説明

単糖類、二糖類、及び/又はオリゴ糖の製造方法

【課題】糖化率を向上させ、効率よく多糖類から分解糖を製造することのできる方法の提供。
【解決手段】次の工程(1)〜(3):
(1)多糖類に圧縮せん断応力を加えて粉砕し、多糖類の粉砕物を得る工程、
(2)多糖類の粉砕物を水の存在下、185〜230℃で加熱処理する工程、
(3)加熱処理後の反応物から固液分離により固体部を得、これに加水分解酵素を作用させる工程、
を包含する、単糖類、二糖類、及び/又はオリゴ糖の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多糖類、特にバイオマスから単糖類、二糖類、及び/又はオリゴ糖(以下、総称して「分解糖」ともいう)を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石資源に代えてセルロース系、デンプン系、或いは糖質系のバイオマスからエタノールや乳酸等の有用物質を製造する技術の開発が望まれている。とりわけ、非食糧資源であるセルロース系バイオマスを有効利用する技術への関心が高まっている。
バイオマスからのエタノール等の製造は、バイオマスを糖化工程においてグルコース等の糖に分解した後、これを発酵工程においてエタノール等に変換することにより行うことができる。糖化は、硫酸等を用いる酸糖化と酵素糖化に大別される。
酵素糖化は、酸糖化に比して緩和な条件で加水分解できる等の利点があるが、特にセルロース系バイオマスを利用する場合、反応速度が非常に遅く、糖化率の向上が大きな課題になっている。
【0003】
糖化率向上のための技術として、糖化工程に先立って予めバイオマスを前処理する方法が検討されている。前処理方法としては、例えば、硫酸法、有機溶媒法、水熱処理法、機械的破砕等が知られている。
また、これらの方法を組み合わせてエタノール原料を効率的に製造する方法も検討され、例えば、リグノセルロースを含有する原料を粗粉砕する粗粉砕工程、粗粉砕物を微粉砕する微粉砕工程、微粉砕物を水熱処理する水熱処理工程、及び水熱処理物を脱水する脱水工程を包含する方法(特許文献1)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−124973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1には、微粉砕工程で得た微粉砕物を水熱処理する際、糖の過分解を抑えるため、約0.98MPa(飽和水蒸気として約180℃以下)以下が好ましい旨の記載がある。しかしながら、前記特許文献1には水熱処理の実施について開示がなく、本発明者が特許文献1記載の方法に従ってセルロース系バイオマスの粉砕工程、水熱処理工程を行い、次いで実際に酵素糖化工程を行ったところ、水熱処理工程後のセルロース収率は高いものの、酵素糖化工程で反応が進みにくく、全体として分解糖の生成量が少なくなる場合があることが判明した。一方、セルロース系バイオマスを単に機械的破砕した後に酵素糖化に供しても、経時的に反応速度が低下し、十分な糖化率が得られない場合がある。
従って、本発明の課題は、糖化率を向上させ、効率よく多糖類から分解糖を製造することのできる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討したところ、多糖類を特定の方法で粉砕した後に、水の存在下、185〜230℃で加熱処理すれば、特許文献1のような低い温度で加熱処理した場合より加熱処理後のセルロース収率は低いにもかかわらず、その後の酵素糖化工程では全く意外にも糖化率が顕著に向上し、最終的に分解糖の収率が高くなることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の工程(1)〜(3):
(1)多糖類に圧縮せん断応力を加えて粉砕し、多糖類の粉砕物を得る工程、
(2)多糖類の粉砕物を水の存在下、185〜230℃で加熱処理する工程、
(3)加熱処理後の反応物から固液分離により固体部を得、これに加水分解酵素を作用させる工程、
を包含する、単糖類、二糖類、及び/又はオリゴ糖の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、糖化率を向上させることができ、分解糖を効率よく製造することができる。本発明方法は、セルロース系のバイオマスにも適用可能であり、バイオマスからのエタノ−ル等有用物質の製造を高効率化する技術として期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
工程(1)は、多糖類に圧縮せん断応力を加えて粉砕して、多糖類の粉砕物を得る工程である。
本発明で用いられる多糖類としては、例えば、セルロース、ヘミセルロース、キシログルカン、ペクチン、澱粉、マンナン、グルコマンナン、ガラクトマンナン、キチン、キトサン、イヌリン、アルギン酸、寒天、フコイダン、ラミナリン、β−グルカン、プルラン等の天然多糖又はこれらの誘導体が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、安価かつ分解後の発酵生産により有用物質に変換可能である点から、セルロース、ヘミセルロース、キチン、キトサンが好ましく、特にセルロース、ヘミセルロースが好ましい。本発明で用いられる多糖類の分子量は、特に限定されないが、一般的には1,000以上5,000,000以下であることが好ましい。
【0010】
また、本発明における多糖類として、前記多糖類を含む原料、例えば、バイオマスを用いることもできる。バイオマスとは、生物由来の有機資源で、化石資源を除いたものである。バイオマスとしては、セルロース系、デンプン系、或いは糖質系のバイオマスが挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
なかでも、資源の有効活用の点から、セルロースを含有するセルロース系バイオマスを用いることが好ましい。
【0011】
セルロース系バイオマスは、セルロース、ヘミセルロース及びリグニンを主成分とするものであり、例えば、綿、木材系パルプ、ケナフ、麻、小径木、間伐材、おが屑、木屑、古紙、新聞紙、包装紙、ティッシュペーパー、トイレットペーパー、ダンボール等の木質系;バガス、スイッチグラス、エレファントグラス、稲ワラ、ムギワラ等の草木系のバイオマスが挙げられる。また、デンプン系バイオマスとしては、例えば、米、麦、トウモロコシ、イモ等が挙げられ、糖質系バイオマスとしては、サトウキビ、テンサイ、海藻、エビ殻、カニ殻等の糖質系バイオマスが挙げられる。
【0012】
多糖類に圧縮せん断応力を加えて粉砕するには、圧縮せん断式粉砕機を用いることができる。圧縮せん断式粉砕機は、圧縮応力とせん断応力の両方を付加できる機械で、例えば、振動ロッドミル、振動ボールミル等が挙げられる。なかでも、糖化率及び生産効率の点から、振動ロッドミルが好ましい。ロッドは、特に制限されないが、外径が0.1〜100mm、さらに0.5〜50mmのものが好ましい。また、ロッドの充填率(振動ミルの攪拌部の容積に対するロッドの見かけの体積)は、機種により異なるが、10〜97%が好ましく、15〜95%がより好ましい。
粉砕時間、粉砕機の回転数等の粉砕条件は、所望の粉砕物を形成するために適宜設定すればよい。
【0013】
粉砕物の平均粒径は、0.002〜0.3mm、さらに0.005〜0.2mm、特に0.01〜0.05mmであることが糖化率及び生産効率の点から好ましい。なお、本明細書において平均粒径とは、レーザー回折散乱法により体積基準に従って求められる平均値をいう。
【0014】
また、多糖類は、圧縮せん断応力を加えて粉砕する前に、予め粗粉砕しておいてもよい。粗粉砕する方法は特に制限されず、例えば、粉砕機として、グラインダー・ロールカッター等のカッター式粉砕機、ハンマーミル等の衝撃式粉砕機、コロイドミル等の摩砕式粉砕機等を用いることができる。
粗粉砕は、多糖類の平均粒径が、1〜15cm、特に3〜5cmとなるように行うのが好ましい。
【0015】
工程(2)は、工程(1)より得られた粉砕物を水の存在下、185〜230℃で加熱処理する工程である。加熱処理方法としては、特に制限されず、公知の方法を適用できる。バッチ攪拌式でも連続流通式でもよい。加熱処理の際に用いる水は、例えば、水道水、蒸留水、イオン交換水、精製水等が例示される。
粉砕物はスラリー状にして用いるのが好ましく、スラリー中の多糖類の含有量は、流動性の点から、1〜400g/L、更に5〜300g/L、特に8〜200g/Lとするのが好ましい。スラリーとしては、水、各種緩衝液等が挙げられる。
【0016】
加熱処理の温度は、185℃〜230℃の範囲であるが、さらに185〜220℃、特に190〜210℃であるのが糖化率及び生産効率の点から好ましい。加熱の手段は、例えば、水蒸気、電気が挙げられる。
【0017】
185℃〜230℃の範囲で加熱処理する時間は、反応方法や多糖類の種類によって異なるが、分解率及び生産効率の点から、10〜90分が好ましく、更に15〜85分、特に20〜80分が好ましい。なお、加熱処理する時間とは、規定されている温度範囲に含まれる状態の時間の合計を意味し、温度が当該範囲に含まれている限り、温度が変化しても構わない。従って、昇温及び降温の時間も、当該温度範囲に含まれる限り加熱処理する時間に含むものとする。また、温度が変化した結果、断続的に当該温度範囲に含まれる場合は、当該温度範囲に含まれる時間の総計をもって当該時間とする。
【0018】
また、加熱処理時の圧力は、水の飽和蒸気圧又はそれ以上に設定するのが好ましく、更に1.1〜10.0MPa、特に1.2〜8.0MPa、殊更1.3〜6.0MPaが好ましい。加圧する場合はガスを用いてもよく、用いられるガスは、例えば、不活性ガス、水蒸気、窒素ガス、ヘリウムガス等が挙げられる。連続流通式の場合はバルブなどで出口流路を絞ることにより圧力を設定してもよい。
【0019】
工程(3)は、加熱処理後の反応物から固液分離により固体部を得、これに加水分解酵素を作用させる工程である。反応物から液体部を除去することで、過分解物を除去することができ、後の発酵工程で糖過分解物による発酵阻害を防ぐことができる。
加熱処理後の反応物から固液分離により固体部を得る方法としては、特に制限されず、必要に応じ冷却しながら、ろ過、遠心分離、沈降分離により行うことができる。冷却温度は、100℃以下、好ましくは80℃以下が好ましい。
【0020】
本発明で用いられる加水分解酵素としては、多糖類に対して加水分解活性を有する酵素であれば特に制限はないが、例えば、アミラーゼ、グルコアミラーゼ、セルラーゼ、デキストラナーゼ、グルカナーゼ、グルコシダーゼ、ガラクトシダーゼ、マンノシダーゼ、アガラーゼ、ラクトーゼ、ムタナーゼ、キチナーゼ、キトサナーゼ等が挙げられる。
加水分解酵素は、その起源に限定はなく、さらに、遺伝子組み換え技術、部分加水分解等による人工酵素であってもよい。
また、加水分解酵素の形態は特に限定されず、酵素蛋白質の乾燥物、酵素蛋白質を含む粒子、及び酵素蛋白質を含む液体等を用いることができる。
【0021】
加水分解酵素の使用量は、加水分解反応の条件、多糖類の種類等によって異なるが、例えば、セルラーゼの場合、固体部1gあたり1〜200FPUが好ましく、特に5〜50FPUが好ましい。ここでFPU活性は以下に示すIUPAC法により測定される。まず、濾紙(ワットマンNo.1)50mgを基質とし、これに酵素液0.5mLと0.05Mクエン酸緩衝液(pH4.8)1.0mLを加え、50℃で1.0時間酵素反応を行った後、ジニトロサリチル酸試薬3.0mLを加え、100℃で5.0分間加熱し発色させる。冷却後、これにイオン交換水20mLを加え540nmの波長で比色定量する。1分間に1μmolのグルコースに相当する還元糖を生成する酵素量を1ユニット(FPU)とする。
【0022】
多糖類と加水分解酵素との反応は、使用する酵素の特性に合わせて温度やpHを選択することが可能であるが、例えば、セルラーゼを用いる場合、pH3〜8、特にpH4〜7とすることが好ましく、温度は10〜80℃、特に20〜60℃とすることが好ましい。
【0023】
反応時間は、多糖類の種類等によって異なるが、糖化率及び生産効率の点から、例えば、1〜240時間が好ましく、更に2〜200時間、特に3〜140時間が好ましい。
【0024】
かくして、加水分解反応により得られる単糖類としては、例えば、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、キシロース、アラビノース等が挙げられる。また、二糖類としては、セロビオース、マルトース、ジ−N−アセチルキトビオース等が挙げられ、オリゴ糖としては3〜10の単糖単位を有するものをいい、例えば、セロトリオース、セロテトラオース、セロペンタオース、セロヘキサオース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、トリ−N−アセチルキトトリオース、テトラ−N−アセチルキトテトラオース、ペンタ−N−アセチルキトペンタオース、ヘキサ−N−アセチルキトヘキサオース等が挙げられる。
【0025】
本発明方法によれば、60〜100%、更に70〜100%、特に80〜100%の糖化率で多糖類から分解糖を製造することができる。なお、糖化率とは、加水分解反応により生成した水溶性糖(グルコースに代表される単糖類及び二糖類)の合計質量を、加水分解反応に供した原料に含まれる多糖類の質量で割った値を云う。
また、全工程を通した分解糖の収率(歩留まり)は60%以上、更に65%以上、特に70%以上であることが製造効率の点から好ましい。
なお、前述したように、多糖類にはセルロースをはじめとして多くのものが例示され、さらにセルロースには結晶性の高いα-セルロースのほかに、ヘミセルロースとして分類される変性したβ-セルロースとγ-セルロースもある。本願では、多糖類の収率、糖化率、及び分解糖収率について、一般的にバイオマス中のセルロース純度として用いられるα-セルロースを基準とする。α-セルロース量の測定方法は実施例に記載した。
【0026】
得られる分解糖は、これら分解糖を糖源として、微生物発酵を行ったり、化学変換したりすることにより、エタノール、ポリ乳酸、アミノ酸、キシリトールやエリスリトール等の有用物質を製造することができる。
【実施例】
【0027】
<α−セルロース量の測定>
ソッスレー抽出により得られる脱脂品約2.5gに蒸留水150mL、亜塩素酸ナトリウム1.0g、酢酸0.2mLを加え、80℃の湯浴上で加熱する。亜塩素酸ナトリウム、酢酸の添加と添加後の1時間加熱を、さらに2回行った。内容物をろ過し、ろ過残渣は水、アセトンで洗浄後、乾燥させた。得られた乾燥品1gを17.5%水酸化ナトリウム水溶液25mLに加え、30分間放置した。30分後、水25mLを加え、1分間攪拌後、5分間静置した。内容物をろ過し、ろ過残渣を10%酢酸水および煮沸水で洗浄後、乾燥させた。得られた乾燥残渣の重量をα−セルロース量とした。
【0028】
<水溶性糖濃度(グルコース濃度、セロビオース濃度)の測定>
日立製作所製高速液体クロマトグラフを用い、昭和電工製カラムAsahipak NH2P−50 4E (4.5mmφ×250m)を装着し、カラム温度20℃でグラジエント法により行った。移動相A液はアセトニトリル、B液は30%メタノール水とし、1.00mL/分で送液した。グラジエント条件は以下のとおりである。
時間(分) A液(%) B液(%)
0 20 80
45 50 50
45.1 20 80
55 20 80
試料注入量は5μL、検出はESA Biosciences社製コロナCAD検出器を用いた。
【0029】
<体積基準平均粒径の測定>
レーザー回折式粒度分布計(ベックマン・コールター社製、LS 13 320)により測定した。
【0030】
<α−セルロース収率の算出>
α−セルロース収率は次式(i)により算出した。
α−セルロース収率(%)={工程(2)で得られた加熱処理後の反応物を固液分離して得た固体部に含まれるα−セルロースの質量}/{工程(2)に供した原料多糖類の粉砕物に含まれるα−セルロースの質量}×100 (i)
【0031】
<糖化率の算出>
糖化率は次式(ii)により算出した。
糖化率(%)={(反応後の水溶性糖質量)−(反応前の水溶性糖質量)}/α−セルロースの質量×100 (ii)
【0032】
<分解糖収率の算出>
上記α−セルロース収率と糖化率を乗じることで分解糖収率(%)を算出した。
【0033】
実施例1
乾燥した稲ワラ100gをグラインダーで体積基準平均粒径が3〜5cmとなるように予備粉砕した。振動ロッドミル((株)中央化工機製MB−1、容器全容積3.5L)に外径30mmのロッドを13本充填し(充填率74%)、予備粉砕した稲ワラ100gを仕込み、1,200c/minで10分間振動することにより、粉砕稲ワラを得た。体積基準平均粒径は0.04mmであった。
この粉砕稲ワラ(α−セルロース含有量32質量%)10gと水90gを混合したスラリーを、バッチ式水熱処理装置(日東高圧製Start200New Quick、容積180mL)に入れ、上部空間を窒素置換し、加熱した。昇温速度は3.4℃/分とし、200℃に到達後、直ちに冷却した。185℃〜230℃にあった時間は30分であった。室温まで冷却後、ろ過により固体部(固形分残渣)を得た。残渣の乾燥質量が5質量%になるように分取し、pH5.0の0.1Mクエン酸緩衝溶液を加えて全体を10gにした。これにセルラーゼ(ノボザイムズ製セルクラスト1.5L)を62.5μL添加して糖化した(残渣の乾燥重量1gあたりの添加は8.75FPU)。糖化反応は50℃の恒温槽中、110r/minで振とうしながら48時間行った。反応終了後、液部を0.2μmのフィルターでろ過し、水溶性糖濃度を測定した。水溶性糖としては、セロビオース、グルコースが測定された。
【0034】
実施例2
水熱処理において200℃に到達後、200℃で30分保持した後に冷却した以外は実施例1と同様にして水溶性糖を得た。185℃〜230℃にあった時間は65分であった。
【0035】
実施例3
バッチ式水熱処理装置をあらかじめ窒素ガスで1MPaに加圧した以外は実施例1と同様にして水溶性糖を得た。
【0036】
比較例1
水熱処理において、180℃に到達後、直ちに冷却した以外は実施例1と同様にして水溶性糖を得た。
【0037】
比較例2
実施例1で得た粉砕稲ワラを、水熱処理せずに酵素糖化した。
【0038】
比較例3
岩谷産業(株)製グラインダー(ラボミルサー800DG、容積260mL)に乾燥した稲ワラ40gを仕込んで20,000r/minで10分間攪拌することにより、粉砕稲ワラを得た。体積基準平均粒径は0.27mmであった。この粉砕稲ワラ(α−セルロース含有量32質量%)10gと水90gを混合し、その後実施例2と同様にして加熱処理と酵素糖化処理を行い、水溶性糖を得た。
比較例4
20,000r/minで120分間攪拌した以外は比較例3と同様にして粉砕稲ワラを得た。体積基準平均粒径は0.05mmであった。この粉砕稲ワラ(α−セルロース含有量32質量%)10gと水90gを混合し、その後実施例2と同様にして加熱処理と酵素糖化処理を行い、水溶性糖を得た。
各実施例及び比較例の条件と結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
表1から明らかなように、セルロースを振動ロッドミルで粉砕後、185〜230℃で加熱処理した実施例1〜3では、いずれも糖化率が高く、全工程を通した分解糖の収率は高かった。これに対し、180℃未満で加熱処理した比較例1、及び振動ロッドミルの代わりにグラインダーを用いて粉砕した比較例3及び4では、加熱処理後のα−セルロース収率が高いものの、糖化反応後の糖化率が低く、全工程を通した分解糖の収率は低いという結果であった。また、加熱処理をしなかった比較例2は糖化率が低く、分解糖の収率も低いという結果であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程(1)〜(3):
(1)多糖類に圧縮せん断応力を加えて粉砕し、多糖類の粉砕物を得る工程、
(2)多糖類の粉砕物を水の存在下、185〜230℃で加熱処理する工程、
(3)加熱処理後の反応物から固液分離により固体部を得、これに加水分解酵素を作用させる工程、
を包含する、単糖類、二糖類、及び/又はオリゴ糖の製造方法。
【請求項2】
185〜230℃で加熱処理する時間が10分〜90分である、請求項1記載の単糖類、二糖類、及び/又はオリゴ糖の製造方法。
【請求項3】
振動ロッドミルを用いて多糖類に圧縮せん断応力を加えるものである、請求項1又は2記載の単糖類、二糖類、及び/又はオリゴ糖の製造方法。
【請求項4】
加熱処理を水の飽和蒸気圧以上の圧力で行う、請求項1〜3のいずれか1記載の単糖類、二糖類、及び/又はオリゴ糖の製造方法。
【請求項5】
多糖類としてセルロース含有バイオマスを用いる、請求項1〜4のいずれか1項記載の単糖類、二糖類、及び/又はオリゴ糖の製造方法。