説明

厚鋼板の製造順序決定方法

【課題】制約条件が互いに調和していない場合であっても、制約条件群をダイナミックに変更しながら厚鋼板の製造順序を決定することができる、厚鋼板の製造順序決定方法を提供することを課題とする。
【解決手段】注文群の寸法や設定温度を入力する注文情報入力ステップと、製造順序の初期状態を作成する初期解作成ステップと、該初期解作成ステップ結果の順序の入替を行い実行可能かつ評価関数が改善した場合に解を更新し、最良解を求める解改善ステップと、前記最良解を出力する製造順序出力ステップとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚鋼板を対象にその製造順序を決定する、厚鋼板の製造順序決定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上流側に圧延機があり、下流側に精整設備があるような製造ラインにおいては、上流側と下流側の設備における処理ピッチが異なる。そのため材料の供給と処理のタイミングが合わず、製造ラインの効率が低下することがある。そこで、実際の物品の動きをコンピュータでシミュレーションする物流シミュレーション方法が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、精整工程を含む製造ラインの物流を制御するに際して、シミュレーションを繰り返してライン降し・ライン上げを含む物流計画を策定して設備の効率的な運用を図る、製造ラインの物流制御方法と題する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−285716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、厚鋼板の製造順序を決定するにあたっては、圧延と精整に加えて加熱炉という一連の設備のそれぞれが持つ制約条件を同時に考慮しなくてはならならず、上述した特許文献1に開示された技術では、それぞれが持つ制約条件をすべてを充足させることができない(一意に製造順序を決定できない)という場合が生じてしまう。
【0006】
これは、一連の設備のそれぞれが持つ制約条件が必ずしも互いに調和していないためであり、このような場合には計画者が、計画前提の制約条件の一部を緩和するといった柔軟な運用を試行錯誤的に行って、どうにか製造順序を決めるようにしている。試行錯誤による計画時間の長期化、や計画者による対応のばらつきなどの問題がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、制約条件が互いに調和していない場合であっても、制約条件群をダイナミックに変更しながら厚鋼板の製造順序を決定することができる、厚鋼板の製造順序決定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は次の発明により解決される。
【0009】
[1] 厚鋼板の製造順序を決定する厚鋼板の製造順序決定方法であって、
注文群の寸法や設定温度を入力する注文情報入力ステップと、
製造順序の初期状態を作成する初期解作成ステップと、
該初期解作成ステップ結果の順序の入替を行い実行可能かつ評価関数が改善した場合に解を更新し、最良解を求める解改善ステップと、
前記最良解を出力する製造順序出力ステップとを有することを特徴とする厚鋼板の製造順序決定方法。
【0010】
[2] 上記[1]に記載の厚鋼板の製造順序決定方法において、
前記解改善ステップでは、
評価関数優先順に基づいて順序変更する対象と位置を決定し、
評価関数違反判定値に基づいて順序変更した解の受理可否を判定することを特徴とする厚鋼板の製造順序決定方法。
【0011】
[3] 上記[1]または[2]に記載の厚鋼板の製造順序決定方法において、
前記解改善ステップでは、
解の改善を所定の回数行っても受理できる解が得られない場合に、違反が出ている制約条件について違反判定値の範囲を広げることを特徴とする厚鋼板の製造順序決定方法。
【0012】
[4] 上記[1]ないし[3]のいずれか1項に記載の厚鋼板の製造順序決定方法において、
解の改善を所定の回数行った結果受理成功率が高い場合に、計算値と判定値との差が大きい制約条件の違反判定値の範囲を狭めることを特徴とする厚鋼板の製造順序決定方法。
【0013】
[5] 上記[1]ないし[4]のいずれか1項に記載の厚鋼板の製造順序決定方法において、
解の改善を所定の回数行っても受理できる解が得られない場合に、判定方法を緩和して、1回の違反ではなく複数回違反が連続することを許容し、かつ違反を含む解については暫定解として扱い解の更新対象とはしないことを特徴とする厚鋼板の製造順序決定方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、複数の評価関数群について優先度の高いものから改善されるような順序変更を行う操作を繰り返す際に、改善操作の成功率を反映して制約条件違反判定値による判定方法を動的に緩和または厳格化するようにしたので、互いに干渉し合うことが多い制約条件群のもとで実行可能解を探すことができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】厚鋼板の製造を行う一連の設備列の一例を示す図である。
【図2】本発明を実施するためのシステムの構成例を示す図である。
【図3】本発明における全体処理手順例を示す図である。
【図4】解変更ステップにおける処理手順例を示す図である。
【図5】厚鋼板の注文群17枚の製造順の一例を示す図である。
【図6】図5と同一の注文群の設定温度を示す図である。
【図7】図5と同一の注文群の圧延幅および圧延長を示す図である。
【図8】図5と同一のの厚鋼板の注文群17枚を圧延幅の降順に並べ替えた例を示す図である。
【図9】図8と同一の注文群の設定温度を示す図である。
【図10】図8と同一の注文群の圧延幅および圧延長を示す図である。
【図11】本実施例による厚鋼板の注文群17枚の製造順の一例を示す図である。
【図12】図11と同一の注文群の設定温度を示す図である。
【図13】図11と同一の注文群の圧延幅および圧延長を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、厚鋼板の製造を行う一連の設備列の一例を示す図である。図中、1は加熱炉、2は圧延機、3は切断機をそれぞれ表す。
【0017】
加熱炉1は、鋼材を設定温度まで加熱してから抽出して、次の圧延工程に供給する。前述した設定温度には、通常、鋼材ごとに上限値と下限値が設定され、この範囲内に加熱炉内温度が入るように操業上管理されている。なお、「温度管理厳格材」と呼ばれる、注文対象の鋼材の製造温度条件が厳しいものにあっては、上限値と下限値が同じ値に設定され、厳しい温度管理が課せられている。
【0018】
加熱炉の設定温度変更を行うには時間を要するので、製造能率確保のために、設定温度の異なる温度管理厳格材の間には、通常「温度つなぎ材」と呼ばれる注文材を挟むことが行われる。ここでは、間に挟む温度つなぎ材は、最低1枚は必要であるとの制約を設定する。なお、「温度つなぎ材」となりうる注文材は、昇降温の上下限値が異なっておりかつ前後の温度管理厳格材の設定温度がその昇降温上下限に含まれるという条件を満たすものでなければならない。
【0019】
圧延機2は、加熱・抽出された鋼材を圧延して最終製品寸法(板厚)まで加工する。圧延加工された鋼材(大板)には、1枚から複数枚の注文材が組み合わさっており、次工程の切断(剪断)にて切断して注文材それぞれの寸法に仕上げる。圧延での制約としては、薄鋼板の場合には圧延幅は降順(幅の大きいものから順に小さいものへ)という比較的強い制約がある。しかし、厚鋼板の場合には、圧延長が短いこともあり上記幅制約は比較的緩いものの、大きな幅逆転を禁止する制約は設けている。
【0020】
切断機3は、圧延後の大板を幅・長手方向にそれぞれ切断し、所定の寸法の注文材に仕上げる。長手方向の切断は切断長が大きな材が連続すると材が滞留し、上流の圧延機が停止するリスクがある。例えば、ここでは圧延長38m以上を長尺材と定義し、長尺材が2本連続すると設備停止リスクが発生するとする。
【0021】
図5は、厚鋼板の注文群17枚の製造順の一例を示す図である。加熱炉で重要な条件である設定温度に注目して、第1優先・設定温度下限の降順、第2優先・設定温度上限の昇順、第3優先・圧延幅の降順によって並べ替えて温度管理厳格材ロットを作っている。ただし温度の異なる厳格材の間に温度つなぎ材が入っていないので、実行可能解ではない。
【0022】
図6は、図5と同一の注文群の設定温度を示す図である。設定温度の上限値と下限値が同じ温度管理厳格材は、黒丸一点で、それ以外は上限値と下限値を実線で結び、上限値に黒丸を記している。同様に、図7は、図5と同一の注文群の圧延幅および圧延長を示す図である。なお、図7では、圧延長38m以上の長尺材6枚を菱形白抜き印で表している
次に、圧延機で重要な圧延幅移行に注目して、同じ注文群を圧延幅の降順に並べ替えることを考える。図8は、図5の厚鋼板の注文群17枚を圧延幅の降順に並べ替えた例を示す図である。これを図6および7と同様に示したのが、図9および10である。すなわち、図9は、図8と同一の注文群の設定温度を示す図である。図10は、図8と同一の注文群の圧延幅および圧延長を示す図である。
【0023】
図8を見ると、圧延幅については理想的な並び順であるものの、長尺材が集中していたり(図10の最初3枚)、温度つなぎ材が適正に挿入されておらず(図9の3枚目と4枚目、5枚目と6枚目など)、前の例と同様に実行可能解ではないことが分かる。
【0024】
以上に例を示したように、第3優先まで考えた並び替え、さらに、加熱炉の設定温度順、圧延機の圧延幅順など単純な指標整列では、互いに干渉し合う制約群をすべて充足させられないというのが厚鋼板の製造順序決定問題の特徴であり、従来技術では解決できない点でもある。
【0025】
図2は、本発明を実施するためのシステムの構成例を示す図である。図中、4は厚鋼板製造順序決定装置、5はデータベース、6は端末、および7は物流機器をそれぞれ表す。
【0026】
厚鋼板製造順序決定装置4は、各種データの入ったデータベース5、端末6、および厚鋼板のハンドリングを行う物流機器7との情報のやり取り行い、厚鋼板の製造順序を決定する。この厚鋼板製造順序決定装置4が処理の中心となる装置であり、具体的な装置としては計算機で構成される。
【0027】
図3は、本発明における全体処理手順例を示す図である。先ず、処理の開始が指示されると、Step01の注文情報入力ステップにて、注文情報をデータベ−スから読み取り、注文情報の入力が行われる。
【0028】
次に、Step02の初期解作成ステップにて、注文情報を基に初期解を作成する。例えば、圧延幅降順という基準で作成すれば、図8に示す製造順が初期解に相当する。
【0029】
そして、Step03の解変更ステップにて、評価関数優先順ならびに制約条件違反判定値に基いて製造順序の解変更行い、最良解を求める。制約条件違反の状況はデータベースに保存されさらにそれらを参考にしながら、最良解に至る。
【0030】
最終的に、Step04の製造順序出力ステップにて、最良解を表示器などの端末やデータベースに出力し処理を終了する。
【実施例】
【0031】
前述した図5と同一の注文群に対して、本発明を適用した例を以下に示す。全体の処理手順は、図3に従っている。
【0032】
図4は、解変更ステップにおける処理手順例を示す図である。Step02の初期解作成ステップ以下の処理手順(Step31〜Step38)が、解変更ステップにおける処理手順である。
【0033】
先ず、Step31は終了判定処理である。Step02に引き続き実行される1回目は処理なしで通過するが、Step35、Step37、Step38から戻ってきた場合には、予め設定した解更新上限回数または解更新トライ上限回数と現状を比較して処理終了要否を判定する。
【0034】
次のStep32は違反判定値修正処理である。解更新トライ回数を分母に、解更新成功回数を分子にして成功率を計算する。予め設定した数値に対して成功率が低い場合には、違反判定値を現在よりも緩和して許容範囲を広げ、少しの改善でも許容する方向に変更する。予め設定した別の数値に対して成功率が高い場合には、違反判定値を現在よりも厳しくして許容範囲を狭め、改善量が大きくないと解更新を許容しない方向に変更する。
【0035】
Step33は評価関数に応じた解変更処理である。評価関数優先順ファイルで、1)長尺材の連続箇所最小化、2)温度管理厳格材ロット数の最小化、3)圧延幅逆転箇所の最小化、を設定してある。
【0036】
図8、9、10の初期解から、評価関数の優先度が最も大きい長尺材連続箇所に注目する。図8では1,2,3行目に長尺材が連続している。3行目の幅3800mm、長さ40.7m材を移動対象とする。
【0037】
移動先は温度管理厳格材ロット数の増加を最小限に抑える場所を選ぶ。3行目の材は1100度の温度管理厳格材なので、移動先はロット数を増やさずに済む1100度の温度管理厳格材に隣接するように探索する。9行目の幅2200mm、長さ35.4m材は1100度の温度管理厳格材なので、この材の直後に3行目の材を移動させる。
【0038】
Step34は変更受理判定処理である。Step33の変更後の状態と変更前の状態を比較し、変化を数値評価する。
【0039】
Step35は変更受理判定そのものである。前記の変更の結果、長尺材連続が3本から2本に減じ、温度管理厳格材ロット数の増加も抑えられていることから、変更を受理する。
【0040】
Step36は最良解更新判定処理である。初期解作成から解更新の全過程で、評価値が最良の解を更新し続ける。前記の変更結果の評価値と、これまでの最良解の評価値を比較する。
【0041】
Step37は最良解更新判定そのものである。前記の変更の結果がこれまでの最良値を更新する場合、解の更新を許容する。
【0042】
Step38は最良解更新処理である。前記変更結果を現在の最良解に上書きし、Step31に戻り終了判定をクリアするまで一連の処理を繰り返す。
【0043】
本実施例の処理結果の一例を、図11、12、13に示す。前述した図8、9、10の圧延幅降順を初期解として処理した結果であり、図11は、本実施例による厚鋼板の注文群17枚の製造順の一例を示す図である。図12は、図11と同一の注文群の設定温度を示す図である。図13は、図11と同一の注文群の圧延幅および圧延長を示す図である。
【0044】
初期解の図10では最初の3枚連続していた長尺材がすべて単独で処理されるように改善した(図13)。前述した図5、6では温度管理厳格材ロットは3つだったが、幅逆転箇所の最小化のために6つに倍増している。それでも圧延幅降順のみを重視した図9で温度管理厳格材ロットが10あることに比べれば、1100℃、1150℃、1200℃それぞれ1ロットを2ロットに分割した図12はロット数をむやみに増やさない結果になっているといえる。
【0045】
そして圧延幅降順については図13を見ると、圧延幅2200mm以上の前半9枚と2200mm未満の後半8枚の2グループに分割されており、グループ内では幅逆転があるものの、グループ間では幅降順を実現している。
【0046】
以上、互いに干渉し合う複数の制約条件群を考慮しながら、実行可能な厚鋼板の製造順序を決定できていることが判る。
【符号の説明】
【0047】
1 加熱炉
2 圧延機
3 切断機
4 厚鋼板製造順序決定装置
5 データベース
6 端末
7 物流機器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚鋼板の製造順序を決定する厚鋼板の製造順序決定方法であって、
注文群の寸法や設定温度を入力する注文情報入力ステップと、
製造順序の初期状態を作成する初期解作成ステップと、
該初期解作成ステップ結果の順序の入替を行い実行可能かつ評価関数が改善した場合に解を更新し、最良解を求める解改善ステップと、
前記最良解を出力する製造順序出力ステップとを有することを特徴とする厚鋼板の製造順序決定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の厚鋼板の製造順序決定方法において、
前記解改善ステップでは、
評価関数優先順に基づいて順序変更する対象と位置を決定し、
評価関数違反判定値に基づいて順序変更した解の受理可否を判定することを特徴とする厚鋼板の製造順序決定方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の厚鋼板の製造順序決定方法において、
前記解改善ステップでは、
解の改善を所定の回数行っても受理できる解が得られない場合に、違反が出ている制約条件について違反判定値の範囲を広げることを特徴とする厚鋼板の製造順序決定方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の厚鋼板の製造順序決定方法において、
解の改善を所定の回数行った結果受理成功率が高い場合に、計算値と判定値との差が大きい制約条件の違反判定値の範囲を狭めることを特徴とする厚鋼板の製造順序決定方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の厚鋼板の製造順序決定方法において、
解の改善を所定の回数行っても受理できる解が得られない場合に、判定方法を緩和して、1回の違反ではなく複数回違反が連続することを許容し、かつ違反を含む解については暫定解として扱い解の更新対象とはしないことを特徴とする厚鋼板の製造順序決定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−71326(P2012−71326A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218007(P2010−218007)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】