説明

反応度制御設備及び高速炉

【課題】中性子吸収体の懸吊状態における地震発生時にも、中性子吸収体の健全性及び炉停止棒の挿入性を確保して信頼性を向上できること。
【解決手段】炉心12中央部に設けられたラッパー管31内に炉停止棒32が配置されると共に、中性子吸収体33が炉停止棒の周囲に複数体配置されてなる反応度制御アッセンブリ29と、スクラム時に内側延長管53を落下させて、この内側延長管を内包する外側延長管54の最下端のグリッパ55に把持された炉停止棒32を切り離す炉停止棒駆動機構43と、中性子吸収体33のハンドリングロッド41のハンドリングヘッド42を内側延長軸60の最下端のグリッパ66で把持して懸吊し、中性子吸収体を個別に昇降させる複数の中性子吸収体駆動機構44とを有し、中性子吸収体33のハンドリングロッド41の一部が、中性子吸収体の懸吊状態における水平方向の変位を吸収可能な、可撓性を有するワイヤ70で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉の反応度を制御する反応度制御設備、及びこの反応度制御設備を具備する高速炉に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の高速炉及び反応度制御設備の一例が特許文献1に開示されている。このような高速炉は、原子炉容器内に液体ナトリウムなどの冷却材が収容されると共に、この原子炉容器内に核燃料集合体からなる炉心を備え、この炉心の周囲に反射体が配置されて構成される。反射体が炉心の軸方向に移動することで、炉心の反応度が制御される。
【0003】
このような反射体制御方式の高速炉では、炉心の中央位置に、炉停止棒とその周囲に設置された複数体の中性子吸収体とを有する反応度制御アッセンブリが配置されている。炉停止棒が、主炉停止機能を果たす反射体に対して後備炉停止系を構成する。また、中性子吸収体は、炉心の初期の余剰反応度を抑制する機能を果たす。
【0004】
炉停止棒は炉停止棒駆動機構により、また中性子吸収体は中性子吸収体駆動機構により、それぞれ上下方向に駆動される。これらの炉停止棒駆動機構及び中性子吸収体駆動機構が反応度制御アッセンブリ駆動機構を構成し、この反応度制御アッセンブリ駆動機構と前記反応度制御アッセンブリが反応度制御設備を構成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−240527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
中性子吸収体は、炉心の余剰反応度が低下したときには、この中性子吸収体の上部におけるハンドリングロッドのハンドリングヘッドが中性子吸収体駆動機構により把持されて炉心から引き上げられ、懸吊状態に保持される。
【0007】
この中性子吸収体の懸吊状態において、地震などの発生により反応度制御アッセンブリ駆動機構と反応度制御アッセンブリとの間に水平方向の相対変位が生じた場合には、中性子吸収体のハンドリングロッドと中性子吸収体駆動機構との間でフレキシビリティが十分でないと、中性子吸収体の健全性が損なわれたり、中性子吸収体のハンドリングロッドに上記相対変位が残留して、炉停止棒駆動機構による炉停止棒の炉心への挿入性が損なわれる恐れがある。
【0008】
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、中性子吸収体の懸吊状態における地震発生時にも、中性子吸収体の健全性及び炉停止棒の挿入性を確保して信頼性を向上できる反応度制御設備及び高速炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る反応度制御設備は、炉心中央部に設けられたラッパー管内に炉停止棒が配置されると共に、初期の余剰反応度を抑制する中性子吸収体が前記炉停止棒の周囲に複数体配置されてなる反応度制御アッセンブリと、スクラム時に内側延長管を落下させて、この内側延長管を内包する外側延長管の最下端のグリッパに把持された前記炉停止棒を切り離す炉停止棒駆動機構と、前記中性子吸収体のハンドリングロッドのハンドリングヘッドを内側延長軸の最下端のグリッパで把持して懸吊し、前記中性子吸収体を個別に昇降させる複数の中性子吸収体駆動機構とを有し、前記炉停止棒駆動機構及び前記中性子吸収体駆動機構が反応度制御アッセンブリ駆動機構を構成する反応度制御設備であって、前記中性子吸収体の前記ハンドリングロッドの一部が、前記中性子吸収体の懸吊状態における水平方向の変位を吸収可能な変位吸収部材により構成されたことを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明に係る反応度制御設備は、炉心中央部に設けられたラッパー管内に炉停止棒が配置されると共に、初期の余剰反応度を抑制する中性子吸収体が前記炉停止棒の周囲に複数体配置されてなる反応度制御アッセンブリと、スクラム時に内側延長管を落下させて、この内側延長管を内包する外側延長管の最下端のグリッパに把持された前記炉停止棒を切り離す炉停止棒駆動機構と、前記中性子吸収体のハンドリングロッドを駆動軸により懸吊し、前記中性子吸収体を個別に昇降させる複数の中性子吸収体駆動機構とを有し、前記炉停止棒駆動機構及び前記中性子吸収体駆動機構が反応度制御アッセンブリ駆動機構を構成する反応度制御設備であって、前記中性子吸収体駆動機構の前記駆動軸と前記中性子吸収体の前記ハンドリングロッドとの間に、前記中性子吸収体の懸吊状態における水平方向の変位を吸収可能な変位吸収部材が設けられたことを特徴とするものである。
【0011】
更に、本発明に係る高速炉は、原子炉容器内で冷却材に浸された炉心と、前記原子炉容器内で炉心の外側に配置され、前記炉心の軸方向に移動することで前記炉心の反応度を制御する反射体と、を有する高速炉において、前記発明のいずれかに記載の反応度制御設備が備えられたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る反応度制御設備及び高速炉によれば、反応度制御アッセンブリの中性子吸収体が、反応度制御アッセンブリ駆動機構の中性子吸収体駆動機構に懸吊された状態において地震が発生した場合にも、反応度制御アッセンブリと反応度制御アッセンブリ駆動機構との水平方向の相対変位を、中性子吸収体のハンドリングロッドに設けられた変位吸収部材、または中性子吸収体駆動機構の駆動軸と中性子吸収体のハンドリングロッドとの間に設けられた変位吸収部材がそれぞれ吸収する。この結果、中性子吸収体のハンドリングロッドの折損や曲げ変形状態の残留を防止でき、折損により中性子吸収体が落下して炉出力が低下したり、曲げ変形状態の残留により反応度制御アッセンブリの炉停止棒が炉心に再挿入され難くなることを防止して、反応度制御設備の信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る反応度制御設備における第1実施形態が装備された高速炉を示す縦断面図。
【図2】図1の反応度制御アッセンブリを示す縦断面図。
【図3】図1の反応度制御アッセンブリ駆動機構を示す縦断面図。
【図4】図2のIV−IV線に沿う断面図。
【図5】図3のV−V線に沿う断面図。
【図6】図3のVI部拡大断面図。
【図7】図3のVII部拡大断面図。
【図8】図3の中性子吸収体駆動機構による中性子吸収体の懸吊動作を示し、(A)は懸吊前の断面図、(B)は懸吊時の断面図。
【図9】図8(B)のIX部拡大断面図。
【図10】本発明に係る反応度制御設備における第2実施形態の中性子吸収体駆動機構による中性子吸収体の懸吊動作を示し、(A)は懸吊前の断面図、(B)は懸吊時の断面図。
【図11】図10(B)のXI部拡大断面図。
【図12】本発明に係る反応度制御設備における第3実施形態の反応度制御アッセンブリ駆動機構を示す縦断面図。
【図13】図12のXIII部拡大断面図。
【図14】図12のXIV部拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための実施形態を図面に基づき説明する。但し、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではない。
【0015】
[A]第1実施形態(図1〜図9)
図1は、本発明に係る反応度制御設備における第1実施形態が装備された高速炉を示す縦断面図である。この図1に示す反射体制御方式の高速炉10では、原子炉容器11内に炉心12が収容されると共に、1次冷却材としての液体ナトリウムが満たされる。従って、炉心12は1次冷却材に浸されている。炉心12は、核燃料の燃料集合体(不図示)が配列されて成り、全体として円柱形状に構成される。この炉心12は、その外側が炉心槽13に取り囲まれて保護されている。
【0016】
炉心槽13の外側に、円柱形状の隔壁14が、炉心12及び炉心槽13を支持する炉心支持板15から延在して設置されている。この隔壁14と炉心槽13との間に、全体として円環形状の反射体16が配置される。また、隔壁14と原子炉容器11との間に、1次冷却材の冷却材流路17が円環形状に形成され、この冷却材流路17内に、炉心支持板15にて支持された中性子遮蔽体18が配置される。この中性子遮蔽体18は、炉心12から反射体16を透過または迂回して放射する中性子を遮蔽する。また、原子炉容器11の外側にガードベッセル19が設けられて、原子炉容器11が保護される。
【0017】
原子炉容器11内においては、中性子遮蔽体18の上方に円環形状の電磁ポンプ20が配置され、この電磁ポンプ20の上方に中間熱交換器21が設置される。これらの電磁ポンプ20と中間熱交換器21は、例えば一体に構成される。電磁ポンプ20は、原子炉容器11内の1次冷却材を、実線矢印の如く、冷却材流路17内において上方から下方へ向かって流動させる。また、中間熱交換器21のチューブ側とシェル側に、それぞれ1次冷却材と2次冷却材が流れる。
【0018】
前記反射体16は、駆動軸22を介して反射体駆動機構23により、炉心12の軸方向、つまり高速炉10の上下方向に移動可能に駆動される。駆動軸22は、図示しない継手を介して反射体16に連結され、原子炉容器11の上部を閉塞する上部プラグ24を貫通して原子炉容器11の上下方向に延在する。また、反射体駆動機構23は上部プラグ24に設置される。反射体16は、高速炉10の上下方向に移動することで、炉心12からの中性子の漏洩を調整して、この炉心12の反応度を制御する。
【0019】
つまり、反射体16は、炉心12から照射される中性子を反射する中性子反射部25と、この中性子反射部25の上方に隣接して位置づけられ、1次冷却材よりも中性子反射能力が低い中性子吸収部26と、を有して構成される。中性子反射部25が、炉心12から照射される中性子を反射して、炉心12の核燃料の燃焼を促進する。この反射体16の中性子反射部25は、高速炉10の運転開始当初、炉心12に対して下方に位置し、運転期間の経過に伴い上方へ移動して、炉心12の新しい燃料部分を徐々に燃焼させて、この炉心12の反応度の低下を補う。また、反射体16は、スクラム時に瞬時に下降されて炉心12の核燃料の燃焼を停止させる主炉停止機能を有する。
【0020】
高速炉10の運転により、原子炉容器11内の1次冷却材は炉心12を冷却しつつ、この炉心12の核分裂により発生した熱を外部へ取り出す。1次冷却材は、実線矢印に示すように、電磁ポンプ20によって冷却材流路17内を下方へ流動し、中性子遮蔽体18の内部を流れて原子炉容器11の底部に至る。この1次冷却材は、原子炉容器11の底部から炉心12内へ至り、この炉心12内を上方へ移動して温度が上昇し、中間熱交換器21のチューブ側に流入する。この中間熱交換器21内で、1次冷却材は2次冷却材と熱交換を行った後、再び電磁ポンプ20により冷却材流路17内を下方へ流動する。
【0021】
2次冷却材は、入口ノズル27を経て中間熱交換器21のシェル側に流入し、この中間熱交換器20のチューブ側を流れる1次冷却材により加熱された後、出口ノズル28から外部へ流出し、その熱がタービンなどを用いて動力等に変換される。尚、図1中の符号29は反応度制御アッセンブリ(図2に詳説)であり、この反応度制御アッセンブリ29は、上部プラグ24に設置された反応度制御アッセンブリ駆動機構30(図3に詳説)により駆動される。これらの反応度制御アッセンブリ29及び反応度制御アッセンブリ駆動機構30により反応度制御設備が構成される。
【0022】
反応度制御アッセンブリ29は、図2及び図4に示すように、炉心12の中央部に設けられた6角形状のラッパー管31内に、円柱形状の炉停止棒32が中央位置に配置されると共に、扇形状の中性子吸収体33が炉停止棒32の周囲に複数体(本実施形態では6体)配置されて構成される。ラッパー管31は、上端にラッパー管ハンドリングヘッド34が設けられる。また、ラッパー管31の内側に、炉停止棒32の上下動を案内する円筒形状の下部案内管35が設けられている。
【0023】
炉停止棒32の構成要素は、ハフニウムを1本の円柱形状としてステンレス鋼管内に密封状態で挿入したものである。この構成要素の上下が格子板37で挟まれ、保護管36内に軸方向に複数設置されて炉停止棒32が構成される。この炉停止棒32では、保護管36の上部にハンドリングロッド38が設けられ、このハンドリングロッド38の上端にハンドリングヘッド39が形成されている。
【0024】
炉停止棒32は、高速炉10の起動時に炉心12から引き抜かれ、停止時に炉心12に挿入されて反応度制御を行うと共に、スクラム時には炉心12に急速に挿入されて、炉心12を緊急停止させるスクラム機能等を備える。このスクラム機能は、反射体16の主炉停止機能に対し後備炉停止系を構成する。この炉停止棒32の上下動作は、後述の炉停止棒駆動機構43によりなされる。
【0025】
中性子吸収体33は、ハフニウム製で外側がステンレス鋼で被覆された中性子吸収部材40と、この中性子吸収部材40の上部に立設された円柱形状のハンドリングロッド41と、このハンドリングロッド41の上端に形成されたハンドリングヘッド42と、を有して構成される。中性子吸収部材40は、炉心12の初期の反応度を抑制するものであり、ラッパー管31と下部案内管35との間に周方向に複数体(例えば6体)配置され、それぞれの断面が扇形状に形成されている。
【0026】
この中性子吸収体33は、炉停止棒32と異なりスクラム機能を有していない。つまり、この中性子吸収体33は、初期の炉心12の相対的に大きな余剰反応度を吸収するために、通常は初期から15年程度の長期間に亘って炉心12に設けられ、その後、炉心12の余剰反応度が低下したときに、後述の中性子吸収体駆動機構44により把持されて炉心12から引き上げられ懸吊される。
【0027】
図3に示すように、前記炉停止棒32を上下動作させる炉停止棒駆動機構43と、前記中性子吸収体33を個別に昇降させる複数体(本実施形態では6体)の中性子吸収体駆動機構44は、前述の反応度制御アッセンブリ駆動機構30を構成する。
【0028】
炉停止棒駆動機構43は、上部プラグ24の上方に設置される駆動部(駆動モータ46、ギア機構47、ツインボールねじ48、ボールナット49、保持用マグネット50、アーマチュア51等)と、上部プラグ24の下方で原子炉容器11内に設置される上部案内管部(上部案内管52、内側延長管53、外側延長管54、グリッパ55(図6)等)を有して構成される。
【0029】
ツインボールねじ48、ボールナット49、保持用マグネット50及びアーマチュア51等は、駆動軸外側ハウジング56内に収容されている。また、上部案内管52の内部に内側延長管53が配置され、この内側延長管53を内包する外側延長管54の最下端にグリッパ55が設けられている。これらの上部案内管52、内側延長管53及び外側延長管54は、保護筒57内に収容されている。この保護筒57の最下端に、燃料浮上り防止板58が設置される。この燃料浮上り防止板58には、図5にも示すように、1次冷却材の流路孔59が貫通して形成されている。
【0030】
駆動モータ46の駆動によりギア機構47を経てツインボールねじ48を回転させ、ボールナット49により保持用マグネット50及びアーマチュア51を介して内側延長管53及び外側延長管54を上下動させる。また、外側延長管54最下端のグリッパ55による炉停止棒32の把持、切り離しは、保持用マグネット50の励磁、非励磁によってなされる。
【0031】
つまり、図3及び図6に示すように、閉じ状態のグリッパ55が炉停止棒32のハンドリングヘッド39内に挿入されたときに保持用マグネット50を励磁させると、アーマチュア51は保持用マグネット50に磁力により持ち上げられて結合され、これにより内側延長管53が持ち上げられる。すると、グリッパ55が拡開して炉停止棒32のハンドリングヘッド39を内側から把持する。この状態で駆動モータ46を駆動させ、ツインボールねじ48及びボールナット49を介して保持用マグネット50及びアーマチュア51を上昇させると、内側延長管53及び外側延長管54が同時に上方へ移動して、外側延長管54のグリッパ55に把持された炉停止棒32が引き上げられる。
【0032】
また、グリッパ55による炉停止棒32の切り離しは、特にスクラム時に実施される。即ち、炉停止棒32が引き上げられた状態で保持用マグネット50が非励磁になると、アーマチュア51が保持用マグネット50から離反し、内側延長管53が落下して外側延長管54に対し下方へ移動する。すると、外側延長管54最下端のグリッパ55が縮径して、炉停止棒32がグリッパ55から切り離され炉心12内へ自然落下する。これにより、炉心12が緊急停止する。
【0033】
中性子吸収体駆動機構44は、図3に示すように、複数体(例えば6体)の中性子吸収体33を個別に昇降させるために、炉停止棒駆動機構43の近接周囲に、中性子吸収体33と同じ数だけ等間隔に配置されている。各中性子吸収体駆動機構44は、駆動軸(内側延長軸60、外側延長軸61、カバーガスシール部62、アイボルト63、駆動支持用ストッパ64、バックアップシール65(図7))と、内側延長軸60の最下端に設けられた保持部(グリッパ66(図6))とを有して構成される。
【0034】
内側延長軸60及び外側延長軸61は、内側延長軸60が外側延長軸61に内包された二重管構造であり、駆動軸外側ハウジング56及び保護筒57内に延在される。これらの内側延長軸60及び外側延長軸61は、上端がアイボルト63に連結されると共に、保護筒57内でオフセットされて下方に延び、内側延長軸60の最下端のグリッパ66が中性子吸収体33のハンドリングヘッド42の直上に至る。中性子吸収体駆動機構44による中性子吸収体33の非駆動時に、図6に示すように、グリッパ66は燃料浮上り防止板58の位置に位置づけられる。
【0035】
カバーガスシール部62は、二重のVパッキンにて構成され、上部プラグ24に設置されて外側延長軸61に摺接する。このカバーガスシール部62は、上部プラグ24下方のカバーガス空間67内のカバーガスが駆動軸外側ハウジング56内に流入することを防止する。また、この駆動軸外側ハウジング56は、カバーガスが万一駆動軸外側ハウジング56内に流入した場合に備えて密閉構造に構成される。
【0036】
更に、バックアップシール65は、図7に示すように駆動軸外側ハウジング56に設置され、カバーガスが万一駆動軸外側ハウジング56内に流入した場合に、このカバーガスが駆動軸外側ハウジング56外へ流出することを防止する。また、駆動支持用ストッパ64は、内側延長軸60及び外側延長軸61の軸方向の位置を固定するものであり、中性子吸収体33の引き上げ時には取り外される。
【0037】
図3、図6及び図7に示すように、中性子吸収体駆動機構44による中性子吸収体33の把持は、まず、内側延長軸60の上端に設置された操作部68を回転操作して、内側延長軸60を約50mm引き下げ、グリッパ66を外側延長軸61の最下端の下方へ移動させて拡開させる。この状態で内側延長軸60及び外側延長軸61を下降させ、内側延長軸60最下端の拡開されたグリッパ66を中性子吸収体33のハンドリングロッド41のハンドリングヘッド42に位置づける。次に、操作部68を操作して内側延長軸60を約50mm引き上げてグリッパ66を閉じ、このグリッパ66により中性子吸収体33のハンドリングヘッド42を外側から把持する。
【0038】
中性子吸収体駆動機構44による中性子吸収体33の引上げ及び懸吊操作は、まず、グリッパ66により中性子吸収体33のハンドリングヘッド42を把持した状態で、駆動支持用ストッパ64を取り外す。次に、カバーガスシール部62を保持した状態で例えばクレーン等を手動操作してアイボルト63を引き上げ、これにより、内側延長軸60及び外側延長軸61と共に中性子吸収体33を引き上げて懸吊する。
【0039】
ところで、図2、図8及び図9に示すように、中性子吸収体33のハンドリングロッドの41は、その一部が変位吸収部材としての可撓性を有する部材、例えばワイヤ70にて構成されている。このワイヤ70は、ハンドリングロッド41よりも直径が細く形成され、具体的には、ワイヤ70の軸に直交する断面積がハンドリングロッド41の軸に直交する断面積の80%以下に設定されている。このワイヤ70は、中性子吸収体駆動機構44による中性子吸収体33の懸吊状態下で、例えば地震などにより反応度制御アッセンブリ29と反応度制御アッセンブリ駆動機構30との間に水平方向の相対変位が発生した場合に、この相対変位を吸収する。これにより、上記相対変位によって中性子吸収体33のハンドリングロッド41が折損したり、このハンドリングロッド41が曲げ変形状態で残留することを防止できる。
【0040】
また、ラッパー管31の上端に設置されたラッパー管ハンドリングヘッド34に下降防止機構71が装着されている。この下降防止機構71は、内側に傾斜して設けられた複数枚の舌片72が筒状に配置されてなり、内側に中性子吸収体33のハンドリングロッド41が配設される。各舌片72は、下端部72Bがラッパー管ハンドリングヘッド34の上面に固着され、上端部72A側が拡開可能に構成される。下降防止機構71における舌片72の上端部72Aが中性子吸収体33のハンドリングヘッド41における段差部41Aに係合することで、懸吊状態の中性子吸収体33が下降防止機構部71(即ちラッパー管31)によって支持されて、その下降が防止される。
【0041】
以上のように構成されたことから、本実施形態によれば、次の効果(1)〜(3)を奏する。
【0042】
(1)反応度制御アッセンブリ29の中性子吸収体33が、反応度制御アッセンブリ駆動機構30の中性子吸収体駆動機構44により懸吊された状態で例えば地震などが発生した場合にも、反応度制御アッセンブリ29と反応度制御アッセンブリ駆動機構30との水平方向の変位を、中性子吸収体33のハンドリングロッド41に設けられた可撓性を有するワイヤ70が吸収する。この結果、中性子吸収体33のハンドリングロッド41の折損や曲げ変形状態の残留を防止でき、折損により中性子吸収体33が炉心12に落下して炉出力が低下したり、曲げ変形状態の残留により炉停止棒駆動機構43による炉停止棒32の炉心12への再挿入が困難になる事態を防止できる。このため、反応度制御アッセンブリ29における中性子吸収体33の健全性及び炉停止棒32の挿入性を確保できるので、反応度制御アッセンブリ29及び反応度制御アッセンブリ駆動機構30を有してなる反応度制御設備の信頼性を向上させることができる。
【0043】
(2)反応度制御アッセンブリ29は、炉心12の中央位置に配置されているため、炉心12の直上では高温の1冷却材が上方へ流れ、反応度制御アッセンブリ29の直上では炉心12の直上よりも低い温度の1次冷却体が流れる。このため、反応度制御アッセンブリ29の中性子吸収体33におけるハンドリングロッド41では、このハンドリングロッド41の外側と内側とをそれぞれ上方へ向かって流れる1次冷却材の温度差によって、このハンドリングロッド41の外側と内側に温度勾配が発生し、熱応力が生じてしまう。
【0044】
本実施形態では、中性子吸収体33のハンドリングロッド41の一部が直径の細いワイヤ70にて構成されたので、ハンドリングロッド41の外側と内側をそれぞれ上方へ流れる1次冷却材に温度差が生じても、ハンドリングロッド41よりも細いワイヤ70では、外側と内側とで温度勾配が発生せず、全体として伸縮するので、熱応力の発生を抑制できる。このため、熱応力に起因するワイヤ70の損傷を防止できるので、中性子吸収体33の信頼性を向上させることができる。
【0045】
(3)反応度制御アッセンブリ29のラッパー管31のラッパー管ハンドリングヘッド34には、中性子吸収体駆動機構44により懸吊状態とされた中性子吸収体33を支持してその中性子吸収体33の下降を防止する下降防止機構71が装着されている。これにより、何らかの事象の発生によって懸吊状態の中性子吸収体33が落下して反応度制御アッセンブリ29内に再挿入される事態を防止できる。このため、中性子吸収体33の再挿入による炉心12の出力低下を未然に防止できる。
【0046】
[B]第2実施形態(図10、図11)
図10は、本発明に係る反応度制御設備における第2実施形態の中性子吸収体駆動機構による中性子吸収体の懸吊動作を示し、(A)が懸吊前の断面図、(B)が懸吊時の断面図である。この第2実施形態において、前記第1実施形態と同様な部分については、同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0047】
本実施形態における反応度制御設備が前記第1実施形態と異なる点は、反応度制御アッセンブリ29における中性子吸収体33のハンドリングロッド41の一部が、ワイヤ70に代えて継手構造体75にて構成された点である。この継手構造体75は、図11に示すように、センターロッド76の両端にボール77を介してエンドロッド78が連結されて球面継手構造体として構成される。両エンドロッド78は中性子吸収体33のハンドリングロッド41に結合されている。
【0048】
従って、この継手構造体75の存在によって、反応度制御アッセンブリ29の中性子吸収体33が反応度制御アッセンブリ駆動機構30の中性子吸収体駆動機構44により懸吊された状態において、例えば地震などが発生した場合にも、反応度制御アッセンブリ29と反応度制御アッセンブリ駆動機構30との間に生ずる水平方向の相対変位を、中性子吸収体33のハンドリングロッド41に設けられた継手構造体75によって吸収することができる。この結果、本実施形態においても、前記第1実施形態の効果(1)と同様な効果を奏する。更に、本実施形態においても、下降防止機構71が第1実施形態と同様に設置されているため、前記第1実施形態の効果(3)と同様な効果を奏する。
【0049】
[C]第3実施形態(図12〜図14)
図12は、本発明に係る反応度制御設備における第3実施形態の反応度制御アッセンブリ駆動機構を示す縦断面図である。この第3実施形態において、前記第1実施形態と同様な部分については、同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0050】
本実施形態における反応度制御設備が前記第1実施形態と異なる点は、反応度制御アッセンブリ駆動機構30における中性子吸収体駆動機構44の内側延長軸60及び外側延長軸61(共に図3)に代えて、駆動軸81とこの駆動軸81に設けられた可撓性を有するワイヤ80が用いられ、アイボルト63及び駆動支持用ストッパ64に代えて巻上げ機構82が用いられ、バックアップシール65(図7)に代えて巻上げ機構シール部83(図14)が用いられ、グリッパ66(図6)を省略して、駆動軸81と中性子吸収体33のハンドリングロッド41とがワイヤ80により接続されて一体化された点である。
【0051】
図12に示すように、ワイヤ80は、駆動軸81の上端と巻上げ機構82とを接続する上側ワイヤ部80Aと、駆動軸81の下端と中性子吸収体33のハンドリングロッド41とを接続する下側ワイヤ部80Bとを有してなる。これらのワイヤ部80A及び80Bは、前記第1実施形態と同様に中性子吸収体33のハンドリングロッド41よりも細い径に構成される。駆動軸81は、上部プラグ24に設置されたカバーガスシール部62に摺接され、これによりカバーガス空間67内のカバーガスが駆動軸外側ハウジング56内に流入することが防止される。
【0052】
また、図13に示すように、下側ワイヤ部80Bが、中性子吸収体33のハンドリングロッド41と駆動軸81の下端に接続されることで、中性子吸収体33のハンドリングロッド41が中性子吸収体駆動機構44の駆動軸81に一体化される。更に、この下側ワイヤ部80Bは、中性子吸収体33の懸吊状態において、反応度制御アッセンブリ29と反応度制御アッセンブリ駆動機構30との間に生じた水平方向の相対変位を吸収する相対変位吸収部材としても機能する。
【0053】
上述の中性子吸収体33の引き上げ操作は、図14に示すように、巻上げ機構82のハンドル部84を手動で回転操作し、これにより、このハンドル部84に一体化された巻取り軸部85にワイヤ80の上側ワイヤ部80Aを巻き掛けて、中性子吸収体33を必要ストロークだけ引き上げることによりなされる。これにより、中性子吸収体33が懸吊状態に保持される。
【0054】
このとき、図12に示すカバーガスシール部62が機能して、カバーガス空間67内のカバーガスが駆動軸外側ハウジング56内に流入することが防止される。ところが、駆動軸81に付着したナトリウム(1次冷却材)がカバーガスシール部62に付着し、このカバーガスシール部62のシール性が万一損なわれた場合に備えて、駆動軸外側ハウジング56が前述のごとく密閉構造に構成されると共に、巻上げ機構シール部83(図14)が設置されている。この巻上げ機構シール部83は、巻上げ機構82の巻取り軸部85に摺接されて、駆動軸外側ハウジング56内に流入したカバーガスが駆動軸外側ハウジング56外へ流出することを防止する。
【0055】
以上のように、本実施形態によれば、中性子吸収体駆動機構44の駆動軸81と中性子吸収体33のハンドリングロッド41とを接続するワイヤ80の下側ワイヤ部80Bが、中性子吸収体33の懸吊状態下で反応度制御アッセンブリ29と反応度制御アッセンブリ駆動機構30との間に生じた水平方向の相対変位を吸収可能に構成され、また、ワイヤ部80Bがハンドリングロッド41よりも細く形成され、更に、中性子吸収体34のラッパー管ハンドリングヘッド34に、懸吊状態の中性子吸収体33を支持する下降防止機構71が設けられたので、前記第1実施形態の効果(1)〜(3)と同様な効果を奏する。更に、本実施形態では、次の効果(4)及び(5)を奏する。
【0056】
(4)図12に示すように、中性子吸収体33のハンドリングロッド41が中性子吸収体駆動機構44の駆動軸81にワイヤ80の下側ワイヤ部80Bを用いて接続され、オフセットされた内側延長軸60及び外側延長軸61(図3参照)が中性子吸収体駆動機構44に用いられていない。オフセットされた内側延長軸60及び外側延長軸61では、オフセットの上下で重心が同一の鉛直線上にないため、図8(B)に示すように、中性子吸収体駆動機構44による中性子吸収体33の引き上げ時に、この中性子吸収体33の中性子吸収部材40が傾斜してラッパー管31や下部案内管35に接触する恐れがある。
【0057】
本実施形態では、中性子吸収体33のハンドリングロッド41が、可撓性を有するワイヤ部80Bを用いて中性子吸収体駆動機構44の駆動軸81に接続されたので、この中性子吸収体駆動機構44による中性子吸収体33の引き上げ時に下側ワイヤ部80Bが直線状になるので、中性子吸収体33の中性子吸収部材40がラッパー管31や下部案内管35に接触することを確実に防止できる。この結果、中性子吸収体33の引き上げ性を向上させることができる。
【0058】
(5)中性子吸収体33のハンドリングロッド41がワイヤ80の下側ワイヤ部80Bを用いて中性子吸収体駆動機構44の駆動軸81に一体化されたので、内側延長軸60、外側延長軸61及びグリッパ66を用いて中性子吸収体33と中性子吸収体駆動機構44とを連結する場合に比べ、構造を簡素化できる。
【0059】
以上、本発明を上記実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々変形することができる。例えば、前記第3実施形態では、中性子吸収体33のハンドリングロッド41とワイヤ80の下側ワイヤ部80Bとの間にグリッパ66等の着脱機構を配設して、中性子吸収体駆動機構44と中性子吸収体33との据付及び取外しの作業性を向上させてもよい。
【0060】
また、第1〜第3実施形態では、反応度制御アッセンブリ29及び反応度制御アッセンブリ駆動機構30を有してなる反応度制御設備は、高速炉10に適用されるものを述べたが、高速増殖炉またはガス炉などの他の原子炉の炉心反応度を制御するために用いてもよい。
【符号の説明】
【0061】
10 高速炉
12 炉心
13 炉心槽
29 反応度制御アッセンブリ
30 反応度制御アッセンブリ駆動機構
31 ラッパー管
32 炉停止棒
33 中性子吸収体
34 ラッパー管ハンドリングヘッド
41 ハンドリングロッド
42 ハンドリングヘッド
43 炉停止棒駆動機構
44 中性子吸収体駆動機構
53 内側延長管
54 外側延長管
55 グリッパ
60 内側延長軸
61 外側延長軸
66 グリッパ
70 ワイヤ
71 下降防止機構
75 継手構造体
80 ワイヤ
80A 上側ワイヤ部
80B 下側ワイヤ部
81 駆動軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉心中央部に設けられたラッパー管内に炉停止棒が配置されると共に、初期の余剰反応度を抑制する中性子吸収体が前記炉停止棒の周囲に複数体配置されてなる反応度制御アッセンブリと、
スクラム時に内側延長管を落下させて、この内側延長管を内包する外側延長管の最下端のグリッパに把持された前記炉停止棒を切り離す炉停止棒駆動機構と、
前記中性子吸収体のハンドリングロッドのハンドリングヘッドを内側延長軸の最下端のグリッパで把持して懸吊し、前記中性子吸収体を個別に昇降させる複数の中性子吸収体駆動機構とを有し、
前記炉停止棒駆動機構及び前記中性子吸収体駆動機構が反応度制御アッセンブリ駆動機構を構成する反応度制御設備であって、
前記中性子吸収体の前記ハンドリングロッドの一部が、前記中性子吸収体の懸吊状態における水平方向の変位を吸収可能な変位吸収部材により構成されたことを特徴とする反応度制御設備。
【請求項2】
炉心中央部に設けられたラッパー管内に炉停止棒が配置されると共に、初期の余剰反応度を抑制する中性子吸収体が前記炉停止棒の周囲に複数体配置されてなる反応度制御アッセンブリと、
スクラム時に内側延長管を落下させて、この内側延長管を内包する外側延長管の最下端のグリッパに把持された前記炉停止棒を切り離す炉停止棒駆動機構と、
前記中性子吸収体のハンドリングロッドを駆動軸により懸吊し、前記中性子吸収体を個別に昇降させる複数の中性子吸収体駆動機構とを有し、
前記炉停止棒駆動機構及び前記中性子吸収体駆動機構が反応度制御アッセンブリ駆動機構を構成する反応度制御設備であって、
前記中性子吸収体駆動機構の前記駆動軸と前記中性子吸収体の前記ハンドリングロッドとの間に、前記中性子吸収体の懸吊状態における水平方向の変位を吸収可能な変位吸収部材が設けられたことを特徴とする反応度制御設備。
【請求項3】
前記変位吸収部材が、可撓性を有するワイヤであることを特徴とする請求項1または2に記載の反応度制御設備。
【請求項4】
前記変位吸収部材が継手構造体であることを特徴とする請求項1に記載の反応度制御設備。
【請求項5】
前記中性子吸収体駆動機構の駆動軸と中性子吸収体のハンドリングロッドとが一体化されたことを特徴とする請求項2に記載の反応度制御設備。
【請求項6】
前記ラッパー管には、懸吊状態の中性子吸収体を支持してその下降を防止する下降防止機構が設けられたことを特徴とする請求項1または2に記載の反応度制御設備。
【請求項7】
原子炉容器内で冷却材に浸された炉心と、
前記原子炉容器内で炉心の外側に配置され、前記炉心の軸方向に移動することで前記炉心の反応度を制御する反射体と、を有する高速炉において、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の反応度制御設備が備えられたことを特徴とする高速炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−185080(P2012−185080A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49275(P2011−49275)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)