説明

反芻動物用飼料

【課題】モネンシンナトリウム等薬剤によらず天然抽出物により反芻動物の鼓脹症を予防すること。
【解決手段】ヒノキチオール0.0001〜0.05重量%並びにクエン酸、酒石酸及び乳酸からなる群から選ばれた少なくとも1種類の有機酸0.01〜5重量%を含有することを特徴とする反芻動物用飼料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反芻動物用飼料に関する。さらに詳しくは、反芻動物の第一胃内の発酵を調整して鼓脹症を予防するための飼料及びこの飼料を用いる反芻動物の飼育方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鼓脹症は、牛やめん羊等の反芻動物で起こる疾病で、第一胃発酵で生じたガスが排出困難となるのが原因の一つとして考えられている。鼓脹症に罹患した反芻動物は、第一胃の容積を異常に肥大させ、重症の場合は死に至る。鼓脹症は、主に育成・肥育期で発症するが、泌乳期でも発症するケースがあり、生産性を制限する主要な疾病の一つである。
【0003】
鼓脹症発生のメカニズムとしては、第一胃の常在菌でグラム陽性菌であるStreptcoccus bovisが夾膜化し、細胞外に多糖類を蓄積して第一胃液の粘度を高め、泡沫によりガスの排出を阻害することが原因と考えられ、Streptcoccus bovisが原因菌とされている。
【0004】
鼓脹症発生に関わる要因としては、唾液組成(ムチンの分泌不足)、粒度の細かい飼料、粗飼料の使用割合が少ない、マメ科粗飼料の多給、大豆粕の過剰給与、炭水化物発酵の早い穀類(大麦等)の過剰給与、食塩の添加量等が考えられている。しかし、栄養充足等の面でこれら条件を調整するのが難しい場合がある。
【0005】
そこで、鼓脹症の治療には、消泡剤(消泡シリコーン等)等からなる製剤あるいは予防には抗菌性物質を使用するケースがある。主にグラム陽性菌に作用する抗菌性物質であるモネンシンナトリウム、サリノマイシン、ペニシリン等は、鼓脹症の発症を予防する効果が知られている。特にイオノフォアと呼ばれる細胞膜の透過性を亢進させて作用するモネンシンナトリウム、サリノマイシンは、高い効果があることが認知されている。
【0006】
モネンシンナトリウムについては、成長促進目的で3カ月齢以上の肥育牛に対しての使用が我が国でも認可されており、モネンシンナトリウム添加飼料が市場に出回っている状況である。しかし、国際的にみるとEUでは一般的に、抗生物質の長期使用による家畜の腸管内の耐性菌出現がヒトに与える影響は無視できない懸念があるとして、既に2006年より、従来は認めてきた成長促進目的での抗生物質(モネンシンナトリウムを含む)の使用を原則禁止としており、無薬志向の流れが生じてきている。その一方で、鼓脹症対策として効果の認められる天然物は報告が少ない。
【0007】
ヒノキチオールはヒバ油の主成分の一つであり、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、連鎖球菌(Streptococcus faecalis)、大腸菌(Escherchia coli)、緑膿菌(Pseudomonas aerginosa)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、枯草菌(Bacillus subtilis)、クラミジア(Chlamydia trachomatis)、黄コウジカビ(Aspergillus oryzae)、リンゴ腐乱病菌(Valsa ceratosperma)、灰色ブドウカビ菌(Botrytis cimerea)等に対する抗菌性がMIC(minimum inhibitory concentration 、最小阻止濃度)として25〜100μg/mlであり、幅広い抗菌性を持つことが知られている。また、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)に対する抗菌メカニズムについて調べられた報告では、炎症に関与するメタロプロテアーゼの一種carboxypeptidase Aの活性を阻害することが確認されており、ヒノキチオールの作用機序の一つと考えられている。さらに、in vitroでは、ヒノキチオールの銅キレート型では、イヌ腎臓由来細胞MDCKのインフルエンザウィルス感染後のアポトーシスを抑制し、インフルエンザウィルスの増殖・放出の抑制効果が期待されている。
【0008】
ヒノキチオールを家畜用飼料に添加して食中毒菌を殺菌することは、すでに知られている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、反芻動物の鼓脹症対策として用いられた例は報告されていない。
【特許文献1】特開2000−342236号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、モネンシン等の薬剤によらないで、天然物により反芻動物の第一胃液の性状を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明らは、ヒノキチオール0.0001〜0.05重量%並びにクエン酸、酒石酸及び乳酸からなる群から選ばれた少なくとも1種類の有機酸0.01〜5重量%を含有することを特徴とする反芻動物用飼料により、前記の課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。ヒノキチオールが0.0001重量%未満では、鼓脹症予防効果が十分でなくて、ヒノキチオール0.05重量%を超えてもそれ以上の鼓脹症予防効果の増大がみられず、有機酸が重量%0.01未満では、鼓脹症予防効果が十分でなくて、有機酸が5重量%を超えてもそれ以上の鼓脹症予防効果の増大がみられない。
【0011】
本発明の反芻動物用飼料の原料は、トウモロコシやマイロ等の穀類、大豆粕や菜種粕等の植物性油粕類、フスマやコーングルテンフィードやDDGS(とうもろこし蒸留粕)等の糟糠類、脱脂粉乳やホエー濃縮蛋白質等の動物質性飼料、脂肪酸カルシウム等の油脂類、カルシウム類や酵母類等のその他の原料、ビタミン類等の飼料添加物類等通常の反芻動物用飼料あるいは反芻動物用混合飼料(通称プレミックス)として使用される原料を組み合わせて用いてよい。
【0012】
本発明の反芻動物用飼料には、ヒノキチオール又はヒノキチオールを主成分とするヒバ抽出物を配合する。
ヒバ抽出物とは、ヒノキ科ヒバの樹木(例:台湾ヒノキ、青森ヒバ、木曾ヒバ、イブキ、ビャクシン等)より抽出したヒバ油及びその主成分であるヒノキチオールあるいは副成分であるβ−ドラブリン、α−ツヤプシリン、γ−ツヤプシリン、ヨシキソール等を指す。ヒバ油中の有効主成分ヒノキチオールはβ−ツヤプシリンともいい、分子式はC1012で芳香族化合物の一種である。通常、ヒバの端材から抽出したヒバ油から油分を除去しヘキサン等で再結晶させて精製する。また、クロマトグラフィーを使用して分離・精製しても良い。ヒバ抽出物は精製度合いによりヒノキチオール含量が異なるが、通常1〜99%のヒノキチオールを含有する。
【0013】
ヒバ抽出物のうち、ヒノキチオールは、食品添加物として認可が下りており、かつ、使用実績もある安全性の高い物質である。また、昇華性を持つが100℃未満の加熱処理においては昇華による損失は少ない。通常の反芻動物用飼料で想定される加工はペレット化であるが、100℃未満であり問題はない。
【0014】
本発明の反芻動物用飼料には、ヒノキチオールの他に、クエン酸、酒石酸及び乳酸からなる群から選ばれた少なくとも1種類の有機酸を含有させる。有機酸は、クエン酸、酒石酸及び乳酸からなる有機酸混合物の形で含有させてもよいが、さらに、リンゴ酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、その他の脂肪酸の1種類以上を含有させてもよい。
【0015】
本発明の反芻動物用飼料は、牛、水牛、バイソン、山羊、めん羊、キリン、ラクダ等あらゆる種類の反芻動物に使用できるが、本発明は特に牛に最適であり、牛用飼料としてほ育期、育成期、肥育期、泌乳期まで幅広く使用することが出来る。ただし、泌乳期の場合は鼓脹症が生産性低下の原因となるケースは少なく、主に育成期、肥育期が対象となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のヒノキチオール及び有機酸混合物添加の反芻動物用飼料を給与することによって、反芻動物の第一胃発酵が適度に調整され、泡沫安定性が顕著に抑制される結果、鼓脹症の予防が期待できる。また、長期給与によっても薬剤耐性菌の出現や残留の問題も引き起こさない。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を実施例により、さらに詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0018】
実施例1:MICの測定(1)(各種天然物のStreptococcus bovisに対する抗菌性の比較)
Streptococcus bovisに対するMICを指標にして様々な天然物抽出物/エキスを比較した。
MICの測定は感受性ディスク用培地(寒天培地)を用いて好気条件下で実施した。培養温度は38℃とした。
表1にその結果の一部を示したが、大半の天然物が10〜10オーダーの抗菌性であったのに対して「ヒノキチオール」又は「ヒノキチオール」を50%含有する「ヒバ油」は1.56μg/mLと高い抗菌性を示した。クエン酸・酒石酸・乳酸からなる「有機酸混合物」(メディアインターナショナル社製、「カルボミック−S(商品名)」、酸含量52%品)は1,600μg/mLと中程度の抗菌性であった。
【0019】
【表1】

【0020】
実施例2:MICの測定(2)(Streptococcus bovisに対するヒノキチオールと有機酸混合物の相乗効果の確認)
Streptococcus bovis(ATCC 700410)に対するMICの測定は液体培地により行った。培地はTSB(Trypticase Soy Broth)を用い、培養温度は37℃、嫌気条件下でジャー培養した。供試物の溶媒には80%メタノールを使用した。
MIC測定結果を表2に示した。Streptococcus bovisに対するMICの値は「ヒノキチオール」(ヒノキチオール99%品)で1.56μg/mL、クエン酸・酒石酸・乳酸からなる「有機酸混合物」(酸含量52%品)で1,600μg/mLであった。「ヒノキチオール」と「有機酸混合物」を組み合わせた場合には単独の場合より抗菌性が強く、太枠の濃度領域において相乗作用が認められた。
【0021】
【表2】

【0022】
実施例3:MICの測定(3)(反芻動物由来細菌株に対する抗菌スペクトルの測定)
Streptococcus bovis、Lactobacillus ruminis、Corynebacterium vitaeruminis、Salmonella enteritidis、Escherichia coliに対するMICの測定は感受性ディスク用培地を用いて好気条件下で実施した。Corynebacterium vitaeruminisは30℃、その他の株については38℃で培養を行なった。
Bifidobacterium ruminantium、Butyrivibrio fibrisolvens、Selenomonas ruminantium、Megasphaera elsdenii、Clostridium perfringensに対するMICの測定はTSB(Trypticase Soy Broth)を用いて嫌気ボックス内で実施した。培養温度は、37℃とした。
いずれも供試物の溶媒には80%メタノールを使用した。
MIC測定結果を表3に示した。「ヒノキチオール」あるいは「ヒノキチオール」+「有機酸混合物」の組み合わせはStreptococcus bovisやLactobacillus ruminisといったグラム陽性で乳酸を産生する菌に対して強い抗菌性を示した。一方、グラム陰性で乳酸利用菌であるMegasphaera elsdeniiに対する抗菌性は低かった。乳酸は易発酵性の炭水化物が多給された場合に第一胃内で発生する酸であり、第一胃アシドーシス等の原因となり得る。乳酸産生菌の減少、乳酸利用菌の増加は第一胃発酵状態の改善に寄与する可能性を示唆している。なお、一般的な病原性のグラム陽性菌であるCorynebacterium vitaeruminis、Clostridium perfringensあるいは病原性のグラム陰性菌であるSalmonella enteritidis、Escherichia coliといった菌に対してはモネンシンナトリウム同様に抗菌性が低かった。
なお、Streptococcus bovisで実施例2と若干値が異なるが、液体培養法と寒天培養法の測定法上の違いによるものと推察される。ただし、実施例2、実施例3とも相乗効果が見られた点について違いはない。
【0023】
【表3】

【0024】
実施例4:反芻動物用飼料の調製(本発明の反芻動物用飼料の製造)
対照飼料はLindahlらの鼓脹症誘起飼料(Ivan L.Lindahl,R.E.Davis,Don R.Jacobson and J.C.Shaw「Feedlot bloat studies.I.Animal and dietary factors.」Journal of Animal Sci.16:165−178(1957))とし、対照飼料に「ヒノキチオール」(ヒノキチオール99%品)、クエン酸・酒石酸・乳酸からなる「有機酸混合物」(酸含量52%品)を表4に従って添加したものを試験1区〜試験4区用飼料とした。添加量はMICの10〜20倍を目安に設定した。
【0025】
【表4】

【0026】
実施例5:鼓脹症誘起試験(1)(in vivo実証試験)
試験は3×3ラテン方格法にて1期3週間で実施した。供試牛は第一胃カニューレを装着した乳用種未経産牛(体重約400kg)3頭を使用した。なお、第一胃内に残存した粗飼料由来の繊維を完全に消化させることを目的として予備期間を3週間設けた。試験前は対照飼料及びチモシー乾草を給与し、予備期間中は対照飼料のみを粗飼料無給与で給与、試験期間中はそれぞれ対照飼料、試験1区用飼料、試験2区用飼料を粗飼料無給与で給与した。期間中の飼料給与量は日本飼養標準・肉牛(2000)で維持の場合にTDN充足率が174%となるように設定した。飼料給与は9:30、17:30の2回/日に分けて行なった。
第一胃液は9:30の飼料給与から2時間後に500mLを採取し、二重ガーゼでろ過したものをサンプルとした。測定時にはガラス棒で撹拌して液が均一となるように注意した。
第一胃液性状の測定項目はIVI(起泡性)、stable IVI(泡沫安定性 以下s.IVI)、ガス発生量、粘度、VFA(揮発性脂肪酸)、pH、第一胃プロトゾア数/組成とした。IVI、s.IVIはJacobsonらの方法(Jacobson,D.R.,I.L.Lindahl,J.J.McNeill,J.C.Shaw,R.N.Detsch and R.E.Davis「Feedlot bloat studies.II.Physical factors involved in the etiology of frothy bloat.」Journal of Animal Sci.16:515−524(1957))、ガス発生量は宇佐川らの方法(宇佐川智也、西野武蔵「鼓脹症誘起飼料を給与しためん羊の第一胃内容液の性状に及ぼすモネンシンの影響」日本畜産学会報 53(8):535−540(1982))とした。粘度は回転式粘度計(東機産業社製、TVB 10M Lアダプター装着)を用い、39℃で測定した。回転速度は12rpmを基本としたが、12rpmで測定できないサンプルについては他の回転数で測定し、他サンプルから得た換算式で12rpm時相当の数値に補正した。VFA測定はルーメン液と等量の10%メタリン酸溶液[2N硫酸に10%(w/v)となるようにメタリン酸を溶解したもの]を加えて、10,000rpm以上で、20分以上遠心分離した上清を、凍結保存したものを用いた。上清はガスクロマトグラフィーに注入し、VFAの定量を行なった。ガスクロマトグラフィーはDB−WAXカラム(内径0.25mm 長さ30cm 膜厚0.25μm)を用い、キャリアーガスはHe 1mL/min、水素40mL/min、空気500mL/min、カラム温度150℃(5℃/min)→200℃(10℃/min)→230℃(1min)の条件で検出した。酪酸についてはn−酪酸とiso−酪酸の合計値を酪酸として算出した。pHはポータブルpHメーターを用いて第一胃液採取後5分以内に測定した。第一胃プロトゾア数/組成の測定は今井らの総説(今井壮一、勝野正則「ルーメン繊毛虫の同定の手引き」宮獣会報 30(1)3−23(1977))に基づいて行なった。測定は1週間毎に行い平均値を算出したが、プロトゾアに関しては各期の終了時のみ測定した。
第一胃液性状の測定結果は、表5〜7に示した。「ヒノキチオール」の投与により、泡沫安定性を示すs.IVIの値が有意に低下した(p<0.05)。また、「ヒノキチオール」を半減し、「有機酸混合物」と組み合わせた区ではs.IVIの値の有意な低下(p<0.01)に加えて、起泡性を示すIVIも有意に低下した(p<0.05)。粘度、ガス産生量については「ヒノキチオール+有機酸混合物」で若干低下する傾向を示したが、有意な差ではなかった(表5)。
一方、VFA組成及びプロトゾア総数/組成は、区間で有意な差が認められなかった(表6、表7)。
以上の結果から、「ヒノキチオール」及び「有機酸混合物」によりモネンシンナトリウム同様に鼓脹症の症状が緩和される可能性があることが示された。また、第一胃液性状の改善効果は「ヒノキチオール」単独よりも「ヒノキチオール」と「有機酸混合物」を組み合わせることで強まることが分かった。
【0027】
【表5】

【0028】
【表6】

【0029】
【表7】

【0030】
実施例6:鼓脹症誘起試験(2)(ドース確認試験)
「ヒノキチオール」+「有機酸混合物」の組み合わせでドース確認試験を行なった。
試験方法は実施例5と基本的に同様に行なった。ただし、ラテン方格法の1期は2週間とし予備期間も2週間とした。
第一胃液性状の測定結果は表8〜10に示した。今回の試験でも実施例5同様に泡沫安定性を示すs.IVIが“「ヒノキチオール」15.6ppm+「有機酸混合物」0.4%”では有意(p<0.05)に、“「ヒノキチオール」3.9ppm+「有機酸混合物」0.1%”では有意差は無いが低下することが確認された(表8)。
一方、VFA組成及びプロトゾア総数/組成は区間で有意な差が認められなかった(表9、表10)。
【0031】
【表8】

【0032】
【表9】

【0033】
【表10】

【0034】
実施例5及び実施例6の結果から、“「ヒノキチオール」3.9ppm+「有機酸混合物」0.1%”〜“「ヒノキチオール」15.6ppm+「有機酸混合物」0.4%”の範囲において「ヒノキチオール」及び「有機酸混合物」は泡沫安定性を低下させ、鼓脹症を抑制することが期待される結果となった。なお、モネンシンナトリウムではプロトゾア数、特にEntodiniumの減少が報告されているが(Dennis SM,Nagaraja TG,Dayton AD.「Effect of lasalocid,monensin and thiopeptin on rumen protozoa.」(Res Vet Sci.1986 Sep;41(2):251−6))、「ヒノキチオール」及び「有機酸混合物」は、今回の濃度範囲ではプロトゾア数/組成に大きな変化をもたらさなかった。また、モネンシンナトリウムではVFAのうちプロピオン酸の比率を高めると言われているが(Slyter LL.「Monensine and Dichloroacetamide Influences on methane and volatile fatty acid production by rumen Bacteria In Vitro.」(Appl.Environ.Microbiol.1979 Feb;37(2):283−8))、「ヒノキチオール」及び「有機酸混合物」は今回の濃度範囲ではVFA組成についても影響を与えなかった。
【0035】
実施例7:鼓脹症誘起試験(3)(モネンシンナトリウムとの比較試験)
「ヒノキチオール」+「有機酸混合物」の組み合わせでモネンシンナトリウムとの比較試験を行なった。濃厚飼料は鼓脹症誘起力をさらに強めるために実施例4のアルファルファペレットを粉砕トウモロコシに置き換え調製した(表11)。また、試験5区のモネンシンナトリウムの添加量は飼料安全法上の規定添加量である30g力価/tとした。
乳用種去勢牛(体重約600kg)8頭をモネンシン区(試験5区)4頭、“「ヒノキチオール」+「有機酸混合物」”区(試験6区)4頭に分けて供試した。試験前は両区とも対照飼料を不断給与、粗飼料は濃厚飼料の10%を給与した。試験は3週間の制限給与期間を設け、試験5区飼料又は試験6区飼料を制限給与、粗飼料を段階的に減少させた。その後2週間の不断給与期間とし、試験5区飼料又は試験6区飼料を不断給与、粗飼料を無給与とした。
【0036】
【表11】


第一胃液性状の測定結果は表12に示した。“「ヒノキチオール」+「有機酸混合物」”添加はモネンシンナトリウム30g力価/t添加に比べて起泡性を示すIVIが有意に高いものの、粘度、s.IVI、s.IVI/IVI、腹囲/胸囲に差は認められなかった。
よってIVI以外のいずれの項目についても「ヒノキチオール」と「有機酸混合物」の組み合わせは鼓脹症抑制に対してモネンシンナトリウムと同等の効果があるものと考えられた。
【0037】
【表12】

【0038】
上記の実施例では、クエン酸、酒石酸及び乳酸の有機酸混合物をヒノキチオールとともに含有させたものを示したが、クエン酸、酒石酸及び乳酸からなる群から選ばれた1種類又は2種類の有機酸をヒノキチオールとともに含有させた場合にも、ほぼ同様の鼓脹症予防効果が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒノキチオール0.0001〜0.05重量%並びにクエン酸、酒石酸及び乳酸からなる群から選ばれた少なくとも1種類の有機酸0.01〜5重量%を含有することを特徴とする反芻動物用飼料。
【請求項2】
有機酸がクエン酸、酒石酸及び乳酸からなる有機酸混合物である請求項1に記載の反芻動物用飼料。
【請求項3】
反芻動物が、牛、めん羊及び山羊からなる群から選ばれたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の反芻動物用飼料。
【請求項4】
鼓脹症予防性を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の反芻動物用飼料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の反芻動物用飼料を反芻動物に給与することを特徴とする反芻動物の飼育方法。