説明

取鍋用連続測温プローブ

【課題】取鍋内部に取り付けて連続的に溶融金属の温度を測定し、溶融金属と空気とが交互に変化する環境に耐え得る連続測温プローブを提供する。
【解決手段】一端封じの二重管構造とし、その内側にサーメット製保護管1を使用して、耐機械的衝撃を確保する。外側には、耐火物成形材製の保護スリーブ2を使用して、内側のサーメット製保護管1を外気による酸化減耗を防止し、保護管と保護スリーブ2の間隙に存在する空気からのサーメット製保護管1の酸化を防止するために、保護スリーブ2には高温時に還元雰囲気となる構成材成分を使用する。また、保護スリーブ2の気孔率を5%〜30%として、溶鋼流による機械的衝撃及び、熱衝撃を緩和する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属の搬送、または精錬に使用するための容器内に装着し、溶融金属の温度を連続的に測定する連続測温プローブに関するものである。ここで、溶融金属とは、例えば、溶融状態の鉄を指す。
【背景技術】
【0002】
金属精錬の中で鍋精錬と呼ばれるプロセスでは、溶融金属を搬送する容器は搬送目的だけではなく、容器自身が反応容器となる。この様な例として、製鋼工程における二次精錬があり、主な精錬法には、真空脱ガス処理のRH法、DH法や溶鋼をアーク放電で加熱する取鍋加熱のLF法などがあり、これらの複合精錬も行われている。二次精錬を終了した溶鋼は、造塊工程または連続鋳造工程で鋳型に注入されるか、タンディシュに注入され連続鋳造機で鋼板や棒鋼製品となる。一般に、これらの処理に使用される容器を鍋あるいは取鍋などと称している。
【0003】
取鍋の中の溶融金属の温度を連続的に知ることは、製鋼工場における二次精錬の様に多段的に処理される複数のプロセスを管理する上で有益であるが、特に、溶鋼を連続鋳造工程でタンディシュや、造塊工程で鋳型へ注入時の温度降下は、直接製品の材質を決定付けるものとして極めて重要である。
【0004】
注入中の溶鋼温度の消耗型熱電対プローブによる温度測定は、注入時の取鍋の設置位置や環境上、安全上の理由で困難であった。このため、注入のための取鍋設置への移動前または、直前の鍋処理の終了時に温度を測定し、注入中の温度降下を予測して、注入終了時まで所定の温度が確保出来るかを判断していた。
【0005】
しかしながら、注入時の温度降下は、取鍋内張りの耐火物の材質や厚さ、使用状況などにより変化するので予測が困難であり、予測出来ない温度降下が原因の鋳造品や連続鋳造品の材質不良を完全に回避すること出来なかった。
【0006】
この様な測定困難な場所での溶融金属の温度測定、連続的な温度変化を監視するために保護管付の熱電対を取鍋内に取り付けて測定する方法が考えられるが、溶融金属が鋼の場合、次の理由から実現されていなかった。
【0007】
第一に、高温の溶鋼からセンサを熱的・化学的に保護するための保護管の機械的強度不足による破損である。例えば、熱電対用保護管として一般に使用されるアルミナ保護管などでは、溶鋼をその前段階の処理装置(例えば、転炉)から取鍋に注入する際には、溶鋼の比重が大きく、前段階の処理装置と取鍋との落差により、溶鋼流が保護管に強い機械的衝撃を与え、併せて溶鋼と保護管との温度差に起因する熱衝撃も受けて破損する。仮に、この衝撃に耐えたとしても、次工程での処理で保護管は高温下で、溶鋼からの静水圧や対流によって機械的な荷重を受け破損に至る。
【0008】
第二に、セラミック製の保護管より機械的強度の高いサーメット保護管を使用した場合は、高温の溶鋼がサーメットの金属成分と反応し、かつ低酸素である溶鋼がサーメットの酸化物成分を還元して浸食されて、破損に至る。
【0009】
第三に、サーメット製保護管の場合、複数サイクルの使用を前提にすると、取鍋の予熱や鋳型やタンディシュへの注入を終えて取鍋内の溶鋼が空の状態で、保護管は500℃以上の大気雰囲気内に曝されるので、サーメットの金属成分が酸化よって浸食され、破損の原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】 特許公開2008−139110号公報
【特許文献2】 特許公開2003−65858号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】 日本鉄鋼協会、「取鍋精錬法−多品種・高品質鋼 量産化への挑戦」梶岡 博幸著
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
取鍋内に設置し、溶融金属の注入時の物理的・熱的衝撃に耐えるセラミック製保護管を備えた取鍋用連続測温プローブを製造することは困難であった。
【0013】
また、サーメット製保護管を使用する場合において、保護管が接する雰囲気が溶融金属と空気とが繰り返され、サーメットの金属成分が酸化減耗するため、これに耐え得るサーメット製保護管を備えた取鍋用連続測温プローブを製造することは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明にかかる取鍋用連続測温プローブでは、一端封じの二重管構造とし、その内側にサーメット製保護管を使用して、耐機械的衝撃を確保する。
【0015】
外側には、耐火物成形材製の保護スリーブを使用して、内側のサーメット製保護管を外気による酸化減耗を防止し、保護管と保護スリーブの間隙に存在する空気からのサーメット製保護管の酸化を防止するために、保護スリーブには高温時に還元雰囲気となる構成材成分を使用する。
【0016】
また、保護スリーブの気孔率を5%〜30%として、溶鋼流による機械的衝撃及び、熱衝撃を緩和する。
【0017】
これらの手段によって、取鍋内に設置し、溶鋼の注入時の物理的・熱的衝撃に耐え、プローブの溶鋼接触部が溶鋼と大気の繰り返しになる使用条件下であっても、長寿命となる取鍋用連続測温プローブの製造が可能になった。
【発明の効果】
【0018】
取鍋の中の溶融金属の温度を連続的に知ることで、製鋼工場における二次精錬のように多段的に処理される複数のプロセスを連続的に管理し、溶鋼を移送中での温度低下が把握可能となり、各工程での温度管理が容易になった。
【0019】
造塊工程及び連続鋳造工程では、溶鋼を鋳型またはタンディシュへ注入する間の温度降下を連続的に把握出来るので、温度降下の激しい取鍋に対しては保温材の投入量や発熱材の投入などの対策が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】 発明の実施例を示す図であって、本発明にかかる溶融金属の温度を連続的に測定する連続測温プローブを取鍋に取り付けた構成示す図である。
【図2】 連続測温プローブの構成を説明する図である。
【図3】 連続測温プローブの内部の構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施例を説明する。図1は、本発明に係る溶融金属の温度を連続的に測定する連続測温プローブを取鍋に取り付けた実施例である。なお、実施例はあくまで、発明の理解を容易にするためであり、この実施例の条件に制限されない。図2は、図1の拡大図であり、図2が示すように、アルミナ製一端封管3で保護され、熱電対が内蔵されたサーメット製保護管1を一端封の耐火物成形材製の保護スリーブ2で覆い、センサからの電気的な信号を、コネクタ5を介して、データロガー9に接続されている。データロガー9は、これに代えて温度を直読できる記録計または、信号を無線搬送する装置に代えも良い。
【0022】
前記サーメット製保護管、前記耐火物成形材製保護管及び、前記熱電対内臓アルミナ保護管で構成された連続測温用プローブは、取鍋鉄皮7に取り付け冶道8によって固定される。
【0023】
図3は、前記アルミナ製一端封管の内部構造であり、熱電対11は2穴のアルミナ製絶縁管10で絶縁されている。
【0024】
サーメット製保護管1は、一端封管の形状で、モリブデン73%、カルシア安定化ジルコニア27%のサーメットである。組成のうち金属成分であるモリブデンは500℃以上で酸化して三酸化モリブデンを生成するが、三酸化モリブデンは1150℃で気化するので、溶鋼に接した状態と大気に曝された状態が繰り返される場合、サーメット表面部からモリブデン成分が気化減耗し、機械的強度が極度に低下する。このサーメットの弱点を補うため、本発明では、サーメット製保護管1が大気に曝されたときのモリブデンの酸化を防止するため一端封の耐火物成形材製保護スリーブ2との二重構造として、大気からの酸化を防止する。
【0025】
サーメット製保護管1の組成のうち酸化物成分であるカルシア安定化ジルコニアは、溶鋼のように高温で低酸素の環境では還元されて金属ジルコンに変化し、サーメット表面部から脱離して、サーメット製保護管1の機械的強度を低下させる。一端封の耐火物成形材製保護スリーブ2は、この様な還元性の環境にも耐え得る組成で製造され、サーメット製保護管1と耐火物成形材製保護スリーブ2との二重構造によって、溶鋼に直接接することを回避してサーメット製保護管1の還元を防止する。
【0026】
耐火物成形材製保護スリーブ2は、アルミナ7%、マグネシア66%、炭化ケイ素3%及び、炭素22%の焼成品であり、溶鋼注入時の溶鋼流からの機械的衝撃から耐火物成形材製保護スリーブ2の割れを防止するため気孔率を5%〜30%とした。これは、機械的な衝撃により生成したクラックの伝搬を気孔で止めることを狙うと共に、溶鋼と耐火物成形材製保護スリーブ2の温度差による熱衝撃の緩和を目的としている。
【0027】
サーメット製保護管1と耐火物成形材製保護スリーブ2の間隙では、両者のアセンブリ時に混入する空気や酸化鉄粉、ケイ酸などの酸化物が測定中の高温に曝され、酸化性雰囲気となり、サーメット製保護管1のモリブデン成分の酸化を促進するので、耐火物成形材製保護スリーブ2の成分に炭素を5%〜50%、炭化ケイ素を0%〜10%を配合して、この空間の高温での雰囲気を若干の還元性に調整する。
【0028】
なお、サーメット製保護管1と耐火物成形材製保護スリーブ2の間隙には、酸性雰囲気を作り出さない耐火セメントなどで固着しても良く、前記間隙の体積を小さくして、間隙内の空気の量を減少させ、酸化を抑えるため酸性雰囲気を作らない耐火物粉末を充填させても良い。
【0029】
サーメット製保護管1と耐火物成形材製保護スリーブ2との二重構造より、還元性や酸化性の雰囲気で浸食されるが、機械的強度の高いサーメット製保護管1と機械的強度の低いが、還元性や酸化性の雰囲気に強い耐火物成形材製保護スリーブ2の互いの長所を生かし、更に内部に熱電対内臓アルミナ保護管3との組み合わせによって、取鍋内に固定して連続的に温度測定をする連続測温プローブの製造が可能となった。
【符号の説明】
【0030】
1 サーメット製保護管
2 耐火物成形材製保護スリーブ
3 熱電対内臓アルミナ保護管
4 ステンレスフレキシブルワイヤ
5 コネクタ
6 取鍋耐火物
7 取鍋鉄皮
8 取り付け冶具
9 データロガー
10 アルミナ絶縁管
11 熱電対

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火物成形材製保護スリーブで保護されたサーメット製保護管で熱電対用保護管を構成して、取鍋内に固定して連続的に温度測定をする連続測温プローブ。
【請求項2】
前記耐火物成形材製保護スリーブの気孔率が5%〜30%であることを特徴とする請求項1に記載の連続測温プローブ。
【請求項3】
前記耐火物成形材製保護スリーブの組成が前記サーメット製保護管の酸化物成分を還元しない程度の還元性雰囲気となるように調合された請求項1に記載の連続測温プローブ。
【請求項4】
前記耐火物成形材製保護スリーブが炭素を5%乃至50%に調合された請求項1に記載の連続測温プローブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−99840(P2011−99840A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284509(P2009−284509)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(593228564)日本サーモテック株式会社 (2)
【Fターム(参考)】