説明

印刷装置

【課題】アダプタを利用した際の印刷品質を、より向上でき得る印刷装置を提供する。
【解決手段】本実施形態の印刷装置では、印刷像が形成された中間転写シート42をヒートローラ58および剥離ローラ60で印刷媒体100の印刷面に圧着させつつ当該印刷媒体100を所定方向に相対移動させることで、印刷像を印刷面に転写する。このとき、ヒートローラ58が、アダプタ14と印刷トレイ12との間に形成された境界溝70に落ち込むと転写速度が急変してしまい、印刷品質が低下する。そのため、本実施形態では、印刷トレイ12およびアダプタ14を、上面視において、トレイ側境界面32およびアダプタ側境界面26の少なくとも一方が、境界溝70を通るとともにヒートローラ58の回転軸に平行な直線に、交差する形状としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷像が形成された印刷シートをローラで印刷媒体の印刷面に圧着させつつ当該印刷媒体を所定方向に相対移動させることにより、前記印刷像を前記印刷面に転写する印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
用紙などに比べて肉厚で硬質な印刷媒体、例えば、光ディスクなどの記録媒体に印刷を施す印刷装置が知られている。こうした印刷装置において、印刷媒体は、印刷トレイにより支持され、搬送される。従来、この印刷トレイには、印刷媒体を収容する凹部が形成されることが多かった。この凹部は、印刷媒体に対応した形状を有しており、当該凹部に印刷媒体が収容されることにより、印刷媒体が適切に位置決めされ、好適な印刷処理が実行される。また、近年、様々な形状の印刷媒体に対応するために、印刷トレイではなく、当該印刷トレイに着脱自在なアダプタに、凹部を形成することも提案されている。例えば、下記特許文献1〜3には、互いに異なる形状の凹部が形成されたアダプタを複数用意し、当該複数のアダプタの中から印刷処理する印刷媒体の形状に応じてアダプタを択一的に選択して使用する印刷装置の技術が開示されている。かかる技術によれば、一つの印刷装置で、様々な形状の印刷媒体を取り扱うことができる。
【0003】
ところで、印刷装置の中には、シート上に形成された印刷像を、印刷媒体の印刷面に圧着、転写させる転写方式の印刷装置が知られている。こうした転写方式の印刷装置では、印刷像が形成されたシートを印刷面に押圧するための転写ローラなどが設けられている。印刷時に、印刷媒体を支持した印刷トレイは、この転写ローラなどに対して相対的に移動するようになっている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−344352号公報
【特許文献2】特開2004−338338号公報
【特許文献3】特開2005−104112号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、かかる転写方式の印刷装置において、既述のアダプタを用いると、当該アダプタと印刷トレイとの境界部分に形成される溝に、相対移動する転写ローラなどが一時的に落ち込み、印刷像を転写する速度(転写速度)が急激に変化する場合がある。そして、この転写速度の急激な変化は、印刷品質の劣化などの問題を招いていた。換言すれば、従来、転写方式の印刷装置において、アダプタを使用した場合、印刷品質が低下するという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、アダプタを利用した際の印刷品質を、より向上でき得る印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の印刷装置は、印刷像が形成された印刷シートをローラで印刷媒体の印刷面に圧着させつつ当該印刷媒体を所定方向に相対移動させることにより、前記印刷像を前記印刷面に転写する印刷装置であって、前記印刷媒体を収容する収容凹部を備えたアダプタと、前記アダプタが載置されるとともに当該アダプタの厚さ相当分だけ凹んだ載置面を備えたトレイであって、前記所定方向に相対移動可能な印刷トレイと、を備え、前記印刷トレイおよびアダプタは、前記アダプタを前記載置面に載置した際に、互いに対向するとともに、その間に境界溝を形成するトレイ側境界面およびアダプタ側境界面をそれぞれ有しており、前記印刷トレイおよびアダプタは、上面視において、前記境界溝を通るとともに前記ローラの回転軸に平行な直線に、前記トレイ側境界面およびアダプタ側境界面の少なくとも一方が交差する形状である、ことを特徴とする。
【0008】
好適な態様では、前記トレイ側境界面およびアダプタ側境界面は、上面視において、前記ローラを回転軸方向に二分割する直線を対象軸として線対称な形状である。また、前記トレイ側境界面およびアダプタ側境界面は、上面視において、角部が存在しない形状であることも望ましい。さらに、前記アダプタは、前記アダプタ側境界面を前記トレイ側境界面に斜め上側から当接させた後、当該当接位置を回動軸として下方向に回動させることで、前記印刷トレイに装着されることが望ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、前記印刷トレイおよびアダプタが、上面視において、前記境界溝を通るとともに前記ローラの回転軸に平行な直線に、前記トレイ側境界面およびアダプタ側境界面の少なくとも一方が交差する形状であるため、相対移動するローラが境界溝に一時的に落ち込むことが防止される。その結果、転写速度の急激な変化が防止され、印刷品質を、より向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態である印刷装置10の斜視図である。また、図2は、印刷装置10の概略構成図である。この印刷装置10は、光ディスクや磁気ディスクなど、比較的、硬質かつ肉厚な印刷媒体100に対して印刷処理を施す装置である。
【0011】
印刷媒体100は、印刷トレイ12に支持され、搬送される。ただし、様々な形状の印刷媒体100を取り扱い可能とするために、本実施形態では、アダプタ14を介して印刷媒体100を支持するようにしている。アダプタ14は、印刷媒体100の形状種類ごとに複数用意されており、ユーザは、この複数のアダプタ14の中から印刷したい印刷媒体100に対応するアダプタ14を択一的に選択し、印刷トレイ12に装着し、使用する。アダプタ14を介して印刷トレイ12に支持された印刷媒体100は、筐体16の内部に設けられた印刷ユニット18により熱転写方式で印刷処理が施される。以下、この印刷装置10の各部について詳説する。
【0012】
印刷トレイ12は、アダプタ14を介して印刷媒体100を支持するトレイである。この印刷トレイ12は、後述するヒートローラ58の回転軸に対して略直交する方向(図1,2におけるX方向)に進退自在となっている。そして、印刷トレイ12が進退することで、当該印刷トレイ12に支持された印刷媒体100が筐体16の内外に搬送されることになる。
【0013】
印刷トレイ12には、アダプタ14が載置される。このアダプタ14が載置された際に、印刷トレイ12の上面20とアダプタ14の上面31とが、ほぼ同じ高さになるように、印刷トレイ12にはアダプタ14の厚さ相当の段差が形成されている。換言すれば、印刷トレイ12のうち、アダプタ14が載置される載置面22は、アダプタ14の肉厚相当分だけ、印刷トレイ12の上面20より低くなっている。
【0014】
載置面22には、アダプタ14に設けられた位置決ピン36が挿入されるピン穴24が形成されている。また、段差により形成された垂直端面であるトレイ側境界面26には、アダプタ14に設けられた挿込リブ34が挿し込まれる挿込溝28が形成されている。このピン穴24および挿込溝28は、いずれも、アダプタ14の位置決め等に利用されるものであるが、これらについては後に詳説する。
【0015】
アダプタ14は、印刷トレイ12に着脱自在の略平板状部材で、その略中央には、対応する印刷媒体100の外周形状に応じた凹部(以下「収容凹部30」という)が形成されている。この収容凹部30に、印刷媒体100が載置、収容されることで、印刷媒体100の位置ズレ等が防止される。
【0016】
なお、既述したとおり、アダプタ14は、印刷媒体100の形状種類ごとに複数種類、用意される。具体的には、例えば、図3(a)〜(d)に図示するように、収容凹部30の形状が異なる複数種類のアダプタ14が用意される。なお、図3(a)〜図3(d)は、それぞれ、12cmCD、8cmCD、矩形CD、矩形磁気カードが印刷媒体100である場合に好適なアダプタ14の一例である。この複数種類のアダプタ14は、その中央に形成される収容凹部30の形状が異なる点を除けば、ほぼ同じ構成となっており、いずれも、印刷トレイ12に着脱自在となっている。ユーザは、この複数種類のアダプタ14の中から、実際に印刷する印刷媒体100の形状種類に応じたアダプタ14を選択使用する。そして、このように交換自在のアダプタ14を用いることで、一つの印刷装置10で、複数種類の印刷媒体100を取り扱うことが可能となり、印刷装置10の汎用性を向上できる。
【0017】
各アダプタ14の底面からは、位置決ピン36が突出形成されている。この位置決ピン36は、印刷トレイ12に形成されたピン穴24に挿入されることで、印刷トレイ12に対するアダプタ14の位置を規制する。また、この位置決ピン36を、アダプタ14の種類判定などに利用してもよい。すなわち、アダプタ14の種類ごとに、位置決ピン36の位置や個数を異ならせるとともに、印刷トレイ12側に、この位置決ピン36の位置や個数を検出するセンサを設けておく。印刷装置10の制御部は、このセンサでの検出結果に基づいて、印刷トレイ12に載置されたアダプタ14の種類を判定し、その後の制御に利用するようにしてもよい。また、位置決ピンとピン穴とを逆に形成してもよい。すなわち、印刷トレイ12に位置決ピンを形成し、各アダプタ14の底面にピン穴を形成してもよい。さらに、位置決ピン36とは別にアダプタ14の種類判定に用いる識別ピンをアダプタ14または印刷トレイ12に突出形成するとともに、当該識別ピンが挿し込まれる識別用ピン穴を印刷トレイ12またはアダプタ14に形成するようにしてもよい。
【0018】
さらに、アダプタ14の奥側端面であるアダプタ側境界面32からは、挿込リブ34が突出形成されている。この挿込リブ34は、トレイ側境界面26に形成された挿込溝28に挿し込まれるリブで、アダプタ14の着脱に利用されるリブである。
【0019】
ここで、アダプタ14を印刷トレイ12に装着する際の様子について図4を用いて簡単に説明する。アダプタ14を印刷トレイ12に装着する場合、ユーザは、まず、図4(a)に図示するように、挿込リブ34を斜め上側から挿込溝28に挿し込むとともに、アダプタ14を印刷トレイ12のトレイ側境界面26に押し当てる。そして、この押し当てにより印刷トレイ12に対するアダプタ14の位置が概略的に規定されれば、この押し当て箇所を略回動中心としてアダプタ14を下方向に回動させて、アダプタ14を印刷トレイ12の載置面22に載置する。このとき、押し当て動作により、印刷トレイ12に対するアダプタ14の位置は既に粗調整されているため、位置決ピン36は対応するピン穴24にスムーズに挿入される。換言すれば、押し当て回動という手順を踏む本実施形態によれば、極めて、簡易に、アダプタ14を適切な位置に装着することが出来る。その一方で、押し当て回動という手順を踏む本実施形態では、アダプタ14の回動動作を許容するために、アダプタ14と印刷トレイ12との間に形成される境界溝70の幅が広くなりやすい。
【0020】
ここで、この幅広の境界溝70は、その形状によっては、印刷品質の低下原因となる。そのため、本実施形態では、境界溝70(ひいては、トレイ側境界面26およびアダプタ側境界面32)を特殊な形状としているが、これについては、後に詳説する。
【0021】
次に、この印刷装置10の内部に設けられている印刷ユニット18について図2を参照して説明する。本実施形態の印刷ユニット18は、インクリボン40のインクを中間転写シート42に転写した後、当該中間転写シート42に転写されたインクを印刷対象物の印刷面に転写する熱転写方式で印刷する。インクリボン40には、複数色、例えば、四色のインクがリボン長手方向に繰り返し配設されている。なお、インクリボン40に配設されるインクには、溶融型インクと昇華型インクがあるが、どちらを用いた場合でも、印刷装置10の構成および転写プロセスに大差はない。ここでは、溶融型インクを用いた場合を例に説明する。このインクリボン40は、リボン送出ボビン46から送出され、複数のガイドローラ62に案内されて、リボン巻取ボビン44に順次巻き取られる。このリボン巻き取りの経路過程には、当該インクリボン40を中間転写シート42に密着させるとともに、インクリボン40の表面のインクを溶融するサーマルヘッド48が設けられている。サーマルヘッド48の内部には複数の発熱素子(図示せず)が設けられている。サーマルヘッド48は、この複数の発熱素子を制御部(図示せず)からの指示に応じて選択的に発熱させ、インクリボン40のインクを部分的に溶融させる。そして、この部分的にインク溶融されたインクリボン40を中間転写シート42に押圧することで、中間転写シート42に溶融したインクが転写される。
【0022】
中間転写シート42は、シート送出ボビン50から送出され、複数のガイドローラ62に案内されて、シート巻取ボビン52に巻き取られる。中間転写シート42の巻き取りの経路過程には、サーマルヘッド48からの押圧を受けるプラテンローラ54が設けられている。サーマルヘッド48が当該プラテンローラ54に向かってインクリボン40を押し付けることにより、当該プラテンローラ54に沿って送出されている中間転写シート42に、サーマルヘッド48の熱によって溶融されたインクが転写される。
【0023】
ここで、既述したとおり、インクリボン40の表面には複数の色のインクがリボン長手方向に繰り返し配設されている。フルカラー画像を印刷する場合は、この複数の色インクを全て中間転写シート42に転写させておく必要がある。そこで、フルカラー印刷の場合、中間転写シート42は、インクリボン40の表面に貼着されている一つの色のインクの転写が終了するたびにシート送出ボビン50に巻き戻される。そして、再度、シート送出ボビン50からシート巻取ボビン52へと巻き取られ次の色のインクの転写がなされる。このインク転写とシート巻き戻しを、インクリボン40のインク色数分繰り返すことにより、中間転写シート42の表面にはフルカラーの印刷像が形成されることになる。
【0024】
中間転写シート42に形成されたフルカラーの印刷像は、転写アッセンブリ56により印刷媒体100の印刷面に最終転写される。転写アッセンブリ56は、内部に発熱素子を有したヒートローラ58と、当該ヒートローラ58より下流側に位置する剥離ローラ60と、が連結された部材である。インクリボン40から中間転写シート42へのインク転写実行中、この転写アッセンブリ56は、中間転写シート42と印刷媒体100とが接触しない程度の位置に上昇している。一方、インクリボン40から中間転写シート42へのインク転写が終了して、中間転写シート42にフルカラーの印刷像が形成されれば、転写アッセンブリ56は、下降していき、中間転写シート42を印刷媒体100の印刷面に圧着させる。ここで、ヒートローラ58と剥離ローラ60は、その下端高さが、ほぼ同じになるように並んでいる。そのため、転写アッセンブリ56が下降した場合、ヒートローラ58および剥離ローラ60の間に位置する中間転写シート42が、印刷面に接触することになる。換言すれば、中間転写シート42は、印刷面に対して面状に圧着されることになる。
【0025】
この圧着の際、ヒートローラ58は、内蔵された発熱素子で中間転写シート42に転写されたインクを溶融する。また、この圧着の際、印刷トレイ12は、中間転写シート42と同じ方向かつ同じ速度で移動する。別の言い方をすれば、圧着の際、印刷トレイ12は、転写アッセンブリ56に対して相対移動することになる。そして、これらヒートローラ58や印刷トレイ12の動作により、中間転写シート42に形成されたフルカラーの印刷像が、印刷面に最終転写され、画像印刷が実現されることになる。
【0026】
ここで、この印刷像の最終転写時には、印刷媒体100は、均等に押圧されることが必要とされる。最終転写時に、ヒートローラ58などから付加される押圧力が不均一な場合には、転写状態にムラが生じてしまい、印刷品質が劣化するためである。かかる押圧力のムラを防止するために、本実施形態では、最終的に加圧力を受ける印刷トレイ12を、ほぼ平坦面としている。
【0027】
すなわち、従来の印刷装置10の中には、印刷トレイ12自体に収容凹部30を形成し、この印刷トレイ12上の収容凹部30内にアダプタ14を載置収容するものがあった。例えば、印刷トレイ12に、12cmCDを収容するための収容凹部30を形成しておき、8cmCDに印刷する場合には、当該12cmCD用の収容凹部30の内部に、8cmCD用のアダプタ14を載置、収容するような構成の印刷装置10があった(例えば、特許文献1〜3など)。このように印刷トレイ12自体に収容凹部30を設けても、アダプタ14の形状を工夫することで、様々な形状の印刷媒体100を取り扱うことは一応可能である。しかし、このように収容凹部30が形成された印刷トレイ12の上に、他の収容凹部30が形成されたアダプタ14を載置するという構成では、印刷トレイ12の剛性にムラができてしまい、結果として、印刷媒体100に付加される押圧力にムラが出来やすいという問題があった。本実施形態では、かかる問題を避けるために、アダプタ14にのみ凹部を形成し、印刷トレイ12の表面は平坦になるようにしている。
【0028】
また、印刷品質を向上させるためには、転写アッセンブリ56に対して印刷トレイ12が円滑に相対移動することも重要となる。印刷トレイ12の円滑な相対移動が阻害され、その相対移動速度が急変化した場合には、印刷像の連続的な転写動作が阻害され、結果として、印刷品質が低下するという問題がある。本実施形態では、転写速度の急変に起因する印刷品質の低下を防止するために、アダプタ14と印刷トレイ12との境界溝70を特殊なものとしている。以下、これについて詳説する。
【0029】
はじめに、従来の印刷トレイ12およびアダプタ14での問題点について図8を参照して簡単に説明する。図8(a)に図示するとおり、従来の印刷トレイ12およびアダプタ14は、その境界面26,32が、上面視において、ヒートローラ58の回転軸に対してほぼ平行となっていた。換言すれば、印刷トレイ12およびアダプタの境界面26,32は、境界溝70を通るとともにヒートローラ58の回転軸に平行な直線と交差しない形状となっていた。かかる形状の場合、最終転写速度の急変に起因する印刷品質の低下が生じやすかった。
【0030】
すなわち、既述したとおり、最終転写の際、印刷トレイ12は、上流側から下流側(図8における左側から右側)へと移動していく。別の言い方をすれば、最終転写の際、転写アッセンブリ56は、印刷トレイ12の先端側から奥側へと相対移動している。そして、この相対移動によりヒートローラ58が境界溝70を通過する場合を考える。この場合、ヒートローラ58の回転軸は、境界溝70とほぼ平行である。そのため、境界溝70を通過する際、ヒートローラ58は、一時的に、境界溝70に落ち込むことになる。このヒートローラ58の一時的な落ち込みにより、印刷トレイ12に対する転写アッセンブリ56の相対移動の速度が急変することになる。ここで、ヒートローラ58が境界溝70を通過するとき、ヒートローラ58より下流側に位置する剥離ローラ60は、まだ、印刷媒体100の印刷面に接触した状態となっている。このように剥離ローラ60が印刷面に接触した状態で、相対移動の速度が急変すると、円滑な転写動作が阻害され、印刷品質の大幅な低下を招くことになる。特に、ヒートローラ58が、境界溝70を通過するときの剥離ローラ60の当接部分における印刷品質の低下が著しい。
【0031】
本実施形態では、かかる問題を避けるために、境界溝70を通るとともにヒートローラ58の回転軸に平行な直線に対して、必ず、アダプタ側境界面32またはトレイ側境界面26の少なくとも一方が、交差する形状としている。より具体的には、図5に図示するように、本実施形態では、アダプタ側境界面32およびトレイ側境界面26を、それぞれ、上面視で、ヒートローラ58の回転軸方向に並んだ二つの半円を直線で接続したような形状としている。かかる形状とすることで、ヒートローラ58は、常に、印刷トレイ12の上面20またはアダプタ14の上面31に接触することになり、境界溝70への落ち込みが防止される。そして、これにより、落ち込みに起因する相対移動速度の急変、ひいては、印刷像の最終転写速度の急変が防止される。
【0032】
また、本実施形態では、境界面26,32を、上面視で、二つの半円と直線とを円弧で接続したような形状としている。換言すれば、境界面26,32を、上面視で、角部(エッジ)が存在しない形状としている。これは、ヒートローラ58などの外周面の損傷を防止するためである。すなわち、ヒートローラ58などの外周面は、通常、ゴムなどの弾性材料からなる場合が多い。境界面26,32に角部が存在している場合、当該角部がヒートローラ58の外周面に当接し、当該外周面を傷つけてしまう場合がある。本実施形態では、かかる問題を避けるために、境界面26,32を、上面視で、角部(エッジ)が存在しない形状としている。
【0033】
さらに、本実施形態では、境界面26,32を、上面視で、ヒートローラ58を長軸方向に二等分する直線Cを対象軸として線対称な形状としている。このような線対称形状とすることで、ヒートローラ58などから付加される押圧力のムラが防止されやすくなり、結果として、印刷品質をより向上できる。
【0034】
以上、本実施形態の構成および効果を説明したが、ここまで説明した印刷トレイ12およびアダプタ14の境界面26,32の形状は一例である。したがって、境界溝70をと通るとともにヒートローラ58の回転軸に平行な直線に対して、必ず、境界面26または境界面32が交差する形状であれば、他の形状であってもよい。例えば、図6に図示するように、境界面32,26を、印刷トレイ12およびアダプタ14の一端から他端に向かって延びる円弧状としてもよい。この場合であっても、ヒートローラ58は、常に、印刷トレイ12の上面20またはアダプタ14の上面31に接触することができる。そのため、ヒートローラ58の落ち込み、ひいては、転写速度の急変を確実に防止することができ、好適な印刷品質を得ることができる。
【0035】
さらに、別の形態として、図7(a)に図示するように、境界面32,26を、ヒートローラ58の回転軸に対して傾斜した直線形状としてもよい。さらに、別の形態として、図7(b)に図示するように、境界面32,26を、ヒートローラ58の回転軸に対して傾斜した部分を含む屈曲線形状としてよい。いずれにしても、境界溝70を通るとともにヒートローラ58の回転軸に平行な直線に対して、アダプタ側境界面32またはトレイ側境界面26の少なくとも一方が、必ず、交差するような形状であれば、如何なる形状でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態である印刷装置の斜視図である。
【図2】印刷装置の概略構成図である。
【図3】他のアダプタの一例を示す図である。
【図4】アダプタの装着の様子を示す図である。
【図5】最終転写時の様子を示す図である。
【図6】他の印刷トレイおよびアダプタの一例を示す図である。
【図7】他の印刷トレイおよびアダプタの一例を示す図である。
【図8】従来の印刷トレイおよびアダプタによる最終転写時の様子を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
10 印刷装置、12 印刷トレイ、14 アダプタ、16 筐体、18 印刷ユニット、22 載置面、26 トレイ側境界面、30 収容凹部、32 アダプタ側境界面、40 インクリボン、42 中間転写シート、48 サーマルヘッド、54 プラテンローラ、56 転写アッセンブリ、58 ヒートローラ、60 剥離ローラ、70 境界溝、100 印刷媒体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷像が形成された印刷シートをローラで印刷媒体の印刷面に圧着させつつ当該印刷媒体を所定方向に相対移動させることにより、前記印刷像を前記印刷面に転写する印刷装置であって、
前記印刷媒体を収容する収容凹部を備えたアダプタと、
前記アダプタが載置されるとともに当該アダプタの厚さ相当分だけ凹んだ載置面を備えたトレイであって、前記所定方向に相対移動可能な印刷トレイと、
を備え、
前記印刷トレイおよびアダプタは、前記アダプタを前記載置面に載置した際に、互いに対向するとともに、その間に境界溝を形成するトレイ側境界面およびアダプタ側境界面をそれぞれ有しており、
前記印刷トレイおよびアダプタは、上面視において、前記境界溝を通るとともに前記ローラの回転軸に平行な直線に、前記トレイ側境界面およびアダプタ側境界面の少なくとも一方が交差する形状である、
ことを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷装置であって、
前記トレイ側境界面およびアダプタ側境界面は、上面視において、前記ローラを回転軸方向に二分割する直線を対象軸として線対称な形状であることを特徴とする印刷装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の印刷装置であって、
前記トレイ側境界面およびアダプタ側境界面は、上面視において、角部が存在しない形状であることを特徴とする印刷装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の印刷装置であって、
前記アダプタは、前記アダプタ側境界面を前記トレイ側境界面に斜め上側から当接させた後、当該当接位置を回動軸として下方向に回動させることで、前記印刷トレイに装着されることを特徴とする印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−248496(P2009−248496A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−101082(P2008−101082)
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【出願人】(000003676)ティアック株式会社 (339)
【Fターム(参考)】