説明

危険予知訓練装置および方法

【課題】危険予知訓練を効果的に行う危険予知訓練装置を提供する。
【解決手段】危険予知訓練装置は、オペレータの入力を受け付けて、プラントの任意の運転状態を模擬し出力するシミュレータ19と、プラントの異常状態に対応する初期状態を記憶する記憶手段12と、前記異常状態に対処する処置の入力があると、その入力に応答するプラントの運転状態を前記初期状態から続けて模擬するように前記シミュレータに指示する指示手段18とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、危険予知訓練装置および方法に関し、更に詳しくは、実際の装置や機器を数学的モデルとして計算機上に表現するシミュレータ用いて、プラントのプロセス中における危険性を予知し処置する能力について、プラントのオペレータを訓練する危険予知訓練装置および方法に関する。本発明は、更に、危険予知訓練装置のためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
プラント用シミュレータは、一般に、プラントにおける実際の装置や機器を数学的モデルとして表現し、プラントの運転に携わるオペレータの運転能力の訓練を行うために用いられる計算機システムである。シミュレータは、実際なら生命に関わるような危険な作業や、機器の故障、異常事態の再現など、実際に体験することが困難な状況について、安全な仮想環境の下で運転操作をオペレータに体験させることが出来る。
【0003】
上記シミュレータは、プラント運転の技術的な検討や研究などにも用いられる。この場合、シミュレータは、プラントの装置や機器を実際に用いる検討や実験が、費用や、安全性、即時性などの観点から難しいと判断される場合にも、そのプラントの運転を模擬するために用いられている。
【0004】
ところで、プラントのプロセスにおける危険性を予知し処置するオペレータの能力の向上を計るために、プロセスのある異常な事象を想定し、それに関する原因や、影響、処置方法を見出す危険予知訓練が、例えばブレーン・ストーミング法を用いて行われている。このようなブレーン・ストーミングによる危険予知訓練は、例えば4ラウンド法で行われる。
【0005】
4ラウンド法における第1ラウンドでは、想定したプロセスの異常な事象の原因を、考え得る限り列挙する。第2ラウンドでは、先に列挙した考えられる原因のそれぞれについて、プロセスに波及する影響を考え得る限り挙げ、更に想定したプロセスの異常な事象で最も可能性が高い原因を特定する。第3ラウンドでは、特定した原因に対処する処置方法を挙げる。第4ラウンドでは、決定した処置方法に基づいて、設備改造や作業標準の改訂などの恒久対策を決定する。
【0006】
特許文献1には、工事現場など、危険を伴う作業を行う現場で危険予知訓練を行った際に、その危険予知訓練における受講者の訓練効果を評価する評価装置および方法が記載されている。この技術では、訓練受講者が、各ラウンドで抽出または特定した原因や処置方法を各項目ごとに評価装置〈コンピュータ)に入力し、採点者が、その入力した内容をコンピュータ上で採点項目ごとに評価し採点する。コンピュータは、その採点結果を、各採点項目ごとの平均点や、採点項目の合計点などに集計し、必要に応じて表示装置などにその集計結果を表示する。
【0007】
特許文献1の手法は、プラントの運転を行うオペレータの危険予知訓練にも応用が可能である。特許文献1の評価手法をプラントのオペレータの危険予知訓練に用い、採点項目ごとに受講者の入力内容を評価すれば、評価者による評価を容易にし、評価内容のばらつきを抑えることが出来る。また、その評価結果から指導内容を評価し、適正な指導内容を提供することも出来るので、危険予知訓練を効果的に行うことが出来る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−139479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1の手法をプラントのオペレータの危険予知訓練に用いると、オペレータには、プラントの実際の装置や機器の操作を行う機会がないので、オペレータが得られる危険予知訓練の効果は限定的である。
【0010】
本発明は、上記に鑑み、プラントのオペレータに対し危険予知訓練をより効果的に行うことが出来る危険予知訓練装置および方法、並びに、危険予知訓練装置のためのプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、オペレータの入力を受け付けて、プラントの任意の運転状態を模擬し出力するシミュレータと、
プラントの異常状態に対応する初期状態を記憶する記憶手段と、
前記異常状態に対処する処置の入力があると、その入力に応答するプラントの運転状態を前記初期状態から続けて模擬するように前記シミュレータに指示する指示手段と、を備えることを特徴とする危険予知訓練装置を提供する。
【0012】
本発明は、また、危険予知訓練装置を用い、プラントのオペレータのための危険予知訓練を行う方法であって、
危険予知訓練装置が、危険予知訓練のテーマを受け付けて、該テーマに対応するプラントの運転状態を模擬し、オペレータに提示するステップと、
危険予知訓練装置が、オペレータによるブレーン・ストーミングで得られた異常状態を受け付けて、該異常状態を模擬するステップと、
危険予知訓練装置が、前記ブレーン・ストーミングで得られたプラントの異常状態に対処する処置を受け付けて、該処置に応答するプラントの運転状態を模擬するステップと、を順次に有することを特徴とする危険予知訓練方法を提供する。
【0013】
本発明は、更に、プラントのオペレータのための危険予知訓練を行う危険予知訓練装置に用いるプログラムであって、前記危険予知訓練装置に、
危険予知訓練のテーマを受け付けて、該テーマに対応するプラントの運転状態を模擬する処理と、
オペレータによるブレーン・ストーミングで得られた異常状態を受け付けて、該異常状態を模擬する処理と、
前記ブレーン・ストーミングで得られたプラントの異常状態に対処する処置を受け付けて、該処置に応答するプラントの運転状態を模擬する処理と、を順次に実行させることを特徴とするプログラムを提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、プロセスの危険性を予知し対処するプラントのオペレータの危険予知訓練に際し、オペレータの危険予知能力を効果的に向上させることが出来る。
【0015】
上記本発明の危険予知訓練装置の好ましい態様では、前記記憶手段は、前記異常状態と、該異常状態が発生する原因、該異常状態による影響、および、該異常状態に対処する処置の少なくとも1つとを対応させるリストを保持する。この場合、記憶装置に保持されたリストと、ブレーン・ストーミングで得られた対応するリストとを表示することで、双方のリストの照合が容易になり、訓練効果の評価が可能になるので、更に効果的な訓練を行うことが出来る。
【0016】
前記シミュレータが、プラントの任意の運転状態を時系列的に模擬することも本発明の危険予知訓練装置の好ましい態様である。この場合、オペレータは実際のプラントの時系列的な運転状態と対応させてシミュレーションを観察できるので、そのシミュレーションの内容の理解が容易である。
【0017】
前記異常状態に対処する処置の入力があると、前記記憶手段のリストに含まれる処置のリストを参照して、前記入力された処置の評価を行う評価手段を更に備えることも本発明の危険予知訓練装置の好ましい態様である。記憶手段の処置リストには、例えばリスト中の処置毎に重要度などを加味した評点が付加されている。オペレータが選定した処置と、標準的な処置およびその評点とをオペレータに比較させることで、処置の選定手法の理解が容易になり、更に効果的な危険予知訓練が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る危険予知訓練装置のブロック図。
【図2】本発明の一実施形態に係る危険予知訓練方法を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る危険予知訓練装置(訓練シミュレータ装置)のブロック図である。訓練シミュレータ装置10は、登録部11、記憶部12、訓練/データ受付部17、シミュレーション選定部〈指示手段〉18およびシミュレータ19から構成される。
【0020】
登録部11は、指導者が作成したデータを受け付けて、これを記憶部12の所定の記憶場所に記憶する。指導者作成データには、例えば、危険予知訓練のテーマ、プラントのプロセス中における異常状態、各異常状態の原因、各異常状態による影響、各異常状態に対処する処置が、それぞれに対応つけて表示されるリストが含まれる。
【0021】
記憶部12には、例えば、ブレーン・ストーミングによってオペレータが考え付いて欲しいと指導者が希望する模範解答として、指導者が作成した異常状態、各異常状態の原因、各異常状態による影響、各異常状態に対処する処置などのリストを保存する指導者作成リスト13が含まれる。記憶部12には、更に、指導者が予定する危険予知訓練のテーマ14、プラントで現実に予想される異常状態15、オペレータがブレーン・ストーミングで作成したリスト16などが保存される。
【0022】
訓練指示/データ受付部17は、指導者によるテーマの選定や、オペレータが作成したデータなどを受け付けて、これを記憶部12に保存し、或いは、シミュレーション選定部18に受け渡す。シミュレーション選定部18は、危険予知訓練で選定されたテーマ、および/または、選定された異常状態に従って、シミュレータ19によって模擬すべき運転状態を選定し、その運転状態でシミュレータ19がプラントを模擬するように指示する。シミュレータ19は、シミュレーション選定部18で指示された異常状態などを含むプラントの運転状態を時系列的に模擬して、シミュレータ19の表示部(図示せず)に表示する。
【0023】
図2は、図1の訓練シミュレータ装置10を用いて行われる、本発明の一実施形態の危険予知訓練方法を示すフローチャートである。訓練指導者は、先ず危険予知訓練で取り上げるべき異常な事象を含む運転状態をテーマとして選定する(ステップ201)。次いで、訓練指導者は、選定したテーマを訓練シミュレータ装置10に入力する。訓練シミュレータ装置10は、その異常状態を含むプラントの運転状態を模擬し、シミュレーションとして時系列的に表示する(ステップ203)。訓練参加者は、そのシミュレーションを観察する(ステップ204)。
【0024】
次いで、訓練参加者は、危険予知訓練のブレーン・ストーミング205に移行する。訓練参加者は、先のシミュレーション観察に基づいて、ブレーン・ストーミング205を4ラウンド法で実施する。訓練参加者は、先ず、ブレーン・ストーミング205の第1ラウンドにおいて、プロセスの異常な事象の原因と考えられる原因を、ブレーン・ストーミングを用いて考え得る限り列挙する(ステップ206)。次いで、第2ラウンドでは、第1ラウンドで列挙した考えられる原因のそれぞれについて、プロセスに波及する影響を考え得る限り列挙する(ステップ207)。訓練参加者は、第1および第2ラウンドの過程で、必要に応じて訓練シミュレータ装置10での観察を挟みながら、ブレーン・ストーミング205を実施する(ステップ208)。
【0025】
次いで、訓練参加者は、ブレーン・ストーミング205の第1および第2ラウンド(ステップ206、207)で想定された原因のリストアップ中から、シミュレーション結果を参照して、想定したプロセスの異常事象で最も可能性が高い原因の1つを特定する(ステップ209)。次いで、第3ラウンドに移行し、特定した原因に対処する処置方法を列挙する(ステップ210)。
【0026】
次いで、訓練参加者は、再度、訓練シミュレータ装置10上で、異常事象を再現させ(ステップ211)、かつ、先に特定した処置をその訓練シミュレータ装置10に適用し(ステップ212)、その結果をシミュレーションさせる。訓練参加者は、その適用結果を訓練シミュレータ装置10上で観察する(ステップ213)。処置が不十分であれば、ステップ203に戻り(ステップ214)、シミュレーションを再度実施する。必要に応じて、観察ステップ204、ブレーン・ストーミング205の第1〜第3ラウンド(ステップ206、207、209、210)、および、シミュレーション(ステップ211)、処置(ステップ212)、観察(ステップ213)を繰り返す。
【0027】
訓練シミュレータ装置10の観察で、処置が適切であると最終的に判定されれば、ステップ216に移行し(ステップ215)、ブレーン・ストーミング205の第4ラウンドを実施し、設備改造や作業標準の改訂などの恒久対策を列挙する。その後、訓練内容の反省、まとめを行い(ステップ217)、必要に応じて実際に設備改造や作業標準の改訂を実施する(ステップ218)。
【0028】
訓練シミュレータ装置10のシミュレータ19は、上記のように、プラント本体の全般的な運転状態、および、細部の運転状態を模擬する機能を有する。プラント本体は、例えばDCS〈分散制御システム)コンピュータによって制御されている。シミュレータ19は、パーソナルコンピュータ上で実現される模擬プラントであり、同様にパーソナルコンピュータ上で実現される模擬DCSによって、オペレータによる入力を受け付ける。
【0029】
上記実施形態では、訓練シミュレータ装置10は、危険予知訓練のために特別に開発されたコンピュータ・プログラムを搭載している。このコンピュータ・プログラムは、以下のようにコンピュータ〈訓練シミュレータ装置)を作動させる。
【0030】
まず、訓練シミュレータ装置10は、異常事象を含むかまたは含まない特定の運転状態が指定されると、その指定に基づいて、プラントの任意の運転状態を時系列的に再現しこれを模擬する。訓練シミュレータ装置10は、訓練指導者が事前に用意した異常事象の原因、その影響、および、その原因を取り除く処置の各リストを保持している。訓練シミュレータ装置10は、シミュレーション作動中に、何れかの処置が施されたとする入力を受け付けると、そのような処置が施されたプラントの運転状態を模擬する。
【0031】
訓練シミュレータ装置10は、管理者の許可を得てシミュレーションモデルを編集する。例えば、訓練シミュレータ装置10は、ブレーン・ストーミング205の第4ラウンド216で示された恒久対策を受け付けると、そのような恒久対策が施されたプラントを模擬するシミュレーションが可能である。恒久対策には、プラントの設備改造や、作業標準の改定などが含まれる。
【0032】
訓練シミュレータ装置10は、指導者またはオペレータの入力に応答して、ステップ209で得られた原因と、予め指導者により登録された原因とを対比させて表示することも出来る。また、その際に、オペレータによって与えられたリストを、指導者のリストと比較して、これを採点することも出来る。
【0033】
本発明の危険予知訓練装置、および、危険予知訓練方法では、ブレーン・ストーミングとシミュレーションとを組み合わせて、オペレータの危険予知訓練を行う構成を採用した。このため、オペレータは、そのブレーン・ストーミング中に或いはこれに後続して、プラントの異常状態や、その異常状態に対処する処置によるプラントの運転状態の変化を視覚的に模擬体験することが出来るので、訓練内容の理解が容易になり、その結果、危険予知訓練の効果が大幅に向上する。
【0034】
本発明を特別に示し且つ例示的な実施形態を参照して説明したが、本発明は、その実施形態及びその変形に限定されるものではない。当業者に明らかなように、本発明は、添付の特許請求の範囲に規定される本発明の精神及び範囲を逸脱することなく、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0035】
10:訓練シミュレータ装置
11:登録部
12:記憶部
13:指導者作成リスト
14:テーマ
15:異常状態
16:オペレータ作成リスト
17:訓練/データ受付部
18:シミュレーション選定部
19:シミュレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オペレータの入力を受け付けて、プラントの任意の運転状態を模擬し出力するシミュレータと、
プラントの異常状態に対応する初期状態を記憶する記憶手段と、
前記異常状態に対処する処置の入力があると、その入力に応答するプラントの運転状態を前記初期状態から続けて模擬するように前記シミュレータに指示する指示手段と、を備えることを特徴とする危険予知訓練装置。
【請求項2】
前記記憶手段は、前記異常状態と、該異常状態が発生する原因、該異常状態による影響、および、該異常状態に対処する処置の少なくとも1つとを対応させるリストを保持することを特徴とする、請求項1に記載の危険予知訓練装置。
【請求項3】
前記シミュレータは、プラントの任意の運転状態を時系列的に模擬することを特徴とする、請求項1または2に記載の危険予知訓練装置。
【請求項4】
前記異常状態に対処する処置の入力があると、前記記憶手段のリストに含まれる処置のリストを参照して、前記入力された処置の評価を行う評価手段を更に備えることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載の危険予知訓練装置。
【請求項5】
危険予知訓練装置を用い、プラントのオペレータのための危険予知訓練を行う方法であって、
危険予知訓練装置が、危険予知訓練のテーマを受け付けて、該テーマに対応するプラントの運転状態を模擬し、オペレータに提示するステップと、
危険予知訓練装置が、オペレータによるブレーン・ストーミングで得られた異常状態を受け付けて、該異常状態を模擬するステップと、
危険予知訓練装置が、前記ブレーン・ストーミングで得られたプラントの異常状態に対処する処置を受け付けて、該処置に応答するプラントの運転状態を模擬するステップと、を順次に有することを特徴とする危険予知訓練方法。
【請求項6】
プラントのオペレータのための危険予知訓練を行う危険予知訓練装置に用いるプログラムであって、前記危険予知訓練装置に、
危険予知訓練のテーマを受け付けて、該テーマに対応するプラントの運転状態を模擬する処理と、
オペレータによるブレーン・ストーミングで得られた異常状態を受け付けて、該異常状態を模擬する処理と、
前記ブレーン・ストーミングで得られたプラントの異常状態に対処する処置を受け付けて、該処置に応答するプラントの運転状態を模擬する処理と、を順次に実行させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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