説明

反射光学素子の製造方法

【課題】非晶質金属の反射光学素子をプレス成形する工程で、塑性変形時の結晶の回転や滑りあるいは結晶配向による異方変形のために、光学反射面に歪が生じるのを防ぐ。
【解決手段】上型部材3と下型部材4とを有する金型を、ガラス遷移点(Tg)と結晶化温度(Tx)を持つ非晶質金属の過冷却液体域(ΔT=Tx−Tg)の温度に加熱して、熱間成形を開始し、(Tg−10K)点以下で応力を除荷する。熱間中に、金型内のブランクWの形状を維持するとともに、金型の面粗さを原子レベルで転写する。これにより、形状精度及び表面精度の高い成形品を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精密な反射光学素子を効率的に製造するための反射光学素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーブミラー、車載ミラー、電灯、ライト等に用いる金属ミラーは、通常多結晶金属を用い、機械加工(研削、研磨)や冷間成形(冷間金型プレス、バルジ成形、ダイレスフォーミング等)で製造していた(特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
このように多結晶金属材料により製造された金属ミラーは、加工や成形による塑性変形時に、結晶の回転や滑りがミラー表面に現れ、かつ結晶配向による異方変形が発生する。これにより金属ミラーの光学面は粗く歪むこととなる。ただし、このような歪みは、カーブミラーやライトで要求される精度においては、問題ないレベルであった。
【0004】
また、ディスプレーやプロジェクター等の高精細な光学機器への金属ミラーの適応も進んでいる。これらの光学機器における品質(フレア率、空間周波数に対する表面精度)は、前述のカーブミラーやライトと比べて、はるかに高い表面精度が要求されている。高い表面精度の金属ミラーを製造する方法としては、多結晶金属材料の反射光学面に対し長時間にわたる研磨を施して精密ミラーと成す方法もある。しかしながらこの方法では、工程時間が著しく増大し、量産性を考慮すると現実的とはいえない。
【0005】
多結晶金属に代わる新たな素材としては、バルク非晶質金属(非晶質金属)が知られている。バルク非晶質金属の特徴は、結晶粒界が無く、高硬度、高強度、低ヤング率で、耐腐食性、耐磨耗性に優れていることである。さらに、バルク非晶質金属は加熱しても容易に結晶化はせず、ガラス遷移点と結晶化温度の間の過冷却液体域で流動変形する(特許文献3、特許文献4参照)。
【0006】
図8は、一定の加圧の下における、バルク非晶質金属の温度に対する形状変化量を概念的に示したグラフである。また図9は、一定の加圧の下における、光学ガラスの温度に対する形状変化量を概念的に示したグラフである。
【0007】
図8に示したバルク非晶質金属の場合、材料の相変態点を表わすポイントとして、ガラス遷移点(Tg)及び結晶化温度(Tx)が使用される。図9に示した光学ガラスの場合は、ガラス遷移点(Tg)、屈服点(AT)及び結晶化温度(Tx)が使用される。バルク非晶質金属と光学ガラスで、共にガラス遷移点を使用するが、その温度における各材料の状態は異なっている。
【0008】
図8に示すバルク非晶質金属におけるガラス遷移点(Tg)とは、図9に示す光学ガラスで言うところの屈服点(AT)に相当する。すなわち、温度上昇に伴い、固相から粘弾性状態に遷移する温度である。また、図8に示すバルク非晶質金属における結晶化温度(Tx)は、図9に示す光学ガラスと同様に結晶化を開始する温度であり、これは、温度上昇に伴い失透が開始する温度でもある。
【0009】
光学ガラスの場合、ガラス遷移点(Tg)とは、温度上昇に伴う異常熱膨張の開始点であり、理論的には、光学ガラスの剛性状態から粘弾性状態に移る温度を示す。このガラス遷移点を越えると、力学的弾性とその一部のエネルギーを分子運動として蓄えることで異常熱膨張が始まる。光学ガラスは、ガラス遷移点から屈服点までの間は、粘性流動は示さないが激しい分子運動により応力緩和に寄与することができる。また、光学ガラスの結晶化温度は粘度が最も低下した点であり、結晶化温度を越えて加熱を続けると、結晶核が徐々に増し非常に緩やかに結晶化が進む。ただしその間、流動性は持続する。
【0010】
これに対してバルク非晶質金属の場合は、結晶化温度に近づくに従い、非晶質安定性が急速に低下し、短時間に構造緩和が進み粘度が上昇に転じる。そして、結晶化温度を過ぎると急激に結晶化が進み脆性材料に相転移する。そもそもバルク非晶質金属は金属結合であるのに対し、光学ガラスは主にイオン結合であり、互いに機械的特性も大きく異なる。例えば、光学ガラス特有の急速冷却での熱衝撃破壊は、バルク非晶質金属では起こりえない。この他多くの特性差から、バルク非晶質金属と光学ガラスの成形プロセスは本質的に異なる。
【0011】
このような非晶質金属材を用いて、例えば熱間中で板材を気圧差により変形させ、型に密着成形する精密成形品の製造方法や、熱間中でブロックを圧縮成形する金型や反射鏡の成形法が知られている。非晶質金属材は熱間で急激に粘度が低下する特性を示し、光学ガラスの成形と類似な工程を経て成形することが可能である。
【特許文献1】特開平8−36222号公報
【特許文献2】特開平9−120705号公報
【特許文献3】特開平5−309427号公報
【特許文献4】特開平11−100648号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、非晶質金属材を用いて面粗さ(Ra)10nm程度の高い表面精度を有する反射光学素子を作り出すには、より複雑なプロセスが必要である。特許文献3に示された方法では、圧力差を用いて2秒間で非晶質金属材を成形している。
【0013】
しかしながらこの場合、Ra10nm程度の高い表面精度を得ることは困難である。また、反射光学素子として満足できる安定した形状精度を得ることも難しい。
【0014】
特許文献4に開示された方法では、過冷却液体域(ΔT)、すなわち結晶化温度(Tx)とガラス遷移点(Tg)の間の温度領域でプレス成形を行なっている。しかしながらプレス圧力に関しては詳しい説明はない。例えば、ΔTの温度範囲でプレス圧力を解除した後冷却すると、Tg点以下の温度域での熱収縮により、成形面の表面精度が安定した成形品を得ることができない。これは離型により形状の流動変形が生ずるためであり、Ra数nmの表面精度と±10*λ/2(λ:633nm)の形状精度を得ることはできなかった。
【0015】
特許文献3及び特許文献4に示された方法では、Tx点近傍で、50MPa以上の高応力の条件を提案しているが、実際そのような条件下では、材料の結晶化を促進し、素子そのものを作り出すことは困難であった。また、型の耐久性が短くなり、さらに大応力を発生する装置が必要となるため、成形機の大型化を引き起こすこととなる。
【0016】
本発明は、高い形状及び表面精度を有する非晶質金属の反射光学素子を、成形タクトを伸ばすことなく、また、装置を大型化することなく効率的に製造することのできる反射光学素子の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の反射光学素子の製造方法は、結晶化温度(Tx)及びガラス遷移点(Tx)を有する非晶質金属の反射光学素子を、金型を用いたプレス成形によって製造する反射光学素子の製造方法において、前記非晶質金属のTg点以上Tx点以下の金型温度で前記プレス成形を開始する工程と、前記非晶質金属の(Tg−10K)点以下の金型温度で前記金型の加圧力を解除する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
熱間中に、金型内に充填した非晶質金属材(ブランク)の形状を維持すると同時に、型の面粗さを原子レベルで成形品に転写することを可能とする。(Tg−10K)点より高い温度でプレス成形圧力である金型の加圧力を解除すると、形状及び表面精度が低く、品質ばらつきの大きな成形品となる。
【0019】
また、ΔT(Tg−Tx)に対して、金型温度が(Tg+ΔT×0.1)点以上(Tg+ΔT×0.8)点以下の間において、1MPa以上15MPa以下の加圧力でプレス成形を行なうとよい。このような温度範囲で形状を作り出した場合、必要十分な品質を有する成形品が得られ、品質の安定性が向上する。すなわち、(Tg+ΔT×0.8)点より高い温度では、急速に構造緩和が進み結晶化が促進される。
【0020】
このように、過冷却液体域 (ΔT)の温度で熱間成形を開始し、(Tg−10K)点以下で応力を除荷することにより、金型の形状及び表面粗さを高い精度で転写することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0022】
図1に示すように、真空排気口1aを有するチャンバー1内に、プレス軸2によって駆動される上型部材3及び下型部材4を有する金型を配置し、下型部材4に非晶質金属材であるブランクWを充填する。金型の加熱手段として、個別に制御可能なハロゲンヒーター5、セラミックスヒーター3a、4a、カートリッジヒーター3b、4b及びリフレクター6を用いた。チャンバー内雰囲気は、真空雰囲気や不活性ガス雰囲気などを作り出すことが可能である。
【0023】
結晶化温度(Tx)及びガラス遷移点(Tg)を持つ非晶質金属のブランクWを、上記金型を用いてプレス成形し、反射光学素子を製造する工程において、前記非晶質金属のTg点以上Tx点以下の金型温度で前記プレス成形を開始する。また、非晶質金属の(Tg−10K)点以下の金型温度で金型の加圧力(プレス成形圧力)を解除する。
【0024】
前記プレス成形は、非晶質金属の過冷却液体域ΔT(Tx−Tg)に対して、(Tg+ΔT×0.1)点以上(Tg+ΔT×0.8)点以下の金型温度において1MPa以上15MPa以下の加圧力で行なわれるとよい。
【0025】
加圧手段であるプレス軸2を上下させることで、挟み込み、圧縮/除荷の強さを制御する。なお、加熱手段、雰囲気、加圧手段は上記の設備に限定されない。また、上下型部材の改質、例えば窒化膜やDLC膜、炭化膜、非晶質膜、貴金属合金膜等を施しても差し支えない。
【0026】
図2は、図1の装置を用いた熱間金型圧縮によりブランクWを加工中の状態と、成形品(反射光学素子)Pを示す図である。最終的に金型表面形状に流動変形させた後、2次加工の必要のないネットシェイプ品を得ることができる。
【0027】
成形後の反射光学素子は、表面精度及びミクロな表面形状を、(Zygo社製)三次元表面構造解析顕微鏡を用いて0.721mm×0.541mmの視野内で全面粗さ(rms)値により測定した。また、マクロな形状測定には、(Zygo社製)光学干渉計を用いて、装置からの球面波の収束点から曲率半径分、移動させた被測定物表面の干渉縞(ニュートン縞、316.5nm/本)を確認し、型からのズレ量(形状精度の差異)を測定した。
【実施例1】
【0028】
非晶質金属であるバルク非晶質Zr基合金(Tg点415℃、Tx点500℃、ΔT:85℃)の40mm×20mm×1.0mmのブランクを準備し、図1に示す成形装置により反射光学素子を成形した。予め200℃に維持した超硬合金製のφ30mm球面金型にセットし、真空排気後窒素フロー雰囲気とした。なお、金型の光学成形面の全面粗さ(rms)は1.0nm、また、型の球面精度はニュートン0.5本(約160nm)以内のズレであった。成形プロセス条件は図3の温度・荷重パターンに対応する。加熱はハロゲンヒーターにより、均熱を維持しながら、440℃(=Tg+ΔT×0.3)まで昇温し、保温後10MPaで圧縮した。所定時間経過後、窒素ガスで冷却し、350℃で荷重を解除し、図4の(a)に示す反射光学素子を得た。成形時間は合計10分以内であった。
【0029】
図4の(a)に示すように、反射光学素子である成形品Pは、有効光学面P1とフランジ部P2を有する。有効光学面P1の全面粗さ(rms)は1.2nmであり、形状精度は図4の(b)に示すようにニュートン0.8本(約250nm)のズレであった。このことから、成形品の表面粗さ、面形状とも型をほぼ高精度に転写していることが確認できた。
【実施例2】
【0030】
非晶質金属であるバルク非晶質Pd基合金(Tg点310℃、Tx点380℃、ΔT:70℃)の30mm×30mm×3mmのブランクを準備し、実施例1と同様にして反射光学素子を成形した。予め粉末焼結重合金製の平面金型にセットし、真空雰囲気とした。金型の光学成形面の全面粗さ(rms)は1.9nm、また、型の平面精度はニュートン0.5本(約160nm)以内のズレであった。成形プロセス条件は図5の温度・荷重パターンに対応する。加熱はセラミックスヒーターで均熱を維持しながら室温から317℃(=Tg+ΔT×0.1)まで昇温し、保温後14MPaで圧縮した。所定時間経過後、窒素ガスで冷却し、310℃で18MPaに昇圧し、300℃で荷重を解除し、反射光学素子を得た。成形時間は10分以内であった。成形品の有効光学面の全面粗さ(rms)は2.4nmであり、形状精度はニュートン1.7本(約535nm)のズレであった。このことから、成形品の表面粗さ、面形状とも型をほぼ高精密に転写していることが確認できた。
【実施例3】
【0031】
非晶質金属であるバルク非晶質Pt基合金(Tg点245℃、Tx点305℃、ΔT:60℃)の20mm×20mm×0.3mmを熱膨張率の同等な光学ガラス上に物理的に積み重ねたブランクを準備した。このブランクから実施例1と同様にして反射光学素子を成形した。ブランクのバルク非晶質合金面をNi−Pめっき製の同心円状の回折格子金型に向かい合わせてセットした。成形雰囲気は大気とした。格子のアスペクト比は40.0で角は出来なりとした。また、金型の全面粗さ(rms)は10.4nmであった。成形プロセス条件は図6の温度・荷重パターンに対応する。加熱はカートリッジヒーターで均熱を維持しながら室温から293℃(=Tg+ΔT×0.8)まで昇温し、直ちに3MPaで圧縮した。所定時間経過後、窒素ガスで冷却し、金型の加圧力を260℃で18MPaに増加させ、200℃で荷重を解除し、反射光学素子を得た。成形時間は合計15分以内であった。成形品の全面粗さ(rms)は10.9nmであった。このことから、成形品の表面粗さ、面形状とも型をほぼ高精密に転写していることが確認できた。
【実施例4】
【0032】
非晶質金属であるバルク非晶質Ti基合金(Tg点390℃、Tx点460℃、ΔT:70℃)の50mm×80mm×1.5mmのブランクを準備し、実施例1と同様にして反射光学素子を成形した。予め300℃に維持した炭化珪素製のφ65mm球面金型にセットし、真空雰囲気とした。金型のフランジには基準となる円柱状の穴を加工した。金型の光学形成面の全面粗さ(rms)は0.96nm、型の球面精度はニュートン0.5本(約140nm)以内のズレであった。また、金型表面にはTiN等の窒化物金属を成膜した。成形プロセス条件は図7の温度・荷重パターンに対応する。加熱はハロゲンヒーター及びセラミックスヒーターを併用し、均熱を維持しながら420℃(=Tg+ΔT×0.4)まで昇温し、保温後、13MPaで圧縮した。所定時間経過後、窒素ガスで冷却し400℃で8MPaに降圧し、250℃で荷重を解除し、反射光学素子を得た。成形時間は合計10分以内であった。成形品の有効光学面の全面粗さ(rms)は0.98nmであり、形状精度はニュートン2本(約630nm)以内のズレであった。このことから、成形品の表面粗さ、面形状とも型をほぼ高精密に転写していることが確認できた。
(比較例1)
バルク非晶質Zr基合金(Tg点415℃、Tx点500℃、ΔT:85℃)の40mm×20mm×1.0mmのブランクを準備し、実施例1と同様にして反射光学素子を成形した。予め200℃に維持した超硬合金製のφ30mm球面金型にセットし、真空排気後窒素フロー雰囲気とした。金型の光学形成面の全面粗さ(rms)は1.0nm、型の球面精度はニュートン0.5本(約140mn)のズレであった。また、金型表面にはTiN等の窒化物金属を成膜した。加熱はハロゲンヒーターにより、均熱を維持しながら、420℃(=Tg+ΔT×0.06)で保温後、15MPaで圧縮した。実施例1と同様に10分以内の成形を実施したが、成形品の有効光学面の全面粗さ(rms)は6.6nmであり、また形状精度はニュートン10本(約3.15μm)以上あり、高品質反射光学素子としての品質を満たすことができなかった。この結果、金型の補正加工が複数回必要となり、製造コストが増大し、好適な条件とはいえなかった。
(比較例2)
バルク非晶質Pd基合金(Tg点310℃、Tx点380℃、ΔT:70℃)の30mm×30mm×3mmのブランクを準備し、実施例2と同様にして反射光学素子を成形した。粉末焼結重合金製の平面金型にセットし、真空雰囲気とした。金型の光学形成面の全面粗さ(rms)は1.9nm、型の平面精度はニュートン0.5本(約140nm)以内であった。加熱はセラミックスヒーターで均熱を維持しながら室温から317℃(=Tg+ΔT×0.1)まで昇温し、保温後14MPaで圧縮した。所定時間経過後、窒素ガスで冷却し、310℃で18MPaに昇圧し、305℃で荷重を解除し、成形品を得た。成形品の有効光学面の全面粗さ(rms)は4.2nmであり、また形状精度はニュートン10本(約3.15μm)以上あり、高品質反射光学素子としての品質を満たすことができなかった。
(比較例3)
バルク非晶質Pd基合金(Tg点310℃、Tx点380℃、ΔT:70℃)の30mm×30mm×3mmのブランクを準備し、実施例2と同様にして反射光学素子を成形した。粉末焼結重合金製の平面金型にセットし、真空雰囲気とした。金型の光学形成面の全面粗さ(rms)は1.9nm、型の平面精度はニュートン0.5本(約140nm)以内であった。加熱はセラミックスヒーターで均熱を維持しながら室温から317℃(=Tg+ΔT×0.1)まで昇温し、保温後14MPaで圧縮した。所定時間経過後、窒素ガスで冷却し、305℃で18MPaに圧力を変更し、300℃で荷重を解除し、反射光学素子を得た。成形品の有効光学面の全面粗さ(rms)は6.5nmであり、また形状精度はニュートン10本(約3.15μm)以上あり、高品質反射光学素子としての品質を満たすことができなかった。
(比較例4)
バルク非晶質Pt基合金(Tg点245℃、Tx点305℃、ΔT:60℃)の20mm×20mm×1.0mmを、熱膨張率の同等な光学ガラス上に物理的に積み重ねたブランクを準備した。このブランクから実施例3と同様にして反射光学素子を成形した。ブランクのバルク非晶質合金面をNi−Pめっき製の同心円状の回折格子金型に向かい合わせてセットした。成形雰囲気は大気とした。格子のアスペクト比は40.0で角は出来なりとした。また、金型の全面粗さ(rms)は10.4nmであった。加熱はカートリッジヒーターで均熱を維持しながら室温から300℃(=Tg+ΔT×0.9)まで昇温し、直ちに3MPaで圧縮した。所定時間経過後、窒素ガスで冷却し、260℃で18MPaに昇圧し、200℃で荷重を解除し、成形品を得た。成形品を離型したところ、角の充填金属が欠けた。Tx点近傍の温度保持と圧力により結晶化が加速し、その結果成形品が脆化し、離型時に鋭角部に応力が集中して、欠けたと考えられる。
【0033】
実施例1〜4及び比較例1〜4により、金型温度が被成形金属である非晶質金属の(Tg+ΔT×0.1)点以上(Tg+ΔT×0.8)点以下の間の時、少なくとも1MPa以上15MPa以下の加圧力でプレス成形することが必要となることがわかる。また、加圧後、(Tg−10K)点より低い温度で圧力を解除することにより、成形品精度が品質を満足する。圧力の変化を必要とするプレス成形の場合、冷却が始まり、少なくとも成形温度より低く、Tg点以上の温度範囲で変更することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】一実施形態に係る成形装置を示す図である。
【図2】成形中の成形装置を示す図である。
【図3】実施例1による成形プロセス条件を示すグラフである。
【図4】実施例1による成形品を示す図である。
【図5】実施例2による成形プロセス条件を示すグラフである。
【図6】実施例3による成形プロセス条件を示すグラフである。
【図7】実施例4による成形プロセス条件を示すグラフである。
【図8】一定加圧の下における、バルク非晶質合金の温度と体積の関係を示すグラフである。
【図9】一定加圧の下における、光学ガラスの温度と体積の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0035】
1 チャンバー
2 プレス軸
3 上型部材
4 下型部材
5 ハロゲンヒーター
6 リフレクター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶化温度(Tx)及びガラス遷移点(Tg)を有する非晶質金属の反射光学素子を、金型を用いたプレス成形によって製造する反射光学素子の製造方法において、
前記非晶質金属のTg点以上Tx点以下の金型温度で前記プレス成形を開始する工程と、
前記非晶質金属の(Tg−10K)点以下の金型温度で前記金型の加圧力を解除する工程と、を有することを特徴とする反射光学素子の製造方法。
【請求項2】
前記プレス成形は、前記非晶質金属の過冷却液体域ΔT(Tx−Tg)に対して、(Tg+ΔT×0.1)点以上(Tg+ΔT×0.8)点以下の金型温度において1MPa以上15MPa以下の加圧力で行なわれることを特徴とする請求項1記載の反射光学素子の製造方法。
【請求項3】
前記プレス成形を開始した後、前記非晶質金属のTg点以上の金型温度で加圧力を増加させることを特徴とする請求項1又は2記載の反射光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−286972(P2008−286972A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−131306(P2007−131306)
【出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】