長い突起が生じ、方向性を探った後、葉状仮足という平板状の膜の伸展により細胞が駆動力を獲得する。細胞の後部ではストレスファイバーが発達し、後部を萎縮させることで、細胞は前方で伸び、後方で収縮して進む。糸状仮足、葉状仮足、ストレスファイバーは、いずれも細胞内のアクチン重合により形成される構造体である。細胞先端部での化学遊走因子のシグナルは、低分子量Gタンパク質に伝えられ、非常に速いアクチン線維の再構築を促す。細胞運動の推進力は、RhoファミリーGタンパク質によるアクチン線維の重合により発生する。RhoファミリーGタンパク質は、アクチン重合を調節することで、細胞の形や運動を制御している。主にCdc42、Rac及びRhoの3種よりなり、Cdc42が糸状仮足形成を、Racが葉状仮足形成を、及びRhoがストレスファイバー形成を制御する。
【0004】
アルファ平滑筋アクチン(SMA)活性を調節する薬剤の治療的使用について、報告がある(特許文献1)。本文献では、癌患者の腫瘍細胞転移の予防のために、SMA阻害剤を有効成分として含む医薬組成物の使用について開示がある。腫瘍細胞の転移を引き起こす原因のひとつとして、血管内及び血管外へ細胞が通過することが示されている。
【0005】
神経末端におけるシナプス小胞のエンドサイトーシスはシナプス伝達の維持に不可欠であるが、その分子メカニズムには不明な点が多く残されている。ダイナミン(Dynamin)ファミリーのアイソフォームは、脳に強く発現し、神経細胞の前シナプス部に局在し、シナプス小胞のエンドサイトーシスに機能する細胞内タンパク質である。ダイナミンは共重合し、エンドサイトーシス小胞を被覆するクラスリンとともに、クラスリン依存性のエンドサイトーシスの一端を担うことが知られている。このタンパク質群は、非神経細胞にも存在し、細胞膜受容体のエンドサイトーシスを介したリポタンパク質代謝や、糖輸送担体を介した糖代謝においても役割を担うと考えられる。
【0006】
ダイナミンの機能を阻害する物質について、報告がある(非特許文献1)。ここでは、いくつかの低分子候補化合物について、ダイナミンのGTPase活性抑制を確認することで、スクリーニングを行い、阻害物質であるダイナソア(Dynasore)を得たことが開示されている。本文献では、ダイナソアはダイナミンに依存するエンドサイトーシスの機能を抑制することが確認されている。また、その他の作用についても、ダイナミンに依存する作用が抑制されることが確認され、ダイナミン非依存的な機能には影響を及ぼさないことが報告されている。しかし、仮足形成の阻害作用についての報告はない。また、エンドサイトーシスが、腫瘍細胞の浸潤や遊走に果たす役割についても全く記載されていない。
【特許文献1】特開2004−167270号公報
【非特許文献1】Developmental Cell 10, 839-850 (2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、下記一般式Iで示されるダイナミン機能阻害作用を有する化合物の新規メカニズムを探索し、当該化合物を有効成分とする新規医薬組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、下記一般式Iで示される化合物について、メカニズムを検討した結果、新規メカニズムとして細胞の仮足形成を阻害することを見出し、本発明を完成した。さらに、仮足形成を伴う細胞現象である腫瘍細胞浸潤と食作用に対する前記化合物の作用を確認した。その結果、当該化合物は抗腫瘍効果を有することが確認された。また、マクロファージの食作用に対しては抑制効果が認められ、免疫抑制剤としての効果を有することも確認された。
以上の結果により、当該化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含む新規医薬組成物としての本発明を完成した。
【0009】
即ち本発明は、以下よりなる。
1.以下の一般式Iで示される化合物又はその薬学的に許容される塩からなる、細胞の仮足形成阻害剤:
式I;
【化1】
(式中、R1〜R3は、各々同一又は異なって水素、水酸基、直線若しくは分岐状の、非置換若しくは置換の、飽和若しくは不飽和の、アシル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基及びアリール基からなる群から選択される。)
2.一般式Iの化合物が、以下の式IIで示される化合物である前項2に記載の仮足形成阻害剤:
式II;
【化2】
3.以下の一般式Iで示される化合物又はその薬学的に許容される塩からなる、マクロファージの食作用阻害剤:
式I;
【化1】
(式中、R1〜R3は、各々同一又は異なって水素、水酸基、直線若しくは分岐状の、非置換若しくは置換の、飽和若しくは不飽和の、アシル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基及びアリール基からなる群から選択される。)
4.一般式Iの化合物が、以下の式IIで示される化合物である前項3に記載のマクロファージの食作用阻害剤:
式II;
【化2】
5.前項1〜4のいずれか1に記載の仮足形成阻害剤若しくはマクロファージの食作用阻害剤を有効成分として含む医薬組成物。
6.医薬組成物が、抗腫瘍剤である、前項5に記載の医薬組成物。
7.医薬組成物が、免疫抑制剤である、前項5に記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一般式Iで示される化合物は、in vitroの系において、腫瘍細胞の糸状仮足及び葉状仮足のいずれの仮足形成に対しても強い阻害効果を示し、さらにin vitro及びin vivoの系において、腫瘍細胞の正常組織への浸潤抑制効果が確認された。また、in vitroの系においてマクロファージの食作用を抑制する効果が認められた。
これにより、一般式Iで示される化合物は、仮足形成阻害剤又はマクロファージの食作用阻害剤として効果を発揮し、さらには一般式Iで示される化合物又はその薬学的に許容される塩を含む薬剤は、抗腫瘍剤や免疫抑制剤等の医薬組成物として利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において、仮足形成とは、糸状仮足及び葉状仮足のいずれの仮足形成であっても良い。また、本発明における抗腫瘍とは、腫瘍の形成、浸潤、転移等の腫瘍のあらゆる作用に対して阻害作用を有することをいう。
【0012】
本発明のダイナミン機能阻害作用を有する化合物は、以下の一般式Iで示される化合物又はその薬学的に許容される塩からなり、仮足形成阻害作用及びマクロファージの食作用阻害作用を有する。
式I:
【化1】
(式中、R1〜R3は、各々同一又は異なって水素、水酸基、直線若しくは分岐状の、非置換若しくは置換の、飽和若しくは不飽和の、アシル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基及びアリール基からなる群から選択される。)
【0013】
一般式Iにおいて、アルキル基、アルケニル基及びアルキニル基は、各々シクロアルキル基、シクロアルケニル基及びシクロアルキニル基であっても良い。ここで用いられるシクロアルキルは、飽和環式炭素鎖を意味し、シクロアルケニル及びシクロアルキニルは、それぞれ、少なくとも1つの二重又は三重結合を含む環式炭素鎖を意味する。シクロアルキル基、シクロアルケニル基、シクロアルキニル基及びアリール基は単環、多環又は縮合環式であっても良い。
【0014】
具体的には、R1〜R3は、各々同一又は異なって、水素原子又は水酸基であることが好ましく、水酸基であることが特に好適である。
【0015】
本発明の細胞の仮足形成阻害剤は、一般式Iで示される化合物であり、例えば以下の式IIで示される化合物や、さらにその薬剤上許容される塩及び溶媒和物から選択されるいずれかであってもよい。
【0016】
上記から選択される化合物として、以下の式IIに示される化合物が特に好適である。本発明において、式I及びIIで示される化合物には、異性体(エピマー)が存在する。これらいずれかの異性体及びその任意の混合物はすべて本発明に属するものとする。
式II:
【化2】
【0017】
本発明において、薬学上許容される塩とは、以下が挙げられる。
塩基性付加塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;例えばカルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;例えばアンモニウム塩;例えばトリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩;ジシクロヘキシルアミン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、ブロカイン塩等の脂肪族アミン塩;たとえばN,N−ジベンジルエチレンジアミン等のアラルキルアミン塩;例えばピリジン塩、ピコリン塩、キノリン塩、イソキノリン塩等の複素環芳香族アミン塩;例えばテトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリエチルアンモニウム塩、ベンジルトリブチルアンモニウム塩、メチルトリオクチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩;アルギニン塩;リジン塩等の塩基性アミノ酸塩等が挙げられる。
【0018】
酸付加塩としては、例えば塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、りん酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、過塩素酸塩等の無機酸塩;例えば酢酸塩、プロピオン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、フマール酸塩、酒石酸塩、りんご酸塩、くえん酸塩、アスコルビン酸塩等の有機酸塩;例えばメタンスルホン酸塩、イセチオン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩等のスルホン酸塩;例えばアスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等の酸性アミノ酸等を挙げることができる。
【0019】
本発明において、式IIで示される化合物は、具体的には非特許文献1に記載のダイナソア(Dynasore)と同等の構造式からなる化合物である。ダイナソアは、非特許文献1において、細胞のエンドサイトーシスに機能するタンパク質であるダイナミン(Dynamin)(図1、2参照)の阻害剤として報告されたものである。ダイナソアは、ダイナミンのGTPase活性を可逆的に阻害することで、ダイナミンの機能を抑制することが報告されている。
【0020】
本発明における仮足形成阻害効果は、通常一般的に行われる仮足形成の試験により確認することができる。例えば、血清刺激により葉状仮足形成を生じやすい細胞であるU20S(ヒト骨肉種由来)や糸状仮足形成を生じやすいA549細胞(ヒト由来非小細胞肺癌細胞)を用いて確認することができる。
【0021】
上記一般式Iで示される本発明の化合物は、上記方法にて葉状仮足形成及び糸状仮足形成の両仮足形成に対しても阻害作用を有することが確認される。背景技術の欄でも言及したが、特許文献1ではアルファ平滑筋アクチン(SMA)活性を調節する薬剤の治療的使用について報告されており、腫瘍患者の腫瘍細胞転移の予防のために、SMA阻害剤を有効成分として含む医薬組成物の使用について開示がある。腫瘍細胞の転移を引き起こす原因のひとつとして、血管内及び血管外へ細胞が通過することが示されている。
【0022】
そこで、上記一般式Iで示される本発明の化合物についても、in vitro及びin vivoの系において、腫瘍細胞に対する効果を確認することができる。例えばin vitroの系では、細胞走化性を確認することにより、腫瘍細胞の浸潤に対する効果を確認することができる。またin vivoの系では、特定の部位に腫瘍細胞を注入した担癌動物を作製し、注入した部位とは異なる部位での腫瘍細胞の有無を確認すること等により、腫瘍細胞の転移に対する効果を確認することができる。
【0023】
特に、生体内で腫瘍細胞が仮足形成することにより、腫瘍細胞が正常組織に浸潤し、さらに腫瘍細胞の転移などに至る場合がある。上記一般式Iで示される化合物の作用により、腫瘍細胞の浸潤及び/又は転移を予防し、進行を軽減化させることができ、抗腫瘍剤として使用することができる。本発明では、in vitroの系では培養液に対して上記化合物40μMの濃度で明らかな細胞浸潤抑制効果が認められていることから、それよりも低い濃度での効果を確認することにより、上記化合物の投与量を適宜決定することができる。また、in vivoの系でも、径が約2〜3mmの腫瘍に対して、上記化合物を0.5mg/50μlで転移抑制効果が認められていることから、それよりも低い濃度での効果を確認することにより、投与量を適宜決定することができる。
【0024】
さらには、上記化合物はマクロファージの食作用を阻害する作用も有する。免疫反応に関し、抗原物質がマクロファージや単球などの貪食細胞と反応することで、細胞性免疫能を発揮し、場合によっては炎症やアレルギー症状に至る場合がある。これらの貪食細胞は貪食過程に仮足形成を伴うため、上記一般式Iで示される化合物の作用により、貪食細胞の仮足形成を阻害し、好ましくない免疫反応を軽減化させることができる。本発明の化合物は、免疫抑制剤として使用することができる。
【0025】
以上により、本発明は、上記一般式Iで示される化合物又はその薬学的に許容される塩を有効量含む医薬組成物にも及ぶ。本発明の医薬組成物は、例えば抗腫瘍剤や免疫抑制剤として使用することができる。
【0026】
本発明の医薬組成物は、上述の如く上記一般式Iで示される化合物又はその薬学的に許容される塩からなる仮足形成阻害剤若しくはマクロファージの食作用阻害剤を有効量含み、さらに薬学的に許容し得る担体を含んでいても良い。かかる医薬組成物は、経口的又は非経口的に投与することができる。経口投与による場合、本発明の仮足形成阻害剤は通常の製剤、例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤等の固形剤;水剤;油性懸濁剤;又はシロップ剤もしくはエリキシル剤等の液剤のいずれかの剤型としても用いることができる。非経口投与による場合、本発明の化合物は、水性又は油性懸濁注射剤、点鼻液として用いることができる。その調製に際しては、慣用の賦形剤、結合剤、滑沢剤、水性溶剤、油性溶剤、乳化剤、懸濁化剤、保存剤、安定剤等を任意に用いることができる。
【実施例】
【0027】
以下に、化合物II(ダイナソア)の作用を実施例により示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0028】
(実施例1)葉状仮足形成試験
1)血清の有無によるU20S(ヒト骨肉種由来)細胞の葉状仮足形成作用
細胞数が3×104cells/mlとなるように、U20S(ヒト骨肉種由来)細胞を、10%v/v仔牛血清(FBS)を含むDMEM(Dulbecco's Modified Eagle's Medium, Invitrogen製)培地に懸濁した。細胞懸濁液0.5mlを、径1.6cmのマイクロ培養皿に播種し、5%CO2、37±1℃でインキュベーションした。翌日FBSを含まないDMEMで12時間インキュベーションした。インキュベーション後、細胞をファロイジンで蛍光染色し、顕微鏡下で細胞の形態を観察した。FBSを含まない培地で培養した細胞は、葉状仮足形成を認めなかった(図3a参照)。
【0029】
上記インキュベーション後の細胞培養液に、FBSを10%v/v添加して、さらに40分間インキュベーションし、上記と同様に細胞の形態を観察した。その結果、FBS添加後の培地では、細胞の一部分に葉状仮足形成を認めた(図3b参照)。
【0030】
2)化合物II(ダイナソア)の有無によるU20S細胞の葉状仮足形成作用
上記1)と同様に、細胞数が3×104cells/mlとなるようにU20S細胞を、10%FBSを含むDMEM培地に懸濁した。細胞懸濁液0.5mlを、直径1.6cmのマイクロ培養皿に播種し、5%CO2、37±1℃でインキュベーションした。翌日FBSを含まないDMEMで12時間インキュベーションした。
【0031】
その後の細胞培養液に、ダイナソアを240μMになるように添加し、さらに30分間インキュベーションし、1)と同様に細胞の形態を観察した。その結果、FBS(−)、ダイナソア(+)の培地では、葉状仮足形成を認めなかった(図4a参照)。
【0032】
次に、FBSを10%v/v添加して、さらに40分間インキュベーションし、1)と同様に細胞の形態を観察した。その結果、ダイナソア(+)の培地では、FBS(+)の場合でも葉状仮足形成を認めなかった(図4b参照)。
【0033】
上記FBS及びダイナソアを含む培地で細胞を培養後、FBS10%v/vを含み、ダイナソアを含まない培地で細胞を洗浄してダイナソアを除去した後、FBS(+)、ダイナソア(−)の培地中で40分間インキュベーションし、実施例1と同様に細胞の形態を観察した。その結果、FBS(+)、ダイナソア(−)の培地では、葉状仮足形成を認めた(図4c参照)。
【0034】
3)結果
上記1)及び2)の結果より、U20S細胞では、FBSの添加により葉状仮足形成が認められるところ、ダイナソアの添加により葉状仮足形成が抑制されることが観察された。また、ダイナソアを除去した場合には、細胞の葉状仮足形成が確認された。さらに、各条件下で、細胞全体に対する葉状仮足を形成した細胞の割合を計算し、葉状仮足形成率を算出した結果を、図5に示した。これらの結果から、ダイナソアの添加により葉状仮足形成が抑制されることが確認された。
【0035】
(実施例2)糸状仮足形成試験
1)血清の有無によるA549細胞(ヒト由来非小細胞肺癌細胞)の糸状仮足形成作用
糸状仮足形成試験として、血清刺激で糸状仮足を形成しやすいA549細胞(ヒト由来非小細胞肺癌細胞)を用いた他は、実施例1の1)と同手法にて実験を行い、観察した。FBSを含まない培地で培養した細胞は、糸状仮足形成を認めなかった(図6b参照)。
【0036】
上記インキュベーション後の細胞培養液に、FBSを10%v/v添加して、さらに45分間インキュベーションし、上記と同様に細胞の形態を観察した。その結果、FBS添加後の培地では、細胞の一部分に糸状仮足形成を認めた(図6c参照)。
【0037】
2)化合物II(ダイナソア)の有無によるA549細胞の糸状仮足形成作用
糸状仮足形成試験として、血清刺激で糸状仮足を形成しやすいA549細胞(ヒト由来非小細胞肺癌細胞)を用いた他は、実施例1の2)と同手法にて実験を行った。
【0038】
ダイナソアを240μMになるように添加して、さらに30分間インキュベーションし、同様に細胞の形態を観察した。その結果、FBS(−)、ダイナソア(+)の培地では、糸状仮足形成を認めなかった(図7a参照)。
【0039】
次に、FBSを10%v/v添加して、さらに45分間インキュベーションし、比較例1と同様に細胞の形態を観察した。その結果、ダイナソア(+)の培地では、FBS(+)の場合でも糸状仮足形成を認めなかった(図7b参照)。
【0040】
上記FBS及びダイナソアを含む培地で細胞を培養後、FBS10%v/vを含み、ダイナソアを含まない培地で細胞を洗浄してダイナソアを除去した後、FBS(+)、ダイナソア(−)の培地中で45分間インキュベーションし、実施例1と同様に細胞の形態を観察した。その結果、FBS(+)、ダイナソア(−)の培地では、糸状仮足形成を認めた(図7c参照)。
【0041】
3)結果
上記1)及び2)の結果より、A549細胞では、FBSの添加により糸状仮足形成が認められるところ、ダイナソアの添加により糸状仮足形成が抑制されることが観察された。また、ダイナソアを除去した場合には、細胞の糸状仮足形成が確認された。
【0042】
(実施例3)癌細胞に対する浸潤抑制作用(in vitro)
培養チャンバー(BD Bio CoatTMマトリゲルTMインベージョンチャンバー24ウェル:ベクトン・ディッキンソン製)を用いて、癌細胞の浸潤作用を調べた。
【0043】
1)RM−9細胞(マウス前立腺癌細胞株)を、培養チャンバー上部に播種(2.5×104cells/well)し、ダイナソアを40μM又は80μMになるように添加した。ダイナソアを加えない系を対照群とした。チャンバー下部にFBS10%v/vを含む培養液(DMEM)を加え、チャンバー上部の癌細胞のチャンバー下部への浸潤を誘引した。
22時間後、チャンバー下部に浸潤した細胞を固定、染色し、顕微鏡観察により浸潤細胞数を測定した。
【0044】
2)結果
上記の結果を、図8及び図9に示した。これにより、対照群に比べてダイナソアを40μM濃度含む場合は、浸潤細胞数は極端に低下しており、ダイナソアが癌細胞の浸潤を抑制することが確認された。
【0045】
(実施例4)癌細胞の転移抑制作用(in vivo)
C57/BL6マウスを用いて、癌細胞の転移作用を調べた。
【0046】
1)同所性前立腺癌モデルマウスの作製
C57/BL6マウスをペントバルビタールで麻酔し、マウス前立腺後葉左側にRM−9細胞(マウス前立腺癌細胞株)を5000個局所注入し、同所性前立腺癌を作製した。
2)ダイナソアの投与
7日後(癌直径、約2〜3mm)、前立腺癌内にダイナソアを0.5mg/50μl(DMSO 1μl+PBS 49μl)を可能な限り癌塊内に広く行き渡るように局所注入した(7匹)。 対照群には、ビークル50μl(DMSO 1μl+PBS 49μl)を投与した(5匹)。
3)癌細胞のリンパ節への転移の解析
ダイナソア又はビークル投与後10日目にマウスを屠殺し、前立腺癌の重量及び腫大した後腹膜・骨盤内リンパ節の数を測定した。
4)上記の結果を図10(A,B)に示した。これにより、ダイナソアは、対照群に比べて、癌細胞のリンパ節への転移を抑制することが確認された。
【0047】
(実施例5)食作用活性試験
1)RAW264.7(マウスマクロファージ由来)細胞の食作用活性の測定
RAW264.7細胞は、細胞表面にホスファチジルセリン受容体を持っており、この受容体を活性化すると食作用が惹起されることが報告されている。この性質を利用して、RAW264.7細胞におけるホスファチジルセリン添加による刺激依存性の食作用活性を以下に示すように測定した。10%v/v仔牛血清(FBS,Invitrogen製)を含むDMEM(Dulbecco's Modified Eagle's Medium, Invitrogen製)培地に懸濁したRAW264.7細胞を、7×104cellsになるように、コラーゲンタイプIで被覆されたカバーガラス(直径12mm、旭ガラス製)4枚の入った3.5センチ(直径)培養皿(Corning製)に播種した。その後、24時間5%CO2、37±1℃でインキュベーションした。ストレプトアビジン化ポリスチレンビーズ(直径2μm、Polyscience 製)にホスファチジルセリンを30%(v/v)含んだ人工脂質膜(30%(v/v)ホスファチジルセリン、60%(v/v)ホスファチジルコリン、10%(v/v)ビオチン化ホスファチジルエタノールアミン)を結合させた。そのビーズを0.0004%(重量比)になるようにFBSを含まないDMEMに懸濁し、その懸濁液の2mlを培養した上記RAW264.7細胞に加えた。さらに、細胞を1時間インキュベートした。インキュベーション後、細胞をリン酸緩衝化生理食塩水で洗い、細胞に付着もしくは取り込まれていないビーズを除いた。細胞に、付着したのみで取り込まれていないビーズを、ローダミンーアビジンで標識した。その後、蛍光及び微分干渉観察にて、取り込まれたビーズを計測した。ダイナソア処理をしていない細胞は、ビーズを取り込んだ。(図11a参照)。
【0048】
2)化合物II(ダイナソア)の有無によるRAW264.7細胞の食作用活性
上記1)と同様に、細胞数が7×104cells/3.5センチ(直径)培養皿となるようにRAW264.7細胞を、10%FBSを含むDMEM培地に懸濁し播種した。その後、24時間5%CO2、37±1℃でインキュベーションした。その後、ダイナソアを40μMになるように添加したFBSを含まないDMEMで、細胞の培養液を交換し、さらに30分間インキュベーションし、1)と同様に食作用活性を測定した。ダイナソア処理をする場合には、ビーズ懸濁液の中にもダイナソアを40μMになるように添加した。
【0049】
細胞に付着、もしくは細胞内にとりこまれたポリスチレンビーズを微分干渉顕微鏡で観察した(図11a左)。細胞に付着するのみで、細胞内に取り込まれていないビーズをアビジン−ローダミン(Avidin-Rhodamine:赤)で標識した(図11a中)。取り込まれたビーズを見やすくするために、左と真ん中の図を重ね合わせたものを図11a右に示した。その結果、ダイナソアで処理した細胞の食作用活性は、処理をしていない細胞のそれに比較して著しく低下したことが確認された(図11a参照)。
【0050】
3)結果
上記1)及び2)の結果より、RAW264.7細胞では、ポリスチレンビーズの取り込みが認められるところ、ダイナソアの添加により食作用活性の抑制が観察された。さらに、この条件下で、多数の細胞の食作用活性を測定し、細胞一つあたりのビーズの取り込み量を算出した結果を、図11bに示した。これらの結果から、ダイナソアの添加により食作用活性が抑制されることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上詳述したように、細胞が仮足形成を認める条件下であっても、本発明の化合物の存在下では、糸状仮足及び葉状仮足のいずれの仮足形成に対しても強い阻害効果を示すことが確認された。
細胞の遊走などの現象は、細胞の先端部で長いアクチン線維の突起様構造体である糸状仮足を生じて方向性を探った後に、波状のアクチン線維からなる葉状仮足という膜構造体が構築され、その葉状仮足の膜直下で形成されるアクチン線維が細胞膜を押して、細胞が動くことによる。このような作用に基づき、腫瘍細胞の浸潤などが生じるともいわれている。また、アルファ平滑筋アクチン(SMA)阻害剤は腫瘍細胞の転移を抑制することが報告されている。
【0052】
実際に腫瘍細胞の浸潤及び転移に対する効果を調べた結果、本発明の化合物は各々抑制効果を示した。この結果より、抗腫瘍効果を有する医薬組成物としての用途が期待される。さらに、本発明の仮足形成阻害剤は細胞の貪食機能を抑制することも考えられる。また、マクロファージの食作用機能を抑制することが確認されたことから、細胞性免疫反応などにおける免疫細胞の貪食能を抑制することによる免疫抑制効果を有する医薬組成物としての用途も期待され、抗炎症剤や抗アレルギー剤としての使用も期待される。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】ダイナミンの機能を説明する模式図である。ダイナミンは、細胞における物質の取り込み、すなわちエンドサイトーシスに作用する。
【図2】エンドサイトーシス機能タンパク質であるダイナミンの構造の模式図である。
【図3】血清の有無による葉状仮足形成効果を示す図である。(実施例1の1)
【図4】ダイナソア及び血清の有無による細胞の葉状仮足形成効果を示す図である。(実施例1の2)
【図5】各条件での葉状仮足形成率を測定した結果を示す図である。(実施例1)
【図6】血清の有無による糸状仮足形成効果を示す図である。(実施例2の1)
【図7】ダイナソア及び血清の有無による細胞の糸状仮足形成効果を示す図である。(実施例2の2)
【図8】浸潤抑制作用(in vitro)の試験結果を示す図である。(実施例3)
【図9】浸潤抑制作用(in vitro)の試験結果を示す図である。(実施例3)
【図10】癌細胞の転移抑制作用(in vivo)の試験結果を示す図である。(実施例4)
【図11a】マウス由来マクロファージ細胞株(RAW264.7)の食作用に対するダイナソアの効果(写真)(実施例5)
【図11b】マウス由来マクロファージ細胞株(RAW264.7)の食作用に対するダイナソアの効果(グラフ)(実施例5)
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規医薬組成物に関する。詳しくは、ダイナミン機能阻害作用を有する化合物の仮足形成阻害剤に関し、さらには当該化合物を有効成分として含む抗腫瘍剤又は免疫抑制剤などの新規医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アクチンは分子量約42,000の球状タンパク質であり、生理的条件下では重合してアクチン線維となり細胞骨格としての役割をはたす。試験管内においては、生成したアクチン線維は、非常に安定した状態であるが、細胞内でのアクチン線維は、重合、脱重合がダイナミックに制御され、常にその状態は変化している。例えば、運動している細胞の先端部の葉状仮足では、細胞膜の直下でアクチンの重合が起こる一方、細胞の中心に近い仮足の基部では、アクチンの脱重合が起こる。その結果、アクチン線維内のモノマーは常に入れ替わっている。
【0003】
細胞が方向性を持って動くとき、まず先端部で糸状仮足という細長い突起が生じ、方向性を探った後、葉状仮足という平板状の膜の伸展により細胞が駆動力を獲得する。細胞の後部ではストレスファイバーが発達し、後部を萎縮させることで、細胞は前方で伸び、後方で収縮して進む。糸状仮足、葉状仮足、ストレスファイバーは、いずれも細胞内のアクチン重合により形成される構造体である。細胞先端部での化学遊走因子のシグナルは、低分子量Gタンパク質に伝えられ、非常に速いアクチン線維の再構築を促す。細胞運動の推進力は、RhoファミリーGタンパク質によるアクチン線維の重合により発生する。RhoファミリーGタンパク質は、アクチン重合を調節することで、細胞の形や運動を制御している。主にCdc42、Rac及びRhoの3種よりなり、Cdc42が糸状仮足形成を、Racが葉状仮足形成を、及びRhoがストレスファイバー形成を制御する。
【0004】
アルファ平滑筋アクチン(SMA)活性を調節する薬剤の治療的使用について、報告がある(特許文献1)。本文献では、癌患者の腫瘍細胞転移の予防のために、SMA阻害剤を有効成分として含む医薬組成物の使用について開示がある。腫瘍細胞の転移を引き起こす原因のひとつとして、血管内及び血管外へ細胞が通過することが示されている。
【0005】
神経末端におけるシナプス小胞のエンドサイトーシスはシナプス伝達の維持に不可欠であるが、その分子メカニズムには不明な点が多く残されている。ダイナミン(Dynamin)ファミリーのアイソフォームは、脳に強く発現し、神経細胞の前シナプス部に局在し、シナプス小胞のエンドサイトーシスに機能する細胞内タンパク質である。ダイナミンは共重合し、エンドサイトーシス小胞を被覆するクラスリンとともに、クラスリン依存性のエンドサイトーシスの一端を担うことが知られている。このタンパク質群は、非神経細胞にも存在し、細胞膜受容体のエンドサイトーシスを介したリポタンパク質代謝や、糖輸送担体を介した糖代謝においても役割を担うと考えられる。
【0006】
ダイナミンの機能を阻害する物質について、報告がある(非特許文献1)。ここでは、いくつかの低分子候補化合物について、ダイナミンのGTPase活性抑制を確認することで、スクリーニングを行い、阻害物質であるダイナソア(Dynasore)を得たことが開示されている。本文献では、ダイナソアはダイナミンに依存するエンドサイトーシスの機能を抑制することが確認されている。また、その他の作用についても、ダイナミンに依存する作用が抑制されることが確認され、ダイナミン非依存的な機能には影響を及ぼさないことが報告されている。しかし、仮足形成の阻害作用についての報告はない。また、エンドサイトーシスが、腫瘍細胞の浸潤や遊走に果たす役割についても全く記載されていない。
【特許文献1】特開2004−167270号公報
【非特許文献1】Developmental Cell 10, 839-850 (2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、下記一般式Iで示されるダイナミン機能阻害作用を有する化合物の新規メカニズムを探索し、当該化合物を有効成分とする新規医薬組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、下記一般式Iで示される化合物について、メカニズムを検討した結果、新規メカニズムとして細胞の仮足形成を阻害することを見出し、本発明を完成した。さらに、仮足形成を伴う細胞現象である腫瘍細胞浸潤と食作用に対する前記化合物の作用を確認した。その結果、当該化合物は抗腫瘍効果を有することが確認された。また、マクロファージの食作用に対しては抑制効果が認められ、免疫抑制剤としての効果を有することも確認された。
以上の結果により、当該化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含む新規医薬組成物としての本発明を完成した。
【0009】
即ち本発明は、以下よりなる。
1.以下の一般式Iで示される化合物又はその薬学的に許容される塩からなる、細胞の仮足形成阻害剤:
式I;
【化1】
(式中、R1〜R3は、各々同一又は異なって水素、水酸基、直線若しくは分岐状の、非置換若しくは置換の、飽和若しくは不飽和の、アシル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基及びアリール基からなる群から選択される。)
2.一般式Iの化合物が、以下の式IIで示される化合物である前項2に記載の仮足形成阻害剤:
式II;
【化2】
3.以下の一般式Iで示される化合物又はその薬学的に許容される塩からなる、マクロファージの食作用阻害剤:
式I;
【化1】
(式中、R1〜R3は、各々同一又は異なって水素、水酸基、直線若しくは分岐状の、非置換若しくは置換の、飽和若しくは不飽和の、アシル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基及びアリール基からなる群から選択される。)
4.一般式Iの化合物が、以下の式IIで示される化合物である前項3に記載のマクロファージの食作用阻害剤:
式II;
【化2】
5.前項1〜4のいずれか1に記載の仮足形成阻害剤若しくはマクロファージの食作用阻害剤を有効成分として含む医薬組成物。
6.医薬組成物が、抗腫瘍剤である、前項5に記載の医薬組成物。
7.医薬組成物が、免疫抑制剤である、前項5に記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一般式Iで示される化合物は、in vitroの系において、腫瘍細胞の糸状仮足及び葉状仮足のいずれの仮足形成に対しても強い阻害効果を示し、さらにin vitro及びin vivoの系において、腫瘍細胞の正常組織への浸潤抑制効果が確認された。また、in vitroの系においてマクロファージの食作用を抑制する効果が認められた。
これにより、一般式Iで示される化合物は、仮足形成阻害剤又はマクロファージの食作用阻害剤として効果を発揮し、さらには一般式Iで示される化合物又はその薬学的に許容される塩を含む薬剤は、抗腫瘍剤や免疫抑制剤等の医薬組成物として利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において、仮足形成とは、糸状仮足及び葉状仮足のいずれの仮足形成であっても良い。また、本発明における抗腫瘍とは、腫瘍の形成、浸潤、転移等の腫瘍のあらゆる作用に対して阻害作用を有することをいう。
【0012】
本発明のダイナミン機能阻害作用を有する化合物は、以下の一般式Iで示される化合物又はその薬学的に許容される塩からなり、仮足形成阻害作用及びマクロファージの食作用阻害作用を有する。
式I:
【化1】
(式中、R1〜R3は、各々同一又は異なって水素、水酸基、直線若しくは分岐状の、非置換若しくは置換の、飽和若しくは不飽和の、アシル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基及びアリール基からなる群から選択される。)
【0013】
一般式Iにおいて、アルキル基、アルケニル基及びアルキニル基は、各々シクロアルキル基、シクロアルケニル基及びシクロアルキニル基であっても良い。ここで用いられるシクロアルキルは、飽和環式炭素鎖を意味し、シクロアルケニル及びシクロアルキニルは、それぞれ、少なくとも1つの二重又は三重結合を含む環式炭素鎖を意味する。シクロアルキル基、シクロアルケニル基、シクロアルキニル基及びアリール基は単環、多環又は縮合環式であっても良い。
【0014】
具体的には、R1〜R3は、各々同一又は異なって、水素原子又は水酸基であることが好ましく、水酸基であることが特に好適である。
【0015】
本発明の細胞の仮足形成阻害剤は、一般式Iで示される化合物であり、例えば以下の式IIで示される化合物や、さらにその薬剤上許容される塩及び溶媒和物から選択されるいずれかであってもよい。
【0016】
上記から選択される化合物として、以下の式IIに示される化合物が特に好適である。本発明において、式I及びIIで示される化合物には、異性体(エピマー)が存在する。これらいずれかの異性体及びその任意の混合物はすべて本発明に属するものとする。
式II:
【化2】
【0017】
本発明において、薬学上許容される塩とは、以下が挙げられる。
塩基性付加塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;例えばカルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;例えばアンモニウム塩;例えばトリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩;ジシクロヘキシルアミン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、ブロカイン塩等の脂肪族アミン塩;たとえばN,N−ジベンジルエチレンジアミン等のアラルキルアミン塩;例えばピリジン塩、ピコリン塩、キノリン塩、イソキノリン塩等の複素環芳香族アミン塩;例えばテトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリエチルアンモニウム塩、ベンジルトリブチルアンモニウム塩、メチルトリオクチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩;アルギニン塩;リジン塩等の塩基性アミノ酸塩等が挙げられる。
【0018】
酸付加塩としては、例えば塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、りん酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、過塩素酸塩等の無機酸塩;例えば酢酸塩、プロピオン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、フマール酸塩、酒石酸塩、りんご酸塩、くえん酸塩、アスコルビン酸塩等の有機酸塩;例えばメタンスルホン酸塩、イセチオン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩等のスルホン酸塩;例えばアスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等の酸性アミノ酸等を挙げることができる。
【0019】
本発明において、式IIで示される化合物は、具体的には非特許文献1に記載のダイナソア(Dynasore)と同等の構造式からなる化合物である。ダイナソアは、非特許文献1において、細胞のエンドサイトーシスに機能するタンパク質であるダイナミン(Dynamin)(図1、2参照)の阻害剤として報告されたものである。ダイナソアは、ダイナミンのGTPase活性を可逆的に阻害することで、ダイナミンの機能を抑制することが報告されている。
【0020】
本発明における仮足形成阻害効果は、通常一般的に行われる仮足形成の試験により確認することができる。例えば、血清刺激により葉状仮足形成を生じやすい細胞であるU20S(ヒト骨肉種由来)や糸状仮足形成を生じやすいA549細胞(ヒト由来非小細胞肺癌細胞)を用いて確認することができる。
【0021】
上記一般式Iで示される本発明の化合物は、上記方法にて葉状仮足形成及び糸状仮足形成の両仮足形成に対しても阻害作用を有することが確認される。背景技術の欄でも言及したが、特許文献1ではアルファ平滑筋アクチン(SMA)活性を調節する薬剤の治療的使用について報告されており、腫瘍患者の腫瘍細胞転移の予防のために、SMA阻害剤を有効成分として含む医薬組成物の使用について開示がある。腫瘍細胞の転移を引き起こす原因のひとつとして、血管内及び血管外へ細胞が通過することが示されている。
【0022】
そこで、上記一般式Iで示される本発明の化合物についても、in vitro及びin vivoの系において、腫瘍細胞に対する効果を確認することができる。例えばin vitroの系では、細胞走化性を確認することにより、腫瘍細胞の浸潤に対する効果を確認することができる。またin vivoの系では、特定の部位に腫瘍細胞を注入した担癌動物を作製し、注入した部位とは異なる部位での腫瘍細胞の有無を確認すること等により、腫瘍細胞の転移に対する効果を確認することができる。
【0023】
特に、生体内で腫瘍細胞が仮足形成することにより、腫瘍細胞が正常組織に浸潤し、さらに腫瘍細胞の転移などに至る場合がある。上記一般式Iで示される化合物の作用により、腫瘍細胞の浸潤及び/又は転移を予防し、進行を軽減化させることができ、抗腫瘍剤として使用することができる。本発明では、in vitroの系では培養液に対して上記化合物40μMの濃度で明らかな細胞浸潤抑制効果が認められていることから、それよりも低い濃度での効果を確認することにより、上記化合物の投与量を適宜決定することができる。また、in vivoの系でも、径が約2〜3mmの腫瘍に対して、上記化合物を0.5mg/50μlで転移抑制効果が認められていることから、それよりも低い濃度での効果を確認することにより、投与量を適宜決定することができる。
【0024】
さらには、上記化合物はマクロファージの食作用を阻害する作用も有する。免疫反応に関し、抗原物質がマクロファージや単球などの貪食細胞と反応することで、細胞性免疫能を発揮し、場合によっては炎症やアレルギー症状に至る場合がある。これらの貪食細胞は貪食過程に仮足形成を伴うため、上記一般式Iで示される化合物の作用により、貪食細胞の仮足形成を阻害し、好ましくない免疫反応を軽減化させることができる。本発明の化合物は、免疫抑制剤として使用することができる。
【0025】
以上により、本発明は、上記一般式Iで示される化合物又はその薬学的に許容される塩を有効量含む医薬組成物にも及ぶ。本発明の医薬組成物は、例えば抗腫瘍剤や免疫抑制剤として使用することができる。
【0026】
本発明の医薬組成物は、上述の如く上記一般式Iで示される化合物又はその薬学的に許容される塩からなる仮足形成阻害剤若しくはマクロファージの食作用阻害剤を有効量含み、さらに薬学的に許容し得る担体を含んでいても良い。かかる医薬組成物は、経口的又は非経口的に投与することができる。経口投与による場合、本発明の仮足形成阻害剤は通常の製剤、例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤等の固形剤;水剤;油性懸濁剤;又はシロップ剤もしくはエリキシル剤等の液剤のいずれかの剤型としても用いることができる。非経口投与による場合、本発明の化合物は、水性又は油性懸濁注射剤、点鼻液として用いることができる。その調製に際しては、慣用の賦形剤、結合剤、滑沢剤、水性溶剤、油性溶剤、乳化剤、懸濁化剤、保存剤、安定剤等を任意に用いることができる。
【実施例】
【0027】
以下に、化合物II(ダイナソア)の作用を実施例により示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0028】
(実施例1)葉状仮足形成試験
1)血清の有無によるU20S(ヒト骨肉種由来)細胞の葉状仮足形成作用
細胞数が3×104cells/mlとなるように、U20S(ヒト骨肉種由来)細胞を、10%v/v仔牛血清(FBS)を含むDMEM(Dulbecco's Modified Eagle's Medium, Invitrogen製)培地に懸濁した。細胞懸濁液0.5mlを、径1.6cmのマイクロ培養皿に播種し、5%CO2、37±1℃でインキュベーションした。翌日FBSを含まないDMEMで12時間インキュベーションした。インキュベーション後、細胞をファロイジンで蛍光染色し、顕微鏡下で細胞の形態を観察した。FBSを含まない培地で培養した細胞は、葉状仮足形成を認めなかった(図3a参照)。
【0029】
上記インキュベーション後の細胞培養液に、FBSを10%v/v添加して、さらに40分間インキュベーションし、上記と同様に細胞の形態を観察した。その結果、FBS添加後の培地では、細胞の一部分に葉状仮足形成を認めた(図3b参照)。
【0030】
2)化合物II(ダイナソア)の有無によるU20S細胞の葉状仮足形成作用
上記1)と同様に、細胞数が3×104cells/mlとなるようにU20S細胞を、10%FBSを含むDMEM培地に懸濁した。細胞懸濁液0.5mlを、直径1.6cmのマイクロ培養皿に播種し、5%CO2、37±1℃でインキュベーションした。翌日FBSを含まないDMEMで12時間インキュベーションした。
【0031】
その後の細胞培養液に、ダイナソアを240μMになるように添加し、さらに30分間インキュベーションし、1)と同様に細胞の形態を観察した。その結果、FBS(−)、ダイナソア(+)の培地では、葉状仮足形成を認めなかった(図4a参照)。
【0032】
次に、FBSを10%v/v添加して、さらに40分間インキュベーションし、1)と同様に細胞の形態を観察した。その結果、ダイナソア(+)の培地では、FBS(+)の場合でも葉状仮足形成を認めなかった(図4b参照)。
【0033】
上記FBS及びダイナソアを含む培地で細胞を培養後、FBS10%v/vを含み、ダイナソアを含まない培地で細胞を洗浄してダイナソアを除去した後、FBS(+)、ダイナソア(−)の培地中で40分間インキュベーションし、実施例1と同様に細胞の形態を観察した。その結果、FBS(+)、ダイナソア(−)の培地では、葉状仮足形成を認めた(図4c参照)。
【0034】
3)結果
上記1)及び2)の結果より、U20S細胞では、FBSの添加により葉状仮足形成が認められるところ、ダイナソアの添加により葉状仮足形成が抑制されることが観察された。また、ダイナソアを除去した場合には、細胞の葉状仮足形成が確認された。さらに、各条件下で、細胞全体に対する葉状仮足を形成した細胞の割合を計算し、葉状仮足形成率を算出した結果を、図5に示した。これらの結果から、ダイナソアの添加により葉状仮足形成が抑制されることが確認された。
【0035】
(実施例2)糸状仮足形成試験
1)血清の有無によるA549細胞(ヒト由来非小細胞肺癌細胞)の糸状仮足形成作用
糸状仮足形成試験として、血清刺激で糸状仮足を形成しやすいA549細胞(ヒト由来非小細胞肺癌細胞)を用いた他は、実施例1の1)と同手法にて実験を行い、観察した。FBSを含まない培地で培養した細胞は、糸状仮足形成を認めなかった(図6b参照)。
【0036】
上記インキュベーション後の細胞培養液に、FBSを10%v/v添加して、さらに45分間インキュベーションし、上記と同様に細胞の形態を観察した。その結果、FBS添加後の培地では、細胞の一部分に糸状仮足形成を認めた(図6c参照)。
【0037】
2)化合物II(ダイナソア)の有無によるA549細胞の糸状仮足形成作用
糸状仮足形成試験として、血清刺激で糸状仮足を形成しやすいA549細胞(ヒト由来非小細胞肺癌細胞)を用いた他は、実施例1の2)と同手法にて実験を行った。
【0038】
ダイナソアを240μMになるように添加して、さらに30分間インキュベーションし、同様に細胞の形態を観察した。その結果、FBS(−)、ダイナソア(+)の培地では、糸状仮足形成を認めなかった(図7a参照)。
【0039】
次に、FBSを10%v/v添加して、さらに45分間インキュベーションし、比較例1と同様に細胞の形態を観察した。その結果、ダイナソア(+)の培地では、FBS(+)の場合でも糸状仮足形成を認めなかった(図7b参照)。
【0040】
上記FBS及びダイナソアを含む培地で細胞を培養後、FBS10%v/vを含み、ダイナソアを含まない培地で細胞を洗浄してダイナソアを除去した後、FBS(+)、ダイナソア(−)の培地中で45分間インキュベーションし、実施例1と同様に細胞の形態を観察した。その結果、FBS(+)、ダイナソア(−)の培地では、糸状仮足形成を認めた(図7c参照)。
【0041】
3)結果
上記1)及び2)の結果より、A549細胞では、FBSの添加により糸状仮足形成が認められるところ、ダイナソアの添加により糸状仮足形成が抑制されることが観察された。また、ダイナソアを除去した場合には、細胞の糸状仮足形成が確認された。
【0042】
(実施例3)癌細胞に対する浸潤抑制作用(in vitro)
培養チャンバー(BD Bio CoatTMマトリゲルTMインベージョンチャンバー24ウェル:ベクトン・ディッキンソン製)を用いて、癌細胞の浸潤作用を調べた。
【0043】
1)RM−9細胞(マウス前立腺癌細胞株)を、培養チャンバー上部に播種(2.5×104cells/well)し、ダイナソアを40μM又は80μMになるように添加した。ダイナソアを加えない系を対照群とした。チャンバー下部にFBS10%v/vを含む培養液(DMEM)を加え、チャンバー上部の癌細胞のチャンバー下部への浸潤を誘引した。
22時間後、チャンバー下部に浸潤した細胞を固定、染色し、顕微鏡観察により浸潤細胞数を測定した。
【0044】
2)結果
上記の結果を、図8及び図9に示した。これにより、対照群に比べてダイナソアを40μM濃度含む場合は、浸潤細胞数は極端に低下しており、ダイナソアが癌細胞の浸潤を抑制することが確認された。
【0045】
(実施例4)癌細胞の転移抑制作用(in vivo)
C57/BL6マウスを用いて、癌細胞の転移作用を調べた。
【0046】
1)同所性前立腺癌モデルマウスの作製
C57/BL6マウスをペントバルビタールで麻酔し、マウス前立腺後葉左側にRM−9細胞(マウス前立腺癌細胞株)を5000個局所注入し、同所性前立腺癌を作製した。
2)ダイナソアの投与
7日後(癌直径、約2〜3mm)、前立腺癌内にダイナソアを0.5mg/50μl(DMSO 1μl+PBS 49μl)を可能な限り癌塊内に広く行き渡るように局所注入した(7匹)。 対照群には、ビークル50μl(DMSO 1μl+PBS 49μl)を投与した(5匹)。
3)癌細胞のリンパ節への転移の解析
ダイナソア又はビークル投与後10日目にマウスを屠殺し、前立腺癌の重量及び腫大した後腹膜・骨盤内リンパ節の数を測定した。
4)上記の結果を図10(A,B)に示した。これにより、ダイナソアは、対照群に比べて、癌細胞のリンパ節への転移を抑制することが確認された。
【0047】
(実施例5)食作用活性試験
1)RAW264.7(マウスマクロファージ由来)細胞の食作用活性の測定
RAW264.7細胞は、細胞表面にホスファチジルセリン受容体を持っており、この受容体を活性化すると食作用が惹起されることが報告されている。この性質を利用して、RAW264.7細胞におけるホスファチジルセリン添加による刺激依存性の食作用活性を以下に示すように測定した。10%v/v仔牛血清(FBS,Invitrogen製)を含むDMEM(Dulbecco's Modified Eagle's Medium, Invitrogen製)培地に懸濁したRAW264.7細胞を、7×104cellsになるように、コラーゲンタイプIで被覆されたカバーガラス(直径12mm、旭ガラス製)4枚の入った3.5センチ(直径)培養皿(Corning製)に播種した。その後、24時間5%CO2、37±1℃でインキュベーションした。ストレプトアビジン化ポリスチレンビーズ(直径2μm、Polyscience 製)にホスファチジルセリンを30%(v/v)含んだ人工脂質膜(30%(v/v)ホスファチジルセリン、60%(v/v)ホスファチジルコリン、10%(v/v)ビオチン化ホスファチジルエタノールアミン)を結合させた。そのビーズを0.0004%(重量比)になるようにFBSを含まないDMEMに懸濁し、その懸濁液の2mlを培養した上記RAW264.7細胞に加えた。さらに、細胞を1時間インキュベートした。インキュベーション後、細胞をリン酸緩衝化生理食塩水で洗い、細胞に付着もしくは取り込まれていないビーズを除いた。細胞に、付着したのみで取り込まれていないビーズを、ローダミンーアビジンで標識した。その後、蛍光及び微分干渉観察にて、取り込まれたビーズを計測した。ダイナソア処理をしていない細胞は、ビーズを取り込んだ。(図11a参照)。
【0048】
2)化合物II(ダイナソア)の有無によるRAW264.7細胞の食作用活性
上記1)と同様に、細胞数が7×104cells/3.5センチ(直径)培養皿となるようにRAW264.7細胞を、10%FBSを含むDMEM培地に懸濁し播種した。その後、24時間5%CO2、37±1℃でインキュベーションした。その後、ダイナソアを40μMになるように添加したFBSを含まないDMEMで、細胞の培養液を交換し、さらに30分間インキュベーションし、1)と同様に食作用活性を測定した。ダイナソア処理をする場合には、ビーズ懸濁液の中にもダイナソアを40μMになるように添加した。
【0049】
細胞に付着、もしくは細胞内にとりこまれたポリスチレンビーズを微分干渉顕微鏡で観察した(図11a左)。細胞に付着するのみで、細胞内に取り込まれていないビーズをアビジン−ローダミン(Avidin-Rhodamine:赤)で標識した(図11a中)。取り込まれたビーズを見やすくするために、左と真ん中の図を重ね合わせたものを図11a右に示した。その結果、ダイナソアで処理した細胞の食作用活性は、処理をしていない細胞のそれに比較して著しく低下したことが確認された(図11a参照)。
【0050】
3)結果
上記1)及び2)の結果より、RAW264.7細胞では、ポリスチレンビーズの取り込みが認められるところ、ダイナソアの添加により食作用活性の抑制が観察された。さらに、この条件下で、多数の細胞の食作用活性を測定し、細胞一つあたりのビーズの取り込み量を算出した結果を、図11bに示した。これらの結果から、ダイナソアの添加により食作用活性が抑制されることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上詳述したように、細胞が仮足形成を認める条件下であっても、本発明の化合物の存在下では、糸状仮足及び葉状仮足のいずれの仮足形成に対しても強い阻害効果を示すことが確認された。
細胞の遊走などの現象は、細胞の先端部で長いアクチン線維の突起様構造体である糸状仮足を生じて方向性を探った後に、波状のアクチン線維からなる葉状仮足という膜構造体が構築され、その葉状仮足の膜直下で形成されるアクチン線維が細胞膜を押して、細胞が動くことによる。このような作用に基づき、腫瘍細胞の浸潤などが生じるともいわれている。また、アルファ平滑筋アクチン(SMA)阻害剤は腫瘍細胞の転移を抑制することが報告されている。
【0052】
実際に腫瘍細胞の浸潤及び転移に対する効果を調べた結果、本発明の化合物は各々抑制効果を示した。この結果より、抗腫瘍効果を有する医薬組成物としての用途が期待される。さらに、本発明の仮足形成阻害剤は細胞の貪食機能を抑制することも考えられる。また、マクロファージの食作用機能を抑制することが確認されたことから、細胞性免疫反応などにおける免疫細胞の貪食能を抑制することによる免疫抑制効果を有する医薬組成物としての用途も期待され、抗炎症剤や抗アレルギー剤としての使用も期待される。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】ダイナミンの機能を説明する模式図である。ダイナミンは、細胞における物質の取り込み、すなわちエンドサイトーシスに作用する。
【図2】エンドサイトーシス機能タンパク質であるダイナミンの構造の模式図である。
【図3】血清の有無による葉状仮足形成効果を示す図である。(実施例1の1)
【図4】ダイナソア及び血清の有無による細胞の葉状仮足形成効果を示す図である。(実施例1の2)
【図5】各条件での葉状仮足形成率を測定した結果を示す図である。(実施例1)
【図6】血清の有無による糸状仮足形成効果を示す図である。(実施例2の1)
【図7】ダイナソア及び血清の有無による細胞の糸状仮足形成効果を示す図である。(実施例2の2)
【図8】浸潤抑制作用(in vitro)の試験結果を示す図である。(実施例3)
【図9】浸潤抑制作用(in vitro)の試験結果を示す図である。(実施例3)
【図10】癌細胞の転移抑制作用(in vivo)の試験結果を示す図である。(実施例4)
【図11a】マウス由来マクロファージ細胞株(RAW264.7)の食作用に対するダイナソアの効果(写真)(実施例5)
【図11b】マウス由来マクロファージ細胞株(RAW264.7)の食作用に対するダイナソアの効果(グラフ)(実施例5)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式Iで示される化合物又はその薬学的に許容される塩からなる、細胞の仮足形成阻害剤:
式I;
【化1】
(式中、R1〜R3は、各々同一又は異なって水素、水酸基、直線若しくは分岐状の、非置換若しくは置換の、飽和若しくは不飽和の、アシル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基及びアリール基からなる群から選択される。)
【請求項2】
一般式Iの化合物が、以下の式IIで示される化合物である請求項2に記載の仮足形成阻害剤:
式II;
【化2】
【請求項3】
以下の一般式Iで示される化合物又はその薬学的に許容される塩からなる、マクロファージの食作用阻害剤:
式I;
【化1】
(式中、R1〜R3は、各々同一又は異なって水素、水酸基、直線若しくは分岐状の、非置換若しくは置換の、飽和若しくは不飽和の、アシル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基及びアリール基からなる群から選択される。)
【請求項4】
一般式Iの化合物が、以下の式IIで示される化合物である請求項3に記載のマクロファージの食作用阻害剤:
式II;
【化2】
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1に記載の仮足形成阻害剤若しくはマクロファージの食作用阻害剤を有効成分として含む医薬組成物。
【請求項6】
医薬組成物が、抗腫瘍剤である、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
医薬組成物が、免疫抑制剤である、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項1】
以下の一般式Iで示される化合物又はその薬学的に許容される塩からなる、細胞の仮足形成阻害剤:
式I;
【化1】
(式中、R1〜R3は、各々同一又は異なって水素、水酸基、直線若しくは分岐状の、非置換若しくは置換の、飽和若しくは不飽和の、アシル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基及びアリール基からなる群から選択される。)
【請求項2】
一般式Iの化合物が、以下の式IIで示される化合物である請求項2に記載の仮足形成阻害剤:
式II;
【化2】
【請求項3】
以下の一般式Iで示される化合物又はその薬学的に許容される塩からなる、マクロファージの食作用阻害剤:
式I;
【化1】
(式中、R1〜R3は、各々同一又は異なって水素、水酸基、直線若しくは分岐状の、非置換若しくは置換の、飽和若しくは不飽和の、アシル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基及びアリール基からなる群から選択される。)
【請求項4】
一般式Iの化合物が、以下の式IIで示される化合物である請求項3に記載のマクロファージの食作用阻害剤:
式II;
【化2】
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1に記載の仮足形成阻害剤若しくはマクロファージの食作用阻害剤を有効成分として含む医薬組成物。
【請求項6】
医薬組成物が、抗腫瘍剤である、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
医薬組成物が、免疫抑制剤である、請求項5に記載の医薬組成物。
【図5】
【図9】
【図10】
【図11b】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11a】
【図9】
【図10】
【図11b】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11a】
【公開番号】特開2009−57364(P2009−57364A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−114729(P2008−114729)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】
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