説明

厚み差含有コンタクトレンズ及びその製造方法

【課題】 厚差レンズの製造工程は一般に、紫外線や加熱処理等を含む硬化工程、あるいはまた他の類似の硬化工程を含んでいる。しかしながら、この硬化工程の結果、レンズの厚差により、程度の異なるレンズ材料の収縮が生じるという課題があった。
【解決手段】 収縮差による目標屈折力からのずれを補償する厚み差含有コンタクトレンズの製造方法である。この方法は、レンズに第1の厚みの第1領域、前記第1の厚みとは異なる第2の厚みの上方領域および下方領域、ならびに円柱軸を持たせるよう設計し、円柱軸の角度の全範囲を複数の角度領域に分割し、複数の角度領域のそれぞれに一つずつが対応する複数の屈折力補正要素を決定し、レンズの円柱軸を包む円柱軸領域に対応する、複数の屈折力補正要素より選択された一つを使用してレンズ設計を変更するという各ステップを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数のベースカーブを使用して不均等な収縮の結果として生じる球体屈折力及び円柱屈折力の偏向を矯正するための厚み差含有コンタクトレンズ(differential thickness contact lens)、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンタクトレンズは概して様々な視力障害を補正するために使用される。これについては、例えば、本明細書内にその全体を参照として編入される米国特許第4,573,774号、同第5,650,837号及び同第5,652、638号を参照されたい。また、Ruben他、Contact Lens Practice (Chapman & Hall,ロンドン); Stein, Slatt & Stein, Opthalmic Terminology (C.V. Mosby Company,セントルイス、1987年)等の様々なテキスト類においてはコンタクトレンズ設計の原理及び製造について検討されているが、これらもまた本明細書中に編入される。
乱視は、眼の一部が他の部分とは異なる焦点に光を収束させる際に生じるが、それは言わば、光線が網膜上の単一の焦点に収束しない眼の屈折エラーである。円環体レンズ(toric lenses: 以後トーリックレンズと呼ぶ)、即ち円柱屈折力(cylinder power)を有するレンズは、概して乱視を矯正するために使用される。トーリックレンズでは、円柱屈折力は円柱軸に直交する円柱の半径に即している。トーリックレンズの円柱屈折力により、眼は光線を共通の焦点に収束させるようになる。
【0003】
上記したように、円環体(toricity)は、乱視を矯正するために使用されるものであり、それによって光線を共通の焦点に収束させるようにしている。しかしながら、共通の焦点自体が網膜に対して正しい位置ではない場合もある。 この状態は「近視」または「遠視」と呼ばれている。近視は一般的に急勾配の角膜により生じるものであり、これにより光線が網膜に届かない位置で焦点に収束する場合を言う。また逆に、遠視は平坦な角膜により生じるものであり、これにより光線が網膜の裏の位置で焦点に収束する場合を言う。球体屈折力(sphere power)はレンズに含まれており、これにより光が網膜上に適性に収束される。
【0004】
コンタクトレンズは、それを使用する人の眼の特定の事情により、球体矯正と円柱矯正のいずれか、または双方を含むことがある。球体矯正のみを含むレンズは球状に対称であり、従って眼の中でレンズがどう回転しようとも影響はなく、またそれにより、意図された視力矯正が損なわれるものでもない。一方、トーリックコンタクトレンズは概して異なる厚みを有する領域を含むように設計されており、結果として球体に非対象なレンズとなる。その結果、眼の特定領域の視力を矯正する機能を実行するために、トーリックコンタクトレンズはそれが眼に対して適正な方向に向けられるように、眼の中では回転を固定する必要がある。
【0005】
回転の固定は下方先端切断(inferior truncation)、上下先端切断(double truncation)、薄領域(双方板状(double slab-off)とも呼ばれる)、背面円環、及びプリズム楔型断面等を含む一群の設計形状を使用することで得ることができる。これら回転の固定指向の設計は、個別にまたは組み合わせても使用できる。これら回転の固定指向設計の一つの共通な特徴は、それを達成すべくレンズの中で異なる厚みを有する領域を使用していることである。例えば、「板状(Slab-off)」仕様の場合は、レンズが瞼の下に配置されたとき、それが瞼により適切に固定されるよう、レンズ上端及び下端が薄板化されている。またそれと同時に、レンズのより厚みのある部分は、やはりそれらの部分が瞼に当接することにより適切に固定されるよう瞼の間に配置される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
厚み差含有レンズの製造工程は一般に、紫外線や加熱処理、あるいはまた他の類似の硬化工程を含んでいる。しかしながら、この硬化工程の結果、レンズの厚み差により、レンズ材料の異なる割合での収縮が生じる。この収縮差により円柱屈折力が位置関数として変化する。球体屈折力もまた位置関数として変化する。従来のアプローチでは円柱屈折力及び球体屈折力の角度位置に係わらず、すべてのレンズに適用される単一ベースカーブを使用してこのエラーを補償していた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、製造工程中の収縮差を補償する厚み差含有コンタクトレンズ用のものである。本発明はまた、製造工程中の収縮差に対応する厚み差含有レンズの製造、及び補償の方法に関するものである。不均等な収縮により生じる円柱屈折力及び球体屈折力の変化は単一のベースカーブに代えて多数の異なるベースカーブを使用することにより補償される。これにより、引き起こされた円柱屈折力及び球体屈折力の変化により生じた目標屈折力からのずれが減じられるのである。
本発明は、収縮差による目標屈折力からのずれを補償するコンタクトレンズの製造方法、及び、厚みの異なる収縮の第1の領域及び第2の領域、及び一定の角度位置を有する円柱屈折力を有するレンズを設計し、レンズの複数の角度領域のそれぞれに、複数の屈折力補正要素を決定し、円柱屈折力の角度位置を含むレンズの前記角度領域に対応する複数の屈折力要素より選択された一つを使用してレンズを変更するという各ステップを使用して製造される該補償されたコンタクトレンズに関するものである。
【発明の効果】
【0008】
前記したように、本発明においては、細かく分割した円柱軸のそれぞれについて異なる屈折補正要素を使用したので、目標屈折力からの大幅なずれを減少させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】トーリックコンタクトレンズを示す図である。
【図2】不均等な収縮により生じる目標屈折力からのずれを示すグラフ図である。
【図3】多数のベースカーブの使用を示すグラフ図である。
【図4】図3の多数のベースカーブの使用による目標屈折力からのずれを示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明の実施の一形態を説明する。
実施の形態1.
図1は回転固定の設計を有するコンタクトレンズ10の前面の平面図である。レンズ10は中央視覚領域12、及びそれぞれ上方領域及び下方領域に位置する薄板化領域14及び薄板化領域16を有するものであり、患者の瞼の下に配置されるよう図られている。
【0011】
厚み差領域を有するレンズは、製造工程内の硬化の段階でその外形が変化することは既に確認されている。硬化が円柱屈折力と球体屈折力に影響を与える収縮差を生じさせるのである。図2は、円柱屈折力60及び球体屈折力62の双方についての、目標屈折力からのずれを円柱軸の関数として示したグラフ図である。この屈折力のずれはレンズの不均等な収縮により引き起こされる。屈折力のずれの度合いは位置関数、すなわち円柱屈折力の角度位置として決定されていた。図2に示される例としては、90度で円柱軸を有するレンズはほぼ−0.25ジオプトリ(-0.25 diopters)の円柱屈折力のずれを受ける。球体屈折力もまた同様に影響を受ける。
従来の技術では、すべての異なる円柱軸方向について、単一で普遍の屈折力補正を使用することによりこの屈折力のずれを補償していた。しかしながら、屈折力のずれは円柱軸の全範囲に渡ってかなりの量が変化するので、単一の補正要素では一般に円柱軸の全体に渡って十分な補正を行うことはできない。
【0012】
本発明は、円柱軸の各領域について多数のベースカーブを、すなわち多数の屈折力補正要素を使用することによりこの問題に対処している。この対処法は図3に示されている。図3に示されているように、円柱軸範囲の180度のスパンが、それぞれ30度の範囲を有する6つの領域に分割されている。そして3つの屈折力補正要素A、屈折力補正要素B及び屈折力補正要素Cが使用されている。しかしながらこれら6つの領域に対して必要とされるのは3領域のみである。その理由は、補正される屈折力のずれの影響は90度軸を中心として対称だからである。従って、0度乃至30度の間では屈折力補正要素Aが使用され、30度乃至60度の間では屈折力補正要素Bが使用され、60度乃至90度の間では屈折力補正要素Cが使用される。180度乃至90度の領域は、上記説明した0度乃至90度の領域の鏡的な像であり、当該要素はそれぞれの30度領域内で使用される。図3に示す例は30度の領域群であるが、円柱軸のスパンは、試すべき補正の粒状度及び正確さによってより小さく、あるいはより大きく分割することができることは言うまでもない。
図3の対処法を使用することによる利点が図4に示されている。図4に示されるように、多数のベースカーブを使用することにより、各領域内でのより微細な調整が試された補正が可能である。その結果、目標屈折力からのずれが0.05ジオプトリ程度に縮小される。この目標屈折力からのずれの減少により全体的な製造工程に渡って0.25ジオプトリ程度の余裕が与えられる。屈折力補正は各領域において希望する円柱屈折力及び球体屈折力を変更することにより導入されるが、これは円柱半径及び球体半径を調節することにより達成される。
【0013】
図2乃至図4の例において、補償されていない球体屈折力は領域Aから領域Cへ移向するにつれて次第に弱くなる傾向がある。従って、球体屈折力は領域Aから領域Cへ移行するにつれて次第に球体屈折力の強度を増大させることによって補償される。これは領域Aから領域Cへ向けて球体半径を次第に小さくすることにより達成される。同様に、補償されていない円柱屈折力は領域Aから領域Cへ移行するにつれて次第に強くなる傾向がある。従って、円柱屈折力は領域Aから領域Cへ移行するにつれて次第に円柱屈折力の強度を減少させることによって補償される。これは領域Aから領域Cへ向けて円柱半径を次第に大きくすることにより達成される。
【0014】
本発明の屈折力補正法は前面カーブ補正または背面カーブ補正のいずれかに対して使用し得る。
【0015】
本発明は、ソフトまたはハードコンタクトレンズの製造に使用することができるが、ソフトコンタクトレンズの製造に使用するのが望ましい。また、より好適には、本発明がヒドロゲルレンズまたはシリコン含有ヒドロゲルレンズの製造に使用することができる。
【0016】
本発明は、上記詳細な説明に鑑みて、当業者に様々なバリエーションを想定させるであろうが、そのようなバリエーションはすべて特許請求項に示された発明の範囲内のものである。
【0017】
好適な実施態様を以下に示す。
(A)収縮差による目標屈折力からのずれを補償する厚み差含有コンタクトレンズの製造方法にして、該方法は、
レンズに第1の厚みの第1領域及び、該第1の厚みとは異なる第2の厚みの第2領域、及び円柱軸を持たせるよう設計し、
複数の円柱軸領域のそれぞれに対応する複数の屈折力補正要素を決定し、
前記レンズの円柱軸を包む円柱軸領域に対応する複数の屈折力補正要素より選択された一つを使用してレンズを変更し、それにより補償コンタクトレンズを製造する
という各ステップを有することを特徴とする厚み差含有コンタクトレンズの製造方法。
(1)前記製造方法が、さらに前記変更されたレンズを硬化するステップを有する実施態様(A)に記載の製造方法。
(2)前記屈折力補正要素の各々は収縮差により生じる目標屈折力からのずれに応じて決定される実施態様(A)に記載の製造方法。
(3)前記屈折力補正要素は円柱屈折力補正要素を含む実施態様(A)に記載の製造方法。
(4)前記屈折力補正要素は球体屈折力補正要素を含む実施態様(A)に記載の製造方法。
(5)前記変更ステップは、前記レンズの前面カーブ上で実行される実施態様(A)に記載の製造方法。
【0018】
(6)前記変更ステップは、前記レンズの背面カーブ上で実行される実施態様(A)に記載の製造方法。
(7)前記各円柱軸範囲は30度を有する実施態様(A)に記載の製造方法。
(8)前記各円柱軸範囲は、均等のサイズである実施態様(A)に記載の製造方法。
(9)前記円柱軸範囲は、不均等なサイズである実施態様(A)に記載の製造方法。
(10)前記レンズは、トーリックレンズである実施態様(A)に記載の製造方法。
【0019】
(11)前記レンズはヒドロゲルレンズである実施態様(A)に記載の製造方法。
(12)前記レンズはシリコン含有のヒドロゲルレンズである実施態様(A)に記載の製造方法。
(13)前記トーリックレンズはヒドロゲルレンズである実施態様(10)に記載の製造方法。
(14)前記トーリックレンズはシリコン含有のヒドロゲルレンズである実施態様(10)に記載の製造方法。
(B)実施態様(A)に記載の製造方法により製造されるコンタクトレンズ。
(15)前記レンズがトーリックレンズである実施態様(B)に記載のコンタクトレンズ。
【0020】
(16)前記トーリックレンズがヒドロゲルレンズである実施態様(15)に記載のコンタクトレンズ。
(17)前記トーリックレンズがシリコン含有ヒドロゲルレンズである実施態様(15)に記載のコンタクトレンズ。
【符号の説明】
【0021】
10 レンズ
12 中央視覚領域
14,16 薄板化領域
60,70 円柱屈折力
62,72 球体屈折力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
収縮差による目標屈折力からのずれを補償する厚み差含有コンタクトレンズの製造方法において、
レンズに第1の厚みの第1領域、前記第1の厚みとは異なる第2の厚みの上方領域および下方領域、ならびに円柱軸を持たせるよう設計するステップと、
円柱軸の角度の全範囲を複数の角度領域に分割するステップと、
前記複数の角度領域のそれぞれに一つずつが対応する複数の屈折力補正要素を決定するステップであって、前記複数の屈折力補正要素の各々は円柱屈折力補正要素および球体屈折力補正要素を含む、ステップと、
前記レンズの円柱軸を包む円柱軸領域に対応する、前記複数の屈折力補正要素より選択された一つを使用してレンズ設計を変更するステップと、
を有する、厚み差含有コンタクトレンズの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法において、
前記変更が行われた設計にしたがって製造された未硬化のレンズを硬化させるステップをさらに有する、製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法において、
前記屈折力補正要素の各々は収縮差により生じる目標屈折力からのずれに応じて決定される、製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法において、
前記レンズ設計を変更するステップは、前記レンズの前面カーブ上および前記レンズの背面カーブ上の少なくともいずれか一方で実行される、製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法において、
前記複数の角度領域の各々は30度を有する、製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法において、
前記複数の角度領域は、均等なサイズまたは不均等なサイズである、製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法において、
前記レンズはトーリックレンズである、製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法において、
前記レンズは、ヒドロゲルレンズまたはシリコン含有のヒドロゲルレンズである、製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法において、
前記レンズ設計の変更は、円柱半径および球体半径を調節することにより行われる、製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−118381(P2011−118381A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253703(P2010−253703)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【分割の表示】特願平11−256022の分割
【原出願日】平成11年9月9日(1999.9.9)
【出願人】(591175675)ジョンソン・アンド・ジョンソン・ビジョン・ケア・インコーポレイテッド (44)
【Fターム(参考)】