説明

半導体評価装置

【目的】 評価すべき半導体に測定プローブとして導電性液体を接触させることにより非破壊で半導体を評価する装置において、導電性液体接触部に光感度を有するショットキバリアが形成されても、これを実効的に低接触抵抗化する。
【構成】 半導体ウエハ11を含む被検体10に対し、測定プローブとして導電性液体21を接触させる。被検体10と導電性液体21との接触部30に対し、バイアス光80を照射する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は半導体評価装置に関し、特に、評価されるべき半導体ウエハを破壊ないし毀損することなく各種の情報が得られるようにするため、電気信号取り出し用の測定プローブ手段として導電性液体を用いた半導体評価装置における改良に関する。
【0002】
【従来の技術】半導体のキャリア寿命、キャリア移動度、表面再結合速度等々、その半導体に固有の各種基礎的な定数を知ることは、その上に形成される各種デバイスの特性がこれらにより決定されるため、極めて重要である。特に非破壊測定により、デバイスの作成前ないし作成途中においても、現に用いる半導体の基礎的な定数類を知ることができれば、それは大いに有利である。そこで従来においても、この種の半導体評価のため、測定プローブ手段として水銀等の導電性液体を用い、これを被検体に電気的に接触させて非破壊的に電気信号を取り出す半導体評価装置も考えられはした。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、このような導電性液体を用いた測定プローブ手段を使用しても、被検体としての半導体と当該導電性液体との電気的な接触は、必ずしも良好な低抵抗オーミック接触になるとは限らない。オーミック接触ではあってもかなりな高抵抗接触となることもあるし、さらには非オーミック接触として、太陽電池ないしフォトダイオードと同様、当該接触部に光感度を有するショットキバリアが形成されてしまうこともある。このような場合、従来構成のままでは所望の電気信号が取り出せなくなるか、電気信号強度が著しく低下し(信号対ノイズ比:S/Nが極めて悪化し)、被検体の測定、評価が実質的に不能になることもあった。
【0004】本発明はこうした点に鑑みてなされたもので、導電性液体と被検体との接触が高抵抗なオーミック接触になるか、さらには非オーミック接触であって光感度を有する電気的障壁が形成されてしまうような場合にも、実効的に当該コンタクト部分の電導度を上げ(実効的に接触抵抗値を下げ)、これにより、導電性液体を介して非破壊的に、十分な大きさの評価用電気信号の取り出しを可能にせんとするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は上記課題を解決するため、半導体評価装置により評価される半導体を含む被検体と、この被検体に接触し、評価用電気信号を取り出す導電性液体との当該接触部に対し、バイアス光を照射する装置を設ける。
【0006】ただし、バイアス光は、少なくとも被検体と導電性液体との接触部に対して照射されれば良いので、当該接触部に対してのみの照射となるように照射装置を構成しても良いし、逆に被検体の全面ないしほぼ全面を照射するようにしても良い外、被検体の対向する両主面の中、当該接触部と同じ主面側から直接的に接触部を照射する場合に限らず、被検体を挟んで接触部とは反対の主面側から間接的に接触部を照射しても良い。換言すれば、本発明要旨構成中に言う被検体と導電性液体との接触部に対してのバイアス光の照射とは、特に指定しない限り、以上のような各場合を含む総括的な意味である。
【0007】さらに、本発明の別な態様では、測定プローブである導電性液体を介して取り出すべき評価用電気信号を、被検体に対しての強度変調光の入射により生成する場合には、上記のバイアス光に代えて、あるいはバイアス光に加えて、この強度変調光自体をも当該導電性液体接触部に対し照射することで、当該接触部の接触抵抗を実質的に低下させる構成も提案する。
【0008】
【実施例】図1(A),(B) には、本発明を適用して構成された半導体評価装置の基本的な実施例がそれぞれ概略的に示されており、半導体ウエハ11自体であって良い被検体10の一主面上には、適当なる離間距離を置いた一対の接触部30,30に対し、適当なるガイド手段ないし封入手段22,22内に封入、案内された導電性液体21,21が接触している。導電性液体21,21としては、水銀とかGa/In合金 あるいはまた適当なイオン性の溶液等、少なくとも測定を行なうときの環境温度または意図的な加熱温度にて液相となり得るものであれば良い。
【0009】言い換えれば、本発明は導電性液体21,21と被検体10との接触部30,30に対しての改良であり、被検体10の評価項目、評価方法自体を規定するものではなく、したがって本発明が直接にこれを限定することはないが、本発明評価装置を用いた各種評価方法の実施に際しては、その方法に必要な理由から、ケース・バイ・ケースで導電性液体21,21の材質が特定されることはあるし、特にイオン性の各種溶液を用いるに際しては、その周波数応答特性上の制約から、用い得る液質に限定が生ずることもある。
【0010】導電性液体21,21の他端は、図示されていないが、被検体の評価、測定時において、適宜電気的なバイアス源や計測ないし評価装置に接続して用いることができる。もちろん、これら電気的バイアス源や電子的な計測、評価装置自体も、実施すべき評価方法に必要な回路構成のものであれば良く、本発明がこれを直接に規定するものではない。
【0011】図示の場合、被検体10の主面には、導光手段の一つとして模式的に示されている光ファイバ50により案内された強度変調光40が一対の接触部30,30の間で局所的に微小部分に入射している。強度変調光とは、意図的に、ないし既知の仕方で強度が時間軸上において変化するものの総称であり、したがって代表的には単発パルスを始め、既知の一定周波数の正弦波形や一定周波数の繰り返しパルス波形列、または既知の仕方で周波数変調の掛けられた正弦波形やパルス波形列等が考えられる。したがって極めて広義に捕えれば、使用者が手動により時間的に定められた間隔で、ないし任意時点で一定強度光をオン・オフするような場合も含まれ、それがその測定種にとっては適当なこともある。
【0012】ただし実際には、直流駆動された発光ダイオードやレーザダイオード、あるいはまたハロゲンランプ、キセンノンランプ等からの一定強度の出力光をチョッパでチョッピングしたりモジュレータに通し、特に多色光源の場合には必要に応じて分光器を介し、単色光の繰り返しパルス列として用いる便利なことが多い。また、発光ダイオードやレーザダイオードをパルス駆動か交流駆動しても、当該パルス電源ないし交流電源の周波数に応じて強度変調の掛けられた光を得ることができるので、これも適宜に使うことができる。
【0013】こうした強度変調光40の導入方法としては、図2の実施例に示されているように、適当なる透明プラスチックシート60を導光手段として用い、端縁部に反射加工を施して、当該プラスチックシート60内に挿入した強度変調光40を反射面70から半導体ウエハ11ないし被検体10に照射する方法もある。
【0014】またさらに、被検体10を載せる台部材ないし支持部材(図示せず)を光透過性の板状部材とし、その側端面から変調光を入射させると共に、当該変調光を反射させて被検体10の所定部分に照射させるため、断面で見ると図2における反射面70と同様な反射面が形成されるように、当該板状の支持部材に切込みや埋め込み加工を施すこともできる。この手法も簡便であり、本発明に関与するバイアス光(後述)の導入に際しても採用し得る方法である。
【0015】なお上述の場合に限らず、図示していない被検体支持部材には当然、各導電性液体ガイド22,22を挿通する透孔を必要とする。また、先の図1(A),(B) に示された実施例中では光導波路ないし導光手段として光ファイバが挙げてあるが、プラスチック製でオプティカルロッドと呼ばれるような低品質光導波路も、この種の装置系では導波距離が短く、その損失が余り問題とならないので、同様に用いることができる。
【0016】さらに図3に示されるように、一対の導電性液体ガイド22,22の中、一方の導電性液体ガイド内に光ファイバ50を通し、当該ガイド22内の導電性液体21と被検体10の表面との接触部30自体に対し、強度変調光40を照射することもできるし、強度変調光40はまた、図4に示されているように、被検体10に対し、導電性液体21,21が接触している側とは反対の主面に入射させることもできる。いずれにしても一般的に言うなら、こうした強度変調光40は、実施する測定の如何に応じ、必要な適当個所に適当な照射面積(スポット径)で照射されて良い。
【0017】なお、図4には、被検体10が半導体ウエハ11だけではなく、その表面に意図的ないし非意図的に形成された高抵抗膜12等を含んでいる場合をも示している。意図的ないし非意図的に形成された高抵抗膜12としては、シリコン酸化膜、マイラ等を始め、特殊な場合には空気層等も含めることができ、このような被検体10の場合にも、後述のように、本発明に従うバイアス光80の照射の下、そのいくつかの基礎定数把握のため、図示の各評価装置を有効に用いることができる。
【0018】ただしここで、本発明のバイアス光照射による有効性を逆に明らかにする意味で、図1〜4に示された評価装置において、導電性液体接触部30に対し、バイアス光80を照射しない場合、つまりは本発明に従うバイアス光80を照射しなくてもそれら導電性液体接触部30において良好なオーミック接触が得られる場合を想定し、図示の装置形態でどのような半導体評価が行えるのかにつき、幾つかの参考例で説明する。
【0019】まず、局所的または一様に被検体10の表面に強度変調光40を照射することにより、時間的に変化して発生させられたキャリアの動的なふるまいを非破壊的に測定することができる。すなわち、水銀等による導電性液体21,21が被検体10としての半導体11に各接触している一対の接触部30,30間に対し、図示されていない適当なる電圧バイアス源から当該導電性液体21,21を介して直流的な、あるいはパルス的な電圧を印加し、電界Eが掛かった状態にした上で、当該半導体11に対し、この半導体11内において電子−正孔対を発生するに足る強度の強度変調光40を単一パルスないし繰返しパルス状に照射すると、これにより発生したキャリアは印加電界Eとキャリア移動度μに比例した速度でキャリアの拡散を行ないながら一対の接触部30,30間を流れる。したがって、一方の接触部30と強度変調光40の入射位置間の距離xmと、強度変調光40と一対の接触部30,30間に各得られる電気信号(電流または抵抗を介した変換電圧)の遅延時間tdとから、
【0020】
【数1】


【0021】なる式1)に基づき、キャリア移動度μを求め得る。これは、ハイネス−ショックレィの実験として有名である。
【0022】同様に、一対の導電性液体21,21ないし一対の接触部30,30間に電圧Vを印加した状態で周波数fの強度変調光40を二接触部30,30間の適当なる個所に入射させると、両接触部30,30間に得られる電圧変化ΔVまたは電流変化ΔIは強度変調光40の周波数fにより変化し、また、強度変調光40と電圧変化ΔVまたは電流変化ΔIの間に位相差ΔPが生ずる。したがって、こうした変化量ΔV,ΔPの強度変調光周波数fに対する依存性から、ΔVが低周波の場合よりも−3dB低減する周波数fa か、あるいは位相差ΔPがπ/4となる周波数fP を求めることにより、実効キャリア寿命を1/(2πfa)または1/(2πfP)として求めることができる。こうしたことから結局、図1〜4の評価装置は、実効キャリア寿命を非破壊で簡単に求値するのにも用い得ることが分かる。ただし、強度変調光40として単一パルスを用い、二接触部30,30間の電圧変化分ΔVの減衰を見ることによってもキャリア寿命は求めることができる。
【0023】さらに、強度変調光40の波長を変えると、それに伴う二接触部30,30間の電圧変化ΔVまたは電流変化ΔIは強度変調光の吸収係数αによって変化し、電圧変化ΔVに関して式を立てれば次式2)のようになる。
【0024】
【数2】


【0025】ただし上式2)中、τはキャリア寿命、Dはキャリア拡散係数、Lはキャリア拡散距離、Sは表面再結合速度、αは光の吸収係数、そしてCは定数である。したがって、強度変調光の波長を変化させ、これにより吸収係数αを変化させてΔVと1/αとの関係を採れば、図7に明示されているように、1/αの小さい部分での接線を外挿した1/α軸との切片は−D/Sを与え、この接線とΔV軸との交点を通り、該接線の半分の傾きを持つ直線が特性曲線と交わる点の1/α座標がLを与える。しかるに、
【0026】
【数3】


【0027】なる関係が既知であるため、先に述べたようにして知り得る値τとこの式3)とからキャリア拡散係数Dを知ることができるし、また、表面再結合速度Sも、最早既知となったτ、L、D/Sから簡単に求めることができる。
【0028】このようにして、図1〜4に示されている評価装置を用いると、その使い方の如何によって半導体の各基礎定数に関し、極めて多くの情報を簡単に非破壊で得られる。なお、上記のように半導体のキャリア移動度、キャリア寿命、キャリア拡散距離や拡散係数、表面再結合速度等を求めるに際しては、半導体に照射する強度変調光40には、その光強度が当該半導体の禁制帯幅に相当する以上のエネルギを持っていることが要求されるが、逆に当該半導体の禁制帯幅に相当するエネルギ以下のエネルギの強度変調光40を用いると、ギャップ準位等、禁制帯内の準位評価も可能となる。
【0029】しかし、上記のような各種方法に従う半導体の評価は、そもそも、導電性液体21,21と被検体10ないし半導体11との接触部30,30において十分低抵抗で良好なオーミック接触が得られるとの前提に立ったものである。ところが実際には、被検体10ないし半導体11の表面と導電性液体21,21との間の接触部30,30が低抵抗なオーミック接触にはならず、オーミック接触ではあっても高抵抗であったり、むしろショットキバリアないしショットキバリアに準ずる電気的障壁(以下では単にショットキバリアと記す)が形成されてしまうようなことも多い。当然のことながら、このような場合、上記構成のままでは、被検体10から導電性液体21を介し測定のための十分大きな電気信号を取り出せなくなり、S/Nが極めて悪化し、ひいては測定そのものが行えなくなる。
【0030】そこで本発明では、図1〜4中に示す通り、被検体10ないし半導体11の表面と導電性液体21,21との間の接触部30,30に対し、適当なるバイアス光源(これは図示せず)からバイアス光80を照射する構成を提案している。すなわち、被検体10と導電性液体21,21との接触部30,30にショットキバリアが形成されているときに、その部分にバイアス光80を照射すると、この接触部30,30に光電流を生成することができる。したがって、この光電流が、接触部30,30における接触抵抗を実効的に十分低下する程度となるよう、当該バイアス光80の光強度を選択すれば、測定プローブとしての導電性液体21,21を介し、十分な大きさの評価用電気信号を取り出すことができる。なお、すでに述べた評価用電気信号生成のための強度変調光40が所定の周波数を持つ場合には、このバイアス光80は当該強度変調光40と同位相で異なる周波数の交流光とすることもできる。
【0031】図1〜4には、本発明に従うこのようなバイアス光80の印加形態の幾つかが示されている。いずれの場合にも、バイアス光80が被検体10を挟み、導電性液体21との接触部30のある主面側とは反対側の主面側から照射され、したがって当該接触部30に対しては間接的な照射となっているが、図1(A) と図2の場合には、バイアス光を二本用い、それぞれ接触部30,30の一方宛に局所的に照射しており、対して図1(B) と図3の場合には、被検体10の全面ないしほぼ全面を照射している。しかし、上述し、かつまた以下に述べる実験例からしても明らかなように、本発明に従うバイアス光80は被検体10と導電性液体21との接触部30のある側と同じ被検体主面側から照射することもでき、全面照射とするか局所照射とするかも選択の問題に帰結できる。
【0032】さらに、図4の場合には、強度変調光40も一方の接触部30に対して被検体10を挟んで間接的な照射となっているのに加えて、局所的に絞られたバイアス光80は他方の接触部30のみを照射している。
【0033】ここで、本発明の原理と有効性を明らかにするため、一つの実験例を挙げて置く。実験装置の構成は基本的に図4に示した構成と同じであり、被検体10としてn型,(100)面,2Ω−cmのSiウエハを用い、導電性液体21,21としては水銀を用いた。ただし、図4に示されているバイアス光照射形態とは異なり、局所的なバイアス光照射ではなく、両導電性液体接触部30,30をも含め、ウエハ全体にハロゲンランプからのバイアス光80を照射した。また、片方の接触部30についての検討を行うために、図4中に仮想線で示すように、実験用のオーミック接触90を形成した。
【0034】図5は、この実験で得られたオーミック接触90と片方の水銀接触30間の電流対電圧(I−V)特性であり、特性■はバイアス光80がない場合、特性■はバイアス光80が照射された場合である。これら特性図に見られるように、接触部30のウエハ表面でショットキバリアが形成され、バイアス光80により、いわゆる太陽電池特性が示されている。
【0035】一方、両水銀接触部30,30間のI−V特性を示すものが図6である。図4の構成では、両水銀接触部30,30に形成されるショットキバリアが逆向きに直列に接続された形となるため、バイアス光80がない場合にはほとんど電流が流れず、特性■で示すように高抵抗である。この状態で一方の水銀接触部30に変調光40を照射しても、ショットキバリアの逆向き直列接続による高抵抗のため、その時間応答は捕えることができず、開放電圧Vocの過渡応答からキャリア寿命を求めることはできない。これに対し、本発明に従ってバイアス光80を印加すると、図6中の特性■で示されるように、十分な低抵抗特性が得られるので、この状態で一方の水銀接触部30にのみ、強度変調光40を照射すれば、そのときの開放電圧Vocの過渡応答からキャリア寿命を求めることができる。なお、強度変調光40にはパルス駆動されたGaAs発光ダイオード(中心波長 925nm)を用いた。その過渡応答は図8に示されている通りであり、これから求められるキャリア寿命は約8μsecである。
【0036】こうしたことから、本発明によれば、被検体10と導電性液体21との接触部30に良好なオーミック接触が見込めず、光感度を持つショットキ接合となってしまうような場合にも、ウエハのまま非破壊で簡便に、主要な半導体定数の一つであるキャリア寿命を評価可能なことが分かる。
【0037】以上のように、本発明によるバイアス光80の印加は、導電性液体を用いての非破壊半導体評価を実現する上で実践的な技術を開示することが理解されるが、バイアス光80の持つ効果はまた、評価用電気信号取り出しのために被検体10に照射される強度変調光40にも見込める。すなわち、図3,4に示したように、強度変調光40を被検体10と導電性液体21との接触部30に対して照射すれば、上述のバイアス光80の照射に関してと同様、これによる光電流の発生を期待できるので、バイアス光80に代えて、あるいはバイアス光80と共に照射されるこの強度変調光40により、当該接触部30における実効的な接触抵抗の低下効果が得られる。
【0038】例えば、接触部30,30にショットキバリアが形成されている所に強度変調光40を照射すると、太陽電池と同様に開放電圧が誘起されるので、この強度変調光40の入射している一方の接触部30に関しての誘起電圧の減衰ないしは強度変調光周波数に対する依存性を測定すれば、キャリア寿命を求めることができる。そしてこのとき、他方の接触部30に対しては図4の構成に従いバイアス光80を照射すれば、この他方の接触部30においてもこれを実質的な低接触抵抗にしておくことができる。
【0039】さらに図4に仮想線で併示されているように、接触部30,30が形成される被検体10の表面が、露呈した半導体11の表面ではなく、この半導体表面の上に意図的に、ないしは非意図的に形成されたシリコン酸化膜やマイラ、あるいはまた空気層等の高抵抗膜12の表面であるような場合にも、図示の評価装置は適用可能である。例えば導電性液体21を介し、接触部30,30に適当な電圧を印加すると、高抵抗膜12を介して一方は順方向、他方は逆方向にバイアスされる。このとき、当該電圧がステップ状に印加されたとすると、順方向にバイアスされた方は多数キャリアが即座に応答してその近傍の半導体表面は当該多数キャリアの蓄積状態となるが、逆方向にバイアスされた方は少数キャリアが当該電圧の印加直後には直ちにこれに追従することができず、ために半導体11の表面から半導体内部に深く空乏層が拡がり、その後、ある時定数をもって熱的に発生する少数キャリアが半導体表面に集められ、この過程で空乏層幅は減少して最終的に熱平衡状態に達し、反転層が形成される。したがってこの空乏層幅の時間変化(換言すれば容量の時間変化)を測定すると、半導体内の少数キャリアの発生の時定数、つまりキャリア発生寿命を求めることができる。
【0040】この測定方法は従来、MOS構造では良く知られたものであるが、図1〜4に示されるように、二点での導電性液体の接触を用い、かつ、本発明に従って当該導電性液体接触部30における低抵抗性を保証すれば、従来におけるように、ことさらにゲート電極やオーム性接触を設けなくとも、簡便にキャリア発生寿命を求めることができる。すなわち、従来は熱的に発生させた少数キャリアによる過渡応答を測定するものであったが、少数キャリアは光照射によっても発生させることができるので、空乏層および空乏層近傍の半導体に、その半導体の禁止帯幅以上のエネルギを持つ強度変調光40を照射すると電子−正孔対が生成し、少数キャリアは、先のように熱的に発生させられた少数キャリアと同様、半導体表面に集められる。
【0041】また、照射光40の波長を変えることにより、半導体中に発生されるキャリアの分布を変えることができる。例えば相対的に長波長光を用いれば、半導体内部により深く進入した位置にてキャリアを発生させられる。空乏層近傍に発生した少数キャリアの一部は拡散により空乏層端に達し、半導体表面に集められるが、このキャリアの拡散はキャリア拡散長Lまたはキャリア拡散定数Dにより決められる。したがって、逆に照射光の波長を変化させて容量の時間変化または光電流を測定すると、当該キャリア拡散長Lないしキャリア拡散定数Dを評価することができる。
【0042】さらに、半導体表面に少数キャリアを蓄積させた状態(反転状態)にしておいて、当該少数キャリアが半導体バルク中に放出される向きにバイアスを印加し、ある時間td後に再び反転状態になるようにバイアスを印加すると、再収集で残った少数キャリアを容量値の変化によりチェックすることができる。すなわちこの測定から、反転層少数キャリアの放出時にどれだけのキャリアが失われるかを知ることができ、少数キャリアの寿命を導出することが可能となる。
【0043】一方、半導体表面に高抵抗膜12がある場合にも、強度変調光40を(必要に応じバイアス光80と共に)照射すると、半導体表面が空乏ないし反転の状態にあるときには半導体表面に発生する電子−正孔対によって電荷分布が変化し、その結果として表面ポテンシャルが変化する。これは、変調光による交流的な電圧変化または電流変化が現れることを意味する。したがって、半導体と導電性液体との接触がショットキ接合をなす場合と同様に、この電圧または電流の減衰ないしは強度変調光周波数に対する依存性を測定すれば、キャリアの寿命を求めることができる。特に、このように高抵抗膜12が半導体表面にある場合には、少数キャリアは導電性液体に流れることがないので半導体表面の影響がより少なくなる利点もあるし、高抵抗膜12を介して半導体表面に電界を印加できるということは、これを意図的に変化させることにより、当該表面電界の変化に対する表面再結合速度等の評価も可能となることを意味する。
【0044】バイアス光80はまた、本発明の趣旨に従う機能の外、キャリアが半導体11内でトラップされる影響を緩和する機能も有し得るので、半導体ウエハ11自体が高抵抗の半導体の場合には、これを実質的に低抵抗化することができ、それに強度変調光40を重ねて照射して、交流的な変調光導電率を測定すれば、その位相差からキャリア寿命を求めることも可能となる。
【0045】以上、本発明による半導体評価装置を用いてのいくつかの測定例に関し述べたが、本発明装置は上記以外にも種々の応用が可能であり、また被検体10と導電性液体21との接触部30の数を増やしての測定も考えられる。この場合例えば、既述した各種の基礎定数のワン・ポイント的な測定のみならず、例えば同じ半導体ウエハ内であっても局所的に異なることある各種基礎定数を二次元的に評価すること等も可能となる。
【0046】
【発明の効果】本発明によると、評価されるべき半導体ウエハを破壊ないし毀損することなく各種の情報が得られるようにするため、電気信号取り出し用の測定プローブ手段として導電性液体を用いた半導体評価装置を構成したとき、当該半導体ウエハと導電性液体との接触部が良好な低抵抗オーミック接触にならなかったり、太陽電池ないしフォトダイオードと同様、当該接触部に光感度を有するショットキバリアが形成されてしまうような場合にも、これを実効的に低抵抗化することができる。換言すれば、導電性液体を用いた非破壊半導体評価装置の適用範囲を広げることができ、現に市場に提供される装置として極めて実践的なものにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に従って構成された半導体評価装置の基本的な実施例における要部の概略構成図である。
【図2】本発明に従って構成された半導体評価装置の他の実施例における要部の概略構成図である。
【図3】本発明に従って構成された半導体評価装置のさらに他の実施例における要部の概略構成図である。
【図4】本発明に従って構成された半導体評価装置のまた別な実施例における要部の概略構成図である。
【図5】本発明の効果を実証するための実験例において、光感度を有するショットキバリアに得られる電流対電圧特性図である。
【図6】本発明の効果を実証するための実験例において、一対の導電性液体としての一対の水銀間に得られる電流対電圧特性図である。
【図7】本発明の実施例装置を用い、実験値から特定の定数群を求める際の説明図である。
【図8】本発明の実施例装置を用い、半導体のキャリア寿命を求めた実験結果の特性図である。
【符号の説明】
10 被検体,
11 半導体ウエハ,
12 半導体ウエハ表面の異質膜,
21 導電性液体,
22 液体ガイド,
30 接触部,
40 強度変調光,
50 光ファイバ,
60 プラスチックシート,
80 バイアス光.

【特許請求の範囲】
【請求項1】 半導体表面が露呈しているか、該表面上に該半導体とは異なる材質の膜が形成されている被検体の主面に対し、該半導体の評価用電気信号を取り出すために、測定プローブとして導電性液体を接触させる半導体評価装置であって;上記被検体と上記導電性液体との上記接触部に対し、該接触部における実効的な接触抵抗低下用のバイアス光を照射する装置を設けたこと;を特徴とする半導体評価装置。
【請求項2】 請求項1記載の半導体評価装置であって;上記被検体と上記導電性液体との上記接触部には光感度を有する電気的障壁が形成され;上記バイアス光は、該電気的障壁に対し光電流を流すことで該接触部の上記接触抵抗を実効的に低抵抗化するために照射されること;を特徴とする半導体評価装置。
【請求項3】 請求項1または2記載の半導体評価装置であって;上記バイアス光は、上記被検体と上記導電性液体との上記接触部に対し、局所的に照射されること;を特徴とする半導体評価装置。
【請求項4】 請求項1または2記載の半導体評価装置であって;上記バイアス光は、上記被検体と上記導電性液体との上記接触部を含み上記被検体の全面またはほぼ全面に対し照射されること;を特徴とする半導体評価装置。
【請求項5】 請求項1,2,3または4のいずれかに記載の半導体評価装置であって;上記バイアス光は、上記被検体の両主面の中、該被検体と上記導電性液体との上記接触部のある主面側から照射されること;を特徴とする半導体評価装置。
【請求項6】 請求項1,2,3または4のいずれかに記載の半導体評価装置であって;上記バイアス光は、上記被検体の両主面の中、該被検体と上記導電性液体との上記接触部のある主面側とは対向する主面側から照射され、該接触部に対する照射は該被検体を介しての間接的な照射となっていること;を特徴とする半導体評価装置。
【請求項7】 請求項1記載の半導体評価装置であって;上記バイアス光照射装置に代えて、上記被検体と上記導電性液体との上記接触部に対し、上記半導体評価用電気信号の生成用であって、かつ上記被検体と上記導電性液体との上記接触部における実効的な接触抵抗低下用の強度変調光の照射装置を有すること;を特徴とする半導体評価装置。
【請求項8】 請求項7記載の半導体評価装置であって;上記被検体と上記導電性液体との上記接触部には光感度を有する電気的障壁が形成され;上記強度変調光は、該電気的障壁に対し光電流を流すことで該接触部の上記接触抵抗を実効的に低抵抗化するために照射されること;を特徴とする半導体評価装置。
【請求項9】 請求項7または8記載の半導体評価装置であって;上記強度変調光は、上記被検体と上記導電性液体との上記接触部に対し、局所的に照射されること;を特徴とする半導体評価装置。
【請求項10】 請求項7または8記載の半導体評価装置であって;上記強度変調光は、上記被検体と上記導電性液体との上記接触部を含み上記被検体の全面またはほぼ全面に対し照射されること;を特徴とする半導体評価装置。
【請求項11】 請求項7,8,9または10のいずれかに記載の半導体評価装置であって;上記強度変調光は、上記被検体の両主面の中、該被検体と上記導電性液体との上記接触部のある主面側から照射されること;を特徴とする半導体評価装置。
【請求項12】 請求項7,8,9または10のいずれかに記載の半導体評価装置であって;上記強度変調光は、上記被検体の両主面の中、該被検体と上記導電性液体との上記接触部のある主面側とは対向する主面側から照射され、該接触部に対する照射は該被検体を介しての間接的な照射となっていること;を特徴とする半導体評価装置。
【請求項13】 請求項1記載の半導体評価装置であって;上記バイアス光照射装置に加えて、上記被検体と上記導電性液体との上記接触部に対し、上記半導体評価用電気信号の生成用であって、かつ上記被検体と上記導電性液体との上記接触部における実効的な接触抵抗低下用の強度変調光の照射装置をも有すること;を特徴とする半導体評価装置。
【請求項14】 請求項13記載の半導体評価装置であって;上記被検体と上記導電性液体との上記接触部には光感度を有する電気的障壁が形成され;上記強度変調光は、該電気的障壁に対し光電流を流すことで該接触部の上記接触抵抗を実効的に低抵抗化するために照射されること;を特徴とする半導体評価装置。
【請求項15】 請求項13または14記載の半導体評価装置であって;上記強度変調光は、上記被検体と上記導電性液体との上記接触部に対し、局所的に照射されること;を特徴とする半導体評価装置。
【請求項16】 請求項13または14記載の半導体評価装置であって;上記強度変調光は、上記被検体と上記導電性液体との上記接触部を含み上記被検体の全面またはほぼ全面に対し照射されること;を特徴とする半導体評価装置。
【請求項17】 請求項13,14,15または16のいずれかに記載の半導体評価装置であって;上記強度変調光は、上記被検体の両主面の中、該被検体と上記導電性液体との上記接触部のある主面側から照射されること;を特徴とする半導体評価装置。
【請求項18】 請求項請求項13,14,15または16のいずれかに記載の半導体評価装置であって;上記強度変調光は、上記被検体の両主面の中、該被検体と上記導電性液体との上記接触部のある主面側とは対向する主面側から照射され、該接触部に対する照射は該被検体を介しての間接的な照射となっていること;を特徴とする半導体評価装置。
【請求項19】 請求項13,14,15,16,17または18のいずれかに記載の半導体評価装置であって;上記被検体と上記導電性液体との上記接触部は一対設けられ;上記バイアス光は上記一対の接触部の一方に照射され、上記強度変調光は他方に照射されること;を特徴とする半導体評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開平6−112290
【公開日】平成6年(1994)4月22日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−96703
【分割の表示】特願昭62−175549の分割
【出願日】昭和62年(1987)7月14日
【出願人】(000001144)工業技術院長 (75)
【指定代理人】
【氏名又は名称】工業技術院電子技術総合研究所長