説明

原子炉圧力容器用再循環水入口ノズル構造

【課題】再循環水入口ノズル構造のアニュラス部における放射性クラッド堆積を防止し、それにより検査作業時間を短縮して作業者の被曝を低減する原子炉圧力容器用再循環水入口ノズル構造を提供する。
【解決手段】原子炉圧力容器の隔壁1に再循環水入口ノズル2を形成すると共に、該再循環水入口ノズル2内に一端部7が原子炉圧力容器内に開放され他端部8が再循環水入口ノズル2の上流側に所定の間隔を隔て延出されて固定されて、上記原子炉圧力容器内の雰囲気を導入して再循環水入口ノズル2の応力腐食割れを防止するサーマルスリーブ6を設けた原子炉圧力容器用再循環水入口ノズル構造において、上記再循環水入口ノズル2の上流側に位置されて上記サーマルスリーブ6に再循環水の一部を導入するための通水孔11を設けたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沸騰水型原子炉の原子炉圧力容器の再循環水入口ノズルに、サーマルスリーブを設けた再循環水入口ノズル構造に係り、特に再循環水入口ノズルとサーマルスリーブとの間のアニュラス部への放射性クラッドの堆積を防止できる原子炉圧力容器用再循環水入口ノズル構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子炉は、原子炉圧力容器内の軽水を炉心で沸騰させて発生した蒸気でタービンを駆動して発電するもので、原子炉圧力容器には、軽水を供給するための給水ノズルと発生した蒸気を取り出す蒸気ノズルとが接続され、蒸気ノズルからの蒸気をタービンに供給し、その蒸気を冷却水(軽水)として給水ノズルに循環している。
【0003】
現在、炉内配管へ水を供給する際に発熱あるいは冷却状況に変化が生じた場合、系統を構成する機器(ノズル、配管等)の内面に急激な温度変化や大きな温度分布変化が生じる可能性があるため、構造材(原子炉圧力容器、ノズル等)に過大な熱応力を発生させないようサーマルスリーブを設け、温度変化を伴う水が直接構造材に触れるのを避け、構造材(原子炉圧力容器、ノズル等)に発生する熱応力を緩和している。
【0004】
また、原子炉冷却材を強制循環させるための原子炉再循環系に設けられた再循環水入口ノズルも、原子炉圧力容器内に設置されたジェットポンプに再循環水を供給するためサーマルスリーブを設けてあるが、給水ノズルと異なり、サーマルスリーブ内の流体は圧力容器内の内部流体との温度差はあまりない。
【0005】
図3は、従来のサーマルスリーブを有する再循環水入口ノズル構造を示したものである。
【0006】
原子炉圧力容器の隔壁31に再循環水入口ノズル32が形成され、この再循環水入口ノズル32内の一端部が原子炉圧力容器内に開放され他端部が再循環水入口ノズル32のノズルセーフエンド36に所定の間隔(アニュラス部33)を隔て延出されてサーマルスリーブ34が固定される。
【0007】
このサーマルスリーブ34を設けることで、原子炉圧力容器内の雰囲気をアニュラス部33に導入して再循環水入口ノズル32の内壁と再循環水とが直接接触することを防止し、再循環水入口ノズル32の応力腐食割れを防止する。
【0008】
しかし、サーマルスリーブ34が取り付けられるノズルセーフエンド36には、構造上アニュラス部33が存在し、この部分に運転を繰り返すことにより放射化した金属酸化物(クラッド)が堆積する。この放射性クラッドは、供用期間中検査における作業員の被曝低減の大きな妨げとなっている。
【0009】
この事象に対する現在の対策として、供用期間中検査前に炉内側からアニュラス部へ炉水を噴射することにより、堆積した放射性クラッドを拡散しているが、ノズル構造は様々で各々専用のジェット噴射装置の作製や、ジェット噴射装置の取り付け作業、アニュラス部の洗浄作業、ジェット噴射装置の取り外し作業の時間の確保等が必要となり、供用期間中検査における大きな負担となる。
【0010】
特許文献1では、予め噴射ノズルをアニュラス部に向けて設置し、他方原子力圧力容器外に噴射ノズルに給水する噴射装置を設置しておき、噴射ノズルからアニュラス部へ向けて水を噴射することにより、アニュラス部に堆積した放射性クラッドを洗浄することが示され、特許文献2では、ジェット噴射装置を原子炉圧力容器上部から原子炉圧力容器内に吊り降ろし、ジェット噴射装置の噴射ノズルがアニュラス部に位置するようにし、その状態で噴射ノズルから水を噴射することにより、アニュラス部に堆積した放射性クラッドを洗浄することが示されている。
【0011】
【特許文献1】特開昭60−80789号公報
【特許文献2】特開昭62−163999号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1では、噴射ノズル等の配管が原子炉圧力容器内に設置されるため、その配管に放射性クラッドが堆積する問題がある。
【0013】
また、特許文献2では、ジェット噴射装置の取り付け作業、アニュラス部の洗浄作業、ジェット噴射装置の取り外し作業の時間の確保等が必要となり、定期検査における大きな負担となる。さらに、上述した作業が検査期間を決定する工程(クリティカル工程)となり、各作業での小さなトラブルが後工程に大きな影響を与えることになる。
【0014】
それに加え、再循環水入口ノズルとサーマルスリーブの間隙で形成されるアニュラス部への放射性クラッドは、ノズルセーフエンド側に堆積しており、原子炉圧力容器側から噴射ノズルで水を噴射して除去しようとしても十分に除去することは困難であり、また、アニュラス部の間隙が狭いため、ノズルセーフエンド側に堆積したクラッドまで強い水流でも届かず、十分除去することが困難である。
【0015】
そこで、本発明の目的は、アニュラス部における放射性クラッドの堆積を事前に防止することができる原子炉圧力容器用再循環水入口ノズル構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、請求項1の発明は、原子炉圧力容器の隔壁に再循環水入口ノズルを形成すると共に、該再循環水入口ノズル内に一端部が原子炉圧力容器内に開放され他端部が再循環水入口ノズルの上流側に所定の間隔を隔て延出されて固定されて、上記原子炉圧力容器内の雰囲気を導入して再循環水入口ノズルの応力腐食割れを防止するサーマルスリーブを設けた原子炉圧力容器用再循環水入口ノズル構造において、上記再循環水入口ノズルの上流側に位置されて上記サーマルスリーブに再循環水の一部を導入するための通水孔を設けた原子炉圧力容器用再循環水入口ノズル構造である。
【0017】
請求項2の発明は、上記通水孔が、上記再循環水入口ノズルの上流側に位置されるサーマルスリーブの内周に沿って所定の間隔を隔てて複数設けられた請求項1に記載の原子炉圧力容器用再循環水入口ノズル構造である。
【0018】
請求項3の発明は、上記通水孔が、上記再循環水入口ノズルの上流側に位置されるサーマルスリーブの内周に沿って重力方向上方より重力方向下方側に多く形成された請求項1又は2に記載の原子炉圧力容器用再循環水入口ノズル構造である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、アニュラス部に再循環水の一部を導入し、アニュラス部の放射性クラッドを原子炉圧力容器内に流れ落とすことにより、放射性クラッドの堆積を事前に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0021】
図1は、本発明の好適な実施の形態を示す再循環水入口ノズル構造の断面図、図2はそのA部の拡大断面図である。
【0022】
図1に示すように、再循環水入口ノズル構造は、原子炉圧力容器の隔壁1に再循環水入口ノズル2が形成されてなる。
【0023】
隔壁1の再循環水入口ノズル2の形成は、隔壁1に開口3が形成され、他方再循環水入口ノズル2が、開口3と同じ径のフランジ部4と、そのフランジ部4から延びた筒状部5とで形成され、そのフランジ部4を開口3に溶接Wして形成される。
【0024】
サーマルスリーブ6は、一端部7が原子炉圧力容器の隔壁1の内面から突出するように開放され、他端部8が、再循環水入口ノズル2の筒状部5の上流側に筒状部5の内周と所定の間隔を隔て延出されると共に、筒状部5のノズルセーフエンド9に固定され、再循環水入口ノズル2とサーマルスリーブ6との間にアニュラス部10が形成される。
【0025】
サーマルスリーブ6の他端部8の内周面8aは、ノズルセーフエンド9の内周面から先端先細となるような傾斜面に形成される。また、サーマルスリーブ6は、その他端部8から延びた水平な縮径部6aと、その縮径部6aから延びて先端が順次拡径された拡径部6bと、拡径部6bから延びて原子炉圧力容器の隔壁1の内面から突出するように設けられ再循環水入口ノズル2の筒状部5よりやや小さな径に形成された一端部7を有する水平筒部6cとから形成される。
【0026】
これにより、アニュラス部10は、縮径部6aと、筒状部5で形成される間隔が大きくされた環状スペース部10aが形成され、先端にかけて順次間隔が狭められて原子炉圧力容器に開口するように形成される。
【0027】
図2に示すように、ノズルセーフエンド9に一体に固定されるサーマルスリーブ6の傾斜した他端部8には、その円周方向に沿って適宜間隔で複数の通水孔11が設けられ、通水孔11を介して再循環水入口ノズル2を流れる再循環水の一部が、アニュラス部10に導入できるようになっている。
【0028】
この通水孔11の位置は、アニュラス部10の他端部8の閉じた部分に位置するように形成され、また、通水孔11の角度は、径方向外方に傾斜するように形成され、さらに、通水孔11の数は、放射性クラッドが、重力方向上方よりも重力方向下方のアニュラス部10に多く堆積するので、他端部8の円周に対して重力方向上方よりも重力方向下方に多く形成される。
【0029】
次に、本実施の形態に係る再循環水入口ノズル構造の作用を説明する。
【0030】
上述したように再循環水は、再循環水入口ノズル2に図示のように流れサーマルスリーブ6を通って原子炉圧力容器に供給される。また、再循環水の一部は通水孔11を通してアニュラス部10に流れて原子炉圧力容器に流入する。
【0031】
これにより、アニュラス部10に堆積しようとする放射性クラッドは、アニュラス部10を流れる再循環水によりその堆積が防止されてその原子炉圧力容器内に戻されることになる。また、このアニュラス部10に流れる再循環水量はアニュラス部10の間隙が小さいため再循環水入口ノズル2に熱的な影響を及ぼすことはなく、また、ノズルセーフエンド9から通水孔11を介してアニュラス部10に導入しても急激に温度変化することがなく、アニュラス部10を流れる間に原子炉圧力容器内の雰囲気近くの温度に加熱されるために再循環水入口ノズル2の内面に熱応力を発生させることはない。
【0032】
さらに、通水孔11は、重力方向上方よりも重力方向下方に多く形成されるため、アニュラス部10ではその下方の水流を多くでき、アニュラス部10の重力方向下方に堆積しやすい放射性クラッドをより効率的に原子炉圧力容器側に戻してその堆積を防止することが可能となる。
【0033】
それに加え、サーマルスリーブ6の他端部8、縮径部6a、拡径部6bと再循環水入口ノズル2との間に形成されたアニュラス部10の環状スペース部10aに通水孔11からの水が溜まり、そこで再循環水入口ノズル2の温度と同じ温度に昇温されて、開口部10bから流れることで熱応力を緩和しつつ堆積しようとする放射性クラッドを確実に原子炉圧力容器に流し落とすことができる。
【0034】
以上、本発明の実施の形態を図面により詳述してきたが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲での種々の設計変更が可能であり、例えば、通水孔11は、他端部8に形成する例を示したが、放射性クラッドを流し落とすことができ、且つ熱応力を受けない下流側であればいずれの位置に設けても良い。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本実施の形態に係る再循環水入口ノズル構造を示す断面図である。
【図2】図1のA部を示す拡大断面図である。
【図3】従来の再循環水入口ノズル構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 隔壁
2 再循環水入口ノズル
6 サーマルスリーブ
7 サーマルスリーブの圧力容器内側端部
8 サーマルスリーブの圧力容器外側端部
11 通水孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉圧力容器の隔壁に再循環水入口ノズルを形成すると共に、該再循環水入口ノズル内に一端部が原子炉圧力容器内のジェットポンプに接続・開放され他端部が再循環水入口ノズルの上流側に所定の間隔を隔て延出されて固定されて、上記原子炉圧力容器内の雰囲気を導入して再循環水入口ノズルの応力腐食割れを防止するサーマルスリーブを設けた原子炉圧力容器用再循環水入口ノズル構造において、
上記再循環水入口ノズルの上流側に位置されて上記サーマルスリーブに再循環水の一部を導入するための通水孔を設けたことを特徴とする原子炉圧力容器用再循環水入口ノズル構造。
【請求項2】
上記通水孔が、上記再循環水入口ノズルの上流側に位置されるサーマルスリーブの内周に沿って所定の間隔を隔てて複数設けられた請求項1に記載の原子炉圧力容器用再循環水入口ノズル構造。
【請求項3】
上記通水孔が、上記再循環水入口ノズルの上流側に位置されるサーマルスリーブの内周に沿って重力方向上方より重力方向下方側に多く形成された請求項1又は2に記載の原子炉圧力容器用再循環水入口ノズル構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−236573(P2009−236573A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−80782(P2008−80782)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)