説明

単一細胞操作支援ロボット用細胞培養器具

【課題】 テーブル座標系上で検出された細胞の位置を細胞培養器具の固有座標系上の位置に変換する際に必要となるマーカー(第一,第二の特徴点)を有する単一細胞操作支援ロボット用細胞培養器具を安価に提供する。
【解決手段】 第一,第二の特徴点P1,P2をフィルム状の特徴点設置用チップ36に形成し、この特徴点設置用チップ36を従来型のディッシュ35等の細胞培養器具本体に貼着することで細胞培養器具34を構成する。細胞培養器具本体に第一,第二の特徴点P1,P2を直に形成するための新規金型の製作が不要となるため、単一細胞操作支援ロボット用細胞培養器具を安価に提供することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単一細胞操作支援ロボットのテーブル座標系上で検出された細胞の位置を細胞培養器具の固有座標系上の位置に変換する際にマーカーとして利用される第一,第二の特徴点を備えた単一細胞操作支援ロボット用細胞培養器具の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
水平面内で移動するテーブルと3軸方向の移動が可能な2基のマニピュレータとを実装し、テーブル上に載置された細胞培養器具内の個々の細胞を作業対象として保持,移動,インジェクション等の操作を行うようにした単一細胞操作支援ロボットが特許文献1として既に公知である。
【0003】
しかしながら、この単一細胞操作支援ロボットは、基本的には、単一の細胞を個別に収納するマイクロウェルの使用を前提としたものであり、細胞培養器具内に単一の細胞を無秩序に分散して配置したような場合では、個々の細胞の位置を的確に教示してロボットに記憶させることが難しい場合があった。
【0004】
また、マイクロウェルを使用した場合であっても、細胞培養器具自体を取り外してから改めてテーブル上に載置したような場合、テーブルに対する細胞培養器具の位置や姿勢に変化が生じてしまうため、以前に教示した各細胞の位置データを其のまま利用すると適切な処理操作を行うことが困難となる問題があった。
【0005】
そこで、この種の問題を解決するため、本出願人らは、細胞培養器具となるディッシュに形成された第一,第二の特徴点と単一細胞操作支援ロボット自体が有するテーブルの各軸の現在位置検出機能とを利用してテーブル座標系をディッシュ座標系に変換するための変換行列を求め、テーブル座標系を基準として検出された各細胞の位置に変換行列を乗じてディッシュ座標系上の各細胞位置を求め、これらの細胞位置をディッシュを特定するための識別名に対応させてファイルに登録するようにした細胞位置教示方法と単一細胞操作支援ロボット、および、この単一細胞操作支援ロボットで使用される第一,第二の特徴点を備えた単一細胞操作支援ロボット用ディッシュを、既に、特願2004−146203として提案している。
【0006】
しかしながら、特願2004−146203として提案した単一細胞操作支援ロボット用のディッシュは、基本的には、前述した第一,第二の特徴点を細胞培養器具となるディッシュに一体的に形成することを前提としたものであり、このディッシュの製造に際しては、ディッシュの底面に第一,第二の特徴点を形成するための突起もしくは彫り込みを備えたディッシュ成形用の金型を新規に製作する必要があり、ディッシュの製造コストが高くなる点で課題を残していた。
【0007】
また、第一,第二の特徴点の位置をテーブル座標系上で検出するためには、これらの特徴点を顕微鏡の視野の特定位置に位置決めする必要があるが、第一,第二の特徴点を形成する長線分や短線分の線幅が5μm以下と細いため、これらの特徴点を段取り段階で目視確認して顕微鏡の視野内もしくは其の近傍に置くことが難しくなる場合がある。このような場合、ディッシュの姿勢の教示に際してディッシュの底面を全体に亘って顕微鏡で探って特徴点を見つける必要が生じるので、段取りの作業時間が増長されるといった弊害が生じることがあった。
【0008】
【特許文献1】国際公開第WO2004/015055 A1号パンフレット(FIG.1,FIG.3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の課題は、ディッシュ等の細胞培養器具の製作のために新たな金型を必要とせず、また、ディッシュ等の細胞培養器具の底面を全体に亘って顕微鏡で探らなくても、第一,第二の特徴点を顕微鏡の視野に容易に納めることのできる単一細胞操作支援ロボット用細胞培養器具を安価に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、細胞を配置した細胞培養器具をテーブル上に載置し、前記細胞培養器具が有する第一の特徴点の位置と前記細胞培養器具が有する第二の特徴点の位置とをテーブル座標系上で検出し、前記第一の特徴点を始点として前記第二の特徴点を通る直線にテーブル座標系の第一軸を一致させるための変換行列を求め、テーブル座標系上で検出された各々の細胞の位置に前記変換行列を乗じて前記細胞培養器具の固有座標系上における細胞位置を求めるようにした単一細胞操作支援ロボットで使用される細胞培養器具であり、前記課題を解決するため、特に、
細胞を配置するための細胞培養器具本体と、前記第一,第二の特徴点を形成したフィルム状の特徴点設置用チップとから成り、
前記特徴点設置用チップが前記細胞培養器具本体に貼着されていることを特徴とした構成を有する。
【0011】
第一,第二の特徴点をフィルム状の特徴点設置用チップに形成し、この特徴点設置用チップを細胞培養器具本体に貼着することによって細胞培養器具を構成するようにしたので、細胞培養器具本体に第一,第二の特徴点を直に形成するための新規金型の製作を必要とせず、テーブル座標系上で検出された細胞の位置を細胞培養器具の固有座標系上の位置に変換する際に必要となるマーカーを有する単一細胞操作支援ロボット用細胞培養器具を安価に提供することができる。
また、既存のディッシュ,フラスコ・プレート,スライドガラス等を細胞培養器具本体として利用することが可能であるので、ユーザは、従来使用していた使い慣れた細胞培養器具本体あるいは実験等の目的に適した各種の細胞培養器具本体、即ち、ディッシュ,フラスコ・プレート,スライドガラス等を自由に選択して使用することができる。
更に、特徴点設置用チップには厚みがあるので、細胞培養器具本体における特徴点設置用チップの貼着位置、つまり、第一,第二の特徴点の存在位置を目視確認することが容易であり、目視確認により、顕微鏡の視野内もしくは其の近傍に第一,第二の特徴点が位置するようにして細胞培養器具をテーブル上に設置することができる。この結果、細胞培養器具の底面を全体に亘って顕微鏡で探って特徴点を見つけるといった必要はなくなり、段取りの作業時間が節約される。
ここで、フィルム状の特徴点設置用チップに第一,第二の特徴点を形成する加工技術としては、例えば、レーザースパッタリング,印刷,削り込み等の各種の公知技術が利用でき、また、特徴点設置用チップの材質としては、ガラス,石英,樹脂等を利用することが可能である。
【0012】
更に、特徴点設置用チップの外周輪郭部の少なくとも一部を該特徴点設置用チップの貼着対象となる細胞培養器具本体の底面の外周輪郭部の形状に合わせて形成するようにしてもよい。
【0013】
このように、特徴点設置用チップの外周輪郭部を細胞培養器具本体の底面の外周輪郭部の形状に合わせて形成することにより、細胞培養器具本体に特徴点設置用チップを貼着する際の位置決め作業が容易となり、特に、形状や大きさが同じである同一種の単一細胞操作支援ロボット用細胞培養器具を数多く製作する場合において、特徴点設置用チップの貼着位置のバラツキの発生を防止できる。
例えば、細胞培養器具本体として利用されるディッシュの底面の外径が30mmφであれば、特徴点設置用チップの外周輪郭部の一部を30mmφの円弧状に形成し、この外周輪郭部を細胞培養器具本体の底面の外周輪郭部に合わせて貼着することで、細胞培養器具本体に対する特徴点設置用チップの貼着位置を特定することができる。
【0014】
また、特徴点設置用チップの外周輪郭部の一部を構成する直線状の一辺の両側に角部を形成するようにしてもよい。
【0015】
このような構成を適用した場合、直線状の一辺の両側に位置する角部を細胞培養器具本体の底面の外周輪郭部に内接させた状態で特徴点設置用チップを細胞培養器具本体(特に、ディッシュ等のように底面の外周輪郭部が円形のもの)に貼着することで、細胞培養器具本体に対する特徴点設置用チップの貼着位置のバラツキの発生を防止できる。
【0016】
前記2つの特徴点は、長線分と、該長線分の両端部の各々に位置して前記長線分と略直交する短線分との交点によって形成することが望ましい。
【0017】
前述した通り、特徴点設置用チップには厚みがあり、細胞培養器具本体における特徴点設置用チップの貼着位置、つまり、第一,第二の特徴点の存在位置を目視確認して顕微鏡の視野内もしくは其の近傍に第一,第二の特徴点が位置するように細胞培養器具をテーブル上に設置することができるので、特徴点を構成する長線分と短線分の線幅は顕微鏡で検出可能な範囲で極めて細く形成することができ、特徴点の位置検出精度さらには細胞位置の教示精度を向上させることができる。
【0018】
更に、この特徴点設置用チップには、細胞培養器具の底面の少なくとも一部を覆う余白部が形成され、この余白部に、単一細胞操作支援ロボットおよび其の付加装置と該細胞培養器具との間に干渉を生じずにテーブルの移動が許容される安全移動領域と、テーブルの移動により単一細胞操作支援ロボットおよび其の付加装置と該細胞培養器具との間に干渉を生じる可能性のある危険領域との境界を明示する境界表示部が、前記単一細胞操作支援ロボットの顕微鏡の視野から識別可能な状態で設けられていることが望ましい。
【0019】
安全移動領域と危険領域との境界を明示する境界表示部を特徴点設置用チップの余白部に設けることにより、手動操作によるテーブルの移動作業を素早く且つ安全に行うことが可能となる。つまり、顕微鏡の視野が境界表示部を越えて危険領域に侵入しない限り単一細胞操作支援ロボットおよび其の付加装置と細胞培養器具との間に干渉は生じないので、オペレータは、顕微鏡から目を離すことなく、この範囲でテーブルを自由に移動させることができる。
従って、オペレータがいちいち顕微鏡から目を離して単一細胞操作支援ロボットおよび其の付加装置と細胞培養器具との間のクリアランスを確認しながら恐る恐るテーブルを移動させるといった煩わしさが解消され、特に、細胞培養器具上に散らばった単一細胞をテーブルの手動操作で逐次選択して其の位置を教示するといった初期の教示操作に際し、その所要時間が大幅に短縮されるメリットがある。
【0020】
この境界表示部は、例えば、危険領域を明示するマスキング部の内側の境界線によって形成されるとよい。
【0021】
このような構成を適用した場合、安全移動領域と危険領域とを面として区別することができるので、面積を持たない単純な境界線によって安全移動領域と危険領域とを区分けする場合に比べ、安全移動領域と危険領域とを更に簡単かつ確実に識別してテーブルの手動操作を行うことができ、特に、顕微鏡の視野が境界表示部を越えて不用意に危険領域に侵入するといった操作ミスを確実に防止できるようになる。
より具体的には、危険領域を明示するマスキング部としては、光の通過を遮る黒色の遮光部,細胞培養器具の下からの観測用照明光に色を添える有色の半透明部,光を拡散させるマット面や乳白色部等が利用できる。特に、光の通過を遮る黒色の遮光部等でマスキング部を構成した場合には、この領域を顕微鏡で観測すること自体が不能となるので、オペレータがこの領域に顕微鏡の視野を侵入させようとする試みが強い動機で否定されることになり、誤操作の防止が更に確実なものとなる。
マスキング部の境界線よりも内側の部分は、安全移動領域であり、オペレータは、この範囲で顕微鏡の視野に細胞を収めることになるので、当該領域については透明に形成するか、もしくは、切り抜き部分とする。切り抜き部分とした場合、この領域は特徴点設置用チップの余白部とはならないが、境界表示部は、危険領域を明示するマスキング部の内側の境界線によって形成されているので、マスキング部および境界表示部が特徴点設置用チップの余白部に設けられていることに違いはない。
【発明の効果】
【0022】
本発明の単一細胞操作支援ロボット用細胞培養器具は、第一,第二の特徴点をフィルム状の特徴点設置用チップに形成し、この特徴点設置用チップを細胞培養器具本体に貼着することによって細胞培養器具を構成するようにしたので、細胞培養器具本体に第一,第二の特徴点を直に形成するための新規金型の製作を必要とせず、テーブル座標系上で検出された細胞の位置を細胞培養器具の固有座標系上の位置に変換する際に必要となるマーカー(第一,第二の特徴点)を有する単一細胞操作支援ロボット用細胞培養器具を安価に提供することができる。
また、既存のディッシュ,フラスコ・プレート,スライドガラス等を細胞培養器具本体として利用することが可能であるので、ユーザは、従来使用していた使い慣れた細胞培養器具本体あるいは実験等の目的に適した各種の細胞培養器具本体、即ち、ディッシュ,フラスコ・プレート,スライドガラス等を自由に選択して使用することができる。
しかも、特徴点設置用チップには厚みがあるので、細胞培養器具本体における特徴点設置用チップの貼着位置、つまり、第一,第二の特徴点の存在位置を目視確認することが容易であり、目視確認により、顕微鏡の視野内もしくは其の近傍に第一,第二の特徴点が位置するようにして細胞培養器具をテーブル上に設置することができる。この結果、細胞培養器具の底面を全体に亘って顕微鏡で探って特徴点を見つけるといった必要もなくなり、段取りの作業時間が節約される。
【0023】
更に、特徴点設置用チップの外周輪郭部の少なくとも一部を細胞培養器具本体の底面の外周輪郭部の形状に合わせて形成するようにしたので、細胞培養器具本体に特徴点設置用チップを貼着する際の位置決め作業が容易となり、形状や大きさが同じである同一種の単一細胞操作支援ロボット用細胞培養器具を数多く製作する場合においても、細胞培養器具の個体差、つまり、特徴点設置用チップの貼着位置のバラツキの発生を未然に防止することができる。
【0024】
また、特徴点設置用チップの外周輪郭部を構成する直線状の一辺の両側に角部を形成した場合では、これらの角部を細胞培養器具本体の底面の外周輪郭部に内接させた状態で特徴点設置用チップを細胞培養器具本体に貼着することで、細胞培養器具における個体差の発生、つまり、細胞培養器具本体に対する特徴点設置用チップの貼着位置のバラツキの発生を防止できる。
【0025】
特に、特徴点設置用チップ上の2つの特徴点を長線分と其の両端部の各々に位置する短線分との交点によって形成した場合、細胞培養器具本体における特徴点設置用チップの貼着位置、つまり、第一,第二の特徴点の存在位置を目視確認して顕微鏡の視野内もしくは其の近傍に第一,第二の特徴点が位置するようにして細胞培養器具をテーブル上に設置することができるので、特徴点を構成する長線分と短線分の線幅を顕微鏡で検出可能な範囲で極めて細く形成することができ、特徴点の位置検出精度さらには細胞位置の教示精度を向上させることができる。
【0026】
更に、特徴点設置用チップには、細胞培養器具の底面の少なくとも一部を覆う余白部を形成し、この余白部に、単一細胞操作支援ロボットおよび其の付加装置と該細胞培養器具との間に干渉を生じずにテーブルの移動が許容される安全移動領域と、テーブルの移動により単一細胞操作支援ロボットおよび其の付加装置と該細胞培養器具との間に干渉を生じる可能性のある危険領域との境界を明示する境界表示部を顕微鏡の視野から識別可能な状態で設けているので、顕微鏡の視野が境界表示部を越えて危険領域に侵入しないようにテーブルを操作することで、単一細胞操作支援ロボットおよび其の付加装置と細胞培養器具との間の干渉を確実に防止することができる。従って、オペレータがいちいち顕微鏡から目を離して単一細胞操作支援ロボットおよび其の付加装置と細胞培養器具との間のクリアランスを確認しながら恐る恐るテーブルを移動させるといった煩わしさが解消され、オペレータは、顕微鏡を覗いたまま手動操作によるテーブルの移動作業を素早く且つ安全に行うことができるようになる。
【0027】
特に、危険領域を明示するマスキング部の内側の境界線によって境界表示部を形成した場合においては、安全移動領域と危険領域とを面として区別することができるようになるので、面積を持たない単純な境界線によって安全移動領域と危険領域とを区分けする場合に比べ、安全移動領域と危険領域とを更に簡単かつ確実に識別してテーブルの手動操作を行うことができ、特に、顕微鏡の視野が境界表示部を越えて不用意に危険領域に侵入するといった操作ミスを確実に防止できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
まず、最初に、本発明の細胞培養器具を使用する単一細胞操作支援ロボットの具体例(特願2004−146203のもの)について説明する。
【0029】
図1は単一細胞操作支援ロボット1の全体的な構成を示した正面図である。単一細胞操作支援ロボット1は、図1に示される通り、概略において、ロボット本体2とコントローラ3によって構成される。
【0030】
このうちロボット本体2は、ディッシュ等の細胞培養器具を載置するためのテーブル4と細胞培養器具内の細胞を操作するためのマニピュレータ5,6を実装したステージ7、および、該ステージ7を支えるためのコラム8と、細胞培養器具内の細胞を観察するためにテーブル座標系上の特定位置に設置された顕微鏡9を備える。
【0031】
ステージ7の構造を図2に示す。ステージ7上に設けられたテーブル4はステッピングモータ等からなる各軸の駆動手段X1,Y1により直交二軸の水平面内で駆動され、また、テーブル4の右側に配備されたマニピュレータ5は、ステッピングモータ等からなる各軸の駆動手段XR,YRとピエゾアクチュエータ等からなる駆動手段ZRによって直交三軸の空間内で独立的に駆動されるようになっている。テーブル4の左側に配備されたマニピュレータ6は、ステッピングモータ等からなる各軸の駆動手段XL,YL,ZLによって直交三軸の空間内で独立的に駆動される。但し、マニピュレータ5,6におけるZ軸の方向性は、顕微鏡9の視野を阻害しないように、水平面に対して45°とされている。
【0032】
このうち、テーブル4の左側に配備されたマニピュレータ6は、細胞培養器具内に配置された単一細胞を吸引等の手段で保持するためのキャピラリー10をエンドエフェクタとして備え、また、テーブル4の右側に配備されたマニピュレータ5は、単一細胞に対して遺伝子や薬品等のインジェクションを行うための注入孔を先端に備えたキャピラリー11をエンドエフェクタとして有する。
【0033】
また、テーブル4には、細胞培養器具を置く際に概略の位置決めを行うための器具ホルダー12が固設されており、この器具ホルダー12を介してテーブル4上に細胞培養器具の一種であるディッシュ13が載置されるようになっている。
【0034】
ディッシュ13の外観を図3の平面図に示す。ディッシュ13は、ガラスもしくはプラスチック等からなる平底の容器であり、その底面には、2つの特徴点P1,P2が設けられている。これらの特徴点P1,P2は、具体的には、ディッシュ13の底面に位置する長線分L0と該長線分L0の両端部の各々に位置して長線分L0と略直交する短線分L1,L2との交点によって形成される。
【0035】
これらの特徴点P1,P2は、ディッシュ13に固有のディッシュ座標系の規定と、テーブル座標系に対するディッシュ13の位置および姿勢の特定に利用される。
【0036】
ディッシュ13に固有の座標系は、第一の特徴点P1を始点として第二の特徴点P2を通る直線を第一軸(X’軸)とし、この直線と直交して第一の特徴点P1を通る直線を第二軸(Y’軸)として規定されている。ディッシュ13に固有のディッシュ座標系の一例を図3中に二点鎖線で示す。
【0037】
器具ホルダー12には、図3に示されるようなマーキング14が設けられ、マーキング14の先端に長線分L0の中点部分を合致させてディッシュ13を装着することで、テーブル座標系の座標原点Oにディッシュ座標系の座標原点O’が概ね一致し、また、ディッシュ座標系の第一軸(X’軸)がテーブル座標系の第一軸(X軸)と略一致するようになっているが、ディッシュ13の取り付け作業は飽くまでも人手によって行われるものであるので、必ずしも厳密に両者が一致するわけではなく、マーキング14は単なる目安に過ぎない。
【0038】
なお、ここでいうテーブル座標系の座標原点Oとはテーブル4のストロークエンドに相当するようなハードウェア上のマシン原点ではなく、駆動制御上の座標原点であるから、実際には、テーブル座標系の座標原点Oは、テーブル4の移動可能領域のどの位置に定義しても構わない。また、図3の例ではディッシュ座標系の座標原点O’を第一の特徴点P1と一致させているが、実際には、ディッシュ座標系の座標原点O’も第一の特徴点P1と必ずしも一致させる必要はなく、第一の特徴点P1を基準に、ディッシュ座標系の第一軸(X’軸)および第二軸(Y’軸)の方向にオフセットした位置に定義しても構わない。オフセット量に関しては演算処理の段階で定数項として処理できるからである。ここでは説明の簡略化の都合上、ディッシュ座標系の座標原点O’を第一の特徴点P1と一致させて定義した例について説明するものとする。
【0039】
長線分L0と短線分L1,L2との交点によって形成される第一,第二の特徴点P1,P2は、ディッシュ13の面積の有効利用を考慮し、ディッシュ13内における単一細胞の載置に際して邪魔とならないよう、ディッシュ13の底面の外周部寄りの位置に設けられている。特徴点P1,P2を利用したディッシュ13の位置および姿勢の検出精度を確保する必要上、長線分L0と短線分L1,L2の線幅は5μm以下とする必要があり、より望ましくは、3μm以下とするとよい。これにより、特徴点P1,P2の実質的な面積を著しく狭小化することが可能となり、一般的なドット等を利用したマーカーに比べて特徴点の位置の特定精度を大幅に向上させることができる。特徴点P1,P2の検出作業はロボット本体2に固設された顕微鏡9を利用して行われることになるので、長線分L0や短線分L1,L2の線幅を狭くしても特徴点P1,P2の検出が困難となることはないので、線幅については技術的に可能な範囲で狭くすることが望ましい。
【0040】
単一細胞操作支援ロボット1の各部を駆動制御するためのコントローラ3の主要部はコントローラ本体3aによって構成され、このコントローラ本体3aに、マン・マシン・インターフェイスとして機能する第一操作盤3R,第二操作盤3L,マウス付きのキーボード3b,フットスイッチ3c,モニタ3dが接続されている。
【0041】
第一操作盤3Rはテーブル4と其の右側に配備されたマニピュレータ5を二者択一的に駆動制御するための手動操作手段であり、制御対象をテーブル4とするかマニピュレータ5とするかは、ジョイスティック15Rの先端に設けられたヘッドスイッチ16Rの操作によって選択できる。テーブル4とマニピュレータ5の水平面内での移動はジョイスティック15Rもしくはトラックボール17Rによって制御され、マニピュレータ5のエンドエフェクタであるキャピラリー11の刺入方向(Z軸方向)の移動はジョイスティック15R先端の回転操作によって制御される。
【0042】
第二操作盤3Lはテーブル4の左側に配備されたマニピュレータ6を駆動制御するための手動操作手段である。マニピュレータ6の水平面内での移動はジョイスティック15Lもしくはトラックボール17Lによって制御され、マニピュレータ6のエンドエフェクタであるキャピラリー10のZ軸方向の移動はジョイスティック15L先端の回転操作によって制御される。
【0043】
図4はコントローラ本体3aの構成の概略を示した機能ブロック図である。コントローラ本体3aの主要部は、単一細胞操作支援ロボット1の各部を駆動制御するためのCPU18と、該CPU18の駆動制御プログラムを格納したROM19、および、演算データの一時記憶等に利用されるRAM20、ならびに、現在位置記憶レジスタやパラメータ記憶手段等として機能する不揮発性メモリ21と、細胞位置に関わる教示データのファイル等を記憶するためのハードディスクドライブ22等によって構成される。
【0044】
第一操作盤3Rに設けられたジョイスティック15R,ヘッドスイッチ16R,トラックボール17Rからの操作信号と第二操作盤3Lに設けられたジョイスティック15L,ヘッドスイッチ16L,トラックボール17Lからの操作信号、ならびに、キーボード3bと其のマウスおよびフットスイッチ3cからの信号は、インターフェイス23を介してCPU18に入力され、また、CPU18からの表示信号がインターフェイス23を介してモニタ3dに入力されるようになっている。
【0045】
テーブル4における各軸の駆動手段X1,Y1とマニピュレータ5における各軸の駆動手段XR,YR,ZRならびにマニピュレータ6における各軸の駆動手段XL,YL,ZLは各軸の軸制御回路24,25,26,27,28,29,30,31と入出力回路32を介して駆動制御される。
【0046】
図5および図6はコントローラ本体3aのCPU18が実行する細胞位置教示処理の概要について示したフローチャート、また、図7〜図10はCPU18が実行するプレイバック処理の概要について示したフローチャートである。
【0047】
まず、単一細胞を分散して配置したディッシュ13を初めてテーブル4上に載置する場合には、オペレータは、細胞位置教示モードでコントローラ本体3aを起動し、CPU18によって図5および図6に示されるような細胞位置教示処理を開始させる。
【0048】
ディッシュ13を初めてテーブル4上に載置する際には、図3に示されるように、器具ホルダー12のマーキング14にディッシュ13の長線分L0の中点部分を合致させて載置することが望ましいが、実際には、ある程度の位置ズレや姿勢変化が生じる。
【0049】
細胞位置教示処理を開始したCPU18は、まず、ディッシュの特定に必要とされる識別名を入力する旨のメッセージをモニタ3dに表示してオペレータに知らせ(ステップa1)、オペレータによる入力操作を待つ待機状態に入る(ステップa2)。
【0050】
ここで、オペレータがキーボード3bを操作して任意の識別名を入力すると、CPU18はステップa2の判定処理で識別名の入力を検知し、登録済みの識別名の個数を記憶するレジスタmの値を1インクリメントした後(ステップa3)、該レジスタmの現在値に基いて、ハードディスクドライブ22内に構築された図11のようなデータ記憶ファイルにおける第m番目のレコードの第1フィールドに、今回入力された識別名を新たに登録する(ステップa4)。
【0051】
次いで、CPU18は、ディッシュ座標系を登録する旨のメッセージをモニタ3dに表示してオペレータに知らせ(ステップa5)、特徴点の位置を記憶するレジスタを指定するための指標iの値を一旦0に初期化し(ステップa6)、改めて該指標iの値を1インクリメントした後(ステップa7)、テーブル4の手動操作手段として機能する第一操作盤3Rからの手動パルス(ステップa8)、もしくは、フットスイッチ3cからのディッシュ姿勢教示指令がオペレータによって入力されるのを待つ待機状態に入る(ステップa9)。
【0052】
そこで、オペレータは、まず、手動操作手段として機能する第一操作盤3Rのジョイスティック15Rもしくはトラックボール17Rを操作してディッシュ13を載置したテーブル4を水平面内で移動させ、ディッシュ13の底面に設けられた第一の特徴点P1を顕微鏡9の視野の中心(レティクルの中心)に位置決めする。
【0053】
ジョイスティック15Rもしくはトラックボール17Rの操作に応じて第一操作盤3Rから出力される手動パルスは、ステップa8の処理でCPU18によって検出され、CPU18は、入力パルス数に応じて駆動手段X1,Y1を作動させて(ステップa10)、オペレータが所望する位置にテーブル4を移動させる。
【0054】
そして、ディッシュ13の底面に設けられた特徴点P1を顕微鏡9の視野の中心に捕捉したオペレータがフットスイッチ3cを操作すると、フットスイッチ3cからディッシュ姿勢教示指令が出力され、この信号がステップa9の処理でCPU18によって検出される。
【0055】
ディッシュ姿勢教示指令の入力を検出したCPU18は、駆動手段X1,Y1に対応する現在位置記憶レジスタからテーブル4の各軸の現在位置、つまり、テーブル座標系の第一軸(X軸)の現在位置xとテーブル座標系の第二軸(Y軸)の現在位置yとを読み込み(ステップa11)、これらの値を指標iの現在値に基いてレジスタx1,y1の各々に一時記憶させる(ステップa12)。
【0056】
次いで、CPU18は、指標iの現在値が2に達しているか否か、つまり、2つの特徴点P1,P2の位置検出作業が終了しているか否かを判定するが(ステップa13)、この時点では未だi=1であって第二の特徴点P2に関わる位置検出作業が終了していないことを意味するので、CPU18は、改めて指標iの値を1インクリメントし(ステップa7)、前記と同様にして、第一操作盤3Rからの手動パルスの入力(ステップa8)、もしくは、フットスイッチ3cからの2回目のディッシュ姿勢教示指令の入力を待つ待機状態に入る(ステップa9)。
【0057】
そこで、オペレータは、手動操作手段として機能する第一操作盤3Rのジョイスティック15Rもしくはトラックボール17Rを再び操作して、ディッシュ13を載置したテーブル4を水平面内で移動させ、ディッシュ13の底面に設けられた第二の特徴点P2を顕微鏡9の視野の中心に位置決めする。
【0058】
ジョイスティック15Rもしくはトラックボール17Rの操作に応じて第一操作盤3Rから出力される手動パルスは、ステップa8の処理でCPU18によって検出され、CPU18は、入力パルス数に応じて駆動手段X1,Y1を作動させて(ステップa10)、オペレータが所望する位置にテーブル4を移動させる。
【0059】
そして、ディッシュ13の底面に設けられた特徴点P2を顕微鏡9の視野の中心に捕捉したオペレータがフットスイッチ3cを操作すると、フットスイッチ3cから2回目のディッシュ姿勢教示指令が出力され、この信号がステップa9の処理でCPU18によって検出される。
【0060】
2回目のディッシュ姿勢教示指令の入力を検出したCPU18は、駆動手段X1,Y1に対応する現在位置記憶レジスタからテーブル4の各軸の現在位置、つまり、テーブル座標系の第一軸(X軸)の現在位置xとテーブル座標系の第二軸(Y軸)の現在位置yとを読み込み(ステップa11)、これらの値を指標iの現在値に基いてレジスタx2,y2の各々に一時記憶させる(ステップa12)。
【0061】
次いで、CPU18は、指標iの現在値が2に達しているか否か、つまり、2つの特徴点P1,P2の位置検出作業が終了しているか否かを判定するが(ステップa13)、この時点では既にi=2となっており、第一の特徴点P1と第二の特徴点P2に関わる位置検出作業が終了しているので、CPU18は、レジスタx1,y1,x2,y2の値、要するに、1回目のディッシュ姿勢教示指令の入力時点におけるテーブル4の各軸の位置(x1,y1)と2回目のディッシュ姿勢教示指令の入力時点におけるテーブル4の各軸の位置(x2,y2)とに基いて、点(x1,y1)を始点として点(x2,y2)を通る直線にテーブル座標系の第一軸(X軸)を一致させるための変換行列fを求める(ステップa14)。
【0062】
この変換行列fは、図12に示される通り、テーブル座標系を基準として検出された座標値をディッシュ座標系上の座標値に置き換えるために必要とされる回転移動と平行移動とを含むアフィン変換行列であり、例えば、テーブル座標系を基準として検出された座標値(x1,y1)は、ディッシュ座標系上の座標原点O’、即ち、第一の特徴点P1の位置に置き換えられることになる。
【0063】
次いで、CPU18は、ディッシュ13上に配置された単一細胞を次々と選択して其の細胞位置を登録する旨のメッセージをモニタ3dに表示してオペレータに知らせ(ステップa15)、図11に示されるデータ記憶ファイルにおいて細胞位置を記憶するフィールドを指定するための指標iの値を一旦2に初期化し(ステップa16)、改めて該指標iの値を1インクリメントした後(ステップa17)、テーブル4の手動操作手段として機能する第一操作盤3Rからの手動パルス(ステップa18)、もしくは、フットスイッチ3cからの細胞位置教示指令がオペレータによって入力されるのを待つ待機状態に入る(ステップa19)。
【0064】
そこで、オペレータは、手動操作手段として機能する第一操作盤3Rのジョイスティック15Rもしくはトラックボール17Rを操作してディッシュ13を載置したテーブル4を水平面内で移動させ、ディッシュ13上に配置された何れかの単一細胞を顕微鏡9の視野の中心に位置決めする。
【0065】
ジョイスティック15Rもしくはトラックボール17Rの操作に応じて第一操作盤3Rから出力される手動パルスは、ステップa18の処理でCPU18によって検出され、CPU18は、入力パルス数に応じて駆動手段X1,Y1を作動させて(ステップa20)、オペレータが所望する位置にテーブル4を移動させる。
【0066】
そして、何れかの単一細胞を顕微鏡9の視野の中心に捕捉したオペレータがフットスイッチ3cを操作すると、フットスイッチ3cから細胞位置教示指令が出力され、この信号がステップa19の処理でCPU18によって検出される。
【0067】
細胞位置教示指令の入力を検出したCPU18は、駆動手段X1,Y1に対応する現在位置記憶レジスタからテーブル4の各軸の現在位置、つまり、テーブル座標系の第一軸(X軸)の現在位置xとテーブル座標系の第二軸(Y軸)の現在位置yとを読み込み(ステップa21)、テーブル座標系を基準とした座標値(x,y)に変換行列fを乗じ、ディッシュ座標系上の座標値に相当する当該細胞の位置(xi,yi)を求め(ステップa22)、レジスタmおよび指標iの現在値に基いて、この座標値(xi,yi)を、図11に示されるようなデータ記憶ファイルにおける第m番目のレコードの第iフィールドに登録する(ステップa23)。
【0068】
現在使用しているディッシュ13の識別名はデータ記憶ファイルにおける第m番目のレコードの第1フィールドに登録されているので、結果的に、現在使用しているディッシュ13内にある各単一細胞の位置は、使用中のディッシュ13の識別名と共に同一レコード内に記憶されることになる。
【0069】
そして、CPU18は、今回の操作で登録を行った単一細胞の位置(xi,yi)を例えば図1に示されるようにしてモニタ3d上にドットで表示し、オペレータに当該単一細胞の登録処理が完了したことを知らせる(ステップa24)。この際、モニタ3d上の表示欄33には、登録を行った単一細胞の登録順のナンバー(i−2の値)が表示される。モニタ表示に使用される座標系はディッシュ座標系である。
【0070】
次いで、CPU18は、オペレータ側の操作によってキーボード3bから登録終了信号が入力されているか否かを判定するが(ステップa25)、登録終了信号が入力されていなければ、CPU18は、改めて指標iの値を1インクリメントした後(ステップa17)、前記と同様にして、ステップa18〜ステップa25の処理を繰り返し実行する。
【0071】
この間、オペレータは、手動操作手段として機能する第一操作盤3Rのジョイスティック15Rもしくはトラックボール17Rと教示指令を入力するためのフットスイッチ3cを前記と同様に操作して、ディッシュ13に配置された単一細胞を次々と選択して顕微鏡9の視野の中心に納め、ディッシュ座標系の座標値に変換された各単一細胞の位置をCPU18側の処理で第m番目のレコードの第iフィールドに登録させていく。
【0072】
そして、最終的に、オペレータがキーボード3bを操作して登録操作の終了を宣言すると、この信号がステップa25の処理でCPU18によって検出され、CPU18は、登録終了信号入力時点の指標iの値を細胞位置の登録個数を特定する値として第m番目のレコードの第2フィールドに登録し(ステップa26)、細胞位置教示処理を終了する。但し、実際に細胞位置が登録されるのは各レコードの第3フィールド以降であるから、細胞位置の実際の登録個数は第2フィールドに登録された値から2を引いた値である。
【0073】
図11では一例としてディッシュ13の識別名をm個だけファイル登録した例について示しているが、識別名の登録個数mに格別の制限はない。
【0074】
以上に述べた細胞位置教示処理によれば、テーブル座標系に対するディッシュ座標系の位置ズレや姿勢の相違とは関わりなく、各単一細胞の位置が常にディッシュ座標系の座標値としてディッシュ13の識別名と共にファイルに登録されるので、マイクロウェルを使用しない場合であっても、テーブル4に載置されたディッシュ13の位置や姿勢の影響を受けずに個々の細胞の位置を各ディッシュ13毎に的確に教示することができる。
【0075】
このように、本出願人らが特願2004−146203として提案している単一細胞操作支援ロボット1では、細胞培養器具となるディッシュ13に設けられた第一,第二の特徴点P1,P2と単一細胞操作支援ロボット1自体が有するテーブル4の各軸の現在位置検出機能とを利用してテーブル座標系をディッシュ座標系に変換するための変換行列fを求めた後、テーブル座標系を基準として検出された各細胞の位置に変換行列fを乗じてディッシュ座標系上の各細胞位置を求め、これらの細胞位置をディッシュ13を特定するための識別名に対応させてファイルに登録するようになっている。
【0076】
次に、細胞位置の登録を終えたディッシュ13を取り外した後、改めて同じディッシュ13をテーブル4上に載置してインジェクション等の作業を行う場合の処理操作について説明する。
【0077】
この際、オペレータは、プレイバックモードでコントローラ本体3aを起動し、CPU18に図7〜図10に示されるようなプレイバック処理を実行させることになる。
【0078】
この場合も、図3に示されるように、器具ホルダー12のマーキング14にディッシュ13の長線分L0の中点部分を合致させて載置することが望ましいが、実際には、ある程度の位置ズレや姿勢変化が生じる。
【0079】
プレイバック処理を開始したCPU18は、まず、以前にファイル登録されたディッシュ13の識別名を図11のようなデータ記憶ファイルから全て読み出してモニタ3dに表示し、ディッシュの識別名を選択する旨のメッセージをモニタ3dに表示してオペレータに知らせ(ステップb1)、オペレータによる識別名の選択操作を待つ待機状態に入る(ステップb2)。
【0080】
モニタ表示を参照したオペレータは、キーボード3bを操作し、現時点でテーブル4に載置されているディッシュ13に対応する識別名を選択する。
【0081】
ステップb2の処理で識別名の選択操作を検出したCPU18は、ディッシュ13の位置および姿勢を再教示する旨のメッセージをモニタ3dに表示してオペレータに知らせ(ステップb3)、特徴点の位置を記憶するレジスタを指定するための指標iの値を一旦0に初期化し(ステップb4)、改めて該指標iの値を1インクリメントした後(ステップb5)、テーブル4の手動操作手段として機能する第一操作盤3Rからの手動パルス(ステップb6)、もしくは、フットスイッチ3cからのディッシュ姿勢再教示指令がオペレータによって入力されるのを待つ待機状態に入る(ステップb7)。
【0082】
そこで、オペレータは、まず、手動操作手段として機能する第一操作盤3Rのジョイスティック15Rもしくはトラックボール17Rを操作してディッシュ13を載置したテーブル4を水平面内で移動させ、ディッシュ13の底面に設けられた第一の特徴点P1を顕微鏡9の視野の中心に位置決めする。
【0083】
ジョイスティック15Rもしくはトラックボール17Rの操作に応じて第一操作盤3Rから出力される手動パルスは、ステップb6の処理でCPU18によって検出され、CPU18は、入力パルス数に応じて駆動手段X1,Y1を作動させて(ステップb8)、オペレータが所望する位置にテーブル4を移動させる。
【0084】
そして、ディッシュ13の底面に設けられた特徴点P1を顕微鏡9の視野の中心に捕捉したオペレータがフットスイッチ3cを操作すると、フットスイッチ3cからディッシュ姿勢再教示指令が出力され、この信号がステップb7の処理でCPU18によって検出される。
【0085】
ディッシュ姿勢再教示指令の入力を検出したCPU18は、駆動手段X1,Y1に対応する現在位置記憶レジスタからテーブル4の各軸の現在位置、つまり、テーブル座標系の第一軸(X軸)の現在位置xとテーブル座標系の第二軸(Y軸)の現在位置yとを読み込み(ステップb9)、これらの値を指標iの現在値に基いてレジスタx1,y1の各々に一時記憶させる(ステップb10)。
【0086】
次いで、CPU18は、指標iの現在値が2に達しているか否か、つまり、2つの特徴点P1,P2の位置検出作業が終了しているか否かを判定するが(ステップb11)、この時点では未だi=1であって第二の特徴点P2に関わる位置検出作業が終了していないことを意味するので、CPU18は、改めて指標iの値を1インクリメントし(ステップb5)、前記と同様にして、第一操作盤3Rからの手動パルスの入力(ステップb6)、もしくは、フットスイッチ3cからの2回目のディッシュ姿勢再教示指令の入力を待つ待機状態に入る(ステップb7)。
【0087】
そこで、オペレータは、手動操作手段として機能する第一操作盤3Rのジョイスティック15Rもしくはトラックボール17Rを再び操作して、ディッシュ13を載置したテーブル4を水平面内で移動させ、ディッシュ13の底面に設けられた第二の特徴点P2を顕微鏡9の視野の中心に位置決めする。
【0088】
ジョイスティック15Rもしくはトラックボール17Rの操作に応じて第一操作盤3Rから出力される手動パルスは、ステップb6の処理でCPU18によって検出され、CPU18は、入力パルス数に応じて駆動手段X1,Y1を作動させて(ステップb8)、オペレータが所望する位置にテーブル4を移動させる。
【0089】
そして、ディッシュ13の底面に設けられた特徴点P2を顕微鏡9の視野の中心に捕捉したオペレータがフットスイッチ3cを操作すると、フットスイッチ3cから2回目のディッシュ姿勢再教示指令が出力され、この信号がステップb7の処理でCPU18によって検出される。
【0090】
2回目のディッシュ姿勢再教示指令の入力を検出したCPU18は、駆動手段X1,Y1に対応する現在位置記憶レジスタからテーブル4の各軸の現在位置、つまり、テーブル座標系の第一軸(X軸)の現在位置xとテーブル座標系の第二軸(Y軸)の現在位置yとを読み込み(ステップb9)、これらの値を指標iの現在値に基いてレジスタx2,y2の各々に一時記憶させる(ステップb10)。
【0091】
次いで、CPU18は、指標iの現在値が2に達しているか否か、つまり、2つの特徴点P1,P2の位置検出作業が終了しているか否かを判定するが(ステップb11)、この時点では既にi=2となっており、第一の特徴点P1と第二の特徴点P2に関わる位置検出作業が終了しているので、CPU18は、レジスタx1,y1,x2,y2の値、要するに、1回目のディッシュ姿勢再教示指令の入力時点におけるテーブル4の各軸の位置(x1,y1)と2回目のディッシュ姿勢再教示指令の入力時点におけるテーブル4の各軸の位置(x2,y2)とに基いて、点(x1,y1)を始点として点(x2,y2)を通る直線をテーブル座標系の第一軸(X軸)に一致させるための逆変換行列gを求める(ステップb12)。
【0092】
この逆変換行列gは、図13に示される通り、ディッシュ座標系を基準としてファイルに登録された座標値をテーブル座標系上の座標値に置き換えるために必要とされる回転移動と平行移動とを含むアフィン変換行列であり、例えば、ディッシュ座標系上の座標原点O’、即ち、第一の特徴点P1の位置は、テーブル座標系上の座標値(x1,y1)に置き換えられることになる。
【0093】
一般に、テーブル4に対するディッシュ13の脱着作業を行う度にテーブル4に対するディッシュ13の位置および姿勢は様々に変動するので、この逆変換行列gは、通常、図12に示したような変換行列fの逆行列f−1とは数値的に一致しない。このため、細胞位置の教示操作の際に求めた変換行列fあるいは其の逆行列f−1をファイル登録して保存することに意味はなく、ディッシュ13の脱着作業を行うたびに、ディッシュ13の位置および姿勢に関わる再教示操作を行う必要がある。
【0094】
次いで、CPU18は、図11に示されるようなデータ記憶ファイルの各レコードを検索し、ステップb2の処理で選択された識別名と同じ識別名を記憶しているレコードアドレスjの値を特定する(ステップb13)。仮に、ステップb2の処理で識別名として「識別名4」が選択されたとすれば、図11の例では、レコードアドレスjの値が4に特定されることになる。
【0095】
そして、CPU18は、細胞位置の読み出し対象とするフィールドを指定するための指標iの値を一旦2に初期化し(ステップb14)、改めて該指標iの値を1インクリメントした後(ステップb15)、特定されたレコードアドレスjの値と指標iの現在値とに基いて図11に示されるようなデータ記憶ファイルにおける第jレコードの第iフィールドから単一細胞の座標値(xi,yi)を読み込んで、例えば図1に示されるようにしてモニタ3dにドットで表示する(ステップb16)。この際、モニタ3d上の表示欄33には、読み出された単一細胞の登録順のナンバー(i−2の値)が表示される。
【0096】
次いで、CPU18は、指標iの現在値が、レコードアドレスjの第2フィールドに記憶されている登録個数を特定する値に達しているか否かを判定する(ステップb17)。
【0097】
指標iの現在値が登録個数を特定する値に達していなければ、モニタ3dにドットで表示すべき単一細胞が未だ残っていることを意味するので、CPU18は、指標iの値をインクリメントしながら前記と同様の処理を繰り返し実行し、第jレコードの第iフィールドからディッシュ座標系で登録されている単一細胞の座標値(xi,yi)を次々と読み込んで、その全てをモニタ3dにドット表示する(ステップb15〜ステップb17)。細胞位置の表示順序は前述した細胞位置教示処理における細胞位置の登録順序と同様である。
【0098】
図12および図13に示されるように、テーブル4に対するディッシュ13の脱着作業を行う度にテーブル4に対するディッシュ13の位置および姿勢は様々に変動するが、モニタ3d上には常にディッシュ座標系を基準として細胞位置が表示されるので、ディッシュ13の載置状況が変動してもモニタ表示に違和感は生じない。
【0099】
次いで、CPU18は、各単一細胞に対するインジェクション等の作業を細胞位置の登録順に従って実行するのか、あるいは、モニタ3dとマウスのダブルクリック操作を用いた自由選択操作によって行うのかを選択する旨のメッセージをモニタ3dに表示してオペレータに知らせ(ステップb18)、オペレータによる選択操作を待つ待機状態に入る(ステップb19)。
【0100】
ここで、オペレータは、キーボード3bを操作して登録順もしくは自由選択の何れか一方を選択することになる。
【0101】
登録順が選択された場合にはステップb20の判定結果が真となるので、CPU18は、まず、図11に示されるデータ記憶ファイルにおいて細胞位置の読み出し対象とするフィールドを指定するための指標iの値を一旦2に初期化し(ステップb21)、オペレータ側の操作によってフットスイッチ3cから位置決め指令が入力されるのを待つ待機状態に入る(ステップb22)。
【0102】
ここで、オペレータがフットスイッチ3cを操作すると、フットスイッチ3cから位置決め指令が出力され、この信号を検出したCPU18が指標iの値を1インクリメントする(ステップb23)。
【0103】
次いで、CPU18は、前述したレコードアドレスjの値と指標iの現在値とに基いて図11に示されるようなデータ記憶ファイルにおける第jレコードの第iフィールドからディッシュ座標系で登録された単一細胞の座標値(xi,yi)を読み込み(ステップb24)、ディッシュ座標系を基準とした座標値(xi,yi)に逆変換行列gを乗じ、テーブル座標系上の座標値に相当する当該細胞の位置(xp,yp)、即ち、テーブル座標系に従ってテーブル4を駆動制御して細胞の位置決めを行うために必要とされるアブソリュートな移動目標位置(xp,yp)を求める(ステップb25)。
【0104】
そして、CPU18は、更に、テーブル座標系の第一軸(X軸)の現在位置xとテーブル座標系の第二軸(Y軸)の現在位置yとを読み込んで目標位置(xp,yp)と現在位置(x,y)との間の位置偏差(インクリメンタル量)を求め、この位置偏差に応じた駆動パルスを駆動手段X1,Y1の軸制御回路24,25に分配出力してテーブル4を移動させ、当該細胞を顕微鏡9の視野内に収める(ステップb26)。
【0105】
次いで、CPU18は、テーブル4の手動操作手段として機能する第一操作盤3Rからの手動パルス(ステップb27)、もしくは、ヘッドスイッチ16Rからのインジェクション指令(ステップb28)、あるいは、キーボード3bからのスキップ指令(ステップb29)がオペレータによって入力されるのを待つ待機状態に入る。
【0106】
ここで、第一操作盤3Rからの手動パルスの入力が検出された場合には、プレイバックによる位置決めの後、オペレータが更に微妙な位置決め調整を要求していることを意味するので、CPU18は、入力パルス数に応じて駆動手段X1,Y1を作動させて(ステップb30)、オペレータが所望する位置にテーブル4を移動させ、顕微鏡9の視野内で細胞の位置を微調整する。
【0107】
また、ヘッドスイッチ16Rからのインジェクション指令の入力が検出された場合には、オペレータが現在の状況でインジェクション作業を実行することを望んでいることを意味するので、CPU18は、マニピュレータ5のエンドエフェクタであるキャピラリー11を刺入方向(Z軸マイナス方向)に移動させ、現時点で顕微鏡9の視野内に置かれている単一細胞に対して遺伝子や薬品等を注入する通常のインジェクション処理を実行した後、キャピラリー11を退避位置に退避させて(ステップb31)、ディッシュ座標系の座標値(xi,yi)に表示されている細胞のドットの表示色と表示欄33における文字の表示色をモニタ3d上で変更して、当該細胞に対するインジェクションが完了したことをオペレータに知らせる(ステップb32)。この際、キーボード3bからの指示によりオペレータが自由に表示色を選択することが可能であり、オペレータは、自らの設定した表示色により、単一細胞の操作過程等をモニタ3d上で容易に確認できる。
【0108】
また、キーボード3bからスキップ指令の入力が検出された場合には、この単一細胞に対するインジェクション処理がオペレータの都合でキャンセルされたことを意味するので、CPU18は、インジェクション処理を非実行として次の処理へと移行する。
【0109】
インジェクション処理が完了し、あるいは、インジェクション処理がキャンセルされると、CPU18は、指標iの現在値が、レコードアドレスjの第2フィールドに記憶されている登録個数を特定する値に達しているか否かを判定する(ステップb33)。
【0110】
指標iの現在値が登録個数を特定する値に達していなければ、現時点でインジェクション処理を行っていない単一細胞が未だ残っていることを意味するので、CPU18は、オペレータによるフットスイッチ3cの操作、つまり、位置決め指令の入力が検出される度に、指標iの値をインクリメントしながら前記と同様の処理を繰り返し実行し、第jレコードの第iフィールドからディッシュ座標系で登録された単一細胞の座標値(xi,yi)を次々と読み込んで、その座標値をテーブル座標系上の座標値に変換し、単一細胞の各々に対して登録順に従った位置決め操作、あるいは、登録順に従った位置決め操作とインジェクション処理を繰り返し実行する(ステップb22〜ステップb33)。
【0111】
そして、最終的に、指標iの現在値が、レコードアドレスjの第2フィールドに記憶されている登録個数を特定する値に達したことがステップb33の判定処理で検出された時点で、登録順に基くプレイバック処理が全て終了する。
【0112】
一方、ステップb19の処理で自由選択が選択された場合には、ステップb20の判定結果が偽となるので、CPU18は、細胞位置を表すモニタ3d上の何れかのドットがダブルクリックされるのを待つ待機状態に入る(ステップb34)。
【0113】
オペレータは、マウスと連動したグラフィックカーソルをモニタ3d上のドットに合わせ、キーボード3bのマウスをダブルクリックすることで、位置決めの対象とする単一細胞を選択する。
【0114】
ここで、位置決めを所望する細胞に相当するドットがダブルクリックされると、CPU18は、ダブルクリック時におけるグラフィックカーソルの位置(x’,y’)をディッシュ座標系上の座標値として求め(ステップb35)、最小値記憶レジスタTminに、CPU18が許容する設定可能最大値を初期値として設定する(ステップb36)。
【0115】
次いで、CPU18は、細胞位置の読み出し対象とするフィールドを指定するための指標iの値を一旦2に初期化し(ステップb37)、改めて該指標iの値を1インクリメントした後(ステップb38)、ステップb13の処理で特定されたレコードアドレスjの値と指標iの現在値とに基いて図11に示されるようなデータ記憶ファイルにおける第jレコードの第iフィールドからディッシュ座標系で登録された単一細胞の座標値(xi,yi)を読み込み(ステップb39)、単一細胞の座標値(xi,yi)とダブルクリック時のグラフィックカーソルの位置(x’,y’)との間の位置偏差に相当する値Tを求め(ステップb40)、位置偏差に相当する値Tが最小値記憶レジスタTminの値よりも小さいか否かを判定する(ステップb41)。
【0116】
この段階では最小値記憶レジスタTminに設定可能最大値が初期値として記憶されているのでステップb40の判定結果は必然的に真となり、CPU18は、単一細胞の座標値(xi,yi)とダブルクリック時のグラフィックカーソルの位置(x’,y’)との間の位置偏差に相当する値Tを最小値記憶レジスタTminに更新して記憶させ(ステップb42)、グラフィックカーソルの位置に最も近接して位置する単一細胞を特定するための指標kに指標iの現在値を設定した後(ステップb43)、指標iの現在値が、レコードアドレスjの第2フィールドに記憶されている登録個数を特定する値に達しているか否かを判定する(ステップb44)。
【0117】
指標iの現在値が登録個数を特定する値に達していなければ、現時点で検出されている単一細胞の座標値(xk,yk)よりもダブルクリック時のグラフィックカーソルの位置(x’,y’)に近接している他の単一細胞の座標値が存在する可能性があることを意味するので、CPU18は、指標iの値をインクリメントしながら前記と同様の処理を繰り返し実行し、グラフィックカーソルの位置(x’,y’)との間の位置偏差に相当する値Tが其の時点の最小値記憶レジスタTminの値よりも小さくなる単一細胞の座標値(xi,yi)が検出される度に、この座標値を記憶しているフィールドの値iを逐次更新して指標kに記憶させる。
【0118】
最終的に、ステップb44の判定結果が偽となった時点で、指標kの値に対応する単一細胞の座標値(xk,yk)が、ダブルクリック操作の時点におけるグラフィックカーソルの位置(x’,y’)に最も近接した単一細胞の座標値である。
【0119】
従って、CPU18は、座標値(xk,yk)に位置する単一細胞がダブルクリックによって位置決めの対象として選択されたものと見做し、レコードアドレスjの値と指標kの現在値とに基いて、図11に示されるようなデータ記憶ファイルにおける第jレコードの第kフィールドからディッシュ座標系で登録された単一細胞の座標値(xk,yk)、つまり、ダブルクリックの位置に最も近接する単一細胞の座標値(xk,yk)を読み込み(ステップb45)、ディッシュ座標系を基準とした座標値(xk,yk)に逆変換行列gを乗じ、テーブル座標系上の座標値に相当する当該細胞の位置(xp,yp)、即ち、テーブル座標系に従ってテーブル4を駆動制御して細胞の位置決めを行うために必要とされるアブソリュートな移動目標位置(xp,yp)を求める(ステップb46)。
【0120】
そして、CPU18は、更に、テーブル座標系の第一軸(X軸)の現在位置xとテーブル座標系の第二軸(Y軸)の現在位置yとを読み込んで目標位置(xp,yp)と現在位置(x,y)との間の位置偏差(インクリメンタル量)を求め、この位置偏差に応じた駆動パルスを駆動手段X1,Y1の軸制御回路24,25に分配出力してテーブル4を移動させ、当該細胞を顕微鏡9の視野内に収める(ステップb47)。
【0121】
次いで、CPU18は、テーブル4の手動操作手段として機能する第一操作盤3Rからの手動パルス(ステップb48)、もしくは、ヘッドスイッチ16Rからのインジェクション指令(ステップb49)、あるいは、キーボード3bからのスキップ指令(ステップb50)がオペレータによって入力されるのを待つ待機状態に入る。
【0122】
ここで、第一操作盤3Rからの手動パルスの入力が検出された場合には、プレイバックによる位置決めの後、オペレータが更に微妙な位置決め調整を要求していることを意味するので、CPU18は、入力パルス数に応じて駆動手段X1,Y1を作動させて(ステップb51)、オペレータが所望する位置にテーブル4を移動させ、顕微鏡9の視野内で細胞の位置を微調整する。
【0123】
また、ヘッドスイッチ16Rからのインジェクション指令の入力が検出された場合には、オペレータが現在の状況でインジェクション作業を実行することを望んでいることを意味するので、CPU18は、マニピュレータ5のエンドエフェクタであるキャピラリー11を刺入方向(Z軸マイナス方向)に移動させ、現時点で顕微鏡9の視野内に置かれている単一細胞に対して遺伝子や薬品等を注入する通常のインジェクション処理を実行した後、キャピラリー11を退避位置に退避させて(ステップb52)、ディッシュ座標系の座標値(xk,yk)に表示されている細胞のドットの表示色と表示欄33における文字の表示色をモニタ3d上で変更して、当該細胞に対するインジェクションが完了したことをオペレータに知らせる(ステップb53)。前記と同様、キーボード3bからの指示によりオペレータが自由に表示色を選択することができるため、オペレータは、自らの設定した表示色により、単一細胞の操作過程等をモニタ3d上で容易に確認することが可能である。
【0124】
また、キーボード3bからスキップ指令の入力が検出された場合には、この単一細胞に対するインジェクション処理がオペレータの都合でキャンセルされたことを意味するので、CPU18は、インジェクション処理を非実行として次の処理へと移行する。
【0125】
インジェクション処理が完了し、あるいは、インジェクション処理がキャンセルされると、CPU18は、オペレータ側の操作によってキーボード3bから細胞操作終了指令が入力されているか否かを判定し(ステップb54)、細胞操作終了指令が入力されていなければ、モニタ3d上のドットのダブルクリックによって位置決め対象の単一細胞が再び選択されるのを待って、この単一細胞に対し前記と同様の処理を繰り返し実行する。
【0126】
また、オペレータ側の操作によってキーボード3bから細胞操作終了指令が入力された場合には、オペレータが細胞操作の終了を要求していることを意味するので、CPU18は、モニタ3dとマウスのダブルクリック操作を用いた自由選択操作に基くプレイバック処理を全て終了する。
【0127】
この単一細胞操作支援ロボット1では、ディッシュ13に固有の座標系であるディッシュ座標系を基準としてファイルに登録された細胞の位置がテーブル4の駆動制御に必要とされるテーブル座標系の位置に自動的に置き換えられるので、以前にコントローラ3に教示した細胞の位置データを其のまま利用し、しかも、テーブル4に改めて置き直されたディッシュ13の位置や姿勢の変化による影響を受けずに、登録済みの各ディッシュ13内の個々の細胞を顕微鏡9の視野に的確に納めてマニピュレータ5,6による処理操作を行うことができる。
【0128】
しかも、各単一細胞に対するインジェクション等の作業を細胞位置の登録順(ナンバリングの順)に従ってシーケンシャルに実行することも、あるいは、モニタ3dとマウスのダブルクリック操作を用いて自由に選択することも可能であるので、実験の都合等により好適なモードを選択してインジェクション等の作業を実行することができる。
【0129】
また、インジェクション等の作業を実行した細胞に対応するドット表示についてはモニタ3dの画面上で自動的に表示色が変更されるので、遺伝子や薬品等をダブルチャージするような操作ミスも効果的に抑制することができる。
【0130】
従来のように顕微鏡9を覗きながらジョイスティック15Rやトラックボール17Rを手動操作して単一細胞を見つけながらインジェクション作業を行う場合、単一細胞の検出自体に熟練を要するため、実際に処理が可能な単一細胞の数には相当の制限があるが、この単一細胞操作支援ロボット1では、目的とする単一細胞を顕微鏡9の視野に入れるまでの位置決め操作はプレイバック動作において完全に自動化されているので、作業時間の大幅な短縮が可能である。
【0131】
前述の例では、各単一細胞に対するインジェクション等の作業を細胞位置の登録順に従って実行するのか、あるいは、モニタ3dとマウスのダブルクリック操作を用いた自由選択操作によって行うのかを択一的に選択するようにしたが、各単一細胞に対するインジェクション等の作業を細胞位置の登録順に従って実行する間に、必要に応じてダブルクリック操作を用いた自由選択操作に移行するように構成することもできる。
【0132】
その場合、具体的には、図8に示されるステップb18〜ステップb20の処理を削除し、ステップb22の判定結果が偽となった場合にステップb34の処理に移行し、更に、ステップb34の判定結果が偽となった場合にステップb22の判定処理に復帰する一方、ステップb54の判定結果が偽となった場合に、指標kの値を指標iに代入してからステップb22の判定処理に復帰するようにする。
【0133】
このようなプログラムを構成した場合、ダブルクリック操作が行われなければ、順次、登録順に従って細胞が顕微鏡9の視野に位置決めされる。また、ダブルクリック操作による位置決めが一旦実行されると指標kの値が指標iに代入され、次に実行されるフットスイッチ3cの操作で該指標iの値が1インクリメントされるので、このときのフットスイッチ3cの操作により、前述のダブルクリック操作で選択された細胞の次に登録された細胞が位置決めの対象とされることになる。
【0134】
次に、本発明の要旨である単一細胞操作支援ロボット用細胞培養器具の具体的な構成例について説明する。
【実施例1】
【0135】
図14は単一細胞操作支援ロボット用細胞培養器具の一種であるディッシュの構造について例示した平面図である。このディッシュ34は、上述の単一細胞操作支援ロボット1で使用される細胞培養器具であり、細胞を配置するための細胞培養器具本体として機能する図15(a)のような従来型のディッシュ35と、前述の第一,第二の特徴点P1,P2を形成した図15(b)のようなフィルム状あるいは板状の特徴点設置用チップ36とから成り、特徴点設置用チップ36を従来型のディッシュ35に貼着することで、単一細胞操作支援ロボット用細胞培養器具として一体に構成されている。
【0136】
特徴点設置用チップ36上の2つの特徴点P1,P2は、長線分L0と、其の両端部の各々に位置して長線分L0と略直交する短線分L1,L2との交点によって形成され、長線分L0および短線分L1,L2自体は、ガラス,石英,樹脂等からなるフィルム状の特徴点設置用チップ36上に、レーザースパッタリング,印刷,削り込み等を始めとする各種の公知技術を利用して形成されている。長線分L0および短線分L1,L2の線幅は既に述べた理由から5μm以下とすることが望ましい。
【0137】
また、特徴点設置用チップ36の外周輪郭部の一部36rは、図15(b)および図15(a)に示されるように、この特徴点設置用チップ36の貼着対象となる従来型のディッシュ35の底面の外周輪郭部の円弧形状35Rに合わせて円弧状に形成されている。
【0138】
このように、特徴点設置用チップ36の外周輪郭部の一部36rを細胞培養器具本体となる従来型のディッシュ35の底面の外周輪郭部の形状35Rに合わせて形成することにより、従来型のディッシュ35に特徴点設置用チップ36を貼着する際の位置決め作業が容易となり、形状や大きさが同じである同一種の従来型ディッシュ35を用いた単一細胞操作支援ロボット用細胞培養器具34を数多く製作する場合においても、特徴点設置用チップ36の貼着位置のバラツキの発生を防止することができる。
特徴点設置用チップ36が従来型のディッシュ35の底面の外周輪郭部の形状35Rに沿ってどの位置に貼着されるかは特定されないが、ディッシュ35の底面の外周輪郭部は円形であるから、特徴点設置用チップ36の外周輪郭部の一部36rがディッシュ35の底面の外周輪郭部の形状35Rに沿って貼着される限り、実質的な個体差は生じない。
仮に、細胞培養器具本体として利用される従来型のディッシュ35の底面の外径が30mmφであるとすれば、特徴点設置用チップ36の外周輪郭部の一部36rを30mmφの円弧状に形成し、この外周輪郭部36rを従来型のディッシュ35の底面の外周輪郭部35Rに合わせて貼着することになる。
【実施例2】
【0139】
また、図16(b)に示されるように、特徴点設置用チップ36の外周輪郭部の一部を構成する直線状の一辺36Lの両側に角部36c,36cを形成してもよい。
このような構成を適用した場合は、図16(a)に示されるように、直線状の一辺36Lの両側に位置する角部36c,36cを従来型のディッシュ35の底面の外周輪郭部35Rに内接させた状態で特徴点設置用チップ36を従来型のディッシュ35に貼着することによって、特徴点設置用チップ36の貼着位置のバラツキの発生を防止できる。
【実施例3】
【0140】
図17は境界表示部を設けた余白部を有する特徴点設置用チップの一例を示した平面図である。この特徴点設置用チップ42は、特徴点設置用チップ本体43とディッシュ13の底面の一部を覆う円形状の余白部44とによって一体に構成される。
このうち特徴点設置用チップ本体43の部分は透明に形成され、前述の特徴点P1,P2が図15(b)と同様にして描かれている。
また、余白部44の部分は、その中央部に位置する円形状の安全移動領域45を除き危険領域を意味するマスキング部46とされ、マスキング部46の内側の境界線47が境界表示部として機能している。
安全移動領域45は円形状の余白部44の中央部を切り抜いて形成してもよいし、あるいは、余白部44の一部を透明化して形成してもよい。
マスキング部46は、光の通過を遮る黒色の遮光部,ディッシュ13の下からの観測用照明光に色を添える有色の半透明部,光を拡散させるマット面や乳白色部等で形成することができ、実際的な形成手段としては、各種の印刷,塗装,コーティング,サンドブラスト等の公知の手法が利用できる。
安全移動領域45は、単一細胞操作支援ロボット1および其の付加装置であるマニピュレータ5,6やキャピラリー10,11等と細胞培養器具であるディッシュ13との間に干渉を生じずにテーブル4の移動が許容される範囲の顕微鏡9の視野に相当する領域であり、例えば、図2に示されるような例では、キャピラリー10,11の先端をディッシュ13内に突出させた状態でキャピラリー10,11の先端と円形状のディッシュ13の縁とが干渉する可能性が高いので、この安全移動領域45の形状は、概ね円形となる。
厳密に言えば、図2に示される例に対応する安全移動領域の形状は、ディッシュ13内に突出した左側のキャピラリー10をディッシュ13の周壁に干渉させずに移動させることが可能な略楕円状の移動領域と、ディッシュ13内に突出した右側のキャピラリー11をディッシュ13の周壁に干渉させずに移動させることが可能な略楕円状の移動領域との論理積からなる縦長状の略楕円領域となるが、ここでは、ディッシュ13が誤った姿勢でテーブル4上に載置された場合をも考慮し、安全移動領域45の実質的な形状を、前述した論理積からなる縦長状の略楕円領域の短軸に相当する直径を有する円として規定している。
従って、この実施例では、キャピラリー10,11の先端をディッシュ13内に突出させた状態であっても、顕微鏡9の視野内に特徴点設置用チップ42の安全移動領域45が捉えられている限り、テーブル4に対してどのような手動送り操作を加えてもキャピラリー10,11がディッシュ13の周壁に干渉するといった問題は発生しない。
一方、境界表示部として機能するマスキング部46の内側の境界線47が顕微鏡9の視野内に侵入した場合には、キャピラリー10,11の先端がディッシュ13の周壁に干渉する可能性があるので、オペレータは、この時点で直ちに当該方向へのテーブル4の送りを停止させる必要がある。但し、この実施例では、オペレータの操作の遅れ等を考慮してマージンを設定することで安全移動領域45の直径を前述した縦長状の略楕円領域の短軸よりも僅かに小さめに設計しているので、実際には、境界線47が顕微鏡9の視野の中央部付近にまで侵入した状態であっても、キャピラリー10,11の先端とディッシュ13の周壁との干渉は発生しない。言い換えれば、テーブル4を手動制御で移動させているオペレータは、顕微鏡9の視野に境界線47が侵入したことを確認してから手動送りの操作を停止することで、仮に、この操作に多少の遅れがあったにしても、キャピラリー10,11とディッシュ13との干渉を余裕を持って防止することが可能である。
なお、危険領域を意味するマスキング部46自体は必ずしも必要ではない。例えば、境界表示部である境界線47のラインのみを罫書き或いは印刷等の手法で形成するといったことも可能である。
しかし、その場合は、境界線47が顕微鏡9の視野の隅に侵入した時点で、オペレータが此れを的確に認識し、テーブル4に逆方向の送りを掛けて干渉防止の対策を採る必要がある。
仮に、このような注意を怠ったオペレータが不用意に顕微鏡9の視野の中央にまで境界線47を侵入させてしまったとすると、顕微鏡9で拡大された境界線47の屈曲方向、つまり、境界線47のどちら側が安全移動領域であるかの判定が難しくなり、干渉を回避しようと誤った方向に不用意な送りを掛けて予期せぬ干渉が生じたり、あるいは、顕微鏡9の視野に対する境界線47の侵入あるいは通過それ自体を見逃し、顕微鏡9の視野が境界線47を超えて危険領域に侵入しているにも関わらず、この領域で更にテーブル4に送りを掛けるといった誤操作を生じる可能性があるからである。
以上の点から、危険領域を明示するマスキング部46の内側の境界線47によって境界表示部を形成することが望ましい。
このような構成を適用した場合、オペレータが相当に注意を怠ったとしても、顕微鏡9の視野の中央にまで境界線47やマスキング部46を侵入させてしまうといったことは考えにくく、また、仮にそのような現象が生じたとしても、境界線47のどちら側が安全移動領域45であるかは自明であるので(透明な方が安全移動領域45)、オペレータは、干渉を回避する方向に的確な送りを掛けて干渉の発生を未然に防止することができるようになる。
【0141】
更に、境界線(境界表示部)47や安全移動領域45およびマスキング部46に関わる技術思想は、単一細胞操作支援ロボット1および其の付加装置と細胞培養器具との間の干渉の防止を目的として、独立した技術手段として利用することが可能である。
図18は単一細胞操作支援ロボット1および其の付加装置と細胞培養器具との間の干渉を防止するための干渉防止チップの一例を示した平面図である。この干渉防止チップ48は、細胞培養器具であるディッシュ13の底面の一部を覆う円形状のマスキング部46によって構成される。マスキング部46の内側の境界線47が境界表示部であり、その内側に位置する安全移動領域45を切り抜きによって形成するか、あるいは、マスキング部46と同一部材の一部を透明化して形成するかは任意である。
マスキング部46や安全移動領域45の構造に関しては前述した特徴点設置用チップ42のものと同様であり、従って、この干渉防止チップ48をディッシュ13の底面に貼着して利用することで、前述した特徴点設置用チップ42の効果のうち、干渉防止に関して同等の効果が発揮される。
あるいは、図19(a)に示されるように、干渉防止チップ48におけるマスキング部46の一部に、図15(b)に示されるような特徴点設置用チップ36を貼着するための透明部49、または、特徴点設置用チップ36を突き合わせるための切欠部49を形成し、この透明部49に特徴点設置用チップ36を貼着した干渉防止チップ48を図19(b)のようにしてディッシュ13の底面に貼着するか、または、切欠部49に特徴点設置用チップ36を突き合わせた状態で干渉防止チップ48および特徴点設置用チップ36の各々を図19(b)のようにしてディッシュ13の底面に貼着することで、位置決めの高精度化および干渉の防止に関して、図17に示した特徴点設置用チップ42と同等の機能を達成することができる。
【実施例4】
【0142】
図20は従来型のフラスコ・プレート37を細胞培養器具本体として利用し、このフラスコ・プレート37の底面に図16(b)と同様の特徴点設置用チップ36を貼着して単一細胞操作支援ロボット用細胞培養器具38を構成した例である。
図20の例においては、特徴点設置用チップ36の外周輪郭部はフラスコ・プレート37の底面の外周輪郭部とは重合せず、また、特徴点設置用チップ36の角部36c,36cもフラスコ・プレート37の底面の外周輪郭部には内接しないが、前述した通り、この単一細胞操作支援ロボット1では、テーブル4に対する細胞培養器具38や特徴点設置用チップ36の位置・姿勢のズレとは無関係に、あくまでも、細胞培養器具本体であるフラスコ・プレート37に貼着された特徴点設置用チップ36上の特徴点P1,P2によって細胞培養器具38に固有の座標系が設定され、この座標系を利用して細胞位置の登録や単一細胞操作支援ロボット1のプレイバック動作が行われるようになっているので、フラスコ・プレート37に対する特徴点設置用チップ36の位置や姿勢に多少のズレがあったとしても、これが細胞位置の教示操作やプレイバック動作に支障を与えることはない。
【実施例5】
【0143】
次に、浮遊細胞を取り扱うためのウェル39を備えた従来型のスライドガラス40を細胞培養器具本体として利用し、このスライドガラス40の底面に図16(b)と同様の特徴点設置用チップ36を貼着して単一細胞操作支援ロボット用細胞培養器具41とした構成例について図21(a)の側面図および図21(b)の平面図に示す。
【0144】
図21(a)で示した例ではスライドガラス40の底面の裏面側に特徴点設置用チップ36を貼着した例について示しているが、特徴点設置用チップ36は、スライドガラス40の表面側つまりウェル39を設けた面と同一面に貼着してもよい。
図14および図16に示したディッシュ34や図20に示したフラスコ・プレート37の場合も、これと同様、底面の裏側もしくは表面側の何れか一方に選択的に特徴点設置用チップ36を貼着することができる。
【0145】
何れの場合も、特徴点設置用チップ36は、ディッシュ35,フラスコ・プレート37,スライドガラス40等の細胞培養器具本体と同様に透明の部材によって形成されるが、特徴点設置用チップ36には或る程度の厚みがあるので、ディッシュ35,フラスコ・プレート37,スライドガラス40等の細胞培養器具本体における特徴点設置用チップ36の貼着位置、言い換えれば、第一,第二の特徴点P1,P2の存在位置を目視確認することは容易である。
従って、目視確認により、顕微鏡9の視野内もしくは其の近傍に第一,第二の特徴点P1,P2が位置するようにして単一細胞操作支援ロボット用細胞培養器具をテーブル4上に設置することができ、この結果、細胞培養器具の底面を全体に亘って顕微鏡9で探って特徴点P1,P2を見つけるといった必要はなくなり、細胞位置の教示操作やプレイバック動作の前提となる細胞培養器具の位置姿勢の教示に必要とされる段取りの作業時間も節約されることになる。
【0146】
また、特徴点設置用チップ36の厚みを利用し、第一,第二の特徴点P1,P2の存在位置を目視確認して顕微鏡9の視野内もしくは其の近傍に第一,第二の特徴点P1,P2を予め位置決めすることができるので、特徴点P1,P2を構成する長線分L0と短線分L1,L2の線幅は顕微鏡9で検出可能な範囲で細く形成することができ、例えば、目視確認が難しい3μm以下とすることも可能であって、特徴点P1,P2の位置検出精度、更には、細胞位置の教示精度やプレイバック動作時の位置決め精度を向上させることができる。
【0147】
以上に述べた通り、第一,第二の特徴点P1,P2をフィルム状の特徴点設置用チップ36に形成し、この特徴点設置用チップ36を従来型のディッシュ35,フラスコ・プレート37,スライドガラス40等の細胞培養器具本体に貼着することによって単一細胞操作支援ロボット1用の細胞培養器具を構成することで、細胞培養器具本体に第一,第二の特徴点を直に形成するための新規金型の製作を要することなく、テーブル座標系上で検出された細胞の位置を細胞培養器具の固有座標系上の位置に変換する際に必要となるマーカー(第一,第二の特徴点P1,P2)を有する単一細胞操作支援ロボット用細胞培養器具を安価に提供することができる。
【0148】
しかも、各種の既存のディッシュ35,フラスコ・プレート37,スライドガラス40等を細胞培養器具本体として利用することが可能であるので、ユーザは、従来使用していた使い慣れた細胞培養器具本体あるいは実験等の目的に適した各種の細胞培養器具本体、即ち、各種の既存のディッシュ35,フラスコ・プレート37,スライドガラス40等を自由に選択して使用することができる。
【0149】
更に、特徴点設置用チップ36に、第一,第二の特徴点P1,P2(長線分L0,短線分L1,L2)とは別に、特徴点位置検出用の目視容易な目印を印刷等の手法で形成するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0150】
【図1】単一細胞操作支援ロボットの全体的な構成を示した正面図である。
【図2】単一細胞操作支援ロボットのステージを拡大して示した正面図である。
【図3】細胞培養器具の一種であるディッシュの外観を示した平面図である。
【図4】コントローラ本体の構成の概略を示した機能ブロック図である。
【図5】コントローラ本体のCPUが実行する細胞位置教示処理について示したフローチャートである。
【図6】細胞位置教示処理について示したフローチャートの続きである。
【図7】コントローラ本体のCPUが実行するプレイバック処理について示したフローチャートである。
【図8】プレイバック処理について示したフローチャートの続きである。
【図9】プレイバック処理について示したフローチャートの続きである。
【図10】プレイバック処理について示したフローチャートの続きである。
【図11】単一細胞の教示位置を記憶するデータ記憶ファイルの一例について示した概念図である。
【図12】テーブル座標系を基準として検出された座標値をディッシュ座標系上の座標値に置き換える変換行列の作用原理について示した概念図である。
【図13】ディッシュ座標系を基準に登録された座標値をテーブル座標系上の座標値に置き換える逆変換行列の作用原理について示した概念図である。
【図14】細胞を配置するための細胞培養器具本体として機能する従来型のディッシュと特徴点設置用チップとによって構成された単一細胞操作支援ロボット用細胞培養器具の一例を示した平面図である(実施例1)。
【図15】単一細胞操作支援ロボット用細胞培養器具の構成要素を示した平面図であり、図15(a)は細胞培養器具本体として機能する従来型のディッシュについて、また、図15(b)は外周輪郭部の一部を細胞培養器具本体の底面の外周輪郭部の形状に合わせて形成した特徴点設置用チップについて示している(実施例1)。
【図16】単一細胞操作支援ロボット用細胞培養器具の他の構成例を示した平面図であり、図16(a)は特徴点設置用チップを貼着した従来型のディッシュについて、また、図16(b)は外周輪郭部の一部を構成する直線状の一辺の両側に角部を形成した特徴点設置用チップについて示している(実施例2)。
【図17】境界表示部を設けた余白部を有する特徴点設置用チップの一例を示した平面図である(実施例3)。
【図18】単一細胞操作支援ロボットおよび其の付加装置と細胞培養器具との間の干渉を防止するための干渉防止チップの一例を示した平面図である。
【図19】特徴点設置用チップと併用可能な干渉防止チップの例を示した平面図で、図19(a)は干渉防止チップの構成について、また、図19(b)では特徴点設置用チップと干渉防止チップを貼着したディッシュについて示している。
【図20】細胞を配置するための細胞培養器具本体として機能する従来型のフラスコ・プレートと特徴点設置用チップとによって構成された単一細胞操作支援ロボット用細胞培養器具の一例を示した平面図である(実施例4)。
【図21】単一細胞操作支援ロボット用細胞培養器具の他の構成例を示した平面図であり、図21(a)は特徴点設置用チップを貼着した従来型のスライドガラスの側面図、また、図21(b)は其の平面図である(実施例5)。
【符号の説明】
【0151】
1 単一細胞操作支援ロボット
2 ロボット本体
3 コントローラ
3a コントローラ本体
3b キーボード
3c フットスイッチ
3d モニタ
3R 第一操作盤
3L 第二操作盤
4 テーブル
5,6 マニピュレータ
7 ステージ
8 コラム
9 顕微鏡
10,11 キャピラリー
12 器具ホルダー
13 ディッシュ(細胞培養器具)
14 マーキング
15R,15L ジョイスティック
16R,16L ヘッドスイッチ
17R,17L トラックボール
18 CPU
19 ROM
20 RAM
21 不揮発性メモリ
22 ハードディスクドライブ
23 インターフェイス
24,25,26,27,28,29,30,31 軸制御回路
32 入出力回路
33 表示欄
34 ディッシュ(単一細胞操作支援ロボット用細胞培養器具)
35 従来型のディッシュ(細胞培養器具本体)
35R 細胞培養器具本体の底面の外周輪郭部の形状
36 特徴点設置用チップ
36r 特徴点設置用チップの外周輪郭部の一部
36L 特徴点設置用チップの外周輪郭部の一部を構成する直線状の一辺
36c 角部
37 従来型のフラスコ・プレート(細胞培養器具本体)
38 単一細胞操作支援ロボット用細胞培養器具
39 ウェル
40 スライドガラス(細胞培養器具本体)
41 単一細胞操作支援ロボット用細胞培養器具
42 特徴点設置用チップ
43 特徴点設置用チップ本体
44 余白部
45 安全移動領域
46 マスキング部
47 境界線(境界表示部)
48 干渉防止チップ
49 透明部または切欠部
X1,Y1 テーブルの駆動手段
XR,YR,ZR 右側に位置するマニピュレータの駆動手段
XL,YL,ZL 左側に位置するマニピュレータの駆動手段
P1 特徴点(第一の特徴点)
P2 特徴点(第二の特徴点)
L0 長線分
L1,L2 短線分
O テーブル座標系の座標原点
X テーブル座標系の第一軸
Y テーブル座標系の第二軸
O’ ディッシュ座標系の座標原点
X’ ディッシュ座標系の第一軸
Y’ ディッシュ座標系の第二軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を配置した細胞培養器具をテーブル上に載置し、前記細胞培養器具が有する第一の特徴点の位置と前記細胞培養器具が有する第二の特徴点の位置とをテーブル座標系上で検出し、前記第一の特徴点を始点として前記第二の特徴点を通る直線にテーブル座標系の第一軸を一致させるための変換行列を求め、テーブル座標系上で検出された各々の細胞の位置に前記変換行列を乗じて前記細胞培養器具の固有座標系上における細胞位置を求めるようにした単一細胞操作支援ロボットで使用される細胞培養器具であって、
細胞を配置するための細胞培養器具本体と、前記第一,第二の特徴点を形成したフィルム状の特徴点設置用チップとから成り、
前記特徴点設置用チップが前記細胞培養器具本体に貼着されていることを特徴とした単一細胞操作支援ロボット用細胞培養器具。
【請求項2】
前記特徴点設置用チップの外周輪郭部の少なくとも一部が、該特徴点設置用チップの貼着対象となる細胞培養器具本体の底面の外周輪郭部の形状に合わせて形成されていることを特徴とした請求項1記載の単一細胞操作支援ロボット用細胞培養器具。
【請求項3】
前記特徴点設置用チップの外周輪郭部の一部を構成する直線状の一辺の両側に角部が形成されていることを特徴とした請求項1記載の単一細胞操作支援ロボット用細胞培養器具。
【請求項4】
前記2つの特徴点が、長線分と、該長線分の両端部の各々に位置して前記長線分と略直交する短線分との交点によって形成されていることを特徴とする請求項1,請求項2または請求項3記載の単一細胞操作支援ロボット用細胞培養器具。
【請求項5】
前記特徴点設置用チップには、前記細胞培養器具の底面の少なくとも一部を覆う余白部が形成され、この余白部に、前記単一細胞操作支援ロボットおよび其の付加装置と該細胞培養器具との間に干渉を生じずに前記テーブルの移動が許容される安全移動領域と、前記テーブルの移動により前記単一細胞操作支援ロボットおよび其の付加装置と該細胞培養器具との間に干渉を生じる可能性のある危険領域との境界を明示する境界表示部が、前記単一細胞操作支援ロボットの顕微鏡の視野から識別可能な状態で設けられていることを特徴とする請求項1,請求項2,請求項3または請求項4記載の単一細胞操作支援ロボット用細胞培養器具。
【請求項6】
前記境界表示部は、前記危険領域を明示するマスキング部の内側の境界線によって形成されていることを特徴とする請求項5記載の単一細胞操作支援ロボット用細胞培養器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2006−109714(P2006−109714A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−298133(P2004−298133)
【出願日】平成16年10月12日(2004.10.12)
【出願人】(592004404)中央精機株式会社 (16)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】