説明

原子炉容器周囲における隙間構造

【課題】簡単な構造により対流防止板が原子炉容器に干渉することによる金属衝撃音自体を無くすことができる。
【解決手段】キャビティ2と、キャビティ2に収容される原子炉容器1との間でキャビティ2壁面に沿って配される保温材3と、保温材3の内面3aに設けられ、隙間Sを流通する流体を整流する対流防止板4と、保温材3に設けられ、対流防止板4よりも原子炉容器1側に突出するとともに、原子炉容器1との干渉に応じて弾性変形可能な緩衝部材5Aと、 を備えた隙間構造を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉容器における周囲に配置される保温材との間に設けられる隙間構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加圧水型原子炉プラントにおいて、高い機能を保持するとともに、高い安全性を確保するために原子炉容器の部品や緩んだ部品のルースパーツの有無をルースパーツモニタ装置により検出している。このルースパーツモニタ装置は、外れた部品が衝突する衝撃音や、緩んだ部品の振動等により発生する衝撃音を検出することによりルースパーツの有無を検出している。
また、原子炉容器には、原子炉容器から上端部を固定点(支点)とした保温材が吊り下げられている。そして、原子炉容器と保温材との間には、保温効果を高めるために複数の対流防止板が設けられている。
【0003】
ところが、上述した原子炉容器では、保温材が原子炉容器周辺の対流ファン等による加振力で支点を中心に振り子運動をし、対流防止板が原子炉容器に干渉して定常的に衝撃音を発生させている。そのため、監視対象物が定常的に金属衝撃を発生し、この金属衝撃音とルースパーツによる衝撃音とを判別することが困難であり、ルースパーツが存在していないのにルースパーツモニタ装置が誤動作し、前記金属衝撃音を検知してしまう場合があった。
【0004】
そこで、監視対象物が定常的に金属衝撃音を発生している場合であっても、検出感度を低下させずにルースパーツの発生を確実に監視し得るルースパーツモニタ装置がある(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1には、監視対象物に対する金属衝撃音を検出する検出手段と、この手段により検出された信号を遅延する遅延手段と、この遅延手段により遅延された信号に基づいてルースパーツの発生を監視する手段と、定常的に金属衝撃を発生する機器構造に対して金属衝撃を検出する検出手段と、この検出手段から出力される金属衝撃検出信号に基づいてルースパーツの発生監視手段の動作を一時的に禁止する手段を備えたルースパーツモニタ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−50191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1で開示されるルースパーツモニタ装置においては、複雑な制御機器を組み合わせた装置となることから、コストがかかるうえ、調整に時間がかかるといった欠点があった。
しかも、対流防止板が原子炉容器に干渉することによる金属衝撃音そのもの自体が取り除かれるものではないので、その金属衝撃音とルースパーツによる衝撃音とを確実に判別できるものではない。そのため、簡単な構造で前記金属衝撃音自体を無くすことができる手段が求められており、その点で改良の余地があった。
【0007】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、簡単な構造により対流防止板が原子炉容器に干渉することによる金属衝撃音自体を無くすことができる原子炉容器周囲における隙間構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る原子炉容器周囲における隙間構造では、キャビティと、キャビティに収容される原子炉容器との間の隙間構造であって、キャビティ壁面に沿って配される保温材と、保温材の表面に設けられ、隙間を流通する流体を整流する整流部材と、保温材又は整流部材に設けられ、整流部材よりも原子炉容器側に突出するとともに、原子炉容器との干渉に応じて弾性変形可能な緩衝部材と、を備えることを特徴としている。
【0009】
本発明では、保温材又は整流部材に設けられた緩衝部材が整流部材より原子炉容器側に突出する位置に設けられているので、キャビティと原子炉容器との間に配置される保温材が原子炉容器側に振れた場合でも、緩衝部材が原子炉容器に当接して弾性変形するため、整流部材が原子炉容器に直接干渉することがなくなる。そのため、整流部材と原子炉容器との間で生じる金属衝撃音の発生が抑制され、原子炉容器のルースパーツを監視するルースパーツモニタ装置による誤作動を確実に低減することができる。
また、緩衝部材が整流部材よりも原子炉容器側に突出させるといった簡単な構造であり、例えば既設の整流部材を覆うように配置することにより容易に設置することができる。
【0010】
また、本発明に係る原子炉容器周囲における隙間構造では、キャビティと、該キャビティに収容される原子炉容器との間の隙間構造であって、キャビティ壁面に沿って配される保温材と、整流機能及び緩衝機能を有する部材と、を備えることを特徴としている。
【0011】
本発明では、整流機能及び緩衝機能を有する部材が保温材に設けられているので、キャビティと原子炉容器との間に配置される保温材が原子炉容器側に振れた場合でも、その部材が原子炉容器に当接して弾性変形するため、緩衝機能を有しない部材のように原子炉容器との間で生じる金属衝撃音の発生が抑制され、原子炉容器のルースパーツを監視するルースパーツモニタ装置による誤作動を確実に低減することができる。
また、緩衝機能を有する部材により整流機能をもつ形状に構成するといった簡単な構成であり、容易に実現することができる。
【0012】
また、本発明に係る原子炉容器周囲における隙間構造では、保温材を前記キャビティに対して水平方向に移動可能に支持する支持部を備えることが好ましい。
【0013】
本発明では、保温材が支持部によって支持されているので、この支持部によって保温材の水平方向の振れを抑えることができる。さらに、整流部材が熱によって伸びたときの伸び量に応じて支持部によって保温材をキャビティ側へ移動させることができ、その伸び量を吸収することができる。
【0014】
また、本発明に係る原子炉容器周囲における隙間構造では、前記支持部は、前記保温材を前記キャビティに対して上下方向に移動可能に支持することが好ましい。
この場合、支持部によって保温材の上下方向の振れを抑えることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の原子炉容器周囲における隙間構造によれば、簡単な構造により整流部材が原子炉容器に干渉することによる金属衝撃音自体を無くすことができ、これによりルースパーツの発生による衝撃音をルースパーツモニタ装置によって確実に監視することが可能となる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施の形態による原子炉容器の構成を示す側面図である。
【図2】図1に示す原子炉容器の部分拡大図である。
【図3】図2に示すR部の拡大図であって、緩衝部材5Aの構成を示す側断面図である。
【図4】第3に示す緩衝部材5Aの斜視図である。
【図5】図2に示す振止めブラケットの構成を示す図である。
【図6】第2の実施の形態による緩衝部材5Bの構成を示す側断面図であって、図3に対応する図である。
【図7】第3の実施の形態による緩衝部材5Cの構成を示す側断面図であって、図3に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態による原子炉容器周囲における隙間構造について、図面に基づいて説明する。
【0018】
(第1の実施の形態)
図1に示すように、本第1の実施の形態による隙間構造は、例えば加圧水型原子炉プラントにおいて、キャビティ2と、キャビティ2に収容される原子炉容器1との間の隙間Sに設けられる構造である。
原子炉容器1とキャビティ2との間には、原子炉容器1の上縁部に上端部を固定点(支点3b)とし、キャビティ壁面に沿って配される保温材3が原子炉容器1と同軸に吊り下げられている。そして、保温材3の内面3a(表面)には、図2に示す前記隙間Sを流通する流体を整流することで保温効果を高める複数の対流防止板4、4、…(整流部材)が設けられている。
【0019】
なお、上記キャビティ2において、図1に示す原子炉容器1の容器軸Oに直交する方向を径方向、といい、容器軸O回りに周回する方向を周方向という。
【0020】
図3及び図4に示すように、対流防止板4は、保温材3の内面3aから径方向内側に突出するとともに周方向全周にわたって設けられ、保温材3の上下方向で所定の間隔をあけて複数設けられている。
【0021】
そして、対流防止板4には、保温材3から原子炉容器1側(径方向内側)に突出するとともに、原子炉容器1との干渉に応じて弾性変形可能な緩衝部材5Aが設けられている。この緩衝部材5Aは、ステンレス製の薄板状部材からなり、対流防止板4の周囲を覆うようにして半円筒状に形成されており、その下端5aが対流防止板4の下方の位置で保温材3に固定され、上端5bが対流防止板4の上方の位置で保温材3に固定されている。
【0022】
また、図2に示すように、保温材3には、キャビティ2に対して水平方向へ移動可能に支持する振止めブラケット6(支持部)を備えている。この振止めブラケット6は、図5に示すように、ばね材61aが内装されたシリンダ61と、このシリンダ61に摺動自在に支持されたロッド62と、ロッド62の先端に設けられたホルダ63と、そのホルダ63に回転可能に軸支されたローラ64と、を備えた構成となっている。つまり、ばね材61aは、ローラ64に働くシリンダの軸方向の力に対して作用する。そして、シリンダ61が保温材3の下端に固定され、ローラ64が常時、ばね材61aの作用によってキャビティ2(図2参照)の内面に対して原子炉容器1の径方向外側に弾力的に当接した状態で保持されている。
【0023】
すなわち、振止めブラケット6は、保温材3の水平方向への振れをばね材61aによって抑える機能を有し、さらに対流防止板4が熱によって伸びたときの伸び量に応じて保温材3をキャビティ2側へ移動させる機能を有している。
【0024】
次に、上述したように構成された原子炉容器周囲における隙間構造の作用について、図面に基づいて説明する。
図3に示すように、緩衝部材5Aが対流防止板4より原子炉容器1側に突出する位置に設けられているので、キャビティ2と原子炉容器1との間に配置される保温材3が原子炉容器1側に振れた場合でも、緩衝部材5Aが原子炉容器1に当接して弾性変形するため、対流防止板4が原子炉容器1に直接干渉することがなくなる。
そのため、対流防止板4と原子炉容器1との間で生じる金属衝撃音の発生が抑制され、原子炉容器1のルースパーツを監視するルースパーツモニタ装置(図示省略)による誤作動を確実に低減することができる。
また、緩衝部材5Aが対流防止板4よりも原子炉容器1側に突出させるといった簡単な構造であり、例えば既設の対流防止板4を覆うように配置することにより容易に設置することができる。
【0025】
さらに、図2に示すように、本実施の形態では、保温材3が振止めブラケット6によって支持されているので、この振止めブラケット6によって保温材3の水平方向の振れを抑えることができる。さらに、対流防止板4が熱によって伸びたときの伸び量に応じて振止めブラケット6によって保温材3をキャビティ2側へ移動させることができ、その伸び量を吸収することができる。
【0026】
上述した本第1の実施の形態による原子炉容器周囲における隙間構造では、簡単な構造により対流防止板4が原子炉容器1に干渉することによる金属衝撃音自体を無くすことができ、これによりルースパーツの発生による衝撃音をルースパーツモニタ装置によって確実に監視することが可能となる効果を奏する。
【0027】
次に、本発明の原子炉容器周囲における隙間構造による他の実施の形態について、添付図面に基づいて説明するが、上述の第1の実施の形態と同一又は同様な部材、部分には同一の符号を用いて説明を省略し、第1の実施の形態と異なる構成について説明する。
【0028】
(第2の実施の形態)
図6に示す第2の実施の形態による原子炉容器周囲における隙間構造は、上述した第1の実施の形態による緩衝部材5A(図3及び図4参照)の形状を代えたものであり、緩衝部材5Bが対流防止板4の上下両側に配置された構成となっている。この緩衝部材5Bは、原子炉容器1側の先端5cが対流防止板4の内周側端部4aよりも径方向内側に突出している。
【0029】
(第3の実施の形態)
図7に示す第2の実施の形態による原子炉容器周囲における隙間構造は、対流防止板4の突出端4aにのみ緩衝部材5Cを設けた構成のものである。この場合、緩衝部材5Cは、対流防止板4に固定されており、保温材3に支持させている上述の第1及び第2の実施の形態とはその点で異なった構成となっている。
【0030】
以上、本発明による原子炉容器周囲における隙間構造の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施の形態では緩衝部材5A、5B、5Cが対流防止板4と別体で設けた構造となっているが、このように対流防止板4と緩衝部材とを一体的に設けた部材であってもかまわない。すなわち、整流機能及び緩衝機能を有する部材を整流部材として保温材3に設けるようにしても良い。この場合、整流機能及び緩衝機能を有する部材が保温材3に設けられているので、キャビティ2と原子炉容器1との間に配置される保温材3が原子炉容器1側に振れた場合でも、その部材が原子炉容器1に当接して弾性変形するため、緩衝機能を有しない部材のように原子炉容器1との間で生じる金属衝撃音の発生が抑制され、原子炉容器1のルースパーツを監視するルースパーツモニタ装置による誤作動を確実に低減することができる。また、緩衝機能を有する部材により整流機能をもつ形状に構成するといった簡単な構成であり、容易に実現することができる。
【0031】
また、緩衝部材の形状は、上述した第1〜第3の実施の形態に限定されることはなく、適宜な形状のものを採用しても良い。例えば、第1の実施の形態による緩衝部材5Aにおいて、対流防止板4の一部、或いは全体にわたって張り付けて密着させた構成とすることも可能である。要は、対流防止板4の原子炉容器1側の端部4aよりも緩衝部材が径方向内側に突出していれば良いのである。
【0032】
さらに、本実施の形態では保温材3をキャビティ2に対して水平方向に移動可能に支持する振止めブラケット6を設けているが、省略することも可能であり、また水平方向に代えて上下方向に移動可能に支持する振止めブラケットとすることも可能であり、さらにまた水平方向と上下方向の両方向に移動可能に支持する振止めブラケットであっても良い。
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施の形態を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 原子炉容器
2 キャビティ
3 保温材
3a 内面(表面)
4 対流防止板(整流部材)
5A、5B、5C 緩衝部材
6 振止めブラケット(支持部)
O 容器軸
S 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティと、該キャビティに収容される原子炉容器との間の隙間構造であって、
前記キャビティ壁面に沿って配される保温材と、
該保温材の表面に設けられ、隙間を流通する流体を整流する整流部材と、
前記保温材又は前記整流部材に設けられ、前記整流部材よりも前記原子炉容器側に突出するとともに、該原子炉容器との干渉に応じて弾性変形可能な緩衝部材と、
を備えることを特徴とする隙間構造。
【請求項2】
キャビティと、該キャビティに収容される原子炉容器との間の隙間構造であって、
前記キャビティ壁面に沿って配される保温材と、
整流機能及び緩衝機能を有する部材と、
を備えることを特徴とする隙間構造。
【請求項3】
前記保温材を前記キャビティに対して水平方向に移動可能に支持する支持部を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の隙間構造。
【請求項4】
前記支持部は、前記保温材を前記キャビティに対して上下方向に移動可能に支持することを特徴とする請求項3に記載の隙間構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−173090(P2012−173090A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34499(P2011−34499)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)