説明

卵を使用しないインフルエンザウイルスワクチンの作製

現在、ワクチン製造者へのインフルエンザ株の放出前に行なわれるステップは、インフルエンザウイルスを卵を通じて継代するステップを含む。本発明は、卵の使用が低減され、好ましくは完全に回避されるような、インフルエンザワクチンの製造において有用な手順を提供することを目的とする。たとえば、インフルエンザワクチン単離に鶏卵を用いる代わりに、MDCK細胞(マディンダービーイヌ腎臓細胞)を用いてもよく、MDCK細胞は、たとえば懸濁中で生育する、無血清培地中で生育する、無タンパク質培地中で生育する、非腫瘍形成性である、重層培地の不在下で生育されるなどであってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書において引用されるすべての文献は、その全体がここに引用により援用される。
【0002】
本発明は、インフルエンザウイルスに対する保護のためのワクチンの製造の技術分野に属する。
【背景技術】
【0003】
ヒトインフルエンザウイルス感染に対するシーズンワクチンを調製するための現行方法は、次のステップを含む[1、2(非特許文献1、非特許文献2)]:(a)流布しているウイルス株の単離;(b)単離されたウイルスの抗原性および遺伝子の分析;(c)来シーズンに用いるウイルス株の選択;(d)再集合または逆遺伝学の使用による高生育のシード株の調製;(e)ワクチン製造者へのシード株の放出;(f)製造者によるその株の工業的生産に対する好適性の評価;および(g)シード株の生育によるウイルスの生産、およびそのウイルスからのワクチン製造。
【0004】
この方法のステップ(a)から(e)は、FDAおよび政府認可の国際インフルエンザセンターによって、典型的には世界保健機関の後援の下で行なわれる;ステップ(f)および(g)は、製造者自身によって行なわれる。
【0005】
ステップ(d)では、本来ヒトに感染するために適合したウイルスを、工業的生育条件下で高力価に生育するウイルスに移行させる。インフルエンザAウイルスに対しては、このステップは典型的に6:2再集合体株を生成するステップを含み、この再集合体株は(c)で選択された株からのHAおよびNAをコードするゲノムセグメントと、鶏卵において効率良く生育する株からの残り6つのゲノムセグメントとを含み、この株は通常はA/PR/8/34である。この再集合手順の後に、発育鶏卵中でこの株を繰り返し継代することによって、卵への順応および生育の増大を可能にする。インフルエンザBウイルスに対しては、良好な生育特徴を有する先祖株は通常、再集合体の生成を試みることなく直接発育鶏卵中で繰り返し継代することによって得られる。
【0006】
よって、ワクチン製造者への放出前に行なわれるステップは、卵を通じてインフルエンザウイルスを継代するステップを含む。たとえステップ(g)において製造者が卵ではなく細胞培養基上でウイルスを生育したとしても、ウイルスはステップ(a)における単離からステップ(e)における製造者による受取りまでの間のいずれかの段階において、卵を通じて継代される。
【0007】
たとえばステップ(a)は、患者のサンプルに培養基を露出させて、サンプル中のあらゆるウイルスを培養基に感染させるステップを含む。次いで培養基は存在するウイルスの量を増幅でき、増幅されたウイルスはさらなる研究のために利用可能となる。このステップは卵または哺乳動物細胞において行なわれてもよい。一次単離に用いられることが公知の細胞は、MRC−5細胞[3]、ベロ細胞[4、5]、MDCK細胞[6]、HepG2細胞[7]、LLC−MK2細胞[8]などを含む。しかし一般的には、インフルエンザワクチンの製造のための基準株を単離するために鶏卵が用いられ続けている。現行の手順にとって卵の使用は非常に重要であり、2003〜04年のシーズンにおいて、FDAは最も適切なH3N2株(A/Fujian/411/2002)の使用を、この株が元々卵において単離されたものではなく[2(非特許文献2)、9]、かつ抗原性が類似した卵から単離された株が入手不可能であるという理由から拒絶したほどである。
【0008】
インフルエンザウイルス製造のさまざまな段階から卵の使用を排除することが以前から提案されてきた。
【0009】
参考文献10(特許文献1)は、単離体または再集合体が鳥類の卵において継代されていなければ、(i)継代された臨床的単離体の高生育株、または(ii)少なくとも1つの自然発生する哺乳動物のインフルエンザウイルス株に由来する再集合体のいずれかを用いて細胞培養物中でワクチンを生育すべきであると提案している。よって参考文献10(特許文献1)に記載される方法は、選択された細胞培養物中での生育のためにすでに選択または操作されたシードウイルスから始まっている。
【0010】
参考文献11(特許文献2)は、卵を通じて継代されたウイルスをMDCK細胞を通じて継代されたウイルスと比較しているが、ワクチン製造に対しては前者を特定的に選択している。
【0011】
参考文献12(非特許文献3)は、パンデミックインフルエンザワクチンに対するシードウイルスを、発育鶏卵を介さずに哺乳動物細胞培養物上で直接パンデミック株を増殖させることによって調製できることを示唆しているが、パンデミック間の(inter−pandemic)製造のためには卵継代をする義務があると述べている。このように卵継代が義務的である理由は、卵継代が偶発的な物質(adventitious agents)に対する「フィルタ」の役割をすると考えられているためである:ヒトからの元々の臨床的単離と、ヒトへの投与のための最終的なワクチンとの間の、鳥類系における一連の継代は、哺乳動物型の偶発的な物質がインフルエンザウイルスとともに複製することを防ぐことを規制機関は受入れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第6,344,354号明細書
【特許文献2】米国特許第5,162,112号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Gerdil Vaccine(2003)21:1776-9
【非特許文献2】Palese Emerging Infectious Diseases(2006)12:61-65
【非特許文献3】Medema et al. Virus Res.(2004)103(1-2):9-15
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、卵の使用が低減され、好ましくは完全に回避されるような、インフルエンザワクチンの製造において有用なさらなる手順を提供することを目的とする。1つの特定の局面において、本発明はインフルエンザウイルスの単離において有用なさらなる改善された手順を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明の開示
インフルエンザウイルス製造のさまざまな段階から卵の使用を排除することが従来から提案されてきたが、本発明はこれらの提案とはさまざまな局面において異なる。
【0016】
シードウイルスの調製
本発明の第1の局面は、ワクチン製造のためのインフルエンザシードウイルスを調製するための方法を提供し、この方法は(i)患者から直接得られたインフルエンザウイルスまたは一次単離体から得られたインフルエンザウイルスを細胞株に感染させるステップと;(ii)ステップ(i)において得られた感染細胞株からのウイルスを少なくとも1回継代するステップと;(iii)インフルエンザウイルスを生成するためにステップ(ii)からの感染細胞を培養するステップとを含む。ステップ(iii)の培養物から精製されたインフルエンザウイルスは、シードウイルスとして使用できる。
【0017】
参考文献12とは対照的に、ステップ(i)において用いられるインフルエンザウイルスは、インフルエンザBウイルスか、または非パンデミックのインフルエンザAウイルス、すなわち現時点ではインフルエンザAのH1N1またはH3N2株である。
【0018】
ステップ(i)、(ii)、(iii)のいずれも卵におけるウイルスの生育または継代を含まない。好ましくはこれらのステップのうち少なくとも2つ、理想的には3つのステップすべてが同じ細胞型の中で行なわれ、たとえばすべてがMDCK細胞の中で行なわれる。
【0019】
ステップ(ii)における継代は典型的に次のステップを含む:細胞培養物中でインフルエンザウイルスを複製させるステップ;たとえば培養上清などから複製ウイルスを回収するステップ;および回収された複製ウイルスを未感染の細胞培養物に移すステップ。この方法を繰り返すことができる。少なくとも1回の継代の後、ステップ(iii)においてウイルスは複製され、ウイルスは回収されるが、このウイルスはさらなる継代のために未感染の培養物に移されるのではなく、シードウイルスとして用いられる。
【0020】
第1の局面とともに用いられる細胞株は、ヒトの細胞株ではないことが好ましい。ヒト細胞の使用を避けることによって、卵を使用しなくても偶発的な物質の「ろ過」を維持できる。ヒトとの密接な関係から、細胞株は霊長類の動物の細胞株でもないことが好ましく、たとえばベロ細胞(サルの腎臓に由来する)などではないことが好ましい。参考文献10は、ワクチン製造の際にベロ細胞を使用することを提案しているが、この細胞は多くのヒトウイルスを許容するため、ステップ(i)において用いられるインフルエンザウイルスサンプル中に存在するあらゆる他のヒトウイルスがインフルエンザウイルスと並行して生育でき、最終的なシードウイルスの汚染をもたらす。
【0021】
本発明の第1の局面とともに用いるための好ましい細胞株はイヌの細胞株、たとえばMDCK細胞株(マディンダービーイヌ腎臓(Madin Darby canine kidney)などであり、参考文献10の特定の教示とは相容れない。MDCK細胞のさらなる詳細を以下に示す。現在MDCK細胞は、偶発的な物質に対して鳥類の卵によって得られるのと同等の「ろ過」効果を示すことが見出されている。したがってこの発見に基づいて、調節のリスクを増すことなくMDCK細胞を卵の代りに用いることができ、参考文献13ではインフルエンザウイルスにおける卵継代がMDCK培養の際に生育を有利にすることが報告されてはいるが、卵における生育が回避される。
【0022】
参考文献14は、卵または細胞培養物中での継代を行なわずにヒトの患者から単離されたインフルエンザ株が、無血清培養物を含むMDCK細胞培養物において効率よく生育できることを開示している。よってステップ(i)における感染は、患者から直接得られた(例、咽頭のスワブなどからの)臨床的サンプルからのインフルエンザウイルスを用いてもよく、またはすでに一次単離されていたウイルスを用いてもよい。いくつかの状況において、ステップ(i)に先立つ一次単離は卵で行なわれてもよいが、本発明とともに用いられることが好ましい一次単離体は、卵を使用することなく、たとえば哺乳動物細胞などにおいて得られたものである。一次単離に用いられることが公知の細胞は、MRC−5細胞[3]、ベロ細胞[4、5]、MDCK細胞[6]、HepG2細胞[7]、LLC−MK2細胞[8]などを含むがこれらに限定されない。
【0023】
本発明がステップ(i)において一次単離体を用いるとき、一次単離はステップ(i)から(iii)と同じ細胞型において行なわれることが好ましい。MDCKはインフルエンザウイルスの一次単離、継代および生育のいずれに対しても好適であることがすでに公知であるが、MDCK単離における改善点は以下に記載される。
【0024】
インフルエンザウイルス単離体の履歴に関する知識を最大化するためには、一次単離体を用いるよりも臨床的単離体から直接得られたウイルスを用いる方が好ましい。現行のインフルエンザ監視システムは病院での一次単離を伴い、対象となる株は国立および国際インフルエンザセンターに送られる。患者のサンプルを一次単離に使用することに加え、一般的にはサンプルの一部を取分けて(例、凍結によって)保存し、再単離のときに元の材料に戻れるようにする。こうした保存サンプルが利用可能であるときには、ステップ(i)において一時単離体の代りに用いることができる。
【0025】
単離体の履歴が不明瞭であるとき、特に臨床的サンプルから直接得られたものでないウイルスから出発するときには、親ウイルスからの少なくとも1つのウイルスゲノムセグメントを有する新たなウイルス株を生成するために、ステップ(i)および(iii)の間に逆遺伝学を用いることができる。ステップ(i)および(iii)の間に逆遺伝学を用いることによって、ステップ(i)で用いられたウイルス産物をステップ(iii)で用いられたウイルス産物から分離するため、ステップ(i)の前に導入されたかもしれない偶発的な物質に対するフィルタとして作用できる。この態様で「フィルタ」として用いられることに加え、逆遺伝学技術は、たとえば再集合体の生成、コード配列の操作、特定のセグメントの置換など、他の理由のために用いられてもよい。さらなる詳細は、本発明の第2の局面に関連して以下に示される。
【0026】
インフルエンザウイルスの細胞培養とともに逆遺伝学を用いる
本発明の第2の局面は、ワクチン製造のためのインフルエンザシードウイルスを調製するための方法を提供し、この方法は(i)患者から直接得られたインフルエンザウイルスまたは一次単離体から得られたインフルエンザウイルスを細胞株に感染させるステップと;(ii)ステップ(i)において得られた感染細胞株によって生成されたインフルエンザウイルスの少なくとも1つのウイルスRNAセグメントのcDNAを調製し、そのcDNAを逆遺伝学手順に用いて、ステップ(i)のインフルエンザウイルスと同様の少なくとも1つのウイルスRNAセグメントを有する新たなインフルエンザウイルスを調製するステップと;(iii)細胞株に新たなインフルエンザウイルスを感染させ、次いでその新たなインフルエンザウイルスを生成するために細胞株を培養するステップとを含む。
【0027】
ステップ(i)において用いられるウイルスはあらゆるサブタイプのインフルエンザAウイルスであっても、またはインフルエンザBウイルスであってもよい。好ましいインフルエンザAウイルスのサブタイプは、H1、H3およびH5である。
【0028】
ステップ(i)、(ii)、(iii)のいずれも卵におけるウイルスの生育または継代を含まない。好ましくはこれらのステップはすべて同じ細胞型の中で行なわれ、たとえばすべてがMDCK細胞の中で行なわれる。
【0029】
本発明のこの第2の局面のさらなる特徴は、上記において第1の局面に対して記載されたものと同様である。すなわち、MDCK細胞の使用が好ましいことなどである。
【0030】
逆遺伝学技術については以下により詳細に説明される。ステップ(ii)において移されるゲノムセグメントはHAセグメントを含み、さらにNAセグメントおよび/または1つもしくはそれ以上のさらなるセグメントを含んでもよい。
【0031】
シードウイルス
本発明の第1および第2の局面は、シードウイルスを提供する。これらのシードウイルスはさまざまな態様で用いられ得る。
【0032】
シードウイルスを特徴付けることによって、たとえばそれらの核酸および/またはタンパク質の配列を決定したり、他の株(例、流布している株)に対するそれらの抗原性の関係をチェックしたり、それらの免疫原性をチェックしたりできる。典型的には、ウイルスHA遺伝子の配列を決定することによってHAアミノ酸配列を明らかにする。
【0033】
シードウイルスは抗血清を誘出するために用いられてもよい。
【0034】
シードウイルスはワクチン製造者に分配されてもよい。
【0035】
シードウイルスは将来的な使用のために保存されてもよい。
【0036】
シードウイルスは有効な(working)シードロットを調製するために用いられてもよい。このシステムは、有効なシードロットによって日々の使用を行ないながら元のシードウイルスを安全に保存することを可能にする。有効なシードは必要とされるまで凍結されていてもよい。有効なシードロットの調製は、好ましくはシードウイルスの調製に用いられたのと同じ細胞型の細胞培養物中でウイルスを生育させるステップを含んでもよい。有効なシードロットの調製には卵における生育は用いられない。
【0037】
シードウイルスは、ワクチン製造に対してウイルスを提供するための生育のため、または診断テストの調製に用いるために、細胞株に感染させるために用いられてもよい。
【0038】
本発明のシードウイルスは、現行の卵由来のシードウイルスと多くの特徴を共有するが、さまざまな態様で異なっていてもよい。
【0039】
たとえば、以下により詳細に説明されるとおり、本発明の好ましいインフルエンザAシードウイルスは、PR/8/34インフルエンザウイルスからの6つより少ない(すなわち0、1、2、3、4または5つの)ウイルスセグメントを含む。
【0040】
卵を含まないワクチン製造
本発明の第3の局面は、ワクチン製造のためのインフルエンザウイルスを調製するための方法を提供し、この方法は(i)集団中に流布しているインフルエンザウイルスか、または集団中に流布しているインフルエンザウイルスを抗原的に代表する赤血球凝集素を有するインフルエンザウイルスを得るステップと;(ii)ステップ(i)において得られたインフルエンザウイルスを細胞株に感染させるステップと;(iii)ステップ(ii)における感染細胞株から得られたウイルスを少なくとも1回継代してシード株を生じさせるステップと;(iv)インフルエンザウイルスを生成するためにステップ(iii)からのシード株を培養するステップとを含む。
【0041】
第1および第2の局面が互いに異なる(上記を参照)のと同じ態様で、本発明の第4の局面は、ワクチン製造のためのインフルエンザウイルスを調製するための方法を提供し、この方法は(i)集団中に流布しているインフルエンザウイルスか、または集団中に流布しているインフルエンザウイルスを抗原的に代表する赤血球凝集素を有するインフルエンザウイルスを得るステップと;(ii)ステップ(i)において得られたインフルエンザウイルスを細胞株に感染させるステップと;(iii)ステップ(i)において得られた感染細胞株によって生成されたインフルエンザウイルスの少なくとも1つのウイルスRNAセグメントのcDNAを調製し、そのcDNAを逆遺伝学手順に用いて、ステップ(i)のインフルエンザウイルスと同様の少なくとも1つのウイルスRNAセグメントを有するインフルエンザシードウイルスを調製するステップと;(iv)細胞株にインフルエンザシードウイルスを感染させ、次いでインフルエンザウイルスを生成するためにステップ(iii)からの継代された細胞株を培養するステップとを含む。
【0042】
本発明は、インフルエンザウイルスワクチンを調製するための方法も提供し、この方法は第3または第4の局面のステップ(i)から(iv)と、それに続く(v)ステップ(iv)において得られたウイルスを処理してワクチンを生じさせるステップとを含む。ステップ(v)において用いられる技術の詳細を以下に示す。
【0043】
ステップ(i)、(ii)、(iii)、(iv)または(v)のいずれも卵におけるウイルスの生育または継代を含まない。
【0044】
ステップ(i)において用いられるウイルスはあらゆるサブタイプのインフルエンザAウイルスであっても、またはインフルエンザBウイルスであってもよい。好ましいインフルエンザAウイルスのサブタイプは、H1、H3およびH5、たとえばH1N1またはH3N2などである。
【0045】
ステップ(i)において用いられるウイルスは、その一次単離のときから卵において継代されておらず、好ましくは元々ウイルスを提供した患者からステップ(i)の始まりまでの間のいかなる段階においても卵において継代されていない。
【0046】
「抗原的に表わす」という用語はインフルエンザワクチンの技術分野において、実際に集団内の広範な流布の中にはないかもしれないが、製造の目的のために便利であって、流布中の株から保護できる免疫応答を誘出するようなウイルス株を示すために用いられる。「抗原的に表わす」株によって誘出された血清は、たとえば血球凝集阻害アッセイなどにおいて、流布する株を阻害できる。
【0047】
ステップ(i)は、いくつかの異なる株から始めて、さらなる使用のための株を選択するステップを含んでもよい。たとえばこのステップは、インフルエンザAウイルスのいくつかの異なるH1N1株から始めて、さらなる使用のための株を選択するステップを含んでもよい。このステップは、インフルエンザAウイルスのいくつかの異なるH3N2株から始めて、さらなる使用のための株を選択するステップを含んでもよい。このステップは、インフルエンザBウイルスのいくつかの異なる株から始めて、さらなる使用のための株を選択するステップを含んでもよい。この選択は、たとえば流布中の最も一般的な株および/または最も病原性のある株を抗原的に代表する株を選択するなどのために、インフルエンザウイルスの含有物に対して株を選択するときにルーチン的に用いられる免疫学的および血清学的な基準に基づく。
【0048】
ステップ(iii)の後には、シードウイルスがステップ(i)において得られた株を抗原的に代表することを確認するステップが続いてもよい。この検証ステップはステップ(iv)が始まる前に行なわれても、ステップ(iv)に並行して行なわれてもよい。
【0049】
本発明は、インフルエンザウイルスワクチンを調製するための方法も提供し、この方法は(a)第1の局面のステップ(i)から(iii)または第2の局面のステップ(i)から(iv)のいずれかを含む方法によって調製されたウイルスを得るステップと;(b)このウイルスを処理してワクチンを生じさせるステップとを含む。
【0050】
したがって全体として、本発明の第3および第4の局面は、患者のサンプル(または一次単離体)からのインフルエンザワクチンの生成を可能にし、ワクチンを調製するために用いられるインフルエンザウイルスはいずれの段階でも卵を通じて継代されない。
【0051】
ウイルス再集合
本発明の第5の局面は、再集合体インフルエンザウイルスを調製するための方法を提供し、この方法は(i)ゲノムセグメントの第1の組を有するインフルエンザウイルスの第1の株と、ゲノムセグメントの第2の組を有するインフルエンザウイルスの第2の株との両方を細胞株に感染させるステップを含み、ここで第1の株は所望の赤血球凝集素をコードするHAセグメントを有し、この方法はさらに(ii)ステップ(i)からの感染細胞を培養して、ゲノムセグメントの第1の組からの少なくとも1つのセグメントおよびゲノムセグメントの第2の組からの少なくとも1つのセグメントを有するインフルエンザウイルスを生成するステップを含み、ここではゲノムセグメントの第1の組からのその少なくとも1つのセグメントが第1の株からのHAセグメントを含むことが前提となっている。よってこの方法は、少なくともHAセグメントを第1の株から第2の株に移すことによって、卵を用いることなく、第1または第2の株のいずれかからのウイルスゲノムセグメントの異なる集合を有する新たな再集合体株を生成できる。
【0052】
ステップ(ii)の培養物から精製されたインフルエンザウイルスは、本明細書の別の場所に記載されるとおりに用いられ得る。再集合体は第1の株よりも改善された生育特徴を示してもよい。
【0053】
この再集合体は、所望のノイラミニダーゼをコードする第1の株からのNAセグメントを含んでもよい。
【0054】
この再集合体は一般的に、第1の株および第2の株からのセグメントを1:7、2:6、3:5、4:4、5:3、6:2または7:1の比率で含む。典型的には株の大部分が第2の株からのものである。
【0055】
この方法は、インフルエンザAウイルスとインフルエンザBウイルスとの再集合体を生成するために用いられてもよい。いくつかの実施形態において、インフルエンザAウイルスに対する第2の株はPR/8/34となるが、セグメントNP、M、NS、PA、PB1またはPB2のうち1、2、3、4または5つだけをPR/8/34と共有するその他の株を用いることも可能である。
【0056】
本発明は、第5の局面の再集合方法によって得ることのできるインフルエンザウイルスも提供する。本発明は、こうしたウイルスのワクチン製造における使用も提供する。
【0057】
ステップ(i)または(ii)のいずれも卵におけるウイルスの生育、再集合または継代を含まない。本明細書の別の場所に記載されるとおり、再集合方法は、単離および継代に用いられるのと同じ細胞型(例、MDCK細胞)において便利に行なわれ得る。
【0058】
第1の株は、便利には患者から直接得られたインフルエンザウイルスまたは一次単離体から得られたインフルエンザウイルスであってもよい。
【0059】
ウイルス単離
上述のとおり、インフルエンザウイルス単離のために卵が用いられる傾向が強い。本発明の第6の局面は、代りにMDCK細胞を用いる。いくつかの実施形態において、MDCK細胞は懸濁液中で生育される。他の実施形態において、MDCK細胞は無血清培地または無タンパク質培地中で生育される。他の実施形態において、MDCK細胞は非腫瘍形成性である。他の実施形態において、MDCK細胞は重層培地の存在下で生育されない。
【0060】
よって、本発明は患者のサンプルからインフルエンザウイルスを単離するための方法を提供し、この方法は患者のサンプルがMDCK細胞とともにインキュベートされるステップを含み、ここでMDCK細胞は懸濁培養中で生育している。
【0061】
加えて、本発明は患者のサンプルからインフルエンザウイルスを単離するための方法を提供し、この方法は患者のサンプルがMDCK細胞とともにインキュベートされるステップを含み、ここでMDCK細胞は無血清培地中で生育している。
【0062】
加えて、本発明は患者のサンプルからインフルエンザウイルスを単離するための方法を提供し、この方法は患者のサンプルがMDCK細胞とともにインキュベートされるステップを含み、ここでMDCK細胞は無タンパク質培地中で生育している。
【0063】
加えて、本発明は患者のサンプルからインフルエンザウイルスを単離するための方法を提供し、この方法は患者のサンプルが非腫瘍形成性のMDCK細胞とともにインキュベートされるステップを含む。
【0064】
加えて、本発明は患者のサンプルからインフルエンザウイルスを単離するための方法を提供し、この方法は患者のサンプルがMDCK細胞とともにインキュベートされるステップを含み、ここでMDCK細胞は重層培地に提供されない。
【0065】
加えて、本発明は患者のサンプルからインフルエンザウイルスを単離するための方法を提供し、この方法は患者のサンプルがMDCK細胞とともにインキュベートされるステップを含み、ここでMDCK細胞は無血清懸濁培養中で生育している。
【0066】
加えて、本発明は患者のサンプルからインフルエンザウイルスを単離するための方法を提供し、この方法は患者のサンプルがMDCK細胞とともにインキュベートされるステップを含み、ここでMDCK細胞は無タンパク質懸濁培養中で生育している。
【0067】
加えて、本発明は患者のサンプルからインフルエンザウイルスを単離するための方法を提供し、この方法は患者のサンプルが非腫瘍形成性のMDCK細胞とともにインキュベートされるステップを含み、ここでMDCK細胞は懸濁培養中で生育している。
【0068】
加えて、本発明は患者のサンプルからインフルエンザウイルスを単離するための方法を提供し、この方法は患者のサンプルが非腫瘍形成性のMDCK細胞とともにインキュベートされるステップを含み、ここでMDCK細胞は無血清懸濁培養中で生育している。
【0069】
加えて、本発明は患者のサンプルからインフルエンザウイルスを単離するための方法を提供し、この方法は患者のサンプルが非腫瘍形成性のMDCK細胞とともにインキュベートされるステップを含み、ここでMDCK細胞は無タンパク質懸濁培養中で生育している。
【0070】
本発明は、これらの方法の1つによって単離されたインフルエンザウイルスも提供する。本発明は、こうしたウイルスのワクチン製造における使用も提供する。
【0071】
患者のサンプルとMDCK細胞とのインキュベーションによって、一般的には、たとえばヒトインフルエンザウイルス、特にヒトインフルエンザAウイルスなどのインフルエンザウイルスがMDCK細胞に感染する。ウイルスは細胞中で複製でき、複製されたウイルスは次いで回収され得る。任意には、そのウイルスはたとえば検出、特徴付け、分析、シードウイルスの調製、操作などの下流の方法ステップにおいて用いられ得る。
【0072】
MDCK細胞における単離後、ウイルスはMDCK細胞中で継代および/または生育されてもよい。代替案として、ウイルスは非MDCK細胞または卵または別の培養基中で継代および/または生育されてもよい。
【0073】
本発明の第6の局面は、MDCK細胞株の使用を含む。元のMDCK細胞株はATCCから入手可能だが、本発明の第6の局面はこの細胞株の誘導体を用いる。以下に示すとおり、これらの誘導体における単離は元のMDCK細胞株における単離よりも優れていることが示されている。好適なMDCK細胞およびそれらの特徴については、以下により詳細に考察する。
【0074】
たとえば、第6の局面のいくつかの実施形態は、懸濁培養において自発的に複製できるMDCK細胞株を用いる。参考文献30は、懸濁培養中での生育に適合されたMDCK細胞株を開示しており、この細胞株(「MDCK33016」)は第6の局面の方法に対して特に有用である。MDCK33016は無血清培養物中で生育でき、重層培地を必要とすることなく生育できる。無血清培養を含む懸濁培養中で生育できる別のMDCK細胞株は、「B−702」細胞株である[36;下記を参照]。
【0075】
第6の局面とともに用いるための非腫瘍形成性MDCK細胞株は、参考文献37に開示される細胞株、たとえば「MDCK−S」、「MDCK−SF101」、「MDCK−SF102」、および「MDCK−SF103」などを含む(下記を参照)。
【0076】
第6の局面のいくつかの実施形態において、MDCK細胞は無血清培地および/または無タンパク質培地中で生育する。
【0077】
いくつかの特定の先行技術の方法とは異なり、本発明の第6の局面は、インフルエンザウイルス単離の際に重層培地を用いる必要性を回避できる。
【0078】
上述のとおり、ウイルスはMDCK細胞に露出される前に卵中で生育されないことが好ましい。加えて、上述のとおりMDCK細胞中で生育されたウイルスはその後卵中で生育されないことが好ましい。
【0079】
第6の局面で用いられる患者のサンプルに対して、インフルエンザウイルス単離に用いられる臨床的サンプルはさまざまな形を取り得るが、典型的には以下を含むがそれらに限定されない呼吸分泌物を含む:直接的吸引物;うがい液;鼻洗浄液;鼻スワブ;咽喉スワブ;咽頭スワブなど。これらのサンプルは一般的に、インフルエンザウイルス感染が疑われる患者から取られ、その中にはインフルエンザウイルスの新たな株を保有する可能性のある患者が含まれる。
【0080】
第6の局面の方法によって単離されたインフルエンザウイルスは、ワクチン製造のためのインフルエンザシードウイルスを調製するために用いられてもよい。よって第6の局面の方法は、感染MDCK細胞株からのウイルスを少なくとも1回継代するさらなるステップを含んでもよい。次いでこの方法は、インフルエンザウイルスを生成するために感染細胞を培養するステップを含んでもよい。この培養ステップの後に精製されたインフルエンザウイルスは、本明細書の別の場所に記載されるとおり、シードウイルスとして用いられてもよい。
【0081】
第6の局面に従って単離されたウイルスは、逆遺伝学技術に対する供給源として用いられてもよい。つまり、第6の局面に従って単離されたインフルエンザウイルスの少なくとも1つのウイルスRNAセグメントからcDNAが調製されてもよい。次いでこのcDNAを逆遺伝学手順に用いて、単離されたインフルエンザウイルスと同様の少なくとも1つのウイルスRNAセグメントを有する新たなインフルエンザウイルスを調製してもよい。次いでこの新たなインフルエンザウイルスを用いて、たとえばさらなる培養などのために細胞株に感染させてもよい。
【0082】
本発明の第6の局面は、ヒトインフルエンザウイルスを含むあらゆる好適なインフルエンザウイルスを単離するために用いられてもよい。これらのインフルエンザウイルスは、インフルエンザAウイルス、インフルエンザBウイルスまたはインフルエンザCウイルスであってもよい。インフルエンザAウイルスが典型的であり、有用なインフルエンザAウイルスサブタイプは、H1、H3およびH5である。
【0083】
現在のパンデミック間期におけるワクチンは、典型的に2つのインフルエンザA株(H1N1およびH3N2)および1つのインフルエンザB株を含む。第6の局面は、こうした株を単離するために用いられても、またはたとえばH2、H5、H7またはH9サブタイプ株などのパンデミックウイルス株を単離するために用いられてもよい。一般的に、第6の局面は、HAサブタイプH1、H2、H3、H4、H5、H6、H7、H8、H9、H10、H11、H12、H13、H14、H15またはH16のうち1つを有するインフルエンザAウイルスを単離するために用いられてもよい。
【0084】
本発明の第6の局面に従って単離されたインフルエンザウイルスは、Sia(α2,3)Gal末端二糖を有するオリゴ糖よりもSia(α2,6)Gal末端二糖を有するオリゴ糖に優先的に結合する赤血球凝集素を含んでもよい。有利なことに、本発明の単離方法は、ウイルスのHA配列およびそのオリゴ糖優先性の安定な保持を助けることが見出されている。
【0085】
第6の局面に従って単離されたウイルスは、ワクチン製造および処置方法において用いられてもよい。よって本発明は、患者における免疫応答を高めるための薬の製造における、第6の局面に従って単離されたウイルスから調製された抗原の使用も提供する。
【0086】
受容体結合
ヒトインフルエンザウイルスはSia(α2,6)Gal末端二糖(ガラクトースにα−2,6結合したシアル酸)を有する受容体オリゴ糖に結合するが、卵はその代わりにSia(α2,3)Gal末端二糖を有する受容体オリゴ糖を有する。卵においてヒトインフルエンザウイルスを生育すると、赤血球凝集素にSia(α2,6)Gal結合から離れてSia(α2,3)Gal結合に向わせる選択圧力がかかる。
【0087】
卵と同様に、ベロ細胞も主にSia(α2,3)Gal受容体を発現する[15]。これに対し、MDCK細胞およびPER.C6細胞は、Sia(α2,3)GalおよびSia(α2,6)Galの両方を発現する。参考文献16は、MDCK細胞のトランスフェクションによってα−2,6−シアリルトランスフェラーゼを過剰発現させることによって、Sia(α2,6)Gal結合の選択を有利にすることを報告している。しかし、こうした操作をしなくても、インフルエンザウイルスをSia(α2,3)Gal結合に向わせることなくMDCK細胞で生育させることは可能である。よって本発明は、Sia(α2,3)GalおよびSia(α2,6)Galの両方を発現する細胞を用いることができるが、Sia(α2,3)Gal末端二糖を有するオリゴ糖よりもSia(α2,6)Gal末端二糖を有するオリゴ糖に優先的に結合するインフルエンザウイルスを生成できる。
【0088】
本発明の第1および第2の局面の好ましい実施形態において、ステップ(i)における感染に用いられるインフルエンザウイルスは、Sia(α2,3)Gal末端二糖を有するオリゴ糖よりもSia(α2,6)Gal末端二糖を有するオリゴ糖に優先的に結合する。この結合優先性がステップ(ii)およびステップ(iii)の間も保持されることによって、ステップ(iii)において生成されるインフルエンザウイルスは、Sia(α2,3)Gal末端二糖を有するオリゴ糖よりもSia(α2,6)Gal末端二糖を有するオリゴ糖に優先的に結合する。
【0089】
本発明の第3および第4の局面の好ましい実施形態において、ステップ(ii)における感染に用いられるインフルエンザウイルスは、Sia(α2,3)Gal末端二糖を有するオリゴ糖よりもSia(α2,6)Gal末端二糖を有するオリゴ糖に優先的に結合する。この結合優先性がステップ(iii)およびステップ(iv)の間も保持されることによって、ステップ(iv)において生成されるインフルエンザウイルスは、Sia(α2,3)Gal末端二糖を有するオリゴ糖よりもSia(α2,6)Gal末端二糖を有するオリゴ糖に優先的に結合する。
【0090】
あるウイルスがSia(α2,3)Gal末端二糖を有するオリゴ糖よりもSia(α2,6)Gal末端二糖を有するオリゴ糖に優先的に結合するかどうかを定めるために、さまざまなアッセイが用いられてもよい。たとえば参考文献17は、親和性定数の高感度な量的測定を与える、インフルエンザウイルス受容体結合活性に対する固相酵素結合アッセイを記載している。参考文献18が用いた固相アッセイにおいては、2つの異なるシアル酸糖タンパク質に対するウイルスの結合が評価されており(オボムコイド、Sia(α2,3)Gal決定基を有する;およびブタα2−マクログロブリン、Sia(α2,6)Gal決定基である)、さらに記載されるアッセイにおいては、以下の2つの受容体類似物に対するウイルスの結合が評価されている:遊離シアル酸(Neu5Ac)および3’−シアリルラクトース(Neu5Acα2−3Galβ1−4Glc)。参考文献19は、α2,3またはα2,6結合に対する受容体の優先性を明確に区別できる多糖アレイを用いたアッセイを報告している。参考文献20は、Sia(α2,6)GalまたはSia(α2,3)Galのいずれかを含有するように酵素的に修飾されたヒト赤血球の凝集に基づいたアッセイを報告している。アッセイはそのタイプによって、ウイルス自体によって直接的に行なわれても、またはウイルスから精製された赤血球凝集素によって間接的に行なわれてもよい。
【0091】
基準材料
インフルエンザウイルスを製造するための現行の方法は、各株に対する基準試薬、すなわち(i)抗HA血清および(ii)精製した全ビリオンの調製を伴う。これらの較正された試薬をSRIDアッセイに用いて、製造者によって生成されたバルク抗原におけるHAのレベルを定めることによって、製造者がバルクを希釈して用量当りの所望量のHAを有するワクチンを与えることを可能にする。
【0092】
基準株が卵を通じて継代され、生成株が卵における生育に対して最適化される現行の方法に対して、基準試薬中の血清および抗原はよく適合されている。しかし、血清は細胞培養において生成された抗原に対してあまり適合しない可能性があることが見出され、これはおそらく異なる系における選択圧力が異なるためと考えられる。基準血清と抗原との間の反応性が乏しいということは、HAレベルが実際よりも低く評価されることを意味し、それによって(i)所与のバルクからの用量が少なくなり、かつ(ii)ワクチン中のHAが過剰量になる。
【0093】
細胞培養に由来する抗原と卵由来の材料に対して生成された血清との適合の問題を克服するために、本発明は、卵に基づく生育に対して適応されていないウイルスに基づく基準材料を提供する。
【0094】
よって本発明は動物から抗血清を調製するための方法を提供し、この方法は(i)精製したインフルエンザウイルス赤血球凝集素を動物に投与するステップと;次いで(ii)その赤血球凝集素を認識する抗体を含有する血清を動物から回収するステップとを含み、ステップ(i)において用いられた赤血球凝集素は細胞株中で生育されたウイルスからのものであることを特徴とする。
【0095】
ステップ(i)において用いられた赤血球凝集素は、好ましくは卵中で生育されたことがないウイルスからのものである。たとえばこの赤血球凝集素は、Sia(α2,3)Gal末端二糖を有するオリゴ糖よりもSia(α2,6)Gal末端二糖を有するオリゴ糖に優先的に結合してもよい。
【0096】
抗血清を生成するために用いられる好ましい赤血球凝集素は、たとえばMDCKなどの哺乳動物細胞株(例、本明細書に記載される細胞株)中の生育物から得ることのできる多糖によってグリコシル化されている。
【0097】
抗血清はインフルエンザAウイルスおよびインフルエンザBウイルスに対して生成されてもよい。
【0098】
動物は好ましくは哺乳動物、たとえばヤギなど、またはより好ましくはヒツジである。抗血清は、ブロメラインによる処理によって精製ウイルスからHAを抽出した後、スクロース勾配上の沈降によって精製することによって、ヒツジにおいて便利に調製できる。用量約50μgの赤血球凝集素が、フロイントの完全アジュバント(Freund’s complete adjuvant:FCA)と組合されてヒツジの筋肉内に投与される。10μg用量が2週間後に与えられてもよく、次いで1週間の間隔を置いて2−4回のさらなる用量が与えられてもよい。その後血清が回収されてもよい。使用前に血清は(例、アジ化ナトリウムを含有するPBS緩衝液で)希釈されて容器に充填されてもよい。この血清は、口蹄疫の規制を満たすために酸性のpHに晒されてもよい(例、pH5に2時間)。
【0099】
本発明は動物から抗血清を調製するための方法も提供し、この方法は(i)細胞株中でインフルエンザウイルスを生育するステップと;(ii)ステップ(i)において生育されたウイルスからの赤血球凝集素抗原を精製するステップと;(iii)ステップ(ii)からの精製赤血球凝集素を動物に投与するステップと;次いで(iv)その動物から赤血球凝集素を認識する抗体を含有する血清を回収するステップとを含む。
【0100】
本発明は、これらの方法によって得ることができる抗血清も提供する。
【0101】
本発明は、この抗血清を含むゲルも提供する。すなわち、動物から抗血清を調製するための上述の方法は、抗血清をゲルと混合するさらなるステップを含んでもよい。このゲルはSRIDアッセイを行なうために好適であり、たとえばこのゲルはアガロースゲルである。
【0102】
抗血清の提供に加えて、本発明は抗原基準材料を提供する。すなわち、本発明は抗原基準材料を調製するための方法を提供し、この方法は(i)細胞株中でインフルエンザウイルスを生育するステップと;(ii)ステップ(i)において生育されたウイルスを精製するステップと;(iii)そのウイルスを不活性化するステップとを含み、ステップ(i)において用いられたインフルエンザウイルスは卵中で生育されたことがないことを特徴とする。この方法は、(iv)不活性化されたウイルスを凍結乾燥するさらなるステップを含んでもよい。
【0103】
ステップ(i)において用いられたウイルスは卵中で生育されたことがない。たとえば、このウイルスの赤血球凝集素は、Sia(α2,3)Gal末端二糖を有するオリゴ糖よりもSia(α2,6)Gal末端二糖を有するオリゴ糖に優先的に結合してもよい。
【0104】
基準材料は卵由来の材料を含まない(例、オボアルブミンを含まず、オボムコイドを含まず、ニワトリDNAを含まない)。この基準材料中の糖タンパク質は、MDCKなどの哺乳動物細胞株(例、本明細書に記載される細胞株)中の生育物から得ることのできる多糖によってグリコシル化される。基準材料はインフルエンザAウイルスおよびインフルエンザBウイルスに対して生成されてもよい。
【0105】
基準材料は通常対にして用いられるため、本発明は(i)これらの方法によって得ることができる抗血清と、(ii)これらの方法によって得ることができる抗原基準材料とを含むキットも提供する。
【0106】
本発明はキットを調製するための方法も提供し、この方法は(i)上述のとおり抗血清を作成するステップと;(ii)上述のとおり抗原基準材料を作成するステップと;(iii)ステップ(i)および(ii)の生成物を組合せてキットにするステップとを含む。
【0107】
この抗原および抗血清は、SRIDアッセイにおける使用のために好適でありかつ意図されており、本発明はインフルエンザウイルス赤血球凝集素に対する単一放射状免疫拡散アッセイを提供し、このアッセイは、これらの方法によって得ることができる抗血清、および/またはこれらの方法によって得ることができる抗原基準材料を用いることを特徴とする。SRIDアッセイは、抗血清を含むゲルを調製するステップと、(必要であれば水性培地中に再構成された)抗原基準材料をゲルに(典型的にはウェル内に)適用するステップと、次いで抗原をゲル中に放射状に拡散させるステップとを含む。この抗原は、使用前にZwittergent界面活性剤などの界面活性剤によって処理されてもよい。
【0108】
本発明の技術によって調製または単離されたウイルス(シードウイルスを含む)
本発明の好ましいインフルエンザAウイルス(シードウイルス、MDCK細胞を用いて患者のサンプルから単離したウイルス、再集合体ウイルスなどを含む)は、PR/8/34インフルエンザウイルスからの6つより少ない(すなわち0、1、2、3、4または5つの)ウイルスセグメントを含む。好ましくは、このウイルスはPR/8/34セグメントを含まない。いずれかのPR/8/34セグメント(単数または複数)が存在するとき、そのセグメントはPR/8/34 HAセグメントを含まず、通常はPR/8/34 NAセグメントを含まない。よって好ましいウイルスにおいては、セグメントNP、M、NS、PA、PB1および/またはPB2のうちの少なくとも1つがPR/8/34に由来しない。より好ましくは、セグメントNP、M、PA、PB1および/またはPB2のうちの少なくとも1つがPR/8/34に由来しない。よって本発明は、通常のHAおよびNA抗原に、流布中の株を表わす1つまたはそれ以上のさらなるエピトープ含有抗原を加えることによって、既存のワクチンを改善できる。
【0109】
同様に、好ましいインフルエンザAウイルスは、AA/6/60インフルエンザウイルス(A/Ann Arbor/6/60)からの6つより少ない(すなわち0、1、2、3、4または5つの)ウイルスセグメントを含む。好ましくは、このウイルスはAA/6/60セグメントを含まない。いずれかのAA/6/60セグメント(単数または複数)が存在するとき、そのセグメントはAA/6/60 HAセグメントを含まず、通常はAA/6/60 NAセグメントを含まない。よって好ましいウイルスにおいては、セグメントNP、M、NS、PA、PB1および/またはPB2のうちの少なくとも1つがAA/6/60に由来しない。より好ましくは、セグメントNP、M、PA、PB1および/またはPB2のうちの少なくとも1つがAA/6/60に由来しない。
【0110】
好ましいインフルエンザBウイルスは、AA/1/66インフルエンザウイルス(B/Ann Arbor/1/66)からの6つより少ない(すなわち0、1、2、3、4または5つの)ウイルスセグメントを含む。好ましくは、このウイルスはAA/1/66セグメントを含まない。いずれかのAA/1/66セグメント(単数または複数)が存在するとき、そのセグメントはAA/1/66 HAセグメントを含まず、通常はAA/1/66 NAセグメントを含まない。よって好ましいウイルスにおいては、セグメントNP、M、NS、PA、PB1および/またはPB2のうちの少なくとも1つがAA/1/66に由来しない。より好ましくは、セグメントNP、M、PA、PB1および/またはPB2のうちの少なくとも1つがAA/1/66に由来しない。
【0111】
本発明の好ましいインフルエンザウイルス(シードウイルス、MDCK細胞を用いて患者のサンプルから単離したウイルス、再集合体ウイルスなどを含む)は、Sia(α2,3)Gal末端二糖を有するオリゴ糖よりもSia(α2,6)Gal末端二糖を有するオリゴ糖に優先的に結合する赤血球凝集素を含む。この結合優先性については上記により詳細に考察している。
【0112】
本発明の好ましいインフルエンザウイルス(シードウイルス、MDCK細胞を用いて患者のサンプルから単離したウイルス、再集合体ウイルスなどを含む)は、卵由来のウイルスとは異なるグリコシル化パターンを有する糖タンパク質(赤血球凝集素を含む)を含む。つまり、この糖タンパク質は鶏卵中で生育されたウイルスには見られないグリコフォームを含み、たとえば哺乳動物の糖結合を含む鳥類以外の糖結合を有してもよい。
【0113】
細胞株
本発明は、インフルエンザウイルスの複製を支持し、かつ卵の使用を回避する細胞株の使用を含む。この細胞株は典型的に、哺乳動物に由来する。由来となる好適な哺乳動物細胞は、ハムスター、ウシ、霊長類の動物(ヒトおよびサルを含む)、およびイヌの細胞を含むがこれらに限定されず、霊長類の動物の細胞の使用は好ましくない。さまざまな細胞型、たとえば腎臓細胞、線維芽細胞、網膜細胞、肺細胞などが用いられてもよい。好適なハムスター細胞の例は、BHK21またはHKCCという名前を有する細胞株である。好適なサル細胞は、たとえばアフリカミドリザル細胞、たとえばベロ細胞株のような腎臓細胞などである[21−22、23]。好適なイヌ細胞は、たとえばCLDKおよびMDCK細胞株のような腎臓細胞などである。
【0114】
好適な細胞株は以下を含むが、それらに限定されない:MDCK;CHO;CLDK;HKCC;293T;BHK;ベロ;MRC−5;PER.C6[24];FRhL2;WI−38;その他。好適な細胞株は、たとえばアメリカンタイプセルカルチャー(American Type Cell Culture:ATCC)コレクション[25]、Coriell Cell Repositories[26]、またはEuropean Collection of Cell Cultures(ECACC)などから広く入手可能である。たとえば、ATCCはさまざまな異なるベロ細胞をカタログ番号CCL−81、CCL−81.2、CRL−1586およびCRL−1587の下で供給しており、MDCK細胞をカタログ番号CCL−34の下で供給している。PER.C6は、ECACCから寄託番号96022940の下で入手可能である。これらの細胞型のいずれも、本発明に従った生育、再集合および/または継代に使用できる。
【0115】
最も好ましい細胞株は、哺乳動物型のグリコシル化を伴う細胞株である。哺乳動物細胞株に対するそれより好ましくない代替物として、ウイルスは、カモ(例、カモ網膜)またはメンドリ、たとえばニワトリ胚線維芽細胞(chicken embryo fibroblasts:CEF)などに由来する細胞株を含む鳥類の細胞株[例、参考文献27−28、29]において生育されてもよいが、哺乳動物細胞を使用することはワクチンが鳥類のDNAおよび卵タンパク質(オボアルブミンおよびオボムコイドなど)を含まないようにできることを意味するため、アレルギー誘発性が低減される。
【0116】
インフルエンザウイルスを生育するために最も好ましい細胞株は、マディンダービーイヌ腎臓に由来するMDCK細胞株[30−31、32、33]である。元のMDCK細胞株はATCCからCCL−34として入手可能であるが、この細胞株の誘導体が用いられてもよい。たとえば参考文献30は、懸濁培養中での生育に対して適合されたMDCK細胞株を開示する(「MDCK33016」または「33016−PF」、DSM ACC2219として寄託される;参考文献34および35も参照)。同様に、参考文献36は、無血清培養物における懸濁中で生育するMDCK由来の細胞株を開示する(「B−702」、FERM BP−7449として寄託される)。参考文献37は、「MDCK−S」(ATCC PTA−6500)、「MDCK−SF101」(ATCC PTA−6501)、「MDCK−SF102」(ATCC PTA−6502)、および「MDCK−SF103」(ATCC PTA−6503)を含む非腫瘍形成性MDCK細胞を開示する。参考文献38は、「MDCK.5F1」細胞(ATCC CRL−12042)を含む、感染しやすいMDCK細胞株を開示する。これらのMDCK細胞株のいずれも本発明とともに使用できる。
【0117】
ウイルスは、付着性培養または懸濁における細胞において生育されてもよい。マイクロキャリア培養が用いられてもよい。いくつかの実施形態においては、細胞は懸濁における生育に対して適合されてもよい。
【0118】
好ましくは、細胞株は無血清培地および/または無タンパク質培地中で生育される。本発明の文脈において、ヒトまたは動物由来の血清からの添加剤を有さない培地は、無血清培地と呼ばれる。こうした培養において生育する細胞は当然その細胞自身のタンパク質を含有するが、無タンパク質培地とは、タンパク質、成長因子、その他のタンパク質添加剤および非血清タンパク質の排除(培地に加えないこと)によっても細胞の増加が起こるが、任意に(培地中に)ウイルスの生育に必要であり得るトリプシンまたは他のプロテアーゼなどのタンパク質を含むことができるような培地を意味することが理解される。
【0119】
インフルエンザウイルスの複製を支持する細胞株は、好ましくはウイルスの複製の際に37℃よりも低い温度[39](例、30〜36℃、または約30℃、31℃、32℃、33℃、34℃、35℃、36℃)で生育される。たとえば第6の局面において、MDCK細胞は、特にウイルスの複製の際に(単離ステップの前、最中または後に)これらの温度にて生育されてもよい。
【0120】
(たとえば、第6の局面に従って培養されたMDCK細胞中でインフルエンザウイルスを生育するために)培養細胞中でインフルエンザウイルスを増殖させるための方法は通常、細胞の培養物に生育すべき株の接種材料を接種するステップと、感染した細胞を、たとえばウイルス力価または抗原発現などによって定められるウイルス増殖のための所望の期間培養するステップ(例、接種後24時間から168時間)と、増殖したウイルスを集めるステップとを含む。培養細胞は、ウイルス(PFUまたはTCID50によって測定される)対細胞の割合が1:500から1:1、好ましくは1:100から1:5、より好ましくは1:50から1:10となるように接種される。ウイルスは細胞の懸濁液に加えられるか、または細胞の単層に適用され、ウイルスは25℃から40℃、好ましくは28℃から37℃において、少なくとも60分、通常は300分未満、好ましくは90分から240分の間、細胞に吸収される。感染した細胞培養物(例、単層)は、凍結−解凍によって、または採取された培養上清のウイルス含有量を増加させるための酵素作用によって除去されてもよい。採取された液体は、次いで不活性化されるか、または凍結保存される。培養細胞は、約0.0001から10、好ましくは0.002から5、より好ましくは0.001から2の感染多重度(multiplicity of infection:“m.o.i”)にて感染されてもよい。さらにより好ましくは、細胞は約0.01のm.o.iにて感染される。感染細胞は感染後30時間から60時間で採取されてもよい。好ましくは、細胞は感染後34時間から48時間で採取される。さらにより好ましくは、細胞は感染後38時間から40時間で採取される。通常は、細胞培養の際にプロテアーゼ(典型的にはトリプシン)を加えることによってウイルスを放出させるが、このプロテアーゼは、たとえば接種前、接種と同時、または接種後など、培養中のあらゆる好適な段階で加えられてもよい[39]。
【0121】
好ましい実施形態において、特にMDCK細胞について、細胞株はマスター作用細胞バンクから40回の分裂レベルを超えて継代されない。
【0122】
ウイルス接種材料およびウイルス培養物は、好ましくは単純性疱疹ウイルス、呼吸器系合胞体ウイルス、パラインフルエンザウイルス3、SARSコロナウイルス、アデノウイルス、ライノウイルス、レオウイルス、ポリオーマウイルス、ビルナウイルス、サーコウイルス、および/またはパルボウイルスを含まない(すなわちこれらのウイルスに対してテストされて、その混入に対する陰性の結果を与える)[40]。同様に、第6の局面とともに用いられる好ましいMDCK細胞株は、単純性疱疹ウイルス、呼吸器系合胞体ウイルス、パラインフルエンザウイルス3、SARSコロナウイルス、アデノウイルス、ライノウイルス、レオウイルス、ポリオーマウイルス、ビルナウイルス、サーコウイルス、および/またはパルボウイルスを含まない(すなわちこれらのウイルスに対してテストされて、その混入に対する陰性の結果を与える)。単純性疱疹ウイルスが存在しないことが特に好ましい。
【0123】
本発明とともに用いられるMDCK細胞株は、好ましくはG418耐性に対するマーカを含有しない(参考文献16を参照)。よってこの細胞株はG418処理に対して感受性であってもよい。
【0124】
本発明とともに用いられる細胞株は、逆遺伝学技術に必要であり得るものを除き、外因性プラスミドを含有しないことが好ましい(参考文献16を参照)。
【0125】
逆遺伝学技術
上述したとおり、本発明は臨床的単離体または一次単離体とともに直接用いることができる。加えて、本発明は逆遺伝学技術を用いて生成されたものを含む再集合体株とともに用いることができる[例、41−42、43、44、45]。逆遺伝学技術は、プラスミドのインビトロ操作を用いてウイルスセグメントの組合せを生成することによって、ウイルスセグメント中のコード配列または非コード配列の操作を促進したり、変異を導入したりなどできる。この技術は、インフルエンザAウイルスおよびインフルエンザBウイルスの両方に対して用いられ得る。
【0126】
逆遺伝学は典型的に、(a)たとえばpolIプロモータ、バクテリアRNAポリメラーゼプロモータ、バクテリオファージポリメラーゼプロモータなどからの所望のウイルスRNA分子をコードするDNA分子の発現、および(b)たとえばpolIIプロモータなどからのウイルスタンパク質をコードするDNA分子の発現を含むことによって、細胞における両タイプのDNAの発現によって、完全にインタクトの感染性ビリオンの集合がもたらされる。このDNAはすべてのウイルスRNAおよびタンパク質を与えることが好ましいが、RNAおよびタンパク質のいくつかを与えるためにヘルパーウイルスを用いることも可能である。各ウイルスRNAを生成するために別個のプラスミドを用いるプラスミドに基づく方法が好ましく[46−47、48]、これらの方法もウイルスタンパク質のすべてまたはいくつか(例、PB1、PB2、PAおよびNPタンパク質のみ)を発現するためのプラスミドの使用を含み、いくつかの方法においては12種のプラスミドが用いられる。
【0127】
必要なプラスミドの数を低減させるために、最近のアプローチ[49]では(ウイルスRNA合成のための)複数のRNAポリメラーゼI転写カセットを同じプラスミド上に組合せ(例、1、2、3、4、5、6、7または8つすべてのインフルエンザA vRNAセグメントをコードする配列)、複数のタンパク質をコードする領域をRNAポリメラーゼIIプロモータとともに別のプラスミド上に組合せる(例、1、2、3、4、5、6、7または8つすべてのインフルエンザA mRNA転写産物をコードする配列)。参考文献49の方法の好ましい局面は、以下を含む:(a)単一プラスミド上のPB1、PB2およびPA mRNAをコードする領域;および(b)単一プラスミド上の8つすべてのvRNAをコードするセグメント。NAおよびHAセグメントを1つのプラスミド上に含ませ、他の6つのセグメントを別のプラスミド上に含ませても事態を促進できる。
【0128】
polIプロモータは種特異性を有するため、MDCK細胞において逆遺伝学を行なうときにはイヌpolIプロモータ[50]が用いられてもよい。ウイルスRNAセグメントをコードするためにpolIプロモータを用いる代わりに、バクテリオファージポリメラーゼプロモータを用いることが可能である[51]。たとえば、SP6、T3またはT7ポリメラーゼに対するプロモータを便利に使用できる。polIプロモータは種特異性を有するため、バクテリオファージポリメラーゼプロモータは多くの細胞型(例、MDCK)に対してより便利になり得るが、細胞を外因性ポリメラーゼ酵素をコードするプラスミドによってトランスフェクションする必要がある。
【0129】
他の技術においては、ウイルスRNAおよび単一の鋳型からの発現可能なmRNAを同時にコードするために、デュアルpolIおよびpolIIプロモータを用いることが可能である[52、53]。
【0130】
卵における生育のために用いられる株は通常PR/8/34インフルエンザAウイルスからの6つのRNAセグメントを含む(HAおよびNセグメントはワクチン株からのものであり、つまり6:2再集合体である)が、本発明による卵の回避は、PR/8/34セグメントをなくし得ることを意味する。よってインフルエンザAウイルスは、PR/8/34インフルエンザウイルスからの6つより少ない(すなわち0、1、2、3、4または5つの)ウイルスセグメントを含み得る。好ましいウイルスは、セグメントNP、M、NS、PA、PB1および/またはPB2のうち少なくとも1つがPR/8/34に由来しないウイルスである。ウイルスは、鳥インフルエンザウイルスに由来するNSセグメントを含んでもよい。
【0131】
本発明が逆遺伝学を用いるとき、供給源のインフルエンザウイルスからのウイルスRNAセグメントを目的インフルエンザウイルスのゲノムに移すことが可能になる。よってこれら2つのウイルスは少なくとも1つの共通するウイルスRNAセグメントを有する。ここでの「共通する」という用語は、全セグメントの同一コピーを意味するが、意味を広げて、コード領域および/または非コード領域に修飾を有する、セグメントの修飾コピーを意味してもよい。修飾がコード領域に行なわれるとき、その修飾はコードされるタンパク質の免疫原性および/または活性を実質的に変えない。よってHAセグメントは、患者に投与されたときに有効な抗HA抗体を誘出する能力を変えることなく、HA1/HA2切断部位の周囲で操作されてもよい。よって、たとえば鳥種におけるウイルスの病原性を高める決定要因(例、HA1/HA2切断部位の周囲の過度に塩基性の領域)を除去するために、第6の局面に従って単離されたウイルスの天然HAを修飾するために逆遺伝学が用いられてもよい。
【0132】
ワクチン調製
現在、さまざまな形のインフルエンザウイルスワクチンが入手可能である(例、参考文献54の第17章および第18章を参照)。一般的に、ワクチンは生ウイルスまたは不活性化ウイルスのいずれかに基づいている。不活性化ワクチンは、全ビリオン、「分解(split)」ビリオン、または精製された表面抗原に基づいてもよい。インフルエンザ抗原は、ビロゾームの形で提供されてもよい。本発明は、これらのタイプのワクチンのいずれかを製造するときに使用できる。
【0133】
生ウイルスは、MedImmuneのFLUMIST(商標)製品(3価の生ウイルス)を含む。ワクチンは、ウイルスを好適な培養基上で生育させるステップと、次いでビリオンを含有する液体からビリオンを精製するステップとを含む方法によって調製される。たとえば、この液体は遠心分離によって浄化され、(例、スクロース、リン酸カリウム、およびグルタミン酸一ナトリウムを含有する)緩衝液によって安定化されてもよい。
【0134】
不活性化ウイルスが用いられるとき、ワクチンは全ビリオン、分解ビリオン、または精製された表面抗原(赤血球凝集素を含み、通常はノイラミニダーゼも含む)を含んでもよい。ウイルスを不活性化するための化学的手段は、以下の薬剤の1つまたはそれ以上の有効量による処理を含む:界面活性剤、ホルムアルデヒド、β−プロピオラクトン、メチレンブルー、ソラレン、カルボキシフラーレン(C60)、バイナリーエチルアミン、アセチルエチレンイミン、またはそれらの組合せ。たとえばUV光またはガンマ照射などの、ウイルス不活性化の非化学的方法は当該技術分野において公知である。
【0135】
ビリオンは、さまざまな方法によってウイルスを含有する液体から採取できる。たとえば、精製方法は、ビリオンを破壊するための界面活性剤を含む線形スクロース勾配溶液を用いたゾーン遠心法を含んでもよい。次いで抗原は、任意の希釈の後、膜分離法によって精製されてもよい。
【0136】
分解ビリオンは、精製したビリオンを界面活性剤(例、エチルエーテル、ポリソルベート80、デオキシコール酸塩、トリ−N−ブチルリン酸、トリトンX−100、トリトンN101、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、Tergitol NP9など)で処理してサブビリオン調製物を生成することによって得られ、これは「ツイン−エーテル(Tween−ether)」分解方法を含む。インフルエンザウイルスを分解する方法は当該技術分野において周知であり、たとえば参考文献55−56、57、58、59、60などを参照されたい。ウイルスの分解は典型的に、ウイルス全体を破壊またはフラグメント化することによって行なわれ、分解剤の破壊濃度によって感染性または非感染性となる。破壊によってウイルスタンパク質の完全または部分的な可溶化がもたらされ、ウイルスの完全性を変える。好ましい分解剤は、非イオン性およびイオン性(例、カチオン性)の界面活性剤、たとえばアルキルグリコシド、アルキルチオグリコシド、アシル糖、スルホベタイン、ベタイン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、N,N−ジアルキル−グルカミド、Hecameg、アルキルフェノキシ−ポリエトキシエタノール、NP9、第四アンモニウム化合物、サルコシル、CTAB(セチルトリメチルアンモニウムブロミド(cetyl trimethyl ammonium bromides))、トリ−N−ブチルリン酸、セタブロン、ミリスチルトリメチルアンモニウム塩、リポフェクチン、リポフェクタミン、およびDOT−MAなど、オクチル−またはノニルフェノキシポリオキシエタノール(例、トリトン界面活性剤、たとえばトリトンX−100またはトリトンN101など)、ポリオキシエチレンソルビタンエステル(ツイン界面活性剤)、ポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシエチレンエステルなどである。有用な分解手順の1つは、デオキシコール酸ナトリウムおよびホルムアルデヒドの連続的な効果を用いており、分解は最初のビリオン精製の際に(例、スクロース密度勾配溶液の中で)起こり得る。よって分解方法は、ビリオン含有材料の浄化(非ビリオン材料を除去するため)と、採取したビリオンの濃縮(例、CaHPO吸着などの吸着方法を用いる)と、非ビリオン材料からの全ビリオンの分離と、密度勾配遠心分離ステップにおける分解剤の使用によるビリオンの分解(例、デオキシコール酸ナトリウムなどの分解剤を含有するスクロース勾配を用いる)と、その後のろ過(例、限外ろ過)による望ましくない材料の除去とを含んでもよい。分解ビリオンは、リン酸ナトリウム緩衝等張食塩水に有用に再懸濁できる。BEGRIVAC(商標)、FLUARIX(商標)、FLUZONE(商標)、およびFLUSHIELD(商標)製品は、分解ワクチンである。
【0137】
精製された表面抗原ワクチンは、インフルエンザ表面抗原赤血球凝集素を含み、典型的にはノイラミニダーゼも含む。これらのタンパク質を精製した形で調製するための方法は、当該技術分野において周知である。FLUVIRIN(商標)、AGRIPPAL(商標)およびINFLUVAC(商標)製品はサブユニットワクチンである。
【0138】
不活性化インフルエンザ抗原の別の形はビロゾーム[61](核酸を含まないウイルス様リポソーム粒子)である。ビロゾームは、インフルエンザウイルスを界面活性剤で可溶化した後にヌクレオカプシドを除去し、ウイルスの糖タンパク質を含有する膜を再構築することによって調製できる。ビロゾームを調製するための代替的な方法は、ウイルスの膜糖タンパク質を過剰量のリン脂質に加えて、膜内にウイルスタンパク質を有するリポソームを与えるステップを含む。本発明は、INFLEXAL V(商標)およびINVAVAC(商標)製品と同様にバルクビロゾームを保存するために用いられてもよい。
【0139】
インフルエンザウイルスは弱毒化されてもよい。インフルエンザウイルスは温度感受性であってもよい。インフルエンザウイルスは低温適応されてもよい。これら3つの特徴は、生ウイルスを抗原として用いるときに特に有用である。
【0140】
HAは現行の不活性化インフルエンザワクチンにおける主な免疫原であり、ワクチン用量は、典型的にはSRIDによって測定されたHAレベルを参照して標準化される。既存のワクチンは典型的には1株当り約15μgのHAを含有するが、たとえば子供用、またはパンデミック状態のとき、またはアジュバントを使用するときなどには、もっと低用量のものが用いられてもよい。たとえば1/2(すなわち1株当り7.5μgのHA)、1/4および1/8などの部分的用量が用いられており[81、82]、より高い用量(例、3xまたは9x用量[62、63])も用いられている。よって、ワクチンはインフルエンザ1株当り0.1μgから150μgのHA、好ましくは0.1μgから50μg、たとえば0.1〜20μg、0.1〜15μg、0.1〜10μg、0.1〜7.5μg、0.5〜5μgなどを含んでもよい。特定の用量は、1株当りたとえば約45、約30、約15、約10、約7.5、約5、約3.8、約1.9、約1.5などを含む。
【0141】
生ワクチンに対する用量は、HA含有量ではなく、50%組織培養感染量(median tissue culture infectious dose:TCID50)によって測定され、1株当たり10から10(好ましくは106.5〜107.5)のTCID50が典型的である。
【0142】
本発明によって用いられる株は、野生型ウイルスにみられるような天然HAを有するか、または修飾されたHAを有してもよい。たとえば、鳥種におけるウイルスの病原性を高める決定要因(例、HA1/HA2切断部位の周囲の過度に塩基性の領域)を除去するためにHAを修飾することが公知である。
【0143】
ワクチンに用いるインフルエンザウイルス株はシーズンごとに変わる。現在のパンデミック間期において、ワクチンは典型的に2つのインフルエンザA株(H1N1およびH3N2)および1つのインフルエンザB株を含み、3価のワクチンが典型的である。本発明は、パンデミックウイルス株(すなわち、ワクチン受領者および一般的なヒト集団が免疫学上受けたことのない、特にインフルエンザAウイルスの株)、たとえばH2、H5、H7またはH9サブタイプ株などを用いてもよく、パンデミック株に対するインフルエンザワクチンは1価であっても、パンデミック株によって補われた通常の3価ワクチンに基づいていてもよい。しかし、シーズンおよびワクチンに含まれる抗原の性質に依存して、本発明はHAサブタイプH1、H2、H3、H4、H5、H6、H7、H8、H9、H10、H11、H12、H13、H14、H15またはH16のうち1つまたはそれ以上に対する保護を行なってもよい。本発明は、インフルエンザAウイルスのNAサブタイプN1、N2、N3、N4、N5、N6、N7、N8またはN9のうち1つまたはそれ以上に対する保護を行なってもよい。
【0144】
本発明の組成物は、パンデミック間株に対する免疫化に好適であるだけでなく、パンデミック株に対する免疫化に特に有用である。インフルエンザ株にパンデミック発生をもたらす可能性を与える特徴は以下のとおりである:(a)現在流布しているヒト株中の赤血球凝集素と比べて新しい赤血球凝集素を含むこと、すなわち10年以上にわたってヒト集団において顕在化していないもの(例、H2)、またはヒト集団において過去にまったくみられなかったもの(例、H5、H6またはH9など、一般的に鳥集団においてのみ見出されたもの)であるために、ヒト集団はその株の赤血球凝集素を免疫学上受けたことがない;(b)ヒト集団において水平に伝染できること;および(c)ヒトに対して病原性であること。パンデミックインフルエンザに対する免疫化に対しては、たとえばH5N1株など、H5赤血球凝集素型を有するウイルスが好ましい。他に可能性のある株は、H5N3、H9N2、H2N2、H7N1およびH7N7、ならびにあらゆる他に出現するパンデミックな可能性のある株を含む。H5サブタイプ内では、ウイルスはHAクレード1、HAクレード1’、HAクレード2またはHAクレード3[64]に入ってもよく、クレード1および3は特に関連がある。
【0145】
組成物に有用に含ませ得る抗原を有するその他の株は、抗ウイルス療法に耐性(例、オセルタミビル[65]および/またはザナミビルに耐性)の株であり、耐性パンデミック株[66]を含む。
【0146】
よって本発明の組成物は、インフルエンザAウイルスおよび/またはインフルエンザBウイルスを含む1つまたはそれ以上(例、1、2、3、4またはそれ以上)のインフルエンザウイルス株からの抗原を含んでもよい。ワクチンが2つ以上のインフルエンザの株を含むとき、異なる株は典型的に別々に生育され、ウイルスが採取されて抗原が調製された後に混合される。よって本発明の方法は、2つ以上のインフルエンザ株からの抗原を混合するステップを含んでもよい。2つのインフルエンザAウイルス株および1つのインフルエンザBウイルス株からの抗原を含む3価のワクチンが好ましい。
【0147】
本発明のいくつかの実施形態において、組成物は単一のインフルエンザA株からの抗原を含んでもよい。いくつかの実施形態において、組成物は2つのインフルエンザA株からの抗原を含んでもよいが、これら2つの株はH1N1およびH3N2ではないものとする。いくつかの実施形態において、組成物は2つより多くのインフルエンザA株からの抗原を含んでもよい。
【0148】
本発明は、ワクチンに使用するためのインフルエンザウイルス抗原を調製するための方法を提供し、この方法は(i)インフルエンザウイルスを受取るステップと;(ii)このインフルエンザウイルスを細胞株に感染させるステップと;(iii)インフルエンザウイルスを生成するためにステップ(ii)からの感染細胞を培養するステップとを含む。ステップ(iii)において得られるウイルスは、たとえば不活性化、調合などを含む方法などによってワクチンを調製するために用いられ得る。ステップ(i)において受取られるインフルエンザウイルスは、以下の特徴のうち1つまたはそれ以上を有する:(a)卵培養基において増殖されたことがない;(b)MDCK細胞、たとえばMDCK33016細胞および/または無血清培地中で生育するMDCK細胞などにおいて単離された;(c)血清を含有する培地中で生育する培養基において増殖されたことがない;(d)逆遺伝学技術を用いて生成された;(e)PR/8/34インフルエンザウイルスからの6つより少ないウイルスセグメントを有するインフルエンザAウイルス、および/もしくはAA/6/60インフルエンザウイルスからの6つより少ないウイルスセグメントを有するインフルエンザAウイルスであるか、またはAA/1/66インフルエンザウイルスからの6つより少ないウイルスセグメントを有するインフルエンザBウイルスである;(f)Sia(α2,3)Gal末端二糖を有するオリゴ糖よりもSia(α2,6)Gal末端二糖を有するオリゴ糖に優先的に結合する赤血球凝集素を含む;および/または(g)卵由来のウイルスとは異なるグリコシル化パターンを有する糖タンパク質(赤血球凝集素を含む)を有する。よって、ステップ(i)において受取られるインフルエンザウイルスは、本明細書の別の場所に記載されるとおりに得られたものであってもよい。
【0149】
宿主細胞DNA
細胞株においてウイルスが生育されるときには、DNAのあらゆる腫瘍形成活性を最小化するために最終ワクチン中の残余細胞株DNAの量を最小化することが標準的に行なわれる。
【0150】
よって、本発明に従って調製されるワクチン組成物は、用量当り10ng未満(好ましくは1ng未満、より好ましくは100pg未満)の残留宿主細胞DNAを含有することが好ましいが、極微量の宿主細胞DNAは存在し得る。
【0151】
0.25mlの体積当り<10ng(例、<1ng、<100pg)の宿主細胞DNAを含有するワクチンのように、15μgの赤血球凝集素当り<10ng(例、<1ng、<100pg)の宿主細胞DNAを含有するワクチンが好ましい。0.5mlの体積当り<10ng(例、<1ng、<100pg)の宿主細胞DNAを含有するワクチンのように、50μgの赤血球凝集素当り<10ng(例、<1ng、<100pg)の宿主細胞DNAを含有するワクチンがより好ましい。
【0152】
あらゆる残留宿主細胞DNAの平均の長さは、500bp未満、たとえば400bp未満、300bp未満、200bp未満、100bp未満などであることが好ましい。
【0153】
混入DNAは、たとえばクロマトグラフィなどの標準的な精製手順を用いて、ワクチン調製の際に除去できる。残留宿主細胞DNAの除去は、たとえばDNアーゼの使用などによるヌクレアーゼ処理によって向上できる。宿主細胞DNAの混入を低減させるための便利な方法が参考文献67および68に開示されており、この方法は2ステップ処理を含み、最初にDNアーゼ(例、Benzonase)を使用し、このDNアーゼはウイルス生育の際に用いられてもよく、次いでカチオン性界面活性剤(例、CTAB)を使用し、この界面活性剤はビリオン破壊の際に用いられてもよい。β−プロピオラクトンなどのアルキル化剤による処理を用いて宿主細胞DNAが除去されてもよく、この処理は有利にはビリオンを不活性化するためにも用いられ得る[69]。
【0154】
残留宿主細胞DNAの測定は現在では生物製剤に対するルーチン的規制要求であり、当業者の通常の能力の範囲内である。DNAを測定するために用いられるアッセイは、典型的には検証済みのアッセイとなる[70、71]。検証済みのアッセイの性能の特徴は数学的および定量可能に説明でき、その誤りの元となり得るものは同定される。このアッセイは一般的に、たとえば正確さ、精度、特異性などの特徴についてテストされる。一旦アッセイが(例、宿主細胞DNAの公知の標準量に対して)較正されテストされると、量的なDNA測定をルーチン的に行なうことができる。DNA定量に対する3つの主な技術が用いられ得る:ハイブリダイゼーション法、たとえばサザンブロットまたはスロットブロットなど[72];免疫定量法、たとえばThreshold(商標)システムなど[73];および定量的PCR[74]。これらの方法はすべて当業者によく知られるが、各方法の正確な特徴は問題の宿主細胞、たとえばハイブリダイゼーションのためのプローブの選択、増幅のためのプライマおよび/またはプローブの選択などに左右され得る。Molecular DevicesからのThreshold(商標)システムはピコグラムレベルの合計DNAに対する定量的アッセイであり、生物薬剤中の混入DNAのレベルをモニタするために用いられている[73]。典型的なアッセイは、ビオチン化ssDNA
結合タンパク質と、ウレアーゼに結合した抗ssDNA抗体と、DNAとの間の反応複合体の配列非特異的な形成を含む。すべてのアッセイ構成要素は、製造者から入手可能な完全な全DNAアッセイキットに含まれる。たとえばAppTec(商標)Laboratory Services、BioReliance(商標)、Althea Technologiesなど、さまざまな商業的製造者が残留宿主細胞DNAを検出するための定量的PCRアッセイを提供している。参考文献75に、ヒトウイルスワクチンの宿主細胞DNA混入を測定するための化学ルミネセンスハイブリダイゼーションアッセイと、全DNA Threshold(商標)システムとの比較を見出すことができる。
【0155】
医薬組成物
本発明に従って製造されるワクチン組成物は、医薬的に許容できる。この組成物は通常、インフルエンザ抗原に加えて別の成分を含み、たとえば典型的に、1つまたはそれ以上の医薬担体および/または賦形剤を含む。以下に記載するとおり、アジュバントも含まれていてもよい。こうした成分の詳細な考察は参考文献76にて得られる。
【0156】
ワクチン組成物は一般的に水性の形である。
【0157】
ワクチン組成物は、チオメルサールまたは2−フェノキシエタノールなどの防腐剤を含んでもよい。しかし好ましくは、ワクチンは水銀の材料を実質的に含まない(すなわち5μg/ml未満)ようにすべきであり、たとえばチオメルサールは含まないようにすべきである[59、77]。水銀を含有しないワクチンがより好ましい。水銀化合物の代替物として、α−トコフェロールコハク酸塩が含まれてもよい[59]。防腐剤を含まないワクチンは特に好ましい。
【0158】
張性を制御するために、ナトリウム塩などの生理的な塩を含むことが好ましい。塩化ナトリウム(NaCl)が好ましく、1mg/mlから20mg/mlが存在してもよい。存在してもよいその他の塩は、塩化カリウム、リン酸二水素カリウム、無水リン酸二ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウムなどを含む。
【0159】
ワクチン組成物が有するオスモル濃度は一般的に、200mOsm/kgから400mOsm/kg、好ましくは240〜360mOsm/kgであり、より好ましくは290〜310mOsm/kgの範囲内になる。オスモル濃度は予防接種によってもたらされる痛みに影響しないことが過去に報告されている[78]が、オスモル濃度をこの範囲内に保つことがやはり好ましい。
【0160】
ワクチン組成物は1つまたはそれ以上の緩衝液を含んでもよい。典型的な緩衝液は以下を含む:リン酸緩衝液;トリス緩衝液;ホウ酸緩衝液;コハク酸緩衝液;ヒスチジン緩衝液(特に水酸化アルミニウムアジュバントとともに);またはクエン酸緩衝液。緩衝液は典型的に、5〜20mMの範囲で含まれる。
【0161】
ワクチン組成物のpHは一般的に5.0から8.1であり、より典型的には6.0から8.0、たとえば6.5から7.5、または7.0から7.8の間である。したがって本発明の方法は、包装前にバルクワクチンのpHを調節するステップを含んでもよい。
【0162】
ワクチン組成物は滅菌されていることが好ましい。ワクチン組成物は非発熱性であることが好ましく、たとえば用量当り<1EU(エンドトキシン単位(endotoxin unit)、標準的な尺度)、好ましくは用量当り<0.1EUを含有する。ワクチン組成物はグルテンを含まないことが好ましい。
【0163】
本発明のワクチン組成物は界面活性剤を含んでもよく、たとえばポリオキシエチレンソルビタンエステル界面活性剤(「ツイン」として公知)、オクトキシノール(たとえばオクトキシノール−9(トリトンX−100)またはt−オクチルフェノキシポリエトキシエタノールなど)、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(「CTAB」)、またはデオキシコール酸ナトリウムなどを、特に分解または表面抗原ワクチンに対して含んでもよい。界面活性剤は極微量だけ存在していてもよい。よってワクチンは、オクトキシノール−10およびポリソルベート80の各々を1mg/ml未満含んでもよい。その他の極微量の残余成分は抗生物質(例、ネオマイシン、カナマイシン、ポリミキシンB)であってもよい。
【0164】
ワクチン組成物は、単一の免疫化のための材料を含んでも、複数の免疫化のための材料を含んでもよい(すなわち「マルチドーズ(multidose)」キット)。マルチドーズ配置には防腐剤が含まれることが好ましい。マルチドーズ組成物に防腐剤を含ませることの代替案(またはそれに加えるもの)として、組成物は材料の取出しのための無菌アダプタを有する容器内に含有されてもよい。
【0165】
インフルエンザワクチンは典型的に約0.5mlの用量体積で投与されるが、子供には半分の用量(すなわち約0.25ml)が投与されてもよい。
【0166】
組成物およびキットは2℃から8℃で保存されることが好ましい。組成物およびキットは凍結されるべきではない。組成物およびキットに直接光が当らないようにされることが理想的である。
【0167】
アジュバント
本発明の組成物は有利にはアジュバントを含んでもよく、アジュバントは組成物を受けた患者において誘出される免疫応答(体液性および/または細胞性)を高めるために機能し得る。アジュバントをインフルエンザワクチンとともに使用することは以前に記載されている。参考文献79および80においては水酸化アルミニウムが用いられ、参考文献81においては水酸化アルミニウムとリン酸アルミニウムとの混合物が用いられた。参考文献82もアルミニウム塩アジュバントの使用を記載した。Chiron VaccinesからのFLUAD(商標)製品は、水中油型エマルジョンを含む。
【0168】
本発明とともに用いられ得るアジュバントは以下を含むが、それらに限定されない:
・カルシウム塩およびアルミニウム塩(またはそれらの混合物)を含む無機質含有組成物。カルシウム塩はリン酸カルシウム(例、参考文献83に開示される「CAP」粒子)を含む。アルミニウム塩は水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウムなどを含み、これらの塩はあらゆる好適な形を取る(例、ゲル、結晶、アモルファスなど)。これらの塩に対する吸着が好ましい。無機質含有組成物は、金属塩の粒子として調合されてもよい[84]。アルミニウム塩アジュバントについては以下により詳細に説明される。
【0169】
・サイトカイン誘導剤(より詳細には下記を参照)。
【0170】
・サポニン[参考文献112の第22章]。サポニンとは、広範囲の植物種の樹皮、葉、幹、根および花にさえも見出されるステロールグリコシドおよびトリテルペノイドグリコシドの異種群である。Quillaia saponaria Molinaの木の樹皮からのサポニンは、アジュバントとして広く研究されている。サポニンは、Smilax ornata(サルサパリラ)、Gypsophilla paniculata(ブライズベール(brides veil))、およびSaponaria officianalis(カスミソウ)からも商業的に得ることができる。サポニンアジュバント調合物は、精製調合物、たとえばQS21など、および脂質調合物、たとえばISCOMなどを含む。QS21はStimulon(商標)として市販されている。サポニン組成物は、HPLCおよびRP−HPLCを用いて精製されてきた。これらの技術を用いた特定の精製画分が同定されており、その画分はQS7、QS17、QS18、QS21、QH−A、QH−BおよびQH−Cを含む。好ましくは、サポニンはQS21である。QS21の生成方法は、参考文献85に開示される。サポニン調合物は、コレステロールなどのステロールをも含んでもよい[86]。サポニンとコレステロールとの組合せを用いて、免疫刺激複合体(immunostimulating complexs:ISCOMs)と呼ばれる一意の粒子を形成できる[参考文献112の第23章]。典型的に、ISCOMはリン脂質、たとえばホスファチジルエタノールアミンまたはホスファチジルコリンなども含む。あらゆる公知のサポニンがISCOMに用いられてもよい。好ましくは、ISCOMはQuilA、QHAおよびQHCのうち1つまたはそれ以上を含む。ISCOMは参考文献86−87−88にさらに記載されている。任意には、ISCOMには付加的な界面活性剤がなくてもよい[89]。サポニンを主成分とするアジュバントの開発についての概説は、参考文献90および91に見出すことができる。
【0171】
・脂肪性アジュバント(以下のより詳細な記載を参照)。
【0172】
・バクテリアのADPリボシル化毒素(例、E.coli熱不安定性エンテロトキシン(heat labile enterotoxin)「LT」、コレラ毒素(cholera toxin)「CT」、または百日咳毒素(pertussis toxin)「PT」)およびその無毒化した誘導体、たとえばLT−K63およびLT−R72として公知の変異体毒素など[92]。無毒化したADPリボシル化毒素の粘膜アジュバントとしての使用は参考文献93に、非経口アジュバントとしての使用は参考文献94に記載されている。
【0173】
・生体接着剤および粘液接着剤、たとえばエステル化ヒアルロン酸ミクロスフェア[95]、またはキトサンおよびその誘導体[96]など。
【0174】
・生分解性かつ非毒性の材料(例、ポリ(α−ヒドロキシ酸)、ポリヒドロキシ酪酸
、ポリオルトエステル、ポリ無水物、ポリカプロラクトンなど)から形成された微粒子(すなわち直径約100nmから約150μm、より好ましくは直径約200nmから約30μm、または直径約500nmから約10μmの粒子)であって、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)が好ましく、任意には(例、SDSによって)負に帯電した表面を有するように処理されるか、または(例、CTABなどのカチオン性界面活性剤によって)正に帯電した表面を有するように処理される。
【0175】
・リポソ−ム(参考文献112の第13章および第14章)。アジュバントとしての使用に好適なリポソーム調合物の例は、参考文献97−98、99に記載される。
【0176】
・ポリオキシエチレンエーテルおよびポリオキシエチレンエステル[100]。こうした調合物は、ポリオキシエチレンソルビタンエステル界面活性剤とオクトキシノールとの組合せ[101]およびポリオキシエチレンアルキルエーテルまたはエステル界面活性剤とオクトキシノールなどの少なくとも1つの付加的な非イオン性界面活性剤との組合せ[102]をさらに含む。好ましいポリオキシエチレンエーテルは以下の群から選択される:ポリオキシエチレン−9−ラウリルエーテル(ラウレス(laureth)9)、ポリオキシエチレン−9−ステオリルエーテル、ポリオキシエチレン−8−ステオリルエーテル、ポリオキシエチレン−4−ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン−35−ラウリルエーテル、およびポリオキシエチレン−23−ラウリルエーテル。
【0177】
・ムラミルペプチド、たとえばN−アセチルムラミル−L−スレオニル−D−イソグルタミン(N−acetylmuramyl−L−threonyl−D−isoglutamine)(「thr−MDP」)、N−アセチル−ノルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン(N−acetyl−normuramyl−L−alanyl−D−isoglutamine)(nor−MDP)、N−アセチルグルコサミニル−N−アセチルムラミル−L−Al−D−イソグル−L−Ala−ジパルミトキシプロピルアミド(N−acetylglucsaminyl−N−acetylmuramyl−L−Al−D−isoglu−L−Ala−dipalmitoxy propylamide)(「DTP−DPP」または「Theramide(商標)」)、N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミニル−L−アラニン−2−(1’−2’ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ヒドロキシホスホリルオキシ)−エチルアミン(N−acetylmuramyl−L−alanyl−D−isoglutaminyl−L−alanine−2−(1’−2’dipalmitoyl−sn−glycero−3−hydroxyphosphoryloxy)−ethylamine)(「MTP−PE」)など。
【0178】
・第1のグラム陰性バクテリアから調製された外膜タンパク質プロテオソーム調製物と、第2のグラム陰性バクテリアに由来するリポ糖調製物との組合せであって、この外膜タンパク質プロテオソームとリポ糖調製物とが安定な非共有アジュバント複合体を形成する。こうした複合体は「IVX−908」を含み、これはNeisseria meningitidisの外膜およびリポ多糖を含む複合体である。これらはインフルエンザワクチンに対するアジュバントとして用いられてきた[103]。
【0179】
・メチルイノシン5’−モノリン酸(Methyl inosine 5’−monophosphate)(「MIMP」)[104]。
【0180】
・ポリヒドロキシル化ピロリジジン化合物[105]、たとえば次の式を有するものなど:
【0181】
【化1】

ここでRは、水素、直鎖もしくは分岐鎖、未置換もしくは置換、飽和または不飽和のアシル、アルキル(例、シクロアルキル)、アルケニル、アルキニルおよびアリール基、またはそれらの医薬的に許容できる塩または誘導体を含む群から選択される。例には以下のものが含まれるがそれらに限定されない:カスアリン(casuarine)、カスアリン−6−α−D−グルコピラノース、3−エピ−カスアリン、7−エピ−カスアリン、3,7−ジエピ−カスアリンなど。
【0182】
・ガンマイヌリン[106]またはその誘導体、たとえばアルガムリン(algammulin)など。
【0183】
・CD1dリガンド、たとえばα−ガラクトシルセラミドなど。
【0184】
・ポリオキシドニウム(polyoxidonium)ポリマー[107、108]またはその他のN−酸化ポリエチレン−ピペラジン誘導体。
【0185】
これらおよびその他のアジュバント活性物質について、参考文献112および113においてより詳細に考察されている。
【0186】
組成物は2つまたはそれ以上の上記アジュバントを含んでもよい。たとえば、組成物は有利には水中油型エマルジョンおよびサイトカイン誘導剤の両方を含んでもよい。なぜならこの組合せによって、インフルエンザワクチンによって誘出されるサイトカイン応答、たとえばインターフェロンγ応答などが改善するからであり、その改善はエマルジョンまたは薬剤のいずれかを単独で使用するときにみられるものよりもかなり大きい。
【0187】
組成物中の抗原およびアジュバントは、典型的には混合剤の中にある。
【0188】
水中油型エマルジョンアジュバント
水中油型エマルジョンは、インフルエンザウイルスワクチンのアジュバントに用いるために特に好適であることが見出されている。さまざまなこうしたエマルジョンが公知であり、それらは典型的に少なくとも1つの油と少なくとも1つの界面活性剤とを含み、それらの油および界面活性剤は生分解性(代謝性)であり、かつ生体適合性である。エマルジョン中の油の小滴は一般的に直径5μm未満であり、直径がミクロン以下となってもよく、こうした小さいサイズは安定なエマルジョンを提供するためのマイクロフルイダイザーによって得られる。220nm未満のサイズの小滴はフィルタ滅菌できるために好ましい。
【0189】
本発明は油、たとえば動物(魚など)または植物供給源からの油とともに用いられてもよい。植物油の供給源はナッツ、種子および穀物を含む。ピーナッツ油、大豆油、ココナッツ油、およびオリーブ油は、最も一般的に入手可能なナッツ油の例示である。たとえばホホバ豆から得られるホホバ油が用いられてもよい。種子油は、ベニバナ油、綿実油、ヒマワリ油、ゴマ油などを含む。穀物群のうちではトウモロコシ油が最も容易に入手可能であるが、他の穀類、たとえば小麦、オート麦、ライ麦、米、テフ、ライコムギなどの油が使用されてもよい。グリセロールと1,2−プロパンジオールとの6〜10炭素脂肪酸エステルは、種子油では自然発生しないが、ナッツおよび種子油から出発する適切な材料の加水分解、分離およびエステル化によって調製されてもよい。哺乳動物の乳からの脂肪および油は代謝性であるため、本発明の実施において用いられてもよい。動物供給源から純粋な油を得るために必要な、分離、精製、ケン化およびその他の手段のための手順は当該技術分野において周知である。ほとんどの魚は、容易に回収され得る代謝性の油を含有する。たとえば、タラ肝油、サメ肝油、および鯨ロウなどの鯨油は、本明細書において用いられ得る魚油のいくつかの例示である。いくつかの分岐鎖油は5炭素イソプレン構造単位で生化学的に合成されて、一般的にテルペノイドと呼ばれる。サメ肝油は、本明細書において特に好ましいスクアレン、2,6,10,15,19,23−ヘキサメチル−2,6,10,14,18,22−テトラコサヘキサエンとして公知の分岐鎖不飽和テルペノイドを含有する。スクアレンの飽和類似体であるスクアランも好ましい油である。スクアレンおよびスクアランを含む魚油は、商業的供給源から容易に入手可能であるし、当該技術分野において公知の方法によって得られてもよい。その他の好ましい油はトコフェロールである(下記を参照)。油の混合物が用いられてもよい。
【0190】
界面活性剤は、その「HLB」(親水/親油平衡(hydrophile/lipophile balance))によって分類できる。本発明の好ましい界面活性剤のHLBは少なくとも10、好ましくは少なくとも15、より好ましくは少なくとも16である。本発明は、以下を含むがそれらに限定されない界面活性剤とともに用いられ得る:ポリオキシエチレンソルビタンエステル界面活性剤(通常はツインと呼ばれる)、特にポリソルベート20およびポリソルベート80;酸化エチレン(ethylene oxide:EO)、酸化プロピレン(propylene oxide:PO)および/または酸化ブチレン(butylene oxide:BO)のコポリマー、DOWFAX(商標)の商品名で販売される、たとえば直鎖EO/POブロックコポリマーなど;オクトキシノール、反復するエトキシ(オキシ−1,2−エタンジイル(ethanediyl))基の数が変動可能であり、オクトキシノール−9(トリトンX−100、またはt−オクチルフェノキシポリエトキシエタノール)は特に興味深い;(オクチルフェノキシ)ポリエトキシエタノール(IGEPAL CA−630/NP−40);リン脂質、たとえばホスファチジルコリン(レシチン)など;ノニルフェノールエトキシレート、たとえばTergitol(商標)NPシリーズなど;ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、およびオレイルアルコールに由来するポリオキシエチレン脂肪エーテル(ブリッジ(Brij)界面活性剤として公知)、たとえばトリエチレングリコールモノラウリルエーテル(ブリッジ30)など;ならびにソルビタンエステル(通常スパン(SPAN)として公知)、たとえばソルビタントリオレアート(スパン85)およびソルビタンモノラウレートなど。非イオン性界面活性剤が好ましい。エマルジョンに含ませるための好ましい界面活性剤は、ツイン80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート)、スパン85(ソルビタントリオレアート)、レシチンおよびトリトンX−100である。
【0191】
界面活性剤の混合物、たとえばツイン80/スパン85混合物などを用いることができる。ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート(ツイン80)などのポリオキシエチレンソルビタンエステルと、t−オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトンX−100)などのオクトキシノールとの組合せも好適である。別の有用な組合せは、ラウレス9と、ポリオキシエチレンソルビタンエステルおよび/またはオクトキシノールとを含む。
【0192】
界面活性剤の好ましい量(重量%)は次のとおりである:ポリオキシエチレンソルビタンエステル(ツイン80など)が0.01%から1%、特に約0.1%;オクチル−またはノニルフェノキシポリオキシエタノール(トリトンX−100、または他のトリトンシリーズの界面活性剤など)が0.001%から0.1%、特に0.005%から0.02%;ポリオキシエチレンエーテル(ラウレス9など)が0.1%から20%、好ましくは0.1%から10%、特に0.1%から1%または約0.5%。
【0193】
本発明とともに有用な特定の水中油型エマルジョンアジュバントは以下を含むが、それらに限定されない:
・スクアレン、ツイン80およびスパン85のミクロン以下のエマルジョン。体積によるエマルジョンの組成は、約5%のスクアレン、約0.5%のポリソルベート80、および約0.5%のスパン85であってもよい。重量でいうと、これらの比率は4.3%のスクアレン、0.5%のポリソルベート80、および0.48%のスパン85となる。このアジュバントは「MF59」として公知であり[109−110、111]、参考文献112の第10章および参考文献113の第12章により詳細に記載されている。MF59エマルジョンは、有利にはクエン酸イオン、たとえば10mMのクエン酸ナトリウム緩衝液などを含む。
【0194】
・スクアレン、トコフェロール、およびツイン80のエマルジョン。このエマルジョンはリン酸緩衝食塩水を含んでもよい。このエマルジョンはスパン85(例、1%)および/またはレシチンも含んでもよい。これらのエマルジョンは、2%から10%のスクアレンと、2%から10%のトコフェロールと、0.3%から3%のツイン80とを有してもよく、より安定なエマルジョンを提供するために、スクアレン:トコフェロールの重量比は好ましくは≦1である。スクアレンおよびツイン80は、約5:2の体積比で存在してもよい。こうしたエマルジョンの1つは、ツイン80をPBSに溶解して2%溶液を与え、次いでこの溶液90mlを(5gのDL−α−トコフェロールおよび5mlのスクアレン)の混合物と混合し、次いで混合物をマイクロ流動化する(microfluidising)ことによって作成できる。その結果得られるエマルジョンはミクロン以下の油小滴を有してもよく、たとえばその小滴の平均直径は100nmから250nm、好ましくは約180nmであってもよい。
【0195】
・スクアレン、トコフェロール、およびトリトン界面活性剤(例、トリトンX−100)のエマルジョン。このエマルジョンは3d−MPL(下記を参照)も含んでもよい。このエマルジョンはリン酸緩衝液を含有してもよい。
【0196】
・ポリソルベート(例、ポリソルベート80)、トリトン界面活性剤(例、トリトンX−100)、およびトコフェロール(例、α−トコフェロールコハク酸塩)を含むエマルジョン。このエマルジョンは、これら3つの成分を質量比約75:11:10(例、750μg/mlのポリソルベート80、110μg/mlのトリトンX−100、および100μg/mlのα−トコフェロールコハク酸塩)で含んでもよく、これらの濃度には抗原からのこれらの成分の何らかの寄与が含まれるべきである。このエマルジョンはスクアレンも含んでもよい。このエマルジョンは3d−MPL(下記を参照)も含んでもよい。水相はリン酸緩衝液を含有してもよい。
【0197】
・スクアラン、ポリソルベート80、およびポロキサマー401(「Pluronic(商標)L121」)のエマルジョン。このエマルジョンはpH7.4のリン酸緩衝食塩水において調合できる。このエマルジョンはムラミルジペプチドに対する有用な送達ビヒクルであり、「SAF−1」アジュバントにおいてスレオニル−MDPとともに用いられている[114](0.05〜1%のThr−MDP、5%のスクアラン、2.5%のPluronic L121および0.2%のポリソルベート80)。「AF」アジュバントのように、Thr−MDPなしで用いることもできる[115](5%のスクアラン、1.25%のPluronic L121および0.2%のポリソルベート80)。マイクロ流動化が好ましい。
【0198】
・スクアレン、水性溶剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル親水性非イオン性界面活性剤(例、ポリオキシエチレン(12)セトステアリルエーテル)、および疎水性非イオン性界面活性剤(例、ソルビタンエステルまたはマンニド(mannide)エステル、たとえばソルビタンモノオレアートまたは「スパン80」など)を含むエマルジョン。このエマルジョンは好ましくは熱可逆性であり、および/または油小滴の少なくとも90%(体積で)が200nm未満のサイズである[116]。このエマルジョンはさらに、以下のうち1つまたはそれ以上を含んでもよい:アルジトール;凍結防止剤(例、糖、たとえばドデシルマルトシドおよび/またはスクロースなど);および/またはアルキルポリグリコシド。こうしたエマルジョンは凍結乾燥されてもよい。
【0199】
・スクアレン、ポロキサマー105、およびAbil−Careのエマルジョン[117]。補助されるワクチンにおけるこれらの成分の最終濃度(重量)は、5%のスクアレン、4%のポロキサマー105(pluronicポリオール)、および2%のAbil−Care85(Bis−PEG/PPG−16/16 PEG/PPG−16/16ジメチコーン;カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド)である。
【0200】
・0.5〜50%の油と、0.1〜10%のリン脂質と、0.05〜5%の非イオン性界面活性剤とを有するエマルジョン。参考文献118に記載されるとおり、好ましいリン脂質成分は、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、スフィンゴミエリン、およびカルジオリピンである。ミクロン以下の小滴サイズが有利である。
【0201】
・非代謝性の油(軽油など)と、少なくとも1つの界面活性剤(レシチン、ツイン80またはスパン80など)とのミクロン以下の水中油型エマルジョン。添加剤、たとえばQuilAサポニン、コレステロール、サポニン親油性結合体(たとえば参考文献119に記載されるGPI−0100など、これは脂肪族アミンをグルクロン酸のカルボキシル基を介してデサシルサポニン(desacylsaponin)に加えることによって生成される)、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド、および/またはN,N−ジオクタデシル−N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)プロパンジアミンなどが含まれてもよい。
【0202】
・鉱油、非イオン性親油性エトキシ化脂肪アルコール、および非イオン性親水性界面活性剤(例、エトキシ化脂肪アルコールおよび/またはポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー)を含むエマルジョン[120]。
【0203】
・鉱油、非イオン性親水性エトキシ化脂肪アルコール、および非イオン性親油性界面活性剤(例、エトキシ化脂肪アルコールおよび/またはポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー)を含むエマルジョン[120]。
【0204】
・サポニン(例、QuilAまたはQS21)およびステロール(例、コレステロール)がらせん状のミセルとして結合しているエマルジョン[121]。
【0205】
エマルジョンは、送達の時に即座に抗原と混合されてもよい。すなわち、アジュバントと抗原とは、包装または分配されたワクチン中に別個に保存されて、使用時にすぐ最終調合物になるようにされていてもよい。一般的に抗原は水性の形であることによって、最終的に2つの液体を混合することによってワクチンが調製される。混合のための2つの液体の体積比は変動し得る(例、5:1から1:5)が、一般的には約1:1である。
【0206】
抗原とアジュバントとが混合された後、赤血球凝集素抗原は一般的に水溶液中に残るが、油/水界面の周囲に配されてもよい。一般的に、赤血球凝集素がエマルジョンの油相に入ったとしてもごくわずかである。
【0207】
組成物がトコフェロールを含むとき、α、β、γ、δ、εまたはζトコフェロールのいずれが用いられてもよいが、α−トコフェロールが好ましい。トコフェロールは、たとえば異なる塩および/または異性体などのいくつかの形を取り得る。塩は有機塩、たとえばコハク酸塩、酢酸塩、ニコチン酸塩などを含む。D−α−トコフェロールおよびDL−α−トコフェロールのどちらも使用できる。トコフェロールは有利には、高齢の患者(例、60歳またはそれ以上の年齢)における使用のためのワクチンに含まれる。なぜなら、ビタミンEはこうした患者群における免疫応答に正の効果を有することが報告されているからである[122]。トコフェロールは酸化防止特性も有するため、エマルジョンの安定化を助けてもよい[123]。好ましいα−トコフェロールはDL−α−トコフェロールであり、このトコフェロールの好ましい塩はコハク酸塩である。コハク酸塩はインビボにおいてTNF関連リガンドと協働することが見出されている。さらに、α−トコフェロールコハク酸塩はインフルエンザワクチンに適合し、水銀化合物の代替物として有用な防腐剤となることが公知である[59]。
【0208】
サイトカイン誘導剤
本発明の組成物に含ませるためのサイトカイン誘導剤は、患者に投与されるときに免疫系を誘出して、インターフェロンおよびインターロイキンを含むサイトカインを放出させることができる。サイトカイン応答は、インフルエンザ感染に対する宿主の防御の初期の決定的な段階に伴うことが公知である[124]。好ましい薬剤は、以下のうち1つまたはそれ以上の放出を誘出できる:インターフェロン−γ;インターロイキン−1;インターロイキン−2;インターロイキン−12;TNF−α;TNF−β;およびGM−CSF。好ましい薬剤は、Th1型免疫応答、たとえばインターフェロン−γ、TNF−α、インターロイキン−2などに関連するサイトカインの放出を誘出する。インターフェロン−γおよびインターロイキン−2の両方の刺激が好ましい。
【0209】
したがって、本発明の組成物を受けた結果として、患者のT細胞は、インフルエンザ抗原によって刺激されたときに、抗原特異的な態様で所望のサイトカインを放出する。たとえば、それらの患者の血液から精製されたT細胞は、インビトロでインフルエンザウイルス赤血球凝集素に露出されたときにγ−インターフェロンを放出する。末梢血単核細胞(peripheral blood mononuclear cells:PBMC)におけるこうした応答を測定するための方法は当該技術分野において公知であり、ELISA、ELISPOT、フローサイトメトリおよびリアルタイムPCRを含む。たとえば、参考文献125が報告する研究においては、破傷風トキソイドに対する抗原特異的T細胞媒介免疫応答、特にγ−インターフェロン応答がモニタされ、ELISPOTは抗原特異的TT誘導応答を自然応答と区別するための最も高感度の方法であるが、フローサイトメトリによる細胞質内のサイトカイン検出は再刺激効果を検出するための最も効率のよい方法であることが見出された。
【0210】
好適なサイトカイン誘導剤は、以下を含むがそれらに限定されない:
・免疫刺激性オリゴヌクレオチド、たとえばCpGモチーフ(リン酸結合によってグアノシンに接続されるメチル化されていないシトシンを含有するジヌクレオチド配列)を含有するものなど、または2本鎖RNA、またはパリンドローム配列を含有するオリゴヌクレオチド、またはポリ(dG)配列を含有するオリゴヌクレオチド。
【0211】
・3−O−脱アシル化モノホスホリル脂質A(3−O−deacylated monophosphoryl lipid A:「3dMPL」、「MPL(商標)」としても公知)[126−127、128、129]。
【0212】
・イミダゾキノリン化合物、たとえばイミキモド(「R−837」)[130、131]、レシキモド(「R−848」)[132]、およびそれらの類似体;ならびにそれらの塩(例、塩酸塩)。免疫刺激性イミダゾキノリンに関するさらなる詳細は、参考文献133から134、135、136、137に見出される。
【0213】
・チオセミカルバゾン化合物、たとえば参考文献138に開示されるものなど。活性化合物に対する調合、製造およびスクリーニングの方法も参考文献138に記載されている。チオセミカルバゾンは、たとえばTNF−αなどのサイトカインの生成のためのヒト末梢血単核細胞の刺激に特に有効である。
【0214】
・トリプタントリン化合物、たとえば参考文献139に開示されるものなど。活性化合物に対する調合、製造およびスクリーニングの方法も参考文献139に記載されている。チオセミカルバゾンは、たとえばTNF−αなどのサイトカインの生成のためのヒト末梢血単核細胞の刺激に特に有効である。
【0215】
・ヌクレオシド類似体、たとえば:(a)イサトラビン(Isatorabine)(ANA−245;7−チア−8−オキソグアノシン):
【0216】
【化2】

およびそのプロドラッグ;(b)ANA975;(c)ANA−025−1;(d)ANA380;(e)参考文献140から141、142に開示される化合物;(f)次の式を有する化合物:
【0217】
【化3】

ここでRおよびRの各々は独立に、H、ハロ、−NR、−OH、C1−6アルコキシ、置換されたC1−6アルコキシ、ヘテロシクリル、置換されたヘテロシクリル、C6−10アリール、置換されたC6−10アリール、C1−6アルキル、または置換されたC1−6アルキルであり;
は不在、H、C1−6アルキル、置換されたC1−6アルキル、C6−10アリール、置換されたC6−10アリール、ヘテロシクリル、または置換されたヘテロシクリルであり;
およびRの各々は独立に、H、ハロ、ヘテロシクリル、置換されたヘテロシクリル、−C(O)−R、C1−6アルキル、置換されたC1−6アルキルであるか、またはともに結合して次のR4−5のように5員環を形成し:
【0218】
【化4】

この結合は
【0219】
【化5】

によって示される結合において達成され、
およびXの各々は独立に、N、C、O、またはSであり;
は、H、ハロ、−OH、C1−6アルキル、C2−6アルケニル、C2−6アルキニル、−OH、−NR、−(CH−O−R、−O−(C1−6アルキル)、−S(O)、または−C(O)−Rであり;
は、H、C1−6アルキル、置換されたC1−6アルキル、ヘテロシクリル、置換されたヘテロシクリル、またはR9aであり、
ここでR9aは次のとおりであり:
【0220】
【化6】

この結合は
【0221】
【化7】

によって示される結合において達成され、
10およびR11の各々は独立に、H、ハロ、C1−6アルコキシ、置換されたC1−6アルコキシ、−NR、または−OHであり;
およびRの各々は独立に、H、C1−6アルキル、置換されたC1−6アルキル、−C(O)R、C6−10アリールであり;
各Rは独立に、H、リン酸、二リン酸、三リン酸、C1−6アルキル、または置換されたC1−6アルキルであり;
各Rは独立に、H、ハロ、C1−6アルキル、置換されたC1−6アルキル、C1−6アルコキシ、置換されたC1−6アルコキシ、−NH、−NH(C1−6アルキル)、−NH(置換されたC1−6アルキル)、−N(C1−6アルキル)、−N(置換されたC1−6アルキル)、C6−10アリール、またはヘテロシクリルであり;
各Rは独立に、H、C1−6アルキル、置換されたC1−6アルキル、C6−10アリール、置換されたC6−10アリール、ヘテロシクリル、または置換されたヘテロシクリルであり;
各Rは独立に、H、C1−6アルキル、置換されたC1−6アルキル、−C(O)R、リン酸、二リン酸、または三リン酸であり;
各nは独立に、0、1、2、または3であり;
各pは独立に、0、1、または2であり;または
(g)(a)から(f)のいずれかの医薬的に許容できる塩、(a)から(f)のいずれかの互変異性体、またはその互変異性体の医薬的に許容できる塩。
【0222】
・ロキソリビン(7−アリル−8−オキソグアノシン)[143]。
【0223】
・以下を含む、参考文献144に開示される化合物:アシルピペラジン(Acylpiperazine)化合物、インドールジオン(Indoledione)化合物、テトラヒドライソキノリン(Tetrahydraisoquinoline:THIQ)化合物、ベンゾシクロジオン(Benzocyclodione)化合物、アミノアザビニル(Aminoazavinyl)化合物、アミノベンズイミダゾールキノリノン(Aminobenzimidazole quinolinone:ABIQ)化合物[145、146]、ヒドラプタルアミド(Hydrapthalamide)化合物、ベンゾフェノン(Benzophenone)化合物、イソキサゾール化合物、ステロール化合物、キナジリノン(Quinazilinone)化合物、ピロール化合物[147]、アントラキノン化合物、キノキサリン化合物、トリアジン化合物、ピラザロピリミジン(Pyrazalopyrimidine)化合物、およびベンザゾール化合物[148]。
【0224】
・参考文献149に開示される化合物。
【0225】
・アミノアルキルグルコサミニドリン酸塩の誘導体、たとえばRC−529など[150、151]。
【0226】
・ホスファゼン、たとえば参考文献152および153などに記載されるポリ[ジ(カルボキシラトフェノキシ)ホスファゼン](poly[di(carboxylatophenoxy)phosphazene]:「PCPP」)など。
【0227】
・低分子免疫賦活剤(Small molecule immunopotentiators:SMIPs)、たとえば次のものなど:
N2−メチル−1−(2−メチルプロピル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
N2,N2−ジメチル−1−(2−メチルプロピル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
N2−エチル−N2−メチル−1−(2−メチルプロピル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
N2−メチル−1−(2−メチルプロピル)−N2−プロピル−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
1−(2−メチルプロピル)−N2−プロピル−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
N2−ブチル−1−(2−メチルプロピル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
N2−ブチル−N2−メチル−1−(2−メチルプロピル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
N2−メチル−1−(2−メチルプロピル)−N2−ペンチル−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
N2−メチル−1−(2−メチルプロピル)−N2−プロプ−2−エニル−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
1−(2−メチルプロピル)−2−[(フェニルメチル)チオ]−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−4−アミン
1−(2−メチルプロピル)−2−(プロピルチオ)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−4−アミン
2−[[4−アミノ−1−(2−メチルプロピル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2−イル](メチル)アミノ]エタノール
2−[[4−アミノ−1−(2−メチルプロピル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2−イル](メチル)アミノ]酢酸エチル
4−アミノ−1−(2−メチルプロピル)−1,3−ジヒドロ−2H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2−オン
N2−ブチル−1−(2−メチルプロピル)−N4,N4−ビス(フェニルメチル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
N2−ブチル−N2−メチル−1−(2−メチルプロピル)−N4,N4−ビス(フェニルメチル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
N2−メチル−1−(2−メチルプロピル)−N4,N4−ビス(フェニルメチル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
N2,N2−ジメチル−1−(2−メチルプロピル)−N4,N4−ビス(フェニルメチル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
1−{4−アミノ−2−[メチル(プロピル)アミノ]−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−1−イル}−2−メチルプロパン−2−オール
1−[4−アミノ−2−(プロピルアミノ)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−1−イル]−2−メチルプロパン−2−オール
N4,N4−ジベンジル−1−(2−メトキシ−2−メチルプロピル)−N2−プロピル−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン。
【0228】
本発明において用いるためのサイトカイン誘導剤は、トル様受容体(Toll−Like Receptors:TLR)のモジュレータおよび/またはアゴニストであってもよい。たとえば、それらのサイトカイン誘導剤は、ヒトTLR1、TLR2、TLR3、TLR4、TLR7、TLR8、および/またはTLR9タンパク質の1つまたはそれ以上のアゴニストであってもよい。好ましい薬剤は、TLR7(例、イミダゾキノリン)および/またはTLR9(例、CpGオリゴヌクレオチド)のアゴニストである。これらの薬剤は、内在的な免疫経路を活性化するために有用である。
【0229】
サイトカイン誘導剤は、組成物の生成の際のさまざまな段階において組成物に加えられてもよい。たとえば、サイトカイン誘導剤は抗原組成物内にあってもよく、次いでこの混合物が水中油型エマルジョンに加えられてもよい。代替的には、サイトカイン誘導剤は水中油型エマルジョン内にあってもよく、この場合には薬剤を乳化前にエマルジョン成分に加えても、乳化後にエマルジョンに加えてもよい。同様に、薬剤はエマルジョン小滴内にコアセルベートされてもよい。最終組成物内のサイトカイン誘導剤の場所および分布は、サイトカイン誘導剤の親水/親油特性に依存し、たとえば薬剤は水相、油相、および/または油−水界面に位置してもよい。
【0230】
サイトカイン誘導剤は、たとえば抗原(例、CRM197)などの別個の薬剤に結合されてもよい。低分子に対する結合技術の一般的な概説は参考文献154に与えられている。代替的に、アジュバントは、たとえば疎水性またはイオン性相互作用などによって、付加的な薬剤に非共有的に関連付けられてもよい。
【0231】
2つの好ましいサイトカイン誘導剤は、(a)免疫刺激オリゴヌクレオチドおよび(b)3dMPLである。免疫刺激オリゴヌクレオチドは、ホスホロチオアート修飾などのヌクレオチド修飾/類似体を含んでもよく、2本鎖であっても(RNAを除いて)1本鎖であってもよい。参考文献155、156および157は、可能な類似体置換、たとえば2’−デオキシ−7−デアザグアノシンによるグアノシンの置換などを開示する。参考文献158−159、160、161、162、163では、CpGオリゴヌクレオチドのアジュバント効果がさらに考察されている。CpG配列はTLR9、たとえばモチーフGTCGTTまたはTTCGTTなどに向けられていてもよい[164]。CpG配列はTh1免疫応答を誘導するために特異的なもの、たとえばCpG−A ODN(オリゴデオキシヌクレオチド(oligodeoxynucleotide))などであってもよいし、B細胞応答を誘導するためにより特異的なもの、たとえばCpG−B ODNなどであってもよい。CpG−A ODNおよびCpG−B ODNは参考文献165−166、167において考察されている。好ましくはCpGはCpG−A ODNである。好ましくは、CpGオリゴヌクレオチドは5’末端が受容体認識のために接近可能になるよう構成されている。任意には、2つのCpGオリゴヌクレオチド配列の3’末端同士が付着して「イムノマー」を形成してもよい。たとえば参考文献164および168−169、170を参照されたい。有用なCpGアジュバントはCpG7909であり、これはProMune(商標)(Coley Pharmaceutical Group,Inc.)としても公知である。
【0232】
CpG配列の使用の代替案として、またはそれに加えて、TpG配列が用いられてもよい[171]。これらのオリゴヌクレオチドは非メチル化CpGモチーフを含まなくてもよい。
【0233】
免疫刺激オリゴヌクレオチドはピリミジンに富んでいてもよい。たとえば、免疫刺激オリゴヌクレオチドは2つ以上の連続的なチミジンヌクレオチド(例、TTTT、参考文献171に開示されるとおり)を含んでもよく、および/または>25%のチミジン(例、>35%、>40%、>50%、>60%、>80%など)を有するヌクレオチド組成を有してもよい。たとえば、免疫刺激オリゴヌクレオチドは2つ以上の連続的なシトシンヌクレオチド(例、CCCC、参考文献171に開示されるとおり)を含んでもよく、および/または>25%のシトシン(例、>35%、>40%、>50%、>60%、>80%など)を有するヌクレオチド組成を有してもよい。これらのオリゴヌクレオチドは非メチル化CpGモチーフを含まなくてもよい。
【0234】
免疫刺激オリゴヌクレオチドは典型的に少なくとも20ヌクレオチドを含む。免疫刺激オリゴヌクレオチドは100ヌクレオチドよりも少ないヌクレオチドを含んでもよい。
【0235】
3dMPL(3脱−O−アシル化モノホスホリル脂質Aまたは3−O−脱アシル−4’−モノホスホリル脂質Aとしても公知)は、モノホスホリル脂質A中の還元末端グルコサミンの位置3が脱アシル化されたアジュバントである。3dMPLは、Salmonella minnesotaのヘプトースのない変異体から調製されており、脂質Aと化学的に類似しているが、酸に不安定なホスホリル基と塩基に不安定なアシル基とを欠いている。3dMPLは単球/マクロファージ系統の細胞を活性化し、IL−1、IL−12、TNF−αおよびGM−CSFを含むいくつかのサイトカインの放出を刺激する(参考文献172も参照)。3dMPLの調製は元々参考文献173に記載されていた。
【0236】
3dMPLは、アシル化が異なる(例、3、4、5または6つのアシル鎖を有する、これらは異なる長さであってもよい)複数の関連分子の混合物の形を取ってもよい。2つのグルコサミン(2−デオキシ−2−アミノ−グルコースとしても公知)単糖は、その2−位置(すなわち位置2および2’)の炭素がNアシル化されており、3’位置にはO−アシル化もある。炭素2に付着する基は式−NH−CO−CH−CR1’を有する。炭素2’に付着する基は式−NH−CO−CH−CR2’を有する。炭素3’に付着する基は式−O−CO−CH−CR3’を有する。代表的な構造は次のとおりである:
【0237】
【化8】

基R、RおよびRの各々は独立に、−(CH−CHである。nの値は好ましくは8から16、より好ましくは9から12、最も好ましくは10である。
【0238】
基R1’、R2’およびR3’の各々は独立に、(a)−H;(b)−OH;または(c)−O−CO−Rであってもよく、ここでRは−Hまたは−(CH−CHのいずれかであり、ここでmの値は好ましくは8から16、より好ましくは10、12または14である。2の位置において、mは好ましくは14である。2’の位置において、mは好ましくは10である。3’の位置において、mは好ましくは12である。よって基R1’、R2’およびR3’は、好ましくはドデカン酸、テトラデカン酸またはヘキサデカン酸からの−O−アシル基である。
【0239】
1’、R2’およびR3’のすべてが−Hであるとき、3dMPLは3つのアシル鎖のみを有する(位置2、2’および3’の各々に1つ)。R1’、R2’およびR3’のうち2つだけが−Hであるとき、3dMPLは4つのアシル鎖を有し得る。R1’、R2’およびR3’のうち1つだけが−Hであるとき、3dMPLは5つのアシル鎖を有し得る。R1’、R2’およびR3’のいずれも−Hではないとき、3dMPLは6つのアシル鎖を有し得る。本発明に従って用いられる3dMPLアジュバントは、3つから6つのアシル鎖を有するこれらの形の混合物であってもよいが、その混合物中に6つのアシル鎖を有する3dMPLを含ませることが好ましく、特にヘキサアシル鎖形が合計3dMPLのうち重量で少なくとも10%、たとえば≧20%、≧30%、≧40%、≧50%、またはそれ以上を占めることを確実にすることが好ましい。6つのアシル鎖を有する3dMPLは最もアジュバント活性の形であることが見出されている。
【0240】
よって、本発明の組成物に含ませるために最も好ましい形の3dMPLは、下に示す式(IV)を有する。
【0241】
混合物の形の3dMPLが用いられるとき、本発明の組成物中の3dMPLの量または濃度に対する言及は、混合物中の組合された3dMPL種を示す。
【0242】
水性の条件下では、3dMPLは、たとえば直径<150nmまたは>500nmなどの異なるサイズのミセル集合体または粒子を形成できる。これらのいずれかまたは両方を本発明とともに用いることができ、ルーチンアッセイによってより良い粒子を選択できる。本発明に従った使用には、より小さな粒子(例、3dMPLの澄んだ水性懸濁液を与えるために十分なほど小さい)の方が優れた活性を有するために好ましい[174]。好ましい粒子の平均直径は220nm未満、より好ましくは200nm未満または150nm未満または120nm未満であり、100nm未満の平均直径を有してもよい。しかしほとんどの場合には、平均直径が50nmよりも小さくなることはない。これらの粒子は十分に小さいため、フィルタ滅菌に対して好適である。粒子直径は、平均粒子直径を明らかにする動的光散乱のルーチン技術によって推定できる。ある粒子の直径がxnmであるといわれるとき、一般的にはこの平均値に関して粒子の分布が存在するが、粒子数の少なくとも50%(例、≧60%、≧70%、≧80%、≧90%、またはそれ以上)はx±25%の範囲内の直径を有する。
【0243】
3dMPLは、有利には水中油型エマルジョンと組合せて用いられてもよい。実質的にすべての3dMPLがエマルジョンの水相に位置してもよい。
【0244】
3dMPLは単独で用いられても、1つまたはそれ以上のさらなる化合物と組合せて用いられてもよい。たとえば、QS21サポニン[175](水中油型エマルジョン中に含む[176])、免疫刺激オリゴヌクレオチド、QS21および免疫刺激オリゴヌクレオチドの両方、リン酸アルミニウム[177]、水酸化アルミニウム[178]、またはリン酸アルミニウムおよび水酸化アルミニウムの両方と、3dMPLとを組合せて用いることが公知である。
【0245】
【化9】

脂肪アジュバント
本発明とともに用いられ得る脂肪アジュバントは、上述の水中油型エマルジョンを含み、さらにたとえば以下のものを含む:
・式I、IIまたはIIIの化合物、またはその塩:
【0246】
【化10】

参考文献179において定義されるとおり、たとえば「ER803058」、「ER803732」、「ER804053」、「ER804058」、「ER804059」、「ER804442」、「ER804680」、「ER804764」、「ER803022」、または「ER804057」など、例:
【0247】
【化11】

・Escherichia coliからの脂質Aの誘導体、たとえばOM−174など(参考文献180および181に記載される)。
【0248】
・カチオン性脂質と(通常は中性の)共脂質との調合物、たとえばアミノプロピル−ジメチル−ミリストールイルオキシ(myristoleyloxy)−プロパナミニウムブロミド−ジフィタノイルホスファチジル−エタノールアミン(「Vaxfectin(商標)」)またはアミノプロピル−ジメチル−ビス−ドデシルオキシ−プロパナミニウムブロミド−ジオレオイルホスファチジル−エタノールアミン(「GAP−DLRIE:DOPE」)など。(±)−N−(3−アミノプロピル)−N,N−ジメチル−2,3−ビス(シン−9−テトラデセネイルオキシ)−1−プロパナミニウム塩を含有する調合物が好ましい[182]。
【0249】
・3−O−脱アシル化モノホスホリル脂質A(上記を参照)。
【0250】
・リン酸を含有する非環式バックボーンに結合した脂質を含有する化合物、たとえばTLR4拮抗薬E5564など[183、184]:
【0251】
【化12】

アルミニウム塩アジュバント
水酸化アルミニウムおよびリン酸アルミニウムとして公知のアジュバントが用いられてもよい。これらの名前は従来からのものであるが、単に便宜上用いられているだけで、どちらも実在する化学化合物を正確に説明するものではない(例、参考文献112の第9章を参照)。本発明は、一般的にアジュバントとして用いられるあらゆる「水酸化物」または「リン酸塩」アジュバントを用いることができる。
【0252】
「水酸化アルミニウム」として公知のアジュバントは、典型的にはオキシ水酸化アルミニウム塩であり、これは通常少なくとも部分的に結晶質である。オキシ水酸化アルミニウムは式AlO(OH)で表わすことができ、赤外線(infrared:IR)分光法によって、特に1070cm−1における吸着帯と、3090〜3100cm−1における強いショルダーとの存在によって、たとえば水酸化アルミニウムAl(OH)などの他のアルミニウム化合物と区別できる[参考文献112の第9章]。水酸化アルミニウムアジュバントの結晶化度は、半分の高さにおける回折帯の幅(width of the diffraction band at half height:WHH)によって反映され、結晶質の少ない粒子は晶子サイズがより小さいためにより大きな線の広がりを示す。WHHが増加するに従って表面積が増加し、WHH値が高いアジュバントほど抗原吸着に対する容量が大きいことが示されている。繊維状の形態(例、透過型電子顕微鏡写真においてみられるような)は、水酸化アルミニウムアジュバントにとって典型的である。水酸化アルミニウムアジュバントのpIは典型的に約11であり、すなわちこのアジュバント自体が生理的なpHにおいて正の表面電荷を有する。水酸化アルミニウムアジュバントに対しては、pH7.4における1mgのAl+++当り1.8〜2.6mgのタンパク質の吸着容量が報告されている。
【0253】
「リン酸アルミニウム」として公知のアジュバントは、典型的には水酸化リン酸アルミニウムであり、しばしば少量の硫酸塩も含有する(すなわち水酸化リン酸アルミニウム硫酸塩)。このアジュバントは沈殿によって得られてもよく、沈殿の際の反応条件および濃度は、塩の中の水酸基に対するリン酸の置換の程度に影響する。一般的に、水酸化リン酸塩の有するPO/Alモル比は0.3から1.2である。水酸化リン酸塩は、水酸基の存在によって厳密なAlPOと区別できる。たとえば、3164cm−1におけるIRスペクトル帯(例、200℃に加熱されたとき)は、構造的水酸基の存在を示す[参考文献112の第9章]。
【0254】
リン酸アルミニウムアジュバントのPO/Al3+モル比は、一般的に0.3から1.2、好ましくは0.8から1.2、より好ましくは0.95±0.1となる。リン酸アルミニウムは一般的に、特に水酸化リン酸塩に対してはアモルファスになる。典型的なアジュバントは、0.6mgのAl3+/mlにて含まれる0.84から0.92のPO/Alモル比を有するアモルファス水酸化リン酸アルミニウムである。リン酸アルミニウムは一般的に粒子状になる(例、透過型電子顕微鏡写真においてみられるプレート様の形態)。粒子の典型的な直径は、あらゆる抗原吸着後に0.5〜20μm(例、約5〜10μm)の範囲である。リン酸アルミニウムアジュバントに対しては、pH7.4における1mgのAl+++当り0.7〜1.5mgのタンパク質の吸着容量が報告されている。
【0255】
リン酸アルミニウムの電荷ゼロ点(point of zero charge:PZC)は、水酸基に対するリン酸の置換の程度に反比例し、この置換の程度は、沈殿による塩の調製に対して用いられた反応物の反応条件および濃度に依存して変動し得る。PZCは、溶液中の遊離リン酸イオンの濃度を変えるか(より多くのリン酸=より酸性のPZC)、またはヒスチジン緩衝液などの緩衝液を加える(PZCをもっと塩基性にする)ことによっても変えられる。本発明に従って用いられるリン酸アルミニウムは、一般的に4.0から7.0、より好ましくは5.0から6.5、たとえば約5.7のPZCを有する。
【0256】
本発明の組成物を調製するために用いられるアルミニウム塩の懸濁液は、緩衝液(例、リン酸またはヒスチジンまたはトリス緩衝液)を含有してもよいが、これは常に必要なものではない。この懸濁液は好ましくは滅菌されており、発熱物質を含まない。懸濁液は遊離水性リン酸イオンを含んでもよく、それはたとえば1.0mMから20mM、好ましくは5mMから15mM、より好ましくは約10mMの濃度で存在してもよい。懸濁液は塩化ナトリウムも含んでいてもよい。
【0257】
本発明は、水酸化アルミニウムおよびリン酸アルミニウムの両方の混合物を用いることができる[81]。この場合にはリン酸アルミニウムが水酸化アルミニウムよりも多く存在してもよく、たとえば少なくとも2:1、たとえば≧5:1、≧6:1、≧7:1、≧8:1、≧9:1などの重量比で存在してもよい。
【0258】
患者に投与するための組成物中のAl+++の濃度は、好ましくは10mg/ml未満、たとえば≦5mg/ml、≦4mg/ml、≦3mg/ml、≦2mg/ml、≦1mg/mlなどである。好ましい範囲は0.3mg/mlから1mg/mlである。最大0.85mg/用量であることが好ましい。
【0259】
1つまたはそれ以上のアルミニウム塩アジュバントを含むことに加え、アジュバント成分は1つまたはそれ以上のさらなるアジュバントまたは免疫刺激剤を含んでもよい。こうした付加的な成分は、以下を含むがそれらに限定されない:3−O−脱アシル化モノホスホリル脂質Aアジュバント(「3d−MPL」);および/または水中油型エマルジョン。
【0260】
ワクチン組成物の包装
本発明の組成物(またはキット成分)に対する好適な容器は、水薬瓶、注射器(例、使い捨て注射器)、点鼻スプレーなどを含む。これらの容器は滅菌されるべきである。
【0261】
組成物/成分が水薬瓶に入れられるとき、その水薬瓶は好ましくはガラスまたはプラスチック材料で作られる。好ましくは、水薬瓶は組成物が加えられる前に滅菌される。ラテックス過敏性の患者に伴う問題を避けるために、水薬瓶は好ましくはラテックスを含まないストッパで密閉され、すべての包装材料にラテックスが存在しないことが好ましい。水薬瓶は単一用量のワクチンを含んでもよいし、2回以上の用量、たとえば10用量を含んでもよい(「マルチドーズ」水薬瓶)。好ましい水薬瓶は無色のガラスで作られる。
【0262】
水薬瓶はキャップ(例、ルアーロック)を有してもよく、そのキャップは、予め充填された注射器をキャップに挿入でき、注射器の内容物を水薬瓶の中に放出でき(例、中の凍結乾燥された材料を再構成するため)、水薬瓶の内容物を注射器の中に戻すことができるように適合される。注射器は水薬瓶から取出した後に、針を取付けて組成物を患者に投与できる。キャップがシールまたはカバーの内側に位置することによって、キャップに接近可能になる前にシールまたはカバーを除去する必要があることが好ましい。特にマルチドーズ水薬瓶に対して、水薬瓶はその内容物の無菌的な除去を可能にするキャップを有してもよい。
【0263】
成分が注射器中に包装されるとき、その注射器には針が取付けられていてもよい。針が取付けられていないときには、分離された針が組立および使用のために注射器とともに供給されてもよい。こうした針は被覆されていてもよい。安全針が好ましい。1インチ23ゲージ、1インチ25ゲージ、および5/8インチ25ゲージの針が典型的である。注射器には剥ぎ取り式のラベルが与えられてもよく、そのラベルには内容物のロット番号、インフルエンザシーズンおよび使用期限が印刷されることによって、記録を容易にしてもよい。注射器の中のプランジャは、吸引の際にプランジャが誤って外れることを防ぐためのストッパを有することが好ましい。注射器はラテックスゴムキャップおよび/またはプランジャを有してもよい。使い捨て注射器は単一用量のワクチンを含有する。注射器は一般的に、針の取付の前に先端を密封するための先端キャップを有し、この先端キャップは好ましくはブチルゴムでできている。注射器と針とが分離して包装されるとき、針はブチルゴムシールドに適合されることが好ましい。好ましい注射器は、商品名「Tip−Lok」(商標)の下で販売されている注射器である。
【0264】
たとえば子供への送達を容易にするために、容器には半分の用量体積を示す印が付けられてもよい。たとえば、0.5ml用量を含有する注射器は、0.25mlの体積を示す印を有してもよい。
【0265】
ガラス容器(例、注射器または水薬瓶)が用いられるとき、ソーダ石灰ガラスよりもホウ珪酸ガラスでできた容器を用いる方が好ましい。
【0266】
キットまたは組成物は、たとえば投与のための指示、ワクチン内の抗原の詳細などのワクチンの詳細を含むリーフレットとともに(例、同じ箱の中に)包装されてもよい。その指示は、たとえば予防接種後にアナフィラキシー反応が起こった場合に容易に利用可能なアドレナリンの溶液を保持することなどの警告も含んでいてもよい。
【0267】
処置の方法、およびワクチンの投与
本発明は、本発明に従って製造されたワクチンを提供する。
【0268】
本発明に従って製造されたワクチン組成物はヒト患者への投与に好適であり、本発明は患者における免疫応答を高める方法を提供し、この方法は本発明の組成物を患者に投与するステップを含む。
【0269】
本発明は、薬として使用するための本発明の組成物も提供する。
【0270】
本発明は、患者における免疫応答を高めるための薬の製造における、本発明に従って調製されたインフルエンザウイルス抗原の使用も提供する。
【0271】
これらの方法および使用によって高められる免疫応答は、一般的に抗体応答、好ましくは保護的抗体応答を含む。インフルエンザウイルス予防接種の後に抗体応答、中和能力および保護を評価するための方法は当該技術分野において周知である。ヒトにおける研究から、ヒトインフルエンザウイルスの赤血球凝集素に対する抗体力価は保護に相関する(約30〜40の血清サンプル赤血球凝集阻害力価は、相同ウイルスによる感染からの約50%の保護を与える)ことが示されている[185]。抗体応答は典型的に、赤血球凝集阻害、マイクロ中和、単一放射状免疫拡散(single radial immunodiffusion:SRID)、および/または単一放射状溶血(single radial hemolysis:SRH)によって測定される。これらのアッセイ技術は当該技術分野において周知である。
【0272】
本発明の組成物は、さまざまなやり方で投与できる。最も好ましい免疫化経路は(例、腕または脚への)筋内注射であるが、他の利用可能な経路には皮下注射、鼻腔内[186、187−188]、経口[189]、皮内[190、191]、経皮(transcutaneous)、経皮(transdermal)[192]などが含まれる。
【0273】
本発明に従って調製されたワクチンは、子供および成人の両方を処置するために使用されてもよい。現在、インフルエンザワクチンは生後6ヵ月からの小児科および成人の免疫化における使用が推奨されている。よって患者は1歳未満、1〜5歳、5〜15歳、15〜55歳、または少なくとも55歳であってもよい。このワクチンを受けることが好ましい患者は、高齢者(例、≧50歳、≧60歳、および好ましくは≧65歳)、低年齢者(例、≦5歳)、入院患者、医療従事者、軍隊および軍事人員、妊婦、慢性疾患、免疫不全の患者、ワクチンを受ける前の7日以内に抗ウイルス化合物(例、オセルタミビルまたはザナミビル化合物;下記を参照)を摂取した患者、卵アレルギーの人、および海外旅行者である。しかし、このワクチンはこれらの群に対してのみ好適なのではなく、より一般的に集団に用いられてもよい。パンデミック株については、すべての年齢群への投与が好ましい。
【0274】
本発明の好ましい組成物は、効力に対するCPMP基準のうちの1つ、2つまたは3つを満たす。成人(18〜60歳)におけるその基準は次のとおりである:(1)≧70%の血清防御;(2)≧40%の血清変換;および/または(3)≧2.5倍のGMT増加。高齢者(>60歳)におけるその基準は次のとおりである:(1)≧60%の血清防御;(2)≧30%の血清変換;および/または(3)≧2倍のGMT増加。これらの基準は、少なくとも50人の患者によるオープンラベル研究に基づいている。
【0275】
処置は、単一用量計画または複数用量計画によるものであってもよい。複数用量は、一次免疫化計画および/またはブースター免疫化計画において用いられてもよい。複数用量計画においては、さまざまな用量が同じ経路または異なる経路によって与えられてもよく、たとえば非経口の一次免疫化および粘膜のブースター免疫化、粘膜の一次免疫化および非経口のブースター免疫化などであってもよい。2回以上の用量(典型的には2用量)の投与は、免疫学的に未経験の患者において、たとえば過去にインフルエンザワクチンを受けたことがない人に対して、または新たなHAサブタイプに対する予防接種(パンデミック発生のときなど)のために、特に有用である。複数用量は典型的に、少なくとも1週間離して(例、約2週間、約3週間、約4週間、約6週間、約8週間、約10週間、約12週間、約16週間など)投与される。
【0276】
本発明によって生成されるワクチンは、他のワクチンと実質的に同時に(例、同じ医学的診察、または医療専門家もしくは予防接種センターへの訪問の際に)患者に投与されてもよく、たとえば、麻疹ワクチン、耳下腺炎ワクチン、風疹ワクチン、MMRワクチン、水痘ワクチン、MMRVワクチン、ジフテリアワクチン、破傷風ワクチン、百日咳ワクチン、DTPワクチン、複合H.influenzae b型ワクチン、不活性化ポリオウイルスワクチン、B型肝炎ウイルスワクチン、髄膜炎菌複合ワクチン(たとえば4価のA−C−W135−Yワクチンなど)、呼吸器系合胞体ウイルスワクチン、肺炎双球菌複合ワクチンなどと実質的に同時に投与されてもよい。肺炎双球菌ワクチンおよび/または髄膜炎菌ワクチンと実質的に同時に投与することは、高齢の患者において特に有用である。
【0277】
同様に、本発明のワクチンは、抗ウイルス化合物、特にインフルエンザウイルスに対して活性の抗ウイルス化合物(例、オセルタミビルおよび/またはザナミビル)と実質的に同時に(例、同じ医学的診察、または医療専門家への訪問の際に)患者に投与されてもよい。これらの抗ウイルス物質は、ノイラミニダーゼ阻害剤、たとえば(3R,4R,5S)−4−アセチルアミノ−5−アミノ−3(1−エチルプロポキシ)−1−シクロヘキセン−1−カルボン酸、または5−(アセチルアミノ)−4−[(アミノイミノメチル)−アミノ]−2,6−無水−3,4,5−トリデオキシ−D−グリセロ−D−ガラクトノン−2−エノン酸などを含み、それらのエステル(例、エチルエステル)および塩(例、リン酸塩)も含まれる。好ましい抗ウイルス物質は、(3R,4R,5S)−4−アセチルアミノ−5−アミノ−3(1−エチルプロポキシ)−1−シクロヘキセン−1−カルボン酸、エチルエステル、リン酸塩(1:1)であり、これはリン酸オセルタミビル(タミフル(TAMIFLU)(商標))としても公知である。
【0278】
一般
「含む(comprising)」という用語は、「含む(including)」および「からなる(consisting)」を包含し、たとえばXを「含む」組成物は、Xのみからなっていてもよいし、たとえばX+Yなど、何か付加的なものを含んでいてもよい。
【0279】
「実質的に」という語は「完全に」を排除するものではなく、たとえばYを「実質的に含まない」組成物は、Yを完全に含まなくてもよい。必要なときには、「実質的に」という語を本発明の定義から削除してもよい。
【0280】
数値xに関係する「約」という用語は、たとえばx±10%を意味する。
【0281】
特定的に述べられていない限り、2つまたはそれ以上の成分を混合するステップを含む方法は、混合のいかなる特定の順序も必要としない。よって複数の成分はあらゆる順序で混合され得る。3つの成分があるときには、2つの成分を互いに組合せることができ、次いでその組合せを第3の成分と組合せるなどしてもよい。
【0282】
細胞の培養において動物(特にウシ)の材料が用いられるときには、その材料は、伝染性海綿状脳症(transmissible spongiform encaphalopathies:TSEs)を含まない、特にウシ海綿状脳症(bovine spongiform encephalopathy:BSE)を含まない供給源から得られるべきである。全体的には、動物由来の材料がまったく存在しないところで細胞を培養することが好ましい。
【0283】
ある化合物が組成物の部分として体に投与されるとき、その化合物は代替的に好適なプロドラッグによって置換されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0284】
【図1】臨床的試料からのインフルエンザウイルスの単離の手法を示す図である。
【図2】MDCK−33016細胞において単離された9つのウイルスサンプルのHA力価を比較する図である。各サンプルにおいて、左側の棒は継代2、右側の棒は継代5におけるものである。
【図3】3つの異なるMDCK細胞型において生育された10サンプルのインフルエンザウイルスのHA力価を比較した図である。各サンプルに対して、3本の棒は次のとおりである:左、懸濁液中の33016;中、付着性33016;および右、CCL−34 MDCK細胞。
【図4】3つのウイルスのSNAまたはMAAレクチンへの結合を示す図である。図4Aは元の単離体の結合を示し、図4BはMDCK33016細胞における生育後の結合を示し、図4Cは卵における生育後の結合を示す。
【図5】ウイルスの3−SLまたは6−SLNへの結合を示す図である。図面中には6群の列がある:最も左側の3つは異なる濃度(1μM、0.5μM、0.25μM)における3−SLへの結合を示し、最も右側の3つは異なる濃度(0.25μM、0.125μM、0.0625μM)における6−SLNへの結合を示す。6群の各々における各列は異なるウイルスを示す。図5において、3つの列は左から右に以下を示す:(i)細胞単離ウイルス;(ii)卵単離ウイルス;および(iii)鳥ウイルス。
【図6】ウイルスの3−SLまたは6−SLNへの結合を示す図である。図面中には6群の列がある:最も左側の3つは異なる濃度(1μM、0.5μM、0.25μM)における3−SLへの結合を示し、最も右側の3つは異なる濃度(0.25μM、0.125μM、0.0625μM)における6−SLNへの結合を示す。6群の各々における各列は異なるウイルスを示す。図6において、4つの列は左から右に以下を示す:(i)卵における2継代後のウイルス;(ii)MDCKにおける2継代後のウイルス;(iii)卵における5継代後のウイルス;(iv)MDCKにおける5継代後のウイルス。
【発明を実施するための形態】
【0285】
患者のサンプルからのウイルス単離
2006〜2007年の北半球のインフルエンザシーズン中に、子供および成人からインフルエンザAおよび/またはBウイルスサブタイプを含有する臨床的試料(鼻または咽喉のスワブ)を得た。赤血球凝集素(hemagglutinin:HA)力価の決定、ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction:PCR)、およびウイルス滴定によって、無血清懸濁培養中で生育されたMDCK33016細胞株(DSM ACC2219)の感染性および信頼性を、確立されたMDCK CCL34細胞株(ATCC)および鶏卵と比較した。
【0286】
診断的ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、248個のインフルエンザ陽性サンプルが同定された。MDCK33016細胞株および鶏卵において、インフルエンザウイルスの複製および単離の信頼性および感染性を、以下の方法によって評価した:(i)赤血球凝集素(HA)力価;(ii)ウイルス負荷測定のためのリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR);および(iii)ウイルス滴定。元の臨床的試料と、MDCK細胞および鶏卵における第2継代からの単離体とにおけるHA遺伝子の配列決定を行なうことによって、細胞における複製精度を評価した。懸濁MDCK33016細胞において生育された単離体から得られたウイルス力価を、プレートに付着させたMDCK33016細胞からのものと比較した。
【0287】
その結果、MDCK33016懸濁細胞株の単離能力は、確立されたMDCK CCL34細胞株よりも優れており、鶏卵のそれよりもかなり高いことが示された。MDCK33016細胞におけるウイルスサンプルの継代後、どの単離体においてもアミノ酸置換は同定されなかった。それに対し、ほぼすべての卵継代ウイルスが、主にHA1遺伝子中に1つまたはそれ以上のアミノ酸置換を含有していた。卵における継代の後に観察されるHA遺伝子の抗体結合部位の変異によって、インフルエンザウイルスの抗原性が変わる可能性がある。
【0288】
急性呼吸器疾患の患者から得られた臨床的サンプルの55%がインフルエンザ陽性と同定され、次のウイルス型を有した:79%のA/H3N2;12.5%のA/H1N1;1.6%のB、0.4%のH3/B、および6.5%の型不明。MDCK33016細胞を用いて、臨床的試料からのウイルス単離ができた(図1)。これに対し、臨床的試料から卵に注入されたウイルスは、いずれも単離に成功しなかった。新たに調製されたニワトリ胚線維芽細胞(CEF)についても同様のネガティブな結果が得られた。卵におけるインフルエンザウイルスの単離および確立は、陽性HA力価を有するMDCK33016培養物の上清を用いたときにのみ可能であった。
【0289】
各細胞からの第1の採取物は、参照の目的のためにさらに卵に接種された。各アプローチを用いて成功したウイルス単離の数が図1の囲みの中に示されており、注入された異なるウイルス型の数も示されている。MDCK33016細胞から単離された3つのウイルスサブタイプすべてが、卵における第2継代の後に妥当なHA(>32)およびウイルス力価(>1´10)を獲得し、どちらの力価もさらなる継代によって増加した(図2)。
【0290】
懸濁液中で生育するMDCK33016細胞は、3つのサブタイプすべてに対して臨床的スワブからのインフルエンザウイルスの単離に関して付着性細胞株(CCL−34)よりも優れていた。回収率(表1)によって示されるとおり、懸濁細胞株は陽性インフルエンザスワブ材料に対するより高い感度を示した。元の単離体に対するMDCK33016細胞および卵の異なる継代間のHA配列が比較され(表2)、MDCK33016細胞において単離されたインフルエンザA株には5継代後にも突然変異が見出されなかったのに対し、卵において単離されたインフルエンザA株は2継代後にHAタンパク質の抗体結合部位に突然変異を示した。MDCK33016細胞または卵において単離されたインフルエンザB株に対する突然変異は見出されなかった。
【0291】
懸濁MDCK33016細胞における単離体の複製後には、付着MDCK33016細胞に比べて少なくとも1logレベル高いウイルス収率が見出された(図3)。
【0292】
よって、MDCK33016懸濁細胞株は、鶏卵よりも大きい単離能力を提供するため、野生型インフルエンザ株の単離および複製に対する理想的な系である。
【0293】
さらに、複製精度が高いため、細胞に基づく単離体をヒトインフルエンザワクチンの生成に用いることによって、より確実なワクチンがもたらされ得る。流布中の野生型株とワクチンに含有される株との適合を改善することによって、ワクチンのインフルエンザに対するより大きな防御を提供できるはずである。
【0294】
結論として:(a)卵に比べ、MDCK33016細胞ではすべてのウイルス株の単離に成功した;(b)MDCK33016細胞から単離されたウイルス株を卵においてうまく増殖させることができた;(c)付着性細胞に比べて、懸濁液中で生育されたMDCK33016細胞の方が3つのインフルエンザウイルスサブタイプすべての回収率が優れている;および(d)MDCK33016細胞中で生育された単離体のいずれにおいても、元の材料と比べたときのHA遺伝子の置換が存在しなかったが、卵においては第2継代後に存在した。よってMDCK33016懸濁細胞株は、臨床的単離体からの野生型インフルエンザウイルスを継代するための信頼性が高く、かつ野生型ウイルスの確実な特徴を保存するため、ヒトインフルエンザウイルスサブタイプの単離および増殖に対する非常に好適な培養基である。
【0295】
受容体結合
元の単離ウイルス、卵生育ウイルス、およびMDCK生育ウイルスの受容体の優先性を調査した。研究には、2,3−シアリル結合(MAA)もしくは2,6−シアリル結合(SNA)を有するレクチン、または2,3−シアリルラクトース(2,3−sialyllactose:3−SL、卵受容体の類似体)および2,6−シアリル−N−アセチルラクトサミン(2,6−sialyl−N−acetyllactosamine:6−SLN、ヒト受容体の類似体)シアリルグリコポリマーが用いられた[193]。
【0296】
図4は代表的な研究の結果を示す。ラベルされたピークは、SNAまたはMAAレクチンへの結合を示す。元のウイルス(図4A)およびMDCK33016にて生育されたウイルス(図4B)はSNAおよびMAAに対する明確なピークを有するが、卵生育ウイルス(図4C)ではSNAおよびMAAピークは実質的に重なり合っている。
【0297】
3−SLおよび6−SLNを用いたさらなる実験において結合特異性も調べた。結果の1例を図5に示す。グラフの左側の結合は鳥受容体の優先性を示し、右側の結合はヒト受容体の優先性を示す。図5に見られるとおり、細胞単離ウイルスはヒト受容体を強く好む。
【0298】
図6は、卵または懸濁中で生育されたMDCK33016において2継代または5継代された後のシュトゥットガルト単離体(A/H1N1)を用いたデータを示す。MDCK継代されたウイルスは6−SLNに対する強い優先性を示す。
【0299】
結論として、すべてのMDCK生育された臨床的なヒトAおよびBウイルスは、このアッセイにおいてどちらにも結合しなかったいくつかの単離体を除き、3−SLよりも6−SLNに結合する。元の臨床的単離体とは異なり、卵適合ウイルスは3−SLに結合するか、または3−SLにも6−SLNにも結合しない。
【0300】
卵における生育による変化
インフルエンザAおよびBウイルスのさまざまな株が、MDCK細胞において単離された後、以下の培養基の1つによって最大5回継代された:卵;MDCK細胞CCL−34;MDCK細胞33016;ベロ細胞;またはHEK293−T細胞。各継代の後にウイルスのHA遺伝子の配列が決定され、HA力価が測定された。
【0301】
いくつかの株(例、A/H1N1/Bayern/7/95)に対するHA配列は、卵およびMDCK33016による継代の間安定であったが、他のものは安定ではなかった。たとえば、A/H1N1/Nordrhein Westfalen/1/05のHA配列は、卵による2継代の後に抗体結合部位Dにおける変異D203Nを獲得し、さらに2継代の後にR329Kを付加的に獲得した。これに対し、MDCK33016によって並行して継代されたウイルスにおいて、配列は変更されなかった。
【0302】
このA/H1N1/NRW/1/05株については、ベロ細胞によって培養されたときに生育がみられなかった。他の4つの培養基はこの株の生育を支持できたが、HA力価は変動した。たとえば、卵においては32〜256の力価がみられたが、293−T細胞はもっと低い力価(16〜32)を与え、MDCK33016はもっと高い力価(32〜512)を与えた。
【0303】
本発明は例示によってのみ説明されており、本発明の範囲および趣旨の範囲内で変更が加えられてもよいことが理解される。
【0304】
表1:MDCK33016およびATCC(CCL−34)細胞株におけるインフルエンザ陽性サンプルの第1継代後の回収率
【0305】
【表1】

1つは両MDCK細胞株において単離できた2重感染(H3/B)。
【0306】
表2:元の単離体に対するMDCK33016−PF細胞または卵における2継代または5継代後の赤血球凝集素配列の比較
【0307】
【表2】

0=変異は検出されず
元の単離体に対してHA1配列のみ利用可能
**P2(MDCK33016)単離体に対する比較。
【0308】
参考文献(その内容は本明細書に引用により援用される)
【0309】
【化13】

【0310】
【化14】

【0311】
【化15】

【0312】
【化16】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワクチン製造のためのインフルエンザシードウイルスを調製するための方法であって、
(i)患者から直接得られたインフルエンザウイルスまたは一次単離体から得られたインフルエンザウイルスを細胞株に感染させるステップと;
(ii)ステップ(i)において得られた該感染細胞株からのウイルスを少なくとも1回継代するステップと;
(iii)シードウイルスとして使用するためのインフルエンザウイルスを生成するためにステップ(ii)からの該感染細胞株を培養するステップと
を含み、ステップ(i)において用いられる該インフルエンザウイルスはインフルエンザBウイルスであるか、またはインフルエンザAウイルスのH1もしくはH3株である、方法。
【請求項2】
ワクチン製造のためのインフルエンザシードウイルスを調製するための方法であって、
(i)患者から直接得られたインフルエンザウイルスまたは一次単離体から得られたインフルエンザウイルスを細胞株に感染させるステップと;
(ii)ステップ(i)において得られた該感染細胞株によって生成されたインフルエンザウイルスの少なくとも1つのウイルスRNAセグメントのcDNAを調製し、該cDNAを逆遺伝学手順に用いて、ステップ(i)の該インフルエンザウイルスと同様の少なくとも1つのウイルスRNAセグメントを有する新たなインフルエンザウイルスを調製するステップと;
(iii)細胞株に該新たなインフルエンザウイルスを感染させ、次いでシードウイルスとして使用するための該新たなインフルエンザウイルスを生成するために該細胞株を培養するステップと
を含む、方法。
【請求項3】
ステップ(ii)における継代は、ステップ(i)において用いられたものと同じ型の細胞を介する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(i)、(ii)または(iii)のいずれも卵におけるインフルエンザウイルスの生育または継代を含まない、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞株はヒト以外の哺乳動物細胞株である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞株はMDCK細胞株である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記シードウイルスは配列決定される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記シードウイルスは抗血清を誘出するために用いられる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記シードウイルスは有効なシードロットを調製するために用いられる、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記シードウイルスはワクチン製造のために用いられる、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記シードウイルスのゲノムはPR/8/34セグメントを有さない、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記シードウイルスは、Sia(α2,3)Gal末端二糖を有するオリゴ糖よりもSia(α2,6)Gal末端二糖を有するオリゴ糖に優先的に結合する赤血球凝集素を有する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
ワクチン製造のためのインフルエンザウイルスを調製するための方法であって、
(i)集団中に流布しているインフルエンザウイルスか、または集団中に流布しているインフルエンザウイルスを抗原的に代表する赤血球凝集素を有するインフルエンザウイルスを得るステップと;
(ii)ステップ(i)において得られた該インフルエンザウイルスを細胞株に感染させるステップと;
(iii)ステップ(ii)において得られた該感染細胞株からのウイルスを少なくとも1回継代してシード株を生じさせるステップと;
(iv)インフルエンザウイルスを生成するためにステップ(iii)からの該シード株を培養するステップと
を含む、方法。
【請求項14】
ワクチン製造のためのインフルエンザウイルスを調製するための方法であって、
(i)集団中に流布しているインフルエンザウイルスか、または集団中に流布しているインフルエンザウイルスを抗原的に代表する赤血球凝集素を有するインフルエンザウイルスを得るステップと;
(ii)ステップ(i)において得られた該インフルエンザウイルスを細胞株に感染させるステップと;
(iii)ステップ(i)において得られた該感染細胞株によって生成されたインフルエンザウイルスの少なくとも1つのウイルスRNAセグメントのcDNAを調製し、該cDNAを逆遺伝学手順に用いて、ステップ(i)の該インフルエンザウイルスと同様の少なくとも1つのウイルスRNAセグメントを有するインフルエンザシードウイルスを調製するステップと;
(iv)細胞株に該インフルエンザシードウイルスを感染させ、次いでインフルエンザウイルスを生成するためにステップ(iii)からの該継代された細胞株を培養するステップと
を含む、方法。
【請求項15】
インフルエンザウイルスワクチンを調製するための方法であって、請求項13または14のステップ(i)〜(iv)と、次いで
(v)ステップ(iv)において得られたウイルスを処理してワクチンを生じさせるステップと
を含む、方法。
【請求項16】
ステップ(v)は前記ウイルスを不活性化するステップを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記ワクチンは全ビリオンワクチンである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ワクチンは分解ビリオンワクチンである、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記ワクチンは表面抗原ワクチンである、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記ワクチンはビロゾームのワクチンである、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
前記ワクチンは、用量当り10ng未満の残留宿主細胞DNAを含有する、請求項15〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
多価インフルエンザワクチンを作製するための方法であって、
複数の個別のインフルエンザウイルス株に対して請求項15〜21のいずれか1項に記載の方法を行なうステップと、
該個別のワクチンを混合して該多価インフルエンザワクチンを作製するステップと
を含む、方法。
【請求項23】
前記多価インフルエンザワクチンは、2つのインフルエンザAウイルス株と、1つのインフルエンザBウイルス株とを有する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記ワクチンは水銀を実質的に含まない、請求項15〜22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記ワクチンはアジュバントを含む、請求項15〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
動物から抗血清を調製するための方法であって、
(i)精製したインフルエンザウイルス赤血球凝集素を該動物に投与するステップと;次いで
(ii)該赤血球凝集素を認識する抗体を含有する血清を該動物から回収するステップと
を含み、ステップ(i)において用いられた該赤血球凝集素は細胞株中で生育されたウイルスからのものであることを特徴とする、方法。
【請求項27】
動物から抗血清を調製するための方法であって、
(i)細胞株中でインフルエンザウイルスを生育するステップと;
(ii)ステップ(i)において生育されたウイルスからの赤血球凝集素抗原を精製するステップと;
(iii)ステップ(ii)からの該精製赤血球凝集素を該動物に投与するステップと;次いで
(iv)該動物から該赤血球凝集素を認識する抗体を含有する血清を回収するステップと
を含む、方法。
【請求項28】
前記動物はヒツジである、請求項26または27に記載の方法。
【請求項29】
前記抗血清をSRIDアッセイに好適なゲルと混合するさらなるステップを含む、請求項26〜28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
請求項26〜28のいずれか1項に記載の方法によって得られる、抗血清。
【請求項31】
抗原基準材料を調製するための方法であって、
(i)細胞株中でインフルエンザウイルスを生育するステップと;
(ii)ステップ(i)において生育されたウイルスを精製するステップと;
(iii)該ウイルスを不活性化するステップであって、ここで、ステップ(i)において用いられた該インフルエンザウイルスは卵中で生育されたことがないことを特徴とする、ステップと;
(iv)該不活性化されたウイルスを凍結乾燥するステップとを含む、方法。
【請求項32】
患者のサンプルからインフルエンザウイルスを単離するための方法であって、
該患者のサンプルがMDCK細胞とともにインキュベートされるステップを含み、
該MDCK細胞は懸濁培養中で生育している、方法。
【請求項33】
患者のサンプルからインフルエンザウイルスを単離するための方法であって、
該患者のサンプルがMDCK細胞とともにインキュベートされるステップを含み、
該MDCK細胞は無血清培地中で生育している、方法。
【請求項34】
患者のサンプルからインフルエンザウイルスを単離するための方法であって、
該患者のサンプルがMDCK細胞とともにインキュベートされるステップを含み、
該MDCK細胞は無タンパク質培地中で生育している、方法。
【請求項35】
患者のサンプルからインフルエンザウイルスを単離するための方法であって、
該患者のサンプルが非腫瘍形成性のMDCK細胞とともにインキュベートされるステップを含む、方法。
【請求項36】
患者のサンプルからインフルエンザウイルスを単離するための方法であって、
前記患者のサンプルがMDCK細胞とともにインキュベートされるステップを含み、
前記MDCK細胞は重層培地に提供されない、方法。
【請求項37】
患者のサンプルからインフルエンザウイルスを単離するための方法であって、
該患者のサンプルがMDCK細胞とともにインキュベートされるステップを含み、
該MDCK細胞は無血清懸濁培養中で生育している、方法。
【請求項38】
患者のサンプルからインフルエンザウイルスを単離するための方法であって、
該患者のサンプルがMDCK細胞とともにインキュベートされるステップを含み、
該MDCK細胞は無タンパク質懸濁培養中で生育している、方法。
【請求項39】
患者のサンプルからインフルエンザウイルスを単離するための方法であって、
該患者のサンプルが非腫瘍形成性のMDCK細胞とともにインキュベートされるステップを含み、
該MDCK細胞は懸濁培養中で生育している、方法。
【請求項40】
患者のサンプルからインフルエンザウイルスを単離するための方法であって、
該患者のサンプルが非腫瘍形成性のMDCK細胞とともにインキュベートされるステップを含み、
該MDCK細胞は無血清懸濁培養中で生育している、方法。
【請求項41】
患者のサンプルからインフルエンザウイルスを単離するための方法であって、
該患者のサンプルが非腫瘍形成性のMDCK細胞とともにインキュベートされるステップを含み、
該MDCK細胞は無タンパク質懸濁培養中で生育している、方法。
【請求項42】
請求項32〜41のいずれか1項に記載の方法によって単離された、インフルエンザウイルス。
【請求項43】
再集合体インフルエンザウイルスを調製するための方法であって、
(i)ゲノムセグメントの第1の組を有するインフルエンザウイルスの第1の株と、ゲノムセグメントの第2の組を有するインフルエンザウイルスの第2の株との両方を細胞株に感染させるステップであって、該第1の株は所望の赤血球凝集素をコードするHAセグメントを有する、ステップ;
(ii)ステップ(i)からの該感染細胞を培養して、ゲノムセグメントの該第1の組からの少なくとも1つのセグメントおよびゲノムセグメントの該第2の組からの少なくとも1つのセグメントを有するインフルエンザウイルスを生成するステップを含み、
ただし、ゲノムセグメントの該第1の組からの該少なくとも1つのセグメントが該第1の株からの該HAセグメントを含む、方法。
【請求項44】
ワクチンに使用するためのインフルエンザウイルス抗原を調製するための方法であって、
(i)卵培養基で増殖されたことがないインフルエンザウイルスを受取るステップと;
(ii)該インフルエンザウイルスを細胞株に感染させるステップと;
(iii)インフルエンザウイルスを生成するためにステップ(ii)からの該感染細胞を培養するステップと
を含む、方法。
【請求項45】
ワクチンに使用するためのインフルエンザウイルス抗原を調製するための方法であって、
(i)MDCK33016細胞中で単離されたインフルエンザウイルスを受取るステップと;
(ii)該インフルエンザウイルスを細胞株に感染させるステップと;
(iii)インフルエンザウイルスを生成するためにステップ(ii)からの該感染細胞を培養するステップと
を含む、方法。
【請求項46】
ワクチンに使用するためのインフルエンザウイルス抗原を調製するための方法であって、
(i)血清含有培地中で生育する培養基で増殖されたことがないインフルエンザウイルスを受取るステップと;
(ii)該インフルエンザウイルスを細胞株に感染させるステップと;
(iii)インフルエンザウイルスを生成するためにステップ(ii)からの該感染細胞を培養するステップと
を含む、方法。
【請求項47】
ワクチンに使用するためのインフルエンザウイルス抗原を調製するための方法であって、
(i)逆遺伝学技術を用いて生成されたインフルエンザウイルスを受取るステップと;
(ii)該インフルエンザウイルスを細胞株に感染させるステップと;
(iii)インフルエンザウイルスを生成するためにステップ(ii)からの該感染細胞を培養するステップと
を含む、方法。
【請求項48】
ワクチンに使用するためのインフルエンザウイルス抗原を調製するための方法であって、
(i)PR/8/34インフルエンザウイルスからの6つより少ないウイルスセグメントを有するインフルエンザAウイルスを受取るステップと;
(ii)該インフルエンザウイルスを細胞株に感染させるステップと;
(iii)インフルエンザウイルスを生成するためにステップ(ii)からの該感染細胞を培養するステップと
を含む、方法。
【請求項49】
ワクチンに使用するためのインフルエンザウイルス抗原を調製するための方法であって、
(i)AA/6/60インフルエンザウイルスからの6つより少ないウイルスセグメントを有するインフルエンザAウイルスを受取るステップと;
(ii)該インフルエンザウイルスを細胞株に感染させるステップと;
(iii)インフルエンザウイルスを生成するためにステップ(ii)からの該感染細胞を培養するステップと
を含む、方法。
【請求項50】
ワクチンに使用するためのインフルエンザウイルス抗原を調製するための方法であって、
(i)Sia(α2,3)Gal末端二糖を有するオリゴ糖よりもSia(α2,6)Gal末端二糖を有するオリゴ糖に優先的に結合する赤血球凝集素を有するインフルエンザウイルスを受取るステップと;
(ii)該インフルエンザウイルスを細胞株に感染させるステップと;
(iii)インフルエンザウイルスを生成するためにステップ(ii)からの該感染細胞を培養するステップと
を含む、方法。
【請求項51】
ワクチンに使用するためのインフルエンザウイルス抗原を調製するための方法であって、
(i)鶏卵には見られない赤血球凝集素および/またはノイラミニダーゼグリコフォームを有するインフルエンザウイルスを受取るステップと;
(ii)該インフルエンザウイルスを細胞株に感染させるステップと;
(iii)インフルエンザウイルスを生成するためにステップ(ii)からの該感染細胞を培養するステップと
を含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−502692(P2010−502692A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−527227(P2009−527227)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【国際出願番号】PCT/IB2007/003536
【国際公開番号】WO2008/032219
【国際公開日】平成20年3月20日(2008.3.20)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】