説明

印刷インキ用ワニス及び印刷インキ組成物

【課題】大豆油インキなどの植物油インキにおいて、植物油を非食用かつ再生可能な植物資源で代替して、植物油インキと遜色のない印刷インキ組成物を提供する。
【解決手段】印刷インキ用樹脂と植物油と溶剤とを含有する印刷インキ用ワニスにおいて、トール油脂肪酸の3価アルコールエステルを含有するとともに、トール油脂肪酸のロジン含有率が15重量%以下であることを特徴とする印刷インキ用ワニス。さらに、トール油脂肪酸の3価アルコールエステルを含有し、植物油を含有しないとともに、トール油脂肪酸のロジン含有率が15重量%以下であることを特徴とする印刷インキ用ワニス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は印刷インキ用ワニス並びに印刷インキ組成物に関して、いわば従来から使用されて来た大豆油インキで代表される植物油インキの植物油を、非食用かつ再生可能な植物資源で代替して、環境保全や食糧問題の克服に資するとともに、植物油インキとほぼ同等のインキ特性を具備できるものを提供する。
【背景技術】
【0002】
環境対応型の平版インキとして、本邦においては1990年代半ば頃、植物油インキの代表例として大豆油インキが普及し始め、現在では平版インキの70%以上を占めている。
しかしながら、気象等により大豆の生育は影響を受け易く、昨今の化石燃料代替としてのバイオ燃料の需要が拡大し、価格の変動も大きい。そもそも大豆は食用であるため、世界的な食糧事情から、工業用としての利用は問題視されているのが現状である。
【0003】
このような状況の中で、非食用油や廃食用油をリサイクルした再生油を使用した印刷インキが開発されている。
例えば、特許文献1には、植物油を用いたインキのコスト低減と、飲食物の製造などに使用された油を再生植物油として再利用する観点から、使用済み植物油を、含水率0.3重量%以下、よう素価100以上、酸価3以下に再生処理し、これとアロマフリー溶剤とを用いてインキ化したアロマフリー型再生植物油インキが開示されている。
【特許文献1】特開2001−311029号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、使用済み植物油からバイオ燃料への利用が普及してきている現状では、使用済み植物油の回収が困難となっていることや、上記特許文献1のように、よう素価や酸価の規定を設けて再生するためには、煩雑な工程が必要であり、かえってコスト高となる可能性が大きい。
本発明は、従来の大豆油インキで代表される植物油インキにおいて、食糧としての植物油を使用することなく、この植物油を非食用かつ再生可能な植物資源で代替して、植物油インキと遜色のないインキ特性を具備した印刷インキ組成物を開発することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題に鑑みて、非食用かつ再生可能な植物資源であるトール油脂肪酸に着目して鋭意研究を重ねた結果、所定のトール油脂肪酸エステルによって植物油の一部(又は多く)を置き換えても、或はその全部を置き換えても、従来の植物油インキ(具体的には大豆油インキ)とほぼ同等のインキ特性が得られること、このトール油脂肪酸エステルはトール油脂肪酸の3価アルコールエステルであることが必要で、2価アルコールや4価アルコールなどのエステルでは満足すべきインキ特性が得られないことを突き止め、本発明を完成した。
【0006】
即ち、本発明1は、印刷インキ用樹脂と植物油と溶剤とを含有する印刷インキ用ワニスにおいて、
トール油脂肪酸の3価アルコールエステルを含有するとともに、
上記トール油脂肪酸のロジン含有率が15重量%以下であることを特徴とする印刷インキ用ワニスである。
【0007】
本発明2は、印刷インキ用樹脂と溶剤とを含有する印刷インキ用ワニスにおいて、
トール油脂肪酸の3価アルコールエステルを含有し、且つ、植物油を含有しないとともに、
上記トール油脂肪酸のロジン含有率が15重量%以下であることを特徴とする印刷インキ用ワニスである。
【0008】
本発明3は、上記本発明1において、植物油が大豆油であることを特徴とする印刷インキ用ワニスである。
【0009】
本発明4は、上記本発明1〜3のいずれかにおいて、3価アルコールが、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンよりなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする印刷インキ用ワニスである。
【0010】
本発明5は、上記本発明1〜4のいずれかにおいて、印刷インキ用樹脂が、ロジン変性フェノール樹脂、ロジンエステル樹脂、石油樹脂よりなる群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする印刷インキ用ワニスである。
【0011】
本発明6は、上記本発明1〜5のいずれかにおいて、溶剤が、石油系溶剤及び脂肪酸エステル系溶剤の少なくとも一種であることを特徴とする印刷インキ用ワニスである。
【0012】
本発明7は、上記本発明1〜6のいずれかの印刷インキ用ワニスに顔料を含有した印刷インキ組成物である。
【発明の効果】
【0013】
トール油脂肪酸と3価アルコールとのエステル、特にトール油脂肪酸グリセリドは大豆油と化学構造、脂肪酸組成、性状のいずれもが類似している。
このため、現在使用されている植物油インキの植物油(具体的には、大豆油インキの大豆油)をトール油脂肪酸の3価アルコールエステルで一部(又は多く)を代替し、或は全部を代替することにより、大豆油インキとほぼ同等のインキ性能が得られる。
特に、トール油脂肪酸は非食用かつ再生可能な植物資源であり、食用として貴重な大豆油で代表される植物油(つまり大豆などの植物)を使用する必要がないことから、本発明のインキ用ワニス、或は印刷インキ組成物は環境保全や食糧問題の克服に資することができ、時代に即応したものといえる。
【0014】
一方、特開2009−73953号公報(以下、先行文献1という)には、インキ系内からの溶剤の素早い浸透乾燥を促進して塗膜硬化速度を増す見地から、ワニス用樹脂としてのロジン変性フェノール樹脂やロジンエステル樹脂の曇点及び重量平均分子量を所定範囲に特定化し、乾燥助剤として植物油以外の多価アルコール脂肪酸エステルを含有することで、印刷直後のインキ塗膜中の低粘度成分、特に、石油系溶剤がインキから印刷用紙内に浸透離脱し易くなり、塗膜内部に溶解されている上記ワニス樹脂の固化が促進されるオフセットインキ組成物が開示されている。
上記先行文献1では多価アルコール脂肪酸エステルが使用されている点で本発明と共通するが、先行文献1の多価アルコールエステルは用紙内部への浸透離脱性を増すための乾燥助剤の役目であり、好ましい具体例はトリカプロン酸グリセリドやトリ(カプリル・カプリン)酸グリセリドであって(請求項7、段落36)、本発明のトール油脂肪酸のエステルとは成分が異なるうえ、先行文献1のインキ組成物では、ワニスに更に植物油(好適には大豆油やアマニ油;段落39)を配合することが好ましい点が記載されていること(段落38)に照らして、食用としての植物油の全部或は多くの代替を前提とした多価アルコールエステルの使用ではない点で、同先行文献1は本発明の技術的思想とは異なる。
【0015】
また、特開平5−112745号公報(以下、先行文献2という)には、動植物油脂由来の脂肪酸のモノエステルを主成分とするインキ溶剤が開示されているが(請求項1〜2)、同先行文献2の実施例1〜3では、大豆油脂肪酸などの一価アルコールエステルが記載されているだけである(段落11〜13)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、第一に、印刷インキ用樹脂と植物油と溶剤とを含有する印刷インキ用ワニスにおいて、上記植物油の一部をトール油脂肪酸の3価アルコールエステルで代替し、このトール油脂肪酸のロジン含有率を所定量以下に限定した印刷インキ用ワニスであり、第二に、植物油の全部をトール油脂肪酸の3価アルコールエステルで代替し、トール油脂肪酸のロジン含有率を第一の発明と同様に限定した印刷インキ用ワニスであり、第三に、これらのワニスに顔料を添加した印刷インキ組成物である。
即ち、第一の発明は、上記所定のトール油脂肪酸エステルと植物油を併用した印刷インキ用ワニスであり、第二の発明は、植物油を使用せず、上記所定のトール油脂肪酸エステルのみを単用した印刷インキ用ワニスである。
【0017】
本発明のトール油脂肪酸と3価アルコールとのエステルは、トール油脂肪酸並びに3価アルコールを、必要に応じてエステル化触媒の存在下で脱水反応させることにより得られる。
【0018】
上記トール油脂肪酸は、クラフトパルプ工程での副産物である粗トール油の精留によって得られるものであり、含有するロジンの割合によってグレード分けされる。
例えば、ロジン含有率2%以下(ハリマ化成(株)製:ハートールFA−1)、6%以下(ハリマ化成(株)製:ハートールFA−1P)、12%以下(ハリマ化成(株)製:ハートールFA−3S)等が市販されている。
本発明では、トール油脂肪酸のロジン含有率は15重量%以下であることが必要であり、好ましくは0〜10重量%であり、より好ましくは0〜6重量%である。
ロジン含有率が適正量を越えると、エステルの粘性が増して、インキの光沢性や濃度が低下し、或は乳化性が悪化する恐れがある(後述の比較例1参照)。
従って、コスト面を除けば、本発明では、吸着処理等によりロジン分が完全に除去されたトール油脂肪酸を使用できることは当然である。
ちなみに、トール油脂肪酸の主要脂肪酸はオレイン酸とリノール酸であり、共役リノール酸も若干量含有される。
【0019】
上記3価アルコールとしては、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、トリエチロールエタン、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、1,2,4−ブタントリオールなどが挙げられるが、本発明2に示すように、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンが好適である。
3価アルコールに対するトール油脂肪酸の使用量は特に限定されないが、通常、アルコールの水酸基1当量に対して、カルボン酸のカルボキシル基は0.7〜1.5当量となるように調整される。
本発明のトール油脂肪酸エステルにおいては、アルコール過剰で反応させることもできるが、カルボン酸過剰にてエステル化を行い、水酸基価の低いエステルとすることが好ましい。この場合、水酸基に対するカルボキシル基の当量比は1.0当量以上となるが、1.5当量を超えると、反応終了後に過剰のカルボン酸を除去しなければならず、生産性が悪化する。
即ち、本発明で得られるトール油脂肪酸の3価アルコールエステルについては、3価アルコールの3個の水酸基のすべてがエステル化されたフルエステルが好ましいが、実際の工程ではアルコール過剰で反応させる場合もあるため、一部が水酸基のまま残存した部分エステルが含まれても差し支えない。
【0020】
トール油脂肪酸と3価アルコールとの反応条件は、従来公知の方法を採用することができる。また、必要に応じて公知公用のエステル化触媒を使用しても差し支えない。エステル化触媒としては、テトライソプロポキシチタンなどの公知のLewis酸、或はLewis塩基などが挙げられる。
反応後は減圧蒸留等で精製したり、分子蒸留、吸着等の処理を行ってトリエステルのみを単離しても差し支えない。
【0021】
本発明の印刷インキ用ワニスにおいて、印刷インキ用樹脂はロジン変性フェノール樹脂、ロジンエステル樹脂、マレイン酸変性ロジンエステル樹脂、石油樹脂、ギルソナイト樹脂、アルキド樹脂、ロジン変性アルキド樹脂などの公知の樹脂を単用又は併用できる。
印刷インキ用樹脂としては、本発明3に示すように、ロジン変性フェノール樹脂、ロジンエステル樹脂、石油樹脂より選ばれた少なくとも一種が適しており、ロジン変性フェノール樹脂、ロジンエステル樹脂、石油樹脂のいずれかを単用し、或は、ロジン変性フェノール樹脂と石油樹脂、ロジンエステル樹脂と石油樹脂を併用することが好ましい。
ロジン変性フェノール樹脂は、レゾール樹脂とロジンおよび/またはロジンと不飽和カルボン酸との反応物と多価アルコールとの反応物であり、ロジンエステル樹脂、石油樹脂は、従来から使用されてきた公知のものが使用できる。
【0022】
本発明1(第一の発明)の印刷インキ用ワニスは、前述の通り、上記トール油脂肪酸の3価アルコールエステルと植物油を併用したものであり、いわば、植物油の一部(又は多く)を上記トール油脂肪酸エステルで代替したものである。
従って、この印刷インキ用ワニスは、印刷インキ用樹脂と、上記トール油脂肪酸の3価アルコールエステルと、植物油と、溶剤と、必要に応じてゲル化剤、その他助剤とを加えて加熱溶解させて製造される。
この場合、上記植物油としては、亜麻仁油、大豆油、桐油、綿実油、コメ油、菜種油、サフラワー油、ゴマ油、ヒマワリ油、オリーブ油、コーン油、パーム油、ヤシ油、パーム核油等のバージン油、さらに大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、コメ油、ゴマ油、サフラワー油、ヒマワリ油、オリーブ油等の食用廃油から回収・精製して得られる回収再生植物油を挙げることができる。
本発明3に示すように、植物油としては大豆油が好ましい。
所定のトール油脂肪酸エステルと植物油を併用する場合、トール油脂肪酸エステルの割合は、概ね両者の合計量に対して15重量%以上が好ましい。
【0023】
一方、本発明2(第二の発明)の印刷インキ用ワニスは、前述したように、植物油を使用せず、上記トール油脂肪酸の3価アルコールエステルのみを単用したものであり、いわば、植物油の全部を上記トール油脂肪酸エステルで代替したものである。
従って、この印刷インキ用ワニスは、印刷インキ用樹脂と、上記トール油脂肪酸の3価アルコールエステルと、溶剤と、必要に応じてゲル化剤、その他助剤とを加えて加熱溶解させて製造される。
【0024】
上記溶剤としては公知公用のインキ溶剤を使用することができ、石油系非芳香族のナフテン系溶剤を使用することが好ましく、特に、ナフテン系炭化水素を60%以上、好ましくは70%以上含有し、沸点が200℃以上である溶剤がより好ましい。
上記非芳香族系溶剤の一例としては、AFソルベント(商品名、新日本石油(株)製)が挙げられる。
また、本発明6に示すように、インキ溶剤に代え、又は併用により植物油のエステル交換あるいは植物脂肪酸と1価アルコールとの直接エステル化により得られる脂肪酸エステル類を使用しても良い。
【0025】
本発明の印刷インキ用ワニスには、必要に応じて、ゲル化剤を添加できる。ゲル化剤の含有量はワニス100重量部に対して0.01〜3.0重量部が適している。ゲル化剤としては、アルミニウムアルコラ−トやアルミニウム石鹸等のアルミニウム化合物、マンガン、コバルト、ジルコニウム等の金属石鹸、アルカノ−ルアミン系等が適当である。
【0026】
本発明7は、調製された印刷インキ用ワニスに顔料を添加した印刷インキ組成物である。
より詳細には、上記インキワニスに黄、紅、藍または墨などの顔料を分散し、必要に応じて耐摩擦性向上剤、金属ドライヤ−、乾燥抑制剤などのコンパウンドを添加し、適切な粘度に調節することにより、枚葉インキ、オフ輪インキ等のオフセットインキを製造する。また、新聞インキや凸版インキとしても使用することができる。
【実施例】
【0027】
以下、トール油脂肪酸の3価アルコールエステルの合成例、合成例で得られた当該エステルを含有したインキワニスの調製例、このインキワニスを使用した印刷インキ組成物の実施例、実施例で得られた印刷インキ組成物の光沢値濃度、乾燥性、最大乳化量などのインキ特性の評価試験例を順次述べる。
尚、本発明は下記の合成例、調製例、実施例、試験例に拘束されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意の変形をなし得ることは勿論である。
【0028】
《トール油脂肪酸の3価アルコールエステルの合成例》
合成例1はトール油脂肪酸のグリセリンエステルの例、合成例2はトール油脂肪酸のトリメチロールプロパンエステルの例、合成例3はトール油脂肪酸のトリメチロールエタンエステルの例、合成例4はトール油脂肪酸グリセリンエステルを使用して、トール油脂肪酸のロジン含有率が合成例1〜3より多い例である。
一方、比較合成例1はトール油脂肪酸グリセリンエステルを使用し、且つ、トール油脂肪酸のロジン含有率が本発明の適正範囲を越える例、比較合成例2はトール油脂肪酸の4価アルコールエステルを使用した例、比較合成例3はトール油脂肪酸の2価アルコールエステルを使用した例である。
【0029】
(1)合成例1
温度計、窒素導入管、撹拌機および冷却管を取り付けた3リットル4つ口フラスコに、グリセリン201.7g(2.19モル)、トール油脂肪酸2023.6g(6.96モル;ハリマ化成(株)製、ハートールFA−1、ロジン含有率1.0%)、テトライソプロポキシチタン2.0g(0.007モル;カルボキシル基1モルに対し0.001モル)を加え、窒素気流下、240℃で生成した水を留去しつつ、反応物の水酸基価が3mgKOH/g以下となった時点で反応を終了した。
次いで、0.1kPaの減圧下で未反応の脂肪酸を蒸留除去した。この時点での粗反応物の酸価は3.2mgKOH/gであった。これに酸価の1.5倍当量に相当する10%水酸化カリウム水溶液を加えて脱酸し、次いで中性になるまで水洗し、100℃、1kPaの減圧下で脱水した。
これに吸着剤(協和化学工業(株)製、キョーワード500)22.3gを加え、100℃、1kPaで吸着処理を行ったのち、ろ過を行って、酸価0.02mgKOH/g、水酸基価1.7mgKOH/g、色数(ガードナー)6のトール油脂肪酸グリセリンエステル1712gを得た。
【0030】
(2)合成例2
温度計、窒素導入管、撹拌機および冷却管を取り付けた3リットル4つ口フラスコに、トリメチロールプロパン281.8g(2.10モル)、トール油脂肪酸1938.2g(6.67モル;ハリマ化成(株)製、ハートールFA−1、ロジン含有率1.0%)、テトライソプロポキシチタン3.8g(0.013モル;カルボキシル基1モルに対し0.002モル)を加え、窒素気流下、240℃で生成した水を留去しつつ、反応物の水酸基価が3mgKOH/g以下となった時点で反応を終了した。
次いで、0.1kPaの減圧下で未反応の脂肪酸を蒸留除去した。この時点での粗反応物の酸価は4.0mgKOH/gであった。これに酸価の1.5倍当量に相当する10%水酸化カリウム水溶液を加えて脱酸し、次いで中性になるまで水洗し、100℃、1kPaの減圧下で脱水した。
これに吸着剤(協和化学工業(株)製、キョーワード500)22.2gを加え、100℃、1kPaで吸着処理を行ったのち、ろ過を行って、酸価0.05mgKOH/g、水酸基価1.2mgKOH/g、色数(ガードナー)6のトール油脂肪酸トリメチロールプロパンエステル1711gを得た。
【0031】
(3)合成例3
温度計、窒素導入管、撹拌機および冷却管を取り付けた3リットル4つ口フラスコに、トリメチロールエタン255.9g(2.13モル)、トール油脂肪酸1965.8g(6.76モル;ハリマ化成(株)製、ハートールFA−1、ロジン含有率1.0%)、テトライソプロポキシチタン3.8g(0.014モル;カルボキシル基1モルに対し0.002モル)を加え、窒素気流下、240℃で生成した水を留去しつつ、反応物の水酸基価が3mgKOH/g以下となった時点で反応を終了した。
次いで、0.1kPaの減圧下で未反応の脂肪酸を蒸留除去した。この時点での粗反応物の酸価は3.7mgKOH/gであった。これに酸価の1.5倍当量に相当する10%水酸化カリウム水溶液を加えて脱酸し、次いで中性になるまで水洗し、100℃、1kPaの減圧下で脱水した。
これに吸着剤(協和化学工業(株)製、キョーワード500)22.2gを加え、100℃、1kPaで吸着処理を行ったのち、ろ過を行って、酸価0.09mgKOH/g、水酸基価1.5mgKOH/g、色数(ガードナー)6のトール油脂肪酸トリメチロールエタンエステル1709gを得た。
【0032】
(4)合成例4
温度計、窒素導入管、撹拌機および冷却管を取り付けた3リットル4つ口フラスコに、グリセリン200.2g(2.18モル)、トール油脂肪酸2024.1g(6.91モル;ハリマ化成(株)製、ハートールFA−3S、ロジン含有率7.8%)、テトライソプロポキシチタン2.0g(0.007モル;カルボキシル基1モルに対し0.001モル)を加え、窒素気流下、240℃で生成した水を留去しつつ、反応物の水酸基価が3mgKOH/g以下となった時点で反応を終了した。
次いで、0.1kPaの減圧下で未反応の脂肪酸を蒸留除去した。この時点での粗反応物の酸価は4.7mgKOH/gであった。これに酸価の1.5倍当量に相当する10%水酸化カリウム水溶液を加えて脱酸し、次いで中性になるまで水洗し、100℃、1kPaの減圧下で脱水した。
これに吸着剤(協和化学工業(株)製、キョーワード500)22.3gを加え、100℃、1kPaで吸着処理を行ったのち、ろ過を行って、酸価0.15mgKOH/g、水酸基価1.9mgKOH/g、色数(ガードナー)7のトール油脂肪酸グリセリンエステル1713gを得た。
【0033】
(5)比較合成例1
温度計、窒素導入管、撹拌機および冷却管を取り付けた3リットル4つ口フラスコに、グリセリン190.6g(2.07モル)、トール油脂肪酸2027.8g(6.58モル;ハリマ化成(株)製、ハートールR−20、ロジン含有率20.0%)、テトライソプロポキシチタン1.8g(0.0065モル;カルボキシル基1molに対し0.001モル)を加え、窒素気流下、240℃で生成した水を留去しつつ、反応物の水酸基価が3mgKOH/g以下となった時点で反応を終了した。
次いで、0.1kPaの減圧下で未反応の脂肪酸を蒸留除去した。この時点での粗反応物の酸価は6.7mgKOH/gであった。これに酸価の1.5倍当量に相当する10%水酸化カリウム水溶液を加えて脱酸し、次いで中性になるまで水洗し、100℃、1kPaの減圧下で脱水した。
これに吸着剤(協和化学工業(株)製、キョーワード500)22.3gを加え、100℃、1kPaで吸着処理を行ったのち、ろ過を行って、酸価1.34mgKOH/g、水酸基価1.2mgKOH/g、色数(ガードナー)9のトール油脂肪酸グリセリンエステル1720gを得た。
【0034】
(6)比較合成例2
温度計、窒素導入管、撹拌機および冷却管を取り付けた3リットル4つ口フラスコに、ペンタエリスリトール220.5g(1.62モル)、トール油脂肪酸2003.5g(6.89モル;ハリマ化成(株)製、ハートールFA−1、ロジン含有率1.0%)、テトライソプロポキシチタン2.0g(0.007モル;カルボキシル基1モルに対し0.001モル)を加え、窒素気流下、250℃で生成した水を留去しつつ、反応物の水酸基価が3mgKOH/g以下となった時点で反応を終了した。
次いで、0.1kPaの減圧下で未反応の脂肪酸を蒸留除去した。この時点での粗反応物の酸価は3.5mgKOH/gであった。これに酸価の1.5倍当量に相当する10%水酸化カリウム水溶液を加えて脱酸し、次いで中性になるまで水洗し、100℃、1kPaの減圧下で脱水した。
これに吸着剤(協和化学工業(株)製、キョーワード500)22.3gを加え、100℃、1kPaで吸着処理を行ったのち、ろ過を行って、酸価0.65mgKOH/g、水酸基価2.02mgKOH/g、色数(ガードナー)7のトール油脂肪酸ペンタエリスリトールエステル1706gを得た。
【0035】
(7)比較合成例3
温度計、窒素導入管、撹拌機および冷却管を取り付けた3リットル4つ口フラスコに、ネオペンチルグリコール319.7g(3.07モル)、トール油脂肪酸1897.8g(6モル;ハリマ化成(株)製、ハートールFA−1、ロジン含有率1.0%)、テトライソプロポキシチタン1.7g(0.007モル;カルボキシル基1モルに対し0.001モル)を加え、窒素気流下、200℃で生成した水を留去しつつ、反応物の水酸基価が3mgKOH/g以下となった時点で反応を終了した。
次いで、0.1kPaの減圧下で未反応の脂肪酸を蒸留除去した。この時点での粗反応物の酸価は3.7mgKOH/gであった。これに酸価の1.5倍当量に相当する10%水酸化カリウム水溶液を加えて脱酸し、次いで中性になるまで水洗し、100℃、1kPaの減圧下で脱水した。
これに吸着剤(協和化学工業(株)製、キョーワード500)22.2gを加え、100℃、1kPaで吸着処理を行ったのち、ろ過を行って、酸価0.56mgKOH/g、水酸基価1.43mgKOH/g、色数(ガードナー)6.5のトール油脂肪酸ネオペンチルグリコールエステル1715gを得た。
【0036】
そこで、下記の通り、印刷インキ用樹脂に上記合成例1〜4及び比較合成例1〜3で得られた各トール油脂肪酸エステル、溶剤、或はさらに大豆油などを配合してインキワニスを調製した後、顔料及び各種添加剤を配合して、印刷インキ組成物を製造した。
【0037】
《インキワニスの調製例》
図1に示すように、下記の調製例1は上記合成例1のみを単用して大豆油を使用しない例、調製例2は上記合成例2のみを単用して大豆油を使用しない例、調製例3は上記合成例3のみを単用して大豆油を使用しない例、調製例4は上記合成例4のみを単用して大豆油を使用しない例である。
また、下記の比較調製例4は、トール油脂肪酸エステルを使用せず、これに替えて大豆油を配合した、いわば従来の大豆油インキ用の樹脂ワニスに相当する標準例である。
調製例5〜9はトール油脂肪酸エステルのみを使用した調製例1と、大豆油のみを使用した比較調製例4の中間例として位置付けられ、調製例1の配合組成を基本として、上記エステルの一部を大豆油で代替したもので、調製例5から調製例9に近付くほど大豆油の代替率が増すように調製した(5→25重量%)。
一方、比較調製例1は上記比較合成例1を使用して大豆油を使用しない例、比較調製例2は上記比較合成例2を使用して大豆油を使用しない例、比較調製例3は上記比較合成例3を使用して大豆油を使用しない例である。また、比較調製例4はトール油脂肪酸を使用せず、これに替えて大豆白絞油を配合した、いわば従来の大豆油インキ用ワニスに相当する例である。
【0038】
(1)調製例1
図1に示す通り、所定量のロジン変性フェノール樹脂(ハリフェノールP−600、ハリマ化成(株)製)、上記合成例1のトール油脂肪酸エステル、AF6号ソルベント、アルミキレート(ALCH、川研ファインケミカル(株)製)を配合し、200℃で1時間撹拌することにより、インキワニス(樹脂ワニス)を得た。
【0039】
(2)調製例2〜9、比較調製例1〜4
上記調製例1を基本として、インキワニスを構成する成分の配合組成を図1の通りに変更し、それ以外は調製例1と同様の条件で処理して、インキワニス(樹脂ワニス)を得た。
【0040】
《インキ組成物の製造実施例》
下記の実施例n(nは1〜9の整数)については、前記調製例k(kは1〜9の整数)に顔料や各種添加剤などを配合した例であり、同じ数値の番号の実施例と調製例が対応する。例えば、実施例1は前記調製例1に、実施例2は調製例2に夫々対応する。
また、下記の比較例n(nは1〜4の整数)については、前記比較調製例k(kは1〜4の整数)に顔料や各種添加剤などを配合した例であり、同じ数値の番号の比較例と比較調製例が対応する。例えば、比較例1は前記比較調製例1に、比較例2は比較調製例2に夫々対応する。
従って、実施例1〜4は前記合成例1〜4のトール油脂肪酸エステルを使用し、大豆油を使用しない例、実施例5〜9は合成例1のトール油脂肪酸エステルと大豆油を併用した例である。また、比較例1〜3は前記比較合成例1〜3のトール油脂肪酸エステルを使用し、大豆油を使用しない例である。比較例4はトール油脂肪酸エステルを使用せず、その替わりに大豆油を使用した、いわば従来の大豆油インキに対応した例である。
【0041】
(1)実施例1
図2に示すように、前記調製例1で得られた樹脂ワニスとカ−ミン6B(東洋インキ製造(株)製、紅顔料)とを、3本ロ−ルミルを用いて分散した後、AF6号ソルベント、樹脂ワニスおよびドライヤー(6%ナフテン酸マンガン溶液)を添加して均一化し、印刷インキ組成物を製造した。
但し、当該インキ組成物では、25℃でのインキのタックが5〜5.5、フローが16.0〜17.0mmになるように調整した。
【0042】
(2)実施例2〜9及び比較例1〜4
上記実施例1を基本として、印刷インキを構成する成分の配合組成を図2の通りに変更し、それ以外は実施例1と同様の条件で処理して、印刷インキ組成物を製造した。また、インキのタック及びフローも実施例1と同様の条件で調整した。
尚、比較例1〜2については、配合した比較合成例1〜2の各トール油脂肪酸エステルの粘度が高いため、溶剤を多めに配合した。
【0043】
《印刷インキ組成物の評価試験例》
次いで、上記実施例1〜9及び比較例1〜4で得られた各印刷インキ組成物について、下記の通り、各種インキ特性の評価試験を行った。
(a)光沢値
インキ0.15ccをRIテスタ−((株)明製作所製)2分割ロ−ルでア−ト紙に展色した後、24時間経過した時点で、光沢値を60°−60°光沢計で測定した。
(b)濃度
上記光沢測定と同一の展色紙を反射濃度計を用いて濃度を測定した。
(c)乾燥性
インキ0.3ccをRIテスター((株)明製作所製)2分割ロ−ルでア−ト紙に展色した後、60℃の環境下に置いたときに、指触で乾燥状態を比較した。
(d)耐ミスチング性
インキ2カップをインコメ−タ−(東洋精機(株)製)に載せて、2000rpmで2分間回転させたときの、ロ−ル前面と下面に置いた白色紙上へのインキの飛散状態を観察した。
(e)最大乳化量
リソトロニック乳化試験器(Novocontrol社製)を用いて、40℃において、25gのインキに2ml/分の速度で水を添加し、インキが飽和した時点の水分量を測定した。また、乳化試験器の回転数は1200rpmとした。
尚、この最大乳化量については、乳化量が大きいほど評価は低くなる。
【0044】
図3はその試験結果である。
インキ特性の評価については、大豆白絞油を用いた比較例4が従来の大豆油インキに対応した標準例となるため、実施例1〜9及び比較例1〜3の印刷インキ組成物は、この比較例4との対比によってインキの優劣を概ね評価した。
先ず、比較例1〜3はいずれもトール油脂肪酸エステルを用いた例であるが、4価アルコールのエステルを用いた比較例2では、インキの調子を合わせるために多量のインキ溶剤が必要であり、そのため、光沢、濃度が著しく劣る結果となった。また、2価アルコールのエステルを用いた比較例3では、インキの粘弾性が得られず、光沢や濃度は良好であったが、乾燥性、ミスチング性が著しく劣った。さらに、トール油脂肪酸の3価アルコールエステルを用いる点では実施例1〜9と共通するが、トール油脂肪酸のロジン含有率が20重量%に達する比較例1についても、上記比較例2に準じて、インキ溶剤を多く必要としたので、比較例4に比べて光沢、濃度が劣り、最大乳化量も大きかった。
【0045】
これに対して、トール油脂肪酸の3価アルコールエステルを用いた実施例1〜9では、比較例4とほぼ同等、もしくはそれ以上のインキ性能が得られ、特に、光沢値、濃度は比較例4を概ね上回る評価であり、実施例2〜3、5〜7の乳化性(最大乳化量)は比較例4に比べてかなり向上した。
実施例1〜9のうち、大豆油に対するトール油脂肪酸エステルの代替量を漸次増した実施例9〜5を見ると、インキ性能は比較例4のレベルを少し上回って推移し、トール油脂肪酸エステルで100%代替した実施例1もこの良好な水準を保持した。
また、実施例1〜9のうち、実施例1〜4について詳述すると、トール油脂肪酸と反応させる3価アルコールの種類を変化させた実施例1〜3では、インキ性能はいずれも良好な水準を保持した。さらに、トール油脂肪酸のロジン含有率が7.8重量%である実施例4を実施例1(ロジン含有率は1.0重量%)と比べても、インキ性能に特段の後退はなく、また、比較例4に対しても遜色はなく、むしろ光沢性や濃度は若干上回った。
【0046】
以上のことから、大豆油で代表される植物油の一部又は全部をトール油脂肪酸エステルで代替しても、大豆油インキと同等又はそれ以上のインキ性能を具備できること、そのためには、トール油脂肪酸エステルはトール油脂肪酸の3価アルコールのエステルであることが必要であり、これ以外の2価や4価アルコールのエステルではインキ性能を良好に保持できないこと、同3価アルコールのエステルであっても、トール油脂肪酸のロジン含有率が15重量%を越える場合には、やはりインキ性能は劣ることが確認できた。
しかも、大豆油を代表例とする植物油のほとんどが食用であるのに対して、このトール油脂肪酸は非食用かつ再生可能な植物資源であるため、これを原材料とすることで環境保全や食糧問題の克服に役立てることができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】調製例1〜9及び比較調製例1〜4の印刷インキ用ワニスについての組成をまとめた図表である。
【図2】実施例1〜9及び比較例1〜4の印刷インキ組成物についての組成をまとめた図表である。
【図3】実施例1〜9及び比較例1〜4の印刷インキ組成物について、光沢、濃度、乾燥性、ミスチング、乳化性のインキ評価試験の結果をまとめた図表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷インキ用樹脂と植物油と溶剤とを含有する印刷インキ用ワニス組成物において、
トール油脂肪酸の3価アルコールエステルを含有するとともに、
上記トール油脂肪酸のロジン含有率が15重量%以下であることを特徴とする印刷インキ用ワニス。
【請求項2】
印刷インキ用樹脂と溶剤とを含有する印刷インキ用ワニスにおいて、
トール油脂肪酸の3価アルコールエステルを含有し、且つ、植物油を含有しないとともに、
上記トール油脂肪酸のロジン含有率が15重量%以下であることを特徴とする印刷インキ用ワニス。
【請求項3】
植物油が大豆油であることを特徴とする請求項1に記載の印刷インキ用ワニス。
【請求項4】
3価アルコールが、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンよりなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の印刷インキ用ワニス。
【請求項5】
印刷インキ用樹脂が、ロジン変性フェノール樹脂、ロジンエステル樹脂、石油樹脂よりなる群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の印刷インキ用ワニス。
【請求項6】
溶剤が、石油系溶剤及び脂肪酸エステル系溶剤の少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の印刷インキ用ワニス。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の印刷インキ用ワニスに顔料を含有した印刷インキ組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−285520(P2010−285520A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139633(P2009−139633)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(000233860)ハリマ化成株式会社 (167)
【Fターム(参考)】