説明

双方向性胎児信号装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は妊婦の腹壁上から胎児信号を獲得し、また必要に応じて該信号から胎児の生理状態に関する情報を抽出し、同時に必要に応じて胎児に有効な音響的な刺激を与える装置に関し、特に妊婦の自律的使用に適した、また腹壁上に装着するに適した構造と機能を有する該装置に関する。
【0002】
【従来の技術】胎児監視およびその装置技術は既に良く普及している。最近は在宅妊婦の自己管理のために適した構成を有する装置も提案、使用されている。また院内での使用に関しても妊婦の自己管理的使用に関しても、母体の拘束を可及的に避けるために、母体腹壁上の胎児信号採取装置から必要な信号ないし情報を無線伝送する事が広く行われている。この様な無拘束監視によって初めて母体の日常の生活状態での胎児監視が行われ得、胎児仮死ないしその前段階が、また突発事故による胎児の生理状態の急変が、有効に発見され得る。
【0003】一方、胎児監視装置を利用した胎児診断においては、いわゆるノンストレステスト(non−stress test,NST)と言われる検査手法が有効に利用されている。これにおいては母体はただ静かに座位もしくは臥位をとり、一定時間(例えば20ないし60分程度)の胎児心拍数図が獲得される。医師はこの胎児心拍数図からその基線レベル、心拍数変動の状況などを知り、胎児の生理状態を察知する。すなわち基線レベルが胎齢に応じて適切で、かつ心拍数の微細な変動(variability)や一過性加速(acceleration)が一定のパターンに従って見られる場合、即ち反応性がある場合(reactive pattern)において該胎児の生理状態は良好であると推定される。医療の現場においてはこれらの手続きはすでにかなりの程度ルーチン化されている。
【0004】しかし心拍数細変動や一過性加速が適切なレベルにおいて見られない時にはこれを状態が良好な胎児が眠っている状態(resting phase)と解釈するか、または状態が悪く胎児仮死ないしそれに近い状況のため反応性を失っている状態(nonreactive pattern)であると解釈するかは判断が分れる場合がある。その様な場合においてはいわゆる覚醒テストないし音響刺激テスト(Acoustic stimmulation test,AST)と言われるテストがノンストレステストの一環として追加的に行われる。これにおいては母体腹壁上から眠っている胎児を覚醒させるに足りる音圧の可聴音を送入し、胎児心拍数の変動状況を観察する。このような音響刺激に呼応して胎児心拍数の変動パターンが休眠相(resting phase)から覚醒相(activephase)へ移行する場合、該胎児の状況は良好であると推定される。
【0005】この覚醒テストのための音響刺激装置も装置技術としてはほぼ確定した物であり、典型的な一例として手持ち式の電池動作の音響信号発生器が母体腹壁に圧接されるべき音響放射面を有し、その中には簡素なブザーないしビーパーが搭載され、押しボタンスイッチによりこれが鳴る様に出来ている。一例として、周波数75Hz、放射面直下の水中音圧74dBの音を3秒間放射する物が知られている。しかしこの様な刺激音は成人が聞いても決して快い物ではなく、むしろ不快な印象が先行する。覚醍テストの趣旨目的には適っていようが、多分これは胎児にも不快であろうとの予想に難くない。
【0006】一方、妊婦の自己管理に任せられた胎児監視装置のフィールドテストにおいて判明した様々な事実の中に、妊婦は自らの胎児心拍信号を、具体的には胎児心音ないしは超音波ドプラ胎児心拍信号を、自ら聞いて安心材料にする傾向が顕著に見られる事が含まれる。しかし妊婦が自分の胎児の信号を聞いて安心するという情緒的な現象は実地医家には経験的に古くから知られていた事でもある。この様な効果をねらって妊婦に個人用の聴診器ないしドプラ胎児心拍検出器を持たせる試みも成功裡に行われている。また胎児監視用の胎児信号採取テレメーター発信器の場合も、それを装着する妊婦が採取されつつある胎児信号を同時に聴取出来る様に、妊婦本人用のイヤホンが接続出来る様に構成された例もある。
【0007】また逆に子宮内の胎児の音響的な環境(acoustic landscape)は母体の心音ないし心拍振動に由来する低周波の周期的な音を主成分とし、出生後の新生児もこの様な音を聞くと安心して良く眠るなどという事実も知られており、類似の周期的な人工音を新生児の枕元で発生して安眠手段にする事もかなり広く実施されている。また母体の発声は子宮内の胎児には周波数的に高域カットされた状態ではあるが母体の体組織を経由して比較的良く聞こえる事が実測データとして知られている。
【0008】さらに科学的に的確な証明を欠くものの、いわゆる胎教という概念は古来より広く支持されて来た。最近はその一環として、妊婦にふさわしい音楽を聞かせる音楽活動などが流行している。この場合、この音楽を妊婦に聞かせる事が精神的な効果を有するのか、空中から腹壁を介して胎児に届く音楽音響信号が胎児に聴取される事が効果があるのかは未だ議論の分れる所であるが、大方の説は胎児も音楽を聞いていて、そうする事は一定の効果がある、としている。この様な胎児への音響刺激を母体主導で行い、またその反応を母体が知る事は一種の好ましい母児コミュニケーションであると考えられる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら従来は胎児信号採取用テレメーター発信器、聴音用胎児心音検出器ないしドプラ胎児心拍検出器、音響刺激用発音装置などの装置概念、および胎教に準ずる作用効果のために胎児に音楽や母体の話し声を聞かせ、母児コミュニケーションを図るという実践概念は、いづれも相互に有機的な関連づけを欠いていた。そのため、例えば音響刺激の手段として前記のブザー音やビープ音の代りに母親の声や好ましい音楽を用いる事も十分考えられるが、その様な事を有効に実施する手段装置を欠いていた。
【0010】逆に母親が胎児の健康状態を概括的に知ろうとしても、また自律自己管理のために在宅NSTを実施出来たとしても、一々専門家用ないしそれに準ずる装置に取り組んで、胎児心拍数図を得、自らこれを医学的な判読ルールに従って判読せねばならないという困難を生じていた。勿論心拍数図は管理センターないし主治医の所に電子的に伝送して即時診断ないし処理を求める事も可能である。しかし胎児の生理状態が刻一刻と悪化する状況の下ではその時間的余裕を欠く事が十分に考えられる。また真の自律自己管理にはある程度はセンターや主治医の手を煩わす事なく妊婦自信で処事出来る体制が望まれる。
【0011】さらに前記の胎教ないし類似の概念に準じて胎児に音楽ないし音響信号を送らんとする場合にも、空中音波を介して腹壁上からこれを行う従来の手段手法では子宮内の胎児に有効な音響信号が十分には到達していない。何となれば空気と音響学的には大略水と等価な生体組織との間の音響伝送量は、お互いの媒質の音響インピーダンスの落差のため、高々振幅で30分の1、パワーで1000分の1の桁である。空中で相当に喧騒な音も水中では相当におだやかに聞こえる。
【0012】また生体組織の音響減衰はその固有の粘性のため可聴周波数領域でも強い周波数依存性を有し、高域ほど減衰が大である。このため結局空気を介して音を送ったのでは胎児に対して有効な音響刺激にはなり得ない。子宮内の胎児にとっての音響環境(intrauterine acoustic landscape)は、先に述べた母体の心拍血行系ないし呼吸運動に由来する音、母体の発声、また意図されたまたはされざる運動に由来する所の雑音などの成す所の、100Hzないし数十Hz以下の広い低周波領域に周波数スペクトラム上の強い主成分がある物となる。
【0013】一方、妊娠中後期の胎児の聴覚の能力は感度や周波数特性において新生児のそれと大差ないと推察されるので、これと、前記低域が圧倒的に勝った子宮内音響環境との間には中高域において大きな空白がある。この空白域においては胎児の音響刺激に対する感度は前記主成分近傍におけるよりは十分高いと考えられる。また一般に音楽や会話の音響信号はこの意味での空白域の下方に丁度適合し、これを有効に胎児に照射するならばAST目的ないし胎教類似目的の音響刺激をより有効に行う事が出来る。即ち後述の如く本発明の課題は本質的にかかる子宮内音響環境においては主成分ではない周波数領域の可聴音信号により胎児を有効に刺激する事にあり、またそのための手段手法を確立する事にある。
【0014】しかしながら前記ASTの手段として成功している従来の音響刺激装置はいづれも母体腹壁上から直接接触して刺激音を放射する物であるが、従来の直接接触型の音響刺激装置はいづれも音楽や人の声、自然音などの広帯域で階調性のある音響信号を歪みの少ない好ましい忠実度で伝送出来る物ではなく、またその様に意図されて設計されてもいない。
【0015】胎児の覚醒反応を知るために胎児信号検出手段との関係において多少とも有機的な関連付けがなされている直接接触型の音響刺激装置の例として、特公昭63−9459などがある。しかしこれにおいてもただ両機能が併置され、時分割的に自動運転などされる旨述べられているに止まり、刺激のために放射する可聴音信号の周波数スペクトラム上の性質などについては一切触れられていない。
【0016】本発明は上記の様々な困難ないし齟齬を解消せんとする物であり、特に妊婦の自律主導により胎児との間に有効な刺激伝達および反応の確認の関係を樹立する事ができる装置手段構成およびその利用技術を実現せんとする物である。またさらに具体的には前述の如く本発明の課題は本質的にかかる子宮内音響環境においては主成分ではない周波数領域の可聴音信号により胎児を有効に刺激する事にあり、またそのための手段手法を確立する事にある。
【0017】
【課題を達成するための手段構成】前記目的意識を達するための手段構成として、本発明においては、防水性を有し、母体腹壁上に装着するに適した構造を有する1つの接触面に、該接触面を介して胎児信号を検出する胎児信号検出手段と、また該接触面を介して胎児に向けて略無指向性に可聴周波音波を放射する可聴周波音波放射手段とが配置され、該可聴周波音波放射手段は子宮内の胎児環境における主成分ではない周波数領域を有意に含む音響信号を放射する如くに該手段を駆動する駆動手段に結合されて成る事を特徴とする双方向性胎児信号装置を実現せんとする物である。
【0018】本発明の装置は後述の如く実施例として多数のバリエーションがある。また上記基本概念において、該装置は電子装置などに一切頼らずにさえも実現出来るものである。しかし電子装置、電気音響変換手段(トランスデューサー)などを有効に利用するならば、本発明の最も好ましい実施例を得る事が出来る。
【0019】
【作用効果】本発明の装置によれば、母親主導による胎児への音響刺激が好ましい信号品位ないし音質により有効な周波数帯域において行われ、また母親も胎児の反応を知る事ができ、もって好ましい母児コミュニケーションを得る事が出来る。このほかに若干の電子装置を援用して在宅妊婦の自律的NSTないしASTが容易に実施できる。
【0020】
【最も基礎的な実施例】図1は本発明の概念の最も基礎的で簡素な実施例の装置を示す一部破断面図であり、これにおいて、浅くやや偏平な椀状の筐体1は中央部に隔壁2を有し、その下面の開口部には本来解放されていた所へ膜3が適切な張力をもって気密に貼り付けられており、隔壁2の左右で別々な音響学的な空気室を成している。これら両空気室には各々音響結合口4が立てられており、これらは各々イヤーセット6および集音器(メガホン)7に伝声管(一例として硬目のゴム管)8を介して接続されている。この構成においては、どこにも電子装置が、特に信号電力増幅能力のある電子装置が出てこない。
【0021】この様な構造からほぼ自明に理解できる様に、これを膜面を母体腹壁上に図示せぬベルトないし絆創膏などで装着すると、図の右側の空気室は空気伝導型の心音ないし胎児心音マイクロホンに類似の聴診器となり胎児信号検出手段を構成し、イヤーセット6を介して胎児心音を母親に聴かしめ、また左側の空気室は逆に集音器■の拾う音声ないし自然音響信号を適宜インピーダンス変換して母体腹壁の内部に送入する可聴周波音波放射手段となる。
【0022】この場合、伝声管の損失を無視すると、集音器7の開口面積と前記左の空気室の開口面積との比に対応して音響インピーダンス変換が起り、音圧が昇圧され、より好ましい結合が得られる。即ち母親がこのメガホン状の集音器7に向って語り掛けもしくは歌唱すれば、母親の体内を長距離伝搬して聞こえるよりは遥かに高品位で高レベルの音声が胎児に届く。勿論集音器7をラジオやテープレコーダーのスピーカーの目の前に持って行けばその出す音楽などが胎児に伝送される。その間ないし前後において母親はイヤーセット6を介して連続的に胎児心音を聴く事ができ、その変化、特に心拍周期ないし心拍数の変化を知る事が出来る。
【0023】ここで膜3の厚みや、貼られた状態での張力ないしその分布がこの空気室伝導系の周波数特性、特にそのハイパス・ローカット特性を決めるので、これを適切に調整するならば前記趣旨の如く子宮内環境においては常時は主成分でない中高域の周波数領域の音声ないし音響信号を選択的に胎児に与える事が出来る。他方の胎児心音聴診器を成す側の空気室においては、その開口部の膜3の張力は、同じ原理で胎児心音の聴取に最適な周波数に合うハイパスないしバンドパス特性を有する様に調整される。好ましい実施例の一例ではこの膜3は厚さ約0.25mm程度のマイラーないしカプトンの薄板であり、筐体1の開口部に超音波熔接される。しかしこの膜3の素材、厚み、張力の与え方、取り付け方法などは全く実施上の自由度の内である。
【0024】この膜3の下面を母体腹壁に接して装着するに際し、中間に空気層を介在させないために音響結合剤を介在させるのが好ましい。かかる音響結合剤としては超音波診断に汎用される同目的のゲル、また只の水ないしオリーブ油などが使えるほか、一時接着のための仮接着剤ないし両面接着テープの様な物も有効に使用出来る。この様な着脱を日常的に行い得、またそれに耐え得るためには膜3とその周辺の構造は一定の強度がなければならない。
【0025】図2はまた別な原始的な実施例であり、これにおいては胎児に好ましい音楽を聴かせるための最も簡素な手段としてネジ巻き式のオルゴール8が搭載されている(オルゴール部分の蓋は省略して描かれている)。オルゴールの取り付け面が音響放射面となっている他は、胎児心音を聴く側は図1の例と同様である。オルゴールの出す音の周波数スペクトラムは主として可聴域の中ないし上方にあるので、胎児に聞かせる事において前記の趣旨に適うものである。
【0026】また図示と詳細な説明を省略するが、発音体としては極く小規模な管、弦、打楽器ないし鍵盤楽器をオルゴールの代りに搭載し、母親に自らこれを演奏させる事でも目的を達する事が出来る。ここで勿論、鍵盤楽器が電子式のものである事を妨げない。
【0027】さらに図示と詳細な説明は省略するものの、このオルゴールの等価置換物として電子装置、特に信号電力増幅能力のある電子装置、例えばIC式のメロディー自動奏鳴器などを適切な電池電源手段と電源スイッチともに搭載しても良い事は自明である。
【0028】さらに胎児心音を聴く側もマイクロホンとアンプを用い、イヤーセットの代りに汎用されるイヤホンないしスピーカーを用いても良い事も自明であり、また胎児心拍数計などの更に高度な電子装置を併設しても良い。
【0029】
【より好ましい実施例】しかしながら前記の非電子的な実施例は最も原始的な原理実施にすぎない事は明らかで、特に信号に対して電力増幅能力のあるアンプの、またデイジタルおよびアナログの、電子装置技術を用いれば更に好ましい実施例が得られる。
【0030】図3は電子的な実施例の中の最も原始的な例であり、これにおいて、母体腹壁上に装着されるこの装置の筐体1の下面には3個の生体電極9が配置され、これらを用いて母体腹壁誘導胎児心電信号が採取される。採取された該信号は本装置内に配置される支援電子装置により公知の方法で信号処理され、最終的にイヤホン10において母体に胎児心拍に同期した短いビープ音として出力される。また心電信号を帯域抽出、増幅ののちそのままイヤホンに供給してもドン、ドンというパルス音として聞く事が出来る。この場合、混在する母体の心電信号は周波数スペクトラムが胎児とは相当に異なるので、これらを聴覚により弁別する事は容易である。好ましい実施例の1例においては電極9からイヤホン10までのゲインは約1000倍ないし10000倍、通過帯域は20Hzから45Hz程度である。
【0031】図4は再び胎児心音信号を採取また聴取する形の本発明の実施例における電子装置を示すブロック図である。これにおいて、1つの可逆電気音響変換器11が可聴音の放射と胎児心音信号の採取に併用されている。これらの信号は周波数領域が離れているので、この様な併用がフィルタ対による分波すなわち周波数分割により可能である。図示の如く、胎児から採取される胎児心音信号には聴取側のフィルタ14により約70Hz以下が、また胎児に向けて放射される可聴音信号には放射側のフィルタ13により150Hz以上が各々割り付けられている。可逆電気音響変換器11としては、電話器のハンドセット等に汎用される、マイクロホンとしてもスピーカーとしても使用可能な物なら、圧電形の物でも動電形の物でも使用可能である。また信号源12としては、前述の如くメロディー音源ICでも、外部に接続される図示せぬマイクロホンでも、ないし他のオーディオ機器から電気的に信号を得るコネクタでも、任意の物が利用可能である。
【0032】ここで約70Hz以下と約150Hz以上とに分波すると述べたが、その結果約100Hz前後にクロスオーバー周波数が設定される事になる。しかしこの様に分波フィルタ対のクロスオーバー関係を設定する事は設計上の自由度であり、本願発明の不可欠な構成要件ではない。またこれらフィルタ対のカットオフの急峻さも設計上の自由度の内である。
【0033】またここで1つの可逆変換器を放射と検出の両用途に共用すると述べたが、この実施形態も1つの実施形態でしかなく、必要に応じて両目的の変換器を別々に、しかし同一の接触面上に一体化して、配置することを妨げる物ではなく、その様な場合も本願発明の範疇の中に含まれる。
【0034】また検出側は可逆変換器の代りにカーボンマイクや、可変周波数発信器を成すコンデンサマイクロホンないし可変リラクタンスマイクロホンの如き不可逆変換器を用いる事も妨げない。
【0035】また一見単独の可逆変換器の如く見えるが内部で駆動と検出の電気端子が独立している、2巻線ボイスコイル構成の動電変換器や、分割電極圧電変換器などを用いる事も妨げない。
【0036】また単独の電気端子を有する可逆変換器と分波フィルタ対との間にブリッジないしハイブリッド回路による送受分離を挿入して分波フィルタの負担を軽減する事も好ましい実施例の1つであり、その様な実施形態も妨げない。
【0037】
【最も好ましい実施例】以下に述べる実施例は発明者らが発明の時点で考える最も好ましい実施例である。この構成を図5に、ブロック図を図6に示す。これにおいて、胎児信号の検出には超音波ドプラ法が用いられ、またその目的の超音波送受信用の圧電振動子が適切な支援構造を併用して可聴音の放射にも利用される。
【0038】図5および図6において、圧電振動子21は公知汎用のPZTによる凸面振動子であり、寸法は一例として厚み約1mm強、直径20mm程度、また曲率半径80mm内外である。これ自身は使用状態で約2MHzに共振点を有し、また併設されるCWドプラ送受信回路22との協調により、この目的には公知の公称中心周波数2MHzの単一振動子CWドプラシステムを成す。その設定する超音波ビームは、これもこの目的には公知の通り、末広がりの円錐状を呈し、その中に胎児の組織、特に心臓血管系の動きが捕捉されればこれをドプラ信号として獲得する。この限りにおいては何の変哲もないものであるが、該圧電振動子21は高周波的には前記CWドプラ送受信回路22に結合され、所期の如く超音波を送受信しているが、直流ないし低周波においてはオーデイオアンプ23の出力段に結合され、その駆動により可聴周波数の音声信号を与えられる。
【0039】圧電振動子21の素材であるPZTは縦結合に見劣りしない横結合があるので、この様な使用形態では印加されたオーデイオ信号はこれを厚み方向に伸縮させるとともに面に平行な方向にも伸縮させる。ここでこの球殼面の振動子は機械的クランプ部材(リングフレーム)20に端部を堅牢に接着、保持されているので、その半径方向の伸縮運動応力は中央部を前後(図5で言うと上下方向)に変位させる運動に変換される。この変換原理はセラミックイヤホンやセラミックスピーカーにおいては公知汎用の物である。結果としてこの圧電振動子21はドプラシステムのために超音波を送受しながら同時にオーデイオ領域の音響信号を放射する事ができ、本発明の趣旨に従って目的に適う動作をしてくれる。
【0040】いづれにせよ本発明の実施例においてはこの様な小さな開口部から可聴周波数音響信号を放射するので略無指向性の放射になる。これは目的の胎児がどこに居てどちらを向いているかなどを考慮する必要を遮省するので好ましい。
【0041】前記の如くPZT凸面振動子を側面から拘束する側面拘束手段として機械的クランプ部材(リングフレーム)を設けて径方向の伸縮を振動子面の法線方向の振動に変換する方法のほかに、振動子に重い背面負荷を課してその厚み方向の振動をじかに利用する事でも同じ目的を達する事ができる。
【0042】また振動子としてあえて凸面の物を採用せずとも、ただの平面のPZT円板ないし角板を用いても、これの片面に伸縮しにくい真鍮ないしステンレススチールの薄板を全面的に貼付けるならば、面方向の伸縮を面に垂直な法線方向の振動に変換する構造を実現する事ができる。これも圧電型のブザーやスピーカーにおいては汎用されている手法である。この様にPZT板に薄い背面負荷の加わった構造でも、その厚みや音響伝搬定数を適切に勘案するならば、特定の周波数において得られる厚み方向の共振を超音波の送受信に利用する事が出来る。
【0043】もちろんあえてバイモルフ構造を採用すべくPZT薄板2枚を貼り合わせ、これらを伸縮が逆方向になる様に駆動しても、径方向の伸縮を法線方向の伸縮に変換する平面構造が得られる。この場合も高周波における電気的な結合はオーディオ領域とは独立に設定できるので、超音波的には全体の厚み共振を超音波の送受信に利用する事が出来る。
【0044】図7においてさらに、胎児心拍数計23は獲得された超音波ドプラ胎児信号から胎児心拍信号を選択的に抽出し、これから更に胎児心拍数値を演算して求める。この様な胎児心拍数計は自己相関式の物が汎用されているが、ここではこれを1チップCPUなどにより携帯器機内部での電池動作に適する様に実施している。これは基本的には本願発明者の内1人の先行発明になる特公昭56−7592などに見られるものであるが、用途目的に適切であれば他の手法による装置も採用可能である。
【0045】かくして得られた胎児心拍数値のデータは可変周波数発振器24において可聴周波数のトーン信号に変換される。一例として心拍数値が100ならば1KHz、140ならば1.4KHz、200ならば2KHzとかいう様に耳に分かりやすい変換を行う。このトーン信号を母親がドプラ心拍信号に重ねて同時に聴けるように、イヤホン10用のオーデイオアンプ25においてこれらが加算増幅され、イヤホン10に供給される。この構成において、母親はトーン信号の音程の大きな変化も微細な変化もともに耳で知ることが出来、心拍数の細変動や基線の変化を知る事が出来る。
【0046】このイヤホン10に供給される混合音声信号は、必要に応じて同時にテレメーター送信機28に供給され、やや離れた所に置かれる図示せぬ別な装置における表示、記録ないし記憶のために利用するべく伝送される。この様な即時伝送のほかに、詳細な説明はしないが、胎児信号ないし胎児心拍数値のデイジタルデータを表示する表示手段を、またそれらを一時記憶ないし記録をこの同じ筐体内部でも行うようにマスメモリ手段を、必要に応じて併設しても良い。
【0047】電池29は、必要ならば図示せぬ安定化電源回路を伴って、この同じ筐体内のすべての電子装置のための電源手段として奉仕する。
【0048】かくして図7の装置は電池も含めてひとつの筐体内に収容され、母体腹壁上にベルトか絆創膏か何かで装着される。そのために該筐体は径に比べて背丈が低い、角の立っていない外形をしている。典型的な実施例では直径が約7cm、背丈が3cm弱の偏平な、御供え餅の下半分の様な格好をしている。先に述べた如く、この筐体の底面にある音声信号の放射と胎児信号の獲得のための各々の、もしくは一体化された変換器の側を母体腹壁に接して装着されるが、それに際して音響結合を空気層の介在なく確実に行うために、ゲル状ないし適切な音響結合剤が介在せしめられる。
【0049】
【発明の効果】本発明によれば母親主導による胎児への音響刺激が好ましい信号品位ないし音質により有効な周波数帯域において行われ、また母親も胎児の反応を知る事ができ、もって好ましい母児コミュニケーションが得られる。また若干の電子装置を援用するならば在宅妊婦の自律NSTないしASTが容易に実施できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の最も原始的な実施例を示す、一部断面を含む外観図である。
【図2】本発明のまた別な原始的実施例を示す外観図である。
【図3】本発明の実施例のうち腹壁誘導胎児心電方式の物を示す外観図である。
【図4】本発明の実施例のうち1個の可逆変換器を用いる場合を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施例のうち1個の超音波振動子を用いる場合の要部の断面図である。
【図6】本発明の最も好ましい実施例における超音波ドプラ送受信器を示すブロック図である。
【図7】本発明の最も好ましい実施例における電子装置全体を示すブロック図である。
【符号の説明】
1 筐体
2 隔壁
3 膜
4 音響結合口
5 伝声管
6 イヤーセット
7 集音器(ないしメガホン)
8 オルゴール
9 生体電極
10 イヤホン
11 可逆電気音響変換器
12 信号源
13 ハイパスフィルタ
14 ローパスフィルタ
20 リングフレーム
21 超音波振動子
22 CWドプラシステム
23 胎児心拍数計
24 可変周波数発振器
25 イヤホン用オーデイオアンプ
26 放射用オーデイオアンプ
28 テレメーター発信器
29 電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】 防水性を有し、母体腹壁上に装着するに適した構造を有する1つの接触面に、該接触面を介して胎児信号を検出する胎児信号検出手段と、また該接触面を介して胎児に向けて略無指向性に可聴周波音波を放射する可聴周波音波放射手段とが配置され、該可聴周波音波放射手段は子宮内の胎児環境における主成分ではない周波数領域を有意に含む音響信号を放射する如くに該手段を駆動する駆動手段に結合されて成る事を特徴とする、双方向性胎児信号装置。
【請求項2】 請求項1に関する双方向性胎児信号装置において、該胎児信号検出手段および該可聴周波音波放射手段がともに信号電力増幅能力を有する電子装置を含まずに構成せられたる事を特徴とする、該双方向性胎児信号装置。
【請求項3】 請求項1に関する双方向性胎児信号装置において、該胎児信号検出手段および該可聴周波音波放射手段のうち少なくとも何れか一方もしくは双方が信号電力増幅能力を有する電子装置を含んで構成されたるむ事を特徴とする、該双方向性胎児信号装置。
【請求項4】 請求項1および3に関する双方向性胎児信号装置において、該胎児信号検出手段は胎児心電信号を検出するための少なくとも3個の生体電極および必要な支援電子装置手段を含んで構成されたる事を特徴とする、該双方向性胎児信号装置。
【請求項5】 請求項1および3に関する双方向性胎児信号装置において、該胎児信号検出手段は胎児心音信号を含む胎児由来の音響信号を検出するための少なくとも1個の電気音響変換器および必要な支援電子装置手段を含んで構成されたる事を特徴とする、該双方向性胎児信号装置。
【請求項6】 請求項1および3に関する双方向性胎児信号装置において、該胎児信号検出手段は超音波ドプラ法により胎児組織の運動を観察するための少なくとも1個の超音波送受波手段および必要な支援電子装置手段を含んで構成されたる事を特徴とする、該双方向性胎児信号装置。
【請求項7】 請求項1、3および6に関する双方向性胎児信号装置において、該超音波送受波手段と該可聴周波音波放射手段とに、使用超音波周波数においては厚み共振モードで使用され、使用可聴周波数においては非共振モードで使用される所の高々一対の電極および電気端子を有する圧電振動子が共用されて成る事を特徴とする、該双方向性胎児信号装置。
【請求項8】 請求項7に関する双方向性胎児信号装置において、該圧電振動子はPZTなどの縦横両方向への電気機械結合を適宜兼ね備える物質の、平面あるいは曲面を成す薄板より構成され、また該振動子の可聴周波数における径方向の振動を振動子面の法線方向の振動に有効に変換するための背面負荷手段ないし側面拘束手段が配置されて成る事を特徴とする、該双方向性胎児信号装置。
【請求項9】 請求項1、3および5に関する双方向性胎児信号装置において、1つの可逆電気音響変換器が胎児心音信号を含む胎児由来の音響信号を検出する手段と、胎児に向けて略無指向性に可聴周波音波を放射する手段とに兼用され、爾してこれら検出と放射とを周波数分割的に行うためのフィルタ手段を具備して成る事を特徴とする、該双方向性胎児信号装置。
【請求項10】 請求項1および3から9までの何れかに関する双方向性胎児信号装置において、可聴周波音波の放射を行っている間は胎児信号の採取を中止する如く構成された事を特徴とする、該双方向性胎児信号装置。
【請求項11】 請求項1および3から9までの何れかに関する双方向性胎児信号装置において、可聴周波音波の放射を行っている間も胎児信号の採取を続行する如く構成され、爾して採取された胎児信号の中から、同時に放射されている可聴周波音波に由来する干渉成分を除去ないし消去する手段を有して成る事を特徴とする、該双方向性胎児信号装置。
【請求項12】 外部入力として他の機器からの可聴周波信号を受入れる手段を有し、該受入手段により受入れた可聴周波信号を周波数選択して該可聴周波音波放射手段に供給するためのフィルタ手段を有して構成された事を特徴とする、請求項1に関する該双方向性胎児信号装置。
【請求項13】 外部入力として母体の話し声を獲得して該可聴周波音波放射手段に伝送する手段を有して成る事を特徴とする、請求項1に関する該双方向性胎児信号装置。
【請求項14】 採取された胎児信号を母体が聴取するための伝声管、イヤホンないしスピーカーを有する事を特徴とする、請求項1に関する該双方向性胎児信号装置。
【請求項15】 採取された胎児信号から胎児心拍信号を選択的に抽出し、爾してまた胎児心拍数値を求め、これを表示、記録、記憶もしくは他に向けて伝送する手段を有して成る事を特徴とする、請求項1、3ないし15の何れかに関する該双方向性胎児信号装置。
【請求項16】 母体腹壁上にベルトないし絆創膏などで装着するに適した、径に比べて高さが有意に小さい、偏平でかつ角の鋭くない外形の筐体を有し、該筐体の底面において音響結合剤を介して母体腹壁と音響結合を成し、その内部に必要な電子回路と、高々1系統の電池電源手段とを有して成り、爾して該電池電源手段は胎児信号の検出および可聴周波音波の放射のための各々の電子回路への給電に共用される如く構成されて成る事を特徴とする、請求項1、3ないし15の何れかに関する該双方向性胎児信号装置。

【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【特許番号】第2819252号
【登録日】平成10年(1998)8月28日
【発行日】平成10年(1998)10月30日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−340762
【出願日】平成6年(1994)12月21日
【公開番号】特開平8−173415
【公開日】平成8年(1996)7月9日
【審査請求日】平成8年(1996)12月9日
【出願人】(593192612)
【出願人】(595018031)
【出願人】(595018042)
【参考文献】
【文献】特開 平1−170445(JP,A)
【文献】特開 昭64−27540(JP,A)
【文献】特開 昭60−176630(JP,A)
【文献】実開 昭53−65291(JP,U)
【文献】特表 昭59−500650(JP,A)