説明

印刷装置および印刷方法

【課題】 インクフィルムのシワの発生を低減することが可能な印刷装置ならびに印刷方法を提供する。
【解決手段】 本印刷方法は、主面52aより窪んでなりかつ矢印方向D3,D4に延びる窪み部52bを有する記録媒体50を用意する媒体準備工程と、記録媒体50を矢印D3方向に搬送するとともに、記録媒体50の主面52a上にインクフィルム60を矢印方向D1,D2に沿って押し当てながらサーマルヘッド10により溶融させて主面52a上にインク成分を印刷する印刷工程と、印刷工程を経た記録媒体50からインクフィルム60を剥離する剥離工程と、を有しており、主面52aと窪み部52bの内周面との交線が、矢印方向D3,D4に対する角度が±45°以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱記録方式を採用する印刷装置および印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱記録方式を採用する印刷装置としては、例えばプラスチックカード用のサーマルプリンタがある。このサーマルプリンタでは、複数の発熱部が配列形成されたサーマルヘッドと、この発熱部に向けて記録媒体となるプラスチックカード、およびインク成分を含有するインクフィルムを発熱部上に押し当てながら搬送する搬送手段を有している。このような構成のサーマルプリンタでは、サーマルヘッドの発熱部上にプラスチックカードおよびインクフィルムを搬送しつつ、発熱部を駆動してインクフィルムのインク成分をプラスチックカードに対して転写することにより、所望の画像を印刷している。
【0003】
しかしながら、上述のサーマルプリンタでは、インクフィルムのインク成分をプラスチックカードに転写する際に、インクシートが発熱部上に押し当てられた際にインクシートの弛み部分が折り込まれてしまうことがあり、これを起点にしてインクシートにシワが発生してしまう場合があった。このようにインクフィルムにシワが発生した場合、印刷した画像の画質が低下したり、搬送詰まりが生じたりする場合があった。そこで、インクシートに均一な張力を加えてシワの発生を防止するインクシート搬送装置が開発され、例えば特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開平5−309899号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されているインクシート搬送装置では、サーマルヘッドの発熱部の熱でインクフィルムに部分的な伸びが生じた際に、伸びた部分と伸びていない部分とで加えられる張力が不均一になり、インクシートに新たな弛み部分が生じてしまい、依然としてインクシートにシワが発生する場合があった。
【0005】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、インクフィルムのシワの発生を低減することが可能な印刷装置ならびに印刷方法を提供すること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の印刷装置は、発熱部を有する熱記録ヘッドと、記録媒体とインクフィルムとを第2方向に搬送する搬送部と、前記記録媒体と前記インクフィルムとを重ねた状態で前記熱記録ヘッドの前記発熱部に押し当てる押圧部と、前記記録媒体から前記インクフィルムを剥離する剥離部と、を備え、前記記録媒体の基準面上に前記インクフィルムを押し当てながら該インクフィルムを前記熱記録ヘッドにより溶融させて前記基準面上にインクを印刷するものであって、前記記録媒体が、前記基準面に前記第1方向に伸びる窪み部を有しており、前記基準面と前記窪み部の内周面との交線が、前記第1方向に対する角度が±45°以下であることを特徴としている。
【0007】
本発明の印刷方法は、第1方向に延びる窪み部を有する記録媒体を用意する媒体準備工程と、前記記録媒体を前記第1方向に搬送するとともに、前記基準面上にインクフィルムを前記第1方向と略直交する第2方向に沿って押し当てながら該インクフィルムを熱記録ヘッドにより溶融させて前記基準面上にインクを印刷する印刷工程と、前記印刷工程を経た前記記録媒体から前記インクフィルムを剥離する剥離工程と、を有しており、前記基準面と前記窪み部の内周面との交線の前記第1方向に対する角度を±45°以下に設定することを特徴としている。
【0008】
本発明の印刷方法は、前記窪み部を複数設けて、印刷された前記インクの前記窪み部中に位置する部位の厚みを前記基準面上に位置する部位の厚みに比べて小さくするのが好ましい。
【0009】
本発明の印刷方法は、前記剥離工程を経た前記記録媒体のインク上に、表面の凹凸を小さくする平坦化層を形成する平坦化工程をさらに有しているのが好ましい。
【0010】
本発明の印刷方法は、前記窪み部の平面視幅を前記記録媒体に印刷される画像の画素線密度の10分の1以下とするのが好ましい。
【0011】
本発明の印刷方法は、前記窪み部を複数設けて、複数の前記窪み部の平面視幅の総和を前記記録媒体の平面視幅の3分の1以下とするのが好ましい。
【0012】
本発明の印刷方法は、前記窪み部を前記第1方向における前記記録媒体の一端から他端に渡って設けるのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の印刷装置は、発熱部を有する熱記録ヘッドと、記録媒体とインクフィルムとを第2方向に搬送する搬送部と、記録媒体と前記インクフィルムとを重ねた状態で熱記録ヘッドの発熱部に押し当てる押圧部と、記録媒体からインクフィルムを剥離する剥離部と、を備え、記録媒体の主面上にインクフィルムを押し当てながら該インクフィルムを熱記録ヘッドにより溶融させて主面上にインクを印刷するものであって、記録媒体が、基準面に第1方向に伸びる窪み部を有しており、基準面と窪み部の内周面との交線が、第1方向に対する角度が±45°以下である。そのため、本発明の印刷装置では、例えばインクフィルムに伸びが生じた場合でも新たな弛み部分を窪み部に収容することができ、インクフィルムが折り込まれるのを低減することができる。したがって、本発明の印刷装置では、インクフィルムにシワが発生するのを低減することができる。
【0014】
本発明の印刷方法では、基準面より窪んでなりかつ第1方向に延びる窪み部を有する記録媒体を用意する媒体準備工程と、記録媒体を第1方向に搬送するとともに、基準面上に第1方向と略直交する第2方向に沿ってインクフィルムを押し当てながら該インクフィルムを熱記録ヘッドにより溶融させて基準面上にインクを印刷する印刷工程と、印刷工程を経た記録媒体からインクフィルムを剥離する剥離工程と、を有しており、基準面と窪み部の内周面との交線の第1方向に対する角度を±45°以下に設定する。そのため、本発明の印刷方法では、例えば印刷工程においてインクフィルムに伸びが生じた場合でも新たな弛み部分を窪み部内に収容することができ、インクフィルムが折り込まれるのを低減することができる。したがって、本発明の印刷方法では、インクフィルムにシワが発生するのを低減することができる。
【0015】
本発明の印刷方法において、窪み部を複数設けて、印刷されたインクの窪み部中に位置する部位の厚みを基準面上に位置する部位の厚みに比べて小さくする場合、印刷工程においてインクフィルムの伸びが大きくなった場合でも窪み部内に良好に収容することができる。そのため、本構成の印刷方法では、インクフィルムにシワが発生するのをより低減することができる。
【0016】
本発明の印刷方法において、剥離工程を経た記録媒体のインク上に、表面の凹凸を小さくする平坦化層を形成する平坦化工程をさらに有している場合、画質を高めることができる。
【0017】
本印刷方法において、窪み部の平面視幅を記録媒体に印刷される画像の画素線密度の10分の1以下とする場合、インクフィルムにシワが発生するのを低減しつつ、画質を高めることができる。
【0018】
本発明の印刷方法において、窪み部を複数設けて、複数の窪み部の平面視幅の総和を記録媒体の平面視幅の3分の1以下とする場合、インクフィルムにシワが発生するのを低減しつつ、画質を高めることができる。
【0019】
本発明の印刷方法において、窪み部を第1方向における前記記録媒体の一端から他端に渡って設ける場合、インクフィルムと記録媒体との押圧状態を安定化させ、記録媒体を良好に搬送することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
<印刷装置>
図1は、本発明の印刷装置の実施形態の一例であるサーマルプリンタXの概略構成を示す図である。
【0021】
サーマルプリンタXは、サーマルヘッド10と、制御手段20と、積層機構30と、搬送機構40と、を有している。このサーマルプリンタXでは、記録媒体50にインクシート60のインク成分で画像を形成するとともに、形成した画像上に積層フィルム70を積層させるよう構成されている。
【0022】
図2は、図1に示したサーマルヘッド10の概略構成を示す平面図である。
【0023】
図3は、(a)が図2に示したサーマルヘッド10の要部を拡大した平面図であり、(b)が(a)に示したIIIb−IIIb線に沿った断面図である。
【0024】
サーマルヘッド10は、記録媒体50にインクシート60のインク成分で画像を形成する機能を有するものである。このサーマルヘッド10は、基板11と、蓄熱層12と、抵抗体層13と、導電層14と、保護層15と、駆動IC16とを含んで構成されている。
【0025】
基板11は、蓄熱層12と、抵抗体層13と、導電層14と、保護層15と、駆動IC16とを支持する機能を有するものである。この基板11は、平面視において矢印方向D1,D2に延びる略矩形状に構成されている。
【0026】
蓄熱層12は、抵抗体層13の後述する発熱部Hにおいて発生する熱の一部を一時的に蓄積する機能を有するものである。すなわち、蓄熱層12は、発熱部Hの温度を上昇させるのに要する時間を短くして、サーマルヘッド10の熱応答特性を高める役割を担うものである。この蓄熱層12は、基板11上に位置しており、矢印方向D1,D2に延びる帯状に構成されている。また、この蓄熱層12は、矢印方向D1,D2に直交する直交方向における断面形状が略半楕円状に構成されている。
【0027】
抵抗体層13は、導電層14に対して接続されている。この抵抗体層13は、一部が蓄熱層12上に位置している。本実施形態では、導電層14から電圧が印加される抵抗体層13のうち導体層40が上に形成されていない部位が発熱部Hとして機能している。
【0028】
発熱部Hは、導電層14からの電圧印加により発熱するものである。この発熱部Hは、導電層14からの電圧印加による発熱温度が例えば200[℃]以上450[℃]以下の範囲となるように構成されている。この発熱部Hは、蓄熱層12の上方に位置しており、矢印方向D1,D2に沿って配列されている。本実施形態の発熱部Hは、300[dot/inch]の線密度で配列されている。本実施形態では、この発熱素子Hの配列方向がサーマルヘッドXの主走査方向となる。この外部接続用部材161としては、フレキシブルケーブル161aおよびコネクタ162bなどの組み合わせが挙げられる。
【0029】
導電層14は、発熱部Hに対して電圧を印加する機能を有するものである。この導電層14は、抵抗体層13上に位置している。また、この導電層14は、第1導電層141と、第2導電層142とを含んで構成されている。
【0030】
第1導電層141は、各々の一端部が複数の発熱部Hのそれぞれの一端に接続されている。第1導電層141は、各々の他端部が駆動IC16に対して接続されている。この第1導電層141は、発熱部Hの矢印D3方向側に位置している。
【0031】
第2導電層142は、その端部が複数の発熱部Hの他端、および図示しない電源に対して電気的に接続されている。この第2導電層142は、発熱部Hの矢印D4方向側に位置している。
【0032】
保護層15は、発熱部Hと、導電層14とを保護する機能を有するものである。この保護層15は、発熱部Hおよび導電層14を覆うように形成されている。
【0033】
駆動IC16は、複数の発熱部Hの電力供給状態を制御する機能を有するものである。この駆動IC16は、第1導電層141の他端部に対して電気的に接続されている。このような構成とすることにより、発熱部Hを選択的に発熱させることができる。また、この駆動IC16には、外部接続用部材が電気的に接続されている。
【0034】
外部接続用部材161は、発熱部Hを駆動するための電気信号を供給する機能を有するものである。
【0035】
制御機構20は、駆動IC16に画像情報を供給する機能を有するものである。つまり、制御機構20は、外部接続用部材161を介して発熱部Hを選択的に駆動する画像情報を駆動IC16に供給する役割を担うものである。
【0036】
積層機構30は、積層フィルム70を記録媒体50上に積層させる機能を有するものである。本実施形態では、積層機構30が定着ヒータ31を含んで構成されている。
【0037】
図4は、定着ヒータ31の概略構成を示す図である。
【0038】
定着ヒータ31は、基板32と、蓄熱層33と、発熱抵抗体34と、電極パターン35と、保護層とを含んで構成されている。
【0039】
基板32は、蓄熱層33と、発熱抵抗体34と、電極パターン35と、保護層とを支持する機能を有するものである。この基板11は、平面視において矢印方向D1,D2に延びる長矩形状に構成されている。
【0040】
蓄熱層33は、発熱抵抗体34において発生する熱の一部を一時的に蓄積する機能を有するものである。この蓄熱層33は、基板32上に位置している。
【0041】
発熱抵抗体34は、電極パターン35からの電圧印加により発熱するものである。この発熱抵抗体34は、電極パターン35からの電圧印加による発熱温度が例えば200℃以上550℃以下の範囲となるように構成されている。この発熱抵抗体34は、蓄熱層33上に位置しており、矢印方向D1,D2に沿って延びている。
【0042】
電極パターン35は、発熱抵抗体34に対して電圧を印加する機能を有するものである。
【0043】
保護層は、発熱抵抗体34と、電極パターン35とを保護する機能を有するものである。この保護層は、発熱抵抗体34および電極パターン35を覆うように形成されている。なお、図4では、見やすさの観点から省略されている。
【0044】
搬送機構40は、第1プラテンローラ41と、第2プラテンローラ42と、第1搬送ローラ43,44と、第2搬送ローラ45,46とを含んで構成されている。
【0045】
第1プラテンローラ41は、記録媒体50とインクシート60とをサーマルヘッド10の発熱部H上に位置する保護層15に対して押し付ける機能を有するものである。この第1プラテンローラ41は、発熱部H上に位置する保護層15に接触した状態で回転可能に支持されている。
【0046】
第2プラテンローラ42は、記録媒体50と積層シート70とを定着ヒータ31の発熱抵抗体34上に位置する保護層36に対して押し付ける機能を有するものである。この第2プラテンローラ42は、発熱抵抗体34上に位置する保護層36に接触した状態で回転可能に支持されている。
【0047】
第1搬送ローラ43,44は、記録媒体50とインクシート60とを搬送する機能を有するものである。すなわち、第1搬送ローラ43,44は、サーマルヘッド10の発熱部Hと第1プラテンローラ41との間に記録媒体50とインクシート60とを供給するとともに、発熱部Hと第1プラテンローラ41との間から記録媒体50とインクシート60とを引き抜く役割を担うものである。また、本実施形態では、記録媒体50と重ねられたインクシート60を引きはがす役割も担っている。
【0048】
第2搬送ローラ45,46は、記録媒体50と積層フィルム70とを搬送する機能を有するものである。すなわち、第2搬送ローラ45,46は、積層機構30の発熱抵抗体34と第2プラテンローラ42との間に記録媒体50と積層フィルム70とを供給するとともに、発熱抵抗体34と第2プラテンローラ42との間から積層フィルム70が被着された記録媒体50を引き抜く役割を担うものである。
【0049】
図5は、記録媒体50の概略構成を示す図であり、(a)は平面図であり、(b)は(a)に示したVb−Vb線に沿った断面図である。
【0050】
記録媒体50は、基材51と、加工層52とを含んで構成される。
【0051】
基材51は、記録媒体50の本体として機能するものである。この基材51の外形状としては、例えばJIS規格X6301:1998に規定されるID−1が挙げられる。基材51を形成する材料としては、例えば基材材料として従来公知の樹脂材料と、薄葉紙とが挙げられる。このような樹脂材料としては、例えばポリエチレンテレフタラートやポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系と、ポリプロピレンと、ポリカーボネートと、セロハンと、酢酸セルロースと、ホリエチレンと、ポリ塩化ビニルと、ポリエーテルエーテルケトンと、ポリサルホンと、ポリエーテルサルホンと、ポリスチレンと、ポリアミド、ポリエーテルイミドと、ポリイミドと、ポリ塩化ビニリデンと、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)と、アイオノマなどのプラスチックフィルムとが挙げられる。また、薄葉紙としては、例えばグラシン紙と、コンデンサ紙と、パライフィン紙とが挙げられる。本実施形態においては、ポリ塩化ビニルにより基材51が形成されている。
【0052】
加工層52は、印字面として機能するものである。加工層52は、基材51の矢印D6方向側の主面51a上に位置している。本実施形態の加工層52は、その矢印D6方向側の基準面としての主面52aから矢印D5方向側に窪んでなり、矢印方向D3,D4に延びる窪み部52bを有している。この窪み部52bは、矢印方向D3,D4に沿って形成されており、互いが略平行に配されている。また、この窪み部52bは、その矢印方向D3,D4における幅Wと、矢印方向D5,D6における深さdと、が略等しい。この窪み部52bの幅Wの範囲としては、例えば1μm以上15μm以下の範囲が挙げられる。また、この窪み部52bの幅Wとしては、画質が低下するのを低減する観点から、画素密度の10分の1以下であるのが好ましい。さらに、この窪み部52bは、画質が低下するのを低減する観点から、各々の幅Wの総和が記録媒体50の平面視幅Wの3分の1以下であるのが好ましい。この加工層52を形成する材料としては、例えばビニル系樹脂と、ポリエステル樹脂と、ポリスチレン樹脂と、アクリル系樹脂と、ウレタン系樹脂と、シリコーン樹脂と、これら樹脂の混合物とが挙げられる。
【0053】
図6は、インクシート60の概略構成を示す断面図であり、(a)は平面図であり、(b)は(a)に示したVIb−VIb線に沿った断面図である。
【0054】
インクシート60は、支持体61と、インク層62と、を含んで構成される。
【0055】
支持体61は、インクフィルム60の本体として機能するものである。この支持体61を形成する材料としては、サーマルヘッド10の熱に耐えるものが挙げられる。このような材料としては、例えばプラスチックフィルムと、薄葉紙とが挙げられる。このようなプラスチックフィルム材料としては、例えばポリエチレン系樹脂と、ポリアミド樹脂と、ポリイミド樹脂と、ポリカーボネート樹脂と、ポリサルホン樹脂と、ポリビニルアルコールセロファン樹脂と、ポリスチレン樹脂とが挙げられる。また、このような薄葉紙としては、例えばグラシン紙と、コンデンサ紙と、パライフィン紙とが挙げられる。
【0056】
インク層62は、インク成分と、バインダ成分とを含んで構成されている。また、このインク層62は、支持体61上に積層されている。このインク層62は、サーマルヘッド10の熱によりバインダ成分が溶融し、インク成分が昇華し、記録媒体に被着するように構成されている。このインク成分としては、例えばシアン色素と、マゼンダ色素と、イエロー色素と、ブラック色素とが挙げられる。また、このバインダ成分としては、例えばセルロース系樹脂と、ポリビニルアセタール樹脂と、ビニル系樹脂と、ゴム系樹脂と、アイオノマ樹脂と、オレフィン系樹脂と、ポリエステル樹脂とが挙げられる。
【0057】
図7は、積層フィルム70の概略構成を示す図であり、(a)は平面図であり、(b)は(a)に示したVIIb−VIIb線に沿った断面図である。
【0058】
積層フィルム70は、本体71と、接着層72と、を有している。
【0059】
本体71は、記録媒体50の加工層52上に形成された印画を保護する機能を有するものである。この本体71を形成する材料としては、例えばビニル系樹脂と、ポリエステル樹脂と、ポリスチレン樹脂と、アクリル系樹脂と、ウレタン系樹脂と、シリコーン系樹脂と、これらの混合物とが挙げられる。
【0060】
接着層72は、本体71を加工層52上に接着する機能を有するものである。この接着層72を形成する材料としては、例えば熱可塑性樹脂が挙げられる。この熱可塑性樹脂としては、例えばアクリル系樹脂と、ビニル系樹脂と、ポリエステル樹脂と、ポリアミド樹脂とが挙げられる。
【0061】
<印刷方法>
ここで、本発明の印刷方法の一例としてサーマルプリンタXによる記録媒体50への印刷方法を説明する。
【0062】
まず、媒体準備工程を行う。具体的には、図5に示した記録媒体50と、図6に示したインクシート60とを準備する。
【0063】
次に、印刷工程を行う。具体的には、記録媒体50とインクシート60とを重ね合わせた状態で、サーマルヘッド10と第1プラテンローラ41との間に搬送するとともに、発熱素子Hを印刷する画像に応じて発熱させる。この発熱素子Hの発する熱により、インクシート60のインク層62のバインダ成分を昇華させ、記録媒体50上にインク成分を被着させる。この被着したインク成分が記録媒体50の印刷画像として機能する。
【0064】
次に、剥離工程を行う。具体的には、印刷工程を経て記録媒体50上に融着したインクシート60を記録媒体50から剥離し、画像を印刷した面を露出させる。
【0065】
次に、積層工程を行う。具体的には、まず、記録媒体50の画像を形成した面上に、積層フィルム70を重ね合わせる。次に、記録媒体50および積層フィルム70を重ね合わせた状態で、定着ヒータ31および第2プラテンローラ42の間に搬送するとともに、定着ヒータ31の発熱抵抗体34を発熱させる。この発熱抵抗体34の発する熱により接着層72を可塑変形させて記録媒体50と積層フィルム70の本体71とを接着する。
【0066】
本実施形態では、以上の工程を経て記録媒体50に印刷している。
【0067】
本発明の実施形態に係る印刷方法は、主面52aより窪んでなりかつ矢印方向D3,D4に延びる窪み部52bを有する記録媒体50を用意する媒体準備工程と、記録媒体50を矢印D3方向に搬送するとともに、記録媒体50の主面52a上にインクフィルム60を矢印方向D1,D2に沿って押し当てながら該インクフィルム60をサーマルヘッド10により溶融させて主面52a上にインク成分を印刷する印刷工程と、印刷工程を経た記録媒体50からインクフィルム60を剥離する剥離工程と、を有しており、主面52aと窪み部52bの内周面との交線の矢印方向D3,D4に対する角度を±45°以下に設定している。そのため、この実施形態の印刷方法では、印刷工程においてインクフィルム60に伸びが生じた場合でも新たな弛み部分を窪み部52b内に収容することができるとともに、弛み部分が窪み部52bから押し出されるのを低減できるので、インクフィルム60が折り込まれるのを低減することができる。したがって、この実施形態の印刷方法では、インクフィルム60にシワが発生するのを低減することができる。
【0068】
この印刷方法において、窪み部52bを複数設けて、インク成分の窪み部52b中に位置する部位の厚みを主面52a上に位置する部位の厚みに比べて小さくしているので、印刷工程においてインクフィルム60の伸びが大きくなった場合でも窪み部52b内に良好に収容することができる。そのため、この印刷方法では、インクフィルム60にシワが発生するのをより低減することができる。
【0069】
この印刷方法において、剥離工程を経た記録媒体50のインク上に、表面の凹凸を小さくする積層フィルム70を形成する積層工程をさらに有するので、画質を高めることができる。
【0070】
この印刷方法では、記録媒体50の窪み部52bを矢印方向D3,D4に沿って延ばしているので、インクフィルム60にシワが発生した場合でもシワが矢印方向D3,D4に拡がるのを低減することができる。
【0071】
サーマルプリンタXは、この印刷方法を採用している。そのため、サーマルプリンタXは、インクフィルム60にシワが発生するのを低減することができる。
【0072】
以上、本発明の具体的な実施形態を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の要旨から逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。
【0073】
本実施形態では、サーマルプリンタXに、積層手段40が設けられているが、このような構成に限るものでなく、サーマルプリンタと異なる装置により積層フィルム70を加工層52上に接着してもよい。
【0074】
本実施形態では、窪み部52bが設けられた記録媒体50を用いているが、このような記録媒体50に限らず、窪み部を有さない記録媒体50に対して窪み部を新たに設けたものを用いてもよい。
【0075】
本実施形態では、記録媒体50が加工層52を含んで構成されており、加工層52に窪み部52bが設けられているが、このような構成に限るものでない。例えば基材51が窪み部を有していてもよい。
【0076】
本実施形態のサーマルプリンタXは、サーマルヘッド10と、積層機構30として用いられる定着ヒータ31と、を含んで構成されているが、このような構成に限るものでなく、サーマルヘッド10が積層手段としての機能を有していてもよし、サーマルプリンタXと積層手段40とを別に設けてもよい。
【0077】
本実施形態のサーマルプリンタXは、記録媒体50の窪み部52bが記録媒体50の搬送方向である矢印D3方向に沿って設けられているが、このような構成に限るものでない。この窪み部52bは、矢印D3方向に対する交差角度αの範囲が±45°以下であればよい。この範囲であれば例えば印刷工程においてインクフィルム60に伸びが生じた場合でも新たな弛み部分を窪み部内に収容することができる。
【0078】
本実施形態では、記録媒体50の窪み部52bが矢印方向D3,D4に沿って伸びているが、このような構造に限るものでない。例えば図8(a)に示したように窪み部52Ab間の間隔が矢印D3方向に進むにつれて小さくなっていたり、各窪み部52Bbの矢印方向D3,D4に対する交差角度αが±45°以下の範囲内で周期的に変化していたりしてもよい。
【0079】
本実施形態では、熱記録ヘッドとしてサーマルヘッド10を採用しているが、これに限られるものでなく、例えば定着ヒータであってもよい。
【0080】
<実施例>
次に、本発明の実施例を示す。本実施例では、記録媒体の搬送方向に対する記録媒体の窪み部が延びる方向の交差角度を変えて、記録媒体とインクフィルムとの融着の有無を調べる。
【0081】
まず、記録媒体として略矩形状のプラスチックカード(PVCカード、株式会社ファムプロダクツ製)を複数用意した。
【0082】
次に、窪み部を形成した。まず、上述のプラスチックカードをアルミニウムからなる金属板上に両面テープで貼り付けた。次に、ラッピングフィルム(インペリアルラッピングフィルムシート、住友スリーエム株式会社製)を用いて、粒径が1[μm]以上30[μm]以下のSiCからなる砥粒でプラスチックカードの表面を研磨した。これにより、プラスチックカードの表面に、前述の交差角度がそれぞれ異なる窪み部を形成し、これらをNo.1〜13の試料とした。
【0083】
次に、窪み部を形成した試料に対して印刷装置(SP55を改造、日本データカード株式会社製)を用いて下記条件で画像を印刷した。なお、この印刷装置では、試料の矢印方向に沿って搬送するように構成されている。
<印刷条件>
・印加エネルギ:通常使用の1.3倍
・印字速度:1.5倍
・印字画像:全面が濃い青の単色パターン
次に、印刷された画像にインクの剥がれや、インクフィルムにシワが発生していないかを評価した。
【0084】
評価結果を下記表1に示す。この表1では、シワが殆ど発生していないものを「◎」と評価し、シワが生じているが実用上支障のないものを「○」と評価し、シワが生じているが記録媒体の搬送に支障のないものを「△」と評価した。また、交差角度は、搬送方向に向かって右側を正とした。
【0085】
【表1】

【0086】
上記の結果から、搬送方向に対する窪み部が伸びる方向の交差角度が±45°以下である場合に、シワの発生を実用上支障のない程度に低減できることが分かった。また、上記の結果から、この交差角度が±35°以下である場合に、シワの発生をより低減できることが分かった。
【0087】
なお、本実施例では、プラスチックカードに対して新たに窪み部を形成しているが、このようなプラスチックカードに限られず、窪み部が形成されたプラスチックカードを用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の印刷装置の実施形態の一例であるサーマルプリンタの概略構成を示す図である。
【図2】図1に示したサーマルヘッドの概略構成を示す平面図である。
【図3】図2に示したサーマルヘッドの要部拡大図であり、(a)は平面図であり、(b)は(a)に示したIIIb−IIIb線に沿った断面図である。
【図4】図1に示した積層手段の概略構成を示す平面図である。
【図5】図1に示した記録媒体の概略構成を示す図であり、(a)は平面図であり、(b)は(a)に示したVb−Vb線に沿った断面図である。
【図6】図1に示したインクシートの概略構成を示す図であり、(a)は平面図であり、(b)は(a)に示したVIb−VIb線に沿った断面図である。
【図7】図1に示した積層フィルムの概略構成を示す図であり、(a)は平面図であり、(b)は(a)に示したVIIb−VIIb線に沿った断面図である。
【図8】(a),(b)は図5に示した記録媒体の変形例をそれぞれ示す平面図である。
【符号の説明】
【0089】
X サーマルプリンタ
H 発熱部
10 サーマルヘッド
11 基板
12 蓄熱層
13 抵抗体層
14 導電層
141 第1導電層
142 第2導電層
15 保護層
16 駆動IC
161 外部接続用部材
20 制御機構
30 積層機構
31 定着ヒータ
32 基板
33 蓄熱層
34 発熱抵抗体
35 電極パターン
36 保護層
40 搬送機構
41 第1プラテンローラ
42 第2プラテンローラ
43,44 第1搬送ローラ
45,46 第2搬送ローラ
50 記録媒体
51 基材
52 加工層
60 インクシート
61 支持体
62 インク層
70 積層フィルム
71 本体
72 接着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱部を有する熱記録ヘッドと、
記録媒体とインクフィルムとを第1方向に搬送する搬送部と、
前記記録媒体と前記インクフィルムとを重ねた状態で前記熱記録ヘッドの前記発熱部上に押し当てる押圧部と、
前記記録媒体から前記インクフィルムを剥離する剥離部とを備え、
前記記録媒体の基準面上に前記インクフィルムを押し当てながら該インクフィルムを前記熱記録ヘッドにより溶融させて前記基準面上にインクを印刷する印刷装置であって、
前記記録媒体は、前記基準面に前記第1方向に伸びる窪み部を有しており、
前記基準面と前記窪み部の内周面との交線は、前記第1方向に対する角度が±45°以下であることを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
基準面より窪んでなり、かつ第1方向に延びる窪み部を有する記録媒体を用意する媒体準備工程と、
前記記録媒体を前記第1方向に搬送するとともに、前記基準面上にインクフィルムを前記第1方向と略直交する第2方向に沿って押し当てながら該インクフィルムを熱記録ヘッドにより溶融させて前記基準面上にインクを印刷する印刷工程と、
前記印刷工程を経た前記記録媒体から前記インクフィルムを剥離する剥離工程とを有しており、
前記基準面と前記窪み部の内周面との交線の前記第1方向に対する角度を±45°以下に設定することを特徴とする、印刷方法。
【請求項3】
前記窪み部を複数設けて、
印刷された前記インクの前記窪み部中に位置する部位の厚みを前記基準面上に位置する部位の厚みに比べて小さくすることを特徴とする請求項2に記載の印刷方法。
【請求項4】
前記剥離工程を経た前記記録媒体の前記インク上に、表面の凹凸を小さくする平坦化層を形成する平坦化工程をさらに有していることを特徴とする、請求項2または3に記載の印刷方法。
【請求項5】
前記窪み部の平面視幅を前記記録媒体に印刷される画像の画素線密度の10分の1以下とすることを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の印刷方法。
【請求項6】
前記窪み部を複数設けて、
複数の前記窪み部の平面視幅の総和を前記記録媒体の平面視幅の3分の1以下とすることを特徴とする請求項2から5のいずれかに記載の印刷方法。
【請求項7】
前記窪み部を前記第1方向における前記記録媒体の一端から他端に渡って設けることを特徴とする請求項2から6のいずれかに記載の印刷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−285920(P2009−285920A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−139336(P2008−139336)
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】