説明

取着工具、取着装置、ナット体、取着保持金具

【課題】ナット体をボルト体に取着する際、このナット体のスムーズかつ好適な取着が確実に行える取着工具を提供する。
【解決手段】ボルト体Bの軸方向に直交する方向からナット体6を塑性変形させてボルト体Bに取着するための取着工具5であって、挟付部4は、ナット体6を塑性変形させてボルト体Bに取着すべく挟み付けた状態で、ボルト体Bの外周を覆うとともに、その内側にナット体6を収容する収容空間部3aを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルト体の軸方向に直交する方向からナット体を塑性変形させて前記ボルト体に取着するための取着工具、これらのナット体と取着工具からなる取着装置、ナット体及び取着保持金具に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の天井からぶら下がっている寸切ボルトなどのボルト体に、その外面ネジの端部からネジ係合させるのではなく、その軸方向に直交する方向から取着可能で、従来のナットと同様の機能を発揮するナット体と、このナット体を前記ボルト体に取着するための取着工具については、特許文献1に記載されたものがある。
【0003】
このようなナット体は、ボルト体の所望の位置に簡易に取着でき、また、安価に構成され、すでにボルト体に他のものが取着されている場合には、これを取り除くことなく取着できるので、産業上の意義の大きいものであるが、そのナット体をボルト体に塑性変形により取着させる取着工具については改良が望まれていた。その状況を説明する。
【0004】
図13(a)、(b)はナット体をこの従来の取着工具で取着する手順を示す概念図である。
【0005】
この図13に示すナット体16は、本発明のナット体として後に詳述するものと同様の構成であるが、要するに、全体としてパイプなどを平面に取り付ける際に用いられるU字状のサドル形状をしており、そのU字部分である本体部16aの内周面にボルト体Bの外面ネジに対応した係合突起(不図示)が設けられ、また、足部分に相当する把持部16cを備え、この一対の把持部16c内側間は、ボルト体Bを通過させ得る開口部16eを形成している。ここで示された取着工具Pは一般に市販されているプライアである。
【0006】
ナット体16をボルト体Bに取着する手順は、図13(a)に示すように、開口部16eを通過させて、ボルト体Bがナット体16の本体部16aの内部に収容されるようにし、その把持部16cの両端をボルト体Bの反対側から取着工具Pの先端で把持挟み込みし、図中に白矢印で示すように押圧力を加える。
【0007】
すると、把持部16cが相互に近接するように本体部16aが塑性変形し、最終的には、図13(b)に示すように、把持部6cがその内面が接するように近接し、また、本体部16aの内面の係合突起はボルト体Bの外面ネジにネジ係合して、ナット体16はボルト体Bのほぼ全周に渡ってネジ係合した状態でボルト体Bに取着される。
【0008】
しかしながら、この取着工具Pによる場合は、汎用工具であって、ナット体16が工具Pから逃げないようにする係止手段も備えておらず、スムーズかつ好適な取着が困難であった。
【0009】
特に、ナット体16をボルト体Bに取着させ始める際には、ナット体16の内面の係合突起がボルト体Bの外面ネジにきちんとネジ係合して当接した状態を維持する必要があるが、図13(a)の状態では、取着工具Pによって、ナット体16の内面をボルト体Bに沿わせるようにするためには、図上で下方にナット体16を引っ張る必要があり、その場合、この図のような取着工具Pによるナット体16の把持状態ではナット体16が外れやすく、その要請に好適に応じることが困難であった。
【0010】
また、図13(b)に示すように、ナット体16をボルト体Bに取着した後、ナット体16を回転させて締め付けようとすると、同じ取着工具Pでは良好な操作が困難で、別途、レンチなどの回転工具に持ち替えて作業を行う必要があった。
【特許文献1】国際公開WO03/042556A1公報(Fig.25、Fig.26)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、ナット体をボルト体に取着する際、このナット体のスムーズかつ好適な取着が確実に行える取着工具、取着装置、ナット体及び取着保持金具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1記載の取着工具は、ボルト体の軸方向に直交する方向からナット体を塑性変形させて前記ボルト体に取着するための取着工具であって、
前記ナット体は、内側に前記ボルト体の外面ネジに係合する係合突起を備えた本体部と、該本体部の外側に形成され、前記本体部を前記ボルト体の外面ネジに沿って塑性変形させるべく、前記取着工具に把持される一対の把持部とを備え、
前記取着工具は、互いに交差して設けられ、該交差部に設けられた軸部を中心に相対的に回動自在に設けられる一対の回動体を有し、この回動体の該交差部より先端側が、前記ナット体の一対の把持部を把持した状態で、前記軸部を中心に回動することにより、該ナット体の把持部を挟み付けて前記本体部を塑性変形させ、該ナット体を前記ボルト体に取着する挟付部として構成され、
前記挟付部は、前記ナット体を塑性変形させて前記ボルト体に取着すべく挟み付けた状態で、前記ボルト体の外周を覆うとともに、その内側に前記ナット体を収容する収容空間部を備えていることを特徴とする。
【0013】
請求項2記載の取着工具は、請求項1に従属し、前記収容空間部は、前記ナット体の取着後の状態で前記取着工具を回動させることにより、該ナット体を前記ボルト体に対して回動させることができるように構成されていることを特徴とする。
【0014】
請求項3記載の取着工具は、請求項1または2に従属し、前記挟付部は、前記ナット体の把持部を係合させる一対の係合段部を備えていることを特徴とする。
【0015】
請求項4記載の取着工具は、請求項3に従属し、前記挟付部は、前記係合段部の段下から前記交差部へ向けて、前記ナット体の一対の把持部の側面である近接部を合致した状態に押圧する一対の傾斜押圧面を備えていることを特徴とする。
【0016】
請求項5記載の取着工具は、請求項4に従属し、前記一対の傾斜押圧面は、変形前の前記ナット体の把持部を前記係合段部に係合させて、このナット体を把持した際には、前記一対の傾斜押圧面の前記軸部から等距離にある部分間の間隔がこの軸部に近づくにつれてより小さくなるような傾斜面とされていることを特徴とする。
【0017】
請求項6記載の取着工具は、請求項5に従属し、前記ナット体が、その一対の把持部が、内側に離間防止部を設けたより長い長把持部と、該ナット体が塑性変形した際、該離間防止部に嵌まり込むように構成されたより短い短把持部とにより構成され、
前記挟付部は、前記傾斜押圧面の前記交差部側に、更に追加係合段部を備え、前記ナット体の長把持部を前記係合段部で、前記ナット体の短把持部を前記追加係合段部で受けるように構成され、
該取着工具で、該ナット体を前記ボルト体に取着した際には、前記離間防止部が前記短把持部に係合し、前記ナット体の一対の把持部の離間防止状態が維持された状態で、前記取着工具で、前記ナット体を前記ボルト体に対して回転させることができるように構成されていることを特徴とする。
【0018】
請求項7記載の取着工具は、請求項1から6のいずれかに従属し、前記挟付部の先端内側に一対の保持凹所を設け、この保持凹所によって前記ナット体の一対の把持部をその先端側から保持挟付し、該ナット体が塑性変形して前記ボルト体に取着されるまでの間、該把持部が外れないように保持するようにしたことを特徴とする。
【0019】
請求項8記載の取着工具は、請求項7に従属し、前記挟付部の前記保持凹所から先端側に、該ナット体の把持部から遠ざかるような逃がし平面部と先端逃がし勾配部とを設けたことを特徴とする。
【0020】
請求項9記載のナット体は、取着工具によって塑性変形されてボルト体の軸方向に直交する方向から取着され得るナット体であって、
前記ナット体は、内側に前記ボルト体の外面ネジに係合する係合突起を備えた本体部と、該本体部の外側に形成され、前記本体部を前記ボルト体の外面ネジに沿って塑性変形させるべく、前記取着工具に把持される一対の把持部と、この把持部の前記取着工具に当接する側に係止凹所とを備えていることを特徴とする。
【0021】
請求項10記載の取着保持金具は、請求項9記載のナット体が前記ボルト体に取着された状態で、前記一対の把持部の前記係止凹所に前記ボルト体の軸方向から外嵌可能とされたことを特徴とする。
【0022】
請求項11記載の取着装置は、請求項1または9記載のナット体と、請求項1から5及び請求項7または8のいずれか記載の取着工具とから構成されていることを特徴とする。
【0023】
請求項12記載の取着装置は、請求項6記載のナット体と取着工具とから構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
請求項1記載の取着工具によれば、挟付部にナット体を包み込むように収容することを可能にする収容空間部を設けたので、ナット体をこの空間部に収容した状態で挟み込み、そのままの状態でナット体をボルト体に嵌め付け取着でき、従来例のように、一旦、ナット体をボルト体に嵌め込んでから、その反対側からナット体の把持部を挟み込むという余分の手間が不要になる。
【0025】
請求項2記載の取着工具によれば、請求項1の効果に加え、取着後のそのままの状態で、取着工具をボルト体に対して回動させると、収容空間部に収容されたナット体は、その把持部が突起となって、収容空間部の形状に規制されて共回動し、ナット体をボルト体に対して回動させることができる。つまり、この取着工具によれば、ナット体をボルト体に取着する作業と、このボルト体に取着されたナット体を回転させ締め付け等を行う作業を連続して行うことができる。
【0026】
請求項3記載の取着工具によれば、請求項1または2の効果に加え、挟付部の係合段部により、把持部が好適に引っ掛かって、取着工具による締め付け力がナットに滑りなく伝達される。
【0027】
請求項4記載の取着工具によれば、請求項3の効果に加え、挟付部に設けられ、近接部を合致した状態に押圧する傾斜押圧面により、把持部が均等に押し付けられ、左右異なって移動、変形するようなことがなくなる。
【0028】
請求項5記載の取着工具によれば、請求項4の効果に加え、前記一対の傾斜押圧面は、変形前の前記ナット体の把持部を前記係合段部に係合させて、このナット体を把持した際には、前記一対の傾斜押圧面の前記軸部から等距離にある部分間の間隔がこの軸部に近づくにつれてより小さくなるような傾斜面とされているので、ナット体を包み込んで挟付した取着工具により、その状態のままでナット体をボルト体方向に押し付けることができ、よってナット体の取着初期状態を良好なものとでき、ナット体のボルト体へのスムーズかつ好適な取着が確実に行える。
【0029】
請求項6記載の取着工具によれば、請求項5の効果に加え、収容空間部により、離間防止機能を備えたナット体を、その機能が確実に発揮されるように取着し回動させるので、ナット体がボルト体から離間することを確実に防止できる。
【0030】
請求項7記載の取着工具によれば、請求項1から6の効果に加え、前記挟付部の先端内側に一対の保持凹所を設け、この保持凹所によって前記ナット体の一対の把持部をその先端側から保持挟付し、該ナット体が塑性変形して前記ボルト体に取着されるまでの間、該把持部が外れないように保持するようにしたので、ナット体のボルト体へのスムーズかつ好適な取着が確実に行える。
【0031】
請求項8記載の取着工具によれば、請求項7の効果に加え、前記挟付部の前記保持凹所から先端側に、該ナット体の把持部から遠ざかるような逃がし平面部と先端逃がし勾配部とを設けたので、ナット体の把持部への取着工具の力作用点がより軸部に近い位置となり、より小さな力でナット体を取着することができる。
【0032】
請求項9記載のナット体によれば、把持部の取着工具に当接する側に設けられた係止凹所が、請求項10記載の取着保持金具と共働して、ナット体のボルト体への取着状態をより良好に保持する。
【0033】
請求項10記載の取着保持金具によれば、請求項9に記載のナット体の係止凹所に外嵌され、ナット体のボルト体への取着状態をより良好に保持する。
【0034】
請求項11記載の取着装置によれば、請求項1または9記載のナット体と、請求項1から5及び請求項7または8のいずれか記載の取着工具とから構成されているので、これらのナット体、取着工具の効果を取着装置として発揮する。
【0035】
なお、請求項9記載のナット体は、その係止凹所によって、請求項7または8記載の取着工具の保持凹所との係合がより確実なものとななり、この保持凹所によってナット体の把持部が外れないように保持するという機能を強化する。
【0036】
請求項12記載の取着装置は、請求項6記載のナット体と取着工具とから構成されているので、これらのナット体、取着工具の効果を取着装置として発揮する。
【0037】
なお、本発明は、ナット体が取着工具に保持されるようにして、そのスムーズ、好適な取着を確実するナット体保持挟付手段を特徴とするものであるが、このナット体保持挟付手段には、上述されている、ナット体を包み込んで保持する収容空間部を要部とする包型保持挟付手段と、ナット体の把持部の先端を保持する保持凹所を要部とする先型保持挟付手段との二種類があり、その二種類のナット体保持挟付手段は、相互に干渉しないもので、双方を同一の取着工具に装備することも可能であり、これらに対応したナット体とも絡みあって、複雑な組み合わせ関係を構成している。
【0038】
したがって、本発明については、出願に係る発明としては、包型保持挟付手段に関するものと、先型保持挟付手段に関するものとの二つに分けて、同一出願人によって、同日出願するが、発明を実施するための最良の形態、図面の簡単な説明の記載は全く同一のものとしており、本出願は包型保持挟付手段に関するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下に、本発明の実施の形態(実施例)について、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0040】
図1は、本発明の取着工具の一例を示すもので、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は要部拡大正面図、図2は、本発明のナット体の一例を示すもので、(a)は後面図、(b)は正面図、(c)は前面図、(d)は(b)のA矢視断面図、(e)は外観斜視図、図3(a)〜(e)は、図1の取着工具によって図2のナット体を取着する手順を示す部分正面図で、特に、(c)はその要部正面図である。
【0041】
この取着工具5は、ボルト体Bの軸方向に直交する方向からナット体6を塑性変形させてボルト体Bに取着するためのものであって、全体の外形、基本開閉機構としては、従来例で示した取着工具Pと同様である。
【0042】
特徴点は、互いに交差して設けられ、この交差部1aに設けられた軸部2を中心に相対的に回動自在な一対の回動体1(1R、1L)を有し、この回動体1の交差部1aより先端側が、ナット体6の一対の把持部6cを把持した状態で、軸部2を中心に回動することにより、ナット体6の把持部6cを挟み付けて本体部6aを塑性変形させ、ナット体6をボルト体Bに取着する挟付部4として構成され、
この挟付部4が、ナット体6を該ナット体6が挟付部4に対して移動しないように保持し塑性変形させてボルト体Bに取着すべく挟み付けるナット体保持挟付手段3を備えている点である。
【0043】
このナット体保持挟付手段3は、ナット体6が挟付部4から外れるのを防止して、上述の従来例の汎用の取着工具Pの解決課題を解決し、このナット体の正確な塑性変形を維持し、ナット体のスムーズかつ好適な取着が確実に行えるようにするものである。
【0044】
ナット体保持挟付手段3は、ナット体6を包み込むように保持する包型保持挟付手段と、ナット体6の把持部6c先端を保持する先型保持挟付手段との二種類があるが、この図1に示すものは、包型保持挟付手段の一例であり、符号3Aとしている。なお、包型保持挟付手段の他例については実施例3として、先型保持挟付手段については実施例5、6として後述する。
【0045】
ここに示した包型保持挟付手段3Aは、ナット体6を塑性変形させてボルト体Bに取着すべく挟み付けた状態で、ボルト体Bの外周を覆うとともに、その内側にナット体6を収容する収容空間部3aを備えているものである。
【0046】
また、係合段部3b、傾斜押圧面3c、追加係合段部3dも特徴とするが、これらについては、図3、5において、詳しく説明する。なお、符号1bはこの取着工具5把持し操作するための把持操作部である。
【0047】
取着工具5の取着対象となるナット体6は、内側にボルト体Bの外面ネジに係合する係合突起6bを備えた本体部6aと、本体部6aの外側に形成され、本体部6aをボルト体Bの外面ネジに沿って塑性変形させるべく、取着工具5に把持される一対の把持部6cとを備えており、全体として、U字形状をしている。
【0048】
また、把持部6cの両側を取着の際相互に近接する部分として近接部6d、一対の把持部6cの基端相互間に形成された空間は、ボルト体Bを通過させ得るもので、開口部6eと称する。一対の把持部6cが本体部6aと成す角度αは等しい。
【0049】
この取着工具5の作用効果について、図3に示した作業手順に沿って詳しく説明する。
【0050】
まず、ナット体6をその収容空間部3aに収容し、取着工具5の包型保持挟付手段3Aで包み込むように、また、その係合段部3bにナット体6の把持部6cが当接するように挟み込む。この状態のまま、図3(a)に示すように、ナット体6をボルト体Bの所望の位置に外嵌する。
【0051】
このようにすると、従来例のように、一旦、ナット体6をボルト体Bに嵌め込んでから、その反対側からナット体6の把持部6cを挟み込むという余分の手間が不要になる。
【0052】
この係合段部3bは、ナット体6の把持部6cを係合させるためのものであり、ここに把持部6cが引っ掛かって、取着工具5による締め付け力がナット体6に滑りなく伝達される。
【0053】
また、この状態で、図示したように、この係合段部3bから追加係合段部3dへの一対の傾斜押圧面3cの最も係合段部3b寄りの部分の相対する面間の間隔をL1、最も追加係合段部3d寄りの部分の相対する面間の間隔をL2とすると、間隔L1>間隔L2という関係になっている。
【0054】
つまり、一対の傾斜押圧面3cは、変形前のナット体6の把持部6cを係合段部3bに係合させて、このナット体6を把持した際には、傾斜押圧面3c軸部2から等距離にある部分間の間隔が軸部2に近づくにつれてより小さくなるような傾斜面となっている。
【0055】
したがって、ナット体6を図の状態で把持した状態で取着工具5をボルト体B方向に押し付けると、その力がこの傾斜押圧面3cの先広がりの勾配を介してナット体6に伝達され、このナット体6の内面にある係合突起6bがボルト体Bの外面ネジに押し当てられネジ係合され、良好な取着初期状態を実現して、ナット体のスムーズかつ好適な取着が確実に行える。
【0056】
ついで、取着工具5を締め付けると、取着工具5の一対の包型保持挟付手段3Aが相互に近づくように押圧され、これに伴い図3(b)に示すように、ナット体6の本体部6aがボルト体Bを包み込むように塑性変形する。
【0057】
更に、取着工具5を締め付けると、図3(c)に示すように、ナット体6の一対の把持部6cは、その取着工具5に対面する側の近接部6dに、この取着工具5の係合段部3bに続いて設けられた傾斜押圧面3cからの押圧力を受けて相互に次第に近接し、同時に、ナット体6の外周と収容空間部3aの上部との図示した点Cでの接触により、取着工具5の軸部2方向への推力を受け、その軸部2の方向へ移動する。
【0058】
この傾斜押圧面3cは、係合段部3bの段下から交差部1aへ向けて、ナット体6の一対の把持部6cの側面である近接部6dを合致した状態に押圧するもので、これにより、この把持部6cが上記推力を受ながら、均等に押し付けられ、左右異なって移動、変形するようなことがなくなる。
【0059】
更に、取着工具5を締め付けると、図3(d)に示すように、ナット体6の近接部6dが相互に当接する状態にまで本体部6aの塑性変形が進む。
【0060】
この取着がすんだ後は、そのままの状態で、取着工具5を回動させれば、図3(e)に示すように、ナット体6の把持部6cだけが突出しているので、取着工具5の収容空間部3a内で規制され、取着工具5と共回転することになる。
【0061】
つまり、収容空間部3aによって形成される空間の大きさ(有効半径)が、ナット体6の本体部6aの外径より大きいが、把持部6cの端部を含む外径よりも小さくなるように構成されており、ナット体6は取着工具5に規制されて共回転することになる。
【0062】
こうして、この取着工具5によれば、従来のものに比べ、収容空間部3aを設けたことで、ナット体6をこの空間部3aに収容した状態で、抱き込むようにその把持部6cによって挟み込むことができ、そのままボルト体Bに取着でき、従来例に比べ手間を省くことができる。
【0063】
更に、取着後のそのままの状態で、取着工具5をボルト体Bに対して回動させると、収容空間部3aに収容されたナット体6は、その把持部6cが突起となって、収容空間部3aの形状に規制されて共回動し、ナット体6をボルト体Bに対して回動させることができる。つまり、この取着工具5によれば、ナット体6をボルト体Bに取着する作業と、このボルト体Bに取着されたナット体6を回転させ締め付け等を行う作業を連続して行うことができる。
【0064】
また、上記の取着工具5の効果は、上記ナット体6との組み合わせである取着装置10(図3において符号を記す。)としても発揮される。
【実施例2】
【0065】
図4は、本発明のナット体の他例を示すもので、(a)は後面図、(b)は正面図、(c)は前面図、(d)は(b)のA1矢視断面図、(e)は外観斜視図、図5(a)〜(d)は、図1の取着工具によって図3のナット体を取着する手順を示す部分正面図である。これより、既に説明した部分と同じ部分については、同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0066】
図4に示すナット体6Aは、図1の取着工具5でボルト体Bに取着されるものであるが、図2のナット体6に比べ、一対の把持部6f、6hの長さが異なり、一方の長い方を長把持部6f、他方の短い方を短把持部6hと言う。
【0067】
長把持部6fの内側近接部6dには、ナット体6Aをボルト体Bに取着した際に、短把持部6hが嵌まり込む凹所である離間防止部6gが設けられている。
【0068】
この離間防止部6gは、図4で説明するように、取着工具5によってナット体6Aをボルト体Bに取着し続けて回動させた場合に、短把持部6hが嵌まり込み、その状態が維持されるようになって、離間防止状態を維持するものである。
【0069】
長把持部6f、短把持部6hの本体部6aに対する曲げ角度β、γは、図2のナット体6(角度α)に比べ、同一ではない。これは、長把持部6f、短把持部6hに作用する力の違い、また、短把持部6hをより早く屈曲させて、長把持部6fの離間防止部6gに好適に嵌まり込ませるなどのためであるが、試行錯誤的に決定されるものである。
【0070】
このナット体6Aを取着する場合の手順を図5により詳しく説明する。
【0071】
まず、ナット体6Aをその収容空間部3aに収容するように、取着工具5の包型保持挟付手段3Aで包み込むようにして、その係合段部3bにナット体6の長把持部6f、追加係合段部3dに短把持部6hが当接するように挟み込む。
【0072】
続いて、ナット体6Aを包み込むように挟み付けた状態のまま、図5(a)に示すように、ナット体6Aをボルト体Bの所望の位置に外嵌する。この際、従来例に比べ、一旦、ナット体6Aをボルト体Bに嵌めてから、ナット体6Aを取着工具5で挟み込むという手間を省くことができる。
【0073】
この場合にも、係合段部3bに続く傾斜押圧面3c、追加係合段部3dの当接面がこの把持状態で先広がりとなっているので、取着工具5からの力が、この押圧面3c等を介してナット体6Aに伝わり、ナット体6Aの内面をボルト体Bの外面ネジにネジ当接させることができ、良好な取着初期状態を実現して、ナット体のスムーズかつ好適な取着が確実に行える。
【0074】
この追加係合段部3dは、ナット体6Aの短把持部6hを係合させるためのものであり、係合段部3bとの協動により、把持部6f、6hが好適に引っ掛かって、取着工具5による締め付け力がナット体6Aに滑りなく伝達される。
【0075】
ついで、取着工具5を締め付けると、図5(b)に示すように取着工具5の一対の包型保持挟付手段3Aが相互に近づくように押圧され、これに伴い、ナット体6Aの長把持部6f、短把持部6hが相互に近づくように塑性変形し、その本体部6aがボルト体Bを包み込む。
【0076】
更に、取着工具5を締め付けると、図5(c)に示すように、ナット体6Aの近接部6dが相互に当接する状態にまで本体部6aの塑性変形が進み、ナット体6Aの短把持部 6hの端部が長把持部6fの離間防止部6gに嵌まり込み可能な係合状態となる。
【0077】
この取着がすんだ後は、そのままの状態で、取着工具5を黒矢印方向に回動させれば、図5(d)に示すように、取着工具5の包型保持挟付手段3Aの追加係合段部3dに規制されて、長把持部6fの離間防止部6gが、短把持部6h側に折れ曲がり、離間防止状態となり、また、この長把持部6fが取着工具5の回動に規制されてナット体6Aが、良好な離間防止状態を維持したままで、共回動される。
【0078】
この例では、ナット体6Aの長把持部6fは、追加係合段部3dに規制されているが、この追加係合段部3dがない場合でも、収容空間部3aによって形成される空間の大きさ(有効内径)が、ナット体6Aの本体部6aの外径より大きいが、長把持部6fの端部を含む外径よりも小さくなるようにしておけば、ナット体6Aは取着工具5に規制されて共回転することになる。
【0079】
こうして、この取着工具5によれば、通常のナット体6の場合と同様な効果を離間防止機能を備えたナット体6Aについて発揮するのに加えて、このナット体6Aの離間防止機能がより完全に発揮されるようにすることができる。
【0080】
また、上記の取着工具5の効果は、上記ナット体6Aとの組み合わせである取着装置10A(図5において符号を記す。)としても発揮される。
【0081】
なお、取着工具5の追加係合段部3dは、ナット体6Aのような離間防止機能を有するナット体を取着する場合には必要であるが、そうでない場合には必ずしも必須の構成要素ではなく、省略することができるものである。
【実施例3】
【0082】
図6(a)は本発明のナット体の他例を示す外観斜視図、(b)は本発明の取着工具の他例を示す要部拡大正面図である。
【0083】
このナット体6Bは、図2のナット体6に比べ、本体部6a′の形状が、U字形ではなく、矩形となっている点が異なっている。
【0084】
これに対応して、このナット体6Bを取着する取着工具5Aは、図1の取着工具5に比べ、その包型保持挟付手段3Bの収容空間部3a′の形状が、ナット体6Bの本体部6a′の形状に沿った、より矩形に近いものとなっている点が異なっている。
【0085】
このように構成しても、このナット体6B、取着工具5Aは、上記のナット体6、取着工具5と同様の効果を、取着工具、取着装置として発揮する。
【実施例4】
【0086】
図7(a)〜(c)は図1の取着工具で取着可能な種々のナット体を例示する外観斜視図である。
【0087】
図7(a)のナット体6Cは、本体部6iを長尺のものとし、把持部6cをその長手方向の両端に一対ずつ設けたものである。
【0088】
このようなナット体6Cは、係合突起6bがより長い区間でボルト体Bとネジ係合するので、ナット体6Cとボルト体Bの取着をより確固としたものとすることができる。
【0089】
図7(b)のナット体6Dは、図6に示した矩形のナット体6Bを継板部6jを介して背中合わせに連結したものである。このようなナット体6Dは、ボルト体Bに追加のボルト体Bをシフトさせて継ぎ足す場合などに用いることができる。
【0090】
図7(c)のナット体6Eは、本体部6kは図7(a)と同様に長尺であるが、把持部6c′は、本体部6kの両端ではなく中央部に一対だけ設けられ、また、別体の離間防止部材7により、ボルト体Bへの取着後に離間防止をより完全なものとできるようになっている点を特徴とする。
【0091】
このようなナット体6Eは、ナット体6Cど同様にボルト体Bへの取着をより確固たるものとすることができる上、ナット体6Eのボルト体Bからの離間防止をより完全なものとすることができる。
【0092】
本発明の取着工具5は、上記のいずれのナット体6C、6D、6Eの取着にも用いることができ、同様の効果を発揮するものである。また、この効果は、それぞれのナット体との組み合わせである取着装置としても発揮される。
【実施例5】
【0093】
図8は、本発明の取着工具の他例を示すもので、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は要部拡大正面図、図9は、本発明のナット体の他例を示すもので、(a)は後面図、(b)は正面図、(c)は前面図、(d)は(b)のA2矢視断面図、(e)は外観斜視図、図10(a)〜(c)は、図8の取着工具によって図9のナット体を取着する手順を示す部分正面図、(d)は(c)の先型保持挟付手段部分の拡大図、(d)は他例の取着工具の先型保持挟付手段部分の拡大図である。
【0094】
この取着工具5Bは、図1の取着工具5に比べ、挟付部4に、既設の包型保持挟付手段3Aに加えて、先型保持挟付手段3Cが設けられている点が異なっている。
【0095】
先型保持挟付手段3Cは、挟付部4の包型保持挟付手段3Aが設けられている奥部分(軸部2に近い方)と干渉しない先端部3eに設けられ、その先端の相対向する平面部3eaの適所に設けられた半円形の保持凹所3ebとして構成されている。
【0096】
一方、この先型保持挟付手段3Cを備えた取着工具5Bを用いる場合は、図2のナット体6、図7のナット体6C〜6Eを取着対象とすることもできるが、図9のナット体6Fを取着対象とするのが良い。
【0097】
このナット体6Fは、図9に示すように、図2のナット体6に比べ、二つの把持部6cの外側、取着工具5Bに当接する側に係止凹所6mが設けられている点が異なっている。
【0098】
このような組み合わせて、取着工具5Bの保持凹所3ebは、係止凹所6mと共働して、ナット体6Fが塑性変形してボルト体Bに取着するまでの間、把持部6cを保持し、この把持部6cが外れないようにしてナット体6Fを保持して先型保持挟付手段3Cとして機能する。
【0099】
この保持凹所3eb(先型保持挟付手段3C)の形状は、この例の半円形に限定されず、ナット体6Fが塑性変形してボルト体Bに取着するまでの間、把持部6cの先端が外れないように拘束する形状であれば良く、矩形や奥へいくほど広くなる台形などであってもよい。
【0100】
この取着工具5Bの作用効果について、図10に示した作業手順に沿って詳しく説明する。
【0101】
まず、図10(a)に示すように、ナット体6Fをボルト体Bの所望の位置に外嵌し、このボルト体Bを内包したナット体6Fの把持部6cの先端を、取着工具5Bの先型保持挟付手段3C(保持凹所3eb)にはめ込む。
【0102】
このに保持凹所3ebにはナット体6の把持部6cの先端が嵌まり込んでいるので、取着工具5Cに対して移動することがなく、ナット体6Fをボルト体B方向に引き寄せることができ、これにより、ナット体6Fの内面とボルト体Bの外面とがネジ係合し、良好な取着初期状態が維持され、ナット体のボルト体へのスムーズかつ好適な取着が確実に行える。
【0103】
ついで、取着工具5Bを締め付けると、取着工具5Bの一対の先型保持挟付手段3Cが相互に近づくように押圧され、これに伴い図10(b)に示すように、ナット体6Fの本体部6aがボルト体Bを包み込むように塑性変形する。
【0104】
更に、取着工具5Bを締め付けると、図10(c)に示すように、ナット体6Fの近接部6dが相互に当接する状態にまで本体部6aの塑性変形が進む。
【0105】
この取着がすんだ後は、既設の包型保持挟付手段3Aを利用して、図3(e)に示すようにつかみ変えて、取着工具5を回動させれば、好適にナット体6を回転させることができるが、これは必要に応じてなされるものである。
【0106】
なお、図10(d)、(e)については、実施例6において説明する。
【0107】
こうして、この取着工具5Bによれば、その先型保持挟付手段3Cによって、先に説明した包型保持挟付手段3A、3Bと同様に、ナット体のボルト体へのスムーズかつ好適な取着が確実に行える。
【0108】
なお、先型保持挟付手段3Cは、この例のように包型保持挟付手段3Aと組み合わせて挟付部4に設けてもよいが、単独に設けるようにしてもよい。
【0109】
また、上記の取着工具5Bの効果は、上記ナット体6Fとの組み合わせである取着装置10B(図10において符号を記す。)としても発揮される。また、取着工具5B、取着装置10Bは、実施例1、2、4で説明したナット体6、6A、6C〜6Eにも適用可能なものである。先型保持挟付手段3Cを備えた取着工具5B用として好適なナット体6Fは、ナット体6A〜6Eと同様な態様とするこも可能である。
【実施例6】
【0110】
図11は、本発明の取着工具の他例を示すもので、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は要部拡大正面図である。
【0111】
この取着工具5Cは、図8の取着工具5Bに比べ、同様な先型保持挟付手段3Dを備えているが、この先型保持挟付手段3Dの形状が図8の先型保持挟付手段3Cと異なっている。
【0112】
具体的には、先型保持挟付手段3Dのその先端部3fの奥側の平面部3faと、これに続く半円形の保持凹所3fbとは、図8の先型保持挟付手段3Cの平面部3ea、保持凹所3ebと共するするが、その保持凹所3fbから先端側の逃がし平面部3fcが、奥側の平面部3faに比べ、この工具5Cの先端を閉じた際に、先端に所定距離2Dだけの隙間を作るように、距離Dだけ後退している点が異なっている(なお、ここで距離2Dは、距離Dの2倍である。)。
【0113】
更に、この逃がし平面部3fcの先端部分に、この工具5Cの先端を閉じた際に、▽形状の隙間を生じるように先端逃がし勾配部3fdが設けられている点も異なっている。
【0114】
このような取着工具5Cを用いて、図9のナット体6Fをボルト体Bに取着する方法は、図10(a)から(c)の直前までは、図8の取着工具5Bの場合と同様である。
【0115】
相違点について、図10(d)、(e)を用いて説明する。図10(d)は、図10(c)において、図8の取着工具5Bを用いた場合の先型保持挟付手段3C部分の拡大詳細を示し、図10(e)は、図11の取着工具5Cを用いた場合の先型保持挟付手段3D部分の詳細を示している。
【0116】
これらの図を比較すると、取着工具5Bを用いた図10(d)の場合、ナット体6Fの把持部6cが取着工具5Bの先端で力Fを受けて締め付けられているのに比べ、取着工具5Cを用いた図10(e)の場合、ナット体6Fの把持部6cが取着工具5Cの保持凹所3fbの先端側で力fを受けて締め付けられているのが解る。
【0117】
これは、取着工具5Cの場合、その逃がし平面部3fcを距離Dだけ後退させ、更にその先端に先端逃がし勾配部3fdを設けたので、保持凹所3fbの弧部分が先にナット体6Fの係止凹所6mの先端段部と当接して、ここで力fが作用するためであると考えられる。
【0118】
このようにすると、取着工具5Cによる場合は、取着工具5Bによる場合に比べて、図10(d)、(e)において、取着工具5B、5Cとナット体6Fとの間の力の作用点(F、f)を比べると解るように、ナット体6Fを取着したボルト体Bの中心軸からはより離れる位置となり、取着工具5Cの軸部2側へ近づいている。
【0119】
したがって、てこの原理により、ナット体6Fを変形させる力fは工具Bの場合の力Fより小さくなり、その結果、取着工具5Cの把持操作部1bを操作する力はより小さくなり、結果的に、取着工具5Cによれば、より小さな力で、ナット体6Fを取着することができる。
【0120】
このような力の作用点を工具の操作力を小さくする方向へ移動するという着想は、そのように移動しても、ナット体6Fの締め付け状態に変わりがない、という繰り返し実験の結果得られたものである。
【0121】
つまり、取着工具5Cによれば、実施例5の取着工具5Bと同様の効果を有すると共に、より小さい操作力でナット体6Fをボルト体Bに取着することができるという効果を発揮し、これは、ナット体を多数取着する場合には重要である。
【0122】
なお、先型保持挟付手段3Dは、この例のように包型保持挟付手段3Aと組み合わせて挟付部4に設けてもよいが、単独に設けるようにしてもよい。
【0123】
また、上記の取着工具5Cの効果は、上記ナット体6Fとの組み合わせである取着装置10C(図10(e)において符号を記す。)としても発揮される。また、取着工具5C、取着装置10Cは、実施例1、2、4で説明したナット体6、6A、6C〜6Eにも適用可能なものである。先型保持挟付手段3Dを備えた取着工具5C用として好適なナット体6Fは、ナット体6A〜6Eと同様な態様とするこも可能である。
【実施例7】
【0124】
図12は、図9のナット体の使用態様を説明するものであり、(a)はそのナット体がボルト体に取着された状態を示す斜視図、(b)はその取着状態のナット体に用いる取着保持金具の斜視図、(c)は(b)のB1矢視図、(d)は(c)のA3断面図、(e)はナット体の取着保持状態を示す斜視図、(f)は(e)のB2矢視図である。
【0125】
図9のナット体6Fは、実施例5、6で説明したように先型保持挟付手段3C、3Dを備えた取着工具5B、5Cと組み合わせて用いると、その係止凹所6mがナット体6Fを保持させる機能をより良好にするものであるが、この係止凹所6mは、本来、この図12で説明するように、取着保持金具8と組み合わせて用いられることを意図したものである。
【0126】
この取着保持金具8は、図7に示した離間防止部材7と同様の機能を発揮し、また、全体的形状も同様であり、円筒を半分に縦割りした形状となっている。
【0127】
取着保持金具8の外径は、取着状態のナット体6Fのボルト体B中心から係止凹所6mの外側までに達するもので、その軸方向に一様である。取着保持金具8の上部8aの内径は、ボルト体Bの外面ネジの外径にガタつきなく嵌められるものとなっており、下部8bの内径は、取着状態のナット体6Fの本体部6aをガタつきなく嵌められるものとなっている。
【0128】
取着保持金具8の下部8bの円周方向の中央部には、取着状態のナット体6Fの係止凹所6mがガタつきなく嵌まり込む保持孔8cが設けられ、この保持孔8cの開口端には、一対の対向する係止突起8dが設けられている。
【0129】
この係止突起8dは、その開口側の案内勾配部8daと、その反開口側の後段部8dbとを備えている。
【0130】
この取着保持金具8でナット体6Fの取着状態を保持するには、図12(b)に示した向きのまま、図12(a)に二点鎖線の折線矢印Dで示すように、ボルト体Bの軸方向から、取着保持金具8の保持孔8cがナット体6Fの係止凹所6mに嵌まり込むようにセットすると良い。
【0131】
すると、図12(e)、(f)に示したような状態で、ナット体6Fのボルト体Bへの取着状態が維持される。
【0132】
この状態では、取着保持金具8のボルト体Bの軸方向に直交する方向への移動は、保持孔8cを形成する縁とナット体6Fの係止凹所6mとの係合により規制され、ボルト体Bの軸方向への移動は、取着保持金具8の保持孔8cの開口端に設けられた係止突起8dの後段部8dbとナット体Fの把持部6cの下端との係合により規制され、結果、意図的な操作をしない限り、取着保持金具8がナット体6Fから外れることがなく、ナット体6Fの取着状態が保持される。
【0133】
ナット体6Fの把持部6cは相互に当接するように塑性変形するが、完全に当接するに迄は至らず、一定の隙間を残す程度に弾性変形可能部分を残し、この弾性力により、取着保持金具8の保持孔8cとナット体6Fの係止凹所6mとの係合状態が維持される。
【0134】
また、取着保持金具8の保持孔8cの開口端に設けられた係止突起8dの案内勾配部8daは、この保持孔8cをナット体6Fの係止凹所6mに嵌まり込ませる際の、案内となって、その嵌まり込みをより容易にしている。
【0135】
上記の種々のナット体と取着工具の組み合わせは、上記に説明したものだけに限定されず、上記外の組み合わせも可能であり、それぞれの効果を発揮する。
【0136】
特に、把持部の長さを異ならせて、離間防止機能を発揮させるようにするナット体は、上記例のものに限定されず、上記離間防止機能のない他のナット体にも、同様の構成で、離間防止機能を発揮するようにすることができ、その場合にも、本発明の取着工具、取着装置は、使用可能であり、同様の効果を発揮する。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明の取着工具、取着装置、ナット体及び取着保持金具は、建築施工現場などで、天井から懸下し電気配線用支持具や配線、器具を取着するためのボルト体にこれらの支持具、器具等を簡易に取着するのに好適に用いられるが、これに限定されず、ボルト体の所望部位に既設の他の機器を取り外すことなく、追加の機器を取り付けることが必要なあらゆる産業分野で好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】本発明の取着工具の一例を示すもので、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は要部拡大正面図
【図2】本発明のナット体の一例を示すもので、(a)は後面図、(b)は正面図、(c)は前面図、(d)は(b)のA矢視断面図、(e)は外観斜視図
【図3】(a)〜(e)は、図1の取着工具によって図2のナット体を取着する手順を示す部分正面図で、特に、(c)はその要部正面図
【図4】本発明のナット体の他例を示すもので、(a)は後面図、(b)は正面図、(c)は前面図、(d)は(b)のA1矢視断面図、(e)は外観斜視図
【図5】(a)〜(d)は、図1の取着工具によって図3のナット体を取着する手順を示す部分正面図
【図6】(a)は本発明のナット体の他例を示す外観斜視図、(b)は本発明の取着工具の他例を示す要部拡大正面図
【図7】(a)〜(c)は図1の取着工具で取着可能な種々のナット体を例示する外観斜視図
【図8】本発明の取着工具の他例を示すもので、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は要部拡大正面図
【図9】本発明のナット体の他例を示すもので、(a)は後面図、(b)は正面図、(c)は前面図、(d)は(b)のA2矢視断面図、(e)は外観斜視図
【図10】(a)〜(c)は、図8の取着工具によって図9のナット体を取着する手順を示す部分正面図、(d)は(c)の先型保持挟付手段部分の拡大図、(e)は他例の取着工具の先型保持挟付手段部分の拡大図
【図11】本発明の取着工具の他例を示すもので、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は要部拡大正面図
【図12】図9のナット体の使用態様を説明するものであり、(a)はそのナット体がボルト体に取着された状態を示す斜視図、(b)はその取着状態のナット体に用いる取着保持金具の斜視図、(c)は(b)のB1矢視図、(d)は(c)のA3断面図、(e)はナット体の取着保持状態を示す斜視図、(f)は(e)のB2矢視図
【図13】(a)、(b)はナット体を従来の取着工具で取着する手順を示す概念図
【符号の説明】
【0139】
1 回動体
1a 交差部
2 軸部
3 ナット体保持挟付手段
3A、3B 包型保持挟付手段
3C、3D 先型保持挟付手段
3a 収容空間部
3b 係合段部
3c 傾斜押圧面
3d 追加係合段部
3eb 保持凹所
3fb 保持凹所
3fc 逃がし平面部
3fd 先端逃がし勾配部
4 挟付部
5〜5C 取着工具
6〜6F ナット体
6a 本体部
6a′ 本体部
6b 係合突起
6c 把持部
6c′ 把持部
6d 近接部
6e 開口部
6f 長把持部
6g 離間防止部
6h 短把持部
6i 本体部
6j 継板部
6k 本体部
6m 係止凹所
7 離間防止部材
8 取着保持金具
10〜10C 取着装置
B ボルト体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルト体の軸方向に直交する方向からナット体を塑性変形させて前記ボルト体に取着するための取着工具であって、
前記ナット体は、内側に前記ボルト体の外面ネジに係合する係合突起を備えた本体部と、該本体部の外側に形成され、前記本体部を前記ボルト体の外面ネジに沿って塑性変形させるべく、前記取着工具に把持される一対の把持部とを備え、
前記取着工具は、互いに交差して設けられ、該交差部に設けられた軸部を中心に相対的に回動自在に設けられる一対の回動体を有し、この回動体の該交差部より先端側が、前記ナット体の一対の把持部を把持した状態で、前記軸部を中心に回動することにより、該ナット体の把持部を挟み付けて前記本体部を塑性変形させ、該ナット体を前記ボルト体に取着する挟付部として構成され、
前記挟付部は、前記ナット体を塑性変形させて前記ボルト体に取着すべく挟み付けた状態で、前記ボルト体の外周を覆うとともに、その内側に前記ナット体を収容する収容空間部を備えていることを特徴とする取着工具。
【請求項2】
前記収容空間部は、前記ナット体の取着後の状態で前記取着工具を回動させることにより、該ナット体を前記ボルト体に対して回動させることができるように構成されていることを特徴とする請求項1記載の取着工具。
【請求項3】
前記挟付部は、前記ナット体の把持部を係合させる一対の係合段部を備えていることを特徴とする請求項1または2記載の取着工具。
【請求項4】
前記挟付部は、前記係合段部の段下から前記交差部へ向けて、前記ナット体の一対の把持部の側面である近接部を合致した状態に押圧する一対の傾斜押圧面を備えていることを特徴とする請求項3記載の取着工具。
【請求項5】
前記一対の傾斜押圧面は、変形前の前記ナット体の把持部を前記係合段部に係合させて、このナット体を把持した際には、前記一対の傾斜押圧面の前記軸部から等距離にある部分間の間隔がこの軸部に近づくにつれてより小さくなるような傾斜面とされていることを特徴とする請求項4記載の取着工具。
【請求項6】
前記ナット体が、その一対の把持部が、内側に離間防止部を設けたより長い長把持部と、該ナット体が塑性変形した際、該離間防止部に嵌まり込むように構成されたより短い短把持部とにより構成され、
前記挟付部は、前記傾斜押圧面の前記交差部側に、更に追加係合段部を備え、前記ナット体の長把持部を前記係合段部で、前記ナット体の短把持部を前記追加係合段部で受けるように構成され、
該取着工具で、該ナット体を前記ボルト体に取着した際には、前記離間防止部が前記短把持部に係合し、前記ナット体の一対の把持部の離間防止状態が維持された状態で、前記取着工具で、前記ナット体を前記ボルト体に対して回転させることができるように構成されていることを特徴とする請求項5記載の取着工具。
【請求項7】
前記挟付部の先端内側に一対の保持凹所を設け、この保持凹所によって前記ナット体の一対の把持部をその先端側から保持挟付し、該ナット体が塑性変形して前記ボルト体に取着されるまでの間、該把持部が外れないように保持するようにしたことを特徴とする請求項1から6のいずれか記載の取着工具。
【請求項8】
前記挟付部の前記保持凹所から先端側に、該ナット体の把持部から遠ざかるような逃がし平面部と先端逃がし勾配部とを設けたことを特徴とする請求項7記載の取着工具。
【請求項9】
取着工具によって塑性変形されてボルト体の軸方向に直交する方向から取着され得るナット体であって、
前記ナット体は、内側に前記ボルト体の外面ネジに係合する係合突起を備えた本体部と、該本体部の外側に形成され、前記本体部を前記ボルト体の外面ネジに沿って塑性変形させるべく、前記取着工具に把持される一対の把持部と、この把持部の前記取着工具に当接する側に係止凹所とを備えていることを特徴とするナット体。
【請求項10】
請求項9記載のナット体が前記ボルト体に取着された状態で、前記一対の把持部の前記係止凹所に前記ボルト体の軸方向から外嵌可能とされたことを特徴とする取着保持金具。
【請求項11】
請求項1または9記載のナット体と、請求項1から5及び請求項7または8のいずれか記載の取着工具とから構成されていることを特徴とする取着装置。
【請求項12】
請求項6記載のナット体と取着工具とから構成されていることを特徴とする取着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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