説明

反応装置

【課題】内部コイルを複数設置した反応装置においても十分に反応液の流動性が確保でき、かつ伝熱能力についても優れた反応装置を提供する。
【解決手段】ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを原料としてエステル交換反応を行い、且つ当該エステル交換反応で得られるポリカーボネートの粘度平均分子量(Mv)が8,000以下までの反応工程において使用する反応装置であって、撹拌手段と複数の内部コイルを内部に有し、隣接する前記内部コイル間の中心間距離Aと当該内部コイルの外径Bとの関係A/B(コイル間ピッチ)が、1.6〜4.0であることを特徴とする反応装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性等の機械的特性に優れ、しかも耐熱性、透明性等にも優れたエンジニアリングプラスチックスとして、OA部品、自動車部品、建築材料等に幅広く用いられている。特に耐衝撃性や透明性等の特性を生かして、光学用材料として光学レンズや記録用ディスク、シート、ボトル等の用途に幅広く使用されている。
【0003】
このポリカーボネートの製造方法としては、ビスフェノール化合物等のジヒドロキシ化合物とホスゲンとを原料とした、いわゆる界面法が工業化されている。
しかし、この方法は人体に有害なホスゲンを用いなければならないこと、環境に対する負荷の高いジクロロメタン等の溶剤を必要とすること、また多量に副生する塩化ナトリウムのポリマーへの混入等の問題点が指摘されている。
一方、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを溶融状態でエステル交換し、副生するフェノール等の低分子量物を系外に取り除きながらポリカーボネートを得る方法も、いわゆる溶融法として古くから知られている。溶融法は界面法による上記のような問題点もなくポリカーボネートが製造できるという利点がある。
【0004】
ところで、ポリカーボネートは、上記のように光学用材料として光学レンズや記録用ディスクに用いられ、特にこれらの用途ではヤケが生じたり、異物が混入したりすることは致命的な問題となる。
ポリカーボネートのヤケが生じたり、異物が混入したりする原因としては種々存在するが、反応装置内でジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを溶融状態でエステル交換反応をさせる際に、撹拌が不十分なために反応液の一部が加熱を行う内部コイル周辺で滞留し、その結果熱劣化が生じ、それがヤケや異物が生じる原因の1つであると考えられている。
特に竪型の大型反応器を使用し、エステル交換反応のための加熱源として反応器内部に内部コイルを取り付け、撹拌翼を使用して撹拌しながら反応を行う反応装置においては、内部コイルが反応液の流動性を阻害し、反応液の滞留を生じやすい。
この問題を解決する手段として、例えば、撹拌槽内に上下方向の循環流を生じさせるのに適した撹拌翼を使用し、被処理液がむらなく伝熱コイルの全体を通過するようにした竪型撹拌装置が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−224951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の撹拌槽内に上下方向の循環流を生じさせるのに適した撹拌翼を使用するような方法では、加熱の必要性から内部コイルを複数設置するような反応装置においては十分な効果が得られない。そのため依然として内部コイルが反応液の流動性を阻害するという問題は解決しているとは言えなかった。
【0007】
本発明は、従来の技術が有する上記の問題点に鑑みてなされたものである。
即ち、本発明の目的は、内部コイルを複数設置した反応装置においても十分に反応液の流動性が確保でき、かつ伝熱能力についても優れた反応装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かくして、下記[1]〜[4]に係る発明が提供される。
[1]請求項1に係る発明は、ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを原料としてエステル交換反応を行い、且つ当該エステル交換反応で得られるポリカーボネートの粘度平均分子量(Mv)が8,000以下までの反応工程において使用する反応装置であって、撹拌手段と複数の内部コイルを内部に有し、隣接する前記内部コイル間の中心間距離Aと当該内部コイルの外径Bとの関係A/B(コイル間ピッチ)が、1.6〜4.0であることを特徴とする反応装置である。
[2]請求項2に係る発明は、前記内部コイルは、所定の中心軸を中心とする異なる半径の円筒状の曲面上にらせん状に各々配されることを特徴とする請求項1に記載の反応装置である。
[3]請求項3に係る発明は、前記内部コイルは、少なくとも一部において多重に配されることを特徴とする請求項1に記載の反応装置である。
[4]請求項4に係る発明は、前記内部コイルは、少なくとも一部において2重〜5重に配されることを特徴とする請求項1に記載の反応装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、内部コイルを複数設置した反応装置において、反応液の流動性が確保でき、伝熱能力が優れた反応装置が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施の形態が適用される反応装置の一例を説明する図である。
【図2】図1に示した反応装置の内部コイルの位置関係を説明する図である。
【図3】ポリカーボネートの製造装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、発明の実施の形態)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが出来る。また、使用する図面は本実施の形態を説明するためのものであり、実際の大きさを表すものではない。
【0012】
図1は、本実施の形態が適用される反応装置の一例を説明する図である。
図1に示した反応装置20は、いわゆる竪型であり直胴部は縦方向に長い円筒形状をしている。内部には撹拌装置(撹拌手段)を有し、この撹拌装置は中心軸21に撹拌翼22が取り付けられ、また中心軸上部に回転装置23が取り付けられている。そして回転装置23により中心軸21を中心にして撹拌翼22を回転させることにより循環流を生じさせ、内部の反応液を撹拌する。
【0013】
また、撹拌翼22の外側にはらせん状の内部コイル24,25,26が3重に配され、反応液を撹拌翼22により撹拌しつつ加熱することにより反応を進行させる。
ここで、内部コイル24,25,26は、反応装置20の中心軸21を中心とする異なる半径の円筒状の曲面上にらせん状に各々配される。即ち、図1に示すように、中心軸21を中心として内部コイル24,25,26は多重に設置されることになり、また上部から見ると中心軸21を中心にしてそれぞれの内部コイルは同心円状になっている。そして反応装置20の上部から下部へ、あるいは下部から上部へのらせん状に巻かれて設置される。
【0014】
内部コイルは、個数が多くなるに従い加熱できる熱量も多くすることができるが、5重より過度に多くなると反応液の循環を阻害する効果が大きくなりすぎるため2重から5重であることが好ましい。
【0015】
次に内部コイル24,25,26の位置関係について説明する。
図2は、図1に示した反応装置20の内部コイル24,25,26の位置関係を説明する図である。
図2に示した通り、内部コイル24,25,26の位置関係は、隣接する内部コイル24と内部コイル25、あるいは隣接する内部コイル25と内部コイル26の中心間距離Aと内部コイルの外径Bとの関係A/B(コイル間ピッチ)が、1.6〜4.0となっている。
【0016】
また、内部コイル間の中心間距離Aといった場合、水平方向の中心間距離に限られるものではなく、例えば、図2に示した鉛直方向の中心間距離A’(水平方向の中心間距離Aと区別するため便宜上A’と書く。)と内部コイルの外径Bとの関係A’/B(コイル間ピッチ)についても、1.6〜4.0となっている。
コイル間ピッチがこの範囲より過度に小さいと反応液の循環を阻害し、また過度に大きいと伝熱能力が確保できないという問題が生じる傾向にある。なおコイル間ピッチは2〜3であることが好ましい。
なお、内部コイル24,25,26の外径Bは全て同一であることが好ましい。
【0017】
また、内部コイル24,25,26は中空であり、その内部に熱媒を通すことにより、反応装置20内の加熱を行うが、その中心が撹拌装置の中心軸21に対し垂直な直線上に並ぶことが好ましい。
即ち、図1に示した反応装置20においては、中心軸21は垂直であるので、らせん状に中心軸21まわりに巻かれた内部コイル24,25,26の中心は、図2に示した通り反応装置20の上部から下部にかけて全て水平に並ぶことになる。
【0018】
なお、上記の例では、反応装置20内で内部コイル24,25,26は上部から下部まで全て多重になっていたが、少なくとも一部が多重になっていればよく、また内部コイル24,25,26の中心は反応装置20の上部から下部にかけて全て水平に並んでいたが、千鳥状などでもよく、必ずしも水平に並んでいる必要はない(少なくとも一部で水平に並んでいれば本実施の形態の趣旨から外れるものではない)。
【0019】
次に、本実施の形態が適用される反応装置を使用して、ポリカーボネートを製造する方法について説明する。
【0020】
(ポリカーボネート樹脂)
本発明において、ポリカーボネート樹脂は、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応に基づく溶融重縮合により製造される。ジヒドロキシ化合物としては、芳香族ジヒドロキシ化合物が好ましい。
以下、原料として芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを用い、エステル交換触媒の存在下、連続的に溶融重縮合反応を行うことにより、ポリカーボネート樹脂を製造する方法について説明する。
【0021】
(芳香族ジヒドロキシ化合物)
本実施の形態において使用する芳香族ジヒドロキシ化合物としては、下記一般式(1)で示される化合物が挙げられる。
【0022】
【化1】

【0023】
ここで、一般式(1)において、Aは、単結合または置換されていてもよい炭素数1〜10の直鎖状、分岐状若しくは環状の2価の炭化水素基、又は、−O−、−S−、−CO−若しくは−SO−で示される2価の基である。X及びYは、ハロゲン原子又は炭素数1〜6の炭化水素基である。p及びqは、0又は1の整数である。尚、XとY及びpとqは、それぞれ、同一でも相互に異なるものでもよい。
【0024】
芳香族ジヒドロキシ化合物の具体例としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシジフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等のビスフェノール類;4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル等のビフェノ−ル類;ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン等が挙げられる。
【0025】
これらの中でも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(「ビスフェノールA」、以下、BPAと略記することがある。)が好ましい。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0026】
(炭酸ジエステル)
本実施の形態において使用する炭酸ジエステルとしては、下記一般式(2)で示される化合物が挙げられる。
【0027】
【化2】

【0028】
ここで、一般式(2)中、A’は、置換されていてもよい炭素数1〜10の直鎖状、分岐状又は環状の1価の炭化水素基である。2つのA’は、同一でも相互に異なるものでもよい。
なお、A’上の置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、ビニル基、シアノ基、エステル基、アミド基、ニトロ基などが例示される。
【0029】
炭酸ジエステルの具体例としては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−t−ブチルカーボネート等のジアルキルカーボネートが挙げられる。
これらの中でも、ジフェニルカーボネート(以下、DPCと略記することがある。)、置換ジフェニルカーボネートが好ましい。これらの炭酸ジエステルは、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0030】
また、上記の炭酸ジエステルは、好ましくはその50モル%以下、特に好ましくは30モル%以下の量を、ジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換してもよい。
代表的なジカルボン酸又はジカルボン酸エステルとしては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジフェニル、イソフタル酸ジフェニル等が挙げられる。このようなジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換した場合には、ポリエステルカーボネートが得られる。
【0031】
これら炭酸ジエステル(上記の置換したジカルボン酸又はジカルボン酸エステルを含む。以下同じ。)は、ジヒドロキシ化合物に対して過剰に用いられる。
即ち、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して炭酸ジエステルのモル比が、好ましくは、1.01以上、特に好ましくは1.02以上、また好ましくは1.30以下、特に好ましくは1.20以下で用いられる。モル比が1.01より小さくなると、得られるポリカーボネート樹脂の末端OH基が多くなり、樹脂の熱安定性が悪化する傾向となる。また、モル比が1.30より大きくなると、エステル交換の反応速度が低下し、所望の分子量を有するポリカーボネート樹脂の生産が困難となる傾向となる他、樹脂中の炭酸ジエステルの残存量が多くなり、成形加工時や成形品の臭気の原因となることがあり、好ましくない。
【0032】
(エステル交換触媒)
本実施の形態において使用するエステル交換触媒としては、通常、エステル交換法によりポリカーボネートを製造する際に用いられる触媒が挙げられ、特に限定されない。一般的には、例えば、アルカリ金属化合物、ベリリウム又はマグネシウム化合物、アルカリ土類金属化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物又はアミン系化合物等の塩基性化合物が挙げられる。
【0033】
これらのエステル交換触媒の中でも、実用的にはアルカリ金属化合物が望ましい。これらのエステル交換触媒は、1種類で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
エステル交換触媒の使用量は、通常、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、好ましくは1×10−9モル以上、特に好ましくは1×10−7モル以上、また好ましくは、1×10−1モル以下、特に好ましくは1×10−2モル以下の範囲で用いられる。
【0034】
アルカリ金属化合物としては、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素化合物等の無機アルカリ金属化合物;アルカリ金属のアルコール類、フェノール類、有機カルボン酸類との塩等の有機アルカリ金属化合物等が挙げられる。ここで、アルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムが挙げられる。
これらのアルカリ金属化合物の中でも、セシウム化合物が好ましく、特に、炭酸セシウム、炭酸水素セシウム、水酸化セシウムが好ましい。
【0035】
ベリリウム又はマグネシウム化合物及びアルカリ土類金属化合物としては、例えば、ベリリウム、マグネシウム、アルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩等の無機アルカリ土類金属化合物;これらの金属のアルコール類、フェノール類、有機カルボン酸類との塩等が挙げられる。ここで、アルカリ土類金属としては、カルシウム、ストロンチウム、バリウムが挙げられる。
【0036】
塩基性ホウ素化合物としては、ホウ素化合物のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩、ストロンチウム塩等が挙げられる。ここで、ホウ素化合物としては、例えば、テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素等が挙げられる。
【0037】
塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン等の3価のリン化合物、又はこれらの化合物から誘導される4級ホスホニウム塩等が挙げられる。
【0038】
塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0039】
アミン系化合物としては、例えば、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン,4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン等が挙げられる。
【0040】
(ポリカーボネートの製造方法)
次に、ポリカーボネートの製造方法について説明する。
本実施の形態において、ポリカーボネートの製造は、原料である芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを含む混合物を調製し(原調工程)、これらの化合物の混合物を、エステル交換反応触媒の存在下、溶融状態で複数の反応器を用いる多段階方式の重縮合反応(重縮合工程)によって行われる。反応方式は、バッチ式、連続式、又はバッチ式と連続式の組合せのいずれでもよい。反応器は、一般に複数基の竪型反応器及び/又はこれに続く少なくとも1基の横型反応器が用いられる。通常、これらの反応器は直列に設置され、連続的に処理が行われる。
【0041】
重縮合工程後、反応を停止させ反応液中の未反応原料や反応副生物を脱揮除去する工程や、熱安定剤、離型剤、色剤等を添加する工程、ポリカーボネート樹脂を所定の粒径のペレットに形成する工程などを適宜追加してもよい。
次に、製造方法の各工程について説明する。
【0042】
(原調工程)
ポリカーボネートの原料として使用する芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとは、通常、窒素、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気下、バッチ式、半回分式または連続式の撹拌槽型の装置を用いて、溶融混合物として調製される。溶融混合の温度は、例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物としてビスフェノールAを用い、炭酸ジエステルとしてジフェニルカーボネートを用いる場合は、好ましくは120℃以上、特に好ましくは125℃以上、また好ましくは180℃以下、特に好ましくは160℃以下の範囲から選択される。
この際、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの混合割合は、炭酸ジエステルが過剰になるように調整され、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、炭酸ジエステルの割合は、好ましくは1.01モル以上、特に好ましくは1.02モル以上、また好ましくは、1.30モル以下、特に好ましくは1.20モル以下になるように調整される。
【0043】
(重縮合工程)
芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応による重縮合は、通常、2段階以上、好ましくは3段〜7段の多段方式で連続的に行われる。
具体的な反応条件としては、温度:150℃〜320℃、圧力:常圧〜1.3Pa、平均滞留時間:5分〜150分の範囲である。
重縮合工程を多段で行う場合の各反応器においては、重縮合反応の進行とともに副生するフェノールをより効果的に排出するために、上記の反応条件内で、通常段階的により高温、より高真空に設定する。尚、得られるポリカーボネート樹脂の色相等の品質低下を防止するためには、できるだけ低温、短滞留時間の設定が好ましい。
【0044】
重縮合工程を多段方式で行う場合は、通常、複数基の竪型反応器および/またはこれに続く少なくとも1基の横型反応器を設けて、ポリカーボネート樹脂の平均分子量を増大させる。反応器は通常2基〜6基、好ましくは3基〜5基設置される。
ここで、反応器としては、例えば、撹拌槽型反応器、薄膜反応器、遠心式薄膜蒸発反応器、表面更新型二軸混練反応器、二軸横型撹拌反応器、濡れ壁式反応器、自由落下させながら重合する多孔板型反応器、ワイヤーに沿わせて落下させながら重合するワイヤー付き多孔板型反応器等が用いられる。
【0045】
竪型反応器の撹拌翼の形式としては、例えば、タービン翼、パドル翼、ファウドラー翼、アンカー翼、フルゾーン翼((株)神鋼環境ソリューション製)、サンメラー翼(三菱重工業(株)製)、マックスブレンド翼(住重機器システム(株)製)、ヘリカルリボン翼、ねじり格子翼((株)日立プラントテクノロジー製)等が挙げられる。
【0046】
また、横型反応器とは、撹拌翼の回転軸が横型(水平方向)であるものをいう。横型反応器の撹拌翼としては、例えば、円板型、パドル型等の一軸タイプの撹拌翼やHVR、SCR、N−SCR(三菱重工業(株)製)、バイボラック(住重機器システム(株)製)、あるいはメガネ翼、格子翼((株)日立プラントテクノロジー製)等の二軸タイプの撹拌翼が挙げられる。
【0047】
尚、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの重縮合に使用するエステル交換触媒は、通常、予め水溶液として準備される。触媒水溶液の濃度は特に限定されず、触媒の水に対する溶解度に応じて任意の濃度に調整される。また、水に代えて、アセトン、アルコール、トルエン、フェノール等の他の有機溶媒を用いることもできる。
触媒の溶解に使用する水としては、含有される不純物の種類ならびに濃度が一定であれば特に限定されないが、通常、蒸留水や脱イオン水等が好ましく用いられる。
【0048】
(製造装置)
次に、図面に基づき、本実施の形態が適用されるポリカーボネートの製造方法の一例を具体的に説明する。
図3は、ポリカーボネートの製造装置の一例を示す図である。図3に示す製造装置において、ポリカーボネートは、原料の芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを調製する原調工程と、これらの原料を溶融状態で複数の反応器を用いて重縮合反応させる重縮合工程とを経て製造される。
その後、反応を停止させ重合反応液中の未反応原料や反応副生物を脱揮除去する工程(図示せず)や、熱安定剤、離型剤、色剤等を添加する工程(図示せず)、ポリカーボネートを所定の粒径のペレットに形成する工程(図示せず)を経て、ポリカーボネート樹脂のペレットが成形される。
【0049】
原調工程においては、原料調製槽2aと、調製した原料を重縮合工程に供給するための原料供給ポンプ4aとが設けられている。原料調製槽2aには、例えばアンカー型撹拌翼3aが設けられている。
また、原料調製槽2aには、DPC供給口1aから、炭酸ジエステルであるジフェニルカーボネート(以下、DPCと記載することがある。)が溶融状態で供給され、BPA供給口1bからは、芳香族ジヒドロキシ化合物であるビスフェノールA(以下、BPAと記載することがある。)が粉末状態(あるいは溶融状態)で供給され、溶融したジフェニルカーボネートにビスフェノールAが溶解(あるいは混合)される。
【0050】
次に、重縮合工程においては、直列に接続した第1竪型反応器6a、第2竪型反応器6b及び第3竪型反応器6cと、第3竪型反応器6cの後段に直列に接続した横型反応器9aとが設けられている。第1竪型反応器6a、第2竪型反応器6b及び第3竪型反応器6cには、マックスブレンド翼7a,7b,7cがそれぞれ設けられている。また、横型反応器9aには、格子翼10aが設けられている。
【0051】
なお、4基の反応器には、それぞれ重縮合反応により生成する副生物等を排出するための留出管8a,8b,8c,8dが取り付けられている。留出管8a,8b,8c,8dは、それぞれ凝縮器81a,81b,81c,81dに接続し、また、各反応器は、減圧装置82a,82b,82c,82dにより、所定の減圧状態に保たれる。
【0052】
図3に示すポリカーボネート樹脂の製造装置において、窒素ガス雰囲気下、所定の温度で調製されたDPC溶融液と、窒素ガス雰囲気下で計量されたBPAとが、それぞれDPC供給口1aとBPA供給口1bから原料調製槽2aに連続的に供給される。原料調製槽2aの液面は、所定のレベルになるように制御され、原料混合物は、原料供給ポンプ4aを経由して第1竪型反応器6aに連続的に供給される。また触媒として、炭酸セシウム水溶液が、原料混合物の移送配管途中の触媒供給口5aから連続的に供給される。
【0053】
第1竪型反応器6aでは、窒素雰囲気下、例えば、温度220℃、圧力13.33kPa、マックスブレンド翼7aの回転数を単位容積当たりの撹拌動力が0.8kW/mとなるように保持し、副生したフェノールを留出管8aから留出させながら平均滞留時間60分になるように液面レベルを一定に保ち、重縮合反応が行われる。次に、第1竪型反応器6aより排出された重合反応液は、引き続き、第2竪型反応器6b、第3竪型反応器6c、横型反応器9aに順次連続供給され、重縮合反応が進行する。各反応器における反応条件は、重縮合反応の進行とともに高温、高真空、低撹拌速度となるようにそれぞれ設定される。重縮合反応の間、各反応器における平均滞留時間は、例えば、60分程度になるように液面レベルを制御し、また各反応器においては、副生するフェノールが留出管8b,8c,8dから留出される。
【0054】
ここで、第1竪型反応器6aと第2竪型反応器6bでは、本実施の形態による反応装置が使用される。
この場合、反応装置内のポリカーボネートの粘度平均分子量(Mv)は8000以下であることが好ましい。粘度平均分子量(Mv)がこの範囲より過度に大きいと、本実施の形態の反応装置では、内部コイルが反応液の流動を阻害し、撹拌効果が不十分になる傾向にある。
よって本実施の形態のポリカーボネートの製造方法においては、本実施の形態の反応装置は、ポリカーボネートの粘度平均分子量(Mv)があまり大きくならない段階、即ち第1竪型反応器6aと第2竪型反応器6bで使用することが好ましい。
【0055】
尚、本実施の形態においては、第1竪型反応器6a、第2竪型反応器6b、第3竪型反応器6c及び横型反応器9aとにそれぞれ取り付けられた凝縮器81a,81b,81c及び81dからは、フェノール等の留出物が連続的に液化回収される。
【0056】
次に、横型反応器9aより抜き出されたポリカーボネートは、出口配管11から溶融状態のまま図示しない押出機に供給される。押出機には添加剤供給口から、たとえば、p−トルエンスルホン酸ブチル、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ステアリン酸モノグリセリド等の各種添加剤がそれぞれ供給される。
押出機より排出されたストランド状のポリカーボネートは冷却水にて冷却固化された後、カッターでペレット化され、水分除去した後に製品サイロに輸送される。
【0057】
なお上記の例は、芳香族ジヒドロキシ化合物および炭酸ジエステルを原料としてエステル交換反応を行いポリカーボネートを製造する反応装置についてであったが、本実施の形態の反応装置は他の反応における反応装置としても使用できることは勿論である。
また、内部コイルは上記の例では、加熱のためのものであったが、コイル内部に冷媒を通し、除熱を行うようにしてもよい。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限りこれらの実施例により限定されるものではない。
【0059】
(実施例1)
第1竪型反応器と第2竪型反応器の装置構成、重合反応を下記表1のような条件で、図3に示した製造装置を用いてポリカーボネートを製造した。なお第3竪型反応器と横型反応器には内部コイルは設置していない。
この結果、製品として最終的な粘度平均分子量(Mv)が22000のペレット状のポリカーボネートを得ることができた。
このとき得られたポリカーボネートは、黄色度(YI)が1.6で非常に透明であった。また100gあたりの50μm以上の異物量は1個であり、異物量についても非常に少ないポリカーボネートを製造することができた。
【0060】
なお黄色度(YI)の測定方法は以下の通りである。
射出成型機(株式会社日本製鋼所製:J100SS−2)を用いて、バレル温度280℃、金型温度90℃の条件下にて成形した厚み3mm、一辺100mm角のシートについて、カラーテスター(スガ試験機株式会社製:SC−1−CH)により、色の絶対値である3刺激値XYZを測定し、次の関係式により黄色度の指標であるYI値を計算した。
YI=(100/Y)×(1.28X−1.06Z)
このYI値が大きいほど着色していることを示す。
【0061】
また、異物量の測定方法は以下の通りである。
射出成型機によりプレート(60mm×60mm×3.2mm)を7枚(計100g)成型し、これらプレート中に含まれる異物量を蛍光灯スタンド(1200lx〜1500lx)下で目視によりカウント測定した。尚、異物の大きさ判定については、50μmの異物を含有する基準プレートと比較し実施した。
【0062】
一方、粘度平均分子量(Mv)の測定方法は以下の通りである。
ポリカーボネートをジクロロメタンに溶解し、濃度(C)が6.00g/Lの溶液を調整した。次に、ウベローデ型毛細管粘度計を用いて、20.0℃に設定した恒温水槽中で、溶媒(ジクロロメタン)の流下速度(t)と試料溶液の流下速度(t)を測定し、以下の式に従って、粘度平均分子量(Mv)を求めた。
【0063】
ηsp=(t/t)―1
a=0.28×ηsp+1
b=10×(ηsp/C)
[η]=b/a
Mv=51400×[η]exp1.205
【0064】
【表1】

【0065】
(実施例2)
第1竪型反応器と第2竪型反応器の装置構成、重合反応を下記表2のような条件で、図3に示した製造装置を用いてポリカーボネートを製造した。なお第3竪型反応器と横型反応器には内部コイルは設置していない。
この結果、製品として最終的な粘度平均分子量(Mv)が22300のペレット状のポリカーボネートを得ることができた。
このとき得られたポリカーボネートは、黄色度(YI)が1.5で非常に透明であった。また100gあたりの50μm以上の異物量は0個であり、異物量についても非常に少ないポリカーボネートを製造することができた。
【0066】
【表2】

【符号の説明】
【0067】
2a…原料調製槽、3a…アンカー型撹拌翼、4a…原料供給ポンプ、5a…触媒供給口、6a…第1竪型反応器、6b…第2竪型反応器、6c…第3竪型反応器、7a,7b,7c…マックスブレンド翼、8a,8b,8c,8d…留出管、9a…横型反応器、10a…格子翼、11…出口配管、20…反応装置、21…中心軸、22…撹拌翼、23…回転装置、24,25,26…内部コイル、81a,81b,81c,81d…凝縮器、82a,82b,82c,82d…減圧装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを原料としてエステル交換反応を行い、且つ当該エステル交換反応で得られるポリカーボネートの粘度平均分子量(Mv)が8,000以下までの反応工程において使用する反応装置であって、
撹拌手段と複数の内部コイルを内部に有し、
隣接する前記内部コイル間の中心間距離Aと当該内部コイルの外径Bとの関係A/B(コイル間ピッチ)が、1.6〜4.0である
ことを特徴とする反応装置。
【請求項2】
前記内部コイルは、所定の中心軸を中心とする異なる半径の円筒状の曲面上にらせん状に各々配されることを特徴とする請求項1に記載の反応装置。
【請求項3】
前記内部コイルは、少なくとも一部において多重に配されることを特徴とする請求項1に記載の反応装置。
【請求項4】
前記内部コイルは、少なくとも一部において2重〜5重に配されることを特徴とする請求項1に記載の反応装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−140663(P2011−140663A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78570(P2011−78570)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【分割の表示】特願2007−73135(P2007−73135)の分割
【原出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】