説明

印字装置

【課題】本発明の課題は、複数のインクジェットヘッドを有し、ウェブ状の被印字物に対して、高速で印字を行うことができる簡単な構造の印字装置を提案するものである。
【解決手段】ウェブ状のフィルム基材に対して連続的に印字を行う印字装置であって、該印字装置は、基材搬送機構と、印字機構を有し、該印字機構は、複数の印字ヘッドと、該印字ヘッドに対向して設置され、前記フィルム基材の裏面を支持する印字用板を有することを特徴とする印字装置であり、前記印字用板は、前記基材搬送機構中のガイドローラーの間にあって、フィルム基材がわずかに接触する位置に設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のインクジェットプリンターヘッドを備え、ウェブ状の基材に高速で印字することができる印字装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンターヘッドを用いて、製品の表面に製造番号や製造年月日等を印字する装置が、広く用いられている。インクジェットプリンターは、非接触で印字ができることと、可変情報の印字が可能であることから、さまざまな製品に対して、上記のような印字用途に使用されている。製造番号や製造年月日のように、印字する情報の情報量があまり多くない場合や、印字速度が低くても良い場合には、特に問題はなかったが、近年、例えば2次元バーコードのように情報量が比較的多い印字内容をしかも高速で印字する場合には、予期しなかった問題が生じることが分ってきた。特に被印字物が巻取から巻き出され、再び巻き取られるウェブ状の基材であって、しかも軟質の包装材料フィルムのように、テンションによって伸びやすく、さらにインクの吸込みのない材料の場合には、特に困難な問題が生じる。
【0003】
ひとつは、ウェブ状の基材のばたつきの問題である。軟質の包装材料フィルムのように基材が伸びやすいものであるために強いテンションをかけることができない被印字物の場合には、高速で走行させるとガイドロールとガイドロールの間でばたつきを生じやすく、これはガイドロールの間隔が長くなる程、発生しやすくなる。
【0004】
またインクの乾燥の問題がある。インクを吸込まない被印字物の場合、印字したインクは、乾燥手段によって乾燥されるまで表面に留まっているので、印字直後の印字面をローラー等によって押えることができない。
【0005】
情報量の多い印字内容を高速で印字するためには、一つの印字ヘッドでは時間的に間に合わないため、被印字物の走行方向に複数の印字ヘッドを配列する必要があるが、印字ヘッドの最も簡便な配列方法として、ガイドロールとガイドロールの間の直線部分に、印字ヘッドを直線状に並べて設置する方法がある。しかしこの方法は、被印字物が紙のように比較的伸びの少ない材質であって、テンションを十分かけられる場合には問題がないが、伸びやすい材質でテンションを十分にかけられない場合には、速度を上げるにつれて、被印字物がばたついて印字品質が低下するという問題があった。
【0006】
特許文献1に記載されたインクジェットプリンタは、印字部分の用紙のスパンが長くなってもこの部分での用紙のバタツキをなくし、また紙じわや紙伸びによる悪影響をなくして良好な印字を実現しようとしたもので、特許請求の範囲に記載された通り、印字区間Sの入口側のガイドローラから出口側のガイドローラへの用紙の走行路内に多数個のインクジェットヘッドを用紙の走行方向に配列してなるインクジェットプリンタにおいて、上記入口側と出口側の両ガイドローラの間で、かつ、この両ガイドローラの用紙送り面を直線で結ぶ直線状の走行ラインLに対して一方へずれた位置に、少なくとも1個の中間のガイドローラを配置し、上記入口側と中間と出口側の各ガイドローラにて案内される用紙の表面と平行に対向するようにして各インクジェットヘッドを配列したことを特徴とするインクジェットプリンタである。
【0007】
特許文献1に記載されたインクジェットプリンタは、必要な個数のインクジェットヘッドを配列するのに必要な印字区間Sを1個以上の中間のガイドローラーで分割し、ガイドローラーの間隔を短くしようとしたものであり、実施の形態として中間のガイドローラー
が1個の場合と、3個の場合が図示されている。このインクジェットプリンタは、第0005段落の「水性インクを用いた場合、これの水分のため用紙にしわが生じたり紙伸びで用紙がたるんだりして、・・・」の記載にもあるように、被印字物としてテンションをかけることのできる紙を前提としており、またその構造上、中間のガイドローラーに対するウェブの抱き角度をあまり大きくできないため、低テンションの必要な基材に対しては、適用が困難であり、また、複数のインクジェットヘッドを、設置するにあたっては、角度の異なるウェブラインに沿ってそれぞれ平行になるようにヘッドの微妙な角度調整をする必要があり、全体の構造が複雑になり従って高価な設備とならざるを得ない。
【0008】
特許文献2に記載されたPrinter Architectureは、同様の考え方に基づき複数のプリントヘッドを円弧上に配列し、各ローラーの上にプリントヘッドを配置したものである。この構造によると、各プリントヘッドの直下にそれぞれ1個のローラーが存在するので、原理的にはウェブのばたつきの問題が完全に解消される優れた構造であるが、各プリントヘッドの取り付け位置と角度の調整は、ピンポイントとなるため、特許文献1の装置に比較してさらにヘッドの取り付けは微妙になり、実際問題としては非現実的な構造と言わざるを得ない。
【0009】
特許文献3に記載されたインクジェット記録装置は、特許文献1と特許文献2の折衷案ともいうべきものであり、各インクジェットヘッドを各ガイドローラーの中央ではなく、ウェブラインの直線部分に移動させて設置したものである。この装置においては、各ヘッドの取り付けについて、自由度が若干増すため、特許文献2の構造に比較してヘッドの取り付けは、容易となり、またウェブのばたつきについてもガイドロールの直近にヘッドを設置するため、かなり改善される。しかしながら全体として各ヘッドの取り付け角度を微妙に調整しなければならない点に関しては、同様であって、装置全体も大きなものとならざるを得ないものである。
【0010】
インクジェットヘッドと被印字物との間隔を一定にするために、ヘッドに対向してガイド板を設けることは、枚葉紙に印字するプリンタでは、一般的に行われている。(特許文献4)また、ロール紙に印字するプリンターでもロール紙を間歇送りしてプリントヘッドが幅方向に走査する形式のプリンターでは、プラテンロールに替るものとしてフラットプラテンと称するガイド板が使用されることがある。(特許文献5)
しかし本発明に係る印字装置のごとく、高速で走行するウェブ基材に対して、複数の印字ヘッドによって印字を行う装置において、ウェブ基材のばたつきを防止する目的でガイド板(印字用板)を用いた例は無かった。
【特許文献1】特開2000-141618号公報
【特許文献2】米国特許第6,003,988号公報
【特許文献3】特開2005-35209号公報
【特許文献4】特開平5-124284号公報
【特許文献5】特開平6-199457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、複数のインクジェットヘッドを有し、ウェブ状の被印字物に対して、高速で印字を行うことができる簡単な構造の印字装置を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、ウェブ状のフィルム基材に対して連続的に印字を行う印字装置であって、該印字装置は、基材搬送機構と、印字機構を有し、該印字機構は、複数の印字ヘッドと、該印字ヘッドに対向して設置され、前記フィルム基材の裏面を支持する印字用板を有することを特徴とする印字装置である。
【0013】
また、請求項2に記載の発明は、前記印字用板は、前記基材搬送機構中のガイドローラーの間にあって、フィルム基材がわずかに接触する位置に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の印字装置である。
【0014】
また、請求項3に記載の発明は、前記印字用板が、前記フィルム基材と同一以上の硬度を有する材質からなることを特徴とする請求項1または2に記載の印字装置である。
【0015】
また、請求項4に記載の発明は、前記印字用板が、前記フィルム基材と滑り性のある材質からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の印字装置である。
【0016】
また、請求項5に記載の発明は、前記印字用板が、前記フィルム基材を吸着する吸引孔を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の印字装置である。
【0017】
また、請求項6に記載の発明は、前記フィルム基材が、前記印字用板との摩擦によって生じる静電気によって印字用板に吸着されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の印字装置である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る印字装置は、ウェブ状のフィルム基材に対して連続的に印字を行う印字装置であって、基材搬送機構と、印字機構を有し、該印字機構は、複数の印字ヘッドと、該印字ヘッドに対向して設置され、前記フィルム基材の裏面を支持する印字用板を有することを特徴とする印字装置であるから、テンションによって延びやすいフィルム基材に対しても、フィルム基材を印字用板によって支持することにより、フィルム基材のばたつきを防止し、高速で印字を実施することができる。また、自重によってたわみやすい基材であっても印字用板に支えられることにより、たわみが防止されるので、安定した印字が可能となる。
【0019】
また、複数の印字ヘッドを配列し、印字用板によってフィルム基材を支持するという極めて単純な構造であり、印字ヘッドの調整も容易であるから、低コストの印字装置を実現することができる。
【0020】
前記印字用板が、基材搬送機構中のガイドローラーの間にあって、フィルム基材がわずかに接触する位置に設けられているものである場合には、高速で搬送されるフィルム基材と印字用板との擦れもわずかであるから、フィルム基材の裏面に傷がつく危険性が少ない。
【0021】
またさらに、前記印字用板が、フィルム基材の硬度と同一以上の硬度を有する材質からなるものである場合には、長期間の使用に対しても、印字用板が摩耗することがない。
【0022】
また、前記印字用板が、フィルム基材と滑り性のある材質からなる場合には、フィルム裏面の傷つきも、印字用板の摩耗も同時に防ぐことができる。
【0023】
また、前記印字用板が、フィルム基材を吸着する吸引孔を有する場合には、フィルム基材のばたつきをほぼ完全に防止することができる。また、フィルム基材が、印字用板との摩擦によって生じる静電気によって印字用板に吸着されるようにした場合にも、同様の効果があり、さらに吸引に要する余分なエネルギーが不要であり、機構も単純となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下図面に従って、本発明に係る印字装置について詳細に説明する。図1は、本発明に係る印字装置の印字機構部の一実施態様を示した断面説明図である。本発明に係る印字装置は、複数の印字ヘッド4と、複数の印字ヘッド4に対向して設置された印字用板5を有する印字機構3を有している。印字ヘッド4は、所定の印字幅を有する公知のインクジェットヘッドであり、図1の実施態様においては、印字機構3は、6個の印字ヘッド4を有しているが、印字ヘッド4の個数は、目的とする印字情報の内容とフィルム基材1の搬送速度によって適宜決定される。図1の実施態様においては、複数の印字ヘッド4に対向して設置された印字用板5が平坦な平板状であり、6個の印字ヘッド4は、印字用板5に対向して一直線状に配列されている。また、図1の実施態様においては、印字用板5は、2本のガイドローラー6の中間にあって、フィルム基材1がわずかに接触する位置に設けられているが、フィルム基材1の裏面と印字用板5との間には、わずかに隙間があっても良い。
【0025】
印字用板5が存在することによって、2本のガイドローラー6の間を走行するフィルム基材1が、印字用板によって支持され、ばたつくことが防止される。
【0026】
図2は、本発明に係る印字装置の印字機構部の他の実施態様を示した断面説明図である。この実施態様においては、印字用板5は中央部がわずかに高い山型になっており、印字ヘッド4も、3個づつ2組の印字ヘッドがそれぞれ印字用板5の山型に沿うように傾斜した角度に取り付けてある。フィルム基材1は、印字用板5の山型に沿って、印字用板5に軽く接触しながら走行する。このようにすることにより、フィルム基材1のばたつきを防止する効果は、高まる。
【0027】
図3は、本発明に係る印字装置の印字機構部の他の実施態様を示した平面説明図である。この実施態様においては、印字用板5の両端部に吸引孔7が設けられており、この吸引孔7を陰圧にして空気を吸込むようにすることにより、フィルム基材1の端部を印字用板5の表面に吸着し、フィルム基材1の端部のばたつきを強力に防止する効果を発揮する。なお吸引孔7の吸引力は、ごく弱いもので十分であり、あまり強くするとフィルム基材1の裏面に擦傷をつけたり、フィルム基材1と印字用板5との間の摩擦抵抗が強すぎてフィルム基材1の円滑な走行の妨げになることがある。なお、図3においては、印字ヘッドを省略してある。
【0028】
印字用板の材質としては、フィルム基材の材質に応じて、最適な材質が選択される。フィルム基材の接触により、容易に摩耗しないように、フィルム基材の硬度と同一かそれ以上の硬度を有する材質が望ましい。また印字用板の材質は、フィルム基材と滑り性の良い材質とすることが望ましい。具体的には、例えばフィルム基材が、軟包装材料であり、印字用板に接触するフィルム基材の裏面が軟質の熱可塑性樹脂であれば、印字用板の材質としては、広範な材料が使用可能であり、例えば高密度ポリエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂、ポリアミド樹脂等の摩擦係数の小さい樹脂材料の他、クロムめっきを施した鋼材なども表面を入念に研磨することによって使用可能である。またガラス、フェノール樹脂板等も使用できる。印字用板としてどのような材料を使用する場合でも、印字用板のフィルム基材裏面に接触する面は、平滑に仕上げておくことが重要である。
【0029】
印字用板の材質と、フィルム基材の材質との組合せによっては、両者の摩擦によって生じる静電気を有効に利用することが可能となる。例えばフィルム基材の裏面がポリエチレン樹脂であれば、印字用板の材質が高密度ポリエチレンやテトラフルオロエチレン樹脂や金属板であると、静電気はあまり発生しないが、ポリアミド樹脂やガラスであれば、静電気が強く発生する。発生した静電気は、両者を付着させようとするので、フィルム基材の端部のばたつきを防止する効果を生じる。静電気の発生が強すぎて不具合が生じるような場合には、印字用板として複数の材質を組み合わせたり、金属材料を適宜組み合わせて余
分な静電気を逃すこともできる。
【0030】
図4は、本発明に係る印字装置の一例の全体の構造を示した模式図である。巻出9から巻き出されたフィルム基材1は、複数のガイドローラー6を含む搬送機構2によって印字機構部3に導かれ、表面に印字がなされた後、乾燥装置8によってインクを乾燥する。インクジェットインクが、紫外線硬化型のインクであり、乾燥装置を紫外線照射装置とする組合せが最も実用的に好ましい。印字がなされ、インクが乾燥されたフィルム基材1は、搬送機構2によって搬送され、巻取10に巻き取られる。
【0031】
印字装置には、上記の他、特に図示はしていないが、フィルム基材のテンションを一定に保持するテンションコントロール装置や、絵柄印刷済のフィルム基材に、位置合わせをしながら可変情報を追記する場合に必要な、レジスターマーク読取り装置等が設置されている。
【0032】
以上説明したように、本発明に係る印字装置は、強いテンションの掛けられないフィルム基材に対して、高速で可変情報を印字することが可能であるから、例えば、軟包装フィルムを使用した食品1個1個にQRコード(登録商標)のような比較的情報量の多い識別情報を個別に印字することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る印字装置の印字機構部の一実施態様を示した断面説明図である。
【図2】本発明に係る印字装置の印字機構部の他の実施態様を示した断面説明図である。
【図3】本発明に係る印字装置の印字機構部の他の実施態様を示した平面説明図である。
【図4】本発明に係る印字装置の一例の全体の構造を示した模式図である。
【符号の説明】
【0034】
1・・・フィルム基材
2・・・基材搬送機構
3・・・印字機構
4・・・印字ヘッド
5・・・印字用板
6・・・ガイドローラー
7・・・吸引孔
8・・・乾燥装置
9・・・巻出
10・・・巻取

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェブ状のフィルム基材に対して連続的に印字を行う印字装置であって、該印字装置は、基材搬送機構と、印字機構を有し、該印字機構は、複数の印字ヘッドと、該印字ヘッドに対向して設置され、前記フィルム基材の裏面を支持する印字用板を有することを特徴とする印字装置。
【請求項2】
前記印字用板は、前記基材搬送機構中のガイドローラーの間にあって、フィルム基材がわずかに接触する位置に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の印字装置。
【請求項3】
前記印字用板は、前記フィルム基材の硬度と同一以上の硬度を有する材質からなることを特徴とする請求項1または2に記載の印字装置。
【請求項4】
前記印字用板は、前記フィルム基材と滑り性のある材質からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の印字装置。
【請求項5】
前記印字用板は、前記フィルム基材を吸着する吸引孔を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の印字装置。
【請求項6】
前記フィルム基材は、前記印字用板との摩擦によって生じる静電気によって印字用板に吸着されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の印字装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−115887(P2010−115887A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−291819(P2008−291819)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】