説明

反応進行装置用の交換製品

【課題】生化学検査等の検査コストの増大と、検査時間の長期化とを抑制する。
【解決手段】交換製品1010は、路面に生化学反応の反応物を含む反応物含有体が定着された反応流路1163と、反応流路内に試料液を導くためのノズルが挿入されるノズル挿入孔1164とを有する流路構造体と、第1の主面1162と第2の主面1161とを有し、流路構造体の表面に第2の主面が接合されたシール部材1160とを備える。そして、ノズル挿入孔は、該表面に第1の開口1240を有するとともに反応流路の壁面に第2の開口1291を有し、シール部材の第2の主面の第1領域が、ノズル挿入孔の第1の開口を塞いでおり、シール部材の第1領域のうち少なくとも一部に第1撥水膜35aが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生化学反応を進行させる反応進行装置用の交換製品に関する。
【背景技術】
【0002】
生化学検査において抗原抗体反応等の生化学反応が利用される。例えば、流路の内部に抗体が定着させられ、抗原を含む試料液が流路へ供給され、試料液に含まれる抗原と流路の内部に定着する抗体とが結合させられる。抗体への抗原の結合の有無、抗体への抗原の結合量等は、表面プラズモン共鳴(SPR)、表面プラズモン励起蛍光分光(SPFS)等により計測される。試料液が流路に供給される前に、洗浄液、バッファー液等が流路へ供給される場合もある。試料液、洗浄液、バッファー液等の液体は、多くの場合において、ノズルにより流路へ供給され、ノズルにより流路から回収される。
【0003】
また、生化学検査においては、試料液等の取り扱いの容易化等を目的として、生化学反応用の流路を内蔵した使い捨て可能な検査用チップが普及してきている。そして、計測が終了すると検査チップは医療廃棄物として廃棄されるが、計測後の検査チップは、反応液などが流路内に残存し、混在する抗体による感染、コンタミネーションなどのリスクを有している。このため、計測後の検査チップは、廃棄処理時の取り扱いに注意を要する。
【0004】
このため、特許文献1の検査装置では、計測終了後、検査チップの流路の出入り口に紫外線等の活性エネルギーに対する硬化性を有する充填材料を充填し、該充填材料に活性エネルギーを照射して充填材料を硬化させることにより流路を閉塞する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−139237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術には、充填材料の充填、および活性エネルギーの照射などの検査終了後の追加的処理を行なうための装置構成、および充填材料の使用などにより検査費用が増大するとともに、該追加的処理により検査時間の長期化を招くといった問題がある。
【0007】
本発明は、こうした問題を解決するためになされたもので、検査終了後の検査チップにおけるコンタミネーション等のリスクの低減処理に起因した検査コストの増大と、検査時間の長期化とを抑制でき得る技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、第1の態様に係る交換製品は、生化学反応を進行させる反応進行装置用の交換製品であって、路面に前記生化学反応の反応物を含む反応物含有体が定着された反応流路と、前記反応流路内に試料液を導くためのノズルが挿入されるノズル挿入孔とを有する流路構造体と、第1の主面と第2の主面とを有し、前記流路構造体の表面に前記第2の主面が接合されたシール部材とを備え、前記ノズル挿入孔は、前記流路構造体の前記表面に第1の開口を有するとともに前記反応流路の壁面に第2の開口を有し、前記シール部材の前記第2の主面の第1領域が、前記ノズル挿入孔の前記第1の開口を塞いでおり、前記シール部材の前記第1領域のうち少なくとも一部に第1撥水膜が形成されていることを特徴とする。
【0009】
第2の態様に係る交換製品は、第1の態様に係る交換製品であって、前記流路構造体は、前記流路構造体の前記表面に第3の開口を有するとともに前記反応流路の壁面に第4の開口を有し、前記反応流路からあふれた前記試料液を貯留可能な液溜め孔と、前記流路構造体の前記表面に形成され、一端が前記液溜め孔の側面に至る溝部とをさらに有し、前記シール部材の前記第2の主面の第2領域が、前記溝部の少なくとも一部と、前記液溜め孔の前記第3の開口とをそれぞれ塞ぐことによって、前記反応流路に前記試料液が導入されるときに前記液溜め孔内の気体を当該交換製品の外部へ排出可能な気体抜き孔が形成されており、前記シール部材の前記第2領域のうち、少なくとも前記液溜め孔の前記第3開口の一部を塞ぐ部分に第2撥水膜が形成されているとともに、前記第3開口の前記一部は、前記第3開口のうち前記溝部側の部分であることを特徴とする。
【0010】
第3の態様に係る交換製品は、第2の態様に係る交換製品であって、前記流路構造体においては、前記溝部の壁面のうち前記気体抜き孔の壁面を構成する部分に第3撥水膜が形成されていることを特徴とする。
【0011】
第4の態様に係る交換製品は、第2または第3の態様に係る交換製品であって、前記シール部材においては、前記第2の主面のうち前記気体抜き孔の壁面を構成する部分に第4撥水膜が形成されていることを特徴とする。
【0012】
第5の態様に係る交換製品は、第2から第4の何れか1つの態様に係る交換製品であって、前記気体抜き孔の孔断面のサイズは、前記反応流路に導入された試料液が当該交換製品の姿勢に関わらず前記気体抜き孔から当該交換製品の外部に漏れ出ないサイズであることを特徴とする。
【0013】
第6の態様に係る交換製品は、第1から第5の何れか1つの態様に係る交換製品であって、前記シール部材は、前記第2の主面の前記第1領域のうち前記第1撥水膜が形成された部分に、該シール部材を貫通する導入孔を有し、前記導入孔のサイズは、前記反応流路に導入された試料液が当該交換製品の姿勢に関わらず前記導入孔から当該交換製品の外部に漏れ出ないサイズであることを特徴とする。
【0014】
第7の態様に係る交換製品は、第1から第6の何れか1つの態様に係る交換製品であって、前記流路構造体は、第3の主面及び第4の主面を有し、前記反応流路が形成され、前記反応流路が前記第3の主面と前記第4の主面とに第5の開口と第6の開口とをそれぞれ有する流路部材と、前記流路部材の前記第3の主面に接合され、前記ノズル挿入孔が形成された蓋部材と、前記流路部材の前記第4の主面に接合され、前記流路部材の前記第6の開口を閉塞する閉塞物とを備えることを特徴とする。
【0015】
第8の態様に係る交換製品は、第7の態様に係る交換製品であって、前記閉塞物は、光反射面を有する光透過性の誘電体媒体と、前記流路部材と前記光反射面との間に介挿された導電体膜とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
第1から第8の何れの態様に係る発明によっても、交換製品の流路構造体の表面に接合されたシール部材の第2の主面の第1領域によりノズル挿入孔の第1の開口が塞がれる。そして、第1領域のうち少なくとも一部に第1撥水膜が形成される。従って、第1領域のうち第1撥水膜が形成された部分にシール部材を貫通する導入孔が形成されたとしても、該導入孔からの液漏れが生じにくくなる。このため、検査終了後の検査チップにおけるコンタミネーション等のリスクの低減処理に起因した検査コストの増大と、検査時間の長期化とが抑制され得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態に係る検査チップを用いる計測装置の構成の一例を示す模式図である。
【図2】実施形態に係る検査チップの外観の一例を模式的に示す斜視図である。
【図3】実施形態に係る検査チップの断面の一例を模式的に示す図である。
【図4】実施形態に係る検査チップの断面の一例を模式的に示す図である。
【図5】実施形態に係る検査チップの斜視図の一例を模式的に示す図である。
【図6】実施形態に係る検査チップの断面の一例を模式的に示す図である。
【図7】実施形態に係る検査チップの断面の一例を模式的に示す図である。
【図8】液漏れの防止について説明するための図である。
【図9】実施形態に係る検査チップの製作工程の一例を示すフローチャートである。
【図10】実施形態に係る検査チップを用いた生体検査工程の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図面では同様な構成および機能を有する部分に同じ符号が付され、下記説明では重複説明が省略される。また、各図面は模式的に示されたものであり、例えば、各図面における表示物のサイズおよび位置関係等は必ずしも正確に図示されたものではない。
【0019】
<実施形態について>
<計測装置1000と検査チップ1010の構成について>
(概略)
この望ましい実施形態は、計測装置、当該計測装置に含まれる反応進行装置、当該反応進行装置用の交換製品及び当該交換製品の製造方法に関する。
【0020】
図1は、実施形態に係る検査チップ1010を用いる計測装置1000の一例を示す模式図である。図2から図7までの模式図は、検査チップ1010の実施形態を示す。図2は、外観の斜視図であり、図3、図4及び図7は、断面を示し、図6は、ノズル1080が挿入された状態の断面を示す。また、図7は、図6に示されたノズル1080が抜かれた状態を示す。図5は、分解斜視図である。
【0021】
図1に示す計測装置1000は、表面プラズモン励起蛍光分光(SPFS)による計測を行う。計測装置1000が表面プラズモン共鳴(SPR)による計測を行ってもよい。計測装置1000に含まれる反応進行装置1215は、SPFS及びSPRによる計測以外にも使用される。例えば、反応進行装置1215は、エライザ(ELISA)、イムノクロマトグラフィー等による計測にも用いられる。
【0022】
図1に示すように、計測装置1000は、測定機構1002、送液機構1004、制御部1006、表示部1008、検査チップ1010及び試薬チップ1012を備える。これら以外の構成物が計測装置1000に付加されてもよい。
【0023】
測定機構1002は、レーザーダイオード1100、第1のバンドパスフィルター1102、直線偏光フィルター1104、減光(ND)フィルター1106、半波長板1108、半波長板駆動機構1110、整形光学系1112、ミラー1114、ミラー駆動機構1116、集光レンズ1118、第2のバンドパスフィルター1120、バンドパスフィルター駆動機構1122、結像レンズ1124、光電子増倍管1126、検査チップ搬送機構1128及び光吸収体1130を備える。これら以外の構成物が測定機構1002に付加されてもよい。
【0024】
送液機構1004は、送液ポンプ1140及び送液ポンプ搬送機構1142を備える。これらの以外の構成物が送液機構1004に付加されてもよい。
【0025】
制御部1006は、半波長板駆動機構1110、ミラー駆動機構1116、バンドパスフィルター駆動機構1122、検査チップ搬送機構1128、送液ポンプ1140及び送液ポンプ搬送機構1142を制御し、光電子増倍管1126から光量の測定結果を取得する。制御部1006は、プログラムがインストールされたコンピューターである。制御部1006の機能の全部又は一部がプログラムを伴わないハードウエアに担われてもよい。ハードウエアは、オペアンプ、コンパレーター等の電子回路であってもよいし、機械的機構であってもよい。
【0026】
図2から図7までに示すように、検査チップ1010は、例えば、プリズム1150、導電体膜1152、捕捉体1154、流路部材1156、蓋部材1158及びシール部材1160などを主に備えて構成される。これら以外の構成物が検査チップ1010に付加されてもよい。検査チップ1010は、センサーチップ、分析チップ、試料セル等とも呼ばれる。流路部材1156には、流路1163が形成される。流路1163は、流路本体1168、先端収容孔1170及び端部孔1172を有する。蓋部材1158には、流路1163内に試料液1202等を導くためのノズル1180が挿入されるノズル挿入孔1164と、流路1163からあふれた試料液1202等を貯留可能な液溜め孔1166とが形成されている。さらに、蓋部材1158のシール面1228には、溝部1249が形成され、その一端は液溜め孔1166の側面に至っている。
【0027】
図1に示すように、試薬チップ1012は、ノズル1180、検体容器1182、希釈容器1184、希釈液容器1186、標識抗体液容器1188、洗浄液容器1190及びホルダ1192を備える。希釈液容器1186、標識抗体液容器1188及び洗浄液容器1190には、それぞれ、希釈液1194、標識抗体液1196及び洗浄液1198が予め収容される。検体容器1182には、試薬チップ1012が計測装置1000に取りつけられる前に検体1200が収容される。希釈容器1184には、試薬チップ1012が計測装置1000に取りつけられた後に試料液1202が収容される。
【0028】
検査チップ1010及び試薬チップ1012は、検体1200ごとに交換される交換製品1216である。
【0029】
送液機構1004、検査チップ1010及び試薬チップ1012は、生化学反応を進行させる反応進行装置1215を構成する。
【0030】
第1のバンドパスフィルター1102、直線偏光フィルター1104、減光フィルター1106、半波長板1108、整形光学系1112及びミラー1114は、励起光学系1212を構成する。集光レンズ1118、第2のバンドパスフィルター1120及び結像レンズ1124は、検出光学系1214を構成する。
【0031】
(生化学反応の進行の概略)
生化学反応が進行させられる場合は、送液機構1004により洗浄液1198が流路1163へ供給され、流路1163が洗浄され、送液機構1004により洗浄液1198が流路1163から回収される。続いて、送液機構1004により試料液1202が流路1163へ供給され、試料液1202に含まれる抗原と、捕捉体1154に含まれる抗体とが結合させられ、送液機構1004により試料液1202が流路1163から回収される。さらに続いて、送液機構1004により標識抗体液1196が流路1163へ供給され、捕捉体1154に含まれる抗体に結合した抗原と標識抗体液1196に含まれる標識抗体とが結合させられる。洗浄液1198が流路1163から回収されるときには、ノズル1180の先端1252が先端収容孔1170に達するまでノズル1180がノズル挿入孔1164に深く挿入される。
【0032】
(計測の概略)
計測が行われる場合は、励起光1210がプリズム1150に照射される。照射された励起光1210は、プリズム1150と導電体膜1152との界面で反射される。プリズム1150と導電体膜1152との界面で励起光1210が反射される場合は、プリズム1150と導電体膜1152との界面から導電体膜1152の側にエバネッセント波がもれだし、導電体膜1152の表面のプラズモンとエバネッセント波とが干渉する。プラズモンとエバネッセント波とが共鳴する場合にエバネッセント波の電場は著しく増強される。増強された電場は標識抗体を励起し、標識抗体から表面プラズモン励起蛍光1218が放射される。表面プラズモン励起蛍光1218の光量は、光電子増倍管1126により測定される。表面プラズモン励起蛍光1218の光量の測定結果から抗原の有無、抗原の捕捉量等が制御部1006により算出され、算出結果が表示部1008に表示される。
【0033】
(検査チップ)
図2から図7までに示すように、検査チップ1010においては、プリズム1150、導電体膜1152、捕捉体1154、流路部材1156、蓋部材1158及びシール部材1160が積層される。
【0034】
○プリズム1150:
プリズム1150は台形柱体であり、励起光1210の入射面1220、反射面1222及び出射面1224を有する。該台形柱体の一方の傾斜側面が入射面1220であり、台形柱体の幅広の平行側面が反射面1222であり、台形柱体の他方の傾斜側面が出射面1224である。入射面1220、反射面1222及び出射面1224は、入射面1220から入射した励起光1210が反射面1222に反射され、出射面1224から出射するような相互関係で配置されている。プリズム1150の外形形状が台形柱体以外でもよく、プリズム1150が「プリズム」の範疇に含まれない形状物に置きかえられてもよい。例えば、プリズム1150の外形形状が円柱体であってもよく、プリズム1150が板へ置きかえられてもよい。
【0035】
プリズム1150は、励起光1210に対して透明な材質からなる誘電体媒体である。すなわち、プリズム1150は、光反射面である反射面1222を有し、励起光1210に対して光透過性を有する誘電体媒体である。プリズム1150は、ガラス、樹脂等からなる。プリズム1150は、望ましくは、屈折率が1.4〜1.6であって複屈折が小さい樹脂からなる。これにより、プリズム1150が安価に製造される。プリズム1150が樹脂からなる場合は、望ましくは、射出成形によりプリズム1150が製造される。ただし、プリズム1150が他の方法により製造されてもよい。
【0036】
○導電体膜1152:
導電体膜1152は、表面プラズモン共鳴を発生させる導電体からなる。導電体膜1152は、望ましくは、金からなる。ただし、導電体膜1152が、銀、銅、アルミニウム等の金属又はこれらの金属を含む合金からなる膜に置き換えられても良い。導電体膜1152の膜厚は、望ましくは100nm以下であり、さらに望ましくは30〜70nmである。ただし、導電体膜1152の膜厚がこの範囲外となってもよい。導電体膜1152は、スパッタリング、蒸着、メッキ等により反射面1222に形成される。ただし、導電体膜1152が他の方法により形成されてもよい。導電体膜1152が形成されたプリズム1150は、「複合体1148」とも称される。
【0037】
導電体膜1152は、主面1230(「第6主面」)と主面1232(「第5主面」)とを有する。一方の主面1230は、プリズム1150の反射面1222に密着し、他方の主面1232は、流路部材1156の主面1234に接合されて、流路部材1156における流路1163の開口1235を閉塞する。すなわち、導電体膜1152は、流路部材1156と反射面1222(光反射面)との間に介挿されており、複合体1148は、流路1163の開口1235を閉塞する閉塞物として動作する。開口1235が複合体1148によって閉塞された流路1163の路面には、生化学反応の反応物を含む捕捉体1154(「反応物含有体」)が定着(「固定」)される。
【0038】
○捕捉体1154:
捕捉体1154(反応物含有体)は、検出の対象の抗原と反応する抗体を含む。より一般的には、捕捉体1154は、生化学反応の第1の反応物と反応する第2の反応物を含む。検出の対象の抗原を含む試料液1202が捕捉体1154に接触した場合は、試料液1202に含まれる検出の対象の抗原が捕捉体1154に含まれる抗体と結合し、試料液1202に含まれる検出の対象の抗原が捕捉体1154に捕捉される。捕捉体1154は、生化学反応の反応場を提供する。捕捉体1154は、望ましくは、表面処理により導電体膜1152の他方の主面1232に定着される。
【0039】
捕捉体1154が抗体を含む場合は、捕捉体1154はタンパク質を含む。捕捉体1154がタンパク質を含む場合は、望ましくは、捕捉体1154に保存用の試薬が塗布される。これにより、捕捉体1154の捕捉性能が長時間にわたって維持される。保存用の試薬は、望ましくは、捕捉体1154の捕捉性能に影響を与えない保湿剤である。例えば、保存用の試薬は、ショ糖水溶液を主成分とする液体である。検査チップ1010は、保存用の試薬が捕捉体1154に塗布され乾燥させられた状態で保管される。このため、試料液1202が捕捉体1154に接触させられる前には、捕捉体1154が洗浄液1198で洗浄される。
【0040】
○流路部材1156:
流路部材1156には流路1163(「反応流路」)が形成される。流路部材1156は、望ましくは、粘着シートからなり、複合体1148と蓋部材1158とを接合する接合媒体を兼ねる。流路部材1156は、主面1234および1236を有し、流路1163が形成されている。ただし、流路部材1156が粘着シート以外の弾性体からなることも許される。例えば、流路部材1156が弾性シート、Oリング等からなることも許される。流路部材1156が接合媒体でない場合は、複合体1148と蓋部材1158とは、接着、レーザー溶着、超音波溶着、クランプ圧着等により接合される。流路部材1156は、望ましくは、樹脂からなる。
【0041】
流路1163は、流路部材1156の一方の主面1234及び他方の主面1236に、それぞれ、開口1235(「第6開口」)及び1237(「第5開口」)を有し、流路部材1156に平行に延在する。一方の開口1235は、プリズム1150の反射面1222に形成された導電体膜1152の他方の主面1232により閉塞される。他方の開口1237は、先端収容孔1170及び端部孔1172を除いて、蓋部材1158の接合面1226により閉塞される。
【0042】
流路1163における先端収容孔1170は流路1163の一方の端部にあり、端部孔1172は流路1163の他方の端部にある。流路本体1168は、先端収容孔1170から端部孔1172へ至る。
【0043】
流路部材1156、蓋部材1158、および複合体1148は、流路構造体1050(図5)を構成する。流路構造体1050の表面をなす蓋部材1158のシール面1228には、シール部材1160の一方の主面1161が接合される。なお、SPRによる計測以外に反応進行装置1215が用いられる場合は、複合体1148以外の閉塞物により一方の開口1235が閉塞される場合もある。また、SPFS又はSPRによる計測以外に反応進行装置1215が用いられ、複合体1148以外の閉塞物により開口1235が閉塞される場合は、望ましくは閉塞物の全部又は一部が樹脂からなり、さらに望ましくは閉塞物の全部が樹脂からなる。流路部材1156の他方の主面1236は、蓋部材1158の接合面1226に接合される。
【0044】
○蓋部材1158:
蓋部材1158は、例えば、直方体形状を持ち、流路部材1156の主面1236に接合されている。蓋部材1158は、表面プラズモン励起蛍光1218及び散乱光に対して透明な材質からなる。蓋部材1158は、望ましくは、例えば、樹脂からなり、射出成形などにより製造される。
【0045】
蓋部材1158は、接合面1226及びシール面1228を有し、ノズル挿入孔1164と液溜め孔1166とが形成されている。シール面1228は、流路構造体1050の表面を構成する。
【0046】
ノズル挿入孔1164の一端は、接合面1226に設けられた開口1291(「第2開口」)であり、他端は、シール面1228に設けられたノズル挿入口1240(「第1開口」)である。ノズル挿入孔1164は、ノズル挿入口1240から先端収容孔1170へ至る。すなわち、開口1291は、流路1163の壁面に形成されており、ノズル挿入孔1164は、蓋部材1158を貫通して流路1163の一端側に連通している。また、ノズル挿入孔1164は、流路部材1156の流路1163に対して垂直に延在する。ただし、流路1163とノズル挿入孔1164とは、異なる方向に延在すればよく、必ずしも相互に垂直に延在しなくてもよい。また、ノズル挿入口1240は、シール部材1160の一方の主面1161で塞がれる。
【0047】
液溜め孔1166の一端は、接合面1226に設けられた開口1292(「第4開口」)であり、他端は、シール面1228に設けられた開口1242(「第3開口」)である。そして、液溜め孔1166は、液溜め口1166から端部孔1172へ至っている。すなわち、液溜め孔1166は、蓋部材1158を貫通して流路1163の端部孔1172側に連通している。図3、図4に示されるように、液溜め孔1166には、例えば、開口1292側よりも開口1242側の方が幅広となるものが採用される。円筒状、四角筒状の孔など、開口1292側から開口1242側に渡って、幅(径)が均一な液溜め孔1166が採用されてもよい。開口1242は、シール部材1160の一方の主面1161で塞がれる。
【0048】
また、シール面1228には、溝部1249が形成される。溝部1249のシール面1228における開口の少なくとも一部がシール部材1160の一方の主面1161で塞がれることによって、蓋部材1158と主面1161とは、気体抜き孔1248を形成する。気体抜き孔1248は、試料液1202等が流路1163に導入されるときに流路1163内の気体を液溜め孔1166を介して検査チップ1010の外部へと排出可能に構成される。
【0049】
溝部1249の一端は液溜め孔1166の側面に至り、気体抜き孔1248の一方の開口1251を形成する。すなわち、溝部1249の一端は、液溜め孔1166の側面に連通している。また、溝部1249の他端は、望ましくは、蓋部材1158の側面1229に至り、気体抜き孔1248の他方の開口1250を形成する。なお、溝部1249の他端が側面1229に至らないとしても、シール面1228における溝部1249の開口の一部が主面1161で塞がれることによって、シール面1228に開口1250が形成され得る。従って、溝部1249の他端が側面1229に至らないとしても、本発明の有用性を損なうものではない。
【0050】
蓋部材1158が、流路部材1156の主面1236に接合されることにより、ノズル挿入孔1164、流路1163、および液溜め孔1166には、検出の対象の抗原を含む試料液1202が流され得る状態となる。そこで、通常、蓋部材1158が、流路部材1156の主面1236に接合された後、ノズル挿入孔1164、流路1163、および液溜め孔1166に対してブロッキング処理が施される。
【0051】
ブロッキング処理は、ノズル挿入孔1164、流路1163、および液溜め孔1166における試料液1202が接触し得る箇所のうち捕捉体1154以外の箇所に検出対象の抗原が吸着される現象(「非特異吸着」とも称される)を防止するための表面処理である。ブロッキング処理は、例えば、ノズル挿入孔1164、流路1163、および液溜め孔1166に、スキムミルク、アルブミンなどのタンパク質を含む液体を流した後、該液体を回収して、該液体が接触した箇所を乾燥させることなどによって行なわれる。
【0052】
ブロッキング処理によって非特異吸着の発生は、ほぼ防止される。しかし、タンパク質は親水性を有するために、ブロッキング処理が施された部分は親水化されてしまい、親水化の影響は、液溜め孔1166に連通する溝部1249にも及ぶ。そして、溝部1249の壁面のうち気体抜き孔1248の壁面を構成する部分の撥水性が損なわれ、不十分な撥水性となる。このため、検査チップ1010においては、気体抜き孔1248の壁面の撥水性を高めるために、溝部1249の壁面のうち気体抜き孔1248の壁面を構成する部分には、ブロッキング処理の後に、望ましくは、撥水膜35cが形成される。撥水膜35cについては、後述する。また、液溜め孔1166の壁面のうち少なくとも気体抜き孔1248の開口1251を内包する部分に撥水膜が形成されてもよい。
【0053】
また、溝部1249が形成されず、後述する導入孔1241と同様に、計測時に、液溜め孔1166の開口1242を閉塞したシール部材1160の一部に穴が空けられることによって気体抜き孔1248が形成されたとしても本発明の本発明の有用性を損なうものではない。この場合には、気体抜き孔1248は、液溜め孔1166を閉塞するシール部材1160の部分のうち主面1161上に後述する撥水膜35bが形成された部分に形成される。
【0054】
また、気体抜き孔1248の開口1251のサイズ、すなわち孔断面のサイズは、流路1163に導入された試料液1202などが、検査チップ1010の姿勢に関わらず、気体抜き孔1248から検査チップ1010の外部に漏れ出ないサイズに形成されている。開口1251のサイズについては、後述する。
【0055】
また、検査チップ1010は、望ましくは、流路1163が水平方向に延在し、ノズル挿入孔1164及び液溜め孔1166が鉛直方向に延在し、シール面1228が鉛直方向上方を向くように保持される。これにより、流路1163から液体がこぼれにくくなる。液溜め孔1166及び端部孔1172が、それぞれ、ノズル挿入孔1164及び先端収容孔1170とは別のノズル挿入孔及び先端収容孔とされてもよい。
【0056】
また、互いに別体である流路部材1156と蓋部材1158とが接合されることにより、流路1163とノズル挿入孔1164とが形成された構造物の製造が容易になる。ただし、流路部材1156及び蓋部材1158が流路1163、ノズル挿入孔1164、および溝部1249が形成された一体の構造物へ置き換えられてもよい。
【0057】
○シール部材1160:
シール部材1160は、一方の主面1161(「第2主面」)と他方の主面1162(「第1主面」)を有する。蓋部材1158のシール面1228にはシール部材1160の一方の主面1161が貼られる。シール部材1160は、蓋部材1158のシール面1228に接着剤等によって接合される。シール部材1160は、一方の主面1161によってノズル挿入口1240と液溜め孔1166とを閉塞するとともに、開口1250を除き溝部1249をふさぐ。すなわち、シール部材1160は、開口1250を除き流路1163を塞ぐ。
【0058】
シール部材1160は、望ましくは、樹脂からなる。シール部材1160が、樹脂からなるシートとアルミニウムからなるシートとの積層体であってもよい。アルミニウムのシートは、乾燥防止作用を有する。樹脂のシートとアルミニウムのシートとによって、シール部材1160が構成される場合には、望ましくは、2つの樹脂シートの間に、アルミニウムのシートが挿入された構造が採用される。また、シール部材1160の構成部材に樹脂シートが含まれる場合には、該樹脂シートが、蓋部材1158のシール面1228に接合される。
【0059】
シール部材1160の主面1161のうち第1領域1310(図5)は、ノズル挿入孔1164のノズル挿入口1240を塞ぐ領域である。そして、第1領域1310のうち少なくとも一部に撥水膜35a(「第1撥水膜」)が形成されている。
【0060】
計測時には、ノズル1180は、第1領域1310の該一部、すなわち、第1領域1310のうち撥水膜35aが形成された部分においてシール部材1160を破ってノズル挿入孔1164に挿入される。そして、ノズル1180がシール部材1160から抜かれた跡には、導入孔1241(図6)が形成される。すなわち、導入孔1241は、第1領域1310のうち撥水膜35aが形成された部分に形成され、シール部材1160を貫通する。導入孔1241のサイズは、流路1163に導入された試料液1202等が検査チップ1010の姿勢に関わらず導入孔1241から検査チップ1010の外部に漏れ出ないサイズである。導入孔1241のサイズについては、後述する。
【0061】
シール部材1160の主面1161のうち第2領域1320(図5)は、溝部1249の少なくとも一部と、液溜め孔1166の開口1242とをそれぞれ塞ぐ領域である。第2領域1320が、溝部1249の少なくとも一部と、開口1242とをそれぞれ塞ぐことによって、流路1163に試料液1202が導入されるときに液溜め孔1166内の気体を検査チップ1010の外部へ排出可能な気体抜き孔1248が形成されている。
【0062】
シール部材1160の第2領域1320のうち、少なくとも液溜め孔1166の開口1242の一部を塞ぐ部分には撥水膜35b(「第2撥水膜」)が形成されている。開口1242の該一部は、開口1242のうち溝部1249側の部分である。
【0063】
また、シール部材1160の主面1161のうち気体抜き孔1248の壁面を構成する部分には、望ましくは、撥水膜35d(「第4撥水膜」)が形成される。すなわち、撥水膜35dは、望ましくは、第2領域1320のうち気体抜き孔1248の壁面を構成する部分に形成される。しかし、該部分に撥水膜35dが形成されないとしても本発明の本発明の有用性を損なうものではない。該部分に撥水膜35dが形成された場合には、形成されない場合に比べて、気体抜き孔1248からの液漏れをより防止することができる。
【0064】
また、既述したように、蓋部材1158に形成された溝部1249の壁面のうち気体抜き孔1248の壁面を構成する部分には、望ましくは、撥水膜35c(「第3撥水膜」)が形成される。撥水膜35cが形成されれば、撥水膜35cが形成されない場合に比べて、気体抜き孔1248からの液漏れをより防止することができるが、撥水膜35cが形成されないとしても本発明の有用性を損なうものではない。
【0065】
なお、撥水膜35a〜35dは、図3、図4などにおいて太い破線で示されている。撥水膜35a〜35dは、空間的にほぼ均一な膜厚を有する撥水膜であり、その膜厚は、望ましくは、1nm〜1umの範囲に設定される。しかし、撥水膜35a〜35dの膜厚は、該範囲外の膜厚であってもよい。また、撥水膜35a〜35dは、撥水処理剤(「撥水剤」)が、例えば、コーターによる塗工、ブラシ式の塗工、インクジェット方式の塗工など、各種手法によって主面1161に塗工されて乾燥されることにより形成される。該撥水処理剤としては、例えば、フッ素系撥水処理剤、またはシリコーン系撥水処理剤などが採用される。
【0066】
検査チップ1010においては、シール部材1160の一方の主面1161に撥水剤を用いた撥水膜が形成されて、主面1161の撥水性が高められている。ところで、シール部材1160の主面1161を構成する樹脂(プラスティックなど)は、ある程度、撥水性を有しており、また、主面1161の表面構造を適宜選択することによっても撥水性を持たせることができる。しかしながら、主面1161に撥水剤を用いた撥水膜が形成されれば、該撥水膜が形成されない場合に比べて、主面1161の撥水性がさらに高められる。そして、該撥水性能の向上によって、検査チップ1010から内部の液体が漏れにくくなる。
【0067】
すなわち、検査チップ1010によれば、流路構造体1050の表面(シール面1228)に接合されたシール部材の一方の主面1161のうち第1領域1310によりノズル挿入孔1164のノズル挿入口1240が塞がれる。そして、第1領域1310のうち少なくとも一部に撥水膜35aが形成される。従って、第1領域1310のうち撥水膜35aが形成された部分にシール部材1160を貫通する導入孔1241が形成されたとしても、導入孔1241からの液漏れが生じにくくなる。このため、検査終了後の検査チップにおけるコンタミネーション等のリスクの低減処理に起因した検査コストの増大と、検査時間の長期化とが抑制され得る。
【0068】
なお、シール部材1160が、例えば、ノズル挿入口1240を塞ぐシール部材と、液溜め孔1166の開口1242および溝部1249を塞ぐシール部材とによって構成されるなど、シール部材1160が複数のシール部材によって構成されたとしても本発明の有用性を損なうものではない。
【0069】
(導入孔1241のサイズと気体抜き孔1248の開口1251のサイズ)
図8は、容器C1の穴部H1からの液体L1の液漏れの防止について説明するための図である。容器C1内の液体L1は、穴部H1において、表面張力によって、例えば、液面W1に示されるような液面形状を有するようになる。
【0070】
液体L1の表面張力が大きければ大きいほど接触角θ1は、大きくなる。表面張力によって液体L1にかかる圧力P1は、(1)式で示される。また、重力によって液体L1にかかる圧力P2は、(2)式によって与えられる。この場合、圧力P1、P2が(3)式を満たせば、容器C1内の液体L1は、穴部H1から容器外部に漏れることがない。なお、(1)〜(3)式は、容器C1の内径Φ2に依存しない。
【0071】
【数1】

【0072】
そこで、導入孔1241、気体抜き孔1248の開口1251の形成においては、例えば、先ず、(1)式〜(3)式を用いて、液漏れが発生しないための大凡の孔サイズΦ1(穴径)が求められる。次に、求められた大凡の孔サイズΦ1からのサイズ調整が実験的に行なわれることによって、液漏れが発生しないための孔サイズが決定される。そして、決定された孔サイズΦ1に基づいて、ノズル1180の径、および溝部1249を形成するための金型サイズが設定され、設定されたサイズに適合するノズルおよび金型がそれぞれ採用される。なお、溝部1249は、射出成形に代えて、例えば、切削などによって設定されたサイズとなるように形成されても良い。射出成形等によって溝部1249が予め蓋部材1158に形成されていれば、例えば、検査時にシール部材1160の第2領域1320を貫通する気体抜き孔が形成される場合に比べて、気体抜き孔1248の壁面における撥水膜35cの形成がより容易となる。従って、溝部1249が予め蓋部材1158に形成されていれば、検査チップ1010からの液漏れがより生じにくくなる。
【0073】
流路1163、ノズル挿入孔1164、および液溜め孔1166に導入される液面の高さhとして、例えば、5mmが想定される場合には、導入孔1241の穴径は、通常、2〜3mm程度に設定され、気体抜き孔1248の開口1251の穴径は、1mm程度に設定される。なお、開口1251の穴径が導入孔1241の穴径と同程度に設定されたとしても本発明の有用性を損なうものではない。
【0074】
また、ノズル挿入孔1164における導入孔1241、液溜め孔1166における気体抜き孔1248からの液漏れを表現するモデル化が、要求仕様を満たす以上に正確に実現された場合には、(1)式〜(3)式などに相当する算出式のみによって、孔サイズが決定されたとしても本発明の有用性を損なうものではない。また、孔サイズが、(1)式〜(3)式などを用いることなく実験のみによって求められたとしても本発明の有用性を損なうものではない。
【0075】
上述したように導入孔1241および気体抜き孔1248の開口1251の穴径が設定されれば、例えば、シール部材1160の主面1162が地面に対向するように検査チップ1010がひっくり返されたとしても、検査チップ内部の液体が外に漏れることを防止できる。
【0076】
(試薬チップ)
図1に示すように、ノズル1180、検体容器1182、希釈容器1184、希釈液容器1186、標識抗体液容器1188及び洗浄液容器1190は、ホルダ1192により結合される。これらが分離して提供されてもよい。
【0077】
(ノズル及び送液ポンプ)
ノズル1180には、液体を収容する液体収容空間が内部に形成される。液体収容空間は、先端1252に液体出入口を有し、他端に送液ポンプ1140が取付けられる開口を有する。ノズル1180の径は、先端1252側であればあるほど細くなる。ノズル1180の径が先端1252側であればあるほど太くなってもよい。ノズル1180の径が均一であってもよい。ノズル1180の径が不規則に変化してもよい。ノズル1180は、望ましくは、樹脂からなる。これにより、ノズル1180が安価に製造される。ノズル1180の材質が、ガラスなど樹脂以外であってもよい。
【0078】
(送液ポンプへのノズルの取りつけ)
図6に示すように、ノズル1180が送液ポンプ1140に取りつけられる場合は、ポンプ先端がノズル1180における先端1252と異なる端部の開口に圧入される。他の方式によりノズル1180が送液ポンプ1140へ取りつけられてもよい。
【0079】
(液体の吐出及び吸入)
送液ポンプ1140は、内部の液体収容空間を陽圧又は陰圧にする。液体収容空間が陽圧にされた場合は、先端1252の液体出入口を経由して液体が液体収容空間から吐出される。液体収容空間が陰圧にされた場合は、液体出入口を経由して液体が液体収容空間へ吸入される。
【0080】
液体が流路1163へ供給される場合は、図6に示すように、シール部材1160を破ってノズル挿入孔1164にノズル1180が挿入され、液体出入口を経由して液体収容空間から液体が吐出される。流路1163から液体が回収される場合は、ノズル挿入孔1164にノズル1180が挿入された状態において、液体出入口を経由して液体収容空間へ液体が吸入される。また、計測が終了し、ノズル1180がノズル挿入孔1164から抜かれると、図7に示されるように、ノズル挿入口1240には、導入孔1241が形成される。
【0081】
(先端の位置)
ノズル挿入孔1164にノズル1180が挿入される場合は、ノズル挿入孔1164と流路1163との境界を先端1252が越え、先端収容孔1170に先端1252が収容される。これにより、先端1252が流路1163の内部に配置され、流路1163から液体が容易に回収される。したがって、洗浄液1198の後に試料液1202が流路1163に供給される場合に、洗浄液1198が流路1163から十分に回収され、試料液1202が洗浄液1198に希釈されず、試料液1202に含まれる抗原と捕捉体1154に含まれる抗体との生化学反応(相互作用)が洗浄液1198の影響を受けにくくなる。2個以上のノズル挿入孔及び先端収容孔が設けられてもよく、液体が流路1163へ供給される場合にノズル1180が挿入されるノズル挿入孔及び先端収容孔が、液体が流路1163から回収される場合にノズル1180が挿入されるノズル挿入孔及び先端収容孔と異なってもよい。
【0082】
望ましくは、液体が流路1163へ供給される場合及び流路1163から回収される場合の両方において先端1252が先端収容孔1170に収容される。これにより、液体の供給及び回収が同じ位置で行われ、送液ポンプ1140の搬送が減少する。ただし、液体が回収される場合に先端1252が先端収容孔1170に収容されることは必要であるが、液体が供給される場合に先端1252が先端収容孔1170に収容されることは必ずしも必要ではなく先端1252が先端収容孔1170から外れて収容されてもよい。
【0083】
(励起光及び反射光の光路)
図1に示すように、励起光1210は、励起光学系1212によりレーザーダイオード1100から入射面1220へ導かれる。励起光1210は、第1のバンドパスフィルター1102、直線偏光フィルター1104、減光フィルター1106、半波長板1108及び整形光学系1112を順次に通過し、ミラー1114に反射される。出射面1224から出射した反射光1280は、光吸収体1130に吸収される。
【0084】
(レーザーダイオード)
レーザーダイオード1100は、概ね単色光であって直線偏光の励起光1210のビームを放射する。レーザーダイオード1100の光量及び波長は安定化される。レーザーダイオード1100が他の形式の光源に置きかえられてもよい。例えば、レーザーダイオード1100が発光ダイオード、水銀灯、レーザーダイオード以外のレーザー等に置きかえられてもよい。光源から放射される光がビームでない場合は、レンズ、ミラー、スリット等により光がビームに変換される。光源から放射される光が単色光でない場合は、回折格子等により光が単色光に変換される。光源から放射される光が直線偏光でない場合は、偏光子等により光が直線偏光に変換される。
【0085】
(第1のバンドパスフィルター)
励起光1210が第1のバンドパスフィルター1102を透過するときに、励起光1210の波長の分布が狭められる。これにより、レーザーダイオード1100から放射される励起光1210の波長の分布が広くても、波長の分布が狭い励起光1210が得られる。レーザーダイオード1100から放射される励起光1210の波長の分布が十分に狭い場合は、第1のバンドパスフィルター1102が省略されてもよい。
【0086】
(直線偏光フィルター)
励起光1210が直線偏光フィルター1104を透過するときに、励起光1210の偏光方向の分布が狭められる。これにより、レーザーダイオード1100から放射される励起光1210の偏光方向の分布が広くても、偏光方向の分布が狭い励起光1210が得られる。レーザーダイオード1100から放射される励起光1210の偏光方向の分布が十分に狭い場合は、直線偏光フィルター1104が省略されてもよい。
【0087】
(減光フィルター)
励起光1210が減光フィルター1106を透過するときに、励起光1210の光量が減少させられる。レーザーダイオード1100から放射される励起光1210の光量が適切である場合は、減光フィルター1106が省略されてもよい。
【0088】
(半波長板及び半波長板駆動機構)
励起光1210が半波長板1108を通過するときに励起光1210の偏光方向が調整される。半波長板1108は、半波長板駆動機構1110により半波長板1108に垂直な回転軸の周りに回転させられる。半波長板駆動機構1110は、ロータリーステッピングモーター等により半波長板1108を自転させる。半波長板1108を通過する励起光1210の偏光方向は、半波長板1108の回転角により調整される。励起光1210の偏光方向は、反射面1222からのエバネッセント波のしみだしが最大になる偏光方向と反射面1222からのエバネッセント波のしみだしがなくなる偏光方向との間に調整されうる。初期状態においては、反射面1222に主にp偏光成分が入射すると予想される回転角に半波長板1108の回転角が設定される。
【0089】
半波長板駆動機構1110が光軸の周りにレーザーダイオード1100を回転させる機構に置きかえられてもよい。偏光方向の最適化が省略される場合は、半波長板駆動機構1110が省略され、半波長板1108が固定されてもよい。偏光方向の最適化が省略されるとともに反射面1222に主にp偏光成分が入射する姿勢でレーザーダイオード1100が保持される場合は、半波長板1108及び半波長板駆動機構1110が省略されてもよい。
【0090】
(整形光学系)
励起光1210が整形光学系1112を通過するときに励起光1210のビームの大きさ、断面形状等がスリット、ズーム光学系等により整形される。
【0091】
(ミラー及びミラー駆動機構)
励起光1210がミラー1114に反射されるときに励起光1210の進行方向がレーザーダイオード1100の光軸方向から入射面1220へ向かう方向へ屈曲させられる。ミラー1114は、ミラー駆動機構1116により励起光1210の光路に垂直な方向に回転させられ、レーザーダイオード1100の光軸方向に移動させられる。
【0092】
ミラー1114及びミラー駆動機構1116により反射面1222への励起光1210の入射角θが調整される場合は、ミラー駆動機構1116によりミラー角度が調整されながら、入射角θの変化による照射位置の移動をキャンセルするようにミラー駆動機構1116によりミラー位置が調整される。これにより、入射角θのみが調整され、反射面1222における励起光1210の照射位置が維持される。
【0093】
ミラー駆動機構1116は、ロータリーステッピングモーター等によりミラー面に平行な回転軸の周りにミラー1114を自転させ、ミラー角度を調整する。また、ミラー駆動機構1116は、リニアステージ等の上においてリニアステッピングモーター等によりレーザーダイオード1100の光軸方向に沿ってミラー1114を移動させ、ミラー位置を調整する。
【0094】
ミラー1114及びミラー駆動機構1116には、簡単な機構により入射角θを調整できるという利点がある。ただし、レーザーダイオード1100及び励起光学系1212の位置及び姿勢を調整する機構により入射角θが調整されてもよい。又は、検査チップ1010の姿勢を調整する機構により入射角θが調整されてもよい。
【0095】
(表面プラズモン励起蛍光の光路)
表面プラズモン励起蛍光1218は、検出光学系1214により捕捉体1154から光電子増倍管1126へ導かれる。表面プラズモン励起蛍光1218は、集光レンズ1118、第2のバンドパスフィルター1120及び結像レンズ1124を順次に通過する。
【0096】
(集光レンズ及び結像レンズ)
集光レンズ1118は、表面プラズモン励起蛍光1218を集光し平行光へ変換する。結像レンズ1124は、表面プラズモン励起蛍光1218を光電子増倍管1126へ結像する。集光レンズ1118及び結像レンズ1124は、共役光学系を構成する。これにより、迷光の影響が抑制される。
【0097】
(第2のバンドパスフィルター及びバンドパスフィルター駆動機構)
第2のバンドパスフィルター1120は、バンドパスフィルター駆動機構1122により集光レンズ1118と結像レンズ1124との間の測定光の光路に挿抜される。「測定光」は、散乱光及び表面プラズモン励起蛍光1218である。
【0098】
表面プラズモン励起蛍光1218の光量が測定される場合は、測定光の光路へ第2のバンドパスフィルター1120が挿入され、第2のバンドパスフィルター1120により励起光1210と同じ波長の光が選択的に減衰させられる。これにより、散乱光が減衰させられ、主に表面プラズモン励起蛍光1218が光電子増倍管1126へ導かれ、計測の感度及び精度が向上する。散乱光の光量が測定される場合は、測定光の光路から第2のバンドパスフィルター1120が抜去される。
【0099】
測定光の光路に減光フィルターが挿抜されてもよい。表面プラズモン励起蛍光1218の光量が測定される場合は、測定光の光路から減光フィルターが抜去される。散乱光の光量が測定される場合は、測定光の光路へ減光フィルターが挿入される。これにより、光電子増倍管1126へ導かれる表面プラズモン励起蛍光1218及び散乱光の光量の差が小さくなり、光量の測定が容易になる。表面プラズモン励起蛍光1218の光量が相対的に高感度の光電子増倍管1126により測定され、散乱光の光量が相対的に低感度のフォトダイオード、フォトトランジスタ、フォトレジスタ等により測定されてもよい。
【0100】
(光電子増倍管)
測定光の光量は光電子増倍管1126により測定される。光電子増倍管1126には感度及び信号対雑音(S/N)比が良好であるという利点がある。ただし、光電子増倍管1126が他の形式の光量センサに置きかえられてもよい。例えば、光電子増倍管1126が冷却電荷結合素子(CCD)カメラ等に置きかえられてもよい。
【0101】
<検査チップ1010の製作>
(各構成部品の準備)
図9のフローチャートは、検査チップ1010の製作手順の一例を示す。検査チップ1010の組み立てにおいては、検査チップ1010を構成する各構成部品、および材料が準備される(ステップS11)。具体的には、プリズム1150、導電体膜1152の材料、捕捉体1154の材料、流路部材1156、蓋部材1158、シール部材1160および撥水剤などがそれぞれ準備される。
【0102】
(撥水膜の形成1)
検査チップ1010を構成する各構成部品の準備がなされると、次に、シール部材1160の主面1161の所定部分に撥水剤が塗工されることにより、撥水膜35a、35b、および35dが形成される(ステップS12)。
【0103】
(複合体の製作)
撥水膜が形成されると、複合体1148が製作される(ステップS13)。具体的には、プリズム1150の反射面1222に、金などの材料が、スパッタリング、蒸着、メッキ等により定着されることによって導電体膜1152が形成され、プリズム1150と導電体膜1152とにより構成された複合体1148が製作される。
【0104】
(捕捉体の固定)
複合体1148が製作されると、導電体膜1152の主面1232のうち流路1163の路面を形成する部分の一部に、捕捉体1154が固定(「定着」)される(ステップS14)。複合体1148に流路部材1156が接合されると、該部分は、流路1163の開口1237によって囲まれた部分となる。捕捉体1154の固定は、生化学反応の反応物である抗体などを含んだ捕捉体1154の材料が表面処理により主面1232に固定されることなどによって行なわれる。
【0105】
(流路部材の接合)
複合体1148に捕捉体1154が固定されると、導電体膜1152の主面1232に流路部材1156が、接着などによって接合される(ステップS15)。流路部材1156の接合によって、開口1237を有する流路1163が導電体膜1152上に形成される。
【0106】
(蓋部材の接合)
捕捉体1154が固定されると、流路部材1156の主面1236に、蓋部材1158の接合面1226が接着などによって接合されることにより、蓋部材1158が接合される(ステップS16)。蓋部材1158の接合により、ノズル挿入孔1164、液溜め孔1166、および溝部1249などが形成される。
【0107】
(ブロッキング処理)
蓋部材が接合されると、ノズル挿入孔1164、流路1163、および液溜め孔1166に対して、スキムミルク、アルブミンなどのタンパク質を含む液体を用いたブロッキング処理が施され(ステップS17)、試料液1202に含まれた検出対象の抗原による非特異吸着の防止が図られる。
【0108】
(撥水膜の形成2)
ブロッキング処理が施されると、蓋部材1158の溝部1249の壁面のうち気体抜き孔1248の壁面を構成する部分に、撥水膜35cが形成される(ステップS18)。ブロッキング処理によって溝部1249の撥水性が損なわれるが、ブロッキング処理の後で撥水膜35cが形成されることによって、溝部1249の撥水性は、気体抜き孔1248から液漏れが生じにくくなるように十分に高められる。
【0109】
(シール部材の接合)
溝部1249に撥水膜35cが形成されると、蓋部材1158のシール面1228にシール部材1160が接合される(ステップS19)。該接合は、シール面1228に接着剤が塗布された後、シール面1228にシール部材1160の一方の主面1161が接合されることなどにより行なわれる。シール部材1160の接合によって、ノズル挿入口1240と液溜め孔1166とが塞がれる。また、開口1250を除き溝部1249も塞がれて気体抜き孔1248が形成され、検査チップ1010の製作が完了する。
【0110】
<計測の手順>
(検査チップ及び試薬チップの準備及び取りつけ)
図10のフローチャートは、計測の手順を示す。計測においては、検査チップ1010及び試薬チップ1012が準備され計測装置1000に取りつけられる(ステップS101)。計測装置1000に取りつけられた検査チップ1010及び試薬チップ1012は、前処理室1800に配置される。試薬チップ1012が準備されるときには、検体容器1182に検体1200が収容される。検体1200は、典型的には、血液等の人間からの採取物であるが、人間以外の生物からの採取物であってもよく、非生物からの採取物であってもよい。
【0111】
(送液ポンプへのノズルの取りつけ)
検査チップ1010及び試薬チップ1012が前処理室1800に配置された後に、送液ポンプ1140にノズル1180が取りつけられる(ステップS102)。このとき、送液ポンプ搬送機構1142が制御部1006に制御されて送液ポンプ1140がノズル1180へ向かって搬送され、ポンプ先端がノズル1180における先端1252とは異なる端部の開口に圧入される。圧入量は、圧入トルク又は送液ポンプ1140の搬送距離により調整される。
【0112】
(先端の検出)
ノズル1180が取りつけられた後に、先端1252が検出される(ステップS103)。このとき、送液ポンプ搬送機構1142が制御部1006に制御され、先端1252が検査チップ1010の上面に押し当てられ、トルクの変化等により先端1252が検査チップ1010の上面に当たっていることが検出される。これにより、検査チップ1010と先端1252との相対的な位置関係が特定され、先端収容孔1170に先端1252を収容することが可能になる。ノズル1180の投影画像から先端1252が検出されてもよい。
【0113】
(検査チップの洗浄)
先端1252が検出された後に、検査チップ1010が洗浄される(ステップS104)。このとき、送液ポンプ搬送機構1142が制御部1006に制御され、ノズル1180が洗浄液溶液1190に挿入され、先端1252が洗浄液1198に浸漬される。先端1252が洗浄液1198に浸漬された状態において、送液ポンプ1140が制御部1006に制御され、ノズル1180内の液体収容空間に洗浄液1198が吸入される。
【0114】
液体収容空間に洗浄液1198が吸入された後に、送液ポンプ搬送機構1142が制御部1006に制御され、ノズル1180が、シール部材1160を破ってノズル挿入孔1164に挿入され、先端1252が先端収容孔1170に収容され、洗浄液1198が検査チップ1010へ送液される。先端1252が先端収容孔1170に収容された状態において、送液ポンプ1140が制御部1006に制御され、液体収容空間から液体出入口を経由して流路1163へ洗浄液1198が供給され、洗浄に必要な時間が経過した後に流路1163から液体出入口を経由して液体収容空間へ洗浄液1198が回収される。このとき、ノズル挿入孔1164と流路1163との境界を超えて先端1252が深く挿入されるので、洗浄液1198は流路1163から略完全に回収される。回収された洗浄液1198は、洗浄液容器1190又は別途設けられた廃液容器へ廃棄される。液体の供給及び回収が2回以上繰り返されてもよい。
【0115】
洗浄液容器1190から検査チップ1010への洗浄液1198の送液が2回以上繰り返されてもよい。検査チップ1010の洗浄により、保存用の試薬等の生化学反応の阻害物が除去され、生化学反応を適切に進行可能な状態になる。洗浄液1198に代えて又は洗浄液1198に加えてバッファー液、処理液等の液体が流路1163へ供給され流路1163から回収されてもよい。
【0116】
検査チップ1010の洗浄が終了すると、送液ポンプ搬送機構1142が制御部1006に制御されることによりノズル1180がノズル挿入孔1164のノズル挿入口1240から抜かれる。ノズル1180がノズル挿入孔1164から抜かれると、シール部材1160には、導入孔1241が形成される。
【0117】
(抗原と抗体との免疫反応)
検査チップ1010が洗浄された後に、抗体と抗原との免疫反応が進行させられる(ステップS105)。
【0118】
このとき、送液ポンプ搬送機構1142及び送液ポンプ1140が制御部1006により制御され、検体容器1182から希釈容器1184へ検体1200が送液され、希釈液容器1186から希釈容器1184へ希釈液1194が送液され、検体1200が希釈される。希釈容器1184には、調製された試料液1202が収容される。試薬チップ1012が計測装置1000に取りつけられる前に計測装置1000の外部で試料液1202が調製されてもよい。検体1200がそのまま試料液1202として使用されてもよい。検体1200の希釈に代えて、又は、検体1200の希釈に加えて、血球分離、試薬の混合等の前処理が行われてもよい。
【0119】
試料液1202が調製された後に、送液ポンプ搬送機構1142が制御部1006に制御され、ノズル1180が希釈容器1184に挿入され、先端1252が試料液1202に浸漬される。先端1252が試料液1202に浸漬された状態において、送液ポンプ1140が制御部1006に制御され、液体収容空間に試料液1202が吸入される。
【0120】
液体収容空間に試料液1202が吸入された後に、送液ポンプ搬送機構1142が制御部1006に制御され、ノズル1180がシール部材1160に形成された導入孔1241に挿入されることによって、再び、ノズル挿入孔1164に挿入される。そして、先端1252が先端収容孔1170に収容され、試料液1202が検査チップ1010へ送液される。先端1252が先端収容孔1170に収容された状態において、送液ポンプ1140が制御部1006に制御され、液体収容空間から液体出入口を経由して流路1163へ試料液1202が供給され、免疫反応に必要な時間が経過した後に流路1163から液体出入口を経由して液体収容空間へ試料液1202が回収される。これにより、試料液1202が捕捉体1154に接触し、捕捉体1154に含まれる抗体と試料液1202に含まれる抗原とが結合する。洗浄液1198は略完全に回収されているので、試料液1202は洗浄液1198に希釈されず、抗体と抗原との免疫反応は洗浄液1198の影響を受けない。ノズル挿入孔1164と流路1163との境界を越えて先端1252が深く挿入されるので、試料液1202は流路1163から略完全に回収される。回収された試料液1202は、希釈容器1184又は別途設けられた廃液容器へ廃棄される。
【0121】
(入射角の測定角への設定)
抗体と抗原との免疫反応の後に、入射角が測定角に設定される(ステップS106)。
【0122】
このとき、検査チップ搬送機構1128が制御部1006により制御され、検査チップ1010が前処理室1800から測定位置1802へロードされる。また、バンドパスフィルター駆動機構1122が制御部1006に制御され、第2のバンドパスフィルター1120が測定光の光路から抜去される。これにより、散乱光が遮蔽されなくなり、散乱光の光量が光電子増倍管1126により測定可能になる。
【0123】
検査チップ1010が測定位置1802へロードされ第2のバンドパスフィルター1120が抜去された状態において、ミラー駆動機構1116が制御部1006に制御され、入射角θが予想される共鳴角の近傍で走査される。入射角θは、全反射条件を満たす。入射角θが走査されている間に、制御部1006が光電子増倍管1126から散乱光の光量の測定結果を取得する。これにより、入射角θと散乱光の光量との関係が得られる。制御部1006は、入射角θと散乱光の光量との関係から散乱光の光量が極大になる入射角θである共鳴角θrを特定し、共鳴角θrから測定が行われる入射角θである測定角θmを決定する。概ね、測定角θmは共鳴角θrに一致するが、何らかの補正が行われてもよい。散乱光の光量が極大になる入射角θに代えて反射光1280の光量が極小になる入射角θが共鳴角θrとされてもよい。ただし、反射光1280の光量が極小になる入射角θと電場の増強度が極大になる入射角θとは若干ずれるので、反射光の光量が極小になる入射角θが共鳴角θrとされる場合は、反射光の光量が極小になる入射角θに微小角が加減されて測定角θmが決定される。測定角θmが決定された後に、ミラー駆動機構1116が制御部1006に制御され、入射角θが測定角θmに設定される。望ましくは、半波長板駆動機構1110が制御部1006に制御され、励起光1210の偏光方向が最適化される。
【0124】
(抗原と標識抗体との免疫反応)
入射角θが測定角θmに設定された後に、抗原と標識抗体との免疫反応が進行させられる(ステップS107)。
【0125】
このとき、送液ポンプ搬送機構1142が制御部1006に制御され、ノズル1180が標識抗体液容器1188に挿入され、先端1252が標識抗体液1196に浸漬される。先端1252が標識抗体液1196に浸漬された状態において、送液ポンプ1140が制御部1006に制御され、液体収容空間に標識抗体液1196が吸入される。
【0126】
液体収容空間に標識抗体液1196が吸入された後に、送液ポンプ搬送機構1142が制御部1006に制御され、ノズル1180がシール部材1160に形成された導入孔1241に挿入されることによって、再び、ノズル挿入孔1164に挿入される。そして、先端1252が先端収容孔1170に収容され、標識抗体液1196が検査チップ1010へ送液される。先端1252が先端収容孔1170に収容された状態において、送液ポンプ1140が制御部1006に制御され、液体収容空間から液体出入口を経由して流路1163へ標識抗体液1196が供給される。これにより、標識抗体液1196が捕捉体1154に接触し、標識抗体液1196に含まれる標識抗体と捕捉体1154に含まれる抗体とが結合する。洗浄液1198及び試料液1202は略完全に回収されているので、標識抗体液1196は洗浄液1198及び試料液1202に希釈されず、抗原と標識抗体との免疫反応は洗浄液1198及び試料液1202の影響を受けない。入射角θが測定角θmに設定される前に抗原と標識抗体との免疫反応が進行させられてもよい。
【0127】
(表面プラズモン励起蛍光の光量の測定)
抗原と標識抗体との免疫反応の後に、表面プラズモン励起蛍光1218の光量が測定される(ステップS108)。このとき、バンドパスフィルター駆動機構1122が制御部1006に制御され、第2のバンドパスフィルター1120が測定光の光路へ挿入される。また、制御部1006は、光電子増倍管1126から表面プラズモン励起蛍光1218の光量の測定結果を取得する。表面プラズモン励起蛍光1218の光量の測定結果は、抗原の有無、抗原の捕捉量等に換算され、表示部1008に表示される。
【0128】
(検査チップの取り外し及び廃棄)
表面プラズモン励起蛍光1218の光量が測定されると、検査チップ1010が計測装置1000から取り外されて廃棄される(ステップS109)。検査チップ1010においては、流路構造体1050のシール面1228に接合されたシール部材の一方の主面1161のうち第1領域1310によってノズル挿入孔1164のノズル挿入口1240が塞がれている。そして、第1領域1310のうち、少なくとも導入孔1241を内包する部分には撥水膜35aが形成されている。従って、検査チップ1010内部の液体の導入孔1241からの漏れが生じにくくなっている。また、同様に、撥水膜35b〜35dの形成によって、気体抜き孔1248からの液漏れが生じにくくなっている。
【0129】
ここで、検査チップ1010の取り外し及び廃棄の際には、検査チップ1010の姿勢は、例えば、シール部材1160の主面1162が地面に対向する姿勢にされる場合があり得る。しかしながら、検査チップ1010においては、上述した撥水膜の形成によって導入孔1241または気体抜き孔1248から検査チップ1010の外部への試料液1202等の液漏れが生じにくくなっている。従って、検査終了後の検査チップ1010におけるコンタミネーション等のリスクの低減処理に起因した検査コストの増大と、検査時間の長期化とが抑制され得る。
【0130】
また、検査チップ1010では、導入孔1241および気体抜き孔1248の開口1251のそれぞれのサイズは、検査チップ1010の姿勢に関わらず検査チップ1010内部の試料液1202等がこれらの孔から検査チップ1010の外部に漏れ出ないサイズに形成されている。従って、検査コストの増大と、検査時間の長期化とがさらに抑制され得る。
【0131】
(送液ポンプの手動搬送等)
送液ポンプ1140は、望ましくは、制御部1006に制御される送液ポンプ搬送機構1142により自動搬送されるが、送液ポンプ1140の搬送の全部又は一部が手動で行われてもよい。送液ポンプ1140が手動搬送される場合も、上記の検査チップ1010の構造は、洗浄液1198の略完全な回収に有用である。
【0132】
送液ポンプ1140が送液元と送液先とを往復搬送されることも必須ではない。すなわち、送液元から送液ポンプ1140へ液体がチューブ等により送液され、送液ポンプ1140が専ら上下に昇降されてもよい。
【0133】
本発明は詳細に示され記述されたが、上記の記述は全ての態様において例示であって限定的ではない。したがって、本発明は、その発明の範囲内において、実施の形態を適宜、変形、省略することが可能である。
【符号の説明】
【0134】
1000 計測装置
1010 検査チップ(交換製品)
1215 反応進行装置
1163 流路(反応流路)
1237 開口(第5開口)
1235 開口(第6開口)
1154 捕捉体(反応物含有体)
1152 導電体膜
1150 プリズム(誘電体媒体)
1148 複合体(閉塞物)
1230 主面(第6主面)
1232 主面(第5主面)
1156 流路部材
1158 蓋部材
1160 シール部材
1161 主面(第2主面)
1162 主面(第1主面)
1234 主面(第4主面)
1236 主面(第3主面)
1164 ノズル挿入孔
1240 ノズル挿入口(第1開口)
1241 導入孔
1291 開口(第2開口)
1166 液溜め孔
1242 開口(第3開口)
1248 気体抜き孔
1292 開口(第4開口)
35a〜35d 撥水膜
1180 ノズル
1310 第1領域
1320 第2領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生化学反応を進行させる反応進行装置用の交換製品であって、
路面に前記生化学反応の反応物を含む反応物含有体が定着された反応流路と、前記反応流路内に試料液を導くためのノズルが挿入されるノズル挿入孔とを有する流路構造体と、
第1の主面と第2の主面とを有し、前記流路構造体の表面に前記第2の主面が接合されたシール部材と、
を備え、
前記ノズル挿入孔は、前記流路構造体の前記表面に第1の開口を有するとともに前記反応流路の壁面に第2の開口を有し、
前記シール部材の前記第2の主面の第1領域が、前記ノズル挿入孔の前記第1の開口を塞いでおり、
前記シール部材の前記第1領域のうち少なくとも一部に第1撥水膜が形成されていることを特徴とする交換製品。
【請求項2】
請求項1に記載された交換製品であって、
前記流路構造体は、
前記流路構造体の前記表面に第3の開口を有するとともに前記反応流路の壁面に第4の開口を有し、前記反応流路からあふれた前記試料液を貯留可能な液溜め孔と、
前記流路構造体の前記表面に形成され、一端が前記液溜め孔の側面に至る溝部と、
をさらに有し、
前記シール部材の前記第2の主面の第2領域が、前記溝部の少なくとも一部と、前記液溜め孔の前記第3の開口とをそれぞれ塞ぐことによって、前記反応流路に前記試料液が導入されるときに前記液溜め孔内の気体を当該交換製品の外部へ排出可能な気体抜き孔が形成されており、
前記シール部材の前記第2領域のうち、少なくとも前記液溜め孔の前記第3開口の一部を塞ぐ部分に第2撥水膜が形成されているとともに、
前記第3開口の前記一部は、前記第3開口のうち前記溝部側の部分であることを特徴とする交換製品。
【請求項3】
請求項2に記載された交換製品であって、
前記流路構造体においては、
前記溝部の壁面のうち前記気体抜き孔の壁面を構成する部分に第3撥水膜が形成されていることを特徴とする交換製品。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載された交換製品であって、
前記シール部材においては、
前記第2の主面のうち前記気体抜き孔の壁面を構成する部分に第4撥水膜が形成されていることを特徴とする交換製品。
【請求項5】
請求項2から請求項4の何れか1つの請求項に記載された交換製品であって、
前記気体抜き孔の孔断面のサイズは、
前記反応流路に導入された試料液が当該交換製品の姿勢に関わらず前記気体抜き孔から当該交換製品の外部に漏れ出ないサイズであることを特徴とする交換製品。
【請求項6】
請求項1から請求項5の何れか1つの請求項に記載された交換製品であって、
前記シール部材は、
前記第2の主面の前記第1領域のうち前記第1撥水膜が形成された部分に、該シール部材を貫通する導入孔を有し、
前記導入孔のサイズは、
前記反応流路に導入された試料液が当該交換製品の姿勢に関わらず前記導入孔から当該交換製品の外部に漏れ出ないサイズであることを特徴とする交換製品。
【請求項7】
請求項1から請求項6の何れか1つの請求項に記載された交換製品であって、
前記流路構造体は、
第3の主面及び第4の主面を有し、前記反応流路が形成され、前記反応流路が前記第3の主面と前記第4の主面とに第5の開口と第6の開口とをそれぞれ有する流路部材と、
前記流路部材の前記第3の主面に接合され、前記ノズル挿入孔が形成された蓋部材と、
前記流路部材の前記第4の主面に接合され、前記流路部材の前記第6の開口を閉塞する閉塞物と、
を備えることを特徴とする交換製品。
【請求項8】
請求項7に記載された交換製品であって、
前記閉塞物は、
光反射面を有する光透過性の誘電体媒体と、
前記流路部材と前記光反射面との間に介挿された導電体膜と、
を備えることを特徴とする交換製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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