説明

反芻動物用の飼料添加剤およびその含有飼料

【課題】反芻動物のルーメン発酵を改善し、温暖化ガスの発生抑制に貢献し、更には飼料効率を向上させることを課題とする。
【解決手段】マンノシルエリスリトールリピッド及び/またはラムノリピッドを含有する、反芻動物用飼料添加剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖脂質を含有する飼料添加剤、飼料及びこれらを用いた反芻動物の飼育方法に関する。
【背景技術】
【0002】
牛や羊などの反芻家畜はルーメン内で微生物によって飼料を消化・発酵させ、その発酵生産物を利用して生きている。そのため、ルーメンからのメタン発生は、飼料のエネルギー効率の損失となる。更には、メタンは地球温暖化に影響を及ぼす温暖化ガスであることから、反芻動物のルーメンにおけるメタン生成を減らすことは重要である。
ルーメン内のメタン生成菌は水素を利用して二酸化炭素を還元してメタンを生成している。メタンの温暖化に対する寄与率は二酸化炭素に次いで高く、総メタン放出量のうち、反芻家畜から放出されるメタンは15〜20%を占めるとされる。
【0003】
抗生物質を家畜飼料に少量添加することにより、家畜の成長が促進することが1940年代に発見された。それ以来、家畜の成長を促進して飼料効率を上げる手段として、家畜の飼料に抗生物質を添加することが広く行われてきた。
抗生物質は、(1)家畜の病原菌感染の予防、(2)代謝の改善、(3)腸内の有害菌の増殖抑制などの効果により成長促進作用を表すとされているが、詳細は依然不明である。その一方、飼料に抗生物質を混ぜることにより結果として抗生物質を広く環境にばら撒くこととなり、そのため発生する抗生物質耐性菌の出現が社会問題となっている。近年、抗生物質の飼料への添加が厳しく規制されるようになってきており、欧州では2006年1月までに成長促進を目的とした抗生物質の使用が禁止されている。また、生産者からも抗生物質を使用しない畜産物に対する要望は強く、抗生物質の代替物のニーズは大きくなってきている。
【0004】
抗生物質であるモネンシン等のイオノフォア類は、反芻動物用の飼料に広く使用されている。モネンシンは、ルーメン微生物に対して選択的な抑制効果を示し、結果としてメタン生成を低減させ、プロピオン酸生成を促進する働きがある。プロピオン酸は他の揮発性脂肪酸に比べてATP生成効率が高いことから、プロピオン酸の生成促進により飼料効率が改善される。
【0005】
このような背景から反芻動物用飼料に添加するモネンシン等の代替物の開発が望まれている。代替物としては、植物抽出油(非特許文献1)、抗乳酸生成菌ワクチン(非特許文献2)、抗乳酸生成菌鶏卵抗体(非特許文献3)などが研究されている。しかしながら、これらの技術は効果が一定しない、飼料としての登録が認められないなどの課題が残されており実用化には至っていない。
【0006】
マンノシルエリスリトールリピッド、ラムノリピッドに代表される糖脂質には界面活性作用をはじめとする様々な性質があり、以下に述べるような多様な用途への展開が図られている。特許文献1には天然繊維の処理剤としての利用方法が示されている。また、特許文献2には有害脂溶性有機化合物を含む被処理物から前記有機化合物を分離する方法が示されている。更には特許文献3に高密度冷熱蓄熱輸送用組成物への適用が示されている。しかし、畜産分野に於ける適用についての報告は無い。
【0007】
【特許文献1】特開2002-105854号公報
【特許文献2】特開2001-327803号公報
【特許文献3】特開2001-131538号公報
【非特許文献1】Benchaar et al., Can.J.Anim.Sci. 86, 91-96 (2006)
【非特許文献2】Shu et al., FEMS Immunology & Medical Microbiology, 26(2), 153-158 (1999)
【非特許文献3】DiLorenzo et al., J.Anim.Sci., 84,2178-2185 (2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、反芻動物のルーメン発酵を改善し、温暖化ガスの発生抑制に貢献し、更には飼料効率を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)及びラムノリピッド(RL)等の糖脂質が、ルーメンにおいてメタン生成を抑制し、かつ、プロピオン酸生成を促進することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)マンノシルエリスリトールリピッド及び/またはラムノリピッドを含有する、反芻動物用飼料添加剤。
(2)マンノシルエリスリトールリピッドがPseudozyma属に属する酵母から得られることを特徴とする、(1)記載の飼料添加剤。
(3)(1)又は(2)のいずれか一項に記載の飼料添加剤を含む、飼料。
(4)(3)に記載の飼料を反芻動物に摂取させることを特徴とする、反芻動物の飼育方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の飼料添加剤を飼料に混合し、反芻動物に摂取させることにより、メタン生成を抑制し、かつ、プロピオン酸生成を促進することができる。本発明の飼料添加剤を含有する飼料は、牛、ヤギ、羊などの反芻動物の飼育に好適に用いることができる。また、本発明の飼料添加剤は、生分解性が高く、生体及び環境に対する安全性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の飼料添加剤は、ルーメンにおけるメタン生成抑制効果およびプロピオン酸生成促進効果を有する糖脂質、すなわち、マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)及び/又はラムノリピッド(RL)を含有することを特徴とする。
【0013】
MELは、糖脂質型のバイオサーファクタントの一種で、下記一般式(1)で表される。
【0014】
【化1】

【0015】
一般式(1)において、R1及びR2は、それぞれ独立して、炭素数3〜25の脂肪族アシル基である。特に、R1及びR2は、それぞれ独立して、炭素数5〜14の脂肪族アシル基であることが好ましい。また、R1及びR2は、それぞれ独立して、炭素数5〜13の脂肪族アシル基であってもよい。これらの脂肪族アシル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよく、飽和であっても不飽和であってもよい。また、R3及びR4は、一方がアセチル基であり、他方が水素であるか、両方がアセチル基である。
なお、R3及びR4が共にアセチル基であるものはMEL−A、R3が水素であり、R4がアセチル基であるものはMEL−B、R3がアセチル基であり、R4が水素であるものはMEL−Cと呼ばれる。
また、本発明の飼料添加剤におけるMELは、一種のみであっても、複数種の混合物であってもよい。
【0016】
本発明において用いるMELは、菌類、特に酵母類などの微生物を培養して得ることができる。例えば、シュードザイマ(Pseudozyma)属、カンジダ(Candida)属、又はクルツマノミセス(Kurtzmanomyces)属に属する酵母等を用いることができる。また、Shizonella melanogrammaを用いることもできる。この中でも、シュードザイマ属に属する酵母を用いることが好ましい。シュードザイマ属に属する酵母としては、Pseudozyma aphidis、Pseudozyma antarctica等が挙げられる。具体的には、例えば、Pseudozyma aphidis NBRC 10182菌株、Peudozyma Antarctica NBRC 10260菌株、Peudozyma Antarctica NBRC 10736菌株を用いることができる。
NBRC 10182菌株、NBRC 10260菌株、NBRC 10736菌株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構の生物遺伝資源部門(NBRC)に登録されている株である。
また、MELは、合成したものや市販品を用いることもできる。
【0017】
RLは、糖脂質型のバイオサーファクタントの一種で、ラムノースと脂肪酸が結合した構造を有している。本発明において用いるRLは特に制限されないが、例えば下記一般式(2)又は一般式(3)で表される構造を有するものを用いることができる。
【0018】
【化2】

【0019】
一般式(2)において、R5は、水素原子、−CH2−〔CH(OH)〕m−CH2(OH)、−(XO)nH、又は炭素数1〜36のアルキル基、アルケニル基若しくは脂肪族アシル基を示す。ここで、アルキル基、アルケニル基は直鎖状であっても分岐状であってもよく、脂肪族アシル基は直鎖状であっても分岐状であってもよく、飽和であっても不飽和であってもよい。また、mは0〜8の整数であり、Xはエチレン、プロピレン及びブチレンの少なくとも一種を示し、nは1〜1000の整数である。R7は、水素原子又は2−デセノイル基である。R5とR7は独立している。
【0020】
【化3】

【0021】
一般式(3)において、R6は、水素原子、−CH2−〔CH(OH)〕m−CH2(OH)、−(XO)nH、又は炭素数1〜36のアルキル基、アルケニル基若しくは脂肪族アシル基を示す。ここで、アルキル基、アルケニル基は直鎖状であっても分岐状であってもよく、脂肪族アシル基は直鎖状であっても分岐状であってもよく、飽和であっても不飽和であってもよい。また、mは0〜8の整数であり、Xはエチレン、プロピレン及びブチレンの少なくとも一種を示し、nは1〜1000の整数である。R8は、水素原子又は2−デセノイル基である。R6とR8は独立している。
また、本発明の飼料添加剤におけるRLは、一種のみであっても、複数種の混合物であってもよい。
【0022】
本発明において用いるRLは、細菌を培養して得ることができる。例えば、シュードモナス(Pseudomonas)属、又はバークホルデリア(Burkholderia)属に属する細菌等を用いることができる。この中でも、シュードモナス属に属する細菌を用いることが好ましい。シュードモナス属に属する細菌としては、Pseudomonas aeruginosa、Pseudomonas chlororaphis等が挙げられるが、Pseudomonas sp. を用いることもできる。バークホルデリア属に属する細菌としては、Burkholderia pseudomalle等が挙げられる。この中でも、特に
Pseudomonas aeruginosaを用いることが好ましい。具体的には、例えばPseudomonas aeruginosa NBRC 3924菌株、Pseudomonas sp. DSM 2874菌株等を用いることができる。
NBRC 3924菌株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構の生物遺伝資源部門(NBRC)に登録されている菌株である。
DSM 2874菌株は、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)に登録されている菌株である。
また、RLは、合成したものや市販品を用いることもできる。
【0023】
上述した微生物を用いてMEL及びRLを生産させるためには、以下のような方法を用いることができる。
MELを生産させるためには、天然油脂類、脂肪酸、アルコール、ケトン類、炭化水素類、n−アルカン等の原料のうち、用いる微生物に適した原料を選択し、その微生物の培養に通常用いられる培養温度を用いて培養すればよい。上記原料として好ましいのは、天然油脂類であり、例えば、大豆油、ひまわり油、ココナッツ油、綿実油、コーン油、パーム油等を用いることができ、この中でも特に大豆油が好ましく用いられる。
また、RLを生産させるためには、天然油脂類、脂肪酸、アルコール、ケトン類、炭化水素類、n−アルカン、糖類等の原料のうち、用いる微生物に適した原料を選択し、その微生物の培養に通常用いられる培養温度を用いて培養すればよい。このような方法として、例えば、特開平10−75796号公報に記載の方法を用いることができる。
何れの場合も、培養方法は特に制限されず、静置培養、往復動式振とう培養、回転動式振とう培養、ジャーファーメンター培養などによる液体培養法や固体培養法を用いることができる。
【0024】
Pseudozyma属に属する酵母を用いて、MELを生産する場合には、通常Pseudozyma属に属する酵母の培養に用いられる培地に、大豆油等の天然油脂類を添加し、20℃〜35℃で培養すればよい。
また、Pseudomonas属に属する細菌を用いて、RLを生産する場合には、通常Pseudomonas属に属する細菌の培養に用いられる培地に、大豆油等の天然油脂類、グルコース等の糖類、エタノール等のアルコール類を添加し、20〜40℃で培養すればよい。
【0025】
また、微生物を用いてMEL及び/又はRLを生産する場合は、得られた培養物を精製し、MEL及び/又はRLの精製品を用いてもよいし、培養物を遠心分離し、MEL及び/又はRLを含む画分を用いてもよい。また、培養物をそのまま用いてもよく、例えば、培養液や固体培養物を乾燥・粉砕したものなどを用いることができる。
【0026】
本発明の飼料添加剤は、MEL及びRLの何れかを含んでいてもよく、これらの両方を含んでいてもよい。また、MEL及び/又はRLの含有量は、特に制限されないが、効果を十分に得る観点からは、10質量ppm以上であることが好ましい。
【0027】
また、本発明の飼料添加剤は、MEL及び/又はRLの他に、反芻動物の成長促進に有効な成分、栄養補助成分、保存安定性を高める成分等の任意成分をさらに含むものであってもよい。このような任意成分としては、例えば、エンテロコッカス類、バチルス類、ビフィズス菌類等の生菌剤;アミラーゼ、リパーゼ等の酵素;L−アスコルビン酸、塩化コリン、イノシトール、葉酸等のビタミン;塩化カリウム、クエン酸鉄、酸化マグネシウム、リン酸塩類等のミネラル、DL−アラニン、DL−メチオニン、塩酸L−リジン等のアミノ酸;フマル酸、酪酸、乳酸、酢酸及びそれらの塩類等の有機酸;エトキシキン、ジブチルヒドロキシトルエン等の抗酸化剤;プロピオン酸カルシウム等の防カビ剤;CMC、カゼインナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム等の粘結剤;グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等の乳化剤;アスタキサンチン、カンタキサンチン等の色素
;各種エステル、エーテル、ケトン類等の着香料が挙げられる。
【0028】
本発明の飼料添加剤の剤形は特に制限されず、例えば粉末、液体、錠剤など任意の形態とすることができる。本発明の飼料添加剤は、MEL及び/又はRL、並びに必要に応じて任意成分を混合し、製剤化することにより製造することができる。
【0029】
本発明の飼料添加剤は、反芻動物用の飼料、ペットフード、ペット用サプリメント(以下、飼料という。)に用いられる他の飼料成分と混合して、反芻動物用の飼料とすることができる。飼料の種類や、MEL又はRL以外の成分は、特に制限されない。
【0030】
本発明の飼料におけるMEL及び/又はRLの含有量は、与える動物の種類、健康状態、飼料の種類、飼料成分、年齢、性別、体重等により適宜調節され、特に制限されないが、乾物質量当たり、効果やコストの面から、10質量ppm〜10000質量ppmであることが好ましい。
【0031】
本発明の飼料は、飼料添加剤をそのまま飼料成分に添加し、混合して製造することができる。この際、粉末状、固形状の飼料添加剤を用いる場合は、混合を容易にするために飼料添加剤を液状又はゲル状の形態にしてもよい。この場合は、水、大豆油、菜種油、コーン油などの植物油、液体動物油、ポリビニルアルコールやポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸などの水溶性高分子化合物を液体担体として用いることができる。また、飼料中におけるMEL及び/又はRLの均一性を保つために、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、カゼインナトリウム、アラビアゴム、グアーガム、タマリンド種子多糖類などの水溶性多糖類を配合することも好ましい。
【0032】
本発明の飼料を摂取させる動物の種類は、反芻動物である。例えば、本発明の飼料は、牛、ヤギ、羊などの飼育に好適である。摂取させる飼料の量は、動物の種類、体重、年齢、性別、健康状態、飼料の成分などにより適宜調節することができる。
飼料を摂取させる方法及び飼育する方法は、動物の種類に応じて、通常用いられる方法をとることができる。
【実施例】
【0033】
<1>マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)の生産
(1)シュードザイマ属酵母の培養
(前培養)
ポテトデキストロース培地10mlを試験管に入れ、シリコン栓をした。オートクレーブ滅菌後、Psuedozyma aphidis NBRC 10182を植菌し、30℃にて24時間振とう培養した。
(本培養)
イオン交換水、大豆油 8%、NaNO3 0.2%、KH2PO4 0.02%、MgSO4・7H2O 0.02%、yeast extract 0.1% からなる培地50mlを500mlErlenmeyerフラスコに入れ、シリコン栓をしてオートクレーブにて滅菌した。其処に先述したPsuedozyma aphidis NBRC 10182の前培養液を加え、30℃/220rpmにて10日間振とう培養を行った。
【0034】
(2)MELの精製
(精製)
上記培養液50mlに1N HClを加えpH3に調整した後、遠心分離により上清を取り除いた。沈殿部に純水50mlを加え撹拌した後、もう一度遠心分離操作を行い、沈殿部を回収した。沈殿部を10mlのMeOHに溶解させた後、更に10mlのヘキサンを加え洗浄を行った(3回)。洗浄後のMeOH溶液に水10mlを加え、そこからクロロホルム10mlにてMELの抽出操作を行った(3回)。クロロホルム層を合せて溶媒を留去し、粗
精製物を得た。アンスロン反応より純度90%。
(標準サンプル)
上記粗精製物1gを少量のクロロホルムに溶解し、シリカゲルカラムにて分画した。クロロホルム500ml、クロロホルム/酢酸エチル=4/1 500ml、アセトン 500ml、メタノール 500mlを順次流して分画した。
各画分を薄層クロマトグラフィーにて展開し(展開溶媒CHCl3/MeOH/水 : 65/15/2)、Agric. Biol. Chem., 54(1),31-36, 1990に記述されたRf.値の分画(各種MELが示すRf値、Rf = 0.52, 0.58, 0.63, 0.77)を選別し、それらをまとめて標準サンプルとした。
(純度測定:アンスロン反応)
酢酸エチルにより適度な濃度に希釈した粗生成物を試験管に入れ、溶媒を留去した。そこにアンスロン試薬(0.2%アンスロン75%硫酸液)5mlを加え、沸騰水中で10分間反応させ、620nmの吸収を測定した。標準サンプルとの比較により、粗精製物の純度算出を行った。
【0035】
<2>ラムノリピッド(RL)
Bio Future Ltd.社製 BFL Biosurfactant(ラムノリピッド)を乾燥して使用した。
【0036】
<3>ラムノリピッド(RL)およびマンノシルエリスリトールリピッド(MEL)の、ルーメンにおけるガス生成および揮発性脂肪酸生成に対する影響
(1)試料
前記したラムノリピッド(RL)およびマンノシルエリスリトールリピッド(MEL)を供試した。培養イノキュラムには北海道大学北方生物圏フィールド科学センター生物生産研究農場所有のホルスタイン種雌牛(ルーメンカニューレ装着)から採取したルーメン液(4重ガーゼろ液)を用いた。イノキュラムはMcDougalの人工唾液(pH 6.8)で2倍に希釈して使用した。
(2)培養
試験培養液濃度をRLで500μg/ml、MELで500μg/mlとして実施した。RL、MEL各0.05gをそれぞれ1mlのエタノールに溶解し、各100μlをハンゲートチューブに添加した。数時間放置することでエタノールを揮散させた。ここに培養基質としてコーンスターチ0.15g、配合飼料粉末0.025gおよびオーチャードグラス乾草粉末0.025gを加えた。上記の希釈ルーメン液を10ml加え、ヘッドスペースに窒素ガスを吹き込みながらブチルゴムキャップとプラスチックスクリューキャップを施し、ウォーターバスにて嫌気培養した(37℃、18時間)。
処理は無添加(エタノールのみ:対照区)、RL添加(RL区)およびMEL添加(MEL区)とし、それぞれ5連の培養とした。
(3)分析
メタン、水素、二酸化炭素はTCDガスクロマトグラフィーにて分析した。総揮発性脂肪酸(VFA)濃度と組成はFIDガスクロマトグラフィーで測定した。
(4)結果
(i)ガス生成
培養18時間後の総ガス量は、RL区およびMEL区とも減少した(各々51%および48%の減)。このうちメタンの減少はとくに顕著で、RL区およびMEL区で各々96%および99%の減少が認められ、メタン生成はほぼなくなった。二酸化炭素はRL区およびMEL区で各々37%および35%減少した。総ガスにしめる比率でみると、メタンでは対照区の23.7%にくらべRL区で2.1%へ、MEL区で0.3%に低下した。
結果を表1および図1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
(ii)揮発性脂肪酸(VFA)の生成
総VFA濃度は処理による影響はなかったが、各VFA産生パターンは大きく変化した。すなわち、酢酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸およびイソ吉草酸濃度はRL添加およびMEL添加により有意に低下した。一方、プロピオン酸濃度は顕著に増加した(RL区で85%、MEL区で53%増)。各酸のモル比率はプロピオン酸が増加(25.8%が46.7%および41.1%へ)、酢酸と酪酸が低下(各々60.9%が49.7%および53.4%へ、10.6%が2.0%および5.0%へ)したがいずれも有意であった。とくにプロピオン酸比率は通常のルーメンでは見られないほどの上昇をみた。
結果を表2および図2に示す。
【0039】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0040】
MEL及びRLを反芻動物に摂取させて飼育することにより、メタン生成を抑制し、かつ、プロピオン酸生成を促進することができ、その結果、反芻動物の成長を促進させ、飼料効率を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1は、RL及びMELのルーメンにおけるガスの生成量及び組成に対する影響を示す。
【図2】図2は、RL及びMELのルーメンにおける揮発性脂肪酸の濃度および比率に対する影響を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンノシルエリスリトールリピッド及び/またはラムノリピッドを含有する、反芻動物用飼料添加剤。
【請求項2】
マンノシルエリスリトールリピッドがPseudozyma属に属する酵母から得られることを特徴とする、請求項1記載の飼料添加剤。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれか一項に記載の飼料添加剤を含む、飼料。
【請求項4】
請求項3に記載の飼料を反芻動物に摂取させることを特徴とする、反芻動物の飼育方法。

【図1】
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【図2】
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