説明

原子炉容器構造及び原子炉の運転方法

【課題】原子炉の起動時等に発生する原子炉容器壁面の熱応力を緩和できる原子炉容器構造を提供する。
【解決手段】炉心11を収納した原子炉容器10A内に、液体金属の冷却材を充填した液面上部に不活性ガス充填空間Gが形成されている有液面空間を設け、該有液面空間の容器壁面内側に、原子炉定常運転時の冷却材液面より高い位置まで有底の内筒20を設置して形成された冷却材滞留槽22を備えている原子炉容器構造であって、内筒20から離間した内側に下端部を充填完了時の液面内まで延在させた仕切部材25を設けて有液面空間の内部を内側空間Gi及び外側空間Goに分割し、冷却材の液体金属が、内側空間Gi及び外側空間Goの不活性ガス充填圧力を相対的に変化させて生じる圧力差を利用して冷却材滞留槽22に充填される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば高速増殖炉(Fast Breeder Reactor:FBR)等の高速炉に適用される原子炉容器構造及び原子炉の運転方法に係り、特に、ホットベッセルに好適な原子炉容器構造及び原子炉の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高速増殖炉等の高速炉では、たとえば図8に示すように、ホットベッセルと呼ばれる原子炉容器構造がある。この原子炉容器10では、冷却材としてナトリウムのような液体金属が用いられており、冷却系に接続されたコールドレグ配管17Cから原子炉容器10の下部プレナム19に流入した液体ナトリウムNaは、図中に矢印Fで示すように、炉心11を下から上に通過する過程で加熱され、定格運転時には高温(約550℃)で使用される。なお、加熱された液体ナトリウムNaは、上部プレナム14からホットレグ配管17Hを通って冷却系に戻される。
【0003】
図示の原子炉容器10は、冷却材バウンダリを構成する重要機器であり、冷却材の一例として液体ナトリウムが使用されている。このような原子炉容器10内は、化学的に活性な冷却材であるナトリウムが空気と触れることを防ぐために、液体ナトリウムNaの上部に、たとえばアルゴン(Ar)等の不活性ガスを充填した不活性ガス充填空間Gを設けた有液面構造となっている。なお、図中の符号Lは、液体ナトリウムNaの液位を示している。
【0004】
また、上述した原子炉容器10内は、隔壁13によって上下に仕切られ、上部プレナム14及び中間プレナム18を形成している。隔壁13は、炉心11から加熱を受けて上部プレナム14に流入した高温の液体ナトリウムNaが、中間プレナム18へとバイパスすることを防止し、炉心11を支持するスカート部12等の据付部を低温に保つ。
上述した不活性ガスは、上部プレナム14内に充填されている。すなわち、上部プレナム14は、原子炉容器10内における有液面空間となる。
なお、ルーフデッキ15は、原子炉容器10の据付部を低温に保つために冷却されている。
また、図中の符号30は、不活性ガス充填空間Gにアルゴン等の不活性ガスを供給する不活性ガス供給(充填)系である。
【0005】
このため、原子炉容器10の炉壁10aにおいては、図7の「液位上昇の場合」に示すように、液体ナトリウムNaが存在する冷却材接液部と、不活性ガス充填空間Gとの間において、軸方向に大きな温度勾配を生じ、冷却材の液面近傍部に高い熱応力が発生する。この熱応力は、以下に説明する理由により、特に原子炉の起動時に大きくなる。
【0006】
原子炉の停止時においては、冷却材として使用する液体ナトリウムNaの凍結を防ぐ目的から、液体ナトリウムNaが約200℃に保温されている。
これに対し、原子炉の起動時には、炉心11からの加熱を受けて液体ナトリウムNaの温度が上昇するので、体積膨張に伴って液体ナトリウムNaの液位もL2からL3に上昇する。なお、この場合の液位L3は、原子炉通常(定常)運転時の冷却材液面となる。
【0007】
しかし、原子炉容器の材料であるオーステナイト系ステンレス鋼は、その熱伝導性が低いため、液体ナトリウムNaの液面より上の領域、すなわち液体ナトリウムNaと接液していない領域では温度の追従が遅くなる。従って、図7の「液位上昇の場合」に実線で示すように、原子炉容器10の炉壁10aには、液面近傍部(液位L3の液面よりやや上の領域)に大きな温度勾配が生じて高い熱応力を発生する。
【0008】
原子炉容器の壁面(上述した炉壁10a)に発生する熱応力を緩和する従来技術としては、たとえば特許文献1に開示されているように、原子炉容器の内側に内筒を設置し、容器と内筒の間に炉心入口側の冷却材を流し、冷却材の通過流量を調節して原子炉容器壁の熱応力を緩和するもの(コールドベッセル)がある。
また、特許文献2には、液面熱ラチェット現象の発生を防止するため、原子炉起動時において、原子炉容器内に設置した電磁ポンプを作動させ、冷却材となる液体金属の液位を変化させる高速炉が開示されている。
【0009】
また、下記の特許文献3〜5には、原子炉容器の冷却材液面近傍に、冷却材(液体ナトリウム)を貯留する貯留バケットを設けて熱応力を緩和する方式が開示されており、たとえば貯留バケット内に複数の熱抵抗体を収容する構造や、貯留バケットの断面積が上部及び下部で異なる構造もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−160883号公報
【特許文献2】特開平8−15487号公報
【特許文献3】特開昭59−163588号公報
【特許文献4】特開昭60−247191号公報
【特許文献5】特開昭61−47581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、ホットベッセルの原子炉容器構造においては、原子炉の起動時に液体ナトリウムNaの温度が上昇し、これに伴う熱膨張によって液体ナトリウムNaの液位Lも上昇する。このような原子炉容器10の炉壁10aでは、図7に示す「液位上昇の場合」、液体ナトリウムNaの液面近傍において軸方向に大きな温度勾配が生じるので、液面近傍部の熱応力は大きなものとなる。
【0012】
このため、原子炉の供用期間中には、起動・停止を繰り返すことにより、原子炉容器10に対して上述した熱応力が繰り返し発生することになる。従って、この熱応力が大きい場合には、起動のたびに原子炉容器10の径が縮む変形(液面ラチェット)や、クリープ疲労による破損の発生が懸念される。
さらに、原子炉容器10の健全性を確保するためには、起動にかける日数を長くし、炉壁10aが緩やかな温度上昇をするように、ゆっくりと起動する必要がある。しかし、原子炉を発電等の商用運転に使用するような場合には、起動に要する時間を短縮して定格運転時間を可能な限り延長することが望ましい。
このような熱応力に起因する懸念は、起動時のみならず、通常停止時、緊急停止時にも生じるものである。
【0013】
このような背景から、ホットベッセルの原子炉容器構造においては、原子炉容器の信頼性や運用性をより一層向上させるため、原子炉容器の壁面に発生する熱応力を緩和する方策が必要となる。この方策は、追加設備を最小限に抑え、高い耐熱成立性や安全性を有することが望ましい。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、原子炉の起動時等に発生する原子炉容器壁面の熱応力を緩和できる原子炉容器構造及び原子炉の運転方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記の課題を解決するため、下記の手段を採用した。
本発明に係る原子炉容器構造は、炉心を収納した原子炉容器内に、液体金属の冷却材を充填した液面上部に不活性ガス充填空間が形成されている有液面空間を設け、該有液面空間の容器壁面内側に、原子炉定常運転時の冷却材液面より高い位置まで有底内筒を設置して前記容器壁面と前記有底内筒との間に形成された冷却材滞留槽を備えている原子炉容器構造であって、前記有底内筒から離間した内側に下端部を充填完了時の液面内まで延在させた仕切部材を設けて前記有液面空間の内部を内側空間及び外側空間に分割し、前記液体金属が、前記内側空間及び前記外側空間の不活性ガス充填圧力を相対的に変化させて生じる圧力差を利用して前記冷却材滞留槽に充填されることを特徴とするものである。
【0015】
このような原子炉容器構造によれば、有底内筒から離間した内側に下端部を充填完了時の液面内まで延在させた仕切部材を設けることにより、有液面空間の内部を内側空間及び外側空間に分割し、液体金属が、内側空間及び外側空間の不活性ガス充填圧力を相対的に変化させて生じる圧力差を利用して冷却材滞留槽に充填されるので、原子炉容器内の冷却材滞留槽に液体金属を充填するため、液体金属が空気と接触しないよう十分な配慮が必要となる専用の液体金属供給配管を新たに増設する必要はない。
【0016】
そして、内部空間の不活性ガス充填圧力を外部空間より高い圧力に設定し、この圧力差により内部空間の液面を押し下げるとともに外部空間の液面を上昇させて冷却材滞留槽へ液体金属を充填するので、冷却材滞留槽の上端部まで確実に液体金属を充填することができ、原子炉の起動時においては、温度上昇により膨張した液体ナトリウムNaが冷却材滞留槽から液面の低い上部プレナム内に溢流することによって、原子炉容器の壁面と接する冷却材の液面高さが冷却材滞留槽の上端と一致する一定位置に保たれる。
【0017】
上記の原子炉容器構造において、前記圧力差は、不活性ガス供給系に接続されて前記内側空間に不活性ガスを供給するとともに第1開閉弁を備えた第1ガス配管と、前記第1開閉弁より上流側で前記第1ガス配管から分岐して前記外側空間に不活性ガスを供給するとともに第2開閉弁を備えた第2ガス配管とを設け、前記第1開閉弁及び前記第2開閉弁の開閉操作により生じさせることが好ましく、これにより、仕切部材の追設及び不活性ガス供給系の変更を行う比較的簡単な構造により、起動準備等において原子炉容器内の冷却材滞留槽に液体金属を容易に充填することができる。
【0018】
上記の原子炉容器構造においては、前記内側空間内及び外側空間内の液位を検出する液位検出部を備えていることが好ましく、これにより、内側空間内及び外側空間内の液面管理が可能になるので、冷却材滞留槽に液体金属を確実に充填することができる。
【0019】
本発明に係る原子炉の運転方法は、請求項1から3のいずれか1項に記載の原子炉容器構造を備えている原子炉の運転方法であって、前記内部空間の不活性ガス充填圧力を前記外部空間より高い圧力に設定し、前記内部空間の液面を押し下げるとともに前記外部空間の液面を上昇させて前記冷却材滞留槽へ前記液体金属を充填する起動準備工程を備えていることを特徴とするものである。
【0020】
このような原子炉の運転方法によれば、内部空間の不活性ガス充填圧力を外部空間より高い圧力に設定し、内部空間の液面を押し下げるとともに外部空間の液面を上昇させて冷却材滞留槽へ液体金属を充填する起動準備工程を備えているので、両空間に生じる圧力差を利用して冷却材滞留槽の上端部まで液体金属を確実に充填した状態での運転開始が可能になる。このため、原子炉の起動時においては、温度上昇により膨張した液体ナトリウムNaが冷却材滞留槽から液面の低い上部プレナム内に溢流することによって、原子炉容器の壁面と接する冷却材の液面高さが冷却材滞留槽の上端と一致する一定位置に保たれる。
【発明の効果】
【0021】
上述した本発明によれば、原子炉の起動時において、温度上昇により膨張した液体ナトリウムNaが冷却材滞留槽から液面の低い上部プレナム内に溢流することによって、原子炉容器の壁面と接する冷却材の液面高さが冷却材滞留槽の上端と一致する一定位置に保たれる。この結果、原子炉容器の壁面においては、軸方向の温度勾配が緩和されて発生する熱応力も小さくなるので、原子炉容器の信頼性や運用性がより一層向上するという顕著な効果を得られる。
また、上述した本発明は、有底内筒と仕切部材を追加する容器構造の変更と、不活性ガス供給系の簡単な改造により実施できるため、追加設備を最小限に抑え、しかも、高い耐熱成立性を有している。特に、空気との接触防止対策が必要となるナトリウムのような液体金属(冷却材)配管を増設する必要がないため、プラントの信頼性や耐久性の向上に大きな効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る原子炉容器構造の一実施形態を示す図で、(a)は原子炉容器構造の概要(通常運転時の液位)を示す縦断面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【図2】図1の原子炉容器構造において、通常停止時の冷却材液位を示す縦断面図である。
【図3】図1の原子炉容器構造において、冷却材滞留槽に対する冷却材の充填開始時の液位を示す縦断面図である。
【図4】図1の原子炉容器構造において、冷却材滞留槽に対する冷却材の充填完了時の液位を示す縦断面図である。
【図5】図1の原子炉容器構造において、冷却材滞留槽に対する冷却材の充填が完了し、原子炉が起動準備完了時の状態にある場合の液位を示す縦断面図である。
【図6】冷却材滞留槽に対する冷却剤充填において、横軸の原子炉運転状態に対応する不活性ガス圧力を縦軸に示した不活性ガス圧力運用の説明図である。
【図7】原子炉容器内の冷却材液面が「液位上昇の場合」及び「液位一定の場合」について、原子炉容器壁面の温度勾配を示す図である。
【図8】従来の原子炉容器構造例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る原子炉容器構造及び原子炉の運転方法について、その一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示す実施形態の原子炉容器10Aは、高速増殖炉等の高速炉に適用されるホットベッセルと呼ばれるものであり、炉壁10aの内部空間に炉心11を収納している。この炉心11は、原子炉容器10A内でスカート部12等の据付部により支持されている。
【0024】
原子炉容器10Aの内部は、炉心11の上端部側に隔壁13を設けて上部プレナム14及び中間プレナム18を形成している。なお、中間プレナム18の下方には、スカート部12によって仕切られた下部プレナム19が形成されている。
上部プレナム14は、液体金属である液体ナトリウムNa等の冷却材が充填されるとともに、液体ナトリウムNaの液面上部にアルゴン等の不活性ガス充填空間Gが形成される空間であり、原子炉容器10A内に設けた有液面構造の空間領域となる。なお、液体ナトリウムNaは、上述した従来構造と同様に、図示を省略したコールドレグ配管から原子炉容器10Aの下部プレナム19に流入し、炉心11を下から上に通過する過程で加熱された後に、上部プレナム14からホットレグ配管を通って冷却系に戻される。
【0025】
原子炉容器10Aの内部には、炉壁10aの内側に取り付けられた内筒20を備えている。この内筒20は、下端部側を炉壁10aに結合して形成された内筒底面21を有している。このように、原子炉容器10Aの内側には、炉壁10aより小径で内筒底面21を有する有底内筒の内筒20が設置されているので、炉壁10aの内側と内筒20の外壁面との間には、冷却材である液体ナトリウムNaを滞留させるための空間である冷却材滞留槽22が形成されている。
【0026】
この内筒20は、上述した有液面空間の上部プレナム14内において、原子炉通常(定常)運転時の冷却材液位L3よりも高い位置まで設けられている。
なお、内筒20の下端部及び内筒底面21は、原子炉トリップ時の熱過渡が厳しい上部プレナム14に隣接することは望ましくないため、隔壁13よりやや下方の中間プレナム18側に設けられている。
【0027】
そして、図示の原子炉容器10Aは、冷却材バウンダリを構成する重要機器であり、冷却材の一例として液体ナトリウムNaが使用されている。この場合、液体ナトリウムNaは、凍結防止のため200℃程度以下の低温とならないようにする必要があり、従って、運転状況に応じて加熱及び保温がなされている。また、原子炉容器10Aの内部は、化学的に活性な冷却材であるナトリウムが空気と触れることを防ぐため、液体ナトリウムNaの上部に、たとえばアルゴン(Ar)等の不活性ガスを充填した不活性ガス充填空間Gを設けた有液面構造となっている。
このような原子炉容器10Aの内部に対し、本実施形態では、内筒20から液体ナトリウムNaのスムーズな流通を可能にする程度の隙間を形成するように離間した内側に、内筒20よりも小径の円筒形状を有する仕切部材25が設けられている。この仕切部材25は、上端部側がルーフデッキ15の下面に固定支持され、下端部が後述する充填完了時の冷却材液位L5(図4参照)より下方まで延在するように設けられている。
【0028】
すなわち、仕切部材25の長さは、後述する一連の原子炉運転状態(通常運転時、通常停止時、充填開始時、充填完了時及び起動準備完了時)において、冷却材液位変化で最も液面が低下する充填完了時に、下端部が必ず液体ナトリウムNaの液面内に入り込むように設定されている。このとき、仕切部材25の下端部は、液体ナトリウムNaの液面内に深く入り込む必要はなく、最も液面が低下する充填完了時においても、上部プレナム14の内部に形成された不活性ガス充填空間Gを内側空間Gi及び外側空間Goに分割できればよい。
【0029】
このような内側空間Gi及び外側空間Goは閉空間であり、従って、両空間の不活性ガス充填圧力を相対的に変化させることにより、両空間に生じる圧力差を利用して冷却材滞留槽22に冷却材(液体金属)の充填が可能になる。すなわち、内側空間Gi及び外側空間Go内の不活性ガス充填圧力を相対的に変化させると、両空間内に生じる圧力差により液体ナトリウムNaの液位が変化するので、この液位変化を利用して冷却材滞留槽22の上端部まで冷却材の液体ナトリウムNaを充填することができる。
【0030】
また、本実施形態では、不活性ガス充填空間Gにアルゴン等の不活性ガスを供給する不活性ガス供給(充填)系30から分岐して、すなわち、内側空間Giに不活性ガスを供給する第1ガス配管31から分岐するようにして、外側空間Goに不活性ガスを供給する第2ガス配管32が追設されている。第1ガス配管31及び第2ガス配管32には、それぞれ単独での不活性ガス供給を可能にするため、第1開閉弁33及び第2開閉弁34が設けられている。
なお、不活性ガス供給系30の適所には、図示省略の不活性ガス昇圧用圧縮機が設けられている。
【0031】
換言すれば、上述した内側空間Gi及び外側空間Goの圧力差は、不活性ガス供給系30に接続されて内側空間Giに不活性ガスを供給するとともに第1開閉弁33を備えた第1ガス配管31と、第1開閉弁33より上流側で第1ガス配管31から分岐して外側空間Goに不活性ガスを供給するとともに第2開閉弁を備えた第2ガス配管32とを設け、第1開閉弁33及び第2開閉弁34の開閉操作により生じさせることができる。
このように、本実施形態の原子炉容器構造は、冷却材滞留槽22を備えた原子炉容器10Aに対して、仕切部材25と、第2ガス配管32と、第1開閉弁33と、第2開閉弁34とを追加したことにより、冷却材の液体金属を冷却材滞留槽22の上端部まで充填可能となる。
【0032】
以下、冷却材滞留槽22に液体ナトリウムNaを充填する手順について、一連の原子炉運転状態(通常運転時、通常停止時、充填開始時、充填完了時及び起動準備完了時)とともに説明する。
図1に示す原子炉の通常運転時には、不活性ガス供給系30から圧力Pに設定された不活性ガスが供給されている。このとき、第1開閉弁33及び第2開閉弁34はいずれも開とされ、従って、内側空間Gi及び外側空間Goの内部は、ともに同圧のPに維持されている。なお、通常運転時における液体ナトリウムNaの液位はL3であり、冷却材滞留槽22には、上端部まで液体ナトリウムNaが満たされている。
【0033】
このような通常運転時の状態は、原子炉運転状態と不活性ガス圧力との関係を示す不活性ガス圧力運用の説明図(図6参照)において、点Aまで継続されている。
なお、図1から図5において、第1開閉弁33及び第2開閉弁34は、全閉状態が黒塗りで表示されている。
【0034】
図2に示す原子炉の通常停止時には、内側空間Gi、外側空間Go及び冷却材滞留槽22の全てにおいて、温度低下に伴って液体ナトリウムNaの液位が低下する。この液位低下とともに、不活性ガス供給系30の圧力は、保守作業のためPからPに低減される。すなわち、図6の不活性ガス圧力運用において、原子炉運転状態は点Aから点Bに変化している。
この場合、第1開閉弁33及び第2開閉弁34はいずれも開であるから、内側空間Gi及び外側空間Goの内部は同圧のPに維持される。また、内部空間Giの冷却材液位はL2まで低下する。
【0035】
図3に示す原子炉の充填開始時では、通常停止時に液面低下した冷却材滞留槽22の上端部まで液体ナトリウムNaを補充する。すなわち、図6に示す不活性ガス圧力運用において、原子炉運転状態は、保守作業等により点Bから点Cまで、液体ナトリウムNaを保温しながら圧力Pを維持する状態を継続した後、冷却材滞留槽22に対する冷却材充填を開始する。このとき、第2ガス配管32の第2開閉弁34を全閉とし、かつ、不活性ガス供給系の圧力をPからPに上昇させる。
【0036】
こうして冷却材充填が開始されると、図6の不活性ガス圧力運用において、不活性ガスの圧力は冷却材充填開始前の点C(図2)から冷却材充填中の領域C′(図3)を経て、冷却材充填完了の点D(図4)に変化する。
この結果、閉空間である内側空間Giと外側空間Goとの間には圧力差が生じ、高圧側(圧力P)の内側空間Giでは液面が冷却材液位L4まで低下し、低圧側(圧力P)の外側空間Goでは液面が上昇する。これは、内側空間Giと外側空間Goとの間が連通しており、液体ナトリウムNaの流通が可能になっているためであり、内側空間Giで液面低下した液体ナトリウムNaの容積分だけ外側空間Goの液面が上昇する。
【0037】
このような液面変化により、外側空間Go内の液体ナトリウムNaは、液面が冷却材滞留槽22の上端部に到達し、さらに冷却材滞留槽22の内部に流入する。この結果、不活性ガス充填系30の圧力調整により、液面低下した冷却材滞留槽22の内部に液体ナトリウムNaを充填することができ、最終的には図4に示す充填完了時の状態となる。なお、活性ガス充填系30の圧力調整には、不活性ガス供給系30にもともと設けられている不活性ガス昇圧用圧縮機を利用すればよい。
【0038】
図4の充填完了時は、図6の不活性ガス圧力運用における点Dとなり、不活性ガス供給系30の圧力がPに維持されている。
従って、内部空間Giの内部圧力はPとなり、全閉の第2開閉弁34により不活性ガス供給系30と遮断されている外部空間Goの内部圧力は、内部空間Gi側から内部圧力Pの影響を受けることにより、PからP′に上昇する。すなわち、図6の不活性ガス圧力運用図においては、圧力変化が内部空間Giと異なる場合について、外部空間Goの圧力変化は図中に一点鎖線で示されている。
【0039】
そして、本実施形態の原子炉容器構造を備えた原子炉の運転方法は、内部空間Giの不活性ガス充填圧力を外部空間Goより高い圧力に設定し、内部空間Giの液面を押し下げるとともに外部空間Goの液面を上昇させて冷却材滞留槽22へ液体ナトリウムNaを充填する起動準備工程を備えている。
このような原子炉の運転方法によれば、内部空間Gi及び外部空間Goに生じる圧力差を利用し、冷却材滞留槽22の上端部まで冷却材の液体ナトリウムNaを確実に充填した状態で原子炉の運転開始が可能になる。この結果、原子炉の起動時においては、温度上昇により膨張した液体ナトリウムNaが冷却材滞留槽22から液面の低い上部プレナム14内に溢流することによって、原子炉容器10Aの炉壁10aと接する冷却材の液面高さが冷却材滞留槽22の上端と一致した一定位置に保たれる。
【0040】
こうして冷却材の充填が完了すると、図6の不活性ガス圧力運用における点Dから点Eまで充填完了時の状態が維持される。この後、上述した充填完了時の状態から第2開閉弁34を全開とすると内側空間Gi及び外側空間Goがともに圧力Pとなり、さらに不活性ガス供給系30の圧力をPに上昇させると、図6に点Fで示す起動準備完了時の状態となる。
このとき、液体ナトリウムNaは保温されているため温度変化はなく、冷却材滞留槽22の内部には上端まで液体ナトリウムNaが充填されている。また、冷却材滞留槽22の内部を除く上部プレナム14内の冷却材液位L6は、図4に示す充填完了時の冷却材液位L5よりやや上昇する。
【0041】
このような本実施形態の原子炉容器構造によれば、有底の内筒20から離間した内側に下端部を充填完了時の冷却材液面内まで延在させた仕切部材25を設けることにより、有液面空間となる不活性ガス充填空間Gの内部を内側空間Gi及び外側空間Goに分割し、冷却材となる液体金属の液体ナトリウムNaを冷却材滞留槽22に充填する際には、内側空間Gi及び外側空間Goの不活性ガス充填圧力を相対的に変化させて生じる圧力差を利用した充填が可能となる。
このため、原子炉の起動準備として、原子炉容器10A内の冷却材滞留槽22に液体ナトリウムNaを容易かつ安全に充填できるようになる。すなわち、液体金属が空気と接触しないよう十分な配慮を必要とする液体ナトリウムNaの液体金属供給配管を新たに増設する必要はなく、仕切部材25の増設と不活性ガス供給系30の簡単な改造とを実施するだけで、特に原子炉の起動時に問題となる炉壁10aの熱応力対策が実現する。
【0042】
この熱応力対策について具体的に説明すると、図5に示す起動準備完了時のように、原子炉の起動前に冷却材滞留槽22の上端まで液体ナトリウムNaを充填しておくと、起動時の温度上昇により膨張した液体ナトリウムNaが冷却材滞留槽22から液面の低い上部プレナム14内に溢流する。従って、原子炉の起動時には、原子炉容器10Aの壁面と接する液体ナトリウムNaの液面高さが冷却材滞留槽22の上端と一致し、通常運転まで変動することなく一定に保たれる。
【0043】
ところで、上述した原子炉容器10Aは、内側空間Gi内及び外側空間Go内の液位を検出する液位検出部(不図示)を備えていることが望ましい。すなわち、内部空間G内で変化する液体ナトリウムNaの液位を検出するため、たとえば仕切部材25や内筒20の壁面に液面センサを設置して不活性ガス供給系30の圧力調整に利用すればよい。
具体的に説明すると、内部空間G内で変化する液体ナトリウムNaの液位を段階的または連続的に検出し、上述した原子炉運転状態に対応する所定の液位まで液面変化したことを確認すれば、不活性ガス昇圧用圧縮機の運転制御を確実に行うことができる。すなわち、内側空間G内の正確な液面管理が可能になるので、冷却材滞留槽22に対して冷却材の液体ナトリウムNaを確実に充填することができる。
【0044】
このようにして、原子炉起動時に炉壁10aと接する液体ナトリウムNaの液位を一定に保つことができると、図7に示す「液位一定の場合」のように、液体ナトリウムNaの液面近傍において軸方向に生じていた大きな温度勾配を低減でき、この結果、液面近傍部の熱応力も小さくなる。
このため、原子炉の供用期間中に起動・停止を繰り返しても、原子炉容器10Aに対して繰り返し発生する熱応力を低減できるので、起動のたびに原子炉容器10Aの径が縮む変形(液面ラチェット)やクリープ疲労による破損の問題を低減または解消することができる。
また、冷却材滞留槽22を設けることにより、上述した起動時のみならず、液体ナトリウムNaの体積が収縮する通常停止時や緊急停止時においても、炉壁10aと接する液体ナトリウムNaの液面の下がり幅を小さくすることができ、液面近傍部の熱応力か小さくなるなど、熱応力に起因する懸念を軽減することができる。
【0045】
また、上述した実施形態は、図8に示した従来例に対する追加設備として、内筒底面21を有する内筒20及び仕切部材25の追設と、上部プレナム14に不活性ガスを供給する不活性ガス充填系30の改造のみである。すなわち、原子炉容器10A内は単純な構造の円筒20及び仕切部材25を追加するだけでよく、しかも、不活性ガス充填系30の改造も単純な構成で大がかりなものではないから、比較的低コストで容易に実施することが可能である。
【0046】
上述した本実施形態の原子炉容器構造によれば、原子炉の起動時において、原子炉容器10Aの炉壁10aと接する液体ナトリウムNaの液面高さは、常に冷却材滞留槽22の上端と一致する一定位置に保たれる。この結果、原子炉容器10Aの壁面においては、軸方向の温度勾配が緩和されて発生する熱応力も小さくなるので、原子炉容器の信頼性や運用性がより一層向上するという顕著な効果を得られる。
【0047】
また、上述した本実施形態は、有底内筒に仕切部材を追加する容器構造の変更と、不活性ガス供給系の簡単な改造により実施できるため、追加設備を最小限に抑え、しかも、高い耐熱成立性を有している。特に、空気との接触防止対策が必要となるナトリウムのような液体金属(冷却材)配管を増設する必要がないため、プラントの信頼性や耐久性の向上に大きな効果を奏する。
【0048】
また、内側空間Gi及び外側空間Goの不活性ガス充填圧力を相対的に変化させて生じる圧力差を利用して冷却材滞留槽22に冷却材の液体金属を充填する場合、圧力差の形成が内側空間Gi側の昇圧に限定されることはなく、たとえば外側空間Go側の圧力を低下させるように逆の圧力調整を行ってもよい。
【0049】
また、上述した本実施形態は、たとえば特許文献3〜5に記載されているような貯留バケット内に冷却材を充填する場合にも適用可能である。
なお、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、たとえば冷却材や不活性ガスの種類、冷却材充填系の構成や充填・回収手順など、その要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0050】
10A 原子炉容器
10a 炉壁
11 炉心
12 スカート部
13 隔壁
14 上部プレナム
15 ルーフデッキ
20 内筒
21 内筒底面
22 冷却材滞留槽
25 仕切部材
30 不活性ガス充填系
31 第1ガス配管
32 第2ガス配管
33 第1開閉弁
34 第2開閉弁
G 不活性ガス充填空間
Gi 内部空間
Go 外部空間


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉心を収納した原子炉容器内に、液体金属の冷却材を充填した液面上部に不活性ガス充填空間が形成されている有液面空間を設け、該有液面空間の容器壁面内側に、原子炉定常運転時の冷却材液面より高い位置まで有底内筒を設置して前記容器壁面と前記有底内筒との間に形成された冷却材滞留槽を備えている原子炉容器構造であって、
前記有底内筒から離間した内側に下端部を充填完了時の液面内まで延在させた仕切部材を設けて前記有液面空間の内部を内側空間及び外側空間に分割し、
前記液体金属が、前記内側空間及び前記外側空間の不活性ガス充填圧力を相対的に変化させて生じる圧力差を利用して前記冷却材滞留槽に充填されることを特徴とする原子炉容器構造。
【請求項2】
前記圧力差は、不活性ガス供給系に接続されて前記内側空間に不活性ガスを供給するとともに第1開閉弁を備えた第1ガス配管と、前記第1開閉弁より上流側で前記第1ガス配管から分岐して前記外側空間に不活性ガスを供給するとともに第2開閉弁を備えた第2ガス配管とを設け、前記第1開閉弁及び前記第2開閉弁の開閉操作により生じさせることを特徴とする請求項1に記載の原子炉容器構造。
【請求項3】
前記内側空間内の液位を検出する液位検出部を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の原子炉容器構造。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の原子炉容器構造を備えている原子炉の運転方法であって、
前記内部空間の不活性ガス充填圧力を前記外部空間より高い圧力に設定し、前記内部空間の液面を押し下げるとともに前記外部空間の液面を上昇させて前記冷却材滞留槽へ前記液体金属を充填する起動準備工程を備えていることを特徴とする原子炉の運転方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−215475(P2012−215475A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81254(P2011−81254)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)