説明

可塑性油脂組成物(ハードストック)及びこれを用いた可塑性油脂食品の製造法

【課題】トランス異性体を含有しない、天然の固体脂及びそれらの分別油、食用油脂の極度硬化油を原料とし、品質が良好で保存における品質変化の無いマーガリン、ショートニング、フィリング用可塑性油脂組成物の提供。
【解決手段】非選択的エステル交換油(高融点パーツ)15〜80重量%とPPO+POPが13〜55重量%、PPO/POP>1である油脂(中融点パーツ)85〜20重量%混合した可塑性油脂組成物。高融点パーツの炭素数12個の飽和脂肪酸は、望ましくは25〜40重量%、中融点パーツが望ましくはPPO+POP25〜50重量%である。また、高融点パーツと中高融点パーツの配合比率が、望ましくは20〜80%重量/80〜20重量%であり、中高融点パーツが、炭素数22個以上の飽和脂肪酸0.5〜3重量%含む。この可塑性油脂組成物に液体油を配合して可塑性油脂食品を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、可塑性油脂組成物(ハードストック)及びこれを用いた可塑性油脂食品の製造法に関する物である。
【背景技術】
【0002】
マーガリン、ショートニング、フィリングなどの可塑性油脂食品は、従来から硬化油と常温で液体である液体油と調合した油脂が使用されてきた。しかし、近年硬化油に含まれるトランス異性体の量を低減させた、或いは含まない可塑性油脂組成物が要望されている。一般的に、トランス異性体を含まない固体油脂としては、パーム油、食用油脂の極度硬化油が挙げられるが、グレーニングの発生、可塑性不足、口どけの悪化など可塑性油脂としての品質が劣り、これらを用いた可塑性油脂食品は一般市場で満足される品質の可塑性油脂食品(マーガリン、ショートニング、フィリング等)が得られない。
【0003】
従来技術に、ノートランスの可塑性油脂として、液体油及びパーム油起源の油脂、及びラウリン系油脂の配合油を非選択的エステル交換することを特徴とする可塑性油脂の製造法(特許文献1)、また、液体油とベヘン酸又はそのエステルあるいはそれらを含む油脂とパーム油起源の油脂、及びラウリン系油脂の配合油を非選択的エステル交換することを特徴とする可塑性油脂の製造法(特許文献2)がある。しかし、一度のエステル交換により油脂組成物を得る為、油脂の組成により高融点トリグリセリドと中融点のトリグリセリドの割合が決定してしまい、一般的な硬化油を使用したマーガリン、ショートニング、フィリングで用いられるような高融点パーツと中融点パーツの配合比率調整による品質調整が出来ず、物性から必要とされる両者の適切な配合が行えない。またエステル交換油に含有される脂肪酸種はトリグリセリド中に分散されている為、可塑性油脂の品質に有効なトリグリセリドの含量が低くなり、良好な品質が得られない。
【特許文献1】特開平09−241672号公報
【特許文献2】特開平09−241673号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明が解決しようとする課題は、トランス異性体をほとんど含有しない、天然の固体脂及びそれらの分別油、食用油脂の極度硬化油を原料とし、品質が良好で保存における品質変化の無い可塑性油脂組成物を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、これらの課題解決に対して鋭意検討を行った結果、炭素数が12個の飽和脂肪酸を15〜40重量%、炭素数が16個から炭素数が18個の飽和脂肪酸を30〜80重量%含む非選択的エステル交換油(高融点パーツ)15〜80重量%とPPO+POPが13〜55重量%、PPO/POP>1である非選択的エステル交換油(中融点パーツ)を85〜20重量%混合してなる油脂組成物を使用することで、品質が良好で、保存における品質変化の無い可塑性油脂食品(マーガリン、ショートニング、フィリング等)が製造できることを見出し本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明は、
(1)炭素数が12個の飽和脂肪酸を15〜40重量%、炭素数が16個から炭素数が18個の飽和脂肪酸を30〜80重量%含む非選択的エステル交換油(高融点パーツ)15〜80重量%とPPO+POPが13〜55重量%、PPO/POP>1である油脂(中融点パーツ)を85〜20重量%混合してなる可塑性油脂組成物。
(2)(1)記載の高融点パーツの炭素数が12個の飽和脂肪酸が望ましくは25〜40重量%、中融点パーツが望ましくはPPO+POP25〜50重量%である可塑性油脂組成物。
(3)(1)記載の高融点パーツと中高融点パーツの配合比率が、望ましくは20〜80%重量/80〜20重量%である可塑性油脂組成物。
(4)(1)記載の中高融点パーツが、炭素数が22個以上の飽和脂肪酸を0.5〜3重量%含む可塑性油脂組成物。
(5)(1)記載の可塑性油脂組成物に液体油を配合してなる可塑性油脂食品の製造法。
である。
【発明の効果】
【0007】
以上のように、本発明による可塑性油脂組成物を使用することにより、品質が良好で保存における品質変化の無く、トランス異性体を含有しない可塑性油脂食品を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明における可塑性油脂食品は、製菓、製パン用マーガリン、ショートニング、製菓用フィリング、家庭用マーガリン、家庭用ファットスプレッド等のことを言う。
【0009】
この発明において、高融点パーツにおける炭素数が12個の飽和脂肪酸を含む油脂として、例えばやし油、パーム核油又はその分別油、極度硬化油、及びこれらの調合油、炭素数が16個から炭素数が18個の飽和脂肪酸を含む油脂として、例えば天然に飽和酸を多く含むパーム油、豚油、牛脂又はその分別油、極度硬化油、及びこれらの調合油など不飽和酸が少ない食用油脂が挙げられる。
【0010】
高融点パーツは、上記の原料油を用いて炭素数が12個の飽和脂肪酸を15〜40重量%、炭素数が16個から炭素数が18個の飽和脂肪酸を30〜80重量%含有するように混合し、非選択的エステル交換して得られる油脂である。好ましくは、炭素数が12個の飽和脂肪酸を25〜40重量%である。炭素数が12個の飽和脂肪酸が15重量%未満の場合、可塑性不足による機能性悪化の問題があり、40重量%を越えると保存性が悪くなる問題がある。
【0011】
また、中融点パーツは、PPO(1,2ジパルミトイル−3オレイルグリセロール)+POP(1,3ジパルミトイル−2オレイルグリセロール)が13〜55重量%、PPO/POP>1含有する油脂である。例えば、パーム油、パーム分別油、又はその調合油を非選択的エステル交換して得られた油脂や、非選択的エステル交換油を分別した油脂、更にそれらを調合することで中融点パーツを得ることが出来る。PPO+POPが13重量%未満の場合、保存性が悪くなり、55重量%の場合、可塑性不足により機能性の悪化が起こる。なお、非選択的エステル交換油の分別方法は、ヘキサン、アセトン等の溶剤を用いた湿式分別、又は溶剤を用いない乾式分別等、特に限定はされない。
【0012】
非選択的エステル交換とは、ナトリウムメチラート等の金属触媒による方法、非選択的エステル交換活性をもつ酵素触媒による方法のどちらによっても行う事が出来る。
【0013】
高融点パーツと中融点パーツの配合比率は、15〜80重量%/85〜20重量%であり、好ましくは20〜80重量%/80〜20重量%である。これらの配合比率は必要とされる可塑性油脂使用食品に必要とされる品質、番手構成により調整することができる。高融点パーツが15重量%未満の場合、可塑性油脂使用食品の耐熱性が不足となり、中融点パーツが20重量%未満の場合、可塑性悪化の問題が発生する。
【0014】
本発明において、中融点パーツ中に炭素数が22個以上の飽和脂肪酸を0.5〜3重量%含むことが好ましい。この可塑性油脂組成物に導入される炭素数が22個以上の飽和脂肪酸は、ハイエルシック菜種油、魚油等の極度硬化油や脂肪酸エステル等を原料とすることができる。これらを非選択的エステル交換油の原料に調合して非選択的エステル交換することで、炭素数が22個以上の飽和脂肪酸をトリグリセリド中に均一に導入させることができ、導入することにより可塑性油脂食品を保管した際のグレーニング発生などの経時変化を抑制することができる。炭素数が22個以上の飽和脂肪酸が0.5重量%未満の場合、グレーニングなどの経時変化の抑制効果が見られにくく、3重量%を越えると可塑性油脂食品の口どけを悪化させる傾向がある。
【0015】
高融点パーツと中融点パーツを混合してなる可塑性油脂組成物を15〜80重量%、常温で液状である液体油を85〜20重量%の比率で調合した油脂により可塑性油脂食品を製造する。この時、必要とされる品質に応じて、液体油の一部を他のトランス酸含量の低い固体脂(パーム油、パーム核油、やし油、シア脂、サル脂、イリッペ脂、これらの分別油または微水添硬化油等)を配合する事ができる。
【0016】
これらの油脂を用いた可塑性油脂食品としては、例えば製菓、製パン用マーガリン、ショートニング、製菓用フィリング、家庭用マーガリン、家庭用ファットスプレッド等が挙げられる。これらは一般的な方法によって製造できるが、マーガリンの代表的な方法を述べると、まず、親油性の乳化剤を含有した油相部と脱脂粉乳、食塩、糖類を添加した水相部を加熱混合して予備乳化を行う。予備乳化後コンビネーター、パーフェクター、コンプレクター等の冷却、混合機により油中水型乳化物を製造することができる。
【0017】
親油性の乳化剤として、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等、従来公知の乳化剤の内、HLB1〜8の乳化剤が挙げられ、本発明においてはこれらのいずれを使用してもよい。
【0018】
以下に実施例及び比較例を例示して、この発見の効果をより一層に明確にするが、これらは例示であって、本発明が特に限定されるものではない。
【実施例】
【0019】
<高融点パーツ1の調整>
パーム核油(沃素価17)80部、パームダブルオレイン(沃素価61)20部を混合し、ナトリウムメチラートを触媒として、混合油に対して0.3%添加し、80℃、真空度40Torr、40分間非選択的エステル交換を行った後、水洗、脱水し、沃素価0.5まで水素添加した後精製してエステル交換、硬化油を得た。この油脂を高融点パーツ1とし、炭素数が12の飽和脂肪酸の含量は38重量%、炭素数が16個から炭素数が18個の飽和脂肪酸の含量は43%であった。
【0020】
<高融点パーツ2の調整>
パーム核油(沃素価17)65部、パームダブルオレイン(沃素価61)35部を混合し、ナトリウムメチラートを触媒として高融点パーツ1と同条件で非選択的エステル交換を行った後、水洗、脱水し、沃素価0.5まで水素添加した後精製してエステル交換、硬化油を得た。この油脂を高融点パーツ2とし、炭素数が12の飽和脂肪酸の含量は32%、炭素数が16個から炭素数が18個の飽和脂肪酸の含量は52%であった。
【0021】
<高融点パーツの3調整>
パーム核油(沃素価17)35部、パームダブルオレイン(沃素価61)65部を混合し、ナトリウムメチラートを触媒として高融点パーツ1と同条件で非選択的エステル交換を行った後、水洗、脱水し、沃素価0.5まで水素添加した後精製してエステル交換、硬化油を得た。この油脂を高融点パーツ3とし、炭素数が12の飽和脂肪酸の含量は17%、炭素数が16個から炭素数が18個の飽和脂肪酸の含量は74%であった。
【0022】
<中融点パーツ1の調整>
パームステアリン(沃素価31)66部、パーム油(沃素価52)31部、ハイエルシン菜種極度硬化油3部を混合し、ナトリウムメチラートを触媒として高融点パーツ1と同条件で非選択的エステル交換を行った後、水洗、脱水し、精製してエステル交換油を得た。このエステル交換油を中融点パーツ1とし、PPO+POPは26重量%、炭素数が22個以上の飽和脂肪酸を1.4重量%であった。
【0023】
<中融点パーツの2調整>
パームステアリン(沃素価31)66部、パーム油(沃素価52)34部を混合し、ナトリウムメチラートを触媒として高融点パーツ1と同条件で非選択的エステル交換を行った後、水洗、脱水し、精製してエステル交換油を得た。このエステル交換油を中融点パーツ2とし、PPO+POPは、29重量%であった。
【0024】
<中融点パーツ3の調整>
パームステアリン(沃素価31)にナトリウムメチラートを触媒として高融点パーツ1と同条件で非選択的エステル交換を行った後、水洗、脱水した。この油脂をアセトン分別によって液状画分(収率55.7%、沃素価47.5)と結晶画分(収率44.3%、沃素価10.8)に分画した。更に、この液状画分をアセトン分別によって、液状画分(収率19.4%、沃素価60.4)と結晶画分(収率36.3%、沃素価38.8)に分画した。この結晶画分を中融点パーツ3とし、PPO+POP含量は56重量%であった。
【0025】
<中融点パーツ4の調整>
パームダブルオレイン(沃素価67)にナトリウムメチラートを触媒として高融点パーツ1と同条件で非選択的エステル交換を行った後、水洗、脱水し、精製した。このエステル交換油を中融点パーツ4とし、PPO+POP含量は14重量%であった。
【0026】
<高融点パーツ4の調整>
パーム核油(沃素価17)90部、パームダブルオレイン(沃素価61)10部を混合し、ナトリウムメチラートを触媒として高融点パーツ1と同条件で非選択的エステル交換を行った後、水洗、脱水し、沃素価0.5まで水素添加した後精製してエステル交換、硬化油を得た。この油脂を高融点パーツ4とし、炭素数が12個の飽和脂肪酸の含量は43%、炭素数が16個から炭素数が18個の飽和脂肪酸の含量は36%であった。
【0027】
<高融点パーツ5の調整>
パーム核油(沃素価17)25部、パームダブルオレイン(沃素価61)75部を混合し、ナトリウムメチラートを触媒として高融点パーツ1と同条件で非選択的エステル交換を行った後、水洗、脱水し、沃素価0.5まで水素添加した後精製してエステル交換、硬化油を得た。この油脂を高融点パーツ5とし、炭素数が12個の飽和脂肪酸の含量は12%、炭素数が16個から炭素数が18個の飽和脂肪酸の含量は82%であった。
【0028】
<中融点パーツ5の調整>
パームオレイン(沃素価56)をアセトン分別によって液状画分と結晶画分(収率38.5%、沃素価34.8)に分画した。この結晶画分を中融点パーツ5とし、PPO+POP含量は55重量%、PPO/POP=0.18であった。
【0029】
<中融点パーツ6の調整>
パームダブルオレイン(沃素価67)80部と菜種油(沃素価115)20部を混合し、ナトリウムメチラートを触媒として非選択的エステル交換を行った後、水洗、脱水し、精製した。このエステル交換油を中融点パーツ6とし、PPO+POP含量は11重量%であった。
【0030】
<実施例1〜6及び比較例1〜4>
高融点パーツ1〜5及び中融点パーツ1〜6を表1の比率で配合したものを油相として、水相に水を用いて、油相:水相=80:20、乳化剤にステアリン酸系モノグリセリドとレシチンを各々0.3重量%添加して、マーガリンを製造した。また、表1の下段には、PPO+POP含量、炭素数が22個以上の飽和脂肪酸含量、PPO/POP比率を示す。更に製パン性、保存における硬さ変化、グレーニングテスト結果を表2に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
製パン性とは、品温25℃においてパン生地へのマーガリンの練り込み時に良好な分散性をもつかを評価した。
判定結果:◎短時間で分散し非常に良好 ○良好 ×分散に時間がかかり不良
【0034】
硬さの経時変化はマーガリンを5℃で保管し、保管開始1週間後と1ヵ月後に5℃の硬さを測定し、硬さの変化を評価した。測定機器:レオメーター(不動工業(株)製)、プランジャー径1cm、テーブル上昇速度5cm/分。
判定結果:◎非常に良好(200g未満) ○良好(200以上500g未満)
×不良(500g以上)
【0035】
グレーニングテストは、5℃保存において評価した。
判定結果:◎非常に良好(3ヶ月発生無し) ○良好(2ヶ月後発生)
×不良(1ヶ月後発生有り)
【0036】
本発明による可塑性油脂組成物は、製菓、製パン用マーガリン、ショートニング、製菓用フィリング、家庭用マーガリン、家庭用ファットスプレッド等の用途においても良好な品質を示した。
【0037】
以上のように、本発明による可塑性油脂組成物を使用することにより、良好な品質の可塑性油脂食品を製造できる。また、本発明による可塑性油脂組成物を使用することで、トランス異性体含量を低減させた品質良好な可塑性油脂食品を製造できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数が12個の飽和脂肪酸を15〜40重量%、炭素数が16個から炭素数が18個の飽和脂肪酸を30〜80重量%含む非選択的エステル交換油(高融点パーツ)を15〜80重量%とPPO+POPが13〜55重量%、PPO/POP>1である油脂(中融点パーツ)を85〜20重量%混合してなる可塑性油脂組成物。
(PPO:1,2ジパルミトイル−3オレイルグリセロール、POP:1,3ジパルミトイル−2オレイルグリセロール)
【請求項2】
高融点パーツの炭素数が12個の飽和脂肪酸が25〜40重量%、中融点パーツのPPO+POPが25〜50重量%である請求項1記載の可塑性油脂組成物。
【請求項3】
高融点パーツと中融点パーツの配合比率が、20〜80重量%/80〜20重量%である請求項1、2記載の可塑性油脂組成物。
【請求項4】
中融点パーツに炭素数が22個以上の飽和脂肪酸を0.5〜3重量%含む請求項1、2、3記載の可塑性油脂組成物。
【請求項5】
可塑性油脂組成物に液体油を配合してなる可塑性油脂食品の製造法。

【公開番号】特開2007−174988(P2007−174988A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−377898(P2005−377898)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000236768)不二製油株式会社 (386)
【Fターム(参考)】