説明

受信装置

【課題】受信側でサブ変調信号の合成時にサブ変調信号間の位相特性が連続するように位相補償し、信号伝送特性を改善することができる受信装置を提供する。
【解決手段】変調信号を周波数軸上で複数の帯域に分割して複数のサブ変調信号を生成し、各サブ変調信号を互いに不連続な帯域に周波数シフトして送信し、受信信号から複数のサブ変調信号を抽出し、各サブ変調信号の帯域を送信側の周波数シフト前の帯域に戻して合成した変調信号を復調する無線通信システムの受信装置において、送信側の周波数シフト前の帯域に戻した複数のサブ変調信号について、周波数軸上で重複する帯域の周波数特性を用いて各サブ変調信号の位相回転を補償するための位相補償信号を生成する位相補償信号推定手段と、複数のサブ変調信号の位相回転を補償する位相補償手段とを備え、位相補償手段から出力される位相補償された複数のサブ変調信号を合成して変調信号を復調する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信装置から周波数帯域を分割して送信された信号を受信し、帯域合成して復調処理を行う受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図8は、送信装置の構成例を示す(非特許文献1参照) 。
図8において、送信装置は、変調回路1と送信フィルタバンク10を備える。変調回路1は、送信するデータ信号をQPSKなどの変調方式で変調し、波形整形した変調信号を送信フィルタバンク10に入力する。
【0003】
送信フィルタバンク10は、直並列変換回路11、FFT(高速フーリエ変換) 回路12、分割回路13、周波数シフタ141 〜14N (Nは2以上の整数)、加算回路15、IFFT(高速逆フーリエ変換) 回路16、並直列変換回路17を備え、変調信号の帯域をN分割して送信する構成である。変調信号の帯域を2分割(N=2)する例を図10に示す。
【0004】
送信フィルタバンク10の直並列変換回路11は変調信号を直並列変換し、FFT回路12で高速フーリエ変換し、時間領域の信号から周波数領域の信号へ変換する。分割回路13は、周波数領域に変換された変調信号に対して、図10(a) の破線で示す信号帯域をN分割する係数を周波数ごとに乗算し、図10(b) に示すN個のサブ変調信号1〜Nを生成する。周波数シフタ141 〜14N は、サブ変調信号1〜Nを周波数軸上の所望の帯域に分散配置し、加算回路15で足し合わせることにより、図10(c) に示すような分散配置された変調信号が生成される。この分散配置後の変調信号は、IFFT回路16で高速逆フーリエ変換により周波数領域の信号から時間領域の信号へ変換され、並直列変換回路17で並直列変換して出力される。
【0005】
図9は、受信装置の構成例を示す(非特許文献1参照) 。
図9において、受信装置は、受信フィルタバンク20と復調回路2を備える。受信フィルタバンク20は、直並列変換回路21、FFT回路22、抽出回路23、周波数シフタ241 〜24N 、加算回路25、IFFT回路26、並直列変換回路27を備え、帯域をN分割された変調信号を分割前の変調信号に合成する構成である。帯域が2分割(N=2)された変調信号を合成する例を図11に示す。
【0006】
受信フィルタバンク20の直並列変換回路21は受信信号を直並列変換し、FFT回路22で高速フーリエ変換し、時間領域の信号から周波数領域の受信信号へ変換する。抽出回路23は、周波数領域に変換された受信信号に対して、図11(a) の破線で示す係数を周波数ごとに乗算し、送信側で周波数シフトされたサブ変調信号1〜Nを抽出する。周波数シフタ241 〜24N は、図11(b) に示すように、抽出されたサブ変調信号1〜Nを送信側で周波数シフトされる前の帯域に戻し、加算回路25で足し合わせることにより、図11(c) に示すような合成された変調信号が生成される。この合成後の変調信号は、IFFT回路26で高速逆フーリエ変換により周波数領域の信号から時間領域の信号へ変換され、並直列変換回路27で並直列変換して出力される。復調回路2は受信フィルタバンク20から出力された変調信号を復調し、送信装置から送信されたデータ信号を復元する。
【0007】
このような送信装置および受信装置を用いることにより、変調信号の占有帯域を分割して生成された各サブ変調信号を周波数軸上の任意の場所に分散配置できるため、不連続な空き周波数帯域等を有効利用することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】阿部、山下、小林、”スペクトラム編集技術を用いた帯域分散伝送の提案”、電子情報通信学会ソサイエティ大会 B-3-11 2009年9月
【非特許文献2】阿部、山下、小林、”スペクトラム編集型帯域分散伝送における位相補償に関する一検討”、電子情報通信学会総合大会 B-3-11 2010年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般に伝送路では、送信信号の占有帯域内において位相傾斜が生じる。シングルキャリヤ信号を伝送する場合に生じる占有帯域内の位相傾斜を図12に示す。伝送遅延Δtがある場合、図12に示すように、受信信号には周波数軸上で傾き−2πΔtの位相傾斜が生じる。ただし、受信信号のタイミング再生でシンボルタイミングをΔtずらせば、ナイキストタイミングを抽出できるので、占有帯域内の位相特性が直線の場合は問題なく復調可能である。
【0010】
一方、図13に示すように、送信側で変調信号の占有帯域を複数に分割したサブ変調信号を送信する場合、受信側の各サブ変調信号には図13(c) に示す傾き−2πΔtの位相傾斜が生じる。また、送信側でサブ変調信号k(kは1〜N)をΔfk 周波数シフトする場合、周波数シフトしない場合と比べて
−2πΔt×Δfk
の位相回転が生じる。この結果、図13(d) に示すように、受信側で全てのサブ変調信号を合成すると、合成後の変調信号の占有帯域内において位相特性が不連続となり、位相傾斜の急激な変化を生じる。一般に信号を伝送するには、振幅が一定、かつ位相特性が直線となる無歪み条件が理想的であり、位相傾斜の変化など歪みが加わると伝送特性が劣化する。したがって、占有帯域を複数に分割したサブ変調信号の伝送では、急激な位相傾斜の変化による歪みが大きく、信号伝送特性が大きく劣化する課題があった。
【0011】
本発明は、受信側でサブ変調信号の合成時にサブ変調信号間の位相特性が連続するように位相補償し、信号伝送特性を改善することができる受信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、送信側において変調信号を周波数軸上で複数の帯域に分割して複数のサブ変調信号を生成し、各サブ変調信号を互いに不連続な帯域に周波数シフトして送信し、受信側において受信信号から複数のサブ変調信号を抽出し、各サブ変調信号の帯域を送信側の周波数シフト前の帯域に戻して合成した変調信号を復調する無線通信システムの受信装置において、送信側の周波数シフト前の帯域に戻した複数のサブ変調信号について、周波数軸上で重複する帯域の周波数特性を用いて各サブ変調信号の位相回転を補償するための位相補償信号を生成する位相補償信号推定手段と、位相補償信号を用いて複数のサブ変調信号の位相回転を補償する位相補償手段とを備え、位相補償手段から出力される位相補償された複数のサブ変調信号を合成して変調信号を復調する構成である。
【0013】
本発明の受信装置において、位相補償信号推定手段は、複数のサブ変調信号のうち、周波数軸上で重複する帯域であって、予め定めた基準となる帯域の第1のサブ変調信号の複素共役と第2のサブ変調信号とを乗算して基準となる位相補償信号1を生成し、かつ、i番目(iは2〜N−1)の帯域の第iのサブ変調信号の複素共役とi+1番目の帯域の第i+1のサブ変調信号とを乗算し、得られる位相補償信号と位相補償信号i−1とを合せて位相補償信号iを生成する構成であり、位相補償手段は、位相補償信号k(kは1〜N−1)の複素共役と第k+1のサブ変調信号を乗算し、第k+1のサブ変調信号の位相回転を補償する構成であり、第1のサブ変調信号と、位相回転を補償した第k+1のサブ変調信号とを合成した変調信号を復調する。
【0014】
本発明の受信装置において、位相補償信号推定手段は、複数のサブ変調信号のうち、周波数軸上で重複する帯域であって、予め定めた基準となる帯域の第1のサブ変調信号の複素共役と第2のサブ変調信号とを乗算して基準となる位相補償信号1を生成し、かつ、位相補償手段から出力される位相回転を補償したi番目(iは2〜N−1)の帯域の第iのサブ変調信号の複素共役と、i+1番目の帯域の第i+1のサブ変調信号とを合せて位相補償信号iを生成する構成であり、位相補償手段は、位相補償信号k(kは1〜N−1)の複素共役と第k+1のサブ変調信号を乗算し、第k+1のサブ変調信号の位相回転を補償する構成であり、第1のサブ変調信号と、位相回転を補償した第k+1のサブ変調信号とを合成した変調信号を復調する。
【0015】
本発明の受信装置において、位相補償信号推定手段は、複数のサブ変調信号のうち、周波数軸上で重複する帯域であって、予め定めた基準となる帯域の第1のサブ変調信号の複素共役と、位相補償手段から出力される位相回転を補償した第2のサブ変調信号とを乗算して基準となる位相補償信号1を生成し、かつ、i番目(iは2〜N−1)の帯域の第iのサブ変調信号の複素共役と、位相補償手段から出力される位相回転を補償したi+1番目の帯域の第i+1のサブ変調信号とを乗算し、得られる位相補償信号と位相補償信号i−1とを合せて位相補償信号iを生成する構成であり、位相補償手段は、位相補償信号k(kは1〜N−1)の複素共役と第k+1のサブ変調信号を乗算し、第k+1のサブ変調信号の位相回転を補償する構成であり、第1のサブ変調信号と、位相回転を補償した第k+1のサブ変調信号とを合成した変調信号を復調する。
【0016】
本発明の受信装置において、位相補償信号推定手段は、複数のサブ変調信号のうち、周波数軸上で重複する帯域であって、予め定めた基準となる帯域の第1のサブ変調信号の複素共役と、位相補償手段から出力される位相回転を補償した第2のサブ変調信号とを乗算して基準となる位相補償信号1を生成し、かつ、位相補償手段から出力される位相回転を補償したi番目(iは2〜N−1)の帯域の第iのサブ変調信号の複素共役と、位相補償手段から出力される位相回転を補償したi+1番目の帯域の第i+1のサブ変調信号とを乗算して位相補償信号iを生成する構成であり、位相補償手段は、位相補償信号k(kは1〜N−1)の複素共役と第k+1のサブ変調信号を乗算し、第k+1のサブ変調信号の位相回転を補償する構成であり、第1のサブ変調信号と、位相回転を補償した第k+1のサブ変調信号とを合成した変調信号を復調する。
【0017】
本発明の受信装置において、位相補償信号推定手段は、位相補償信号kを生成する際に、周波数軸上で重複する帯域に複数のサンプル点が含まれる場合には、当該サンプル点の中で振幅値が予め定めた閾値よりも大きい値のサンプル点を対象として生成した位相補償信号の平滑化を行う構成である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の受信装置は、送信側において変調信号を複数の帯域に分割および分散して送信されたサブ変調信号を受信し、そのサブ変調信号の合成時に、サブ変調信号間の位相を連続化する位相補償を行うことにより信号伝送特性を改善することができる。これにより、冗長なパイロット信号やトレーニングパタン信号が不要となり、高い伝送効率を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の受信装置の実施例1を示す図である。
【図2】本発明の受信装置の実施例1の変形を示す図である。
【図3】本発明の受信装置の実施例2を示す図である。
【図4】本発明の受信装置の実施例3を示す図である。
【図5】本発明の受信装置の実施例4を示す図である。
【図6】本発明の受信装置の実施例5を示す図である。
【図7】本発明の受信装置における位相補償アルゴリズムを示す図である。
【図8】送信装置の構成例を示す図である。
【図9】受信装置の構成例を示す図である。
【図10】送信装置における帯域分割を説明する図である。
【図11】受信装置における帯域合成を説明する図である。
【図12】従来のシングルキャリア信号伝送における信号帯域内の位相傾斜を示す図である。
【図13】帯域分割伝送における信号帯域内の位相傾斜を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0020】
図1は、本発明の受信装置の実施例1を示す。なお、本実施例の受信装置に対応する送信装置は図8に示す構成となる。また、本実施例の受信装置と図9に示す受信装置の共通する機能部は同一符号を付している。
【0021】
図1において、受信装置は受信フィルタバンク20と復調回路2を備える。受信フィルタバンク20は、直並列変換回路21、FFT回路22、抽出回路23、周波数シフタ241 〜24N 、加算回路25、IFFT回路26、並直列変換回路27を備え、帯域をN分割された変調信号を分割前の変調信号に合成する従来の構成に加えて、周波数シフタ241 〜24N と加算回路25との間に位相補償信号推定回路30および位相補償回路50を備えた構成である。
【0022】
受信フィルタバンク20の直並列変換回路21は受信信号を直並列変換し、FFT回路22で高速フーリエ変換し、時間領域の信号から周波数領域の受信信号へ変換する。抽出回路23は、周波数領域に変換された受信信号から送信側で周波数シフトされたサブ変調信号1〜Nを抽出する(図11(a))。周波数シフタ241 〜24N は、抽出されたサブ変調信号1〜Nを周波数シフトして送信側で周波数シフトされる前の帯域に戻し(図11(b))、位相補償信号推定回路30および位相補償回路50を介して加算回路25に入力する。
【0023】
位相補償信号推定回路30は、周波数シフトされたサブ変調信号kとサブ変調信号k+1からサブ変調信号k+1の位相歪みを補償する位相補償信号kを生成し、位相補償回路50に出力する(kは1〜N−1)。位相補償回路50は、位相補償信号kを用いてサブ変調信号k+1の位相歪みを補償し、加算回路25に入力する。なお、周波数シフタ241 から出力されるサブ変調信号1はそのまま加算回路25に入力する。加算回路25は、サブ変調信号1および位相歪みが補償されたサブ変調信号2〜Nを足し合せ、合成された変調信号を出力する(図11(c))。IFFT回路26は、合成された変調信号を高速逆フーリエ変換し、周波数領域の信号から時間領域の信号へ変換し、並直列変換回路27で並直列変換して出力される。復調回路2は、受信フィルタバンク20から出力された変調信号を復調し、送信装置から送信されたデータ信号を復元する。
【0024】
以下、位相補償信号推定回路30および位相補償回路50の構成および動作について詳しく説明する。位相補償信号推定回路30は,複素共役変換回路311 〜31N-1 、乗算回路321 〜32N-1 、閾値判定回路331 〜33N-1 、平滑化回路341 〜34N-1 、正規化回路351 〜35N-1 、乗算回路362 〜36N-1 を備える。位相補償回路50は、複素共役変換回路511 〜51N-1 、乗算回路521 〜52N-1 を備える。
【0025】
位相補償信号推定回路30の乗算回路32k (kは1〜N−1)は、複素共役変換回路31k を介して入力するサブ変調信号kの複素共役とサブ変調信号k+1を乗算し、伝送遅延により隣接するサブ変調信号間に生じた位相回転ベクトルkを算出する。閾値判定回路33k は、あらかじめ設定された閾値を越える振幅を有する位相回転ベクトルkを抽出し、平滑化回路34k で平滑化する。正規化回路35k は、平滑化回路34k の出力を同一振幅に正規化する。正規化回路351 の出力は位相補償信号1となり、位相補償信号kと正規化回路35k+1 の出力は乗算回路36k+1 で乗算して位相補償信号k+1となる。このように、位相補償信号推定回路30では、ランダムパターンなどを含む全ての受信信号から、サブ変調信号2〜Nの位相歪みを補償するための位相補償信号1〜N−1を生成する。
【0026】
位相補償回路50の乗算回路52k は、複素共役変換回路51k を介して入力する位相補償信号kの複素共役と、周波数シフタ24k+1 から出力されるサブ変調信号k+1を乗算し、サブ変調信号k+1の位相歪みを補償して加算回路25に入力する。なお、周波数シフタ241 から出力されるサブ変調信号1はそのまま加算回路25に入力する。
【0027】
図7は、本発明の受信装置における位相補償アルゴリズムを示す。まず、位相補償信号推定回路30における各サブ変調信号間の位相回転の検出方法について説明する。図10(b) に示すように、送信装置において変調信号を分割する際、サブ変調信号kとサブ変調信号k+1は重畳域kを共有している(kは1〜N−1)。すなわち、送信装置においてサブ変調信号kの周波数が高い側の重畳域の位相特性と、サブ変調信号k+1の周波数が低い側の重畳域の位相特性は等しい。
【0028】
そこで、受信装置において図7に示すサブ変調信号kの重畳域内の周波数成分Pk,2 と、サブ変調信号k+1の分割前にPk,2 と同じ周波数成分であった成分をPk+1,1 とするとき、Pk,2 の複素共役にPk+1,1 を乗算することにより、サブ変調信号間の位相回転ベクトルkを算出する。ここで、Px,y のyは、y=1 がサブ変調信号xとサブ変調信号x−1の重畳域内の周波数成分であることを示し、y=2がサブ変調信号xとサブ変調信号x+1の重畳域内の周波数成分であることを示す。すなわち、重畳域内の各周波数点ごとに、Pk,2 の複素共役とPk+1,1 を乗算して算出した位相回転ベクトルkを平滑化および正規化し、その複素共役をサブ変調信号k+1に乗算すれば、サブ変調信号kとサブ変調信号k+1の位相差が0となり、サブ変調信号間の位相特性を連続化できる。
【0029】
全サブ変調信号の位相を連続化するには、1つのサブ変調信号を基準にして、隣接する他のサブ変調信号の位相特性を順次補償すればよい。図1の位相補償信号推定回路30および位相補償回路50の構成は、分割時に最も低い(または最も高い)周波数帯域のサブ変調信号1(周波数シフタ241 の出力)の位相特性を基準に設定する場合を示す。また、図2に示す実施例1の変形のように、例えばサブ変調信号3(周波数シフタ243 の出力)の位相特性を基準に、隣接する他のサブ変調信号の位相特性を順次補償する構成としてもよい。以下に示す実施例2〜実施例5においても同様である。
【0030】
なお、受信信号がランダムパターンの場合、周波数領域に変換されたサブ変調信号は、パターン効果によりFFTによる変換毎に異なる振幅特性を有するため、算出された位相回転ベクトルkの振幅も毎回異なる。算出された位相回転ベクトルkの振幅が小さい場合、雑音の影響を受けやすく、これを用いて受信信号の位相を補償すると位相歪みの補償特性が低下する。そこで、あらかじめ位相回転ベクトルの振幅に閾値を設定し、閾値を越える高精度な位相情報を有する位相回転ベクトルkを閾値判定回路33k で抽出する。さらに、位相補償信号kの推定精度を向上させるため、位相回転ベクトルkの周波数成分として複数のサンプルを取得できる場合に、平滑化回路34k で閾値判定回路33k の出力を平滑化(平均化)する。
【実施例2】
【0031】
図3は、本発明の受信装置の実施例2を示す。
図3において、実施例2の特徴は、実施例1の位相補償信号推定回路30における正規化回路351 〜35N-1 、乗算回路362 〜36N-1 に代えて、偏角算出回路371 〜37N-1 、加算回路382 〜38N-1 を用い、さらに偏角算出回路371 および加算回路382 〜38N-1 の出力を偏角複素数変換回路391 〜39N-1 を介して位相補償回路50に入力するところにある。
【0032】
偏角算出回路37k (kは1〜N−1)は、平滑化回路34k から出力される平滑化された位相回転ベクトルkを入力してその偏角を算出する。偏角算出回路371 は、平滑化された位相回転ベクトル1から算出した偏角を位相補償量1として出力する。加算回路38i (iは2〜N−1)は、位相補償量i−1と、偏角算出回路37i から出力される偏角を加算することにより、サブ変調信号iに対する位相補償量iを算出する。偏角複素数変換回路39k は、入力した位相補償量kを偏角とする正規化ベクトルを位相補償信号kとして生成し、位相補償回路50に入力する。
【0033】
周波数シフタ242 から出力されるサブ変調信号2の位相特性を補償する場合は、平滑化回路341 の出力から偏角算出回路371 で位相補償量1を抽出し、偏角複素数変換回路391 で振幅一定のベクトルに変換した値を位相補償信号1とし、複素共役変換回路511 を介してその複素共役を乗算回路521 に入力し、サブ変調信号2に乗算する。
【0034】
周波数シフタ24i+1 から出力されるサブ変調信号i+1の位相特性を補償する場合は、平滑化回路34i-1 ,34i の出力から偏角算出回路37i-1 ,34i で位相補償量i−1,iを抽出し、それらを加算回路38i で加算してサブ変調信号iとサブ変調信号i+1との位相回転に相当する偏角を生成する。その偏角を偏角複素数変換回路39i で振幅一定のベクトルに変換した値を位相補償信号iとし、複素共役変換回路51i を介してその複素共役を乗算回路52i に入力し、サブ変調信号i+1に乗算する。
【実施例3】
【0035】
図4は、本発明の受信装置の実施例3を示す。
図4において、実施例3の特徴は、実施例1の位相補償信号推定回路30における周波数シフタ24i (iは2〜N−1)の出力を複素共役変換回路31i を介して乗算回路32i に入力する代わりに、位相補償回路50の乗算回路52i-1 から出力される位相補償後のサブ変調信号iを分岐し、複素共役変換回路31i を介して乗算回路32i に入力する構成にある。これにより、実施例1の位相補償信号推定回路30における乗算回路362 〜36N-1 が不要になる。その他の構成は実施例1と同様である。
【0036】
実施例3の構成においても、位相補償信号推定回路30において、位相回転ベクトルkから位相補償信号kを生成する原理は実施例1と同様であり、分割時に最も低い周波数帯域にあったサブ変調信号1の位相特性を基準に、隣接する他のサブ変調信号の位相特性を順次補償することができる。
【実施例4】
【0037】
図5は、本発明の受信装置の実施例4を示す。
図5において、実施例4の特徴は、実施例2の位相補償信号をフィードバック方式で生成する構成としたところにある。すなわち、位相補償回路50の乗算回路52k (kは1〜N−1)から出力される位相補償されたサブ変調信号k+1を乗算回路32k にフィードバックし、サブ変調信号k+1に残留する位相誤差を検出し、位相補償信号推定回路30から出力する位相補償信号kを更新するところにある。位相補償信号推定回路30は、閾値判定回路33k の出力を偏角算出回路37k を介して位相回転量更新回路40k に入力する。その他の構成は実施例3と同様である。
【0038】
乗算回路321 は、周波数シフタ241 から出力され、複素共役変換回路311 を介して入力するサブ変調信号1の複素共役と、位相補償回路50の乗算回路521 から出力される位相補償されたサブ変調信号2を乗算し、サブ変調信号1とサブ変調信号2の残留位相誤差ベクトル1を算出する。閾値判定回路331 は、閾値判定された残留位相誤差ベクトル1を抽出し、偏角算出回路371 で残留位相誤差ベクトル1の偏角を算出する。位相回転量更新回路401 は、残留位相誤差ベクトル1の偏角からサブ変調信号1とサブ変調信号2との間の位相回転推定値1を更新する。偏角複素数変換回路391 は、位相回転推定値1を偏角とする正規化ベクトルを位相補償信号1とし、複素共役変換回路511 を介してその複素共役を乗算回路521 に入力し、サブ変調信号2に乗算する。
【0039】
乗算回路32i (iは2〜N−1)は、周波数シフタ24i から出力され、複素共役変換回路31i を介して入力するサブ変調信号iの複素共役と、位相補償回路50の乗算回路52i から出力される位相補償されたサブ変調信号i+1を乗算し、サブ変調信号iとサブ変調信号i+1の残留位相誤差ベクトルiを算出する。閾値判定回路33i は、閾値判定された残留位相誤差ベクトルiを抽出し、偏角算出回路37i で残留位相誤差ベクトルiの偏角を算出する。位相回転量更新回路40i は、残留位相誤差ベクトルiの偏角からサブ変調信号iとサブ変調信号i+1との間の位相回転推定値iを更新し、さらに加算回路38i で位相回転推定値i−1と位相回転推定値iを加算し、位相補償されたサブ変調信号iとサブ変調信号i+1との間の位相回転推定値iを生成する。偏角複素数変換回路39i は、加算回路38i から出力される位相回転推定値iを偏角とする正規化ベクトルを位相補償信号iとし、複素共役変換回路51i を介してその複素共役を乗算回路52i に入力し、サブ変調信号i+1に乗算する。
【実施例5】
【0040】
図6は、本発明の受信装置の実施例5を示す。
図6において、実施例5の特徴は、実施例4の位相補償信号推定回路30における周波数シフタ24i (iは2〜N−1)の出力を複素共役変換回路31i を介して乗算回路32i に入力する代わりに、位相補償回路50の乗算回路52i-1 から出力される位相補償後のサブ変調信号iを複素共役変換回路31i を介して乗算回路32i に入力する構成にある。これにより、実施例4の位相補償信号推定回路30における加算回路38i が不要になる。その他の構成は実施例4と同様である。
【0041】
実施例5の構成においても、位相補償信号推定回路30において、位相補償されたサブ変調信号iとサブ変調信号i+1との間の位相回転推定値iを生成する原理は実施例4と同様であり、分割時に最も低い周波数帯域にあったサブ変調信号1の位相特性を基準に、隣接する他のサブ変調信号の位相特性を順次補償することができる。
【0042】
以上説明した各実施例の構成により、受信フィルタバンク20の加算回路25においてサブ変調信号1〜Nを合成する前に、サブ変調信号間の位相を連続化する位相補償を行うため、変調信号帯域内の位相傾斜の急激な変化が抑圧され、信号伝送特性を改善することができる。また、位相傾斜が直線ではなく緩やかに変化している場合、非特許文献2に示されるような伝送路の位相特性を直線で近似して補償する方法を用いると、サブ変調信号の合成時に位相の不連続が生じる。本発明は、サブ変調信号間の位相差のみを補償し、サブ変調信号間の位相特性を連続化できるため、非特許文献2の手法に比べて低歪みな信号伝送を実現することができる。さらに、受信信号全体が一定の周波数誤差の影響を受ける場合でも、位相回転を検出する周波数成分Pk,2 とPk+1,1 の位相関係は変わらないため、位相補償が可能である。
【0043】
また、以上説明した各実施例の構成において、連続信号を処理する受信フィルタバンク20にオーバーラップ加算、またはオーバーラップ保存を用いる構成を用いることも好ましい。
【0044】
また、図7において、サブ変調信号kの重畳域内の周波数成分Pk,2 とサブ変調信号k+1の周波数成分Pk+1,1 には各3FFTポイント分の信号が存在する。位相回転ベクトルkの算出には、それぞれの重畳域において1FFTポイント分の信号を抽出して用いるか、あるいは複数FFTポイントの信号を抽出し、それぞれの箇所から検出された位相回転ベクトルを平滑化して位相補償信号を生成することも好ましい。また、オーバーラップ加算方式のFFTを用いる場合,オーバーラップ加算回路を構成する2つのFFT回路それぞれにおいて位相回転を検出し、平滑化した値を補償値とする方法も推定精度向上の観点で好ましい。
【符号の説明】
【0045】
1 変調回路
2 復調回路
10 送信フィルタバンク
11 直並列変換回路
12 FFT回路
13 分割回路
141 〜14N 周波数シフタ
15 加算回路
16 IFFT回路
17 並直列変換回路
20 受信フィルタバンク
21 直並列変換回路
22 FFT回路
23 抽出回路
241 〜24N 周波数シフタ
25 加算回路
26 IFFT回路
27 並直列変換回路
30 位相補償信号推定回路
311 〜31N-1 複素共役変換回路
321 〜32N-1 乗算回路
331 〜33N-1 閾値判定回路
341 〜34N-1 平滑化回路
351 〜35N-1 正規化回路
362 〜36N-1 乗算回路
371 〜37N-1 偏角算出回路
382 〜38N-1 加算回路
391 〜39N-1 偏角複素数変換回路
401 〜40N-1 位相回転量更新回路
50 位相補償回路
511 〜51N-1 複素共役変換回路
521 〜52N-1 乗算回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信側において変調信号を周波数軸上で複数の帯域に分割して複数のサブ変調信号を生成し、各サブ変調信号を互いに不連続な帯域に周波数シフトして送信し、受信側において受信信号から複数のサブ変調信号を抽出し、各サブ変調信号の帯域を送信側の周波数シフト前の帯域に戻して合成した変調信号を復調する無線通信システムの受信装置において、
送信側の周波数シフト前の帯域に戻した複数のサブ変調信号について、周波数軸上で重複する帯域の周波数特性を用いて各サブ変調信号の位相回転を補償するための位相補償信号を生成する位相補償信号推定手段と、
前記位相補償信号を用いて前記複数のサブ変調信号の位相回転を補償する位相補償手段と
を備え、前記位相補償手段から出力される位相補償された複数のサブ変調信号を合成して変調信号を復調する構成である
ことを特徴とする受信装置。
【請求項2】
請求項1に記載の受信装置において、
前記位相補償信号推定手段は、前記複数のサブ変調信号のうち、周波数軸上で重複する帯域であって、予め定めた基準となる帯域の第1のサブ変調信号の複素共役と第2のサブ変調信号とを乗算して基準となる位相補償信号1を生成し、かつ、i番目(iは2〜N−1)の帯域の第iのサブ変調信号の複素共役とi+1番目の帯域の第i+1のサブ変調信号とを乗算し、得られる位相補償信号と位相補償信号i−1とを合せて位相補償信号iを生成する構成であり、
前記位相補償手段は、前記位相補償信号k(kは1〜N−1)の複素共役と前記第k+1のサブ変調信号を乗算し、前記第k+1のサブ変調信号の位相回転を補償する構成であり、
前記第1のサブ変調信号と、前記位相回転を補償した前記第k+1のサブ変調信号とを合成した変調信号を復調する
ことを特徴とする受信装置。
【請求項3】
請求項1に記載の受信装置において、
前記位相補償信号推定手段は、前記複数のサブ変調信号のうち、周波数軸上で重複する帯域であって、予め定めた基準となる帯域の第1のサブ変調信号の複素共役と第2のサブ変調信号とを乗算して基準となる位相補償信号1を生成し、かつ、前記位相補償手段から出力される位相回転を補償したi番目(iは2〜N−1)の帯域の第iのサブ変調信号の複素共役と、i+1番目の帯域の第i+1のサブ変調信号とを合せて位相補償信号iを生成する構成であり、
前記位相補償手段は、前記位相補償信号k(kは1〜N−1)の複素共役と前記第k+1のサブ変調信号を乗算し、前記第k+1のサブ変調信号の位相回転を補償する構成であり、
前記第1のサブ変調信号と、前記位相回転を補償した前記第k+1のサブ変調信号とを合成した変調信号を復調する
ことを特徴とする受信装置。
【請求項4】
請求項1に記載の受信装置において、
前記位相補償信号推定手段は、前記複数のサブ変調信号のうち、周波数軸上で重複する帯域であって、予め定めた基準となる帯域の第1のサブ変調信号の複素共役と、前記位相補償手段から出力される位相回転を補償した第2のサブ変調信号とを乗算して基準となる位相補償信号1を生成し、かつ、i番目(iは2〜N−1)の帯域の第iのサブ変調信号の複素共役と、前記位相補償手段から出力される位相回転を補償したi+1番目の帯域の第i+1のサブ変調信号とを乗算し、得られる位相補償信号と位相補償信号i−1とを合せて位相補償信号iを生成する構成であり、
前記位相補償手段は、前記位相補償信号k(kは1〜N−1)の複素共役と前記第k+1のサブ変調信号を乗算し、前記第k+1のサブ変調信号の位相回転を補償する構成であり、
前記第1のサブ変調信号と、前記位相回転を補償した前記第k+1のサブ変調信号とを合成した変調信号を復調する
ことを特徴とする受信装置。
【請求項5】
請求項1に記載の受信装置において、
前記位相補償信号推定手段は、前記複数のサブ変調信号のうち、周波数軸上で重複する帯域であって、予め定めた基準となる帯域の第1のサブ変調信号の複素共役と、前記位相補償手段から出力される位相回転を補償した第2のサブ変調信号とを乗算して基準となる位相補償信号1を生成し、かつ、前記位相補償手段から出力される位相回転を補償したi番目(iは2〜N−1)の帯域の第iのサブ変調信号の複素共役と、前記位相補償手段から出力される位相回転を補償したi+1番目の帯域の第i+1のサブ変調信号とを乗算して位相補償信号iを生成する構成であり、
前記位相補償手段は、前記位相補償信号k(kは1〜N−1)の複素共役と前記第k+1のサブ変調信号を乗算し、前記第k+1のサブ変調信号の位相回転を補償する構成であり、
前記第1のサブ変調信号と、前記位相回転を補償した前記第k+1のサブ変調信号とを合成した変調信号を復調する
ことを特徴とする受信装置。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれかに記載の受信装置において、
前記位相補償信号推定手段は、前記位相補償信号kを生成する際に、周波数軸上で重複する帯域に複数のサンプル点が含まれる場合には、当該サンプル点の中で振幅値が予め定めた閾値よりも大きい値のサンプル点を対象として生成した位相補償信号の平滑化を行う構成である
ことを特徴とする受信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−191377(P2012−191377A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52387(P2011−52387)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】