説明

可変エネルギー荷電粒子システム

荷電粒子システムを開示し、この荷電粒子システムは、第1電圧源、第1電圧源から電気絶縁された第2電圧源、第1電圧源に電気接続された荷電粒子源、及び第2電圧源に電気接続された抽出装置を含む。この荷電粒子システムに関連する方法も開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子源及び荷電粒子システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子源及び荷電粒子システムは、試料特性の測定及び試料の改質を含む種々の用途に用いることができる。荷電粒子源は一般に、荷電粒子のビームを発生し、このビームは、他のシステム構成要素によって指向されて試料に入射する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第7504639号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
一般に、第1の態様では、本発明は荷電粒子システムを特徴付け、この荷電粒子システムは、第1電圧源、第1電圧源から電気絶縁された第2電圧源、第1電圧源に電気接続された荷電粒子源、及び第2電圧源に電気接続された抽出装置を含む。
【0005】
他の態様では、本発明は方法を特徴付け、この方法は、第1電圧源からの第1電圧を荷電粒子源に供給するステップと、第1電圧源から電気絶縁された第2電圧源からの第2電圧を抽出装置に供給するステップとを含み、第1及び第2電圧は、複数の荷電粒子が発生し、これら複数の荷電粒子が荷電粒子源から出るように選択する。
【0006】
さらに他の態様では、本発明は方法を特徴付け、この方法は、第1電圧源からの第1電圧を荷電粒子源に供給するステップと、第1電圧源から電気絶縁された第2電圧源からの第2電圧を抽出装置に供給するステップとを含み、第1及び第2電圧は、荷電粒子源が発生した荷電粒子の1つ以上の特性を制御するように選択する。
【0007】
好適例は、次の特徴の1つ以上を含むことができる。
【0008】
上記荷電粒子システムは、第1及び第2電圧源から電気絶縁された第3電圧源、及び第3電圧源に電気接続された試料ステージを含み、第1電圧源は、第1電圧を荷電粒子源に供給して、第1平均エネルギーを有する複数の荷電粒子を荷電粒子源の先端部から出すように構成され、第2電圧源は、第2電圧を抽出装置に供給するように構成され、第3電圧源は、試料ステージ上に配置された試料に第3電圧を供給して、荷電粒子が試料に入射する際に第1平均エネルギーとは異なる第2平均エネルギーを有するように構成されている。第3電圧は、第2平均エネルギーが第1平均エネルギーより小さいように選択することができる。
【0009】
第1電圧は、共通電気接地に対して正の値にすることができる。第2電圧は、共通電気接地に対して、第1電圧よりも小さい正の値にすることができる。第2電圧は、共通電気接地に対して負の値にすることができる。第1及び第2電圧は、荷電粒子源付近の電界が荷電粒子源外に放射状に指向されるように選択することができる。
【0010】
上記荷電粒子システムは電子プロセッサを含むことができ、この電子プロセッサは、第3電源に接続されて第3電圧を選択するように構成されている。上記荷電粒子システムは検出器を含むことができ、この検出器は、上記電子プロセッサに接続され、荷電粒子が試料に入射する際の荷電粒子の平均エネルギーを測定する。この電子プロセッサは、検出した荷電粒子の平均エネルギーに基づいて、第3電圧を特定することができる。
【0011】
荷電粒子源は、イオンを含む複数の荷電粒子を生成するように構成することができる。これらのイオンは、希ガスイオン(例えば、ヘリウムイオン及び/またはアルゴンイオン及び/またはネオンイオン及び/またはクリプトンイオン)を含むことができる。荷電粒子源は、ガス電界電離イオン源とすることができる。
【0012】
第1電圧源は、第1電圧を荷電粒子源に供給するように構成することができ、第2電圧源は、第2電圧を抽出装置に供給するように構成することができ、そして第1及び第2電圧源は、動作中に、第1または第2電圧の一方の大きさが減少した場合に、荷電粒子源が電子を放出しないように構成することができる。第1及び第2電圧源は、動作中に、第1または第2電圧の一方の大きさが0に減少した場合に、荷電粒子源が電子を放出しないように構成することができる。
【0013】
第1電圧源は、第1電圧を荷電粒子源に供給するように構成することができ、第2電圧源は、第2電圧を抽出装置に供給するように構成することができ、そして第1及び第2電圧源は、動作中に、第1または第2電圧の一方の大きさが減少した場合に、荷電粒子源が融解または蒸発しないように構成することができる。第1及び第2電圧源は、動作中に、第1または第2電圧の一方の大きさが0に減少した場合に、荷電粒子源が融解または蒸発しないように構成することができる。
【0014】
第1電圧源は、第1電圧を荷電粒子源に供給するように構成することができ、第2電圧源は、第2電圧を抽出装置に供給するように構成することができ、そして第1及び第2電圧源は、動作中に、第1または第2電圧の一方の大きさが減少した場合に、荷電粒子源付近の電界が、荷電粒子源から遠ざかる向きのままであるように構成することができる。
【0015】
第1電圧源は、第1電圧を荷電粒子源に供給するように構成することができ、第2電圧源は、第2電圧を抽出装置に供給するように構成することができ、そして第1及び第2電圧源は、動作中に、第1または第2電圧の一方の大きさが減少した場合に、荷電粒子源の電圧が抽出装置の電圧に対して正の値のままであるように構成することができる。
【0016】
上記荷電粒子システムは電子プロセッサを含むことができ、この電子プロセッサは、第1及び第2電圧源を制御して、第1電圧を、共通電気接地に対して第2電圧よりも大きい正の値にするように構成することができる。この電子プロセッサは、第1電圧を共通電気接地に対して正の電圧値に維持し、第2電圧を共通電気接地に対して負の電圧値に維持するように構成することができる。
【0017】
上記荷電粒子は、荷電粒子源から出る際に第1平均エネルギーを有することができ、そして上記方法は、第3電圧源からの第3電圧を試料に供給し、これにより、荷電粒子が試料に入射する際に、第1平均エネルギーとは異なる第2平均エネルギーを有するステップを含むことができる。第2平均エネルギーは、第1平均エネルギーよりも小さくすることができる。第3電圧源は第1及び第2電圧源から電気絶縁することができる。第1電圧は、共通電気接地に対して正の値にすることができ、第2電圧源は、共通電気接地に対して負の値にすることができる。第1及び第2電圧は、荷電粒子源付近の電界が荷電粒子源外に放射状に指向するように選択することができる。
【0018】
上記方法は、荷電粒子が試料に入射する際の荷電粒子の平均エネルギーを測定するステップと、この平均エネルギーの測定に基づいて第3電圧を選択するステップとを含むことができる。
【0019】
第1電圧と第2電圧との差は15kV以上(例えば25kV以上)とすることができる。第1平均エネルギーは25keV以上(例えば50keV以上)とすることができる。第2平均エネルギーは15keV以下(例えば5keV以下)とすることができる。
【0020】
上記1つ以上の特性は、荷電粒子電流、荷電粒子源からの荷電粒子の放出パターン、及び荷電粒子のエネルギー分布から成るグループから選択した少なくとも1つの要素を含むことができる。
【0021】
上記方法は、第1電圧が共通電気接地に対して第2電圧よりも大きい正の値であるように、第1及び第2電圧を選択するステップを含むことができる。上記方法は、第1電圧が共通電気接地に対して正の値であり、第2電圧が共通電気接地に対して負の値であるように、第1及び第2電圧を選択するステップを含むことができる。上記方法は、荷電粒子源付近の電界が荷電粒子源外に放射状に指向するように、第1及び第2電圧を選択するステップを含むことができる。上記方法は、第1及び第2電圧の一方の大きさが減少した場合に、荷電粒子源付近の電界が荷電粒子源外に放射状に指向するように、第1及び第2電圧を選択するステップを含むことができる。第1及び第2電圧の一方の大きさは、第1及び第2電圧源の一方の故障により減少し得る。第1及び第2電圧の一方の大きさは、電気絶縁体の故障により減少し得る。
【0022】
荷電粒子源及び抽出装置は、ガス電界電離イオン源の一部を形成することができる。
【0023】
好適例は、次の利点の1つ以上を含むことができる。
【0024】
一部の好適例では、非結合の電源の使用が、電源が故障した場合に、先端部が電子放出動作レジーム(態勢)に入らないことを保証する。このことは、正の荷電粒子を発生するために使用される先端部にとって特に重要である。先端部からの電子放出を防止することによって、先端部の加熱が発生せず、先端部の融解及び/または蒸発の可能性が低減される。負の荷電粒子を発生するために使用される先端部にとっては、非結合の電源の使用は、電源が故障した場合に、先端部が、過剰な、あるいは非常な大電流の電子放出が発生する動作レジームに入らないことを保証する。上記のような、非常な大電流の電子放出は、先端部の融解及び/または蒸発をもたらし得る。非結合の電源の使用は、本明細書に開示するように、電子源におけるこうした損傷の可能性を低減するために利用することができる。
【0025】
特定の好適例では、先端部、抽出装置、及び第1レンズに供給される電圧を独立して調整することができる。従って、荷電粒子の最終エネルギーを高い信頼性で制御することができ、オペレータによる1つ以上の異なる用途に応じた荷電粒子エネルギーの選択を可能にする。異なる用途は、異なる荷電粒子エネルギーを有効利用するので、このことは、広範な異なる用途における荷電粒子源及び荷電粒子システムの利用を可能にする。
【0026】
一部の好適例では、荷電粒子の最終エネルギーを自動的に維持する。本明細書に開示する荷電粒子源及び荷電粒子システムは電子プロセッサを含み、この電子プロセッサは、システムオペレータが所望の平均粒子エネルギーを選択することができるように構成され、この電子プロセッサは、種々のシステム構成要素に供給される電圧を自動調整して、選択した粒子エネルギーを維持することができる。
【0027】
1つ以上の好適例の詳細は、図面及び以下の説明に記載する。他の特徴及び利点は、説明、図面、及び特許請求の範囲より明らかである。
種々の図面中で、同様の参照符号は同様の要素を示す。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】電源システムを結合した荷電粒子源の概略図である。
【図2】融解した先端部の像を示す図である。
【図3】耐故障電源システムを有する荷電粒子源の概略図である。
【図4】イオン顕微鏡システムの概略図である。
【図5】ガス電界電離イオン源の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
荷電粒子ビームが試料と相互作用する際に、試料の多種多様な相互作用及び反応は、部分的に、荷電粒子の平均エネルギーに依存する。例えば、比較的高エネルギー(例えば、50keV〜100keVのエネルギー)のイオンビームについては、荷電粒子が試料に入射する際に、より多数の二次電子が放出される。さらに、比較的高いエネルギーでは、荷電粒子ビームは一般に、試料の表面上のより小さいスポット径(例えば、2.5オングストローム以下、2.0オングストローム以下、1.5オングストローム以下、あるいはさらに小さいスポット径)上に集束する。さらには、より高エネルギーのビームは、浮遊磁界により影響されず、そして(特にイオンビームについては)より高いビームエネルギーでは試料表面から粒子がスパッタされる(跳ね飛ばされる)速度が低減されるので、試料に生じさせる表面損傷がより小さい。
【0030】
比較的低エネルギーの荷電粒子ビームは、一部の用途では、特定の利点も生じさせる。例えば、比較的低い平均ビームエネルギー(例えば、20keV以下、15keV以下、10keV以下、5keV以下、1keV以下)では、(例えば、特にイオンビームについては)試料のスパッタリングの速度が増加し、このことは、試料改質を含む用途にとって有用である。比較的低いエネルギーでは、ビーム露光によって生じる試料における転移原子数が、より高エネルギーのビームに比べて減少して、露光によってバルク試料(連続体)構造中に生じる欠陥がより少数であることを保証する。さらに、より低いビームエネルギーでは、入射する荷電粒子の後方散乱速度が一般に低く、このことは、試料の改質用途及び特定種類の試料測定にとって共に有利であり得る。
【0031】
走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)及びガリウム集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)を含む一部の荷電粒子システムは、先端部、サプレッサ(抑制器)、及び抽出装置を含み、これらは一緒に機能して荷電粒子のビームを発生する。こうしたシステムの例を図1に示す。システム2000は、先端部2010、サプレッサ2020、及び抽出装置2030を含み、抽出装置2030は、選択された異なる電圧でバイアスをかけられて、荷電粒子を先端部2010から放出させる。図1に示すように、先端部2010、サプレッサ2020、及び抽出装置2030は結合された様式で電圧バイアスをかけられる。例えば、第1の高電圧電源2040は先端部2010に接続されて、直流電圧バイアスを先端部に供給する。第1の高電圧電源2040は、第2の高電圧電源2050を通して間接的に、サプレッサ2020にも接続されている。第2の高電圧電源2050は、第1の電源2040によって供給される電圧バイアスを修正し、修正した電圧がサプレッサ2020に供給される。さらに、第1の高電圧電源2040は、第3の高電圧電源2060を通して間接的に、抽出装置2030にも結合されている。第3の高電圧電源2060は、第1の電源2040によって供給される電圧バイアスを修正し、修正した電圧が抽出装置2030に供給される。図1に示すように、電源2040は外部電気接地2045に接続され、これを基準とする。
【0032】
こうした電源の結合構成により、先端部、サプレッサ、及び抽出装置に供給される電圧バイアスを独立して制御することができる。さらに、第1の電源2040の調整は、先端部、サプレッサ、及び抽出装置の各々に供給される電圧の変化を生じさせ、これらの要素の各々は、第1、第2、及び第3の電源のトポロジー(接続形態)により結合された様式でバイアスをかけられる。このことは、先端部、サプレッサ、及び抽出装置の各々の動作電圧を、特定の荷電粒子放出器(例えば先端部)の要求に応じて連携して調整することができる点で、重要な利点を提供する。特に、第1の電源2040は、先端部2010、サプレッサ2020、及び抽出装置2030の間の電圧差または電界を変化させずに調整することができる。先端部2010の付近及び他の領域内で定電界を維持することは、荷電粒子システムでは一般に望ましい、というのは、このことは、比較的一定の荷電粒子電流を保証することに役立つからである。従って、図1に示す電源の構成は、市販のSEM及びFIBにおいて共通して実現される。
【0033】
しかし、図1に示す電源の構成は、ガス電界電離イオン源のような特定種類のイオンビーム源にとって望ましくないことがある。ガス電界電離イオン源では、(荷電粒子が先端部から出る)先端部頂点付近の電界は一般に、(先端部から、先端部が指す向きに遠ざかる方向に)1ナノメートルあたり約40ボルトである。これとは対照的に、一般的な電子発生用先端部については、先端部頂点付近の電界は、この値の約10分の1、即ち1ナノメートル当たり約4ボルトであり、先端部内に向かうように指向している。
【0034】
頂点付近の比較的強い電界の結果として、ガス電界電離イオン源における先端部は、種々のシステム構成要素に供給される電圧の変化に弱い。特に、上記高電圧電源の1つが一時的に地絡するか、あるいは、絶縁体中に電気アーク(電弧)が発生し(これにより絶縁体が一時的に導体になった)場合には、ガス電界電離イオン源における先端部は高電流の電子放出器になり得る。先端部によって放出される大きな電子流は、先端部におけるオーム加熱を生じさせる。大量の熱が発生し得る。この熱は、先端部からの材料の融解及び/または蒸発をもたらし得る。先端部頂点領域が損傷すれば、先端部は荷電粒子発生器として適切に機能しなくなり得る。図2に、先端部からの高電流の電子放出により融解した、ガス電界電離イオン源における先端部の例を示す。図2の先端部の融解及び蒸発は、この先端部が約3000℃の温度に達したことを示し、これは、数マイクロジュールのエネルギーの消散に相当する。
【0035】
一般に、ガス電界電離イオン源において使用される先端部は非常に尖鋭であり、こうした先端部の末端シェルフは、ごく少数の原子(例えば3原子、5原子、7原子、10原子)しか含むことができない。この尖鋭さにより、こうした先端部からの電子放出は、比較的低いバイアス電圧(例えば約1kV〜約4kV)で発生する。さらに、先端部の容量性により先端部に蓄積されるエネルギーは、一般に2、3マイクロジュールのオーダーであり、先端部の大部分を蒸発させるのに十分過ぎる。さらに、ガス電界電離イオン源では、多数の絶縁構成要素を含むシステム構成要素の多数が極低温に維持される。こうした低温では、揮発性材料が絶縁体の表面上に凝結して、この絶縁材料に電気アークを生じやすくし得る。これらの高電圧絶縁体は、先端部に与えられる比較的高いガス圧(例えば、ヘリウムガスを含む希ガスのようなガス)の存在下でも動作する。こうしたガスの存在は、絶縁体中に放電をより生じやすくすることもある。
【0036】
それにもかかわらず、ガス電界電離イオン源のような特定種類のイオン源の動作は、イオンを発生させるのに十分な高電界を先端部頂点に生成するために先端部に供給される比較的高い電圧を含む。こうしたものとして、こうした高電圧を供給しつつ、先端部の損傷のリスクを低減する技術が望まれる、というのは、これらの技術は先端部の動作寿命を増加させ、荷電粒子システムの動作中のより高い安定性を保証するからである。本明細書の開示の残りは、2つの部分に分けられる。第1の部分は、荷電粒子システムの可変エネルギー及び耐故障(フォールト・トレラント)動作を共に提供するように設計された方法及びシステムを開示する。即ち、本明細書に開示する方法及びシステムは、先端部の破壊を生じさせることなしに、荷電粒子ビームの平均エネルギーを変化させると共に、電源故障及び/または放電のような事象に耐えることのできる、ガス電界電離イオンシステムのような荷電粒子システムを可能にするように設計されている。本明細書の説明は、ガス電界電離イオン源、特にヘリウムガス電界電離イオン源に焦点を当てている。しかし、一般に、本明細書に開示する方法及びシステムは、他の種類のイオン源及び電子源を含む他の種類の荷電粒子システムでも用いることができる。本明細書の開示の第2の部分は、ガス電界電離イオンシステムの種々の態様を説明する。
【0037】
可変エネルギーガス電界電離イオンシステム
図3に、ガス電界電離イオンシステム2100の概略図を示す。このシステムは、先端部2110、随意的なサプレッサ2120、抽出装置2130、及び第1レンズ2140を含む。第1レンズ2140は、荷電粒子2230の経路に沿って抽出装置2130に隣接して配置され、即ち、第1レンズは抽出装置2130の後方にある最初のレンズであり、システム2100内で荷電粒子2230の経路に沿った他のあらゆるレンズの前方、かつ随意的なサプレッサ2120及び抽出装置2130の後方に配置されている。これらの要素の各々は筐体(例えば真空チャンバ)2250内に封入され、一連の高電圧貫通接続線2150、2160、2170及び2180を通して、一連の電源2190、2200、2210及び2220に接続されている。システム2100は、試料2295を支持するように構成された試料ステージ2290も含む。ステージ2290は、高電圧貫通接続線2280を通して電源2270に接続されている。電源2190、2200、2210、2220及び2270の各々は共通外部電気接地2195に接続され、これを基準とする。電子プロセッサ2240が各電源に接続されている。
【0038】
動作中には、電源2190は、正の(例えば、共通外部電気接地2195に対して正の値の)バイアス電圧を、貫通接続線2150を通して先端部2110に供給する。供給されるバイアス電圧は、先端部2110から外に向いた電界を生成する。先端部2110の尖鋭性により、この電界は、先端部頂点付近で特に強い。希ガス原子(例えばヘリウム原子)が、ガス源2260によって筐体2250内に導入される。希ガス原子の一部は、先端部頂点付近で先端部に接触して、頂点における強い電界によりイオン化される。先端部は外部接地2195に対して正のバイアスをかけられているので、現在正に帯電している希ガス原子は先端部2110から強く反発されて、荷電粒子2230として先端部から出る。荷電粒子2230は、試料2295に入射する前に、随意的なサプレッサ2120、抽出装置2130、及びレンズ2140を通過し、そして荷電粒子システム内の他の光学素子(図3には図示せず)を通過する。
【0039】
電源2270は、図3に示すようにステージ2290を通して間接的に試料2295に電圧を供給するか、あるいは試料2295に直接(例えば、試料2295と電源2270との間の直接接続を介して)、電圧を供給するように構成することができる。試料2295に供給される電圧は、外部接地2195に対して正の値にも負の値にもすることができる。電源2190によって先端部2110に供給される電圧と、電源2270によって試料2295に供給される電圧との差が一般に、荷電粒子2230の平均エネルギーを決定する。これらの電圧の差が大きいほど、荷電粒子が試料2295に当たる際の荷電粒子のエネルギーも大きい。
【0040】
電源2200は、抽出装置2130に電圧を供給するように構成することができる。抽出装置2130に供給される電圧は、先端部2110の領域内の電界を修正する電界を生成する。荷電粒子2230の特性(例えば、荷電粒子電流、先端部2110からの荷電粒子の放出パターン、荷電粒子のエネルギー分布、及び先端部2110からの荷電粒子の放出の安定性を含む)の多くが、先端部2110の付近の電界に依存するので、これらの特性は、電源2200によって抽出装置2130に供給される電圧バイアスの調整により電界を修正することによって制御することができる。サプレッサ2120は、存在すれば、先端部付近の電界に小さい修正を導入することによって、荷電粒子の種々の特性、及び先端部2110の放出特性のより微細な制御を行うことができる。先端部2110、サプレッサ2120、及び抽出装置2130の各々に供給されるバイアス電圧の組合せの結果として、荷電粒子2230は、試料2295に指向させることのできる良好に制御されたビームとして先端部2110から出る。
【0041】
荷電粒子2230が試料2295に当たる際の荷電粒子2230の平均エネルギーを制御するために、電源2190によって先端部2110に供給されるバイアス電圧を調整することができる。さらに、電源2170によって試料2295に供給される電圧を調整することができる。一般に、荷電粒子2230が試料2295に当たる際の荷電粒子2230の平均エネルギーは、先端部2110に供給される電圧と試料2295に供給される電圧との差に依存する(これらの電圧は共に、共通電気接地を基準とする)。電源2190及び2270のいずれかまたは両方を調整することによって、荷電粒子2230の平均エネルギーを、広範囲の平均粒子エネルギーにわたって、連続して調整し制御することができる。
【0042】
荷電粒子2230の伝搬特性を、これらの粒子の収束及び発散を含めて制御するために、電源2210によって貫通接続線2180を通してレンズ2140に供給されるバイアス電圧を調整することができる。一般に、レンズ2140は、多種多様に異なる幾何学的形状を有することができる。例えば、一部の実施例では、レンズ2140はアインツェルレンズとして実現することができ、1つ以上の電圧をレンズ2140に供給して、荷電粒子2230がレンズ2140を通過する際に、荷電粒子2230をコリメート(視準)、拡散、加速、及び/または減速させることができる。
【0043】
一般に、例えば、正のバイアス電圧をレンズ2140に供給する。供給する電圧バイアスの大きさに応じて、この電圧バイアスは荷電粒子を減速または加速させる。荷電粒子2230がレンズ2140を通過した後に、荷電粒子2230が試料2295に接近するまでは、平均エネルギーは比較的一定のままである。荷電粒子が試料2295に接近する際に、荷電粒子は、電源2270によって試料2295に供給される電圧バイアスの大きさ及び符号(例えば、共通接地2195に対して正であるか負であるか)に応じて、加速または減速することができる。
【0044】
図3に示すように、電源2190、2200、2210、及び2270の各々は、他の電源から電気絶縁されている。本明細書で用いるように、2つの電源は共通の電気接地を基準とするので、これら2つの電源の一方の電圧出力が他方の電源の電圧出力から独立している際に、これら2つの電源は絶縁されている。上述したように、先端部2110に供給されるバイアス電圧が、サプレッサ2120、抽出装置2130、及び第1レンズ2140に供給される電圧よりも小さい正の値(例えば、一部の先端部については約1kV以下の正の値)である場合に(すべて共通接地に対する電圧)、先端部2110は高電流の電子放出器になり、このことは先端部の破壊をもたらし得る。先端部2110が、サプレッサ2120、抽出装置2130、または第1レンズ2140よりも小さい正のバイアス電圧を有する場合は、先端部2110付近の電界は誤った方向を向き、即ち、この電界は先端部2110外に放射状ではなく、先端部2110内に向かう。こうした電界方向の反転の影響は、正に帯電したイオンを先端部2110に向けて伝搬するように働き、負に帯電したイオンが先端部2110から遠ざかるように伝搬することを助長する。従って、先端部2110は電子放出器となる。先端部付近の電界の大きさが十分大きい場合は、先端部2110は高電流の電子放出器となり得る。(例えば、図2に示すようなオーム加熱による)先端部2110の損傷が生じ得る。
【0045】
図3に示す非結合の電源トポロジを用いて、先端部2110付近の電界の反転を防止することができる。例えば、電源2190によって供給される電圧を、接地2195に対して正の値のみに限定することができ、即ち、電源2190を、例えば0V〜50kVの正の電圧バイアスを供給するように構成することができる。さらに、電源2200、2210、及び2220は、接地2195に対して負の電圧バイアスのみを供給するように構成することができる。こうした構成では、電源2190が故障した場合に、即ち、電源2190が地絡した場合に、先端部2110に供給される電圧バイアスは0になるが、それぞれ電源2220、2200、及び2210によって、サプレッサ2120、抽出装置2130、及び第1レンズ2140に供給される負の電圧バイアスに対しては正の値のままである。その結果、先端部2110付近の電界は向きを反転せず、先端部2110は、高電流の電子放出器になるような動作レジームには入らない。
【0046】
同様に、貫通接続線2150に放電事象が生じて一時的に導体になった場合には、先端部2110に供給されるバイアス電圧は0に降下し得るが、それぞれ電源2220、2200、及び2210によってサプレッサ2120、抽出装置2130、及び第1レンズ2140に供給される負の電圧バイアスに対しては正の値のままである。従って、先端部2110付近の電界は反転せず、先端部2110は高電流の電子放出レジームでは動作しない。従って、図3に示す電源の構成は、先端部、サプレッサ、及び抽出装置に供給される電圧バイアスを(例えば、図1に示す構成のように)連携して変化させることはできないが、図3に示す構成は、先端部2110の損傷の可能性を低減する。即ち、システム2100は、電源2190、2200、2210、2220、及び2270のいずれかの故障への耐性がある。さらに、システム2100は、システム内の貫通接続線2150、2160、2170、2180、及び2280のような絶縁体における放電事象への耐性がある。
【0047】
これとは対照的に、図1に関連して説明したように、先端部2110及び抽出装置2130が結合された様式でバイアスをかけられるものとすれば、システム2100は耐故障でなくなる。例えば、電源2190が先端部2110には直接接続され、抽出装置2130には電源2200を通して間接的に接続されているものとする。システム2100の動作中には、先端部2110と抽出装置2130との間に比較的大きな電圧差が維持される。こうした電圧差を、結合された電源で加えるためには、電源2190によって供給される電圧は、比較的大きな正の電圧(例えば、共通接地2195に対して+50kV)になる。電源2200によって供給される電圧は負の電圧(例えば、共通接地2195に対して-30kV)であり、このため、抽出装置2130に供給される、(電源2190と2200との組合せにより)修正された電圧バイアスは、共通接地2195に対して+20kVである。この構成では、先端部2110と抽出装置2130との間の電圧差が、先端部2110付近の電界を生成し、この電界は先端部2110から放射状に外に向き、このため、先端部2110に発生する正に帯電した粒子は、反発されて先端部から遠ざかるように伝搬する。
【0048】
しかし、このように結合された配置では、貫通接続線2150が故障した場合は、電源2190はもはや電圧を先端部2110に供給しなくなり、従って、先端部2110の電圧バイアスは、接地2195に対して0に降下する。しかし、無損傷の貫通接続線2170により、電源2190と2200との組合せによって抽出装置2130に供給される電圧バイアスは、共通接地2195に対して+20kVのままである。抽出装置2130に、先端部2110よりも高い正のバイアス電圧があることにより、先端部2110における電界の向きが反転し、これにより、先端部2110が高電流の電子放出器になり、先端部2110の損傷(例えば、融解、蒸発)をもたらし得る。従って、結合された電源の構成は、図3における、非結合で絶縁された電源構成が提供するような耐故障性は提供しない。
【0049】
電源2190、2200、2210、2220、及び2270は、電子プロセッサ2240に結合されている。特定実施例では、電子プロセッサ2240は、電源2190、2200、2210、2220、及び2270の1つ以上を自動調整して、先端部2110、抽出装置2130、第1レンズ2140、サプレッサ2120、及び試料2295に供給される電圧を制御するように構成することができる。一部の実施例では、例えば、システム2100は、荷電粒子2230の1つ以上の特性を測定すべく配置された検出器2265を含むことができる。検出器2265は測定した情報をプロセッサ2240に伝達し、プロセッサ2240は電源2190、2200、2210、2220、及び2270のうち1つ以上を調整して、先端部2110、抽出装置2130、第1レンズ2140、サプレッサ2120、及び試料2295に供給される電圧を制御する。
【0050】
一部の実施例では、例えば、検出器2265は、荷電粒子2230が試料2295に当たる際の荷電粒子2230の平均エネルギーについての情報を測定するように構成することができる。荷電粒子2230の経路内の、粒子が試料2295に当たる直前に検出器2265を挿入することのできる可動部材上に、検出器2265を実装して、粒子の平均エネルギーを測定することができる。検出器2265は、例えば、荷電粒子が当該リン光スクリーンに当たる際に光子を発生するように構成されたリン光スクリーン、及び検出素子(例えばフォトダイオード、CCDデバイス、または光子を検出するように構成された他のデバイス)を含んで、発生した光子を検出することができる。リン光スクリーンによって生成される光子の数が入射する荷電粒子のエネルギーに依存するならば、光子検出器を用いて、荷電粒子2230の平均エネルギーに対応する信号を測定することができる。
【0051】
その代わりに、あるいはこれに加えて、特定実施例では、検出器2265をステージ2290及び試料2295の付近に配置することができ、検出器2265は、1つ以上の特性を測定して、荷電粒子2230が試料2295に当たる際の荷電粒子2230の平均エネルギーを推定することができる。例えば、検出器2265は、試料2295からの二次電子収量を測定し、二次電子収量から荷電粒子2230の平均エネルギーを推定するように構成することができる。
【0052】
プロセッサ2240は、こうした情報を検出器2265から受信した後に、システム2100の種々の要素に供給される電圧を調整することができる。従って、例えば、荷電粒子エネルギーの特定値を選択するために、プロセッサ2240は、先端部2110及び/または試料2295に供給される電圧を調整することができる。プロセッサ2240は、サプレッサ2120及び/または抽出装置2130に供給される電圧を調整して、先端部2110付近の電界形状を制御することもでき、これにより、荷電粒子の平均エネルギーをさらに調整することができる。さらに、プロセッサ2240は、第1レンズ2140(及び/またはサプレッサ2120及び/または抽出装置2230)に供給される電圧を調整して、荷電粒子2230の収束及び発散特性を制御することができ、及び/または、先端部2110の種々の放出特性(例えば、荷電粒子電流、先端部2110からの荷電粒子の放出パターン、荷電粒子のエネルギー分布、及び先端部2110からの荷電粒子の放出の安定性を含む)を制御することができる。
【0053】
例として、一部の実施例では、システムオペレータが、荷電粒子の平均エネルギーの特定値を特定用途向けに選択することができ、プロセッサ2240は、システム2100における荷電粒子の監視及び供給されるバイアス電圧の調整によって、選択した荷電粒子の平均エネルギーを維持することができる。その代わりに、あるいはこれに加えて、一部の実施例では、電源2190、2200、2210、2220、及び2270によって先端部2110、抽出装置2130、レンズ2140、及び(例えばステージ2290を介して)試料2295に供給される電圧の一部または全部を、システムオペレータが手動で制御することができる。
【0054】
一般に、初期の荷電粒子エネルギー(例えば、荷電粒子2230が抽出装置2130を通過した後の荷電粒子2230のエネルギー)は、先端部2110に供給される電圧と抽出装置2130に供給される電圧との差を制御することによって選択することができる。一部の実施例では、先端部2110に供給される電圧と抽出装置2130に供給される電圧との差は5kV以上(例えば、10kV以上、15kV以上、20kV以上、25kV以上)及び/または100kV以下(例えば、80kV以下、60kV以下、50kV以下、40kV以下、30kV以下)である。一部の実施例では、初期の荷電粒子エネルギーは、5keV以上(例えば、10keV以上、15keV以上、20keV以上、25keV以上)及び/または100keV以下(例えば、80keV以下、60keV以下、50keV以下、40keV以下、30keV以下)とすることができる。
【0055】
荷電粒子の全平均エネルギー(例えば、荷電粒子2230が試料2295に当たる際の荷電粒子2230の平均エネルギー)は、先端部2210及び/または試料2295に供給される電圧を制御することによって選択することができる。(例えば、電源2190及び/または2270によって)先端部2210及び/または試料2295に供給される電圧は連続的に調整可能であり、広範囲の異なる荷電粒子の全平均エネルギーを選択することができる。一部の実施例では、例えば、荷電粒子の全平均エネルギーが100keV以下(例えば、80keV以下、60keV以下、50keV以下、40keV以下、30keV以下、20keV以下、10keV以下、5keV以下、3keV以下、2keV以下)である。
【0056】
一般に、先端部2110に供給される電圧は、共通外部電気接地に対して正の値である。例えば、一部の実施例では、この供給電圧が10kV以上(例えば、15kV以上、20kV以上、30kV以上、40kV以上、50kV以上、60kV以上、80kV以上、100kV以上)である。抽出装置2130に供給される電圧は、共通電気接地に対して負または正の値にすることができる。例えば、特定実施例では、抽出装置2130に供給される電圧の大きさが1kV以上(例えば、2kV以上、5kV以上、10kV以上、15kV以上、20kV以上、30kV以上、40kV以上、50kV以上)である。
【0057】
システム2100では、多くの異なる種類の荷電粒子ビームを生成することができる。一部の実施例では、例えば、荷電粒子2230はイオンを含む。これらのイオンは、例えば希ガスイオンである。適切な希ガスイオンは、ヘリウムイオン、アルゴンイオン、ネオンイオン、及びクリプトンイオンである。特定実施例では、他の種類のイオンビームを生成することもできる。さらに、上述したように、本明細書に開示するシステムはイオンビームに限定されない。電子ビーム源及び電子ビームシステムのような他の種類の荷電粒子システムを、本明細書に開示する耐故障の構成で動作させて、高電流の電子放出による破壊の可能性を低減または解消することができる。
【0058】
イオンビーム源及びイオンビームシステム
図3は、ガス電界電離イオン顕微鏡システムの非常に概略的な表現を示すのに対し、図4は、ガス電界電離イオン顕微鏡システム1100の、概略的ではあるが幾分詳細な表現を示し、ガス電界電離イオン顕微鏡システム1100は、ガス源1110、ガス電界電離イオン源1120、イオン光学系1130、試料マニピュレータ(操作機)1140、前側検出器1150、後側検出器1160、及び、共通線1172a〜1172fを介してシステム1100の種々の構成要素に電気接続された電子制御システム1170(例えば、コンピュータのような電子プロセッサ)を含む。試料1180は、イオン光学系1130と検出器1150、1160との間にある試料マニピュレータ1140中または試料マニピュレータ1140上に配置される。
【0059】
使用中には、イオンビーム1192が、イオン光学系1130を通して試料1180の表面1181に指向され、イオンビーム1192と試料1180との相互作用により生じた粒子1194が、検出器1150及び/または1160によって測定される。一般に、システム100を真空排気することによって、システム100内の特定の不所望な化学種の存在を低減することが望ましい。図5に示すように、ガス源1110は、1つ以上のガス(例えば、He、Ne、Ar、Kr、Xe)1182を、ガス電界電離イオン源1120に供給するように構成されている。ガス電界電離イオン源1120は、ガス源1110からの1つ以上のガス1182を受け、ガス1182からガスイオンを生成するように構成されている。ガス電界電離イオン源1120は、先端部頂点1187を有する先端部1186、抽出装置1190、及び随意的にサプレッサ1188を含む。
【0060】
使用中には、先端部1186は、抽出装置1190に対して正のバイアスをかけられ、抽出装置1190は外部接地に対して負または正のバイアスをかけられ、随意的なサプレッサ1188は先端部1186に対して正または負のバイアスをかけられる。この構成により、ガス源1110によって供給されるイオン化されていないガス原子がイオン化されて、先端部頂点1187付近で正に帯電したイオンになる。正に帯電したイオンは、正に帯電した先端部1186によって一斉に反発され、負に帯電した抽出装置によって誘引され、これにより、正に帯電したイオンは先端部1186からイオンビーム1192としてイオン光学系1130内に指向される。サプレッサ1188は、先端部1186と抽出装置1190との間の電界全体を制御する手助けをし、従って、正に帯電したイオンの先端部1186からイオン光学系1130への軌跡を制御する手助けをする。一般に、先端部1186と抽出装置1190との間の電界全体を調整して、正に帯電したイオンが頂点1187で生成される速度、及び正に帯電したイオンが先端部1186からイオン光学系1130に移送される効率を制御することができる。
【0061】
一般に、光学系1130は、イオンビーム1192を試料1180の表面1181上に指向させるように構成されている。第1レンズ2140は、図3に示すように、一般にイオン光学系1130内の最初の光学素子であり、イオンビーム1192がイオン光学系1130に入る際に、最初に第1レンズ2140を通過するように配置されている。イオン光学系1130は、イオンビーム1192中のイオンを、例えば集束、コリメート(視準)、屈折、加速、及び/または減速させることができる。イオン光学系1130は、イオンビーム1192中のイオンの一部のみが、イオン光学系1130を通過することを可能にすることもできる。一般に、イオン光学系1130は、種々の静電素子及び他のイオン光学素子を含み、これらの素子は所望のように構成することができる。イオン光学系1130内の1つ以上の構成要素(例えば、静電偏向板)の電界強度を操作することによって、Heイオンビーム1192を、試料1180の表面1181全体にわたって走査させることができる。例えば、イオン光学系1130は、イオンビーム1192を2つの直交する方向に偏向させる2つの偏向板を含むことができる。これらの偏向板は可変の電界強度を有することができ、これにより、ビーム1192は表面1181の領域全体にわたってラスター走査される。
【0062】
イオンビーム1192が試料1180に当たると、多くの異なる種類の粒子1194が生成され得る。これらの粒子は、例えば、二次電子、オージェ電子、二次イオン、二次中性粒子、一次中性粒子、散乱イオン、及び光子(例えば、X線光子、IR(Infrared:赤外)光子、可視光子、UV(Ultraviolet:紫外)光子)を含む。図4に示すように、検出器1150は、主に試料1180の表面1181から出る粒子を検出するように配置され、検出器1160は、主に試料1180の表面1183から出る粒子(例えば、(試料を)透過した粒子)を検出するように配置されている。
【0063】
一般に、多くの異なる検出器を顕微鏡システム1100内で用いて、異なる粒子を検出することができ、顕微鏡システム1100は一般に、所望する任意数の検出器を含むことができる。これら種々の検出器の構成は、測定する粒子及び測定条件に応じて選択することができる。一般に、これらの検出器によって測定した情報を用いて、試料1180についての情報を特定することができる。一般に、この情報は、試料1180の1つ以上の像を取得することによって特定される。顕微鏡システム1100の動作は一般に、電子制御システム1170によって制御される。例えば、電子制御システムは、ガス源1110によって供給されるガス、先端部1186の温度、先端部1186の電位、抽出装置1190の電位、サプレッサ1188の電位、イオン光学系1130の構成要素の設定、試料マニピュレータ1140の位置、及び/または検出器1150及び1160の配置及び設定を制御するように構成することができる。
【0064】
随意的に、これらのパラメータの1つ以上を(例えば電子制御システム1170と一体化したユーザインタフェースを介して)手動で制御することができる。これに加えて、あるいはその代わりに、電子制御システム1170を(例えば、コンピュータのような電子プロセッサを介して)用いて、検出器1150及び1160によって収集した情報を分析して、試料1180についての情報を提供することができ、この情報は随意的に、画像、グラフ、表、表計算ソフトの表示、等の形態にすることができる。一般に、電子制御システム1170は、ユーザインタフェースを含み、このユーザインタフェースは、ディスプレイまたは他の種類の出力装置、入力装置、及び記憶媒体を特徴付ける。
【0065】
本明細書で説明した荷電粒子源及び荷電粒子システムの他の態様は、例えば、米国特許第7504639号明細書(特許文献1)に開示され、その内容全体を参考文献として本明細書に含める。
【0066】
コンピュータ・ハードウェア及びソフトウェア
一般に、上述した方法のいずれも、コンピュータ・ハードウェアまたはソフトウェア、あるいは両者の組合せで実現することができる。これらの方法は、本明細書で説明した方法及び図に従って、標準的なプログラミング技法を用いたコンピュータプログラムで実現することができる。プログラムコードを入力データに適用して、本明細書で説明した機能を実行して、出力情報を生成する。この出力情報を、表示モニタのような1つ以上の出力装置に供給する。各プログラムは、コンピュータと通信するための、手続き型(プロシージャ)またはオブジェクト指向の高級プログラミング言語で実現することができる。しかし、これらのプログラムは、所望すれば、アセンブリ言語または機械語で実現することができる。いずれの場合にも、この言語はコンパイル言語またはインタプリタ言語とすることができる。さらに、このプログラムは、上記目的用にプログラムされた専用集積回路上で実行することができる。
【0067】
こうしたプログラムの各々は、汎用または特殊目的のプログラム可能なコンピュータによって可読の記憶媒体または装置(例えば、ROM(Read Only Memory:読出し専用メモリ)または磁気ディスケット(登録商標))に記憶することが好ましい。これは、これらの記憶媒体または装置をコンピュータによって読み出した際に、本明細書で説明した手順を実行するようにコンピュータを設定して動作させるためである。このコンピュータプログラムは、プログラムの実行中に、キャッシュメモリまたはメイン(主)メモリに常駐させることもできる。これらの方法は、コンピュータプログラムを設定したコンピュータ可読の記憶媒体として実現することもでき、このように設定した記憶媒体は、コンピュータを指定した所定の方法で動作させて、本明細書で説明した機能を実行させる。
【0068】
他の実施例
他の実施例は特許請求の範囲にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電圧源と;
前記第1電圧源から電気絶縁された第2電圧源と;
前記第1電圧源に電気接続された荷電粒子源と;
前記第2電圧源に電気接続された抽出装置と
を具えていることを特徴とする荷電粒子システム。
【請求項2】
さらに、
前記第1電圧源及び前記第2電圧源から電気絶縁された第3電圧源と;
前記第3電圧源に電気接続された試料ステージとを具え、
前記第1電圧源は、第1電圧を前記荷電粒子源に供給して、第1平均エネルギーを有する複数の荷電粒子を前記荷電粒子源の先端部から出すように構成され;
前記第2電圧源は、第2電圧を前記抽出装置に供給するように構成され;
前記第3電圧源は、第3電圧を、前記試料ステージ上に配置された試料に供給して、前記荷電粒子が前記試料に入射する際に、前記第1平均エネルギーとは異なる第2平均エネルギーを有するように構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子システム。
【請求項3】
前記第3電圧は、前記第2平均エネルギーが前記第1平均エネルギーより小さくなるように選択されることを特徴とする請求項2に記載の荷電粒子システム。
【請求項4】
前記第1電圧は、共通電気接地に対して正の値であることを特徴とする請求項2に記載の荷電粒子システム。
【請求項5】
前記第2電圧は、前記共通電気接地に対して、前記第1電圧よりも小さい正の値であることを特徴とする請求項4に記載の荷電粒子システム。
【請求項6】
前記第2電圧は、前記共通電気接地に対して負の値であることを特徴とする請求項4に記載の荷電粒子システム。
【請求項7】
前記第1電圧及び前記第2電圧は、前記荷電粒子源付近の電界が、前記荷電粒子源外に放射状に指向されるように選択されることを特徴とする請求項2に記載の荷電粒子システム。
【請求項8】
前記第3電圧源に接続され、前記第3電圧を選択するように構成された電子プロセッサをさらに具えていることを特徴とする請求項2に記載の荷電粒子システム。
【請求項9】
前記電子プロセッサに接続され、前記荷電粒子が前記試料に入射する際の前記荷電粒子の平均エネルギーを測定するように構成された検出器をさらに具えていることを特徴とする請求項8に記載の荷電粒子システム。
【請求項10】
前記電子プロセッサは、前記第3電圧を、前記測定した前記荷電粒子の平均エネルギーに基づいて選択するように構成されていることを特徴とする請求項8に記載の荷電粒子システム。
【請求項11】
前記荷電粒子源は、イオンを含む複数の荷電粒子を生成するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子システム。
【請求項12】
前記第1電圧源は、第1電圧を前記荷電粒子源に供給するように構成され、前記第2電圧源は、第2電圧を前記抽出装置に供給するように構成され、前記第1電圧源及び前記第2電圧源は、動作中に、前記第1電圧または前記第2電圧の一方の大きさが減少した場合に、前記荷電粒子源が電子を放出しないように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子システム。
【請求項13】
前記第1電圧源及び前記第2電圧源は、動作中に、前記第1電圧または前記第2電圧の一方の大きさが0に減少した場合に、前記荷電粒子源が電子を放出しないように構成されていることを特徴とする請求項12に記載の荷電粒子システム。
【請求項14】
前記第1電圧源は、第1電圧を前記荷電粒子源に供給するように構成され、前記第2電圧源は、第2電圧を前記抽出装置に供給するように構成され、前記第1電圧源及び前記第2電圧源は、動作中に、前記第1電圧または前記第2電圧の一方の大きさが減少した場合に、前記荷電粒子源が融解または蒸発しないように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子システム。
【請求項15】
前記第1電圧源は、第1電圧を前記荷電粒子源に供給するように構成され、前記第2電圧源は、第2電圧を前記抽出装置に供給するように構成され、前記第1電圧源及び前記第2電圧源は、動作中に、前記第1電圧または前記第2電圧の一方の大きさが減少した場合に、前記荷電粒子源付近の電界が、前記荷電粒子源から遠ざかる向きのままであるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子システム。
【請求項16】
前記第1電圧源は、第1電圧を前記荷電粒子源に供給するように構成され、前記第2電圧源は、第2電圧を前記抽出装置に供給するように構成され、前記第1電圧源及び前記第2電圧源は、動作中に、前記第1電圧または前記第2電圧の一方の大きさが減少した場合に、前記荷電粒子源の電圧が、前記抽出装置の電圧に対して正の値のままであるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子システム。
【請求項17】
第1電圧源からの第1電圧を荷電粒子源に供給するステップと;
前記第1電圧源から電気絶縁された第2電圧源からの第2電圧を抽出装置に供給するステップとを含み、
前記第1電圧及び前記第2電圧は、複数の荷電粒子が発生し、前記複数の荷電粒子が前記荷電粒子源から出るように選択することを特徴とする方法。
【請求項18】
前記荷電粒子は、前記荷電粒子源から出る際に第1平均エネルギーを有し、
前記方法が、第3電圧源からの第3電圧を試料に供給して、前記荷電粒子が前記試料に入射する際に、前記荷電粒子が、前記第1平均エネルギーとは異なる第2平均エネルギーを有するステップをさらに含むことを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記第2平均エネルギーが、前記第1平均エネルギーよりも小さいことを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記第3電圧源が、前記第1電圧源及び前記第2電圧源から電気絶縁されていることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記第1電圧が共通電気接地に対して正の値であり、前記第2電圧が前記共通電気接地に対して負の値であることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記第1電圧及び前記第2電圧を、前記荷電粒子源付近の電界が、前記荷電粒子源外に放射状に指向されるように選択することを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記荷電粒子が前記試料に入射する際の、前記荷電粒子の平均エネルギーを測定するステップと;
前記平均エネルギーの測定に基づいて、前記第3電圧を選択するステップと
をさらに含むことを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項24】
前記第1電圧と前記第2電圧との差が15kV以上であることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項25】
前記第2平均エネルギーが15keV以下であることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項26】
第1電圧源からの第1電圧を荷電粒子源に供給するステップと;
前記第1電圧源から電気絶縁された第2電圧源からの第2電圧を抽出装置に供給するステップとを含み、
前記第1電圧及び前記第2電圧は、前記荷電粒子源が発生した荷電粒子の1つ以上の特性を制御するように選択することを特徴とする方法。
【請求項27】
前記1つ以上の特性が、荷電粒子電流、前記荷電粒子源からの前記荷電粒子の放出パターン、及び前記荷電粒子のエネルギー分布から成るグループから選択した少なくとも1つの要素を含むことを特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記第1電圧が共通電気接地に対して正の値であり、前記第2電圧が前記共通電気接地に対して負の値であるように、前記第1電圧及び前記第2電圧を選択するステップをさらに含むことを特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記荷電粒子源付近の電界が、前記荷電粒子源外に放射状に指向するように、前記第1電圧及び前記第2電圧を選択するステップをさらに含むことを特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記第1電圧源及び前記第2電圧源の一方の故障により、あるいは、電気絶縁体の故障により、前記第1電圧及び前記第2電圧の一方の大きさが減少した場合に、前記荷電粒子源付近の電界が前記荷電粒子源外に放射状に指向されたままであるように、前記第1電圧及び前記第2電圧を選択するステップをさらに含むことを特徴とする請求項29に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−506959(P2013−506959A)
【公表日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−532101(P2012−532101)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【国際出願番号】PCT/US2010/048877
【国際公開番号】WO2011/041100
【国際公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(510237435)カール ツァイス エヌティーエス エルエルシー (14)
【Fターム(参考)】