説明

単一核酸分子観察装置

【課題】核酸分析装置に関し、解析を行なうための反応デバイス上で発生する蛍光を観測し、その蛍光輝点輝度に基づいて核酸やタンパク質などの分析を行なう遺伝子診断/解析装置などの核酸分析装置に関する。
【解決手段】計測データに含まれる擬似信号などから目的の単一発光のみを抽出することで観測データの分精製度を向上させる。時間軸方向に取得した蛍光スペクトルと教師データとの相関を取ることにより、不要情報を削除し、計測データに時間のずれ、コンタミネーションなどの擬似信号を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸分析装置に関し、例えば、解析を行なうための反応デバイス上で発生する蛍光を観測し、その蛍光輝点輝度に基づいて核酸やタンパク質などの分析を行なう遺伝子診断/解析装置などの核酸分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体中の微量物質を測定することで、病気の診断をする技術の開発が進んでいる。
その測定方法として、例えば、生体組織中の複数の遺伝子のmRNAの発現量変化や遺伝子の突然変異について解析するために、cDNAやオリゴ断片をプローブとしたマイクロアレイを用いて測定を行うことを特徴とする核酸のハイブリダイゼーション技術がある。また、生体組織や血清中のタンパク性分子の量を抗体やペプチドをプローブとしたプロテインアレイを用いて測定する技術が開発されている。
【0003】
上記測定により得られた分析対象物質の検出方法についても、最近の技術開発に対応すべく用途に応じたいくつかの方法があり、それぞれに工夫がなされている。たとえば、特許文献1において迅速かつ簡便で高感度な分析対象物質の検出方法を提供することを目的とし、取り扱うサンプル量が微量の場合であっても、解析結果に定量性が担保される方法を提供する分析対象物質の検出方法が考えられている。その方法とは、標識された分析対象物質に由来する信号の強度測定を当該信号の強度の増加中に経時的に行い、当該信号の強度を時間の関数で表し、当該測定した信号の強度を予め定めておいた値と比較し、当該値に達したときの信号の強度を用いて定量を行うものである。
【0004】
また、特許文献2において、大規模な配列データを高速に処理可能とするため、cDNA配列をゲノム配列上に高速にマッピングする方法がある。
【0005】
【特許文献1】WO05/052583号公報
【特許文献2】特開2005-176730号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の方法を用いた場合、k-merの単調増加の式を満足させるためには、マッピングによる目的の蛍光発光以外の蛋白質系のゴミの発光、分離した蛍光物質による発光などの不要情報も増加してしまう。この場合、目的サンプルの発光強度を観察する際に、これらの不要情報に由来する発光が混在してしまうため、発光時間のずれや発光強度の不安定さを招き、それによって計測データに時間のずれ、コンタミネーションなどの擬似信号が発生し、分析精度が低下する。すなわち、分析精度の低下によって再度分析を行う必要が生じ、分析時間の増加につながる原因にもなる。
【0007】
また、単分子型DNA検査においては、一度に大量のサンプル解析を行うことが一般的であり、分析処理の如何によって処理速度が大きく左右される。
以上より、特に単分子型DNA検査においては、目的の信号のみを峻別できる処理が求められる。
【0008】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、計測データに含まれる擬似信号などから目的の単一発光のみを抽出することで観測データの分精製度を向上させることができる核酸分析装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題を解決するために、本発明の装置では、発光強度の時系列変化を用いることで、目的の発光強度を抽出する手段を提供する。
【0010】
即ち、本発明の核酸分析装置は、蛍光標識された反応デバイスに励起光を照射するための光源と、該光源によって励起された前記反応デバイスからの発光強度を捕らえるための検出器と、該検出器によって捕らえられた発光強度信号をデータ解析するための分析ユニットと、を備えた単一核酸分子観察装置であって、前記分析ユニットは、前記検出器によって捕らえられた発光強度信号を時系列順に取得した発光強度計測データを作成する、時系列データ作成手段と、前記発光強度に関する複数の発光強度教師データを備え、各発光強度教師データと前記発光強度計測データとの相関を表す発光強度相関係数を算出する、発光強度相関係数算出手段と、前記発光強度相関係数に基づいて、前記発光強度計測データを前記複数の発光強度教師データのいずれか1つに特定する、特定手段と、を有する。
【0011】
この場合において、前記時系列データ作成手段は、作成した前記発光強度計測データの統計情報を計算し、前記発光強度相関係数算出手段は、前記発光強度の統計情報に関する複数の発光強度教師データを備え、各発光強度の統計情報に関する教師データと前記発光強度計測データとの統計情報との相関を表す発光強度統計相関係数を算出し、前記特定手段は、前記発光強度統計相関係数に基づいて、前記発光強度計測データの統計情報を前記複数の統計情報に関する発光強度教師データのいずれか1つに特定する、ことを特徴としてもよい。
【0012】
または、前記発光強度相関係数算出手段は、各発光強度教師データと前記発光強度計測データとの相関を表す発光強度相関係数を時系列に逆順に算出し、前記特定手段は、時系列に逆順に算出した前記発光強度相関係数に基づいて、前記発光強度計測データを前記複数の発光強度教師データのいずれか1つに特定する、ことを特徴としてもよい。
【0013】
または、前記発光強度計測データが複数の異なる発光強度信号を含む場合、前記特定手段は、前記発光強度相関係数に基づいて、前記発光強度計測データに含まれる各々の複数の異なる発光強度信号を各々の前記発光強度教師データに特定する、ことを特徴としてもよい。
【0014】
または、前記発光強度計測データが不要情報を含む場合、前記時系列データ作成手段は、作成した前記発光強度計測データの統計情報を計算し、前記発光強度相関係数算出手段は、不要情報の統計情報に関する複数の発光強度教師データを備え、各不要情報の統計情報に関する発光強度教師データと前記発光強度計測データの統計情報の相関を表す発光強度統計相関係数を算出し、前記特定手段は、前記発光強度相関係数に基づいて、前記発光強度計測データに含まれる不要情報を前記複数の不要情報の統計情報に関する発光強度教師データのいずれか1つに特定し、前記不要情報を含む発光強度計測データから輝点データのみを抽出することを特徴としてもよい。
【0015】
または、前記発光強度相関係数算出手段は、塩基配列に関する複数の塩基配列教師データを備え、各塩基配列教師データと前記発光強度計測データとの信頼性情報を算出し、前記特定手段は、前記信頼性情報に基づいて、前記発光強度計測データを前記複数の塩基配列教師データのいずれか1つに特定することを特徴としてもよい。
【0016】
または、さらに、前記発光強度計測データの統計的情報を計算し、該統計的情報に基づいて発光強度計測データのうち不要データを削除する、時系列統計情報を用いた不要情報削除手段と、を有することを特徴としてもよい。
【0017】
または、さらに、前記発光強度データから波長情報を取得し、該波長情報に基づいて発光強度計測データのうち不要データを削除する、波長情報を用いた不要情報削除手段と、を有することを特徴としてもよい。
【0018】
または、さらに、前記発光強度計測データの統計的情報を計算し、該統計的情報に基づいて発光強度計測データのうち不要データを削除する、時系列統計情報を用いた不要情報削除手段と、前記発光強度データから波長情報を取得し、該波長情報に基づいて発光強度計測データのうち不要データを削除する、波長情報を用いた不要情報削除手段と、を有することを特徴としてもよい。
【0019】
または、さらに、単一核酸分子観察装置の測定条件を記憶し、該測定条件を読み出し、該読み出された測定条件を用いて単一核酸分子観察装置の測定条件を自動調整する、自動調整手段と、を有することを特徴としてもよい。
【0020】
または、前記自動調整手段は、流路に洗浄液を流しクリーニングすることにより、測定条件を自動調整することを特徴としてもよい。
【0021】
または、前記自動調整手段は、流路に紫外線を照射しクリーニングすることにより、測定条件を自動調整することを特徴としてもよい。
【0022】
または、前記自動調整手段は、サンプル濃度あるいは試薬濃度を変更することにより、測定条件を自動調整することを特徴としてもよい。
【0023】
または、前記自動調整手段は、露光時間、検出器感度、励起光強度の少なくとも1つを変更することにより、測定条件を自動調整することを特徴としてもよい。
【0024】
または、さらに、警告および指示の少なくとも1つをユーザに提示する、警告指示手段と、を有することを特徴としてもよい。
【0025】
または、前記警告指示手段は、単一核酸分子観察装置の動作、特定の音、LEDの点灯、消灯、表示装置に図や文字で表示、のうちの少なくとも1つを実行することを特徴としてもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明の分析方法は、単一発光のみを抽出することができ、計測データに時間のずれ、コンタミネーションなどの擬似信号を低減する効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。ただし、本実施形態は本発明を実現するための一例にすぎず、本発明の技術的範囲を制限するものではない。
【0028】
<装置構成>
図1に示すように、本実施形態の単一核酸分子観察装置は、検出対象を装置に導入するオートサンプラユニット101、導入する流れを作り出すためのポンプユニット102、蛍光標識のついた測定対象を固定する反応ユニット105、蛍光標識を励起光によって励起する照射ユニット106、蛍光の発光強度を捕らえる検出ユニット107、検出ユニット107の出力を比較する分析ユニット108、警告指示操作ユニット110、の7個のブロックから構成される。
【0029】
オートサンプラユニット101は試料導入部701、試料導入端702、試料移動部703、サンプル容器704、バッファ容器705、試薬容器706、洗浄容器707から構成されている。試料導入部701には試料導入端702がある。サンプル容器704は、複数の微量測定対象を含む溶液を保持する容器であり、例えば、数10μLの試料を保持することができるウェルを24行16列備えたサンプルプレートに、樹脂製のシートであるセプタを乗せ、それをホルダとクリップで挟むように構成されている。測定対象は、例えば、4種類のヌクレオシド塩基分子が蛍光標識された、多数の適当な長さ(大きさ)の核酸である。セプタは、ウェル中の試料の蒸発を防止するためのものであり、ウェルに対応する位置に通常は密閉状態の貫通孔を有し、試料導入時には貫通孔を介して試料導入端702が試料に接触する。また、セプタの上面に保護フィルムを貼り付け、試料蒸発を防止しても良い。バッファ容器705は、試料導入端702を浸す緩衝液を保持する容器である。試薬容器706は、蛍光標識のついた測定対象を反応デバイス203に固定するための試薬や反応溶液を保持するための容器である。洗浄容器707は、試料導入端702を洗浄する洗浄液を保持する容器である。
【0030】
ポンプユニット102は試料成分を流すためのポンプ801、廃液を破棄するための廃液容器802から構成されている。廃液容器802は、使用済のバッファ媒体を保持する容器である。
【0031】
反応ユニット105は、恒温槽201、反応チャンバ202、反応デバイス203から構成されている。
【0032】
照射ユニット106は、励起光の光源となるレーザ光源501、第一の集光レンズ502、照射用フィルタ503、第二の集光レンズ504、戻り光防止スリット505、励起光を試料に全反射照射する全反射プリズム506を有する。戻り光防止スリット505は、励起光を全反射プリズム506に入射させる際に、反射及び屈折によってレーザ光源501に戻る光を防止し、分析性能を低下させないためのスリットである。
【0033】
検出ユニット107は、第一のカメラレンズ601、検出フィルタ602、回折格子603、第二のカメラレンズ604、二次元検出器605、及びXYZステージ606を有する。二次元検出器605は集光された光の強度をデジタル値に変換する。なお、回折格子603はプリズムやダイクロイックミラー等を適宜組み合わせた波長分散手段を用いてもよい。二次元検出器605の代わりに、一次元検出器、フォトマル、フォトダイオード等、及び、光学機構を適宜組み合わせて構成したものであってもよい。XYZステージ606は、検出ユニット107を目的の反応グリッド204が撮影できるよう移動する移動手段である。さらに、撮影の際にフォーカスをあわせるために用いる。なお、XYZステージ606は2軸機構であるXYステージや移動機構を適宜組み合わせた移動手段を用いても良い。反応ユニット105が移動手段を持っても良い。
【0034】
分析ユニット108は計算機901およびデータベース902から構成されている。
【0035】
警告指示操作ユニット110は表示装置1101、発光装置1102、発音装置1103、及び、操作装置1104から構成されている。例えば、表示装置として液晶ディスプレイやブラウン管ディスプレイ、発光装置としてLEDやランプ、発音装置としてスピーカやブザー、操作装置としてプッシュ式ボタンやキーボードやマウスがある。
【0036】
なお、オートサンプラユニット101と反応ユニット105は第一のチューブ803、反応ユニット105とポンプユニット102は第二のチューブ804によって流路が接続されている。
【0037】
次に、図2を用いて、反応ユニット105内の詳細を説明する。
図2Aは、反応ユニット105内の反応デバイス203および照射ユニット106内の全反射プリズム506周辺を拡大したものである。反応デバイス203は、励起光が照射される照射部401、試料を導入するための接続端402、及び、発光強度を観測するための観測窓403から構成されている。また、反応デバイス203の照射部401には、全反射プリズム506が密着されている。
【0038】
図2Bは、反応デバイス203を上方向から見た図である。図2Bに示すように、反応デバイス203は列状に並ぶ複数の反応グリッド204から構成され、同一列の反応グリッド204には、流路206が接続されている。これは、複数の試料成分を同時に分析するためである。反応デバイス203は、所定回数の分析によって品質が劣化した場合や分離能が低下した場合に備え、着脱可能な交換部材を採用している。また、測定手法を変更し、反応グリッド数を変更する必要がある場合にも、異なる反応グリッド数を有する反応デバイス203に交換可能であり、任意の反応グリッド数に調節可能である。図2Bでは、反応グリッドが列状に配置されているが、列状に配置されていなくても良く、同一列の反応グリッド204に流路が接続されていなくても良い。また、図2Bでは、24個の反応グリッド204から構成されているが、1個であっても良く、4個、8個等であっても良い。
【0039】
図2Cは、図2Bの反応グリッド204を拡大したものである。図2C に示すように、反応グリッド204内には、内部に格子状に反応サイト205が1μmごとに配置されている。図2Cでは、1μmごとに反応サイト205が格子状に配置されているが、分析方法に合わせて、任意の距離ごとに正方格子状、三角格子状、篭目格子状に配置しても良く、ランダムに配置しても良い。
【0040】
図2Dは、測定対象304に蛍光スペクトル分析蛍光標識103を標識させた図である。
【0041】
図2Eは、図2Bの反応グリッド204を横方向から見た図である。図2Eに示すように、反応グリッド204は石英ガラス基板301上に非特異吸着防止層302がコーティングされ、数十nmの金微粒子303が固定され、金微粒子303上に測定対象304を吸着させるDNAプローブ305が取り付けられている。各反応サイト205は、石英ガラス基板301上にて、ガラス基板に対して実質的に平行に配列されている。実質的にとは、精度誤差に収まる程度であることを意味する。図2Eでは、金微粒子303から構成されているが、銀等の局在表面プラズモン共鳴による増強場を発生させる金属粒子であってもよい。
【0042】
<分析動作>
本実施形態の単一核酸分子観察装置は、蛍光標識のついた核酸を固定した反応デバイス203に、照射ユニット106より照射された励起光を核酸の蛍光標識に当て、発光強度を検出ユニット107にて時系列順に取得し、事前に準備したデータベースと相関を求め比較し、発光強度の特定をする。例えば、DNA含有試料を有する試料成分から、塩基配列を決定する。
【0043】
本発明における単一拡散分子観察装置による分析の流れについて、図4を用いて説明する。図4Aは、本発明の単一核酸分子観察装置の分析方法に関するフローチャートである。なお、各動作主体は図1における計算機901である。
【0044】
ステップ11では単一核酸分子観察装置の初期化が行われる。この動作は単一核酸分子観察装置固有の初期化動作である。例えば、電源電圧が安定しているか、各ユニットが接続されているか等を確認する。
【0045】
ステップ12では、単一核酸分子観察装置の設定が行われる。ここからは、ステップ12の詳細について図4Bを用いて説明する。
【0046】
ステップ21では、単一核酸分子観察装置の測定条件を決定するため、分析ユニット内の図示しない記憶部に記憶された前回の測定条件を読み出す。本ステップで読み出した測定条件により取得した発光強度が、例えば、測定するために必要な閾値よりも低かったり、逆に強かったり、または無かったりする場合は、以下のステップ22〜26により測定条件が自動調整される。具体的には、露光時間を長くしたり、検出器感度を下げたり、光源強度を上げたり、または、ステージの移動が行われる。あるいは、発光強度がない場合にはサンプル濃度や試薬濃度を変更することも考えられる。そして、以下のステップ27では、測定条件が十分に満たされていない場合、ユーザに対して警告や指示を出す。警告や指示の方法として単一核酸分子観察装置の動作、あるいは発音装置1103による特定の音、あるいは発光装置1102の点灯、あるいは消灯、あるいは表示装置1101に図や記号で表示することが考えられる。
【0047】
ステップ22では、ステップ21での測定条件により測定した発光強度のノイズレベル(S/N比)を向上させたい場合などに、必要があれば流路に洗浄を流したり、紫外線を照射したりすることにより流路を洗浄する。
【0048】
ステップ23では、反応グリッド204を観察するため、ステージ位置の調整を行う。
【0049】
ステップ24では、反応グリッド204へ測定対象304と試薬をオートサンプラユニット101より導入する。試料移動部703は、サンプル容器704、バッファ容器705、試薬容器706、及び、洗浄容器707を、試料導入部701に搬送するための移動手段である。まず、試料移動部703は、試料導入部701にバッファ容器705を配置し、バッファ容器705に保持された緩衝液に試料導入端702を浸す。すると、反応グリッド204、第一のチューブ803、及び第二のチューブ804の内部はバッファ媒体で満たされる。これによって、オートサンプラユニット101と反応ユニット105、及び、ポンプユニット102からなる流路が形成される。試料導入端702を、洗浄容器中の洗浄液に浸すのは、試料導入端702を洗浄し、コンタミネーションを回避するためである。次に、サンプル容器704より測定対象を含む成分を流路内に分注し、反応溶液(蛍光dNTP、ポリメラーゼ)と共に試料成分を反応デバイス203内に流す。このとき、試料成分の反応速度に影響を与える反応グリッド204及び流路206の温度は、恒温槽によって制御される。そして、ペルチェ等の温度制御機構によって一定温度に保たれた空気を、ファン等の送風機構によって恒温槽内を循環させ、反応グリッド204及び流路206を所定温度に保持する。また、装置の待機中にも、分析時と同様に試料導入部701に搬送され、試料導入端702を緩衝液に浸し、オートサンプラユニット101、反応ユニット105、及びポンプユニット102内のバッファ媒体の乾燥を防止する。廃棄容器802は、バッファ媒体充填時に、排出される使用済のバッファ媒体を受け入れる。
【0050】
ステップ25では、照射ユニット106のレーザ光源501の強度を調整する。
【0051】
ステップ26では、二次元検出器605の検出感度を調整する。
【0052】
ステップ27では、ユーザに対して警告や指示を行う。表示装置1101は動作時にユーザに対して図や文字で操作を表示したり、警告したりする。発光装置1102は動作時に点灯及び消灯をすることで、装置の状態を示したり、警告したりする。発音装置1103は動作時に操作確認音を出したり、警告音を出したりする。ユーザは、操作装置1104を用いて動作時の操作を行う。
以上までがステップ12の設定である。
【0053】
ステップ13では、単一核酸分子観察装置での計測を行う。ここからは、ステップ13の処理について図4Cを用いて説明する。
【0054】
ステップ31では、励起光を照射部401に照射し測定対象304を励起させる。照射ユニット106からの励起光は、第一の集光レンズ502によって集光され、照射用フィルタ503によって不要な波長成分はカットされ、第二の集光レンズ504によって励起光は集光され、第二の集光レンズ504によって集光された光は全反射プリズム506に照射される。照射部401の反対側には、反応デバイス203の観測窓403が設置されているため、励起光は、照射部401の外面を全反射して反応デバイス203内を伝播しエバネッセント光を発生させる。そしてエバネッセント光は各反応サイト205内の試料を同時に励起する。反応デバイス203内を伝播する励起光によって、反応サイト205内の試料は、数mmから数十mmの範囲にて、蛍光を発生する。こうして本実施形態では、グリッド状の発光部位を形成する。
【0055】
ステップ32では、検出ユニット107の二次元検出器605にて試料から放出された光の計測を行う。ステップ31で反応デバイス203内にて試料成分に励起光が照射されると、試料成分に標識された蛍光体は、試料成分毎に異なる波長の光を放出する。この光は、反応グリッド204ごとに検出ユニット107によって検出され、発光状態は時間軸に対する画像情報として取得される。図3に、二次元検出器605によって得られた画像例を示す。この画像は縦横方向に反応サイト205が並んでおり、1つの反応サイト205の横軸は波長分散方向である。黒い部分が発光点を示しており、白い部分が非発光点を示している。
【0056】
本実施形態では、反応サイト205の間隔が1μmの反応グリッド204を用いている。これに対し、蛍光体による発光強度のピーク間の波長距離は、約330μmである。つまり、反応サイト間隔が蛍光体の波長ピーク間隔よりも小さいため、各反応サイトで発生した蛍光体の波長が入り混じることがあり、どの反応サイトから発せられた波長かを特定する必要がある。そこで、図3で得られた発光している各反応サイト205の画像から、発光強度又はスペクトル情報を取得することで、二次元検出器605の画像上における反応サイト205の中心位置を示す波長を得ることができる。本実施形態では、反応サイト205のX方向に関してある程度の長さの画像を取得することで、反応サイト205の位置ずれを正確に得ることができるばかりでなく、反応サイト205の傾斜角を正確に得ることができる。例えば、反応サイトが格子状に並んでいる場合、画像上にその傾きと位置ずれが現れるため、そこから逆に位置ずれ量と傾きを求めることができる。
以上までが、本発明の単一核酸分子観察装置を用いて、反応グリッド単位での画像を取得するまでの流れである。
【0057】
次に、二次検出器によって得られた画像を構成する計測データを分析し、得られた計測データから不要情報を除去する方法を説明する。本実施形態では、1つの反応グリッド204に対して、4色の蛍光色素を用いた場合について説明する。なお、各動作主体は、図1における計算機901である。
【0058】
ステップ33では、第一の不要情報除去の処理(時系列統計情報を用いた不要情報除去)が行われる。ここでの目的は、製造段階において正確に形成されなかった反応サイトや、分析段階においてハイブリダイゼーションが起こらなかった反応サイトを把握し、一般的な統計的手法を施すことで、その場所に関するコンピュータ処理の実行を省き、迅速かつ効率良くデータ処理を行うことである。ここでは、非発光点の時間軸に対する統計的情報により、不要情報を削除する。製造段階において正確に形成されなかった反応サイトの計測データは、波長校正時に記録し、計測を行うときに計測対象外として除去することができる。分析段階においてハイブリダイゼーションが起こらなかった反応サイトは、輝点でない部分の計測データと雑音比を取る統計的処理をすることで除去することが出来る。第一の不要情報除去方法に関する詳細な説明は後述(図5)することにする。
【0059】
ステップ34では、本発明特有の第二の不要情報除去の処理(特定)が行われる。ここでの目的は、計測データ中に含まれる多くの試料成分蛍光発光由来以外の発光、例えば蛋白質系のゴミの発光や分離した蛍光物質による発光、を除去することである。並びに、試料成分蛍光発光由来であっても複数の蛍光物質による同時発光を含む場合も考えられ、これら複数の発光強度信号を含む計測データから、1つずつ発光強度信号を特定することである。ここでは、時間軸方向に取得した発光強度信号と教師データとの相関を取ることにより、まず不要情報を特定・削除した後、複数の発光強度信号を特定する。詳細については、後述(図6A及びB)する。教師データは、主に計測データから作成したもの、人工的に作成したものなどがある。その他の抽出方法としては、信号の平均や分散やS/N比等の相関を取る、一般的な統計的手法を用いても可能である。例えば、分散の程度が正規白色雑音と同じ程度の場合を非発光点とする方法である。
【0060】
ステップ35では、第三の不要情報除去の処理(波長情報を用いた不要情報除去)が行われる。ここでの目的は、第二の不要情報除去と同様、取得した計測データ中に含まれる多くの試料成分蛍光発光由来以外の発光を除去することである。ただし、ここでは、計測データから波長情報を取得し、測定対象304に付加した蛍光体の波長情報と比較することにより、蛍光体以外の波長に由来する発光強度信号を不要情報として削除する。第三の不要情報除去方法に関する詳細な説明は後述(図7)することにする。本処理は補助的なものであり、第二の不要情報除去方法で除去できなかったものを除去するために実行される。
【0061】
なお、第一から第三までの3つの不要情報除去方法は全て実行されても良いし、1つ又は2つの方法について選択的に実行されても良い。
以上までがステップ13の計測の流れである。
【0062】
ステップ14では、連続して計測が必要な場合、繰り返し計測が行われる。たとえば、図2Bにおいて1つの反応グリッド204の計測後、他の反応グリッドを連続して計測したい場合は当ステップからステップ12へ戻り、再び同じ処理が繰り返されることになる。
【0063】
ステップ15では、得られた計測結果を基に核酸分子を決定するための分析が行われる。ここでは、蛍光色素の色から核酸を決定する塩基変換処理、および塩基変換処理で決定された核酸の精度を高めるために同じものを探し重ねる処理やデータベースとの比較を行う塩基配列決定処理が行われる。
以上までが、本発明の単一核酸分子分析を行う上での主な流れである。
【0064】
それでは、前述した上記ステップ13における計測で行われる本発明の課題を解決する上で必要な第一から第三までの不要情報除去方法について、以下説明する。
【0065】
第一の不要情報除去ステップ33のフローチャートを図5に示す。
【0066】
ステップ41では、時間軸方向に対する発光強度信号の統計情報を抽出する。ここでは主に一般的な統計的方法により、ノイズレベルを計測する。
【0067】
ステップ42では、発光強度が弱い輝点データやノイズデータを除去する。具体的には、ステップ41で得られた統計情報の平均値、分散を計算し、平均値があまりに低いものや分散が大きすぎるものなどを除去する。
【0068】
第二の不要情報除去ステップ34のフローチャートを図6Aに示す。
【0069】
ステップ51では、DP(ダイナミック・プログラミング)マッチング処理を行う前準備として、輝点データの移動平均を取得後に正規化を行う。DPマッチングは音声認識の分野で使われているマッチング技術である。詳しくは後述のステップ54で述べる。
【0070】
ステップ52では、DPによる距離を計算する。図6Bは、DP距離を算出する手順を示したものである。本実施形態では開始点、終了点を固定する区間固定法を用いるが、開始点、終了点を固定しない区間フリー法を用いてもよい。
【0071】
ステップ61では、ローカル距離計算が行われる。ここでは、比較方法を用いて教師データと計測データを比較する。教師データのある時間t1と計測データのある時間t2における信号強度を用いて尤度付き絶対値誤差法により誤差を計算する。尤度とは、信号同士のずれ(誤差)の許容量を表す。一般的に、信号には白色雑音が含まれるため、その白色雑音程度を尤度とする場合や、装置性能として信号の安定が許される程度を尤度とする場合がある。本実施形態では、まず絶対値誤差を計算し、尤度は0.1として、それ以下の場合は誤差の値は0、それ以上の場合では0.1を差し引いた値とする。これによって信号のノイズを考慮した誤差比較をすることが出来る。t1、及びt2をずらして全区間において比較方法によって比較し、ローカル距離とする。本実施形態では、尤度は0.1としたがこの値は0.05や0.2といった固定値や、区間や発光強度によって変わる可変値であってもよい。
【0072】
ステップ62では、グローバル距離計算が行われる。ここでは、DPパスを用いてローカル距離の比較を行う。教師データのある時間t1と計測データのある時間t2におけるローカル距離がもっとも近くになる距離を選択する。DPパスを変更することによって時間対応を軽減させたり、特定ノイズを無視したりすることが出来る。最後に教師データと計測データの全区間の時間で割ることで正規化されたDP距離が得られる。これにより、後述するDP距離による分類54において、DP距離が最も小さいものがどのパターンに当てはまるかによって分類することが出来る。
【0073】
ステップ63では、バックトレース形状比較が行われる。ここでは、DP距離のみでは分類できない計測データの場合にDP距離計算過程であるバックトレースの形状を教師データ1001と比較する。一般的に、複数の発光強度を有する計測データは、教師データと比較するのが困難である。しかし、この方法は、他段階に発光するスペクトルを含んでいることが多い開始地点の計測データからではなく、全ての発光が終了した終了地点の計測データを時間方向に逆順に教師データと比較する。これにより後述するDP距離による分類(ステップ54)において、発光強度信号を特定する精度を向上させることができる。
【0074】
以下に、バックトレース形状比較を行う手順を説明する。
図11Aに、バックトレース形状比較を行う場合の計測データの例を示す。図11Bに、バックトレース形状比較を行った結果例を示す。図11Aでは、図11Bのバックトレースが連続してテスト信号を参照しているため、輝点に対して挿入が発生している。これは、図11Aの横軸フレーム数方向に同じ値が連続していることから判断できる。図11Aの計測データから、多段階に消光したフレームを検出するためには、時間方向に逆順に消光したフレームから次の消光したフレームまでを教師データと比較する。そして比較された結果、特定された教師データに対応する予測スペクトル信号を、もとの計測データから差し引く。これを発光開始フレームまで遡りながら消光回数分繰り返すことで、複数含まれる蛍光スペクトルを一つずつ教師データへ特定していく。
以上までがDPによる距離計算の流れである。
【0075】
ステップ53では、複数の教師データがあった場合には処理を繰り返す。
【0076】
ステップ54では、ステップ52で行われたDP距離計算に基づき、発光パターンの分類を行う。分類はDP距離のみの比較でも良いが、さらにDP距離の組み合わせによって判別分析法等を用いて行うことも可能である。ここではDPマッチングを用いるが、テンプレートマッチング、マップマッチング、隠れマルコフモデルマッチング等の手法を用いても良い。発光強度信号の同定は、得られた計測データの縦軸におけるピークと教師データとのマッチングにより行われる。また、試料成分蛍光発光由来であっても複数の蛍光物質による同時発光を含む場合も考えられ、これら複数の発光強度信号を、不要情報を除去した後の計測データから1つずつ特定する。計算機901は検出ユニット107より取得された計測データをもとに、信頼性情報を計算して、データベースと比較することで塩基配列を決定する。 以下、教師データを基に、計測データを分類する方法について説明する。
【0077】
図8は、測定の結果得られた、試料成分が発光するパターンを示したものである。図8のグラフの横軸はフレーム数、縦軸は輝点の強度である。横軸の1フレームとは、1/100秒ごとに計測したデータを意味する。なお、計測を行う際は1/100秒ごと以外に1/50秒ごとや1/200秒ごとであっても良い。
【0078】
得られる計測データは、発光強度の強い部分をSとし、発光強度の弱い部分をBとした場合、図8の(1)〜(12)までの12種類が考えられる。詳細には、(1)Sが安定している一段階消光、(2)Sが右肩上がりの消光、(3)S及びBが右肩上がりの消光、(4)開始2〜4フレームでの消光、(5)開始1フレームでの消光、(6)開始5フレーム以下で1段階目消光、5フレーム以上後に2段階目消光、(7)Sが不安定な消光、(8)2回発光(Bが同じでS間が長い)、(9)2回発光(Bが異なりS間が長い)、(10)2回発光(Bが同じでS間が短い)、(11)立ち上がり開始時刻の遅れた発光、(12)消光前に強い発光、である。
【0079】
得られた計測データが、信頼性が高く、単一発光のみから成る (1)のパターンであれば、直接DPマッチングを用いて行う。DPマッチングの概念図を図9に示す。DPマッチングは教師データ1001、計測データ1002、DPパス、比較方法1004から構成されている。最大の特徴は、時間方向に形状が伸縮してもそれに応じたパターンを登録せずに、特定することが出来る点である。
【0080】
図9における教師データ1001は、得られた計測データを特定するための基準となる波形であり、横軸に時間、縦軸に正規化された信号強度を与える。ここでは、フレーム0を開始点として、信号の傾きが変化する点の強度を、時間軸方向へ順に呼ぶことにする。例えば、図9右上図の教師データのDNA-A,T,G,Cの場合であれば、0.0、0.0、1.0、0.3、0.0となる。
【0081】
計測データ1002は時系列に取得した発光強度信号を、信号強度方向に正規化したものである。横軸に時間、縦軸に正規化された信号強度を与える。
【0082】
DPパスはDPマッチングを行う際に信号同士の時間対応をどの程度許すかを決めるものである。DPパスは重みを持っており、通常、時間対応のずれに従って重みが重くなる。図10にDPパスで用いる内部計算手法を模式的に示す。これは、信号同士を比較する際に大きく値が異なる場合に、信号に含まれるノイズを許容するための方法である。図中の白丸は座標点、線は許容される誤差の経路、数字は経路の重み(許容しにくさ)を表している。本実施形態では図10Aの標準型を用いるが、標準型以外に図10Bのアロー型、図10Cのリファレンス優先型、図10Dのテスト優先型、図10Eの時間対応フリー型等であってもよい。
【0083】
比較方法1004はDPパスによってローカル距離を計算する際に、信号を比較する方法である。信号比較は主に誤差計算によってなされる。本実施形態では尤度付き絶対値誤差法を用いるが、差分誤差法、二乗誤差法、マハラノビス距離法等の比較方法であってもよい。
【0084】
図9では、計測データ1002は、それぞれの教師データ1001から算出されたDP距離1005が最も小さい値となる、DNA-Gのパターンに当てはまることになる。
【0085】
ところが、得られた計測データが複数の発光強度信号を含むような図8の(2)〜(12)のパターンである場合は直接DPマッチングを実行するのは困難である。これらの場合にDPマッチングを行う方法について説明する。
【0086】
図8の(2)及び(3)の場合には、(1)のパターンにのこぎり波状の波形が足し合わされたものであるため、教師データ1001にのこぎり波状の波形を登録すればDPマッチングが可能である。のこぎり波状の波形は、開始点を0.5付近からはじめ1.0まで上昇し消光する(2)と、開始点を0.5付近からはじめ1.0まで上昇し消光し再び0.5付近まで上昇する(3)とによって近似される。
【0087】
図8の(4)及び(5)の場合には、短期間DPマッチングを用いれば可能である。開始5フレーム以内のみを用いてDPマッチングすることを短期間DPマッチングと呼ぶ。この区間における発光状態を比較する。教師データとして0.0、1.0、0.0の3値を用いる。
【0088】
図8の(6)の場合には、前述のバックトレース形状比較後にDPマッチングが可能である。
【0089】
図8の(7)の場合には、比較方法1004の尤度を変更すれば可能である。本実施形態では尤度は0.1に設定したが、尤度を0.2に設定することで、DP距離が小さくなる場合、(1)のパターンにおけるSが不安定であったことを意味する。これにより尤度を調整することで(7)は(1)としてDPマッチングが可能となる。
【0090】
図8の(8)、(9)及び(10)の場合には、教師データ1001に複数の矩形波を登録することで分類可能である。(8)と(10)は教師データとして0.0、1.0、0.0、1.0、0.0を用いる。(9)は教師データとして0.0、1.0、0.5、1.0、0.0を用いる。これによりDPマッチングが可能である。あるいは、2回発光のそれぞれの発光が安定していれば、2回の発光を1回ずつに分離しすることによっても、DPマッチングが出来る。
【0091】
図8の(11)の場合には、教師データ1001に初期時に信号強度を弱くした波形を登録すれば、短期間DPマッチングが可能である。教師データとして0.0、0.1、0.0の3値を用いる。
【0092】
図8の(12)の場合には、教師データ1001に初期時に信号強度を中程度にした波形を登録すれば、DPマッチングが可能である。教師データとして0.5、0.1、0.0の3値を用いる。
【0093】
これらの方法によって図8の12種類の計測データについてDPマッチングが可能となり、複数の発光強度信号を含んだ計測データであっても、1つずつ発光強度信号を特定可能となる。
以上までがステップ34における第二の不要情報除去の流れである。
【0094】
次に第三の不要情報除去ステップ35のフローチャートを図7に示す。
【0095】
ステップ71では、計測データから輝点スペクトルを抽出する。
【0096】
ステップ72では、計測データの輝点スペクトルを判断することにより蛍光体あるいは発光体を特定し、不要情報と判断された場合には不要情報を除去する。以下に、本ステップでの具体的な分析方法を説明する。
【0097】
まず、計測データから安定した輝点を選択する。輝点スペクトルを用いる場合は、輝点の強度が安定した区間の発光を用いてスペクトル分析を行うべきであるからである。安定した輝点の選択方法として、1.安定区間の中間の輝点、2.安定開始から特定フレーム後の輝点、3.安定区間における輝点のビニング、の3つの方法が考えられる。
【0098】
1.「安定区間の中間の輝点」による選択方法は、特定区間においてSが区間の平均値より区間誤差±0.05以内である場合、その区間は安定しているとし、安定している区間においてその中間のフレームの輝点を用いて蛍光スペクトル分析をする方法である。なお、この区間誤差は±0.05以外の値で無くても良い。
【0099】
2.「安定開始から特定フレーム後の輝点」による選択方法は、安定区間を探した後、安定区間開始から例えば遅延フレーム10フレーム後の輝点を用いて蛍光スペクトル分析をする方法である。なお、この遅延フレームは10でなくても良い。
【0100】
3.「安定区間における輝点のビニング」による選択方法は、安定区間を探した後、安定区間内におけるスペクトルを全て積算し、スペクトル分析をする方法である。この方法によって、発光強度が小さい場合においても正確に蛍光スペクトル分析をする事ができるようになる。
【0101】
次に、蛍光標識由来の発光は、計測データに特定のピークを持った波形を映すので、そのピークの波長情報を取得し、基準蛍光スペクトルの波長情報と相関係数を求めることでDNA試料成分の検出光から4色の蛍光スペクトルを特定し、4種類のDNAを同定する。図12に、波長校正データとして取得した基準蛍光スペクトルを示す。4色の蛍光色素からの蛍光は回折格子603によって波長分散されてスペクトルとなる。
【0102】
こうして、DNA試料成分の検出光から4色の蛍光スペクトルを分離し、4種類のDNAを正確に同定することができる。そして、基準蛍光スペクトルへの相関係数を計算し信頼性情報としてデータベース検索の際に利用することが出来る。
【0103】
一方、4種類のどの色素とも相関係数が低い場合にはその輝点は蛍光標識由来ではないことを意味するため、不要情報として排除する。不要情報の蛍光スペクトルの例を図13に示す。
【0104】
<本実施形態の効果>
以上の本発明の分析手段により、複数の発光強度信号を有する計測データから単一発光のみを抽出することができ、計測データに時間のずれ、コンタミネーションなどの擬似信号を低減する効果がある。また、その結果を利用して装置動作の自動化、ユーザへの情報提示をする効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】単一核酸分子観察装置の概略を示す図である。
【図2A】単一核酸分子観察装置で用いる反応デバイスの概略を示す図である。
【図2B】単一核酸分子観察装置で用いる反応デバイスの概略を示す図である。
【図2C】単一核酸分子観察装置で用いる反応デバイスの概略を示す図である。
【図2D】単一核酸分子観察装置で用いる反応デバイスの概略を示す図である。
【図2E】単一核酸分子観察装置で用いる反応デバイスの概略を示す図である。
【図3】単一核酸分子観察装置で計測される1フレームの輝点画像を示す図である。
【図4A】単一核酸分子観察装置で分析を行う際の機器の動作手順を示す図である。
【図4B】単一核酸分子観察装置で分析を行う際の機器の動作手順を示す図である。
【図4C】単一核酸分子観察装置で分析を行う際の機器の動作手順を示す図である。
【図5】単一核酸分子観察装置で第一の不要情報を除去する手順を示す図である。
【図6A】単一核酸分子観察装置で第二の不要情報を除去する手順を示す図である。
【図6B】単一核酸分子観察装置で第二の不要情報を除去する手順を示す図である。
【図7】単一核酸分子観察装置で第三の不要情報を除去する手順を示す図である。
【図8A】単一核酸分子観察装置で計測される時間方向に対する発光強度の特性波形を示す図である。
【図8B】単一核酸分子観察装置で計測される時間方向に対する発光強度の特性波形を示す図である。
【図8C】単一核酸分子観察装置で計測される時間方向に対する発光強度の特性波形を示す図である。
【図8D】単一核酸分子観察装置で計測される時間方向に対する発光強度の特性波形を示す図である。
【図9】単一核酸分子観察装置で用いるDPマッチングの概念を示す図である。
【図10A】単一核酸分子観察装置で用いるDPマッチングのDPパスを示す図である。
【図10B】単一核酸分子観察装置で用いるDPマッチングのDPパスを示す図である。
【図10C】単一核酸分子観察装置で用いるDPマッチングのDPパスを示す図である。
【図10D】単一核酸分子観察装置で用いるDPマッチングのDPパスを示す図である。
【図10E】単一核酸分子観察装置で用いるDPマッチングのDPパスを示す図である。
【図11A】単一核酸分子観察装置で用いるDPマッチングのバックトレースを示す図である。
【図11B】単一核酸分子観察装置で用いるDPマッチングのバックトレースを示す図である。
【図12】単一核酸分子観察装置で用いる蛍光色素の波長特性を示す図である。
【図13】単一核酸分子観察装置で計測される不要情報の蛍光スペクトルの例を示す図である。
【符号の説明】
【0106】
11 初期化ステップ
12 設定ステップ
13 計測ステップ
14 連続計測判断ステップ
15 核酸分子分析ステップ
21 前回の計測結果読み出しステップ
22 流路洗浄ステップ
23 ステージ移動ステップ
24 測定対象注入ステップ
25 光源強度決定ステップ
26 検出器感度決定ステップ
27 警告指示ステップ
31 励起光照射・励起ステップ
32 検出器で計測ステップ
33 第一の不要情報除去ステップ
34 第二の不要情報除去ステップ
35 第三の不要情報除去ステップ
41 統計データ抽出ステップ
42 統計的不要情報除去ステップ
51 輝点の移動平均後正規化ステップ
52 DPによる距離計算ステップ
53 繰り返し判断ステップ
54 DP距離による分類ステップ
61 ローカル距離計算ステップ
62 グローバル距離計算ステップ
63 バックトレース形状比較ステップ
71 輝点スペクトル抽出ステップ
72 スペクトル的不要情報除去ステップ
101 オートサンプラユニット
102 ポンプユニット
103 蛍光スペクトル分析蛍光標識
105 反応ユニット
106 照射ユニット
107 検出ユニット
108 分析ユニット
201 恒温槽
202 反応サイト中心位置反応チャンバ
203 反応デバイス
204 蛍光の発光強度反応グリッド
205 反応サイト
206 流路
301 石英ガラス基板
302 非特異吸着防止層
303 金微粒子
304 単一核酸分子観察装置測定対象
305 DNAプローブ
401 励起光照射部
402 接続端
403 観測窓
501 レーザ光源
502 第一の集光レンズ
503 照射用フィルタ
504 第二の集光レンズ
505 戻り光防止スリット
506 全反射プリズム
601 第一のカメラレンズ
602 検出フィルタ
603 回折格子
604 第二のカメラレンズ
605 二次元検出器
606 XYZステージ
701 試料導入部
702 試料導入端
703 試料移動部
704 サンプル容器
705 バッファ容器
706 試薬容器
707 洗浄容器
801 ポンプ
802 廃液容器
803 第一のチューブ
804 第二のチューブ
901 計算機
902 データベース
1001 教師データ
1002 計測データ
1003 DPパス
1004 比較方法
1101 表示装置
1102 発光装置
1103 発音装置
1104 操作装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光標識された反応デバイスに励起光を照射するための光源と、該光源によって励起された前記反応デバイスからの発光強度を捕らえるための検出器と、該検出器によって捕らえられた発光強度信号をデータ解析するための分析ユニットと、を備えた単一核酸分子観察装置であって、
前記分析ユニットは、
前記検出器によって捕らえられた発光強度信号を時系列順に取得した発光強度計測データを作成する、時系列データ作成手段と、
前記発光強度に関する複数の発光強度教師データを備え、各発光強度教師データと前記発光強度計測データとの相関を表す発光強度相関係数を算出する、発光強度相関係数算出手段と、
前記発光強度相関係数に基づいて、前記発光強度計測データを前記複数の発光強度教師データのいずれか1つに特定する、特定手段と、
を有することを特徴とする単一核酸分子観察装置。
【請求項2】
請求項1に記載の単一核酸分子観察装置において、
前記時系列データ作成手段は、作成した前記発光強度計測データの統計情報を計算し、
前記発光強度相関係数算出手段は、前記発光強度の統計情報に関する複数の発光強度教師データを備え、各発光強度の統計情報に関する教師データと前記発光強度計測データとの統計情報との相関を表す発光強度統計相関係数を算出し、
前記特定手段は、前記発光強度統計相関係数に基づいて、前記発光強度計測データの統計情報を前記複数の統計情報に関する発光強度教師データのいずれか1つに特定する、ことを特徴とする単一核酸分子観察装置。
【請求項3】
請求項1に記載の単一核酸分子観察装置において、
前記発光強度相関係数算出手段は、各発光強度教師データと前記発光強度計測データとの相関を表す発光強度相関係数を時系列に逆順に算出し、
前記特定手段は、時系列に逆順に算出した前記発光強度相関係数に基づいて、前記発光強度計測データを前記複数の発光強度教師データのいずれか1つに特定する、ことを特徴とする単一核酸分子観察装置。
【請求項4】
請求項1に記載の単一核酸分子観察装置において、
前記発光強度計測データが複数の異なる発光強度信号を含む場合、
前記特定手段は、前記発光強度相関係数に基づいて、前記発光強度計測データに含まれる各々の複数の異なる発光強度信号を各々の前記発光強度教師データに特定する、ことを特徴とする単一核酸分子観察装置。
【請求項5】
請求項1に記載の単一核酸分子観察装置において、
前記発光強度計測データが不要情報を含む場合、
前記時系列データ作成手段は、作成した前記発光強度計測データの統計情報を計算し、
前記発光強度相関係数算出手段は、不要情報の統計情報に関する複数の発光強度教師データを備え、各不要情報の統計情報に関する発光強度教師データと前記発光強度計測データの統計情報の相関を表す発光強度統計相関係数を算出し、
前記特定手段は、前記発光強度相関係数に基づいて、前記発光強度計測データに含まれる不要情報を前記複数の不要情報の統計情報に関する発光強度教師データのいずれか1つに特定し、前記不要情報を含む発光強度計測データから輝点データのみを抽出することを特徴とする単一核酸分子観察装置。
【請求項6】
請求項1に記載の単一核酸分子観察装置において、
前記発光強度相関係数算出手段は、塩基配列に関する複数の塩基配列教師データを備え、各塩基配列教師データと前記発光強度計測データとの信頼性情報を算出し、
前記特定手段は、前記信頼性情報に基づいて、前記発光強度計測データを前記複数の塩基配列教師データのいずれか1つに特定することを特徴とする単一核酸分子観察装置。
【請求項7】
請求項1に記載の単一核酸分子観察装置において、さらに、
前記発光強度計測データの統計的情報を計算し、該統計的情報に基づいて発光強度計測データのうち不要データを削除する、時系列統計情報を用いた不要情報削除手段と、
を有することを特徴とする単一核酸分子観察装置。
【請求項8】
請求項1に記載の単一核酸分子観察装置において、さらに、
前記発光強度データから波長情報を取得し、該波長情報に基づいて発光強度計測データのうち不要データを削除する、波長情報を用いた不要情報削除手段と、
を有することを特徴とする単一核酸分子観察装置。
【請求項9】
請求項1に記載の単一核酸分子観察装置において、さらに、
前記発光強度計測データの統計的情報を計算し、該統計的情報に基づいて発光強度計測データのうち不要データを削除する、時系列統計情報を用いた不要情報削除手段と、
前記発光強度データから波長情報を取得し、該波長情報に基づいて発光強度計測データのうち不要データを削除する、波長情報を用いた不要情報削除手段と、
を有することを特徴とする単一核酸分子観察装置。
【請求項10】
請求項1に記載の単一核酸分子観察装置において、さらに、
単一核酸分子観察装置の測定条件を記憶し、該測定条件を読み出し、該読み出された測定条件を用いて単一核酸分子観察装置の測定条件を自動調整する、自動調整手段と、
を有することを特徴とする単一核酸分子観察装置。
【請求項11】
請求項10に記載の単一核酸分子観察装置において、
前記自動調整手段は、流路に洗浄液を流しクリーニングすることにより、測定条件を自動調整することを特徴とする単一核酸分子観察装置。
【請求項12】
請求項10に記載の単一核酸分子観察装置において、
前記自動調整手段は、流路に紫外線を照射しクリーニングすることにより、測定条件を自動調整することを特徴とする単一核酸分子観察装置。
【請求項13】
請求項10に記載の単一核酸分子観察装置において、
前記自動調整手段は、サンプル濃度あるいは試薬濃度を変更することにより、測定条件を自動調整することを特徴とする単一核酸分子観察装置。
【請求項14】
請求項10に記載の単一核酸分子観察装置において、
前記自動調整手段は、露光時間、検出器感度、励起光強度の少なくとも1つを変更することにより、測定条件を自動調整することを特徴とする単一核酸分子観察装置。
【請求項15】
請求項1に記載の単一核酸分子観察装置において、さらに、
警告および指示の少なくとも1つをユーザに提示する、警告指示手段と、
を有することを特徴とする単一核酸分子観察装置。
【請求項16】
請求項15に記載の単一核酸分子観察装置において、
前記警告指示手段は、単一核酸分子観察装置の動作、特定の音、LEDの点灯、消灯、表示装置に図や文字で表示、のうちの少なくとも1つを実行することを特徴とする単一核酸分子観察装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図10D】
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【図10E】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−270931(P2009−270931A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−121586(P2008−121586)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】