説明

即席麺類の風味安定化方法

【課題】即席麺類の風味をよく保持し、製造直後のあっさりした風味や旨味を安定化する方法を提供する。
【解決手段】麺生地に醤油とトコフェロールを配合することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、即席麺類の風味を安定化させる方法に関する。さらに本発明は、風味が安定化された即席麺類およびその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
即席麺類の保存性は比較的良好であるが、製造、流通、保存などの過程において、経時的に風味が劣化するなどの問題があり、その解決が望まれていた。保存中の風味劣化を防止する方法としては、ビタミンE、クエン酸およびクエルセチンを含有する食品用酸化防止組成物(例えば、特許文献1参照)、小麦粉に大麦粉、玄米粉、そば粉などの穀粉類などを酸味漬けして加えて麺類を製造することを特徴とする麺類の鮮度保持と品質の向上を図る麺類の製造方法(例えば、特許文献2参照)、トコフェロールその他の抗酸化剤を噴霧添加し製麺する即席麺の製造方法(例えば、特許文献3参照)、カリン、マンゴー、ミロバラン、ザクロ又は五倍子から溶媒を用いて抽出された抽出物の1種類以上を含有することを特徴とする油脂含有食品の風味劣化防止剤(例えば、特許文献4参照)、植物性硬化油で揚げられた油揚げ麺において、油揚げ麺固有の風味減少を防止するための食用有機化合物が添加されることを特徴とする植物性硬化油で揚げられた油揚げ麺(例えば、特許文献5参照)などが提案されているが、いずれもその効果としては充分とは言えなかった。
【特許文献1】特開昭49−086557
【特許文献2】特開昭62−236455
【特許文献3】特開昭63−254955
【特許文献4】特開2002−058427
【特許文献5】特表2002−536972
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、即席麺類の製造直後の風味をよく保持し、特に製造直後のあっさりした風味や旨味を安定化する方法を提供することを目的とする。さらに本発明は、風味が安定化された即席麺ならびにその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討を行った結果、麺生地に醤油とトコフェロールを配合することにより製造された即席麺類の製造時の風味が長期間にわたり安定化することを見出した。本発明者らはこの知見を得て、さらに検討を重ねて本発明をなすに至った。
【0005】
すなわち、本発明は
(1)麺生地に醤油とトコフェロールを配合することを特徴とする即席麺類の風味安定化方法、
(2)麺生地に醤油とトコフェロールを配合することを特徴とする風味が安定化された即席麺類の製造方法、
(3)麺生地に醤油とトコフェロールが配合されていることを特徴とする風味が安定化された即席麺類、
(4)醤油の配合量が、麺生地に含まれる原料粉100質量部に対して0.1〜2.0質量部であることを特徴とする前記(3)に記載の即席麺類、および
(5)トコフェロールの配合量が、麺生地に含まれる原料粉100質量部に対して0.001〜1.0質量部であることを特徴とする前記(3)に記載の即席麺類、
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明に従えば、麺生地に醤油とトコフェロールを配合することにより、醤油とトコフェロールとのいずれか一方を用いるよりも醤油とトコフェロールの両者を用いることにより、驚くべきことに、相乗的と言い得る優れた効果がもたらされる。少量の醤油とトコフェロールを即席麺類に配合することにより長期間にわたり小麦粉本来の優れた風味を有する即席麺類の提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、麺生地に醤油とトコフェロールを配合することを特徴とする即席麺類の風味安定化方法、風味の保存安定性に優れた即席麺類ならびにその製造方法を提供する。
【0008】
本発明に係る醤油としては、例えば魚、エビなどの魚貝類を醗酵させて作った魚醤、米、麦、豆などの穀物を醗酵させて作った穀醤、野菜、果物などを醗酵させて作った草醤、鶏、獣などの肉を醗酵させて作った肉醤などが挙げられ、好ましくは魚醤である。魚醤としては、例えばハタハタを原料とするしょっつる、いわし、さば、いかなどを原料とするいしるなど伝統的な魚醤の外に、鮭、鰹、ほっけなどを原料とする魚醤、東南アジアで使われているナンプラーなどが挙げられる。また、これら醤油類を賦形剤などとともに噴霧乾燥し、粉末化したものを用いてもよい。そのような賦形剤としては、例えば乳糖、デキストリン、結晶セルロース、マルチトールなどが挙げられる。
【0009】
本発明に係るトコフェロールとしては、粗製植物油、例えば、大豆油、ヒマワリ油、菜種油、綿実油、サフラワー油、トウモロコシ油、米ぬか油、パーム油、パーム核油などから分離・精製される抽出トコフェロール、または合成品であるdl−α−トコフェロールなどが挙げられ、α−、β−、γ−、δ−トコフェロールなどの混合物である抽出トコフェロールが好ましく、γ−、δ−トコフェロール含有量の高い抽出トコフェロールが更に好ましい。トコフェロールは黄〜赤褐色の粘性のある油状の液体であり、そのままで用いることができるが、通常、トコフェロールを賦形剤などと共に乳化液とし、該乳化液を噴霧乾燥し粉末化した製剤、水中油型乳化液あるいは可溶化液などに加工した製剤など公知のトコフェロール製剤を用いるのが好ましい。上記賦形剤としては、例えば乳糖、デキストリン、結晶セルロース、マルチトールなどが挙げられる。
【0010】
本発明の即席麺類は麺生地材料と醤油ならびにトコフェロールを混合し、混合物を用いて製麺することにより製造される。
醤油とトコフェロールを麺生地に配合する方法に制限はないが、例えば原料粉と水を主原料として、必要であればその他の原材料を混合して麺帯を作る段階で、該原料粉に醤油とトコフェロールを配合し、混合するのが好ましい。原料粉としては、例えば小麦粉、そば粉、米粉などの穀粉、または前記穀粉に澱粉(馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、タピオカ澱粉など)もしくは加工澱粉(例えばアセチル化タピオカ澱粉など)等の賦形剤を混合した粉などが挙げられる。原料粉は2種以上を混合して用いてもよい。その他の原材料としては、例えば、食塩またはかん水などが挙げられる。その醤油の配合量は、原料粉約100質量部に対して約0.1〜2.0質量部、好ましくは約0.3〜1.5質量部であり、トコフェロールの配合量は、原料粉約100質量部に対して、トコフェロール換算として通常約0.001〜1.0質量部、好ましくは約0.001〜0.1質量部、さらに好ましくは約0.01〜0.05質量部である。
【0011】
本発明における即席麺類としては、例えば麺塊を油揚げした油揚げ即席麺類、熱風乾燥や真空凍結乾燥などにより麺塊を乾燥させたノンフライ乾燥即席麺類などが挙げられる。油揚げ即席麺類としては、例えばうどん、蕎麦、ラーメン、パスタなどが挙げられる。ノンフライ乾燥即席麺としては、例えばラーメンなどの中華麺、例えばうどん、蕎麦などの和風麺、例えばヌードル、スパゲティなどの洋風麺などが挙げられる。
【0012】
上記油揚げ即席麺類は、好ましくは例えば次のようにして製造される。即ち、醤油およびトコフェロール、穀粉、水およびその他の麺生地製造に使用する原材料を混合し、該混合物から圧延工程により麺帯を作り、該麺帯を麺線に切り出し製麺する。混合時間は即席麺の種類に応じて適宜決定されるが、通常約8〜20分、好ましくは約10〜15分である。麺線の切り出し寸法は、目的とする即席麺の種類などに応じて適宜設定することができる。例えば、即席中華麺の場合は、通常、厚さ約0.7〜1.3mm、幅約1.1〜3.5mm程度が好ましい。次いで、該麺線を、例えば水蒸気式蒸煮処理機などの蒸煮処理設備を用いて蒸煮してα化し、一食分の長さに切断し、噴霧液を噴霧する。次に、噴霧液を噴霧した麺線を水切りし、さらに該麺線表面及び該麺線間に残留する余剰の水分を除去した後、油揚げする。上記蒸煮は、α化、すなわち熱によりデンプン粒の結合がα(アルファ)化(糊化)する温度であればよく、通常約60℃以上であれば良いが、効率良くα化を行なうためには、約80℃以上、さらに約90〜110℃が好ましい。蒸煮時間は、蒸煮する麺の量、太さなどにより異なるが、通常約1〜60分程度、好ましくは、約1〜30分程度である。上記噴霧液は、水でもよいが、水に調味料、例えば塩、甘味料(例えば蔗糖、白糖など)、化学調味料(例えばグルタミン酸ナトリウムなど)等を溶解した水溶液が好ましい。
【0013】
油揚げ工程で用いる油脂としては、例えば大豆油、菜種油、パーム油、コーン油などの植物油などが挙げられ、好ましくは大豆油、パーム油などである。油揚げの温度に特に制限はないが、油揚げの温度として約130〜180℃、特に約140〜160℃が好ましい。また油揚げ時間にも特に制限はないが、油揚げ時間として約0.3〜5分、特に約1〜3分が好ましい。
【0014】
また上記ノンフライ乾燥即席麺は、例えば前記述の水切りした麺線を乾燥することにより製造される。乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、赤外線加熱乾燥または真空凍結乾燥などの方法を適宜選択もしくは組み合わせて行えばよい。乾燥条件としては、麺線の水分が約14.5質量%以下となるようにすればよく、例えば、熱風乾燥の場合、乾燥温度が約60〜120℃、乾燥時間が約5〜60分程度が好ましい。
【0015】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0016】
[油揚げ即席麺の作製と評価]
(1)油揚げ即席麺の原材料
小麦粉(製品名:特飛龍:日清製粉社製)
澱粉(製品名:さくら:松谷化学工業社製)
食塩(製品名:精製塩微粒:日本食塩製造社製)
かん水(製品名:粉末かんすい赤:オリエンタル酵母工業社製)
魚醤(製品名:シーベストA:理研ビタミン社製)
トコフェロール(製品名:理研ドライEミックスF−20,トコフェロール含量20質量%:理研ビタミン社製)
【0017】
(2)油揚げ即席麺の原材料の配合割合
実施例1および2、比較例1〜3および対照の油揚げ即席麺の原材料の配合割合を表1に示す。
【表1】

【0018】
(3)油揚げ即席麺の作製方法
表1に示した原材料の配合割合に基づいて、各所定の原材料をミキサー一体型製麺機(型式:MODEL−MG−77;スズキ麺工社製)を用いて12分間混合し、ロール圧延により得た厚さ1mmの麺帯を幅1.2mmに細断して各麺線を得た。これらの各麺線200gを100℃にて11分間蒸煮し、得られた各蒸し麺90gに対し20gの噴霧液を噴霧後、型詰した。型詰した各蒸し麺を150℃のパーム油の中で1分〜1分30秒間油揚げし、得られた各油揚げ即席麺を室温にて放冷した。室温にて放冷した各油揚げ即席麺をビニール袋に入れ、さらにアルミ袋にいれた後ヒートシールした。なお、噴霧液としては、水940gに食塩40g、上白糖10gおよびグルタミン酸ナトリウム10gを溶解した水溶液を用いた。
【0019】
(4)油揚げ即席麺の官能評価
上記(3)の方法により得られた油揚げ即席麺を温度40℃の暗所に3週間および6週間保存した。保存後の油揚げ即席麺の官能評価を行った。下記表2に示す官能検査評価基準に従い10名のパネラーで評価を行ない、評点の平均点を求め、以下に示す評価基準にしたがって記号化した。その結果を表3に示した。
◎:極めて良好 平均点3.5以上
○:良好 平均点2.5〜3,4
△:やや悪い 平均点1.5〜2.4
×:悪い 平均点1.4以下
【0020】
【表2】

【0021】
【表3】

【0022】
本発明の実施例1、2は、長期間保存しても劣化味がなく、製造直後のようなあっさりした麺の風味を保っていた。
【0023】
[ノンフライ乾燥即席麺の作製と評価]
(1)ノンフライ即席麺の原材料
小麦粉(製品名:特No1:日清製粉社製)
澱粉(製品名:さくら:松谷化学工業社製)
食塩(製品名:精製塩微粒:日本食塩製造社製)
かんすい(製品名:粉末かんすい赤:オリエンタル酵母工業社製)
魚醤(製品名:シーベストA:理研ビタミン社製)
トコフェロール(製品名:理研ドライEミックスF−20,トコフェロール含量20質量%:理研ビタミン社製)
【0024】
(2)ノンフライ即席麺の原材料の配合割合
実施例3および4、比較例4〜6および対照のノンフライ即席麺の原材料の配合割合を表4に示す。
【0025】
【表4】

【0026】
(3)ノンフライ乾燥即席麺の作製方法
表4に示した原材料の配合割合に基づいて、各所定の原材料をミキサー一体型製麺機(型式:MODEL−MG−77 スズキ麺工社製)を用い12分間混合し、次いでロール圧延により得た厚さ1mmの麺帯を幅1.2mmに細断し各麺線を得た。得られた各麺線80gを100℃にて10分間蒸煮し、蒸しあがった各麺線を5秒間水に浸漬しほぐした。これらの水に浸漬しほぐした各麺線を水切りした後、乾燥機(型式:PV−211、タバイエスペック社製)を用い95℃にて20分間乾燥し、室温にて放冷した。室温にて放冷した各麺線をビニール袋に入れ、ビニール袋に入れた各麺線をさらにアルミ袋にいれた後ヒートシールしノンフライ乾燥即席麺を得た。
【0027】
(4)ノンフライ乾燥即席麺の官能評価
上記(3)の方法により得られたノンフライ乾燥即席麺を温度40℃の暗所に保存し、6週間保存後および12週間保存後のノンフライ乾燥即席麺の官能評価を行った。上記した油揚げ即席麺の場合と同様の評価基準に従い官能評価を行い、その結果を表5に示した。
【0028】
【表5】

【0029】
本発明の実施例3および4は、長期間保存しても劣化味がなく、製造直後のようなあっさりした麺の旨味風味を保っている。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、長期間保存しても劣化味がなく、製造直後のあっさりした麺の風味と旨味を保つ即席麺類の製造方法として有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
麺生地に醤油とトコフェロールを配合することを特徴とする即席麺類の風味安定化方法。
【請求項2】
麺生地に醤油とトコフェロールを配合することを特徴とする風味が安定化された即席麺類の製造方法。
【請求項3】
麺生地に醤油とトコフェロールが配合されていることを特徴とする風味が安定化された即席麺類。
【請求項4】
醤油の配合量が、麺生地に含まれる原料粉100質量部に対して0.1〜2.0質量部であることを特徴とする請求項3に記載の即席麺類。
【請求項5】
トコフェロールの配合量が、麺生地に含まれる原料粉100質量部に対して0.001〜1.0質量部であることを特徴とする請求項3に記載の即席麺類。