説明

半導体粒子蛍光体およびその製造方法

【課題】 結晶粒子の表面欠陥をキャッピングすることによって、発光効率が高く信頼性に優れた半導体粒子蛍光体、およびその簡便な製造方法を提供する。
【解決手段】 13族元素と窒素原子との結合を含む結晶粒子に、少なくとも窒素原子と炭素原子との結合を含む修飾修飾有機化合物で被覆してなることを特徴とする、半導体粒子蛍光体を提供する。
また、13族元素と窒素原子との結合を含む結晶粒子に、少なくとも窒素原子と炭素原子との結合を含む修飾有機化合物で被覆してなる半導体粒子蛍光体の製造方法であって、13族元素化合物と、前記修飾有機化合物とを混合した合成溶液を加熱する工程を含むことを特徴とする、半導体粒子蛍光体の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体粒子蛍光体およびその製造方法に関し、詳しくは、発光強度、発光効率を向上させた半導体粒子蛍光体、および合成手順が簡便であり、合成収率が高い半導体粒子蛍光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体結晶粒子(以下「結晶粒子」という。)を励起子ボーア半径程度に小さくすると、量子サイズ効果を示すことが分かっている。量子サイズ効果とは、物質の大きさが小さくなると、その中の電子は自由に運動できなくなることである。このような状態では、電子のエネルギーは任意ではなく、特定の値しか取り得なくなる。たとえば、励起子ボーア半径程度の結晶粒子から発生する光の波長は寸法が小さくなるほど短波長になる。
【0003】
しかし、このような効果が現れる結晶粒子の表面はタングリングボンド(未結合手)が支配的であるため、結晶粒子をそのバンドギャップ(バンド間のエネルギーギャップをいう、以下同じ)より大きなバンドギャップを有する材料で覆うことにより、結晶粒子表面欠陥をキャッピングする技術が提案されている(非特許文献1)。上記非特許文献1は、半導体コアとしてInAs、半導体シェルとしてGaAs、InP、CdSeを用いて、半導体コア/半導体シェル構造をとることを提案している。
【0004】
また、さらにワイドギャップの結晶粒子として窒化物系半導体の微粒子合成の試みがなされている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2002−220213号公報
【非特許文献1】Yun Wei Cao and Uri Banin著(Journal of American Chemical Society 2000,122,9692−9702)American Chemical Society出版
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1に記載されている種々の半導体シェルで被覆されているInAsコアは、主に近赤外領域での発光波長を有している。したがって励起光源としてGaN系半導体の発光素子により励起されて赤色、緑色、青色の蛍光を示すことができず、これらを混色して白色発光を得ることはできない。また、非特許文献1に記載されている半導体コア/半導体シェル構造の製造方法は一旦半導体コアを製造し、次に半導体コア表面上に半導体シェルを製造する2段階の製造方法を採っている。
【0006】
また、特許文献1に記載の窒化物系半導体は、表面修飾されておらず、結晶粒子は表面欠陥により、発光の際の内部量子効率(以下、発光効率という。)が低下する。さらに、結晶粒子は表面修飾されていないため凝集してしまい、結晶粒子界面での欠陥により発光効率が低下する。また、結晶粒子の粒子径制御方法は、反応温度・反応時間にのみ依存している。
【0007】
本発明は、上記状況に鑑み、結晶粒子の表面欠陥をキャッピングすることによって、発光効率が高く信頼性に優れた半導体粒子蛍光体、およびその簡便な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、13族元素と窒素原子との結合を含む結晶粒子に、少なくとも窒素原子と炭素原子との結合を含む修飾有機化合物で被覆してなることを特徴とする、半導体粒子蛍光体に関する。また、本発明は、前記結晶粒子の13族元素が、2種以上の元素からなることが望ましい。また、本発明は、前記表面修飾分子の窒素原子は、前記結晶粒子の13族元素に、配位することが望ましい。前記修飾有機化合物がアミンであることが望ましい。また、本発明は、前記結晶粒子の粒径が、励起子ボーア半径の2倍以下であることが望ましい。
【0009】
また、本発明は、13族元素と窒素原子との結合を含む結晶粒子に、少なくとも窒素原子と炭素原子との結合を含む修飾有機化合物で被覆してなる半導体粒子蛍光体の製造方法であって、13族元素化合物と、前記修飾有機化合物とを混合した合成溶液を加熱する工程を含むことを特徴とする、半導体粒子蛍光体の製造方法に関する。また、本発明は、前記13族元素は、Inおよび/もしくはGaであることを特徴とする、半導体粒子蛍光体の製造方法であることが望ましい。また、本発明は、前記合成溶液溶媒として、炭化水素系を用いることを特徴とする半導体粒子蛍光体の製造方法であることが望ましい。
【0010】
また、本発明は、前記合成溶液を加熱する温度が、180〜500℃であることを特徴とすることが望ましい。また、本発明は、前記合成溶液を加熱する時間が、6〜72時間であることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
ワイドギャップの半導体粒子蛍光体として、結晶粒子表面を窒素原子と炭素原子を有する修飾有機化合物で被覆することにより、結晶粒子の表面欠陥をキャッピングでき、発光強度および発光効率を向上することが可能である。該修飾有機化合物は、分子中に窒素原子と炭素原子との結合により窒素原子−炭素原子間での電気的極性が生じ、結晶粒子表面に強固に付着することが可能である。
【0012】
また、結晶粒子は13族元素の混晶とすることで、発光波長を制御することができ、赤色、緑色、青色発光が可能となり、これらを混色して白色発光を得ることが可能である。
【0013】
また、修飾有機化合物に含まれる窒素原子が結晶粒子の13族元素に配位することにより、結晶粒子表面の13族元素の未結合手による欠陥をキャッピングできる。
【0014】
また、アミンは窒素元素と炭素鎖である有機基とを有するため、結晶粒子に窒素原子が配位することにより有機基を半導体粒子蛍光体の外側に向けるため結晶粒子の凝集を防ぐ。
【0015】
また、結晶粒子の粒径がボーア半径の2倍以下であれば、量子サイズ効果が顕著になるので、発光効率が増大する。
【0016】
本発明の蛍光体の製造方法によれば、合成溶媒中で反応することにより、気相合成より工程が少なく、かつ液相で半導体粒子蛍光体を1段階で合成することができ、大量合成が可能になる。
【0017】
また、13族元素化合物が、Ga−N−In結合を有するため、製造される結晶粒子であるInGaN混晶の組成比の制御が容易である。
【0018】
また、炭化水素系溶媒を用いることにより、合成溶液中に水や空気の混入が少ないため、結晶粒子内に酸素の混入がない。また、合成温度が180〜500℃であるので、気相合成に比べ低温で合成でき、操作が簡便である。また、合成時間が、6〜72時間であることにより、結晶粒子は十分に結晶性が高く、欠陥が少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
<結晶粒子>
本発明の結晶粒子は、半導体の粒子であり、13族元素(B、Al、Ga、In、Tl)の少なくとも1以上と窒素原子の結合からなる。特に好ましくは、GaN、InN、AlN、InGaN、InAlN、GaAlN、InAlGaNである。
【0020】
当該結晶粒子には意図しない不純物を含んでいてもよく、また低濃度であれば、ドーパントとして2族元素(Be、Mg、Ca、Sr、Ba)、ZnあるいはSiの少なくともいずれかを意図的に添加していてもよい。濃度範囲は1×1016cm-3から1×1021cm-3の間が特に好ましく、また好ましく用いられるドーパントは、Mg、Zn、Siである。
【0021】
当該結晶粒子は、上記の組成のみからなる単一粒子構造であっても、異なる組成の1以上の半導体シェルによって包含された半導体コア/半導体シェル構造であってもよい。
【0022】
当該結晶粒子が、半導体コア/半導体シェル構造であるときは、半導体コアは、最もバンドギャップの小さい組成の半導体、例えばInNとすることが望ましい。また、半導体シェル(半導体シェルが2以上の積層体である場合には、内殻側から第1シェル、第2シェルと呼称)のバンドギャップは、半導体コアよりも大きいことが好ましい。半導体シェルは半導体コアの内殻を全て包含している必要はなく、また被覆厚みに分布があってもよい。
【0023】
本発明の結晶粒子が半導体コア/半導体シェル構造である場合には、TEM観察を行ない、高倍率での観察像により、格子像を確認することで半導体コアの粒子径および半導体シェルの厚さを確認できる。
【0024】
本発明の半導体コアの平均粒子径は、X線回析測定の結果スペクトル半値幅より通常5〜6nmと見積もられ、これは励起子ボーア半径の2倍以下の微粒子であり、半導体シェルの厚さは1〜10nmの範囲に調整される。ここで半導体シェルの厚さが1nmより小さいと半導体コアの表面を十分に被覆できず、また量子閉じ込めの効果が弱くなるため、好ましくない。一方10nmより大きいとシェルを均一に作ることが難しくなり欠陥が増え、原材料コストの面においても望ましくない。
【0025】
本発明において、結晶粒子を半導体コア/半導体シェル構造にした場合に、半導体励起光のエネルギーは、外層の半導体シェルによって吸収され、ついで半導体シェルによって周囲を囲まれた半導体コアに遷移する。ここで半導体コアの粒子径は、量子サイズ効果を有する程度に小さいので、半導体コアは離散化した複数のエネルギー準位のみとり得るが、一つの準位になる場合もある。半導体コアに遷移した光エネルギーは、伝導帯の基底準位と価電子帯の基底準位との間で遷移し、そのエネルギーに相当する波長の光が発光する。
【0026】
結晶粒子(結晶粒子が半導体コア/半導体シェル構造の時は、半導体コア)のバンドギャップは、1.8〜2.8eVの範囲にあることが好ましく、赤色蛍光体として用いる場合には1.85〜2.5eV、緑色蛍光体として用いる場合には2.3〜2.5eV、青色蛍光体として用いる場合には2.65〜2.8eVの範囲が特に好ましい。なお、13族金属の混晶の割合を調整することで蛍光体の色を決定する。
【0027】
結晶粒子の粒径は、0.1nm〜10μmの範囲であることが好ましく、0.5nm〜1μmの範囲が特に好ましく、1〜20nmの範囲が更に好ましい。
【0028】
結晶粒子径(結晶粒子が半導体コア/半導体シェル構造の時は、半導体コア径)が励起子ボーア半径の2倍以下では、発光強度が極端に向上する。ボーア半径とは、励起子の存在確率の広がりを示すもので、数式(1)で表される。たとえば、GaNの励起子ボーア半径は3nm程度、InNの励起子ボーア半径は7nm程度である。
【0029】
【数1】

【0030】
ここで
y:ボーア半径、
ε:誘電率、
h:プランク定数、
m:有効質量、
e:電荷素量
である。
【0031】
結晶粒子を蛍光体として用いる場合、粒径が励起子ボーア半径の2倍以下になると量子サイズ効果により光学的バンドギャップが広がるが、その場合でも上述のバンドギャップ範囲にあることが好ましい。
<半導体粒子蛍光体>
以下、本発明による半導体粒子蛍光体の構造を図1に基づき説明する。本発明による半導体粒子蛍光体10は、前記結晶粒子11を前記修飾有機化合物12で被覆して構成される。この被覆には、結晶粒子に修飾有機化合物の窒素原子が配位結合するような化学結合と、物理吸着による結合の双方が寄与すると考えられる。
【0032】
ここで修飾有機化合物は、分子中に親水基と疎水基を持つ化合物と定義される。
修飾有機化合物として望ましくは、疎水基としての非極性炭化水素末端と、親水基としてのアミノ基を持つ化合物であるアミンがあげられる。その具体例としては、ブチルアミン、t−ブチルアミン、イソブチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリイソブチルアミン、トリエチルアミン、ジエチルアミン、ヘキシルアミン、ジメチルアミン、ラウリルアミン、オクチルアミン、テトラデシルアミン、トリオクチルアミンなどがある。
【0033】
修飾有機化合物12はワイドギャップの結晶粒子11を被覆することによって、結晶粒子11表面欠陥がキャッピングされ、発光強度および発光効率を向上する。また、修飾有機化合物12は、窒素原子−炭素原子間での電気的極性が生じ、結晶粒子11表面に強固に付着すると考えられる。
【0034】
また、修飾有機化合物12に含まれる窒素原子が結晶粒子11の13族元素に配位することにより、結晶粒子11表面の13族元素の未結合手による欠陥をキャッピングできると考えられる。
<13族元素化合物の製造方法>
本発明において、13族元素化合物は、結晶粒子の前駆体である。以下、分子中にインジウム原子と窒素原子との結合および、ガリウム原子と窒素原子との結合を有する化合物を用いた結晶粒子の前駆体の製造方法を例に以下説明する。下記化学反応式(1)〜(3)により、トリス(ジメチルアミノ)インジウムダイマー、トリス(ジメチルアミノ)ガリウムダイマーおよびヘキサ(ジメチルアミノ)インジウム・ガリウムを合成することができる。
【0035】
リチウムジメチルアミドと三塩化インジウムを、n−ヘキサンの溶媒中で攪拌しながら、反応温度5〜30℃、さらに望ましくは10〜25℃で、反応時間は24〜120時間、さらに好ましくは48〜72時間である。反応終了後、副生成物である塩化リチウムを取り除き、トリス(ジメチルアミノ)インジウムダイマーを取り出す。この反応を化学式(1)で示す。
【0036】
【化1】

【0037】
同様の方法で、リチウムジメチルアミドと三塩化ガリウムを、n−ヘキサン溶媒中で攪拌しながら、トリス(ジメチルアミノ)ガリウムダイマーを合成する。この反応を化学式(2)で示す。
【0038】
【化2】

【0039】
次に上記の方法により合成したトリス(ジメチルアミノ)インジウムダイマーとトリス(ジメチルアミノ)ガリウムダイマーを、n−ヘキサン溶媒中で攪拌しながら、合成温度5〜30℃、さらに望ましくは10〜25℃で、24〜120時間、さらに好ましくは48〜72時間、反応を行ない、ヘキサ(ジメチルアミノ)インジウム・ガリウムを取り出す。この反応を化学式(3)で示す。
【0040】
【化3】

【0041】
リチウムジメチルアミドと生成物のトリス(ジメチルアミノ)インジウムダイマー、トリス(ジメチルアミノ)ガリウムダイマーおよびヘキサ(ジメチルアミノ)インジウム・ガリウムは反応性が高いので全て不活性ガス雰囲気中で行なうのが好ましい。
<半導体粒子蛍光体の製造方法>
≪結晶粒子が単一粒子構造である場合≫
ヘキサ(ジメチルアミノ)インジウム・ガリウムとトリス(ジメチルアミノ)ガリウムダイマーとを、結晶粒子の前駆体として任意の比率で0.1〜10質量%、修飾有機化合物を1〜50質量%含むベンゼンの溶液に溶解させ(半導体粒子蛍光体の成長)、十分に攪拌した後、反応を行なう。
【0042】
この反応は、不活性ガス雰囲気中で行ない、合成温度180〜500℃、さらに望ましくは280〜400℃で、6〜72時間、さらに好ましくは12〜48時間、攪拌しながら、加熱を行なう。次に、有機不純物を除去するために、n−へキサンと無水メタノールで数回洗浄を行なう。
【0043】
また、この反応は、窒化インジウム・ガリウム混晶結晶粒子の形成と、それを修飾有機化合物で被覆して形成される半導体粒子蛍光体の形成が同時に進行する。
【0044】
これにより、修飾有機化合物で被覆された窒化インジウム・ガリウム混晶半導体粒子蛍光体を得ることができる。
【0045】
また、修飾有機化合物の混合量を減らすことにより、表面修飾力が弱くなり、窒化インジウム・ガリウム混晶結晶粒子を大きくすることができ、逆に修飾有機化合物の混合量を増やすことにより、窒化インジウム・ガリウム混晶結晶粒子を小さくすることができる。
【0046】
これは、窒素原子と炭素原子との結合を有する修飾有機化合物が、界面活性剤としての働きも有することに由来すると考えられる。つまり、溶媒中での濃度が高くなるにしたがって、修飾有機化合物は凝縮しやすくなり、これに伴って、結晶粒子が製造過程で小さくなるものと考えられる。
【0047】
図2において、本発明の半導体粒子蛍光体の製造方法のフローを示す。前記13族元素化合物を、修飾有機化合物を含む炭化水素系溶媒に溶解し、この混合物を加熱して1段階で反応させ、任意的な冷却回収工程を経て修飾有機化合物で被覆されたの半導体粒子蛍光体を製造する。
【0048】
また、本発明において、修飾有機化合物とその原料は、化学物質として同じである。したがって、製造工程で用いる修飾有機化合物としては、疎水基としての非極性炭化水素末端と、親水基としてのアミノ基を持つ化合物であるアミンであることが望ましい。その具体例としてブチルアミン、t−ブチルアミン、イソブチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリイソブチルアミン、トリエチルアミン、ジエチルアミン、ヘキシルアミン、ジメチルアミン、ラウリルアミン、オクチルアミン、テトラデシルアミン、トリオクチルアミンなどがある。
【0049】
また、本発明においては、炭素原子と水素原子だけからなる化合物溶液を炭化水素系溶媒と呼ぶこととする。炭化水素系溶媒の例としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレンなどがある。
【0050】
≪結晶粒子が半導体コア/半導体シェル構造である場合≫
前記方法で製造した、炭化水素系溶媒に溶解している、結晶粒子が単一粒子構造である半導体粒子蛍光体に対して、ヘキサ(ジメチルアミノ)インジウム・ガリウムとトリス(ジメチルアミノ)ガリウムダイマーとを、任意の比率であわせて0.1〜10質量%混合する。また、同時に修飾有機化合物を1〜50質量%混合し、十分に攪拌した後、反応を行なう。
【0051】
この反応は、不活性ガス雰囲気中で行ない、合成温度180〜500℃、さらに望ましくは280〜400℃で、6〜72時間、さらに好ましくは12〜48時間、攪拌しながら、加熱を行なう。反応後に、有機不純物を除去するために、n−へキサンと無水メタノールで数回洗浄を行なう。
【0052】
この反応によって、半導体粒子蛍光体の単一粒子構造である結晶粒子を半導体コアとして、添加したヘキサ(ジメチルアミノ)インジウム・ガリウムとトリス(ジメチルアミノ)ガリウムダイマーを材料にして、半導体シェルが成長し、半導体コア/半導体シェル構造が形成される。
【0053】
また、この反応は、窒化インジウム・ガリウム混晶半導体コア/半導体シェル構造結晶粒子の形成と、それを修飾有機化合物で被覆して形成される半導体粒子蛍光体の形成が同時に進行する。
【0054】
なお、この操作を繰り返すことによって、半導体シェルを何層にもすることが可能である。
【0055】
これにより、修飾有機化合物で被覆された半導体コア/半導体シェル構造の結晶粒子からなる、窒化インジウム・ガリウム混晶半導体粒子蛍光体を得ることができる。
【実施例】
【0056】
(実施例1)
前記化学式(1)〜(3)により、ヘキサ(ジメチルアミノ)インジウム・ガリウムを合成することができる。
【0057】
なおリチウムジメチルアミドと生成物のトリス(ジメチルアミノ)インジウムダイマー、トリス(ジメチルアミノ)ガリウムダイマーおよびヘキサ(ジメチルアミノ)インジウム・ガリウムは反応性が高いので全て窒素ガス雰囲気中で行なった。
【0058】
まず、グローブボックス内で、リチウムジメチルアミド0.03モルと三塩化インジム0.01モルを秤量し、n−ヘキサン中で攪拌しながら、加熱温度20℃で、50時間反応を行なった。反応終了後、副生成物である塩化リチウムを取り除き、トリス(ジメチルアミノ)インジウムダイマーを取り出した(化学式(1))。
【0059】
同様の方法により、トリス(ジメチルアミノ)ガリウムダイマーを合成した(化学式(2))。さらに、上記の方法により合成したトリス(ジメチルアミノ)インジウムダイマー0.005モルとトリス(ジメチルアミノ)ガリウムダイマー0.005モルを秤量し、n−ヘキサン中で攪拌しながら、加熱温度20℃で、50時間反応を行なった。その後、ヘキサ(ジメチルアミノ)インジウム・ガリウムを取り出した(化学式(3))。
【0060】
次に、ヘキサ(ジメチルアミノ)インジウム・ガリウム0.02モルとトリス(ジメチルアミノ)ガリウムダイマー0.03モルとを、トリオクチルアミン30g、ベンゼン200mlの溶液に溶解させ、十分に攪拌した後、反応を行なった(化学式(4))。
【0061】
【化4】

【0062】
この反応は、窒化インジウム・ガリウム混晶結晶粒子の形成と、それを修飾有機化合物で被覆して形成される半導体粒子蛍光体の形成が同時に進行し、In0.2Ga0.8N/nN(C8173(修飾有機化合物で被覆された半導体粒子半導体構造)を形成した。
【0063】
この反応は、窒素ガス雰囲気下で行ない、合成温度320℃、合成時間12時間で加熱を行なった。加熱中は、攪拌子を用いて攪拌しつづけた。次に、有機不純物を除去するために、n−ヘキサンと無水メタノールで3回洗浄を行なった。
【0064】
この実施例で得られた半導体粒子蛍光体は窒化インジウム・ガリウム混晶半導体粒子蛍光体であり、この蛍光体において、13族窒化物からなる青色発光素子を励起光源として用いることができ、特に外部量子効率の高い405nmの発光を効率よく吸収できる。また、In0.2Ga0.8N結晶粒子は、発光波長が460nmとなるようにIn組成比が調整されているため、青色発光を示すことができる。さらに、得られた蛍光体のX線回折測定の結果、スペクトル半値幅より見積もられた窒化物半導体粒子の平均粒径(直径)は、Scherrerの式(数式(2))を用いると5nmと見積もられ、量子サイズ効果を示し、発光効率は向上した。また、この実施例で得られた蛍光体の収率は95%であった。
【0065】
【数2】

【0066】
ここで
B:X線半値幅[deg]、
λ:X線の波長[nm]、
Θ:Bragg角[deg]、
R:粒子径[nm]
を示す。
【0067】
(実施例2)
修飾有機化合物で被覆された窒化インジウム・ガリウム混晶半導体粒子蛍光体を合成する手法であって、修飾有機化合物として、トリオクチルアミン5gを用いること以外は、実施例1と同様の製造方法によって、半導体粒子青色蛍光体を得ることができた。得られた蛍光体は、特に外部量子効率の高い405nmの発光を効率よく吸収できた。また、結晶粒子は、発光波長が470nmだった。
【0068】
X線回折測定の結果、スペクトル半値幅より見積もられた結晶粒子の平均粒径(直径)は、Scherrerの式を用いると50nmと見積もられ、発光ピーク強度は従来の窒化インジウム半導体粒子蛍光体に比べ約5倍に向上した。本実施例の製造方法においては、修飾有機化合物であるトリオクチルアミンの混合量を減らすことにより、表面修飾力が弱くなり、窒化インジウム・ガリウム混晶結晶粒子が大きくなったと考えられる。
【0069】
(実施例3)
修飾有機化合物で被覆された窒化インジウム半導体粒子蛍光体を合成する手法であって、結晶粒子の前駆体である13族元素化合物として、トリス(ジメチルアミノ)インジウムダイマー0.1モルを用いること以外は、実施例1と同様の製造方法によって、半導体粒子赤色蛍光体を得ることができた。得られた蛍光体は、特に外部量子効率の高い405nmの発光を効率よく吸収できた。また、結晶粒子は、発光波長が620nmだった。
【0070】
X線回折測定の結果、スペクトル半値幅より見積もられた結晶粒子の平均粒径(直径)は、Scherrerの式を用いると5nmと見積もられ、量子サイズ効果を示し、発光ピーク強度は従来の窒化インジウム半導体粒子蛍光体に比べ約20倍に向上した。
【0071】
(実施例4)
修飾有機化合物で被覆された窒化ガリウム半導体粒子蛍光体を合成する手法であって、結晶粒子の前駆体である13族元素化合物として、トリス(ジメチルアミノ)ガリウムダイマー0.1モルを用いること以外は、実施例1と同様の製造方法によって、半導体粒子
蛍光体を得ることができた。
【0072】
X線回折測定の結果、スペクトル半値幅より見積もられた結晶粒子の平均粒径(直径)は、Scherrerの式を用いると5nmと見積もられ、量子サイズ効果を示し、発光ピーク強度は従来の窒化ガリウム半導体粒子蛍光体に比べ約20倍向上した。
【0073】
(実施例5)
修飾有機化合物で被覆された窒化インジウム・ガリウム混晶半導体粒子緑色蛍光体(In0.3Ga0.7N/nN(C8173)を合成する手法であって、結晶粒子の前駆体である13族元素化合物として、ヘキサ(ジメチルアミノ)インジウム・ガリウム0.03モルとトリス(ジメチルアミノ)ガリウムダイマー0.02モルを用いること以外は、実施例1と同様の製造方法によって、半導体粒子緑色蛍光体(In0.3Ga0.7N/nN(C8173)を得ることができた。得られた蛍光体は、特に外部量子効率の高い405nmの発光を効率よく吸収できた。また、InN結晶粒子は、発光波長が530nmだった。
【0074】
X線回折測定の結果、スペクトル半値幅より見積もられた結晶粒子の平均粒径(直径)は、Scherrerの式を用いると5nmと見積もられ、量子サイズ効果を示し、発光ピーク強度は従来の窒化インジウム・ガリウム混晶半導体粒子蛍光体に比べ約20倍向上した。
【0075】
(実施例6)
修飾有機化合物に被覆された窒化インジウム・ガリウム混晶半導体粒子赤色蛍光体(In0.5Ga0.5N/nN(C8173)を合成する手法であって、結晶粒子の前駆体である13族元素化合物として、ヘキサ(ジメチルアミノ)インジウム・ガリウム0.1モルを用いること以外は、実施例1と同様の製造方法によって、半導体粒子赤色蛍光体(In0.5Ga0.5N/nN(C8173)を得ることができた。得られた蛍光体は、特に外部量子効率の高い405nmの発光を効率よく吸収できた。また、結晶粒子は、発光波長が620nmだった。
【0076】
X線回折測定の結果、スペクトル半値幅より見積もられた結晶粒子の平均粒径(直径)は、Scherrerの式を用いると5nmと見積もられ、量子サイズ効果を示し、発光ピーク強度は従来の窒化インジウム・ガリウム混晶半導体粒子蛍光体に比べ約20倍向上した。
【0077】
(比較例1)
三塩化ガリウム(GaCl3)0.007モル、三塩化インジウム(InCl3)0.003モル、ノナメチルトリシラザン(N(Si(CH333)0.01モルを、トリオクチルホスフィン((C8173P)30mlに混合した。合成温度260℃で、3時間反応を行ない、半導体コアの合成を行なった。この反応溶液を、室温にまで冷却し半導体コアのトリオクチルホスフィン溶液とした。
【0078】
次に、前記半導体コアのトリオクチルホスフィン溶液と、三塩化ガリウム(GaCl3)0.009モルと三塩化インジウム(InCl3)0.001モル、ノナメチルトリシラザン(N(Si(CH333)0.01モルをトリオクチルホスフィン30mlに混合し、合成温度330℃で、24時間反応を行ない、半導体コア/半導体シェル2層構造の蛍光体の合成を行なった。
【0079】
図4に、比較例1の製造手法のフロー図を示す。まず、半導体コアの原料を加熱し、冷却することで、半導体コアを製造する。そして、その半導体コアを包摂する半導体シェルの原料と混合し、再び加熱し冷却することで半導体コア/半導体シェル2層構造の半導体粒子蛍光体を得る。
【0080】
この比較例1で得られた蛍光体は、未結合手による欠陥をキャッピングする目的で2層構造を有する。この比較例は、2段階の昇温合成過程を有する。また、結晶粒子の前駆体に、13族元素と窒素原子との結合を有しないため、13族窒化物からなる青色発光素子を励起光源とし、所望の発光波長を実現するための精密な13族元素の混晶組成制御が困難である。また、結晶粒子の粒径制御は、反応温度と反応時間にのみ依存するので、粒子径の制御が困難である。得られた蛍光体のX線回折測定の結果、スペクトル半値幅より見積もられたコアの平均粒径(直径)は、Scherrerの式を用いると30nmと見積もられ、量子サイズ効果を示さない。また、この比較例で得られた蛍光体の収率は、50%であった。合成段階が2段階であるため、1段階で合成を行なう本発明における蛍光体より、収率は低い。
【0081】
図3は、半導体粒子蛍光体の発光特性を示す発光強度−半導体粒子径特性を示す図である。図中(a)は、この実施例1の半導体粒子蛍光体の発光強度であり、図中(b)は、比較例1の半導体粒子蛍光体の発光強度を示す。
【0082】
図中(c)は、発光強度−半導体粒子径の関係を示す曲線であり、結晶粒子径が励起子ボーア半径の2倍以下では、発光強度が極端に向上していることが分かる。
【0083】
図3からもわかるとおり、実施例1による半導体粒子蛍光体は、比較例1よりも励起子ボーア半径が小さく、蛍光の効率も高いことが分かった。
【0084】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、発光効率、分散性、媒体親和性に優れた機能を有する半導体粒子蛍光体、おびその収率の高い製造方法を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】この発明の半導体粒子蛍光体の構造図である。
【図2】この発明の半導体粒子蛍光体の製造方法のフロー図である。
【図3】半導体粒子蛍光体の発光特性を示す発光強度−半導体粒子径特性を示す図である。
【図4】比較例1の製造方法のフロー図である。
【符号の説明】
【0087】
10 半導体粒子蛍光体、11 結晶粒子、12 修飾有機化合物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
13族元素と窒素原子との結合を含む結晶粒子に、
少なくとも窒素原子と炭素原子との結合を含む修飾修飾有機化合物で被覆してなることを特徴とする、半導体粒子蛍光体。
【請求項2】
前記結晶粒子の13族元素が、2種以上の元素からなることを特徴とする、請求項1に記載の半導体粒子蛍光体。
【請求項3】
前記表面修飾分子の窒素原子は、前記結晶粒子の13族元素に、配位することを特徴とする、請求項1に記載の半導体粒子蛍光体。
【請求項4】
前記修飾有機化合物がアミンであることを特徴とする、請求項1に記載の半導体粒子蛍光体。
【請求項5】
前記結晶粒子の粒径が、励起子ボーア半径の2倍以下であることを特徴とする、請求項1に記載の半導体粒子蛍光体。
【請求項6】
13族元素と窒素原子との結合を含む結晶粒子に、少なくとも窒素原子と炭素原子との結合を含む修飾有機化合物で被覆してなる半導体粒子蛍光体の製造方法であって、
13族元素化合物と、前記修飾有機化合物とを混合した合成溶液を加熱する工程を含むことを特徴とする、半導体粒子蛍光体の製造方法。
【請求項7】
前記13族元素は、Inおよび/もしくはGaであることを特徴とする、請求項6に記載の半導体粒子蛍光体の製造方法。
【請求項8】
前記合成溶液溶媒として、炭化水素系を用いることを特徴とする、請求項6に記載の半導体粒子蛍光体の製造方法。
【請求項9】
前記合成溶液を加熱する温度が、180〜500℃であることを特徴とする、請求項6に記載の半導体粒子蛍光体の製造方法。
【請求項10】
前記合成溶液を加熱する時間が、6〜72時間であることを特徴とする、請求項6に記載の半導体粒子蛍光体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−77245(P2007−77245A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−265559(P2005−265559)
【出願日】平成17年9月13日(2005.9.13)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(505195384)国立大学法人奈良女子大学 (15)
【Fターム(参考)】