説明

可動式遮水壁

【課題】堤防の天端付近に設けられ、浮力により上下動して溢水を防ぐようにした可動式遮水壁について、浮力と強度を両立させた壁材の構造を提案する。
【解決手段】水位の変動に応じて浮力により上下動するように堤防に設置される壁材1について、たとえば角パイプ形状とした複数の中空部材2,3を板状に組み合わせ且つ液密封止することにより形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、堤防、えん堤、水路などの護岸に関し、特に増水時の溢水を防止するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
海岸や河岸に形成された堤防など護岸の天端近傍に、水位に応じて上下動する可動式の遮水壁を設置する技術が、特許文献1や特許文献2に記載されている。これら可動式遮水壁は、浮力を持たせた板状の壁材を1以上、水位に応じてスライドできるように設置したもので、水位が上昇してきたときには、その浮力により水位に応じて各壁材が護岸の天端から上に突出し、溢水を防止する仕組みである。
【特許文献1】特開平10−298952号公報
【特許文献2】特開2001−81751号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献のいずれも、遮水壁をなす壁材の内部構造について触れていないが、浮力による可動式の遮水壁において、その壁材をどのような構造から形成するかは、実は難しい問題である。すなわち壁材は、浮力により上下するものであるから、水(あるいは海水)に浮くことが必須である一方、護岸を越える程に増水した水位による荷重に耐え得る強度を備える必要があり、これら相反すると言える機能を両立させなければならない。
【0004】
そこで本発明では、可動式遮水壁について、浮力と強度を両立させた壁材の構造を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、水位の変動に応じて浮力により上下動するように壁材を護岸に設置してなる可動式遮水壁において、その壁材が、複数の軽金属製中空部材を板状に組み合わせ且つ液密封止することにより形成されていることを特徴とする。また、前記壁材が、複数のプラスチック製中空部材を板状に組み合わせ且つ液密封止することにより形成されていることを特徴とする。あるいは、前記壁材が、複数の軽金属製中空部材及びプラスチック製中空部材を板状に組み合わせ且つ液密封止することにより形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の可動式遮水壁によれば、複数の中空部材を板状に組み合わせて壁材を形成しているので、各中空部材の側壁が壁材内部を縦横に仕切って耐力壁を構成するような壁材の構造を得られる。したがって、中空構造で水に浮く浮力を得ると共に、単純な全体箱形の中空構造や発泡体による壁材に比べて格段に高い強度を得ることができ、浮力と強度の両立を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1に、本発明に係る可動式遮水壁における壁材の構造例を3種示す。図中、矢示Xが板厚方向、矢示Yが、堤防に設置したときに上下となる縦方向を示す。
図1に示す各例の壁材1は、角パイプ形状の中空部材2,3を複数板状に組み合わせ、その端部を、溶接などを利用して少なくとも水が入り難い程度に液密封止して形成されたものである。もちろん、パッキンや封止剤を使用するなどして、より高い液密封止や気密封止まですることも可能である。このような液密封止は、中空部材2,3の一本一本にそれぞれ施したものであっても、組み上げ時に一括して施したものであっても、どちらでもよい。
【0008】
中空部材2,3は、アルミニウムやアルミニウム合金、チタンやチタン合金などの軽金属製、プラスチック製とすることができ、全部を軽金属製又はプラスチック製とすることもできるが、1列目を軽金属製、2列目をプラスチック製とするなど、混成としてもよい。
図1(A)は、角パイプ形状の中空部材2を使用し、この中空部材2を横にして縦方向Yへ多数積み上げ、一つの列4を構成している。そして、このような列4を、板厚方向Xに2列並べてあることを特徴とする。複数並べられた列4、つまり行列状に並べられた多数の中空部材2は、金属製やFRP(繊維強化プラスチック)製の帯材5で囲繞することにより、崩れることのないように固定される。並べる列数は、水量を勘案して3列やそれ以上とすることが可能である。
【0009】
このようにして形成された壁材1は、嵩比重が0.9≧ρ≧0.1で水に浮く一方、各中空部材2の側壁2aが、壁材1の内部を縦横に仕切って耐力壁を構成するように働く。すなわち、壁材1の中は、側壁2aで仕切られた小部屋が多数形成された状態となり、その各小部屋の壁が耐力壁として作用するので、せん断力に強くなる。したがって、中空構造で水に浮く浮力を得ると共に、側壁2aの無い単純な全体箱形の中空構造や発泡体による壁材に比べ、格段に高い強度を得ることができる。
【0010】
図1(B)は、同じく角パイプ形状の中空部材2を使用した例であるが、該中空部材2を横にして縦方向Yへ積み上げてなる列4と、中空部材2を縦にして横方向(図3の矢示Z参照)へ並べ合わせてなる列6と、を板厚方向Xへ交互に並べてあることを特徴とする。すなわち、列4と列6とで、中空部材2の向きが直交するように構成したものである。この構造によっても、壁材1の内部が側壁2aによって多数の小部屋に仕切られることは上記同様なので、水に浮く強度の高い壁材1を得ることができる。
【0011】
図1(C)は、上記各例同様の角パイプ形状の第1の中空部材2と、該第1の中空部材2よりも断面積の小さい角パイプ形状の第2の中空部材3と、を使用した例である。この例の壁材1は、第1の中空部材2を横にして積み上げてなる列3を板厚方向Xに2列並べた第1の部分7と、第2の中空部材3を横にして積み上げてなる列8を板厚方向Xに4列並べた第2の部分9と、を上下に有する。第2の中空部材3は、第1の中空部材2の断面積の1/4で、該第2の中空部材3の2列分が第1の中空部材2の1列分に相当する。
【0012】
本例の場合、第1の中空部材2を行列状に配列してなる第1の部分7と、第2の中空部材3を行列状に配列してなる第2の部分9とが上下(縦方向Y)に並べられ、第1の部分7が粗で第2の部分9が密の粗密構造が形成されている。第2の部分9では、第2の中空部材3の側壁3aによる耐力壁がより多く細かく存在することになるので、第1の部分7よりも強度を高めることができる。すなわち、より粗の第1の部分7で浮力をかせぎ、より密の第2の部分9で強度をかせぐ二重構造を得ることができる。
【0013】
以上のような角材状の中空部材2,3は縦横(行列状)に組み合わせやすいので、板状の壁材1を形成するのに適している。ただし、図2に一例を示すように、これ以外の中空部材の形状も可能である。図2(A)は、断面三角形のパイプ形状とした中空部材10を組み合わせた壁材1の例、図2(B)は、丸パイプ形状とした中空部材11を組み合わせた壁材1の例、図2(C)は、断面六角形のパイプ形状とした中空部材12を組み合わせた壁材1の例を示している。図2(B)及び(C)の例では、板厚方向Xへの中空部材11,12の並べ方を図1の場合とは変えて、蜂の巣状に並べてあり、他の形状の中空部材においてこのような並べ方とすることも可能である。
【0014】
図3及び図4に、堤防への施工例を示す。まず、可動式遮水壁を設ける堤防Tにおいて、壁材1を上下動可能に支えるための支柱20を取り付ける位置に穿孔して、耐腐食性のアンカーボルト21をポリマーセメントやエポキシ樹脂接着剤にて固定する。次に、当該固定したアンカーボルト21に、壁材1の側縁を挟み込んで支持するH形鋼など断面H字状とした支柱20を、ナット22(図5)にて固定する。支柱20は、耐腐食性の素材ないしは防錆処理を施したものとし、その下端には、壁材1の抜け落ちを防止する下端ストッパ23を溶接等で形成しておく。また、支柱20を固定するアンカーボルト21の頭部及びナット22が壁材1のスライド時に障害とならないように、これらを隠してしまうスペーサ24を、支柱20の固定壁部25に設けておくのがよい(図5)。
【0015】
支柱20を固定し終わると、新設のベースコンクリート26を打設する。ベースコンクリート26は、支柱20を固定した後の後打ちとすることで、不陸矯正等の手間や費用を省くことができる。
固定した支柱20には、図5〜図7に詳細を示すガイドローラ30を、壁材1の側端面に当接するように取り付ける。このガイドローラ30を設けることによって、壁材1がスムーズにスライドすることができる。ガイドローラ30は、断面H字状である支柱20の溝底壁部27にボルト・ナット31にて断面コ字状の軸受部材32を固定し、該軸受部材32にローラ33の軸34を軸支することで構成されている。このガイドローラ30が壁材1の側端面に当接し回転することで、壁材1がスムーズに支柱20に沿ってスライドすることができる。
【0016】
所定の間隔で支柱20を立設した後は、その支柱20の間に、壁材1を差し込んでいく。そして、壁材1を差し込んだ後の支柱20の上端に、壁材1の抜けを防止する上端ストッパ28を溶接等で形成する。
以上の施工法により、支柱20で両側縁をスライド可能に支持し、水位の変動に応じて浮力により上下動することができるよう壁材1を堤防Tに設置してなる可動式遮水壁が作成される。
【0017】
上記の施工例は鉄筋コンクリート堤防の護岸に対する施工例であるが、土盛堤防の場合は図8に示すようにする。すなわち、まず、堤防の所定部位にコンクリートベースCBを新設し、支柱20を取り付けるためのコンクリート壁を新設する。該コンクリートベースCBに、上記のようなアンカーボルト及びナットで支柱20を固定し、後は上記同様に施工して壁材1を設置する。新設したコンクリート壁の裏側は、埋土を充填しておくとよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る壁材の構造例を示す断面図。
【図2】本発明に係る壁材に使用する中空部材を例示した概略図。
【図3】本発明に係る可動式遮水壁の施工例を示した要部正面図。
【図4】図3の施工例における支柱の固定部分を説明する側方から見た要部断面図。
【図5】図3の施工例における支柱に設けたガイドローラを説明する上方から見た部分拡大断面図。
【図6】図3の施工例における支柱に設けたガイドローラを説明する前方から見た部分拡大断面図。
【図7】図3の施工例における支柱に設けたガイドローラを説明する側方から見た部分拡大図。
【図8】本発明に係る可動式遮水壁の他の施工例を示した概略図。
【符号の説明】
【0019】
1 壁材
2,3,10,11,12 中空部材
5 帯材(囲繞材)
20 支柱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水位の変動に応じて浮力により上下動するように壁材を護岸に設置してなる可動式遮水壁において、
前記壁材が、複数の軽金属製中空部材を板状に組み合わせ且つ液密封止することにより形成されていることを特徴とする可動式遮水壁。
【請求項2】
水位の変動に応じて浮力により上下動するように壁材を護岸に設置してなる可動式遮水壁において、
前記壁材が、複数のプラスチック製中空部材を板状に組み合わせ且つ液密封止することにより形成されていることを特徴とする可動式遮水壁。
【請求項3】
水位の変動に応じて浮力により上下動するように壁材を護岸に設置してなる可動式遮水壁において、
前記壁材が、複数の軽金属製中空部材及びプラスチック製中空部材を板状に組み合わせ且つ液密封止することにより形成されていることを特徴とする可動式遮水壁。
【請求項4】
角パイプ形状の前記中空部材を使用し、
該中空部材を横にして積み上げてなる列を、板厚方向に2列以上並べてあることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の可動式遮水壁。
【請求項5】
角パイプ形状の前記中空部材を使用し、
該中空部材を横にして積み上げてなる列と、前記中空部材を縦にして並べ合わせてなる列と、を板厚方向へ交互に並べてあることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の可動式遮水壁。
【請求項6】
角パイプ形状の第1の前記中空部材と、該第1の中空部材よりも断面積の小さい角パイプ形状の第2の前記中空部材と、を使用し、
前記第1の中空部材を横にして積み上げてなる列を板厚方向に2列以上並べた部分と、前記第2の中空部材を横にして積み上げてなる列を前記板厚方向に2列以上並べた部分と、を上下に有する粗密構造にしてあることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の可動式遮水壁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−69566(P2008−69566A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−249323(P2006−249323)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(595129555)
【Fターム(参考)】