説明

医薬組成物

生分解性ポリマーと、分子量が600ダルトン未満のポリエチレングリコールと、薬学的に活性な物質と、0.5%未満の生物学的に許容される有機溶媒とを含む液体医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬組成物、具体的には薬学的に活性な物質を含む注射可能なインシチュ形成型デポー製剤(injectable in situ forming depot formulation)、並びに、当該デポー製剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インシチュ形成型デポー剤は、特定のクラスのポリマーデリバリーシステムのことであり、適用後に相分離によってポリマーが固化するため、繊細な分子の場合にも直接的な製造が可能であり、適用が容易であるという利点を有する。頻繁に使われるポリ(D,Lラクチド−co−グリコリド)(PLGA)のような生分解性ポリマーを用いた場合には、デポー剤は時間をかけて分解する。現在、Atridox(登録商標)およびEligard(登録商標)の二種類の注射可能なインシチュ形成型デポー剤が市販されている。両製品とも、Dunnら(非特許文献1)によってAtrigel´s technologyで開発されたものであり、1−メチル−2−ピロリジノン(NMP)に溶解したPLGAと、水混和性溶媒と、原薬粉末(適用前に溶液に懸濁させる)とを含むものである。
【0003】
注射可能なインシチュ形成型デポー剤は魅力的である一方、同時に挑戦的な適用システムでもある。化学的相溶性、局所忍容性および急性毒性以外に、注射可能なインシチュ形成型デポー剤にとって重要なファクターは、液体としての保存安定性である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】H. B. Ravivarapu, K. L. Moyer, R. L. Dunn, International Journal of Pharmaceutics, 194 (2000) 181-191
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、今回、忍容性(tolerability)および急性毒性並びに保存安定性に関する特性が向上したインシチュ形成型デポー医薬製剤を提供する。当該医薬製剤は利用が簡便であり、そのまま使用できる注射可能なデポー製剤に特に適している。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、一態様において、
(1) 疎水性または親水性の薬学的に活性な物質、
(2) 生分解性ポリマー、
(3) 8〜20℃の温度に凝固点を有する生体適合性の水混和性溶媒、好ましくは、分子量が450<Mw<650Daであり、化学的に不活性な末端基(好ましくはアルコキシ末端基、より好ましくはエトキシおよびメトキシ末端基)を有するポリ(エチレン)グリコール、および必要に応じて
(4) 添加剤
を含むインシチュ形成型デポー医薬製剤を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、SOM230を5%(原薬基準)ロードした懸濁液の48日間にわたるインビトロ放出を示す。
【図2】図2は、SOM230を3.5%(原薬基準)ロードした懸濁液の48日間にわたるインビトロ放出プロファイルを示す。
【図3】図3は、1mlシリンジと23G針を用いて注入した4種類の製剤からのメチレンブルーの放出を示す。図中、PEG500DMEに溶解した20%PLGA50:50の溶液は、49日間の観察期間にわたってバーストが非常に小さく、かつ、一定の徐放を示している。
【図4】図4は、SOM230を5%(原薬基準)ロードした懸濁液の48日間にわたるウサギでのインビボ放出を示す。
【図5】図5は、SOM230を3.5%(原薬基準)ロードした懸濁液の48日間にわたるウサギでのインビボ放出プロファイルを示す。
【図6】実施例7参照。
【図7】実施例7参照。
【図8】実施例8参照。
【発明を実施するための形態】
【0008】
生体適合性の水混和性溶媒は、凝固点が8〜20℃、好ましくは10〜16℃であるPEGの中から選択するのが好ましく、それにより低温でも安定な固体製剤が得られ、原薬粒子の沈降が回避される。一実施態様では、凝固点が<15℃である。溶媒として使用するPEGは不活性な末端基を有しており、同一分子量のエンドキャップされていないPEGと比較して安定性が向上し、粘度も低くなっている。好ましい実施態様では、ポリエチレングリコールモノおよびジアルキルエーテル、例えば、ジメチルエーテルまたはジエチルエーテルPEGを使用する。別の好ましい実施態様では、エンドキャップされたPEGの分子量が500〜600Daであり、より好ましい実施態様ではMwが450、500、550または650Daである。特に好ましい実施態様では、ポリエチレングリコール500ジメチルエーテル(PEG500DMEまたはPEG DME 500またはPEG 500 DMEとしても公知であり、例えばClariant Glymesから市販されており、融解温度が約13℃である)からPEGを選択する。用語「凝固点」および「融点」は本明細書中では同義である。融解/凝固温度の決定は当業者の技術の範囲内であり、例えばDSCを用いて行うことができる。本発明のPEGは溶血や毒性の可能性が低いものである。
【0009】
本発明の医薬組成物は、2〜8℃の保存温度(典型的な冷蔵庫温度)では固体状態であり、室温では液体であって沈降していないか、実質的に沈降していない状態である。本発明の医薬組成物(原薬を除く)は、室温まで平衡化した際に容易に注射できる(例えば、皮下または筋肉内に注射可能な)粘度を有する。ポリマー溶液(原薬を除く医薬組成物)の動的粘度は、好ましくは300〜800mPasである。本発明の医薬組成物は適用前に再懸濁工程を必要としないため、そのまま使用できるデバイスに特に有用である。
【0010】
薬学的に活性な物質は、上述したような修飾末端基を有する液体ポリエチレングリコール(PEG)(例えば、ポリエチレングリコールモノ(USP31NF26)およびジアルキルエーテル)に、例えば室温(例えば25℃)にて、例えば本溶媒中の溶解度に応じて共溶媒を用いてまたは共溶媒を用いずに、溶解または分散させることができる。好ましい実施態様では、有機溶媒等の共溶媒を使用しない。
【0011】
薬学的に活性な物質(本明細書中、同義的に原薬ともいう)は、親水性または疎水性の小型有機分子、ペプチドまたはタンパク質であってよい。薬学的に活性な物質は、遊離塩基、遊離酸または塩の形態であってよい。
【0012】
薬学的に活性な物質の例としては、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、炭水化物、オリゴヌクレオチド、RNAおよびDNAが挙げられるが、これらに限定されない。ペプチドの例をいくつか挙げると、抗体、成長ホルモン、例えば上皮成長因子(EGF)、プロラクチン、ルリベリンまたは黄体形成ホルモン放出ホルモン(luteinizing hormone releasing hormone)(LH−RH)、グルカゴン、ガストリン、ペンタガストリン、ウロガストロン、セクレチン、エンケファリン、エンドルフィン、アンジオテンシン、レニン、ブラジキニン、バシトラシン、ポリミキシン、コリスチン、チロシジン、グラミシジン、インスリン、インターフェロン、エリスロポイエチン、カルシトニン、ヘパリン、ソマトスタチン類似体、例えばソマトスタチンパモエートもしくはジアスパルテート、細胞刺激因子、副甲状腺ホルモンなどである。他の例としては、ビスホスホネート、例えばパミドロン酸、アレンドロン酸、イバンドロン酸、リセドロン酸、ゾレドロン酸、GnRHアゴニストおよび類似体、例えばロイプロリドアセテート、トリプトレリンアセテートもしくはパモエート、ブセレリン、ヒストレリンアセテート、または、ホルモン避妊薬、例えばエトノゲストレル、レボノルゲストレルが挙げられる。さらには、ミノサイクリン、リスペリドン、ナルトレキソン、カルムスチンが挙げられる。
【0013】
好適な活性物質はソマトスタチン類似体であってよい。ソマトスタチンは以下の構造を有するテトラデカペプチドである。
【0014】
【化1】

【0015】
特に興味深いソマトスタチン類似体としては、オクトレオチド(例えばUS4,395,403に記載のもの)、ランレオチドまたはパシレオチドが挙げられる。特に興味深いソマトスタチン類似体は、例えばWO97/01579やWO02/010192にも記載されている。当該ソマトスタチン類似体は、式Iのアミノ酸配列を含むものである。
【0016】
【化2】

【0017】
式中、Xは式(a)または(b)の基であり、
【0018】
【化3】

【0019】
式中、Rは置換されていても良いフェニルであって、当該置換基はハロゲン、メチル、エチル、メトキシまたはエトキシであってよく、
は−Z−CH−R、−CH−CO−O−CH−R
【0020】
【化4】

【0021】
(式中、ZはOまたはSである)であり、
はCα側鎖上に芳香族残基を有するα−アミノ酸であるか、または、Dab、Dpr、Dpm、His、(Bzl)HyPro、チエニル−Ala、シクロヘキシル−Alaおよびt−ブチル−Alaから選択されるアミノ酸単位であり、当該配列の残基Lysが天然のソマトスタチン−14の残基Lysに相当する。
【0022】
本明細書中でいうソマトスタチン類似体とは、天然由来のソマトスタチン−14に由来する直鎖状または環状ペプチドであって、式Iの配列を含み、さらに一つ以上のアミノ酸単位が削除および/または一つ以上の他のアミノ酸基で置換されているか、および/または、一つ以上の官能基が一つ以上の他の官能基で置換されているか、および/または、一つ以上の基が一つまたは複数の他のイソステリックな基(isosteric groups)で置換されているものを意味する。一般に当該用語には、上記式Iの配列を含む、天然のソマトスタチン−14の全ての修飾誘導体が含まれ、当該誘導体は少なくとも一つのソマトスタチン受容体サブタイプに対してnM範囲の結合親和性を有する(後述)。
【0023】
好ましくは、ソマトスタチン類似体は、ソマトスタチン−14の8〜11位の残基が上記で定義したような式Iの配列で表される化合物である。
【0024】
特に好ましいのは、式III
【0025】
【化5】

【0026】
[式中、C−2の配置が(R)もしくは(S)であるか、または、これらの混合体であり、RはNR1011−C2−6アルキレンまたはグアニジン−C2−6アルキレンであり、R10およびR11は各々独立してHまたはC1−4アルキルである]の化合物であり、遊離体、塩または保護体のいずれの形態であってよい。
【0027】
好ましくは、RはNR1011−C2−6アルキレンである。式IIの好適な化合物は、Rが2−アミノ−エチルである化合物、即ち、シクロ[{4−(NH−C−NH−CO−O−)Pro}−Phg−DTrp−Lys−Tyr(4−Bzl)−Phe](本明細書中、化合物Aという)およびシクロ[{4−(NH−C−NH−CO−O−)Pro}−DPhg−DTrp−Lys−Tyr(4−Bzl)−Phe]であり、遊離体、塩または保護体のいずれの形態であってよい。Phgは−HN−CH(C)−CO−を意味し、Bzlはベンジルを意味する。
【0028】
本発明の化合物は、例えば、遊離または塩の形態であってよい。塩としては、無機酸、高分子酸または有機酸などとの酸付加塩、例えば、塩酸、酢酸、乳酸、アスパラギン酸、安息香酸、コハク酸またはパモン酸との酸付加塩が挙げられる。酸付加塩は、例えば1または2酸当量のいずれを添加するかに応じて、一価または二価の塩となる。好適な塩はラクテート、アスパルテート、ベンゾエート、スクシネートおよびパモエートであり、一塩および二塩、より好ましくはアスパルテート二塩およびパモエート一塩が挙げられる。
【0029】
本発明の組成物のポリマーは、合成または天然のポリマーであってよい。当該ポリマーは生分解性であってよく、また、生分解性ポリマーと非生分解性ポリマーの組み合わせであってもよく、好ましくは生分解性ポリマーを使用することができる。「ポリマー」とは、ホモポリマーまたはコポリマーを意味する。
【0030】
本明細書中、「生分解性」とは、体内プロセスによって容易に処分可能な(disposable)産物へと分解され、かつ、体内に蓄積しない材料を意味する。
【0031】
適切なポリマーとしては以下のものが挙げられる:
(a) ポリオール部分(例えばグルコース)から放射状に伸びる直鎖である、直鎖状もしくは分岐状ポリエステル、
(b) ポリエステル、例えば、D−、L−またはラセミポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、ポリアルキレンオキサレート、クレブズ回路(例えばクエン酸回路)の酸のポリアルキレングリコールエステル等や、これらの組み合わせ、
(c) 有機エーテル、無水物、アミドおよびオルトエステルのポリマー、
(d) 有機エステル、エーテル、無水物、アミドおよびオルトエステルのコポリマーであって、これらの間のコポリマー、または、これらと他のモノマーとのコポリマー。
【0032】
当該ポリマーは架橋されていても、架橋されていなくてもよい。通常5%以下、典型的には1%未満が架橋されている。
【0033】
本発明の好適なポリマーは、直鎖状ポリエステルおよび分岐鎖ポリエステルである。直鎖状ポリエステルは、α−ヒドロキシカルボン酸(例えば、乳酸やグリコール酸)から調製可能であるか、ラクトンダイマーの縮合によって調製可能である(例えばUS3,773,919を参照、その内容は引用により本明細書に含まれるものとする)。直鎖状もしくは分岐状(星形)ポリマーにおける好適なポリエステル鎖は、α−カルボン酸部分(即ち、乳酸やグリコール酸)のコポリマー、または、ラクトンダイマーのコポリマーである。本発明に好ましく使用されるポリラクチド−co−グリコリドのラクチド:グリコリドのモル比は、好ましくは約95:5〜5:95、例えば75:25〜25:75、例えば60:40〜40:60であり、55:45〜45:55、例えば52:48〜48:52、例えば50:50である。
【0034】
本発明に好ましく使用される直鎖状ポリエステル、例えば、直鎖状ポリラクチド−co−グリコリド(PLG)は、重量平均分子量(Mw)が約1,000〜約50,000Da、例えば約10,000Daであり、多分散度(M/M)が例えば1.2〜2である。Mwが1000〜50,000である直鎖状ポリマーの固有粘度は、クロロホルム(25℃)中0.1%濃度で0.05〜0.6dl/gである。適当な例としては、例えば、一般に知られているものや、Resomers(登録商標)としてべーリンガー・インゲルハイムから市販されているもの、特にResomers(登録商標)RG、例えばResomer(登録商標)RG502、502H、503、503Hが挙げられる。
【0035】
本発明に好ましく使用される分岐状ポリエステル、例えば、分岐状ポリラクチド−co−グリコリドは、ポリヒドロキシ化合物、例えばポリオール(例えば、グルコースまたはマンニトール)を開始物質として調製可能である。ポリオールのこれらエステルは公知であり、例えばGB2,145,422B(その内容は引用により本明細書に含まれるものとする)に記載されている。ポリオールには少なくとも3つのヒドロキシ基が含まれ、分子量は20,000Daまでであり、ポリオールの少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ、例えば平均で3つのヒドロキシ基がエステル基の形態であり、ポリ−ラクチド鎖またはco−ポリ−ラクチド鎖が含まれる。典型的には、0.2%グルコースを用いて重合を開始する。分岐状ポリエステル(Glu−PLG)は、中央のグルコース部分に放射状に伸びる直鎖状ポリラクチド鎖を有しており、例えば、星形構造をしている。
【0036】
中央のグルコース部分に放射状に伸びる直鎖状ポリラクチド−co−グリコリド鎖を有する分岐状ポリエステル(Glu−PLG)は、開環重合を可能にする触媒の存在下にて高温でポリオールとラクチドおよび好ましくはグリコリドとを反応させることにより調製可能である。
【0037】
中央のグルコース部分に放射状に伸びる直鎖状ポリラクチド−co−グリコリド鎖を有する分岐状ポリエステル(Glu−PLG)は、好ましくは重量平均分子量Mが約1,000〜55,000Daの範囲、好ましくは20,000Da、例えば10,000Daであり、多分散度が例えば1.1〜3.0、例えば2.0〜2.5である。Mが10,000〜50,000である星形ポリマーの固有粘度は、クロロホルム中で0.05〜0.6dl/gである。Mが50,000である星形ポリマーの粘度は、クロロホルム中で0.5dl/gである。
【0038】
ポリマーの望ましい分解速度と本発明の化合物にとって望ましい放出プロファイルは、モノマーの種類や、ホモポリマーまたはコポリマーのいずれを用いるか、あるいは、ポリマー混合物を用いるか、に応じて変わる。
【0039】
ポリマー混合物には、少なくとも2種類の異なるポリマー、例えば上述の(a)〜(e)に挙げたポリマー、または、同じポリマークラスであるが異なる特性を有する2種類のポリマーが含まれていてよい。例えば、ポリマー混合物には、中程度の重量平均分子量、例えば約30,000〜約50,000Da、例えば約20,000Daを有するポリマーや、低い重量平均分子量、例えば約2,000〜約20,000Da、例えば約10,000Daを有するポリマーが含まれていてよい。
【0040】
好ましくは、ポリマーマトリックスは直鎖状および/または分岐状ポリラクチド−co−グリコリドを含む。より好ましくは、ポリマーマトリックスはResomer(登録商標)RG、および/または、重量平均分子量が約10,000Daである星形ポリラクチド−co−グリコリドポリマー、および/または、重量平均分子量が約50,000Daである星形ポリラクチド−co−グリコリドポリマーを含む。直鎖状:分岐状ポリラクチド−co−グリコリドの比率は、好ましくは0:100〜100:0、例えば50:50〜25:75〜75:25である。
【0041】
特に好ましい実施態様では、生分解性ポリマー(例えば、PLA100またはPLGA50:50)の固有粘度は0.15〜0.45dL/g(CHCl中0.1%濃度、25℃)である。
【0042】
別の態様では、本発明は、以下の工程を含む注射可能なインシチュ形成型デポー製剤の製造方法を提供する:
(i)生分解性ポリマー(例えば、PLAまたはPLGA)を溶媒(例えば、凝固点が8〜20℃であるエンドキャップされたPEG)に溶解し、
(ii)薬学的に活性な物質と、必要に応じて添加剤とを添加して溶液または懸濁液とし、
懸濁液が得られた場合には、下記の工程iii)を続ける:
iii)適当な方法、例えば、ジェットミル、超音波、高圧ホモジナイズ処理、ローター−ステーターミキサー(ultraturrax)により、DS粒子径を小さくする。
【0043】
あるいは、原薬が可溶性の場合には、工程(i)と(ii)を入れ替えることが可能である。
【0044】
原薬は、溶媒が液体である温度(簡便には、例えば室温)にてポリマー溶液に溶解または分散させる。分散させた原薬は、例えば、最初にultraturraxにて、次いで超音波によって冷却下でホモジナイズし、所望の粒子径とすることができる。滅菌物は、無菌製造または最終滅菌によって得ることができる。
【0045】
この注射可能なインシチュデポー剤は、既存の製品よりも製造および適用が容易な代替制御放出製剤となる。既存の注射可能なインシチュ形成型デポー剤とポリマー基準で比較すると、本発明のデポー製剤は注射前に再懸濁工程を必要としないため、「そのまま使用できるデバイス」として特に有用である。本発明のデポー製剤は、室温まで平衡化させれば直ぐに注射できる初の製剤である。粘度に応じて針のサイズを合わせることができ、薬物を10%まで、7〜5%まで、または、5%まで懸濁液としてロードすることができる。
【0046】
本発明のデポー製剤には有利な特性がある:溶血および毒性の可能性が低く、ウサギでは注射部位において良好な局所忍容性を示す。本発明の徐放システムは服薬遵守や生活水準を改善する。さらにまた、その製造方法は簡単かつ低コストで、有機溶媒を必要としない。
【0047】
本発明の好適な一実施態様では、本発明の製剤の製造方法時に有機溶媒を使用せず、従って製剤中に有機溶媒が存在しない。
【0048】
本発明のデポー製剤は、例えばプレフィルドシリンジまたは他の適切な容器、自動注射デバイス、バイアルおよびシリンジ内で、溶媒(例えば、エンドキャップされたPEG)の融点以下の温度でも沈降せずに長期にわたって保存可能である。
【0049】
体内へ注射後に形成されるインプラントからは、活性物質が長期にわたって放出可能である。望ましい放出プロファイルは、モノマーの種類や、ホモポリマーまたはコポリマーのいずれを用いるか、あるいは、ポリマー混合物を用いるか、に依存している。放出期間の範囲は、1〜12週間、例えば1〜8週間、例えば4週間であってよい。
【0050】
必要に応じて、ポリマー/溶媒溶液へ、および/または、ポリエチレングリコール/原薬溶液へ、添加剤を添加してもよい。添加剤は、ポリマーや活性成分の原薬の溶解度を向上させることができる。共溶媒であれば、薬物放出をインビトロまたはインビボでさらにモジュレートすることが可能である。添加剤は約0.1%〜約20%w/v、好ましくは約1%〜約5%の量で存在させることが可能である。このような添加剤の例としては、メタノール、エタノール、プロピレングリコール、液体界面活性剤、例えばポリ(オキシエチレン)ソルビタンエステル(Tweens)またはヒマシ油のグリセリンポリオキシエチレンエステル(Cremophor EL)、乳酸、酢酸、グリセロール、N,Nジメチルアセトアミド、ベンジルベンゾエート、ポリオキシエチル化脂肪酸、レシチン、大豆油、seaflower油、植物油、綿実油、ポリ(l−ラクチド)、ポリ(d,l−ラクチド)またはポリ(ラクチド−co−グリコリド)のオリゴマー、あるいは、これらのオリゴマーの混合物が挙げられる。
【0051】
本発明の組成物または方法に使用するのに適した賦形剤の詳細は、例えば「Handbook of Pharmaceutical Excipients」、Rowe、SheskeyおよびWeller、第4版、2003に記載されている。
【0052】
本発明のさらなる態様では、本発明の方法により得られる組成物は、室温では液体の形態であり、例えば溶液であってよい。0.22μmフィルターで滅菌濾過した後、液体組成物(例えば溶液)をシリンジ内へ導入してもよい。滅菌は、冷却条件下(例えば、2〜8℃または−70℃)で20〜30kGy、好ましくは25kGyのガンマ線照射を用いた別の最終滅菌により行うことも可能である。滅菌溶液は、針(例えば、20Gまでの針)を介して皮下または筋肉内投与で体内へ注射することができる。溶媒(例えば、ポリエチレングリコール)が消失すると、ポリマーが薬学的に活性な物質と共に固化してインプラントを形成する。本発明によれば、好ましくはプレフィルドシリンジを使用説明書と一緒に提供する。
【0053】
本発明の組成物は、ポリマー中に配合された特定の活性物質の既知の適応症(WO02/010192の11頁に記載されているような適応症)を治療するのに有用である。好ましくは、本発明の組成物は末端肥大症や癌(例えば、カルチノイド腫瘍)、クッシング病の治療に有用である。
【0054】
本発明の液体組成物の活性や特性は、標準的な臨床または動物試験で判る。本発明の組成物の適切な投与量は、当然のことながら、治療すべき病態(例えば、疾患の抵抗性のタイプ)、使用する薬物、所望の効果や投与形態などに応じて変わる。
【0055】
ソマトスタチン類似体を含む本発明の組成物に対して満足のいく結果が得られるのは、1ヶ月に注射1回当たり約0.2〜約60mg、好ましくは約5〜約40mg、または、1ヶ月に動物の体重1kg当たり約0.03〜約1.2mgのオーダーの投与量で1回または複数回に分けて投与(例えば、非経口投与)した場合である。従って、患者に適した1ヶ月当たりの投与量は、約0.3mg〜約40mgのオーダーのソマトスタチン類似体(例えば、化合物Aのパモエート)となる。組成物は2〜3ヶ月毎に投与してもよい。3ヶ月毎の投与に適した投与量は約1mg〜約180mgである。
【0056】
本発明によれば、PEG500DMEは非経口製剤用の溶媒として特に有利な特性、例えば、溶血の可能性が低い、粘度が注射に適している、PEG500DMEに溶解したPLGAの溶液が安定である、相分離とインビトロ放出との間に有利な相関がある、初期バーストが小さい、といった特性を有することが判明した。従って、本発明の別の態様では、PEG500DMEを非経口用の医薬組成物における溶媒として、例えば、上述のまたは実施例で後述する活性物質用の溶媒として提供する。
【0057】
一実施態様では、本発明は、活性物質と、共溶媒としてPEG500DMEとを含む注射用医薬組成物を提供する。このような組成物は、10%〜99.5%、20%〜90%、30%〜80%または50%〜99.5%(組成物の総重量)、あるいは、50%〜100%または60%〜99%のPEG500DMEを、例えば水溶液中に含有するものであってよい。
【実施例】
【0058】
以下、実施例を挙げて本発明の方法および組成物について説明するが、実施例はあくまで例示に過ぎない。
【0059】
PEG500DMEの非経口用溶媒としての適性を概説するため、溶血試験を行った。
【0060】
表1に、女性ドナーおよび男性ドナーで試験した溶媒(PEG500DME、PEG 600およびNMP)の溶血率[%]を示す。表1では、3種類の溶媒の溶血活性に関する値をまとめた。PEG500では、PEG600およびNMPに比べて純粋な溶媒の溶血値が低く、NMPは1:2の濃度においても、PEG500DMEおよびPEG600と比較して、溶血活性を依然として示している。
【0061】
【表1】

【0062】
表2に、女性および男性血液ドナー(n=4)の赤血球で試験した3種類の試験溶媒の溶血率[%]を示す。未希釈のNMPを用いた場合、48.8%の赤血球が溶解を示した。等張NaCl溶液で1:2に希釈しても、NMPは依然として7.8%の溶血を示している。未希釈のPEG600に対しては13.3%の溶血が観察された。PEG600を等張NaCl溶液で希釈(1:2)した場合、2.0%の溶血が測定された。全ての未希釈の溶媒のうちで最も溶血活性が低かったのはPEG500DMEの5.5%であった。3種類の溶媒をさらに希釈したところ、顕著な溶血作用は見られなかった。
【0063】
【表2】

【0064】
[実施例1]
0.960gのポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)50:50(20%w/w)を3.5062gのポリ(エチレングリコール)500ジメチルエーテルに溶解する。0.3404gのガンマ線照射した薬学的に活性な物質SOM230パモエート(=遊離体基準で0.250g=5%w/w)を、1バールのN2圧を用いて滅菌濾過(Millex GV、0.22μm、ミリポア、ツーク、スイス)した後のポリマー溶液へ添加し、磁気撹拌により溶液中に分散させる。分散液を2*5分間超音波プローブ(hielscher UP400S、Ultrasound technology、シュトゥットガルト、ドイツ)を用いて超音波処理し、約51μmの平均粒子径(Lasentecプローブで測定、メトラー・トレド、グライフェンゼー、スイス)まで処理する。0.240gの製剤(+過剰充填分=0.333g)を、22G針(Sterican、0.70×0.30 BL/LB、B.ブラウン、メルスンゲン、ドイツ)を備えた1mlシリンジ(BD、ルアーロック端付き1mlシリンジ、フランクリンレイクス、NJ、米国)へ充填する。注入される製剤の量を原薬基準で約0.012gに調整する。インシチュデポー製剤を、2mlのPBS緩衝液(pH7.4)で満たした12mmのセル(直径)へ直接注入し、インビトロ放出用のUSP4装置(Sotax、アルシュヴィル、スイス)へセットする。Ismatec IPポンプ(Ismatec、グラットブルグ、スイス)を用いて装置へ緩衝液(pH7.4)を0.5ml/hの流速で送り込む。1、3、6、13、20、27、34、41、48日後にサンプルを回収し、HPLCで分析する。図1には、約30%の理論薬物含量における48日間にわたるインビトロ徐放プロファイルを示し、初期放出(バースト)が非常に小さいことを示す。
【0065】
[実施例2]
1.00139gのポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)50:50(20%w/w)を3.75521gのポリ(エチレングリコール)ジメチルエーテルに溶解する。0.2523gのガンマ線照射した薬学的に活性な物質SOM230パモエート(=遊離体基準で0.180g=3.5%w/w)を、1バールのN2圧を用いて滅菌濾過(Millex GV、0.22μm、ミリポア、ツーク、スイス)した後のポリマー溶液へ添加し、磁気撹拌により溶液中に分散させる。分散液を2*5分間超音波プローブ(hielscher UP400S、Ultrasound technology、シュトゥットガルト、ドイツ)を用いて超音波処理し、約54μmの平均粒子径(Lasentecプローブで測定、メトラー・トレド、グライフェンゼー、スイス)まで処理する。0.3301gの製剤(+過剰充填分=0.420g)を、22G針(Sterican、0.70×0.30 BL/LB、B.ブラウン、メルスンゲン、ドイツ)を備えた1mlシリンジ(BD、ルアーロック端付き1mlシリンジ、フランクリンレイクス、NJ、米国)へ充填する。注入される製剤の量を原薬基準で約0.012gに調整する。インシチュデポー製剤を、2mlのPBS緩衝液(pH7.4)で満たした12mmのセル(直径)へ直接注入し、インビトロ放出用のUSP4装置(Sotax、アルシュヴィル、スイス)へセットする。Ismatec IPポンプを用いて装置へ緩衝液(pH7.4)を0.5ml/hの流速で送り込む。1、3、6、13、20、27、34、41、48日後にサンプルを回収し、HPLCで分析する。図2には、約30%の理論薬物含量における48日間にわたるインビトロ徐放プロファイルを示し、初期放出(バースト)が非常に小さいことを示す。
【0066】
[実施例3]
0.048gの薬学的に活性な物質(0.6%メチレンブルー)を、異なる溶媒を用いた4種類のポリマー溶液へ添加する。一つ目の溶液には1.6002gのポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)50:50(20%w/w)と6.4345gのポリ(エチレングリコール)500ジメチルエーテルとが含まれ、二つ目の溶液には6.4092gのN−メチルピロリジンに溶解した1.6004gのポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)50:50(20%w/w)が含まれ、三つ目の溶液には4.818gのN−メチルピロリジンに溶解した3.2006gのポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)50:50(40%w/w)が含まれ、最後の溶液にはポリ(エチレングリコール)600に溶解した1.6012gのポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)50:50(20%w/w)が含まれる。
【0067】
0.400〜0.500gのメチレンブルーをロードしたポリマー溶液を、1mlシリンジ(BD ルアーロック端付き1mlシリンジ、BD、フランクリンレイクス、NJ、米国)と23G針(BD Microlance3、0.6×25mm、BD、S.A.フラガ、スペイン)を用いて、25mlのPBS緩衝液(pH7.4)を入れた50mlポリプロピレンFalconチューブ(BD、フランクリンレイクス、米国)へ注入する。チューブを振盪水浴(AD Krauth、ハンブルク、ドイツ)中37℃にて非常に低い振動数でインキュベートする。緩衝液の交換をサンプリング時点毎に行う。サンプルをt=0、1、3、7、14、21、28、35、42および49日に採取し、Varian Cary分光光度計(ダルムシュタット、ドイツ)を用いて波長665nmで分析する。
【0068】
[実施例4]
0.960gのポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)50:50(20%w/w)を3.5062gのポリ(エチレングリコール)500ジメチルエーテルに溶解する。0.3404gのガンマ線照射した薬学的に活性な物質SOM230パモエート(=遊離体基準で0.250g=5%w/w)を、1バールのN2圧を用いて滅菌濾過(Millex GV、0.22μm、ミリポア、ツーク、スイス)した後のポリマー溶液へ添加し、磁気撹拌により溶液中に分散させる。分散液を2*5分間超音波プローブ(hielscher UP400S、Ultrasound technology、シュトゥットガルト、ドイツ)を用いて超音波処理し、約51μmの平均粒子径(Lasentecプローブで測定、メトラー・トレド、グライフェンゼー、スイス)まで処理する。0.240gの製剤(+過剰充填分=0.333g)を、22G針(Sterican、0.70×0.30 BL/LB、B.ブラウン、メルスンゲン、ドイツ)を備えた1mlシリンジ(BD、ルアーロック端付き1mlシリンジ、フランクリンレイクス、NJ、米国)へ充填する。注射される製剤の量を原薬基準で動物当たり約0.012gに調整する。4匹のウサギをSOM230パモエートのインビボでの薬物放出について試験する。インシチュデポー製剤を各ウサギの頸部皮下へ注射する。血液サンプル(1〜1.5mL)を耳介静脈から1.6mgのカリウム−EDTAを含有するポリプロピレンシリンジ(S-Monovette、ザルシュテットAG、ゼーヴェレン、スイス)へ回収した。サンプルの採取は、0分(=投与前)、30分後、1、2、4、6時間後、1、2、3、6、9、13、16、20、23、27、35、42および48日後に行った。競合ELISA試験を用いて、血漿サンプルをSOM230について分析した。
【0069】
[実施例5]
1.00139gのポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)50:50(20%w/w)を3.75521gのポリ(エチレングリコール)500ジメチルエーテルに溶解する。0.2523gのガンマ線照射した薬学的に活性な物質SOM230パモエート(=遊離体基準で0.250g=2.5%w/w)を、1バールのN2圧を用いて滅菌濾過(Millex GV、0.22μm、ミリポア、ツーク、スイス)した後のポリマー溶液へ添加し、磁気撹拌により溶液中に分散させる。分散液を2*5分間超音波プローブ(hielscher UP400S、Ultrasound technology、シュトゥットガルト、ドイツ)を用いて超音波処理し、約54μmの平均粒子径(Lasentecプローブで測定、メトラー・トレド、グライフェンゼー、スイス)まで処理する。0.3301gの製剤(+過剰充填分=0.420g)を、22G針(Sterican、0.70×0.30 BL/LB、B.ブラウン、メルスンゲン、ドイツ)を備えた1mlシリンジ(BD、ルアーロック端付き1mlシリンジ、フランクリンレイクス、NJ、米国)へ充填する。注射される製剤の量を原薬基準で動物当たり約0.012gに調整する。4匹のウサギをSOM230パモエートのインビボでの薬物放出について試験する。インシチュデポー製剤を各ウサギの頸部皮下へ注射する。血液サンプル(1〜1.5mL)を耳介静脈から1.6mgのカリウム−EDTAを含有するポリプロピレンシリンジ(S-Monovette、ザルシュテットAG、ゼーヴェレン、スイス)へ回収した。サンプルの採取は、0分(=投与前)、30分後、1、2、4、6時間後、1、2、3、6、9、13、16、20、23、27、35、42および48日後に行った。競合ELISA試験を用いて、血漿サンプルをSOM230について分析した。
【0070】
[実施例6]
0.5gのシクロスポリンAを9.5gのポリ(エチレングリコール)500ジメチルエーテルへ磁気撹拌により溶解した。3時間以内に透明な溶液を得た。
【0071】
[実施例7]
PEG500DME、PEG600、並びに、これら2種類のPEGに溶解した20%(w/w)PLA50GA5012の溶液を、1回目のDSC加熱・冷却サイクル後に−40℃で0.5時間、4時間および8時間テンパリングした。2回目の加熱サイクルの際、溶媒およびポリマー溶液の融解挙動に違いは見られなかった(データは示さず)。純粋なPEGの結晶性構造は、テンパリング間隔に依存しないと思われた。ポリマー溶液の融解挙動についてはテンパリング期間に起因する変化は見られなかった。このことは、PLA50GA5012溶液が冷却操作中も特性を維持できると考えられるため、その長期安定性に関して重要な知見であった。
【0072】
DSCで求めた融点は、PEG500DMEの場合が14.7±0.4℃、PEG600の場合が21.8±0.7℃であった(図6aおよびb)。両サーモグラムでは、1回目の加熱サイクルでは融解ピークにブロードなシグナルが現れ、冷却サイクル時には発熱結晶化にブロードなシグナルが現れた。同一の温度範囲におけるNMPの熱的観察では、一次相転移(first order transition)は見られなかった(図6c)。純粋なPLA50GA5012のサーモグラムを図6dに示す。1回目の加熱サイクルにおいて、小さな吸熱ピーク(おそらく水のものと思われる)が0.31℃で観察された。ポリマー粉末の吸熱緩和が認められ、47.9℃に吸熱ピークが見られた。後続の冷却サイクル時にエイジングは観察されなかった。2回目の加熱サイクルでは、ガラス転移温度(T)が39.5±2.6℃にて確認された。
【0073】
PEG500DMEに溶解した20%(w/w)PLA50GA5012の溶液では、純粋な溶媒と比較して、10.9±0.4℃への融点の低下が観察された(図7a)。1回目の加熱サイクルでは徐々に融解が認められ、この結果、複数の肩を持つブロードなピークが得られた。冷却サイクル時には、ピークのテーリングから判るように、結晶化の開始は5.8±0.5℃であった。−40℃で0.5時間テンパリングした後の2回目の加熱サイクル時には、ブロードな融解ピークが再び観察された。2回目の加熱サイクルでは、PLA50GA5012のTに関するシグナルは検出されなかった。PEG600に溶解した20%PLA50GA5012の溶液については、同様に、融解温度の18.4±0.6℃への有意な低下が観察された(図7b)。1回目の加熱サイクルでは2段階のブロードな融解ピークがサーモグラム中に認められた。冷却および2回目の加熱サイクル時の結晶化ピーク(3.7±0.8℃)は、ブロードなシグナルを示した。NMPに溶解した20%および40%PLA50GA5012の溶液については、観察した温度範囲では、融解、結晶化またはTのシグナルは観察されなかった(図7cおよびd)。
【0074】
[実施例8]
NMP、PEG500DMEおよびPEG600に異なる濃度で溶解したPLA50GA5012の溶液を、水の存在下37℃でのポリマー沈澱の開始について調べた(図8)。図中の直線は100%PLA50GA5012から引き、上方の均一三成分系と、直線より下の二成分系(相分離)とに領域を分割した。溶媒/水混合物をポリマーの有機溶媒溶液へ添加することにより、PEG500DME中の異なるPLA50GA5012濃度についてポリマー沈澱の開始を判定した。PEG500DMEに溶解した32.6%PLA50GA5012の溶液では、1.0%の水の存在下でポリマー沈澱が既に生じており(図8a)、溶液中の疎水性ポリマーを沈澱させるのに、ごく少量の水で十分であることが示された。PEG500DMEに溶解した3.0%PLA50GA5012からポリマーを沈澱させるには、13.4%の水が必要であった。予期した通り、ポリマー含量が低いほど水の量を増やして添加することが可能であった(7)。
【0075】
溶媒としてPEG600を用いた三元系状態図(図8b)から、含量24.8%のポリマーが沈澱するのに僅か0.3%の水が吸収されるだけで十分であることが判る。PLA50GA5012含量が低い(3.5%)場合、ポリマー溶液中で混濁が始まるまでに9.2%の水を添加しなければならなかった。PEG600に溶解したPLA50GA5012の溶液は、PEG500DMEに溶解した際の溶液と同様の挙動を示し、ポリマー含量が高くて水分量が低い場合に沈澱を示した。従って、低いポリマー濃度では、沈澱するまでに許される水の量が増えることが観察された。
【0076】
NMPに溶解したPLA50GA5012の三元系状態図(図8c)からは、50%ポリマー:50%溶媒(w/w)まで混和性の均一系であることが判る。水分量4.7%では、49.6%NMPに溶解した45.6%PLA50GA5012の溶液で混濁が生じた。PLA50GA5012の溶解能は、PEG500DMEおよびPEG600に比べてNMPでは有意に増加した。NMPに溶解した2.9%PLA50GA5012へは、沈澱が生じるまで14.1%の水を添加しなければならなかった。PEG500DMEまたはPEG600と比較して、NMPを溶媒として用いた三元系状態図では、直線より上方の混和性の均一混合物の領域が増大した。PEG500DMEおよびPEG600へのPLA50GA5012の溶解能は、NMPへの溶解能よりも低かった。総じて、PEG500DMEおよびPEG600では、NMPよりも低濃度でPLA50GA5012の沈澱が始まっていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
注射可能なインシチュ形成型デポー製剤であって、
i)薬学的に活性な物質、
ii)分子量が450<Mw<650Daであり、化学的に不活性な末端基を有し、8〜20℃の温度に凝固点を有するポリ(エチレン)グリコール、
iii)生分解性ポリマー、および必要に応じて
iv)添加剤
を含む、前記注射可能なインシチュ形成型デポー製剤。
【請求項2】
上記不活性な末端基がアルコキシ基である、請求項1に記載の注射可能なインシチュ形成型デポー製剤。
【請求項3】
上記ポリ(エチレン)グリコールがPEG500−DMEである、請求項1または2に記載の注射可能なインシチュ形成型デポー製剤。
【請求項4】
上記ポリマーが、PLAまたは直鎖状もしくは分岐状PLGAである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の注射可能なインシチュ形成型デポー製剤。
【請求項5】
上記生分解性ポリマーが、0.15〜0.60dL/gの固有粘度を有するポリラクチドまたはポリ(ラクチド−co−グリコリド)である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の注射可能なインシチュ形成型デポー製剤。
【請求項6】
有機溶媒を含まない、請求項1〜5のいずれか一項に記載の注射可能なインシチュ形成型デポー製剤。
【請求項7】
上記薬学的に活性な物質が、小型分子、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、炭水化物、オリゴヌクレオチド、RNAおよびDNAから選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の注射可能なインシチュ形成型デポー製剤。
【請求項8】
上記薬学的に活性な物質が、ビスホスホネートまたはソマトスタチン類似体である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の注射可能なインシチュ形成型デポー製剤。
【請求項9】
上記薬学的に活性な物質が、シクロ[{4−(NH−C−NH−CO−O−)Pro}−Phg−DTrp−Lys−Tyr(4−Bzl)−Phe]パモエートまたはジアスパルテートである、請求項8に記載の注射可能なインシチュ形成型デポー製剤。
【請求項10】
デポー製剤の製造方法であって、
i)分子量が少なくとも450Da〜650Da未満であり、不活性な末端基を有し、融点が<15℃であって、かつ、25℃で液体であるPEGに、生分解性ポリマーを溶解し、
ii)薬学的に活性な物質と、必要に応じて添加剤とを添加して溶液または懸濁液とし、
iii)懸濁液が得られた場合には、適当な粒子径の縮小方法により、所望の平均粒子径まで製剤を摩砕する
工程を含む、前記方法。
【請求項11】
デポー製剤の製造方法であって、
i)分子量が少なくとも450Da〜650Da未満であり、不活性な末端基を有し、融点が<15℃であって、かつ、25℃で液体であるPEGに、薬学的に活性な物質を溶解し、
ii)生分解性ポリマーを添加して溶液または懸濁液とし、
iii)懸濁液が得られた場合には、適当な粒子径の縮小方法により、所望の平均粒子径まで製剤を摩砕する
工程を含む、前記方法。
【請求項12】
有機共溶媒を使用しない、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
上記ポリマーが、PLAまたは直鎖状もしくは分岐状PLGAである、請求項10〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
上記生分解性ポリマーが、0.15〜0.60dL/gの固有粘度(クロロホルム中0.1%濃度、25℃)を有する、請求項10〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
上記薬学的に活性な物質が、小型分子、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、炭水化物、オリゴヌクレオチド、RNAおよびDNAから選択される、請求項10〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
上記薬学的に活性な物質がソマトスタチン類似体である、請求項10〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
上記薬学的に活性な物質が、シクロ[{4−(NH−C−NH−CO−O−)Pro}−Phg−DTrp−Lys−Tyr(4−Bzl)−Phe]パモエートまたはジアスパルテートである、請求項10〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
薬学的に活性な物質を含む医薬組成物であって、請求項10〜17のいずれか一項に記載の方法によって得られる、前記組成物。
【請求項19】
注射用である、請求項1〜9または18のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
上記活性物質が1〜12週間にわたって放出される、請求項1〜9または18のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項21】
請求項1〜9または18のいずれか一項に記載の組成物と、使用説明書とを含む、プレフィルドシリンジ。
【請求項22】
非経口投与用医薬組成物における溶媒としてのPEG500DMEの使用。
【請求項23】
非経口投与が、静脈内、筋肉内または皮下注射である、請求項22に記載の使用。
【請求項24】
注射用医薬組成物であって、組成物の総重量の50%〜99.5%のPEG500DMEを含む、前記注射用医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2011−530568(P2011−530568A)
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−522499(P2011−522499)
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【国際出願番号】PCT/EP2009/060366
【国際公開番号】WO2010/018159
【国際公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】