説明

半導電性ポリアミド系シームレスベルト

【課題】ポリアミド樹脂の特徴である靱性を維持したまま、弾性率を上げることにより耐クリープ性を向上させ、温湿度変化や電圧印加においても抵抗が安定し、電気特性にも優れている半導電性シームレスベルトを提供すること。
【解決手段】吸水率1.5%以下の脂肪族ポリアミド樹脂に、最大径1〜20μm、厚さ0.05〜2μm、アスペクト比(最大径/厚さ)20〜400である板状無機フィラーを配合することにより、温湿度変化や電圧印加においても抵抗が安定し、電気特性にも優れている半導電性シームレスベルトが得られた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真式複写機、レーザープリンター等に使用されるシームレスベルト、すなわち感光体基体用、中間転写用、搬送用、定着用、現像用に使用されるシームレスベルトに関し、特に中間転写用に使用されるシームレスベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置に使用されるシームレスベルトは、その使用の際に大きく2つのストレスを受けている。機械的ストレスと電気的ストレスである。
【0003】
例えば、中間転写ベルトの場合、動作のたびに電圧印加、摩擦、摺動、屈曲を繰り返し受けている。したがって、中間転写ベルトの性能として、前記のような実装時の繰り返し動作において電気特性が安定し、機械的特性も変わらないことが求められる。すなわち、温湿度環境が変化したり、電圧印加を繰り返したりしても抵抗変化がなく、ロール張架時にかかる荷重に対して伸びがなく(耐クリープ性)、屈曲動作に対してワレのない中間転写ベルトが求められている。
【0004】
現在、ポリカーボネートベルト、ポリアミドベルト、ポリイミドベルト、フッ素樹脂ベルト等を樹脂原料に用いた半導電性シームレスベルトが知られており、これらは転写ベルト等に使用されている。
【0005】
しかしながら、これらは生産性、性能、コストの点から一長一短があり、全てにおいて満足して使用されているわけではない。例えば、ポリイミドベルトの場合、他の樹脂原料に比べ原料価格が高く、遠心成形装置等製造設備も大掛かりになるため、ベルト自体は高性能ではあるが、コスト面では十分満足のいくものではない。ある程度、性能とコストのバランスがとれたベルトとしては、半導電性のポリアミドベルトが挙げられる。
【0006】
従来、半導電性ポリアミドベルトとしては、以下のようなものが知られている。
例えば、タンデム方式、中間転写方式の画像形成装置に使用する樹脂フィルムベルトにあって、良好な強度、特に優れる耐屈曲を有するものの開発を課題とし、これを熱可塑性ポリアミド(例えばナイロン12)と熱可塑性エラストマー(例えばポリエーテル系、ポリアミド系)やカーボンブラック等の導電性材料との混合によりなる導電性エンドレスベルトで解決したものである(特許文献1)。
【0007】
しかし、熱可塑性ポリアミドは弾性率が十分でなく、そのために物品をロールに挟持して叉はベルト上に載置して搬送する等の繰り返し動作において、シワや寸法変化(伸び)が起こりやすい、つまり耐クリープ性が十分でない。この点は、画像形成装置に使用されるシームレスベルトとしては不利な点である。
【0008】
このようなポリアミドベルトの耐クリープ性を改善することを課題とした特許出願も見られる。例えば、特許文献2ではポリアミド樹脂にカーボンブラックおよび酸化物、水酸化物、炭酸塩およびケイ酸塩からなる群より選択される少なくとも1種のフィラ−からなる電子写真用エンドレスベルトが開示されている。また、特許文献3には、ポリアミド樹脂にカーボンブラックおよびフッ素原子含有界面活性剤からなる電子写真用エンドレスベルトが開示されている。
【0009】
また、熱可塑性樹脂にフィラ−を添加することは一般的に行われている。例えば、特許文献4には、ポリアミドに無機充填剤として硫酸バリウムを含有する半導電性平ベルトが記載されている。特許文献5には合成樹脂に平均外径0.1μm以下及びアスペクト比5以上の炭素フィブリルと薄片状無機充填材を分散させた画像形成装置用ベルトが記載されている。また、特許文献6には、熱可塑性樹脂に導電剤、層状粘土鉱物を含有し、層状粘土鉱物の層間距離が1.5nm以上であることを特徴とする電子写真用シームレスベルトが開示されている。更には特許文献7には、有機処理された薄片状フィラ−を含有するアミド系樹脂からなる半導電性組成物からなる導電部材が記載されている。特許文献8には、ポリアミド樹脂とスメクタイト系の充填剤を含有する画像形成装置用無端ベルトの記載がある。
【0010】
しかしながら、アスペクト比の小さなフィラーや粒状フィラ−では相当量の添加をしても十分な弾性率は得らないにも関わらず、ポリアミド樹脂の特徴である靱性を低下させてしまう。更には、成形時に溶融粘度が上がり、更に溶融張力が下がる為、製膜困難となる。また、アスペクト比の大きな層状鉱物などは層間剥離、分散すれば弾性率を大きくする効果は大きいものの、混練、押出成形の際にかかる熱およびシェアーにより劣化凝集し、アスペクト比は小さくなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−350347号公報
【特許文献2】特開2005−200634号公報
【特許文献3】特開2006−053320号公報
【特許文献4】特開2003−177612号公報
【特許文献5】特開2003−156902号公報
【特許文献6】特開2006−162958号公報
【特許文献7】特開2007−078971号公報
【特許文献8】特開2008−255303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような背景技術に対し、ポリアミド樹脂の特徴である靱性を維持したまま、弾性率を上げることにより耐クリープ性を向上させ、温湿度変化や電圧印加においても抵抗が安定し、電気特性にも優れている半導電性シームレスベルトを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、吸水率1.5%以下の脂肪族ポリアミド樹脂に、最大径1〜20μm、厚さ0.05〜2μm、アスペクト比(最大径/厚さ)20〜400である板状無機フィラーを配合することにより、温湿度変化や電圧印加においても抵抗が安定し、電気特性にも優れている半導電性シームレスベルトが得られることを見出した。
【0014】
本発明は、かかる知見に基づき完成されたものである。
項1.吸水率1.5%以下の脂肪族ポリアミド樹脂100重量部に対し、最大径1〜20μm、厚さ0.05〜2μm、アスペクト比(最大径/厚さ)20〜400である板状無機フィラーを5〜40重量部混合してなる半導電性ポリアミド系シームレスベルト。
項2.板状無機フィラーの水分散pHが 5.5〜8.0である、項1記載の半導電性ポリアミド系シームレスベルト。
項3.板状無機フィラーの溶出アルカリ量がNa 10ppm以下、K 20ppm以下である、項1または2記載の半導電性ポリアミド系シームレスベルト。
項4.表面抵抗率が10〜1014Ω/□である、項1〜3いずれかに記載の半導電性ポリアミド系シームレスベルト。
項5.さらに導電材を含むことを特徴とする、項1〜4いずれかに記載の半導電性ポリアミド系シームレスベルト。
項6.導電材がカーボンブラックである、項5に記載の半導電性ポリアミド系シームレスベルト。
項7.電子写真装置用シームレスベルトである、項1〜6いずれかに記載の半導電性ポリアミド系シームレスベルト。
項8.電子写真装置用中間転写ベルトである、項1〜6いずれかに記載の半導電性ポリアミド系シームレスベルト。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
I.脂肪族ポリアミド樹脂
本発明の半導電性ポリアミド系シームレスベルト(以下、PAシームレスベルトと称する)に必要な強度等機械的物性の基本を形成するポリアミド成分としては、吸水率1.5重量%以下の脂肪族ポリアミド(以下、PA樹脂と称する)を用いる。PA樹脂を使用するのは、より耐久性(耐屈曲性)の高いベルト部材が得られ易くなること、導電材との分散性がより高まり、その結果よりバラツキの小さい電気抵抗の下で、電気抵抗のバランス特性が発現し易くなること、耐環境性と耐電圧性との向上がより発現し易くなることによる。また、吸水率1.5重量%以下のPA樹脂を用いるのは、導電材との分散性が良いこと、PAシームレスベルトとして、少なくとも2本のローラに張架して回転使用する場合に円滑に回転すること、そして、環境変動に対して電気抵抗がより安定であることによる。さらには、吸水率1.0重量%以下のものがより好ましい。
【0016】
吸水率1.5重量%以下のPA樹脂としては、例えば、2元共重合PA樹脂としてPA6/10、PA6/12、単独PA樹脂としてPA11、PA12、ポリアミド系エラストマー等が挙げられる。前記ポリアミド系エラストマーとは、ハードセグメントとしてポリアミドを用い、ソフトセグメントとしてポリエーテルやポリエーテルエステルを用いた共重合ポリマーである。具体的には、UBE−PAE(宇部興産(株)製)やペバックス(アルケマ(株))等が挙げられる。さらに、吸水率1.0重量%以下のPA樹脂としては、PA11、PA12が挙げられる。基本的にはこれら1種の使用でよいが、2〜3種を混合して用いることもできる。
【0017】
なお、上記の吸水率は、以下の測定方法により測定、算出したものである。すなわち、
60mm(直径)×3mm(厚さ)の円板を絶乾状態(真空乾燥機にて120℃、0.1Pa以下で48時間処理)で、デシケーターで保存したときの重量をAgとし、その後23℃×50%RH環境下で24時間放置した後の重量をBgとした時の以下の値である。
吸水率(重量%)=(B−A)/A×100
【0018】
II.板状無機フィラー
本発明のPAシームレスベルトには、最大径1〜20μm、厚さ0.05〜2μm、アスペクト比(最大径/厚さ)20〜400の板状無機フィラーを配合する。好ましくは最大径1〜10μm、厚さ0.05〜1μm、アスペクト比(最大径/厚さ)50〜300である。当該板状無機フィラーをポリアミド樹脂に含有させることにより、ポリアミド樹脂の特徴である靭性を維持したまま弾性率を上げ、耐クリープ性を向上させることができる。
【0019】
上記板状無機フィラーにおいて、最大径(長径)は上述のように1〜20μm、好ましくは1〜10μmであるが、短径は通常0.5〜20μm、好ましくは0.5〜10μmである。なお、ここで便宜上長径及び短径と呼んでいるが、長径と短径が同程度の長さ、すなわち正方形またはそれに近いものも本発明の板状無機フィラーに含まれる。
上記最大径、厚さ及びアスペクト比は、走査型電子顕微鏡による観察で測定し、算出することができる。
【0020】
上記板状無機フィラーの具体例としては、上記各寸法の規定範囲を満足するものであれば、天然、合成を問わず、公知の板状フィラーを使用することができる。また、これらを焼成処理することも可能である。例えば、鱗片状又は薄片状の雲母、マイカ、セリサイト、イライト、タルク、カオリナイト、モンモリロナイト、スメクタイト、バーミキュライト、板状又は薄片状の二酸化チタン、チタン酸カリウム、チタン酸リチウム及びベーマイト等を挙げることができる。これらの中でも好ましくは、鱗片状チタン酸塩化合物、マイカ、セリサイト、イライト、タルク、カオリナイト、モンモリロナイト、ベーマイトが良い。なお、本発明において、板状とは、板状物の他に、薄片状物、鱗片状物等を包含するものとする。
【0021】
また、当該板状無機フィラーは、水分散pH 5.5〜8.0であることが好ましい。さらに、溶出アルカリ量がNa10ppm以下、K20ppm以下であることも好ましい。当該水分散の値および溶出アルカリ量の値を満足することにより、溶融時の樹脂劣化によるゲル状の突起、あるいは導電材の分散不良を抑制する効果が得られ、また、樹脂の分子量低下による耐折強度の低下を防ぐことができる。
【0022】
上記水分散pHとは、試料1gを100mLのビーカーに秤取り、脱イオン水100mLを加えて10分間マグネテッィクスターラーで攪拌した後、pHメーターで測定したpH値を意味する。また、上記溶出アルカリ量とは、試料1gを水100mLに分散させ、室温で1時間攪拌した後、No.5C濾紙にて濾過し、濾液を原子吸光分析法により測定することにより求めたアルカリ量を意味する。
【0023】
なお、板状無機フィラーの水分散及び溶出アルカリ量の少なくとも1種が、上記の範囲を満足しない板状無機フィラーであっても、次に示すような公知の方法によって、上記範囲を満たす板状無機フィラーとすることができる。水分散pH及び/又は溶出アルカリ量を調整する方法としては、塩酸、硫酸、酢酸、燐酸、亜燐酸等の無機酸や有機酸等の酸で処理をする方法を挙げることができる。より具体的には、例えば、ミキサー又はタンブラーで板状無機フィラーと酸とを混合した後、該板状無機フィラーを十分乾燥させる方法、板状無機フィラーを酸水溶液に浸漬する方法等を挙げることができる。さらに、酸処理後は十分に水洗してもよい。
【0024】
板状無機フィラーは、カップリング剤等で表面処理をしてもよい。カップリング剤等で表面処理することにより、さらに弾性率を上げ、耐クリープ性を向上させることができる。カップリング剤としては特に限定されず、シラン系、チタネート系、アルミナート系等一般的なカップリング剤をもちいることができる。表面処理方法としては、従来の乾式、湿式表面処理法が使用でき、特に湿式表面処理法が望ましい。
【0025】
III.導電材
本発明のPAシームレスベルトには、半導電性を付与するために、導電材を配合することができる。
【0026】
当該導電材としては、例えば、カーボンブラック(以下、CBと称する)、イオン導電材、イオン性液体、酸化亜鉛、酸化スズ等の金属酸化物、ニッケル等の金属などが挙げられる。中でもCBは、種々の電気抵抗率を有するPAシームレスベルトを創出するために最も有効な導電材である。
【0027】
イオン導電材とは、例えば、オレフィン系ブロック及び/又はポリアミド系ブロックと、親水性ブロックとのブロック共重合体であって、オレフィン系ブロック及び/又はポリアミド系ブロックと、親水性ブロックとが交互に結合した構造を有しているものを指す。具体的には、例えば、三洋化成工業(株)製の商品名「ペレスタット300」、チバスペシャルティケミカルズ(株)製の商品名「イルガスタットP16」「イルガスタットP18」、三洋化成工業(株)製の商品名「ペレスタットNC6321」が挙げられる。当該ブロック共重合体を単独で用いてもよいが、さらに金属塩類と組み合わせて用いてもよい。金属塩類と当該ブロック共重合体とを組み合わせると、金属塩類から解離した金属イオンが、当該共重合体の親水性ブロックに対して作用してイオン伝導性を発現することにより、イオン導電効果の持続性をさらに向上できる。なお、このようなイオン伝導性を付与可能な金属塩類は、例えば、特開2003−277622号公報や特開2004−175945号公報などに記載されている金属塩類などを使用できる。当該金属塩類としては、通常、アルカリ金属塩類、アルカリ土類金属塩類が使用され、例えば、過塩素酸アルカリ金属塩(過塩素酸リチウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウムなど)、過塩素酸アルカリ土類金属塩(過塩素酸マグネシウムなど)、トリフルオロメタンスルホン酸アルカリ金属塩(トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸ナトリウムなど)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドのアルカリ金属塩[ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドナトリウム、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドカリウムなど]、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドのアルカリ金属塩[トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドリチウム、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドナトリウム]などが挙げられる。これらの金属塩類は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの金属塩類の中でも、リチウム塩類、特に、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドリチウムなどのフッ素原子及びスルホニル基又はスルホン酸基を有するリチウム金属塩が好ましい。
【0028】
また、イオン性液体とは、イミダゾリウムイオンなどの有機カチオンとBF4、BF6、PF6-などのアニオンから成る塩で、比較的低温で液体状態となり、熱安定性が高く、粘性が低く、イオン伝導性が高いという特性を有するものである。例えば、有機カチオンとしては1-エチル-3-メチルイミダゾリウム(EMI)、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム(BMI)等が、アニオンとしては、ヘキサフルオロホスフェート(PF6-)、テトラフルオロボレート(BF4-)、トリクレートトリフルオロメタンスルホン酸(CF3SO3-)、ビストリフルオロメトロスルホン酸イミド(CF3SO22-等が挙げられる。好ましくは、エチルメチルイミダゾリウムとPF6-からなる塩である。
【0029】
CBとしては、例えば、一般に体積抵抗率で約10〜10−1Ω・cmの導電材が挙げられるが、これは該粉体の製造条件(例えば天然ガス、アセチレンガス又はコールタールを原料とする燃焼の条件)によって異なる。例えば、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラックが挙げられる。
【0030】
また、該製造条件によって、揮発分、pH値、DBP値、ストラクチャー、比表面積等も異なったものが得られる。一般に揮発分が多く、pH値の小さいものはストラクチャーが小さく、体積抵抗率も大きい。一般に、このようなCB粉体は、PA樹脂に対しての分散性は良好である。しかし本発明にあっては、むしろ揮発分が少なく、pH値の大きいストラクチャーの発達したCBの方が好ましい。具体的には、ファーネス系のカーボンを用いると、得られる転写ベルトの耐電圧、物理的ストレス、電気的ストレスに対し抵抗値の変化が少なくなるため、特に好ましい。
【0031】
IV.半導電性ポリアミド系シームレスベルト
本発明のPAシームレスベルトは、最大径1〜20μm、厚さ0.05〜2μm、アスペクト比(最大径/厚さ)20〜400である板状無機フィラーを5〜40重量部含む。好ましくは、7〜25重量部、さらに好ましくは10〜17重量部がよい。
前記板状無機フィラーは、5重量部未満では、十分な弾性率発現が容易にできなくなり、逆に40重量部を超えると、PAシームレスベルトの成形性が悪くなる。
また、当該PAシームレスベルトに半導電性を付与するために、前記の導電材を所望する抵抗率に応じて添加することができる。
【0032】
イオン導電材を添加する場合、その添加量は、所望する抵抗率に応じて調整すればよいが、表面抵抗率10〜1014Ω/□を達成するには、ポリアミド樹脂100重量部に対して5〜100重量部の添加が好ましい。さらに好ましくは、10〜50重量部である。
【0033】
イオン性液体を添加する場合、CBと併用することが好ましく、その添加量は、所望する抵抗率に応じて調整すればよいが、表面抵抗率10〜1014Ω/□を達成するには、ポリアミド樹脂100重量部に対して、イオン性液体を0.5〜3.0重量部、CBを3〜15重量部添加することが好ましい。さらに好ましくは、イオン性液体1〜2重量部、CB5〜10重量部である。
【0034】
金属酸化物を添加する場合、CBと併用することが好ましく、その添加量は、所望する抵抗率に応じて調整すればよいが、表面抵抗率10〜1014Ω/□を達成するには、ポリアミド樹脂100重量部に対して、金属酸化物を10〜30重量部、CBを5〜20重量部添加することが好ましい。さらに好ましくは、金属酸化物15〜25重量部、CB7〜10重量部である。
【0035】
金属を用いる場合、その添加量は、所望する抵抗率に応じて調整すればよいが、表面抵抗率10〜1014Ω/□を達成するには、ポリアミド樹脂100重量部に対して、例えばニッケルであれば、20〜100重量部添加することが好ましい。さらに好ましくは28〜60重量部である。
【0036】
CBを添加する場合、その添加量は、所望する抵抗率に応じて調整すればよいが、表面抵抗率10〜1014Ω/□を達成するには、ポリアミド樹脂100重量部に対して5〜25重量部の添加が好ましい。さらに好ましくは、7〜15重量部である。5重量部未満では、本発明が必要とする前記電気抵抗領域が得られにくい傾向がある。逆に25重量部を超え、多すぎると、電気抵抗のバランス特性発現作用が悪くなり、成形加工が容易でなくなる。また、PAシームレスベルトの成形性も悪くなる傾向がある。
【0037】
また、これら以外に、公知の熱安定剤、造核剤、成型安定剤などを添加することもできる。
【0038】
本発明のPAシームレスベルトを、電子写真装置用に用いる場合、電子写真装置用シームレスベルトの厚みは60〜200μmであることが好ましく、80〜160μmであることがより好ましい。また、膜厚ムラは±15%以下であることが好ましい。さらに、その引張弾性率は1.6GPa以上が好ましく、2.0GPa以上がより好ましい。引張弾性率が低いと使用中にしわが発生したり、スジが発生したりすることにより、画像に悪影響を及ぼすことになる。加えて、その耐折強度は50,000回以上が好ましく、100,000回以上がより好ましい。耐折強度が低いと使用中に端部のワレが発生し走行不能となる。
【0039】
V.半導電性ポリアミド系シームレスベルトの製造方法
本発明のPAシームレスベルトの製造方法は、下記のとおりである。
まず、PAシームレスベルトの製造に先行して、上記PA樹脂、導電材および板状無機フィラーの3成分を混合分散してその製造原料を調製する必要がある。調製手段は、予備乾燥したPA樹脂と導電材および板状無機フィラーを、定量2軸混練機に投入して溶融混練しペレタイズする。あるいは、PA樹脂粉体、導電材、板状無機フィラーを定量しミキサーにて混合後、2軸混練機にて溶融混練しペレタイズする。
【0040】
なお、上記いずれの場合にも、一般にポリアミドの添加剤として知られている添加剤を、本発明の効果を損ねない範囲で添加することができる。
【0041】
そして前記得られた成形用原料を、環状ダイスからフィルム状に溶融押出し、実質的に無延伸で引き取りながら常温で冷却することで、所望のPAシームレスベルトを得ることができる。ここで実質的に無延伸ということは、積極的な延伸動作をしないという意味である。これは一般に積極的に延伸する方が強度は強くなるが、本発明にあっては、延伸しても強度の改良はほとんど見られないこと、電気抵抗にバラツキが出易いことなどから、積極的な延伸動作を行わない方が好ましい。
【0042】
なお、PAシームレスベルトの厚さは、用途にもよるが、一般には60〜200μmであり、これは基本的には丸ダイのスリット幅や引き取り速度を変えることで得られる。
かくして得られたPAシームレスベルトは各種用途に使用されるが、特に前記マスターバッチ混合方式に基づいて成形されたPAシームレスベルトは、画像形成装置の用紙搬送ベルトや中間転写ベルトとするのが有効である。つまり、本願発明でいうところの電子写真装置用シームレスベルトとは、前記画像形成装置の用紙搬送ベルトや中間転写ベルトを指し、用紙搬送兼中間転写ベルトもこの中に含まれる。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、ポリアミド樹脂の特徴である靱性を維持したまま、弾性率を上げることにより耐クリープ性を向上させ、温湿度変化や電圧印加においても抵抗が安定し、電気特性にも優れている半導電性シームレスベルトを提供することができる。
したがって、耐久性に優れ、電荷移動効率の良い安価な、電子写真用シームレスベルトの製造が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下に実施例および比較例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0045】
各値の測定方法
本発明において、各値は以下のとおり測定した。
表面抵抗率
<測定装置>
抵抗計:ハイレスタ-UP(三菱化学製)
電極:URSプローブ(三菱化学製)
<測定条件>
測定雰囲気:23℃/50%RH
印加電圧:100V
印加時間:10sec
得られたシームレスベルト(直径180mm・幅250mm)を切開し、幅方向中央、周方向に等間隔16点を前記測定装置、前記測定条件にて測定し、その平均値を求めた。
【0046】
膜厚
精度0.001mmのダイヤルゲージ゛にて幅方向中央、周方向に等間隔16点測定した値の平均値である。
【0047】
ヤング率
<測定装置>
オートグラフ:AG-500E(島津製作所製)
<測定条件>
測定雰囲気:23℃/50%RH
試験スピード:20mm/min
試験片幅:25mm
チャック間距離:200mm
試験片引張方向:ベルト周方向
【0048】
耐折強度
<測定装置>
MIT耐揉疲労試験機:型式DA(東洋精機製)
<測定条件>
測定雰囲気:23℃/50%RH
試験スピード:175cpm
屈折角度:135°
試験片幅:15mm
試験片屈折方向:ベルト周方向
試験荷重:300g
【0049】
画像の評価方法
本発明において、画像評価は以下のとおり行った。
<初期画像>
得られたシームレスベルトを中間転写ベルトとして電子写真装置に装着し、23℃/50%RHの環境下において、フルカラー画像の出力試験を行い、シワによる画像不良、色ずれ、飛び散り、中抜けの観点から画像評価を行った。なお、評価のランクは◎、○、×の三段階で評価し、◎を良好、○を部分的に不良があるが実用上問題なし、×を不良多発とした。
<耐久試験後>
得られたシームレスベルトを中間転写ベルトとして電子写真装置に装着し、23℃/50%RHの環境下において、1万枚耐久後、フルカラー画像の出力試験を行い、シワによる画像不良、色ずれ、飛び散り、中抜けの観点から画像評価を行った。なお、評価のランクは◎、○、×の三段階で評価し、◎を良好、○を部分的に不良があるが実用上問題なし、×を不良多発とした。
【実施例】
【0050】
実施例1
PA12(宇部興産(株)製3020U:吸水率0.7重量%)100重量部にケッチェンブラック600JDを20重量部、板状無機フィラーとしてマイカ(最大径6.0μm、厚さ0.1μm、アスペクト比60、水分散pH6.5、溶出アルカリ量Na:0.2ppm、K:0.9ppm)を13.3重量部添加したものをφ30mm2軸押出機、ヘッド温度200℃にてコンパウンディングを行い、原料ペレットを製造した。この原料ペレットを、φ50mm押出機、スクリューL/D 25、ダイス口径Φ200mm、ダイギャップ0.135、ダイス温度210℃で、外径φ180mm、膜厚120μm、表面抵抗値 1010Ω/□のシームレスベルトを製膜した。
得られたシームレスベルトについて、前記の測定条件にて表面抵抗率、膜厚、引張弾性率、耐折強度を測定したところ、以下のとおりであった。
【0051】
表面抵抗率:1.0×1010Ω/□
膜厚:120μm
引張弾性率:2.2GPa
耐折強度:>100,000回
得られたシームレスベルトを中間転写ベルトとして電子写真装置に装着し、23℃/50%RH環境下において、フルカラー画像の出力試験を行い、初期画像評価を行った。
【0052】
初期画像評価の結果、色ずれ、飛び散り、中抜け等のない、良好な画像が得られた。
その後、同環境下で出力画像1万枚の耐久試験を行った。耐久試験後のシームレスベルトを観察したところ、しわ、ピンホールリーク、亀裂、ワレ、等の異常は観察されなかった。さらに画像評価を行ったところ、色ずれ、飛び散り、中抜け等のない、良好な画像が得られた。
【0053】
実施例2
各配合成分を表1に示すとおりの配合量に変更した以外は、実施例1と同様にして、外径φ180mm、膜厚120μm、表面抵抗値 1010Ω/□のシームレスベルトを製膜した。
得られたシームレスベルトについて、実施例1と同様の測定、評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0054】
実施例3
各配合成分を表1に示すとおりの配合量に変更した以外は、実施例1と同様にして、外径φ180mm、膜厚120μm、表面抵抗値1010Ω/□のシームレスベルトを製膜した。
得られたシームレスベルトについて、実施例1と同様の測定、評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0055】
実施例4
PA成分として、PA11(アルケマ製RilsanB:吸水率0.9重量%)を用いた以外は、実施例1と同様にして、外径φ180mm、膜厚120μm、表面抵抗値1010Ω/□のシームレスベルトを製膜した。
得られたシームレスベルトについて、実施例1と同様の測定、評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0056】
比較例1
板状無機フィラー成分を配合しない以外は、実施例1と同様にして、外径φ180mm、膜厚120μm、表面抵抗値 1010Ω/□のシームレスベルトを製膜した。
得られたシームレスベルトについて、実施例1と同様の測定、評価を行った。評価結果を表1に示した。初期画像は良好なものの、耐久後はベルト表面にシワ、スジが発生し、画像不良が確認された。
【0057】
比較例2
板状無機フィラー成分を42重量部添加する以外は、実施例1と同様にして、外径φ180mm、膜厚120μm、表面抵抗値1010Ω/□のシームレスベルトの製膜を試みたが、押出機のトルクオーバーの為製膜を断念した。
【0058】
比較例3
板状無機フィラーとして、タルク(日本タルク製FG−15:最大径4.5μm、厚さ0.3μm、アスペクト比15、水分散pH値:9.4、溶出アルカリ量Na:23ppm K:23ppm)を用いた以外は、実施例1と同様にして、外径φ180mm、膜厚120μm、表面抵抗値1010Ω/□のシームレスベルトを製膜した。
得られたシームレスベルトについて、実施例1と同様の測定、評価を行った。評価結果を表1に示した。初期画像は表面上の突起物起因の抜けが発生し、耐久後はベルト表面にシワ、スジが発生し、画像不良が確認された。
【0059】
比較例4
板状無機フィラーとしてタルク(日本タルク製ミクロエース:最大径22μm、厚さ0.3μm、アスペクト比73、水分散pH値:9.3、溶出アルカリ量Na:13ppm K:22ppm)を用いた以外は、実施例1と同様にして、外径φ180mm、膜厚120μm、表面抵抗値1010Ω/□のシームレスベルトを製膜した。
得られたシームレスベルトについて、実施例1と同様の測定、評価を行った。評価結果を表1に示した。初期画像は表面上の突起物起因の抜けが発生し、耐久後はベルト表面にシワ、スジが発生し、画像不良が確認された。
【0060】
比較例5
PA成分として、PA6(宇部興産製1030B:吸水率1.8重量%)を用いた以外は、実施例1と同様にして、外径φ180mm、膜厚120μm、表面抵抗値 1010Ω/□のシームレスベルトを製膜した。
得られたシームレスベルトについて、実施例1と同様の測定、評価を行った。評価結果を表1に示した。初期画像は良好なものの、耐久途中(2000枚)にベルト端部のワレが発生し、評価を中断した。
【0061】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸水率1.5%以下の脂肪族ポリアミド樹脂100重量部に対し、最大径1〜20μm、厚さ0.05〜2μm、アスペクト比(最大径/厚さ)20〜400である板状無機フィラーを5〜40重量部混合してなる半導電性ポリアミド系シームレスベルト。
【請求項2】
板状無機フィラーの水分散pHが 5.5〜8.0である、請求項1記載の半導電性ポリアミド系シームレスベルト。
【請求項3】
板状無機フィラーの溶出アルカリ量がNa 10ppm以下、K 20ppm以下である、請求項1または2記載の半導電性ポリアミド系シームレスベルト。
【請求項4】
表面抵抗率が10〜1014Ω/□である、請求項1〜3いずれかに記載の半導電性ポリアミド系シームレスベルト。
【請求項5】
さらに導電材を含むことを特徴とする、請求項1〜4いずれかに記載の半導電性ポリアミド系シームレスベルト。
【請求項6】
導電材がカーボンブラックである、請求項5に記載の半導電性ポリアミド系シームレスベルト。
【請求項7】
電子写真装置用シームレスベルトである、請求項1〜6いずれかに記載の半導電性ポリアミド系シームレスベルト。
【請求項8】
電子写真装置用中間転写ベルトである、請求項1〜6いずれかに記載の半導電性ポリアミド系シームレスベルト。

【公開番号】特開2012−58471(P2012−58471A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201165(P2010−201165)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【出願人】(000206901)大塚化学株式会社 (55)
【Fターム(参考)】