説明

原子力発電用の出力領域モニタシステム

【課題】
原子力発電所に対して落雷が発生した場合、建屋内に発生する雷サージ電流の影響により、微弱信号回路である出力領域モニタシステムに誤動作,故障が生ずるを防止できる出力領域モニタシステムを提供する。
【解決手段】
中性子検出器1に接続され、中性子検出器1による検出信号を炉外部に伝送する信号ケーブル2と、信号ケーブル2に接続され、中性子検出器1からの検出信号を処理して原子炉内の中性子束を監視し、必要に応じて警報他の信号を出力する制御盤4と、信号ケーブル2を格納し原子力発電所内に布設された電線管5,フレキシブル電線管7,プルボックス8と、原子炉格納容器の内外を連絡する電気ペネ3を備え、電線管5,フレキシブル電線管7及びプルボックス8を多点接地した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電用の出力領域モニタシステム(PRNM:Power Range Monitoring System)に係り、その電路の多点接地化及び導通性の改良により原子力発電所への落雷時に生ずる雷サージ電流によって引き起こされる誤動作を防止した原子力発電所用の出力領域モニタシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の原子力発電所における出力領域モニタシステムの構成は次のようになっている。出力領域モニタシステムは、原子炉の定格出力の約1〜125%の範囲に渡って原子炉内の中性子束を測定し、原子炉内の挙動を中央制御室の運転員に知らせる機能を果たす。又、原子炉内の中性子束が予め定められた上限値を超えた場合には、制御棒駆動系及び原子炉緊急停止系に対して制御棒引抜阻止信号や原子炉スクラム信号を出力することで、制御棒の引抜阻止、又は原子炉スクラムを行い、過大な原子炉出力の発生を防止する機能を果たす。
【0003】
出力領域モニタシステムは、原子炉炉心全体に分散配置され原子炉内の核反応に伴って発生する中性子を検出する中性子検出器と、この中性子検出器に接続され中性子検出器による検出信号を炉外部に通信する信号ケーブルと、この信号ケーブルに接続され検出信号を処理して炉内出力を監視する中央制御室に設置された制御盤と、信号ケーブルを格納し原子力発電所内に布設された鋼製電線管,フレキシブル電線管,プルボックス及び原子炉格納容器内外を連絡する電気ぺネによって構成される。
【0004】
出力領域モニタシステムの測定原理を説明する。原子炉内に設置した中性子検出器は核分裂電離箱であり、原子炉内の中性子による電離作用によって微弱電流を発生させる。この微弱電流を鋼製電線管等に格納された信号ケーブルで中央制御室の制御盤に伝送し、演算処理して原子炉内の中性子束を確認する。出力領域モニタシステムは、制御盤において原子炉出力が予め定められた上限値を超えたかどうかを判定し、超えた場合には原子炉の安全性を確保する目的で警報信号及びトリップ信号を出力して、中央制御室の運転員に警告し、上述したように、制御棒の引抜きを阻止又は原子炉スクラムにより原子炉の停止を行う。
【0005】
しかし、原子力発電所に落雷が生じた場合には、微弱信号回路である出力領域モニタシステムの電線管に対して、電線管近傍の建屋構造物(機器,接地線,鉄筋,配管,埋設物等)を介して雷サージ電流が伝搬されることにより、微弱信号回路の誤動作,故障等を生じ、原子力発電所の運転に影響を与える事例が発生している。これは原子力発電所への落雷時に、建屋内に発生する雷サージ電流が、微弱信号回路用の電線管に伝搬されるメカニズムが不明確であり、適切な対策を実施することが困難であったことが要因として挙げられる。
【0006】
微弱信号回路に対する雷サージ電流の影響を低減する対策としては、〔特許文献1〕に記載のように埋設電線管に保安器を接続する方法や、〔特許文献2〕に記載の様に躯体のデッキスラブ,鉄筋等に接地線取出し用ボルトを配置する方法が挙げられている。
【0007】
【特許文献1】特開2004−250779号公報
【特許文献2】特開2004−183426号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、実際の原子力発電所において実施した模擬試験や、電気的等価回路モデルを用いたシミュレーションの実施により、原子力発電所の建屋構造物のモデル化が進み、落雷時の雷サージ電流の分散状態と、出力領域モニタシステムへの雷サージ電流の伝搬メカニズムが明確になりつつある。それにつれて、〔特許文献1〕,〔特許文献2〕に記載の従来の技術では、このような伝播メカニズムに対応できないころが明らかになっている。
【0009】
最近の評価検討に基づく知見より、落雷により生ずる雷サージ電流が微弱信号回路に与える影響は、静電誘導よりも電磁誘導によるものが支配的であることが判明している。即ち、出力領域モニタシステムの微弱信号回路が、原子力発電所内に構成する電気的なループ回路に対して、雷サージ電流が鎖交して流れることにより、ループ回路に電流が誘導される為に、微弱信号回路に対して誤動作等を発生させることが確認された。
【0010】
従来の出力領域モニタシステムの概要図を図8に示す。出力領域モニタシステムは、機器の構造上、原子炉9に設置される中性子検出器1と中央制御室10に配置される制御盤4において建屋接地6に接続されることから、中性子検出器側と制御盤側の両端で接地される構造となっており、微弱信号を伝送する信号ケーブル2と原子力発電所内部の建屋接地6を介して、大きなループ回路を発電所内部に構成している。落雷によって雷サージ電流が建屋構造物(機器,接地線,鉄筋,配管,埋設物等)を流れた際に、出力領域モニタシステムのループ回路と鎖交して流れた場合、ループ回路に誘導電流が誘起され、信号ケーブルに伝播することによって中性子束の誤検出が発生し、微弱信号回路の誤動作,故障を引き起こす要因となり得る。
【0011】
本発明の目的は、出力領域モニタシステムのループ回路と鎖交する雷サージ電流を分散し、誘起される誘導電流を減少できる原子力発電用の出力領域モニタシステムを提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、ループ回路を小ループに分割し、各小ループ内を流れる雷サージ電流を分散することで誘導電流を減少できる原子力発電用の出力領域モニタシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明の原子力発電用の出力領域モニタシステムは、原子炉内に配置され炉内の核反応に伴って発生する中性子を検出する中性子検出器と、該中性子検出器に接続され、中性子検出器による検出信号を炉外部に伝送する信号ケーブルと、該信号ケーブルに接続され、前記中性子検出器からの検出信号を処理して原子炉内の中性子束を監視し、必要に応じて警報他の信号を出力する制御盤と、前記信号ケーブルを格納し原子力発電所内に布設された鋼製電線管,フレキシブル電線管,プルボックスと、原子炉格納容器の内外を連絡する電気ペネとを備え、前記鋼製電線管,フレキシブル電線管及びプルボックスを多点接地したものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、原子力発電所への落雷によって生ずる雷サージ電流が、信号ケーブルに誘導電流を誘起することで発生する出力領域モニタシステムの検出信号の誤検出及びそれに伴う原子炉出力制御系の誤作動が発生することを防止でき、信頼性の高い出力領域モニタシステムを提供することできる。また、原子力発電所に既設の出力領域モニタシステムに対して、耐雷対策として適用することが可能であり、既設システムの機能向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の一実施例を図1から図7により説明する。本実施例である多点接地を施した出力領域モニタシステムの電路模式図を図1に示す。
【0016】
原子炉内に配置され、炉内の核反応に伴って発生する中性子を検出する中性子検出器1と、この中性子検出器1による検出信号を炉外に伝達する信号ケーブル2が備えられ、信号ケーブル2には前置増幅器(図示せず)が接続され、前置増幅器で増幅された検出信号は、信号ケーブル2により中央制御室10に伝達されて、中央制御室10に設置されている制御盤4により処理される。
【0017】
信号ケーブル2を布設するために、金属製、例えば鋼製の電線管5と、金属製のフレキシブル電線管7と、電線管5,フレキシブル電線管7の中に信号ケーブル2を引き込むための金属製のプルボックス8を用い、原子炉設備の隔壁などの内外を連絡するための金属製の電気ペネ3を用いている。このように、信号ケーブル2は、電線管5とフレキシブル電線管7,プルボックス8,電気ペネ3などの金属製の部材をケーブル布設用のケーブル布設部材とし、その中に引き通して配設されている。
【0018】
原子炉9に設置される中性子検出器1と中央制御室10に配置される制御盤4において建屋接地6に接続されている。図1に示す例では、プルボックス8部の電線管5の2箇所で接地しており、電気ペネ3と中央制御室10の間の電線管5の3箇所で建屋接地6に接地した場合を示している。
【0019】
原子力発電所のうち、出力領域モニタシステムを格納する原子炉建屋11の概要図を図2に示す。原子炉建屋11の床および壁は鉄筋13を含んだコンクリにて構成されている。原子力発電所の排気筒12に落雷が生じた場合、排気筒12から地面に向けて雷サージ電流が流れるが、雷サージ電流は原子炉建屋11の床や壁内部の鉄筋13に分散され、鉄筋13に沿って建屋全体を上部から下部に向かって流れることとなる。
【0020】
図3に原子炉建屋11内における出力領域モニタシステムの電線管ルートの一例を示す。出力領域モニタシステムの信号ケーブル2は鋼製の電線管5又はフレキシブル電線管7に格納され、図3に示すように発電所内全域に渡り布設される。雷サージ電流が鉄筋13に沿って建屋全体を上部から下部に向かって流れる際には、原子炉建屋11内に電線管5又はフレキシブル電線管7が敷設されたルートと雷サージ電流が直交する部分が存在する。
【0021】
発電所内部の電線管5と近傍の構造物の状態を表す模式図を図4に示す。電線管5は床,壁に布設される際に、鉄筋13,埋設接地線14と直交して布設されることが多く、鉄筋13,埋設接地線14を流れる雷サージ電流が、出力領域モニタシステムの電路と直交する場所は必ず発生する。
【0022】
図8に示す従来の出力領域モニタシステムの電気的回路図を図9に示す。雷サージ電流が出力領域モニタシステムの電路と直交して流れる場合、電路は建屋接地6を介して電気的に大きなループ回路を構成していることから、雷サージ電流により誘導電流が電路に発生する。図3の電線管ルート図に示されるように、電路が建屋内で広い範囲に布設されている場合には、範囲内の鉄筋13に流れる全ての電流の総和によって電路に発生する誘導電流の大きさが決定される。発生した誘導電流は、建屋接地6を介して中性子検出器1に伝達し、信号ケーブル2に影響を与えることとなる。
【0023】
本実施例では、この問題を改善するために、図1に示すように、電路を多点接地としており、この出力領域モニタシステムの電気的回路図を図5に示す。
【0024】
中性子検出器1と制御盤4との間に構成されるループ回路を、電路を多点接地とすることにより小ループ回路に分割している。雷サージ電流が小ループ回路に誘起する誘導電流の大きさは、各小ループ回路に直交する雷サージ電流の大きさに依存することから、各小ループ回路で個別に発生する誘導電流は、雷サージ電流の総量によって誘導された改善前の誘導電流に比べてかなり小さいものとなる。
【0025】
また、原子炉建屋の上部から下部に一定方向の雷サージ電流が流れる場合、各小ループ回路には同一方向の誘導電流が誘起される。各小ループ回路は接地箇所で電気的に接続されていることから、同一方向の誘導電流が誘起された場合、電気的接点(接地箇所)において誘導電流が打ち消しあう方向にそれぞれ流れることとなり、電路に流れる誘導電流は更に減少されることとなる。
【0026】
このように、電路を小ループ回路に分割することにより、誘導電流を減少させることが可能となり、雷サージ電流が出力領域モニタシステムに与える影響を小さくすることが可能となる。影響を小さくするためには、電路を構成する鋼製の電線管5に対して、出来るだけ短い間隔で建屋接地6との接続を複数箇所で実施する。また、フレキシブル電線管7,プルボックス8に対しても建屋接地6との接続を施し、電路を多点接地させる。建屋接地6との接続点数は規定されないが、小ループ回路を出来るだけ小さくする目的で、接地は出来るだけ短い間隔で実施するのがよい。
【0027】
尚、電路を多点接地する当たり、電路に電気的導通が不十分な箇所が存在すると、適切な小ループ回路を構成することが出来ず、雷サージ電流の影響を減少することが出来ない。このため、電気的導通が不十分な箇所に対して、導電性の遮蔽材15を巻きつける、或いは銅線16を沿わせることにより、電路の導通を十分確保することができる。また、カップリング部やプルボックス8,電気ペネ3部において電気的導通が確保されなくなることを防止するため、それぞれ遮蔽材15の巻きつけ、銅線16の接続等の対策を施す。電路に遮蔽材15および銅線16の施工方法の模式図を図6に、電路全体に関する遮蔽材および銅線16の施工方法の概要図を図7に示す。
【0028】
遮断材15,銅線16の施工方法としては、
鋼製の電線管5,フレキシブル電線管7に導電性の高い銅線16を沿わせて電路の導通を確保し、銅線16を多点接地する、鋼製の電線管5,フレキシブル電線管7に導電性の遮蔽材15を巻きつけることで電路の導通を確保し、遮断材15を多点接地する、鋼製の電線管5同士のカップリング部及び鋼製の電線管5とフレキシブル電線管7とのカップリング部に導電性の遮蔽材15を巻きつけることによって電路の導通を確保し、遮断材15を多点接地する、プルボックス8と鋼製の電線管5,フレキシブル電線管7とを導電性の高い銅線16で接続して電路の導通を確保し、銅線16を多点接地する、電気ぺネ3部のケーブル処理箱とフレキシブル電線管7とを導電性の高い銅線16で接続して電路の導通を確保し、銅線16を多点接地する、電気ぺネ3部のケーブル処理箱と電気ぺネ3とを導電性の高い銅線16で接続して電路の導通を確保し、銅線16を多点接地する方法がある。
【0029】
本実施例の出力領域モニタシステムの変形例について説明する。本実施例では、信号ケーブルが電線管等に格納されず、露出して布設される場所がある場合、信号ケーブル2に遮蔽材15を巻きつけ、遮蔽材15を多点接地することで同様の効果を得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施例である多点接地を施した出力領域モニタシステムの構成図。
【図2】原子力発電所の原子炉建屋の斜視図。
【図3】原子炉建屋内における出力領域モニタシステムの電線管ルートを示す斜視図。
【図4】電線管とその近傍の構造物を示した模式図。
【図5】多点接地を施した出力領域モニタシステムの回路図。
【図6】電路に遮蔽材および銅線の施工を示す斜視図。
【図7】電路全体に遮蔽材および銅線の施工を示す縦断面図。
【図8】従来の出力領域モニタシステムの構成図。
【図9】従来の出力領域モニタシステムの回路図。
【符号の説明】
【0031】
1 中性子検出器
2 信号ケーブル
3 電気ペネ
4 制御盤
5 電線管
6 建屋接地
7 フレキシブル電線管
8 プルボックス
9 原子炉
10 中央制御室
11 原子炉建屋
12 排気筒
13 鉄筋
14 埋設接地線
15 遮蔽材
16 銅線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉内に配置され炉内の核反応に伴って発生する中性子を検出する中性子検出器と、該中性子検出器に接続され、中性子検出器による検出信号を炉外部に伝送する信号ケーブルと、該信号ケーブルに接続され、前記中性子検出器からの検出信号を処理して原子炉内の中性子束を監視し、必要に応じて警報他の信号を出力する制御盤と、前記信号ケーブルを格納し原子力発電所内に布設された鋼製電線管,フレキシブル電線管,プルボックスと、原子炉格納容器の内外を連絡する電気ペネとを備え、前記鋼製電線管,フレキシブル電線管及びプルボックスを多点接地した原子力発電用の出力領域モニタシステム。
【請求項2】
前記鋼製電線管,フレキシブル電線管に導電性の高い銅線を沿わせて電路の導通を確保し、該銅線を多点接地した請求項1に記載の原子力発電用の出力領域モニタシステム。
【請求項3】
前記鋼製電線管,フレキシブル電線管に導電性の遮蔽材を巻きつけることで電路の導通を確保し、該遮断材を多点接地した請求項1に記載の原子力発電用の出力領域モニタシステム。
【請求項4】
前記鋼製電線管同士のカップリング部及び鋼製電線管とフレキシブル電線管とのカップリング部に導電性の遮蔽材を巻きつけることによって電路の導通を確保し、該遮断材を多点接地した請求項1に記載の原子力発電用の出力領域モニタシステム。
【請求項5】
前記プルボックスと鋼製電線管,フレキシブル電線管とを導電性の高い銅線で接続して電路の導通を確保し、該銅線を多点接地した請求項1に記載の原子力発電用の出力領域モニタシステム。
【請求項6】
前記電気ぺネ部のケーブル処理箱とフレキシブル電線管とを導電性の高い銅線で接続して電路の導通を確保し、該銅線を多点接地した請求項1に記載の原子力発電用の出力領域モニタシステム。
【請求項7】
前記電気ぺネ部のケーブル処理箱と電気ぺネとを導電性の高い銅線で接続して電路の導通を確保し、該銅線を多点接地した請求項1に記載の原子力発電用の出力領域モニタシステム。
【請求項8】
前記信号ケーブルに導電性の遮蔽材を巻きつけ、該遮蔽材を多点接地した請求項1に記載の原子力発電用の出力領域モニタシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−80052(P2009−80052A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−250386(P2007−250386)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】