説明

厚鋼板のデスケーリング設備およびデスケーリング方法

【課題】熱間圧延後の厚鋼板のデスケーリングを行うに際して、厚鋼板の幅方向全面にわたりデスケーリングを行うことができ、均一な冷却を行って材質ばらつきの小さい厚鋼板を製造可能にする厚鋼板のデスケーリング設備およびデスケーリング方法を提供する。
【解決手段】2列目のデスケーリングヘッダ11bに取り付けられたデスケーリングノズル12bは、1列目のデスケーリングヘッダ11aに取り付けられたデスケーリングノズル12aに対して幅方向に半ピッチずれて設置され、鋼板10のデスケーリング衝突領域12A、12Bが搬送方向に対してなす角度θが、以下の(1)式を満たしている。
tan−1(8Lh/5Lp)≦θ≦tan−1(8Lh/3Lp)・・・(1)
ここで、Lh:各デスケーリングヘッダから噴射したデスケーリング水の鋼板への衝突位置の間隔(ヘッダ間隔)、Lp:1本のデスケーリングヘッダのノズルピッチである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚鋼板のデスケーリング設備およびデスケーリング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
厚鋼板を製造するプロセスでは、例えば図1に示すような製造設備(製造ライン)において、スラブを加熱炉1で加熱し、圧延機2で熱間圧延(粗圧延、仕上圧延)を行った後、加速冷却設備5で水冷または空冷を行って組織を制御している。水冷によって比較的低い温度、例えば450〜650℃程度に冷却すると、微細なフェライトやベイナイト組織が得られ、厚鋼板(以下、単に「鋼板」とも言う)の強度を確保できるので、スプレー冷却水やラミナー冷却水などによって鋼板を冷却する技術が一般的である。また、近年では、高い冷却速度を得て組織をより微細化し、鋼板の強度を上げる技術の開発が盛んである。
【0003】
鋼板の冷却速度は、表面のスケール厚が厚いほど冷却速度が高くなることが知られている。したがって、特許文献1のように、仕上圧延後に、鋼板の矯正とデスケーリングを行ってスケールを一様に薄くしてから水冷することによって、鋼板面内の冷却速度をそろえ、均一な材質の製品を得ようとする技術がある。
【0004】
また、鋼板幅方向(以下、単に「幅方向」ともいう)で均一なデスケーリングを行うために、特許文献1のように、デスケーリングノズル(以下、単に「ノズル」ともいう)から噴射される高圧水の流量を、幅方向の端部と中央部ともう一方の端部で異なる分布とすることで、スケール剥離不良をなくそうとする技術がある。
【0005】
ちなみに、図1においては、圧延機2での熱間圧延後に鋼板の矯正とデスケーリングを行うために、プリレベラ(第1熱間矯正機)3とデスケーリング設備4が設置されている。また、加速冷却設備5での冷却後に鋼板の矯正を行うために、ホットレベラ(第2熱間矯正機)6が設置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−247714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のような従来技術には、鋼板表裏全面にわたるデスケーリングを必ずしも適切に行えないという問題がある。
【0008】
図9は、特許文献1に記載のような従来技術における厚鋼板のデスケーリング設備の側面図を示すものである。
【0009】
図9に示すように、従来技術では、加速冷却設備5の鋼板搬送方向上流側に設置されているデスケーリング設備4において、鋼板10の搬送方向に1本(1列)のデスケーリングヘッダ(上デスケーリングヘッダ11、下デスケーリングヘッダ13)が設けられている。そして、上デスケーリングヘッダ11には上デスケーリングノズル12が取り付けられており、下デスケーリングヘッダ13には下デスケーリングノズル14が取り付けられている。そして、これらのデスケーリングノズル12、14から、厚鋼板の搬送方向に対向するように鉛直方向からやや上流側へ向けてデスケーリング水が噴射される。
【0010】
なお、加速冷却設備5は、上面ラミナー冷却ヘッダ21、上ラミナーノズル22、下面ラミナー冷却ヘッダ23、下ラミナーノズル24、水切りロール26を備えている。図11中の25は滞留冷却水、31はテーブルローラーである。
【0011】
このような従来技術において、デスケーリング能力を高めるために、デスケーリングヘッダを鋼板搬送方向に2本(2列)配置した場合には、搬送方向下流側に設置したデスケーリングヘッダから噴射されたデスケーリング水が鋼板に衝突後、上流側へ流れ、搬送方向上流側に設置したデスケーリングヘッダから噴射されたデスケーリング水に干渉し、デスケーリング性能が低下して、均一なデスケーリングを妨げるという問題がある。2列のデスケーリングヘッダの間隔を十分に確保できる場合には問題とならないが、既存の設備に新たにデスケーリング装置を取り付ける場合には、その間隔を確保できない場合がある。
【0012】
また、従来技術では、パスライン上の鋼板に対して、各デスケーリングノズルの噴射範囲(デスケーリング水衝突領域)が隣り合うデスケーリングノズルの噴射範囲(デスケーリング水衝突領域)と幅方向で10%程度ラップするようになっているが、鋼板が大きく反った場合は、パスラインから離れた鋼板に対して、各デスケーリングノズルの衝突領域が幅方向でラップしなくなり、均一なデスケーリングができなくなるという問題がある。
【0013】
つまり、図10(a)に示すように、鋼板10が全く平坦で、パスライン上に位置している鋼板10aであれば、その鋼板10(10a)に対して各デスケーリングノズル(上デスケーリングノズル12、下デスケーリングノズル14)からの噴射水(デスケーリング水)の衝突領域が幅方向で全てラップし(ラップ部15)、均一なデスケーリングができる。しかし、例えば、図10(b)に示すように、鋼板10が大きく上反り(反り量δ)をした場合、パスラインから上方に離れた部分の鋼板10(10b)の上面側のデスケーリングノズル12と鋼板10bの上面との距離が短くなって、上デスケーリングノズル12からの噴射水(デスケーリング水)が衝突しない部分(非衝突部16)が幅方向の一部にできてしまい、均一なデスケーリングができなくなる。鋼板10の形状が悪い場合も同様で、デスケーリングノズル12、14の噴射距離が短くなると、均一なデスケーリングができなくなる。
【0014】
このようにして均一なデスケーリングができなくなると、均一な冷却ができなくなるから、鋼板面内で温度むらが大きくなって、材質が大きくばらつくという問題が生じる。
【0015】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、熱間圧延後の厚鋼板のデスケーリングを行うに際して、厚鋼板の幅方向全面にわたりデスケーリングを行うことができ、均一な冷却を行って材質ばらつきの小さい厚鋼板を製造可能にする厚鋼板のデスケーリング設備およびデスケーリング方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記課題を解決するために、本発明は以下の特徴を有する。
【0017】
[1]熱間圧延後の厚鋼板のデスケーリング設備であって、前記デスケーリング設備は、熱間矯正機よりも搬送方向下流側でかつ、加速冷却設備の搬送方向上流側にあり、前記デスケーリング設備を構成するデスケーリングヘッダは、同じテーブルロール間で、搬送方向に2本並べて配置されるとともに、一方のデスケーリングヘッダに取り付けられたノズルは、他方のデスケーリングヘッダに取り付けられたノズルに対して幅方向に1/2ピッチずらして設置され、厚鋼板のデスケーリング水衝突領域が搬送方向に対してなす角度θが、
tan−1(8Lh/5Lp)≦θ≦tan−1(8Lh/3Lp)・・・(1)
ただし、Lh:各デスケーリングヘッダから噴射したデスケーリング水の厚鋼板への衝突位置の間隔、Lp:1本のデスケーリングヘッダのノズルピッチ
を満たすことを特徴とする厚鋼板のデスケーリング設備。
【0018】
[2]各デスケーリングヘッダから噴射したデスケーリング水の厚鋼板への衝突位置が、搬送方向に200mm以上離れていることを特徴とする前記[1]に記載の厚鋼板のデスケーリング設備。
【0019】
[3]各デスケーリングヘッダの幅方向のノズルピッチLpは、
Lw<Lp≦2Lw(H−δ)/H ・・・(2)
ただし、Lw:パスラインにある厚鋼板に対するノズル1個当たりの厚鋼板幅方向の衝突領域幅、H:パスラインにある厚鋼板からノズル先端までの高さ、δ:厚鋼板に発生する最大反り量
を満たすことを特徴とする前記[1]または[2]に記載の厚鋼板のデスケーリング設備。
【0020】
[4]厚鋼板の搬送方向に対向するように、鉛直下向きに対して5〜15°の角度をなしてデスケーリング水が噴射されることを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれかに記載の厚鋼板のデスケーリング設備。
【0021】
[5]熱間圧延後の厚鋼板のデスケーリング方法であって、デスケーリング設備を熱間矯正機よりも搬送方向下流側でかつ、加速冷却設備の搬送方向上流側に設置し、前記デスケーリング設備を構成するデスケーリングヘッダを、同じテーブルロール間で、搬送方向に2本並べて配置するとともに、一方のデスケーリングヘッダに取り付けたノズルを、他方のデスケーリングヘッダに取り付けたノズルに対して幅方向に1/2ピッチずらして設置し、厚鋼板のデスケーリング水衝突領域が搬送方向に対してなす角度θが、
tan−1(8Lh/5Lp)≦θ≦tan−1(8Lh/3Lp)・・・(1)
ただし、Lh:各デスケーリングヘッダから噴射したデスケーリング水の厚鋼板への衝突位置の間隔、Lp:1本のデスケーリングヘッダのノズルピッチ
を満たすように、厚鋼板へデスケーリング水を噴射することを特徴とする厚鋼板のデスケーリング方法。
【0022】
[6]各デスケーリングヘッダから噴射したデスケーリング水の厚鋼板への衝突位置が、搬送方向に200mm以上離れるようにすることを特徴とする前記[5]に記載の厚鋼板のデスケーリング方法。
【0023】
[7]各デスケーリングヘッダの幅方向のノズルピッチLpは、
Lw<Lp≦2Lw(H−δ)/H ・・・(2)
ただし、Lw:パスラインにある厚鋼板に対するノズル1個当たりの厚鋼板幅方向の衝突領域幅、H:パスラインにある厚鋼板からノズル先端までの高さ、δ:厚鋼板に発生する最大反り量
を満たすようにすることを特徴とする前記[5]または[6]に記載の厚鋼板のデスケーリング方法。
【0024】
[8]厚鋼板の搬送方向に対向するように、鉛直下向きに対して5〜15°の角度をなしてデスケーリング水を噴射することを特徴とする前記[5]〜[7]のいずれかに記載の厚鋼板のデスケーリング方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明を用いることにより、熱間圧延後の厚鋼板のデスケーリングを行うに際して、厚鋼板の全面にわたって均一なデスケーリングを行うことができる。これによって、厚鋼板全面の均一な冷却を行うことができ、材質のばらつきの小さい厚鋼板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態における厚鋼板のデスケーリング設備とそれを含む厚鋼板の製造設備を表す図である。
【図2】本発明の一実施形態における厚鋼板のデスケーリング設備を示す側面図である(デスケーリングヘッダを2列配置)。
【図3】本発明の一実施形態におけるデスケーリングヘッダを2列配置するときの噴射状況を表す上面図である。
【図4】厚鋼板に衝突後のデスケーリング噴射水が下流側のデスケーリング水衝突領域を干渉する状態を表す上面図である。
【図5】厚鋼板に衝突後のデスケーリング噴射水が下流側のデスケーリング水衝突領域を干渉する状態を表す上面図である。
【図6】デスケーリングヘッダを2列配置した場合に、搬送方向の距離が近く、デスケーリング不良が生じる状態を表す上面図である。
【図7】本発明の一実施形態において、厚鋼板の高さ変化があった場合でも、デスケーリング部が完全にラップする状態を表す図である。
【図8】本発明の一実施形態におけるデスケーリング水衝突領域を表す側面図である。
【図9】従来技術におけるデスケーリングヘッダを1列配置する時のデスケーリング設備を示す側面図である(デスケーリングヘッダを1列配置)。
【図10】従来技術において、厚鋼板の高さ変化があった場合に、デスケーリング水の非衝突部が生じる状態を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0028】
本発明の一実施形態では、前述の図1に示した厚鋼板を製造するプロセス(厚鋼板の製造ライン)において、熱間圧延後の厚鋼板のデスケーリングを行う。
【0029】
すなわち、この実施形態では、図1に示すような製造設備(製造ライン)において、スラブを加熱炉1で加熱し、圧延機2で熱間圧延(粗圧延、仕上圧延)を行った後、加速冷却設備5で水冷または空冷を行って組織を制御しているが、その際に、圧延機2で熱間圧延された鋼板をプリレベラ(第1熱間矯正機)3で矯正し、デスケーリング設備4でデスケーリングを行うようにしている。また、加速冷却設備5で冷却後の鋼板をホットレベラ(第2熱間矯正機)6で矯正するようにしているが、本発明は、加速冷却設備5の形式や、ホットレベラ(第2熱間矯正機)6の有無に限定されるものではない。
【0030】
そして、図2は、この実施形態における厚鋼板のデスケーリング設備の側面図を示すものである。
【0031】
図2に示すように、この実施形態では、加速冷却設備5の鋼板搬送方向上流側に設置されているデスケーリング設備4において、同じテーブルロール31間で、鋼板10の搬送方向に2本(2列)のデスケーリングヘッダ(上デスケーリングヘッダ11a、11b、下デスケーリングヘッダ13a、13b)が設けられている。そして、上デスケーリングヘッダ11a、11bにはそれぞれ上デスケーリングノズル12a、12bが取り付けられており、下デスケーリングヘッダ13a、13bにはそれぞれ下デスケーリングノズル14a、14bが取り付けられている。
【0032】
ちなみに、デスケーリングヘッダが幅方向に複数分割して配置されていてもよい。例えば、板幅方向中央に噴射幅が狭いデスケーリングヘッダを配置し、その両外側に広幅鋼板用のデスケーリングヘッダを配置するなどしてもよい。
【0033】
なお、加速冷却設備5は、上面ラミナー冷却ヘッダ21、上ラミナーノズル22、下面ラミナー冷却ヘッダ23、下ラミナーノズル24、水切りロール26を備えている。図2中の25は滞留冷却水である。
【0034】
そして、この実施形態においては、図3に示すように、2列目のデスケーリングヘッダ11bに取り付けられたデスケーリングノズル12bは、1列目のデスケーリングヘッダ11aに取り付けられたデスケーリングノズル12aに対して幅方向に1/2ピッチずらして設置され、鋼板10のデスケーリング水衝突領域12A、12Bが幅方向に1/2ピッチずれている。そして、鋼板10のデスケーリング水衝突領域12A、12Bが搬送方向に対してなす角度θが、以下の(1)式を満たしている。
【0035】
tan−1(8Lh/5Lp)≦θ≦tan−1(8Lh/3Lp)・・・(1)
ここで、Lh:各デスケーリングヘッダから噴射したデスケーリング水の鋼板への衝突位置の間隔(ヘッダ間隔)、Lp:1本のデスケーリングヘッダのノズルピッチである。
【0036】
なお、図3においては、ピッチ幅Lpに対して1つのデスケーリングノズル12a、12bからのデスケーリング水衝突領域幅Lwが3/4倍になっている(Lw=3/4Lp)。
【0037】
図3に示すように、2列目のデスケーリングヘッダ11bから噴射されたデスケーリング水は、鋼板に衝突後、ノズル間に合流し最も多くの水が集まる。そこで、1列目の隣り合うデスケーリング水衝突領域12Aの間に流れるようにθを設定することで、前記2列目のデスケーリング水の合流水が1列目のデスケーリングに干渉しなくなる。具体的には、ノズル間の中間位置から左右Lp/8の区間に流れるようにθを設定する。本発明者らの調査の結果、2列目のデスケーリングヘッダ11aから噴射されたデスケーリング水が、1列目のデスケーリング水衝突領域に到達するまでに、2列目のノズル間の位置から左右Lp/8の区間に70%程度の水が集まることがわかったためである。
【0038】
すなわち、θがtan−1(8Lh/3Lp)より大きいと、図4に示すように、2列目の噴射水が合流した流れが1列目のデスケーリング水衝突領域12Aを干渉し、1列目のデスケーリング性能が著しく低下する。また、θがtan−1(8Lh/5Lp)より小さいと、図5に示すように、2列目の噴射水が合流した流れが1列目のデスケーリング水衝突領域12Aを干渉するだけでなく、隣り合うノズルにも干渉するようになり、デスケーリング性能が著しく低下する。
【0039】
なお、1つのノズルからのデスケーリング水衝突領域幅Lwが3/4Lpよりも広く、例えばLwがLpと等しく、隣り合うノズル同士のデスケーリング水衝突領域が連続している場合、2列目のデスケーリングヘッダ11bから噴射されたデスケーリング水の合流水は、1列目のデスケーリング水衝突領域12Aの端部と干渉する。しかし、1列目のノズル12aからのデスケーリング水衝突領域12Aの端部位置は、2列目のノズル11bのデスケーリング水衝突領域12Bの中心付近に位置し、2列目で十分にデスケーリングが行われることから、特に問題は生じない。
【0040】
また、この実施形態では、デスケーリングノズル12aから噴射されたデスケーリング水の鋼板10への衝突位置(デスケーリング水衝突領域)12Aとデスケーリングノズル12bから噴射されたデスケーリング水の鋼板10への衝突位置(デスケーリング水衝突領域)12Bとの搬送方向の距離Lhが200mm以上となるようにしている。
【0041】
図6において、衝突位置間の距離Lhが200mmより近づけば、2列目のデスケーリングヘッダ11bから噴射するデスケーリング水が鋼板10に衝突した後に、ほとんど減衰せずに1列目のデスケーリング水衝突領域に到達するため、1列目のデスケーリングヘッダ11aから噴射するデスケーリング水を干渉してしまい、デスケーリング性能が低下するからである。
【0042】
デスケーリングヘッダ11aとデスケーリングヘッダ11bの間に水切りロール32を設置して、デスケーリング水の干渉を回避しようとする考えもあるが、そのような場合はデスケーリングヘッダ間の距離Lhが1m程度、デスケーリング装置全体の長さが2m以上になってしまう。そうなると、例えば既存の熱間矯正機3と加速冷却装置5の間にデスケーリング装置4を追加設置しようとしても、設置スペースがない場合が生じてくる。また、2つのデスケーリングヘッダ11a、11bが離れていると、2つのデスケーリングヘッダ11a、11bをつなぐ高圧配管がその分、長くなったり、デスケーリング水の飛散防止のためのカバーなどが大きくなったりして、設置コストが増大する。
【0043】
なお、1列目のデスケーリングヘッダ11aから搬送方向上流側に向けてデスケーリング水を噴射し、2列目のデスケーリングヘッダ11bから搬送方向下流側に向けてデスケーリング水を噴射して、両者の衝突位置を離すことも考えられるが、搬送方向下流側に向けてデスケーリングを行うと、鋼板10より剥がれたスケール粉が加速冷却設備5の水切りロールと鋼板上面の間に噛み込んで疵ができるので、好ましくない。
【0044】
さらに、この実施形態では、各デスケーリングヘッダ11a、11bにおけるノズルの幅方向ピッチLpが、以下の(2)式を満たすように配置している。
【0045】
Lw<Lp≦2Lw(H−δ)/H ・・・(2)
ここで、Lwはパスラインにある厚鋼板に対するノズル1個当たりの厚鋼板幅方向の衝突領域幅、Hはパスラインにある厚鋼板からノズル先端までの高さ(鋼板の反りがない場合の噴射高さ)、δは厚鋼板に発生する最大反り量である。
【0046】
その際に、この実施形態においては、図7(a)に正面図、図7(b)に上面図を示すように、デスケーリングノズル12aからの噴射パターン(衝突領域)12Aとデスケーリングノズル12bからの噴射パターン(衝突領域)12Bが千鳥になるように配置されている。
【0047】
これにより、図8に示すように、鋼板10が上に反って、その上に反った部分の鋼板10bに対する上デスケーリングノズル12a、12bの噴射高さがHからH−δに短くなった場合、デスケーリングノズル12a、12bの幅方向の衝突領域幅がLwからLw(H−δ)/Hに縮小するのに対応できるように、それぞれのデスケーリングヘッダ11a、11bにおけるノズルピッチLpを2Lw(H−δ)/H以下にすることで、デスケーリング装置4全体でみたときのノズルピッチLp/2がLw(H−δ)/H以下となり、鋼板10が反ったときにも、その反った部分の鋼板10bの幅方向で非衝突部を生じることがなくなる。
【0048】
また、それぞれのデスケーリングヘッダ11a、11bにおけるノズルピッチLpがデスケーリング水衝突領域幅Lwより大きいと、鋼板10の反りがない場合、デスケーリング水衝突領域を搬送方向に対して90°の角度をなして、ノズル12a、12bを設置しても、隣り合うノズルの噴射水が空中でぶつかることなく鋼板10に到達することができ、隣り合うノズルの噴射水に干渉されることなくデスケーリングできる。
【0049】
一方、ノズルピッチLpがLw以下であると、鋼板10の反りがない場合、デスケーリングヘッダ1列で鋼板全幅にデスケーリング水が噴射されることになり、隣り合うデスケーリングノズルの噴射水に干渉されるだけでなく、使用水量も増大し、設備コストが高くなって問題である。したがって、ノズルピッチLpをLw超えにしている。
【0050】
また、図8に示すように、デスケーリング水は、鋼板搬送方向に対向するように鉛直下向きよりφ=5°〜15°の角度をなして噴射することが良い。角度φが5°より小さいと、2本目の上デスケーリングヘッダ11bの噴射水(デスケーリング水)のバックフローが多く、搬送方向下流側の水切りロール26でスケールが噛み込み、鋼板10や水切りロール26に疵をつけるという問題が発生する恐れがある。一方、角度φが15°より大きいと、噴射距離が長くなって、衝突圧が低下するだけでなく、1本目の上デスケーリングヘッダ11aの噴射水(デスケーリング水)のバックフローが小さくなりすぎて、2本目の上デスケーリングヘッダ11bの噴射水の干渉を受けやすくなってしまい、デスケーリング性能が著しく低下する。
【0051】
なお、上記では、上デスケーリングヘッダ11a、11bと上デスケーリングノズル12a、12bについて述べたが、下デスケーリングヘッダ13a、13bと下デスケーリングノズル14a、14bについても同様にすればよい。
【0052】
ただし、ノズルの幅方向ピッチは、必ずしも鋼板の上面側のデスケーリングヘッダ11a、11bと下面側のデスケーリングヘッダ13a、13bで同じにする必要はない。例えば、製造ラインの特性として鋼板10が上に反る傾向が強ければ、上面側のデスケーリングノズルのピッチを下面側のデスケーリングノズルのピッチよりも小さくしておけばよい。
【0053】
また、鋼板の下面側では噴射されたデスケーリング水は落下し、2列目のデスケーリング水が1列目のデスケーリングに干渉する影響は少ないので、上面側のみに本発明のデスケーリング設備やデスケーリング方法を適用するようにしてもよい。
【実施例1】
【0054】
本発明の実施例を述べる。
【0055】
この実施例では、図1に示した厚鋼板の製造設備において、加熱炉1から抽出されたスラブを、圧延機2によって熱間圧延(粗圧延、次いで仕上圧延)を行った。製品鋼板の板厚は20mm、板幅は3.2mであり、目標とする強度(引張強さ)は590MPa以上であった。圧延機2での仕上圧延の後、プリレベラ(第1熱間矯正機)3によって形状を矯正した後、幅4mのデスケーリングヘッダを備えたデスケーリング設備4によってデスケーリングを行った。
【0056】
その際に、パスラインにある鋼板とデスケーリングノズルとの距離は90mmとし、デスケーリング水衝突領域が搬送方向に対してなす角θを90°とした時に、パスラインにある鋼板に対する幅方向のデスケーリング水衝突領域幅Lwは80mmであり、鋼板10表面での衝突圧は1.5MPaであった。
【0057】
そして、先端の反り量がそれぞれ0mm、10mm、20mm、30mmであった鋼板A、B、C、Dに対してデスケーリング設備4によってデスケーリングを行った後、加速冷却設備5によって、Ar3変態点以上の温度から、板厚平均の温度が500℃になるまで加速冷却を行った。
【0058】
表1に、実施した条件と結果を示す。
【0059】
まず、本発明例1として、上記の本発明の一実施形態に基づいてデスケーリングを行った。すなわち、図2に示したような、搬送方向にデスケーリングヘッダが2本設置されているデスケーリング設備を用いてデスケーリングを行う際に、ノズルピッチLpを75mm、ヘッダ間隔Lhを180mmとした。そして、デスケーリング水衝突領域が搬送方向に対してなす角θを80°としたから、前記(1)式を満足し、鋼板A〜Dの全てについて、鋼板全面で均一な冷却を行うことができた。このため、500℃まで加速冷却しても得られた厚鋼板の幅方向の強度のばらつきが30MPaと小さかった。
【0060】
また、本発明例2として、本発明例1と他の条件は同一にして、ヘッダ間隔Lhを本発明例1より長い250mmとした。それにより、鋼板A〜Dの全てについて、鋼板全面でより均一な冷却を行うことができた。このため、500℃まで加速冷却しても得られた厚鋼板の幅方向の強度のばらつきが25MPaと小さかった。
【0061】
また、本発明例3として、本発明例2と他の条件は同一にして、ノズルピッチLpを本発明例2より長い100mmとした。それにより、本発明例2より少ない水量で、鋼板A〜Dの全てについて、鋼板全面でより均一な冷却を行うことができた。このため、500℃まで加速冷却しても得られた厚鋼板の幅方向の強度のばらつきが25MPaと小さかった。
【0062】
これに対して、比較例1として、図9に示したような、搬送方向にデスケーリングヘッダが1本設置されているデスケーリング設備を用いてデスケーリングを行った。その際に、ノズルピッチLpを75mm、デスケーリング水衝突領域が搬送方向に対してなす角θを75°とした。それにより、反りがある鋼板B、鋼板C、鋼板Dについては、デスケーリング水衝突領域が幅方向でラップせず、一部でスケール残りがあった。このため、加速冷却で温度むらが発生し、得られた厚鋼板の幅方向の強度のばらつきは60MPaと大きかった。
【0063】
また、比較例2として、図2に示したような、搬送方向にデスケーリングヘッダが2本設置されているデスケーリング設備を用いてデスケーリングを行う際に、ノズルピッチLpを75mm、ヘッダ間隔Lhは180mmとした。そして、デスケーリング水衝突領域が搬送方向に対してなす角θを80°としたから、前記(1)式を満足せず、搬送方向下流側のデスケーリング11bから噴射されたデスケーリング水が鋼板10に衝突後に合流し、搬送方向上流のデスケーリング11aから噴射されたデスケーリング水に干渉したため、鋼板A〜Dの全てについて、一部スケール残りがあった。このため、加速冷却で温度むらが発生し、強度ばらつきが60MPaと大きかった。
【0064】
【表1】

【符号の説明】
【0065】
1 加熱炉
2 圧延機
3 プリレベラ(第1熱間矯正機)
4 デスケーリング設備
5 加速冷却設備
6 ホットレベラ(第2熱間矯正機)
10 鋼板(厚鋼板)
10a パスラインにある鋼板
10b パスラインから上方に離れた部分の鋼板
11 上デスケーリングヘッダ
11a 1列目(1本目)の上デスケーリングヘッダ
11b 2列目(2本目)の上デスケーリングヘッダ
12 上デスケーリングノズル
12a 1列目(1本目)の上デスケーリングノズル
12b 2列目(2本目)の上デスケーリングノズル
12A 1列目(1本目)の上デスケーリングノズルのデスケーリング水衝突領域
12B 2列目(2本目)の上デスケーリングノズルのデスケーリング水衝突領域
13 下デスケーリングヘッダ
13a 1列目の下デスケーリングヘッダ
13b 2列目の下デスケーリングヘッダ
14 下デスケーリングノズル
14a 1列目の下デスケーリングノズル
14b 2列目の下デスケーリングノズル
15 ラップ部
16 非衝突部
17 飛散水
21 上面ラミナー冷却ヘッダ
22 上ラミナーノズル
23 下面ラミナー冷却ヘッダ
24 下ラミナーノズル
25 滞留冷却水
26 水切りロール
31 テーブルローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延後の厚鋼板のデスケーリング設備であって、前記デスケーリング設備は、熱間矯正機よりも搬送方向下流側でかつ、加速冷却設備の搬送方向上流側にあり、前記デスケーリング設備を構成するデスケーリングヘッダは、同じテーブルロール間で、搬送方向に2本並べて配置されるとともに、一方のデスケーリングヘッダに取り付けられたノズルは、他方のデスケーリングヘッダに取り付けられたノズルに対して幅方向に1/2ピッチずらして設置され、厚鋼板のデスケーリング水衝突領域が搬送方向に対してなす角度θが、
tan−1(8Lh/5Lp)≦θ≦tan−1(8Lh/3Lp)・・・(1)
ただし、Lh:各デスケーリングヘッダから噴射したデスケーリング水の厚鋼板への衝突位置の間隔、Lp:1本のデスケーリングヘッダのノズルピッチ
を満たすことを特徴とする厚鋼板のデスケーリング設備。
【請求項2】
各デスケーリングヘッダから噴射したデスケーリング水の厚鋼板への衝突位置が、搬送方向に200mm以上離れていることを特徴とする請求項1に記載の厚鋼板のデスケーリング設備。
【請求項3】
各デスケーリングヘッダの幅方向のノズルピッチLpは、
Lw<Lp≦2Lw(H−δ)/H ・・・(2)
ただし、Lw:パスラインにある厚鋼板に対するノズル1個当たりの厚鋼板幅方向の衝突領域幅、H:パスラインにある厚鋼板からノズル先端までの高さ、δ:厚鋼板に発生する最大反り量
を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載の厚鋼板のデスケーリング設備。
【請求項4】
厚鋼板の搬送方向に対向するように、鉛直下向きに対して5〜15°の角度をなしてデスケーリング水が噴射されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の厚鋼板のデスケーリング設備。
【請求項5】
熱間圧延後の厚鋼板のデスケーリング方法であって、デスケーリング設備を熱間矯正機よりも搬送方向下流側でかつ、加速冷却設備の搬送方向上流側に設置し、前記デスケーリング設備を構成するデスケーリングヘッダを、同じテーブルロール間で、搬送方向に2本並べて配置するとともに、一方のデスケーリングヘッダに取り付けたノズルを、他方のデスケーリングヘッダに取り付けたノズルに対して幅方向に1/2ピッチずらして設置し、厚鋼板のデスケーリング水衝突領域が搬送方向に対してなす角度θが、
tan−1(8Lh/5Lp)≦θ≦tan−1(8Lh/3Lp)・・・(1)
ただし、Lh:各デスケーリングヘッダから噴射したデスケーリング水の厚鋼板への衝突位置の間隔、Lp:1本のデスケーリングヘッダのノズルピッチ
を満たすように、厚鋼板へデスケーリング水を噴射することを特徴とする厚鋼板のデスケーリング方法。
【請求項6】
各デスケーリングヘッダから噴射したデスケーリング水の厚鋼板への衝突位置が、搬送方向に200mm以上離れるようにすることを特徴とする請求項5に記載の厚鋼板のデスケーリング方法。
【請求項7】
各デスケーリングヘッダの幅方向のノズルピッチLpは、
Lw<Lp≦2Lw(H−δ)/H ・・・(2)
ただし、Lw:パスラインにある厚鋼板に対するノズル1個当たりの厚鋼板幅方向の衝突領域幅、H:パスラインにある厚鋼板からノズル先端までの高さ、δ:厚鋼板に発生する最大反り量
を満たすようにすることを特徴とする請求項5または6に記載の厚鋼板のデスケーリング方法。
【請求項8】
厚鋼板の搬送方向に対向するように、鉛直下向きに対して5〜15°の角度をなしてデスケーリング水を噴射することを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の厚鋼板のデスケーリング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−218007(P2012−218007A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83541(P2011−83541)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)