説明

印刷装置

【課題】開閉部側に設けたプラテンローラの軸端部を、開閉部の閉じ状態においてロック部材でロックする印刷装置において、軸端部とロック部材との間の上下方向間隙を精度よく管理する。
【解決手段】プリンタ1は、固定カバー部101Aの収納凹部111Bが、軸受111Aの下端に下方から当接しプラテンローラ111の上下方向位置を規定する基準位置を与える基準面W1を備え、固定カバー部101Aが、収納凹部111Bの基準面W1より下方において水平方向に突出して設けられた水平突出部304を備え、ロック部材300が、少なくともロック状態においては当該ロック部材と固定カバー部101Aとの上下方向相対位置を拘束せずに係合する長孔306と、水平突出部304の下端に下方から当接しロック部材300の上方への移動を規制する規制面W3と、軸受111Aの上端に対し間隙△を介して上方から対向する対向面W2と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被印字媒体に対し所望の印字を形成可能な印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、装置外郭を構成する筐体の一部を開閉可能とした印刷装置として、特許文献1に記載の技術が知られている。この印刷装置においては、筐体(プリンタケース)が、開閉可能な開閉部(プリンタカバー)と、それ以外の固定部とを備えている。固定部のうち、開閉部の下方は被印字媒体(スリップ紙)を収納する収納部となっており、開閉部を開くことで、操作者が被印字媒体を新たに収納部に装着したり交換したりすることができる。そして、印刷動作時には、開閉部が閉じた状態において、プラテンローラ(ロール紙送りローラ)と印字ヘッドとの間に被印字媒体が挟持され、プラテンローラによって搬送される被印字媒体に対し印字ヘッドが所望の印字を行う。印字が行われた被印字媒体は、筐体に設けた排出口から、筐体外部へと排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−218872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術では、プラテンローラも印字ヘッドも、開閉部ではなく筐体の固定部に設置されている。これに対し、固定部に印字ヘッドを設ける一方で開閉部にプラテンローラを設け、開閉部の閉じ動作に連動してプラテンローラが固定部側の印字ヘッドに押圧されるようにする構造も考えられる。この場合、操作者は、収納部からの被印字媒体の先端部を引き出した後、開閉部を閉めるだけで、被印字媒体をプラテンローラと印字ヘッドとの間に容易に挟み込むことができるので、操作者による印刷開始前の準備操作を簡略化することができる。
【0005】
上記のようにプラテンローラを開閉部に設けた場合、前述のプラテンローラと印字ヘッドとの適正な押圧を確実に実現するために、印字ヘッドを固定部に進退可能に設けることが考えられる。またその際、固定部にプラテンローラの両側の軸端部を収納可能な収納凹部を設け、開閉部が閉じ位置となったときに上記軸端部を収納凹部に収納して支持することが考えられる。その場合には、収納されたプラテンローラが収納凹部から逸脱しないようにするためのロック部材を、固定部側に設けることが好ましい。
【0006】
例えばこのロック部材は、ロック状態と非ロック状態とに切り替え可能に構成し、ロック状態において、前述のように収納凹部に収納されたプラテンローラの軸端部を上方からロックする。このような構成の場合、ロック状態においては、プラテンローラの軸端部の上方とロック部材とが、所定の間隙をもって上下方向に対向することとなる。このロック部材とプラテンローラの軸端部とが対向した状態で前述のようにしてプラテンローラと印字ヘッドとの間に被印字媒体が挟持され、被印字媒体に対し印字が行われる。したがって、印字品質の観点からは、上記ロック状態におけるプラテンローラの軸端部の位置決め安定性が重要であり、プラテンローラの軸端部とロック部材との間の上記間隙を精度よく管理できることが望ましい。
【0007】
本発明の目的は、開閉部側に設けたプラテンローラの軸端部を、開閉部の閉じ状態においてロック部材でロックする印刷装置において、軸端部とロック部材との間の上下方向間隙を精度よく管理できる構成を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本願発明は、固定部、及び、開き位置と閉じ位置との間で回動して開閉するように前記固定部に対し接続された開閉部、を備え、装置外郭を構成する筐体と、左右方向に沿って軸心が配置され、両側の軸端部を前記開閉部に対し回転自在に支持され、被印字媒体を搬送するプラテンローラと、前記固定部に設けられ、前記開閉部が前記閉じ位置となった際に前記プラテンローラの軸端部を収納する収納凹部と、前記固定部に対し回動可能に設けられ、前記収納凹部に収納された前記プラテンローラの軸端部を当該収納凹部から逸脱しないように上方からロックするロック状態と当該ロックを開放する開放状態とに切り替え可能なロック部材と、前記プラテンローラに対し進退可能となるように前記固定部に設けられ、前記ロック部材のロック状態において前記プラテンローラとの間に前記被印字媒体を挟持しつつ当該被印字媒体に所望の印字を行う印字ヘッドと、を有する印刷装置であって、前記固定部の前記収納凹部は、当該収納凹部に収納された前記プラテンローラの軸端部の下端に下方から当接し、当該プラテンローラの上下方向位置を規定する基準位置を与える基準面を備えており、 前記固定部は、当該固定部に一体的に設けられ、前記収納凹部の前記基準面より下方において水平方向に突出して設けられた水平突出部をさらに備え、前記ロック部材は、当該ロック部材を前記固定部に対し回動可能に係合し、かつ、少なくとも前記ロック状態においては当該ロック部材と前記固定部との上下方向相対位置を拘束せずに係合する、回転係合部と、前記水平突出部の下端に下方から当接し、前記ロック状態において前記回転係合部により前記上下方向相対位置を拘束されずに前記固定部に係合している前記ロック部材の上方への移動を規制する規制面と、前記収納凹部に収納された前記プラテンローラの前記軸端部の上方に位置し、当該軸端部の上端に対し、所定の上下方向間隙を介して上方から対向する対向面と、を備えていることを特徴とする。
【0009】
本願発明の印刷装置は、筐体に固定部と開閉部とが備えられている。開閉部は開き位置と閉じ位置との間で回動する。被印字媒体を搬送するプラテンローラは開閉部に設けられており、印字ヘッドは固定部に進退可能に設けられている。開閉部が閉じ位置となったときには、プラテンローラの両側の軸端部が固定部の収納凹部に収納される。収納されたプラテンローラが逸脱しないように、固定部にロック部材が設けられている。ロック部材は、ロック状態において、収納凹部に収納されたプラテンローラの軸端部を上方からロックする。開閉部が閉じ位置となりロック部材がロック状態となったとき、プラテンローラと印字ヘッドとの間に被印字媒体が挟持され、プラテンローラによって搬送される被印字媒体に対し、印字ヘッドが所望の印字を行う。
【0010】
このように、収納凹部に収納されかつロック部材によって逸脱が防止されたロック状態においては、プラテンローラの軸端部の下端部に、収納凹部の基準面が下方から当接している。一方、このロック状態において、プラテンローラの軸端部の上方には、ロック部材の対向面が所定の間隙をもって対向している。このロック状態においてプラテンローラと印字ヘッドとの協働で被印字媒体に対し印字が行われることから、印字品質の観点からは、プラテンローラの軸端部の位置決め安定性が重要である。したがって、プラテンローラの軸端部とロック部材の対向面との間の上記間隙を、精度よく管理できることが望ましい。
【0011】
ここで、本願発明においては、上記ロック状態と開放状態とに切り替え可能なロック部材は、回転係合部によって固定部に回転可能に係合されている。ロック部材は、この回転係合部の機能によって、ロック状態においては、固定部との上下方向相対位置が拘束されない状態(上下方向相対変位が自由である状態。以下適宜、非拘束状態という)となっている。このとき、固定部には、上記収納凹部の下方において水平突出部が設けられており、上記非拘束状態において、ロック部材の規制面が上記水平突出部の下端に下方から当接している。したがって、ロック部材の上下方向位置は、当該規制面と固定部の水平突出部との当接によって規定されることになるから、この当接状態における上記対向面とプラテンローラの軸端部との間の上記間隙の精度を管理すればよいことになる。
【0012】
そこで、このときの上記間隙において生じうるばらつきは、各部の公差を考慮して考えると、
プラテンローラの軸端部の軸径寸法の公差;
固定部の公差により生じる、上記軸端部の下端部に当接する基準面から水平突出部の下端までの上下方向距離のばらつき;
ロック部材の公差により生じる、上記水平突出部の下端に当接する規制面から、上記軸端部の上方に臨む対向面までの上下方向距離のばらつき;
の3つのみの合算で済むことになる。
【0013】
これに対し、ロック部材の固定部との係合構造を、上記のような非拘束状態とせず通常の回転支持構造(例えば、単にロック部材と固定部とをピンにより相対回転可能に接続した構造)とした場合には、上記と同様の軸端部、固定部、ロック部材の公差によるばらつきに加え、固定部側において固定部の孔径の公差と当該孔に挿入されるピン部分の軸径の公差が生じ、さらにロック部材側でもロック部材の孔径の公差と当該孔に挿入されるピン部分の軸径の公差が生じる。すなわちこの場合には、これら4つの公差の合算がばらつき分としてさらに加わる結果、上記対向面とプラテンローラの軸端部との間の上記間隙を高精度に管理することは難しい。
【0014】
本願発明においては、上述のように、ロック部材に設けた回転係合部が、少なくともロック状態において、ロック部材と固定部との上下方向相対位置を非拘束状態とし、その状態で水平突出部と規制面との当接によってロック部材と固定部との上下方向を規定する構造としている。これにより、上記のようにして、公差に基づくロック部材の対向面とプラテンローラの軸端部との間の上記間隙のばらつきを低減することができるので、当該間隙を精度よく管理することができる。この結果、プラテンローラの軸端部の位置決め安定性を向上することができるので、印字品質を高く確保することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、プラテンローラの軸端部とロック部材との間の上下方向間隙を精度よく管理し、プラテンローラの軸端部の位置決め安定性を向上することができるので、印字品質を高く確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施の形態であるプリンタの外観構成を表す斜視図である。
【図2】筐体のトップカバーを外した状態を前方側斜め上方向から見た斜視図である。
【図3】図1中F−F断面による断面図、及び、G−G断面による断面図である。
【図4】筐体のトップカバーを外した状態を表す、前方側斜め上方向から見た斜視図、及び、後方側斜め上方向から見た斜視図である。
【図5】メカユニットの全体構造を表す斜視図である。
【図6】図5に示すメカユニットの詳細構造を表す拡大斜視図である。
【図7】開閉部が開き位置にある状態を表す説明図である。
【図8】開閉部が閉じ位置にある状態を表す説明図である。
【図9】ロック部材でのロック状態における、各部の寸法ばらつきの発生及びその影響を説明するための模式図である。
【図10】ロック部材と固定部との上下方向相対位置を拘束状態とした比較例における、各部の寸法ばらつきの影響を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0018】
<プリンタの概略構成>
図1〜図4を用いて、本発明の一実施の形態であるプリンタ(印刷装置)1の全体構成を説明する。以下では、図1中の右下方向を右方、左上方向を左方、右上方向を後方、左下方向を前方、上方向を上方、下方向を下方、と定義して説明する(各図の矢印の図示参照)。
【0019】
プリンタ1は、例えばPC端末や携帯電話等の外部機器(図示せず)より受信した印刷データを、ロール紙S(被印字媒体)に印刷する。このプリンタ1は、電池(図示せず)を電源として駆動可能である。
【0020】
図1に示すように、プリンタ1は、例えば樹脂材料で構成された、装置外郭を構成する略箱形形状の筐体100を備えている。この筐体100は、装置外郭上部を構成するトップカバー101と、装置外郭下部を構成するアンダーカバー102とを備えている。トップカバー101は、固定カバー部101Aと開閉部101Bとを備えている。
【0021】
アンダーカバー102の端部には、左・右一対の挿通部102aが備えられている。これら挿通部102aに例えばストラップなどを挿通し、肩や首、さらには腰ベルトなどに架けることにより、操作者は、前述のように電池駆動であるプリンタ1を様々な場所(屋外を含む)に手軽に持ち運び、使用することができる。
【0022】
トップカバー101の開閉部101Bの下方(筐体100の内部)には、ロール収納部161が設けられている(図2、図3参照)。このロール収納部161には、ロール紙Sが両端部を支持部材162によって回転可能に軸支されて収納されており、これによってロール収納部161から連続的にロール紙Sを供給可能な構成となっている。このとき、開閉部101Bはヒンジ部Hを介しアンダーカバー102の後端部に対して回転可能に連結されており、これによってロール収納部161を外部に露出させる開き状態(後述の図7参照)と、ロール収納部161を内部に収容する閉じ状態(後述の図8参照)とに切り替えられる。開閉部101Bを開き状態とすることで、ロール収納部161を装置外部に露出させ、ロール紙Sの装着や交換を容易に行うことができる。
【0023】
また、トップカバー101の前後方向略中央部(この例では固定カバー部101Aと開閉部101Bとが付き合わされる部分)には、印字後のロール紙Sを排出するための排出口107が設けられている(図1、図3参照)。このとき、排出口107は、上下方向に沿った一方側に(この例では上方に)向かって開口するように設けられている。
【0024】
開閉部101Bの前方側端部101C(後述の図7及び図8参照)の近傍には、プラテンローラ111の両側の軸端部である軸受111A,111A(後述の図7及び図8参照)が回転自在に支持されている。プラテンローラ111は、その軸心k(図3参照)が左右方向に沿うように配置されており、開閉部101Bが上記閉じ状態にあるときに、モータケーシング21内の回転子(図示せず)の回転が伝達されることにより、ロール紙Sを搬送する。
【0025】
<メカユニット及び周辺>
一方、図2、図3、及び図4に示すように、筐体100の内部(詳細にはアンダーカバー102)の、前後方向中央部付近には、メインシャーシ部材150を備えたメカユニットMUが設けられている。メカユニットMUの全体構成を図5に示す。図5、上記図2、及び上記図3に示すように、メカユニットMUにおいて、メインシャーシ部材150の内部にヘッドユニットHUが前後方向に揺動自在に配置されている(揺動構造の詳細については後述する)。そして、ヘッドユニットHUには、サーマルラインヘッド112(印字ヘッド)と、このサーマルラインヘッド112での発熱を冷却するためのヒートシンク114と、が一体化されて備えられている。そして、ヒートシンク114が、前方側端部がメインシャーシ部材150に支持された複数(この例では2つ)のコイルバネ115により、上記プラテンローラ111側(すなわち後方側)へと付勢されている。これにより、開閉部101Bが上記閉じ状態にあるときに、サーマルラインヘッド112はプラテンローラ111に所定の圧接力で接触する。
【0026】
また、メカユニットMUには、図5に示すように、メインシャーシ部材150の左側に、プラテンローラ111を回転駆動する駆動力を発生する前述のモータの外郭となる略円筒形状のモータケーシング21と、複数のギアから構成され、開閉部101Bの閉じ状態においてプラテンローラ111に作動連結されることで上記モータの駆動力をプラテンローラ111に伝達するギア機構132と、が設けられている。上記駆動モータは、メカユニットMUの下方から筐体100内部の後方にかけて配置された制御基板170(図3参照)によって、その駆動が制御される。なお、制御基板170は、取り扱い性や組立性の便宜を図るために、この例では、水平方向に延設されている。制御基板170は、上記電池から供給される電力を用いつつ、メカユニットMUのサーマルラインヘッド112及び上記駆動モータ等の制御を行う。
【0027】
また、上記モータケーシング21は、筐体100の内部において、上記排出口107から下側に設けられる(前述の図3(b)参照)。また、モータの外郭となるモータケーシング21を覆うモータカバー31が設けられている。このとき、モータケーシング21は、左右方向を軸方向としており、駆動モータのモータ軸MAが当該モータケーシング21から左側に突出して設けられている。
【0028】
<ヘッドユニットの収納構造>
一方、図5、図2、及び図4に示すように、メカユニットMUは、メインシャーシ部材150の一部を構成する矩形筒状の支持枠によって形成された、ユニット筐体190を備えている。サーマルラインヘッド112を備えたヘッドユニットHUが、上記ユニット筐体190に揺動可能に配置されている。すなわち、ユニット筐体190の内側に揺動空間SPが設けられており、ヘッドユニットHUは、この揺動空間SPにおいて、上記したメインシャーシ部材150に支持された複数(この例では2つ)のコイルバネ115を介して、プラテンローラ111に向かって遠近揺動可能に収納されている。
【0029】
<プリンタの概略動作>
上記構成において、印刷時には、PC端末や携帯電話等の外部機器より、プリンタ1に対し、無線通信(又は有線通信や赤外線通信でもよい)を介して、印刷データが送信される。また、上記駆動モータの駆動力に基づくプラテンローラ111の回転によってロール収納部161からロール紙Sが繰り出される。繰り出されたロール紙Sは、排出口107の下方に設けられたガイド部材120により、プラテンローラ111とサーマルラインヘッド112との圧接部に案内される(図3参照)。そして、サーマルラインヘッド112とプラテンローラ111との間に挿通されたロール紙Sに対し、サーマルラインヘッド112が上記印刷データに基づいた所望の態様の印刷を行う。印刷後のロール紙Sは、左右方向に沿って延設された排出口107から筐体100の外部へと排出される。このとき、メインシャーシ部材150には、排出口107の内側において当該排出口107に沿うように固定刃160が取り付けられている。操作者は、上記のようにして印刷が完了し排出口107から排出されたロール紙Sの端部を、この固定刃160を用いて手動で切断することができる。
【0030】
なお、前述のようにして操作者が開閉部101Bを開き、ロール収納部161にロール紙Sを収納したとき、その後の印刷動作時に上記のような搬送・印刷動作を円滑に実現するためには、ロール収納部161から取り出したロール紙Sの先端余剰部をメカユニットMUのサーマルラインヘッド112と、開閉部101B側に設けたプラテンローラ111との間に通し、さらに当該先端余剰部を排出口107を挿通させて筐体100の外部へと露出させてから、開閉部101Bを閉じる必要がある。そこで、本実施形態においては、上記開閉部101Bの前方側端部101Cが、排出口107の後方側(言い換えればロール収納部161側)の縁部を兼ねている。
【0031】
また、紙詰まり等が生じた場合には、トップカバー101の上記開閉部101Bを開放することで、サーマルラインヘッド112からプラテンローラ111がリリースされ、容易にロール紙Sを引き出すことが可能となる。
【0032】
<ロック部材の概略構成及び動作>
ところで、本実施形態では、開閉部101Bが閉じ状態となって上記印字動作が行われる際には、プラテンローラ111の軸受111Aがロックされる。このロックについて図6、図7、及び図8を用いて説明する。図6において、メカユニットMUに備えられた上記メインシャーシ部材150の鉛直壁150aに、収納凹部111Bが形成されている。前述したように、開閉部101Bが図7に示す開き位置から図8に示す閉じ位置となると、プラテンローラ111の軸受111Aは収納凹部111Bに収納される(図8参照)。この収納されたプラテンローラ111の軸受111Aを逸脱不能に保持するために、メカユニットMUには、ロック部材300が設けられている。
【0033】
ロック部材300は、左右方向に沿って中央側に設けられる底板部301と、底板部301の両端からそれぞれ直角に立設されたロック爪部302とを備えており、これら底板部301及びロック爪部302とによって略コ字枠状に形成されている。これら左右のロック爪部302は、共にその前端側(収納凹部111Bに向く側)が略コ字形に切欠されることでカギ型の形状を呈している。またロック爪部302は、鉛直壁150aよりも左右方向に沿った中央側(言い換えれば筐体100の内側)において、係合機構303によってそれぞれ当該鉛直壁150aに対し回動可能に係合されている(回転係合部の詳細構造については後述する)。そして、開閉部101Bが閉じ位置になったとき、プラテンローラ111の軸受111Aが収納凹部111Bに収納され、ロック爪部302は収納凹部111B側に回転し、その前端側の略コ字形の切欠部分によってプラテンローラ111の軸受111Aが上方からロックされ、収納凹部111Bから逸脱不能に保持される。このようにして、ロック部材300が開放状態からロック状態と切り替わることにより、上記軸受111Aへのロックを実行する。そして、このようにロック部材300がロック状態となったとき、プラテンローラ111とサーマルラインヘッド112との間にロール紙Sが挟持され、プラテンローラ111によって搬送されるロール紙Sに対し、サーマルラインヘッド112が所望の印字を行う。
【0034】
なお、上記メカユニットMUのうち揺動するヘッドユニットHU以外の部分、すなわち、メインシャーシ部材150及びユニット筐体190等の構造物と、上記固定カバー部101Aと、上記アンダーカバー102とが、各請求項記載の固定部に相当している。
【0035】
<本実施形態の特徴>
本実施形態の特徴は、上記ロック部材300によりロック状態に保持されたプラテンローラ111の軸受111Aと、ロック爪部302と、の間の間隙寸法を精度よく管理できることにある。以下、その詳細を、順を追って説明する。
【0036】
<間隙管理の必要性>
軸受111Aが収納凹部111Bに収納されかつロック部材300によりロックされたロック状態における、各部の寸法ばらつきの発生及びその影響を、図9を用いて説明する。本実施形態においては、図9に示すように、上記ロック状態では、プラテンローラ111の軸受111Aの下端部に、収納凹部111Bの内底面である基準面W1が下方から当接している。この基準面W1は、プラテンローラ111の上下方向位置を規定する基準位置を与える機能を果たす。一方、このロック状態において、プラテンローラ111の軸受111Aの上方に位置する、ロック部材300のロック爪部302の下面である対向面W2が、当該軸受111Aの上端に対し、所定の上下方向の間隙△をもって対向している。
【0037】
そして、上記のような間隙△による対向状態において、プラテンローラ111とサーマルラインヘッド112との協働でロール紙Sに対し印字が行われることから、印字品質の観点からは、プラテンローラ111の軸受111Aの位置決め安定性が重要である。したがって、プラテンローラ111の軸受111Aとロック部材300のロック爪部302の下面である対向面W2との間の上記間隙△を、精度よく管理できることが望ましい。
【0038】
<非拘束状態による回転係合>
そこで、本実施形態においては、図9に示すように、上記ロック状態と開放状態とを切り替え可能なロック部材300を前述のように鉛直壁150aに回転可能に係合する係合機構303を、ピン部分305と長孔306とによって構成する。すなわち、係合機構303は、鉛直壁150aに設けられたピン部分305(回転軸)と、当該ピン部分305が挿入されるためにロック部材300の下部に長軸が上下方向となるように配置された長孔306(回転係合部)と、を有している。このように、鉛直壁150a側のピン部分305をロック部材300の長孔306に挿入して係合することにより、上記ロック状態において、ロック部材300は、鉛直壁150a(言い換えればアンダーカバー102や固定カバー部101A)との上下方向相対位置が拘束されない状態(上下方向相対変位が自由である状態。以下適宜、非拘束状態という)となる。なお、係合機構303を、ロック部材300に設けた上記回転軸としてのピン部分(回転係合部)を、長軸が上下方向となるように鉛直壁150aに設けた長孔に挿入する構成としても良い。この場合も上記同様に非拘束状態による係合を実現することができる。
【0039】
一方、本実施形態においては、鉛直壁150aに、左右方向に沿って筐体100の内側に向かうように、上記収納凹部111Bの下方において、水平突出部304が設けられている(前述の図6も参照)。そして、上記非拘束状態による係合により、上記ロック状態では、ロック部材300のうち水平突出部304の下方に位置する規制面W3が、上記水平突出部304の下端に下方から当接する。したがって、ロック部材300は、この規制面W3によって上方への移動が規制され、言い換えれば、ロック部材300の上下方向位置は規制面W3と鉛直壁150aの水平突出部304との当接によって規定されることになる。
【0040】
以上の結果、本実施形態では、上記当接状態における上記対向面W2とプラテンローラ111の軸受111Aとの間の上記間隙△の精度を管理すればよいことになる。
【0041】
<公差による各部の寸法ばらつき>
ここで、上記間隙△は、図9に示すように、
L0:プラテンローラ111の軸受111Aの軸径寸法
L1:規制面W3から対向面W2までの上下方向距離
L2:基準面W1から水平突出部304の下端までの上下方向距離
として、
△=L1−(L2+L0)
で与えられる。したがって、このときの上記間隙△において生じうるばらつきは、各部の公差を考慮して考えると、上記軸受111Aの軸径寸法L0の公差△L0(例えば±0.03[mm])と、ロック部材300の公差により生じる、上記規制面W3から上記対向面W2までの上下方向距離L1のばらつき△L1(例えば±0.05[mm])と、鉛直壁150aの公差により生じる、上記基準面W1から水平突出部304の下端までの上下方向距離L2のばらつき△L2(例えば±0.03[mm])と、の3つのみの合算で済むことになる。
【0042】
すなわち、間隙△のばらつきの最大値は、上記△L1、△L2、△L0を単純に加算して考えた場合、例えば、
△L1+△L2+△L0
=0.05+0.03+0.03
=0.11[mm]
で収まることとなる(なお、二乗平均で考えた場合は0.065[mm]である)。
【0043】
<比較例>
一方、上記実施形態の比較例として、ロック部材300の鉛直壁150aとの係合構造を上記のような非拘束状態とせず、図10に示すように、通常の回転支持構造とした場合を考える。すなわち、ロック部材300と鉛直壁150aとのそれぞれに設けた円形の貫通孔306′に対し、丸棒状のピン305′を摺動可能に挿入して相対回転可能に接続することにより、上記係合機構303に相当する係合機構303′を構成した場合である。
【0044】
この場合も、上記同様、上記間隙△は、
△=L1−(L2+L0)
で与えられる。しかしながら、この場合の上記間隙△において生じうるばらつきは、上記実施形態と同様の、上記軸受111Aの軸径寸法L0の公差△L0と、上記規制面W3から上記対向面W2までの上下方向距離L1のばらつき△L1と、上記基準面W1から水平突出部304の下端までの上下方向距離L2のばらつき△L2と、に加え、さらに以下のばらつきが加わる。すなわち、鉛直壁150aの加工公差により生じる、収納凹部111Bの穴径L3のばらつき△L3(例えば±0.03[mm])と、ロック部材300の加工公差により生じる、ロック爪部302下側のコ字切欠部分の穴径L4のばらつき△L4(例えば±0.03[mm])と、ピン305′の公差により生じる、係合機構303′の鉛直壁150a側のピン305′の軸径L5のばらつき△L5(例えば±0.03[mm])と、ピン305′の公差により生じる、係合機構303′のロック部材300側の軸径L6のばらつき△L6(例えば±0.06[mm])と、ピン305′と貫通孔306′とからなる係合機構303′のガタによるばらつき(傾き)△L7(例えば±0.03[mm])と、が新たに加わる。
【0045】
この結果、この比較例における間隙△のばらつきは、上記△L0、△L1、△L2、△L3、△L4、△L5、△L6、△L7を単純に加算して考えた場合、
△L1+△L2+△L0+△L3+△L4+△L5+△L6+△L7
=0.05+0.05+0.03
+0.03+0.03+0.03+0.06+0.03
=0.31[mm]
となり、比較的大きくなってしまう(なお、二乗平均で考えた場合は0.11[mm]である)。
【0046】
すなわち、図10に示すこの比較例では、上記対向面W2とプラテンローラ111の軸受111Aとの間の上記間隙△が、上記実施形態の値(単純加算で0.11[mm])に比べて3倍程度に大きくなってしまう。これに対して、上記実施形態では、上記間隙△の値を、比較例に比べて1/3程度に小さくすることができるため、当該間隙△を高精度に管理することができる。
【0047】
以上説明したように、本実施形態のプリンタ1においては、上述のように、ロック部材300に設けた係合機構303が、少なくともロック状態において、ロック部材300と鉛直壁150aとの上下方向相対位置を非拘束状態とし、その状態で水平突出部304と規制面W3との当接によってロック部材300と鉛直壁150aとの上下方向を規定する構造としている。これにより、上記のようにして、公差に基づくロック部材300の対向面W2とプラテンローラ111の軸受111Aとの間の上記間隙△のばらつきを低減することができるので、当該間隙△を精度よく管理することができる。この結果、プラテンローラ111の軸受111Aの位置決め安定性を向上することができるので、プラテンローラ111とサーマルラインヘッド112とによる、ロール紙Sへの接触部位CP(図9及び図10参照)の位置を所定の小さい範囲に収めることができ、印字品質を高く確保することができる。
【0048】
このとき特に、位置決め基準となる水平突出部304が、メインシャーシ部材150と一体的にされ、かつ、上記間隙△と比較的近い位置に近接して存在している。したがって、これによっても、上記間隙△をさらに精度よく管理できる効果がある。
【0049】
また、本実施形態では特に、係合機構303を、鉛直壁150aに設けられたピン部分305が挿入される、長軸が上下方向となるように配置された長孔306としている。鉛直壁150a側のピン部分305をロック部材300の長孔306に挿入して係合することにより、ロック部材300と鉛直壁150aとの非拘束状態での係合を確実に実現することができる。
【0050】
また、本実施形態では特に、ロック部材300は鉛直壁150aよりも筐体100の内側において係合機構303によって当該鉛直壁150aに回動可能に係合され、水平突出部304は左右方向に沿って筐体100の内側に向かうように、鉛直壁150aから突出して設けられている。これにより、ロック部材300を固定カバー部101Aの鉛直壁150aより内側に配置しての係合構造を実現し、ロック部材300が筐体100外部へ露出しなくなるので、係合状態を安定的に維持することができる。また、ロック部材300を固定カバー部101Aの鉛直壁150aの外側に設ける場合に比べ、装置全体の小型化を図ることもできる。
【0051】
なお、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、その趣旨及び技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。
【0052】
また、以上既に述べた以外にも、上記実施形態や各変形例による手法を適宜組み合わせて利用しても良い。
【0053】
その他、一々例示はしないが、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0054】
1 プリンタ(印刷装置)
100 筐体
101 トップカバー
101A 固定カバー部(固定部)
101B 開閉部
102 アンダーカバー(固定部)
111 プラテンローラ
111A 軸受(軸端部)
111B 収納凹部
112 サーマルラインヘッド(印字ヘッド)
150a 鉛直壁
300 ロック部材
304 水平突出部
306 長孔(回転係合部)
W1 基準面
W2 対向面
W3 規制面
S ロール紙(被印字媒体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部、及び、開き位置と閉じ位置との間で回動して開閉するように前記固定部に対し接続された開閉部、を備え、装置外郭を構成する筐体と、
左右方向に沿って軸心が配置され、両側の軸端部を前記開閉部に対し回転自在に支持され、被印字媒体を搬送するプラテンローラと、
前記固定部に設けられ、前記開閉部が前記閉じ位置となった際に前記プラテンローラの軸端部を収納する収納凹部と、
前記固定部に対し回動可能に設けられ、前記収納凹部に収納された前記プラテンローラの軸端部を当該収納凹部から逸脱しないように上方からロックするロック状態と当該ロックを開放する開放状態とに切り替え可能なロック部材と、
前記プラテンローラに対し進退可能となるように前記固定部に設けられ、前記ロック部材のロック状態において前記プラテンローラとの間に前記被印字媒体を挟持しつつ当該被印字媒体に所望の印字を行う印字ヘッドと、
を有する印刷装置であって、
前記固定部の前記収納凹部は、
当該収納凹部に収納された前記プラテンローラの軸端部の下端に下方から当接し、当該プラテンローラの上下方向位置を規定する基準位置を与える基準面を備えており、
前記固定部は、
当該固定部に一体的に設けられ、前記収納凹部の前記基準面より下方において水平方向に突出して設けられた水平突出部をさらに備え、
前記ロック部材は、
当該ロック部材を前記固定部に対し回動可能に係合し、かつ、少なくとも前記ロック状態においては当該ロック部材と前記固定部との上下方向相対位置を拘束せずに係合する、回転係合部と、
前記水平突出部の下端に下方から当接し、前記ロック状態において前記回転係合部により前記上下方向相対位置を拘束されずに前記固定部に係合している前記ロック部材の上方への移動を規制する規制面と、
前記収納凹部に収納された前記プラテンローラの前記軸端部の上方に位置し、当該軸端部の上端に対し、所定の上下方向間隙を介して上方から対向する対向面と、
を備えている
ことを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
請求項1記載の印刷装置において、
前記回転係合部は、
前記固定部に設けられた回転軸が挿入される、長軸が上下方向となるように配置された長孔であることを特徴とする印刷装置。
【請求項3】
請求項1記載の印刷装置において、
前記回転係合部は、
長軸が上下方向となるように前記固定部に設けられた長孔に対し挿入される回転軸であることを特徴とする印刷装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3記載の印刷装置において、
前記固定部は、
鉛直方向に立設され、前記プラテンローラの軸方向と直交する鉛直壁を備えており、
前記ロック部材は、
前記鉛直壁よりも前記筐体の内側において前記回転係合部によって当該鉛直壁に回動可能に係合されており、
前記水平突出部は、
左右方向に沿って前記筐体の内側に向かうように、前記鉛直壁から突出して設けられている
ことを特徴とする印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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