説明

収着モジュールおよびその製造方法

【課題】吸着式熱交換モジュールでは、従来、シリカゲル等の無機系吸着剤が使用されているが、これらは、吸湿性能は高く、扱い易いといった特徴がある一方で、耐久性、再生温度、細菌あるいはカビの発生に関して問題を有している。一方で、微粒子状の有機高分子系収着剤を塗布したものが提案されているが、耐水性を高くすると、吸湿速度が低下する問題を有する。高い吸放湿速度と高い耐水性を両立した収着モジュールおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】熱交換器の伝熱面上に収着剤層を設けてなる収着モジュールにおいて、収着剤層が伝熱面上に塗布された接着剤上に塩型カルボキシル基1〜12meq/gおよび架橋構造を有する有機高分子からなる短繊維状および/または粒子状の収着剤を接着させて形成されたものであって、かつ、収着剤層の単位面積当たりの3分間吸湿量が2g/m2以上であり、流水脱落率が10%以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機高分子系収着剤を用いた収着モジュールおよびその製造方法、さらには該モジュールを使用した熱交換器および調湿器に関する。
【背景技術】
【0002】
吸着式冷凍機、吸着式空調機等においては熱交換器と吸着剤を組み合わせた吸着式熱交換モジュールが使用されている。このようなモジュールとして、シリカゲル、ゼオライト、活性アルミナ、活性炭、モレキュラーシーブ等の吸着剤を熱交換器表面に固着させたものが知られている(特許文献1〜6)。
【0003】
しかし、いずれの吸着剤も無機物質であるため硬く、長期にわたって吸湿・放湿を繰り返した場合、吸湿・放湿に伴うわずかな体積変化がもとで吸着剤の割れが生じる、あるいは破砕、さらには粉末化が起こるといった現象が発生し性能低下を引き起こしてしまうという問題がある。また、これらの無機系の吸着剤は、いずれも水分子との結合が強いため、吸着は強固に起こるものの、脱着の際はその結合を切るために大きなエネルギー、即ち再生のために高い温度が必要となるため省エネルギーの観点からは好ましくない。また、このような無機物質の場合、多孔質であり、水分に富んだ状態となり易いため、細菌あるいはカビが発育し易く、これらにより健康に害を及ぼすダストや異臭が発生し問題を引き起こす場合もある。
【0004】
このような問題点に対して、特許文献7では、微粒子状の有機高分子系収着剤を塗布したモジュールを提案している。該モジュールにおいては、吸放湿速度が速く、低温での再生が可能であり、収着剤の粉末化などの問題も解消されている。しかしながら、長期間の使用を想定した場合、該文献のモジュールの収着剤層の耐水性は十分とは言えない。該文献のモジュールにおいて耐水性を向上させるには、架橋剤の使用量を多くするか、収着剤の量を少なくすればよいが、これにより吸放湿速度は低下してしまう。
【特許文献1】特開平6−2984号公報
【特許文献2】特開平5−322364号公報
【特許文献3】特開2000−18767号公報
【特許文献4】特開平8−271085号公報
【特許文献5】特開平10−286460号公報
【特許文献6】特開2004−263959号公報
【特許文献7】特開2006−200850号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上述した無機系吸着剤および有機高分子系収着剤を用いたモジュールの問題点を解決し、高い吸放湿速度と高い耐水性を両立した収着モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記目的は、以下の手段により達成される。すなわち、
[1]熱交換器の伝熱面上に収着剤層を設けてなる収着モジュールにおいて、該収着剤層が伝熱面上に塗布された接着剤上に塩型カルボキシル基1〜12meq/gおよび架橋構造を有する有機高分子からなる短繊維状および/または粒子状の収着剤を接着させて形成されたものであって、かつ、該収着剤層の単位面積当たりの3分間吸湿量が2g/m以上であり、流水脱落率が10%以下である収着モジュール。
[2]収着剤層において、収着剤の一部分が接着剤から露出していることを特徴とする[1]に記載の収着モジュール。
[3]収着剤を電着加工によって接着させたことを特徴とする[1]または[2]に記載の収着モジュール。
[4]熱交換器の伝熱面上に接着剤を塗布し、当該塗布面に塩型カルボキシル基1〜12meq/gおよび架橋構造を有する有機高分子からなる短繊維状および/または粒子状の収着剤を電着加工することを特徴とする収着モジュールの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明においては、有機高分子系収着剤を熱交換器の伝熱面上に塗布した接着剤上に固定することで、収着剤層の吸放湿性能を低下させることなく、耐水性を向上させることを可能とした。かかる本発明の収着モジュールは、優れた吸放湿速度と優れた耐水性を両立させることができ、低い温度で再生が可能なため、吸着式冷凍機や吸着式空調機の収着式熱交換モジュールやエアコンの除湿モジュールなどの長期間使用される省エネルギー型の機器を構成するモジュールとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に採用する収着剤は、塩型カルボキシル基1〜12meq/gおよび架橋構造を有する有機高分子からなるものであって、その形状としては短繊維状および/または粒子状である。かかる収着剤は収着現象に基づき水蒸気を多量に収着する材料である。ここで収着現象とは、気体と固体との系において、両者の界面で固相中の気体濃度が気相中よりも高くなる「吸着現象」と、吸着した気体分子が固体表面層を通り固体内部へ入り込んでいく「吸収現象」が同時に起こる現象のことである。
【0009】
本発明に採用する有機高分子からなる収着剤は塩型カルボキシル基を有するが、塩型カルボキシル基は吸湿性を発現させるために好適な親水性の高い極性基であり、高い吸湿性能を得ようとする場合、できるだけ多くの塩型カルボキシル基を含有することが好ましい。しかし、吸湿量と同時に、耐久性あるいは吸湿速度の速いものとするためには、後述する架橋構造との割合において適当なバランスをとることが必要である。具体的には塩型カルボキシル基量があまり多すぎる場合、即ち12meq/gを超える場合、導入できる架橋構造の割合が少なくなりすぎ、いわゆる高吸水性樹脂に近いものとなってしまい、吸湿性能が低くなる、形態安定性が低下し十分な耐久性が得られない、粘着性を帯びてくるといった問題が生じる場合がある。以上のような観点からより好ましい結果を与える塩型カルボキシル基量は10meq/g以下である。
【0010】
一方、塩型カルボキシル基量が少ない場合、吸湿性能は低下してゆき、特に1meq/gより低い場合では、得られる吸湿性は前述の無機系収着剤にも劣るため収着モジュールとしての利用分野が限られてしまう。塩型カルボキシル基量が3meq/g以上の場合、他の吸湿性の素材に比べてその吸湿性能の優位性が顕著となり、好ましい結果を与える。
【0011】
塩型カルボキシル基において塩を構成する陽イオンとしては、特に限定はなく、例えばLi、Na、K、Rb、Cs等のアルカリ金属、Be、Mg、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類金属、Cu、Zn、Al、Mn、Ag、Fe、Co、Ni等のその他の金属、NH、アミン等の有機の陽イオン等を挙げることか出来る。なかでもKイオンの場合、吸放湿速度の向上に特に効果があるので好適である。また、上記の塩を2種以上同時に用いることもできる。
【0012】
有機高分子に塩型カルボキシル基を導入する方法としては、特に限定は無く、例えば、塩型カルボキシル基を有する単量体を単独重合又は共重合可能な他の単量体と共重合することによって重合体を得る方法(第1法)、カルボキシル基を有する重合体を得た後に塩型に変える方法(第2法)、カルボキシル基に誘導することが可能である官能基を有した単量体を重合し、得られた重合体の該官能基を化学変性によりカルボキシル基に変換しさらに塩型に変える方法(第3法)、あるいはグラフト重合により前記3法を実施する方法等が挙げられる。
【0013】
上記第1法の塩型カルボキシル基を有する単量体を重合する方法としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ビニルプロピオン酸等のカルボキシル基を含有する単量体の対応する塩型単量体を単独重合する、又はこれらの単量体の2種以上を共重合する、あるいは同一種であるがカルボン酸型と対応する塩型との混合物を重合する、さらにはこれらの単量体と共重合可能な他の単量体とを共重合する等の方法が挙げられる。
【0014】
また、第2法に言うカルボキシル基を有する重合体を得た後に塩型に変える方法とは、例えば、先に述べたようなカルボキシル基を含有する酸型単量体の単独重合体、あるいはこれらの単量体の2種以上からなる共重合体、または、共重合可能な他の単量体との共重合体を得た後に塩型に変える方法である。カルボキシル基を塩型に変換する方法としては特に限定はなく、得られた前記酸型重合体にLi、Na、K、Rb、Cs等のアルカリ金属イオン、Be、Mg、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類金属イオン、Cu、Zn、Al、Mn、Ag、Fe、Co、Ni等の他の金属イオン、NH、アミン化合物等の有機の陽イオンを含む溶液を作用させてイオン交換を行う等の方法により変換することができる。
【0015】
第3法の化学変性法によりカルボキシル基を導入する方法としては、例えば化学変性処理によりカルボキシル基に変性可能な官能基を有する単量体の単独重合体、あるいは2種以上からなる共重合体、または、共重合可能な他の単量体との共重合体を重合し、得られた重合体を加水分解によってカルボキシル基に変性する方法があり、得られた状態が塩型でない場合は、変性されたカルボキシル基に上記の塩型にする方法が適用される。このような方法をとることのできる単量体としてはアクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基を有する単量体;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ビニルプロピオン酸等のカルボン酸基を有する単量体の無水物やエステル誘導体、アミド誘導体、架橋性を有するエステル誘導体等を上げることができる。
【0016】
カルボン酸基を有する単量体の無水物としては、無水マレイン酸、無水アクリル酸、無水メタクリル酸、無水イタコン酸、無水フタル酸、N−フェニルマレイミド、N−シクロマレイミド等をあげることができる。
【0017】
カルボン酸基を有する単量体のエステル誘導体としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ラウリル、ペンタデシル、セチル、ステアリル、ベヘニル、2−エチルヘキシル、イソデシル、イソアミル等のアルキルエステル誘導体;メトキシエチレングリコール、エトキシエチレングリコール、メトキシポリエチレングリコール、エトキシポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、メトキシプロピレングリコール、プロピレングリコール、メトキシポリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、メトキシポリテトラエチレングリコール、ポリテトラエチレングリコール、ポリエチレングリコールーポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールーポリテトラエチレングリコール、ポリエチレングリコールーポリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコールーポリテトラエチレングリコール、ブトキシエチル等のアルキルエーテルエステル誘導体;シクロヘキシル、テトラヒドロフルフリル、ベンジル、フェノキシエチル、フェノキシポリエチレングリコール、イソボニル、ネオペンチルグリコールペンゾエート等の環状化合物エステル誘導体;ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル、ヒドロキシブチル、ヒドロキシフェノキシプロピル、ヒドロキシプロピルフタロイルエチル、クロローヒドロキシプロピル等のヒドロキシアルキルエステル誘導体;ジメチルアミノエチル、ジエチルアミノエチル、トリメチルアミノエチル等のアミノアルキルエステル誘導体;(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸等のカルボン酸アルキルエステル誘導体;(メタ)アクリロイロキシエチルアシッドホスフェート、(メタ)アクリロイロキシエチルアシッドホフフェート等のリン酸基またはリン酸エステル基を含むアルキルエステル誘導体;
【0018】
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングルコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、グリセリンジメタクリレート、2−ヒドロキシー3−アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物ジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリル、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の架橋性アルキルエステル類;トリフロロエチル、テトラフロロプロピル、ヘキサフロロブチル、パーフロロオクチルエチル等のフッ化アルキルエステル誘導体をあげることができる。
【0019】
カルボン酸基を有する単量体のアミド誘導体としては、(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、モノエチル(メタ)アクリルアミド、ノルマルーt一ブチル(メタ)アクリルアミド等のアミド化合物等が例示できる。化学変性によりカルボキシル基を導入する他の方法として、アルケン、ハロゲン化アルキル、アルコール、アルデヒド等の酸化等も挙げることができる。
【0020】
上記第3法における重合体の加水分解反応により塩型カルボキシル基を導入する方法についても特に限定はなく、既知の加水分解条件を利用することができる。例えば、上記単量体を重合し架橋された重合体にアルカリ金属水酸化物、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウムやアンモニア等の塩基性水溶液を用い塩型カルボキシル基を導入する方法、あるいは硝酸、硫酸、塩酸等の鉱酸または、蟻酸、酢酸等の有機酸と反応させ、カルボン酸基とした後、アルカリ金属塩類と混合することにより、イオン交換により塩型カルボキシル基を導入する方法が挙げられる。なかでも吸湿速度に優れるカリウム塩型カルボキシル基が簡単に得られる水酸化カリウムによる加水分解法が好ましい。なお、1〜12meq/gとなる条件については、反応の温度、濃度、時間等の反応因子と導入される塩型カルボキシル基量の関係を実験で明らかにすることにより、決定することができる。
【0021】
なお、カルボキシル基の塩型の変換については、一旦収着剤層を形成した後に、イオン交換させることによって変換することも可能である。
【0022】
また、本発明に採用する収着剤は、高い吸湿性能を発現させるため、また、吸湿時の形状安定性を維持し耐久性を発現させるため、架橋構造を有することが必要である。すなわち、気体状水分子(水蒸気)が収着剤に作用した場合、該収着剤の有する塩型カルボキシル基により水は吸着され、さらに収着剤内部に入り込んで吸収されてゆくのであるが、この際、架橋構造を有する本発明の採用する収着剤は適度の柔軟さがあるため、水分子が吸収されるに従い膨らみ、多量の水分子を内部に取り込むことができる。また水分子が放出されるに従い収縮し元の構造に戻ることができるので、無機系吸着剤のような割れや破砕が起こらず、優れた耐久性を発現できる。
【0023】
この架橋構造は、本発明の目的とする吸放湿性能および該性能を生かした製品の性能に影響を及ぼさない限りにおいては特に限定はなく、共有結合による架橋、イオン架橋、ポリマー分子間相互作用または結晶構造による架橋等いずれの構造のものでもよい。また、架橋を導入する方法においても特に限定はなく、使用する既述単量体の重合段階において、架橋性単量体を共重合させることによる架橋導入方法、あるいは既述単量体をまず重合し、その後、化学的反応による、あるいは物理的なエネルギーによる架橋構造の導入といった後架橋法等を挙げることができる。中でも、単量体の重合段階で架橋性単量体を用いる方法、あるいは重合体を得たあとの化学的な後架橋による方法では、共有結合による強固な架橋を導入することが可能であり、吸湿、放湿に伴う物理的、化学的変性を受け難いという点で好ましい。
【0024】
単量体の重合段階で架橋性単量体を用いる方法では、特に塩型カルボキシル基を有する有機高分子系収着剤の場合、既述のカルボキシル基を有する、あるいはカルボキシル基に変性できる単量体と共重合することのできる架橋性単量体を用い、共重合を行なうことにより共有結合に基づく架橋構造を有する架橋重合体を得ることができる。しかし、この場合、単量体であるアクリル酸などが示す酸性条件、あるいは重合体でのカルボキシル基への変性を行う際の化学的な影響(例えば加水分解など)を受けない、あるいは受けにくい架橋性単量体である必要がある。
【0025】
単量体の重合段階で架橋性単量体を用いる方法に使用できる架橋性単量体としては特に限定はなく、例えばグリシジルメタクリレート、N−メチロールアクリルアミド、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ジビニルベンゼン、ヒドロキシエチルメタクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、メチレンビスアクリルアミド等の架橋性ビニル化合物を挙げることができ、なかでもトリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ジビニルベンゼン、メチレンビスアクリルアミドによる架橋構造は、それらを含有してなる架橋重合体に施すカルボキシル基を導入するための加水分解等の際にも化学的に安定であるので望ましい。
【0026】
また、後架橋による方法としても特に限定はなく、例えば、ニトリル基を有するビニルモノマーの含有量が50重量%以上よりなるニトリル系重合体の含有するニトリル基と、ヒドラジン系化合物またはホルムアルデヒドを反応させる後架橋法を挙げることができる。なかでもヒドラジン系化合物により導入された架橋構造は、酸、アルカリに対しても安定で、しかも形成される架橋構造自体が親水性であるので吸湿性の向上に寄与でき、また、重合体に付与した多孔質等の形態を保持することができる強固な架橋を導入できるといった点で極めて優れている。なお、該反応により得られる架橋構造に関しては、その詳細は同定されていないが、トリアゾール環あるいはテトラゾール環構造に基づくものと推定されている。
【0027】
ここでいうニトリル基を有するビニルモノマーとしては、ニトリル基を有する限りにおいては特に限定はなく、具体的には、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、α−フルオロアクリロニトリル、シアン化ビニリデン等が挙げられる。なかでも、コスト的に有利であり、また、単位重量あたりのニトリル基量が多いアクリロニトリルが最も好ましい。
【0028】
ヒドラジン系化合物との反応により架橋を導入する方法としては、目的とする架橋構造が得られる限りにおいては特に制限はなく、反応時のアクリロニトリル系重合体とヒドラジン系化合物の濃度、使用する溶媒、反応時間、反応温度など必要に応じて適宜選定することができる。このうち反応温度については、あまり低温である場合は反応速度が遅くなり反応時間が長くなりすぎること、また、あまり高温である場合は原料アクリロニトリル系重合体の可塑化が起り、重合体に付与されていた形態が破壊されるという問題が生じる場合がある。従って、好ましい反応温度としては、50〜150℃、さらに好ましくは80℃〜120℃である。また、ヒドラジン系化合物と反応させるアクリロニトリル系重合体の部分についても特に限定はなく、その用途、該重合体の形態に応じて適宜選択することができる。具体的には、該重合体の表面のみに反応させる、または、全体にわたり芯部まで反応させる、特定の部分を限定して反応させる等適宜選択できる。なお、ここに使用するヒドラジン系化合物としては、水加ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、硝酸ヒドラジン、臭素酸ヒドラジン、ヒドラジンカーボネイト等のヒドラジンの塩類、およびエチレンジアミン、硫酸グアニジン、塩酸グアニジン、硝酸グアニジン、リン酸グアニジン、メラミン等のヒドラジン誘導体である。
【0029】
本発明に採用する収着剤の形態は、短繊維状もしくは粒子状である。本発明においては、伝熱面上に塗布された接着剤上に収着剤を接着させて収着剤層を形成させるが、かかる形状の収着剤であれば、収着剤層の比表面積が大きくなって吸放湿速度が向上するとともに、収着剤間にすき間ができるため、吸湿・放湿に伴う収着剤の膨潤・収縮という体積変化をそのすき間で吸収することができ、収着剤層の耐久性の向上に寄与する。また、かかる形状は後述する収着剤層を電着加工により形成する場合に好都合である。
【0030】
上記のような理由から、短繊維状の収着剤の場合、繊維径としては、好ましくは0.5〜10dtex、より好ましくは1〜8dtexである。繊維径が10dtexを超える場合、収着剤の中心部までの水分子の移動時間が長くなる。このため極短時間では、水分子が収着剤の中心部まで移動することができず、中心部は吸放湿速度には寄与せず、本来持っている吸放湿能力が十分発現できない場合がある。また、繊維長としては、好ましくは0.05〜10mmであり、特に、電着加工する場合においては、0.1〜5mmであることが望ましい。繊維長が10mmを超える場合、伝熱フィンなどの伝熱面間の空気の流れが悪くなるため、吸放湿の効率が低下する可能性がある。一方、繊維長が0.05mmに満たない場合、収着剤が接着剤に埋没し、十分な性能が得られない場合がある。
【0031】
また、粒子状の収着剤の場合、平均粒子径としては、好ましくは0.01〜5mmであり、より好ましくは0.05〜1mmである。平均粒子径が、5mmより大きい場合、(1)比表面積が小さくなり、最も吸湿速度の向上に寄与する表面吸着量が低下する、(2)半径が大きくなるため、粒子の中心部までの水分子の移動時間が長くなる。このため極短時間では、水分子が粒子の中心部まで移動することができず、中心部は吸湿速度には寄与せず、本来持っている吸湿能力が十分発現できない場合がある。また、平均1次粒子径が、0.01mmに満たない場合、収着剤が接着剤に埋没し、十分な性能が得られない場合がある。
【0032】
また、具体的な粒子の形状についても特に限定はなく、球状、不定形、平板状、サイコロ状、紡錘型等いずれの形のものも使用することができる。また、表面が平滑なもの、表面に凹凸があるもの、多孔質のもの、1次粒子の凝集体状のもの等を適宜選定して使用することができる。
【0033】
以上のような本発明に採用する収着剤の吸湿性能は、20℃65%RHの雰囲気下で20重量%以上、好ましくは30重量%以上の飽和吸湿率を有するものであることが好ましい。該性能は上述した塩型カルボキシル基量、塩を構成する陽イオン、架橋構造、形状などを適宜選択することで調節することが可能である。なおここで言う飽和吸湿率とは、試料を乾燥後、一定温湿度下に該材料を飽和状態となるまで放置しておき、その前後の重量変化より吸湿量を求め、もとの試料の乾燥重量で除したものである。
【0034】
また、上述した収着剤は抗菌性および抗カビ性を有している。収着剤は水分を保持するため、細菌あるいはカビが発生する場合があるが、本発明の採用する収着剤においては、このような問題が発生することがないという利点がある。
【0035】
本発明においては上述した収着剤を伝熱面上に塗布された接着剤上に接着させて収着剤層を形成するが、該収着剤層の特性としては、単位面積当たりの3分間吸湿量が2g/m以上である必要があり、4g/mであることが好ましい。3分間吸湿量とは、乾燥状態から20℃65%RH雰囲気下に置いたときの初期の3分間に吸湿した水分量のことであり、吸湿速度の指標となる。この値が2g/mに満たない場合、吸湿速度が遅く、十分な性能が得られない可能性がある。
【0036】
収着剤層の飽和吸湿量としては、上記3分間吸湿量が満たされる限り特に限定はないが、吸湿速度とともにも吸湿量が重視されるような用途の場合、20℃65%RHの雰囲気下で5g/m以上、好ましくは10g/m以上の飽和吸湿量を有するものであることが好ましい。
【0037】
また、本発明において収着剤層は、流水脱落率が10%以下であることが必要であり、5%以下であることが好ましい。流水脱落率とは、流水中に24時間放置した後で、初期の収着剤量に対してどの程度収着剤が脱落しているかを示す量であり、耐水性の指標となる。この値が10%を超える場合、雨水や結露などによる収着剤の脱落が多くなり、長期間の使用に対して、十分な性能を維持できない可能性がある。
【0038】
上述した2g/m以上の3分間吸湿量および10%以下の流水脱落率を両立するには、上述した収着剤を接着剤上に接着させることが重要である。かかる方法を採用することにより、個々の収着剤間に適度な空隙を形成することができ、収着剤の吸放湿性能を効率的に発現させることができるようになり、また、吸放湿に伴う収着剤の膨潤・収縮という体積変化の影響を受けにくく、一方で個々の収着剤は接着剤により固着されているので、流水等の環境下においても脱落が抑制されるのである。
【0039】
また、収着剤層においては、接着された収着剤の一部分が接着剤から露出していることが望ましい。収着剤全体が接着剤に覆われてしまえば、水分子の移動が妨げられ、優れた吸放湿性能を得ることが難しくなる。一方で、収着剤は容易には脱落しないように接着されていなければならない。加工方法として電着加工を採用すれば、収着剤の一部分を接着剤から露出させつつ、十分な接着強度が得られやすいので、本発明において好適である。なお、露出の程度については、求められる性能が発現できる限り特に限定はなく、収着剤の大きさや形状、接着剤の塗布量、電着加工時の電極間距離や電圧などにより調節可能である。
【0040】
上述の3分間吸湿量および流水脱落率は、収着剤の吸湿性能や収着剤を接着させる量、さらには収着剤の露出の程度などにより調節することが可能である。例えば、上述した短繊維状の収着剤として、塩型カルボキシル基としてカリウム型カルボキシル基を5〜10meq/g有する収着剤を使用して電着加工を行う場合、通常、収着剤層の単位面積当たり30g/m以上を接着させることで上述の3分間吸湿量および流水脱落率を発現できるようなる。
【0041】
本発明に採用する接着剤としては、伝熱面と収着剤を接着できる限り特に限定されず、通常の電着加工で用いられる溶液型やエマルジョン型の接着剤を採用できる。例えば、メラミン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、合成ゴム系樹脂などを挙げることができる。特に熱伝導性の高いものが好適である。また、接着剤の塗布量としては、伝熱面と収着剤との熱伝導性をよくするためできるだけ少ない方が望ましいが、一方で収着剤を十分な強度で接着する必要があるため、収着剤層の単位面積当たり好ましくは5〜100g/m、より好ましくは5〜50g/mとなるようにすることが望ましい。
【0042】
本発明に採用する熱交換器とは、高温流体の熱を伝熱面を介して低温側の流体などに伝える機器のことであり、図1、3のようなチューブとフィンからなるものや図2のようなコルゲート状のフィンを直交させて積層したものなどがある。また、伝熱面とは熱交換器において熱を伝える機能を有している伝熱部材のことであり、前出の図の例で言えばチューブやフィンが該当する。本発明において、上述した収着剤層は伝熱面の一部または全体に設けることができる。
【0043】
伝熱面となる伝熱部材は通常金属製であり、熱伝導性に優れる金属であることが望ましい。具体的には、銀、銅、金、アルミニウム、スチール等が挙げられるが、価格の点から実用的には、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金が好ましい。熱伝導率としては50W/m・K以上の場合、効率の高い熱交換を行なうことができるため好ましい。
【0044】
伝熱部材の形状については特に限定はなく、使用される用途に応じて適宜選定することができる。例えば、フィン、チューブ、コルゲート、パンチングメタル、金網、金属不織布などの形状である。特にフィン形状のものが好適に用いられる、その構成も特に限定はないが、フィンのピッチとしては0.5mm〜5mm、フィンの厚さとしては0.03〜0.5mmの範囲である場合良好な結果が得られる場合が多い。また、クロスフィンコイルの場合は、フィンの中心部からフィンの端までの長さが、5〜30mmまでの場合が好ましい。
【0045】
また、伝熱部材の表面状態についても特に限定はなく、平滑面、凹凸面等さまざまな形状のものから適宜選定することができる。特に、表面に凹凸をつける、あるいは、細孔を開けるなどの処理を行なったものとした場合、吸湿・放湿性能、熱交換性能、特に速度的な特性を向上させ、良好な結果が得られる場合が多い。
【0046】
なお、必要に応じて伝熱部材の表面を、防菌剤、着色顔料、防錆顔料(たとえばクロム酸塩系、鉛系、モリブデン酸、亜鉛系など)、防錆剤(たとえばタンニン酸、没食子酸などのフェノール性カルボン酸およびその塩類、フィチン酸、ホスフィン酸などの有機リン酸、重リン酸の金属塩類、亜硝酸塩など)などで処理したものも、使用することができる。
【0047】
本発明の収着モジュールは、熱交換器の伝熱面上に接着剤を塗布し、当該塗布面に収着剤を接着させることにより製造される。熱交換器は図1〜3のように狭い空間に多数の伝熱面を配しているため、組み立てられる前のチューブやフィンという伝熱部材の状態において、加工を施すことが望ましい。
【0048】
伝熱面上に接着剤を塗布する方法としては、特に限定はなく、伝熱部材に対して、上述した量、厚さとなるように接着剤を塗布、含浸、噴霧するなど通常の方法を採用できる。なお、接着剤を塗布する前に、伝熱部材に対して、アルカリ洗浄、酸洗浄、脱脂用薬液洗浄、有機溶剤による洗浄等の脱脂処理を行うことが望ましい。
【0049】
接着剤上に収着剤を接着させる方法としては、接着剤に対して収着剤を振るい落としたり、噴霧したりする方法が挙げられるが、収着剤の一部分を接着剤から露出させつつ、接着強度を高くし、高密度で均一に接着させるという観点から、電着加工法を採用することが好ましい。特に収着剤が短繊維状である場合、電着加工を採用すれば、繊維を寝かせた状態ではなく、立てた状態で接着させることができるので、吸放湿に関わる部分の比表面積が大きくなって性能を効率よく引き出すことができ、有用である。
【0050】
電着加工においては、静電気を利用して対象物を飛昇させるために、対象物を電気的に良導体とする必要があり、一般的には電気抵抗率として1×10〜1×1010Ω・cm、より好ましくは1×10〜1×10Ω・cm程度であることが望ましい。そこで、必要に応じて、収着剤に界面活性剤および無機塩化合物などの処理剤を付与し、電気抵抗率を下げ、静電気的な吸引力による飛昇が起こるようにする。また、珪素化合物を付与し、収着剤の分離性を向上させ、収着剤同士が塊にならないようにすることも有効である。
【0051】
このような界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α−スルホ脂肪酸メチルエステル塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩などのアニオン系界面活性剤、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、N−メチルビスヒドロキシエチルアミン脂肪酸エステル塩酸塩などのカチオン系界面活性剤、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アルキルグリコシド、脂肪酸アルカノールアミドなどのノニオン系界面活性剤、アルキルアミノ脂肪酸塩、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシドなどの両性界面活性剤などを使用することができる。
【0052】
また、無機塩化合物としては、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、珪酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、塩化バリウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウムなどを使用することができる。珪素化合物としては、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸、コロイダルシリカなどを使用することができる。
【0053】
これらの処理剤の収着剤への付与量としては、上述したような電気抵抗率となり、良好な飛昇性が得られるように適宜設定すればよい。通常の場合であれば、収着剤の特性や飛昇させる際に加える電圧の大きさ等の加工条件などにもよるが、収着剤に対して、界面活性剤が0.01〜0.5重量%、無機塩化合物が0.3〜5重量%、珪素化合物が0.3〜5重量%であることが好ましい。
【0054】
処理剤の付与方法としては、上述の処理剤を付与できる方法であれば、特に制限されない。例えば、界面活性剤、無機塩化合物および珪素化合物を分散または溶解させた処理液を作成し、該処理液に有機微粒子を含浸させた後、脱水、乾燥することにより付与する方法や、界面活性剤、無機塩化合物、珪素化合物のそれぞれについて分散または溶解させた処理液を作成し、各処理液について別々に含浸、脱水、乾燥を行うという方法などを挙げることができる。処理液中の濃度としては、脱水の程度にもよるが、界面活性剤については1重量%以下、無機塩化合物については5重量%以下、珪素化合物は5重量%以下であることが望ましい。なお、ここでいう含浸とは処理液を付着させることを指し、例えば浸漬、噴霧などの方法で実施することができる。また、処理液に用いる分散媒あるいは溶媒としては、特に限定はなく、水や有機溶剤あるいはこれらの混合溶剤などを使用することができる。
【0055】
電着加工の条件としては、通常の電着加工の条件を適用することが可能であり、例えば、電極と加工される伝熱面の距離としては5〜30cm、直流電圧としては10〜150kVが採用される。また、収着剤を飛昇させる方向としては、(イ)ダウンメソッド(上方より下方へ飛ばして電着加工する方法)、(ロ)アップメソッド(下方より上方へ飛ばして電着加工する方法)などがあるが、限定されるものでない。
【0056】
以上のようにして収着剤を付着させた後、接着剤を硬化させるため加熱については、その方法に特に限定はなく、通常使用される方式、例えば熱風、赤外線、高周波加熱等の方法を適宜選定し使用することができる。また、加熱温度、時間については、収着剤が変質や劣化しない範囲で硬化可能な条件を任意に設定すればよい。一般的には、室温〜200℃、1分〜4時間といった条件をとることができる。
【0057】
このようにして収着剤層を形成された部品を組み立てることによって、本発明の収着モジュールを得ることができる。
【0058】
本発明の採用する収着剤を用いた収着モジュールの1つの特徴としては、該収着剤の特徴から吸着した水を100℃未満の温度で脱着・再生することが可能であるという点である。これは、脱着・再生に高温を必要とする従来の無機系吸着剤と異なり、少ないエネルギーで同様な操作を行なうことができるということであり、省エネルギー型の装置、システムとして応用が可能となる。
【0059】
さらに、本発明の収着モジュールでは収着時の相対湿度より低い条件であれば、70℃よりも低い温度、40℃あるいは50℃といった極めて低い再生温度でも十分再生することが可能である。このような特性を生かすことにより、工場の排熱、太陽光熱、ヒートポンプ排熱、燃料電池排熱、給湯排熱等のこれまでは捨てられていた低温の排熱を、再生熱源として利用することができるため、エネルギーの利用の効率を上げることができる。なお、この再生のための温度とは、再生のために作用する空気の温度または収着モジュールの金属の温度のどちらでも構わない。
【0060】
かかる本発明の収着モジュールは、吸着式熱交換器や除湿モジュールなどとして利用することができる。
【実施例】
【0061】
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の部及び百分率は、断りのない限り重量基準で示す。まず、各特性の評価方法および評価結果の表記方法について説明する。
【0062】
<収着剤の塩型カルボキシル基量>
収着剤試料約1gを105℃、16時間乾燥し、重量を測定する(Wa[g])。これに200mlの水を加えた後、50℃に加温しながら1N塩酸水溶液を添加してpH2とすることで、試料に含まれるカルボキシル基を全てH型カルボキシル基とし、次いで0.1N水酸化ナトリウム水溶液で常法に従って滴定曲線を求めた。該滴定曲線からH型カルボキシル基に消費された水酸化ナトリウム水溶液消費量(Va[ml])を求め、次式によって試料中に含まれる全カルボキシル基量を算出する。

全カルボキシル基量[meq/g]=0.1Va/Wa

別途、上述の全カルボキシル基量測定操作中の1N塩酸水溶液添加によるpH2への調整をすることなく同様に滴定曲線を求め、試料中に含まれるH型カルボキシル基量を求めた。これらの結果から次式により塩型カルボキシル基量を算出する。

塩型カルボキシル基量[meq/g]=(全カルボキシル基量)−(H型カルボキシル基量)

【0063】
<収着剤の飽和吸湿率>
試料約5gを105℃、16時間乾燥し、重量を測定する(Wb[g])。次に該試料を20℃、65%RHの恒温恒湿器に24時間入れておく。このようにして吸湿させた試料の重量を測定する(Wc[g])。以上の測定結果から、次式によって算出する。

飽和吸湿率[%]=(Wc−Wb)/Wb×100

【0064】
<収着剤層の収着剤付着量>
収着剤を付与した金属板試料を105℃、16時間乾燥し重量を測定する(Wd[g])。一方、収着剤を付与しないこと以外は該金属板試料と同様にして作製した参照試料を105℃、16時間乾燥し重量を測定する(We[g])。以上の結果と金属板試料の面積S[m]から収着剤付着量を次式により算出する。

収着剤付着量[g/m]=(Wd−We)/2S

なお、金属板試料の面積を2倍しているのは、試料の両面に収着剤を付着させているため、収着剤層の面積としては、金属板試料面積の2倍となるためである。

【0065】
<収着剤層の飽和吸湿量>
105℃、16時間乾燥し重量を測定した試料(Wd[g])を、20℃、65%RHに調整された恒温恒湿器に24時間放置し、吸湿させた試料の重量を測定する(Wf[g])。以上の結果と金属板試料の面積S[m]から、飽和吸湿量を次式により算出する。

飽和吸湿量[g/m]=(Wf―Wd)/2S

【0066】
<収着剤層の3分間吸湿量>
105℃、16時間乾燥し重量を測定した試料(Wd[g])を、105℃、16時間乾燥した直後に20℃、65%RHに調整された恒温恒湿器に3分間放置し、吸湿させた試料の重量を測定する(Wg[g])。以上の結果と金属板試料の面積S[m]から、3分間吸湿量を次式により算出する。

3分間吸湿量[g/m]=(Wg―Wd)/2S

【0067】
<流水脱落率>
上述した方法で収着剤付着量を測定した試料(付着量:Wd−We[g])を水がいっぱいに満たされた10リットルの容器中につるし、24時間の間、2リットル/分の水を該容器に流しこみ、オーバーフローさせることにより該試料を流水にさらす。次いで試料を105℃、16時間の条件で乾燥させ重量測定する(Wh[g])。以上の結果から流水脱落率を次式により算出する。

流水脱落率[%]=(Wd−Wh)/(Wd−We)×100

この値は、収着モジュールの耐水性を表わす数値であり、この値が小さいほうが、耐水性が高いと判断できる。
【0068】
<繊維径>
20℃、65%RH雰囲気中で、JIS L 1015 8.5.1B法に準拠して測定した繊度を繊維径とした。
【0069】
<平均粒子径>
島津製作所製レーザー回折式粒度分布測定装置「SALD2000」を使用し、水を分散媒として測定した結果を、体積基準で表し、そのメディアン径をもって平均粒子径とした。
【0070】
[実施例1]
アクリロニトリル90%、酢酸ビニル10%からなるアクリロニトリル系重合体10部を48%のチオシアン酸ナトリウム水溶液90部に溶解した紡糸原液を、常法に従って紡糸、延伸(全延伸倍率:10倍)した後、乾球/湿球=120℃/60℃の雰囲気下で乾燥後、湿熱処理を経て、単繊維繊度0.9dtexの原料繊維aを得た。原料繊維aに、20%ヒドラジン水溶液中、98℃で5時間架橋導入処理を行い、水洗した。次に、3%硝酸水溶液中、90℃で2時間酸処理を行った。続いて3%水酸化ナトリウム水溶液中、90℃で2時間加水分解処理を行い、水洗、乾燥し、繊維長0.25mmにカットを行って、短繊維状の収着剤を得た。得られた収着剤は、繊維径3dtex、塩型カルボキシル基量6.2meq/g、飽和吸湿率32%であった。
【0071】
得られた収着剤20部、エレクトロストリッパーF(陰イオン性界面活性剤、固形分70%:花王(株)製)0.07部、スノーテックスO(コロイダルシリカ、固形分20%:日産化学工業(株)製)7.5部、硫酸アンモニウム1.5部および純水80部を混合し、10分間撹拌した後、脱水、乾燥し、電着処理を行った。一方、伝熱面となるアルミニウム板(厚み0.15mm)にアルカリ脱脂剤により脱脂処理を施し、接着剤ルビロン602(トーヨーポリマー(株)製)を片面15g/mとなるように両面に塗布した。この接着剤上に、アップ法にて、電圧25kV、電極間距離10cmの条件で収着剤を電着加工した。次いで、接着剤を硬化させるため100℃、5分間加熱し、さらに150℃、5分間加熱を行った後、余分な繊維を取り除いた。得られた金属板の収着剤付着量、飽和吸湿量、3分間吸湿量、流水脱落率を表1に示す。また、得られた金属板の断面をSEMによって観察し、収着剤の一部分が接着剤から露出した状態で接着されていることを確認した。
【0072】
[実施例2]
実施例1の収着剤の製造工程において、加水分解処理後に酸処理を行ってカルボキシル基を一旦H型とした後、水酸化カリウムで処理して、カウンターカチオンをカリウムに変えた以外は同様にして、短繊維状の収着剤を得た。得られた収着剤は、繊維径3dtex、繊維長0.25mm、塩型カルボキシル基量5.6meq/g、飽和吸湿率34%であった。得られた収着剤を用いて実施例1と同様にして電着加工を施した。得られた金属板の収着剤付着量、飽和吸湿量、3分間吸湿量、流水脱落率を表1に示す。また、得られた金属板の断面をSEMによって観察し、収着剤の一部分が接着剤から露出した状態で接着されていることを確認した。
【0073】
[実施例3]
2リットルの重合槽に水1081部を入れ、60℃まで昇温を行い還元剤としてピロ亜硫酸ナトリウム6.2部を添加した。次に、アクリロニトリル450部およびアクリル酸メチル50部のモノマー混合溶液、及び過硫酸アンモニウム5部を水100部に溶解した酸化剤水溶液をそれぞれ2時間かけて滴下し重合を行い、さらに80℃に昇温し2時間後重合を行った。反応終了後、撹拌を継続しながら室温まで冷却することにより平均粒子径が42μmの凝集体状粒子であるアクリロニトリル系重合体を得た。
【0074】
得られた重合体100部に60%ヒドラジン50部および水850部を混合し、90℃で3時間架橋導入処理を行い、さらに、100部の水酸化ナトリウムを添加し、120℃で5時間加水分解処理を行い、水洗、乾燥し、凝集体粒子状の収着剤を得た。得られた収着剤は、平均粒子径51μmであり、塩型カルボキシル基量7.2meq/g、飽和吸湿率41%であった。得られた収着剤を用いて実施例1と同様にして電着加工を施した。得られた金属板の収着剤付着量、飽和吸湿量、3分間吸湿量、流水脱落率を表1に示す。また、得られた金属板の断面をSEMによって観察し、収着剤の一部分が接着剤から露出した状態で接着されていることを確認した。
【0075】
[実施例4]
メタクリル酸/p−スチレンスルホン酸ソーダ=70/30の水溶性重合体300部及び硫酸ナトリウム30部を6595部の水に溶解し、櫂型撹拌機付きの重合槽に仕込んだ。次にアクリル酸メチル2700部およびジビニルベンゼン300部に2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)15部を溶解して重合槽に仕込み、60℃で2時間懸濁重合を行い、球状のアクリロニトリル系重合体粒子を得た。該粒子100部を水900部中に分散し、これに100部の水酸化ナトリウムを添加し、90℃で2時間加水分解反応を行った後、水洗、乾燥し、球状粒子状の収着剤を得た。得られた収着剤は平均粒子径が45μmであり、塩型カルボキシル基量5.2meq/g、飽和吸湿率35%であった。得られた収着剤を用いて実施例1と同様にして電着加工を施した。得られた金属板の収着剤付着量、飽和吸湿量、3分間吸湿量、流水脱落率を表1に示す。また、得られた金属板の断面をSEMによって観察し、収着剤の一部分が接着剤から露出した状態で接着されていることを確認した。
【0076】
[比較例1]
反応槽にラウリル硫酸ナトリウム1部、過硫酸アンモニウム3部およびイオン交換水350部を仕込み、温度70℃まで昇温し、70℃に保ち攪拌しながら反応槽内にメチルアクリレート35部、ブチルアクリレート40部、ジビニルベンゼン15部、メタクリル酸5部、p−スチレンスルホン酸ナトリウム5部、ポリエチレングリコール(23モル)モノアクリレート3部および脱イオン水50部を滴下して重合を開始する。これら単量体類の滴下は30分間で終了する様に滴下速度を調整する。滴下終了後2時間70℃に保って重合を行ない、重合体エマルジョンを得た。得られた重合体エマルジョンは、固形分21%、平均粒子径は0.03μmの極めて微細なものであった。
【0077】
得られた重合体エマルジョン480部に、水酸化カリウム45部を水475部に溶解した溶液を添加し、95℃で48時間さらにリフラックス条件で8時間加水分解反応を行なった。加水分解後の混合溶液は、セルロース半透膜に入れ、水中に浸し脱塩を行なうことにより、エマルジョン状の収着剤を得た。得られたエマルジョンの固形分は12%であり、平均粒子径は0.04μmと非常に小さなものであった。
【0078】
得られたエマルジョン状の収着剤300部に、アクリル酸10部、架橋性のジアジリジン化合物であるのケミタイトDZ((株)日本触媒製)を5部、開始剤として過硫酸アンモニウム0.5部を加えた混合液を得た。この混合液の中に、上記実施例で用いたのと同じ脱脂済みアルミニウム板を浸漬させた。過剰の液を圧空により吹き落とした後、120℃の熱風乾燥機の中で16時間加熱乾燥を行い、収着剤を付与した金属板を得た。得られた金属板の収着剤付着量、飽和吸湿量、3分間吸湿量、流水脱落率を表1に示す。
【0079】
[比較例2]
比較例1において、ケミタイトDZ((株)日本触媒製)を20部とした以外は同様にして、収着剤を付与した金属板を得た。得られた金属板の収着剤付着量、飽和吸湿量、3分間吸湿量、流水脱落率を表1に示す。
【0080】
[比較例3]
比較例1の収着剤を付与した金属板に対して、再度混合液中への浸漬、乾燥を4回繰り返して、収着剤付着量を増やした金属板を作成した。得られた金属板の収着剤付着量、飽和吸湿量、3分間吸湿量、流水脱落率を表1に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
実施例1、2、4では良好な特性の金属板が得られ、該金属板を伝熱面とすることで優れた性能の収着モジュールが得られることがわかる。実施例3では、流水脱落率が他の実施例に比べて高くなったが、これは収着剤が凝集体状であることから、凝集体の崩壊によるものと思われる。比較例1は、本発明とは異なり、収着剤と架橋剤の混合物を金属板にコーティングする方法で加工したものであり、3分間吸湿量については本発明にやや劣り、流水脱落率が高く、実用には適さない。一方、比較例2は、比較例1に対して架橋剤量を増量しているため、流水脱落率は低くなっているが、3分間吸湿量が不十分となった。比較例3は、収着剤付着量が多いので3分間吸湿量は高くなるが、流水脱落率が非常に高く、耐水性の悪いものとなった。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】両面に収着剤層を形成してなる波型フィンを有する収着式熱交換モジュールを示す。
【図2】両面に収着剤層を形成してなるコルゲートフィンと、アルミコルゲートとを直交させた収着式熱交換モジュールを示す。
【図3】伝熱チューブとこれに直角に交叉し、等間隔かつ並行にもうけられたフィンよりなる収着式熱交換モジュールの模式図を示す。
【符号の説明】
【0084】
1 収着剤層
2 アルミフィン
3 収着剤層を形成してなる波型フィン
4 熱交換流体が流れるチューブ
5 顕熱交換用のコルゲート成型アルミ板層
6 潜熱交換、吸湿・放湿のための収着剤層を形成してなるコルゲート成型アルミ板層
7 潜熱交換用の空気の流れ
8 顕熱交換用の空気の流れ
9 収着剤層を形成してなる伝熱銅チューブ
10 伝熱銅チューブ
11 収着剤層を形成してなるアルミフィン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱交換器の伝熱面上に収着剤層を設けてなる収着モジュールにおいて、該収着剤層が伝熱面上に塗布された接着剤上に塩型カルボキシル基1〜12meq/gおよび架橋構造を有する有機高分子からなる短繊維状および/または粒子状の収着剤を接着させて形成されたものであって、かつ、該収着剤層の単位面積当たりの3分間吸湿量が2g/m以上であり、流水脱落率が10%以下である収着モジュール。
【請求項2】
収着剤層において、収着剤の一部分が接着剤から露出していることを特徴とする請求項1に記載の収着モジュール。
【請求項3】
収着剤を電着加工によって接着させたことを特徴とする請求項1または2に記載の収着モジュール。
【請求項4】
熱交換器の伝熱面上に接着剤を塗布し、当該塗布面に塩型カルボキシル基1〜12meq/gおよび架橋構造を有する有機高分子からなる短繊維状および/または粒子状の収着剤を電着加工することを特徴とする収着モジュールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−281281(P2008−281281A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−126194(P2007−126194)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【出願人】(000004053)日本エクスラン工業株式会社 (58)
【Fターム(参考)】