説明

即席麺類の製造方法

【課題】 低温で乾燥処理する即席麺は、生麺を茹で戻した時のような滑らかで質感のある独特の食感を有するが、即席フライ麺や熱風乾燥麺に比べて麺線中の生菌数が非常に多い。低温で乾燥する即席麺の麺質、利点を維持しながら、麺線中の生菌数を抑制する低温乾燥即席麺の製造方法を提供する。
【解決手段】 α化処理した麺線を、60℃以下の温度で低温乾燥させて水分含量を12%以下とし、水分含量を12%以下まで乾燥させた麺線を、水分含量が12%以上にならないように蒸煮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麺をα化させた後に低温で乾燥させる即席麺類の製造方法および該即席麺における制菌処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
即席麺は水分含量が低いために保存性に優れ、調理においても熱湯を注加して数分間放置するだけ、あるいは1〜3分程度煮込むだけで復元して喫食でき、極めて簡便性が高い。しかし、一般的な即席麺は一度α化した麺線をさらに高温で乾燥処理するために、生麺や乾麺を茹で戻した麺とは異なる食感や見た目を有する。すなわち、即席フライ麺は、フライによる乾燥時の膨化により麺線が非常にポーラスな構造であるため、ふかついたような質感のない食感となる。また、一般的なノンフライ麺である熱風乾燥即席麺の場合、熱風によって乾燥処理するために麺線表面に膜が張ったような食感となる。従って、いずれの場合でも、乾燥時の熱のために麺線表面は荒れ、生麺を茹で戻したような滑らかで質感のある食感にはならない。
【0003】
そこで、このような即席麺を、生麺を茹で戻して喫食する麺の食感に近づける方法として、α化した麺線を低温で乾燥処理する技術がある。即席麺を低温で乾燥する方法としては、麺線を凍結させて、凍結したままの状態で水分を昇華させて乾燥する凍結乾燥麺の技術の他、麺線を凍結させた後解凍しながら低温乾燥する技術、麺線を凍結させずに氷温から低温で乾燥させる技術がある(以下、これらの低温で乾燥する即席麺を「低温乾燥即席麺」といい、乾燥温度として60℃を超えない乾燥を「低温乾燥」という。ただし、低温乾燥即席麺としては、乾燥工程における温度が完全に60℃以下である必要はなく、乾燥温度の主体が60℃以下であれば、例えば乾燥の仕上げ段階のみ60℃以上で短時間処理するような麺も本発明の低温乾燥即席麺に含む)。
【0004】
前記の内、凍結乾燥の技術としては下記の特許文献1の他多数、また、凍結後解凍しながら乾燥する技術としては特許文献2、特許文献3、特許文献4、また、凍結させずにごく低温で乾燥する技術としては特許文献5、特許文献6、特許文献7等がある。ところが、本発明者らはこのように乾燥処理を低温で行った低温乾燥即席麺の製品において、その生菌数を分析したところ、生菌数が非常に多いものがあることを知見した。
【0005】
生菌数は、即席麺の製造工程において水洗や着味の工程を有するか、あるいはα化後の冷却時間の違いや工場の衛生状態等によって大きな違いがあるものの、フライ麺や熱風乾燥麺に比較して、これら低温乾燥即席麺の場合には、10の2乗から4乗のオーダーで多い場合も認められた。即席麺は最終製品の水分含量を低くしているので、保存中に菌数が増えることはほとんど無く、低温で乾燥処理した即席麺であっても通常の保存方法で保存される場合には特に問題が生じるものではない。しかし、菌数が多いということは、食中毒菌等の病原菌の混入の確率が増すことであり、また、これを高湿度下で保存して、局所的に水分の高い箇所が存在する場合には、腐敗の恐れも生じる。
【0006】
このように低温で乾燥処理を行う即席麺において菌数が多いのは、最終の乾燥工程が低温で行われることに最大の要因があると考えられる。一般的に、低温で乾燥処理を行う即席麺の場合には、麺の湯戻りを良くするために麺線を充分にα化し、α化後の水分含量を高くするが、このような場合、麺線表面のぬるみを取ること、および麺線を締めるなどの目的で冷水での冷却・水洗を行うのが一般的である。また、麺線同士の結着を抑える目的で、ほぐれ改良材を含む液(着味液に混合する場合が多い)に接触させる場合もある。これらの溶液(着味液、冷却液を含む)は菌が増殖し易く、この液を吸着した麺線は、以降の乾燥工程で高い熱が掛からないために菌が死滅しない。すなわち、フライ麺や熱風乾燥麺の場合、乾燥工程は高温で行われるため、この高温での乾燥処理によってかなりの菌を死滅させることができるが、低温乾燥即席麺の場合は乾燥温度が低温であり、しかも乾燥に要する時間が長いことによって、菌が死なずに、場合によっては乾燥工程中にも増殖したり、乾燥工程中に落下菌等に汚染される可能性もある。
【0007】
そこで、本発明者らは低温乾燥によって製品化した即席麺を85℃の恒温乾燥器に30分間投入してみたが、生菌数はほとんど変化しなかった。また、85℃での乾燥工程を低温乾燥工程の途中のいろいろな段階において30分間づつ導入して生菌数の変化を確認したが、低温乾燥工程中のどの段階に導入しても30分程度では生菌数をあまり削減することはできず、また、低温乾燥麺らしい食感も失われる傾向にあった。
【0008】
これに対して、低温乾燥した即席麺の最終商品を蒸煮(蒸気での加熱)した場合には、加熱時間が短時間であっても生菌数を格段に減らすことができた。しかし、この処理を麺線の水分含量が高いうち、すなわち低温乾燥処理の初期〜中期段階に導入して行うと、生菌数を減らす効果が弱く、かといって処理時間を長くすると低温乾燥麺らしい食感が失われ、風味の劣化も生じた。さらに、蒸煮処理を低温乾燥処理の初期〜中期段階で行うと、以降の乾燥工程中において落下菌の付着等による菌数の増加の可能性もあって好ましくない。
【0009】
本発明者らは、上記のような検討結果を踏まえて、麺線の菌数を抑制するために麺線を蒸煮する場合、低温乾燥即席麺の麺質や風味を維持するためには、蒸煮する際の、麺線の水分含量が特定の数値以下であることが好ましいこと、また、当該特定の水分含量に至るまで乾燥が進められている場合には、蒸煮処理した後の再(二次)乾燥処理は、必ずしも低温で行わなくとも、低温乾燥処理による麺質を保持できること等を知見して本発明とした。
【0010】
なお、麺中の細菌等を殺菌あるいは制菌する技術としては、エタノールや有機酸を表面処理する技術、プロタミンやグリシン等静菌剤を添加する技術、マイクロ波照射する技術等多数の技術があるが、いずれも、生麺、茹で麺、生タイプLL麺等水分を多く含むウェットな麺における技術であり、本発明のように、乾燥状態にある即席麺、とりわけ低温乾燥即席麺において低温乾燥によるメリットを生かしながら、麺線中の生菌数を減らすための技術については、本発明者の知る限りでは先行技術は見当たらない。
【0011】
【特許文献1】特開昭54-35228号
【特許文献2】特開平1-153055号
【特許文献3】特開平1-225454号
【特許文献4】特開平3-280850号
【特許文献5】特開昭64-85061号
【特許文献6】特開平1-137946号
【特許文献7】特開2001-252037号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は麺線をα化処理後低温で乾燥する低温乾燥即席麺において、低温で乾燥することによるメリット、すなわち、フライ麺や熱風乾燥麺と異なる、生麺を茹で戻した時に近い滑らかで質感のある食感を維持しながら、かつ麺線中の生菌数を抑制する方法、およびそれを用いた即席麺類の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決する手段としては、次のような即席麺類の製造方法が提案できる。すなわち、麺線をα化処理する工程、α化処理した麺線を60℃以下の低温で乾燥させて水分含量を20%以下とする工程、低温乾燥によって水分含量を20%以下とした麺線を蒸煮処理する工程、低温乾燥後蒸煮処理した麺線を二次乾燥処理(60℃以下でも60℃以上でも可)し、麺線の水分含量を12%以下とする工程、の各工程を含む即席麺類の製造方法である。この方法によれば、低温乾燥によって得られる麺質や風味を維持しながら、製品麺線中の生菌数を抑制することができる。なお、本発明でいう蒸煮とは、蒸気で加熱することをいい、100℃又はそれに近い温度以上の飽和蒸気や100℃以上の過熱蒸気を用いた蒸し処理をいう。また、麺線の最終水分含量(製品の水分含量)を12%以下とするのは、即席麺としての保存性を付与するためのものであり、12%以上ではカビの発生、風味の劣化等の問題が生じる場合がある。
【0014】
また、前記製造方法において、二次乾燥処理を60℃以上、好ましくは60〜100℃として麺線の水分含量を12%以下とすることができる。これは、低温乾燥によって既に麺線の水分含量が20%以下に到達している場合、その後の乾燥温度を60℃以上に高くしても低温乾燥による麺質を充分に維持できるという知見に基づくものであり、このような二次乾燥処理方法を採ることで、麺線の乾燥時間を短縮することが可能となる。
【0015】
そして、上記課題を解決する本発明の即席麺類の製造方法は、麺線をα化処理する工程、α化処理した麺線を60℃以下の低温で乾燥させて水分含量を12%以下好ましくは10%以下とする工程、低温乾燥によって水分含量を12%以下好ましくは10%以下とした麺線を、水分含量が12%以上にならないように蒸煮処理する工程、の各工程を含む即席麺類の製造方法である。このように低温乾燥によって水分含量を12%以下まで落とし、蒸煮処理によっても麺線の水分含量を12%以下に保持した場合には、必ずしも前述した製造方法のように、二次乾燥処理を必要とせずに、製品化することが可能である。なお、低温乾燥による到達水分含量を好ましくは10%以下とするのは、蒸煮処理の際に水分含量が0〜2%程度上昇する場合があるためである。
【0016】
なお、本発明は、前記低温で乾燥させて水分含量を12%以下にする工程が、60℃以下で水分含量が20%以下に達した後、乾燥温度を60℃以上に上げて水分含量を12%以下とする工程としてもよい。これは、水分含量を20%程度まで減らした後は60℃以上まで温度を上げて乾燥しても麺質に与える影響が少ないためである。
【0017】
また、上記課題を解決する別の手段としては、次のような即席麺類の製造方法も提案できる。すなわち、麺線をα化処理する工程、α化処理した麺線を60℃以下の低温で乾燥させて水分含量を20%以下とする工程、低温乾燥によって水分含量を20%以下とした麺線を過熱蒸気によって蒸煮処理して麺線の水分含量を12%以下とする工程、の各工程を含む即席麺類の製造方法である。これは、蒸煮処理を過熱蒸気を用いて処理するもので、100℃以上の過熱蒸気を用いることで、蒸気をかけながら同時に乾燥も進めることができ、この場合、二次乾燥処理を省略することも可能である。なお、この方法の場合でも、低温乾燥による麺質を維持しながら麺線の生菌数を抑制できる。
【0018】
また、本発明は、上記の即席麺類の製造方法において、蒸煮処理が好ましくは10秒〜3分間、特に好ましくは15秒〜2分間の比較的短時間麺線を蒸気で加熱するものである。このような短時間の処理によって、麺線の生菌数を蒸煮処理しない場合に比較して、1/100〜1/10000以下に削減することができる。
【0019】
また、本発明は、上記の即席麺類の製造方法において、前記麺線をα化処理する工程の後、60℃以下の低温で乾燥させる工程の前に、α化処理した麺線を60℃以下の溶液に接触させる工程をさらに含む即席麺類の製造方法である。この溶液へのα化麺線の接触工程は、低温乾燥する前に麺線を冷却する、または麺線に着味、あるいはほぐれ改良剤を塗布する工程であり、麺線を溶液に浸漬する、あるいは麺線に溶液を噴霧する工程である。この工程において溶液の温度が60℃以下の場合は、麺線中の生菌数が格段に上昇する場合が多く、従って本発明の製造方法は、α化処理した麺線にこのような60℃以下の溶液を接触させる工程を有する低温乾燥即席麺に採用する場合に特に好ましい。
【0020】
また、本発明は、上記の即席麺類の製造方法において、好ましくは、60℃以下の低温での乾燥処理が、α化処理した麺線を一旦凍結させて、この凍結させた麺線を解凍しながら行なう乾燥処理である。このように麺線をα化後一旦凍結させ、凍結させた麺を、解凍しながら(凍結したまま乾燥する凍結乾燥とは異なる)60℃以下で乾燥することで、より滑らかで密度感のある低温乾燥麺らしい高品質の麺を安定的に製造することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、低温乾燥即席麺の特徴である、即席麺でありながら生麺を茹でた時のような調理感があり、麺質も密度感が高く、滑らかで、風味食感のよい本格的な麺が得られる。また、従来の一般的な即席麺に比べて、不自然なウェーブがなく、また、一般的なノンフライ即席麺である熱風乾燥麺よりはるかにほぐれの良い麺とすることができる。そしてこのような低温乾燥即席麺の麺質、利点を維持しつつ、低温乾燥即席麺の麺線中の生菌数をフライ麺、熱風乾燥麺と同等以下に抑制することができる。
【0022】
特に、本発明においては、60℃以下での低温での乾燥処理によって、麺線の水分含量を落としてから蒸煮処理することで、蒸煮時間が非常に短い時間であっても制菌効果に著効を奏し、蒸気による加熱が麺質に与える影響を最小限〜ほとんどなくすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、即席麺の製造工程に順じて本発明を詳細に説明する。
本発明に用いられる麺原料としては、小麦粉を主原料とし、澱粉、そば粉、各種穀粉等が使用できる。また、副原料としては、即席麺において一般的に使用されている卵白や各種増粘類、グルテン、食塩、かんすい、色素等を添加することができる。これらは、主原料と一緒に粉体で添加しても、練り水に溶かすか懸濁させて添加してもよい。
【0024】
本発明においては、即席麺製造の常法に従って、上記の主原料、副原料と練り水を良く混練して麺生地を作成し、これを圧延して切り出すか、エクストルーダー等によって押出して生麺線を得る。そして、混練、麺帯作成、押出し等の工程においては、麺線を緻密にして質感を向上させるために、減圧下、もしくは真空下で混練、押出し等を行うこともできる。
【0025】
次いで得られた生麺線をα化するが、本発明の麺は60℃以下の低温で乾燥させるので、水分含量が高くなるような方法でα化するのが望ましい。これは、水分含量を一般のフライ麺や熱風乾燥即席麺並みの状態として低温乾燥すると、麺の湯戻りが悪い食感となり、また、茹でたての生麺のようなコシと粘りが得られにくい等の問題があるためである。具体的には、水分含量は60%以上、好ましくは65〜75%まで上げておくのが好ましく、α化する方法としては、茹でを行うのが良く、しかも沸騰した湯内で充分に茹でるのが好ましい。一般的に即席フライ麺や熱風乾燥即席麺の場合、蒸しでα化するが、蒸しでは水分含量は通常30%台であるので、蒸しを行う場合には、茹でと組み合わせるか、多加水とするか、蒸しの前後あるいは蒸しの途中工程において麺線に湯を充分に含ませるような処理を行うのが良い。水分含量65%とは、切り刃20番の生麺線の場合で3分程度茹で処理した状況であり、そのまま喫食した場合では、茹で過ぎの状態である。なお、上記では生麺線をα化する工程を説明したが、必ずしも生麺線に限らず、乾麺や即席麺を茹で戻してα化しても良い。
【0026】
α化処理した麺は、一旦冷却するのが望ましい。一般的には、麺線結着防止や麺線を締める等の目的を兼ねて、水洗、水冷を行ない液切りする。また、好ましくは麺線への着味、喫食時のほぐれ改良等を目的として、食塩、グルタミン酸ソーダ、ほぐれ改良剤(レシチンや水溶性ヘミセルロース)等を含む溶液(着味液)に麺線を浸漬するか、または麺線にこれらの溶液を噴霧する。通常、低温乾燥する即席麺の場合、前述したように水分含量が高く、充分にα化した状態まで茹で処理するのが望ましいので、麺線間での結着が起こり易い。従って、低温乾燥即席麺の場合には、特にほぐれ改良剤を含む液を麺線に付着させておくのが好ましい。
【0027】
低温乾燥即席麺において最終製品の生菌数に対する影響は、この水洗、着味液の影響が大きいので、これらの溶液には生菌数の少ないものを用いるのが好ましい。しかし、水洗については麺線に水道水をシャワーする方法も採用できるが、着味液(ほぐれ改良剤のみの液も含む)を使用する場合には、溶液に麺線を浸漬する方法を用い、浸漬液は常時少量づつ溶液を補充する方式とするのが一般的である。あるいは、噴霧方式を採ることもできるが、その場合でも溶液は普通、循環補充方式が採られる。従って、着味液を用いる場合は、液中の菌数が次第に増加してしまう。
【0028】
本発明者らの知見によると、この着味液の温度を常時60℃以上とすれば、液中の生菌数を大幅に減らすことができるが、60℃以上では冷却の効果が得られなくなり、また、風味の変化や麺線表面にヌルミが出る場合が多い。従って、低温乾燥する即席麺の場合は着味液を60℃以上としないのが、好ましい麺質を得るには望ましく、このような場合、麺線の生菌数が非常に多くなり易いので、本発明の方法を使用することが特に有効である。なお、着味液(ほぐれ改良剤のみの液も含む)や冷却水に、アルコールやプロタミン等の制菌剤を添加することも考えられ、実際にこれらを添加することもできるが、この場合も風味や食感に影響が生じる場合が多い。
【0029】
次いで麺線を一旦凍結して乾燥するか、または凍結せずに低温で乾燥する。一旦凍結して乾燥する方法としては、凍結状態を維持したまま真空状態にして乾燥する凍結乾燥法、一旦凍結した後解凍しながら低温で乾燥する特開平1-153055号(特許文献2)、特開平3-280850号(特許文献4)等の方法がある。また、冷凍せずに低温下で乾燥する方法としては、特開昭64-85061号(特許文献5)、特開平1-137946号(特許文献6)、特開2001-252037号(特許文献7)等の方法等が例示できる。
【0030】
凍結乾燥法はトレー等に入れて一旦冷凍した麺塊を、トレーに入れたままあるいはトレーから出して、凍結乾燥庫で真空ポンプで減圧して乾燥する。乾燥温度は状況によって様々なものが可能であるが、一般的には30〜60℃程度の温度(棚温)で10〜30時間程度乾燥させる方法が推奨できる。
【0031】
一旦凍結した麺塊を解凍しながら乾燥する方法は、トレー等に入れて凍結させた麺塊を、トレーに入れたまま、あるいはトレーから出して大気圧下で冷風を当てて乾燥する。乾燥温度は特開平1-153055号(特許文献2)の方法は氷温下、特開平3-280850号(特許文献4)の方法では湿潤状態で15〜18℃程度で乾燥する。しかし、これらの方法では、乾燥に極めて長い時間を要するので、本発明者らの開発した以下のような方法によっても、低温乾燥麺らしい品質を付与することができる。すなわち、α化した麺を完全凍結し、初めは50℃以下の温度で麺線の水分含量が凍結前の水分含量を下回るまで解凍しながら乾燥し(麺が凍結しているため結露作用によって当初は一旦水分含量が増える)、次いで60℃以下で水分含量が20%以下まで乾燥が進んだ状態となった後、60℃以下または60℃以上で乾燥する。一旦凍結させてから解凍しながら低温で乾燥させる方法の方が、凍結させずに低温で乾燥させるよりも、量産化した場合の品質の安定性等の点で優れている。
【0032】
凍結させずに乾燥する方法は、氷温に近い温度状態を保ちながらゆっくり乾燥させる特開平1-137946号(特許文献6)等の方法が好ましいが、特開2001-252037号(特許文献7)のように35℃以下での乾燥でもある程度の品質のものが得られる。このように凍結させずに低温で乾燥させる場合でも、水分含量を20%程度まで減らした後は60℃以上まで温度を上げて乾燥させても麺質に与える影響は少ない。
【0033】
本発明では、上記したような低温での乾燥方法によって、水分含量12%以下(好ましくは10%以下)の、即席麺としての保存性に問題がない状態まで乾燥させた場合には、これを水分含量が12%以上にならないように、蒸煮処理すればよい。しかし、低温での乾燥工程において、水分含量が20%以下に達した時点であれば、長時間でなければ、この時点で蒸煮処理を行っても、低温乾燥処理によって乾燥させた麺質にはほとんど影響を与えない。また、水分含量が20%以下に達している場合には、60℃以上で乾燥処理を行っても、低温乾燥処理によって得た麺質を維持できる。
【0034】
なお、低温乾燥による乾燥工程によって麺線の水分含量を12%以下とした場合でも、特に通常の飽和蒸気(常圧100℃以下)を用いて蒸煮した場合には、処理後の麺線表面が濡れた状態となる場合が多いので、麺線表面に付着した余分な水分を除くために二次乾燥処理を行うのが好ましい。一方、蒸煮処理が過熱水蒸気(常圧のまま飽和蒸気を100℃以上に加熱したもので、温度が高いために麺線を乾燥させる効果を有する)を用いた場合、温度、蒸気量によっては麺線の水分含量を減少させることもできるので、低温乾燥後の麺線水分含量が12〜20%の範囲であっても、二次乾燥工程を不要にできる場合もある。
【0035】
本発明の蒸煮の条件としては、蒸気庫で100〜800kg/m3/hr程度の蒸気流量とするのが好ましく、時間としてはかなり短い時間、すなわち10秒〜5分程度、好ましくは10秒〜3分程度、特に好ましくは15秒〜2分程度が良い。10秒以下では制菌効果が充分で無い場合があり、5分以上、あるいは蒸気流量が多い場合では3分以上行うと、低温乾燥即席麺らしい麺質を喪失する場合がある。また、蒸煮を過熱蒸気を用いて行う場合、これによって麺線の乾燥をさらに進めることを期待する場合には、過熱蒸気の蒸気庫中央付近の温度(麺線が触れる温度)で125〜180℃程度とするのが良い。
【0036】
このようにして製造され、水分含量12%以下に乾燥処理された低温乾燥即席麺は、喫食に際して熱湯を注加して3〜5分程度放置するだけ、あるいは1〜3分程度炊いて調理するだけで喫食できる簡便性の高い麺となる。製品の形態は、カップ入り麺、袋麺いずれも可能で、ラーメン等中華麺、うどん、そば等和風麺、スパゲティー等いずれの麺にも応用可能である。
【実施例】
【0037】
本発明を実施例に基づいて、以下に具体的に説明するが、本発明は、これら実験例、実施例の開示に基づいて限定的に解釈されるべきでない。
【0038】
[実験例1](低温乾燥方法による菌数の推移)
まず、低温乾燥法の乾燥工程において麺線の生菌数の推移を以下の方法で検討した。
小麦粉950gに澱粉50gを混合し、これにかんすい(炭酸ナトリウム+炭酸カリウム)10g、ポリリン酸ナトリウム1g、クチナシ色素1gを溶解した練り水350mlを加えてミキサーで15分間混練して麺生地を作成した。これを圧延機で麺帯厚1.1mmまで圧延し、角刃20番で切り出して麺線とし、1食分110gにカットした。これを充分な沸騰水で3分間茹で過ぎの状態まで茹でて、約20℃の水道水でよく水洗冷却して麺線温度を下げた後液切りし、次いで下記の着味液に30秒間浸漬して液切りし、直径145mm、高さ50mmの円柱形トレーに投入した。この時の麺重量は250g麺線水分は72%であった。これを−35℃の冷凍庫に入れて急速冷凍して30分間で完全凍結させ、乾燥処理前のサンプルとした。
【0039】
前記、完全凍結させた麺塊サンプルを乾燥庫内温度40℃湿度約20g/m3風速3m/sで2.5時間、続いて乾燥庫内温度50℃湿度約20g/m3風速3m/sで1時間低温乾燥処理を行い、麺線の水分含量を約10%まで乾燥した。さらに仕上げ乾燥として温度を70℃に上げて湿度約20g/m3風速3m/sでさらに30分間乾燥し、最終水分含量を約8%とした。なお、麺の水分含量は測定時の重量と全原料の乾燥重量を比較して計算した。
【0040】
着味液は、食塩1%、グルタミン酸ソーダ0.3%、水溶性ヘミセルロース(ほぐれ改良剤)1%を含む溶液で、製造工場で8時間連続的に麺線の着味に用いられた(浸漬による方法で麺線に吸着される分を常時補充する方式のもの)着味液を、さらに20時間室温で放置したものを用いた。着味液の温度は約20℃。この着味液中の細菌数と、乾燥前の冷凍麺塊、40℃での乾燥後、50℃での乾燥後、70℃での乾燥後の各麺線の生菌数を測定した。
【0041】
生菌数(一般生菌数)の検査方法は、以下の方法によった。すなわち、試料10g(10ml)を滅菌シャーレに無菌的に秤量し、滅菌生理食塩水90mlを加え、ストマッカーで試料を充分に液中に分散懸濁させた後、適当と思われる倍率まで段階希釈した。この希釈液1mlに対して標準寒天培地20mlをシャーレに分注して混合し、35℃で48時間培養後、平板上に出現したコロニー数を計測し、2枚の平板の平均を求め、希釈倍率を乗じて試料1g(1ml)当たりの生菌数を求めた。なお、生菌数の測定方法は、以降の他の実施例でも同様に行った。
【0042】
結果は、着味液中の一般生菌数は 3.4×10/ml、
乾燥前の冷凍麺の一般生菌数は 3.2×10/g、
40℃乾燥後で 5.9×10/g(水分24%)、
50℃乾燥後で 1.5×10/g(水分9%)、
70℃乾燥後で 1.7×10/g(水分8%)、であった。
この結果から、低温乾燥法では麺線の生菌数をほとんど削減できないことが理解され、また仕上げ乾燥をある程度高温にしても制菌効果は期待できないことが理解された。
【0043】
[実施例1]
実験例1で用いた着味液と同様にして別の日に作成した着味液を10倍に希釈し、これを用いて実験例1と同様にして乾燥前の冷凍状態のサンプルを作成した。着味液の生菌数は3.0×10/mlであった。乾燥工程も実験例1と同じとして、50℃での低温乾燥が終了した時点(水分含量約9%)で、下記表1の各条件で飽和蒸気または過熱蒸気によって蒸煮して、蒸煮後、乾燥温度を70℃湿度約20g/m3風速3m/sとして30分間二次(再)乾燥処理を行った。
【0044】
乾燥処理後麺線の菌数を測定すると同時に、450mlの熱湯を注いで4分間放置して復元させ、5人のパネラーで試食して官能評価を行った。なお、比較例として低温乾燥後の蒸煮処理を行わずに、50℃での低温乾燥後そのまま70℃で30分間乾燥したものをコントロールとして比較した。蒸煮条件は、飽和蒸気(常圧)の場合は蒸気流量200または400kg/m3/hr、過熱蒸気の場合は蒸気流量700kg/m3/hr、蒸気庫中央部実測温度146℃で行った。最終の麺線の水分含量はいずれも約8〜10%であった。
【0045】
結果を表1に示すが、蒸煮処理を行ったものはいずれも生菌数が抑制された(飽和蒸気400kg/m3/hr×30秒は前後のデータから、菌検査時のコンタミによるものと思われる)。また、麺の食感は飽和蒸気400kg/m3/hr×60秒において、わずかに熱風乾燥即席麺に類する膜を張ったような食感を感じたが、いずれも低温乾燥即席麺らしい、滑らかで質感のある食感が維持されていた。
【0046】
【表1】

【0047】
上記の実施例の内、飽和蒸気200kg/m3/hr(常圧)で30秒蒸煮したもの、過熱蒸気700kg/m3/hrで30秒蒸煮したものについて(50℃乾燥後の水分含量9%)、蒸煮後再乾燥しないで室内で放置したものを同時に作成した。放置後重量を測定し、水分含量を測定したところ、飽和蒸気で蒸煮したものは10%、過熱蒸気を使用したものは9%であった。共に、前記の二次(再)乾燥処理を行ったもの同様、熱湯を注いで4分間放置して喫食したところ、低温乾燥即席麺らしい滑らかで質感のある食感の麺であった。
【0048】
[実施例2]
実験例1と同様に別の日に作成した着味液を用い、実験例1と同様にして乾燥前の冷凍状態のサンプルを作成した。着味液の菌数は1.0×10/mlであった。この凍結サンプルを40℃湿度約20g/m3風速3m/sで2.5時間乾燥させた(水分含量24%)後、続いて50℃湿度約20g/m3風速3m/sで、15分、20分、30分、35分、40分、45分と、実験例1と同じ60分まで低温乾燥した。
【0049】
低温乾燥後麺塊重量を測定して水分含量を計算し、すぐに蒸煮条件200kg/m3/hrで30分間飽和蒸気中(常圧)で蒸煮した。さらに二次(再)乾燥処理として水分含量が10%以下になったと思われるまで、乾燥温度を70℃に上げて乾燥し、重量を測定して得られた製品の水分含量を計算した。乾燥処理後の麺線の生菌数を測定し、実施例1同様5人のパネラーで試食して官能評価を行った。なお、比較例として前記50℃の低温乾燥を60分間として、蒸煮処理を行わなかったものをコントロールとして比較した。
【0050】
結果を表2に示すが、水分含量が約20%以下になるまで低温での乾燥処理を行ったものは低温乾燥麺らしい滑らかで質感のある食感が得られたのに対し、低温乾燥処理によって水分含量が概ね25%程度までしか乾燥させなかった場合には、低温乾燥即席麺らしい食感を得ることができなかった。また、蒸煮を行う時期は、予め水分含量を低くして行った方が殺菌効果は高く、特に低温乾燥での乾燥処理によって水分含量を約15%以下とした後に蒸煮するのが、最も殺菌効果が高まると考えられた。
【0051】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
即席麺類の製造方法であって、
麺線をα化処理する工程、
α化処理した麺線を60℃以下の低温で乾燥させて水分含量を12%以下とする工程、
低温乾燥によって水分含量を12%以下とした麺線を水分含量が12%以上にならないように蒸煮処理する工程、の各工程を含む即席麺類の製造方法。
【請求項2】
前記低温で乾燥させて水分含量を12%以下にする工程が、60℃以下で水分含量が20%以下に達した後に乾燥温度を60℃以上に上げて水分含量を12%以下とする工程である、請求項1に記載の即席麺類の製造方法。
【請求項3】
前記蒸煮処理が、10秒〜3分間麺線を蒸気で加熱する処理である請求項1または2に記載の即席麺類の製造方法。
【請求項4】
前記麺線をα化処理する工程の後、α化処理した麺線を60℃以下の低温で乾燥させる前に、α化処理した麺線を60℃以下の溶液に接触させる工程をさらに含む、請求項1から3のいずれかに記載の即席麺類の製造方法。
【請求項5】
前記60℃以下の低温での乾燥処理が、α化処理した麺線を一旦凍結させて、凍結させた麺線を解凍しながら行なう乾燥処理である請求項1から4のいずれかに記載の即席麺類の製造方法。

【公開番号】特開2008−29356(P2008−29356A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−270876(P2007−270876)
【出願日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【分割の表示】特願2004−87504(P2004−87504)の分割
【原出願日】平成16年3月24日(2004.3.24)
【出願人】(000226976)日清食品株式会社 (127)
【Fターム(参考)】