収納部用前板
【課題】 基材を彫り込んだように見える取手構造を容易且つ安価に実現することが可能な収納部用前板を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明にかかる収納部用前板(前板102)の構成は、基材112と、基材の前面112aの面内に形成された溝116と、溝に挿入され窪み部128および手掛部126を有する埋込部材120と、シートまたは薄板からなり基材の前面に貼着される化粧材114と、を備え、基材の前面と埋込部材の前端面(手掛部126の前面126c、および下壁部122の前面122a)とは面一に形成されており、化粧材は基材の前面および埋込部材の前端面を覆うことを特徴とする。
【解決手段】 本発明にかかる収納部用前板(前板102)の構成は、基材112と、基材の前面112aの面内に形成された溝116と、溝に挿入され窪み部128および手掛部126を有する埋込部材120と、シートまたは薄板からなり基材の前面に貼着される化粧材114と、を備え、基材の前面と埋込部材の前端面(手掛部126の前面126c、および下壁部122の前面122a)とは面一に形成されており、化粧材は基材の前面および埋込部材の前端面を覆うことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、収納部の前面に配置され、収納部の開閉に用いられる取手を有する収納部用前板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
引出、開き戸、引き戸などの収納部の前板には取手(引手とも称される)が設けられ、使用者がこの取手に手を掛けて前後方向または左右方向にそれを引っ張ることにより、収納部が開閉される。前板の取手としては、コの字状の金具を取り付ける旧来の構造や、折り返した形状の取手用金具を前板の上縁に取り付ける構造(いわゆるライン取手)、前板の面内に取手用部材をはめ込んだ構造(以下、取手構造と称する)などがある。
【0003】
上記の取手構造としては、例えば特許文献1に、基材である戸板に設けられた長穴状の取付溝に、押出成型の樹脂部材からなる引手本体(取手用部材)を嵌め込んだ取手構造が開示されている。かかる特許文献1では、引手本体の両端にその端面を覆うホルダ(キャップ)が嵌め込まれる。また同様に特許文献2においても、長尺の取手本体(取手用部材)と、その両側部に嵌着されるキャップとを、被取付板(基材)に設けられた長孔に嵌めこむ取手構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−076278号公報
【特許文献2】特開2006−204500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
収納部において前面に配置される前板(収納部用前板)は、使用者にもっとも観察される部材であるため収納部の美観に最も大きな影響を及ぼす。特に、前板において取手が必要以上に目立ってしまったり、前板との統一感がなかったりすると、収納庫全体の美観が損なわれ、使用者が違和感を覚えてしまう。このため、収納部用前板に設けられる取手においても、機能性はもちろんのことデザイン性も重要視される。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1および2のいずれの取手構造においても、外観上、基材に取手用部材が嵌め込まれていることが明らかに見て取れるため、基材との統一感に乏しく、美観に優れているとは言い難い。また特許文献1および2の構成であると、取手用部材およびキャップが前板の表面より突出しているため、視覚的に凹凸が感じられ、使用者は雑然とした印象を受けるおそれがある。
【0007】
上述した問題を解決する方法として、前板の基材に木材を用い、基材自体に窪みを切削して取手を形成することが考えられる。このような構成であれば、取手用部材やキャップが必要ないため、当然にしてそれらを取り付ける必要がない。したがって、前板において取手用部材およびキャップが突出することがなく、単に手掛け用の窪みがあるだけになる。このため、収納部を簡潔で高級感のある外観にすることができ、優れた美観が得られる。
【0008】
上記のように前板に窪みによって取手を形成する場合には、手掛けのための折り返し(以下、手掛部と称する)を作る必要がある。手掛部を作るには、窪みの中の上面を前板表面より上方にもぐりこんだように彫り込まなくてはならず、そのような加工はNC旋盤やフライス盤などによる機械加工では困難である。そこで一案として、前板においてその上縁から窪みの位置までを帯状に切除し、切除した部品の断面を掘り込んで手掛部を形成した上で、かかる部品を前板に戻して接着することが考えられる。しかし、この製造方法であると、多くの手間を要し、製造コストの増大を招いてしまうため、採用が難しい。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑み、基材を彫り込んだように見える取手構造を容易且つ安価に実現することが可能な収納部用前板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明にかかる収納部用前板の代表的な構成は、基材と、基材の前面の面内に形成された溝と、溝に挿入され窪み部および手掛部を有する埋込部材と、シートまたは薄板からなり基材の前面に貼着される化粧材と、を備え、基材の前面と埋込部材の前端面とは面一に形成されており、化粧材は基材の前面および埋込部材の前端面を覆うことを特徴とする。
【0011】
上記構成によれば、基材の溝に埋込部材を挿入することにより、かかる基材に窪み部を容易に形成することができる。そして、埋込部材の前端面と基材の前面とが面一であり、そこが化粧材によって覆われていることにより、前板の外観からは埋込部材の窪み部しか観察されなくなり、あたかも基材を彫り込んだように見える。このため、収納部の外観に高級感を与えることができる。このように本発明によれば、従来の機械加工による複雑な工程を必要とすることなく窪み部を形成することができるため、製造工程の複雑化を招くことがなく、美観に優れた収納部用前板を容易且つ安価に製造することが可能となる。
【0012】
当該収納部用前板は、埋込部材の端部に取り付けられ埋込部材と溝との間隙を埋める端部部材を更に備え、基材の前面と端部部材の前面とは面一に形成されているとよい。かかる構成により、溝に埋込部材を挿入した際にそれらの間に生じる隙間が端部部材によって埋められる。したがって、基材に貼付された化粧材が間隙に向かって窪むのを防ぎ、前板ひいては収納部の美観を良好に保つことができる。
【0013】
埋込部材は長尺の押出成型材を切断して形成しており、端部部材は埋込部材と接合する面が平面であって、化粧材には埋込部材の窪み部に対応する位置に矩形の開口を設けているとよい。このような埋込部材と端部部材の構成によって手かけのための開口を矩形にすることができ、そして開口が矩形をしていることにより意匠的に優れたものとすることができる。
【0014】
埋込部材は、前端面の下端から下方に向かって延びる下フランジ部を有し、溝は、埋込部材の厚みとほぼ同じ深さを有する深溝部と、深溝部の下方に形成され下フランジ部の厚みとほぼ同じ深さを有する浅溝部とを有していてもよい。
【0015】
上記のように埋込部材の前端面の下端にフランジ部を設けることにより、かかる前端面が拡大される。したがって、埋込部材において化粧材との接触面積ひいては接着面積を増大させることができ、それらを貼着する際の接着強度の向上を図れる。またかかるフランジ部を設ければ、埋込部材と溝部との接触面積も増大するため、例えばフランジ部の背面に接着材を塗布してそれらを接着すれば、接合強度の向上を図ることも可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、基材を彫り込んだように見える取手構造を容易且つ安価に実現することが可能な収納部用前板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態にかかる収納部用前板を備える収納部の正面斜視図である。
【図2】図1のA−A断面斜視図である。
【図3】埋込部材の詳細図である。
【図4】本実施形態にかかる前板の製造方法を説明する図である。
【図5】本実施形態にかかる前板の製造方法を説明する図である。
【図6】端部部材の詳細図である。
【図7】本実施形態にかかる前板の製造方法を説明する図である。
【図8】本実施形態にかかる前板の製造方法を説明する図である。
【図9】本実施形態にかかる前板の製造方法を説明する図である。
【図10】本実施形態にかかる前板の製造方法を説明する図である。
【図11】他の形状の埋込部材を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。なお、以下の実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。
【0019】
以下、本実施形態にかかる収納部用前板を備える収納部として引出を例示して説明する。ただし、これに限定するものではなく、本実施形態の収納部用前板は、開き戸や引き戸等、前板(基材)に取手を必要とする他の収納部にも当然にして適用可能である。また理解を容易にするために、本実施形態では、収納部について説明した後に、本実施形態の収納部用前板について詳述する。
【0020】
(収納部100)
図1は、本実施形態にかかる収納部用前板を備える収納部100の正面斜視図である。図1に示す収納部100は、キャビネット(不図示)に収容されて被収納物(不図示)を収納する引出である。かかる収納部100は、前面を構成する本実施形態の収納部用前板(以下、前板102と称する)、側面を構成する2枚の側板104aおよび側板104b、底面を構成する底板106、および背面を構成する背板108を備える。これらのうち、前板102には、収納部100を開閉するための取手部110(取手構造)が設けられている。図1に示すように、取手部110は、あたかも前板102を掘り込んで形成されたような外観を有する。
【0021】
(前板102)
図2は、図1のA−A断面斜視図である。図2に示すように、前板102は、その芯材となる基材112と、かかる基材112の前面112a(図3(e)参照)に配置される化粧材114とを備える。基材112には、その前面112aの面内に溝116が形成されていて、後に説明するように溝116には埋込部材120が挿入される。この溝116を切削(掘穿)によって容易に形成するために、基材112には木材を用いることが好ましい。化粧材114は、基材112の前面に貼着されるシート(または薄板)である。
【0022】
図3は、埋込部材120の詳細図であり、図3(a)は側面図(断面図)、図3(b)は上面図、図3(c)は正面図、図3(d)は下面図であり、図3(e)は埋込部材120の溝116への挿入を説明する断面図である。図3に示す埋込部材120は、すべての位置での短手方向の切断面が同一の断面形状を有する長尺部材である。このため、埋込部材120は押出成形によって安価に製造することが可能であり、低コスト化を図ることができる。埋込部材120としては樹脂材料を好適に用いることができるが、これに限定するものではなく、アルミ等の金属材料を押出成型によって加工したものを用いてもよい。
【0023】
図3(a)に示すように、埋込部材120は、数字の『2』のような断面形状を有する。詳細には、埋込部材120は下方から順に、溝116の下面116b(図2参照)に接触する下壁部122、下壁部122の前面122a近傍に連続し上方に延びる内壁部124、および内壁部124が上部で前方に向かって折り返すことにより形成される手掛部126を有する。そして、内壁部124および手掛部126によって囲まれた空間に窪み部128が形成されている。これにより、使用者は、窪み部128に指をさしこみ、その指を手掛部126に引っ掛けることにより、収納部100の開閉を行うことが可能となる。すなわち窪み部128および手掛部126によって、埋込部材120を手掛け用の取手部110として用いることができる。
【0024】
本実施形態において、手掛部126は、上端から後方に向かって延びる上壁部126aと、前端から上方に向かって延びる前壁部126bとを有する。これらにより、埋込部材120の強度の向上を図ることができる。また図3(a)に示すように上壁部126aおよび前壁部126bがともに溝116内において上面116a(図2参照)に接触することにより、それらの接触面積が増大するため設置安定性を向上させることが可能である。
【0025】
更に、上壁部126aおよび下壁部122の外側には、それぞれ複数の爪部129が形成されている。これにより、爪部129が溝116の上面116aおよび下面116bに掛止される。このため、収納部100を開ける際(埋込部材120を引っ張った際)における溝116からの埋込部材120の脱落を好適に防ぐことができ、設置安定性の更なる向上が図れる。
【0026】
図3(e)に示すように、埋込部材120は、溝116に矢印方向に挿入されると下壁部122が撓む。これにより、下壁部122が下面116bに対して、上壁部126aが上面116aに対して付勢される。この状態において、基材112の前面112aと、埋込部材120の前端面、すなわち手掛部126の前面126cならびに下壁部122の前面122aとが面一になるようにする(以下、手掛部126の前面126cと、下壁部122の前面122aを併せて、埋込部材120の前端面と称する)。そして、基材112の前面112aおよび埋込部材120の前端面を覆うように化粧材114を基材112に貼着すると、図2に示す状態となり取手部110が形成される。
【0027】
上記説明したように、本実施形態にかかる前板102によれば、基材112の溝116に埋込部材120を挿入することにより、従来の機械加工による複雑な工程を必要とすることなく手掛部126および窪み部128を容易に形成することができる。そして、埋込部材120の前端面と基材112の前面112aとが面一であり、そこを化粧材114によって被覆することにより、前板102の外観からは埋込部材120の窪み部128しか観察されなくなり(図1および図2参照)、取手部110はあたかも基材112を彫り込んで形成したように見える。したがって、製造工程の複雑化を招くことなく、美観に優れた収納部用前板102(102)を容易且つ安価に製造することが可能となる。
【0028】
(前板102の製造方法)
次に、上記説明した前板102の製造方法について説明する。図4〜図10は、本実施形態にかかる前板102の製造方法を説明する図である。なお、以下に説明する製造方法において用いられる工具や材料、加工方法は理解を容易にするための例示にすぎず、必ずしもこれに限定するものではない。
【0029】
前板102の製造では、まず基材112の前面112aの面内に溝116を形成する。溝116の形成では、図4に例示するようにNC旋盤(全体は不図示)のバイト180(回転ビットとも称される)により、基材112に溝116を彫る。溝116は、好ましくは2段彫りで形成されるとよく、1段目は粗いバイトを、2段目は精密バイトを用いて彫ることにより、加工精度を担保することができる。なお、当然であるが、この溝116の形成時には、基材112を貫通しないよう、埋込部材120の厚みt(図3(a)参照)とほぼ同じ深さまで彫る。
【0030】
上述したように、本実施形態のNC旋盤ではフライス盤(不図示)のように回転ビット(バイト180)によって溝116を形成するため、図4に示すように、溝116の角部に、バイト180の曲率半径をほぼ同じ曲率半径を有する湾曲部116c(いわゆるアール)が形成される。これに対し、図3に示す埋込部材120は押出成型材を切断して製造されるため切断面は平坦である。故に、図4に示す溝116に埋込部材120を単に挿入しただけでは、埋込部材120の端部120aおよび120b(図3参照)と溝116との間に間隙が生じてしまう。
【0031】
そこで本実施形態では、埋込部材120の端部120aおよび120bに、図5(a)に示す端部部材130を取り付ける。図6は、端部部材130の詳細図であり、図6(a)は端部部材130の上面図、図6(b)は端部部材130の正面図、図6(c)は130の側面図である。
【0032】
図6に示すように、端部部材130は、ブロック状の部材であり、その前面130cは、基材112の前面112a(埋込部材120の前端面)と面一に形成されている。また埋込部材120と対向する正面130aは、埋込部材120の端部120aおよび120bと同様に平坦面である。一方、端部部材130において、埋込部材120と対向しない側の背面130bの角は、溝116の湾曲部116c(すなわちバイト180)とほぼ同じ曲率半径で湾曲し、丸みを帯びている。このような端部部材130を埋込部材120の端部120aおよび120bに取り付けることにより、埋込部材120を溝116に挿入した際に生じる間隙を埋めることができる。したがって、後述する化粧材114が間隙に向かって窪むのを防ぎ、前板102(収納部100)の美観を良好に保つことが可能となる。
【0033】
なお、端部部材130の材質としては、埋込部材120と同じ材料を用いてもよいし、異なる材料を用いてもよいが、好ましくは柔軟性や弾性を有する材料を用いるとよい。これにより、端部部材130が溝116と埋込部材120との間隙の形状に追従して変形し、間隙をより好適に埋めることができる。
【0034】
ここで、端部部材130を埋込部材120の端部120aおよび120bに取り付けることにより、埋込部材120と基材112との間に生じる間隙を埋めることができるものの、単に端部部材130を埋込部材120に接着すると、端部部材130の正面130aが窪み部128に露出した状態になる。すると、使用者が取手部110を側方から見た際に端部部材130の正面130aを容易に観察できてしまうため、かかる正面130aと、前板102の前面すなわち化粧材114との調和がとれていないと、使用者が違和感を覚えるおそれがある。
【0035】
そこで本実施形態では、埋込部材120と端部部材130との間に、化粧材114と同じ色調や模様(本実施形態では木目調)の被覆シート140を配置する。そして、端部部材130の正面130aに被覆シート140を貼着し、それを介して埋込部材120の端部120aおよび120bと端部部材130の正面130aとを貼着すると、図5(b)に示す状態となる。これにより、使用者が取手部110を側方から見た際に観察されるのは被覆シート140となるため、化粧材114との調和がとれ、使用者にそれらを一体のものと感じさせることができる。埋込部材120、端部部材130および被覆シート140の貼着方法としては、接着剤や接着テープ等、既知の方法を用いることができる。
【0036】
なお、本実施形態では、端部部材130によって間隙を埋める場合を例示して説明したが、上述した構成は一例であり、これに限定するものではない。例えば、溝116を彫る旋盤に角ノミ盤を用いれば、アールを有さない四角形の溝を形成することが可能である。したがって、埋込部材120と基材112との間に間隙が生じづらくなるため、端部部材130を不要とすることができる。また埋込部材120と溝116との間隙を埋めるのは、必ずしも端部部材130でなくてもよく、パテやシーリング材等の充填材を用いてもよい。更に、基材112の前面112aに貼着される化粧材114が硬質材料からなるシート、すなわち薄板である場合には、埋込部材120と基材112との間隙を埋めなくてもよい。化粧材114が硬質なシートであれば、化粧材114の窪みが生じにくいからである。
【0037】
次に、図5(b)に示すように端部部材130および被覆シート140を取り付けた(接着した)埋込部材120を、図5(c)に示すように溝116に挿入する。このとき、溝116の内面(図2に示す上面116a、下面116bおよび側面116c)、または埋込部材120および端部部材130において基材112の内面と対向する面の少なくとも一方に接着材(不図示)を塗布しておくとよい。これにより、それらの接着強度を高めることができ、溝116からの埋込部材120や端部部材130の脱落を効果的に防ぐことが可能となる。
【0038】
なお、図5(c)に示す状態において、溝116と端部部材130との間に隙間が生じたら、そこにパテ(不図示)を充填する。溝116と端部部材130との間に隙間が生じなかった場合には、当然にしてこの工程は不要である。また上記説明では、端部部材130および被覆シート140を取り付けた埋込部材120を溝116に挿入する場合を例示したが、これに限定するものではない。すなわち埋込部材120、端部部材130および被覆シート140は必ずしもすべてを一体にしてから溝116に挿入する必要はなく、例えば、埋込部材120と、被覆シート140を貼着した端部部材130とを別々に溝116に挿入してもよいし、被覆シート140を貼着した埋込部材120と、端部部材130とを別々に溝116に挿入してもよい。
【0039】
図5(c)に示すように埋込部材120(厳密には、埋込部材120、端部部材130および被覆シート140)を溝116に挿入したら、基材112の前面112aと、埋込部材120の前端面とを平坦にする(面一にする)。以下、特に断らない限り、基材112の前面112a、および埋込部材120の前端面(前面122a、126c)を総じて、基材112の前面112a等と称する。
【0040】
上記の平坦化では、図7に例示するように、ワイドサンダー182(ベルトサンダーとも称される)により、基材112の前面112a等を研磨(研削)する。これにより、基材112の前面112a等が面一な状態になる(図3(e)参照)。この平坦化すなわち研磨工程においても、1回目は目が粗い研磨ベルト(例えば♯80)を、2回目は目が細かい研磨ベルト(例えば♯150)を用いて2段研磨を行うことが好ましい。
【0041】
なお、埋込部材120を溝116に挿入した状態(図5(c)参照)において、図3(e)に示すように基材112の前面112a等が面一な状態であったら、上述した研磨工程は必ずしも行う必要がないが、加工精度を向上するためにはやはり実施することが好ましい。また上記構成では、基材112の前面(表面)および埋込部材120の前端面(基材112の前面112a等)の両方を研磨(研削)する構成を例示したが、これに限定するものではなく、基材112の前面112aまたは埋込部材120の前端面の一方に対して突出している他方のみを研磨する構成としてもよい。
【0042】
次に、図8(a)に示すように、手掛部126の前面126cと、下壁部122の前面122aの間(図3(a)参照)、すなわち内壁部124の前面にマスキングテープ184を貼付して、基材112の前面112a等に接着剤188(図8(b)にて破線で図示)を塗布する。このように内壁部124の前面をマスキングしておくことにより、内壁部124への接着剤188の付着を防ぐことができる。
【0043】
接着剤188の塗布には、図8(b)に例示するようにスプレーガン186を用いるとよい。これにより、基材112の前面112a等に薄く且つ均一に接着剤188を塗布することができる。ただし、かかる構成に限定するものではなく、例えばローラ(不図示)を用いて接着剤188を塗布してもよい。これによれば、接着剤188の窪み部128への進入が生じにくいため、マスキングテープ184により窪み部128を封止する工程を省略することができる。また接着剤188は、基材112の前面112a等ではなく、それに貼着される化粧材114の裏面(前面112aと当接する側の面)に塗布されていてもよい。これによれば、スプレーガン186を用いても接着材の128への進入が起こらないため、スプレーガン186による利点を得つつ、マスキングテープ184により窪み部128を封止する工程を省略することが可能である。
【0044】
接着剤188を塗布したら、基材112の前面112a等に化粧材114を貼着する。化粧材114の接着では、図9に例示するように、接着剤188を塗布した基材112の前面112a等に化粧材114を被せ、その上に当て板192を当てて、真空プレス装置190によって加熱圧着する。真空プレス装置190では、当て板192と当接する面にゴムシート194が配置されている。そして、基材112を載置された架台196に設けられた孔196aから真空引きすることにより、大気圧でゴムシート194が締め付けられ、かかるゴムシート194によって化粧材114が均一に加圧される。
【0045】
このとき、基材112に当て板192が載せられていることにより、加圧時に化粧材114に筋が生じることを防止できる。またこのように化粧材114上(基材112上)に当て板192を載せた状態であっても、真空プレスであれば高い接着強度を得ることができる。なお、図9に示すように、上述した化粧材114の接着時において、基材112の前面112a等には化粧材114が貼着(接着)されるが、基材112の端面112bは露出した状態である。
【0046】
続いて、図10(a)に例示するように、基材112の前面112a等に貼着された化粧材114のうち、窪み部128に対応する領域114a(ハッチングにて図示)を切断工具198によって切断し、かかる窪み部128を開口させる。なお、図10(a)では切断工具198としてカッターナイフを例示しているが、これに限定するものではなく、化粧材114を切断可能な工具であればどのようなものを用いてもよい。
【0047】
ここで、埋込部材120は長尺の押出成型材を切断して形成しており、端部部材130は埋込部材120と接合する面が平面である。これにより、化粧材114形成された開口は矩形となる。このように、開口を矩形とすることにより、意匠的に優れたものとすることができる。
【0048】
上記の化粧材114の切断を容易にするために、本実施形態では、埋込部材120において、下壁部122の前面122aの上端と、内壁部124の内面の下端との間に、段部120cを形成している(図3(a)参照)。段部120cの幅は極めて狭くてよく、例えば1mm程度でよい。かかる構成により、図10(b)に示すように、化粧材114において埋込部材120の窪み部128に対応する領域(図10(a)参照)を切断工具198によって切断する際に段部120cをガイドとして利用することができ、切断時の作業効率の向上を図ることができる。
【0049】
次に、素材が露出している基材112の端面112bに、縁貼り機を用いて木口材(不図示)を貼付する。木口材には、例えばABS等からなる厚さ3〜5mm程度の樹脂製のテープを好適に用いることができる。そして、窪み部128を封止していたマスキングテープ184(図8参照)を剥離することにより、図1に示す前板102が製造される。
【0050】
なお、木口材の貼付は、基材112に化粧材114を貼付する工程以降であれば、いずれのタイミングで行ってもよく、マスキングテープ184の剥離も、化粧材114における埋込部材120の窪み部128に対応する領域を切断する工程以降であれば、どのタイミングで行ってもよい。
【0051】
(埋込部材の他の形状)
図11は、他の形状の埋込部材を例示する図である。なお、上記説明した構成要素と実質的に同一の機能や構成を有する要素については、同一の符号を付して説明を省略する。図3(a)に示す埋込部材120では、その前端面(手掛部126の前面126c、および下壁部122の前面122a)のうち、下端の面は下壁部122の前面122aだけであった。これに対し、図11(a)に示す埋込部材220は、その前端面(手掛部126の前面126c、および下壁部122の前面122a)の下端、すなわち下壁部122の前面122aから下方に向かって延びる下フランジ部222(フランジ部)を有する。
【0052】
同じく図11(a)に示すように、基材112において、埋込部材220が挿入される溝216は、埋込部材220の厚みt1とほぼ同じ深さを有する深溝部216aと、かかる深溝部216aの前端且つ下端に延設され、下フランジ部222の厚みt2とほぼ同じ深さを有する浅溝部216bとからなる。これにより、埋込部材220を溝216に挿入すると、下フランジ部222は浅溝部216bに、埋込部材220の下フランジ部222以外の部位は深溝部216aに配置される。
【0053】
上述したように埋込部材220に下フランジ部222を設けることにより、埋込部材220の前端面(下側の前面122a)を下フランジ部222の前面分拡大することができる。これにより、埋込部材220の前端面と化粧材114との接触面積ひいては接着面積が増大するため、基材112に化粧材114を貼着した際(図2参照)に、埋込部材220の前面122aと化粧材114の接着強度を向上させることができる。したがって、基材112からの化粧材114の剥離を好適に抑制することができ、耐久性を向上させることが可能である。また下フランジ部222により、埋込部材220と溝216部との接触面積も拡大されるため、下フランジ部222の背面または浅溝部216bの側面のいずれか一方に接着材(不図示)を塗布してそれらを接着することにより、接合強度の向上を図ることができる。
【0054】
また図3(a)に示す埋込部材120および図11(a)に示す埋込部材220では、手掛部126の前端から上端まで延びる前壁部126bが設けられていたのに対し、図11(b)に示す埋込部材320では、その前端面の上端、すなわち手掛部126の前面126cから、手掛部126の上端を越えて更に上方に向かって延びる上フランジ部322が設けられている。なお、見方を変えれば、上フランジ部322は、前壁部126bを手掛部126の上端を越えて更に延長させたものと捉えることもできる。
【0055】
そして、同じく図11(b)に示すように、基材112において、埋込部材320が挿入される溝316は、深溝部216aおよび浅溝部216bに加えて浅溝部316aを更に備える。浅溝部316aは、上フランジ部322の厚みt2とほぼ同じ深さを有し、深溝部216aの前端且つ上端に延設される溝である。これにより、埋込部材320を溝316に挿入すると、上フランジ部322は浅溝部316aに、下フランジ部222は浅溝部216bに、埋込部材220の下フランジ部222および上フランジ部322以外の部位は深溝部216aに配置される。このような構成によれば、埋込部材320の前端面が更に拡大され、埋込部材320の上部においても上述した利点を享受することができる。
【0056】
図11(c)は、図11(b)に示す埋込部材320を溝316に挿入する際の様子を例示する斜視図である。上記説明した前板102の製造方法において述べたように、基材112への溝116の形成工程においてNC旋盤によってバイト180を用いると、バイト180の曲率半径をほぼ同じ曲率半径を有する湾曲部116cが形成される(図4参照)。このため、深溝部216aならびに浅溝部216bおよび316aからなる2段の溝316を形成した場合には、図11(b)のように浅溝部216bおよび浅溝部316aの間に、アールを有する側溝部316bが形成されてしまう。
【0057】
上記の側溝部316bを埋めるために、図11(b)のような形状の埋込部材320を用いる際には、その端部に取り付けられる端部部材130にフランジ部132を設けるとよい。これにより、フランジ部132によって側溝部316bを埋めることができ、基材112に化粧材114を貼り付けた際の窪みの発生を防ぐことが可能となる。
【0058】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、収納部の前面に配置され、収納部の開閉に用いられる取手を有する収納部用前板に適用可能である。
【符号の説明】
【0060】
100…収納部、102…前板、104a…側板、104b…側板、106…底板、108…背板、110…取手部、112…基材、112a…前面、112b…端面、114…化粧材、114a…領域、116…溝、116a…上面、116b…下面、116c…湾曲部、120…埋込部材、120a…端部、120b…端部、120c…段部、122…下壁部、122a…前面、124…内壁部、126…手掛部、126a…上壁部、126b…前壁部、126c…前面、128…窪み部、129…爪部、130…端部部材、130a…正面、130b…背面、140…被覆シート、180…バイト、182…ワイドサンダー、184…マスキングテープ、186…スプレーガン、188…接着剤、190…真空プレス装置、192…当て板、194…ゴムシート、196…架台、196a…孔、198…切断工具、216…溝、216a…深溝部、216b…浅溝部、220…埋込部材、222…下フランジ部、316…溝、316a…浅溝部、316b…側溝部、320…埋込部材、322…上フランジ部
【技術分野】
【0001】
本発明は、収納部の前面に配置され、収納部の開閉に用いられる取手を有する収納部用前板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
引出、開き戸、引き戸などの収納部の前板には取手(引手とも称される)が設けられ、使用者がこの取手に手を掛けて前後方向または左右方向にそれを引っ張ることにより、収納部が開閉される。前板の取手としては、コの字状の金具を取り付ける旧来の構造や、折り返した形状の取手用金具を前板の上縁に取り付ける構造(いわゆるライン取手)、前板の面内に取手用部材をはめ込んだ構造(以下、取手構造と称する)などがある。
【0003】
上記の取手構造としては、例えば特許文献1に、基材である戸板に設けられた長穴状の取付溝に、押出成型の樹脂部材からなる引手本体(取手用部材)を嵌め込んだ取手構造が開示されている。かかる特許文献1では、引手本体の両端にその端面を覆うホルダ(キャップ)が嵌め込まれる。また同様に特許文献2においても、長尺の取手本体(取手用部材)と、その両側部に嵌着されるキャップとを、被取付板(基材)に設けられた長孔に嵌めこむ取手構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−076278号公報
【特許文献2】特開2006−204500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
収納部において前面に配置される前板(収納部用前板)は、使用者にもっとも観察される部材であるため収納部の美観に最も大きな影響を及ぼす。特に、前板において取手が必要以上に目立ってしまったり、前板との統一感がなかったりすると、収納庫全体の美観が損なわれ、使用者が違和感を覚えてしまう。このため、収納部用前板に設けられる取手においても、機能性はもちろんのことデザイン性も重要視される。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1および2のいずれの取手構造においても、外観上、基材に取手用部材が嵌め込まれていることが明らかに見て取れるため、基材との統一感に乏しく、美観に優れているとは言い難い。また特許文献1および2の構成であると、取手用部材およびキャップが前板の表面より突出しているため、視覚的に凹凸が感じられ、使用者は雑然とした印象を受けるおそれがある。
【0007】
上述した問題を解決する方法として、前板の基材に木材を用い、基材自体に窪みを切削して取手を形成することが考えられる。このような構成であれば、取手用部材やキャップが必要ないため、当然にしてそれらを取り付ける必要がない。したがって、前板において取手用部材およびキャップが突出することがなく、単に手掛け用の窪みがあるだけになる。このため、収納部を簡潔で高級感のある外観にすることができ、優れた美観が得られる。
【0008】
上記のように前板に窪みによって取手を形成する場合には、手掛けのための折り返し(以下、手掛部と称する)を作る必要がある。手掛部を作るには、窪みの中の上面を前板表面より上方にもぐりこんだように彫り込まなくてはならず、そのような加工はNC旋盤やフライス盤などによる機械加工では困難である。そこで一案として、前板においてその上縁から窪みの位置までを帯状に切除し、切除した部品の断面を掘り込んで手掛部を形成した上で、かかる部品を前板に戻して接着することが考えられる。しかし、この製造方法であると、多くの手間を要し、製造コストの増大を招いてしまうため、採用が難しい。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑み、基材を彫り込んだように見える取手構造を容易且つ安価に実現することが可能な収納部用前板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明にかかる収納部用前板の代表的な構成は、基材と、基材の前面の面内に形成された溝と、溝に挿入され窪み部および手掛部を有する埋込部材と、シートまたは薄板からなり基材の前面に貼着される化粧材と、を備え、基材の前面と埋込部材の前端面とは面一に形成されており、化粧材は基材の前面および埋込部材の前端面を覆うことを特徴とする。
【0011】
上記構成によれば、基材の溝に埋込部材を挿入することにより、かかる基材に窪み部を容易に形成することができる。そして、埋込部材の前端面と基材の前面とが面一であり、そこが化粧材によって覆われていることにより、前板の外観からは埋込部材の窪み部しか観察されなくなり、あたかも基材を彫り込んだように見える。このため、収納部の外観に高級感を与えることができる。このように本発明によれば、従来の機械加工による複雑な工程を必要とすることなく窪み部を形成することができるため、製造工程の複雑化を招くことがなく、美観に優れた収納部用前板を容易且つ安価に製造することが可能となる。
【0012】
当該収納部用前板は、埋込部材の端部に取り付けられ埋込部材と溝との間隙を埋める端部部材を更に備え、基材の前面と端部部材の前面とは面一に形成されているとよい。かかる構成により、溝に埋込部材を挿入した際にそれらの間に生じる隙間が端部部材によって埋められる。したがって、基材に貼付された化粧材が間隙に向かって窪むのを防ぎ、前板ひいては収納部の美観を良好に保つことができる。
【0013】
埋込部材は長尺の押出成型材を切断して形成しており、端部部材は埋込部材と接合する面が平面であって、化粧材には埋込部材の窪み部に対応する位置に矩形の開口を設けているとよい。このような埋込部材と端部部材の構成によって手かけのための開口を矩形にすることができ、そして開口が矩形をしていることにより意匠的に優れたものとすることができる。
【0014】
埋込部材は、前端面の下端から下方に向かって延びる下フランジ部を有し、溝は、埋込部材の厚みとほぼ同じ深さを有する深溝部と、深溝部の下方に形成され下フランジ部の厚みとほぼ同じ深さを有する浅溝部とを有していてもよい。
【0015】
上記のように埋込部材の前端面の下端にフランジ部を設けることにより、かかる前端面が拡大される。したがって、埋込部材において化粧材との接触面積ひいては接着面積を増大させることができ、それらを貼着する際の接着強度の向上を図れる。またかかるフランジ部を設ければ、埋込部材と溝部との接触面積も増大するため、例えばフランジ部の背面に接着材を塗布してそれらを接着すれば、接合強度の向上を図ることも可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、基材を彫り込んだように見える取手構造を容易且つ安価に実現することが可能な収納部用前板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態にかかる収納部用前板を備える収納部の正面斜視図である。
【図2】図1のA−A断面斜視図である。
【図3】埋込部材の詳細図である。
【図4】本実施形態にかかる前板の製造方法を説明する図である。
【図5】本実施形態にかかる前板の製造方法を説明する図である。
【図6】端部部材の詳細図である。
【図7】本実施形態にかかる前板の製造方法を説明する図である。
【図8】本実施形態にかかる前板の製造方法を説明する図である。
【図9】本実施形態にかかる前板の製造方法を説明する図である。
【図10】本実施形態にかかる前板の製造方法を説明する図である。
【図11】他の形状の埋込部材を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。なお、以下の実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。
【0019】
以下、本実施形態にかかる収納部用前板を備える収納部として引出を例示して説明する。ただし、これに限定するものではなく、本実施形態の収納部用前板は、開き戸や引き戸等、前板(基材)に取手を必要とする他の収納部にも当然にして適用可能である。また理解を容易にするために、本実施形態では、収納部について説明した後に、本実施形態の収納部用前板について詳述する。
【0020】
(収納部100)
図1は、本実施形態にかかる収納部用前板を備える収納部100の正面斜視図である。図1に示す収納部100は、キャビネット(不図示)に収容されて被収納物(不図示)を収納する引出である。かかる収納部100は、前面を構成する本実施形態の収納部用前板(以下、前板102と称する)、側面を構成する2枚の側板104aおよび側板104b、底面を構成する底板106、および背面を構成する背板108を備える。これらのうち、前板102には、収納部100を開閉するための取手部110(取手構造)が設けられている。図1に示すように、取手部110は、あたかも前板102を掘り込んで形成されたような外観を有する。
【0021】
(前板102)
図2は、図1のA−A断面斜視図である。図2に示すように、前板102は、その芯材となる基材112と、かかる基材112の前面112a(図3(e)参照)に配置される化粧材114とを備える。基材112には、その前面112aの面内に溝116が形成されていて、後に説明するように溝116には埋込部材120が挿入される。この溝116を切削(掘穿)によって容易に形成するために、基材112には木材を用いることが好ましい。化粧材114は、基材112の前面に貼着されるシート(または薄板)である。
【0022】
図3は、埋込部材120の詳細図であり、図3(a)は側面図(断面図)、図3(b)は上面図、図3(c)は正面図、図3(d)は下面図であり、図3(e)は埋込部材120の溝116への挿入を説明する断面図である。図3に示す埋込部材120は、すべての位置での短手方向の切断面が同一の断面形状を有する長尺部材である。このため、埋込部材120は押出成形によって安価に製造することが可能であり、低コスト化を図ることができる。埋込部材120としては樹脂材料を好適に用いることができるが、これに限定するものではなく、アルミ等の金属材料を押出成型によって加工したものを用いてもよい。
【0023】
図3(a)に示すように、埋込部材120は、数字の『2』のような断面形状を有する。詳細には、埋込部材120は下方から順に、溝116の下面116b(図2参照)に接触する下壁部122、下壁部122の前面122a近傍に連続し上方に延びる内壁部124、および内壁部124が上部で前方に向かって折り返すことにより形成される手掛部126を有する。そして、内壁部124および手掛部126によって囲まれた空間に窪み部128が形成されている。これにより、使用者は、窪み部128に指をさしこみ、その指を手掛部126に引っ掛けることにより、収納部100の開閉を行うことが可能となる。すなわち窪み部128および手掛部126によって、埋込部材120を手掛け用の取手部110として用いることができる。
【0024】
本実施形態において、手掛部126は、上端から後方に向かって延びる上壁部126aと、前端から上方に向かって延びる前壁部126bとを有する。これらにより、埋込部材120の強度の向上を図ることができる。また図3(a)に示すように上壁部126aおよび前壁部126bがともに溝116内において上面116a(図2参照)に接触することにより、それらの接触面積が増大するため設置安定性を向上させることが可能である。
【0025】
更に、上壁部126aおよび下壁部122の外側には、それぞれ複数の爪部129が形成されている。これにより、爪部129が溝116の上面116aおよび下面116bに掛止される。このため、収納部100を開ける際(埋込部材120を引っ張った際)における溝116からの埋込部材120の脱落を好適に防ぐことができ、設置安定性の更なる向上が図れる。
【0026】
図3(e)に示すように、埋込部材120は、溝116に矢印方向に挿入されると下壁部122が撓む。これにより、下壁部122が下面116bに対して、上壁部126aが上面116aに対して付勢される。この状態において、基材112の前面112aと、埋込部材120の前端面、すなわち手掛部126の前面126cならびに下壁部122の前面122aとが面一になるようにする(以下、手掛部126の前面126cと、下壁部122の前面122aを併せて、埋込部材120の前端面と称する)。そして、基材112の前面112aおよび埋込部材120の前端面を覆うように化粧材114を基材112に貼着すると、図2に示す状態となり取手部110が形成される。
【0027】
上記説明したように、本実施形態にかかる前板102によれば、基材112の溝116に埋込部材120を挿入することにより、従来の機械加工による複雑な工程を必要とすることなく手掛部126および窪み部128を容易に形成することができる。そして、埋込部材120の前端面と基材112の前面112aとが面一であり、そこを化粧材114によって被覆することにより、前板102の外観からは埋込部材120の窪み部128しか観察されなくなり(図1および図2参照)、取手部110はあたかも基材112を彫り込んで形成したように見える。したがって、製造工程の複雑化を招くことなく、美観に優れた収納部用前板102(102)を容易且つ安価に製造することが可能となる。
【0028】
(前板102の製造方法)
次に、上記説明した前板102の製造方法について説明する。図4〜図10は、本実施形態にかかる前板102の製造方法を説明する図である。なお、以下に説明する製造方法において用いられる工具や材料、加工方法は理解を容易にするための例示にすぎず、必ずしもこれに限定するものではない。
【0029】
前板102の製造では、まず基材112の前面112aの面内に溝116を形成する。溝116の形成では、図4に例示するようにNC旋盤(全体は不図示)のバイト180(回転ビットとも称される)により、基材112に溝116を彫る。溝116は、好ましくは2段彫りで形成されるとよく、1段目は粗いバイトを、2段目は精密バイトを用いて彫ることにより、加工精度を担保することができる。なお、当然であるが、この溝116の形成時には、基材112を貫通しないよう、埋込部材120の厚みt(図3(a)参照)とほぼ同じ深さまで彫る。
【0030】
上述したように、本実施形態のNC旋盤ではフライス盤(不図示)のように回転ビット(バイト180)によって溝116を形成するため、図4に示すように、溝116の角部に、バイト180の曲率半径をほぼ同じ曲率半径を有する湾曲部116c(いわゆるアール)が形成される。これに対し、図3に示す埋込部材120は押出成型材を切断して製造されるため切断面は平坦である。故に、図4に示す溝116に埋込部材120を単に挿入しただけでは、埋込部材120の端部120aおよび120b(図3参照)と溝116との間に間隙が生じてしまう。
【0031】
そこで本実施形態では、埋込部材120の端部120aおよび120bに、図5(a)に示す端部部材130を取り付ける。図6は、端部部材130の詳細図であり、図6(a)は端部部材130の上面図、図6(b)は端部部材130の正面図、図6(c)は130の側面図である。
【0032】
図6に示すように、端部部材130は、ブロック状の部材であり、その前面130cは、基材112の前面112a(埋込部材120の前端面)と面一に形成されている。また埋込部材120と対向する正面130aは、埋込部材120の端部120aおよび120bと同様に平坦面である。一方、端部部材130において、埋込部材120と対向しない側の背面130bの角は、溝116の湾曲部116c(すなわちバイト180)とほぼ同じ曲率半径で湾曲し、丸みを帯びている。このような端部部材130を埋込部材120の端部120aおよび120bに取り付けることにより、埋込部材120を溝116に挿入した際に生じる間隙を埋めることができる。したがって、後述する化粧材114が間隙に向かって窪むのを防ぎ、前板102(収納部100)の美観を良好に保つことが可能となる。
【0033】
なお、端部部材130の材質としては、埋込部材120と同じ材料を用いてもよいし、異なる材料を用いてもよいが、好ましくは柔軟性や弾性を有する材料を用いるとよい。これにより、端部部材130が溝116と埋込部材120との間隙の形状に追従して変形し、間隙をより好適に埋めることができる。
【0034】
ここで、端部部材130を埋込部材120の端部120aおよび120bに取り付けることにより、埋込部材120と基材112との間に生じる間隙を埋めることができるものの、単に端部部材130を埋込部材120に接着すると、端部部材130の正面130aが窪み部128に露出した状態になる。すると、使用者が取手部110を側方から見た際に端部部材130の正面130aを容易に観察できてしまうため、かかる正面130aと、前板102の前面すなわち化粧材114との調和がとれていないと、使用者が違和感を覚えるおそれがある。
【0035】
そこで本実施形態では、埋込部材120と端部部材130との間に、化粧材114と同じ色調や模様(本実施形態では木目調)の被覆シート140を配置する。そして、端部部材130の正面130aに被覆シート140を貼着し、それを介して埋込部材120の端部120aおよび120bと端部部材130の正面130aとを貼着すると、図5(b)に示す状態となる。これにより、使用者が取手部110を側方から見た際に観察されるのは被覆シート140となるため、化粧材114との調和がとれ、使用者にそれらを一体のものと感じさせることができる。埋込部材120、端部部材130および被覆シート140の貼着方法としては、接着剤や接着テープ等、既知の方法を用いることができる。
【0036】
なお、本実施形態では、端部部材130によって間隙を埋める場合を例示して説明したが、上述した構成は一例であり、これに限定するものではない。例えば、溝116を彫る旋盤に角ノミ盤を用いれば、アールを有さない四角形の溝を形成することが可能である。したがって、埋込部材120と基材112との間に間隙が生じづらくなるため、端部部材130を不要とすることができる。また埋込部材120と溝116との間隙を埋めるのは、必ずしも端部部材130でなくてもよく、パテやシーリング材等の充填材を用いてもよい。更に、基材112の前面112aに貼着される化粧材114が硬質材料からなるシート、すなわち薄板である場合には、埋込部材120と基材112との間隙を埋めなくてもよい。化粧材114が硬質なシートであれば、化粧材114の窪みが生じにくいからである。
【0037】
次に、図5(b)に示すように端部部材130および被覆シート140を取り付けた(接着した)埋込部材120を、図5(c)に示すように溝116に挿入する。このとき、溝116の内面(図2に示す上面116a、下面116bおよび側面116c)、または埋込部材120および端部部材130において基材112の内面と対向する面の少なくとも一方に接着材(不図示)を塗布しておくとよい。これにより、それらの接着強度を高めることができ、溝116からの埋込部材120や端部部材130の脱落を効果的に防ぐことが可能となる。
【0038】
なお、図5(c)に示す状態において、溝116と端部部材130との間に隙間が生じたら、そこにパテ(不図示)を充填する。溝116と端部部材130との間に隙間が生じなかった場合には、当然にしてこの工程は不要である。また上記説明では、端部部材130および被覆シート140を取り付けた埋込部材120を溝116に挿入する場合を例示したが、これに限定するものではない。すなわち埋込部材120、端部部材130および被覆シート140は必ずしもすべてを一体にしてから溝116に挿入する必要はなく、例えば、埋込部材120と、被覆シート140を貼着した端部部材130とを別々に溝116に挿入してもよいし、被覆シート140を貼着した埋込部材120と、端部部材130とを別々に溝116に挿入してもよい。
【0039】
図5(c)に示すように埋込部材120(厳密には、埋込部材120、端部部材130および被覆シート140)を溝116に挿入したら、基材112の前面112aと、埋込部材120の前端面とを平坦にする(面一にする)。以下、特に断らない限り、基材112の前面112a、および埋込部材120の前端面(前面122a、126c)を総じて、基材112の前面112a等と称する。
【0040】
上記の平坦化では、図7に例示するように、ワイドサンダー182(ベルトサンダーとも称される)により、基材112の前面112a等を研磨(研削)する。これにより、基材112の前面112a等が面一な状態になる(図3(e)参照)。この平坦化すなわち研磨工程においても、1回目は目が粗い研磨ベルト(例えば♯80)を、2回目は目が細かい研磨ベルト(例えば♯150)を用いて2段研磨を行うことが好ましい。
【0041】
なお、埋込部材120を溝116に挿入した状態(図5(c)参照)において、図3(e)に示すように基材112の前面112a等が面一な状態であったら、上述した研磨工程は必ずしも行う必要がないが、加工精度を向上するためにはやはり実施することが好ましい。また上記構成では、基材112の前面(表面)および埋込部材120の前端面(基材112の前面112a等)の両方を研磨(研削)する構成を例示したが、これに限定するものではなく、基材112の前面112aまたは埋込部材120の前端面の一方に対して突出している他方のみを研磨する構成としてもよい。
【0042】
次に、図8(a)に示すように、手掛部126の前面126cと、下壁部122の前面122aの間(図3(a)参照)、すなわち内壁部124の前面にマスキングテープ184を貼付して、基材112の前面112a等に接着剤188(図8(b)にて破線で図示)を塗布する。このように内壁部124の前面をマスキングしておくことにより、内壁部124への接着剤188の付着を防ぐことができる。
【0043】
接着剤188の塗布には、図8(b)に例示するようにスプレーガン186を用いるとよい。これにより、基材112の前面112a等に薄く且つ均一に接着剤188を塗布することができる。ただし、かかる構成に限定するものではなく、例えばローラ(不図示)を用いて接着剤188を塗布してもよい。これによれば、接着剤188の窪み部128への進入が生じにくいため、マスキングテープ184により窪み部128を封止する工程を省略することができる。また接着剤188は、基材112の前面112a等ではなく、それに貼着される化粧材114の裏面(前面112aと当接する側の面)に塗布されていてもよい。これによれば、スプレーガン186を用いても接着材の128への進入が起こらないため、スプレーガン186による利点を得つつ、マスキングテープ184により窪み部128を封止する工程を省略することが可能である。
【0044】
接着剤188を塗布したら、基材112の前面112a等に化粧材114を貼着する。化粧材114の接着では、図9に例示するように、接着剤188を塗布した基材112の前面112a等に化粧材114を被せ、その上に当て板192を当てて、真空プレス装置190によって加熱圧着する。真空プレス装置190では、当て板192と当接する面にゴムシート194が配置されている。そして、基材112を載置された架台196に設けられた孔196aから真空引きすることにより、大気圧でゴムシート194が締め付けられ、かかるゴムシート194によって化粧材114が均一に加圧される。
【0045】
このとき、基材112に当て板192が載せられていることにより、加圧時に化粧材114に筋が生じることを防止できる。またこのように化粧材114上(基材112上)に当て板192を載せた状態であっても、真空プレスであれば高い接着強度を得ることができる。なお、図9に示すように、上述した化粧材114の接着時において、基材112の前面112a等には化粧材114が貼着(接着)されるが、基材112の端面112bは露出した状態である。
【0046】
続いて、図10(a)に例示するように、基材112の前面112a等に貼着された化粧材114のうち、窪み部128に対応する領域114a(ハッチングにて図示)を切断工具198によって切断し、かかる窪み部128を開口させる。なお、図10(a)では切断工具198としてカッターナイフを例示しているが、これに限定するものではなく、化粧材114を切断可能な工具であればどのようなものを用いてもよい。
【0047】
ここで、埋込部材120は長尺の押出成型材を切断して形成しており、端部部材130は埋込部材120と接合する面が平面である。これにより、化粧材114形成された開口は矩形となる。このように、開口を矩形とすることにより、意匠的に優れたものとすることができる。
【0048】
上記の化粧材114の切断を容易にするために、本実施形態では、埋込部材120において、下壁部122の前面122aの上端と、内壁部124の内面の下端との間に、段部120cを形成している(図3(a)参照)。段部120cの幅は極めて狭くてよく、例えば1mm程度でよい。かかる構成により、図10(b)に示すように、化粧材114において埋込部材120の窪み部128に対応する領域(図10(a)参照)を切断工具198によって切断する際に段部120cをガイドとして利用することができ、切断時の作業効率の向上を図ることができる。
【0049】
次に、素材が露出している基材112の端面112bに、縁貼り機を用いて木口材(不図示)を貼付する。木口材には、例えばABS等からなる厚さ3〜5mm程度の樹脂製のテープを好適に用いることができる。そして、窪み部128を封止していたマスキングテープ184(図8参照)を剥離することにより、図1に示す前板102が製造される。
【0050】
なお、木口材の貼付は、基材112に化粧材114を貼付する工程以降であれば、いずれのタイミングで行ってもよく、マスキングテープ184の剥離も、化粧材114における埋込部材120の窪み部128に対応する領域を切断する工程以降であれば、どのタイミングで行ってもよい。
【0051】
(埋込部材の他の形状)
図11は、他の形状の埋込部材を例示する図である。なお、上記説明した構成要素と実質的に同一の機能や構成を有する要素については、同一の符号を付して説明を省略する。図3(a)に示す埋込部材120では、その前端面(手掛部126の前面126c、および下壁部122の前面122a)のうち、下端の面は下壁部122の前面122aだけであった。これに対し、図11(a)に示す埋込部材220は、その前端面(手掛部126の前面126c、および下壁部122の前面122a)の下端、すなわち下壁部122の前面122aから下方に向かって延びる下フランジ部222(フランジ部)を有する。
【0052】
同じく図11(a)に示すように、基材112において、埋込部材220が挿入される溝216は、埋込部材220の厚みt1とほぼ同じ深さを有する深溝部216aと、かかる深溝部216aの前端且つ下端に延設され、下フランジ部222の厚みt2とほぼ同じ深さを有する浅溝部216bとからなる。これにより、埋込部材220を溝216に挿入すると、下フランジ部222は浅溝部216bに、埋込部材220の下フランジ部222以外の部位は深溝部216aに配置される。
【0053】
上述したように埋込部材220に下フランジ部222を設けることにより、埋込部材220の前端面(下側の前面122a)を下フランジ部222の前面分拡大することができる。これにより、埋込部材220の前端面と化粧材114との接触面積ひいては接着面積が増大するため、基材112に化粧材114を貼着した際(図2参照)に、埋込部材220の前面122aと化粧材114の接着強度を向上させることができる。したがって、基材112からの化粧材114の剥離を好適に抑制することができ、耐久性を向上させることが可能である。また下フランジ部222により、埋込部材220と溝216部との接触面積も拡大されるため、下フランジ部222の背面または浅溝部216bの側面のいずれか一方に接着材(不図示)を塗布してそれらを接着することにより、接合強度の向上を図ることができる。
【0054】
また図3(a)に示す埋込部材120および図11(a)に示す埋込部材220では、手掛部126の前端から上端まで延びる前壁部126bが設けられていたのに対し、図11(b)に示す埋込部材320では、その前端面の上端、すなわち手掛部126の前面126cから、手掛部126の上端を越えて更に上方に向かって延びる上フランジ部322が設けられている。なお、見方を変えれば、上フランジ部322は、前壁部126bを手掛部126の上端を越えて更に延長させたものと捉えることもできる。
【0055】
そして、同じく図11(b)に示すように、基材112において、埋込部材320が挿入される溝316は、深溝部216aおよび浅溝部216bに加えて浅溝部316aを更に備える。浅溝部316aは、上フランジ部322の厚みt2とほぼ同じ深さを有し、深溝部216aの前端且つ上端に延設される溝である。これにより、埋込部材320を溝316に挿入すると、上フランジ部322は浅溝部316aに、下フランジ部222は浅溝部216bに、埋込部材220の下フランジ部222および上フランジ部322以外の部位は深溝部216aに配置される。このような構成によれば、埋込部材320の前端面が更に拡大され、埋込部材320の上部においても上述した利点を享受することができる。
【0056】
図11(c)は、図11(b)に示す埋込部材320を溝316に挿入する際の様子を例示する斜視図である。上記説明した前板102の製造方法において述べたように、基材112への溝116の形成工程においてNC旋盤によってバイト180を用いると、バイト180の曲率半径をほぼ同じ曲率半径を有する湾曲部116cが形成される(図4参照)。このため、深溝部216aならびに浅溝部216bおよび316aからなる2段の溝316を形成した場合には、図11(b)のように浅溝部216bおよび浅溝部316aの間に、アールを有する側溝部316bが形成されてしまう。
【0057】
上記の側溝部316bを埋めるために、図11(b)のような形状の埋込部材320を用いる際には、その端部に取り付けられる端部部材130にフランジ部132を設けるとよい。これにより、フランジ部132によって側溝部316bを埋めることができ、基材112に化粧材114を貼り付けた際の窪みの発生を防ぐことが可能となる。
【0058】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、収納部の前面に配置され、収納部の開閉に用いられる取手を有する収納部用前板に適用可能である。
【符号の説明】
【0060】
100…収納部、102…前板、104a…側板、104b…側板、106…底板、108…背板、110…取手部、112…基材、112a…前面、112b…端面、114…化粧材、114a…領域、116…溝、116a…上面、116b…下面、116c…湾曲部、120…埋込部材、120a…端部、120b…端部、120c…段部、122…下壁部、122a…前面、124…内壁部、126…手掛部、126a…上壁部、126b…前壁部、126c…前面、128…窪み部、129…爪部、130…端部部材、130a…正面、130b…背面、140…被覆シート、180…バイト、182…ワイドサンダー、184…マスキングテープ、186…スプレーガン、188…接着剤、190…真空プレス装置、192…当て板、194…ゴムシート、196…架台、196a…孔、198…切断工具、216…溝、216a…深溝部、216b…浅溝部、220…埋込部材、222…下フランジ部、316…溝、316a…浅溝部、316b…側溝部、320…埋込部材、322…上フランジ部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の前面の面内に形成された溝と、
前記溝に挿入され窪み部および手掛部を有する埋込部材と、
シートまたは薄板からなり前記基材の前面に貼着される化粧材と、
を備え、
前記基材の前面と前記埋込部材の前端面とは面一に形成されており、
前記化粧材は前記基材の前面および前記埋込部材の前端面を覆うことを特徴とする収納部用前板。
【請求項2】
当該収納部用前板は、前記埋込部材の端部に取り付けられ該埋込部材と前記溝との間隙を埋める端部部材を更に備え、
前記基材の前面と前記端部部材の前面とは面一に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の収納部用前板。
【請求項3】
前記埋込部材は長尺の押出成型材を切断して形成しており、
前記端部部材は前記埋込部材と接合する面が平面であって、
前記化粧材には前記埋込部材の窪み部に対応する位置に矩形の開口を設けたことを特徴とする請求項2に記載の収納部用前板。
【請求項4】
前記埋込部材は、前記前端面の下端から下方に向かって延びる下フランジ部を有し、
前記溝は、前記埋込部材の厚みとほぼ同じ深さを有する深溝部と、該深溝部の下方に形成され前記下フランジ部の厚みとほぼ同じ深さを有する浅溝部とを有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の収納部用前板。
【請求項1】
基材と、
前記基材の前面の面内に形成された溝と、
前記溝に挿入され窪み部および手掛部を有する埋込部材と、
シートまたは薄板からなり前記基材の前面に貼着される化粧材と、
を備え、
前記基材の前面と前記埋込部材の前端面とは面一に形成されており、
前記化粧材は前記基材の前面および前記埋込部材の前端面を覆うことを特徴とする収納部用前板。
【請求項2】
当該収納部用前板は、前記埋込部材の端部に取り付けられ該埋込部材と前記溝との間隙を埋める端部部材を更に備え、
前記基材の前面と前記端部部材の前面とは面一に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の収納部用前板。
【請求項3】
前記埋込部材は長尺の押出成型材を切断して形成しており、
前記端部部材は前記埋込部材と接合する面が平面であって、
前記化粧材には前記埋込部材の窪み部に対応する位置に矩形の開口を設けたことを特徴とする請求項2に記載の収納部用前板。
【請求項4】
前記埋込部材は、前記前端面の下端から下方に向かって延びる下フランジ部を有し、
前記溝は、前記埋込部材の厚みとほぼ同じ深さを有する深溝部と、該深溝部の下方に形成され前記下フランジ部の厚みとほぼ同じ深さを有する浅溝部とを有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の収納部用前板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−75019(P2013−75019A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216650(P2011−216650)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000104973)クリナップ株式会社 (341)
【出願人】(511237195)株式会社ミヤジマ (2)
【出願人】(591100448)パネフリ工業株式会社 (31)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000104973)クリナップ株式会社 (341)
【出願人】(511237195)株式会社ミヤジマ (2)
【出願人】(591100448)パネフリ工業株式会社 (31)
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