説明

反射型液晶表示素子

【課題】低電圧に保ったままで反射型液晶表示素子の駆動を制御すると共に、明度を向上させる反射型液晶表示素子を提供する。
【解決手段】第1の基板と、前記第1の基板に対向する第2の基板と、前記第1の基板と第2の基板とに挟持され、右巻き及び左巻きのいずれか一方へ螺旋を巻く液晶分子を含むカイラルネマチック液晶層と、前記第1の基板のうち液晶界面側の表面に配置された、側鎖に第1の光学活性部位を有する第1の薄膜と、を備える反射型液晶表示素子により、上記課題の解決を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射型液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
反射型液晶表示素子に用いられる液晶としてカイラルネマチック液晶がある。カイラルネマチック液晶を用いた反射型液晶による表示方式では、その液晶分子の配向状態によって表示の制御を行う。カイラルネマチック液晶には、入射光を反射するプレーナ状態と、入射光を透過するフォーカルコニック状態がある。この2つの状態は、液晶層に電圧を印加することにより制御することができ、電圧をOFFにした後の無電界下でも安定して存在できる。
【0003】
プレーナ状態の時には、液晶分子の螺旋ピッチ(らせん構造の1周期)に応じた波長の円偏光を選択的に反射する(選択反射)。このとき、反射される光は螺旋ピッチの嘗性に応じて左右どちらか一方の円偏光となる。反射されない嘗性の円偏光は液晶層を透過する。自然光は左右の円偏光が入り混じった状態であるため、自然光がプレーナ状態である液晶層に入射すると、入射光の50%が反射し、50%が透過する。
【0004】
液晶の平均屈折率n、液晶分子の螺旋ピッチpとすると、反射が最大となる選択反射波長λは、λ=n・pの式で示される。
【0005】
一方、選択反射波長λは、液晶の屈折率異方性Δnに伴って大きくなる。したがって、液晶の屈折率異方性Δnを調整することにより、所定の色を発現する素子を形成することができる。例えば、選択反射波長λが545nmである液晶を用いて素子を形成すれば、プレーナ状態でGreenを発現する素子を形成することができる。
【0006】
また、入射光が透過するフォーカルコニック状態の性質から、画面の観察面の逆側に光吸収層を設けることにより、フォーカルコニック状態を黒色表示として利用することができる。
【0007】
このように反射型液晶方式では表示素子の裏側に光吸収層を設けることで、プレーナ状態を「明状態」、フォーカルコニック状態を「暗状態」として表示に利用する構造を構成することができる。
【0008】
また、カイラルネマチック液晶方式においては、選択反射波長λの値を調整してRed、Green、Blueを表示する素子を作製し、これらの素子を積層することでカラー表示を実現することができる。
【0009】
液晶材料の中には、単独種にて常温(25℃)でコレステリック相となる物質がある。一方で、単独種または複数種の液晶材料でネマチック相となる液晶材料に対して、光学活性化合物(カイラル剤)を加えることにより、コレステリック相を誘起することもできる。
【0010】
カイラル剤をネマチック相となる液晶材料に加えると、そのカイラル剤の種類によって、液晶分子は、右巻きまたは左巻きの螺旋を形成する。カイラル剤は、それぞれ異なる螺旋誘起力(Helical Twisting Power)を有する。螺旋誘起力をβM、液晶分子の螺旋ピッチをp、カイラル剤の濃度をcとすると、βM=(p・c)-1となる。
【0011】
例えば、右巻きの螺旋誘起力β1MLを有するカイラル剤L1を濃度c1にてネマチック相となる液晶材料に混入させた場合、液晶分子の螺旋のピッチp1は、=(β1ML・c)-1となる。このときの液晶分子の選択反射波長λは、上述したλ=n・pの関係より、n・(β1ML・c)-1で表される(n:液晶層の屈折率)。
【0012】
カイラルネマチック液晶の選択反射を利用した反射型液晶表示素子においては、上述したように、単一の液晶層では、入射した光の50%までしか表示光として使用できなかった。そこで、カイラルネマチック液晶を用いた反射型液晶表示素子の明度を向上させる方法として、例えば、光学活性な高分子を用いることで、反射型液晶の反射ハンド幅を広げる高分子分散型液晶素子が知られている。具体的には、光学活性な高分子と、コレステリック相を呈する液晶物質とを含む複数の薄膜からなり、薄膜毎に液晶物質に対する高分子の螺旋誘起方向及び/又は螺旋形成力が異なるように構成された表示層を有する液晶表示装置が知られている。この液晶表示装置では、液晶相内に張り巡らす高分子ネットワークの高分子として光学活性な高分子を用いることにより、液晶分子の螺旋ピッチに影響を与えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平10−198293号公報
【特許文献2】特開2002−116461号公報
【特許文献3】特開2007−169178号公報
【特許文献4】特開2008−209711号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】小池毅、横小路修、青木良夫、野平博之、「反射型コレステリック液晶用低粘性カイラル材料の合成と性質」、日本液晶学会討論会講演予稿集(1999)、1999/09/28、p.220-221
【非特許文献2】中田秀俊、佐々木誠、竹内清文、高津晴義、「新規キラル化合物の物性と応用」、DIC Technical Review 2003年、No.9、p. 29-33
【非特許文献3】市村國宏、「コレステリック液晶の光配向制御」日本液晶学会討論会講演予稿集、2000年, 2000/10/23、p. 507-508
【非特許文献4】井上長三、小出直之、艸林成和、野平博之、古川顕治、松永義夫、「液晶の化学」、季刊化学総説 22、日本化学会 編、1994年4、p.102-107
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
反射型液晶表示素子において、低電圧に保ったままで反射型液晶表示素子の駆動を制御すると共に、明度を向上させる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
実施の形態に係る反射型液晶表示素子は、第1の基板と、第2の基板と、カイラルネマチック液晶層と、第1の薄膜と、を備える。第2の基板は、前記第1の基板に対向する。カイラルネマチック液晶層は、前記第1の基板と第2の基板とに挟持され、右巻き及び左巻きのいずれか一方へ螺旋を巻く液晶分子を含む。第1の薄膜は、前記第1の基板のうち液晶界面側の表面に配置された、側鎖に第1の光学活性部位を有する。
【発明の効果】
【0017】
実施の形態に係る反射型液晶表示素子によれば、低電圧に保ったままで反射型液晶表示素子の駆動を制御すると共に、明度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】反射型液晶表示素子における一例を説明するための図である。
【図2】液晶分子の螺旋のピッチ長の変化による選択反射スペクトルについて説明するための図である。
【図3】上部基板、下部基板のそれぞれの側から、選択反射光を測定した場合の選択反射光のスペクトルを説明するための図である。
【図4】側鎖部に光学活性物質誘導体を有するポリイミド材料5a−1,5b−1を上部基板2a及び下部基板2bに製膜した反射型液晶表示素子の一例を説明するための図である。
【図5】図4の場合における、液晶分子の螺旋ピッチの伸縮を説明するための図である。
【図6】側鎖部に光学活性物質誘導体を有するポリイミド材料5b−2を、片側基板にのみ製膜した反射型液晶表示素子の一例を説明するための図である。
【図7】図6の場合における、液晶分子の螺旋ピッチの伸縮を説明するための図である。
【図8】反射型液晶表示素子を適用した電子ペーパーの構成例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
上述した高分子分散型液晶素子では、液晶相内に高分子ネットワークが構築される。そのため、液晶物質がプレーナ状態及びフォーカルコニック状態の一方から他方へ状態が変化する場合、高分子ネットワークが障害となって液晶物質の動きが制限されるために状態変化を起こしにくくなる。そのため、このような液晶物質に状態変化を起こさせるためには、通常の場合と比べてより高い電圧を印加する必要がある。電圧印加により液晶を駆動する場合、上下電極間のギャップを10μm以下とした場合でも、例えば、400V以上といった非常に高い電圧を必要とする。
【0020】
そこで、以下では、低電圧に保ったままで反射型液晶表示素子の駆動を制御すると共に、明度を向上させる反射型液晶表示素子について説明する。
【0021】
図1は、反射型液晶表示素子における一例を説明するための図である。反射型液晶表示素子100は、上部基板2aとカイラルネマチック液晶層4、及び下部基板2bとカイラルネマチック液晶層4との界面付近に、後述する光学活性部位を有する膜材料を配置していないものである。
【0022】
カイラルネマチック液晶層(以下、単に液晶層という)4は、ネマチック相を呈する液晶分子3と、右巻きの螺旋誘起力を有するカイラル剤とを含んでいる。したがって、液晶分子3は、このカイラル剤の右巻きの螺旋誘起力により、右巻きの螺旋構造を形成している。反射型液晶表示素子100の場合、液晶層4におけるカイラル剤の濃度は均一であるから、液晶分子3の螺旋ピッチ(カイラルピッチ)はいずれも等しい。
【0023】
反射型液晶表示素子1は、各基板(上部基板2a、下部基板2b)と液晶層4との界面付近に、光学活性部位を有する膜材料5a,5bを配置したものである。反射型液晶表示素子1は、反射型液晶表示素子100に対して、各基板(上部基板2a、下部基板2b)と液晶層4との界面付近に、光学活性部位を有する膜材料5a,5bを配置したものである。なお、反射型液晶表示素子1の液晶層4は、反射型液晶表示素子100と同じものである。
【0024】
上述したように、光学活性な不斉分子(カイラル剤)は、螺旋誘起力を有するため、液晶分子3の螺旋ピッチに影響を与える。このことから、液晶界面付近に光学活性部位を有する膜材料を配置することにより、上下基板と液晶層との界面付近の液晶分子3の螺旋ピッチに影響を与えると考えられる。そこで、膜材料5a,5bの側鎖に導入されたアルキル鎖の末端に光学分割されたR体分子、S体分子をそれぞれ、上部基板2a,下部基板2bに配置する。ここで、R体分子及びS体分子は、不斉炭素を持った構造であっても、分子骨格に螺旋不斉を持っている構造であってもよい。
【0025】
膜材料5aは、膜材料6、側鎖部位7、光学活性部位8aを有する。膜材料5bも、同様に、膜材料6、側鎖部位7、光学活性部位8bを有する。膜材料6は、基板と液晶との界面に配置される。側鎖部位7は、膜材料6に光学活性部位を導入するための側鎖部位である。光学活性部位8aは、例えばR体分子であって、右巻きの螺旋誘起力を有するものとする。光学活性部位8bは、例えばS体分子であって、左巻きの螺旋誘起力を有するものとする。
【0026】
この場合、上部基板2aと液晶層4との界面付近にある液晶分子3は、右巻きの螺旋誘起力を有する光学活性部位8aの影響を受ける。すなわち、上部基板2aと液晶層4との界面付近では、右巻きの螺旋誘起力を有する光学活性化合物の量が増加することになるから、カイラル剤の濃度が高くなるといえる。その結果、螺旋ピッチp=(βM・c)-1の関係より、ネマチック液晶分子3の螺旋ピッチpは短くなる。
【0027】
一方、下部基板2bと液晶層4との界面付近にある液晶分子3は、左巻きの螺旋誘起力を有する光学活性部位8bの影響を受ける。すなわち、液晶層4の成分である右巻きの螺旋誘起力を有するカイラル剤と、左巻きの螺旋誘起力を有する光学活性部位8bとは、互いに偏光面の回転方向が異なる旋光性を有するので、螺旋誘起力の向きも異なる。したがって、上述の通り、相反する螺旋誘起力が相殺されることになる。すなわち、下部基板2bと液晶層4との界面付近では、カイラル剤の濃度が低下するといえる。その結果、螺旋ピッチp=(βM・c)-1の関係より、液晶分子3の螺旋ピッチpは長くなる。
【0028】
このように、液晶層との界面側の基板表面に光学活性部位を有する膜材料を配置することにより、基板と液晶層との界面付近における液晶分子の螺旋ピッチを変化させることができる。
【0029】
ここで、液晶分子3の螺旋のピッチ長に応じて、選択反射波長がどのように変化するかについて説明する。図2は、液晶分子3の螺旋のピッチ長の変化による選択反射スペクトルについて説明するための図である。
【0030】
図2において、液晶層4のうち、上部基板2aと液晶層4との界面付近を上層4a、下部基板2bと液晶層4との界面付近を下層4b、上層4aと下層4bとの間を中間層4cとする。
【0031】
中間層4cには、光学活性部位8a,8bが存在しないから、光学活性部位8a,8bの影響を受けない。よって、選択反射波長のピークは、各基板(上部基板2a,下部基板2b)と液晶層4との界面付近に光学活性部位を有する膜材料を配置していない反射型液晶表示素子100の液晶層4の選択反射波長と同様のピークになる。
【0032】
上層4aは、上述の通り、光学活性部位8aの影響を受けるので、液晶分子3の螺旋のピッチが短くなる。したがって、上述したλ=n・pの関係より、上層4aにおける選択反射波長は短くなる。よって、図2に示すように、中間層4cのときと比べて、選択反射波長は短波長側にシフトする。
【0033】
下層4bは、上述の通り、光学活性部位8bの影響を受けるので、液晶分子3の螺旋のピッチが長くなる。したがって、上述したλ=n・pの関係より、下層4bにおける選択反射波長は長くなる。よって、図2に示すように、中間層4cのときと比べて、選択反射波長は長波長側にシフトする。
【0034】
その結果、液晶層4の選択反射波長は短波長側及び長波長側のいずれにもシフトすることから、液晶層4全体としては、選択反射波長の波形の幅は広がったように見える。これについて、図3を用いて説明する。
【0035】
図3は、上部基板、下部基板のそれぞれの側から、選択反射光を測定した場合の選択反射光のスペクトルを説明するための図である。反射型液晶表示素子1の液晶の配向状態が、図1及び図2で説明したような状態の場合、上部基板側から選択反射光のスペクトルを測定したとする。この場合、反射型液晶表示素子1の選択反射スペクトルは、破線で示すスペクトル波形のように、上層4a,中間層4c,下層4bにおける選択反射光のスペクトル波形の和になると予想され、半値幅が広がる。なお、実際には、ピークの位置は中央よりずれた位置になると予想される。
【0036】
また、反射型液晶表示素子1の液晶の配向状態が、図1及び図2で説明したような状態の場合、下部基板側から選択反射光のスペクトルを測定したとする。この場合、反射型液晶表示素子1の選択反射スペクトルは、実線で示すスペクトル波形のように、上層4a,中間層4c,下層4bにおける選択反射光のスペクトル波形の和になると予想され、半値幅が広がる。
【0037】
このように、反射型液晶表示素子1の構造を採用することにより、選択反射波長の半値幅を広げることができる。したがって、反射型液晶表示素子の駆動電圧を低電圧に保ったままで、反射スペクトルの半値幅の広げることができる。
【0038】
なお、例えば、上部基板2aと下部基板2b間がtで、液晶分子3における上部基板2aからの任意の位置をxとする。このとき、例えば、上部基板2a側から選択反射波長を測定した場合に位置xから得られる選択反射光は、下部基板2b側から選択反射波長を測定した場合にはt−x位置から得られる。したがって、下部基板側から選択反射光のスペクトル波形は、上部基板側から選択反射光のスペクトル波形とは左右が反転した波形に近い波形になると考えられる。その結果、選択反射光の反射スペクトルにおいて、上部基板2a側から測定した場合と、下部基板2b側から測定した場合とで、反射スペクトルのピークトップが異なる。また、反射型液晶表示素子1は選択反射波長を可視域に持つのが好ましい。
【0039】
次に、カイラル剤及び光学活性部位を有する膜材料5a,5b(膜材料6、側鎖部位7、光学活性部位8a,8b)について詳述する。
【0040】
上述のように、螺旋誘起力を有するカイラル剤となる物質としては、分子構造内にキラリティを持った物質のうちR体、S体の存在比率に偏りがあり、ラセミ体となっていない物質が考えられる。光学分割によりR体、S体それぞれのみを取り出せば、より高い螺旋誘起力を有するカイラル剤になると考えられる。キラリティを持つ物質としては、例えば、分子内に不斉炭素をもつ物質、または以下のようなヘリセンのように分子骨格内に螺旋構造を持った物質が挙げられる。
【0041】
【化1】

【0042】
次に、液晶の界面付近に配置する膜材料6としては、以下の一般式(1)で表されるポリイミド系の材料を用いることが考えられる。
【0043】
【化2】

【0044】
このR’の側鎖に光学活性部位を付加した分子構造を有するポイリミド系材料を生成し、この生成物を、側鎖に光学活性物質を有する配向膜材料5a,5bとすることができる。例えば、以下の式(2)に示すような長鎖アルキル鎖を持ったポリイミドを用いて、アルキル鎖長が液晶のプレチルト角に与える影響について、非特許文献4にて述べている。このRを光学活性を持ったアルキル鎖とすることで、側鎖部に光学活性を持ったポリイミド系材料とすることができる。
【0045】
【化3】

【0046】
このR部を、光学活性部位を持ったアルキル鎖とすることにより、側鎖部に光学活性部位を有するポリイミド系材料を得ることができる。具体的な光学活性物質としては、光学分割された形態で市販されている、以下の(R)−ビナフトール及び(S)−ビナフトールの誘導体等が考えられる。
【0047】
【化4】

【0048】
また、R部に導入する光学活性物質としては、4´−アクリロイル−4−(2−メチルブチル)ビフェニル、4´−アクリロイル−4−(2−メチルブトキシ)ビフェニル、4´−アクリロイル−4−(2−メチルヘプチルオキシ)ビフェニル、4´−(6−アクリロイルヘキシルオキシ)−4−(2−メチルブチル)ビフェニル、4´−アクリロイル−4−(2−メチルブトキシ)シクロヘキシルフェニルアクリレイト、2−メチル−4−(4−ビフェニル)ブチルアクリレート、1,4−ジ−(4−(6−アクリロイルオキシ−3−メチルヘキシルオキシ)ベンゾイルオキシ)ベンゼン、1,4−ジ−(4−(6−アクリロイルオキシ−4−メチルヘキシルオキシ)ベンゾイルオキシ)ベンゼンの各S体、R体を挙げることができる。
【0049】
次に、反射型液晶表示素子1のより具体的な例について説明する。
図4は、側鎖部に光学活性物質誘導体を有するポリイミド材料5a−1,5b−1を上部基板2a及び下部基板2bに製膜した反射型液晶表示素子の一例を説明するための図である。図4において、図1と同じ構成、物質については同一の符号を付し、その説明を省略する。図4の反射型液晶表示素子1−1では、光学活性部位8a−1,8b−1としてそれぞれ、(R)−ビフナトール誘導体等のR体、(S)−ビフナトール誘導体等のS体を用いている。
【0050】
図5は、図4の場合における、液晶分子の螺旋ピッチの伸縮を説明するための図である。図5に示すように、液晶層4の中間層4cに比べて、上層4aでは、液晶分子3の螺旋ピッチは短くなる。一方で、液晶層4の中間層4cに比べて、下層4bでは、液晶分子3の螺旋ピッチは長くなる。
【0051】
図6は、側鎖部に光学活性物質誘導体を有するポリイミド材料5b−2を、片側基板にのみ製膜した反射型液晶表示素子の一例を説明するための図である。図6において、図1と同じ構成、物質については同一の符号を付し、その説明を省略する。図6の反射型液晶表示素子1−2では、上部基板2a側には、光学活性物質誘導体を導入していないポリイミド材料を製膜している。一方、下部基板2b側のポリイミド材料5b−2には、光学活性部位8b−2として(S)−ビフナトール誘導体等のS体を導入している。
【0052】
図7は、図6の場合における、液晶分子の螺旋ピッチの伸縮を説明するための図である。図6の場合、上部基板2bとの界面付近における液晶分子3は、元々存在するカイラル剤以外の光学活性物質の影響を受けない。したがって、この場合、図7に示すように、液晶層4の上層4aにおける液晶分子3の螺旋ピッチは、中間層4cにおける液晶分子3の螺旋ピッチと同じである。
【0053】
一方、下部基板2bとの界面付近における液晶分子3は、元々存在するカイラル剤の螺旋誘起力とは反対方向の螺旋誘起力を有する光学活性物質の影響を受ける。したがって、カイラルネマチック液晶層4の中間層4cに比べて、下層4bでは、液晶分子3の螺旋ピッチは長くなる。
【0054】
上記の反射型液晶表示素子によれば、見かけ上選択反射波長の半値幅を広げることができる。このとき、液晶分子の状態変化を妨げる高分子は液晶層にはないので、液晶を駆動させる場合に高電圧を印加しなくてもよい。したがって、液晶表示素子の駆動電圧を低電圧に保ったままで、反射スペクトルの半値幅の広げることができる。
【0055】
図8は、反射型液晶表示素子を適用した電子ペーパーの構成例を示す。電子ペーパー10は、表示部30、制御部40、電源部60を含む。表示部30は、画像や文字を表示する。制御部40は、外部システムや内蔵メモリ50から入力された表示コンテンツデータを種々の所望の表示データに変換する。また、制御部40は、当該表示データを表示部30に表示させるための駆動回路を制御する。電源部60は、表示部30、制御部40、及びその他回路に電力を供給する。
【0056】
表示部30は、積層型液晶表示素子を有している。積層型液晶表示素子では、それぞれ上下基板間にカイラルネマチック液晶が封止された青(B)用表示パネル30b、緑(G)用表示パネル30g、及び赤(R)用表示パネル30rが表示面D側からこの順に積層されている。青(B)用表示パネル30b、緑(G)用表示パネル30g、及び赤(R)用表示パネル30rはそれぞれ、上述したように、選択反射波長λの値を調整して、青、緑、赤を実現した反射型液晶表示素子である。この反射型液晶表示素子は、図1の反射型液晶表示素子1、図4の反射型液晶表示素子の1−1、または図6の反射型液晶表示素子1−2である。
【0057】
各表示パネル30b,30g,30rは、複数の行電極31b,31g,31rを有している。また、各表示パネル30b,30g,30rは、各行電極31b,31g,31rにほぼ直交する列電極32b,32g,32rを有している。各表示パネル30b,30g,30rは、いわゆるパッシブマトリクス型の構成を有している。
【0058】
積層されたB,G,R用表示パネル30b,30g,30rのそれぞれには、行電極31b,31g,31rに行電極用データ信号を供給するB,G,R用行電極駆動回路33b,33g,33rが設けられている。また、積層されたB,G,R用表示パネル30b,30g,30rのそれぞれには、列電極32b,32g,32rに列電極用データ信号を供給するB,G,R用列電極駆動回路34b,34g,34rが設けられている。
【0059】
B,G,R用行電極駆動回路33b,33g,33r及びB,G,R用列電極駆動回路34b,34g,34rのそれぞれには、種々の制御用入力端子が設けられており、制御部4の所定の制御用出力端子と接続されている。
【0060】
例えば、B,G,R用行電極駆動回路33b,33g,33r及びB,G,R用列電極駆動回路34b,34g,34rのそれぞれには、制御部40から、種々の信号が入力される。たとえば、スキャン/データモード信号(S/D_mod)、データ取込みクロック信号(D_clk)、パルス極性制御信号(P_ctl)、フレーム開始信号(F_st)が入力される。また、例えば、データラッチ・スキャンシフト信号(D_lt/S_sft)、ドライバ出力オフ信号(Dv_off)、表示データ信号(D_sig)、及び走査方向切替信号(Scan_d)が入力される。
【0061】
制御部40は、データ変換回路41、複数の出力端子、表示方向算出回路42、レイアウト構成回路45、重力センサ51、重力方向検出回路43、感圧ボタン52、押圧位置検出回路44を有する。また、制御部40は、モード選択回路46、テキスト/画像判別回路47、内蔵メモリ50、入力スイッチ群53を有する。
【0062】
複数の出力端子は、B,G,R用行電極駆動回路33b,33g,33r及びB,G,R用列電極駆動回路34b,34g,34rに接続される。表示方向算出回路42は、表示部30で表示させる画像や文字の表示方向データを生成してデータ変換回路41に出力する。レイアウト構成回路45は、表示データのレイアウト構成を決めてデータ変換回路41に出力する。
【0063】
重力センサ51は、表示部30の表示面D近傍に設けられ、観察者の観察方向を表示面Dの重力方向に対する向きとして検出する。重力方向検出回路43は、重力センサ51からの出力信号により重力方向を検出して表示方向算出回路42に出力する。
【0064】
感圧ボタン52は、表示部30の表示面D周囲に設けられ、観察者の観察方向を表示面D周囲を触れた観察者の手の位置に基づいて検出する。押圧位置検出回路44は、感圧ボタン52からの出力信号により使用者の手等による押圧位置を検出して表示方向算出回路42に出力する。
【0065】
なお、重力方向検出回路43と押圧位置検出回路44とは、いずれか一方だけ備えるようにしてもよいし、双方を備えて切替えていずれか一方を用いるようにしてもよい。あるいは、双方を同時に用いるようにしてもよい。
【0066】
表示方向算出回路42は、これらの検出結果より、表示部30の表示面Dに画像や文字を表示させる方向がいずれであるかを決定して、書換え用の表示方向データをデータ変換回路41に出力する。
【0067】
テキスト/画像判別回路47には、外部システムや内蔵メモリ50から表示コンテンツデータが入力される。テキスト/画像判別回路47は、コンテンツ内のテキストデータと画像データを判別して、テキストデータにはテキストデータタグを付加し、画像データには画像データタグを付加してレイアウト構成回路45に出力する。
【0068】
モード選択回路46により、レイアウト優先モードか文字サイズ優先モードかを観察者が任意に設定できる。モード選択回路46は、テキストデータと画像データとが1画面内に混在した場合に最適な表示をするために用いられる。
【0069】
データ変換回路41は、フレームメモリ41a、フレームメモリ41bを有する。フレームメモリ41aは、座標変換前のB,G,R用表示データを各1フレーム分格納する。フレームメモリ41bは、座標変換後のB,G,R用表示データを各1フレーム分格納する。
【0070】
データ変換回路41は、レイアウト構成回路45から出力されたテキストデータ及び画像データを順次フレームメモリ41aに格納する。また、データ変換回路41は、フレームメモリ41aに全表示データを格納する際に、各データに付加されたテキストデータタグ及び画像データタグの数をそれぞれ計数して不図示の記憶部に記憶しておく。
【0071】
また、データ変換回路41は、フレームメモリ41a内の表示データに対し、表示方向データDdやレイアウト変更コマンドを使って、表示データのアドレス変換やレイアウト変更のための幾何学的変換(座標変換等)を行ってフレームメモリ41bに格納する。
【0072】
また、データ変換回路41は、表示方向データを使って、各行電極駆動回路33b,33g,33rと各列電極駆動回路34b,34g,34rのいずれを走査電極駆動回路として機能させ、いずれをデータ電極駆動回路として機能させるかを決定する。さらにデータ変換回路41は、各行電極駆動回路33b,33g,33rと各列電極駆動回路34b,34g,34rを介して各行電極31b,31g,31rと各列電極32b,32g,32rに印加する電圧レベルの切替えを行う。
【0073】
電源部6は、電源61、昇圧部62、電圧切替部63、電圧安定部64を有する。昇圧部62は、論理電圧を昇圧させる。電圧切替部63は、昇圧された電圧を複数の駆動電圧に切替える。電圧安定部64は、切替えた電圧を安定化させて出力する。電圧安定部64により安定させられた電力は、B,G,R用行電極駆動回路33b,33g,33r及びB,G,R用列電極駆動回路34b,34g,34rの駆動電圧となる。
【0074】
このように、上記の反射型液晶表示素子は、第1の基板と、第2の基板と、カイラルネマチック液晶層と、第1の薄膜とを含む。第2の基板は、前記第1の基板に対向する。第1の基板、第2の基板はそれぞれ、例えば上記実施の形態でいえば、上部基板2a、下部基板2bに相当する。
【0075】
カイラルネマチック液晶層は、前記第1の基板と第2の基板とに挟持され、右巻き及び左巻きのいずれか一方へ螺旋を巻く液晶分子を含む。カイラルネマチック液晶層は、例えば上記実施の形態でいえば、カイラルネマチック液晶層4に相当する。
【0076】
第1の薄膜は、前記第1の基板のうち液晶界面側の表面に配置された、側鎖に第1の光学活性部位を有する。第1の薄膜は、例えば上記実施の形態でいえば、膜材料5a,5bのいずれかに相当する。
【0077】
このように構成することにより、基板と液晶層との界面付近における液晶分子の螺旋ピッチを変化させることができる。また、低電圧に保ったままで反射型液晶表示素子の駆動を制御すると共に、明度を向上させることができる。
【0078】
前記液晶表示素子は、さらに、第2の薄膜を含む。第2の薄膜は、前記第2の基板のうち液晶界面側の表面に配置された、側鎖に第2の光学活性部位を有する。第2の薄膜は、例えば上記実施の形態でいえば、第1の薄膜が膜材料5a,5bのいずれかであれば、その他方の膜材料に相当する。このとき、前記第1の光学活性部位と前記第2の光学活性部位とは、互いに偏光面の回転方向が異なる旋光性を有する。
【0079】
このように構成することにより、上下部基板と液晶層との界面付近における液晶分子の螺旋ピッチを変化させることができる。
また、前記液晶表示素子は、可視域に選択反射波長を有することが好ましい。また、このような反射型液晶表示素子を少なくとも1つ含んで積層型液晶表示素子を形成してもよい。また、このような反射型液晶表示素子を含んだ電子ペーパーを形成してもよい。
【0080】
なお、本発明は、以上に述べた実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の構成または実施形態を取ることができる。
【符号の説明】
【0081】
1,1−1,1−2 反射型液晶表示素子
2a 上部基板
2b 下部基板
3 液晶分子
4 カイラルネマチック液晶層
5a,5b 膜材料
6 膜材料
7 側鎖部位
8a,8b 光学活性部位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板と、
前記第1の基板に対向する第2の基板と、
前記第1の基板と第2の基板とに挟持され、右巻き及び左巻きのいずれか一方へ螺旋を巻く液晶分子を含むカイラルネマチック液晶層と、
前記第1の基板のうち液晶界面側の表面に配置された、側鎖に第1の光学活性部位を有する第1の薄膜と、
を備えることを特徴とする反射型液晶表示素子。
【請求項2】
前記反射型液晶表示素子は、さらに、
前記第2の基板のうち液晶界面側の表面に配置された、側鎖に第2の光学活性部位を有する第2の薄膜を備え、
前記第1の光学活性部位と前記第2の光学活性部位とは、互いに偏光面の回転方向が異なる旋光性を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の反射型液晶表示素子。
【請求項3】
前記反射型液晶表示素子は、可視域に選択反射波長を有する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の反射型液晶表示素子。
【請求項4】
請求項1〜3のうちいずれか1項に記載の反射型液晶表示素子を少なくとも1つ含む
ことを特徴とする積層型液晶表示素子。
【請求項5】
請求項1〜4のうちいずれか1項に記載の反射型液晶表示素子を含む電子ペーパー。

【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−164163(P2011−164163A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23804(P2010−23804)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】