説明

原子炉格納容器除熱装置及び除熱方法

【課題】ポンプなどの動的機器および格納容器外の冷却水タンク等を用いずに、事故時の原子炉格納容器内の雰囲気を長期的に除熱する。
【解決手段】原子炉格納容器1の外部に設けられた少なくとも一つのダクト5と、前記ダクト5の内部に配置された熱交換機3bと、前記格納容器1の内部に配置された少なくとも一つの熱交換機3aと、前記ダクト5内及び格納容器1内に配置された熱交換機3a、3bを接続するヒートパイプ4とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所の原子炉格納容器除熱装置及び除熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所において、原子炉圧力容器に接続している主蒸気配管等が破断した場合、原子炉格納容器内に高温・高圧の原子炉一次冷却材が放出される原子炉冷却材損失事故(以下、「LOCA」という。)が起こる可能性がある。また、LOCAが起きた際、冷却材が喪失することで原子炉水位が低下し、炉心が露出して冷却が不十分になり炉心融解の可能性がある過酷事故(SA)が起こる可能性がある。
【0003】
例えば、沸騰水型原子力発電所でLOCAが発生した場合、原子炉格納容器内のドライウェルに高温及び高圧の原子炉一次冷却材が放出されると、ドライウェル内の温度及び圧力が急激に上昇する。LOCA時に放射性物質を原子炉格納容器外への放出を防ぐため、原子力発電所は、原子炉格納容器の設計温度及び設計圧力にいたる以前にドライウェル内に放出された高温高圧の冷却材を、ベント管を通じてサプレッションチェンバ内に放出し、サプレッションチェンバ内にあるプール水に吸収することで原子炉格納容器内の温度及び圧力を低減させる構造となっている。
【0004】
また、冷却材配管破断によって冷却材が原子炉圧力容器に戻らず喪失すると、原子炉水位が低下し、炉心が露出して冷却が不十分になる可能性があるが、非常用炉心冷却系としてサプレッションプール水を水源とした非常用炉心冷却装置(以下、「ECCS」という。)等が備えられており、ECCSが作動することで、原子炉圧力容器内に冷却水が注入され炉心を冠水することで炉心溶融を防ぐ。
【0005】
一方、何らかの理由によりECCSが起動せず、注水に失敗した場合でも、中央制御室作業員の手動操作で原子炉格納容器内にスプレイを行う残留熱除去系(RHR)の注水設備を用いて、原子炉圧力容器冷却時に発生した水蒸気をスプレイによって凝縮することで原子炉格納容器内の温度及び圧力を低減させる構造となっている。
【0006】
また、万一、原子炉圧力容器の温度上昇に伴い、過酷事故が発生し、原子炉圧力容器が破損した場合、炉心溶融物はドライウェル下部に落下し、原子炉圧力容器から外に出てプール水と直接接触すると、大量の水蒸気が発生する。水素の発生に伴い圧力上昇や水蒸気爆発が起こる可能性があるが、除熱設備により原子炉格納容器の除熱をおこなうことにより圧力上昇及び水蒸気爆発等を防止している。
【0007】
このように、LOCAや過酷事故が起きた場合、ECCSが作動することで炉心は冷却されるが、炉心溶融物へ直接注水を行うことで水と炉心溶融物との反応により水蒸気が放射線分解され、水素ガスと酸素ガスが発生する。さらに、燃料被覆管の温度が上昇すると、冷却時に発生した水蒸気と燃料被覆管材料のジルコニウムとの間で反応が起こり、水素ガスが発生する。こうして発生した水素ガスが破断した配管の破断口等から原子炉格納容器内に放出され、水素ガス濃度は次第に上昇する。水素ガスは非凝縮性であるから、原子炉格納容器内の圧力が上昇する。このような圧力上昇を抑制するために、原子炉格納容器内に発生した水素の除去又は、原子炉格納容器内の除熱を行い、水素分圧を低減させる必要がある。そのため、原子炉格納容器内の水素ガスを除去する手段として、アンモニア合成手段等を用いて水素と窒素をアンモニアに合成して水素を除去する手段が提案されている(特許文献1)。
【0008】
また、原子炉内部の水位が低下することで炉心溶融等の過酷事故が起きた場合の対策として、原子炉格納容器の上部に冷却水タンクを設置し、タンク内にある水源を動力に頼ることなく重力により原子炉格納容器内に散布する静的な冷却手段、及び原子炉格納容器内に放出される水蒸気を熱交換器により除熱し、凝縮させることにより圧力を抑制させる手段が提案されている(特許文献2、3)。
【0009】
また、通常運転時にドライウェル雰囲気を規定の温度に冷却する設備として、ドライウェル内に冷却コイルを有するドライウェル冷却ユニットを複数台設置し、送風機によってドライウェル雰囲気を循環させ、冷却コイルによって冷却された冷却空気をダクトを介してドライウェル内の各所に送風し除熱をおこなっている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−322768号公報
【特許文献2】特開平7−128482号公報
【特許文献3】特許第3666836号公報
【特許文献4】特許第4180783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した従来の除熱手段において、例えば格納容器上部の冷却水タンクによる冷却設備は最大3日間の稼働期間(グレースピリオド)を想定した設計であるため、長期的な除熱は考慮されておらず、また、長期的に除熱をおこなうためには、冷却水を確保するために極めて大型の冷却タンクが必要となるが、原子力発電所の耐震性、配置設計、及びコスト等の面で大きな制約を与えるという課題があった。
【0012】
また、ECCS、残留熱除去系、等は動的機器のため、定期的に機能試験及び保守点検作業をおこなう必要があるとともに、事故時にECCS、残留熱除去系が作動し、動力や水源等を使い果たした場合、その後の除熱を行うことができないという課題があった。また、ドライウェル冷却ユニットは伝熱管の冷却能力の向上、冷却材の圧力損失の低減が課題となっている。
【0013】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、LOCA時又は過酷事故時に冷却水タンクや動的機器を用いないで原子炉格納容器内の雰囲気を長期的に除熱することができる静的な原子炉格納容器除熱装置及び除熱方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明の原子炉格納容器除熱装置は、原子炉格納容器の外部に設けられた少なくとも一つのダクトと、前記ダクトの内部に配置された熱交換機と、前記格納容器の内部に配置された少なくとも一つの熱交換機と、前記ダクト内及び格納容器内に配置された熱交換機を接続するヒートパイプとを備えたことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の原子炉格納容器除熱装置は、原子炉格納容器の外部に設けられた少なくとも一つのダクトと、前記ダクトの内部に配置された熱交換機と、前記格納容器の内部に配置された冷却コイルを有する少なくとも一つのドライウェル冷却ユニットと、前記ダクト内の熱交換機と前記冷却コイルを接続するヒートパイプとを備えたことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の原子炉格納容器除熱方法は、本発明に係る原子炉格納容器除熱装置を用いて原子炉格納容器内の雰囲気を冷却することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、LOCA時又は過酷事故時に冷却水タンクや動的な機器を用いずに原子炉格納容器内の雰囲気を長期的に除熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1の実施形態に係る原子炉格納容器除熱装置の全体構成図。
【図2】第1の実施形態に係る原子炉格納容器除熱装置の変形例。
【図3】第1の実施形態に係る原子炉熱交換機の伝熱管の構成図。
【図4】第2の実施形態に係る原子炉格納容器除熱装置の全体構成図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る原子炉格納容器除熱装置及び除熱方法の実施形態を、図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態を、図1乃至図3を用いて説明する。
【0020】
本第1の実施形態の原子炉格納容器除熱装置は、図1に示すように、原子炉圧力容器2を格納する原子炉格納容器1と、原子炉格納容器1内に設置された熱交換器3aと、原子炉格納容器1の外部に設置されたダクト5と、ダクト5内に設置された熱交換器3bと、熱交換器3a、3bを接続するヒートパイプ4と、から構成される。
【0021】
ヒートパイプ4に封入する流体としては、ヒートパイプ4内の自然循環促進のため、沸点が事故時の格納容器内の温度に近い流体が望ましく、例えば水が好適である。また、図3に示すように熱交換器3a、3b内の伝熱管10にフィン6を設けてもよく、これにより伝熱性能を向上させることができる。
【0022】
このように構成された格納容器除熱装置において、原子炉格納容器1外に設置されたダクト5内の空気が熱交換器3bによって加熱されて上向きの流れが生じる。この上向きの流れにより、熱交換器3bにおける熱伝達が促進されるとともに、ヒートパイプ6の熱交換機能によって格納容器内の熱交換機3aは格納容器1内の雰囲気の除熱をおこなう。
【0023】
例えば、熱出力が480MWクラスの原子炉の場合、過酷事故後1日後の崩壊熱はおよそ29MWである。この条件において、直径6mの排気ダクト5を3本設置し、排気ダクト5内の上昇流の流速を5m/s、排気ダクト5の入口の空気温度を30℃、ヒートパイプ6の高温側の温度を153℃と仮定し、一般的な熱伝達特性式を用いてヒートパイプ低温側の温度が100℃以下となる格納容器外側の熱交換器3bの伝熱面積を算出すると、28000mとなる。また、格納容器内部の熱交換器3aの伝熱面積は、3000mとなる。この計算例では、図2に示すように、3本のダクトが格納容器1の外部に配置され、3基の熱交換機3a及び3bが各ダクト5内と格納容器1内にそれぞれ配置される。
なお、ダクトの数、寸法及び熱交換機の基数は、上記実施形態に限定されず、各種条件によって適宜変更可能であることはもちろんである。
【0024】
本第1の実施形態によれば、冷却水タンクや動的機器を用いることなく、ヒートパイプ内の自然循環及びダクト内の自然通風による熱交換機能により、LOCA時又は過酷事故時に原子炉格納容器内の雰囲気を長期的に除熱することができる。
【0025】
(第2の実施形態)
第2の実施形態を図4を用いて説明する。なお、第1の実施形態と同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0026】
本第2の実施形態は、図1における原子炉格納容器1内の熱交換器3aの代わりに原子炉の通常運転時に原子炉格納容器内を冷却するために配置されている既設のドライウェル冷却ユニット7の冷却コイル(図示せず)を用いる。ダクト5内の熱交換機3bは、ヒートパイプ4によってドライウェル冷却ユニット7の冷却水循環系統8に接続される。
【0027】
このように、既設のドライウェル冷却ユニット7の冷却コイルを用いることで、低コストで原子炉格納容器内の雰囲気を除熱することが可能となる。
なお、原子力発電所の通常運転時はダクト5の熱交換器3bに接続されるヒートパイプ4を開閉弁9で閉止することにより、通常時のドライウェル冷却ユニット7の冷却機能を損なわず、事故時の格納容器の除熱が可能となる。
【0028】
本第2の実施形態によれば、既設のドライウェル冷却ユニットを用いることにより、簡便な設備でLOCA時又は過酷事故時に原子炉格納容器内の雰囲気を長期的に除熱することができる。
【符号の説明】
【0029】
1…原子炉格納容器、2…原子炉圧力容器、3a、3b…熱交換機、4…ヒートパイプ、5…ダクト、6…フィン、7…ドライウェル冷却ユニット、8…冷却水循環系統、9…開閉弁、10…伝熱管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉格納容器の外部に設けられた少なくとも一つのダクトと、前記ダクトの内部に配置された熱交換機と、前記格納容器の内部に配置された少なくとも一つの熱交換機と、前記ダクト内及び格納容器内に配置された熱交換機を接続するヒートパイプとを備えたことを特徴とする原子炉格納容器除熱装置。
【請求項2】
原子炉格納容器の外部に設けられた少なくとも一つのダクトと、前記ダクトの内部に配置された熱交換機と、前記格納容器の内部に配置された冷却コイルを有する少なくとも一つのドライウェル冷却ユニットと、前記ダクト内の熱交換機と前記冷却コイルを接続するヒートパイプとを備えたことを特徴とする原子炉格納容器除熱装置。
【請求項3】
前記ヒートパイプに開閉弁を設けたことを特徴とする請求2記載の原子炉格納容器除熱装置。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれかに記載の原子炉格納容器除熱装置を用いて原子炉格納容器内の雰囲気を冷却することを特徴とする原子炉格納容器除熱方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−252837(P2011−252837A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127982(P2010−127982)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】