説明

原紙の風合いを維持した塗工シート

【課題】本発明の目的は、塗工層に用いる顔料の種類を制御することにより、従来にない風合いと印刷面感を両立することのできる塗工シートに関するものである。
【解決手段】原紙の少なくとも片面に1層以上の塗工層を設けた塗工シートにおいて、ガラス転移温度が35〜80℃である密実有機顔料を全顔料の80質量%以上含有する塗工液を、片面当たり固形分塗工量で3〜10g/m2となるように塗工したことを特徴とする原紙の風合いを維持した塗工シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は原紙の風合いを維持した塗工シートに関するものであり、さらに詳しくは、塗工層に用いる顔料の種類を制御することにより、従来にない風合いと印刷面感を両立することのできる塗工シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
印刷用紙は、人の目を引き付けることが商品としての重要な要素となる。この人の目を引き付ける手段として、用紙の色・白紙光沢などの白紙物性、印刷光沢・印刷ムラなどの印刷適性、紙の風合いなどの原紙構造などが挙げられる。ここで、紙の風合いとは、紙表面の微妙な凹凸やパルプ繊維が与える自然な感覚をいう。一般に、この風合いと印刷適性とは相反する物性であり、紙の風合いがある用紙では表面の微妙な凹凸によりインキの付着量が変化し、ムラの多い印刷物になる。ただし、様々な工夫をこらすことによって、表面の凹凸に起因する紙本来の風合いを有しながら、高い印刷適性を有する印刷用紙が開発されてきている。
【0003】
工夫としては、粗さを規定した原紙に塗工層を設ける方法(例えば、特許文献1)、その塗工層に有機顔料を活用する方法(例えば、特許文献2)、塗工層は一般塗工紙と同じ顔料を使用する方法など様々な方法が考えられる。これらの印刷用紙に求められるのは、風合い、印刷適性以外に、他にない特徴があることが重要である。
【特許文献1】特開平11−12986号公報
【特許文献2】特許第2578069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、塗工層に用いる顔料の種類を制御することにより、従来にない風合いと印刷面感を両立することのできる塗工シートに関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の問題を解決すべく鋭意研究した結果、以下の塗工シートを発明するに至った。
【0006】
すなわち、原紙の少なくとも片面に1層以上の塗工層を設けた塗工シートにおいて、ガラス転移温度が35〜80℃である密実有機顔料を全顔料中80質量%以上含有する塗工液を、片面当たり固形分塗工量で3〜10g/m2となるように塗工したことを特徴とする原紙の風合いを維持した塗工シートである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の塗工シートは、塗工層に用いる顔料の種類を制御することにより、従来にない風合いと印刷面感の両立を果たすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の塗工シートについて、詳細に説明する。
【0009】
ガラス転移温度は、ラテックス、および、有機顔料の物性に深くかかわる物性の一つである。特に、有機顔料に着目した場合、同じ粒径であれば、ガラス転移温度が低いほど白紙光沢向上の効果がある一方で、接着強度の低下や、ロール汚れなどの操業性悪化が起こりやすくなる。
【0010】
原紙の風合いを維持した塗工シートに着目した場合、塗工量を少なくするほど原紙の風合いが維持されやすい。ただし、印刷適性は塗工量を少なくするほど悪化することから、塗工量のバランスが必要である。有機顔料を使用すると、無機顔料に比べ少量の塗工量で必要な印刷適性を得ることができる。これは、無機顔料の密度が2.0g/cm3以上であるのに対し、有機顔料の密度が1.0g/cm3以下であるように、顔料自体の嵩の影響、また有機顔料の不透明度が、無機顔料に比べ高いことなどが要因として考えられる。また、無機顔料に比べればインク受理性が良好である。
【0011】
有機顔料にも様々な種類があり、例えば、形状に関しては粒子内部に空隙のある中空顔料、空隙のない密実顔料などが挙げられる。また、素材に関しては、例えばポリスチレンを主要材料とする有機顔料は、成分比を変えることでラテックスから有機顔料の中間の性能を持たせたバインダーピグメントなどもあり、またこのバインダーピグメントに関しても成分比を変えることで様々なガラス転移温度の有機顔料を作ることができる。
【0012】
以上を踏まえ、原紙の風合いをなるべく損なわずに、印刷光沢を強くする方法として、本発明に至った。
【0013】
本発明に用いる密実有機顔料は、ガラス転移温度が35〜80℃の密実顔料である。ガラス転移温度が35℃より低いと、操業的にもロール汚れが多くなる。一方、ガラス転移温度が80℃より高いと、白紙光沢向上効果が大きくなりすぎるため、いわゆる白紙光沢ムラが発生しやすくなる。また、印刷適性も悪化する。
【0014】
本発明に用いる密実有機顔料の配合比率は、全顔料中80質量%以上が好ましい。80質量%より少ないと、印刷適性が悪化する傾向がある。
【0015】
この様な設計で作られた塗工液を原紙に塗布する場合、固形分塗工量は3g/m2以上が好ましい。塗工量は、原紙の風合いを損なわないためにも少ないほど良いが、原紙の風合いの程度により、ある程度の塗工量がないとインキ受理性が良くならない。固形分塗工量は3〜7g/m2の範囲が製造効率、経済性、品質のバランスに優れ好ましい。
【0016】
本発明に用いることのできる密実有機顔料には、密実有機顔料、プラスチックピグメント、バインダーピグメントなどがある。具体的な商品を例示するなら、旭化成社のL−8900、日本ゼオン社のV1004、中央理化工業社のAP−P0370、積水化成品工業社のMBXシリーズ、BMXシリーズ、SBXシリーズ、などが挙げられる。もちろん上記条件を満たしていればこれらに限定される物ではない。
【0017】
本発明に用いられる塗工シートの原紙としては、木材パルプ、綿、麻、竹、サトウキビ、トウモロコシ、ケナフなどの植物繊維、羊毛、絹などの動物繊維、レーヨン、キュプラ、リヨセルなどのセルロース再生繊維、アセテートなどの半合成繊維、ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリウレタン系繊維などの化学繊維、ガラス繊維、金属繊維、炭素繊維などの無機繊維をシート状にしたもの、またはその上に樹脂フィルム層を設けたものが使用される。
【0018】
原紙の製法としては、一般的な抄紙工程、湿式法、乾式法、ケミカルボンド、サーマルボンド、スパンボンド、スパンレース、ウォータージェット、メルトブロー、ニードルパンチ、ステッチブロー、フラッシュ紡糸、トウ開維などの各工程から一つ以上が適宜選ばれる。
【0019】
また、これらの繊維には、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン、二酸化チタン、水酸化アルミなどの各種填料、バインダー、サイズ剤、定着剤、歩留り剤、紙力増強剤などの各種配合剤を各工程、各素材に合わせて好適に配合する。さらには、これらの繊維シートの上に樹脂コート層、塗工層を設ける場合もある。
【0020】
原紙としては、上質紙、中質紙、色上質、書籍用紙、キャスト用紙、微塗工紙、軽量コート紙、コート紙、アート紙、中質コート紙、グラビア用紙、インディア紙、コートアイボリー、ノーコートアイボリー、アートポスト、コートポスト、ノーコートカード、特板、コートボール、トレーシングペーパー、タイプ紙、PPC用紙、NIP用紙、連続伝票用紙、フォーム用紙、複写紙、ノーカーボン紙、感熱紙、インクジェット用紙、熱転写用紙、合成紙、などの紙や板紙、不織布、または各種樹脂やプラスチック、金属をフィルム状に成形したものも含まれる。
【0021】
塗工する前の原紙は、必要とする密度、平滑度、透気度を得るために各種表面処理やカレンダー処理を施す場合がある。
【0022】
本発明において、密実有機顔料の他に用いることのできる顔料は、特に限定されるものではなく、例えば、各種カオリン、タルク、重質炭酸カルシウム(粉砕炭酸カルシウム)などの精製した天然鉱物顔料、軽質炭酸カルシウム(合成炭酸カルシウム)、炭酸カルシウムと他の親水性有機化合物との複合合成顔料、サチンホワイト、リトポン、酸化チタン、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、炭酸マグネシウム、焼成カオリン、中空有機顔料などが挙げられる。
【0023】
塗工層に用いられる接着剤としては、スチレン−ブタジエン系共重合体ラテックスが必要である。ただし、操業性、および、品質調整のために、それ以外のバインダーを使用することは特に限定されない。
【0024】
また、塗工液に用いられる増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ソーダ、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カゼインなどの水溶性高分子、ポリアクリル酸塩、スチレン−マレイン酸無水共重合体などの合成重合体、珪酸塩などの無機重合体などが挙げられる。
【0025】
また、必要に応じて、分散剤、消泡剤、耐水化剤、着色剤などの通常使用されている各種助剤、およびこれらの各種助剤をカチオン化したものが好適に用いられる。
【0026】
本発明において、塗工層を塗工する方法は、特に限定されるものではなく、サイズプレス、ゲートロール、シムサイザーなどの各種フィルムトランスファーコーター、エアーナイフコーター、ロッドコーター、ブレードコーター、ダイレクトファウンテンコーター、スプレーコーター、キャストコーターなどの各方式を適宜使用する。ただし、原紙の風合いを損なわないためには、輪郭塗工が好ましい。
【0027】
さらに、一連の操業で、塗工、乾燥された塗工シートは要求される、密度、平滑度、透気度、外観を得るために、必要に応じてカレンダー処理などの各種仕上げ処理が施される。ただし、原紙の風合いを損なわないためには、カレンダー処理を実施しない方が好ましい。
【実施例】
【0028】
以下に、本発明の実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、実施例において示す「部」および「%」は、特に明示しない限り、質量部および質量%を示す。
【0029】
(実施例1)〜(実施例4)及び(比較例1)〜(比較例4)
下記の内容に従って、実施例1〜4および比較例1〜4の塗工シートを作製した。
【0030】
<原紙>
LBKP(濾水度400mlcsf) 70部
NBKP(濾水度480mlcsf) 30部
軽質炭酸カルシウム(原紙中灰分で表示) 8部
市販カチオン化澱粉 1.0部
市販カチオン系ポリアクリルアミド歩留まり向上剤 0.03部
パルプ、内添薬品を上記の配合で調製し、坪量80.6g/m2で原紙を抄造した。
【0031】
この原紙の風合いを出すため、サイズプレスなし、マシンカレンダーなしとした。
【0032】
<塗工液>
塗工液の顔料については、表1に記載の内容の顔料を表2の通りに配合した。なお、表1中の1は旭化成社の「L8805」、2は日本ゼオン社の「V1004」、3は旭化成社の「L8900」、4は白石カルシウム社の「カオグロス」である。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
顔料以外の配合は以下の通りである。以下の部数は顔料100部に対する部数である。
市販ラテックスバインダー 15.0部
市販リン酸エステル化澱粉 5.0部
市販ステアリン酸カルシウム 0.6部
市販カルボキシメチルセルロース系増粘剤(CMC) 0.1部
水酸化ナトリウムにてpH9.6に調整
【0036】
上記の塗工液を30%に薄めた濃度で、操業速度300m/minでエアナイフコーターを用いて両面とも同様の条件で塗工した。塗工量は片面塗工量で表3に記載の量を塗工した。なお、調液には各材料を市販の姿のまま用いた。また市販リン酸エステル化澱粉は30%になるようにクッキングした。
【0037】
【表3】

【0038】
上記実施例1〜4および比較例1〜4により得られた塗工シートについて、印刷適性、および、白紙光沢を、下記の測定方法により評価した結果を表4に掲げる。
【0039】
1.印刷ムラ
オフセット輪転印刷機(三菱重工(株)製、リソピアBT−2−600型)を用い、オフセット輪転用印刷インキ(大日本インキ(株)製、ウェブワールドテラスNの、黒、藍、紅、黄の各色)を使用し、ベタ印刷部分を目視評価した。
◎(非常に良好):10点
○(良好) :7〜9点
△(不良) :4〜6点
×(非常に不良 :3点以下
【0040】
2.白紙光沢
JISP8142による塗工層の75度鏡面光沢度を測定した。ガラス転移温度が35〜80℃である密実有機顔料を全顔料中80%以上配合した場合、白紙光沢20以上で白紙光沢ムラとなる。白紙光沢20より小さければ実用上問題はない。
【0041】
【表4】

【0042】
<評価結果>
比較例2のように塗工量が多すぎると白紙光沢ムラとなり、比較例1のように少なすぎると印刷ムラとなる。比較例3のように、ガラス転移温度が35〜80℃である密実有機顔料が全顔料中80%未満であると、白紙光沢は低く、印刷光沢もムラ傾向となる。ガラス転移温度が100℃の密実有機顔料では、白紙光沢が上がりすぎ白紙光沢ムラとなる。したがって、実施例1〜4のように、ガラス転移温度が35〜80℃の密実有機顔料を、全顔料中80%以上、塗工量は3〜10g/m2が好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
印刷領域における印刷用塗工シートに適用できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原紙の少なくとも片面に1層以上の塗工層を設けた塗工シートにおいて、ガラス転移温度が35〜80℃である密実有機顔料を全顔料の80質量%以上含有する塗工液を、片面当たり固形分塗工量で3〜10g/m2となるように塗工したことを特徴とする原紙の風合いを維持した塗工シート。

【公開番号】特開2008−208474(P2008−208474A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−44064(P2007−44064)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】