反射型光電式エンコーダ用スケール及び光電式エンコーダ
【課題】回折効率の安定性を向上させた光学格子を有するスケールを提供する。
【解決手段】スケールの基板17の上にタングステンからなる第1の金属層21を形成し、この上にクロムからなる第2の金属層23を形成する。レジスト27をマスクにしてかつ第1の金属層21をエッチングストッパにして、第2の金属層23を選択的に除去することにより、光学格子19を形成する。光学格子19は位相格子であり、その側壁角度が80度より大きく、且つ、90度未満にされている。
【解決手段】スケールの基板17の上にタングステンからなる第1の金属層21を形成し、この上にクロムからなる第2の金属層23を形成する。レジスト27をマスクにしてかつ第1の金属層21をエッチングストッパにして、第2の金属層23を選択的に除去することにより、光学格子19を形成する。光学格子19は位相格子であり、その側壁角度が80度より大きく、且つ、90度未満にされている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精密測定に使用される光電式エンコーダ及びこのスケールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から直線変位や角度変位などの精密な測定に光電式エンコーダ(以下、「エンコーダ」という場合もある。)が利用されている。エンコーダは三次元測定機や画像測定機などに搭載される。エンコーダによる測定を簡単に説明すると次のようになる。
【0003】
光源部及び受光部をスケールに対して相対移動させながら、空間位相の異なる複数のインデックス格子を択一的に介して光源部からの光をスケールの光学格子に照射する。これにより生成された位相の異なる複数(例えば四つ)の正弦波状の光信号を、それぞれの位相に対応する複数のフォトダイオード(受光部)で受光し、光電変換されて発生した電気信号を利用して直線などの変位量が測定される。
【0004】
さて、エンコーダには、(a)光学格子に照射された光がスケールを透過し、この透過光を測定に利用する透過型や、(b)光学格子に照射された光がスケールで反射し、この反射光を測定に利用する反射型がある。反射型の光学格子の材料として、クロムがよく用いられる。
【0005】
反射型の光学格子は、クロム層のような光反射層に凹凸を規則的に設けた構造を有する。凹凸を光反射層に形成する際に加工深さに不均一が生じると、面内分布や繰り返し精度のばらつきが大きくなる。ここで、面内分布のばらつきとは、一つの光学格子において加工深さが位置によって異なることである。また、繰り返し精度のばらつきとは、複数の光学格子同士において加工深さが異なることである。受光部で受光される光信号はスケールの光学格子で生成されるので、上記ばらつきは測定精度向上の妨げとなる。つまり、上記ばらつきが原因で光学格子の回折効率が低下し、測定精度が悪くなるのである。
【0006】
光学格子の加工深さを均一にするのに、例えば次の二つの方法がある。一つは、シリコン基板とシリコン酸化層とのエッチングレートの差を利用し、シリコン基板をエッチングストッパとして、シリコン基板上に形成されたシリコン酸化層を選択的にエッチングすることにより、回折格子(光学格子)となる凹凸を形成する技術である(例えば特許文献1)。
【0007】
他の一つは、上層クロム、シリコン酸化層、下層クロムの三層構造とし、上層クロムをマスクにすると共に下層クロムをエッチングストッパにして、シリコン酸化層を選択的にエッチング除去して、位相格子(光学格子)となる凹凸を形成する技術である(例えば特許文献2)。
【0008】
ここで、反射型光電式エンコーダ用スケールの一般的な構造を図12で説明する。スケールは、基板101の長手方向(図の左右方向)に多数の位相格子103が、一定の間隔(ピッチ)pで、紙面に垂直な方向に多数並列配置された構造を有する。
【0009】
このようなスケールを用いた光電式エンコーダの信号強度の指標となる回折効率は、格子形状や寸法(格子線幅w、格子高さh、側壁角度θ)に依存する。スケール加工において、格子形状や寸法のばらつき(格子線幅wのばらつきΔw=40nm、格子高さhのばらつきΔh=10nm、側壁角度θのばらつきΔθ=5度程度)が発生する。特に、長尺のスケールについては、格子形状や寸法を広域に亘って均一に加工することは難しい。このため、格子形状や寸法のばらつきが原因で、回折効率のばらつきが生じる場合がある。このような場合、安定した高い回折効率を得ることが難しい。
【0010】
このような問題点を解決するべく、特許文献3には、図13に示すように、w=256〜384nm、h=160〜210nmの位相格子103の全面に、導電性の金属膜、特にクロム製の反射膜105が付された位相格子を有するスケールを、λ=670μm、p偏光の光源部と組み合わせる場合、側壁角度θを70度±10度にすることが記載されている。なお、位相格子103は、例えば二酸化珪素、二酸化チタン、五酸化タンタルあるいは酸化アルミニウム等の誘電体で形成されている。
【特許文献1】特開平7−113905号公報(段落[0043]、図1)
【特許文献2】特開平8−286020号公報(段落[0010]〜[0013]、図1〜図3)
【特許文献3】特開平10−318793号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、回折効率の安定性を向上させた反射型光電式エンコーダ用スケール、その製造方法及びそのスケールを含む光電式エンコーダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る光電式エンコーダは、クロム及びタングステンのうちの一方を含む第1の金属層とクロム及びタングステンのうちの他方を含むと共に第1の金属層の上に所定のピッチで配列形成された複数の第2の金属層とを有する反射型の光学格子が配置されたスケールと、光学格子に照射する光を発生する光源部と、光学格子で反射された光源部からの光を受光すると共に光源部と一緒にスケールに対して相対移動可能である受光部と、を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る光電式エンコーダによれば、第1の金属層がタングステンの場合は第2の金属層がクロムであり、第1の金属層がクロムの場合は第2の金属層がタングステンである。このように、第1の金属層と第2の金属層とは異なる金属材料からなるため、エッチングレートを異ならせることができる。よって、第1の金属層をエッチングストッパとして第2の金属層をパターニングして光学格子を形成することにより、光学格子の加工深さを均一にすることができる。また、クロムとタングステンは密着性が優れているため、光学格子の機械的強度を高くすることができる。
【0014】
本発明に係る光電式エンコーダにおいて、複数の第2の金属層上には、第1の金属層と同じ金属を含む複数の第3の金属層が形成されている、ようにすることができる。これによれば、光学格子の凹部表面が第1の金属層であり、凸部表面が第3の金属層である。これらの金属層は同じ材料なので、光学格子の光の反射率を均一にすることができ、したがって、測定精度を向上させることができる。また、第2の金属層と第3の金属層とは異なる材料なので、第2の金属層をパターニングして光学格子を形成する際に第3の金属層をマスクとして用いることができる。よって、光学格子の加工形状の制御性を向上させることができる。
【0015】
本発明に係る光電式エンコーダにおいて、第1の金属層はクロムを含み、複数の第2の金属層はタングステンを含み、複数の第3の金属層はクロムを含む、ようにすることができる。これによれば、光学格子の凹部表面、凸部表面のいずれもがクロムとなる。クロムはタングステンよりも光の反射率が高いため、測定精度を向上させることができる。
【0016】
本発明に係る光電式エンコーダにおいて、第3の金属層は第2の金属層より厚みが薄い、ようにすることができる。これによれば、主に第2の金属層により、光学格子の凹部表面と凸部表面の段差が形成される。タングステンからなる第2の金属層はクロムからなる第3の金属層よりもエッチングしやすいので、光学格子の加工形状の制御性を向上させることができる。
【0017】
本発明は、位相格子の側面に反射膜が付されていない反射型光電式エンコーダ用スケールにおいて、前記位相格子の側壁角度が80度より大きく、且つ、90度未満であることにより、回折効率の安定性を向上させたものである。
【0018】
本発明は、又、基板上に一様な反射膜を備え、その上に前記反射膜と反射率が異なる材質からなる位相格子を備え、この位相格子の上端に前記反射膜と同じ材質からなる反射膜を備え、前記位相格子の側壁角度が80度より大きく、且つ、90度未満であることを特徴とする反射型光電式エンコーダ用スケールにより、回折効率の安定性を向上させたものである。
【0019】
本発明は、又、前記のスケールを備えたことを特徴とする反射型光電式エンコーダを提供するものである。
【0020】
本発明に係る光電式エンコーダのスケールの製造方法は、基板上にクロム及びタングステンのうちの一方を含む第1の金属層を形成する工程と、第1の金属層の上にクロム及びタングステンのうちの他方を含む第2の金属層を形成する工程と、第1の金属層をエッチングストッパとして第2の金属層を選択的にエッチング除去することにより反射型の光学格子を形成する工程と、を備えることを特徴とする。
【0021】
本発明に係るスケールの製造方法によれば、第1の金属層をエッチングストッパとして第2の金属層をパターニングすることにより反射型の光学格子を形成しているため、光学格子の凹部(溝)の加工深さが均一な光学格子を有するスケールを作製することができる。また、クロムとタングステンは密着性が優れているので、機械的強度の高い光学格子を有するスケールを作製することができる。
【0022】
本発明に係るスケールの製造方法において、第2の金属層の形成工程と光学格子の形成工程との間に、第2の金属層の上にクロム及びタングステンのうちの上記一方を含む第3の金属層を形成する工程と、第2の金属層をエッチングストッパとして第3の金属層を選択的にエッチング除去する工程と、を含み、光学格子の形成工程は、第3の金属層をマスクにして第2の金属層を選択的にエッチング除去する、ようにすることができる。これによれば、光学格子の凹部表面(第1の金属層)と凸部表面(第3の金属層)が同じ材料なので、光の反射率が均一な光学格子を有するスケールを作製することができる。また、第3の金属層をマスクとして第2の金属層をエッチング除去するので、エッチング時の側壁後退(CDロス)をレジストマスクにより抑えることができ、光学格子の加工形状の制御性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、第1の金属層をエッチングストッパにして、第2の金属層をパターニングして光学格子を形成することにより、光学格子の加工深さを均一にすることができる。これにより、光学格子の回折効率の安定性を向上させることができる。
【0024】
また、本発明によれば、位相格子の側面に反射膜が付されていない反射型光電式エンコーダ用のスケールにおいて、格子形状や寸法にばらつきがある場合でも、安定した高い回折効率が得られ、かつ、加工による格子形状や寸法のばらつきを許容することができる。これにより、安定した高い回折効率を持つ反射型光電式エンコーダ用スケールを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1実施形態に係る光電式エンコーダの概略構成を示す図である。
【図2】第1実施形態に係る光電式エンコーダに備えられるスケールの一部の拡大断面図である。
【図3】第1実施形態に係るスケールの製造方法の第1工程図である。
【図4】同第2工程図である。
【図5】比較例に係るスケールの一部の拡大断面図である。
【図6】第2実施形態に係るスケールの一部の拡大断面図である。
【図7】第2実施形態に係るスケールの製造方法の第1工程図である。
【図8】同第2工程図である。
【図9】第3実施形態に係るスケールの一部の拡大断面図である。
【図10】第3実施形態における光学格子の側壁角度θと相対回折効率との関係を示すグラフである。
【図11】比較例における光学格子の側壁角度θと相対回折効率との関係を示すグラフである。
【図12】反射型光電式エンコーダ用スケールの一般的な格子形状を示す断面図である。
【図13】特許文献3に係る反射型光電式エンコーダ用スケールの格子形状を示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について説明する。
【0027】
[第1実施形態]
第1実施形態は、第1の金属層(タングステン)上に所定のピッチで複数の第2の金属層(クロム)が配列形成された反射型の光学格子を、光電式エンコーダのスケールに配置した点を主な特徴にしている。まず、第1実施形態に係る光電式エンコーダ1の構成について説明する。図1は、エンコーダ1の概略構成を示す図である。エンコーダ1は、光源部3と、ここで発生した光が照射される光学格子を含むスケール5と、この光学格子で反射された光を受光する受光部7と、により構成される。
【0028】
光源部3は、発光ダイオード(LED)9を備えている。また、光源部3は、発光ダイオード9からの光が照射される位置に配置されたインデックス格子11を備える。インデックス格子11は、長尺状の透明基板13の面うち、発光ダイオード9側に向く面と反対側の面上に形成されている。インデックス格子11は複数の遮光部15が所定のピッチを設けてリニヤ状に配置されたものである。
【0029】
透明基板13のインデックス格子11側には、この格子11と所定のギャップを設けてスケール5が配置されている。スケール5はインデックス格子11よりも長手方向の寸法が大きく、図1にはその一部が表れている。図2はスケール5の一部の拡大断面図である。図1および図2を参照して、スケール5の構造を詳細に説明する。
【0030】
スケール5はガラスやシリコン等から構成される長尺状の基板17を含む。基板17の一方の面がインデックス格子11と対向している。そして、この一方の面上には、光学格子19が配置されている。光源部3からの光はインデックス格子11を介して光学格子19に照射される。光学格子19は、ベースとなる第1の金属層21及びこの上に選択的に形成された複数の第2の金属層23を備える。言い換えれば、複数の第2の金属層23は所定のピッチを設けてリニヤ状に配置されている。第1の金属層21及び複数の第2の金属層23により凹凸パターンが構成される。第1の金属層21の材料はタングステンであり、第2の金属層23の材料はクロムであるが、その逆でもよい。
【0031】
次に受光部7について図1を用いて説明する。受光部7は透明基板13の面のうち光学格子19が形成された面側に、所定のギャップを設けて配置されている。受光部7は、受光面が光学格子19側に向くように配置された複数のフォトダイオード25を含む。これにより、光学格子19で反射された光源部3からの光がフォトダイオード25により受光される。複数のフォトダイオード25は所定のピッチを設けてリニヤ状に、透明基板13に配置されている。よって、本実施形態では受光部7とインデックス格子11とが同じ透明基板13に形成されていることになる。
【0032】
受光部7およびインデックス格子11を含む透明基板13と発光ダイオード9は図示しない筐体に納められており、この筐体は、スケール5の長手方向に対応する測定軸xに沿って移動可能にされている。なお、スケールが移動可能で筐体が固定でもよい。つまり、スケール5は上記筐体に対して測定軸xに沿って相対移動可能にされている。
【0033】
次に、光電式エンコーダ1の測定動作について説明する。発光ダイオード9から光をインデックス格子11に照射すると、この格子11により明暗パターンが生じる。そして、光源部3及び受光部7を含む上記筐体を測定軸xに沿って移動させると、明暗パターンの変化(正弦波状の光信号)が生じる。詳しくは、タングステンからなる第1の金属層21で反射された光(例えば光L1)と、クロムからなる第2の金属層23で反射された光(例えば光L2)との位相差により干渉された光の信号が生じる。光学格子19は位相格子として機能している。
【0034】
この信号に含まれる互いに空間位相が異なる四つの成分、具体的には、A相(0度)の光信号、A相より90度だけ位相がずれたB相(90度)の光信号、A相より180度だけ位相がずれたAA相(180度)の光信号およびA相より270度だけ位相がずれたBB相(270度)の光信号、はそれぞれに対応するフォトダイオード25で検出される。
【0035】
各フォトダイオード25で発生した電気信号がICチップ(図示せず)に送られる。ICチップでは、A相およびB相に所定の処理(直流成分の除去等)をした後に、処理されたA相およびB相を基にして変位量が演算される。この結果を図示しない表示部に出力する。以上が光電式エンコーダ1の動作である。
【0036】
次に、第1実施形態に係るスケール5の製造方法の一例について説明する。図3及び図4はこれを説明するための工程図であり、図2の断面図と対応する。図3に示すように、基板17上に、例えばスパッタリングにより、タングステンからなる厚さ0.03μm以上の第1の金属層21を形成する。そして、クロムからなる厚さ0.1〜0.3μm程度の第2の金属層23を、例えばスパッタリングにより、第1の金属層21の上に形成する。第2の金属層23の厚みが、光学格子の加工深さd(格子高さ)に対応する。
【0037】
図4に示すように、フォトレジスト27を第2の金属層23上に形成する。フォトレジスト27を光学格子のパターンに対応するように露光した後、現像する。そして、このフォトレジスト27をマスクとして、第1の金属層21をエッチングストッパとして、第2の金属層23を選択的にドライエッチングすることにより、光学格子19を形成する。そして、第2の金属層23上に残っているフォトレジスト27を通常の方法で剥離することにより、図2に示すスケール5が完成する。
【0038】
上記ドライエッチングのガスとしては、例えば塩素系ガスがある。このガスによれば、クロムのエッチング速度をタングステンのそれよりも大きくできるため、第1の金属層(タングステン)21をエッチングストッパとして、第2の金属層(クロム)23を選択的に除去できる。なお、第1の金属層21の材料がクロム、第2の金属層23の材料がタングステンの場合は、ドライエッチングのガスとして、CF4ガスを例示できる。
【0039】
第1実施形態の第1の効果について、比較例と比較しながら説明する。図5は、比較例に係るスケール31の一部の拡大断面図であり、図2と対応する。スケール31は、基板17上にクロム層33からなる光学格子35が形成されている。
【0040】
スケール31は以下のようにして作製する。基板17上にクロム層33を形成する。そして、第1実施形態と同様に図4に示すフォトレジスト27をクロム層33の上に形成する。フォトレジスト27をマスクとしてクロム層33を、目標の加工深さに到達するまで選択的にドライエッチングする。
【0041】
しかしながら、エッチングは基板17上の位置に応じて速度が異なるため、比較例のようにエッチングストッパがないと、光学格子35の凹部(溝)の加工深さdにばらつきが生じる(面内分布のばらつき)。また、エッチングを目標の加工深さで精度よく止める制御は困難であるため、比較例のようにエッチングストッパがない場合、光学格子35と、これと同じ方法で形成された光学格子とを比較すると、加工深さdが異なる(繰り返し精度のばらつき)。
【0042】
これに対して、第1実施形態によれば、第1の金属層21をエッチングストッパとして、第2の金属層23を選択的にエッチングしている。したがって、第2の金属層23の厚みを加工深さと同じにすることにより、図2に示すように、光学格子19の凹部の加工深さdが均一な光学格子19を作製することができる。よって、光学格子19の面内分布や繰り返し精度に大きなばらつきが生じるのをなくすことができるため、光電式エンコーダ1の測定精度を向上させることができる。
【0043】
第1実施形態の第2の効果は、以下の通りである。シリコン基板をエッチングストッパとして、シリコン基板上に形成されたシリコン酸化層を選択的にエッチングすることにより、光学格子を形成する場合、シリコン酸化層は通常透明なので、反射型の光学格子にするためには光学格子の上に反射層をさらに形成する必要がある。第1実施形態によれば、第1の金属層21がタングステン、第2の金属層23がクロムであり、いずれも光の反射率が高いので、新たな反射層を形成する必要がない。
【0044】
第1実施形態の第3の効果を説明する。第1の金属層21がタングステン、第2の金属層23がクロムである。クロムとタングステンは密着性が優れているので、上層クロム、シリコン酸化層、下層クロムの三層構造の光学格子に比べて、光学格子の機械的強度を高くすることができる。
【0045】
[第2実施形態]
第2実施形態は、第1の金属層(クロム)上にピッチを設けて複数の第2の金属層(タングステン)を形成し、複数の第2の金属層上にそれぞれ第3の金属層(クロム)を形成した反射型の光学格子を、光電式エンコーダのスケールに配置した点を主な特徴にしている。第2実施形態については、第1実施形態と相違する点を中心に説明する。第2実施形態を説明する図において第1実施形態で説明した図の符号で示すものと同一のものについては、同一符号を付すことにより説明を省略する。
【0046】
図6は、第2実施形態に係るスケール5の一部の拡大断面図であり、図2と対応する。複数の第2の金属層23上に複数の第3の金属層29が形成されている。第1の金属層21の材料はクロム、第2の金属層23の材料はタングステン、第3の金属層29の材料はクロムである。第2実施形態によれば、光学格子19の凹部表面が第1の金属層21であり、凸部表面が第3の金属層29である。これらの金属層は同じ材料(クロム)である。したがって、光学格子19の光の反射率を均一にすることができるため、測定精度を向上させることができる。また、クロムはタングステンよりも光の反射率が高いので、この点からも測定精度を向上させることができる。なお、第1の金属層21の材料をタングステン、第2の金属層23の材料をクロム、第3の金属層29の材料をタングステンにしてもよい。
【0047】
第2実施形態によれば、第2の金属層23の厚みと第3の金属層29の厚みの合計が加工深さd(格子高さ)となる。第3の金属層29の厚みは例えば0.03〜0.1μmであり、第2の金属層23の厚みは例えば0.07〜0.2μmである。したがって、第3の金属層29は第2の金属層23より厚みが薄い。このため、光学格子19の凹部表面と凸部表面の段差は主に第2の金属層23により形成される。第2の金属層(タングステン)23の反応生成物は第3の金属層(クロム)29の反応生成物よりも蒸気圧が高くエッチングしやすいので、加工選択比が高く光学格子19の加工形状の制御性を向上させることができる。よって、高精度の光学格子19にすることができる。
【0048】
第2実施形態に係るスケール5の製造方法の一例について説明する。図7及び図8はこれを説明するための工程図であり、図6の断面図と対応する。図7に示すように、クロムからなる第1の金属層21、タングステンからなる第2の金属層23、クロムからなる第3の金属層29を、順に例えばスパッタリングにより形成する。第2の金属層23の厚みに第3の金属層29の厚みを加えた値が図6に示す加工深さdとなる。
【0049】
図8に示すように、第1実施形態で説明したフォトレジスト27をマスクとして、塩素系ガスにより、第3の金属層(クロム)29をドライエッチングして選択的に除去する。このとき、第2の金属層(タングステン)23がエッチングストッパとなる。そして、フォトレジスト27を除去する。ガスをCF4等のフッ素系ガスに替えて、第3の金属層29をマスクにして第2の金属層23をドライエッチングすることにより、選択的に除去する。このエッチングでは第1の金属層(クロム)21がエッチングストッパとなる。以上の工程により、図6に示すスケール5が完成する。
【0050】
第2実施形態によれば、第3の金属層29をマスクとして第2の金属層23をエッチング除去している。したがって、エッチング時の側壁後退(CDロス)をレジストマスクにより抑えることができるため、光学格子19の加工形状の制御性を向上させることができる。
【0051】
[第3実施形態]
図13に示すスケールと異なり、位相格子103の側面107に反射膜が付されていないスケールは、必ずしも安定した回折効率が得られなかった。
【0052】
特に、位相格子103に(110)シリコンが使われる場合、通常の異方性エッチングにより位相格子103を形成すると、側壁角度(エッジ角度とも言う)は70度近辺になる。このような角度では、高い回折効率が得られない。第3実施形態によれば、位相格子の側面に反射膜が付されていないスケールでも、安定した回折効率を得ることができる。
【0053】
図9は、第3実施形態に係るスケール5の一部の拡大断面図である。第3実施形態は、光学格子19の側壁角度θが80度より大きく、かつ90度未満である点を特徴にしている。第3実施形態に係るスケール5は、本発明の発明者等の実験に基づいてなされたものである。
【0054】
光学格子19は、高い回折効率が得られ、かつ格子形状と寸法のばらつきに対してロバストであるのが好ましい。発明者等は、回折効果のシミュレーションに関する市販のプログラムを用いて、このような効果を得られる光学格子の形状、寸法を求めた。
【0055】
シミュレーションに用いたスケール5について図9を用いて説明する。ガラスからなる基板17の表面には、反射膜として機能する第1の金属層21(一様な反射膜)が配置されている。格子として機能する複数の第2の金属層23の上面にのみ第1の金属層21と同じ材料の第3の金属層29が配置されている。第1及び第3の金属層21,29の材料をクロムにし、第2の金属層23の材料をタングステンにした。格子線幅wとピッチpの比w/pを0.40〜0.58にし、格子高さhを110〜160nmにした。なお、シミュレーションに用いた光源部からの光は、p偏光で、その波長が633nmであった。
【0056】
シミュレーションの結果を図10に示す。横軸は、光学格子19の側壁角度θである。縦軸は、光学格子19の相対回折効率の変動である。ここで、回折効率とは、入射光光量に対する回折光光量の割合である。つまり、回折効率=回折光光量/入射光光量である。相対回折効率とは、ある回折効率の値を1にしたときのその他の回折効率の割合である。具体的な数値で説明すると、以下の通りである。入射光光量=2000μW、回折光光量A=1200μW、回折光光量B=1000μW、回折光光量C=800μWとし、回折効率60%を「1」とする。
【0057】
回折光光量Aの回折効率=1200/2000=60%
回折光光量Bの回折効率=1000/2000=50%
回折光光量Cの回折効率=800/2000=40%
回折光光量Aの相対回折効率=60/60=1
回折光光量Bの相対回折効率=50/60=0.83
回折光光量Cの相対回折効率=40/60=0.67
さて、図10に基づく結果を考察する。側壁角度θが80度や90度の場合でも、相対回折効率は高く、かつ変動が小さい。しかし、側壁角度θを90度に加工するには、ドライエッチング工程において、次のことが必要となる。(1)エッチング時間を長くしたり、エッチングイオンエネルギーを増加させたりして、オーバーエッチングを多くする。(2)エッチングマスクの耐プラズマ性を向上させる。したがって、側壁角度θを90度に加工するのは、比較的難しい。
【0058】
一方、側壁角度θを80度以下に加工するのは、比較的容易であるが、格子線幅wや格子高さhのばらつきに対して、相対回折効率が敏感に変動する。以上より、光学格子19の側壁角度θは80度より大きく、かつ90度未満であるのが好ましい。
【0059】
比較のため、特許文献3に記載された従来例のシミュレーションの結果を図11に示す。このシミュレーションにおける格子線幅wとピッチpの比w/p、格子高さh、シミュレーションに用いた光源部からの光の条件は、第3実施形態の場合と同じにした。
【0060】
なお、第3実施形態の上記シミュレーションにおいて、格子線幅wとピッチpの比w/pを0.40〜0.58にし、格子高さhを110〜160nmにし、光源部からの光はp偏光で、その波長が633nmにした。しかしながら、本発明の適用対象はこれに限定されず、位相格子の側面に反射膜が付されていないスケール一般に適用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1・・・光電式エンコーダ、3・・・光源部、5・・・スケール、7・・・受光部、9・・・発光ダイオード、11・・・インデックス格子、13・・・透明基板、15・・・遮光部、17・・・基板、19・・・光学格子、21・・・第1の金属層、23・・・第2の金属層、25・・・フォトダイオード、27・・・フォトレジスト、29・・・第3の金属層、31・・・スケール、33・・・クロム層、35・・・光学格子、d・・・加工深さ
【技術分野】
【0001】
本発明は、精密測定に使用される光電式エンコーダ及びこのスケールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から直線変位や角度変位などの精密な測定に光電式エンコーダ(以下、「エンコーダ」という場合もある。)が利用されている。エンコーダは三次元測定機や画像測定機などに搭載される。エンコーダによる測定を簡単に説明すると次のようになる。
【0003】
光源部及び受光部をスケールに対して相対移動させながら、空間位相の異なる複数のインデックス格子を択一的に介して光源部からの光をスケールの光学格子に照射する。これにより生成された位相の異なる複数(例えば四つ)の正弦波状の光信号を、それぞれの位相に対応する複数のフォトダイオード(受光部)で受光し、光電変換されて発生した電気信号を利用して直線などの変位量が測定される。
【0004】
さて、エンコーダには、(a)光学格子に照射された光がスケールを透過し、この透過光を測定に利用する透過型や、(b)光学格子に照射された光がスケールで反射し、この反射光を測定に利用する反射型がある。反射型の光学格子の材料として、クロムがよく用いられる。
【0005】
反射型の光学格子は、クロム層のような光反射層に凹凸を規則的に設けた構造を有する。凹凸を光反射層に形成する際に加工深さに不均一が生じると、面内分布や繰り返し精度のばらつきが大きくなる。ここで、面内分布のばらつきとは、一つの光学格子において加工深さが位置によって異なることである。また、繰り返し精度のばらつきとは、複数の光学格子同士において加工深さが異なることである。受光部で受光される光信号はスケールの光学格子で生成されるので、上記ばらつきは測定精度向上の妨げとなる。つまり、上記ばらつきが原因で光学格子の回折効率が低下し、測定精度が悪くなるのである。
【0006】
光学格子の加工深さを均一にするのに、例えば次の二つの方法がある。一つは、シリコン基板とシリコン酸化層とのエッチングレートの差を利用し、シリコン基板をエッチングストッパとして、シリコン基板上に形成されたシリコン酸化層を選択的にエッチングすることにより、回折格子(光学格子)となる凹凸を形成する技術である(例えば特許文献1)。
【0007】
他の一つは、上層クロム、シリコン酸化層、下層クロムの三層構造とし、上層クロムをマスクにすると共に下層クロムをエッチングストッパにして、シリコン酸化層を選択的にエッチング除去して、位相格子(光学格子)となる凹凸を形成する技術である(例えば特許文献2)。
【0008】
ここで、反射型光電式エンコーダ用スケールの一般的な構造を図12で説明する。スケールは、基板101の長手方向(図の左右方向)に多数の位相格子103が、一定の間隔(ピッチ)pで、紙面に垂直な方向に多数並列配置された構造を有する。
【0009】
このようなスケールを用いた光電式エンコーダの信号強度の指標となる回折効率は、格子形状や寸法(格子線幅w、格子高さh、側壁角度θ)に依存する。スケール加工において、格子形状や寸法のばらつき(格子線幅wのばらつきΔw=40nm、格子高さhのばらつきΔh=10nm、側壁角度θのばらつきΔθ=5度程度)が発生する。特に、長尺のスケールについては、格子形状や寸法を広域に亘って均一に加工することは難しい。このため、格子形状や寸法のばらつきが原因で、回折効率のばらつきが生じる場合がある。このような場合、安定した高い回折効率を得ることが難しい。
【0010】
このような問題点を解決するべく、特許文献3には、図13に示すように、w=256〜384nm、h=160〜210nmの位相格子103の全面に、導電性の金属膜、特にクロム製の反射膜105が付された位相格子を有するスケールを、λ=670μm、p偏光の光源部と組み合わせる場合、側壁角度θを70度±10度にすることが記載されている。なお、位相格子103は、例えば二酸化珪素、二酸化チタン、五酸化タンタルあるいは酸化アルミニウム等の誘電体で形成されている。
【特許文献1】特開平7−113905号公報(段落[0043]、図1)
【特許文献2】特開平8−286020号公報(段落[0010]〜[0013]、図1〜図3)
【特許文献3】特開平10−318793号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、回折効率の安定性を向上させた反射型光電式エンコーダ用スケール、その製造方法及びそのスケールを含む光電式エンコーダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る光電式エンコーダは、クロム及びタングステンのうちの一方を含む第1の金属層とクロム及びタングステンのうちの他方を含むと共に第1の金属層の上に所定のピッチで配列形成された複数の第2の金属層とを有する反射型の光学格子が配置されたスケールと、光学格子に照射する光を発生する光源部と、光学格子で反射された光源部からの光を受光すると共に光源部と一緒にスケールに対して相対移動可能である受光部と、を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る光電式エンコーダによれば、第1の金属層がタングステンの場合は第2の金属層がクロムであり、第1の金属層がクロムの場合は第2の金属層がタングステンである。このように、第1の金属層と第2の金属層とは異なる金属材料からなるため、エッチングレートを異ならせることができる。よって、第1の金属層をエッチングストッパとして第2の金属層をパターニングして光学格子を形成することにより、光学格子の加工深さを均一にすることができる。また、クロムとタングステンは密着性が優れているため、光学格子の機械的強度を高くすることができる。
【0014】
本発明に係る光電式エンコーダにおいて、複数の第2の金属層上には、第1の金属層と同じ金属を含む複数の第3の金属層が形成されている、ようにすることができる。これによれば、光学格子の凹部表面が第1の金属層であり、凸部表面が第3の金属層である。これらの金属層は同じ材料なので、光学格子の光の反射率を均一にすることができ、したがって、測定精度を向上させることができる。また、第2の金属層と第3の金属層とは異なる材料なので、第2の金属層をパターニングして光学格子を形成する際に第3の金属層をマスクとして用いることができる。よって、光学格子の加工形状の制御性を向上させることができる。
【0015】
本発明に係る光電式エンコーダにおいて、第1の金属層はクロムを含み、複数の第2の金属層はタングステンを含み、複数の第3の金属層はクロムを含む、ようにすることができる。これによれば、光学格子の凹部表面、凸部表面のいずれもがクロムとなる。クロムはタングステンよりも光の反射率が高いため、測定精度を向上させることができる。
【0016】
本発明に係る光電式エンコーダにおいて、第3の金属層は第2の金属層より厚みが薄い、ようにすることができる。これによれば、主に第2の金属層により、光学格子の凹部表面と凸部表面の段差が形成される。タングステンからなる第2の金属層はクロムからなる第3の金属層よりもエッチングしやすいので、光学格子の加工形状の制御性を向上させることができる。
【0017】
本発明は、位相格子の側面に反射膜が付されていない反射型光電式エンコーダ用スケールにおいて、前記位相格子の側壁角度が80度より大きく、且つ、90度未満であることにより、回折効率の安定性を向上させたものである。
【0018】
本発明は、又、基板上に一様な反射膜を備え、その上に前記反射膜と反射率が異なる材質からなる位相格子を備え、この位相格子の上端に前記反射膜と同じ材質からなる反射膜を備え、前記位相格子の側壁角度が80度より大きく、且つ、90度未満であることを特徴とする反射型光電式エンコーダ用スケールにより、回折効率の安定性を向上させたものである。
【0019】
本発明は、又、前記のスケールを備えたことを特徴とする反射型光電式エンコーダを提供するものである。
【0020】
本発明に係る光電式エンコーダのスケールの製造方法は、基板上にクロム及びタングステンのうちの一方を含む第1の金属層を形成する工程と、第1の金属層の上にクロム及びタングステンのうちの他方を含む第2の金属層を形成する工程と、第1の金属層をエッチングストッパとして第2の金属層を選択的にエッチング除去することにより反射型の光学格子を形成する工程と、を備えることを特徴とする。
【0021】
本発明に係るスケールの製造方法によれば、第1の金属層をエッチングストッパとして第2の金属層をパターニングすることにより反射型の光学格子を形成しているため、光学格子の凹部(溝)の加工深さが均一な光学格子を有するスケールを作製することができる。また、クロムとタングステンは密着性が優れているので、機械的強度の高い光学格子を有するスケールを作製することができる。
【0022】
本発明に係るスケールの製造方法において、第2の金属層の形成工程と光学格子の形成工程との間に、第2の金属層の上にクロム及びタングステンのうちの上記一方を含む第3の金属層を形成する工程と、第2の金属層をエッチングストッパとして第3の金属層を選択的にエッチング除去する工程と、を含み、光学格子の形成工程は、第3の金属層をマスクにして第2の金属層を選択的にエッチング除去する、ようにすることができる。これによれば、光学格子の凹部表面(第1の金属層)と凸部表面(第3の金属層)が同じ材料なので、光の反射率が均一な光学格子を有するスケールを作製することができる。また、第3の金属層をマスクとして第2の金属層をエッチング除去するので、エッチング時の側壁後退(CDロス)をレジストマスクにより抑えることができ、光学格子の加工形状の制御性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、第1の金属層をエッチングストッパにして、第2の金属層をパターニングして光学格子を形成することにより、光学格子の加工深さを均一にすることができる。これにより、光学格子の回折効率の安定性を向上させることができる。
【0024】
また、本発明によれば、位相格子の側面に反射膜が付されていない反射型光電式エンコーダ用のスケールにおいて、格子形状や寸法にばらつきがある場合でも、安定した高い回折効率が得られ、かつ、加工による格子形状や寸法のばらつきを許容することができる。これにより、安定した高い回折効率を持つ反射型光電式エンコーダ用スケールを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1実施形態に係る光電式エンコーダの概略構成を示す図である。
【図2】第1実施形態に係る光電式エンコーダに備えられるスケールの一部の拡大断面図である。
【図3】第1実施形態に係るスケールの製造方法の第1工程図である。
【図4】同第2工程図である。
【図5】比較例に係るスケールの一部の拡大断面図である。
【図6】第2実施形態に係るスケールの一部の拡大断面図である。
【図7】第2実施形態に係るスケールの製造方法の第1工程図である。
【図8】同第2工程図である。
【図9】第3実施形態に係るスケールの一部の拡大断面図である。
【図10】第3実施形態における光学格子の側壁角度θと相対回折効率との関係を示すグラフである。
【図11】比較例における光学格子の側壁角度θと相対回折効率との関係を示すグラフである。
【図12】反射型光電式エンコーダ用スケールの一般的な格子形状を示す断面図である。
【図13】特許文献3に係る反射型光電式エンコーダ用スケールの格子形状を示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について説明する。
【0027】
[第1実施形態]
第1実施形態は、第1の金属層(タングステン)上に所定のピッチで複数の第2の金属層(クロム)が配列形成された反射型の光学格子を、光電式エンコーダのスケールに配置した点を主な特徴にしている。まず、第1実施形態に係る光電式エンコーダ1の構成について説明する。図1は、エンコーダ1の概略構成を示す図である。エンコーダ1は、光源部3と、ここで発生した光が照射される光学格子を含むスケール5と、この光学格子で反射された光を受光する受光部7と、により構成される。
【0028】
光源部3は、発光ダイオード(LED)9を備えている。また、光源部3は、発光ダイオード9からの光が照射される位置に配置されたインデックス格子11を備える。インデックス格子11は、長尺状の透明基板13の面うち、発光ダイオード9側に向く面と反対側の面上に形成されている。インデックス格子11は複数の遮光部15が所定のピッチを設けてリニヤ状に配置されたものである。
【0029】
透明基板13のインデックス格子11側には、この格子11と所定のギャップを設けてスケール5が配置されている。スケール5はインデックス格子11よりも長手方向の寸法が大きく、図1にはその一部が表れている。図2はスケール5の一部の拡大断面図である。図1および図2を参照して、スケール5の構造を詳細に説明する。
【0030】
スケール5はガラスやシリコン等から構成される長尺状の基板17を含む。基板17の一方の面がインデックス格子11と対向している。そして、この一方の面上には、光学格子19が配置されている。光源部3からの光はインデックス格子11を介して光学格子19に照射される。光学格子19は、ベースとなる第1の金属層21及びこの上に選択的に形成された複数の第2の金属層23を備える。言い換えれば、複数の第2の金属層23は所定のピッチを設けてリニヤ状に配置されている。第1の金属層21及び複数の第2の金属層23により凹凸パターンが構成される。第1の金属層21の材料はタングステンであり、第2の金属層23の材料はクロムであるが、その逆でもよい。
【0031】
次に受光部7について図1を用いて説明する。受光部7は透明基板13の面のうち光学格子19が形成された面側に、所定のギャップを設けて配置されている。受光部7は、受光面が光学格子19側に向くように配置された複数のフォトダイオード25を含む。これにより、光学格子19で反射された光源部3からの光がフォトダイオード25により受光される。複数のフォトダイオード25は所定のピッチを設けてリニヤ状に、透明基板13に配置されている。よって、本実施形態では受光部7とインデックス格子11とが同じ透明基板13に形成されていることになる。
【0032】
受光部7およびインデックス格子11を含む透明基板13と発光ダイオード9は図示しない筐体に納められており、この筐体は、スケール5の長手方向に対応する測定軸xに沿って移動可能にされている。なお、スケールが移動可能で筐体が固定でもよい。つまり、スケール5は上記筐体に対して測定軸xに沿って相対移動可能にされている。
【0033】
次に、光電式エンコーダ1の測定動作について説明する。発光ダイオード9から光をインデックス格子11に照射すると、この格子11により明暗パターンが生じる。そして、光源部3及び受光部7を含む上記筐体を測定軸xに沿って移動させると、明暗パターンの変化(正弦波状の光信号)が生じる。詳しくは、タングステンからなる第1の金属層21で反射された光(例えば光L1)と、クロムからなる第2の金属層23で反射された光(例えば光L2)との位相差により干渉された光の信号が生じる。光学格子19は位相格子として機能している。
【0034】
この信号に含まれる互いに空間位相が異なる四つの成分、具体的には、A相(0度)の光信号、A相より90度だけ位相がずれたB相(90度)の光信号、A相より180度だけ位相がずれたAA相(180度)の光信号およびA相より270度だけ位相がずれたBB相(270度)の光信号、はそれぞれに対応するフォトダイオード25で検出される。
【0035】
各フォトダイオード25で発生した電気信号がICチップ(図示せず)に送られる。ICチップでは、A相およびB相に所定の処理(直流成分の除去等)をした後に、処理されたA相およびB相を基にして変位量が演算される。この結果を図示しない表示部に出力する。以上が光電式エンコーダ1の動作である。
【0036】
次に、第1実施形態に係るスケール5の製造方法の一例について説明する。図3及び図4はこれを説明するための工程図であり、図2の断面図と対応する。図3に示すように、基板17上に、例えばスパッタリングにより、タングステンからなる厚さ0.03μm以上の第1の金属層21を形成する。そして、クロムからなる厚さ0.1〜0.3μm程度の第2の金属層23を、例えばスパッタリングにより、第1の金属層21の上に形成する。第2の金属層23の厚みが、光学格子の加工深さd(格子高さ)に対応する。
【0037】
図4に示すように、フォトレジスト27を第2の金属層23上に形成する。フォトレジスト27を光学格子のパターンに対応するように露光した後、現像する。そして、このフォトレジスト27をマスクとして、第1の金属層21をエッチングストッパとして、第2の金属層23を選択的にドライエッチングすることにより、光学格子19を形成する。そして、第2の金属層23上に残っているフォトレジスト27を通常の方法で剥離することにより、図2に示すスケール5が完成する。
【0038】
上記ドライエッチングのガスとしては、例えば塩素系ガスがある。このガスによれば、クロムのエッチング速度をタングステンのそれよりも大きくできるため、第1の金属層(タングステン)21をエッチングストッパとして、第2の金属層(クロム)23を選択的に除去できる。なお、第1の金属層21の材料がクロム、第2の金属層23の材料がタングステンの場合は、ドライエッチングのガスとして、CF4ガスを例示できる。
【0039】
第1実施形態の第1の効果について、比較例と比較しながら説明する。図5は、比較例に係るスケール31の一部の拡大断面図であり、図2と対応する。スケール31は、基板17上にクロム層33からなる光学格子35が形成されている。
【0040】
スケール31は以下のようにして作製する。基板17上にクロム層33を形成する。そして、第1実施形態と同様に図4に示すフォトレジスト27をクロム層33の上に形成する。フォトレジスト27をマスクとしてクロム層33を、目標の加工深さに到達するまで選択的にドライエッチングする。
【0041】
しかしながら、エッチングは基板17上の位置に応じて速度が異なるため、比較例のようにエッチングストッパがないと、光学格子35の凹部(溝)の加工深さdにばらつきが生じる(面内分布のばらつき)。また、エッチングを目標の加工深さで精度よく止める制御は困難であるため、比較例のようにエッチングストッパがない場合、光学格子35と、これと同じ方法で形成された光学格子とを比較すると、加工深さdが異なる(繰り返し精度のばらつき)。
【0042】
これに対して、第1実施形態によれば、第1の金属層21をエッチングストッパとして、第2の金属層23を選択的にエッチングしている。したがって、第2の金属層23の厚みを加工深さと同じにすることにより、図2に示すように、光学格子19の凹部の加工深さdが均一な光学格子19を作製することができる。よって、光学格子19の面内分布や繰り返し精度に大きなばらつきが生じるのをなくすことができるため、光電式エンコーダ1の測定精度を向上させることができる。
【0043】
第1実施形態の第2の効果は、以下の通りである。シリコン基板をエッチングストッパとして、シリコン基板上に形成されたシリコン酸化層を選択的にエッチングすることにより、光学格子を形成する場合、シリコン酸化層は通常透明なので、反射型の光学格子にするためには光学格子の上に反射層をさらに形成する必要がある。第1実施形態によれば、第1の金属層21がタングステン、第2の金属層23がクロムであり、いずれも光の反射率が高いので、新たな反射層を形成する必要がない。
【0044】
第1実施形態の第3の効果を説明する。第1の金属層21がタングステン、第2の金属層23がクロムである。クロムとタングステンは密着性が優れているので、上層クロム、シリコン酸化層、下層クロムの三層構造の光学格子に比べて、光学格子の機械的強度を高くすることができる。
【0045】
[第2実施形態]
第2実施形態は、第1の金属層(クロム)上にピッチを設けて複数の第2の金属層(タングステン)を形成し、複数の第2の金属層上にそれぞれ第3の金属層(クロム)を形成した反射型の光学格子を、光電式エンコーダのスケールに配置した点を主な特徴にしている。第2実施形態については、第1実施形態と相違する点を中心に説明する。第2実施形態を説明する図において第1実施形態で説明した図の符号で示すものと同一のものについては、同一符号を付すことにより説明を省略する。
【0046】
図6は、第2実施形態に係るスケール5の一部の拡大断面図であり、図2と対応する。複数の第2の金属層23上に複数の第3の金属層29が形成されている。第1の金属層21の材料はクロム、第2の金属層23の材料はタングステン、第3の金属層29の材料はクロムである。第2実施形態によれば、光学格子19の凹部表面が第1の金属層21であり、凸部表面が第3の金属層29である。これらの金属層は同じ材料(クロム)である。したがって、光学格子19の光の反射率を均一にすることができるため、測定精度を向上させることができる。また、クロムはタングステンよりも光の反射率が高いので、この点からも測定精度を向上させることができる。なお、第1の金属層21の材料をタングステン、第2の金属層23の材料をクロム、第3の金属層29の材料をタングステンにしてもよい。
【0047】
第2実施形態によれば、第2の金属層23の厚みと第3の金属層29の厚みの合計が加工深さd(格子高さ)となる。第3の金属層29の厚みは例えば0.03〜0.1μmであり、第2の金属層23の厚みは例えば0.07〜0.2μmである。したがって、第3の金属層29は第2の金属層23より厚みが薄い。このため、光学格子19の凹部表面と凸部表面の段差は主に第2の金属層23により形成される。第2の金属層(タングステン)23の反応生成物は第3の金属層(クロム)29の反応生成物よりも蒸気圧が高くエッチングしやすいので、加工選択比が高く光学格子19の加工形状の制御性を向上させることができる。よって、高精度の光学格子19にすることができる。
【0048】
第2実施形態に係るスケール5の製造方法の一例について説明する。図7及び図8はこれを説明するための工程図であり、図6の断面図と対応する。図7に示すように、クロムからなる第1の金属層21、タングステンからなる第2の金属層23、クロムからなる第3の金属層29を、順に例えばスパッタリングにより形成する。第2の金属層23の厚みに第3の金属層29の厚みを加えた値が図6に示す加工深さdとなる。
【0049】
図8に示すように、第1実施形態で説明したフォトレジスト27をマスクとして、塩素系ガスにより、第3の金属層(クロム)29をドライエッチングして選択的に除去する。このとき、第2の金属層(タングステン)23がエッチングストッパとなる。そして、フォトレジスト27を除去する。ガスをCF4等のフッ素系ガスに替えて、第3の金属層29をマスクにして第2の金属層23をドライエッチングすることにより、選択的に除去する。このエッチングでは第1の金属層(クロム)21がエッチングストッパとなる。以上の工程により、図6に示すスケール5が完成する。
【0050】
第2実施形態によれば、第3の金属層29をマスクとして第2の金属層23をエッチング除去している。したがって、エッチング時の側壁後退(CDロス)をレジストマスクにより抑えることができるため、光学格子19の加工形状の制御性を向上させることができる。
【0051】
[第3実施形態]
図13に示すスケールと異なり、位相格子103の側面107に反射膜が付されていないスケールは、必ずしも安定した回折効率が得られなかった。
【0052】
特に、位相格子103に(110)シリコンが使われる場合、通常の異方性エッチングにより位相格子103を形成すると、側壁角度(エッジ角度とも言う)は70度近辺になる。このような角度では、高い回折効率が得られない。第3実施形態によれば、位相格子の側面に反射膜が付されていないスケールでも、安定した回折効率を得ることができる。
【0053】
図9は、第3実施形態に係るスケール5の一部の拡大断面図である。第3実施形態は、光学格子19の側壁角度θが80度より大きく、かつ90度未満である点を特徴にしている。第3実施形態に係るスケール5は、本発明の発明者等の実験に基づいてなされたものである。
【0054】
光学格子19は、高い回折効率が得られ、かつ格子形状と寸法のばらつきに対してロバストであるのが好ましい。発明者等は、回折効果のシミュレーションに関する市販のプログラムを用いて、このような効果を得られる光学格子の形状、寸法を求めた。
【0055】
シミュレーションに用いたスケール5について図9を用いて説明する。ガラスからなる基板17の表面には、反射膜として機能する第1の金属層21(一様な反射膜)が配置されている。格子として機能する複数の第2の金属層23の上面にのみ第1の金属層21と同じ材料の第3の金属層29が配置されている。第1及び第3の金属層21,29の材料をクロムにし、第2の金属層23の材料をタングステンにした。格子線幅wとピッチpの比w/pを0.40〜0.58にし、格子高さhを110〜160nmにした。なお、シミュレーションに用いた光源部からの光は、p偏光で、その波長が633nmであった。
【0056】
シミュレーションの結果を図10に示す。横軸は、光学格子19の側壁角度θである。縦軸は、光学格子19の相対回折効率の変動である。ここで、回折効率とは、入射光光量に対する回折光光量の割合である。つまり、回折効率=回折光光量/入射光光量である。相対回折効率とは、ある回折効率の値を1にしたときのその他の回折効率の割合である。具体的な数値で説明すると、以下の通りである。入射光光量=2000μW、回折光光量A=1200μW、回折光光量B=1000μW、回折光光量C=800μWとし、回折効率60%を「1」とする。
【0057】
回折光光量Aの回折効率=1200/2000=60%
回折光光量Bの回折効率=1000/2000=50%
回折光光量Cの回折効率=800/2000=40%
回折光光量Aの相対回折効率=60/60=1
回折光光量Bの相対回折効率=50/60=0.83
回折光光量Cの相対回折効率=40/60=0.67
さて、図10に基づく結果を考察する。側壁角度θが80度や90度の場合でも、相対回折効率は高く、かつ変動が小さい。しかし、側壁角度θを90度に加工するには、ドライエッチング工程において、次のことが必要となる。(1)エッチング時間を長くしたり、エッチングイオンエネルギーを増加させたりして、オーバーエッチングを多くする。(2)エッチングマスクの耐プラズマ性を向上させる。したがって、側壁角度θを90度に加工するのは、比較的難しい。
【0058】
一方、側壁角度θを80度以下に加工するのは、比較的容易であるが、格子線幅wや格子高さhのばらつきに対して、相対回折効率が敏感に変動する。以上より、光学格子19の側壁角度θは80度より大きく、かつ90度未満であるのが好ましい。
【0059】
比較のため、特許文献3に記載された従来例のシミュレーションの結果を図11に示す。このシミュレーションにおける格子線幅wとピッチpの比w/p、格子高さh、シミュレーションに用いた光源部からの光の条件は、第3実施形態の場合と同じにした。
【0060】
なお、第3実施形態の上記シミュレーションにおいて、格子線幅wとピッチpの比w/pを0.40〜0.58にし、格子高さhを110〜160nmにし、光源部からの光はp偏光で、その波長が633nmにした。しかしながら、本発明の適用対象はこれに限定されず、位相格子の側面に反射膜が付されていないスケール一般に適用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1・・・光電式エンコーダ、3・・・光源部、5・・・スケール、7・・・受光部、9・・・発光ダイオード、11・・・インデックス格子、13・・・透明基板、15・・・遮光部、17・・・基板、19・・・光学格子、21・・・第1の金属層、23・・・第2の金属層、25・・・フォトダイオード、27・・・フォトレジスト、29・・・第3の金属層、31・・・スケール、33・・・クロム層、35・・・光学格子、d・・・加工深さ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
位相格子の側面に反射膜が付されていないスケールであって、
前記位相格子の側壁角度が80度より大きく、且つ、90度未満であることを特徴とする反射型光電式エンコーダ用スケール。
【請求項2】
基板上に一様な反射膜を備え、その上に前記反射膜と反射率が異なる材質からなる位相格子を備え、この位相格子の上端に前記反射膜と同じ材質からなる反射膜を備え、前記位相格子の側壁角度が80度より大きく、且つ、90度未満であることを特徴とする反射型光電式エンコーダ用スケール。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のスケールを備えたことを特徴とする反射型光電式エンコーダ。
【請求項1】
位相格子の側面に反射膜が付されていないスケールであって、
前記位相格子の側壁角度が80度より大きく、且つ、90度未満であることを特徴とする反射型光電式エンコーダ用スケール。
【請求項2】
基板上に一様な反射膜を備え、その上に前記反射膜と反射率が異なる材質からなる位相格子を備え、この位相格子の上端に前記反射膜と同じ材質からなる反射膜を備え、前記位相格子の側壁角度が80度より大きく、且つ、90度未満であることを特徴とする反射型光電式エンコーダ用スケール。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のスケールを備えたことを特徴とする反射型光電式エンコーダ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−281839(P2010−281839A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212589(P2010−212589)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【分割の表示】特願2005−13052(P2005−13052)の分割
【原出願日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(000137694)株式会社ミツトヨ (979)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【分割の表示】特願2005−13052(P2005−13052)の分割
【原出願日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(000137694)株式会社ミツトヨ (979)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]