説明

反応液、セット、インクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置

【課題】記録媒体の表面の湿った感じやカールの発生が抑制され、また、ベタ均一性が良好で、さらにはフェザリングの発生が抑制された優れた画質を得ることができる反応液の提供。
【解決手段】色材を含有するインクの記録に先立ちローラー塗布方式で記録媒体に付与される反応液であって、前記インクと接触することによってインク中の色材の溶解ないしは分散状態を不安定化させる機能を有し、かつ、少なくとも、ハロゲン化多価金属と、アセチレングリコール化合物と、平均分子量が200以上1,000以下のポリエチレングリコールとを含有してなることを特徴とする反応液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応液、インクと前記反応液とのセット、前記反応液を用いた、インクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、インクジェット記録方法として、通常のインクジェット用のインクとは別に、画像品位を向上するための液体をインクの付与に先立って記録媒体に付与し、画像を記録する様々な方法が提案されている。しかし、従来のいずれの方法も、記録媒体に染料を析出させることで、画像の滲みの抑制や、画像の耐水性を向上させようとしているが、この技術では、複数のカラーインク間のブリーディングを抑制する効果は不十分である。また、析出した染料が記録媒体において不均一に分布し易いために、画質の均一感が低下することがあった。特に、記録媒体として普通紙などを用いる場合には、パルプ繊維に対する析出した染料の被覆性が低いことから、この傾向が顕著に生じる場合があった。
【0003】
上記した課題を解決し、画像の均一性や画像濃度の向上を達成しようとする様々な方法が提案されている。例えば、多価金属イオンを含有する液体組成物を予め記録媒体に付与した後、前記液体組成物との反応性を有するインクで記録する方法などに関する提案がある(例えば、特許文献1参照)。しかし、従来のいずれの方法を用いても、近年のさらなる高画質化の要求をも満足するような高い画像濃度を得ることができなかったり、初期と経時後に得られる画質が異なってしまったりすることがあった。
【0004】
また、インクが付与された記録媒体が、反る、丸まるといった、所謂カールが起きるといった画質とは異なる別の課題もある。このカールを抑制する方法として、例えば、分子構造中に水酸基を4個以上有し、水又は水性有機溶媒に溶解可能である固体物質を含有するインクジェット用インクに関する提案がある(特許文献2)。カール防止剤として、糖類、糖アルコール類、特定のアミド化合物を含有するインクに関する提案がある(特許文献3)。また、特定の多価アルコールとグリセリンを組み合わせて含有するインクに関する提案がある(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−94825号公報
【特許文献2】特開平4−332775号公報
【特許文献3】特開平6−157955号公報
【特許文献4】特開平10−130550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らのさらなる検討の結果、記録媒体表面、特に普通紙表面の濡れ性の差(表面エネルギー差)に起因してベタ画像のムラが発生することが明らかになった。このムラとは、ベタ画像領域の中の一部において色材が記録媒体の表面上に留まらず、白いポチポチのような斑点模様が見える状態を意味する。以下、この現象が生じた画像の状態のことを「ベタ均一性が不十分である」と言い、この現象が生じない状態の画像のことを「ベタ均一性が良好」と言う。
【0007】
上記ベタ均一性について詳しく述べる。先ず、普通紙表面の濡れ性の差は、繊維状に解かれたセルロース部位と、所謂、導管(ベッセルとも言う)付近の密集したセルロース部位の間で発生するが、後者の方が、表面エネルギーが低く濡れ難い。このような普通紙上に反応液が付与されると、該反応液は、前記表面エネルギーが低い部分において弾かれ、逆に、その周囲の表面エネルギーが高い部分に集まりながら普通紙中へ浸透し始める。次いで、色材を含有するインクが付与されると、前記表面エネルギーが低い部分には実質的に反応液の成分が存在しない(少ない)ので、インクが付与された後に色材の凝集作用は発揮されない。このため、普通紙の中までインクが浸透していくか、その周囲の表面エネルギーが高い部分にインクが移動する。一方、表面エネルギーが高かった部分では、インクが付与された後に色材の凝集作用が発現し、記録媒体の表面付近に色材が留まる。これらの理由により、ベタ均一性が不十分となる。さらに、例えば、塗布ローラーなどによって反応液を記録媒体の全面に付与するような場合は、上記現象がより顕著に発生することもわかった。
【0008】
また、本発明者らの検討によって、互いに液体状態でインクと接触する反応液の記録媒体への浸透性を向上させる目的で、反応液中の界面活性剤の含有量を増やすと、記録した画像にフェザリングが発生し易くなることが判明した。
【0009】
したがって、本発明の目的は、インクと共に使用することで、ベタ均一性が良好であり、記録物におけるカールの発生が抑制され、さらにはフェザリングの発生が抑制された優れた画質の画像を得ることができる反応液を提供することにある。また、本発明の別の目的は、上記優れた画像が得られる、インクと該反応液とのセット、該反応液を用いたインクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的は、以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明にかかる反応液は、色材を含有するインクの記録に先立ちローラー塗布方式で記録媒体に付与される反応液であって、前記インクと接触することによってインク中の色材の溶解ないしは分散状態を不安定化させる機能を有し、かつ、少なくとも、ハロゲン化多価金属と、アセチレングリコール化合物と、平均分子量が200以上1,000以下のポリエチレングリコールとを含有してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ベタ均一性や画質が良好であり、また、記録物におけるカールの発生が抑制され、さらにはフェザリングの発生が抑制された優れた画質の画像を得ることができる、インクと共に使用される反応液が提供される。また、本発明の別の実施態様によれば、上記優れた画像の形成を可能とする、インクと該反応液とのセット、該反応液を用いたインクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】インクジェット記録装置の一例を示す概略側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施の形態を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明の反応液に含有させるハロゲン化多価金属は、反応液中においては、多価金属イオンとハロゲンイオンに電離した状態で存在する。
【0014】
<反応液>
本発明の反応液は、画像を形成する際に色材を含有するインクと併用され、インクと接触することで、インク中の色材の溶解ないしは分散状態を不安定化させる機能を有し、その構成成分を以下のようにしたことを特徴とする。具体的には、ハロゲン化多価金属、アセチレングリコール化合物、平均分子量が200以上1,000以下のポリエチレングリコールを含有してなることを必須とする。なお、本発明の反応液によって、インク中の色材の溶解ないしは分散状態が不安定化するのは、反応液中の多価金属イオンと、インク中のアニオン性の成分とが、接触した際に互いに反応を生じることによる。インク中のアニオン性の成分としては、例えば、顔料粒子の表面にアニオン性基が化学的に結合されている顔料や、アニオン性の樹脂分散剤が挙げられる。
【0015】
先に述べた通り、ベタ均一性に関する性能には、反応液と普通紙表面の濡れ性が大きく影響する。特に、反応液と普通紙表面の濡れ性は、反応液の組成による影響を強く受ける。両者の間の濡れ性を高めるためには、反応液の表面張力を下げることが特に有効である。反応液の表面張力を下げる方法として、反応液に界面活性剤を含有させることが一般的に知られている。しかし、本発明者らが検討した結果、ベタ均一性の向上とフェザリングの抑制とを両立するためには、反応液中の界面活性剤の含有量を適正化するだけでは不十分であった。
【0016】
インクと反応液との反応は、インク中の色材を分散状態又は溶解状態にさせる成分、例えばアニオン性成分と、これと接触することでインク中の色材の分散状態又は溶解状態を不安定化させる反応液中のカルシウムイオンなどの多価金属イオンとの凝析反応である。しかし、反応液中の界面活性剤の含有量が多いと、記録媒体において反応液とインクとが混合された際に、凝析反応により生じた凝析物や凝析反応の過程にある色材に界面活性剤が吸着することにより、それらが混合液中に分散安定化されることとなる。その結果、記録媒体の表面方向や深さ(厚さ)方向への液体成分の浸透に伴って、凝析物や凝析反応の過程にある色材が拡散することによって、フェザリングが発生しやすくなる。
【0017】
このような理由から、ベタ均一性を良好にするためには反応液の表面張力を低くすることが好ましいが、一方で、フェザリングの発生を抑制するためには、界面活性剤の含有量は極力減らすことが先ず考えられる。
【0018】
上記のような思想を達成する技術手段として、本発明者らは、使用する多価金属イオンの対イオンであるアニオン種に着目した。一般的事実として、水系の場合、系内の電解質濃度が高くなるほど、又は分子内にOH基を多く持つような分子を配合するほど表面張力は高くなることが知られている。電解質を水中に溶かした場合は、イオンが発生し、水とイオンの間の引力が水と水との間の引力よりも強くなれば全体としての水の分子間力が強くなったことと同じだと考えられ、表面張力は大きくなると予想される。この作用が前記アニオン種により影響度が異なることが本発明者らの検討の結果明らかとなった。
【0019】
特に、ローラー塗布方式で反応液を記録媒体に付与する場合、ランニングコストや紙の風合いの観点から、記録媒体の表面上に付与する反応液量は0.5g/m2以上3g/m2以下が好ましい。このような範囲の付与量において、後に記録されるインクを効率よく凝集反応を発生させるためには、多価金属イオンはある程度多く含有させることが好ましい。具体的には、例えば、カルシウム塩の場合は、カルシウムイオン濃度で、反応液全質量を基準として、2.7質量%以上とすることが好適であり、少なくとも前記濃度でも飽和濃度を超えない溶解度を有することが前提となる。さらに、反応液を付与する記録装置のメンテナンスの容易性も考慮すると、用いるカルシウム塩としては、さらに高い溶解度が必要であり、カルシウム塩でたとえると、対イオンの選択肢としては、硝酸イオン又はハロゲンイオンが候補となる。
【0020】
ここで、本発明者らの検討の結果、硝酸イオンを用いるのに比べてハロゲン化イオンを用いることにより、より少量の界面活性剤量で反応液の表面張力を下げることが可能であることが明らかとなった。この理由について、本発明者らは、アニオンと水(さらには用いる水溶性有機溶剤)との溶媒和の状態が、用いるアニオン種により異なることにより前記差異が発生したためと考えている。
【0021】
一方、ハロゲン化多価金属を用いて、界面活性剤量を調整した反応液を用いても、ベタ均一性の向上とフェザリングの抑制の両立にある程度進歩はあるものの、未だ十分なレベルではないことがわかった。そこで、さらなる検討の結果、反応液にポリエチレングリコールを用いることで課題を解決できることを見出した。これは、反応液が記録媒体の表面上で浸透・濃縮された状態において、反応液に含有させたポリエチレングリコールが、インクと多価金属イオンとの反応性を高める作用があることによると考察している。同時に、ポリエチレングリコールは先に開示された技術に記載のとおり、カールを抑制する作用が強いことにより、記録物のカール防止も同時に達成することが可能となる。
【0022】
(ポリエチレングリコールの平均分子量)
本発明の反応液に含有させるポリエチレングリコールには、その平均分子量が200以上1,000以下であるものを使用する。平均分子量が200未満であると、反応液とインクとを併用して作製した記録物のカールが抑制できない場合があり、また、ポリエチレングリコールの質量比率にもよるが、ベタ均一性の向上とフェザリングの発生の抑制とを両立するのが難しい場合がある。一方、平均分子量が1,000を超えると、反応液の粘度が高くなるため、反応液の表面張力が低くても、反応液の記録媒体への浸透性が低下し、その結果として、記録媒体の表面が塗れた感じ(=しっとり感)が抑制できない場合がある。本発明においては、ポリエチレングリコールの平均分子量が200乃至600であることがより好ましい。なお、本発明におけるポリエチレングリコールの平均分子量とは、その値の上下30の範囲を包含するものである。例えば、平均分子量600のポリエチレングリコールの場合、分子量が570乃至630のものを平均分子量が600であるとする。より詳細には、後述する測定方法により決定した平均分子量が570乃至630のものを、平均分子量600のポリエチレングリコールとする。
【0023】
本発明に用いるポリエチレングリコールの平均分子量は、下記のようにして測定した値である。測定対象のポリエチレングリコール試料1g(0.1mgの桁まで秤量)を、共栓付きフラスコで正確に秤量した無水フタルピリジン溶液25mL中に入れ、共栓をして沸騰水浴中で2時間加熱した後、室温になるまで放置する。その後、このフラスコに0.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液50mL(正確に秤量する)及び滴定用フェノールフタレイン溶液10滴を入れる。このフラスコ中の液体を、0.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いて滴定を行い、液体が15秒間紅色を保つ点を終点とする。このようにして得られた本試験の滴定量M(mL)と、ポリエチレングリコール試料を用いない以外は上記と同様にして行った空試験により得られた滴定量R(mL)から、下記式に基づいて平均分子量を算出する。

【0024】
(ポリエチレングリコールの含有量)
本発明の反応液において用いるポリエチレングリコールの含有量は、特に限定されるものではなく、以下のような含有量の範囲とすることができる。反応液中におけるポリエチレングリコールの含有量(質量%)は、反応液全質量を基準として、4.0質量%以上30.0質量%以下であることが好ましい。さらには10.0質量%以上25.0質量%以下、特には15.0質量%以上20.0質量%以下とすることがより好ましい。
【0025】
(多価金属イオンとその含有量)
本発明の反応液中における多価金属イオンの含有量(質量%)は、特に限定されないが、反応液100gあたり67mmol以上107mmol以下であることが好ましい。多価金属イオンの含有量が、反応液100gあたり67mmol未満であると、反応液とインクとを併用して記録した画像におけるフェザリングが抑制できない場合がある。一方、含有量が107mmolを超えても、反応液とインクとを併用して記録した画像に対しては特に影響を与えるものではないが、多価金属イオンの含有量をこれ以上増加させても、プラスの効果も得られない。本発明で用いることのできる多価金属イオンとしては、例えば、Mg2+、Sr2+、Ca2+、Al3+、Y3+などが挙げられるが、性能とコスト面で考えるとCa2+が特に好ましい。
【0026】
本発明では、反応液に多価金属イオンを含有させるために、多価金属イオンが陰イオン、特にハロゲンイオンと結合した水溶性の化合物、すなわち水溶性の多価金属のハロゲン化塩を反応液に添加するとよい。このように水溶性の多価金属塩を添加すると、反応液中において、前記多価金属塩の少なくとも一部が多価金属イオンと陰イオンとに解離して存在するようになる。本発明において用いるハロゲンイオンの具体例としては、Cl-、I-、Br-などが挙げられる。これらの中でも、特にCl-、Br-が反応液の着色がないという観点で好ましく、さらに好ましくは、反応液が接する金属に対する腐食が若干生じにくいという点でBr-を用いるとよい。
【0027】
(アセチレングリコール化合物)
本発明の反応液では、少ない濃度で表面張力を下げる必要があること、動的表面張力という見方において数ミリ秒という特に短時間のうちに表面張力が下がること、さらには起泡性が少ないことの観点から、界面活性剤としてアセチレングリコール化合物を用いる。本発明において、アセチレングリコール化合物として、例えば、アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物(具体的には、アセチレノールE100;川研ファインケミカル製など)を用いる。その際、該化合物の含有量(質量%)は以下のようにすることが好ましい。具体的には、反応液中のアセチレングリコール化合物の含有量(質量%)が、反応液全質量を基準として、0.40質量%以上1.2質量%以下であることが好ましい。
【0028】
アセチレングリコール化合物以外の低起泡性界面活性剤として、ポリオキシエチレンのアルキルエーテル類があるが、これらは、アセチレングリコール化合物に比べると、以下の点で、好ましくない。すなわち、起泡性が強いことと、短時間で表面張力を下げる能力が少ないことによるベタ均一性の改善効果が少ないことと、界面活性剤の構造上、後に記録される顔料への吸着が強いことによる文字品位の低下、などが挙げられる。
【0029】
(反応液の表面張力)
本発明の反応液の表面張力は、使用する界面活性剤の種類によって適切に決定することが好ましい。本発明においては、界面活性剤として、例えば、アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物(具体的には、アセチレノールE100;川研ファインケミカル製)を用いる場合は、反応液の表面張力が27mN/m以上31mN/m以下であることが好ましい。なお、反応液の表面張力は、温度25℃で常法により測定した値である。
【0030】
(緩衝剤)
本発明の反応液は、上記成分に加えて、pHの変化に対して緩衝作用を有する化合物、すなわち緩衝剤を含有させることが好ましい。反応液がpHの変化に対して緩衝作用を有することで、反応液中の成分などが蒸発した場合に生じやすいpHの変化が抑制され、反応液の安定性が保たれるという観点から特に好ましい。反応液中における緩衝剤の含有量(質量%)は、反応液全質量を基準として、0.1質量%以上1.0質量%以下であることが好ましい。
【0031】
緩衝剤としては、例えば、酢酸塩、リン酸水素塩、炭酸水素塩、フタル酸水素塩などの多価カルボン酸塩などを用いることができる。多価カルボン酸の具体例としては、前記フタル酸以外にも、マロン酸、マレイン酸、コハク酸、フマル酸、イタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ピロメリット酸、トリメリット酸などが挙げられる。
【0032】
酢酸塩としては、例えば、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウムなどを用いることができ、リン酸水素塩としては、例えば、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素カリウム、リン酸水素リチウムなどを用いることができる。また、炭酸水素塩としては、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウムなどを用いることができる。多価カルボン酸塩としては、フタル酸水素塩を例に挙げて説明すると、例えば、フタル酸水素ナトリウム、フタル酸水素カリウム、フタル酸水素リチウムなどを用いることができ、同様に、上記で列挙した多価カルボン酸の塩を用いることができる。
【0033】
これらの緩衝剤以外であっても、添加することによって反応液のpHの変化を抑制できる化合物であれば、従来公知のpHの変化に対して緩衝作用を有する化合物は、いずれも本発明の反応液に用いることができる。ただし、本発明においては、緩衝剤として、インクと併用させる反応液のpHとして適当なpH領域において緩衝作用を示すことから、酢酸塩、特には酢酸リチウムを用いることが好ましい。
【0034】
(水性媒体)
反応液には、上記で説明した成分の他に、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有させることが好ましい。反応液中における水や水溶性有機溶剤の含有量は、これらを添加することによる効果が得られ、かつ本発明の目的効果を損なわない範囲とすればよい。具体的には、反応液中における水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、反応液全質量を基準として、16.2質量%以上60.0質量%以下であることが好ましく、さらには20.0質量%以上50.0質量%以下であることがより好ましい。なお、この水溶性有機溶剤の含有量の範囲は、上記で説明したポリエチレングリコールを含むものである。その他の水溶性有機溶剤としては、具体的には、例えば、以下に挙げるような水溶性有機溶剤を用いることができる。これらの水溶性有機溶剤は、1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよいが、グリセリンは本発明の必須成分であるポリエチレングリコールの保存劣化成分であるギ酸と共存することにより、高温保管にて若干黄変する場合がある。このため、反応液の保管容器が透明な場合は、容器個体ごとに反応系の色見が変わることが予想されるので、グリセリンを用いないほうが好ましい場合がある。
【0035】
炭素数1乃至4の1価アルコール類、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの多価アルコール類。アミド類、ケトン又はケトアルコール類、エーテル類、平均分子量1,000超のポリアルキレングリコール類、アルキレン基が2乃至6個の炭素原子を有するアルキレングリコール類。チオジグリコール、アルキルエーテルアセテート、多価アルコールのアルキルエーテル類、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなどが挙げられる。これらの中でも特に、グリセリン以外の多価アルコールを用いることが好ましい。
【0036】
また、水としては、脱イオン水を用いることが好ましい。反応液中における水の含有量(質量%)は、反応液全質量を基準として、40.0質量%以上90.0質量%以下であることが好ましい。
【0037】
(反応液の色調)
本発明の反応液は、インクと併用して画像を記録するために用いるものであるため、色材を含有しないことが好ましく、さらには画像への影響を考慮すると、反応液が可視域に吸収を有さない、無色であることが特に好ましい。勿論、本発明の反応液は可視域に吸収を有さないことに限定されるものではなく、可視域に吸収を有するものであっても、画像に影響を与えない程度であれば、淡色であってもよい。
【0038】
(その他の成分)
本発明の反応液には、上述のような物性値を持つ反応液とするために、これらを添加することによる効果が得られ、かつ、本発明の目的効果を損なわない範囲で、上記成分の他に、その他の添加剤などを添加してもよい。このような添加剤の具体例としては、消泡剤、防腐剤、防黴剤などが挙げられる。
【0039】
<インク>
本発明の反応液は、色材を含有するインクと共に用いられるものである。本発明の反応液は、特に、イオン性基の作用により水性媒体中に分散又は溶解させられている状態の色材を含有するインクと組み合わせて画像の記録に用いることで、先に述べた好ましい効果を与える。本発明で好適に使用することのできるインクとしては、色材として顔料を含有するインクが挙げられる。本発明の反応液は、顔料がイオン性基によって水性媒体に安定に分散してなるインクと組み合わせて画像の記録に用いることで、色材の溶解又は分散の状態が不安定化されることにより記録媒体において色材の凝析物が形成され、高品質の画像の記録を可能にする。
【0040】
(顔料)
顔料としては、分散剤を用いて顔料を分散する樹脂分散タイプの顔料(樹脂分散型顔料)や、顔料粒子の表面に親水性基を導入した自己分散タイプの顔料(自己分散型顔料)を用いることができる。また、顔料粒子の表面に高分子を含む有機基を化学的に結合した顔料(樹脂結合型の自己分散型顔料)、マイクロカプセル型顔料、着色微粒子なども用いることができる。本発明では、顔料粒子の表面にアニオン性基が化学的に結合されている顔料やアニオン性の樹脂分散剤(以下、分散剤と呼ぶ)などにより分散された顔料を用いることが特に好ましい。勿論、これらの分散方法の異なる顔料を組み合わせて用いてもよい。インク中における顔料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上15.0質量%以下、さらには1.0質量%以上10.0質量%以下であることがより好ましい。さらに、インクの色調の調整などを目的として、顔料に加えて、従来公知の染料を色材として添加してもよい。
【0041】
ブラックインクには、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラックなどのカーボンブラックを顔料として用いることが好ましい。例えば、従来公知のインクジェット記録用などの種々の市販品を、いずれも用いることができる。
【0042】
また、市販品に限らず、新たに調製したカーボンブラックなどを用いることもできるし、カーボンブラックに限定されず、マグネタイト、フェライトなどの磁性体微粒子や、チタンブラックなどをブラックインクの顔料として用いてもよい。また、カラーインクには、従来公知のインクジェット記録用などの種々の有機顔料を用いることができる。
【0043】
(分散剤)
顔料として上記で挙げたカーボンブラックや有機顔料を用いる場合には、分散剤を併用することができる。分散剤としては、アニオン性基の作用によって上記の顔料を水性媒体中に分散させられるものが好適である。具体的には、例えば、以下のものが挙げられる。スチレン−アクリル酸系共重合体、スチレン−マレイン酸系共重合体、スチレン−メタクリル酸系共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸系共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸−マレイン酸ハーフエステル共重合体。又はこれらの塩など。
【0044】
分散剤として用いる樹脂は、その重量平均分子量が、1,000以上30,000以下のもの、さらには、3,000以上15,000以下のものが好ましい。また、吐出安定性や保存安定性などのインクとしての信頼性と、インクと反応液との反応性とを両立するためには、その酸価が300mgKOH/g以下、さらには100mgKOH/g以上300mgKOH/g以下であることが好ましい。また、上記の酸価と同様の理由から、インク中の分散剤の含有量(質量%)が、インク中の色材の含有量(質量%)を基準として(分散剤の含有量/色材の含有量)、0.1倍以上3倍以下、さらには0.2倍以上2倍以下であることがより好ましい。
【0045】
インクとしての信頼性の観点から分散剤の酸価を高めたり又はその含有量を増やしたりすることにより、反応液に対するインクの安定性も増す傾向がある。その場合には、本発明の反応液中のカルシウムイオンなどの多価金属イオンの含有量を増やすことで優れた画像性能が得られるが、反応液のpHが低下しやすくなる傾向がある。このため、この場合には、反応液中の緩衝作用を有する化合物の含有量も必要に応じて増やすことが好ましい。
【0046】
(自己分散型顔料)
顔料として上記で挙げたカーボンブラックや有機顔料を用いる場合には、顔料粒子の表面にイオン性基(アニオン性基)を結合させることにより分散剤を使用することなく水性媒体中に分散させることができる顔料、すなわち自己分散型顔料を用いることもできる。このような顔料としては、例えば、自己分散型カーボンブラックが挙げられる。自己分散型カーボンブラックとしては、例えば、アニオン性基が粒子の表面に結合したカーボンブラックが挙げられる。以下、アニオン性カーボンブラックについて説明するが、これに限られるものではなく、自己分散型の有機顔料を用いることもできる。
【0047】
アニオン性カーボンブラックとしては、カーボンブラック粒子の表面に、例えば、−COOM、−(COOM)2、−SO3M、−PO3HM、及び−PO32からなる群から選ばれる少なくとも1つのアニオン性基を結合させたものが挙げられる。なお、上記式中、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。これらの中でも、−COOM、−(COOM)2、−SO3Mがカーボンブラック粒子の表面に結合されてアニオン性に帯電しているカーボンブラックは、インク中における分散性に優れるため、特に好適である。
【0048】
(着色微粒子/マイクロカプセル型顔料)
インクの色材としては、上記で挙げたものの他に、樹脂などでマイクロカプセル化された顔料や樹脂粒子の周囲を色材で被覆した着色微粒子なども用いることができる。マイクロカプセルは、本来的に水性媒体に対する分散性を有するが、分散安定性をより高めるために、上記で挙げたような分散剤をさらにインク中に添加してもよい。また、色材として着色微粒子を用いる場合には、上記で挙げたような分散剤などを用いることが好ましい。
【0049】
(水性媒体)
インクには、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を用いることができる。また、インクをインクジェット法(例えば、バブルジェット(登録商標)法など)によって記録媒体に付与する場合には、優れたインクジェット吐出特性を有するように、インクが、所望の粘度、表面張力を有するように調整することが好ましい。
【0050】
インク中における水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、インクの乾燥を抑制することができるものを用いることが特に好ましい。例えば、前記で説明した反応液に用いると同様の水溶性有機溶剤を用いることができ、該水溶性有機溶剤は、1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、水としては、脱イオン水を用いることが好ましい。インク中における水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。
【0051】
(その他の成分)
インクには、上記成分の他に、必要に応じて保湿剤などを添加することは勿論、所望の物性を有するインクとするために、界面活性剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤などを添加してもよい。インクのpHは6以上10以下、さらには7以上9以下であることが好ましい。また、本発明においては、インクと反応液とをより効果的に反応させることで、ベタ画像の均一性の向上や裏抜けを抑制できるため、反応液のpHが、インクのpHよりも低いことが特に好ましい。
【0052】
<インクと反応液とのセット>
本発明のセットは、本発明の反応液と、上記で説明したインクとを有するものである。インクの色調は、特に限定されるものではなく、例えば、イエロー、マゼンタ、シアン、レッド、グリーン、ブルー、及びブラックから選ばれる1つの色調を有するインクであればよい。具体的には、所望の色調のインクとなるように従来公知の色材の中から適宜選択して用いることができる。また、反応液と組み合わせるインクは、1種類に限定されるものでなく、異なるインクを2種類以上組み合わせて多色画像の記録に適したインクセットとした態様がより好ましい。なお、この場合は、2種類以上のインクのうち、少なくとも1種類のインクが反応液と反応する形態であればよい。
【0053】
例えば、色材がイオン性基の作用によって水性媒体中に分散させられているインクを1種類用いれば、他のインクが色材として染料を含有するインクであってもよい。勿論、インクセットを構成する全てのインクが、水性媒体中に色材がイオン性基の作用によって分散させられているインクであってもよい。このような構成を有する本発明のセットを用いれば、多色画像を記録する場合に問題とされる、異なる色調のインクが記録媒体において隣接して付与された際のブリーディングの発生を抑制することができる。
【0054】
本発明においては、下記のようなセットとすることがさらに好ましい。多色画像を記録する際には、ブラックインクと他のカラーインク(例えば、イエロー、マゼンタ、シアン、レッド、グリーン、及びブルーなどの各インクから選ばれる少なくとも1つのインク)との間におけるブリーディングが特に顕著に認識される。したがって、本発明の反応液と接触することによって色材の溶解ないしは分散状態が不安定化されるインクとしては、水性媒体中にイオン性基の作用によって顔料が分散されたブラックインクを用いることが好ましい。この場合、他のカラーインクとしては、色材として染料を含有するインクであってもよい。勿論、他の全てのインクを、上記のブラックインクと同様に、水性媒体中にイオン性基の作用によって色材が分散されたインクとしてもよい。
【0055】
<インクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置>
本発明の反応液は、色材を含有するインクと共に用いられるものであるが、インクはインクジェット記録方式で記録媒体に付与することが好ましい。また、記録媒体において、反応液が付与される領域は、少なくともインクが付与される領域を含むことが好ましく、さらには記録媒体の全領域に付与することが特に好ましい。より具体的には、記録媒体にインクが付与される領域を少なくとも含むように、塗布ローラーで反応液を記録媒体に付与して、インクと反応液とが接触するようにするとよい。
【0056】
本発明の反応液の記録媒体への付与量は、反応液中の多価金属イオンの含有量や、反応させるインクの構成によって適切に決定すればよい。特に、本発明においては、ベタ画像の均一性や定着性を向上できるため、反応液の記録媒体への付与量が0.5g/m2以上3g/m2以下であることが好ましい。また、反応液の記録媒体への付与量の下限が1g/m2以上、さらには1.6g/m2以上、特には2g/m2以上であることがより好ましい。また、反応液の記録媒体への付与量の上限が2.4g/m2以下であることがより好ましい。なお、記録媒体の大きさ(面積:m2)に対して、反応液を付与する領域が、ある一部分のみである場合は、記録媒体の全面に塗布したと仮定して、反応液の付与量の値(g/m2)を求め、この値が上記の範囲を満足することが好ましい。
【0057】
本発明のインクジェット記録方法では、反応液を記録媒体に付与する際に、インクの記録に先立ち、塗布ローラーで塗布するローラー塗布方式を用いる。このため、本発明のインクジェット記録方法によれば、反応液の吐出性などを考慮する必要がなく、さらに記録媒体へ反応液を効果的に付与できる。
【0058】
以下、本発明のインクジェット記録装置などの構成の一例について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明のインクジェット記録装置の一例を示すものであるが、インクはインクジェット方式により、反応液は塗布ローラーにより、それぞれ記録媒体に付与する。
【0059】
図1のインクジェット記録装置は、シリアル型のインクジェット記録方式を採用し、記録ヘッド1、給紙カセット16、記録媒体の搬送方向と直交する方向へ記録ヘッドを往復移動させるための駆動手段、これらの構成要素の駆動を制御する制御手段を有する。給紙カセット16は、記録媒体19を給紙するための給紙トレイ17と、本発明の反応液を塗布するための塗布手段とが一体的に形成されている。そして、反応液が、給紙トレイ17から給紙された記録媒体19に、均一かつ調整された塗布量で塗布される構造となっている。反応液を記録媒体に付与する手段(反応液塗布手段)の詳細については後述する。
【0060】
記録ヘッド1は、吐出口が形成された面がプラテン11側に配向されるようにしてキャリッジ2に搭載されている。図示しないが、記録ヘッド1は、上記吐出口と、インクを加熱するための複数の電気熱変換体(例えば、発熱抵抗素子)と、これを支持する基板を有する。なお、記録ヘッド1が搭載されたキャリッジの内部には、インクを収容するインク収容部を備えたインクカートリッジを装着している。
【0061】
キャリッジ2は、記録ヘッド1を搭載し、かつ記録媒体19の幅方向に沿って平行に延びる2本のガイド軸9に沿って往復移動することができる。また、記録ヘッド1は、このキャリッジ2の往復移動と同期して駆動し、インクを記録媒体19に吐出(付与)して画像を記録する。
【0062】
給紙カセット16は、インクジェット記録装置本体から着脱することができる。記録媒体19は、この給紙カセット16内の給紙トレイ17上に積載収納される。給紙時には、給紙トレイ17を上方向に押圧するスプリング18により最上位のシートが給紙ローラー10に圧接される。この給紙ローラー10は、断面形状が概略半月形のローラーであり、図示しないモーターによって駆動回転し、不図示の分離爪により最上位のシート(記録媒体19)のみを給紙する。
【0063】
分離給紙された記録媒体19は、大径の中間ローラー12と、それに圧接している小径の塗布ローラー6とによって、給紙カセット16の搬送面16Aとペーパーガイド27の搬送面27Aとに沿って搬送される。これらの搬送面は、中間ローラー12と同心的な円弧を描くようにして湾曲した面からなる。したがって、給紙された記録媒体19は、これらの搬送面16A及び27Aを通過することによって、その搬送方向を逆転する。すなわち、記録媒体19の記録がなされる面は、給紙トレイ17から搬送されて中間ローラー12に達するまでは、下方向を向いているが、記録ヘッド1に対向する時点では、上方向(記録ヘッド側)を向く。したがって、記録媒体の記録面は、常にインクジェット記録装置の外側方向に向いている。
【0064】
図1の装置では、反応液を記録媒体に付与する手段(反応液塗布手段)が、上記の給紙カセット16内に設けられている。反応液塗布手段は、反応液15を供給する補充タンク22とこれに周面の一部を浸した状態で回転自在に支持された供給ローラー13、供給ローラー13と平行となるように配置され、かつ供給ローラー13と接触し、同一方向へ回転する塗布ローラー6を有する。そして、前記塗布ローラー6は、記録媒体19を搬送するための中間ローラー12と周面が接触、かつ平行となるようにして配置している。したがって、記録媒体19が搬送される際、中間ローラー12の回転に伴って中間ローラー12及び塗布ローラー6が回転する。その結果、供給ローラー13によって塗布ローラー6の周面に反応液15が供給され、さらに、塗布ローラー6と中間ローラー12とによって挟持された記録媒体19の記録面に、満遍なく反応液が塗布ローラー6によって塗布される。なお、20は、反応液を補充タンク22内に注入するための注入口である。
【0065】
上述の反応液塗布手段によって、反応液15が塗布された記録媒体19は、その後、主搬送ローラー7とそれに圧接しているピンチローラー8により所定量送られて記録部へと搬送され、記録ヘッド1からインクを付与される。以上の構成において給紙、記録された記録媒体19は、排紙ローラー3とこれに圧接する拍車4とによって排出搬送され、排紙トレイ5上にスタックされる。
【0066】
本発明においては、反応液15をローラーなどにより付与するため、反応液15の粘度が、インクの粘度よりも高くなるようにすることが好ましい。このようにすれば、反応液15の付与量が少なくても、インクと効率的に反応することができ、かつ定着性などにも好適であるため、好ましい。より具体的には、インクの粘度よりも反応液の粘度が高い方が、反応液中のカルシウムイオンなどの多価金属イオンがより記録媒体の表面近傍に留まりやすくなり、インクと効率的に反応しやすくなる。一方、インクは反応液と反応した後に、インク中の色材は記録媒体の表面近傍に留まり、またインク中の水性媒体などは速やかに記録媒体の深さ(厚さ)方向に浸透する、すなわち、固液分離が速やかに行われることが特に好ましい。このため、インクの粘度は相対的に低い方が記録物の定着性などの観点から好ましい。
【0067】
具体的には、反応液を塗布ローラーにより記録媒体に付与する場合には、反応液の粘度が3mPa・s以上100mPa・s以下であることが好ましく、さらには4mPa・s以上60mPa・s以下であることがより好ましい。一方、インクの粘度は、1mPa・s以上15mPa・s以下であることが好ましい。インクの粘度をこのように設定することは、インクジェット吐出特性、特にインクの吐出安定性の観点からも好ましい。なお、本発明においては、反応液やインクの粘度は、温度25℃で常法により測定した値である。
【0068】
本態様では、反応液とインクとを効率的に接触させて、これらを反応させやすくするため、反応液をローラー塗布方式で記録媒体に付与した後に、インクをインクジェット方式で記録媒体に付与する。この場合、反応液とインクとの反応性を十分に得るためには、記録媒体に反応液を付与してからインクを付与するまでの時間的な間隔は、1〜2秒乃至2〜3分であることが好ましい。
【0069】
本発明では、反応液をローラー塗布方式で、インクをインクジェット方式で記録媒体に付与するが、これらを記録媒体に付与する順序は、下記の(a)、(b)の方法や、これらの方法の組み合わせなどが挙げられ、適宜選択することができる。
(a):反応液を付与した後にインクを付与する。
(b):反応液を付与した後にインクを付与し、さらに反応液を付与する。
【実施例】
【0070】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらに限定されるものではない。なお、以下の記載で「%」や「部」とあるものは、特に断りのない限り質量基準である。また、反応液の表面張力の測定は、温度25℃の条件で、CBVP−A3(協和界面科学製)を用いて行った。また、使用したポリエチレングリコールの平均分子量は、上述の方法により測定して得られた値である。
【0071】
<反応液の調製>
下記表1に示す各成分をそれぞれ混合し、十分に撹拌した後、ポアサイズ0.2μmのミクロフィルター(富士フィルム製)にて加圧ろ過して、各反応液を調製した。なお、下記表1には、各反応液の表面張力の値を併せて示した。
【0072】

【0073】
(*1)アセチレングリコール・エチレンオキサイド付加物(エチレンオキサイドユニットの付加数=10モル;川研ファインケミカル製)
(*2)アセチレングリコール・エチレンオキサイド付加物(エチレンオキサイドユニットの付加数=7モル;川研ファインケミカル製)
(*3)ポリオキシエチレンセチルエーテル(エチレンオキサイドユニットの付加数=20モル;日光ケミカルズ製)
【0074】
<インクの調製>
反応液と共に使用するインクとして、下記の手順にしたがってブラックインクを調製した。
カーボンブラック(商品名:Nipex170;デグサ製)10部、分散剤40部(樹脂固形分:8部)、純水50部を混合した。分散剤としては、酸価150mgKOH/g、重量平均分子量8,000であるアニオン性樹脂(ベンジルメタクリレート−メタクリル酸共重合体)を水酸化カリウムで中和した、樹脂固形分の含有量が20%である水溶液を用いた。この混合物をバッチ式縦型サンドミル(アイメックス製)に入れ、0.3mm径のジルコニアビーズ150部を充填して、水冷しながら5時間の分散処理を行った。得られた分散液を遠心分離することにより粗大粒子を除去して顔料分散体を得た。得られた顔料分散体中の固形分の含有量は18%(顔料の含有量:10%、樹脂の含有量:8%)であり、顔料の平均粒子径は95nmであった。
【0075】
上記で得られた顔料分散体を用い、下記インク組成の各成分を混合して、色材としてカーボンブラックを含有するブラックインクを調製した。得られたブラックインク中の顔料の含有量は3%、樹脂の含有量は2.4%であり、インクの粘度は2.4mPa・sであった。
【0076】
(インク組成)
・顔料分散体 30.0%
・グリセリン 10.0%
・2−ピロリドン 2.5%
・ポリエチレングリコール(平均分子量:1,000) 2.0%
・アセチレノールE100
(界面活性剤:アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物;
川研ファインケミカル製) 0.3%
・水 55.2%
【0077】
<評価>
(ベタ均一性)
下記のカラーインクと各反応液とをそれぞれ組み合わせてセットとし、これらのセットを用いて画像を記録した。PGI−2 Cyan(キヤノン製)から抜き取ったシアンインクと、PGI−2 Magenta(キヤノン製)から抜き取ったマゼンタインクとを、インクジェット記録装置BJS700(キヤノン製)のシアン及びマゼンタの各インクの位置に搭載した。先ず、各反応液を塗布ローラーにより記録媒体1(商品名:オフィスプランナー;キヤノン製)と記録媒体2(商品名:ゼロックス4024;ゼロックス製)にそれぞれ塗布した。なお、この際の反応液の付与量は2g/m2とした。その直後に、反応液が塗布された記録媒体2種にマゼンタインクとシアンインクとで2次色のベタ画像をそれぞれ記録した。得られた記録物を目視にて観察し、ベタ均一性を下記の基準で評価した。評価結果を表2に示した。なお、前記した「PGI−2」は、反応液と接触することによって、色材の溶解ないしは分散状態が不安定化される性質のインクである。
A:記録媒体2で若干の白ヌケしている部位があるが、総じて良好なベタ均一性を実現できている。
B:記録媒体2で白ヌケしている部分が目立つが、記録媒体1では若干の白ヌケしている部位がある程度である。
C:記録媒体2で白ヌケしている部分が目立つだけでなく、記録媒体1でも白ヌケしている部分が目立つ。
【0078】
(フェザリング)
上記で得られたブラックインクと各反応液とをそれぞれ組み合わせてセットとし、これらのセットを用いて画像を記録した。ブラックインクを充填したインクカートリッジを、インクジェット記録装置(商品名:BJS700;キヤノン製)のブラックインクの位置に搭載した。先ず、各反応液を塗布ローラーにより記録媒体(商品名:SW−101;キヤノン製)に塗布した。なお、この際の反応液の付与量は2g/m2とした。その直後に、前記インクジェット記録装置により、反応液が塗布された記録媒体に36ポイントの文字と罫線とを記録した。その後、Personal IAS(Quality Engineering Associates製)を用いて、文字及び罫線エッジのラジェットネス値を測定した。フェザリングの評価基準は下記の通りである。評価結果を表2に示した。
A:ラジェットネス値が13未満であった。
B:ラジェットネス値が13以上15未満であった。
C:ラジェットネス値が15以上であった。
【0079】
(カール)
下記のカラーインクと各反応液とをそれぞれ組み合わせてセットとし、これらのセットを用いて画像を記録した。PGI−2 Cyan(キヤノン製)から抜き取ったシアンインクと、PGI−2 Magenta(キヤノン製)から抜き取ったマゼンタインクとを、インクジェット記録装置BJS700(キヤノン製)のシアン及びマゼンタの各インクの位置に搭載した。先ず、各反応液を塗布ローラーにより記録媒体(商品名:オフィスプランナー;キヤノン製)に塗布した。なお、この際の反応液の付与量は2g/m2とした。その直後に、反応液が塗布された記録媒体にマゼンタインクとシアンインクとで2次色のベタ画像を記録した。得られた記録物を温度24℃/湿度50%RHの環境で3日間放置した後、記録媒体のカールの程度を、記録媒体の先端から記録媒体の接地面までの距離を定規で測定することにより評価した。カールの評価基準は以下の通りである。評価結果を表2に示した。
AA:記録媒体の先端から接地面までの距離が33mm以下であった。
A:記録媒体の先端から接地面までの距離が33mmより大きく43mm以下であった。
B:記録媒体の先端から接地面までの距離が43mmより大きく50mm以下であった。
C:記録媒体の先端から接地面までの距離が50mmより大きいか、又は記録媒体の先端が内側にまるまった状態であった。
【0080】
(高温保存性)
反応液1、2をテフロン(登録商標)製の容器に入れ、80度で1週間保存した。その後、目視で液の黄変具合を観察し、黄変の有無を表2中に示した。
【0081】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
色材を含有するインクの記録に先立ちローラー塗布方式で記録媒体に付与される反応液であって、
前記インクと接触することによってインク中の色材の溶解ないしは分散状態を不安定化させる機能を有し、かつ、少なくとも、ハロゲン化多価金属と、アセチレングリコール化合物と、平均分子量が200以上1,000以下のポリエチレングリコールとを含有してなることを特徴とする反応液。
【請求項2】
グリセリン以外の多価アルコールをさらに含有してなる請求項1に記載の反応液。
【請求項3】
色材を含有するインクと、請求項1又は2に記載の反応液とを組み合わせたことを特徴とするセット。
【請求項4】
色材を含有するインクの記録に先立ちローラー塗布方式で記録媒体に反応液を付与し、該記録媒体においてインクと反応液とを接触させて画像を形成するインクジェット記録方法において、請求項1又は2に記載の反応液を使用することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項5】
反応液の付与量が、0.5g/m2以上3g/m2以下である請求項4に記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
インクを収容するインク収容部と、インクを吐出するための記録ヘッドと、インクの記録に先立ちローラー塗布方式で記録媒体に反応液を付与する手段とを備えたインクジェット記録装置であって、前記反応液の付与手段で付与する反応液が、請求項1又は2に記載の反応液であることを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−62952(P2011−62952A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216566(P2009−216566)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】