説明

半導体レーザ素子およびその製造方法

【課題】スペックルノイズを低減する。
【解決手段】本発明の半導体レーザ素子は、n型クラッド層103と活性層105とp型クラッド層109とを順に積層したダブルヘテロ構造部と、活性層105を挟んで形成された一対のレーザ共振器端面と、レーザ共振器端面に形成され、レーザ共振器端面から発振される発振光を吸収する反射膜113と、を備えている。この半導体レーザ素子は、ウルツ鉱型半導体からなる。レーザ共振器端面は、C面(0001)に形成されている。活性層105のバンドギャップをEgavとし、反射膜113のバンドギャップをEgとしたとき、下記式(1)を満たす。(1)1×Eg≦Egav≦1.2×Eg

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
III族窒化物半導体材料は、禁制帯幅が充分大きく、バンド間遷移も直接遷移型であるため、短波長発光素子への適用が盛んに検討されている。特に、1990年代半ば頃から、照明や各種ディスプレイ用途に、本材料を用いた紫外から青、緑色の波長領域の発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)の性能が急激に向上した。その結果、本材料を用いたLEDの適用範囲は格段に広がり非常に大きな市場を形成している。また、本材料は次世代の高密度光ディスク用光源としても重要である。そのため、発振波長405nmの半導体レーザダイオード(LD:Laser Diode)の研究開発が精力的に進められ、既に製品化も始まっている。
【0003】
また、本材料を用いたLDは投射型ディスプレイ等の光源としても検討されている。例えば、特許文献1に開示されているGaN基板上のインナーストライプ型レーザ構造により、良好なレーザ発振特性が得られている。
【0004】
また、本発明の関連技術として、特許文献2を挙げることができる。特許文献2では、従来のエアリッジ型GaN系半導体レーザ素子よりも閾値電流値が低く、かつ動作電圧の低いエアリッジ型GaN系半導体レーザ素子が記載されている。
【0005】
また、本発明の関連技術として、特許文献3を挙げることができる。特許文献3では、発振光の光エネルギーよりも大きなバンドギャップを有する保護層をレーザ端面に設けることが記載されている。これにより、高出力発信時においても高信頼性の超寿命の窒化物半導体レーザ装置を得ることができることが記載されている。また、保護層の厚みをλ/4nの奇数倍とすることで反射層をかねてもよいことが記載されている。
【0006】
また、本発明の関連技術として、特許文献4を挙げることができる。特許文献4では、共振器面において、保護膜を窒化物半導体層に接触させ、かつ、この保護膜と異なる結晶構造からなる保護膜を共振器面から基板の第二主面に接触するように形成することにより、保護膜の共振器面への密着性を向上させることができることが記載されている。また、保護膜は、共振器面と同軸方向の窒化膜とすることで保護膜と共振器面との密着性を高めることができることが記載されている。そして、共振器面は、M面(1−100)、A面(11−20)、C面(0001)又はR面(1−102)からなる群から選ばれる面、特にM軸配向が好ましいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−78215号公報
【特許文献2】特開2003−179311号公報
【特許文献3】特開2000−49410号公報
【特許文献4】特開2008−227002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1〜4に記載の半導体レーザをディスプレイ用光源として用いる場合、レーザ光の可干渉性が原因で発生する「ちらつき」すなわちスペックルノイズの低減が重要な課題となる。従来は、このスペックルノイズを低減するために複数の独立したレーザ光を重ね合わせたり、時空間的に位相を変化させるための光学素子を用いる必要があり、光源の小型化や低コスト化が困難であった。
【0009】
本発明は、スペックルノイズが低減され、小型、低コストかつ高性能な半導体レーザ素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、
第一のクラッド層と活性層と第二のクラッド層とを順に積層したダブルヘテロ構造部と、
前記活性層を挟んで形成された一対の共振器端面と、
少なくとも一の前記共振器端面に形成され、前記共振器端面から発振される発振光を吸収する反射膜と、
を備え、
少なくとも前記活性層及び前記反射膜がウルツ鉱型半導体からなり、
前記共振器端面が、極性を有する面に形成され、
前記活性層のバンドギャップをEgavとし、前記反射膜のバンドギャップをEgとしたとき、下記式(1)を満たす、半導体レーザ素子が提供される。
(1)1×Eg≦Egav≦1.2×Eg
【0011】
また、本発明によれば、
第一のクラッド層と活性層と第二のクラッド層とを順に積層する工程と、
前記活性層を挟む一対の共振器端面を形成する工程と、
前記共振器端面から発振される発振光を吸収する反射膜を少なくとも一の前記共振器端面に積層する工程と、
を含み、
少なくとも前記活性層及び前記反射膜をウルツ鉱型半導体で形成し、
前記共振器端面を形成する前記工程において、前記共振器端面を極性を有する面に形成し、前記活性層のバンドギャップをEgavとし、前記反射膜のバンドギャップをEgとしたとき、下記式(1)を満たす、半導体レーザ素子の製造方法が提供される。
(1)1×Eg≦Egav≦1.2×Eg
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、スペックルノイズが低減され、小型、低コストかつ高性能な半導体レーザ素子及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施の形態に係る半導体レーザ素子の斜視断面図である。
【図2】実施の形態に係る半導体レーザ素子の反射膜のミラーロススペクトルの一例を示す図である。
【図3】実施の形態に係る半導体レーザ素子のゲインスペクトルの一例を示す図である。
【図4】実施の形態に係る半導体レーザ素子のネットゲインスペクトルの一例を示す図である。
【図5】(a)実施の形態に係る半導体レーザ素子の第一状態の活性層のネットゲインと波長と関係を示す図である。(b)実施の形態に係る半導体レーザ素子の第二状態の活性層のネットゲインと波長と関係を示す図である。(c)実施の形態に係る半導体レーザ素子の第一状態の反射膜のミラーロスと波長と関係を示す図である。(d)実施の形態に係る半導体レーザ素子の第二状態の反射膜のミラーロスと波長と関係を示す図である。(e)実施の形態に係る第一状態の半導体レーザ素子のゲインと波長と関係を示す図である。(f)実施の形態に係る第二状態の半導体レーザ素子のゲインと波長と関係を示す図である。
【図6】比較例の半導体レーザ素子の斜視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0015】
図1は、本実施形態の半導体レーザ素子を示す模式的な斜視断面図である。この半導体レーザ素子は、n型クラッド層103(第一のクラッド層)と活性層105とp型クラッド層109(第二のクラッド層)とを順に積層したダブルヘテロ構造部と、活性層105を挟んで形成された一対のレーザ共振器端面と、レーザ共振器端面に形成され、レーザ共振器端面から発振される発振光を吸収する反射膜113と、を備えている。この半導体レーザ素子は、ウルツ鉱型半導体からなる。レーザ共振器端面は、C面(0001)に形成されている。活性層105のバンドギャップをEgavとし、反射膜113のバンドギャップをEgとしたとき、下記式(1)を満たす。
(1)1×Eg≦Egav≦1.2×Eg
【0016】
本実施形態の半導体レーザ素子は、n型基板101(半導体基板)の{1−100}面(m面、無極性面)上に作製する。反射膜113は、ウルツ鉱型半導体からなり、共振器方向、すなわち、C軸方向[0001]方向に積層されている。そのため、発振光を吸収していない状態1の反射膜113は、ピエゾ電界により共振器方向に分極電場を有する。そして、反射膜113は、このピエゾ電界により、反射膜113を構成する材料のバンドギャップよりも反射膜113のバンドギャップが縮小されるように設計されている。
【0017】
この素子は、活性層105及び反射膜113のバンドギャップが上記式(1)を満たす。これにより、レーザ発振が開始する前の初期状態において、反射膜113の吸収端波長と発振光の波長とが略同一となる。したがって、共振器端面から光が発振されると、反射膜113は発振光の一部を吸収する。これにより、反射膜113内に励起キャリアが発生し、励起キャリアの密度の上昇に応じて、内部電界がスクリーニング(遮蔽)されることになる。したがって、バンドギャップエネルギーが大きくなり、反射膜113のミラーロスαが減少し(図2中破線2)、素子から出射されるレーザ光の波長は長波になる(図3破線2)。一方、発振光を吸収している状態2の反射膜113は、バンドギャップエネルギーが大きくなることで、吸収端波長が短くなり、活性層105からの発振光の吸収量が小さくなる。これにより、反射膜113におけるキャリア密度が徐々に減少し、内部電界がスクリーニング(遮蔽)されなくなる。その結果、反射膜113のバンドギャップエネルギーが小さくなり、ミラーロスαが増加して状態1の反射膜113のミラーロスと同じになる(図2中実線1)。したがって、レーザ素子から出射されるレーザ光の波長は短波になる(図3実線1)。以降周期的に、状態1と状態2との間で変動し、ミラーロススペクトルが状態1と状態2との間で変動する。このように、発振光が照射されることにより反射膜113は振動する。
【0018】
以下、図2〜5を用いて本実施形態の半導体レーザの原理についてさらに詳細に説明する。図2、5(c)(d)は、反射膜113のミラーロススペクトルを有している。図2において、横軸は反射膜113が吸収した光のエネルギー(Eg)を示す。図5(c)、(d)において、横軸は反射膜113の吸収端波長(λ)を示す。図3、5(e)(f)は、本実施形態の半導体レーザのゲインスペクトルを有している。図3において、横軸は出射光のエネルギー(Eg)を示し、図5(e)、(f)において、横軸は出射光の波長(λ)を示す。図4、5(a)、(b)は、活性層105のネットゲインスペクトルを有している。図4において、横軸は発振光のエネルギー(Eg)を示し、図5(a)、(b)において、横軸は発振光の波長(λ)を示す。図5(a)、(c)、(e)は、反射膜113が発振光を吸収していない第一状態を示し、図5(b)、(d)、(f)は、反射膜113が発振光を吸収した第二状態を示す。
【0019】
ネットゲインG’は下記式(1)で定義される。
G’=Γ×g−α(1)
但し、Γは活性層105の閉込係数、gは利得係数(cm−1)、αは半導体レーザ素子の全損失に対する吸収係数(cm−1)である。
【0020】
ゲインGは下記式(2)で定義される。
G=G’−α(2)
【0021】
図4、図5(a)、(b)で示すように、活性層105のネットゲインスペクトルは、状態1と状態2との間で変化しない。換言すると、光の発振前後において、活性層105のバンドギャップは変化しない。
【0022】
この素子は、活性層105及び反射膜113のバンドギャップが上記式(1)を満たす。したがって、反射膜113の吸収端波長と活性層105の発振光の波長とが略同一となるように設計されている。略同一とは、反射膜113の吸収端波長AEと発振光の波長γとが、1/AE≦1/γ≦1.2/AEを満たすようにすると好ましく、1/AE≦1/γ≦1.1/AEを満たすようにするとより好ましい。活性層105及び反射膜113の材料が同一の元素からなると、活性層105及び反射膜113のバンドギャップを容易に上記式(1)を満たすようにすることができる。また、反射膜113は、発振光を吸収することで、ピエゾ電界が遮蔽され、バンドギャップエネルギーが上昇するように設計されている。そのため、図2で示すように、状態2では、ミラーロススペクトルが高エネルギー側にシフトとする。一方、前述のように、ネットゲインスペクトルは光の発振前後で変化しない。そのため、図3で示すように、ゲインスペクトルは、低エネルギー側にシフトする。したがって、レーザ発振直後には波長λでレーザ光を出射するが(図5(e)、図3中実線1)、反射膜113が波長λの発振光を吸収することで、波長がより長波のλ(λ<λ)で出射する(図5(f)、図3中破線2)。
【0023】
図5(d)で示すように、状態2では、吸収端波長AEが状態1の吸収端波長AEよりも短い。そのため、状態2の反射膜113では、発振光の吸収量が小さくなり、励起キャリア密度が低下する。その結果、ピエゾ電界が遮蔽されなくなり、これにより、反射膜113のバンドギャップが縮小し、反射膜113のミラーロススペクトルは再び低エネルギー側に戻る(状態1、図2実線1)。これにより、ゲインスペクトルが高エネルギー側にシフトし、出射光の波長がλにシフトする(図3実線1)。以降周期的に、状態1と状態2との間で変動し、出射されるレーザ光の波長がλとλとの間で変動する。
【0024】
以上のように出射光の波長のスイッチングを発生させるためには、下記式(3)を満たすように、出射光の波長λ及び反射膜の吸収端AEを設計する。
【0025】
λ<AE≦λ<AE(3)
【0026】
AEとλとの差(Δw)は、5nm〜50nmとすると好ましい。また、λとλとの差(Δλ)は、5nm〜20nmとすると好ましく、10nmが特に好ましい。また、波長の変動周期としてはおよそ数MHzから数十MHz程度であり、このときレーザ光の強度も同時に変調されてもよい。こうすることで、スペックルノイズを効果的に抑制することができる。
【0027】
本実施形態の半導体レーザ素子を構成するウルツ鉱型半導体としては、III族窒化物半導体またはII族酸化物半導体を用いることができ、材料の組成を任意に選択することで目的の発振波長を得ることができる。特に、III族窒化物半導体が効率よく発光できる点でより好ましい。III族窒化物半導体としては、一般式InAlGa(1−x−y)N(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)のものを用いることができる。また、クラッド層103、109と活性層105とを含むダブルヘテロ構造部及び反射膜113の組成や厚みをそれぞれ変更することで、活性層105の発振波長と反射膜の吸収端波長とを制御することができる。たとえば、InGa1−zNでは、下記式(4)を用いてバンドギャップエネルギーを所望のものにすることができる(phys.stat.sol.(b)230,No2,R4−R6(2002))。
Eg(z)=3.493−2.843z−2.5×(1−z)(4)
ただし、本実施形態では、反射膜113の吸収端波長は、ピエゾ電界の影響も考慮して設計する。
【0028】
また、反射膜113及び活性層105を構成する元素を同一とすることで、反射膜113の吸収端波長と発振波長とをより精度よく制御することができる。たとえば、反射膜113及び活性層105をInGa1−zN(0<z<1)からなる層とすることで、青〜緑色帯で効率的に発光するレーザを得ることができる。
【0029】
反射膜113は単結晶とすると好ましい。こうすることで、反射膜113の吸収端波長を精度よく制御することができる。
【0030】
反射膜113は、シリコンドープしてもよい。こうすることで、吸収端波長の変動幅の制御を容易にすることができる。ドープするシリコン量は、1×1016〜1×1020cm−3とすると好ましい。
【0031】
反射膜113は、ヘテロ構造を有することが好ましい。屈折率の差の大きい構造とすることで、反射膜113の反射率を大きくすることができる。したがって、出射するレーザ光の波長をより精度よく制御することが可能になる。反射率は80〜99%とすると好ましい。
【0032】
反射膜113及び活性層105をInGa1−zN(0<z<1)及びAlGa1−nN(0<n<1)で構成することで、スペックルノイズを効果的に低減された、青〜緑色帯で発光するレーザを作製することができる。
【0033】
つづいて、本実施形態の半導体レーザ素子の一例として、窒化物半導体レーザ素子を例に挙げて図1を用いつつ以下に説明する。この窒化物半導体レーザ素子は、n型GaN基板101と、n側バッファ層102と、n型クラッド層103と、n型光閉じ込め層104と、量子井戸層(活性層)105と、p型光閉じ込め層106と、電流狭窄層107と、p型クラッド層109と、p側コンタクト層110と、p型電極111と、n型電極112とを有する。また、レーザ共振器端面には反射膜113を有する。
【0034】
図1に示すように、n型GaN基板101の主面は(1−100)面であり、<0001>方向に共振器が形成されている。さらにレーザ共振器端面は{0001}面であり、へき開又はドライエッチング等によって出射するレーザ光(発振光)と垂直に形成されている。
【0035】
次に、この窒化物半導体レーザ素子の層構造についてさらに詳しく説明する。n型GaN基板101上に、n側バッファ層102が形成されている。n側バッファ層102は、例えば、Siドープn型GaN(Si濃度4×1017cm−3、厚さ1μm=1000nm)からなる。
【0036】
Siドープn型GaNバッファ層102を覆うように、n型クラッド層103が形成されている。n型クラッド層103は、例えば、Siドープn型Al0.07Ga0.93N(Si濃度4×1017cm−3、厚さ2μm=2000nm)からなる。
【0037】
n型クラッド層103を覆うように、n型光閉じ込め層104が形成されている。n型光閉じ込め層104は、例えば、Siドープn型GaN(Si濃度4×1017cm−3、厚さ100nm)からなる。
【0038】
n型光閉じ込め層104を覆うように、量子井戸層105が形成されている。量子井戸層105は、例えば、In0.17Ga0.83N(厚さ3nm)井戸層とアンドープGaN(厚さ10nm)バリア層からなる2周期多重量子井戸(MQW:Multi−Quantum Well)層である。
【0039】
量子井戸層105を覆うように、キャップ層(不図示)及びp型光閉じ込め層106が形成されている。キャップ層は、例えば、Mgドープp型Al0.2Ga0.8Nからなる。また、p型光閉じ込め層106は、例えば、Mgドープp型GaN(Mg濃度1×1019cm−3、厚さ100nm)からなる。
【0040】
そして、p型光閉じ込め層106を覆うように、電流狭窄層107が形成されている。電流狭窄層107は、例えば、AlNからなる。
【0041】
電流狭窄層107を覆うようにp型クラッド層109が形成されている。p型クラッド層109は、例えば、Mgドープp型Al0.07Ga0.93N(Mg濃度1×1019cm−3、厚さ500nm)からなる。
【0042】
p型クラッド層109を覆うようにp側コンタクト層110が形成されている。p側コンタクト層110は、例えば、Mgドープp型GaN(Mg濃度2×1020cm−3以下、厚さ20nm)からなる。そして、p側コンタクト層110の上部には、p型電極111が設けられている。また、n型GaN基板101の下部には、n型電極112が設けられている。
【0043】
さらにレーザ共振器端面には反射膜113が形成されている。反射膜113は、例えばIn0.12Ga0.88N(厚さ40nm)/Al0.28Ga0.72N(厚さ47nm)8周期からなる。
【0044】
つづいて、本実施形態の半導体レーザ素子の製造方法について説明する。まず、n型クラッド層103と活性層105とp型クラッド層109とを基板101の無極性面(たとえば、(1−100)面に順に積層し、ダブルヘテロ構造を形成する。
【0045】
このとき、n型クラッド層103と活性層105との間にn型光閉じ込め層104を形成してもよい。また、活性層105とp型クラッド層109との間に、p型光閉じ込め層106と電流狭窄層107とを形成してもよい。
【0046】
電流狭窄層107は、以下の工程により形成することができる。まず、低温堆積により非結晶層を形成する。その後、エッチングにより、非結晶層にストライプ状の開口部を設ける。開口部は、光露光又は電子線露光などのリソグラフィーと、例えば、特許文献1に記載されている燐酸系含有液等を用いた選択エッチングとにより形成することができる。その後、非結晶層形成温度よりも高い温度でp型クラッド層109及びこれより上層を形成する。こうすることで、電流狭窄層107を非結晶層から結晶層へ変換することができる。このとき、開口部はp型クラッド層109で埋め込まれるが、製造工程の説明の便宜上、開口部であった部分を区別して埋込部108という。
【0047】
ついで、ダブルヘテロ構造の上部にp型電極111を形成し、基板101のダブルヘテロ構造が形成された面と反対面にn電極112を形成する。ついで、極性を有する面(たとえば、<0001>方向)にへき開し、活性層105を挟む一対の共振器端面を形成する。
【0048】
ついで、反射膜113を共振器端面に積層する。反射膜113は、たとえば、分子線エピタキシー(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法により形成することができる。InAlGa(1−x−y)N(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)からなる窒化物半導体からなる反射膜113を形成する場合、Ga、In、Alの原料には各メタルを通常のエフージョンセルを用いて分子線とし、窒素原料はRFプラズマセルにより窒素ラジカルビームとして供給する。Ga、In、Alの分子線強度及び窒素ラジカルビーム強度を調整することで、反射膜113の組成及び膜厚を制御することができる。
【0049】
つづいて、実施形態の作用効果について説明する。本実施形態では、極性を有する面に共振器端面を形成し、反射膜113をこの共振器端面上に形成し、吸収端波長を発振光の波長と略同一とする。こうすることで、反射膜113はピエゾ電界により分極電場を有し、光の吸収により分極電場をスクリーニングされることになる。そのため、発振光を吸収していない状態と発振光を吸収した状態とで反射膜113のバンドギャップを変化させることができる。さらに、反射膜113の吸収端波長が光の吸収により短波化させることにより、発振光の照射により反射膜113の吸収端波長が振動する。すなわち、反射膜113の光の吸収量を周期的に変動させることにより、反射膜113のミラーロスを周期的に変動させることができ、その結果、素子から出射されるレーザ光の波長が周期的に変動することになる。したがって、本実施形態の素子によれば、レーザ光の干渉性が低下するためスペックルノイズを低減することが可能となる。
【0050】
また、この半導体レーザ素子では、発振光を重ね合わせたり時空間的に位相を変化させたりするための光学素子を用いずにスペックルノイズを低減できる。したがって、光源の小型化や低コスト化が可能でかつ高性能な半導体レーザ素子を実現することができる。
【0051】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。たとえば、実施形態では、反射膜は、共振器端面と同じ結晶軸方向、すなわち、C軸方向[0001]方向に配向させる例を示した。しかしながら、極性を有する面であればよく、(1−101)面や(11−22)面などの半極性面であってもよい。また、実施形態で示すように(0001)面を共振器端面として用いることで、反射膜113に良好な内部電場をかけることができるが、共振器端面は、面方位が<0001>成分を含む、半極性面または極性面であればよい。また、レーザ端面の{0001}面以外の{0001}面とのなす角が90度未満の半極性面としてもよい。n型をp型としてもよくp型をn型としてもよい。また、実施形態では基板にダブルヘテロ構造を形成する例を挙げて説明したが、テンプレート上にダブルヘテロ構造を形成してもよい。
【0052】
また、基板主面の面方位をm面としたが、共振器端面の面方位が<0001>成分を含む、半極性または極性面であれば、基板主面の面方位は他の面でも本発明の効果を得ることができる。したがって、基板主面を{0001}面(c面)、レーザ端面もc面で構成される面発光レーザの場合にも、反射膜と活性層との適当な組み合わせによって同様な効果を発生されることが可能である。具体的には、上記実施形態における、基板主面の{1−100}面に代えて{11−20}面、{11−22}面、{1−101}面としてもよい。ただし、ダブルヘテロ構造部を半導体基板の無極性面に形成させることで、発振光の波長を安定して一定にすることができるため好ましい。
【0053】
また、共振器端面の少なくとも一方が極性を有する面であればよく、反射膜が極性を有する共振器端面に形成されている限りにおいて、反射膜は共振器端面の少なくとも一方の面に設けられていればよい。さらに、半導体レーザ素子の波長、材料、組成についても実施形態に挙げたもの以外を選ぶことが可能である。
【実施例】
【0054】
(実施例)
以下に、図1を参照して、本発明に係る具体的な実施例について説明する。n型キャリアSi濃度が1×1018cm−3程度のn型GaN(1−100)基板101を用いた。
【0055】
有機金属気相化学堆積(MOVPE:Metal−Organic Vapor Phase Epitaxy)法を用いて、400hPaの減圧下で、n型GaN基板101上へ素子構造を形成した。キャリアガスには水素と窒素の混合ガスを用いた。Ga、Al、Inの供給源としては、各々トリメチルガリウム(TMG)、トリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルインジウム(TMI)を用いた。n型ドーパントSiの供給源としてはシラン(SiH)、p型ドーパントMgの供給源としてはビスシクロペンタジエニルマグネシウム(CpMg)を用いた。
【0056】
まず、n型クラッド層103、活性層、p型クラッド層109及び電流狭窄層107のための非結晶AlN等の結晶成長を行った。以下、この工程を「活性層成長工程」という。n型GaN基板101を成長装置に投入後、NHを供給しながら基板を昇温し、成長温度まで達した時点で成長を開始した。Siドープn型GaNバッファ層102(Si濃度4×1017cm−3、厚さ1μm)、Siドープn型Al0.07Ga0.93N(Si濃度4×1017cm−3、厚さ2μm)からなるn型クラッド層103、Siドープn型GaN(Si濃度4×1017cm−3、厚さ0.1μm)からなるn型光閉じ込め層104、In0.2Ga0.8N(厚さ3nm)井戸層とアンドープGaN(厚さ10nm)バリア層からなる2周期多重量子井戸(DQW)層105、Mgドープp型Al0.2Ga0.8Nからなるキャップ層(図示せず)、Mgドープp型GaN(Mg濃度2×1019cm−3、厚さ0.1μm)からなるp型光閉じ込め層106を順次堆積した。
【0057】
ここで、GaN成長は、基板温度1080℃、TMG供給量58μmol/min、NH供給量0.36mol/min、AlGaN成長は、基板温度1080℃、TMA供給量49μmol/min、TMG供給量58μmol/min、NH供給量0.36mol/minにて行った。InGaNのMQW成長は、基板温度800℃、TMG供給量8μmol/min、NH供給量0.36mol/minにおいて、TMIn供給量は井戸層で48μmol/min、バリア層で3μmol/minとした。これらの構造を堆積後、基板温度を400℃程度まで降温し、非結晶AlN層(後に結晶化して電流狭窄層107となる)の堆積を行った。非結晶AlN層堆積時のTMAおよびNH供給量はそれぞれ36μmol/min、0.36mol/minとし、堆積膜厚は0.1μmとした。
【0058】
次に、上記非結晶AlN層に<0001>方向に伸びるストライプ開口部108を形成した。以下この工程を「ストライプ形成工程」という。非結晶AlN層上にSiOを100nm堆積し、レジストを塗布した後、フォトリソグラフィーにより幅1.5μmのストライプパターンを形成した。
【0059】
次に、バッファードフッ酸によりレジストをマスクとしてSiOをエッチング後、レジストを有機溶媒により除去し、水洗を行った。非結晶AlN層はバッファードフッ酸、有機溶媒、水洗の各工程でエッチングまたは損傷を受けることはなかった。次に、SiOをマスクとして非結晶AlN層のエッチングを行った。エッチング液にはリン酸と硫酸を体積比1:1の割合で混合した溶液を用いた。SiOマスクでカバーされていない領域の非結晶AlN層は、90℃に保持した前記溶液中8.5分間のエッチングにより除去された。その後、バッファードフッ酸により、マスクとして用いたSiOを除去した。以上により、非結晶AlN層に1.5μm幅のストライプ状の開口部を形成した。
【0060】
開口部が形成された非結晶AlN層上に、p型AlGaNクラッド層109の埋め込み再成長を行った。以下、この工程を「p型クラッド層再成長工程」という。MOVPE装置に投入後、NH供給量0.36mol/minにて成長温度である1100℃まで昇温した。1100℃に達した後、Mgドープp型Al0.07Ga0.93N(Mg濃度1×1019cm−3、厚さ0.5μm)からなるp型クラッド層109を堆積した。これにより、開口部はp型クラッド層109で埋め込まれた。製造工程の説明の便宜上、開口部であった部分を区別して埋込部108という。その後、基板温度を1080℃に下げてからMgドープp型GaN(Mg濃度1×1020cm−3、厚さ0.02μm)からなるp型コンタクト層110を堆積した。AlGaN、GaNの堆積条件はドーパントの違いを除き、先に述べた活性層成長工程と同様とした。
【0061】
以上により得られたレーザダイオード(LD)ウエハの上部にp型電極111、下部にn型電極112を真空蒸着法により形成した。この工程を「電極形成工程」という。電極形成後、ストライプ状の埋込部108に垂直な方向に劈開しLDバーとした。典型的な素子長は500μmとした。
【0062】
次に得られたLDバーを分子線エピタキシー(MBE:Molecular Beam Epitaxy)装置に投入し、反射膜113を形成した。MBE装置投入後、基板温度は約700℃程度に設定し、Ga、In、Alの原料には純度7Nの各メタルを通常のエフージョンセルを用いて分子線とし、窒素原料はRFプラズマセルにより窒素ラジカルビームとして基板上に供給した。各原料の分子線強度は各二元III族窒化物の成長速度換算でGaNが1μm/h、InNが0.12μm/h、AlNが0.28μm/hとなるように調整し、また窒素ラジカルビーム強度は、V/III比がほぼ1となるように調整した。以上の条件により、レーザ共振器端面にIn0.12Ga0.88N(厚さ40nm)/Al0.28Ga0.72N(厚さ47nm)8周期からなる反射膜113を形成した。以上の工程により、LDチップを得た。
【0063】
(比較例)
図6で示すLDチップを作成した。図示するように、共振器端面に反射膜113を形成しない以外は、実施例と同様の構造を有する。作製方法も反射膜113を形成しない以外は実施例と同じである。
【0064】
(評価)
実施例及び比較例で得られたLDチップをそれぞれヒートシンクに融着し発光特性を調べた。その結果、実施例のLDチップは、電流密度4.0kA/cm、電圧5.0Vで中心波長450nmの縦マルチモードでレーザ発振した。また、20MHz周期で中心波長が455nmと445nmの間で振動していることが確認された。AEは460nmであり、AEは450nmであった。一方、比較例のLDチップの発振スペクトルは、中心波長445nmで一定であり、波長の振動は観測されなかった。
【0065】
以上、本発明の構成について説明したが、本発明は、これに限られず様々な態様を含む。以下はその例示である。
(1)III族窒化物半導体レーザであって、少なくとも一方のレーザ端面が極性を有する面からなり、その上に極性を有する反射膜が形成されていることを特徴とするIII族窒化物半導体レーザ。
(2)前記半導体レーザの反射膜が前記レーザ端面と同じ結晶軸方向に配向していることを特徴とする(1)の窒化物半導体レーザ。
(3)前記半導体レーザの反射膜が単結晶であることを特徴とする(1)または(2)の窒化物半導体レーザ。
(4)前記半導体レーザの反射膜の吸収端ミラーロススペクトルが、レーザ発振光の照射によって高エネルギー側にシフトすることを特徴とする(1)から(3)の窒化物半導体レーザ。
(5)前記半導体レーザの発振波長が動作中に変動することを特徴とする(1)から(4)の窒化物半導体レーザ。
(6)前記半導体レーザの発振波長の変動が周期的であることを特徴とする(1)から(5)の窒化物半導体レーザ。
(7)前記半導体レーザが{1−100}面基板上に作製されていることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のIII族窒化物半導体レーザ。
(8)前記半導体レーザが{11−20}面基板上に作製されていることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のIII族窒化物半導体レーザ。
(9)前記半導体レーザが{11−22}面基板上に作製されていることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のIII族窒化物半導体レーザ。
(10)前記半導体レーザが{0001}面基板上に作製されていることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のIII族窒化物半導体レーザ。
(11)前記半導体レーザの少なくとも何れか一方のレーザ端面が(0001)面であることを特徴とする(1)〜(10)のいずれかに記載のIII族窒化物半導体レーザ。
【符号の説明】
【0066】
101 n型基板
102 n型バッファ層
103 n型クラッド層
104 n型光閉じ込め層
105 活性層(量子井戸層)
106 p型光閉じ込め層
107 p型電流狭窄層
108 埋込部
109 p型クラッド層
110 p型コンタクト層
111 p型電極
112 n型電極
113 反射膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一のクラッド層と活性層と第二のクラッド層とを順に積層したダブルヘテロ構造部と、
前記活性層を挟んで形成された一対の共振器端面と、
少なくとも一の前記共振器端面に形成され、前記共振器端面から発振される発振光を吸収する反射膜と、
を備え、
少なくとも前記活性層及び前記反射膜がウルツ鉱型半導体からなり、
前記共振器端面が、極性を有する面に形成され、
前記活性層のバンドギャップをEgavとし、前記反射膜のバンドギャップをEgとしたとき、下記式(1)を満たす、半導体レーザ素子。
(1)1×Eg≦Egav≦1.2×Eg
【請求項2】
前記活性層及び前記反射膜の材料が同一の元素からなる請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項3】
前記活性層及び前記反射膜が、InGa1−zN(0<z<1)を含む、請求項1または2に記載の半導体レーザ素子。
【請求項4】
レーザ発振が開始する前の初期状態において、前記反射膜の吸収端波長と発振光の波長とが略同一であり、発振光が照射されることにより前記反射膜が振動する、請求項1乃至3いずれかに記載の半導体レーザ素子。
【請求項5】
前記反射膜が共振器方向に積層されている、請求項1乃至4いずれかに記載の半導体レーザ素子。
【請求項6】
前記反射膜が単結晶である、請求項1乃至5いずれかに記載の半導体レーザ素子。
【請求項7】
前記ウルツ鉱型半導体が窒化物半導体である、請求項1乃至6いずれかに記載の半導体レーザ素子。
【請求項8】
前記活性層及び前記反射膜は、ヘテロ構造からなる、請求項1乃至7いずれかに記載の半導体レーザ素子。
【請求項9】
前記ヘテロ構造は、InGa1−zN(0<z<1)及びAlGa1−nN(0<n<1)で構成される、請求項8に記載の半導体レーザ素子。
【請求項10】
前記ダブルヘテロ構造部が半導体基板の無極性面に形成されている、請求項1乃至9いずれかに記載の半導体レーザ素子。
【請求項11】
前記反射膜が形成された前記共振器端面がウルツ鉱型半導体結晶の(0001)面に形成されている、請求項1乃至10いずれかに記載の半導体レーザ素子。
【請求項12】
前記ダブルヘテロ構造部が半導体基板の{1−100}面に形成されている、請求項1乃至11いずれかに記載の半導体レーザ素子。
【請求項13】
前記ダブルヘテロ構造部が半導体基板の{11−20}面に形成されている、請求項1乃至11いずれかに記載の半導体レーザ素子。
【請求項14】
前記ダブルヘテロ構造部が半導体基板の{11−22}面に形成されている、請求項1乃至11いずれかに記載の半導体レーザ素子。
【請求項15】
前記ダブルヘテロ構造部が半導体基板の{0001}面に形成されている、請求項1乃至11いずれかに記載の半導体レーザ素子。
【請求項16】
第一のクラッド層と活性層と第二のクラッド層とを順に積層する工程と、
前記活性層を挟む一対の共振器端面を形成する工程と、
前記共振器端面から発振される発振光を吸収する反射膜を少なくとも一の前記共振器端面に積層する工程と、
を含み、
少なくとも前記活性層及び前記反射膜をウルツ鉱型半導体で形成し、
前記共振器端面を形成する前記工程において、前記共振器端面を極性を有する面に形成し、前記活性層のバンドギャップをEgavとし、前記反射膜のバンドギャップをEgとしたとき、下記式(1)を満たす、半導体レーザ素子の製造方法。
(1)1×Eg≦Egav≦1.2×Eg

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−232425(P2010−232425A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78362(P2009−78362)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「エネルギー使用合理化技術戦略的開発/エネルギー有効利用基盤技術先導研究開発/ディスプレイ用可視光半導体レーザの研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】