説明

反射型スクリーンの製造方法、及び反射型スクリーン

【課題】映像光の吸収を抑制しつつ、外光を効率よく吸収可能な構成を有する反射型スクリーンを生産性よく製造できる方法を提供する。
【解決手段】映像源2から投射された映像光を観察者側に反射させる反射型スクリーン10を製造する方法であって、凸状に突出するように形成される複数の単位光学要素12aが配列される偏向層12を形成する工程と、偏向層に光反射性材料を蒸着して蒸着反射部13を形成する工程と、蒸着反射部を除去する工程を有することなく、偏向層及び蒸着反射部に光を吸収可能な材料を積層して光吸収層14を形成する工程と、を含み、偏向層の単位光学要素は、フレネルレンズ形状を形成可能な第一面12b及び第二面12cを具備し、第一面がスクリーン面となす角をα、第二面がスクリーン面となす角をβとしたとき、α<βであるとともに、βは65°以上である形状を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は映像源からの光を反射して観察者側に提供するための反射型スクリーンの製造方法、及び反射型スクリーンに関する。
【背景技術】
【0002】
反射型スクリーンは、プロジェクター等の映像源からの投射光を反射させて観察者側に出射するためのスクリーンである。従って反射型スクリーンには、その裏面側に光を反射するための手段が設けられている。近年、反射型スクリーンに投射される映像のサイズが大きくなる傾向にあり、明室でも輝度やコントラスト等が向上された良質な映像を表示できる反射型スクリーンが求められている。
そのため、例えば特許文献1、2には、スクリーンに含まれるレンズ面に対し、映像光を効果的に反射させることができる部位には光を反射する材料を配置し、映像光があまり到達せずに外光を効果的に吸収させることができる部位には光を吸収する材料を配置する構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−65226号公報
【特許文献2】特開2006−330145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、上記のような構成を形成するに際しては、全面に光吸収層を形成してからその一部をアブレーションや昇華等により除去し、その後に反射層を形成する態様が記載されている。また、特許文献2には、全面に反射層を形成し、さらに全面に光吸収層を形成した上で、光吸収層の一部を除去して反射層を露出させる態様が記載されている。
しかしながら、いずれの発明においても一度全面に形成した層の一部を除去する必要があり、製造工程が複雑となる傾向にあった。
【0005】
そこで本発明は、上記の問題に鑑み、映像光の吸収を抑制しつつ、外光を効率よく吸収可能な構成を有する反射型スクリーンを生産性よく製造できる方法を提供することを課題とする。また、このような構成を有する反射型スクリーンを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0007】
請求項1に記載の発明は、映像源(2)から投射された映像光を観察者側に反射させる反射型スクリーン(10)を製造する方法であって、凸状に突出するように形成される複数の単位光学要素(12a)が配列される偏向層(12)を形成する工程と、偏向層に光反射性材料を蒸着して蒸着反射部(13)を形成する工程と、蒸着反射部を除去する工程を有することなく、偏向層及び蒸着反射部に光を吸収可能な材料を積層して光吸収層(14)を形成する工程と、を含み、偏向層の単位光学要素は、フレネルレンズ形状を形成可能な第一面(12b)及び第二面(12c)を具備し、第一面がスクリーン面となす角をα、第二面がスクリーン面となす角をβとしたとき、α<βであるとともに、βは65°以上である形状を有する、反射型スクリーンの製造方法である。
【0008】
請求項2に記載の発明は、映像源(2)から投射された映像光を観察者側に反射させる反射型スクリーン(10)であって、映像源側とは反対側に突出するように形成される複数の単位光学要素(12a)が配列される偏向層(12)と、単位光学要素に光を反射可能に配置され、蒸着により形成された部位である蒸着反射部(13)と、偏向層、及び蒸着反射部に積層され、光を吸収可能である光吸収層(14)と、を備え、偏向層の単位光学要素は、フレネルレンズ形状を形成可能な第一面(12b)及び第二面(12c)を具備し、第一面は、蒸着反射部が配置されるとともに、スクリーン面となす角がαであり、第二面は、蒸着反射部が形成されることなく、光吸収層が積層されるとともに、スクリーン面となす角がβであり、α<βであるとともに、βは65°以上である形状を有する、反射型スクリーンである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、映像光の吸収を抑制しつつ、外光を効率よく吸収可能な構成を有する反射型スクリーンを生産性よく製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】1つの実施形態を説明する図で、反射型投射システムの斜視図である。
【図2】図1を矢印IIで示した方向から見た図である。
【図3】図1にIII−IIIで示した線に沿った断面図である。
【図4】反射型スクリーンの一部を拡大した図である。
【図5】反射型スクリーンの製造工程の一部を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の上記した作用及び利得は、次に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。以下、本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。ただし、本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。なお、以下に説明する反射型スクリーンに形成される形状は実際には非常に微小なものであるため、以下に示す各図では見易さのため各形状を誇張、変形して表している。また、図面において繰り返しとなる符号はその一部のみに符号を付して他は省略することがある。
【0012】
図1は1つの実施形態を説明するための反射型投射システム1の斜視図である。図2には図1にIIで示した方向から見た図、図3には図1にIII−IIIで示した線に沿った断面図を表した。図1〜図3からわかるように、反射型投射システム1は、映像源2及び反射型スクリーン10を備えている。以下にそれぞれについて説明する。
【0013】
映像源2は、反射型スクリーン10に向けて映像光を投射する装置であり、公知のプロジェクターを用いることができる。図1〜図3からわかるように本実施形態では、映像源2は反射型スクリーン10より下方から映像光を反射型スクリーン10に向けて投射する。
【0014】
反射型スクリーン10は、全体として矩形の薄いシート状であり、使用時には展開されてスクリーン面が鉛直方向(図1の紙面上下方向)に立てられるように設置される。なお、使用時において反射型スクリーン10の平面性を確保するため、反射型スクリーン10は所定の剛性を有する不図示の支持手段に粘着剤等により貼り付けられていることが好ましい。支持手段としては板やシート状の部材を挙げることができるが、反射型スクリーン10の姿勢を維持することができれば特に限定されることはない。また、支持手段として柔軟性を有するものを用い、使用していないときにはロール状に巻いてコンパクトにすることができてもよい。
そして反射型スクリーン10は展開の姿勢で、映像源2から投射された映像光を観察者A(図1参照)の側に反射して出射することによりスクリーンとして機能する。
【0015】
本実施形態の反射型スクリーン10は、基材層11、偏向層12、蒸着反射部13、光吸収層14、及び表面機能層15を備えている。以下、各々について説明する。
【0016】
本実施形態における基材層11は、偏向層12及び表面機能層15の基材となるシート状の層で、透光性が高く形成されている。基材層11を構成する材料は特に限定されることはないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン(MBS)、アクリル系、トリアセチルセルロース(TAC)等の各樹脂を挙げることができる。本実施形態は、入手性や取り扱い容易性、成形性、及び価格等の観点からMBSを用いた。基材層11の厚さは特に限定されることはなく、100μm〜300μmであることが好ましい。
【0017】
ここで、基材層11は透光性を有しつつも、他の機能を備えてもよい。例えば視野角の拡大や面内の輝度の均一性を高めるために光散乱材を混入することができる。また、色調を修正したり、外光の一部を吸収してコントラストを向上させるために顔料や染料を混入してもよい。
【0018】
偏向層12は、基材層11のうち映像源2側とは反対側に突出するように設けられた単位光学要素12aが複数配列されてなる層である。図2からわかるように、複数の単位光学要素12aはいわゆるサーキュラーフレネルレンズ形状を基準としており、各単位光学要素12aは円弧状に延び、複数の単位光学要素12aは同心円状に並べられている。本実施形態では同心円の中心はスクリーン面より下方で、スクリーン左右方向の中央となる位置にある。本実施形態ではこのようにサーキュラーフレネルレンズ形状である例を示したが、本発明はこれに限定されることなくリニアフレネルレンズ形状を適用することも可能である。
【0019】
また、単位光学要素12aは、その延びる方向に直交する方向の断面において図3からわかるように第一面12b、第二面12cを備えている。図4には図3のうち反射型スクリーン10の一部を拡大した図を示した。図3、図4からわかるように、第一面12b及び第二面12cはフレネルレンズ形状を形成することができる面である。
【0020】
偏向層12をなす材料は特に限定されることはないが、反射型スクリーン用の材料として広く使用され、優れた機械的特性、光学特性、安定性及び加工性等を有するとともに安価に入手可能な材料を用いることが好ましい。これには例えば、アクリル、スチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、アクリロニトリル等の一以上を主成分とする透明樹脂や、エポキシアクリレートやウレタンアクリレート系の反応性樹脂(電離放射線硬化型樹脂等)を挙げることができる。
【0021】
単位光学要素12aにおいて、第一面12bがスクリーン面に平行な面と成す角度はα、第二面12cがスクリーン面に平行な面と成す角度はβであり、α<βの関係を有している(図4参照)。ここで、後述するように単位光学要素12の面に対して蒸着反射部13となる材料を蒸着するに際し、第一面12bには効率的に蒸着が行われ、第二面12cには蒸着膜がほとんど形成されないようにするため、αはなるべく小さく、かつβは90°に近い又は90°以上であることが好ましい。例えばαは50°以下であることが好ましく、βは65°以上であることが好ましい。
また、単位光学要素12aの配列ピッチはPであり、単位光学要素12aの高さ(スクリーン厚さ方向における単位光学要素12a間の谷底となる点からその頂点までの大きさ。)はhである(図4参照)。
【0022】
一例として、本実施形態の単位光学要素12aは、配列ピッチPが100μm、hの大きさが24.9μm、αが14.0°、βが90°である。また、本実施形態の単位光学要素12aの屈折率は1.55である。ただし、これらの値は例示であり、映像源の映像投射角度等に応じて適宜変更可能であり、限定されることはない。
【0023】
なお、スクリーンの位置によって映像源2からの投射光とのなす角が異なることを考慮して、αやP、hを配列方向に沿って順次変更することが基本であるが、一部又は全部の範囲でこれらを一定にしてもよい。
【0024】
蒸着反射部13は、単位光学要素12aの第一面12bの表面に蒸着により形成された反射部である。蒸着膜の種類は特に限定されることはないが、高い反射率を得ることができるという観点から銀によるものやアルミニウムによるものを挙げることができる。銀蒸着による蒸着反射部の反射率は90%〜95%、アルミニウム蒸着による蒸着反射部の反射率は80%〜90%である。ただし、反射率に加えコストの観点を考慮すれば、アルミニウムによる蒸着反射部13が好ましい。またその膜厚は0.05μm〜0.1μmが好ましい。かかる薄い膜厚でも高い反射率とすることができる。
このように第一面12bに蒸着による反射部を形成することにより高い反射率を得ることができ、明るい映像を観察者に提供することができる。具体的には上記のように60%以上の反射率とすることが可能である。
【0025】
光吸収層14は、偏向層12及び蒸着反射部13の映像源2側とは反対側に積層された層で、光を吸収する機能を有している。このような光吸収層14は黒色等の暗色系の塗料、顔料、染料、及び光吸収作用を有するビーズ等を含有する熱硬化型樹脂、又は紫外線硬化樹脂により形成することができる。本実施形態では、光吸収層14は黒色顔料を含む塗料により形成されており、その厚さは5μm〜30μmの範囲で設定可能である。
本実施形態によれば、単位光学要素12aの第二面12cには上記した蒸着反射部13が形成されないので、当該第二面12cには光吸収層14が積層されることなる。すなわち、後述するように第二面12cに達した光を吸収することができる。
【0026】
表面機能層15は、基材層11より映像源2側に設けられる層である。この表面機能層15は、反射防止機能、防眩機能、紫外線吸収機能、防汚機能、及び帯電防止機能等のうちのいずれか、又は複数の機能を有するように形成することができる。このような機能を具備させるための手段は公知の方法を適用することができる。例えば防汚機能及び耐擦傷機能を有するために、基材層11の映像源2側にハードコート機能を有するウレタンアクリレート等の電離放射線硬化型樹脂を厚さ20μm程度で形成する。
【0027】
次に、反射型投射システム1において、反射型スクリーン10に入射する映像光の進路について図3、図4に示した光路例L1、L11、L12を例に説明する。ただし、図に表した光路例は概念的に光の進路を表したものであり、屈折の程度や反射の角度を精密に表したものではない。
【0028】
映像源2から投射された映像光L1は、反射型スクリーン10の下方から入射し、表面機能層15及び基材層11を透過して偏向層12の単位光学要素12aに入射する。そして、図3、図4に示すように映像光L1は、単位光学要素12aの第一面12bに入射し、蒸着反射部13によって反射する。ここで、蒸着反射部13による映像光L1の反射は、第一面12bの傾斜角αの作用によりスクリーン面の法線方向に近づく方向(すなわち反射型スクリーン10の正面に存する観察者にとって観察し易い方向)に向きが変えられる。そして映像光L1は基材層11及び表面機能層15を透過して観察者に提供される。
【0029】
一方、映像光以外の光である外光(照明からの光等)L11、L12は、あらゆる角度から反射型スクリーン10に入射する可能性があるが、その中でも天井照明からの光が最も主要な光であると考えられる。外光L11、L12も天井照明からの外光を想定しており、反射型スクリーン10の斜め上方から反射型スクリーン10に入射する。外光L11は反射型スクリーン10の斜め上方から入射し、表面機能層15及び基材層11を透過して偏向層12の単位光学要素12aに入射する。そして、図3、図4に示すように外光L11は、単位光学要素12aの第一面12bに入射し、蒸着反射部13によって反射する。ここで、蒸着反射部13による外光L11の反射は、第一面12bの傾斜角αの作用により反射型スクリーン10の下方斜めに反射され、観察者には直接届かない光となる。また、外光L12は反射型スクリーン10の上方から入射し、表面機能層15及び基材層11を透過して偏向層12の単位光学要素12aに入射する。そして、図3、図4に示すように外光L12は、単位光学要素12aの第二面12cに入射し、光吸収層14に吸収される。
【0030】
以上のように、反射型スクリーン10により、映像光は観察者に向けられるように反射され、外光は観察者に届かないように反射又は吸収される。ここで、映像源2からの映像光はスクリーンの斜め下方から反射型スクリーン10に入射する。すなわち、単位光学要素12aの第二面12cは、その単位光学要素12aの下方に隣接する単位光学要素12aの死角となり映像光の反射に寄与しない。これに対して、反射型スクリーン10では当該寄与しない第二面12cに光吸収層14が表れるので、映像光が光吸収層14に吸収されることを大幅に抑制することができる。一方、外光は上記したように反射や吸収により効率よく観察者に届かないように制御される。従って、反射型スクリーン10によれば、映像光の吸収を抑えつつ、効率良く外光を吸収することができ、画面の明るさとコントラスト向上を図ることが可能である。また蒸着反射部13は蒸着により形成された反射部なので、高い反射率を得ることができる。
【0031】
次に反射型スクリーン10の製造方法の一例を説明する。図5(a)、図5(b)、図5(c)に製造工程の一部を説明する図を示した。
【0032】
図5(a)に示したように、基材層11上に偏向層12を形成する。これは例えば当該偏向層12の形状を転写可能な金型を作製し、金型と基材層11との間に紫外線硬化樹脂を充填してから基材層11側から紫外線を照射して硬化させることにより行うことができる。
【0033】
次に、図5(b)に示すように、基材層11と偏向層12との積層体を蒸着装置に設置し、偏向層12側から蒸着をおこない、蒸着反射部13を形成する。ここで、蒸着は偏向層12の全面にわたって行われるが、単位光学要素12aの第一面12b及び第二面12cの上記構成により、第一面12bには適切に蒸着膜が形成される。一方、第二面12cには蒸着膜が形成されない、又は蒸着物質が第二面12cに付着するとしてもその量はわずかである。ここで、蒸着の方法は特に限定されるものではなく、公知のものを用いることができる。これには例えば真空蒸着法、スパッタリング法等を挙げることができる。ただし、量産性及びコストの観点から真空蒸着法によるものが好ましい。
【0034】
次に図5(c)に示すように、塗布や印刷等により、単位光学要素12及び蒸着反射部13に光吸収材料を積層して光吸収層14を形成する。そして、基材層11の偏向層12が配置された側とは反対側には、公知の方法により表面機能層15を形成することができる。
【0035】
なお、本実施形態では偏向層12にサーキュラーフレネルレンズ形状を適用した例を示したので、当該形状の性質上、反射型スクリーンを製造する上記各工程は枚葉で行われることが好ましい。一方、偏向層にリニアフレネルレンズ形状を適用した場合には、偏向層を金型ロールや押し出し法により連続的に帯状に形成することが可能である。また蒸着反射部を形成する際にも、ロール状に巻いた当該帯状の積層体を順次巻き出しながら連続的に蒸着することができる。
【0036】
以上のような製造方法によれば、偏向層の全面にわたって蒸着をしても、当該蒸着反射部を必要としない第二面には蒸着膜はほとんど形成されない。従って、そのあとに光吸収層を形成するのみで、第一面12bは反射面となり、第二面12cは光吸収面となる。すなわち一度形成した層の一部を除去する工程の必要がないので、製造工程を簡素化することができ、生産性を高めることが可能となる。
【0037】
以上説明した反射型スクリーン10では、表面機能層15と基材層11との間に他の機能を有する層がさらに積層されていてもよい。これには例えば減光層や光散乱層を挙げることができる。
【0038】
光散乱層は、母材中に光散乱材が混入され、これにより映像光の視野角を拡大して画面内の輝度の均一性を向上させることができる。母材を構成する材料は特に限定されることはないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン(MBS)、アクリル系、トリアセチルセルロース(TAC)等の各樹脂を挙げることができる。一方、光散乱材は、一例として、平均粒径が1.0μm〜100μm程度であるシリカ(二酸化珪素)、アルミナ(酸化アルミニウム)、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコーン樹脂等の透明物質からなる粒子を用いることができる。これによれば母材と光散乱材との屈折率差による界面反射、界面屈折を利用して光を散乱させることができる。
【0039】
減光層は、外光の一部を吸収してコントラストを向上させる機能を有する層である。このような減光層は、母材となる樹脂に黒色の顔料が染料を混濁させたものを挙げることができる。母材を構成する材料は特に限定されることはないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン(MBS)、アクリル系、トリアセチルセルロース(TAC)等の各樹脂を挙げることができる。
このような減光層によれば、反射型スクリーンに入射される映像光以外の光の少なくとも一部を吸収させることができ、観察者に提供される映像光のコントラストを向上させることができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。ただし、本発明は本実施例に限定されるものではない。
ここでは、実施例1、2及びこれに対する比較例1、2にかかる反射型スクリーンを作製し、コントラストを算出した。
【0041】
実施例1、2、比較例1、2にかかる反射型スクリーンでは、観察者側から表面機能層、減光層、光散乱材を混入した基材層、偏向層、蒸着反射部、を有するものとした。実施例1、2では、さらに光吸収層を形成した。各層の概要は次の通りである。
【0042】
(表面機能層)
表面機能層はハードコート機能を有する層とし、その厚さは15μmとした。全ての実施例、比較例で同じ表面機能層を用いた。
(減光層)
減光層は外光の一部を吸収することができる層として70μmの厚さで構成し、実施例1、比較例1では光吸収率を20%、実施例2、比較例2では光吸収率を30%とした。
(基材層)
基材層には光散乱剤を混濁し、光散乱機能を有するものとした。その厚さは140μmである。全ての実施例、比較例で同じ基材層を用いた。より詳しくは、基材層はMBS(電気化学工業製TP−840、屈折率1.55)を母材とする。そして、その中に約φ10μmのアクリル系の光散乱材(ガンツ化成製GSM1050、屈折率1.50)を30パーツ(重量比率は母材:光散乱材=100:30)で混ぜ合わせて形成した。
(偏向層)
偏向層はリニアフレネルレンズ形状とし、第一面のαを14.0°、第二面のβを90.0°、ピッチPを100μm、高さhを24.9μmとした。全ての実施例、比較例で同じ偏向層を用いた。なお、偏向層はアクリル系紫外線樹脂(DIC製 NA−22s)により形成した。
(蒸着反射部)
蒸着反射部は、アルミニウムを蒸着することにより1μm以下の蒸着膜を得ることで形成した。全ての実施例、比較例で同じ条件で形成した。蒸着は上記説明したようにおこない、枚葉でバッチ処理し、アルミ材料を真空環境(10−2〜10−3Torr)で電熱加熱することで蒸着させた。実際の膜厚は0.05μm〜0.06μmであった。
(光吸収層)
光吸収層は、黒色塗料(ニッペホームペイント製、06ブラック)をバーコート法にて塗布することにより形成した。
【0043】
このような実施例、比較例にかかる反射型スクリーンを、電灯を点灯することにより明室条件とされた部屋に鉛直に展開して設置した。より詳しくは次の通りである。
設置された反射型スクリーン上に測定点Qを設定した。当該測定点Qは、天井に設置された電灯から光(外光)が斜め上方45°から入射する位置とした。また測定点Qにおける環境照度(スクリーン面法線方向)は150lx(デジタル照度計 T−1により測定。)であった。
測定点Qからスクリーン面法線方向に3m離隔した位置に輝度計(ミノルタ LS−110)を設置した。測定点Q及び輝度計の床面からの高さ位置は1mであった。
映像源としては、日立超短焦点プロジェクタED−A100(株式会社日立製作所)を用いた。設置位置は測定点Qを通り、単位光学要素の延びる方向に鉛直な面上で測定点Qへの投射光の入射角が47°となるように配置した。測定点Qにおける照度(スクリーン面の法線方向)は1000lxであった。
【0044】
以上のような条件でコントラストを算出した。コントラストは明室白輝度と、映像源をOFFした時の輝度との比(明室白輝度/映像源OFF時の輝度)により得ることができる。表1に結果を示す。明室白輝度は映像源で白色光を照射したときの輝度を測定して得た。
【0045】
【表1】

【0046】
表1からわかるように、実施例1、2では、比較例1、2に対して明室白輝度を概ね維持したままコントラストを大きく向上させることができた。すなわち、単位光学要素の第二面において効率よく光が吸収されていることがわかる。
【符号の説明】
【0047】
1 反射型投射システム
2 映像源
10 反射型スクリーン
11 基材層
12 偏向層
13 蒸着反射部
14 光吸収層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
映像源から投射された映像光を観察者側に反射させる反射型スクリーンを製造する方法であって、
凸状に突出するように形成される複数の単位光学要素が配列される偏向層を形成する工程と、
前記偏向層に光反射性材料を蒸着して蒸着反射部を形成する工程と、
前記蒸着反射部を除去する工程を有することなく、前記偏向層及び前記蒸着反射部に光を吸収可能な材料を積層して光吸収層を形成する工程と、を含み、
前記偏向層の前記単位光学要素は、フレネルレンズ形状を形成可能な第一面及び第二面を具備し、
前記第一面がスクリーン面となす角をα、前記第二面がスクリーン面となす角をβとしたとき、α<βであるとともに、前記βは65°以上である形状を有する、
反射型スクリーンの製造方法。
【請求項2】
映像源から投射された映像光を観察者側に反射させる反射型スクリーンであって、
前記映像源側とは反対側に突出するように形成される複数の単位光学要素が配列される偏向層と、
前記単位光学要素に光を反射可能に配置され、蒸着により形成された部位である蒸着反射部と、
前記偏向層、及び前記蒸着反射部に積層され、光を吸収可能である光吸収層と、を備え、
前記偏向層の前記単位光学要素は、フレネルレンズ形状を形成可能な第一面及び第二面を具備し、
前記第一面は、前記蒸着反射部が配置されるとともに、スクリーン面となす角がαであり、
前記第二面は、前記蒸着反射部が形成されることなく、前記光吸収層が積層されるとともに、スクリーン面となす角がβであり、
α<βであるとともに、前記βは65°以上である形状を有する、
反射型スクリーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−252228(P2012−252228A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125755(P2011−125755)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】