説明

反射鏡用の回転装置、光学測定システムおよび回転装置による反射鏡の回転角調整方法

【課題】光の進行方向の変更に用いる反射鏡を高精度に回転制御できるコンパクトな回転装置を提供する。
【解決手段】反射鏡用の回転装置20は、光の進行方向の変更に用いる反射鏡14に固定された第1回転軸21と、第1回転軸21から所定の間隔を離れて配された第2回転軸24と、第1および第2回転軸21、24との間を連結して構成され、第2回転軸24のトルクを第1回転軸21に伝達しているリンク機構30と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射鏡用の回転装置、光学測定システムおよび回転装置による反射鏡の回転角調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超高真空状態の真空容器内において、電子線や励起光などのエネルギービームを試料に入射させて試料の励起を起こし、この励起発光に基づいて試料から出射された出射光の検出により、試料の電子状態などを分析する手法が知られている。
【0003】
ところで、このような出射光を効率良く外部に取り出す目的で、真空容器内に反射鏡を設けることがある。この場合、試料の測定点は、上述の励起ビームが入射した点光源に相当するので、点光源に対して立体角を稼ぐ趣旨から、可能な限り試料の近傍に反射鏡を配することが効果的である。また、この測定点を試料面内で任意に移動したい場合に、反射鏡を自在に動かせると便利である。
【0004】
例えば、特許文献1には、ミラー位置制御用のXYZステージを真空容器外に配置したカソードルミネッセンス検出装置が記載されている。これにより、真空容器内のミラーをXYZステージにより操作することができる。その結果、真空容器の真空を破ることなく、ミラー焦点位置が適切に調整され、カソードルミネッセンス(電子線照射蛍光)の最大集光効率が得られるとされている。
【特許文献1】特開2007−71646号公報(段落〔0008〕)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の反射鏡の制御技術では、反射鏡の回転を行えないので、試料面内で任意の位置を分析する際に、出射光を外部に効率的に反射できないなどの不都合を生じる場合がある。なお、本件発明者の知る限り、真空容器内の反射鏡を高精度に回転できるコンパクトな回転装置は未だ見当たらない。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、光の進行方向の変更に用いる反射鏡を高精度に回転制御できるコンパクトな回転装置を提供することを目的とする。また、上述の回転装置を備える光学測定システムを提供することも目的とする。また、上述の回転装置による反射鏡の回転角調整方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、光の進行方向の変更に用いる反射鏡に固定された第1回転軸と、前記第1回転軸から所定の間隔を離れて配された第2回転軸と、前記第1および第2回転軸との間を連結して構成され、前記第2回転軸のトルクを前記第1回転軸に伝達しているリンク機構と、を備える、反射鏡用の回転装置を提供する。
【0008】
このように、本発明の回転装置は、第1および第2回転軸とリンク機構とを用いてコンパクトに構成できる。これにより、例えば、この反射鏡を真空容器内の試料から出射される光の進行方向の変更に用いる場合には、反射鏡と一体化された回転装置を真空容器内に配しても、真空容器の内部のスペースを適切かつ充分に確保できる。また、本発明では、第2回転軸のトルクをリンク機構により適切に第1回転軸に伝達できるので、反射鏡の回転精度を向上できる。
【0009】
ここで、前記リンク機構は、前記第1回転軸の回転に対してスイング運動できるように、前記第1回転軸に固定されたロッド状の第1リンクレバーと、前記第2回転軸の回転に対してスイング運動できるように、前記第2回転軸に固定されたロッド状の第2リンクレバーと、を備えてもよく、前記第1リンクレバーおよび前記第2リンクレバーを可動支点において連結してもよい。そして、前記第2回転軸の回転に基づいて前記可動支点の位置を制御して、前記可動支点の位置に基づいて前記反射鏡の回転を制御してもよい。
【0010】
より詳しくは、前記第1回転軸の中心と前記第2回転軸の中心とを通る仮想直線に対する前記第1リンクレバーのなす角が、前記反射鏡の回転に応じて変化する回転角に相当してもよい。また、前記回転角は、前記第1回転軸の中心と前記可動支点との間の前記第1リンクレバーの長さ、前記第2回転軸の中心と前記可動支点との間の前記第2リンクレバーの長さ、および、前記仮想直線に対する前記第2リンクレバーのなす角、に基づいて導かれてもよい。
【0011】
以上の構成により、反射鏡の第1回転軸周りの回転分解能(回転精度)を「第2回転軸の中心と可動支点との間の第2リンクレバーの長さ/第1回転軸の中心と可動支点との間の第1リンクレバーの長さ」という比率を小さくすることにより、高分解能化できる。このようにして、本発明では、反射鏡の回転精度を向上できる。
【0012】
なお、ここで、前記リンク機構の動作と逆方向の力を、前記リンク機構に与える制動手段を備えてもよい。
【0013】
この制動手段の力の作用により、リンク機構のバックラッシュを適切に無くすことができる。
【0014】
また、前記反射鏡は焦点を有しており、前記反射鏡の焦点位置を調整する手段を備えてもよい。
【0015】
また、本発明は、上記記載の回転装置と前記回転装置により回転される反射鏡とが内部に組み込まれた真空容器と、前記第2回転軸への回転力を、前記真空容器外において付与している駆動機構と、前記真空容器内の試料の励起を起こすビームを生成しているビーム源と、前記試料の励起発光による出射光を、前記真空容器外において受光している受光装置と、を備えており、前記出射光の進行方向は、前記真空容器内において、前記回転装置による前記反射鏡の回転に基づいて変更されている、光学測定システムを提供する。
【0016】
このようにして、本発明では、出射光の進行方向が、真空容器内において、回転装置による反射鏡の回転に基づいて変更できるので、出射光の取り出し効率において、本発明の光学測定システムには、上述の特許文献1記載の装置と比較した有利な特徴がある。
【0017】
また、本発明は、受光窓側から前記反射鏡の反射面に平行光を向けた場合において、試料の表面に前記平行光の焦点が合うように、前記反射鏡の回転角が調整される、前記回転装置による前記反射鏡の回転角調整方法を提供する。
【0018】
この方法により、受光窓から反射面に入る平行光の焦点が上述の試料の表面に合っているので、この表面から放射状に出射された出射光が、反射鏡の反射面により反射されると、この出射光は、平行光として受光窓から効率的に取り出せる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、光の進行方向の変更に用いる反射鏡を高精度に回転制御できるコンパクトな回転装置が得られる。また、上述の回転装置を備える光学測定システムも得られる。また、上述の回転装置による反射鏡の回転角調整方法も得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施形態による光学測定システムの一例を模式的に示した図である。図1では、円筒形の真空容器10(後述)の中心軸の方向から平面視した真空容器10の内部10Aの様子が描かれている。
【0022】
以下の説明の便宜上、図1に示すように、光学測定システム100のパラボリックミラー14(後述)は、Z方向周りに回転できるものとする。また、真空容器10の中心軸の方向を「Y方向」とし、これらのY方向およびZ方向に直交する方向を「X方向」とする。
【0023】
光学測定システム100は、図1に示すように、ステンレス製の真空容器10を備える。なお、真空容器10の内部10Aは、光学測定システム100の使用時には、イオンポンプとチタンサブリメションポンプとを組合せた真空排気系(図示せず)により、超高真空(例えば、到達真空度:10-8Pa)にまで減圧される。これにより、試料11の表面への水分や酸素などの不純物付着を防止でき、試料11の表面において分子レベル(ナノレベル)の分析を行うことができる。
【0024】
また、真空容器10の内部10Aには、図1に示すように、測定対象である試料(発光体)11を保持する試料ホルダ12と、試料11の表面の至近距離まで近づくように配された走査型トンネル顕微鏡(STM)用の金属探針13と、試料11の近傍に配されたパラボリックミラー14(放物面ミラー)と、がある。
【0025】
図1に示すように、試料11の測定点11Aの励起を起こす励起光200が適宜の励起光200の光源(図示せず)から試料11の測定点11Aに入射され、これにより、試料11の測定点11Aにおいて励起発光がなされている。その結果、試料11の測定点11Aでの励起発光による光201が放射状に出射されている(以下、このような光201のことを「出射光201」と略す)。
【0026】
なお、ここでは、試料11の励起を起こすエネルギービームとして励起光200を例示しているが、後述(変形例1)のとおり、電子線により試料11を励起してもよい。
【0027】
走査型トンネル顕微鏡(図示せず)は、金属探針13と試料11の間のバイアス電圧により両者間に流れるトンネル電流を検出するタイプの公知の顕微鏡であり、試料11の表面形状を原子分解能レベルで観察できる。
【0028】
パラボリックミラー14は、放物線状に窪んだ反射面14Aを有しており、これにより、パラボリックミラー14に入る平行光を集光できる集光ミラーとしての機能を備える。
【0029】
但し、本実施形態のパラボリックミラー14の使用形態では、図1に示すように、パラボリックミラー14の反射面14Aが、測定点11Aに対する立体角を稼ぐ趣旨から測定点11Aに近接されて配され、これにより、上述の放射状の出射光201が、パラボリックミラー14において平行光となるように反射されている。つまり、パラボリックミラー14に入る放射状の出射光201は、パラボリックミラー14の反射面14Aにより、出射光201の進行方向が適切な向き(後述する受光窓15の方向)になるように変更(反射)され、これにより、平行光としての出射光201を効率的に真空容器10の外部に取り出せる。
【0030】
なお、このパラボリックミラー14は、ガラス製の円柱体14Bに所定の加工を施して作製できる。具体的には、上述の円柱体14Bの中心軸に対し、当該円柱体14Bを斜め方向にカットしたカット面を形成する。すると、カット面は楕円平面状になる。そして、このカット面の周囲から放物線状に描くよう、カット面に凹状の窪みをつけた後、このカット面に金属製(例えば銀)の反射膜を蒸着すると、上述のパラボリックミラー14の反射面14Aが得られる。
【0031】
また、真空容器10の内部10Aには、パラボリックミラー14のZ方向周りの回転を高精度に制御できる回転装置20が配置されている。なお、この回転装置20の詳細は後述する。更に、パラボリックミラー14は、公知のX方向およびY方向の駆動系および公知のZ方向の駆動系(何れも図示せず;以下、これらの駆動系をまとめて「3次元駆動系」と略す)によりX方向、Y方向、Z方向の3次元方向に高精度に移動できる。なお、この3次元駆動系は、真空容器10外の適所に配置されている。
【0032】
また、図1に示すように、受光窓15が、真空容器10の側壁10Bに取り付けられ、この受光窓15の近傍に集光レンズ16が配置されている。そして、平行光としての出射光201が集光レンズ16に入ると、受光装置18の検出部に相当する光ファイバー17に集光できるようになっている。なお、本実施形態では、受光窓15は、パラボリックミラー14に対向する側壁10Bの位置に取り付けられている。
【0033】
以上の構成により、本実施形態の光学測定システム100では、試料11の測定点11Aがどの位置にあっても、測定点11Aの移動の度に、パラボリックミラー14の回転および3次元位置を高精度に制御でき、上述の出射光201を受光窓15に適切に導くことができる。
【0034】
次に、本発明の光学測定システム100の特徴部であるパラボリックミラー14用の回転装置20について図面を参照しながら詳しく説明する。
【0035】
図2は、本発明の実施形態によるパラボリックミラー用の回転装置の構成例および回転装置の駆動機構の一例を模式的に示した図である。なお、図2の斜線を引いた部分は、パラボリックミラー14の円柱体14Bの中心を通り、後述する第1リンクレバー31軸に沿った部分の回転装置20の断面に相当する。但し、パラボリックミラー14と回転装置20との間の固定部、回転装置20内の各部材間の固定部、および、回転装置20と真空容器10との間の固定部は、何れも慣用の固定手段(ネジなど)により固定されており、本明細書では、当該固定手段の図示および説明は省略する。
【0036】
また、図3は、図2における回転装置の動作例を示した模式図である。図3(a)には、パラボリックミラー14と第1回転軸21の一部とをY方向から平面視した模式図が描かれている。図3(b)には、回転装置20の要部をZ方向から平面視した模式図が描かれている。図3(c)には、パルスモータ40とパルスモータ40の駆動軸40Aの一部と第2回転軸24の一部とをY方向から平面視した模式図が描かれている。
【0037】
まず、光学測定システム100の回転装置20の構成について説明する。
【0038】
回転装置20は、図2に示すように、パラボリックミラー14の円柱体14Bの端面中心部に固定された第1回転軸21を備える。これらの円柱体14Bおよび第1回転軸21は、互いのZ方向の中心軸を一致させるようにして、両者の端面を接合させた形態となっている。
【0039】
また、第1回転軸21は、Z方向に延びる円筒状のケーシング部材22の内部に配されている。これらの第1回転軸21およびケーシング部材22は、第1回転軸21とケーシング部材22との間に円筒状の隙間を形成させるよう、同軸状に配されている。
【0040】
ここで、ケーシング部材22のZ方向の端面は、円盤状のフランジ23に固定されている。また、フランジ23は、真空容器10の側壁10Bの適所に固定されている。
【0041】
更に、第1回転軸21とケーシング部材22との間の隙間には、図2に示すように、回転軸受25(例えば、ボールベアリング)が配されている。この回転軸受25を用いて、第1回転軸21は、ケーシング部材22に対してZ方向周り(第1回転軸21の軸周り)に回転可能に構成されており、ひいては、第1回転軸21の回転により、パラボリックミラー14は、Z方向周りに回転できる。
【0042】
また、回転装置20は、図2および図3(b)に示すように、上述の第1回転軸21から所定の間隔を離れて配され、Z方向に延びる第2回転軸24を備える。この第2回転軸24の一端は、リンク機構30の第2リンクレバー34(後述)に接続されている。また、第2回転軸24は、真空容器10の内部10Aを気密に保つようにして、真空容器10の外部にまで延びている。第2回転軸24の他端は、真空容器10外において、パルスモータ40(駆動機構)の駆動軸40Aに連結されている。
【0043】
このように、第2回転軸24は、パルスモータ40により回転力が付与され、これにより、Z方向周りに回転可能になっている。なお、第2回転軸24の回転機構は、回転軸受などを用いて様々な態様で構成できるので、本明細書では、当該回転機構の詳細な図示および説明は省略する。また、パルスモータ40の駆動軸40Aと第2回転軸24との間には、精密駆動部が配されているが、このような駆動部は、回転歯車などを用いて様々な態様で構成できるので、本明細書では、当該駆動部の詳細な図示および説明も省略する。
【0044】
ここで、回転装置20は、図2および図3(b)に示すように、第1および第2回転軸21、24との間を連結して構成され、第2回転軸24のトルクを第1回転軸21に伝達しているリンク機構30を備える。
【0045】
このリンク機構30の第1リンクレバー31は、第1回転軸21の回転に対してXY平面内でスイング運動できるように、第1回転軸21の側面に固定されている。この第1リンクレバー31は、図2に示すように、ケーシング部材22の貫通孔22Aを通って、第1回転軸21の中心軸に対して鉛直方向(XY平面に平行な方向)に延びている。なお、第1回転軸21の回転に連動する第1リンクレバー31によるXY平面内のスイング運動を妨げないよう、ケーシング部材22の貫通孔22Aは、周方向にスリット状に形成されている。
【0046】
また、上述のリンク機構30の第2リンクレバー34は、第2回転軸の回転に対してXY平面内でスイング運動できるように、第2回転軸24に固定されている。この第2リンクレバー34は、図2に示すように、第2回転軸24の中心軸に対して鉛直方向(XY平面に平行な方向)に延びている。
【0047】
更に、図2および図3(b)に示すように、第1リンクレバー31および第2リンクレバー34は、Z方向に所定距離分ずれて配されており、これにより、両者の端部同士を互いに重ねることができる。そして、この重なり合った部分が、可動支点35においてZ方向周りに回動できるように、第1リンクレバー31の端部と第2リンクレバー34の端部とを連結させる連結部に相当することになる。本実施形態では、上述の可動支点35は、第1リンクレバー31の連結部および第2リンクレバー34の連結部をZ方向に貫通して、これらを軸支しているリンク棒36から構成されている。
【0048】
また、リンク棒36の端部は、ピン38に引っ掛けた制動バネ37(制動手段)により引っ張られている。このピン38は、上述のフランジ23に固定されている。この制動バネ37により、図3(b)に示すように、リンク機構30が反時計周りの方向に移動する場合、リンク機構30の動作と逆方向の張力がリンク機構30に与えられる。
【0049】
次に、以上の回転装置20によるパラボリックミラー14の回転制御について説明する。
【0050】
なお、本明細書では、説明の便宜上、図3(b)に示すように、第1回転軸21の中心と第2回転軸24の中心とを通る仮想直線300を引いた際の、仮想直線300に対する第1リンクレバー31のなす角を「α」とし、この仮想直線300に対する第2リンクレバー34のなす角を「β」としている。また、第1回転軸21の中心から可動支点35(正確にはリンク棒36の中心)までの距離を「L1」とし、第2回転軸24の中心から可動支点35までの距離を「L2」としている。
【0051】
まず、図3(c)に示すように、パルスモータ40の回転力が第2回転軸24に付与されることにより、第2回転軸24は、Z方向周りに回転できる。この場合、図3(b)に示すように、第2回転軸24と第2リンクレバー34とが互いに固定されているので、第2回転軸24の回転により角度「β」が変化する。また、第2リンクレバー34と第1リンクレバー31とが互いに可動支点35において連結され、かつ、第1回転軸21と第1リンクレバー31とが互いに固定されているので、第2回転軸24の回転により、可動支点35の移動と連動して角度「α」が変化する。すると、図3(a)に示すように、Z方向に延びる第1回転軸21が、パラボリックミラー14の円柱体14Bの中心部に固定されているので、角度「α」が、パラボリックミラー14の回転に応じて変化するパラボリックミラー14のZ方向回りの回転角に相当する(以下、必要に応じて、回転角「α」という)。このようにして、本実施形態では、第2回転軸24の回転に基づいて可動支点35の位置が制御され、可動支点35の位置に基づいてパラボリックミラー14の回転が制御されている。
【0052】
ところで、第1リンクレバー31と第2リンクレバー34との間の幾何学的関係から以下の式(1)が得られる。
【0053】
L1×sinα=L2×sinβ・・・・・(1)
この式(1)は、角度「α」、および、角度「β」が充分に小さい場合には、sinα=α、sinβ=βと近似できるので、この場合には、以下の式(2)のように変換できる。
【0054】
α=L2/L1×β・・・・・(2)
この式(2)によれば、パラボリックミラー14の回転角「α」は、第2回転軸24の中心と可動支点35との間の第2リンクレバー34の長さ「L2」を第1回転軸21の中心と可動支点35との間の第1リンクレバー31の長さ「L1」で除した比率「L2/L1」に、仮想直線300に対する第2リンクレバー34のなす角「β」を乗ずることにより得られることが分かる。
【0055】
よって、パラボリックミラー14のZ方向周りの回転分解能(回転精度)を、式(2)から容易に理解できるとおり、比率「L2/L1」を小さくすることにより、高分解能化できる。このようにして、本実施形態では、パラボリックミラー14のZ方向周りの回転精度を適切に向上できる。例えば、比率「L2/L1」を1/2とし、パルスモータの1パルス当たりの送り精度を高精度化することにより、パラボリックミラー14の回転の高分解能化(例えば、回転分解能:2×10-6 °)を図ることができる。
【0056】
また、本実施形態では、パルスモータ40のパルス数に基づいて、パラボリックミラー14の回転範囲を調整でき、これにより、回転範囲の広域化(例えば、±20°)を図ることもできる。
【0057】
また、本実施形態では、図3(b)に示すように、回転支点35を反時計回り方向に動かすと、第1および第2リンクレバー31、34は、制動バネ37により引っ張られるので、この制動バネ37の張力の作用により、これらの第1および第2リンクレバー31、34のバックラッシュを適切に無くすことができる。
【0058】
次に、本実施形態による光学測定システム100の動作の一例について説明する。
【0059】
まず、所定の標準試料を用いて、パラボリックミラー14の回転角および3次元位置の初期調整がなされる。この標準試料は、測定対象である試料11と略同形であり、レファレンス光を用いて標準試料を励起発光させた場合の、出射光のスペクトル分布を予め把握できている。
【0060】
標準試料が、真空容器10の内部10Aの試料ホルダ12にセットされた後、真空容器10の内部10Aが、真空排気系により超高真空(10-8Pa程度)にまで減圧される。そして、以下の3通りの方法により、パラボリックミラー14の回転角および3次元位置の初期調整が実行される。
【0061】
第1に、パラボリックミラー14の反射面14Aにおいて金属探針13の反射像を観測するという簡易な調整方法がある。具体的には、ピエゾモータにより、標準試料の表面の測定点の至近距離まで金属探針13を移動させる。そして、反射面14Aに映る金属探針13の反射像を、作業者が受光窓15から目視できるように、回転装置20(パルスモータ40)や3次元駆動系を用いて、パラボリックミラー14の回転角および3次元位置を初期調整する。
【0062】
これにより、受光窓15から反射面14Aに入る平行光の焦点は上述の測定点(標準試料の表面)近傍に合っていると推定できる。このため、上述の測定点から放射状に出射された出射光が、パラボリックミラー14の反射面14Aにより反射された場合には、この出射光は、平行光として受光窓15から効率的に取り出せると期待される。
【0063】
なお、上述のとおり、パラボリックミラー14は、光軸に平行な入射光が集中する焦点を有しており、この第1の方法では、パラボリックミラー14の焦点位置を調整する手段が、ピエゾモータにより3次元移動する金属探針13、および、パラボリックミラー14用の回転装置20(パルスモータ40)、並びに、パラボリックミラー14用の3次元駆動系により構成されている。
【0064】
第2に、受光窓15からパラボリックミラー14の反射面14Aにレーザ光(平行光)を入射させるという、上述の第1の方法と比較してより高精度な調整方法がある。具体的には、レーザ光を反射面14Aに向けた際に、レーザ光の焦点が、上述の測定点(標準試料の表面)に合うように、回転装置20(パルスモータ40)や3次元駆動系を用いて、パラボリックミラー14の回転角および3次元位置を初期調整する。なお、レーザ光の焦点の観察は、作業者の目視で行えばよい。
【0065】
これにより、受光窓15から反射面14Aに入るレーザ光の焦点が上述の測定点に合っているので、上述の測定点から放射状に出射された出射光が、パラボリックミラー14の反射面14Aにより反射された場合には、この出射光は、平行光として受光窓15から効率的に取り出せると期待される。
【0066】
なお、上述のとおり、パラボリックミラー14は、光軸に平行な入射光が集中する焦点を有しており、この第2の方法では、パラボリックミラー14の焦点位置を調整する手段が、レーザ光(平行光)を発する光源、および、パラボリックミラー14用の回転装置20(パルスモータ40)、並びに、パラボリックミラー14用の3次元駆動系により構成されている。
【0067】
第3に、標準試料におけるレファレンス光の励起発光を利用する調整方法がある。具体的には、受光窓15に分光器をセットして、レファレンス光による標準試料の励起発光を起こさせ、この励起発光による出射光を分光器にかける。すると、分光器によりこの出射光のスペクトル分布を得ることができる。得られたスペクトル分布が、予め把握できている分布と合致すれば、パラボリックミラー14の回転角および3次元位置の調整が適切であると判断できる。そうでなければ、両者が合致するよう、パラボリックミラー14の回転角および3次元位置を初期調整すればよい。
【0068】
このようにして、本実施形態では、パラボリックミラー14の回転角や3次元位置の初期調整を適切に行うことができる。
【0069】
なお、これらの3通りの方法は、光学測定システム100の使用状態に応じて、適宜取捨選択できる。例えば、パラボリックミラー14の回転角や3次元位置の大まかな調整が完了している場合には、上述の第1の調整方法(簡易調整)を省略してもよい。
【0070】
次に、標準試料を真空容器10内の試料ホルダ12から取り出し、測定対象である試料11を、真空容器10内の試料ホルダ12にセットする。そして、真空容器10の内部10Aが、再び真空排気系により超高真空(10-8Pa程度)にまで減圧される。
【0071】
この状態で、光源から励起光200を試料11の測定点11Aに入射すると、測定点11Aでの励起発光による出射光201が測定点11Aから放射状に出射される。上述の3通りの調整方法により、パラボリックミラー14の回転角や3次元位置がすでに調整されているので、出射光201は、パラボリックミラー14により反射され、平行光として受光窓15を透って、真空容器10の外部に効率的に取り出される。この出射光201は、集光レンズ16および光ファイバー17を経て、受光装置18に入り、ここで、試料11の分子レベルの様々な分析がなされる。例えば、出射光201のスペクトルを得たい場合には、受光装置18として、分光器が用いられ、フォトン(光子)の個数を検出したい場合には、受光装置18として、フォトンカウンターが用いられる。
【0072】
その後、試料11の測定点11Aの位置が変更される度に、パラボリックミラー14の回転角が、回転装置20(パルスモータ40)により適切に調整され、パラボリックミラー14の3次元位置が、3次元駆動系により適切に調整される。
【0073】
以上に述べたとおり、本実施形態の回転装置20は、光の進行方向の変更に用いるパラボリックミラー14に固定された第1回転軸21と、この第1回転軸21から所定の間隔を離れて配された第2回転軸24と、第1および第2回転軸21、24との間を連結して構成され、第2回転軸24のトルクを第1回転軸21に伝達しているリンク機構30と、を備える。つまり、パラボリックミラー14は、第1回転軸21周り(Z方向周り)に回転できるよう構成され、この回転は、第2回転軸24の回転に応じたリンク機構30の動作に制御されている。このように、本実施形態の回転装置20は、第1および第2回転軸21、24とリンク機構30とを用いてコンパクトに構成できる。これにより、パラボリックミラー14と一体化された回転装置20を真空容器10内に配しても、真空容器10の内部10Aのスペースを適切かつ充分に確保できる。また、本実施形態では、第2回転軸24のトルクをリンク機構30により適切に第1回転軸21に伝達できるので、パラボリックミラー14の回転精度を向上できる。
【0074】
また、本実施形態の光学測定システム100は、上述の回転装置20と回転装置20により回転されるパラボリックミラー14とが内部に組み込まれた真空容器10と、第2回転軸24への回転力を、真空容器10外において付与しているパルスモータ40と、真空容器10内の試料11の励起を起こす励起光200を生成している光源と、試料11の励起発光による出射光201を、真空容器10外において受光している受光装置18と、を備えており、出射光201の進行方向は、真空容器10内において、回転装置20によるパラボリックミラー14の回転に基づいて変更されている。このようにして、本実施形態では、出射光201の進行方向が、真空容器10内において、回転装置20によるパラボリックミラー14の回転に基づいて変更できるので、出射光201の取り出し効率において、本実施形態の光学測定システム100には、上述の特許文献1記載の装置と比較した有利な特徴がある。
【0075】
ここで、本実施形態では、リンク機構30は、第1回転軸21の回転に対してスイング運動できるように第1回転軸21の側面に固定されたロッド状の第1リンクレバー31と、第2回転軸24の回転に対してスイング運動できるように第2回転軸24に固定されたロッド状の第2リンクレバー34と、を備えており、第1リンクレバー31および第2リンクレバー34が可動支点35において連結されている。よって、第2回転軸24の回転に基づいて可動支点35の位置が制御され、可動支点35の位置に基づいてパラボリックミラー14の回転が制御されている。
【0076】
具体的には、仮想直線300に対する第1リンクレバー31のなす角「α」は、パラボリックミラー14の回転に応じて変化するパラボリックミラー14のZ方向周りの回転角「α」に相当している。そして、回転角「α」は、第1回転軸21の中心と可動支点35との間の第1リンクレバーの長さ「L1」、第2回転軸24の中心と可動支点35との間の第2リンクレバーの長さ「L2」、および、仮想直線300に対する第2リンクレバーのなす角「β」を用いて、上述の関係式「α=L2/L1×β」から導ける(但し、角度「α」、および、角度「β」が充分に小さい場合)。
【0077】
以上の構成により、パラボリックミラー14のZ方向周りの回転分解能(回転精度)を比率「L2/L1」を小さくすることにより、高分解能化できる。このようにして、本実施形態では、パラボリックミラー14のZ方向周りの回転精度を向上できる。
【0078】
また、回転装置20によるパラボリックミラー14の回転角や3次元位置の調整方法の一例として、受光装置18の受光窓15側からパラボリックミラー14にレーザ光(平行光)を向けた場合において、このレーザ光の焦点が試料の測定点(試料の表面)で焦点に合うように、回転装置20(パルスモータ40)や3次元駆動系を用いて、パラボリックミラー14の回転角や3次元位置を調整するという方法がある。この方法により、受光窓15から反射面14Aに入るレーザ光の焦点が上述の測定点に合っているので、上述の測定点から放射状に出射された出射光が、パラボリックミラー14の反射面14Aにより反射された場合には、この出射光は、平行光として受光窓15から効率的に取り出せると期待される。
(変形例1)
本実施形態では、試料11に対し励起発光を起こすエネルギービームとして、励起光200を用いたが、これは飽くまで一例に過ぎない。励起光200に代えて、走査型トンネル顕微鏡の金属探針13からのトンネル電流(電子線)を用いて、試料11の表面(測定点11A)を励起発光させてもよい。これにより、試料11の分子1個レベルの励起を起こし易くなる。
(変形例2)
本実施形態では、第2回転軸24への回転力を付与する駆動機構として、パルスモータ40を例示したが、これに限らない。例えば、パルスモータ40に代えて、手動による駆動機構を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、上述のとおり、光の進行方向の変更に用いる反射鏡を高精度に回転制御できるコンパクトな回転装置を提供する。よって、本発明は、例えば、試料の励起発光の光を検出することにより、試料表面の分子の電子状態などを分析する光学測定システムにおいて、当該光を反射する反射鏡用の回転装置として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の実施形態による光学測定システムの一例を模式的に示した図である。
【図2】本発明の実施形態によるパラボリックミラー用の回転装置の構成例および回転装置の駆動系の一例を模式的に示した図である。
【図3】図2における回転装置の動作例を示した模式図である。
【符号の説明】
【0081】
10 真空容器
11 試料
12 試料ホルダ
13 金属探針
14 パラボリックミラー
14A パラボリックミラーの反射面
15 受光窓
16 集光レンズ
17 光ファイバー
18 受光装置
20 回転装置
21 第1回転軸
22 ケーシング部材
23 フランジ
24 第2回転軸
25 回転軸受
30 リンク機構
31 第1リンクレバー
34 第2リンクレバー
35 可動支点
36 リンク棒
37 制動バネ
40 パルスモータ
100 光学測定システム
200 励起光
201 出射光
300 仮想直線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の進行方向の変更に用いる反射鏡に固定された第1回転軸と、
前記第1回転軸から所定の間隔を離れて配された第2回転軸と、
前記第1および第2回転軸との間を連結して構成され、前記第2回転軸のトルクを前記第1回転軸に伝達しているリンク機構と、を備える反射鏡用の回転装置。
【請求項2】
前記リンク機構は、前記第1回転軸の回転に対してスイング運動できるように、前記第1回転軸に固定されたロッド状の第1リンクレバーと、前記第2回転軸の回転に対してスイング運動できるように、前記第2回転軸に固定されたロッド状の第2リンクレバーと、を備え、
前記第1リンクレバーおよび前記第2リンクレバーが可動支点において連結されている、請求項1記載の回転装置。
【請求項3】
前記第2回転軸の回転に基づいて前記可動支点の位置が制御され、前記可動支点の位置に基づいて前記反射鏡の回転が制御されている、請求項2記載の回転装置。
【請求項4】
前記第1回転軸の中心と前記第2回転軸の中心とを通る仮想直線に対する前記第1リンクレバーのなす角が、前記反射鏡の回転に応じて変化する回転角に相当している、請求項3記載の回転装置。
【請求項5】
前記回転角は、前記第1回転軸の中心と前記可動支点との間の前記第1リンクレバーの長さ、前記第2回転軸の中心と前記可動支点との間の前記第2リンクレバーの長さ、および、前記仮想直線に対する前記第2リンクレバーのなす角、に基づいて導かれている、請求項4記載の回転装置。
【請求項6】
前記リンク機構の動作と逆方向の力を、前記リンク機構に与える制動手段を備えた請求項1乃至5の何れかに記載の回転装置。
【請求項7】
前記反射鏡は焦点を有しており、前記反射鏡の焦点位置を調整する手段を備える請求項1乃至6の何れかに記載の回転装置。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れかに記載の回転装置と前記回転装置により回転される反射鏡とが内部に組み込まれた真空容器と、
前記第2回転軸への回転力を、前記真空容器外において付与している駆動機構と、
前記真空容器内の試料の励起を起こすビームを生成しているビーム源と、
前記試料の励起発光による出射光を、前記真空容器外において受光している受光装置と、を備え、
前記出射光の進行方向は、前記真空容器内において、前記回転装置による前記反射鏡の回転に基づいて変更されている、光学測定システム。
【請求項9】
請求項1乃至7の何れかに記載の回転装置による前記反射鏡の回転角調整方法であって、
受光窓側から前記反射鏡の反射面に平行光を向けた場合において、試料の表面に前記平行光の焦点が合うように、前記反射鏡の回転角が調整される、回転角調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−68867(P2009−68867A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−234874(P2007−234874)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【Fターム(参考)】