説明

反応チップ

【課題】 反応部において所望の反応を均一に発生させる。
【解決手段】 反応部12を、基材10aの裏面10B上に設けられた溝部21と、この溝部21の開口端21aを覆うことで溝部21の開口部を封止して流路22を形成する熱伝導性のフィルム23と、基材10aを厚さ方向に貫通し、基材10aの表面10A上に設けられた2つの各開口部24,24に接続されると共に溝部21の内部で開口する2つの貫通孔25,25とを備えて構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応チップに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば生化学反応等において微量の試料溶液を処理する反応装置として、反応チップの母材の表面上に設けられた複数の反応場としての凹部と、各凹部毎に温度状態を制御可能なペルチェ素子等からなる温度制御装置とを備えると共に、複数の凹部の各開口部を閉塞可能な蓋を搬送する搬送装置を備える反応装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、従来、例えば生化学反応等において用いられる反応器として、反応チップの基材の表面上に設けられた複数の反応場としての凹部と、基材に熱溶着または圧着されて複数の凹部の各開口部を閉塞可能なフィルムとを備える反応器が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平5−317030号公報
【特許文献2】特開平9−99932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記従来技術に係る反応装置および反応器によれば、母材または基材の表面上に設けた凹部を反応場としており、この凹部に貯留された試料溶液の温度状態を制御する際に、試料溶液全体の温度状態を均一に制御することが困難となる虞がある。つまり、反応チップの母材または基材は、例えばシリコンやポリプロピレン等の相対的に熱伝導性が低い材料により形成されていることから、母材または基材の凹部に貯留された試料溶液に対して、例えば反応チップの外部に配置された温度制御装置等によって、加熱または冷却が行われると、母材または基材からの距離が近い領域に位置する試料溶液ほど、温度変化が抑制されることになり、試料溶液全体に対して所望の反応を均一に発生させることが困難となる虞がある。
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、反応部において所望の反応を均一に発生させることが可能な反応チップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決して係る目的を達成するために、請求項1に記載の本発明の反応チップ(例えば、実施の形態での反応チップ10)は、基材(例えば、実施の形態での基材10a)の表面上に設けられた溝部(例えば、実施の形態での溝部21)および該溝部の開口端(例えば、実施の形態での開口端21a)の少なくとも一部を覆うフィルム(例えば、実施の形態でのフィルム23)を具備する流路状の反応部(例えば、実施の形態での反応部12)を備えることを特徴としている。
【0005】
さらに、請求項2に記載の本発明の反応チップでは、前記フィルムは熱伝導性フィルムであることを特徴としている。
【0006】
さらに、請求項3に記載の本発明の反応チップは、前記基材の表面上に、光学分析可能な検出部(例えば、実施の形態での検出部13、検出凹部13a)を備えることを特徴としている。
【0007】
さらに、請求項4に記載の本発明の反応チップでは、前記検出部は凹状であることを特徴としている。
【0008】
さらに、請求項5に記載の本発明の反応チップは、前記基材の表面上に、反応試薬を収容可能な試薬収容部(例えば、実施の形態での試薬収容部11、試薬収容凹部11a)を備えることを特徴としている。
【0009】
さらに、請求項6に記載の本発明の反応チップでは、前記試薬収容部は凹状であることを特徴としている。
【0010】
さらに、請求項7に記載の本発明の反応チップでは、前記反応部は、酵素反応用であることを特徴としている。
【0011】
さらに、請求項8に記載の本発明の反応チップでは、前記酵素反応は、ポリメラーゼ連鎖反応であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の本発明の反応チップによれば、反応部が流路状であることから、反応部への溶液の供給および反応部からの溶液の回収が容易となり、しかも、溝部を形成する基材に対して相対的に厚さが薄くなることで熱伝導率が大きくなるフィルムによって反応部が形成されていることから、反応部に貯留された溶液全体の温度状態を容易に均一に制御することができる。
さらに、請求項2に記載の本発明の反応チップによれば、反応部が熱伝導性フィルムにより形成されていることから、反応部に貯留された溶液全体の温度状態を、より一層、容易に均一に制御することができる。
【0013】
さらに、請求項3に記載の本発明の反応チップによれば、単一の基材に対して、少なくとも、所望の反応を生じさせる処理と、検出処理とを連続的に効率よく実行することができる。
さらに、請求項4に記載の本発明の反応チップによれば、基材の表面上に検出部を容易に形成することができる。
さらに、請求項5に記載の本発明の反応チップによれば、単一の基材に対して、少なくとも、反応試薬を収容する処理と、所望の反応を生じさせる処理とを連続的に効率よく実行することができる。
さらに、請求項6に記載の本発明の反応チップによれば、基材の表面上に試薬収容部を容易に形成することができる。
【0014】
さらに、請求項7に記載の本発明の反応チップによれば、反応部の溶液全体に対して酵素反応を容易に均一に発生させることができる。
さらに、請求項8に記載の本発明の反応チップによれば、反応部の溶液全体に対してポリメラーゼ連鎖反応を容易に均一に発生させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係る反応チップについて添付図面を参照しながら説明する。
【0016】
本実施形態に係る生化学反応装置1は、例えば図1に示すように、反応チップ10に対して反応試薬を収容する試薬収容工程を実行する試薬収容装置2と、例えば酵素反応であるポリメラーゼ連鎖反応(PCR:Polymerase Chain Reaction)等の所定反応を生じさせる反応工程を実行する反応装置3と、例えば光学分析等によりDNA等の検体を検出する検出工程を実行する検出装置4とを備えて構成されている。
【0017】
そして、生化学反応装置1の試薬収容装置2は、例えばポリメラーゼ連鎖反応等の各種の反応処理に用いる検体試薬および他の試薬と、検出工程で用いる各種の試薬と、希釈液またはバッファー液等とを、反応チップ10の試薬収容部11に収容する。
【0018】
そして、生化学反応装置1の反応装置3は、例えば反応工程での反応溶液の温度状態を制御するペルチェ素子等を具備する温度制御装置5を備えて構成されている。
例えば図1に示すように、温度制御装置5は、後述する反応チップ10の反応部12を厚さ方向の両側(つまり、表面側および裏面側)から挟み込むようにして配置される2つのペルチェ素子部5a,5bを備え、反応チップ10の表面と当接する各ペルチェ素子部5a,5bの表面は、後述する反応チップ10の反応部12の表面形状(例えば、凸形状等)に沿った形状(例えば、凹形状等)を有するように形成されている。
【0019】
そして、生化学反応装置1の検出装置4は、反応装置3によるポリメラーゼ連鎖反応等の所定反応によって調整された検体と、検出用の各種の試薬とを、反応チップ10の検出部13において反応させ、予め検体あるいは核酸プローブに付けた標識物質(例えば、蛍光物質)の有無を、例えば反応チップ10の検出部13の裏面側等から検出する発光検出を行う。
【0020】
反応チップ10は、例えば図2に示すように、単一の略長方形板状の基材10aに設けられた試薬収容部11と、反応部12と、検出部13とを備えて構成されている。
なお、基材10aは、好ましくは、例えばPC(ポリカーボネート)、PP(ポリプロピレン)、シクロオレフィン系ポリマー、フッ素ポリマー、シリコン樹脂等の各プラスチックあるいは複数のプラスチックの適宜の組み合わせ、あるいは、ガラス等により形成されることで、耐熱性、耐薬品性、成形加工性等に優れたものとなる。
【0021】
そして、試薬収容部11は、例えば基材10aの長手方向に沿った一方の端部に設けられ、基材10aの表面上に設けられた複数の凹穴状の試薬収容凹部11a,…,11aを備えて構成され、例えばポリメラーゼ連鎖反応等の各種の反応処理に用いる検体試薬および他の試薬と、検出工程で用いる各種の試薬と、希釈液またはバッファー液等を収容する。
【0022】
そして、後述する反応部12は、例えば基材10aの長手方向に沿った央部に設けられている。
そして、検出部13は、例えば基材10aの長手方向に沿った他方の端部に設けられ、基材10aの表面上に設けられた複数の凹穴状の検出凹部13a,…,13aを備えて構成され、反応部12においてポリメラーゼ連鎖反応等の所定反応により調整された検体と、検出用の各種の試薬とを収容する。
【0023】
なお、各試薬収容凹部11aおよび各検出凹部13aの形状は、特に限定されるものではなく、例えば円錐台形、角錐台形、円錐、角錐、曲面状の底部を有する形状等の適宜のウェル形状であってもよく、加工成形性、溶液の注入性等により適宜に設定される。
なお、各試薬収容凹部11aおよび各検出凹部13aは、基材10aがプラスチックからなる場合には、例えば切削加工、成型加工等により形成される。また、基材10aがガラスからなる場合には、例えば切削加工等により形成される。
【0024】
なお、各試薬収容凹部11aの大きさは収容する試薬の量に応じて設定され、例えば開孔径0.1〜10mm、深さ0.1〜10mmである。
なお、DNAの分析に用いる試薬の量は微量であるため、各検出凹部13aは、好ましくは、開孔径5mm以下、特に、開孔径0.01mm〜5mmであって、深さ5mm以下、特に、深さ0.01mm〜5mmである。
また、各試薬収容凹部11aおよび各検出凹部13aの内面は、例えば親水化または撥水化等の表面処理が施されてもよい。
【0025】
また、各試薬収容凹部11aおよび各検出凹部13aは、例えばPP(ポリプロピレン)、PC(ポリカーボネート)、PS(ポリスチレン)、PE(ポリエチレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、POM(ポリアセタール)、PA(ポリアミド)、PAN(ポリアクリロニトリル)、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、TPXフィルム(三井化学株式会社製)などのメチルペンテン系フィルム、ゼオノア(日本ゼオン株式会社製)などのシクロオレフィン系フィルム、シリコン樹脂フィルム、フッ素系ポリマーフィルム等の各プラスチックあるいは複数のプラスチックの適宜の組み合わせによる被覆フィルムにより被覆されてもよい。
【0026】
反応部12は、例えば図3(a)〜(d)に示すように、基材10aの裏面10B上に設けられた溝部21と、この溝部21の開口端21aを覆うことで溝部21の開口部を封止して流路22を形成するフィルム23と、基材10aを厚さ方向に貫通し、基材10aの表面10A上に設けられた2つの各開口部24,24に接続されると共に溝部21の内部で開口する2つの貫通孔25,25とを備えて構成されている。つまり、この反応部12は流路状であって、基材10aの表面10A上で開口する一方の開口部24から反応部12の内部に供給された溶液は、順次、一方の貫通孔25と、溝部21およびフィルム23により形成された流路22と、他方の貫通孔25と、他方の開口部24とを流通可能となっている。
なお、基材10aの表面10A側から溝部21に向かって切削又は金型形成等による凹部を形成し、流路22の表面10A側の壁厚を薄くしてもよい。このようにすれば、表面10Aに対向する位置(例えば、表面10Aの上方の位置)に反応のための熱源を配置する場合において、流路22内に熱が迅速かつ均一に伝達される。
【0027】
なお、フィルム23は、例えばPP(ポリプロピレン)、PC(ポリカーボネート)、PS(ポリスチレン)、PE(ポリエチレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、POM(ポリアセタール)、PA(ポリアミド)、PAN(ポリアクリロニトリル)、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、TPXフィルム(三井化学株式会社製)などのメチルペンテン系フィルム、ゼオノア(日本ゼオン株式会社製)などのシクロオレフィン系フィルム、シリコン樹脂フィルム、フッ素系ポリマーフィルム等の各プラスチックあるいは複数のプラスチックの適宜の組み合わせによる単層構造あるいは多層構造のフィルム、あるいは、例えばアルミニウム、銅、金等の各金属あるいは複数の金属の合金による単層構造あるいは多層構造のフィルム、さらには、プラスチックと金属との組み合わせによる多層構造のフィルム等である。
【0028】
そして、フィルム23の厚さは、例えば1〜500μmであって、好ましくは、1〜100μmであって、この範囲内で薄くなることに伴い、より好ましくなる。
なお、厚さが1μm未満であると、熱変形が過剰に大きくなると共に所望の強度を確保することができなくなり、一方、厚さが500μmよりも厚くなると、熱伝導性が過剰に低下し、反応部12内の溶液の温度状態を外部から制御する際に、溶液全体に対して温度状態を均一に制御することが困難となって、反応状態に対する所望の均一性を確保することができなくなる。
また、金属からなるフィルム23は、好ましくは、厚さが1〜50μmである。
【0029】
また、プラスチックからなるフィルム23は、好ましくは、熱伝導率が0,1kcal/mh℃以上であって、例えばPP(ポリプロピレン)では熱伝導率が0,119kcal/mh℃程度であり、PC(ポリカーボネート)では熱伝導率が0,166kcal/mh℃程度であり、PE(ポリエチレン)では熱伝導率が0,252kcal/mh℃程度である。
また、金属からなるフィルム23は、好ましくは、熱伝導率が100kcal/mh℃以上であって、例えばアルミニウムでは熱伝導率が177kcal/mh℃程度であり、銅では熱伝導率が324kcal/mh℃程度であり、金では熱伝導率が254kcal/mh℃程度である。
【0030】
なお、プラスチックからなる単層構造のフィルム23は、好ましくは、厚さが10〜100μm程度である。
なお、金属からなる単層構造のフィルム23は、例えば軟質アルミニウムの場合、好ましくは、厚さが5〜80μm程度であり、硬質アルミニウムの場合、好ましくは、厚さが5〜50μm程度である。
【0031】
また、プラスチックからなる多層構造のフィルム23は、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)またはOPP(延伸ポリプロピレン)等により形成され、好ましくは、厚さが1〜20μm程度に設定されることで、所望の強靭性および柔軟性が確保される。
また、プラスチックと金属との組み合わせによる多層構造のフィルム23は、例えばアルミニウムの場合、好ましくは、厚さが7〜50μm程度であり、さらに、アルミニウムの表面上には、反応チップ10の基材10aの表面に、例えば熱溶着あるいは圧着により貼付可能なシール層が、アルミニウムと一体となるように設けられている。このシール層は、例えばナイロン等の樹脂フィルム状のシーラントがアルミニウムの表面上に積層、あるいは、例えばマレイン酸変性ポリプロピレン等がアルミニウムの表面上に塗工されて形成されている。このフィルム23では、さらに、強度を増大させるために、アルミニウム層側にPET(ポリエチレンテレフタレート)またはOPP(延伸ポリプロピレン)等のフィルムを積層させても良い。
【0032】
なお、フィルム23が貼付される基材10aの表面上には、例えば反応部12の溝部21や開口部24の周囲において表面上から突出する突出部を設け、この突出部とフィルム23とが当接するように設定してもよい。
【0033】
本実施形態の反応方法に係る生化学反応装置1および反応チップ10は上記構成を備えており、次に、この生化学反応装置1の動作について説明する。
【0034】
先ず、例えば図4に示すステップS01においては、試薬収容工程として、試薬収容装置2により、例えばポリメラーゼ連鎖反応等の各種の反応処理に用いる検体試薬および他の試薬と、検出工程で用いる各種の試薬と、希釈液またはバッファー液等とを、反応チップ10の試薬収容部11に収容する。
【0035】
次に、ステップS02においては、後述する反応工程として、所定反応(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応)を生じさせる。
【0036】
次に、ステップS03においては、検出工程として、反応工程でのポリメラーゼ連鎖反応によって調整された検体と、検出用の各種の試薬(例えば、核酸プローブ等)とを、反応チップ10の検出部13においてハイブリダイゼーション等により反応させ、予め検体あるいは核酸プローブに付けた標識物質(例えば、蛍光物質)の有無を、例えば反応チップ10の検出部13の裏面側等から検出する発光検出を行い、一連の処理を終了する。
【0037】
以下に、上述したステップS02での反応工程について説明する。
先ず、例えば図5に示すステップS11においては、反応液供給工程として、反応チップ10の流路状の反応部12の開口部24から、反応部12の内部へと向かい反応溶液を供給する。
なお、ポリメラーゼ連鎖反応に対する反応溶液は、例えば血液等から抽出したDNAまたは予め精製された鋳型DNAと、ポリメラーゼ酵素と、各塩基の材料であるdNTP(デオキシヌクレオチド3リン酸)と、pHおよび濃度調整のための希釈液またはバッファー液とからなる。
【0038】
次に、ステップS12においては、封止工程として、反応溶液を貯留する反応部12の内部へと向かい、開口部24からミネラルオイルを供給し、例えば図6(a),(b)に示すように、反応部12の内部において雰囲気中に露出する反応溶液Rの液面上にミネラルオイルMを重層させ、反応部12の内部を封止する。なお、ミネラルオイルを重層させず、適宜のフィルム(例えば、フィルム23と同等のフィルム等)によって開口部24を覆うようにしてもよい。
【0039】
次に、ステップS13においては、後述する反応生成工程として、ポリメラーゼ連鎖反応を生じさせ、一連の処理を終了する。
【0040】
以下に、上述したステップS13での反応生成工程について説明する。
先ず、例えば図7に示すステップS21においては、変性工程として、温度制御装置5により反応部12の温度状態を、所定時間(例えば、5〜25秒等)に亘って、所定温度(例えば、90〜100℃程度)となるように制御し、反応溶液のDNAを熱変性させる。
【0041】
次に、ステップS22においては、アニーリング工程として、温度制御装置5により反応部12の温度状態を、所定時間(例えば、15〜60秒等)に亘って、所定温度(例えば、50〜60℃程度)となるように制御し、各種のプライマー(つまり、DNAの断片)を所望の遺伝子配列と結合(アニーリング)させる。
【0042】
次に、ステップS23においては、伸長反応工程として、温度制御装置5により反応部12の温度状態を、所定時間(例えば、1〜5分等)に亘って、所定温度(例えば、65〜75℃程度)となるように制御し、DNAポリメラーゼによる相補鎖合成を行う。
【0043】
次に、ステップS24においては、一連の処理を継続するか否かを判定する。
この判定結果が「YES」の場合には、上述したステップS21に戻る。
一方、この判定結果が「NO」の場合には、一連の処理を終了する。
【0044】
なお、以下に、上述した反応チップ10の反応部12の製造方法について説明する。
先ず、例えば射出成型法あるいは切削加工法により、例えばPC(ポリカーボネート)、PP(ポリプロピレン)、シクロオレフィン系ポリマー、フッ素ポリマー、シリコン樹脂等の各プラスチックあるいは複数のプラスチックの適宜の組み合わせからなる基材10aの裏面10B上に溝部21を形成する(ステップS31)。
【0045】
次に、例えば切削加工法により、基材10aを厚さ方向に貫通し、基材10aの表面10A上に設けられた2つの各開口部24,24に接続されると共に溝部21の内部で開口する2つの貫通孔25,25を形成する(ステップS32)。
【0046】
次に、フィルム23によって溝部21の開口端21aを覆い、溝部21の開口部を封止するようにして、フィルム23を基材10aの裏面10B上に熱溶着あるいは圧着により、あるいは、例えばポリ酢酸ビニル系およびポリアミド系等の熱可塑性樹脂接着剤を介して貼付し、溝部21とフィルム23とにより流路22を形成する(ステップS33)。
なお、PE(ポリエチレン)等からなるフィルム23は、熱溶着性であるため、接着剤を用いずに基材10aと貼り合わせることができる。
また、フィルム23は、樹脂フィルムや金属フィルム、または、これらを積層したフィルムに、接着層を積層あるいはシーラントを塗布することにより形成したものを用いてもよい。
【0047】
以下に、上述した反応チップ10を実際に試験に用いた試験結果について説明する。
【実施例】
【0048】
ポリプロピレンからなる樹脂板(ノバテック社製PP、3mm厚)の基材10aに切削加工により溝部21および貫通孔25,25を形成した。この溝部21の開口部を封止するようにして、フィルム23としてABI PRISM Optical Cover(ABI社製、厚み100um)を貼り、中空の流路22を有する反応チップ10を作成した。
そして、開口部24から反応部12の内部にミネラルオイル5ul、反応液5ul、ミネラルオイル5ulを順に入れ、両開口部24,24にフィルム23を貼って密封した。
そして、反応チップ10に対して一連の反応生成工程を実行した。
この試験により、反応チップ10の代わりにポリプロピレンのマイクロチューブを用いて一連の反応生成工程を実行した場合と同程度の効率で、増幅産物が得られる事が分かった。
【0049】
上述したように、本実施の形態による反応チップ10によれば、反応チップ10の反応部12が流路状であることから、反応部12への溶液の供給および反応部12からの溶液の回収が容易となる。これに加えて、溝部21を形成する基材10aに対して相対的に厚さが薄くなることで熱伝導率が大きくなるフィルム23によって反応部12が形成されていることから、反応部12に貯留された溶液全体の温度状態を容易に均一に制御することができる。
さらに、フィルム23が熱伝導性フィルムにより形成されることで、反応部12に貯留された溶液全体の温度状態を、より一層、容易に均一に制御することができる。
しかも、反応チップ10は、単一の基材10aに試薬収容部11と、反応部12と、検出部13とを備えて構成されることから、一連の試薬収容工程と反応工程と検出工程とを連続的に効率よく実行することができる。
【0050】
なお、上述した実施の形態においては、反応チップ10を、試薬収容部11と、反応部12と、検出部13とを備えて構成するとしたが、これに限定されず、例えば試薬の種類や数、検体の種類や数等に応じて、複数の試薬収容部11,…,11と、複数の反応部12,…,12と、複数の検出部13,…,13とを備えて構成してもよい。
また、上述した実施の形態においては、反応チップ10において、試薬収容部11と、反応部12と、検出部13とを、流路等によって互いに接続してもよい。この場合には、検査時間を短縮することができると共に、微量の試料および試薬で各種の分析を精度良く行うことができ、分析に要する費用を削減することができる。
【0051】
なお、上述した実施の形態においては、流路状の反応部12において、基材10aの裏面10B上に設けられた溝部21および基材10aの裏面10B上に貼付されたフィルム23により流路22が形成されるとしたが、これに限定されず、例えば図8(a)〜(d)に示す第1変形例のように、反応部12を、基材10aの裏面10B上に設けられた溝部21と、この溝部21の開口端21aを覆うことで溝部21の開口部を封止するフィルム23と、基材10aを厚さ方向に貫通し、基材10aの表面10A上に設けられた2つの各開口部24,24に接続されると共に溝部21の内部で開口する2つの貫通孔25,25と、基材10aの表面10A上において2つの各開口部24,24と干渉しない位置に設けられ、溝部21に接続される第2の溝部31と、第2の溝部31の底面31A上に貼付された第2のフィルム32とを備えて構成してもよい。
つまり、この第1変形例において、第2の溝部31の底面31A上には、溝部21に接続される開口部31aが形成されており、底面31A上に貼付された第2のフィルム32が開口部31aを封止すると共に、フィルム23が溝部21の開口端21aを覆うことで流路22が形成されている。
なお、この第2のフィルム32は、例えばフィルム23と同等のフィルムである。
このようにすれば、基材10aの表面10Aに対向する位置(例えば、表面10Aの上方の位置)に反応のための熱源を配置する場合において、流路22内に熱が迅速かつ均一に伝達される。
【0052】
以下に、この第1変形例に係る反応チップ10の反応部12の製造方法について説明する。
先ず、例えば射出成型法あるいは切削加工法により、例えばPC(ポリカーボネート)、PP(ポリプロピレン)、シクロオレフィン系ポリマー、フッ素ポリマー、シリコン樹脂等の各プラスチックあるいは複数のプラスチックの適宜の組み合わせからなる基材10aの裏面10B上に溝部21を形成する(ステップS41)。
【0053】
次に、例えば切削加工法により、基材10aを厚さ方向に貫通し、基材10aの表面10A上に設けられた2つの各開口部24,24に接続されると共に溝部21の内部で開口する2つの貫通孔25,25を形成する(ステップS42)。
【0054】
次に、例えば切削加工法により、基材10aの表面10A上において2つの各開口部24,24と干渉しない位置に第2の溝部31を形成し、この第2の溝部31の底面31A上の央部に、溝部21に接続される開口部31aを形成する(ステップS43)。
【0055】
次に、フィルム23によって溝部21の開口端21aを覆い、溝部21の開口部を封止するようにして、フィルム23を基材10aの裏面10B上に熱溶着あるいは圧着により、あるいは、例えばポリ酢酸ビニル系およびポリアミド系等の熱可塑性樹脂接着剤を介して貼付し、溝部21とフィルム23とにより流路22を形成する(ステップS44)。
【0056】
次に、第2のフィルム32によって第2の溝部31の開口部31aを封止するようにして、第2のフィルム32を第2の溝部31の底面31A上に熱溶着あるいは圧着により、あるいは、例えばポリ酢酸ビニル系およびポリアミド系等の熱可塑性樹脂接着剤を介して貼付し、溝部21とフィルム23および第2の溝部31と第2のフィルム32とにより流路22を形成する(ステップS45)。
この第1変形例においては、溝部21を形成する基材10aに対して相対的に厚さが薄くなることで熱伝導率が大きくなる第2のフィルム32によって流路22が形成されていることから、反応生成工程において反応部12に貯留された反応溶液全体の温度状態を容易に均一に制御することができる。これにより、反応部12の反応溶液全体に対して所定反応を容易に均一に発生させることができる。
【0057】
なお、上述した実施の形態においては、例えば図4に示すように、ステップS12のアニーリング工程と、ステップS13の伸長反応工程とを、順次、実行するとしたが、これに限定されず、例えばアニーリング工程および伸長反応工程を同時に実行してもよい。この場合には、温度制御装置5により反応部12の温度状態を、所定時間(例えば、1〜5分等)に亘って、所定温度(例えば、50〜70℃程度)となるように制御することで、各種のプライマー(つまり、DNAの断片)を所望の遺伝子配列と結合(アニーリング)させると共に、DNAポリメラーゼによる相補鎖合成を行う。
また、上述した実施の形態においては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を、マルチプレックスPCRとしてもよい。このマルチプレックスPCRでは、ホットスタート法(つまり、プライマーのミスアニーリングやオリゴマー化の発生を抑制するために、反応溶液が相対的に高温状態になってから伸長反応工程の実行を開始する方法)を適用することが好ましい。
【0058】
なお、本発明の実施の形態に係る生化学反応装置1は、様々な生化学系の反応用として用いることができ、例えば抗原抗体反応及びDNA反応の検出などに用いることができる。
抗原抗体反応による抗原検出の場合、例えば、予め各反応部12内に抗原を含む試料を入れておき、後から抗体を含む試薬を添加し、抗原または抗体に標識物質を付けておくことで、反応の有無を検出できる。標識物質としては、蛍光などの発光物質が一般的に用いられる。
【0059】
DNAの検出の場合、例えば、予め各検出部13内に核酸プローブを用意しておく。次に、検体DNAをウェル状の検出部13に供給し、核酸プローブと検体DNAとのハイブリダイゼーション反応により、DNAの検出を行うことができる。その際、検体DNAに標識物質を付けておけば、その標識物質の有無を検出することにより検出が可能となる。また、検体DNAとして、血液等から抽出したDNAをPCR法、LAMP法などにより調整しておいたものを用いることができる。また、核酸プローブとして配列の異なる核酸を複数用意することで検体DNAがどのような配列であるかを検出することができる。
【0060】
また、一塩基遺伝子多型(SNP)の解析にも用いることができる。なお、その場合、プローブ核酸やその検出に用いる物質は複数あってもよく、それらの物質のひとつが標識されていればよい。
【0061】
また、標識物質は、結合したプローブ核酸と検体DNAに特異的に作用するものを、反応後に加えることもできる。このようなものとしては、インターカレーターなどがある。また、ここでいう標識物質とは間接的なものも含む。すなわち、蛍光物質などに結合する物質を標識物質として検体DNAに結合させておき、後から蛍光物質を加えても良い。
【0062】
また、多段階反応を行ってSNPまたはDNAを検出してもよい。
例えば、インベーダー・アッセイ法(サードウェイブテクノロジーズ,Inc(米国ウィスコンシン州マディソン市)を用いても良い。これによりSNP解析の具現化を図ることが可能となる。
【0063】
この場合、検出DNAの検出に用いるプローブ核酸などの物質が複数種でもよく、予め各反応部12内に少なくとも1種の物質を入れておき、その後、検出DNAと他の物質を同時または順次注入し、反応をおこなっても良い。
【0064】
また、反応部12には、反応用液の乾燥を防ぐ目的でミネラルオイルなどの反応用液より比重の軽い溶液を加えても良い。
また、検体DNA又は抗原などは反応部12内に固定してもよいし、固定させずに保持させておくだけでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施の形態に係る生化学反応装置の構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る反応チップの斜視図である。
【図3】図3(a)は、本発明の実施の形態に係る反応部の斜視図であり、図3(b)は、本発明の実施の形態に係る反応部を表面側から見た平面図であり、図3(c)は、本発明の実施の形態に係る反応部を裏面側から見た平面図であり、図3(d)は、本発明の実施の形態に係る反応部の断面図である。
【図4】図1に示す生化学反応装置の動作を示すフローチャートである。
【図5】図4に示すステップS02での反応工程の処理を示すフローチャートである。
【図6】図6(a)は、本発明の実施の形態に係る反応部の斜視図であって,反応部の内部において反応溶液の液面上にミネラルオイルを重層した状態を示す図であり、図6(b)は、本発明の実施の形態に係る反応部の断面図であって,反応部の内部において反応溶液の液面上にミネラルオイルを重層した状態を示す図である。
【図7】図5に示すステップS13での反応生成工程の処理を示すフローチャートである。
【図8】図8(a)は、本発明の実施の形態の第1変形例に係る反応部の斜視図であり、図8(b)は、本発明の実施の形態の第1変形例に係る反応部を表面側から見た平面図であり、図8(c)は、本発明の実施の形態の第1変形例に係る反応部を裏面側から見た平面図であり、図8(d)は、本発明の実施の形態の第1変形例に係る反応部の断面図である。
【符号の説明】
【0066】
10 反応チップ
10a 基材
11a 試薬収容凹部(試薬収容部)
12 反応部
13 検出部
13a 検出凹部(検出部)
21 溝部
21a 開口端
22 流路
23 フィルム
24 開口部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面上に設けられた溝部および該溝部の開口端の少なくとも一部を覆うフィルムを具備する流路状の反応部を備えることを特徴とする反応チップ。
【請求項2】
前記フィルムは熱伝導性フィルムであることを特徴とする請求項1に記載の反応チップ。
【請求項3】
前記基材の表面上に、光学分析可能な検出部を備えることを特徴とする請求項1または請求項2の何れか1つに記載の反応チップ。
【請求項4】
前記検出部は凹状であることを特徴とする請求項3に記載の反応チップ。
【請求項5】
前記基材の表面上に、反応試薬を収容可能な試薬収容部を備えることを特徴とする請求項1から請求項4の何れか1つに記載の反応チップ。
【請求項6】
前記試薬収容部は凹状であることを特徴とする請求項5に記載の反応チップ。
【請求項7】
前記反応部は、酵素反応用であることを特徴とする請求項1から請求項6の何れか1つに記載の反応チップ。
【請求項8】
前記酵素反応は、ポリメラーゼ連鎖反応であることを特徴とする請求項7に記載の反応チップ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−345815(P2006−345815A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−178589(P2005−178589)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】