説明

取付下地の形成方法及びその形成方法に用いる取付下地形成工具

【課題】
脆い壁でも十分な強度を備え、加えて低コストで作業性良く外観を損なわず、様々なブラケットに対応できる汎用性のある取付下地の形成方法及び、上記取付下地の形成方法に好都合に用いることができる取付下地形成工具を提供する。
【解決手段】
表面板の所定部位に貫通孔を形成する孔形成工程と、表面板の貫通孔の内周面に硬化型樹脂を圧着して第1樹脂層を形成する第1樹脂層形成工程と、第1樹脂層を形成した後に、貫通孔を通して中空空間に硬化型樹脂を入れて表面板の裏面に圧着して第2樹脂層を形成する第2樹脂層形成工程と、貫通孔を通して中空空間に硬化型樹脂を入れて第2樹脂層の表面に第3樹脂層を形成する第3樹脂層形成工程と、前記第1〜第3樹脂層に硬化型樹脂を充填して取付壁部を形成する壁部形成工程を含む取付下地の形成方法。
取手部と挿入部及び作業工具部を備え、前記作業工具部は、挿入突出部とヘラ部を有する取付下地形成工具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、マンションのような集合住宅や、図書館、体育館、美術館のような民間もしくは公営施設の建造物及び一般住宅において、その浴室、トイレ、居室、廊下、階段等の壁面に取り付けられる手摺のような取付部材の取付下地を形成する形成方法及びこの形成方法に用いる形成工具に関するものであり、特に、比較的に強度の低い薄板状壁に一方の壁面からのみの作業で手摺等の取付部材を取り付ける際の取付下地を形成する形成方法及びこの形成方法に用いる形成工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一般に壁面は、間仕切り壁と表面板の間に桟材を介在させている。例えばコンクリート面と表面板との間に桟材やモルタルを介在させて中空部を形成している。このような中空壁構造においては、中空部の表面板に手摺やその他の金具を取付けようとすると、表面板は一般に薄く直接ネジなどで固定することがでず、それ故に手摺りなどを取り付けることができなかった。
【0003】
この中空壁構造で手摺りを取り付けるために桟材等の下地を利用しようとすると、下地の位置と金具の取付け位置にずれが生じたり、金具取付け位置が規制されるなど問題点があった。また、事後に金具の取付け位置に併せて下地を設けるには、表面板を外して、金具取付け位置に合わせて桟材などの下地を入れて、外した表面板を戻さなければならず、施工が煩雑になる問題点があった。
【0004】
そこで、このような問題点を解決するために、柔軟樹脂を利用した取付下地の形成方法が提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献11参照)。また、ネジ付きアンカーを用いて固定する方法(例えば、特許文献2参照)、強度向上を図るために帯板手摺りを用いた方法(例えば、特許文献3参照)、複数の取付金具の使用とピンを斜めに打つことで固定する方法(例えば、特許文献4参照)、下地のある位置まで届くアンカーを打ちそれと特殊な手すりをネジ止めして固定する方法(例えば、特許文献5参照)、空間のあるネジ状の成型物を打ち込みそこに樹脂を注入することで固定する方法(例えば、特許文献6参照)、貫通穴を開けて袋を入れ樹脂を注入して固定する方法(例えば、特許文献7参照)、貫通穴を開け下地板を挿入して固定する方法(例えば、特許文献8参照)、打ち込まれた固定具が裏面にて四方に広がることで固定する方法(例えば、特許文献9参照)、大きな補強版を使用し釘を斜めに打つことで固定する方法(例えば、特許文献10参照)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3716397号公報
【特許文献2】特開平10−331819公報
【特許文献3】特開2004−162320公報
【特許文献4】実用新案登録第3132092公報
【特許文献5】特開2001−59322公報
【特許文献6】特開平7−127611公報
【特許文献7】特開2002−21283公報
【特許文献8】特開平11−71878公報
【特許文献9】実開平5−8016公報
【特許文献10】実用新案登録第3122395公報
【特許文献11】特開2000−96742公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した先行文献の技術では、次の通りの問題が存在する。即ち、特許文献2、特許文献4、特許文献6及び特許文献9の技術では、抵抗面積が少なく手すりなどの用途目的には十分な強度が確保できない。また、特許文献3及び特許文献5の技術では、部品点数が多く大幅なコストアップとなる。特許文献1、特許文献7及び特許文献8の技術ではブラケットのネジ穴の間に貫通穴を開けることでネジ周囲の壁自体の強度を低下させてしまうことになる。また、特許文献10の技術では、表面に取り付け板が必要になり、下地の有無により外観が異なり全体の外観を損なうこととなる。外観を良くするためにすべて施工するのはコストもかかり無駄である。更に、特許文献1及び特許文献11の技術では、柔軟樹脂を利用する為に注入樹脂本来の硬度及び強度が発揮できない。本発明はこれらの課題を解決するものである。
【0007】
本発明の目的は、脆い壁でも十分な強度を出すことができ、加えて低コストで作業性良く外観を損なわず、様々なデザイン形状のブラケットが販売されておりそれらに対応できる汎用性のある取付下地の形成方法を提供することである
また、本発明の他の目的は、上記取付下地の形成方法に好都合に用いることができる取付下地形成工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に記載の取付下地の形成方法は、表面板の裏面側に中空空間が存在する中空壁構造に設置部材を取り付けるための取付下地を形成する形成方法であって、前記表面板の所定部位に貫通孔を形成する孔形成工程と、前記表面板の前記貫通孔の内周面に硬化型樹脂を圧着して第1樹脂層を形成する第1樹脂層形成工程と、前記第1樹脂層を形成した後に、前記貫通孔を通して前記中空空間に硬化型樹脂を入れて前記表面板の裏面に圧着して第2樹脂層を形成する第2樹脂層形成工程と、前記貫通孔を通して前記中空空間に硬化型樹脂を入れて前記第2樹脂層の表面に第3樹脂層を形成する第3樹脂層形成工程と、前記第1〜第3樹脂層に硬化型樹脂を充填して取付壁部を形成する壁部形成工程と、を含むことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項2に記載の取付下地の形成方法では、前記第3樹脂層形成工程においては、硬化型樹脂を前記第2樹脂層の表面に塗布して所定厚さの前記第3樹脂層を形成するための取付下地形成工具が用いられ、前記取付下地形成工具は、取手部と、前記取手部の先端部に設けられ、前記貫通孔に挿入される挿入部と、前記挿入部から延びる作業工具部とを備え、前記作業工具部は、前記挿入部の先端部から延びる挿入突出部と、前記挿入突出部の先端部に設けられ、この先端部から垂直に延びるヘラ部とを有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項3に記載の取付下地の形成方法では、前記取付下地形成工具は、前記第2樹脂形成工程においても用いられ、前記取手部を手前側に引いて前記ヘラ部を前記表面板の裏面に圧接させた状態にて前記ヘラ部を回動させて硬化型樹脂を前記表面板の裏面に圧着させることを特徴とする。
【0011】
更に、本発明の請求項4に記載の取付下地形成工具は、取手部と、前記取手部の先端部に設けられ、中空壁構造の表面板に形成された貫通孔に挿入される挿入部と、前記挿入部から延びる作業工具部とを備え、前記作業工具部は、前記挿入部の先端部から延びる挿入突出部と、前記挿入突出部の先端部に設けられ、この先端部から垂直に延びるヘラ部とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1に記載の取付下地の形成方法によれば、表面板に形成した貫通孔の内周面とこの表面板の裏面に硬化型樹脂を圧着する(第1樹脂層形成工程、第2樹脂層形成工程)ので、流動性の少ない濡れ性の悪い樹脂を貫通孔通して表面板内部へ押し込んだ時に落下させずに第3樹脂層を形成することができる。それによって、中空部材のネジ類の取付部に小さな貫通孔を開けるだけで大きな部品挿入口を必要とせず、表面板の強度を落とすことなく大きな強度保持面積により表面板の強度低下を抑えて下地とすることが出来るものである。
【0013】
また、貫通孔の周りにのみネジ類を保持できる硬質樹脂を形成するので、下地がネジ類の位置に対応して正確に構築され、最小限の硬質樹脂により無駄も生じない効率的な取付下地を構築できる効果がある。
【0014】
更に、貫通孔は取付けるべき設置部品により覆われるので、表面板の表面の美観も損なわない効果がある。万一取り外した時も、部品を挿入するための挿入口などの貫通穴を開けないので補修が最小限である。
【0015】
また、本発明の請求項2に記載の取付下地の形成方法によれば、取手部とこの取手部の先端部に設けられた挿入部と、この挿入部に設けられた作業工具部とを備えているので、挿入部を貫通孔に挿入して取手部を表面板の表面に押し当てて塗布作業を行うことにより、硬化型樹脂を第2樹脂層の表面に所定厚さに塗布し第3樹脂層を容易に形成することができる。
【0016】
また、本発明の請求項3に記載の取付下地の形成方法によれば、この取付下地形成工具を引きながら回転することで、挿入された作業工具部のヘラ部が貫通孔に入れられた硬化型樹脂を表面板の裏面に容易に圧着させることができる。
【0017】
また、本発明の請求項4に記載の取付下地形成工具によれば、取手部の先端部に挿入部が設けられ、この挿入部の先端部に作業工具部が設けられているので、取手部が表面板に当接することによって、一定以上の表面板の貫通孔への進入を止めることができ、これによって、表面板と作業工具部のヘラ部との距離を一定に保ち必要な強度を発揮できる厚さの第3樹脂層を形成することができる。これは作業の安定性及び確実性を実現するものである。また、作業工具部のヘラ部を利用することにより、硬化型樹脂を表面板の裏面に圧着して第2樹脂層を容易に形成することができ、これによって硬化型樹脂の落下を防止して所定厚さの第3樹脂層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に従う取付下地の形成方法を適用して手摺りを取り付けた状態を示す断面図。
【図2】表面板に貫通孔を形成した状態を示す簡略断面図。
【図3】貫通孔の内周面に塗付け棒を用いて硬化型樹脂を圧着させて第1樹脂層を形成した状態を示す簡略断面図。
【図4】第2樹脂層を形成するための硬化型樹脂を貫通孔に注入した状態を示す簡略断面図。
【図5】貫通孔を通して取付下地形成工具の作業工具部を挿入した状態を示す簡略断面図。
【図6】本発明に従う取付下地形成工具の一実施形態を示す正面図。
【図7】図6の取付下地形成工具を貫通孔を通して挿入していく状態を示す簡略断面図。
【図8】貫通孔の裏面に硬化型樹脂を圧着させて第2樹脂層を形成した状態を示す簡略断面図。
【図9】第3樹脂層を形成するための硬化型樹脂を貫通孔を通して注入した状態を示す簡略断面図。
【図10】貫通孔を通して取付下地形成工具を挿入した状態を示す簡略断面図。
【図11】表面板の裏面の第2樹脂層の表面に第3樹脂層を形成した状態を示す簡略断面図。
【図12】取付壁部を形成するための硬化型樹脂を貫通孔を通して注入した状態を示す簡略断面図。
【図13】手すりブラケットを取り付けるためのネジの下穴を設けた状態を示す簡略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明に従う取付下地の形成方法の一実施形態及びこれに用いる取付下地形成工具の一実施形態について説明する。
【0020】
まず、図1を参照して、この取付下地の形成方法を用いて、設置部材としての手摺りを取り付けた状態を説明する。図1において、この実施形態では、間仕切り壁(図示せず)の表面側に表面板1が配設され、この間仕切り壁と表面板1との間に中空空間101が設けられ、この中空空間101に常温硬化型樹脂を注入して取付壁部17が形成され、この取付壁部17を利用して手摺り21を取り付けるためのブラケット19が取り付けられる。
【0021】
中空空間101を有する中空壁構造102の表面側に配設される表面板1の所定部位に貫通孔2が設けられ、この貫通孔2の内周面に第1樹脂層10が設けられ、また表面板1の裏面における貫通孔2の周囲には第2樹脂層14が設けられ、更に第2樹脂層14の表面側に第3樹脂層16が設けられ、第1、第2及び第3樹脂層10,14,16の内側に取付壁部17が設けられ、これら第1〜第3樹脂層10,14,16及び取付壁部17は常温硬化型樹脂から形成される。
【0022】
取付壁部17(実施形態では2つ示す)に対応して、ブラケット19の取付部103が位置付けられ、この取付部103に設けられた孔を通して取付壁部17にネジ20を螺着することによって、ブラケット19が取付壁部17、即ち表面板1に取り付けられる。表面板1には、上述したようして複数のブラケット19が間隔をおいて取り付けられ、手摺り21はこれらブラケット19に所要の通りに取り付けられる。
【0023】
このような手摺りの取り付けは、図2〜図13に示すように、例えば次の通りの施工手順に従って行うことができる。まず、図2に示すように、室内の内壁を構成する表面板1に貫通孔2を形成する(孔形成工程)。この貫通孔2は、直径が例えば10mm程度となるように形成する。
【0024】
貫通孔2を開ける時の直径は5mm以上とし、好ましくは8mmから15mmが望ましい。直径が5mm以下では、十分に拡幅できる取付下地形成工具(後述する)の挿入が難しく、表面板1の裏面3側に形成する樹脂の必要量を供給するために何回も押し込む作業が必要になり、その作業性が悪く、また荷重がかかった時に樹脂部が変形せずに形状を保持できなく、必要な面積も確保し難い。直径が20mm以上では、多くの場合に貫通孔2がブラケット19の取付部103からはみ出て外観を損なう可能性があり、また注入する樹脂量も必要以上に多くなり無駄である。
【0025】
次に、図3に示すように、常温硬化型樹脂を丸棒11の先に付け、この丸棒11の先端部を貫通孔2に挿入して回転及び前後に動かし、先端についた常温硬化型樹脂を貫通孔2の内周面22に擦り付けて圧着し、その内周面22の全域に第1樹脂層10を形成する(第1樹脂層形成工程)。ここで用いる丸棒11は、貫通孔2の直径未満で樹脂の入る隙間のできる直径であれば良く、取付下地形成工具(後述する)を利用することもできる。また、丸棒でなくても樹脂を擦り付ける(即ち、貫通孔2の内周面22に圧着する)ことができるものであれば形状に拘るものではない。
【0026】
ここで使用される常温硬化型樹脂とは、エポキシ系樹脂、ウレタンアクリレート系樹脂、エポキシアクリレート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン樹脂などが望ましく、常温反応型として使用することが望ましい。湿気硬化機能を付与した光硬化型や局部的な加熱硬化型も使用可能である。湿気硬化型にはスプレータイプもあり作業性の点からは望ましいが、常温でネジが打てる強度に達する時間は6時間以内でないと作業が翌日にまたがるので望ましくない。
【0027】
また、前記における常温硬化型樹脂の粘度(チキソ性含む)は、取付壁部17を形成するための貫通孔2に樹脂を押し込むので、押し込んでから押し広げる工程に入るまで垂れないような流動性のないものでなければならない。また、表面板1の裏面3側に樹脂層形成後も硬化するまでその形状が変化せず、形状が維持できるものでなければならない。
【0028】
そして、硬化後の樹脂硬度及び接着強度は、荷重がかかった時に表面板1の裏面3側及び貫通孔2の内周面22の局部に荷重がかからない様にしなければならない。そのためには、形成された取付下地、即ち取付壁部17が負荷のかかった時に表面板1の破壊につながる変形を起こさない接着強度及び硬度が必要で、裏面3側の全体に荷重が分散される必要がある。ショアー硬度Dで50以上、好ましくは70以上が必要である。
【0029】
次に、図4に示すように、取付壁部17のための貫通孔2に常温硬化型樹脂12をヘラ(図示せず)などを用いて押し付け圧入し、この圧入した常温硬化型樹脂12でもって第2樹脂層14を形成する(第2樹脂層形成工程)。圧入された常温硬化型樹脂12は、貫通孔2の内周面22に圧着された第1樹脂層10と一体となって貫通孔2を塞ぎ、余分の樹脂は表面板1の裏面3側にはみ出すような状態となる。
【0030】
そして、図5に示すように、注入された常温硬化型樹脂12を通して取付下地形成工具104を挿入させる。この時、垂れないように選ばれた高粘度樹脂は濡れ性が悪く、図3の第1樹脂層形成工程無しでは挿入時に取付下地形成工具104が圧入した樹脂12を押し落としてしまう。しかし、擦り付けて圧着された第1樹脂層10と馴染むことにより落下することなく保持される。そして、取付下地形成工具104を引きながら回転させることにより、取付下地形成工具104の傾斜のあるヘラ部4で圧入された樹脂12を貫通孔2の裏面3に擦り付けて圧着させる。
【0031】
ここで図6及び図7を参照して、取付下地形成工具104について説明する。図6に示すように、この取付下地形成工具104は、全体として略L字状構造であるが、貫通孔2に挿入した後に開帳する構造のもでもよい。この取付下地形成孔具104は、構造が単純な図6で示すL字形状のものが好ましい。この取付下地形成工具104は、作業時に把持する取手部9と、取手部9の先端部に設けられた挿入部7と、この挿入部7の先端部に設けられた作業工具部5とを備えている。取手部9は挿入部7よりも外形が大きく、この取手部9と挿入部7との間に段部が設けられ、この段部によって当接面6が規定され、かかる当接面6が表面板1の表面に当接するようになる。
【0032】
挿入部7の外径は、表面板1に形成された貫通孔2の内径に対応し、この挿入部7が貫通孔2に挿入される。作業工具部5は、略L字状であり、挿入部7の先端部から直線状に伸びる挿入突出部8と、この挿入突出部8から垂直に横方向に伸びるヘラ部4とを有し、このヘラ部4の内側に傾斜のあるヘラ作用部105が設けられている。
【0033】
ヘラ部4は常温硬化型樹脂12を押し広げるため傾斜を持ち、その長手方向の長さは必要な強度に合わせて調整し回転半径を変えることで荷重分散面積を調整することが出来る。その長さは、回転直径が15mm以上のもの、望ましくは30mm以上のものであるのが好ましい。その長さが15mm以下である場合、表面板1として石膏ボードや薄い合板のときには部材強度が低く、手すりなどの用途に使用することが難しい。多くの特許が出されているが、それは部材に対し取付ネジ部周辺だけの引っ掛かりを作り抵抗を多くして強度を上げるものであり、脆い石膏ボードや薄い合板では一定以上の強度向上を望めるものではない。局部的に負荷のかかる方法では十分な強度を出すことが出来ない。
【0034】
この作業工具部5は、貫通孔2への挿入部7をガイドとすることにより均一に回転することが出来る。ヘラ部4のヘラ作用部105と表面板1の裏面3との距離(即ち、第3樹脂層16の厚さ)を調整する為に、脱着可能な厚さ調整部材(図子せず)を使用することもでき、このような厚さ調整部材を用いることによって、第3樹脂層16の厚さを調整することができ、また表面板1としての石膏ボードや合板など厚みの異なる部材にも対応することができる。
【0035】
この取付下地形成工具104は、図7に示すように、L字状構造の取付下地形成工具104の作業工具部5を90度回転しながら挿入することでヘラ部4を表面板1の裏面3側に挿入することができる。
【0036】
そして、図8に示すように、取付下地形成工具104を手前側(図5において右側)に引いて作業工具部5を回転させることによって、ヘラ部4によって常温硬化型樹脂12を表面板1の裏面3に擦り付けて圧着してこの裏面3に第2樹脂層14が形成される。この時、圧着する常温硬化型樹脂の量は少量で良く、ヘラ部4の回転径内の表面板1の裏面3に擦り込まれる程度でよい。
【0037】
次に、図9に示すように、取付下地形成工具104を表面板1の貫通孔2から引き抜き、図4の第2樹脂層形成工程と同様にして常温硬化型樹脂15を注入し、次のようにして第3樹脂層16を形成する(第3樹脂層形成工程)。
【0038】
図10に示すように、取付下地形成工具104を上述したようにして貫通孔2を通して挿入し、かく挿入することによって、圧入された常温硬化型樹脂15を更に押し込み、取付下地形成工具104を押しながら回転させることにより取付下地形成工具104の傾斜のあるヘラ部4で圧入された常温硬化型樹脂15を表面板1の裏面3の圧着された第2樹脂層14に馴染ませながら押し広げ、第2樹脂層14の表面に第3樹脂層16を形成する。この時、濡れ性の少ない高粘度樹脂でも擦り付けて圧着された第2樹脂層14により落下することなく保持される。必要な樹脂厚を確保するために、図9及び図10の工程を複数回繰り返す。この時の回数は、表面板1の厚さや材質強度、貫通孔2の口径などにより変えることができる。
【0039】
このようにして、図11に示すように、取付下地形成工具104の回転によって注入した常温硬化型樹脂15が押し広げられて第3樹脂層16が形成される。これは取付下地形成工具104のヘラ部4の表面板1の裏面3側の当り面から表面板1の当たり面部、即ち取手部9の当接面6までの距離によって、第3樹脂樹層16が所定の厚さに形成され、このようにして第1〜第3樹脂層10,14,16が一体となる。
【0040】
次に、図12に示すように、取付下地形成工具104を引き抜き、引き抜かれた時にできた空間に図4に示すときと同様にして常温硬化型樹脂を充填して取付壁部17を形成する(壁部形成工程)。このようにして、第1〜第3樹脂層10,14,16と取付壁部17とが一体的となり、表面板1の貫通孔2に取付下地、即ち取付壁部17が形成され、所定の時間常温で放置し十分な強度が発現するまで養生する。
【0041】
次に、図13に示すように、形成された取付壁部17(即ち、取付下地)が養生され十分な強度が発現した後に、この取付壁部17に下穴18を形成する。このように下穴18を空けることで、ネジ20を打ち込んだ時に発生する可能性のある形成された取付下地の割れを防止することができる。この下穴18の径は使用するネジ20により調整される。尚、下穴18は必ずしも必要なものではなく、取付ネジ(図子せず)などを用いてブラケット19を取り付ける場合などにおいては、省略することもできる。
【0042】
この取付下地(即ち、取付壁部17)は中空壁構造102に対し使用される。それは、2枚の表面板間に桟材を介して構成した中空壁構造、あるいはコンクリート面にモルタルや桟材を介して表面板を貼った中空壁構造、あるいは同様の中空壁構造の天井、床、又はドア等の建具などにも適用することができる。
【0043】
また、上述したようにして形成した取付下地(取付壁部17)に取り付ける設置部材とは、ネジ類により表面板1に固定される部材であればその種類を問わない。例えば、中空壁構造102が壁であれば、手摺、各種金具、各種造作材等の設置部材であり、天井であれば照明器具等の設置部材であり、また床であれば、強度付加下地材等の設置部材などである。
【0044】
上述した実施形態については、硬化型樹脂として常温硬化型樹脂を用いて説明したが、これに限定される事無く加熱硬化型樹脂及び光硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂なども用いる事ができる。
また、簡易的なヘラ(図示せず)などを用いて押し付け圧入での方法を用いて説明したが、取付下地形成工具104のヘラ部4 挿入部7 挿入突出部8 取手部9のそれぞれの内部に連続した樹脂注入孔を設け硬化型樹脂を注入する事もできる。
【実施例】
【0045】
本発明に従う取付下地の形成方法の効果を確認するために、次の通りにして施工確認を行った。
【0046】
まず、厚さ12.5mmの石膏ボーにドリルで直径10mmの貫通孔2を開けた。そして、6.5cc/穴当たりの混合された2液常温硬化型エポキシ系樹脂をつくり、丸棒の先端部に付け、て貫通孔の内周面に擦り付けて第1樹脂層を形成した。丸棒の直径が5mmであり、その先端部に0.1cc付け、貫通孔の内周面に回転及び前後に動かしながら擦り付け、貫通孔の内周面の全体が樹脂の色になっていることを確認した。
【0047】
次に、混合された2液常温硬化型エポキシ系樹脂を1.5ccヘラに取り、貫通孔に押し付け圧入し、この貫通孔を塞ぐように充填した。そして、取付下地形成工具の作業工具部を貫通孔を通して挿入し、引きながら回転させることで充填した樹脂を表面板の裏面に擦り付けた。1回の作業では十分広がらないのでもう一度0.8ccの樹脂をヘラに取り、貫通孔に押し付け注入し、1回目の作業と同様にして取付下地形成工具を使い、表面板の裏面側に擦り付け、このようにして第2樹脂層を形成した。この作業により、第2樹脂層樹脂14が薄く形成された。
【0048】
その後、混合された2液常温硬化型エポキシ系樹脂を0.8ccヘラに取り、貫通孔に押し付けて注入し、上述したと同様にして取付下地形成工具を挿入し、この工程では、押しながら回転させる(取付下地形成工具の当接面を表面板の表面に押し当てた状態で回転させる)ことにより、一定の樹脂厚の第3樹脂層を表面板の裏面(第2樹脂層の表面)に形成することができた。一回の作業では十分な樹脂量ではないので、再度混合された2液常温硬化型エポキシ系樹脂を再度0.8ccヘラに取り、貫通孔に押し付け圧入し、取付下地形成工具を挿入し押しながら回転させた。このようにして十分な下地強度を有する下地厚さの第3樹脂層を形成することができた。
【0049】
中央に取付下地形成工具の引き抜いた跡穴が出来ているので、それを埋める分とネジ部の接触面積を十分確保するために、更に、1.5ccの混合された2液常温硬化型エポキシ系樹脂をヘラで部品取付部の貫通孔に押し付けて充填した。これまでの作業は文章にすると多くの工程があるように思うが単純な同じ作業の繰り返しなので7分/穴程度の作業時間で形成することができ、比較的簡単な作業であった。
【0050】
硬化するまで約1時間放置し、十分な硬さになった取付下地(取付壁部)に2.8mmのドリルで下穴を開け、手すりブラケットを直径3,2mmのネジ20で取り付けた。硬化時間は25℃1時間で完了し、最終強度に達する24時間の養生後手すりの強度として必要な鉛直及び水平荷重120kgfに耐える強度を得た。
【0051】
テスト方法は、株式会社ベストHI営業部製の壁用ブラケットを使用し、上記方法にて900mmスパンで2か所固定した後24時間放置して手すりを設置し、中央部にて鉛直及び水平荷重テストを実施した。手すりの必要強度は財団法人ベターリビングの優良住宅部品性能試験方法書の規格試験方法を参考とした。
【符号の説明】
【0052】
1 表面板
2 貫通孔
3 裏面
4 ヘラ部
5 作業工具部
6 当接面
7 挿入部
8 挿入突出部
9 取手部
10 第1樹脂層
11 丸棒
12 常温硬化型樹脂
14 第2樹脂層
15 常温硬化型樹脂
16 第3樹脂層
17 取付壁部
18 下穴
19 ブラケット
20 ネジ
21 手摺り
22 内壁
101中空空間
102中空壁構造
103取付部
104取付下地形成工具
105ヘラ作用部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面板の裏面側に中空空間が存在する中空壁構造に設置部材を取り付けるための取付下地を形成する形成方法であって、前記表面板の所定部位に貫通孔を形成する孔形成工程と、前記表面板の前記貫通孔の内周面に硬化型樹脂を圧着して第1樹脂層を形成する第1樹脂層形成工程と、前記第1樹脂層を形成した後に、前記貫通孔を通して前記中空空間に硬化型樹脂を入れて前記表面板の裏面に圧着して第2樹脂層を形成する第2樹脂層形成工程と、前記貫通孔を通して前記中空空間に硬化型樹脂を入れて前記第2樹脂層の表面に第3樹脂層を形成する第3樹脂層形成工程と、前記第1〜第3樹脂層に硬化型樹脂を充填して取付壁部を形成する壁部形成工程を含むことを特徴とする取付下地の形成方法。
【請求項2】
前記第3樹脂層形成工程においては、硬化型樹脂を前記第2樹脂層の表面に塗布して所定厚さの前記第3樹脂層を形成するための取付下地形成工具が用いられ、前記取付下地形成工具は、取手部と、前記取手部の先端部に設けられ、前記貫通孔に挿入される挿入部と、前記挿入部から延びる作業工具部とを備え、前記作業工具部は、前記挿入部の先端部から延びる挿入突出部と、前記挿入突出部の先端部に設けられ、この先端部から垂直に延びるヘラ部を有することを特徴とする請求項1に記載の取付下地の形成方法。
【請求項3】
前記取付下地形成工具は、前記第2樹脂形成工程においても用いられ、前記取手部を手前側に引いて前記ヘラ部を前記表面板の裏面に圧接させた状態にて前記ヘラ部を回動させて硬化型樹脂を前記表面板の裏面に圧着させることを特徴とする請求項2に記載の取付下地の形成方法。
【請求項4】
取手部と、前記取手部の先端部に設けられ、中空壁構造の表面板に形成された貫通孔に挿入される挿入部と、前記挿入部から延びる作業工具部とを備え、前記作業工具部は、前記挿入部の先端部から延びる挿入突出部と、前記挿入突出部の先端部に設けられ、この先端部から垂直に延びるヘラ部とを有することを特徴とする取付下地形成工具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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